<<目次へ 団通信1197号(4月11日)
五月集会案内特集その(2) | |
広田 次男 | 双葉町産廃処分場の勝利 ─それにしても執拗な産廃建設への執念─ |
萩尾 健太 | 寮自治権侵害を認めた泥うそ国賠訴訟 高裁判決の意義と上告棄却決定 |
大久保 賢一 | 「国民投票法」を考える二冊の本 |
後藤 富士子 | 黙秘権の保障 ─取調の現場から |
荒井 新二 | 川名照美弁護士追悼集「惜別」をどうぞ |
【関連行事・一日目分散会・二日目分科会のご案内】
【将来問題に関する支部代表者会議】
【新人学習会】
【法律事務所事務局交流会】
(略)
【一日目 改憲阻止に関する分散会】
改憲の動きをはね返し、改憲を阻止する運動づくりのために分散会での活発な討論を期待します!!
一日目は、全体会を受けて改憲阻止に関する分散会を行います。分散会は四ないし五つに分けて行う予定です。
自民党新憲法草案の公表、国民投票法案の提出の動きなど、明文改憲を具体化する動きが着々と進められています。同時に、日米同盟のいっそうの強化と海外派兵体制の進行、有事法制・国民保護法制の具体化による軍事優先体制づくり、日の丸君が代の強制、靖国問題、教育基本法の改悪の動き、弾圧と治安警察強化など、改憲の先取りといえる動きも顕著です。他方、九条の会の取り組み、共同センターの取り組みなど、改憲を許さない新たな動きも大きく発展しています。
これらの改憲の動きをどうみるか、国民の多数派を結成するための改憲策動を許さないたたかいをどのように拡大し強化していくか、改憲の先取りとして進められている様々な動きをはね返すたたかいにどう取り組むか、これらのたたかいと改憲阻止の取り組みをどのように結合するか、さらに、法律家・団員の具体的な役割と実践課題は何か、法律家のなかで広げるためにどう進めるか、などを率直に討論し、この間のたたかいの到達点と課題、実践を通じて得られた各地の取り組みの教訓と工夫を交流したいと思います。
本年二月一七日に開催された全国活動者会議においてもさまざまな取り組みについて報告がなされましたが、分散会では、各地の取り組みについて、さらに具体的で活発な討論と交流を行いたいと思います。改憲の動きをはね返し、改憲を阻止するために、ぜひ、ご参加ください。(文責 担当次長・山口真美)
【二日目 分科会】
(1)教育分科会
今こそ教育基本法改悪対策本部分科会へ集まりましょう!!
今、教育基本法が危機を迎えています。
教育基本法は、戦後、教育勅語の徹底的反省から生まれました。平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し個人の価値と自主的精神を養うことを目的とし、教育関連法令の基礎としてこれまで、国家による教育内容への不当な介入や教育の機会均等などを護ってきた準憲法的性格をもつ重要な基本法です。
今、この教育基本法が改悪されようとしています。この改悪案は、教育への国家の不当な介入を禁ずる教育基本法一〇条の改廃、「愛国心」の明記など、憲法第九条2項の改廃と合わせ、我が国を戦争できる国へと向かわせることを意図しています。また、教育の機会均等などの理念を否定し、競争と選別・「能力」主義を強め、国家のためのエリートをつくることを目指しており、子どもたちの世界にまで新自由主義的な弱肉強食の争いを強いることも意図しています。
教育基本法の改悪について、これまで、その具体的法案すら国民に示されないまま、密室(与党協議会)ですりあわせが行われてきました。そして、今月中(二〇〇六年四月)にも国会へ、その一度も国民に示されたことのない「改正法案」が上程されようという緊迫した状況に立たされています。五月集会の際には、情勢がどのような状況になっているのか今はまだ分かりません。しかし、現在の憲法改悪、国民投票法案問題と並び極めて重要な局面を迎えている教育基本法の改悪に立ち向かうには、一人でも多くの団員の結集が必要です。
また、教育基本法だけでなく、教育に対する攻撃は様々な場面で強まっています。分科会では、可能な限り、子どもや教育をめぐる諸問題(少年法改悪問題、義務教育制度改革問題、日の丸君が代問題など)についての報告や、教育現場からの発言を取り入れていきたいと考えていますので、広くこういった問題に興味のある方も、ぜひご参加ください
皆さん、このような時期だからこそ、五月集会の教育基本法改悪対策本部の分科会に集まりましょう!(文責 担当次長・阪田勝彦)
(2)警察分科会
警察問題分科会に奮ってご参加を!
このところ、中央線と西武新宿線の痴漢冤罪事件や、大阪地裁所長オヤジ刈り事件などで、相次いで無罪判決が出され、警察の不当・杜撰な取り調べの実態が弾劾されました。しかし、他方で、日野町事件の再審請求は棄却され、北陵クリニック事件でも、被告人の控訴を棄却するなど、警察の取り調べをなぞるような判断もまだまだ横行しています。
また、小学三年生男児投げ落とし事件から、「防犯」カメラは犯人検挙には資するけれど、防犯の役目を果たすものではないことが明らかになりました。これまで「監視社会」を推進してきた理屈は崩れたといえますが、治安の悪化に対する市民の恐怖心を煽る動きも強まっています。
市民の不安に乗じて、未決拘禁法・共謀罪や少年法「改正」など、人権を侵害し、警察権力を強大化させる危険性の高い法「改正」がなされようとしています。拡声器規制条例、防犯条例、少年補導条例など、法律を先取りする形で、条例が作られているケースもあります。言論弾圧事件も、頻発しています。
こうした問題について経験交流すると同時に、改憲策動と結びついた警察国家化に反対する、全国規模の運動を展開すべく、各地の報告と討論がなされます。
是非、ご参加ください。(文責 担当次長・飯田美弥子)
(3)労働分科会
スタートした労働審判制の活用、リストラ攻撃の突破口の経験交流を
飽くなき利潤を追求する財界は、多種多様なリストラや非正規労働者と正規労働者との入れ替えを進め、成果・業績主義賃金による「総賃金コスト」の抑制をはかり、長時間労働を抑止する労働時間法制の「規制緩和」を追求してきました。公務員に対する「自治体アウトソーシング」をはじめとした攻撃も強まる一方です。こうしたなかで、「格差社会」の言葉に象徴されるように労働者の差別化・貧困化が進んでいるにもかかわらず、労働者の保護を厚くするのではなく、逆に、労働者の抵抗手段を奪うような労働法制づくりが厚生労働省で検討をされています。
こうしたなかで、四月からスタートした労働審判制度を、労働者の権利擁護にどう活用するか、実践例の報告を受けながら検討していく予定です。
また、長年の重石であった任期制公務員に対する雇止めを無効とした判決を勝ち取るなど各地で前進的経験も生まれています。こうした経験を交流し、かけられているリストラ攻撃の突破口を探ります。
そして最後に、委員会から、労働契約法制づくり・労働時間法制改悪の検討について情勢報告と行動提起をいたします。(文責 担当次長・平井哲史)
(4)市民問題分科会
下請問題など不公正取引を考える
新自由主義経済の嵐が吹き荒れるなか、市民や中小零細企業は、より厳しい状況に追い込まれています。
たとえば、悪質リフォーム問題、耐震偽造問題などで信頼を損なっている建設業界では、中間業者の偽装倒産による下請代金の未払いや労働者への賃金不払いが多発しています。多くの下請業者は契約書の作成を要求できず、契約書なしで仕事を請けています。また、約七〇%の人たちが、どういう契約をしているのかもはっきりしない状態で働いています。このような実情が法的救済の障害となり、法律相談を受けても受任できないという経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本分科会では、建設下請業者とそこで働く労働者の実態や解決事例などについて報告を受けるほか、このような不公正な取引について、どのように取り組んでいけばよいのか、討論したいと考えています。
多くの方々にご参加をお願いします。(文責 担当次長・松本恵美子)
(5)国際問題分科会
東アジアにおける真の平和共同体は可能か
一昨年来、自由法曹団も韓国民弁との間で総会に代表を派遣するなど相互交流を強めているように、韓国、中国など東アジア諸国と日本の民間交流はかつてないほどの拡がりを見せています。さらに広く東アジアの情勢に目を転じれば、経済活動を中心に、東アジア諸国のアメリカ離れとともに、共同の経済圏、共同体構想のかけ声が政府レベルで強くなってきています。人、金、文化、様々な流れが東アジアで共通のものとなり、ヨーロッパ共同体と比較して論じられることも多くなってきました。ただし、東アジアでは解決の難しい問題も山積しています。朝鮮半島情勢や中台問題は未だに東アジアの火種としてくすぶり続け、アメリカの軍事介入さえ現実味を帯びた話として語られ、九条改憲論に大きな影響を与えています。また、小泉首相の靖国参拝問題に端を発した中国、韓国での反日デモ、マスコミの煽動や政府によるナショナリズムの政治利用は、東アジアの平和共存関係に大きな影を落としています。
このような現実のなかで、東アジア各国による真の平和関係、互いに武力によって争うことのない関係を築きあげるため、東アジアで平和共同体を作って行こうという構想は、果たして意味のある、また、実現可能なものなのでしょうか。
今回、国際問題分科会では、東アジアにおける情勢について基礎的なことを学びながら、東アジアにおいて真の平和共存関係を構築してゆくため、私たちはいま何をすべきなのか、率直な意見交換をしたいと思います。そのため、まず国際問題委員会から東アジア諸国の現状について基礎的なデータを紹介したうえで、ゲストとして「しんぶん赤旗」元編集委員でアジア外交に詳しい三浦一夫氏を招き、日本のアジア外交の問題点について語っていただきます。
二時間という非常に短い枠ではありますが、内容の濃い、そして自由な発言のできる分科会にしたいと思っています。事前の知識は全く無用です。ぜひ多くの方々にご参加をお願い致します。(文責 担当次長 泉澤章)
(6)コンビニ・フランチャイズ分科会
コンビニ・フランチャイズ問題をいっしょに考えましょう
今年は、コンビニ・ロス・チャージ問題のセブン・イレブン最高裁判決が予定されています。三月には一〇〇名の署名をもって要請に行きました。サンクスに一部勝訴した判決も出ました。コンビニは、飽和状態にあり、既存店の売上も低迷しています。加盟店ばかりが経済的に不利益な契約を押しつけられ、苛酷な労働に苦しんでいます。分科会では、これまでフランチャイズ訴訟の中で形成されてきた情報提供義務違反、助言義務違反など主要論点を検討しつつ、契約社会における自己責任論や意思表示理論の修正原理としての経済的合理性の観点をどこまで認めさせることができるか等、訴訟上の各論点を紹介するとともに、参加者の皆さんとともに検討していきたいと思います。(文責 分科会責任者・中野和子)
福島支部 広 田 次 男
双葉町処分場
二〇〇六年三月二日、最高裁第一小法廷はA産業の上告不受理決定をなした。これにより二〇〇四年一一月一七日の福島地裁いわき支部のA産業に対して産廃処分場建設を禁止した判決が確定し、A産業による双葉町処分場建設への執念に一応のケリが付いた。
双葉町は人口七〇〇〇人余り。その人口の過半数をはるかに越える四一〇〇人余りの反対署名が提出され、町長が反対を表明しても、A産業は双葉町処分場建設に意欲を示し、環境影響評価書を作成し、その縦覧手続をなし、着々と建設計画を推進した。
二〇〇二年六月、建設予定地の地主らによる訴訟手続が開始された(当初は仮処分に対する起訴命令)。
領収書なしの三億
反対運動の盛り上がりとともに、右翼団体Bの街宣車も活発に動くようになった。
「処分場建設反対運動は広田がウラで糸を引いている。広田はアカだ。アカマムシドリンクは見ても効かない飲んでも効かない……」といった趣旨を街宣車から流したが、驚く人もいなかった。
それから暫くして、ある依頼者から「伝言されてきたが」との前置きで「(私に)三億円で処分場反対運動から降りてくれ」、「三億円の領収書はいらない」と言われた時には少し驚いたが、丁重にお断りした。
ところが二〇〇三年三月になって、この話が全く逆になったチラシが右翼団体B名で作成され、双葉町に撒かれた。即ち、「私と反対運動の中心であった双葉町町会議員二名が、反対派の取得した処分場予定地を三億円でA産業に売りつけようとした」というもので、放置しておく訳にはいかなかった。
直ちに、名指しされた町会議員二名と私が原告になって、右翼団体Bを被告として謝罪広告などを求めて提訴した。
代貸Cの自白
処分場建設禁止訴訟を担当する弁護士も右翼団体Bの事件には就任せず、何回かの法廷が弁護士不在のまま経過し、「ヒョッとしたらこのまま終結」との淡い期待も少し見えかかった所に東京の弁護士が就任した。
その後、弁論期日を重ねた二〇〇四年三月に至り、「Bはチラシは作成し(頒布のつもりはなく)事務所に置いていたが、これをCが無断で持ち出して頒布したもので、Bは頒布の責任はない」旨の主張および、Cが「無断持ち出し」を自白した旨の陳述書が提出された。これには驚いた。
Cはこの地方では有名な暴力団D一家の代貸しであり、多数の前科を有する強者である。いわば「悪いのはCで、Bに責任はありません」とするCの「自白」を崩す手段は全く見あたらなかった。
謝罪広告など請求訴訟は和解で終了せざる得なかった。
死んだ父親のせいだ
肝心の処分場建設禁止訴訟は、二〇〇四年一一月一七日、福島地方裁判所いわき支部で住民全面勝訴、Aは直ちに控訴したが、二〇〇五年一〇月一九日、仙台高等裁判所はAの控訴を棄却し、Aは上告した。
その後Aは同年一二月六日付をもって、建設禁止訴訟の中心的な役割を果たしていたFとその妹などに対して総額二億の損害賠償を求め、提訴した。「Fの亡父GはFの代理人と称して、本件処分場建設に同意書を提出した。Aは亡Gのこの同意書を信じて処分場建設工事を推進し、計八億円余りに及ぶ支出をなしてしまった。しかるに建設禁止訴訟は亡Gの代理権を一審、二審とも否定した。Aは亡Gの代理権の存在を信じて八億円余りを支出したのであり、Fらはその相続人として、亡Gの無権代理人としての賠償義務(一部請求)を承継している」とするのが請求原因の概略である。
当時Aは建設禁止の判決に対して上告中である。一二月六日の提訴は、建設禁止を前提にして、亡父(死人に口はない)の責任の相続を理由にする損害賠償訴訟である。一件、矛盾するかに見える両訴ではあるが、ゴミ企業の実体に照らせば少しも矛盾はない。
二億円訴訟は反対運動に対する恫喝であり、Fは「見せしめ」である。反対運動幹部によると「反対運動に付き合っていると、こんな惨い目にあいますよ。ここはひとつ手を打ちましょう」、「二億円訴訟は何時でも取り下げるから、建設禁止訴訟も……」とのサインに外ならないという。
実は福島では、この手のゴミ業者の粘り腰が流行しているとしか思えない。
流行その一
いわき市のG商事が建設を進める処分場については、反対署名が一五万人を超え、市長は建設絶対反対を表明しており、二〇〇五年末には「事前協議打ち切り」を宣言した。
本年二月三日は、建設反対を目的とする訴訟の福島地方裁判所いわき支部での第八回の弁論期日であった。この席で裁判長から、「処分場設置許可権者である市長が協議打ち切りを宣言した以上、本件処分場は建設は不可能ではないか」と尋ねたところ、G商事の弁護士は興奮した口調で「処分場建設の方針の変更は断じてあり得ない」と断言した。
その後、市あてに一五頁に及ぶ「協議打ち切りに対する抗議書」が提出され、「粛々と建設計画を推進する」旨を明言している。
流行その二
南相馬市のHクリーンの建設差止訴訟は五年目に入った。この間、その抗争に稲川会、山口組、住吉連合などの全国組織が殆ど顔を揃え、二〇〇五年一二月には世田谷署の警部補がHクリーンに絡む収賄罪で実刑二年が確定し、国税局からは約六億三千万円余りの差押えを受け、二〇〇六年二月には廃掃法違反で告発されるなど「満身創痍」の状況が明らかにされている。
住民のHクリーンに対する反感、不信は根強いものがある。しかるに、この三月にHクリーンから住民一同に「新社長に代わったので、住民の皆さんに一献差し上げたうえで、親しく歓談したい」旨の市内の料理屋への招待状が配付された。
流行その三
郡山市の株式会社Iは、住民の処分場建設反対署名が二一万余りにも及んだ事について「署名の集め方が悪い」といった趣旨を理由にて住民運動などに対して賠償請求訴訟に及んでいる。
流行の背景
処分場建設に対するゴミ企業の執念には迫力を感じる。この執念の源はなにか、キチンと分析する必要を感じる。
東京支部 萩 尾 健 太
今年二月一七日、泥うそ国賠訴訟について、上告棄却・上告受理申立不受理決定がなされました。最高裁は、文字通り「三行半」の決まり文句でこちらの訴えを退けました。まさに不当決定です。
泥うそ国賠訴訟とは、以下のような事件です。
二〇〇〇年三月、山形大学学寮の学生たちは、廃寮を狙った大学当局が清掃員に寮内を密偵させていたことを突き止め、清掃員に辞職を説得しました。ところが、大学当局は、そのことを監禁・強要として警察に虚偽の告発をし、警察は四名の学生を逮捕・勾留しました(後に不起訴で釈放)。学生たちは、この大学当局の密偵指示と虚偽告発について、国家賠償を請求しました。「清掃員の泥棒が大学当局の嘘の始まりであった」と言うことから、泥うそ国賠訴訟と名付けています。
山形地裁では、不当な敗訴判決を言い渡されました。しかし、学生達は駒場寮廃寮問題とセットになったビデオ「泥うそとテント村」が、仙台高裁では、学生らの要請行動の甲斐あって、証人尋問期日を含む三回の口頭弁論がなされました。学芸大学名誉教授の星野安三郎氏に作成して頂いた意見書も提出しました。これは、学生自治について解明した他に例のない意見書として、雑誌「社会評論」に掲載されています。私は高裁審理から弁護団に加わりましたが、元学生たちの書面作成や尋問準備におけるがんばりは素晴らしいものでした。そして、二〇〇五年九月二〇日、仙台高裁で、前半の密偵部分については元学生たちの主張が認められ、清掃員の情報収集による学寮自治会の「自律権」の侵害を認定し、山形大学に三〇万円の賠償金の支払いを命じた逆転一部勝訴の判決が言い渡されました。
原告団は、この判決を不服として上告しましたが、山形大学は、上告できず、一部勝訴部分が確定しました。
原告団は、上告理由書、上告受理申立理由書で、寮生ら一人一人に対する権利侵害、大学自治を考慮せずに告発をなしたことの違法性や、高裁が学長の人証調べをせずに告発に違法性がないと判断したこと、寮生らが釈放された後も大学当局が学内広報で寮生を犯罪者扱いし続けた明らかな事実などについて、違憲/違法を主張しました。しかし、最高裁は、その各論点を全く検討しませんでした。学生自治団体や学生運動に対する不当な偏見と予断をもってなされたずさんな決定だというほかありません。
ただ、この決定によって、山形大学当局の、司法の判断を待つという言い逃れはもはや通用しないようになりました。山形大学当局には、ただちに寮自治会と寮生に謝罪し、賠償金を払い、学生自治の回復に努める方向での解決を図ることを求めていきます。
残念なのは、「民主的」と言われる人も含む教員達が、寮生らを中核派とレッテル張りし(実際は権利剥奪を認めない真面目な寮生にすぎなかった)、中核派相手ならどんなことも許されるとして、裁判所が認定したような人権侵害行為を行ってきたことです。山形大学では、この件にとどまらず、文部科学省の意を受け県内各層の反対を押し切って率先して教育学部を廃止したり、セクハラ・アカハラが行われたりなど、問題が相次ぎました。
国立大学法人化の元で、大学の自治と自由が奪われているところに、こうした問題の根元があると思います。信州大でも「休学者は大学施設を利用するな」という権利侵害や、早稲田大構内でのビラ撒きに対する住居侵入での逮捕、など、信じられない事態が起こっています。こうした大学状況の中で、大学当局が公認していない寮自治会の自治権を裁判所に認めさせた意義は大変大きいものです。この判決をテコに山形大学当局に迫っていくことが、原告団自身の名誉回復の道でもあります。この判決を宣伝して、行動を起こしていくことで、全国の学生を励まし、山形大学および全国の大学に自治を回復していくよう、微力を尽くしたいと思います。
埼玉支部 大 久 保 賢 一
一 国民投票法が制定されようとしている。憲法改定には国民投票が不可欠だからである。自民党が「新憲法」制定をいい、公明党や民主党も改憲に同調的な状況の中でいわれる「国民投票法」の制定は、国民投票制度一般の問題ではなく、改憲の手続きを進めるためのものであることは明らかである。しかも、自民党の「新憲法」草案はすでに公表されているのである。この「新憲法」は、日本を「戦争をする国」にするためのものであり、「国家を個人に優越させる」ためのものである。この国の根本的改造が企図されているのである。個人の生命と自由と幸福への権利を国家の都合に合わせろというのである。われわれに、ブッシュ大統領や小泉首相の感性や知性の枠組みの中で生きろといわんばかりである。
二 この「新憲法」に反対するのであれば、「国民投票法」の制定に反対することは当然の帰結である。「国民投票は国民の意思を直接問うものであり、直接民主主義の一形態であるのだからこれに反対することはおかしい。護憲論者は自ら民主主義者であるというのであれば、国民投票で決着をつければいいではないか。」などという議論は、護憲という観点から見れば、自ら外濠を埋めるということを意味している。われわれは国民投票法の制定を許してはならない。
三 この「国民投票法」の問題点を解明している二冊の本がある。(1)菅沼一王・笠松健一著、「Q&A国民投票法案」大月書店(一〇〇〇円+税)と(2)井口秀作・浦田一郎・只野雅人・三輪隆編著、「いまなぜ憲法改正国民投票法なのか」蒼天社出版(一〇〇〇円+税)である。(1)の菅沼さんと笠松さんは日弁連や単位会の憲法関連委員会のメンバーであるが、本の内容は日弁連や弁護士会の意見ではないとされている。(2)の井口さんたちは憲法研究者であり、編著者を含め一六人の研究者たちの論稿で構成されている。
いずれも検討の対象は、憲法調査推進議員連盟の「憲法改正国民投票法案要綱」・「同法案」、自民・公明与党協議会実務者会議の「憲法改正国民投票法案骨子(案)」、民主党憲法調査会役員会の「憲法改正国民投票に係る論点取りまとめ案」などである。
まだ「国民投票法案」は提示されていないが、この法案は与党単独ではなく、民主党と摺り合わせた上で提出されるであろうから、ここで検討されている問題点はそのまま「法案」に当てはまることになるであろう。ちなみにこの「法案」は政府提案ではなく、議員立法となるであろうから、提出されればそのまま成立する可能性は高いといえよう。
四 (1)は、憲法改正の是非を論ずるものではなく、国民投票が必要であるとした場合には、国民に正しく情報が伝えられること、国民の間で十分な議論がなされることが必要であるという視点から、報道の自由、投票運動の自由、考えるための十分な時間、裁判所への提訴などについて論じ、現在つくられようとしている「国民投票法」は問題であるとしている。三三の問と答で構成されているので読みやすいものとなっている。蛇足ながら付け加えておくと、この本のサブタイトルは国民投票法案を「憲法改悪の突破口」と位置づけている。
五 (2)は、「国民投票法」をめぐる現在の議論は、住民投票の延長でとらえたり、公職選挙からの類推で論ずるものが多く、国民投票の独自の性格や各国の経験を踏まえた議論が少なく、このまま放っておけばとんでもない「憲法改正国民投票法」が定められてしまうという危機感から執筆されている。「憲法改正と憲法制定」、「直接民主制の可能性と限界」、「国民投票派のおかしさ」というテーマは研究者らしい切り口であるし、イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・スイス・ポーランド・ロシアなど七か国の国民投票についても紹介されている。国民投票の政治的機能を知る上で有意義である。
六 われわれは、憲法改悪阻止の運動と国民投票法阻止の運動を密接不可分のものとして位置づけている。そして、民主主義が成立する条件として、十分な情報が提供されることと、その情報を処理する能力が必要であることを知っている。弁護士会の論客と護憲の立場研究者((2)の帯には「平和憲法が危ない」とある)の手になるこの二冊の本は、われわれの運動の質を高める上で大きな貢献をするであろう。ぜひご一読いただきたいと思う。
東京支部 後 藤 富 士 子
一 「取調」に対する被疑者の抵抗
日弁連刑事拘禁制度改革実現本部が作成した会内資料「代用監獄問題の要点」二六〜三〇頁に掲載されている検証調書(証拠保全)から解るのは、代用監獄に勾留された被疑者が警察の取調を拒否して抵抗している様子である。調書を引用すると、「警察官から聴かれたことに対し、私が何も答えないために、警察官から押されて、私自身当時ふらふらしていましたので、簡単に倒れてしまった」(第二項)、「一昨日の午後二時過ぎころから同四時半頃までの取り調べの間と、昨日の午前九時半頃から同一一時頃までの間、及び午後二時頃から同四時半頃までの取り調べの間に、いずれも、私は警察官から暴行を受けました。この時、私は、取り調べに対しパニックになっており、椅子から床へ座り込んだりしたことに対し、警察官から『立て』と言われて手を持たれたので、その手を振り払って、床に寝転がったりしたのです。そのため、私は、警察官から膝や足で体を押さえ付けられました。」(第五項)、「私が、取り調べの際に、床に寝転がっていたのを言うことを聴けと言うことで椅子に座らせるために、警察官が私の喉仏のあたりに親指がかかるような持ち方で両手を首に回して持ち、私の足の踵が床から上がる位まで身体を三回位持ち上げられました。」(第六項)、「取り調べの際、私の方からは殴りかかってはおりません。私としては、椅子から降りて、床に座ったり、横になった以外では、取り調べの刑事が横になった私を起こしに来たとき、手で振り払ったり、押さえ付けられたときには、足をばたつかせたりしたことはありました。」(第一二項)という状況である。
この検証の結果、被疑者は拘置所に移監された。しかし、このような取調の実情は、黙秘権の保障を画餅に帰するものであり、代用監獄問題に矮小化する(「代用監獄が廃止されれば問題は解消する」という見解)ことはできない。
二 「任意」取調による自白の強要
鹿児島県志布志で起きた「公選法違反」デッチ上げ事件では、最初に取調を受けたのは、逮捕も起訴もされなかった夫婦の妻である。二〇〇三年四月一九日から四週間にわたり任意の取調を受けたが、朝七時から夜一〇時まで、ある時は窓を開けて、捜査員から「○○××の妻、○○△△は焼酎二本と現金二万円を貰いましたと叫べ」と強要されて叫ばされるなどして心身共に衰弱し、逮捕されないし罰金で済むという言葉にも乗せられて「罪」を認めた。その後、夫が取調を受け、金品の受領を否定し続けたが、妻も一緒に最初から調べ直すと脅され、「現金二〇万円を貰い、知人八人に一万円ずつ配った」との虚偽自白をした。この夫の自白に基づき、当選した県議を含む一三名が次々に逮捕・勾留され、起訴されたのである。被告人の一人は、任意取調について、「逮捕後よりもきつかった」と述べている。
この事例では、当初、代用監獄で自白が強要されたのではない。「任意」取調で虚偽自白を取り、それが証拠になって逮捕状・勾留状が発付された。一方、否認を貫いた被告人にとっては、「自白強要の取調」という以前に、長期に亘る逮捕・勾留という未決拘禁自体の脅威が大きい。自殺を図った被告人もいるし、家庭や仕事が破壊されている。こうした事実に即せば、ここでも代用監獄問題に矮小化することはできないのである。
なお、私が慄然とするのは、この事件は一般の刑事事件ではなく、「選挙干渉」である点である。警察が、民主主義政治体制に挑戦して来ていることを看過してはならない。
三 黙秘権の保障─取調室への強制連行の禁止
被疑者勾留は、起訴前に検察官の請求を受けた裁判官が、罪証隠滅や逃亡を防ぐ目的で、被疑者の身柄を監獄(拘置監)に拘禁することを命じる強制処分である(刑訴法二〇七条)。拘禁する場所は、代用監獄を含む「監獄」である。そして、勾留の効力が存続する限り、裁判官の許可なしには被疑者の身柄を勾留場所から移動することはできないはずである。
ところが、被疑者取調の現実は、裁判官の許可もなしに、勾留場所である警察留置場から取調室に連れ出している。同一警察署内の取調室と留置場であれば、もともと隣接した場所に設けられていたくらいなので、目くじらを立てるほどのことではないと考えられるかもしれない。しかしながら、被疑者が勾留されたB警察留置場から事件を所轄するA警察署に被疑者を連行して取り調べる場合、裁判官の許可を得ているわけではないから、勾留の効力を違法に破っているわけで、適法化の論理を考えつかない。これは、警察留置場に勾留された被疑者を検察官が検察庁で取り調べる場合も同じである。すなわち、勾留場所が取調場所から分離独立していればいるほど、勾留の効力に抵触する違法性が明らかになる。そして、代用監獄の弊害を回避するために、警察庁自ら「捜査と勾留の分離」を徹底させようとしているのだから、この違法現象は同一警察署内であっても顕在化する。
この現象を「取調受忍義務」から説明できるか検討しても、無理である。というのは、捜査機関は、狭義の司法機関ではなく、召喚権を持たないから、監獄官吏に被疑者を取調場所へ押送する義務を課することはできない。このことは、刑務所で受刑中の被疑者を司法警察職員が取り調べる場合に、監獄官吏に押送義務を課せられないことを理由に、司法警察職員が刑務所に出向いて取調を行っている実務に照らしても分かる。なお、裁判所への引致については、監獄法に規定はないが、刑訴法六五条三項や二八六条の二から、監獄官吏の職務と考えられていることが覗える(後藤昭「訴訟法と『施設法』の関係」岩波書店『捜査法の論理』収録一三一頁参照)。
前記一の事例を私が弁護人だったとして考えると、留置場から有無を言わせず取調室に連れて来られて、そこで「貴方には黙秘権がある」と言われても、実際に黙秘権を行使できるとは思えない。当該被疑者のように、「床に座ったり、寝転んだり」する勇敢な被疑者は多くないし、その結果、暴行されて初めて移監されるというのでは、弁護人として任務を果たしたとはとても言えないと思うのである。それよりも、違法というほかない「取調室への強制連行」を禁止すれば、黙秘権の実質的保障には随分効果があると思う。
また、このようにして逮捕・勾留された被疑者の黙秘権が実質的に保障されれば、身柄拘束を利用して自白を強要することができなくなるから、逮捕・勾留自体を抑制する効果も大きいと思われる。さらに、前記二の事例のように、「任意」取調における自白強要も、逮捕・勾留の脅威が減ることによって、随分緩和されるはずである。自白強要を防ぐ方策は、「可視化」だけではない。未決拘禁法において、「処遇の問題」として、取調に法的規制を加えることは重要なことである。
なお、拘置所の増設計画がなく、大規模独立留置場の増設が計画されている中で、法案が未決拘禁を警察の固有業務にしようとしていることに照らすと、そのうち検察官が代用監獄に出向いて取調をすることになるかもしれない。というのは、代用監獄から被疑者を検察庁に押送するのは甚だしい無駄があり、前記のとおり、勾留場所に取調官が出向くのが勾留の効力からして当然のことでもあるのだから。かくして、検察は完全に警察の軍門に下るのであり、「司法官」的検察官・裁判官のもとで、刑事司法は死滅するのではあるまいか?
東京支部 荒 井 新 二
皆さん、普段ご家族に自分の仕事のこと語っていますか。事件では雄弁であっても、内向きにはどうも・・・という方が少なくないのではないでしょうか。でもあなたがこの世からサヨナラするようなことがあったら、残されたご家族はどうあなたの面影をしのべばよいのか・・・。
川名照美弁護士が昨年一〇月二三日に亡くなりましたが、東京合同法律事務所では、ご遺族の気持ちを思い、彼の追悼集をこの三月につくりました。面影をしのぶよすがに、悲しみを少しでもそれで安らかなものになってくれれば、と編みました。
題して追悼集「惜別」です。小川千史さん(岡崎もと団長の忍ぶ会でビラをつくって貰った)の装丁で、ちょっとしゃれた七二頁の小冊子です。
川名弁護士と言えば、北炭夕張事件での活躍がよく言われますが(追悼集には古川景一弁護士の長編読物が載っていて、これは「孫悟空とお釈迦様」として団通信一一九五号以下に掲載されました)、彼の事務所生活でのさまざまな実像が愉快に、そして真摯に語られています。もし興味のある方がおられたら、残部僅小ですが、お渡ししたい。東京合同法律事務所の私荒井か事務局の島袋宗太までご連絡ください(TEL 03-3586-3651 FAX 03-3505-3976)。