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吉原 稔 業者と癒着して町税の徴収を見逃し、トンズラさせた町長に五五〇〇万円の損害賠償を命じた判決
岸 松江 「わたしの九条への思い」
〇六・六・三 有楽町マリオン前
街頭宣伝に参加して
広田 次男 いわき九条の会の少しだけユニークな報告
坂本 修 危険なカラクリ・「改憲手続法」の阻止を
小林 善亮 団本部作成の教育基本法リーフをご活用下さい。
鶴見 祐策 出資法の改正を求める
日弁連の請願署名の運動に協力参加しよう
吉田 健一
山口 真美
河村 文
マイコープ・エクスプレス事件が解決
―権利侵害を許さなかった若者のたたかい




業者と癒着して町税の徴収を見逃し、トンズラさせた町長に

五五〇〇万円の損害賠償を命じた判決

滋賀支部  吉 原   稔

 住民が反対運動をしている産業廃棄物最終処分場の用地を滋賀県と志賀町が買収したときに、志賀町が、売主である地主から町税の特別土地保有税の滞納分を徴収しなかったことが違法であるとして、滞納税金額五五〇〇万円を損害賠償として、町長、総務部長、納税課長に請求せよとする判決が、大津地裁で本年六月一九日に言い渡された(稲葉重子裁判長)。

 これは、ゴルフ場開発を予定していた土地を業者がゴルフ場開発を断念した後、特別土地保有税を滞納したのに(一億五〇〇〇万円)町が差押えをしなかったこと、町が一般廃棄物処分場用地として、県が二億四〇〇〇万円で産業廃棄物最終処分場用地としてそれぞれ業者から土地を買収したが、売買代金の一部が売主のふところに入ることを認めて、町が三億円で買収したときに滞納税金を一億円徴収しただけで、売買代金支払いと相殺しなかったこと、県が買収したときに町がしていた虎の子の一筆の差押えを解除して、別の価値のない山奥の二筆の土地に差押えを付け替えた(「金の卵をアヒルの卵にかえた」)こと、代理受領の手法によって代金から滞納町税を徴収しなかったことが違法であるとしたものである。

 通常、経営危機に陥った、又は倒産した業者が担保付の不動産を任意売却する場合、代金の一部が売主のふところに入ることを承知して抵当権の抹消に応じる金融機関はまずない。このような場合、二通の売買契約書を作成し、代金の安いほうの偽りの契約書を金融機関に示して担保を抹消させて、差額をふところに入れるという手法があるが、これがばれたら詐欺罪である。

 本件では、町長は、「町と県が土地を買い取るときに、売主のふところに入ることを認めないと土地を町や県に売ってくれなかったから、税金をとることができなかった」と弁解するが、町や県が住民が反対している産廃処分場用地を何が何でも買いたかったから、売買代金から数千万円の金が売主のふところに入ることを認め、税金徴収の機会をむざむざと、わざと放棄し、業者は代金をふところに入れたとたんにトンズラしたのである。町長と売主の不動産業者との間には、抜き差しならない癒着があった。

 本件は、産廃反対運動の中から生まれた事件であり、違法に税金の徴収を怠り、かつ地方税が消滅時効により消滅していない段階で損害が確定したとした事例である。業者との癒着により徴税を見逃させた町長の責任を追及し、産廃計画白紙撤回に向けた運動に力となる判決である。


「わたしの九条への思い」

〇六・六・三 有楽町マリオン前

街頭宣伝に参加して

東京支部  岸   松 江

 街頭宣伝参加の感想をということで要請されましたが、そのとき話した内容の概要の紹介をしたいと思います。

* * *

 私は、同世代の人たち同様、戦争の恐ろしさも飢えも経験したことがありません。今日は、弁護士というよりも、そういう世代の一人としてお話させていただきたい。

 私の母は、戦前生まれの八二歳です。五人兄弟で一人女性で、あとの兄弟は大学まで行ったのに、自分は行かせてもらえなかった。最初の夫とは、親に決められイヤイヤ結婚したそうです。戦後は食べ物がなくて、困ったという話をしています。

 私は、教育を受け弁護士になりました。私は自分の意思で自分の人生を決めてきました。飢えた経験もない。

 母と私の人生の違い、それは二人が生きた時代の憲法の違いだと思います。私は、今の日本国憲法のもとで、平等で自由な生き方を選択できる時代に生きていることを幸せだと思っています。

 そしてこの社会の根底には、戦争をしないということがあります。日本国憲法が誕生して六〇年間、私たちは、戦争によって殺すことも殺されることもなく、子どもたちが兵士にとられる心配もなく生活することができました。それは、まさに憲法九条のおかげなんです。

 みなさん、最近九条の力を確信したことをお話したい。以前話題になった「世界がもし一〇〇人の村だったら」という絵本を読みました。これにMLバージョンがあります。

 もし、あなたが今朝、目覚めたとき病気でなく健康だと感じることができたなら、あなたは今生き残ることができない一〇〇万人の人たちよりも恵まれています。

 戦いの危険や投獄される孤独や苦悩、飢えの悲痛を一度も経験したことがないのなら、あなたは世界の五億の人たちよりも恵まれています。

 もしあなたが、空爆や襲撃や地雷による殺戮や武装集団のレイプや拉致におびえてなければ、そうでない二〇人、(約一三億人)より恵まれています。

 もしあなたが、いやがらせや逮捕や拷問や死を恐れずに信仰や信条、良心に従って何かをし、ものが言えるなら、そうではない四八人(約半分、三〇億人)より恵まれています。

* * *

 私は、現在間違いなく、この「恵まれ」た人間に含まれます。日本の多く人たちも同じではないでしょうか。そして、それはまさに、日本に九条があるからだと思います。

 こういう話をすると、日本人だけ、恵まれていていいのか、国際貢献すべきだという人がいるでしょう。私は九条でこそ国際貢献ができると言いたい。

 たとえば、二〇〇四年度の日本の軍事費は約四兆五〇〇〇億円(四五〇億ドル)になります。これは、その七三%にあたる三三〇億ドルがあれば、世界中に埋まっている地雷を撤去できる、そういうお金なんです。

 この一年分の軍事費の一・三倍(六〇〇億ドル)のお金があれば、世界中の核兵器が廃絶できます。

 さきほどの絵本では、一〇〇人のうち七〇人は文字が読めないとされていますが、世界中の人に基礎的な教育を受けさせること(六〇億円)は今言った一年分の軍事費のたった一三%で実現できます。

 世界中の人に安全な飲み水と下水道設備を提供すること(九〇億ドル)、世界中の砂漠化の防止(八七億ドル)、世界中子どもたちのビタミン不足による失明から救うこと(二千万ドル)、以上全部が、この日本の一年分の軍事費の半分でできるのです。

 九条の精神を実現すれば、こんなすばらしい国際貢献ができる。九条にはこういう力があると私は思います。

 今も世界中で戦争によって傷つけられ、死の恐怖におびえている人たちがいます。そういう人たちにとっても、九条は希望の光になる。

 最後になりますが、私は、世田谷区で政党のビラを配って逮捕された事件の弁護団に入っています。憲法改悪の動きのなかで、最近、ビラをくばっただけで逮捕されるという事件が相次いでいます。

 こういう動きに特徴的なのは、逮捕される人たちというのは、憲法九条を守ろうと言う主張や政党の人たちなんです、

 ビラをくばっただけで逮捕する。これは、まさに戦争をするための地ならしです。私たちが「恵まれてい」ると単純に言えなくなった状況があります。

 日本が戦争をする国になれば、まっさきに言論の自由が奪われるのは歴史の真実です。憲法九条は、ただ戦争をしないというだけでなく、人権が守られる社会をも保障しています。

 私は、今を生きる一人として、全力で九条のすばらしさを広げていきたいと思っています。


いわき九条の会の少しだけユニークな報告

福島支部  広 田 次 男

一 高齢化社会

 昨年五月、いわき九条の会が結成された。結成準備に一年弱の年月をかけて、ユックリと結成した。

 会の代表は、旧民社党の元衆院議員で元市長のA氏(九三才)になっていただいた。九条に因んで、上記A氏を含む九人の代表呼びかけ人を前面に立てることになった。

 最高齢は現役の幼稚園園長B女史で九九才、「私は一〇〇才になっても戦争反対を貫きます」と就任の際の集まりで発言された。現役の音楽家C女史は九一才、「戦争で一番惨めな思いをするのは女」と実感を込めて語られた。旧社会党の元衆院議員D氏は八八才と、はからずも高齢化社会を反映した結果となった。

 その他、僧侶、詩人、歯科医師会会長、薬剤師会会長などの方々に名を連ねていただいた。

二 文化的市民運動

 会の趣旨をどうするかについては時間をかけて議論した。「九条二項は政治的な問題ではあるが、『軍隊を持たない、戦争をしない』というのは文化問題でもある。政治的信条の如何を問わず、市民の文化運動として参加の輪を拡げていこう」との結論に達した。

三 意見広告

 結成以来、集会・講演会の開催、九条グッズ(シール、ボールペン)・桃太郎旗の作成などを行ってきた。

 少しユニークなのは、市内の唯一の夕刊紙「いわき民報」(タブロイド版、発行部数二万、いわき駅近くに自社ビルを有する創刊六〇年を誇る商業新聞である)への意見広告であった。

 当初は本年の元旦号に二分の一頁分の意見広告を掲載した。「憲法九条二項を守ろう」という極めてシンプルなものであったが、年賀広告に埋まった紙面の中では異彩を放った。

 そこで今年の五月二日号(五月三日は休刊日)には市民一〇〇〇名の氏名を公表した意見広告にしようとの事となり、「五月二日号の見開き頁」を数十万円で買い切ったのは三月の事だった。

四 北朝鮮が攻めてきたら……。

 一人一〇〇〇円の賛同金を取る事として一〇〇〇名の募集にかかったが、これは容易ではなかった。

 やはり氏名の公表については抵抗が強く、結局八〇〇名超の賛同を得たが氏名の公表は五五〇名にとどまった。その過程で、実に幅広い対話が市民との間になされ、その主なものが事務局会議に集約され、検討された。

 代表的な対話を二つだけ紹介する。

 第一に、最も多かったのが「北朝鮮が攻めてきたらどうするの」、「テポドンが飛んできたらどうするの」との話であった。「北朝鮮には攻めてくる船はない」と答えたところ、「鎌倉時代ではあるまいし、船を並べて攻めてくる訳がない」と笑われた、などの例が紹介された。

 これにどのように答えるか事務局会議での議論は様々であった。しかし、「この質問に同レベルで、ストンと納得できる回答を用意することこそ、最も高度な理論武装だ」との点では一致した。

 第二に、「九条二項を守ることには賛成だが、広田さんが事務局をやっているのでは名前は出せない」との意見である。いわき市での私の政治的旗色は鮮明である。会の趣旨として「政治的信条の如何を問わず……」と掲げてはいるが、実践としては簡単にいかない事を如実に示している。

五 アンケート
 意見広告と併せて、「いわき市から選挙された全ての人々へのアンケート」を実施した。即ち、市長、国会議員四人(参院一、衆院三)、県会議員一〇人、市会議員四〇人である。県会議員のうち四人、市会議員のうち一五人が回答しなかったが、それ以外の方々から全員が回答を頂いた。

 アンケートは、公表を明言し、且つ、曖昧な回答の余地はないように工夫した。

 市長回答は「地方自治に関与する者として、憲法問題について意見を表明すべきではない」との趣旨であった。

 四人の国会議員は、各所属政党の政策に従った回答であったが、「自由意見欄」には指定した字数(一五〇字)を無視して延々と自説を展開する議員もいた。

 県会議員になると、所属政党の政策に沿いながらも、ニュアンスに於いて相当の差異が感じられた。

 市会議員の回答が最も興味を引いた。「九条は平和を守るために役立っております」、「世界に誇るべき平和憲法であり、九条は改訂せずに残しておくべきである」、保守系とされる議員からの回答である。

 これらのアンケート結果は一覧表にして、五月二〇日に開催された結成一周年記念集会に於いて二〇〇人超の参加者に配付した。ついでに、「我々は事実を伝える報道機関ではなく、運動を作る立場」との視点から、このアンケート結果について、誠に自由な論評を行った。

六 結び

 九条を廻る情勢は極めて多面的であり、工夫の仕方によっては思わぬ力を引き出す事ができる。

 「柔らかな眼」をもって、注意深く情勢を観察しながら、豊かな発展を実現させたい。


危険なカラクリ・「改憲手続法」の阻止を

東京支部  坂 本   修

 国民投票法案は継続審議になったが、閉会直前の六月一五日には強引に審議入りされた。このままの状態だと九月に始まる臨時国会で、自・公両党と民主党の間ですり合わせが行われ、成立する危険は否定できない。

 もし、法案が成立すれば直ちに、両院に設置される「憲法審査会」で改憲発議原案の審査と、これにもとづく改憲憲法原案作成が可能になる。そのこと自体、改憲策動に拍車がかかる重大事である。そして、いよいよ国民投票という事態になったときに、法案はおそるべき毒薬効果を現す。国民の意思を権力や財力によって歪め、改憲策動を全面的にバックアップする、何重もの仕掛け―毒=\が盛り込まれており、その結果、改憲を阻止しようとする側は、不公正なたたかいが強制される危険に直面することになる。以下、そのことに的を絞って述べたい(なお、両法案の全面的な解明については本年六月八日付の団意見書をお読みいただき、活用されたい)。

〈途方もないハンディキャップ法〉

約五五〇万人を取り締まる仕組み

 第一に、自・公案では、国家公務員、地方公務員、教育者、合計約五〇〇万人の人たちを「地位を利用した」などという口実で警察・検察がこれらの人々の改憲反対の活動(国民投票運動)を抑圧、規制できる仕組みになっている。何千人、何万人もの逮捕という大量弾圧をするまでもない。しかるべき対象者を選んでみせしめ弾圧すれば、改憲勢力の政治的目的は実現できることになろう。自民党の船田議員は五月一九日夜、第二東京弁護士会主催のシンポジウム・「憲法改正―国民投票法について各党に聴く」で、この規定での「萎縮効果」の危険があることは認めながら、「適用上の注意」として「国民の自由と権利を不当に侵害しないよう留意しなければならない」と規定するから大丈夫だと述べていた。同氏の弁明は事実に反する。軽犯罪法第四条は「国民の権利を不当に侵害しないよう留意し、その本来の目的を逸脱して、他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」と明記している。だがビラ貼り活動にたいする弾圧など警察・検察が同法を濫用しつづけてきたことは歴史が証明している。

軽犯罪法違反事件だけではない。堀越国公法弾圧事件や、さらには反戦、平和、革新政党の日常活動のビラ入れなどに対する一連の住居侵入罪事件など、目の前のたくさんの事実が同氏の弁解を否定している。今でもこの状態なのに、国民投票の成否をかけた政治決戦となったときに、法案のこの仕組みが権力によって「活用」され、公務員、教育者らの改憲反対運動の抑圧、規制のために猛威を振るう危険はまさに現実のものである。ちなみに民主党案にはこの規定はない。そして、当夜の集会で民主党枝野議員は、自・公案の注意規定は実効性がなく、「ナンセンス」だと述べていた。だが、同氏も民主党も、なぜか現行の国公法、教育公務員特例法を活用すればいいという立場である。違憲の弾圧の牙≠公務員や教育者にむけるという点では、「同工異曲」という批判を免れない。

 憲法擁護義務を負い(憲法九九条)、そのことを宣誓して活動している公務員、子供の人生に責任を負い、二度と子供たちを戦場に送らないことを誓っている教員、学者として憲法の価値を広く人々に語ってきた人々(たとえば小森陽一氏や渡辺治氏ら)が、憲法の命運が問われる歴史の決定的な瞬間に、権力によって自在に犯罪者にされ得ることになる。こんな仕組みをもつ法律は、憲法の保障する思想、良心、言論表現の自由を侵害する違憲立法である。同時に、そのことはすべての国民に、国民主権の自由な行使をみとめることを制度上不可欠の原則とする憲法九六条の大義に反する。両法案はこの二点だけでもすでに汚れた違憲立法なのである。

改憲派に優位の広報協議会の「広報」宣伝

 両院の各党各派の議員数比率で選ぶ各一〇名の議員で構成する「憲法改正案広報協議会」をつくる。但し、反対の表決をした会派がゼロになるときは、その会派にも「割り当てで選任できるよう出来る限り配慮する」という。「出来る限りの配慮」だから当てにはならない。せいぜい日本共産党一名、社民党一名、仮りにさらに「配慮して」各院両党一名ずつとして四名。改憲反対派が全くの少数になるのは目に見えている。この改憲派絶対多数の広報協議会は大きな権限を持つ。たとえば、広報協議会は国民に対して「国民投票広報」をつくり配布するとされる。反対意見と賛成意見は「公平かつ平等に行う」とするが、肝心の「改正憲法案の解説」は両派の賛否とは別枠で広報協議会がつくるというのだから、国民が手にする「広報」は結局、賛成二、反対一の内容になる。念のために言えば、「広報」は期間中、何度出してもいい。こうして改憲勢力は「二対一」の比で国の力で大量の「全戸配布」「有権者全員配布」の大量宣伝をすることができる。やろうと思えば、くりかえしてである。

国費による無料宣伝での優位

 政党は、各党らの「議員数を踏まえて広報協議会が定めた時間数」でラジオ、テレビを無料で利用できる。新聞についても同じく「議員数を踏まえて、広報協議会が定めた寸法、回数」で無料意見広告ができる。だから単純に議席比で配分すれば、改憲広告放送、新聞広告の枠は「九対一」(以上)になり、ここでも国費―血税―で圧倒的な改憲宣伝がされることになる。

財力・金力による圧倒的優位

 その上さらに、カネを出して、マスコミを利用し、広告・宣伝するのは全くの自由となっている。血税から政党助成金を得、マニュフェスト(公約)で改憲を掲げれば、湯水のように資金を与えられる改憲諸政党は、カネで大小様々の広告を利用できる。政党に限らない。財界も、財界の息のかかった様々の改憲派諸団体も、広告を活用できる。マスコミ全国紙の一面に「意見広告」を出すには三〇〇〇万円位、全国ネットのテレビのスポット広告は、曜日や時間帯で違うが、土、日の日中で三〇秒で四〇〇万円から五〇〇万円が相場で、効果的な連続スポット広告は一種類で億円単位と言われている。カネのない改憲反対の諸政党や、九条の会、市民グループなどが現実に利用できるマスコミの有料広告での力の差は、文字どおり「天地の差」になる。当初の自・公案にあり、世論からも、マスコミからも批判されたいわゆるマスコミ規制条項を両党は取り去り、一見、民主化したように装っている。だが与党案も、そして民主党案も全くの同文で国民投票を左右しうる情報宣伝について、改憲に絶対有利な三重のハンディキャップをつくっているのである。当初、マスコミとも対立した「規制」から、マスコミも儲かるカネ(おそらく数十億円)での情報操作(マインドコントロール)への変身≠ナあり、まさにしたたかなカラクリ立法だといわなければならない。

多重ハンディの複合効果―憲法九六条の潜脱

 すでに述べた三重のハンディがついた、こんな不公正な制度で憲法が壊憲≠ウれることを憲法九六条がみとめているわけはない。「三分の二」以上の議席を利用して「発議する」ことができても、この発議について国民がどう活動し、どう判断するかについては全く平等に取扱い、国民の自由な意思によって改憲の是非を決することは憲法の大義である。議席の力関係で、改憲派有利の仕組みをつくることは、この当然の大義に背を向け踏みにじる憲法侵害行為である。両法案は、この点においても違憲立法なのである。

〈真実を広げ法案の阻止を〉

 憲法を根底から覆す改憲・壊憲≠フ手続法であることに加えて、すでに述べてきたような「改憲手続法」のよこしまな内容を訴えれば、九条改憲反対で結集している人々にはもちろんのこと、およそ、不公正なやり方をきらう人々の間に、同法反対の声を広げることができるであろう。それだけではない。汚れた「手段」に固執することは、「目的」の不正を浮かびあがらせることになる。「こんな法律をなぜ急ぐのか、それには反対だ」という声は、改憲そのものが壊憲≠ナあり、国民の利益に根本から反するものだという真実をつかんだ声になり、改憲反対の世論を広げ、つよめることにつながるに違いない。そのとき、法案は改憲勢力の弱点に転化することになるであろう。

 たたかうのは今である。「改憲手続法」の阻止のために、力をあわせて、いま行動を大きく発展させることが求められているように思われてならないのである。


団本部作成の教育基本法リーフをご活用下さい。

東京支部  小 林 善 亮

 先の国会では、教育基本法「改正」法案の成立を阻止することが出来きました。関心も高まったところで、秋の臨時国会に向けて、この夏が教育基本法「改正」の問題点を広げるチャンスです。そんなとき役に立つのが、赤ちゃんの顔の表紙で好評の教育基本法リーフ(「見つめてみよう子どもたちの今、想像してみよう子どもたちの未来」)です。先の国会の熱が冷めないうちに、夏の集会、学習会、街頭宣伝などで是非ご活用下さい。

 ご注文は団本部まで(一部二〇円)。


出資法の改正を求める

日弁連の請願署名の運動に協力参加しよう

東京支部  鶴 見 祐 策

 六月一五日、団は、常任幹事会での討議に基づき出資法の上限金利引き下げ等を求める声明を発表した(この声明は、団のホームページにアップしてありますので、ご参照ください)。金融庁の貸金業制度に関する懇談会は、貸金業規制法四三条(みなし弁済)の廃止、いわゆるグレーゾーンの撤廃、上限金利の引き下げの方向を示したが、貸金業者の顧問や政治献金を受けた自民党議員らは「被害者を出さない健全な消費者金融を考える会」を結成して高金利維持の策動を強めており、スノー米財務長官が谷垣財務大臣に圧力をかけたと伝えられる。

 消費者金融による多重債務の重圧に苦しむ人たちは多い。各地の団員は、その救済に奮闘してきた。最高裁も本年一月一三日と一九日、みなし弁済規定による支払いの有効性を否定する判決を行っている。その趨勢に照らしても、このような貸金業者と外資の策動は到底黙過できるものではない。

 日弁連は、五月二六日の総会で上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げることを求める決議を行い、「上限金利引き下げ実現本部」を設置した。その実現を目指して国会に向けた一〇〇万人署名運動を呼びかけている。団としても、これに積極的に参加する必要があることが確認された。

 各地の弁護士会には必要な署名用紙が配布されている。団員は、それを活用して依頼者等に署名の協力を求め、日弁連の実現本部あるいは団本部に集約することを呼びかけたい。この秋に向けて署名運動の成功に寄与したいと思う。


マイコープ・エクスプレス事件が解決

 ―権利侵害を許さなかった若者のたたかい

東京支部  吉 田 健 一
 山 口 真 美
 河 村   文

 生協で働く若者の五年に及ぶたたかいが、去る六月五日、中労委で和解解決した。労災の責任を否認し、残業代の支払いを怠り、ビラ配布など労働組合活動に対する攻撃など様々な権利侵害を許さずたたかった若者の誇れる解決である。

 二〇〇一年の夏、三名の若者が労働組合(東京西部一般労組)に加入してマイコープ・エクスプレス分会を結成した。東京マイコープという生協の子会社(マイコープ・エクスプレス)で契約社員として働き、過酷な宅配作業により腰痛等を発症した。労災を認めない会社の対応に納得できないと組合に加入したのである。労災問題とともに、月に一〇〇時間近くにも及ぶ残業代の未払についても、団体交渉で追求することとなった。会社が団交で不誠実な対応を続けたため、組合は、ビラを配布しホームページを立ち上げて、過酷な労働実態を告発し改善を求めた。

 ところが、最初に訴訟を提起したのは会社であった。当時まだ労災で休業中であった若者ら組合員の自宅に、ビラ配布やホームページの記載を不法行為とする損害賠償請求の訴状が突然届いた。会社は、徹底して組合排除の対応に終始した。労災が治癒しても組合員の就労を拒否し、賃金の支払いも怠り続けた。二〇〇四年からは契約社員としての契約更新も拒否するに至った。

 これに対して、組合側は、ビラ配布活動などを続けてたたかった。賃金仮払い仮処分手続きで一定額の支払いを確保する一方、未払残業代の請求訴訟を提起した。東京都労働委員会に対して救済申立を行い、さらには、労災及び就労拒否について損害賠償・未払賃金請求の本訴を提起してたたかいを進めた。これらの法的手続きを通じて、会社の権利侵害を告発し、組合活動に対する会社からの損害賠償請求を退け(最高裁判決)、残業代の支払いを命じる判決を勝ち取ってきた(東京高裁判決)。

 そして、昨年一二月六日、都労委の勝利命令も出された。都労委は、労災による傷病が回復した組合員の復職を拒否したり、組合との団交を拒否したことが不当労働行為であるとし、ポストノーティスとともに復職を前提とした賃金の支払を命じた(二〇〇五年一二月二一日団通信第一一八六号、山口報告参照)。

 二〇〇六年、たたかいの舞台は中労委に移された。中労委では、和解が勧告され、精力的な交渉が進められた。六月五日に成立した和解は、復職は実現できなかったものの、解決金の支払いなど、たたかった当事者の若者も納得できる解決を実現した。東京地裁八王子支部で審理中の労災及び就労拒否についての損害賠償・未払賃金請求訴訟も、会社が上告して最高裁に係属中だった残業代請求訴訟も、取り下げにより終結した。

 いま、職場では若者を使い捨てにする実態がまかり通っている。東京マイコープは、テレビコマーシャルで「パルシステム」という戸別宅配を売り物にしている生協であるが、そこでも過酷を極める労働実態が存在する。そのことを明らかにし、権利侵害を許さず、ねばり強く進めてきた若者のたたかいは、そのような職場のあり方に一石を投じることになったのではないかと思う。