<<目次へ 団通信1237号(5月21日)
井上 正信 | 二・一三 六カ国協議合意文書をどう見るか(二) |
村田 智子 | 私が被害者の刑事訴訟参加に賛成する理由 〜より公正で開かれた刑事訴訟のために |
阪田 勝彦 | 「国家教育統制法」(教育三法案) 廃案を求める国会議員要請 |
一 〇七年二月一三日第五回六カ国協議第三セッションが終了し、「初期段階の措置」と題する合意文書を採択して終了した。二月八日に開催された協議は、当初は三日で十分(二月五日武大偉中国外務次官の発言)との見通しと異なり、六日間に及んだ。一月に行われた米朝ベルリン協議で覚え書が作成されたことから、楽観的な見通しであったが、実際にはかなりきわどい交渉であったようだ。合意文書の内容にはいる前に、六日間の協議を新聞報道から整理しておく。
二 第二セッションとは異なり、初日での米朝はベルリン協議の覚え書きの線に従って、第三セッションで合意に向けた積極的な発言で始まった。中国は二日目の九日、合意文書案を五カ国へ提案した。しかし、初期段階の措置の履行に応じた支援内容で、北朝鮮が過大な要求を出したためそれを巡り紛糾することになる。ベルリン協議での米朝覚書では、経済支援の具体的な内容は合意されていない。しかしそれだけが紛糾の原因ではなかったようである。二月一九日琉球新報によると、協議四日目の二月一一日に、初期段階の措置に対する支援として重油三〇万トン、核放棄が終了すれば七〇万トンを米・韓・露が合意して提案したところ、北朝鮮が核放棄前に一〇〇万トンを要求したので、米国が中心となって合意文書第二次案を作成した。第二次案に「高濃縮ウランによる核開発の放棄」が入っていたため、北朝鮮は「平和利用も含めウラン濃縮は一切行っていない」と拒否した。これを受けて米国は更に調整に入り、ライス国務長官と宋韓国外交通商相が電話協議し、「高濃縮ウラン」に関する文言を削除することになった、という経過があったようである。この経過のとおりだとすると、合意文書で作業部会が設置されても、第一作業部会では協議が進まないおそれが出てくる。
九・一九共同声明では、「北朝鮮は、すべての核兵器及び既存の核計画を放棄」することになっているが、合意文書では核兵器という言葉は出てこない。核実験場の閉鎖を含めて核兵器の放棄は第三セッションに至る過程で問題になっていたはずだ。第三セッション終了直後の報道ではこの点は不明であったが、その後の報道から次のような交渉が明らかにされている。協議四日目の二月一一日、北朝鮮を除く五カ国が合意文書第一次案を提案し、この中に「高濃縮ウランによる核開発の放棄」と「核兵器と核兵器製造施設の廃止の開始」が含まれていた。北朝鮮が強く反対したため、第二次案ではこの二つの提案が落とされたというものである。この点も今後の作業部会での議論が紛糾する要因である。
三 合意文書は「初期段階の措置」と表題を付けられているが、初期段階の措置にとどまらず、九・一九共同声明の完全な履行に向けた入り口を設けている。
初期段階の措置は、合意文書第一項で「行動対行動の原則に従い、共同声明(九・一九共同声明のこと)を段階的に実施していくために、調整された措置をとる」としたことを具体化したものである。初期段階の措置は今後六〇日以内に実施されることを合意している。初期段階の措置とは以下のものである。
(1) 再処理施設を含むヨンビョンの核施設(再処理施設、建設中の五万キロワット黒鉛減速炉と五〇〇〇キロワット実験用黒鉛減速炉)の稼働停止と封印、IAEAと北朝鮮との合意に従いすべての必要な監視及び検証を行うためIAEA要員の復帰(これらの施設を最終的に放棄することが目的)。
(2) 使用済み核燃料棒から抽出されたプルトニュームを含む、共同声明に明記されたすべての核計画の一覧表について、五者と協議する。
(3) 米朝は、未解決の二国間問題を解決し、完全な外交関係を目指すための二国間協議を開始する。米国は北朝鮮のテロ支援国家指定を解除する作業を開始、北朝鮮に対する対敵国通商法の適用を終了する作業を進める。
(4) 日朝は、平壌宣言に従って、過去の清算、懸案事項解決を基礎として、国交正常化の措置をとるための二国間協議を開始。
(5) 初期段階におけるエネルギー支援の提供につき一致。五万トンの重油相当の緊急エネルギー支援の最初の輸送は、今後六〇日以内に開始。
四 初期段階の措置と九・一九共同声明を比較すると、いくつか重要な点で相違があることに気づかされる。(1)では、共同声明の「核兵器」を落としている。IAEAによる検証が不十分である。共同声明は、NPT(核不拡散条約)とIAEAの保障措置に早期に復帰するとしている。これは、これまでの朝鮮半島核危機に際して、北朝鮮がNPTとIAEA保障措置(検証についての合意)からの脱退宣言をしたためである。復帰をすれば、かなり徹底した検証が可能であるが、(1)では今後の検証について北朝鮮とIAEAが具体的に合意しなければならない。北朝鮮は既に脱退宣言しているという立場を崩していないので、どこまでの検証で合意できるか予断を許さない。共同声明では高濃縮ウランによる核計画を具体的に書き込まなかった。前述した北朝鮮の強い拒否の姿勢から、敢えて曖昧にしたのである。合意文書では、第一作業部会で今後議論されるであろうが、米朝間での大きな対立点となる。ライス国務長官は第三セッション終了直後の記者会見で、ウラン濃縮活動の問題にも取り組むと発言しているように、米国のこの問題での妥協の姿勢は今のところ見えない。高濃縮ウラン問題は、二〇〇二年一〇月以降の第二次朝鮮半島核危機の最大の原因となったものだけに、簡単に米朝の対立は解けないであろう。
(2)についても、「共同声明に記されたすべての核計画の一覧表」がどのようなものか不明である。共同声明では、「すべての核兵器及び既存の核計画」としか書いていない。六〇日以内に北朝鮮が一覧表を提出することが前提になる。しかし、それがすべての一覧表かというと、検証措置がないだけに一覧表自体が対立の要素となる。また合意文書は「一覧表を協議する」とだけ書いてある。むろん「朝鮮半島の早期の非核化」を目的にした協議ではあるが、初期段階の他の措置と比べても何を協議するか曖昧で不十分な内容であることは否めない。
(3)は、今回の合意で北朝鮮が最も評価する点であろう。北朝鮮は米国による敵視政策の放棄を最も強く要求していたからである。共同声明にない部分は「未解決の二国間問題の解決」と「テロ支援国家指定の解除作業の開始と対敵国通商法適用終了を進める」という点である。未解決の二国間問題の中で最大の問題は、金融制裁問題である。ヒル国務次官補は協議終了直後に、金融制裁問題は30日以内に解決するだろうと発言している。合意文書では六〇日以内の実施とされているが、おそらく米朝ベルリン覚書でこのような具体的な合意ができていたのかもしれない。六〇日以内に行われる初期段階の措置の内、金融制裁の一部解除が真っ先に行われるものと思われる。
合意文書では、「解除する作業を開始する」とか「終了する手続きを進める」となっているだけで、何時までに解除し終了させるのか一切言及していない。ブッシュ政権内の強硬派の巻き返しによっては、エンドレスにサボタージュされるおそれがあり、合意文書全体が崩壊しかねない。私が合意文書で最も危惧している部分である。米国には前科があるからだ。九四年一〇月米朝ジュネーブ合意では、公表された合意文書と非公開の秘密覚書(今では秘密ではないが)は、北朝鮮の核関連施設の解体と見返り措置である重油供給及び二基の軽水炉建設に関する詳細なタイムテーブルを合意していた。二〇〇四年には二基の軽水炉が完成していたはずである。ところが米政府は建設を延ばしに延ばして、軽水炉建設を担う朝鮮半島エネルギー機構がブッシュ政権により解体された時点では、まだ基礎工事段階であった。米政府が軽水炉建設をサボタージュしている間に、北朝鮮政府が崩壊することを狙ったという見方まで出た。二月一四日、中日米大使シーファーは「我々は指定解除のためのプロセスを始めるといっただけであり、解除するまでには北朝鮮の動向を検証し、確証を得る必要がある。それまでには長い道のりがある」と発言している。
(4)は、共同声明と全く同じ文章であり、共同声明を実施するための二国間協議開始することを合意した点が前進面である。
(5)は、初期段階履行の期限である六〇日以内に、緊急支援の重油五万トンの輸送を始めるというもので、この期間内に五万トンをすべて北朝鮮へ送るというのではない。合意文書では、初期段階の措置と次の段階の期間中に五万トンを含む一〇〇万トン相当の支援、としている(私の読み方が間違っているかもしれないが)。この点でヒル国務次官補は、「六〇日の最後になる」と発言している。これを報じた中国新聞二/一七記事(共同通信配信)は、北朝鮮は別の解釈をしている可能性があるとして、エネルギー支援の時期を巡り対立が再燃するおそれを指摘している。
米朝間で鋭く対立してきた問題を初期段階以降の措置へ先送りしながらも、初期段階の措置だけでも曖昧な点や対立が予想される内容となっているので、三〇日以内に設置されるはずの五つの作業部会での協議が難航するであろう。
五 合意文書は五つの作業部会設置を決めた。朝鮮半島非核化、米朝国交正常化、日朝国交正常化、経済エネルギー協力、北東アジアの平和及び安定のメカニズムである。この外に、朝鮮戦争を終結させる平和条約締結のための当事者による会議も設置が予定されている(六項)。これらの作業部会や協議の場は、共同声明ですべて合意されていたことを実施するためのものである。合意文書では、作業部会の位置づけを初期段階の措置の履行と共同声明の完全実施のためとしている。合意文書は初期段階の措置について問題を含みながらもかなり具体的に合意しているが、その後の共同声明完全実施の道筋を付けていない。それでも作業部会設置という方法で、初期段階の措置からその後の共同声明完全実施に向けた扉を設けているといえる。作業部会は三〇日以内に開かれるから、まずは初期段階の措置の履行のフォローが議論されるはずである。
次の段階での作業部会の協議は、その行方が全く不透明である。核兵器と核実験場の扱い、高濃縮ウラン核計画の扱い、NPTやIAEA保障措置への復帰、すべての核計画の完全な申告が大きな争点になる。合意文書では、軽水炉建設について何も触れていない。共同声明は「適当な時期に北朝鮮への軽水炉提供問題について議論を行うことに合意する」と書いてある。実は、この問題は第4回協議で最後までもめた問題であった。北朝鮮は核の平和利用の権利を主張し(これ自体正当な要求である)、「既存の核計画」の中に平和利用を含ませるのか鋭く対立した。米国は、二〇〇五年四月NPT再検討会議で、NPT第6条問題(核兵器国の核軍縮義務)はもはや存在しない、問題は非核兵器国の平和利用の陰に隠れた核兵器開発であると強く主張し、NPT第4条の非核兵器国による平和利用の権利を制限する提案をして、再検討会議が紛糾した。第四回協議でも米国は同じ主張をしたのである。そのため共同声明の第四次案まで提案されても合意できず、中断をはさんでやっとまとまった。共同声明はその部分を「北朝鮮は原子力の平和利用の権利を有していると発言した。他の各国は、この発言を尊重する旨述べるとともに、適当な時期に北朝鮮への軽水炉提供問題について議論を行うことに合意した。」と大変曖昧な内容にしている。軽水炉提供を約束したわけでもなく、提供するかしないかを含めて協議する(それもいつから始めるかも不明)とだけ決めたにすぎない。そのため、共同声明採択後、軽水炉提供時期を巡り直ちに米朝で解釈の違いが表面化した。第三セッションまでの動きの中で、軽水炉問題が深刻な問題になったという形跡は、新聞報道からは伺えない。第三セッションでこの問題についてどのような協議がなされたかも不明である。北朝鮮が要求しなかったのかそれとも各国が敢えて避けたのかも不明である。第一作業部会での対立点になる可能性がある。
合意文書は、ある作業部会での作業の進展が他の作業部会での作業の進展に影響を及ぼしてはならない、と原則的に合意した。六カ国がよほど強い意志を持ち続けながら作業部会での作業を進めないと、この原則も実行できないであろう。
すべての作業部会が設置された直後の三月一九日に、第六回六者協議が開かれることが合意された。六者協議が五作業部会の進展を調整し、作業を促進する役目を果たすことになる。さらに合意文書は、初期段階の措置が実施された後に閣僚会議を予定している。六者協議が各国の局長・次官級会議であるが、閣僚会議ではより包括的な北東アジアの安全保障協力の枠組み協議という性格付けである。九・一九共同声明四項で「六カ国は、北東アジア地域の永続的な平和と安定のための共同の努力」を約束したが、それを実行するためである。初期段階の措置が履行されれば、朝鮮半島の非核化をステップにして、北東アジアの安全保障協議の枠組みが構築されるという積極的な展望が開ける。
六 六者協議での日本の立場はどのようなものであったか。合意文書は日朝関係の改善について平壌宣言を出発点としている。平壌宣言は日朝国交正常化交渉と二国間安全保障対話を車の両輪としながら、日朝関係改善を図ることを合意している。日朝国交正常化をゴールとし、それに至る日朝交渉で両国の安全保障、人道、歴史問題などを包括的に解決する道筋を示した。拉致問題は日朝交渉の入り口ではなく、包括的交渉過程で取り組むべき問題の一つという位置づけである。日本が行う無償資金協力、長期借款、人道支援等の経済協力は、国交正常化の後に行うことが合意されている。六者協議参加国の中で日本が行うこの経済協力が、最大の援助額になるとされている。従って、日本は六者協議の参加国の中で最も有効なカードを握っているはずである。ところが安倍内閣は拉致問題解決を最優先課題として、事実上日朝交渉の入り口問題にしたため、日朝交渉も進展せず、六者協議でも蚊帳の外におかれている。しかも拉致問題解決の手段として経済制裁や軍事的圧力までちらつかせている。最後に述べるが、九三年以降の朝鮮半島核危機を巡る三度に亘る危機の高まりとその収束の経験から、北朝鮮との紛争の解決は圧力一本槍ではむしろ危機を高めてしまうこと、経済支援を見返りとした外交交渉でしか解決できないことはいやというほど経験している。安倍内閣が拉致問題解決を最優先課題とし、そのための手段として圧力をかけることしかできないため、本来日本が持っている優位な立場を殺してしまっている。安倍内閣の外交戦略の失敗である。
七 北朝鮮核開発問題では、九三年以降の第一次危機、二〇〇二年一〇月以降の第二次危機、二〇〇六年七月以降の第三次危機というように、私達は嫌というほど同じパターンの危機に直面してきた。その都度北朝鮮脅威論が煽られて、有事法制、日米同盟強化、改憲策動と反動政治遂行の口実とされた。九三年から九四年にかけては、クリントン政権の拡散対抗戦略という安全保障、国防戦略を北朝鮮へ適用し、第二次朝鮮戦争の瀬戸際までに至った。この戦略は、ならず者国家の大量破壊兵器の拡散を米国の安全にとって最大の脅威として、ならず者国家による大量破壊兵器の開発、拡散の疑いがあるだけで先制的な軍事攻撃を容認するものである。ブッシュ政権の国家安全保障戦略とクリントン政権1期の戦略は極めて類似していたのである。この危機は、米朝二国間の高官協議により、九四年一〇月ジュネーブ合意が成立して危機が回避され、急速に米朝関係は好転に向かうことになる。クリントン政権末期には、米朝首脳会議の地ならしのため、オルブライト国務長官が訪朝した。二〇〇二年一〇月北朝鮮による高濃縮ウラン核開発疑惑から、再び危機が高まった。第一次危機をより短期間に再現したのである。しかしこの時も、中国の仲介で二〇〇三年四月三者会談(米朝中)が開かれ、更に同年八月六者協議へと進み危機は回避され、九・一九共同声明に至った。しかし「二・一三合意文書をどう見るか(一)」で詳しく述べたように、米国による突然の金融制裁の結果三度目の緊張が高まり、核爆発実験にまで至った。そこから米朝二国間協議が始まり危機は急速に収束することになる。
このような経験から、朝鮮半島の危機は米朝間の緊張の高まりで起きること、その危機の原因として米国の北朝鮮政策が大きく関与していること、米朝二国間で外交交渉がなければ危機は収束しないこと、特に米国が軍事的対応に出れば、北朝鮮も軍事的危機を高めること、北朝鮮の最大且つ最終的目標が、米朝・日朝間の国交正常化と制裁解除、経済支援の取り付け、それによる金正日体制の存続であることが教訓としてくみ取れるであろう。
安倍内閣は拉致問題最優先政策で日朝問題に取り組んでいるが、六カ国協議が進展すれば、拉致問題最優先政策は必ず破綻するであろう。米国は拉致問題もテロ支援国家指定の理由にしているという。安倍内閣の拉致問題最優先政策は、このような姿勢の米国頼みの面がある。しかし、米国は日本の拉致問題よりも自国の国益を優先することは間違いないことで、米朝関係が進展すれば拉致問題とは切り離してテロ支援国家指定の解除に動くであろう。現に、二月二八日「ニュース二三」で、JNNの独占インタビューに応じたヒル次官補は、拉致問題が解決するまでテロ支援国家指定の解除をしないかとの質問には、否定的な回答をしている。
このような北朝鮮を取り巻く国際関係の中で、日本が憲法の平和主義を外交戦略の柱とすれば、本来、日本が持っている優位な立場を最大限に生かすことができるであろう。拉致問題を口実にした圧力路線や有事法制、改憲などは愚策というほかないであろう。
一 私が被害者の刑事訴訟参加に参加する理由
私は、今国会で提出されている、犯罪被害者の刑事訴訟参加の法案に賛成である。その理由は、二つある。いずれも、私が被害者代理人として、犯罪被害者支援に関わった経験から得たものである。
まず、第一の理由は、被害者は不幸にも犯罪に巻き込まれてしまった存在であり、犯罪の審理にあたって疎外されてよい存在ではないということである。私は、ある凄惨な事件において、被害者代理人として公判を傍聴した際に、被告人が被害者に対し、あまりにも酷い発言をするのを目の当たりにした。私はそのとき、被告人に「どうしてそのようなことを言うのか」と直接尋ねたかった。論告求刑もしたかった。このとき私は、「報復感情」に突き動かされた訳ではない。私を突き動かした思いは、むしろ、「被害者の尊厳を維持したい」という思いであった。
第二の理由は、被害者やその代理人が一定の範囲で「参加」したほうが、よりフェア(公正)で、オープンな(開かれた)刑事訴訟に資すると考えるからである。私は、ある性犯罪の被害者の代理人になった際、弁護人に、必要以上に被害者側を悪く言われたことがある。私が被害者代理人として関与した示談の経緯についても、歪曲された表現をされたこともがある。今までの刑事裁判においては、被害者代理人は一介の傍聴人にしか過ぎないので、何を言われても、その場では何もいえない。このような事態はフェアではない。むしろ、被害者側にも一定の範囲で質問する機会等を与えたほうが、事実に即した裁判が可能なのではないだろうか。極端な言い方かもしれないが、示談の経緯等をめぐって、被告人・刑事弁護人対被害者・被害者代理人がやりあう場面があってもよいのではないだろうか(ただし、法案での被害者等の質問できる範囲は相当に限定されており、被告人等とやりあうことなどできるのかという問題はあるが)。
二 参加に反対する意見について思うこと
各地の会長声明など、被害者の刑事訴訟参加に反対する意見等を読むと、「被害者はいつも感情的に振舞う」という、ステレオタイプの被害者像が根底にあるのではないかと思う。果たして、本当にそうなのだろうか。たしかに、被害者が、被害の場面を思い出して感情的になってしまうという場面はあるだろう。しかし、大抵の被害者は、法廷で質問等をする場合、与えられた機会を少しでも有効に活かす為に、極力、冷静に振舞うであろうと思われる。
また、被害者等による証人への尋問や被告人への質問は、相当に厳しい条件付で認められる。尋問・質問をする場合には、予め検察官に質問・尋問の内容を明らかにし、検察官を通して裁判所に申し出なくてはならないし、裁判所は被告人または弁護人の意見を聴いた上で、必要性と相当性があるときのみ尋問・質問を許可するのである。被害者等が感情にまかせて尋問・質問をすることになろうとは思えない。
それから、各地の会長声明等を見ていて一番気になるのは、裁判員制度の導入とあいまって、厳罰化に繋がりかねないという旨の表現である。裁判員制度の導入に反対している方たちがこのように言うのはまだ分かる。裁判員制度の導入に賛成している方たちがこのようなことを言うのは、矛盾しているのではないか。裁判員は、被害者等が何かを言うたびに同情してすぐに刑を重くしてしまうほど愚かなのか。だとしたら、裁判員制度そのものに重大な問題があるということではないだろうか。裁判員制度導入に賛成するのであれば、もっと裁判員を信頼してはどうかと思う。
三 もっと活発な議論を
とはいえ、私も、団の意見書を読み、犯人性について争いがある事件について安易に被害者等の質問等を認めるべきではないということ等はよく分かった。その他、被害者の刑事訴訟参加については様々な論点があり、議論を尽くすことが必要である。それゆえ、私は参加に賛成ではあるが、絶対に今国会で法案を成立させるべきであるとは考えてはいない。
考えてみると、今回の法案に反対の方たちの中でも、どの程度、被害者の刑事訴訟への参加を認めるのかについては、意見が分かれるのではないかと思う。現行法が認めている被害者の意見陳述等にも反対する意見もあれば、それは良しとする意見もあるであろうし、それを良しとする意見の中にも、現行法以上の参加をまったく認めない意見と、一定程度であれば認めてもよいという意見もあるであろう。考えれば考えるほど、深い問題である。
また、できれば、弁護士間だけではなく、国民・市民にも分かりやすい議論が必要ではないかと思う。私が、法曹関係者ではない知人に、刑事訴訟参加の問題について意見を求めたところ、「既に参加はなされていると思っていた」という答えが返ってきた。刑事訴訟そのものが、まだまだ分かりにくいのだと思う。
そのためにも、まずは、弁護士間で、活発な議論がなされることを願っている。
子ども・学校(学校教育法等)・教師個人(教員免許法等)、教育委員会(地教行法)のそれぞれに対する国家統制を実現する法案「国家教育統制法」(いわゆる教育三法案)が成立されようとしています。様々な場面で改憲に反対する二大勢力である公務員と教育者への攻撃はすすみ、特に教育では、国家にとって都合の良い子どもを作り上げる制度がつくりあげられようとしています。その制度のトップバッターがこの「国家教育統制法」とでもいうべき教育3法案なのです。
そこで、この法案を阻止すべく、国会議員要請を行います。
是非一人でも多くの団員の参加をお願いします。
日時 二〇〇七年五月三一日 午前一〇時三〇分から
場所 衆議院第一議員会館 第二会議室
(その後、直ちに団本部に戻り、一二時三〇分から二時まで教育問題対策委員会を開催します。こちらも是非ご参加を)