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田場 暁生 「九条がんばれ!『第九』コンサート」大成功!
熾  真 抑圧され続けている新聞販売店を救う画期的判決
西尾 弘美 国民投票法反対読本
─かわいいリーフレットをどんどん広げたい
中村 洋二郎 いま、中国人戦後補償裁判が面白い!
―真っ正面から歴史認識を問い、正義と人道を求めて―
飯田  昭 市原野ごみ焼却場(京都市東北部清掃工場)談合追求住民訴訟で談合認定判決
〜川崎重工に対し一八億三一二〇万円の損害賠償命令(大阪高裁)
原  希世巳 東京大気汚染公害裁判・高裁の解決勧告を引き出す
笹本  潤 憲法九条支持を国際世論で包囲する
大山 勇一 上告審まで来た靖国訴訟・東京
今村 幸次郎 国会へ連続的、波状的に「声」を届けよう!!




「九条がんばれ!『第九』コンサート」大成功!

東京支部  田 場 暁 生

一 大成功!

 「九条がんばれ!弁護士と市民がつどう『第九』コンサート」(九月二六日)は、一八〇〇枚のチケットが一か月ほど前に売り切れとなるなど大成功に終わりました。全国の団員の皆様から様々なご協力を頂き、本当にありがとうございました。実行委員会事務局長(&無謀にも?合唱団にも参加しました)として、本企画に至る経緯や当日の様子、今後のことなどについて書きたいと思います。

二 「第九」コンサートに至るまで

 すでに団通信でも書きましたが、この企画は、昨年一一月に自民党新憲法草案の学習会を一〇〇名近くの弁護士の参加を得て行った後、様々な立場の弁護士が広く集まって話し合った結果、生み出されたものです(団からは吉田幹事長が参加)。企画内容を考えるにあたっては、昨年の人権大会の宣言を踏まえて九条擁護の取り組みとして弁護士会でできないことをやること、まずは幅広い弁護士等が参加可能なものにするために単なる集会ではなくメディアにも取り上げてもらえるような楽しく文化的な催しをやること、弁護士も主体的に参加できるものにすることなどをコンセプトとして進められました。

 会議で出た他の企画として、全国に呼び掛けて、弁護士等が単位会等をつないでリレーし(走るもしくは自転車で)、それに合わせて各弁護士会(の有志)で憲法イベントをしてもらおう、というような途方もない(?)案もありました。年配弁護士の「お、それおもしろいね。ただ、地方によっては誰か行って走らないとなあ」など、(私などのほうをチラチラ見ながら)自分が走ることはまったく頭にない無責任な(笑)発言もありましたが、さすがにこれは東京のメンバーだけでできないことですし、短期間に協力を呼び掛けるのは厳しいということで、今回は見送るということになりました。

 企画発表の記者会見では、指揮者の外山雄三さんから「弁護士合唱団」に対し、「『第九』の練習に最低二〇回は出ること」と厳しい条件が出されました(もちろんドイツ語で暗譜)。しかし、予想をはるかに超える約五〇名の弁護士、法律事務所及び弁護士会職員、修習生などが「九条がんばれ!」の一点で合唱団に結集し、週一回以上の練習に耐えて(?)本番に臨みました。合唱団員には、渉外事務所の弁護士・秘書や元教育学会会長も参加するなど、実行委員会同様に幅広い方が集まりました(団員及び団事務所職員は一〇名程度)。合唱団員は全部で二一〇数名でしたが、東京高齢協(フロイデ)合唱団や労音合唱団などから協力を得て「九条がんばれ!合唱団」が結成されました。

三 当日の興奮

 当日は、平和を願うモルダウ・イマジンなどの楽曲や、池辺晋一郎さんの即興の伴奏に乗せた日色ともゑさん朗読「茶色の朝」等の演目の合間に、外山さんや池辺さんなどの出演者や弁護士に平和への思いを語ってもらいました。日弁連現会長は、戦争でご兄弟を亡くされ、母親から大人になったら平和な社会を作ることを通じて世の中に貢献してほしいと言われたことに続け、九条こそ平和な国造りの指針とすべきとの思いを(「個人」としてのスピーチであるにもかかわらず、)「私達弁護士は」「日弁連は」として語りました。

 そして、いよいよ最後の「第九」合唱。私は、壇上で、フルオーケストラの演奏の迫力だけでなく、すさまじい気迫がこもった合唱団の仲間の歌声を背中に感じ、勇気をもらい、涙が出そうになりました。観客の方から後日、「あんなに迫力のある第九の合唱は初めてです。今日の合唱の力強さはきっと歌われた方々の一人一人が、今の日本の現実がさらに厳しいものになろうとしていることを感じ、それをなんとしてでも食い止めようという意志を持っているからではないかと、私は思いました。」との感想を頂きました。合唱団の九条への思いと九条を変えさせないという決意と気迫が会場に伝わり、一体感を生み出したのだと思います。合唱団の評判はというと・・・アンケートでは「予想以上に素晴らしかった」という意見が多数寄せられています。

四 今後につなげるために

 本企画は、元日弁連会長五名、元東京三会会長一六名という多くの方に呼び掛け人に就任して頂き、「この企画は絶対にぽしゃるわけにはいかない」との思いがありました。

 多くの弁護士が結集するきっかけになれば、という思いは、東弁・二弁で(異例の)全会員発送物にチラシを入れてもらい、当日も多数の弁護士が参加したことだけでなく、呼び掛け人と東京三会現会長の当日の参加及びプログラム・HPへのメッセージ寄稿(詳しくは、HP〈http://www.9jou-con.com/〉をご覧ください。)、前記日弁連会長の当日スピーチなどから、一定程度達成されたのではと思います。そして、憲法イベントとしては、異例なほど事前に各種報道がなされ、プログラムに惹かれてか、九条改憲に必ずしも反対ではない方も数多くチケットを購入されたようです。「多くの弁護士は(九条)改憲に反対なんだ」というメッセージもそれなりに伝えられたと思っています。

 今回の取り組みをさらに次につなげるため、現在のところ、一〇月二四日(一六時〜一八時、弁護士会館一〇階)に呼び掛け人、合唱団員や会場に参加した弁護士に呼び掛けて「総括及び今後の取り組みについての意見交換会」を行うことを予定しています。参加可能な方はご参加ください。

 アンケートの「弁護士会が憲法九条を擁護する活動を皆様と共に行うことには」「弁護士に期待すること」という質問に対して、「一九五〇年あたりから日本国が戦争できる国づくりする中で、流れを変えるために希望の砦」、「九条改正に反対する弁護士さんの団体があるとは知らなかった。もっとアピールすれば今度の選挙に影響するのではと思う」、「私達の先頭を歩んで頂けることがどれだけ心強いか」などの回答が寄せられました。弁護士への期待は大きいですね。がんばりましょう!



抑圧され続けている新聞販売店を救う画期的判決

福岡支部  焉@峰   真

 今年九月二二日、福岡地裁久留米支部で、全国で初めて新聞販売店の地位を守る画期的判決が出された。新聞社の押し付ける無茶な要求に従うしかなかった新聞販売店にとって、希望の光となりうる判決である。

 この裁判は、読売新聞販売店の店主三名が、営業努力不足、本社への虚偽報告等を理由に、それぞれが有している新聞販売区域の権利の全部または一部の返上を求めてきた読売新聞西部本社を相手に、自己の販売店の地位確認と損害賠償を請求したものである。

 この背景には、「押し紙」問題と呼ばれる新聞販売業界特有の問題がある。新聞社にとって読者数は、経済的利益の面はもちろんのこと、会社の評価にもストレートにつながるものだけに、何よりも重要なものであり、読者数が新聞社の命といっても過言でないくらいである。そこで新聞社は、新聞販売店に対し達成不可能な読者数増加(業界では「増紙」と呼ばれている)の目標を押し付け、達成できなければ販売区域の返還や廃業もありえることをチラつかせることで、何が何でも目標を達成させようとしている。

 しかし、当然のことながら、新聞販売店が新聞本社に押し付けられた増紙目標を達成することは不可能に近い。目標を達成することもできず、しかしそれをそのまま報告すると区域返還や廃業の制裁を受けかねない。そう追い詰められた新聞販売店は、新聞本社に対し、読者数を現実に配っている読者数よりも水増しして報告し、その分の新聞も本社から購入しなければならなくなってしまう。つまり、現実の読者がおらず、新聞代金を販売店が負担して購入する「予備紙」と呼ばれる新聞の割合が過剰に増えてしまうのである。原告の一人は、本社から購入する新聞の約四分の一が「予備紙」であった。

 この過剰予備紙が販売店の経営を圧迫する。本社からの新聞購入代金を販売店が負担しなければならないのであるから当然である。それに対し本社は、上記の実態を把握しているはずであるにもかかわらず、注文部数を減少させる「減紙」は一切認めず、更なる「増紙」を要求してくる。そして、それが達成できない販売店主には、区域返還や廃業を要求してくるのである。

 この「押し紙」問題は、何も今回の原告となった福岡県筑後地方の販売店に限られた問題ではない。全国どこでも生じている問題である。

 しかし、このような新聞本社からの不当な新聞の押し付けに対して、大部分の販売店は泣き寝入りをせざるをえない。新聞本社に盾つくことは、店を失うことに繋がるからである。ほとんどの販売店主にとっては、自分たちの生活を守るためには、新聞本社の不当な要求をじっと耐え忍ぶ以外なかったのである。

 そのような中、新聞本社に対して反旗を翻し、裁判に打って出たのが、今回の三人の原告である。

 裁判は四年に及び、その中で原告らは、「増紙こそ正義」だという読売本社の体質や、過剰予備紙によって原告ら支払わされている新聞代金のデータ等を示して、「押し紙」の実態と販売店の窮状を詳しく主張してきた。

 その結果、全国で初めて、販売店の地位を守る判決を勝ち取ることができたのである。判決では、新聞販売店契約のような継続的契約の更新拒絶には、信義則上、信頼関係の破壊等契約関係の継続が困難な事情が存在することなど、正当な理由が必要であると解した上で、読売本社が主張する更新拒絶理由は正当な理由と認められないとした。

 この判決が新聞販売店の権利を守った意義は、非常に大きい。今まで、廃業をたてに新聞本社から一方的に支配されてきた新聞販売店に、正当な理由なく廃業させられることはないという権利を認めたのである。今まで耐え忍ぶしかなかった販売店に、正当な権利を主張する勇気を与えられたのではないかと思う。

 判決に対しては、読売新聞が控訴してきたため、今後も福岡高裁で闘いが続いていくことになる。それとともに、是非全国でも、同じように抑圧されている販売店が立ち上がって、共に闘って欲しいと思う。

 この「押し紙」問題を解決するには、読者数を増やすことが命だという新聞社の体質を改善しなければならない。しかし、この問題は、どの新聞社でも抱えている問題であるため、マスコミの協力がほとんど期待できず、マスコミによって社会にこの問題が広まることは難しいだろう。そうであるならば、被害を受けている販売店が次々に立ち上がり新聞本社と闘っていくことで、広く社会にこの問題を認識させ、新聞社も無視できないほどに社会の問題意識を高めることによって新聞社の体質改善に繋げなければならないだろう。

 全国各地で同じ問題が起きているはずである。団員の方々には、是非、自分の地域で起きている「押し紙」問題に、積極的に取り組んでいただきたい。

※ なお、「押し紙」問題については、黒薮哲哉著「新聞があぶない」(花伝社)に詳しく紹介されていますので、興味をもたれた方はご一読ください。



国民投票法反対読本

  ─かわいいリーフレットをどんどん広げたい

愛知支部  西 尾 弘 美

 国民投票法反対読本は、出色のできだと思う。あふれるビラに内心辟易している人も、ビラを避ける道行く人も、何となく手に取ってみて、見る気になるリーフレットである。コンパクトなサイズでかわいいためだと思うが、街頭宣伝では、高校生も結構受け取ってくれる。そして、内容は、必要最小限の説明をわかりやすく盛り込んであり、ともかく国民投票法案は、改憲勢力に都合のいい「カラクリ」法案だということがはっきりわかる。

 先日、新婦人のある支部で投票法案の学習会を行った。リーフレットを持参したが、すでに支部で購入されていた。愛知県本部の会長が東京の集会に参加して、急いで国民投票法案反対の運動を広げなければならないと危機感を持ち、学習会やリーフレットの普及を提起されたとのことだった。

 学習会では、リーフレットの読み合わせをした上で、三つの問題点については、リーフレットを見てもらいながら、「改憲派がテレビと新聞を独占する!」というのは、詳しく言うとこういう仕組みなんですという話をした。そして、このリーフレットは、皆さんが読んで投票法案の内容がわかるだけでなく、署名活動等で投票法案の内容を説明するときに、役立つと思うので、ぜひ活用してほしいと話した。

 リーフレットの裏を見ながら、「『私たちにできること。』って書いてあるけど、できることを本当にやりきってはいないよね。どんどんやらなきゃいけないね。」と発言された方がおられたし、それぞれ、憲法を守る運動に取り組む中での悩みなども話しながら、投票法案がひどい法案だというのがよくわかったから、できることからがんばろうと発言された。

 また、私の話のタネ本は国民投票法のブックレット(学習の友社)なので、これもぜひ読んで欲しいと話したら、すでに坂本団長の講演を聞いてブックレットも読んだ方がおられ、ブックレットには投票法案のひどさが詳しく書いてあるし、よくわかると言って勧めていただいた。

リーフレットについては、参加者の皆さんから、わかりやすいし、すすめやすい、いいものだとほめていただいた(ただ、大量に配るには、一枚二、三円でないと…とも言われた)。私自身、(私が作ったわけではないが)「わかりやすくていいリーフレットでしょ」と自慢したくなるものなので、うれしかった。しかし、ほめてもらって喜んでいるだけではだめなので、とにかく学習会等で配ってきちんと読んでもらうこと、多くの人に反対運動を広げるために活用してもらうこと、たくさん街で配り、署名をしてもらうことが必要だ。

 投票法案を廃案にするために、かわいいリーフレットをどんどん広げたい。



いま、中国人戦後補償裁判が面白い!

―真っ正面から歴史認識を問い、正義と人道を求めて―

新潟支部  中 村 洋 二 郎

 中国人被害者の救済だといっても、六〇年も前の古いことよりも今の別の問題が沢山あるのではないかと思われる人もあるかもしれない。

 ところがドッコイ、この裁判と運動は最も現代的課題で身近な問題であり、法理論的にも最先端をゆく問題点が多々あって、若い団員にとっては興味津々疑いなしである。古希を過ぎた私でさえ、新鮮な気持で法律の原点に戻って学者や若手団員とカンカンガクガクの議論に引きこまれてしまうのだから。

 曰く、国がどんな不法行為をしても全く責任を負わないという「国家無答責」なる妖怪と憲法との関係や如何に。

 曰く、民法七二四条後段の「除斥」の正体は「除斥」にあらず、「時効」なり。

 曰く、「除斥の適用制限」、「時効の権利濫用」とはいかなる場合か。証拠隠滅とは関係ありやなしや。

 曰く、国家総動員法のもとで、国や企業は安全配慮義務の責任を負うのか。

 曰く、中国侵略にでてくる華北政務委員会は日本国の傀儡か。

 曰く、戦争の中での悲惨な行為は無責任なのか。その限界は何か。

 曰く、サンフランシスコ条約や日中共同声明で、中国人は請求権を放棄したものとみなされて請求は棄却されるのか。

 こうして、まるでモグラ叩きのように、国や企業は新しい屁理屈を持ち出し、裁判所はこれに動かされようとし、私達は強く反発する。

 かくしていま、北海道から九州まで、そして地裁から高裁、最高裁まで、全国で二〇もの裁判が係属して厳しく闘われている。

 それも、中国人の強制連行・強制労働事件、慰安婦事件、毒ガス事件、平頂山での住民三〇〇〇人虐殺事件、南京爆撃・七三一生体解剖事件、等の残虐非道な事件をめぐり、人間の生命、正義、戦争、国々との友好とは何か、を問う裁判である。当然に法律とは何かを含め、法理論を闘わせ、運動を作るためにしのぎを削って争っている。定期的に全国の弁護団会議を開いて協議し、援助し合い、飲みながら日中問題、戦争と平和、裁判闘争の進め方を含め、天下国家を議論する。中国人被害者には申し訳ない言い方だと思うが、この闘い、実に面白い。

 何よりも、時々は中国各地に赴いて中国人被害者と打ち合わせをしながら中国の歴史や発展状況を垣間見たり、中国人の人々と親しくなり、時には英雄扱いもされながら、七〇度の白酒で乾杯をしながら世界一の中国料理に舌鼓を打つことは、この裁判ならではのことだろう。私も、この裁判に関わってから、はじめて中国を訪れ、北京や上海、青島などの中国侵略の現場に触れて貴重な資料も見せてもらったりしてきた。あたたかい気持ちの大きい中国人を知ることも出来たし、アジアの友好とは何かを実感することも出来た。

 しかし、中国人戦後補償裁判は、最近、巻き返しにあって、敗訴判決が続くようになった。勝訴した劉連仁事件も東京高裁で逆転され、福岡地裁で勝訴した強制連行事件は福岡高裁で逆転された。いま勝訴判決として残っているのは、強制連行事件では広島高裁での勝訴判決と新潟地裁での勝訴判決のみであり、その他では東京地裁の毒ガス事件の判決である。これらの勝訴判決に対しては、国や企業が控訴や上告をして正念場を迎えている。

 新潟地裁の判決は、強制連行事件では、全国で唯一、国と企業の双方に対して勝訴し、被害者一人あたり八〇〇万円の賠償を命じた。それだけに、国と企業は覆そうと躍起であり、私らは判決を維持しようと必死になっている。

 いよいよ一〇月三〇日に結審を迎えることになっている。

 敗訴判決を受けたものでも、被害者側から控訴・上告をしてぶつかっているが、特筆すべきは、敗訴判決であっても、国や企業の残虐な不法行為の事実は全ての判決が認めていることである。

 判決では、国や企業の行為は「人倫にもとる」「極めて悪質」「著しく正義公平に反する」とまで非難された。これらの行為が、時効・除斥などの「時の壁」や国家無答責などの前時代的な口実で免罪されるなんて絶対に許されないことだ。

 いま、靖国参拝問題や教育基本法の改悪問題など、歴史認識に関わる政治の状勢が緊迫している。事実としての侵略の歴史をはっきりと認識し、被侵略国の被害者に謝罪し賠償することが、平和と友好の道か戦争と軍国主義への道かを左右する。

 かくして、中国人戦後補償裁判は、いま、最も新しい重要な問題であり、面白い闘いだと思う。これからも追加提訴をして、正しい歴史認識がなされるまで闘いは続く。この一〇月三〇日には、中国から約九〇人の原告被害者や遺族らが日本にきて裁判傍聴や政府と企業への要請や交渉に動く。中国人被害者も孫子の代まで闘うと宣言している。

 ぜひとも多くの若き団員の参加を求めたい。



市原野ごみ焼却場(京都市東北部清掃工場)談合追求住民訴訟で談合認定判決

 〜川崎重工に対し一八億三一二〇万円の損害賠償命令(大阪高裁)

京都支部  飯 田   昭

一 高裁判決の概要

 二〇〇六年九月一四日、大阪高裁(第一三民事部。大谷正治裁判長)は市原野ごみ焼却場(=京都市東北部清掃工場)談合追及住民訴訟(原告七七四名)において、談合による不法行為を認定して川崎重工の控訴を棄却するとともに、原審京都地裁の判決を更に一歩進めて、談合による損害額を契約金額の八%(原審五%)と認定して、川崎重工は京都市に対し、総額金一八億三一二〇万円の損害賠償を支払うよう命じました。

 一連のごみ焼却場談合事件(全国一一地裁一三件)で初の高裁判決であると共に、談合による損害認定額としては、ごみ焼却場談合事件はもとより、高裁レベルでは談合事件全体にについて最高割合を認定したもので、談合根絶へ向けた司法の厳格な姿勢を示した画期的な判決と評価できます。

二 市原野ごみ焼却場問題とは

 京都市左京区・市原野地域は、京都市の東北部に位置し、景勝地鞍馬、貴船の手前の緑豊かな住宅地です。京都市は、九一年五月、同地の向山一帯の山林約二〇ヘクタールを開発して、焼却能力九〇〇トン(後に七〇〇トンに変更)の大規模清掃工場を建設する計画を発表しました。

 これに対し、地域住民(市原野自治連合会)は、「なぜ複雑地形で逆転層の発生しやすいこの地域に大規模清掃工場が必要なのか、立地場所選定の適切性、ごみの減量策の検討と大規模清掃工場の必要性、ダイオキシン等の排出による健康影響評価等につき徹底検証すべき」として、「市原野ごみ問題対策特別委員会」(委員長 荒川重勝立命館大学法学部教授)を結成して住民運動を展開してきました。

 ところが、京都市は、九五年一〇月に至り、それまでの約束に反して環境調査の結果を環境影響評価に転用して縦覧を開始するとともに、都市計画決定を強行したため、運動と並行して市原野弁護団(三〇名。内常任弁護団の団員は、飯田昭、奥村一彦、小林務)を結成して支援にあたることになり、九六年一二月には工事差止めを求めた本裁判を京都地裁に提訴し(原告団六二五名)、更に、九七年一二月と九八年一月には合計四六〇〇名が仮処分申請を行いました。

 これらの裁判の主たる争点は、(1)約束文書に基づき工事の差止めが認められるか、(2)清掃工場建設の必要性、(3)ダイオキシン等の排出による健康被害の可能性(環境権、人格権)による差止めが認められるか、の三点でした。

 焼却場自体は、九七年一月に建設工事が着工され、〇一年四月から操業が開始されています。

 残念ながら、差止めを求めた仮処分(京都地裁第五民事部)は九九年一二月二七日に「却下」の決定を、本裁判(完成後は操業差止め)は〇一年五月一八日(京都地裁第三民事部)、〇四年一二月二二日(大阪高裁第六民事部)、いずれも住民側の請求を「棄却」する判決を下し、差止め訴訟自体は住民側の敗訴に終わりました。

 しかしながら、これらの裁判の過程で、バグフィルター、活性炭吸着塔等の対策の補強や、継続監視体制など相当部分は住民側の要求を入れた「公害防止協定」及び「覚書」の締結など、裁判闘争を手段としながら運動を進めた成果は評価できるものです。

三 住民訴訟の提起と争点

 本件住民訴訟は、上記の市原野ごみ焼却場問題の取り組みの過程で、新聞報道で公正取引委員会が大手五社によるごみ焼却場の受注にあたっての談合が認められるとして排除勧告(独占禁止法四八条二項)がなされ(九四年四月〜九八年九月発注分。全国で六〇工場。総額九二六〇億円)、その中に市原野ごみ焼却場が含まれていたことより、住民監査請求を経て二〇〇〇年二月一〇日に提訴したものです。

 本体工事二二八億九〇〇〇万円(指名競争入札。九六年一二月一三日契約)、溶融設備工事一九億四九八五万円(随意契約。九八年九月一七日契約)、合計二四八億三九四七万五五〇〇円の工事請負金額につき、裁判では、(1)談合という不法行為の有無及び(2)損害額をどのように評価するかが、中心的な争点となりました。

四 談合の立証と認定

 大手五社は上記公正取引委員会の排除勧告を応諾せず、「談合は一切存在しない」と主張して、審判でも徹底的に争ってきたため、公正取引委員会での継続中の審判記録をどのようにして入手し、証拠として裁判所に提出することができるかが、談合事実の立証の最大の課題となりました。旧民事訴訟法二二〇条に基づき川崎重工に対して文書提出命令を申立て、京都地裁は、インカメラ手続きを行ったうえで、〇三年二月一〇日、実質的記録のほぼ全部につき、文書提出命令を出しました。これに対して川崎重工は大阪高裁に抗告しましたが、抗告審の審理中の〇三年九月九日最高裁判決により、「住民訴訟を提起している住民は独禁法六九条の事件の『利害関係人』に該当する」との判断が出たため、結局公正取引委員会から直接記録の閲覧謄写を行い、書証として提出することができ、同記録により談合により不当に落札価格がつり上げられた事実を証明できたのです。

 地裁判決は、これらの提出記録に記載されていた各社営業担当者の供述調書やメモなどを有力な証拠として採用し、一連のごみ焼却場談合事件で始めて談合による不法行為を認定しました。

五 京都市の姿勢(「怠る事実」)について

 また、判決は同時に、京都市が公正取引委員会の審判が確定するまでは損害賠償請求権を行使しないとの態度をとっていることについても、「損害賠償請求権の行使についてはほとんど裁量の余地はなく、現に発生している不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことを正当化する理由にはならない」旨、京都市長の姿勢を厳しく批判しました。

六 損害について

 地裁判決の不十分点は、損害賠償額を契約額の五パーセントにとどめたことです。私たちは契約金額の三〇パーセントを損害と認定すべきと主張してきましたが、川崎重工の控訴に対し、附帯控訴により、賠償額の増額を図ることを目標としてきました。

七 高裁判決の意義

 京都地裁判決後、一連のごみ焼却場談合追求住民訴訟においては、さいたま地裁(〇五年一一月三〇日。契約額の五%認容)、福岡地裁(〇六年四月二五日。七%認容)、東京地裁(同年四月二八日。五%認容)、横浜地裁(同年六月二一日。五%認容)と住民側勝訴判決が続き、公正取引委員会も六月には大手五社の談合を認定する審決を出したため(大手五社は東京高裁に取消訴訟提起)、談合認定についての勝訴(=控訴棄却)は確信しており、高裁が、附帯控訴を受けて、損害賠償額(=割合)を増額認定させることに、力を注ぎました。

 結果は、冒頭で記した通り、次の通りの論理で契約額の八パーセントを損害として認定しました。

 「証拠及び弁論の全趣旨によると、平成一七年の独禁法改正による課徴金の引き上げに関し、公取委は、過去の違反事例について実証的に不当利得を推計したところ、平均して、売上額の一六・五%程度、約九割の事件で売上高の八%以上の不当利得が存在するという結果が得られたため、少なくとも不当利得は売上高の八%程度存在すると考えられることなどを考慮して、課徴金算定率を原則売上高の一〇%まで引き上げることとした旨の見解を表明していることが認められる。そして、前記のように不確定要素の多い中で賠償金額を算定するに当たっては、上記公取委の見解も重要な判断材料として斟酌すべきである。

 また、本件では、前記の通り、控訴人は、違法な談合により、他の入札参加業者との競争関係を何ら考慮することなく、専らその利益を最大にするため、予定価格に極めて近接する金額で入札することが可能になったものと推認され、実際に、控訴人の落札率は九七・八二%と著しく高い割合であったことからすると、本件入札における落札価格のうち、控訴人らの談合により不当につりあげられた分は、前記公取委の見解で平均値として示された一六・五%を著しく下回るものとは考えられない。すなわち、同見解で売上高の八%以上の不当利得額が存在するとされる「約九割の事件」に本件も含まれると推認することができる。

 以上を総合すると、控訴人の談合により京都市の被った損害額は、控えめに算定しても、本件ごみ処理設備工事請負契約の契約金額二二八億九〇〇〇万円の八%に相当する一八億三一二〇万円を下回らないものと認めるのが相当である。」



東京大気汚染公害裁判・高裁の解決勧告を引き出す

東京支部  原  希 世 巳

一 画期的な解決勧告

東京高等裁判所第八民事部は、本年九月二八日の結審に当たり次のような解決勧告を行った。

 「本件は第一審提訴以来既に相当期間が経過し、訴訟の当事者の数も多く、亡くなられた方も多い、裁判記録が一〇万頁にのぼることに示されているように、事案の内容がきわめて複雑であり、事実認定、因果関係など争点が多岐に渡る。おそらく、判決のみでは解決できない種々の問題を含んでいる。裁判所としては、出来る限り早く、抜本的、最終的な解決を図りたい。

 判決書き作業と並行して、和解の可能性と条件、内容について関係者から直にご意見をお聞きしたい。解決が出来るとすればそれに過ぎたるものはない。関係者が英知を集めて、この趣旨を理解してご協力していただきたい。」

 この解決勧告が画期的な点は、公害被害者の救済制度を実現していくことが、本裁判の解決のための枠組みとして不可欠なことを裁判所が十分理解した上で、あくまで被害者を救済していくことで「最終的な」解決を図る必要があることを裁判所が呼びかけたことにある。

 公害未認定患者は一時金をもらっても、死ぬまで医療費負担が続く限り実質的な救済にはならない。最低限将来にわたる医療費の全面救済が、解決のためには不可欠であって、その実現こそ、患者の最大の願いであり、またそれがこの裁判の最大のハードルであった。

 行政による制度的救済という裁判所にとって極めて困難な課題、すなわち「判決のみでは解決できない種々の問題」に正面から立ち向かわせることが出来たのは、患者原告の必死の訴えが裁判官たちの心をつかんだからに他ならない。

二 医療費救済制度に向けて大きく展開する情勢

 ちょうど結審の前後、石原都知事が都議会と定例記者会見で、医療費救済制度の策定と裁判の解決に前向きな姿勢を示し、このことが各紙で大きく報道された。しかしこの医療費救済制度の問題はここにきて急に浮上したものではない。

 これまで石原都知事は、被害救済は国の責任だとして、自らの責任を完全に放擲していた。ところが今年の初め、東京のお隣、川崎市で患者と市民のねばり強い運動により、全市全年齢の喘息患者に対する医療費助成制度が実現することが報じられた。

 この川崎の前進が東京都に与えた衝撃は大きなものがあった。我々は二月以降繰り返し東京都と交渉を持ち、担当者に川崎に出向いてレクチャーを受けさせるとともに、被害を聞く会を設定して、患者の涙ながらの訴えを聞かせた。そして本年四月二八日の交渉では、患者の追及に対して「(救済)制度についても検討していく」と述べ、その姿勢には明らかに変化が見られていた。

 他方、被告メーカーらは四年前の一次判決当日の交渉で、行政からの提起があれば救済制度の財源負担については積極的に検討するとの確認書にサインしている。まさに東京都が医療費救済制度についての検討を始めようとしている現時点で、被告メーカー各社は真摯にその財源負担を検討し、決断を迫られる状況に置かれている。

メーカー各社の中ではとりわけトヨタ自動車の対応は、患者の話をよく聞き、早期救済が望ましいと考えていることを表明する等変化が見られてきている。トヨタは、ハイブリッドカー「プリウス」を尖兵に「環境のトヨタ」で世界進出を進め、今やGMを抜いて世界一の座を確実にしようとしている。ところが足下の日本では公害発生源企業として多数の患者から裁判を起こされていることは、トヨタの世界戦略のアキレス腱となっている事情もある。

このような情勢の進展をふまえて、私たちは四月以降、裁判の全面解決を求めるたたかいを進め、六月からは高裁の裁判官に「全面解決のために積極的な役割を果たすこと」を求める団体署名に取り組み、九月以降は原告が裁判長宛の手紙を持って、支援者や弁護団とともに連日裁判所要請に取り組んだ。原告団としては、頑張ってたたかい取った解決勧告であった。

三 今後の課題

この間の朝日、東京などの報道によると、救済制度の内容につき東京都は救済の範囲を沿道の一定の範囲内に限定することを検討しているとのことである。しかし私たちとしては東京都内で救済の線引きをさせるようなことは絶対に認められない。救済の新たな格差を持ち込むような制度となってしまうようであれば、「全面解決」の実現は難しいであろう。

また一部では、医療費の一部を補償する制度となるとの報道もされている。川崎の救済制度では一部個人負担が残ったことから、このような観測も生まれていると思われるが、東京の場合、メーカーが財源の一部を負担することが前提になるのであるから、財源の面で患者負担を残す根拠はない。

今後一二月の第四回定例都議会では救済制度の内容や予算規模が固まっていくことになろう。それに向けてこの秋のたたかいが正念場である。東京都との交渉、メーカー各社への説得(内部にはかなりの温度差がある模様)、さらに世論に向けた宣伝活動など当面の課題は山積している。

原告団は年内に医療費救済制度確立の展望を固め、来春には損害賠償金も含めた全面解決を勝ち取るべく、意気高く運動を進めている。

来春には東京で全面解決を果たし、さらに全国大気連を軸に、神奈川、埼玉、千葉の首都圏、名古屋、そして関西でも、自治体による医療費救済制度を勝ち取るたたかいを進め、遠くない時期に国レベルで公健法並みの生活補償も含んだ公害被害者救済制度を再確立していくたたかいを展望してゆきたい。



憲法九条支持を国際世論で包囲する

東京支部  笹 本   潤

 安倍政権が誕生し、憲法改正と教育基本法の改正が緊急の課題になっているこのごろ、九条に対する国際的世論を広める取り組みを、自由法曹団・国際問題委員会と日本国際法律家協会で進めている。

グローバル九条キャンペーン

 海外の法律家や市民に対して「日本の九条が改正されようとしている、是非協力してくれ」と応援を求めるメッセージだけだと、好意的に受け止めてはくれるが、自分たちの自身の課題として捉えられないので海外では持続的な運動になりにくい。

 九条は改正に反対するだけでなく、九条のような非軍事の世界を国際連帯によって実現しようと言う方が受けがいい。そしてそのためにも九条改正の動きに反対してほしい、というようにこれからは訴えていくべきではなかろうか。

 今年の一一月三日はちょうど憲法公布六〇周年の記念日になる。昨年の八月一五日にも出した世界同時意見広告を今年は一一月三日に出そうとGPPACやピースボートなどの市民団体とともに進めている。

 この一年間で日本の法律家や市民団体は海外に出て、海外の団体と連絡を取ったり集会に参加したりしている。六月にはカナダのバンクーバーで世界平和フォーラムが開かれ、最終文書で九条を各国憲法で取り入れていこうという決議がなされたし、バンクーバー九条の会など海外の九条の会も活動を始めている。

 国際署名も各国様々な形で取り組まれている。アメリカでは、国際的女性NGO(WILPF)が二〇〇通の改正反対署名を集めた。この署名は、アメリカ政府に対して九条改正を日本に要求するなという署名になっていて興味深い。国法協が訪問したフランスでも、法律家団体を中心にした運動で四〇〇通の署名が集まった。このフランスの署名は、各国の憲法に九条を取り入れていこうという署名になっていて、単に「九条改正に反対!」でないところがユニークである。

 このような(少しずつだけど着実な)各国の動きもあって、一一月三日の新聞意見広告は昨年よりもより多くの国で掲載できそうである。昨年はアジア各国とコスタリカの九カ国の新聞に載っただけだったが、今年はそれに加えて、フランス、スイス、カナダ、オーストラリア、中東一カ国、アフリカ一カ国に載せようと考えている。残念ながらアメリカでの掲載は予算の関係もあってまだ難しいが、このくらいの国の数なら実現できそうである。

 国法協では、ジュネーブの国連人権理事会に理事を派遣しており、国連・人権理事会で憲法九条の発言が二度にわたって実現できた。各国の政府代表がいる前で九条の発言を各国はどう受け止めたのであろうか。

憲法九条世界会議

 日本で海外の九条支持の声を伝えることを主な目的にして、憲法九条世界会議が二〇〇八年五月に日本で開かれる。これは市民団体や法律家団体、環境団体、各種国際NGOなどの共同で準備を進められている。海外から一〇〇人を超える人を招待できるような会議にしていく予定である。

 準備の過程の討論の中で、「非軍事の世界的な平和運動の一環として世界会議を位置づけるべきではないか」とか、「東京以外の地方都市でも分科会や集会を設定すべき」とか、前向きの意見も出ている。まだ具体的なことは決まっていないが、ノーベル平和賞受賞者を何人か招待し、米軍再編、核廃絶、環境などいくつかのテーマと九条を結びつけるような分科会を開くことが提案されている。

 そして、国内の五月三日憲法集会実行委員会のように幅広い団体に呼びかけ、実行委員会を年内に結成できるように準備をすすめている。

アメリカ・NLG総会でのアピール

 毎年自由法曹団は、アメリカのナショナル・ロイヤーズ・ギルドの総会に、菅野昭夫団員、鈴木亜英団員、井上洋子団員らが参加して、連帯のスピーチや交流を積極的に行ってきた。今年は、一一月一八日から二一日までテキサス州のオースチンで開かれるが、団の金沢総会と日程が重なり、私と大阪の田中俊団員のみが参加する予定である。

 アメリカが九条改正を日本に求めていること、イラク戦争の米軍人の死者が九・一一の犠牲者よりも多くなっていること、イラク戦争以来テロが多発していることなど暴力の連鎖が悲惨な結果をもたらすこと、そして九条の武力によらない平和の考えがそれに対する対抗軸になること、などを訴えてこようと思う。

 えひめ丸事件のピーターアーリンダーさんや日本人の奥さんらも、会場での宣伝やスピーチの手配など非常に協力的で、九条に関する決議もあげられるかもしれない。九条改正を求めているお膝元のアメリカで、そして反テロ戦争など暴力に頼る世界を展開している張本人のアメリカで、九条に関する決議をあげることは大きい意味を持つのではないか。

韓国・ソウルでの九条集会

 一方アジアでは、安倍首相の誕生により、歴史認識と憲法改悪に対する警戒感がアジアのマスコミにより広く浸透している。韓国国内の市民運動の関心度から言えば、九条の問題は、靖国問題や教科書問題のような歴史認識の問題ほどには大きくないが、九条改正を日本の軍事大国化の一環として捉え、アジアや朝鮮半島に対する脅威となるという警戒心は依然として強い。今年も昨年に続き一一月三日に日本大使館前で市民団体主催の九条改正反対の集会を持つ予定である。

 また、市民団体七団体(民弁も参加)で「平和憲法連絡会」を結成し、その「日本平和憲法モニタリング」というホームページ(http://blog.naver.com/peaceofasia)では日本の改憲の動きが市民によって監視されている。最近では、安倍首相の動向や民主党の動向、志位共産党委員長の訪韓のことが取り上げられていた。

 アジアの平和というテーマでは、九条改正の問題は、北朝鮮のミサイル問題、核開発問題ともからみ、今後韓国・民弁との連携もより重要な意味を持ってくる。金沢総会にも民弁メンバーが参加するので、このような話題で交流・連携できたらと思う。

最後に

 世界同時意見広告について、日本では一一月二日の朝日新聞の夕刊に掲載予定です。意見広告の費用がまだ集まっていません。カンパの協力をお願いします。

(カンパの振込先)

郵便振替口座 00100─1─630313

加入者名 グローバル九条キャンペーン事務局

※通信欄に「世界同時意見広告」とお書き下さい。一口一〇〇〇円



上告審まで来た靖国訴訟・東京

東京支部  大 山 勇 一

 本年九月、小泉純一郎が総理・自民党総裁を降り、安倍晋三が新総理・新総裁に就任した。思えば、二〇〇一年一二月にこの訴訟を提起して以来、小泉は首相であり続け、靖国神社へ参拝し続けた。また、石原慎太郎も当時から東京都知事の座にあり続け、靖国神社に参拝し続けた。小泉による二〇〇一年靖国参拝を見聞きして、「国家が個人の生死に介入し、こころを統制してくるのではないか」との危機感を強くもった弁護士が集まって弁護団が結成された。訴訟提起当時、弁護団の中心を担った笹山尚人、河村健夫、田部知江子、千葉恵子、そして大山の五名は弁護士経験二年目に突入したばかりだったし(五三期)、西田美樹、吉川健司は弁護士登録一か月目だった(五四期)。周囲の多くのベテラン弁護士に支えられて、夜中に訴状を完成させたのを忘れない。まさに私たち弁護団の弁護士キャリアは、小泉・石原参拝との格闘とともにあったといえる。それだけに、地裁、高裁と訴訟団の請求が棄却され、違憲判断に踏み込ませることができなかったのはかえすがえすも悔しくてならない。

 しかし、この悔しさを、私たち弁護団は、今回の上告理由書、上告受理申立理由書の作成にぶつけた。上告理由書では、高裁判決は憲法に違反していること、判決文の理由が不備であること、審理が尽くされていなかったことを述べた。また、上告受理申立理由書では、高裁判決はこれまでの最高裁判例と相反していること、法令(特に国賠法)の解釈に誤りがあること、本年六月の最高裁判決は判例の名に値しないことを述べた。

 六度にわたる頑なな小泉参拝とアジア各国による批判によって、「靖国問題」は国民に知られるようになった。いまだに一部のマスメディアは、「靖国問題」は中国や韓国との外交問題であると狭く解している。しかし、五年以上にも及ぶ全国六か所での訴訟団の訴訟遂行と国民的な運動により、「靖国問題」の本質は、原告らに対する人権侵害、政教分離原則違反、そして誤った歴史認識と再軍備への地ならしにあることが明瞭になっていった。確かに六度にわたる連続参拝は小泉の「変人性」によるところが大きいかも知れない。しかし、公式参拝路線は、一九七五年に靖国神社国家護持法案が廃案となり、国家護持化がいったん挫折した後で戦略的に出されてきた、中曽根康弘以来の自民党の「政策」なのであって、決して小泉の気質のみに原因を求めてはならない。また、イラクへの自衛隊派兵や有事法制の整備、自衛隊の増強と米軍との一体化などを見れば、戦争遂行のためのソフトとハードを両輪のごとく整備・推進していったことが分かる。

 安倍新総理は、小泉以上に日本を「戦争する国」へ改造したがっている。諸兄は安倍の著書である「美しい国へ」をお読みなったであろうか。この著書で彼は、「たしかに自分のいのちは大切なものである。しかし、ときにはそれをなげうっても守るべき価値が存在するのだ」と述べている(一〇八頁)。そしてそのすぐ直前では特攻隊員の話を持ち出し、「(わたしたちは)国家のためにすすんで身を投じた人たち(特攻隊員)にたいし、尊崇の念をあらわしてきただろうか」とも述べている。ここから分かるように、安倍はこの著書の読者として想定している若者に対し、「国家のためにすすんで命をなげうった特攻隊員に続け」とメッセージを発しているのだ。この特攻隊員のように、自らの命をなげうった若者を英霊として祀り、誉め称える施設が靖国神社である。戦前と同じく靖国は軍事国家化に利用される運命にある。安倍は小泉同様、靖国を政治利用しようとする政策を維持するであろう。

 もっとも、私たちは絶望も失望もする必要はない。靖国神社の政治利用を許さない市民の声は、国内だけでなく国外でも広まっている。本年八月一一日から一五日にかけて行われた「平和の灯をヤスクニの闇へ・キャンドル行動」では、韓国・台湾・沖縄・日本の各地域の市民や政治家が集い、民族・国境の壁を越えて非戦平和と市民の連帯を訴えた。アメリカの政府や議会からも靖国参拝を批判する声があがっている。また、事案は異なるが、「日の丸君が代」強制は違憲違法であるとした東京地裁の裁判例は市民を大いに勇気づけている。公権力が教育現場に介入し、教育の自由を奪い去り、若者の生き死に口を挟むことへ警鐘を鳴らす名判決である。弁護団は、この靖国訴訟においても、司法が行政の暴走に歯止めをかける判決を下すことを強く信じている。



国会へ連続的、波状的に「声」を届けよう!!

事務局長  今 村 幸 次 郎

 国民にとって最も危険な政治家である安倍晋三氏が首相になり、第一六五臨時国会が行われています。政府・与党は、北朝鮮情勢等を背景に、「核武装」や「周辺事態」などと「悪ノリ」しながら、改憲手続法、教育基本法改定など改憲に直結する法案の成立を強行しようとしています。

 私たちは、子どもたちに愛国心を強制し、競争と切り捨てを当たり前とするような教育を求めてはいませんし、九条を変えて戦争ができるようにすることやそのような改憲のために国民投票法を作ることなど全く望んでいません。今こそ、私たち国民の声を国会に届けなければなりません。

 団では、多数の参加を得て、一〇月一九日に改憲手続法・教育基本法改悪反対の国会要請行動を行いましたが、共同センターなどでは、引き続き、次のような行動が予定されています。多くの団員、所員のご参加をお願いします。私たちの「声」を連続的、波状的に国会に届けようではありませんか。

 一〇月二五日(水) 国会集中行動日

  ◆一一時〇〇分〜一一時四五分 院内集会

            衆議院第一議員会館第四会議室

  ◆一二時一五分〜一三時〇〇分 国会前行動

            衆議院第二議員会館前

  ◆一三時三〇分〜  議員要請(憲法特別委員会、憲法調査会)

 一一月一七日(金)

 憲法・教育基本法改悪を許さない中央決起集会

  ◆一八時三〇分〜一九時二〇分 中央集会 日比谷野音

  ◆一九時三〇分〜  国会請願デモ

 ※ 当日は昼間(一三時〜日比谷野音)にも国会包囲大行動があります。

 一一月二二日(水) 国会集中行動日

  ◆一一時〇〇分〜一一時四五分 院内集会

            衆議院第一議員会館第一会議室

  ◆一二時一五分〜一三時〇〇分 国会前行動

            衆議院第二議員会館前

  ◆一三時三〇分〜  議員要請(憲法特別委員会、憲法調査会)