<<目次へ 団通信1246号(8月21日)
中島 嘉尚 | 大日岳雪崩遭難死亡事故国家賠償事件 全面勝利和解解決の報告 |
宮尾 耕二 | 改憲阻止運動の新たな発展をめざして ―奈良憲法討論集会の感想― |
名取 孝浩 | 若者が護憲運動に参加しない理由の一考察 |
長澤 彰 | 新体制で始動する改憲阻止対策本部について |
井上 正信 | ヒロシマ判決を核兵器廃絶のためにどう生かすか |
吉原 稔 | 環境、住民訴訟でも弁護士が飯を食えるためのKnow-Howと提言 |
笹本 潤 | 書籍「5大陸20人が語り尽くす憲法9条」 〜DVD「RAINBOW WORLD」〜のおすすめ |
石川 元也 | 福岡支部、永尾廣久団員の「清冽の炎」(第1巻〜第3巻)のすすめ |
鷲見 賢 一 郎 | ワーキングプアと非正規雇用 |
長野県支部 中 島 嘉 尚
1、大日岳雪崩遭難死亡事故とは、文部省(当時)の登山研修所が、二〇〇〇年三月五日、富山県大日岳において実施した、大学山岳部リーダー研修会において、同研修所の講師が、登山ルートの選定を誤り、雪庇(雪庇とは、単なる庇状のもののみならず、稜線より風下側にできる雪の吹きだまり状のものも含み、時に大きなものに発展し、稜線を見誤らせる原因となる。そのような吹きだまりに入れば雪庇が崩壊する危険性がある。国は、当時は四〇メートルの規模の吹きだまりができていたために、そのような規模の吹きだまりを予見できなかったと主張)に受講生らを進入せしめ、その結果雪庇が崩壊し、転落した受講生のうち、二名の大学生(神奈川県在住と、兵庫県在住)が雪庇崩壊により発生した雪崩に巻き込まれ死亡した事故です。
2、第一審判決、富山地方裁判所は、講師のルート選択に過失があったことを認め、被告国に対し、原告らに損害賠償を命じる全面勝訴の判決を言い渡しました。(提訴の日、二〇〇二年三月五日、一審判決の日、二〇〇六年四月二六日)。国は控訴手続きを取り、名古屋高裁金沢支部に係属しましたが、準備手続きを経た後、第一回の口頭弁論手続きで結審となり、同時に職権和解勧告がなされました。当方は、第一審判決に従うことを前提条件として和解手続きに応じました。和解手続きでは、命の値段を削ることは絶対に許さないこと、これに安全対策と謝罪を求めました。高裁の対応については、遺族原告側の立場を理解のうえ、丁寧に配慮をしてくれたと高く評価しています。それは、和解に至った事情を、和解条項中に前文という形で明確にしたところにもあらわれています。例えば、その一部を援用すると、「本件事故と同種の事故が再び発生することのないように、十分な安全対策を検討した上で、本件事故を教訓として、若い世代に山の文化を発展させて行くことが可能となるように、当事者双方に対し、和解による解決を勧告し、これを受けて、当事者は、本件を和解により解決することに合意した」、と裁判所の姿勢が明示されていることからもみてとれます。このようにして、二〇〇七年七月二六日、名古屋高等裁判所金沢支部において、国を相手取った大日岳雪崩遭難死亡事故国家賠償訴訟は、全面勝利和解というかたちで終結しました。以下和解内容の要旨を述べます。
(1) 国は、損害賠償については富山地方裁判所の判決の結論部分に全て従い遅延損害金の全額を含めて支払う。
(2) 今後の安全対策については、文部科学省において、本件訴訟において明らかとなった本件事故に関する事実関係を踏まえ、本件事故を教訓として、幅広い有識者により構成される安全検討会(仮称)を設け、遺族原告らの傍聴を含めた公開のもとに、遺族原告らや国民から広く意見を求め、これを十分考慮のうえ検討する。
(3) また、上記和解手続きに付随して、和解本文には入れませんでしたが、お詫びに関し、文部科学省当局の書面による約束を得ました。その内容は、文部科学省のスポーツ青年局長と生涯スポーツ課長が、それぞれの遺族原告宅に出向いて、死亡した二人の学生の遺影と遺族に対して、これまでの対応も含めてお詫びをする、という内容です。
3、私は、かつて長野県山岳総合センター(県の組織)が主催した、研修登山において、受講生が雪崩に巻き込まれて死亡した事件について、講師の判断ミスを理由として、長野県を相手取り、長野地方裁判所松本支部に国家賠償請求訴訟を起こしたことがありました。結局、一九九九年一一月二二日、長野地方裁判所松本支部は、遺族原告の請求を認める全面勝訴判決を出しました。この事件は県が控訴することがなかったので、一審判決がそのまま確定しました。私は、この事件を教訓とし、国などの研修では安全対策が取られているものとばかり思っていました(このときの裁判では、文部省登山研修所の専門職員(大日岳死亡事故のときの研修所長)が、県側の立場に立って専門家証人として出廷していたのであるから、この判決は知っているはず)。しかし、大日岳の事故を遺族原告から知らされたときに、愕然とした思いがありました。教訓が全く生かされていなかったからです。従って、本件について裁判所から和解を勧告された以上は、賠償はいうまでもなく、安全対策と遺族に対する謝罪を和解に取り入れさせたいと考えました。勿論、遺族原告たちの考え方も全く同じでした。
4、この裁判は、原告が神奈川県と兵庫県、弁護団は全員長野県(一〇名)、裁判所は富山県と石川県(高裁)と実に蛸足のようなもので、長丁場になる裁判をどのように団結して維持してゆくことができるかが最大の課題でした。しかし、「究明する会」や「国民救援会」など(神奈川・兵庫・富山・石川・長野・そのほか全国の支援者)の多くの力強い支援(裁判所への提出署名数は三〇万筆を超えた)に支えられ、全面勝利和解にこぎつけることができました。本当に頭の下がる思いです。
5、またこの和解内容は、全額の賠償・国の安全対策・お詫び、と必要な内容が全て盛り込まれているものであり、国の和解対応としては、画期的なものではないかと考えています。この和解が、国や地方自治体を相手にした他の国賠訴訟によい影響を及ぼしてほしい、と願っております。
奈良支部 宮 尾 耕 二
冒頭に、酷暑の中、しかも参議院選挙当日という日程にもかかわらず、全国から約一〇〇名の団員にお集まりいただき、活発な討論をくりひろげていただいたことに御礼申し上げます。
さて、今回の集会の感想ですが、数年前の熱海合宿と比べると大きな前進があったと思います。
私自身、九条の会、改憲手続法反対、あるいは各地の弁護士会を通じての取り組みなど、様々な実践を経てきた上での皆様の発言に、いたく刺激を受けさせていただきました。集会当日に、安倍改憲内閣が歴史的大敗を喫しましたが、その要因の一つがこれらの実践の積み重ねであったことは間違いないと思います。あらためて、全国の団員の皆様の活動に敬意を表させていただく次第です。
しかし、一方で、若い人たち(あるいは労働者全般)に、いかに憲法問題に関心を持ってもらうかという長期的・戦略的課題が存在し、その解決の方向性が明確になっていない…という現状も浮き彫りになったと思います。「憲法を読んだことすらない人が四〇%もいる。まして憲法が権力を制限するものだと理解している人はほとんどいない」との指摘がありましたが、この現状をいかに克服するか…五年後、一〇年後を見据えたとき、避けては通れない問題だと思います。
ただ、この問題の解決のヒントとなるキーワードもいくつかあったと思います。例えば、「格差・貧困問題」「靖国派の問題」「世代の経験に即した運動」「軍事にかわるオルタナティブの提起」等々の言葉は、従来と質・量ともに違う運動のありかたを構想する上で貴重な視点であったと思います。
私自身も、いささか挑発的な発言をさせていただきましたが、発言内容の未熟さについては、運動の発展を願ってこそのものとご容赦いただきたく存じます。私の活動の拠点は主として弁護士会ですが、京都の近藤団員からの「弁護士が学習会を組織する」という活動を、自らのポジションの中で実践してゆきたいと考えております。
最後に、本集会の開催にご尽力いただいた関係者各位の皆様、本当にお疲れ様でした。
東京支部 名 取 孝 浩
先日、団の改憲阻止討論集会でも問題になりましたが、護憲運動をより広げ、国民全体の力としていくためには、若者たちにどのように訴え、どのように運動に参加させていくかということが重要です。しかしながら、護憲という考えに親和性がある若者でも、実際に運動に参加してくる若者は決して多くありません。
本稿はあくまで「運動に参加してきていいはずの若者がどうして参加しないのか」という観点から、約一年前にとある九条の会の会合で配布したものです。レジュメなので非常にさらっと書いてありますし不備もありますが、それだけに余計なことを全然書いていませんので、運動を作る参考にはなるのかなと思います。
一点レジュメに補足したいことは、若者は、活動だけではなく意見についても押しつけを嫌う、ということがあります。若者たちは日々悩み考えますから、しばしば意見自体も流動します。また、古い考え方を押しつけられたくないということもあると思います。ですから、絶対的に戦力不保持、自衛隊は一切認めない、という人しかいられない集団だと、若者は参加しませんし(ひどいときは一種の新興宗教と思われます)、そもそも参加できないのです。
これとは別に、護憲運動に対して中立の立場の若者にどう訴えるかの問題があるのですが、別の機会に出すことに致します。
東京支部 長 澤 彰
参議院選挙の結果
七月二九日投開票で行われた参議員選挙において、暴走する安倍自公政権に対する国民の批判が噴出し、大敗北を喫しました。安倍首相は、「戦後レジュームからの脱却」を、マニュフェストの第一に「憲法改正」を掲げ、「私を選ぶか、小沢さんを選ぶか」と政権選択を国民に迫りました。しかし、国民は、年金問題、「政治とカネ」、閣僚の不祥事、住民税の大増税などで、政権に対する不満を抱えていただけでなく、小泉政権から継承した新自由主義、規制緩和・構造改革路線による格差拡大・貧困増大に対する本質的な不安と、改憲を押進める保守派勢力の危険性を、敏感に感じ取った結果であったと思われます。
選挙後の状況
安倍自公政権の敗北後の世論調査では、内閣支持率が軒並み二〇%台に急落し、不支持率が六〇%台に増大しました。これは、森政権末期に匹敵するものです。安倍首相が設置した集団的自衛権を研究する有識者懇談会は、今秋にも行使容認を提言する方向ですが、参議院の与野党逆転により、自衛隊法改正など必要な法改正が厳しくなりました。臨時国会での憲法審査会の実質的立ち上げが先送りになりました。定数や議決要件を定める「審査会規程」の制定に野党が応じなかったためです。一一月に期限が切れるテロ特措法にたいして、民主党小沢代表は、反対の意思を表明し、参議院で否決される可能性が高まりました。八月七日の朝日新聞は、「参院 『改憲派』、三分の二を割る 三年後の発議に壁」と報道しました。「(二〇〇三年以降)改憲賛成派が憲法改正の発議に必要な三分の二を割り込んだのは初めて」「最大の焦点である九条改正については、当選者の二六%が賛成で、反対は五四%。新勢力でも賛成三一%、反対五〇%」。この間の、改憲阻止の運動が当選者の意識に大きく影響を及ぼした結果だと思われます。
改憲阻止討論奈良集会―新体制の確立と当面の課題
七月二九日〜三〇日、奈良で行われた討論集会は、大盛況でした。第一日の参加者は九五名(発言者三一名)、第二日の参加者七九名(発言者二二名)でした。多彩なテーマで討論が行われ、貴重な発言が多数出され、討論記録集を発行する意見が寄せられました。若手の参加をどう進めるかについては、各地でのミュージカルの経験交流などが行われ、団がいつから文化集団になったのかと思われるほどでした。
この集会で、新体制が確認されました。本部長には、松井繁明団長を選出し、副本部長には、北海道、仙台、長野、岐阜、愛知、大阪、京都、奈良、広島、福岡、沖縄、東京などから選出することを確認しました。事務局長には長澤彰を、他に担当事務次長、担当事務局次長の体制を確認しました。
前任の坂本修本部長、松島暁事務局長の退任を確認しました。長年のご苦労に敬意を評する次第です。
新体制で始動する改憲阻止対策本部は、当面、九月六日(午後六時三〇分〜)、一〇月九日(午後六時三〇分〜)、団本部事務所にて開催しますので、多数のご参加をお願いします。
改憲阻止対策本部の当面のテーマは、(1)憲法審査会の憲法調査、(2)改憲手続法の具体化、(3)集団的自衛権の検討などがあります。奈良集会の討論を踏まえて、さらに、議論を尽くすつもりです。
「九条反対」の世論を恒常的に過半数獲得するために全国各地からのさらなる運動を呼びかけます。
広島支部 井 上 正 信
1、この判決は、広島・長崎の被爆が、核兵器を戦争手段として使う場合の人類の普遍的体験、攻撃目標の選定から原爆投下とその被害という体験を示している。何が普遍的かと言えば、核兵器使用のための標的化(ターゲッティング)政策と核兵器使用プロセス、使用した結果(被害)は、現代の核兵器使用計画と基本的な点が同じ(現代はよりシステマティックで洗練されたものだが)だからである。その体験から生まれたヒロシマ判決をどのように生かすべきなのか、問題提起をする。
2、少し想像力を働かせれば理解できることだが、六〇年前広島・長崎への核攻撃が戦争犯罪として裁かれていれば、その後の核兵器の開発、保有、配備と核兵器を安全保障政策の中心的手段とする核抑止政策はなかったであろう。米国は現在でも戦争手段の中心に核兵器を置き、通常兵器との敷居を低くし、より使いやすい核兵器開発を意図し、東西冷戦時代以上に核兵器が使用される危険性が高まっている。
3、核兵器を廃絶するためには国際条約の締結が必要である。化学兵器禁止条約がその適切な先例となる。すでに国際反核法律家協会が作ったモデル核兵器条約案が存在し、国連文書となっている。
条約化には何が必要であろうか。核兵器が国際法違反であること、その使用が戦争犯罪であることへの法的確信である。
法的確信に基づく世界市民の連帯した運動は国際法を作るという経験が、対人地雷禁止条約(オタワプロセス)と現在進められているクラスター爆弾禁止条約を求める国際会議(オスロプロセス)である。
すでに、核兵器の使用・威嚇が国際法に違反するとの権威ある国際司法裁判所の勧告的意見が存在する。勧告的意見は、核兵器の使用・威嚇が一般的に国際法に違反するというものである。しかし、勧告的意見は核兵器そのものが違法である、核抑止政策が違法であるとは言及しなかった。その理由は、現代国際社会で、核兵器保有国が国連安保理常任理事国となり、核抑止政策を公然と国家安全保障政策として採用しているからである。また日本など一部の非核兵器国は、自らの安全を核兵器国の抑止力へ依存する「核の傘」依存政策を採用しているからである。その結果、核兵器の使用が戦争犯罪であるという法的確信は未だ確立してはいない。
戦争犯罪を裁くための常設の国際刑事裁判所を設置するローマ条約(98年採択)でも、化学兵器の使用は通常の戦争犯罪として規定されているが、核兵器については規定されていないこともこのことを示していると思われる。
日本においても、昨年一〇月北朝鮮による核爆発実験の際、政府高官が日本も核兵器を保有すべきであると発言したが、その際にも、非核三原則に反するという視点からの批判はあっても、彼が戦争犯罪をそそのかしているのだという批判はされなかった。もし彼が化学兵器を保有すべきだと発言したら、あまりの非常識さに、彼は気でも狂ったのではないかと見られたであろう。
ヒロシマ判決は、原爆投下に関わった者達が戦争犯罪を犯し、有罪であると断罪した。その内容は、国際法の専門家が、証拠に基づいて広島・長崎への原爆投下に至る過程を認定し、認定した事実を第二次世界大戦当時の国際法を厳格に適用した結果であり、論旨は極めて明快である。ヒロシマ判決は、核兵器の使用が戦争犯罪であるという法的確信を諸国市民が共有するに至る基礎となるであろう。
4、私たち日本人として何をすべきであろうか。
日本政府の核政策を変更させることである。これは私たちの固有の責任である。
ここで日本政府の核政策を見ておこう。日本は憲法九条の平和主義の下で長く専守防衛政策を採り、個別自衛権についても必要最小限度にとどめるという憲法解釈をとってきた。過去形で述べた意味は、これらの政策がすでに大きく変更されつつあるからである。核兵器は自衛のための必要最小限度のものであれば保有ができるし、核兵器の使用もできるという解釈をとっている。しかしながら他方で広島・長崎の被爆体験を踏まえた国民世論を配慮して、非核三原則を採用している。安全保障政策としては、核兵器の脅威に対しては米国の核抑止力に依存するというものである。このことから、日本政府の核政策は、核兵器を安全保障の重要な手段としていることが理解されるであろう。日本政府は核兵器の使用・威嚇が国際法に違反し、核兵器の使用が戦争犯罪であるという認識は持ち合わせていないのである。更に重大なことは、日本政府は戦争に備えるための国民保護計画の中で核攻撃を想定し、国民へ「風下を避け、雨合羽を着て口と鼻をタオルで覆って逃げろ」と指導していることである。これでは、戦争になれば核攻撃はやむをえないという考えを国民へ植え付けることになり、核兵器の使用が戦争犯罪であるという法的確信が、国民の中へ広まることを妨げることになるであろう。日本政府は、広島・長崎の被爆体験から何らの教訓も学んでいないのである。日本政府のこの政策を多くの日本人が、ほとんど違和感もなく支持している。私はこのことにむしろ強い違和感を感じている。
核抑止力に依存する政策とは、日本の防衛のために核兵器を保有し、そのためのターゲッティング政策を米国へ要求することに他ならない。言い換えれば、米国が北朝鮮や中国に対して先制核使用政策を放棄したり、消極的安全保障を誓約することは、「核の傘」の信頼性を損なうとして反対することになる。現にクリントン大統領が中国を訪問する際に、中国側から核兵器先制使用政策をお互いに放棄する提案がなされたが、米国はそれを拒否し、核兵器の照準をはずすという合意にとどまった。クリントンが拒否した理由の一つが、日本に対する「核の傘」の信頼性が損なわれるということであった。北朝鮮の核開発を巡る六者協議では、北朝鮮は米国に対して消極的安全保障の誓約を求めるかもしれないが、その場合日本政府が六者協議合意への障害になるおそれが懸念される。
日本政府は、国際社会に向かっては唯一の被爆国を自称しながら核兵器廃絶(究極的廃絶論)を主張するが、これでは二枚舌と言うほかない。
辞任した久間前防衛大臣は、長崎への原爆投下は仕方がなかったと発言したが、これは彼個人の本音や失言ではなく、日本政府の採っている核政策の本音である。自らの安全のため、米国が他国に対して核攻撃することを要請するという核の傘政策であるから、広島・長崎への原爆攻撃を戦争犯罪行為であるなどとどうして批判できるであろうか。辞任した久間前防衛大臣の後任である小池百合子大臣は、原爆は人類への挑戦であり人道的に認められない、と発言した。日本の防衛政策を主管する防衛大臣として、米国の核抑止力に依存する防衛政策と自らの発言とが鋭く矛盾することを、小池大臣はどこまで自覚しているのであろうか。
日本政府にこの様な国内政策、外交政策を可能にさせているのは、他ならない私たちである。広島・長崎の被爆体験を共有して、核兵器廃絶を求めながら、他方で米国の核の傘に依存する政策を支持するという、日本人の核兵器に対する曖昧な姿勢は、広島・長崎の被爆体験の意義を損なうものである。核兵器廃絶を求める世論が強いことは認めるが、それが現実の政治過程や日本政府の政策を批判することとは結びついていないという非政治性を問い直さなければならない。核兵器廃絶を求めることは、現実の政治過程をその基準から批判し、日本政府の政策の変更(日米安保体制の見直しを含め)を迫る政治性の強い運動なのである。今日までの二週間の間に起こった出来事は、ヒロシマ判決の意義を際だたせるものなのである。
憲法改正問題の中心が第九条平和主義であることは異論がないであろう。九条2項を廃止し、自衛隊を自衛軍として集団自衛権行使を容認し、日本の国益と安全保障のために自衛軍を海外へ積極的に派遣するという内容である。核抑止力を背景にして外交政策推進のため、自衛軍を有効に活用しようとする改憲には、核兵器廃絶を求める以上強く反対しなければならないであろう。
核抑止政策は核兵器使用計画を必ず含むものである。現在の米国の核政策は、大量破壊兵器で武装したテロリスト集団に対して、或いは国際テロ集団に対して大量破壊兵器を拡散する「ならず者国家」に対しては、脅威が現実化する前でも、核兵器を含む軍事力により先制的に攻撃するというものである。従って、核抑止政策はヒロシマ判決によれば、戦争犯罪の謀議と評価されうる。日本政府の「核抑止力依存政策」は、戦争犯罪の謀議へ加担するものである。
ヒロシマ判決を私たちの法的確信にしなければならない。ヒロシマ判決が示した基準に基づいて、日本政府の政策を批判し変更させることは、私たちの重大な責任である。
5、ヒロシマ判決は、過去の原爆投下行為を裁いただけではない。未来につながる重要な勧告を行っている。
この勧告は、核兵器が国際法に違反し、原爆投下が戦争犯罪であるとの判決を踏まえて、米国に対して核兵器廃絶と被爆者への謝罪と補償、核兵器が国際法違反であることを国内外に宣言し、モニュメントに残し、教育により語り伝えるという趣旨である。
この勧告には強い道義的正当性はあるが、法的拘束力はない。現在被爆者団体と日本反核法律家協会とが、原爆投下による被爆者の受けた損害の賠償を合衆国政府に求める法的手続きを検討しているが、これとても極めて困難な途である。
核兵器を廃絶するには、各国政府の強い政治的意志決定が必要である。それを形成するものは、核兵器使用がいかに残虐な戦争犯罪であるかという認識の共有である。ヒロシマ判決の勧告を合衆国政府に受け入れさせる運動はこの認識の共有を拡大するであろう。
レノックス・ハインズ裁判長が、昨年この場所で開かれた法廷で最後に述べた発言を引用する。
「二〇〇六年七月一六日のこの判決は、世界に大きな反響を巻き起こすものだと思います。これは核兵器の廃絶を求める大きな巨大な台風になってくれることを願っております。」
注 この原稿は、本年七月一六日広島で開かれた「原爆投下を裁く国際民衆法廷・広島」の一周年を記念したシンポジュウムでの私の発言です。昨年七月一六、一七日「原爆投下を裁く国際民衆法廷・広島」が開かれ、原爆投下に関わった当時の米国大統領以下の政府高官、軍人、科学者に対して戦争犯罪として告発し、当時の公文書などから詳細に事実認定した上で、人道に対する罪・通例の戦争犯罪として有罪を宣告しました。裁判官はコスタリカのガルバス教授、米国のハインズ教授、日本の家教授で、私は検事団の一員として加わりました。詳しい情報はhttp://www.abomb-hiroshima-tribunal.com/へアクセスしてください。判決文も日・英でダウンロードできます。
滋賀支部 吉 原 稔
1、旧志賀町(現大津市)の町長が、ゴルフ場造成業者と癒着して、滞納していた多額の特別土地保有税を徴収せずに、業者の懐に入れさせ、徴税を怠ったことについて、町長らに対し損害賠償を求めていた事件で、大阪高裁第一民事部(横田勝年裁判長)は、六月二九日に控訴を棄却し、一審大津地裁判決が確定した。
この事件は、ゴルフ場予定地として買収した土地を、志賀町と滋賀県に廃棄物最終処分場として業者が売却したが、(1)志賀町が買収したときに、滞納町税を一億円しか徴収しなかったこと、(2)滋賀県が買収したときに、志賀町が一筆の差押を解除して、他の土地に差押を付け替える(金の卵をアヒルの卵に替えた)ことによって、税金徴収の機会を失ったこと、(3)業者はその後倒産し、逃亡したため「税金の取り逃し」により町に損害を与えたとして、住民訴訟を提起した。
この事件の争点の一つは、損害の発生及びその額である。被告は、他の多数の土地の差押をしているから、回収の余地が十分あると主張したが、嘉田知事の登場で、強い反対運動があった県の最終処分場計画が凍結され、高裁判決は、「土地が高額で志賀町や滋賀県に売却されたのは、廃棄物最終処分場としての利用が見込まれたことによるが、今後このような土地の需要が見込まれる見込みはほとんどない」として、「絵に描いた餅に過ぎない」と一蹴した。
また、税の徴収権が時効消滅していない段階での損害を認めた。
ゴルフ場乱開発が、バブル崩壊し、不良資産と化した中で、「公用買収」という絶好の機会を町長と業者が共謀して、税金を取らずに売買代金を業者の懐に入れさせることを画策した事案であった。
この事件は、私も参加したゴルフ場反対、産廃処分場反対、知事選挙と続いた住民運動から生まれた勝利である。
2、裁判所は、元利込みで五八〇〇万円の支払いを命じたが、これを早期に元町長らから大津市に支払わせると共に、原告の負担する「相応の弁護士費用」を早期に確保すること、それによって「環境公害問題でも弁護士が飯が食える」ことを追及することになる。
そのためのノウハウとして、眺望・景観等で高層マンション建築禁止の仮処分をするときに、主張書面で、「仮処分が却下されても、本訴で建物撤去、損害賠償を請求する。所有権が会社から買主に移転すれば、買主への訴訟引き受けの申立をする」と書いておく。訴訟継続は売買契約の重要事項説明書の記載事項である。国立マンション事件の東京高裁平成一六年一〇月二七日判決は、裁判所が業者がマンション住民への訴訟引受を認めた事例である。これは、業者にとって最大のウィークポイントであるので、金銭和解に追い込まれることになる。
私は、浜大津の琵琶湖比叡山の眺望阻害の高層マンション建築事件で、最後にこれを強調して、相当額の和解が成立した。ただし、売り出し時期等のタイミングが重要である。
また、私の担当した、隣地所有者がびわこの不法占用物件の除去を求める義務付け訴訟で、訴訟中にあわてて被告の県が八、〇〇〇万円をかけて行政代執行までして、完全撤去した事件で、主文は、「訴え却下。訴訟費用は原告の負担」であった。
依頼者は、「主文では敗訴だ」といって報酬を出し渋ったが(結局はもらったが)、成功しているのに形の上では敗訴では、報酬ももらいにくいし、マスコミにも説明しにくい。朝日訴訟大法廷判決は「上告人の死亡により終了した」としたように、主文は「目的到達により終了した」という、終了宣言にすべきだ。
これは、環境問題で、弁護士が飯を食えるためのknow-howと提言である。
東京支部 笹 本 潤
このたび、かもがわ出版から書籍「5大陸20人が語り尽くす憲法9条」(グローバル9条キャンペーン編)が出版された。この本は、世界の様々な地域から日本の憲法九条がどのように見られているかを、二〇本以上の小論文で示したものである。
・・・アメリカからはベトナム戦争を経験したアレンネルソンさんが、日本が戦争を知らないことの尊さを唱い、えひめ丸事件のピーターアーリンダー弁護士は、日本が九条を改定したら軍産複合体が支配する国家になると警告する。
スイスでは、日本の九条を念頭に軍隊廃絶の国民投票運動が起こり、コスタリカからは軍隊のない国の基本が教育にあると説く。フランスの弁護士からはNATOの軍事化の危険が発せられ、アフリカからは武器のない世界のために日本の九条が必要だと言われる。
韓国からは、九条や平和的生存権を目標にした運動が始まり、オーストラリアからは軍事同盟のジレンマかを押さえているのが九条だと言われる。
・・・このように地域により、大陸により、日本の九条に対するとらえ方は様々である。そしてそれが九条の持つ豊富な内容を表しているとも言える。私たちがこれから九条を様々な場面で語っていく際の要素が網羅されているのである。それが海外の人によってである。
これは何を意味するのだろうか。九条の持っている様々な要素が国際的にも普遍性を有するからだと思う。九条は文言は、戦争の放棄と軍隊の廃絶を意味するが、それ以外にも、現実的な役割としては海外での武力行使を抑制したり、軍事費の伸びを抑えたり、非核三原則・武器輸出禁止三原則の源になる機能を発揮している。日本で実現されているこれらの機能に着目している海外の人は確かにいるし、それらをもっと全面に出して訴えたらいいと忠告してくれる海外の人もいる。
DVD「RAINBOW WORLD」は二〇分のインタビュービデオである。グローバル9条キャンペーンを世界に展開していく中で、出会った人たちの日本の9条に対するインタビューをまとめたものだ。集会の前座としても好評であるが、なによりも私たちがこれらの言葉をどう受け止めるのか、というところから出発して考えるきっかけにしたい。
これらのグッズを読んだり、見たりすると、日本が9条を持ち、それだからこそ世界に発信して役立てていけることがあるのかと思う。「9条の運動を世界の運動にしてほしい」(DVDより)というアフリカの人の発言がそれを表している。
そしてこれらの「平和を愛する諸国民」の人たちと連帯して行けたら、文字通りの九条を実現していく方向性が見えてくるのではないか。そのような憲法前文に書かれた安全保障のあり方が実感できる本やDVDである。是非とも一度ご覧いただき、普及していただけたらと思う。来年の五月四日〜六日には憲法九条世界会議が開かれ、これらに出ている人が来日する。内容が具体的に決まったら、またお知らせします。
申込先 書籍 かもがわ出版(定価一九九五円税込)
・一〇冊以上の場合及びDVDの申し込みは、ピースボート内「憲法9条世界会議」事務局まで
電話〇三ー三三六三ー七五六一、FAX〇三ー三三六三ー七五六二
大阪支部 石 川 元 也
本業は著述業と自任する福岡支部、永尾廣久さん(ペンネーム神水理一郎)の力作・「清冽の炎」(第3巻)が、この七月、花伝社から刊行された(第1、2,3巻とも、各一八〇〇円)。
ところが、ちっとも売れない、第6巻までを予定しているのだが、これでは刊行できるかどうか、著者も出版社も悲鳴を上げているという。そこで、応援を買って出て、皆さんに是非購入してほしいとお願いする次第である。
この本の舞台は、一九六八年から六九年にかけての「東大闘争」。この一年間を、四月〜六月を第1巻(二〇〇五年一一月刊)、七月〜九月を第2巻(二〇〇六年一一月刊)、そして今度の第3巻が、一〇月〜一一月を描いているのである。
著者は、このあと、六九年三月までを、例の安田講堂封鎖解除事件を含め、第4巻、第5巻にまとめ、そして、主人公の学生たちの二〇年後、三〇年後の生き方を、第6巻に書くつもりだという。
この本は、六八年四月、一浪して入学し、駒場寮社会研部室(六人部屋)に入室し、すすめられてセツルメント活動に参加した学生を中心に、同室の二年生(裁判官志望、著者の投影か)など、寮の仲間、セツラーたち、そして、教室や自治会での論議、さらにはゲバやバリケード封鎖との闘いなど、激動の中でその日その日を生き、人生を模索し、将来展望を語り合う学生たちを描いている。この本は、駒場、本郷,北町(セツル)など各場面ごとにその一日ごとに、同時進行的に、克明に追いかけている。
第3巻の帯には、「山場を迎えた東大紛争 安田講堂前の大集会」とある。機動隊導入を決めた大河内総長に反発して、全学部で無期限ストに突入し、ついには総長以下の総退陣、加藤一郎総長代行の登場という場面に至るのである。大学当局、自民党本部、文部省の動き、そして、全共闘の結成とゲバ戦術の暴走と、民主派のたたかいなど、まさしく山場を迎えている。
ただ、私の注文でいうと、小説と銘うってはいても東大闘争を舞台にする以上、その大枠、客観的事実は踏襲しているのだろう。そうだとすると、一九六八年初頭の医学部の学生らに対する不適切な処分に反対する医学部の闘いから、全学部の闘いに発展した経緯、そして全国的な情勢の中で全共闘の結成とそのヘゲモニーの下に展開され、安田講堂事件にいたり、その後の入試の中止など、東大闘争の主な出来事を、時系列的に記した「しおり」でもつくって間に挟んでくれると読みやすいのでないかと思う。
つまり、当事者の学生たちは、その渦中にあって、この闘いがどう進展していくか分からないまま、悩みもがきながらたたかったのであるが、それがその後の展開の中で、どう検証されていくか、わかりやすいのではないかと思うのである。
ところで、東大闘争とわが団の関係についていうと、丁度この第3巻の時期に当たると思うが、六八年一一月頃の団常幹の日、団員たちが、東大赤門から入り、教育学部付近でがんばっている民主派の学生たちを激励に行ったことがある。
また、この年(六九年三月)、法学部の卒業認定がなく、三ヶ月遅れて卒業する。最高裁、司法研修所は、東大生の研修所入所を七月に受け入れ、二三期生として扱うという特例をもうけた。日弁連は、七月一二日、臨時総会を開催して、特別採用反対の決議をした。
永尾さんは、二六期司法修習生となり、現在に至っている。本の中の人物との連続性は当然の事ながらよくわかる。そのほかの多くの登場人物たちの二〇年後、三〇年後、現在の生き方には、一番関心があるのだが、それは第6巻のお楽しみだという。
大変な力作、敢闘賞ものとおすすめする次第である。注文は、不知火合同法律事務所宛に。
不知火合同法律事務所 FAX 〇九四四・五二・六一四四
東京支部 鷲 見 賢 一 郎
一 貧困と格差のひろがり
トヨタのまご会社光洋シーリングテクノの偽装請負労働者の年収は、残業をしなければ二〇〇万円弱、残業をしても二〇〇万円台でした。これに対して、同じ仕事をしていても、正規労働者の年収は五〇〇万円台です。全国一一二五万人のパート・アルバイト労働者、三〇〇〜四〇〇万人の派遣・請負労働者は、その圧倒的多数が多くても年収二〇〇万円台です。一時金も退職金もなく、しかも二か月、三か月の有期雇用でいつクビになるかわからない、これでは将来設計などとてもたちません。
「正社員の平均年収三八七万円に対し、フリーターの平均年収は一〇六万円。生涯賃金は正社員二億一五〇〇万円に対し、フリーターは五二〇〇万円(UFJ総合研究所)。三倍から四倍の格差である。というよりも、年収一〇六万円でどうやって自立して生きていけというのだろう。すでに格差ではなく貧困の部類の話だ。」(太田出版刊、雨宮処凛著「生きさせろ!―難民化する若者たち」六頁)
労働者の犠牲とワーキングプア(働く貧困層)のひろがりのうえに、トヨタやキヤノン等の大企業は史上最高の利益をあげ、役員もまた史上最高の役員報酬を得ています。違法と不公正がひろがっているのです。
二 偽装請負―大企業の史上最高の利益の秘密
円高ドル安を合意した一九八五年の「プラザ合意」以降、大企業は、人件費の安いアジア諸国に生産拠点を移す動きを強めました。しかし、そういうなかでも大企業は、技術流出を避けるため、ハイテク製品の生産をアジア諸国に移転させないで国内で生産する道を選びました。そして、大企業は、人件費の安いアジアでの生産に対抗するために、徹底した労働コストの削減に取り組みました。このようななかで、偽装請負は、一九九〇年代後半以降生まれ、蔓延してきたのです。
「労働者を供給し、そこから利益を搾取する『人夫(にんぷ)出し稼業』は戦後、職業安定法で禁じられ、違反者は刑事罰に処せられることになった。労働者の供給を受ける側にも刑事罰はある。だが、メーカーにとって、『電話一本』で集められる請負労働者はたまらなく魅力的な存在だった。請負労働者なら、生産すべき製品の数量の変動に応じて、いつでも人数を増やしたり減らしたりできる。『便利だった。合理性があった』」(朝日新聞社刊、朝日新聞特別報道チーム「偽装請負―格差社会の労働現場」三四〜三五頁)
「『われわれ請負会社は"麻薬"ですから。安いコストで活用できるうえ、いつでも"解雇"できる、そんな便利な労働者の存在を知ってしまったメ―カ―がわれわれと縁を切れるわけがない』ある請負会社幹部はそう断言する。」(東洋経済新報社刊、風間直樹著「雇用融解」頁)
大企業は、史上空前の利益をあげるため、違法を承知で偽装請負を利用してきたのです。そして、今、財界は、労働者派遣法の「期間制限」や「直接雇用義務」の規定をなくして、年収二〇〇万円台の派遣労働者を恒常的に利用できるようにしようとしているのです。
三 現代の「人入れ稼業」―北海道、東北、南九州、沖縄から
「名護市に住んでいた直次郎さんと真紀さんは今年一月、県内求人誌で人材派遣会社の『ボーナス三〇万円以上』『月収三一万以上可』『夫婦・カップルに好評』との広告を見た。沖縄担当者から『今、応募しなければ定員が埋まる』と言われ、好待遇に期待を高め、二月には家財道具すべてを処分し、アパートを引き払った。新たな就職先を家族の生活拠点として希望を抱きつつ、四歳の子どもとともに愛知県へと転居した。ところがその希望はすぐに打ち砕かれた。最初に受け取った月給の額を見て愕然とした。直次郎さんが当初言われていた半分以下の一五万円以下、真紀さんが一一、一二万円だった。六月に支給されたボーナスは一〇分の一以下の三万円だった。」(「琉球新報」二〇〇七年七月一七日朝刊)
大企業を中心に景気が回復するなかで請負・派遣労働者への需要が増大し、人材派遣会社は、「月収三二万円以上可」などの誇大広告で、雇用情勢の厳しい北海道、東北、南九州、沖縄から労働者を募集し、製造業の盛んな首都圏、東海地方等へ送りこんでいます。しかし、実際は、「手取り半額以下」の誇大広告がほとんどです。
四 人間らしく生き、働くために
―九・三シンポジウムに多数の参加を
「闘いのテーマは、ただたんに『生存』である。生きさせろ、ということである。生きていけるだけの金をよこせ。メシを食わせろ。人を馬鹿にした働かせ方をするな。俺は人間だ。スローガンはたったこれだけだ。生存権を二一世紀になってから求めなくてはいけないなんてあまりにも絶望的だが、だからこそ、この闘いは可能性に満ちている。『生きさせろ!』という言葉ほどに強い言葉を、私はほかに知らないからだ。」(前掲雨宮処凛著「生きさせろ!」一〇頁)
私は、この間、光洋シーリングテクノの請負労働者の偽装請負とのたたかいやナックの個人請負労働者の組合結成のたたかいに参加してきました。そこには、一方で、違法と無権利が横行し、他方に、「生きさせろ!」という要求から発する、非正規労働者のたたかうエネルギーとパワーがありました。そして、その非正規労働者のたたかうエネルギーとパワーは私の心をとらえて離しません。このたたかいは、必ず勝利できると思います。
自由法曹団では、九月三日午後六時から、後記の要領で、シンポジウム「非正規労働者の実態とその権利保障―理論と実践」を開きます。非正規雇用の人権侵害の実態を是正する取組は、人間らしく生き、働くルールを確立し、公平・公正な社会をつくる取組だと思います。是非、多数の団員がシンポジウムに参加され、ともに討論できたらと思います。
(本稿は、「団東京支部ニュース二〇〇七年八月号NO・四〇四」に投稿した、同じ標題の原稿を大幅に書き直したものです。)
シンポジウム 「非正規労働者の実態とその権利保障ー理論と実践 ●と き 九月三日(月)午後六時〜 ○岩田幸雄(全国労働組合総連合副議長) ○伊藤潤一(東京地方労働組合評議会副議長) ○河添誠(東京公務公共一般労働組合青年一般支部書記長) ○鷲見賢一郎(自由法曹団東京支部・弁護士) お問い合わせは、自由法曹団本部 |