<<目次へ 団通信1196号(4月1日)
平和と人権に対する攻撃をはねかえし、全力を挙げて改憲を阻止するために活発な討論・交流を!!
幹事長 吉 田 健 一
来る五月二〇日(土)〜二二日(月)、自由法曹団研究討論集会(五月集会)を北海道札幌市の定山渓温泉で開催いたします(但し、二〇日はプレ企画です)。
【切迫する情勢】
昨年一一月自民党の新憲法草案が提示されて、改憲への動きに拍車がかけられているとともに、改憲を実現するために国民投票法案の国会提出が準備されています。改憲を阻止する運動をどう進めるか、いよいよ正念場を迎えようとしています。
また、戦闘の続くイラクへ自衛隊の海外派兵が続けられる一方で、沖縄名護市での新基地建設を含めて在日米軍の再編強化、自衛隊と米軍の一体化が提起されています。あわせて、海外で戦争する体制づくりのために国民保護法制の具体化や教育基本法改悪も進められようとしています。海外で戦争するための九条改憲のねらいがいっそう明らかになっています。
さらに、小泉「構造改革」による徹底した規制緩和や民間導入などが国民の財産や健康・生命までないがしろにする危険なものであることは、ライブドア問題、耐震強度偽造やBSE問題などで国民の前に明らかになりつつあります。ところが、国民には、労働法制改悪、社会保障や医療制度の改悪、増税などで多大な犠牲が強いられようとしています。しかも、共謀罪法案やビラ配布に対する弾圧など、国民に有無を言わせない体制づくりを具体化し、代用監獄の恒久化に道を開く未決拘禁法案や少年法「改正」案の国会提出など、警察国家づくりも進められています。
【討論の課題は】
いま、自民党新憲法草案に見られる改憲のねらいをいっそう明らかにして、改憲阻止の声を大きく広めるとともに、国民投票法案を許さないたたかいを広げることが急務となっています。そのためにも、九条の会の呼びかけに応えて全国的な広がりを見せている運動を大きく発展させるために何が必要か、私たちに何ができるのかあらためて議論する必要があると思います。同時に、平和や人権に対する攻撃をはねかえすたたかいをいっそう発展させ、それを改憲を許さない取り組みと結合させることがきわめて重要となっています。
【今年の五月集会では】
自由法曹団では、去る二月一七日、改憲阻止のための全国活動者会議を開催し、全国から八〇名の参加で各地の取り組みを交流し、活発に議論しましたが、今年の五月集会では、その議論を発展させ、各地の運動をいっそう大きく発展させるための交流・議論を進めたいと思います。そのために一日目は、全体会での問題提起や報告にもとづき、分散会に分かれて改憲問題の取り組みに絞った討議を予定します。
五月集会二日目には、教育問題、治安警察問題、労働問題、市民問題、国際問題、コンビニ・フランチャイズ問題の各分野について、それぞれ分科会をもち討論したいと思います。
五月集会前日の二〇日には、プレ企画として、法曹人口の急増のもとでの新人弁護士の獲得・育成など団の将来問題を中心にした支部代表者会議を開催いたします。あわせて、新入団員の学習会や事務局交流集会も予定しています。他方、集会後の二二日ないし二三日には懇親旅行の企画も用意されています。
全国の団員・事務局のみなさんが多数参加され、活発な討論が行われることを期待いたします。
北海道支部長 佐 藤 哲 之
今年の五月集会は、札幌は定山渓温泉にて開催されることになりました。
北海道内では、四半世紀前の定山渓総会にはじまり、函館五月集会、十勝総会と、これまでに全国規模の集会を三回開催しました。残されているのは旭川地裁管内のみ。全国区の人気を誇る旭山動物園に立ち寄りたいという声もありましたが、五〇〇名規模の集会を開けるのは層雲峡温泉しかなく、五月はまだ寒い上に空港からのアクセスにも難があり、昨年青法協が総会を開いたばかりということでもあり、最終的には定山渓での再度の開催となりました。
とはいえ、定山渓は古くから「札幌の奥座敷」として知られる温泉地で、交通の便も良く、今回の会場となるホテルは施設規模もサービス面でも十分なところです。五月下旬の札幌は、「リラ冷え」も終わって新緑のすがすがしい、年間で最も過ごしやすい季節となります。この機会に、余裕ある日程を組まれた上で北海道の春を満喫し、心身ともにリフレッシュしていただきたいところです。地元支部企画の一泊・半日旅行(別項)も、見学コース・宿泊先ともに充実したプランを練っており、きっと皆様のお気に召すことと自負しております。
さて、道内では、あの恵庭・長沼裁判に続く本格的な憲法訴訟「イラク派兵差止北海道訴訟」(原告は箕輪登元郵政大臣ら)をはじめ、一昨年の支部総会での討議がきっかけとなって提訴に至った富川水害訴訟、昨年七月の最高裁勝利を踏まえて新たに提訴した新・北海道石炭じん肺訴訟、そして中国人強制連行訴訟や残留孤児国賠訴訟、原爆症認定集団訴訟、住基ネット差止訴訟といった各種の集団訴訟がたたかわれており、これらのどの訴訟も、団員が中心的な役割を果たしています。
全国から注視されてきた北海道警察の報償費不正支出問題も、関連訴訟は全て終結したとはいえ、団員が広範な市民とともに粘り強い取り組みを続けてきた結果、このたび検察審査会が「不起訴不当」の議決をするに至りました。不正追及の先頭に立つ市川・渡辺両団員に対する道警側代理人弁護士による不当懲戒請求は当然ながら退けられたものの異議申立てされ、日弁連に舞台を移したばかりです。今回の五月集会では、こうした問題についてもご報告し、地元支部として特別決議をお願いする予定です。
北海道支部一同、全国の団員及び団事務所事務員の皆様を心からお待ちしております。
北海道支部 大 賀 浩 一
【これでもか!グルメと文学の一泊旅行】
今年の五月集会一泊旅行には、まさにとっておきのプランをご用意しました。
一日目は、集会終了後すぐバスで出発し(車中でお弁当)、定山渓から中山峠を経て羊蹄山(通称・蝦夷富士)の山麓へ。
京極町では、小林多喜二「東倶知安行」の舞台(一九二八年の第一回普通選挙で主人公の私〔=多喜二〕が候補者島田正策〔=山本懸蔵〕の前座を務めた演説会場)として登場する光寿寺(本堂は往時のまま)を訪ね、住職から多喜二ゆかりのお話を伺います。羊蹄山からの湧き水が一日約八万トンも噴出するふきだし公園では、日本名水百選にも選ばれた美味しい湧水を味わえます。
隣のニセコ町では、「カインの末裔」「生まれ出づる悩み」などで知られる有島武郎記念館を訪ねます。ここは、武郎が広大な農場を土地共有という形で小作人に無償で解放した(大正一一年)その遺徳を偲んで農民らが建てたものを、生誕百年を記念して町が建て替え、武郎の生涯と文学、農場解放に至る軌跡をつぶさに紹介しています。
その後、春期開通したばかりのニセコパノラマラインを経由して、水上勉「飢餓海峡」の舞台にもなった岩内町に向かいます。宿泊先は、知る人ぞ知る料理自慢の宿・いわない温泉高島旅館を貸切り!夕食は採れたての海の幸満載“これでもかコース”(特筆すべきは刺身、焼物、浜鍋であわびを三個も食べられること)を存分にご堪能ください。温泉はもちろん源泉かけ流し、露天風呂も新設されたばかりで、お部屋も吹き抜けのロビーも居心地良く、絶対ご満足いただけること請け合いです。
二日目は、小樽市内で多喜二ゆかりの地をいくつか巡り、ウォール街などの見どころを車窓から見学した後、小樽運河付近でいったん解散、自由行動となります(約三時間、モデルコースもご案内します)。思い思いに昼食や買い物、散策を楽しんでいただいた後再び集合し(午後三時ころ)、バスで新千歳空港に向かいます。
なお、ご希望の方は、午前一〇時半ころ小樽に到着してから再集合まで自由行動にすることも、再集合を待たずに早々と空港に向かう(JR快速で七二分)こともできます。
これだけ盛りだくさんの好企画で、お値段は二万四〇〇〇円。絶対にお得です。
問題は定員。旅館貸切との関係で、バス一台分・四五名限定となります。文字通りの先着順ですので、今号の団通信に同封された交通機関等申込書(団体航空便や送迎バスと共通のもの)により、旅システム宛FAXにてお早めにお申し込みください。なお、旅館では一室三名ないし四名限定となり、一人・二人部屋のご希望はお受けしかねますので、悪しからずご了承ください。
【ちょっと寄り道・小樽半日旅行】
半日旅行の方は、集会終了後ちょっと寄り道してその日のうちに空路で帰りたい、と考えておられる方にうってつけのプランです。
集会終了後すぐバスで出発し、定山渓から札幌国際スキー場・朝里ダムを経てわずか四〇分で小樽市街へ。小樽運河付近で解散、自由行動とし(約三時間半、モデルコースもご案内します)、思い思いに昼食や買い物、散策を楽しんでいただいた後再び集合し(午後五時ころ)、バスで新千歳空港に向かいます。
小林多喜二ゆかりの地を巡っても、小樽運河付近に建ち並ぶ重厚な煉瓦や石造りの倉庫群を活用した店舗で食事や買い物を楽しんでもよし、有名な北一硝子でガラス工芸品の数々を手にとって見たり製造過程を見学したりしてもよし。これらの観光ポイントを巡るにはレトロ仕様のおたる散策バス(市内循環)が便利です。
半日コースは三〇〇〇円(食事なし)、定員はバス二台分・九〇名で、こちらも先着順です。一泊旅行と同じ申込書によりお申込みください。
皆様のご参加、お申込みを、北海道支部一同心からお待ち申し上げております。
東京支部 土 橋 実
一 はじめに
東京地方裁判所は、二月二八日、外務省の外交機密費(報償費)情報に対する不開示処分を取り消し、ほぼすべての文書について開示を命じる判決を言い渡した。対象となる文書は、平成一二年二月及び三月の外務省大臣官房、在アメリカ、在フランス、在中国、在フィリピンの大使館に関する報償費関連文書一〇六九件のほぼすべてである。
この裁判の原告である情報公開市民センターは、全国市民オンブズマン連絡会議が母体となって設立したNPO法人で、主として国の情報公開に関する調査研究を行っている。平成一三年四月一日に情報公開法が施行されたのを受けて、当時、外務省要人支援室長の巨額公金詐取事件が社会的な大問題となっていたことから、外交機密費に関する情報公開請求を行ったのである。ところが、外務大臣は全面的な不開示処分を行ったため、同年六月一五日、処分の取り消しを求めて提訴した。裁判は、被告側の不誠実な対応や前裁判長の腰の引けた訴訟指揮などから、情報公開の裁判でありながら一審判決まで足かけ五年という異例な長期裁判となった。
二 訴訟の争点と裁判所の判断
この裁判の主要な法的争点は、情報公開法第五条の非開示事由の主張立証責任は原告・被告のいずれにあるかということである。情報公開法五条三号が、外交関係の文書に関する不開示事由を、「公にすることにより他国若しくは国際機関との信頼関係等が損なわれるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるとき」と他の不開示事由とは異なる規定(同条四号の犯罪予防等の情報についても同様)を設けていることから、その解釈が問題となった。
この点に関し、被告は、行政機関の長に広範な裁量権が付与されているので、不開示処分について裁量権の濫用・逸脱があったことを原告が主張・立証すべきであると主張した。これに対し、裁判所は、法の趣旨は行政機関の長の第一次的な判断を尊重し、合理性の判断が社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱ないし濫用については原告に主張立証責任があるとしたが、その前提として「おそれがある」と判断をしうる情報が記録されていることにつき、行政機関の長がまず主張・立証責任を果たすべきであるとした。裁判所の見解は、立法事実を踏まえた妥当なものであり、今後同種事案の解釈にも大きな影響を与えると考える。
この見解を踏まえ、裁判所は、「本件各行政文書それぞれにつき、国の安全が害されるおそれ等があると行政機関の長が判断をする情報が記録されていると認めることはできない」と明快に判断し、一部の個人に関する情報を除きほぼ全面的な開示を認めた。さらに裁判所は、本件各文書に法五条三号または六号所定の不開示事由が含まれている可能性があることを指摘しつつ、開示請求の対象とされた複数の文書中に不開示情報を含んでいるものとそうでないものとが混在しているときには、これらを区分するに足りる外形的事実について、被告は主張立証を尽くすべきであるとした。また、報償費の使途に関する運用について、被告は実態を踏まえより具体的な主張立証を尽くすべきことを指摘し、被告がその責任を果たさない限り、不開示処分取り消しにより「本来不開示とされる情報が公開され弊害が生じることになったとしてもやむを得ない」と言い切った。大胆ではあるが、法論理的にはきわめて明快で常識的な判断である。裁判所がこうした判決を下した背景には、被告の主張の変遷や裁判所を欺くかのような不誠実な訴訟態度を続けたことに対し、裁判所が原告と同様に「外務省は秘密のベールを悪用して報償費を不適切に使った事実を隠してきた」との疑念をもったのではないかと推測している。
判決翌日の主要紙は、「判決を重く受け止めよ」(朝日)、「原則開示のルールが必要だ」(毎日)、「何でも機密を叱る地裁判決」(日経)、「あやふやな支出を許すな」(産経)、「開示の範囲を広げたい」(東京)との見出しのもとに東京地裁の判決を支持する社説を掲げ、外務省の対応について厳しい指摘を行っている。
なお、東京地裁の判決は、情報公開市民センターのホームページ(http://www.jkcc.gr.jp)にアップしてあるので、ご参照いただきたい。
三 情報公開制度をめぐる問題と今後の課題
東京地裁の判断はきわめて明快であったが、この判決に至るまでに大きなハードルが存在した。不開示事由が存するか否かについて、裁判所にはインカメラ制度が認められておらず、いわば目隠しをさせられた状態で不開示事由の有無を判断しなければならないということである。裁判所が、当該文書に直接あたり不開示事由の有無を判断できるように、情報公開法を改正しインカメラ制度を設けるべきである。一方、情報公開・個人情報保護審査会は、裁判所と異なりインカメラ制度により不開示事由の有無を判断することができる。しかし、本件と類似の文書に関する審査会の答申をみると、裁判所から「審査会の答申は、法五条三号及び六号該当性について、インカメラ手続で見聞した文書の具体的な記載内容に即して行われたものとは言い難い。」と指摘されたように、審査会の中立性・公正性に問題がある。このように、現行情報公開法の規定は、制度的にも運用面でも不十分な内容にとどまっている。
このほか、政府が推進する「民間活力の導入」が情報公開の面では、国民の知る権利を妨げたり、行政の説明責任を免れさせる方向にはたらいている。例えば、独立行政法人等情報公開法により実施機関となっていた法人が、民営化にされたことにともない実施機関からはずされ、情報公開請求ができなくなっている。また、地方公共団体においては、指定管理者制度の導入に伴い、これまで行政が保有していた情報が、民間企業の情報≠ニして住民の目に触れないようにされるおそれもある。民間活力の導入が、国民の知る権利を狭める方向で作用している実態も見過ごしてはならない。
いまでもなく、情報公開は国民の知る権利に基礎を有するものであり、民主主義にとって不可欠の権利である。まず、こうした現行情報公開制度のかかえる欠点や問題点を速やかに見直す必要がある。さらに、沖縄返還時における密約がアメリカの公文書から明らかになったことに見られるように、日本においても外交機密文書等であったとしても、一定の年限が経過した後はすべて国民に公開するような制度を速やかに設けるべきである。今後も、情報公開の推進に向けてさまざまな活動に取り組んでいきたいと考えている。
東京支部 松 井 繁 明
子どもの成長
三月一日、坂本さんからこの『憲法 その真実―光をどこにみるか』を手渡され、素直にうれしかった。この著書の作成にあたって坂本さんの悪戦苦闘≠ヤりを身近に見てきた者として、ほっとする想いもあった。
私は原稿段階で、文章の整理と、坂本さんがあまり得意としない軍事分野の加筆、それに坂本さんの相談相手となることなどで、本書の作成にかかわってきた。昨年の春から年末にかけて、部分ごとに濃淡はあるものの、少なくとも三回は、書き直された本書の原稿を精読してきた。ただし今年にはいってからの最後の編集作業には、いっさい関与していない。
完成した本書を通読して、すっきり整理されていることを実感する。小さなころに見識っていた子どもが、しばらく見ないうちに立派に成長したのを知るような感慨である。
遅れ
おおくの自由法曹団関係者は、坂本さんが憲法についての本を執筆中であること、しかしそれがなかなか完成しないことを知っていた。一時は「永遠に未完の著」か、と心配されたほどである。
坂本さんの執筆は、〇四年一一月の自民党「草案大綱(たたき台)」批判を目的に開始された。ところが自民党は、〇五年四月から一一月にかけて次々に改憲案を改定してきた(本書一七ページ)。とくにパートTとパートUの原稿は、そのたびに書き改められることとなった。
しかし昨年の秋に、一一月の自民党大会で「新憲法草案」が確定してからそれを全面批判しようと決断してからは、刊行の遅れについてあまり悩むことはなくなった。じっさい、「新憲法草案」確定から三ヵ月余りの本書の発刊は、むしろ早いほうであろう。
そしてこの決断は正しかったし、本書の価値と完成度を高めたと思う。とくに本書パートUは、それまでの原稿のほとんどすべてを破棄して新たに書きおろしたものである。「新憲法草案」にたいする法律専門家による全面批判として、意義あるものとなったのではないだろうか。
構成
本書の構成についても、坂本さんには迷いや悩みがあったようである。もちろん長目の序文(「それぞれのあなたへ」)のあとにパートTからWを配置するという基本的な構成は、はじめから変わっていない。
しかしたとえば、パートVで現憲法の価値を述べるばあい、現憲法がはたしている「歯止め」としての有効性を指摘するだけではなく、現憲法がいかに侵害されているかを描くことによってその隠された輝き≠知ってもらいたい、というのが坂本さんの発想であった。そこで現憲法が侵害されてきた歴史的経過と現在においても憲法が侵害されている状況を述べた原稿をつくってみた。ところがそれを読むと、長すぎるだけでなく、読者は輝き≠みるまえに気分が沈んでしまうことがわかった。そこで、歴史的経過はずっと圧縮してパートVに残し、現在の憲法侵害状況はパートTの情勢分析やパートUの改憲案批判を裏づける事実として提示することにした。
結果としてはそれでよかったと思うのだが、坂本さんの発想自体には独創的なところがあり、それを十分に展開できなかったのは少し残念な気持もある。
パートU
すでに述べたとおり、本書の最大の価値はパートUにある、と私は思う。
「新憲法草案」はそれなりに巧妙にできている。「九条一項は残した、戦争は放棄しているのです。同条二項の削除は、憲法と現実の乖離を埋めただけです。国際協力は当然のことではないですか」などという小泉流の改憲論議を打ち破るのは、それほど容易ではないからだ。
それにたいするひとつの回答が本書パートUであろう。
坂本さんが憲法を最もよく学んだのは、司法試験受験当時の四〇年以上前のことであろうから、幸か不幸か、現在の精微な憲法学説にそれほど精通していない(たぶん)。そのこともあって、学説の迷路に踏み込むことなく、改憲派の文書や発言、現存の事実を対置して「新憲法草案」を全面批判している。説得的な手法だと思う。
集団自衛権行使の解禁だけでなく、本書が徴兵制、国家秘密法、政党法および軍事法廷などにも目配りしていることも、自民党改憲案の全体像をつかむうえで重要なことと思われる。
文体
坂本さんのこれまでの著作と違い、本書は「です、ます」調を使っている。最初の原稿は、その判りやすさと力強さがよく判るものであった。その反面、文章の粗さや論理の飛躍も目立っていた。そのような文章を整理するのに、私なりの苦労もしたのだが、原文の良質なところを減殺してしまったのではないかとおそれてもいた。しかし、改めて通読してみると、講演調の坂本節は消えておらず、文章の論理をたどるというよりは、坂本さんの講演の音声を聴いている感覚が残る。「です、ます」調の文体は、じつは意外に難しいのだが、本書では成功しているのではないか。どうであろうか。
今後の論議
自由法曹団員はだれもが、それぞれに憲法論をもっている。本書にたいしても、さまざまな意見もしくは異見をもつことであろう。それはそれでよい。しかし、まず多くの団員が本書を読み、それぞれの意見をもち、それにもとづいて論議を深めることが大切なのではないだろうか。もちろん、わずか三〇〇ページ弱の本書に、すべての回答があるはずもない。しかし、貴重なヒントは数多くあるはずである。そのことを期待して、本書をすすめるものである。
刑事施設及び受刑者処遇法案が、今、国会で審議されています。
同法案は、代用監獄の恒久化に道を開くばかりか、接見の制限や、防声具使用を認めるなど、危険な内容を含んでおり、急速に反対運動を展開する必要があります。 団では、代用監獄の廃止を求めるリーフレットを、全労連・救援会と共同で、一〇万部作成しました。
団本部に注文していただければ、一部三円(送料別)でお送りします。
署名用紙も、団のホームページに掲載されていますので、合わせてご活用ください。