<<目次へ 団通信1282号(8月21日)
小山 哲 | ぎふ反貧困ネットワーク設立の報告 |
笹田 参三 | 「ぎふ反貧困ネットワーク」ができた |
白鳥 玲子 | ひとり差別 ―人格差別を問うて昇級を実現― |
伊藤 和子 | 裁判員制度の「延期」ではなく、「制度見直し」の努力を |
中野 和子 | 「有罪想定」が無罪になった裁判員裁判模擬裁判 |
渡辺 輝人 | 京都支部における恒久派兵法リーフレット等を用いた街宣の状 |
榎本 武光 | 都市再生機構(UR)の賃貸住宅の取壊し、居住者への明渡し攻撃と闘おう |
町田 伸一 | UR住宅の解体・更地化問題、説明会のご案内 |
岐阜支部 小 山 哲
八月三日、「ぎふ反貧困ネットワーク」が設立されましたのでご報告させて頂きます。
昨年一一月より、団員をはじめ、学識経験者、各種団体などから有志が集まり、岐阜での貧困の問題についての合計六回の懇談会を開催してきました。懇談会で岐阜でも進行しつつある貧困問題についての対応の必要性、そのために様々な人が広く集まれる場の必要性が痛感され、「ぎふ反貧困ネットワーク」が設立されることとなりました。
本ネットワークは、さまざまな貧困問題を諸団体と連携して解決することを目的としつつも、団体に加盟していない貧困問題について意識のある個人が広く気軽に参加できるよう、個人加盟の団体として設立することとしました。
設立総会には、約一〇〇名の方に足を運んで頂け、会場となった岐阜県弁護士会のホールは立ち見も出るような大盛況となり、岐阜でも多くの方が反貧困について問題意識を持っていることが実感できました。
設立総会に引き続いて、記念企画も行われ、(1)岐阜民医連から「生活保護受給者老齢加算廃止後の生活実態調査」、(2)岐阜市国保をよくする会から、「岐阜市における国民健康保険証取り上げの実態」、(3)きょうされん岐阜から、「構造改革による障がいのあるひとの暮らしの変容」、(4)岐阜・野宿生活者支援の会から「岐阜のホームレス支援の現状と今後の課題」、(5)関市議会議員の方から、「関市における「餓死事件」について」の五つの報告が寄せられました。また、岐阜教育大学準教授で、ぎふ反貧困ネットワーク代表世話人でもある山田壮志郎氏(公的扶助論)より、「『反貧困』をどうつくるか|ホームレス支援の経験から」と題する基調講演も行われました。
設立直後から、生活保護申請についての相談などが寄せられており、ネットワークとしての機能を早くも果たし始めています。今後は、関市における「餓死事件」の現地調査、反貧困全国キャラバンの支援、生活保護申請支援をはじめ、様々な反貧困の活動を行う予定です。
【ぎふ反貧困ネットワーク】
代表世話人 吉田千秋 山田壮志郎 笹田参三
事務局 〒500-8812 岐阜市美江寺町一ー五 岐阜合同法律事務所内
TEL 058-264-3780 FAX 058-264-3784
ホームページ:近日開設予定
岐阜支部 笹 田 参 三
二〇〇六年日弁連釧路人権大会を契機として、貧困問題を日弁連として正面から議論するようになり、自由法曹団において「二〇〇七年は貧困問題元年」と言われるような情勢が生まれてきた。
岐阜県においても、全国の動きに学び、二〇〇八年八月三日「ぎふ反貧困ネットワーク」が設立された。
岐阜の貧困の現状を勉強する中で、反貧困ネットワークの必要性を痛感し、結成に至った。その経過を報告する。
一 経過
団岐阜支部の呼びかけで、二〇〇七年一一月一五日に格差・貧困を巡って初めて第一回の意見交換をしたところ、団岐阜支部の呼びかけが積極的に受け止められた。そこで、約三〇名の参加者(岐阜県では画期的な盛況)から現状報告がなされ、岐阜県で貧困が進行していること、国民健康保険証取り上げ問題、医療抑制問題深刻な状況であることなどの報告が続いた。
そして、岐阜貧困問題懇談会として出発することになった。
六回の準備会(貧困問題懇談会)を開催した。第二回:二〇〇八年一月一七日、第三回:二〇〇八年三月一二日、第四回:二〇〇八年五月七日、第五回:二〇〇八年六月四日、第六回:二〇〇八年七月九日と開催した。
二〇〇八年五月七日に、「ぎふ反貧困ネットワーク」と名称を決定した。
この議論の中で、岐阜県において、貧困が進行していることが確認され、「知ろう なくそう 岐阜の貧困」のスローガンが打ち立てられていった。
そして、長い時間をかけて「呼びかけ」案が検討され、成案を得た。
「岐阜県でも、国民健康保険料を支払うことが困難な世帯が増えています。たとえば岐阜市内では、加入世帯の二割近くに上ります。そして一年以上保険料を滞納すれば、支払えない事情に関係なく保険証を取り上げられ、窓口で全額支払を求められています。この中には医療費が無料となる乳幼児なども含まれます。そのため病院にかかることができず、重症となるケースも生まれています。また、マスコミでとりあげられている『ネットカフェ難民』が日本で最初に〈発見〉されたのも、ここ岐阜県でした。・・・あなたも貧困問題について考えてみませんか?」(「呼びかけ」から)
例えば、新人団員から出された、前記衝撃的な傍線部分について、相当時間をかけて議論し共通認識を得た。
ところで、岐阜県では、「・・・岐阜県連絡会」と称する団体が多数結成されているが、いずれも「金太郎飴」的特徴を持っており、参加者は何時も見た人ばかりの傾向があった。反貧困問題で、この限界をどう超えていくか。
第一に、幅広い団体に参加を呼びかけたこと、第二に、岐阜県の貧困の実態に迫る勉強会を繰返し行ったこと、第三に、団岐阜支部の呼びかけから一〇ヶ月以上掛けて丁寧に準備すること等に留意した。
そして、四七名の呼びかけ人が名前を連ねた。一一名の弁護士が呼びかけ人となったが、そのうち二名は、これまで運動に参加したことがない、団員でない弁護士であった。これまで無縁であった、ホームレス支援団体も参加した。
運動の広がりが生まれた。
「ぎふ反貧困ネットワーク」は、準備会の段階から、政党との関係をどうするかが議論となった。元々の準備会構成は、共産党系と言われる団体個人が多かったこともあり、元新左翼系の参加者から議論が出された。当然のことであるが、最終的には、政党と等距離の位置で協力することで合意した。全政党と等しく協力共同をしていくことを確認した。
二 結成総会
結成総会及び記念企画には、一〇〇名が参加し、「ぎふ反貧困ネットワーク」は八二名の会員で結成された。若い参加者も相当数あり、日頃見ない参加者も少なくなかった。呼びかけ人になっていない弁護士も二名参加していた。
総会で採択された「申し合わせ案」は、年会費一口一〇〇〇円の、個人加盟を原則とした。その内容は、次のとおり。
1 名 称: 当会は、「ぎふ反貧困ネットワーク」と称する。
2 趣旨・目的: さまざまな貧困問題を諸団体と連携して解決することをめざす。
3 活 動: 「会」の趣旨・目的を実現するため、(1)活動の交流、(2)学習会・イベント・ホームページなどを通じた社会的問題意識の喚起、
(3)行政・各種団体への働きかけ、(4)その他の活動を行う。
4 会 員: 「会」の趣旨・目的に賛同し、会費を納める者を会員とする。
5 機関・役員: 代表世話人、世話人会、事務局、会計をおく。
年一回の総会を行う。
日常活動における「会」の意志決定は世話人会が行う。
6 事 務 局: 事務局を岐阜合同法律事務所(岐阜市美江寺町一ー五)におく。
三 総会記念企画
「知ろう なくそう 岐阜の貧困」をスローガンとした記念企画の内容は、本号の小山団員の原稿を参考にされたい。
なお、記念企画では、岐阜県関市における「餓死事件」について(関市会議員)の緊急報告を受けた。
「関市の餓死問題」とは、関市の市営住宅に居住していた三六歳の「男性は二〇〇六年から一人暮らしをしていた。〇七年一〇月、衰弱で病院に搬送され、生活保護担当の職員が就職を指導したり、今年三月には乾パンを数度届けたりしていた。病死した母親の未支給年金約一〇万円が四月に振り込まれてからは「仕事を探す余裕ができただろう」と考え、接触していなかった。
市福祉政策課の担当職員は「男性は働く意思を示しており、生活保護の申請は必要ないと考えた。働けない理由もなかった。本当に苦しくなったら連絡を、と再三伝えたが、なかった。連絡があれば相談にのれたが…」と話している」(中日新聞から)事案である。
重大な結果が発生しており、その原因解明と今後の対策が急がれる。
そこで、緊急報告を受けて、関市の餓死問題での現地調査活動が緊急提起され、二〇〇八年八月二〇日に現地調査を行うことになった。
この結成総会と記念企画は、マスコミ各社で取り上げられ、大きな反響を呼んでいる。
四 総会で提起された当面の活動方針は、次のとおり。
(1) 活動の交流
(2) 社会的問題意識の喚起
(1) 貧困問題の掘り起こし活動 例えば、関市の餓死問題での緊急調査活動の提起
(2) 二〇〇八年九月反貧困全国キャラバンへの協力
(3) 行政・各種団体への働きかけ
(1) 生活保護申請での同行活動等の援助
(2) 岐阜市等での国民健康保険保証取り上げ問題の是正申し入れ
反貧困全国キャラバンは、岐阜県に九月一二日から一六日に入ることになっており、現在実行委員会を結成して準備を進めている。
岐阜県の当面する反貧困運動と結合してキャラバンを取り組んでいく方針である。例えば、関市の餓死事件での要請活動やシンポジウム等も検討したい。岐阜市で行われている国保証取り上げ問題での自治体交渉を検討している。
五 今後の課題
当面は、「関市の餓死問題」を全国的な支援を受けながら、その原因解明と今後の対策を求めていく予定である。同問題は、既に生活保護問題対策全国会議のメーリングリストで議論になっており、その協力を得ながら進めて行きたい。しかし、直面している問題として、関市議員が行った情報公開請求に対して、関市は個人情報であるとして一切の開示を拒んでいる。親族の協力が得られるかどうか、検討している。
更に、岐阜県のような地域で「ぎふ反貧困ネットワーク」がどのような役割を果たしていくのか研究したい。特に、平和問題で「九条の会」が話したような役割を、岐阜県地域で「ぎふ反貧困ネットワーク」が経済、貧困分野で果たす可能性がないか。景気減速局面になり、予算が大企業等に向けられる状況が生まれ、社会保障を削減する政策が進められる中で、個別課題での闘争と同時に幅広く反貧困で団結する可能性を追求して行きたい。
昇級差別是正のための地位確認は、労基法上、均等待遇根拠規定があっても、わずかな例外事件を除き、何度も跳ね返されてきた困難なテーマである。この度、東京地方裁判所において、ひとりだけの昇級差別事件で昇級を実現する和解を勝ち取ったので報告する。
Kさん(女性)は、一九七五年に被告会社に入社し、三〇年以上もの間、事務職として勤務してきた。入社当時は年功給制度であったが、一九九〇年、職能資格制度が導入され、事務職は十級から五級までの六等級に分けられることとなった。この職能資格制度は、賃金と連動しており、昇級差別をされれば自ずと賃金も差別されることになる。
Kさんは、制度導入時点ですでに入社一五年目のベテランとなっていたが、下から二番目の等級(九級)に位置づけられた。そして、提訴までの十五年以上の間、日々、誠実に職務をこなしていたにもかかわらず、一度も昇格しなかった。他方、Kさん以外の事務職社員(約三十名)は、育休取得等の例外的場合を除き、ほぼ三年ごとに順次昇級しており、Kさんと相前後して入社した事務職社員は提訴時には事務職最高職位の五級に昇級していた。
Kさんは、前記の昇級差別だけでなく、日常的に上司から嫌がらせを受けていた。面談において「あなたは人に嫌われるタイプなんだよ」「あんた勘定に入ってねぇんだよ」等の暴言を受けたり、面接の際に記入される書類(面接シート)には赤字で「リストラ候補である」と書かれたり、「あの人の言うことは聞かなくてよいから」と何も知らない新入社員に告げたりといった数限りない嫌がらせを日常的に受けており、それらの嫌がらせは、職場においてKさんの人格を全否定する「人格差別」そのものであった。こうした人格差別と昇格差別は一体のものであった。Kさんは長年の昇級差別と嫌がらせ、人格差別にこれ以上耐えられないと考え、弁護士に相談してきた。
冒頭に述べたように、昇級差別は差別が明確な場合であっても昇級した地位確認まで勝ち取ることは困難であり、本件のように個人的な事情によるものとなると、差別を受けている本人に問題があるのではないかとの偏見から、さらに難しい。しかし、Kさんの置かれた状況はあまりにも酷いものであり、裁判をしなければ改善は望むべくもない。そこで、法的な困難を抱えてはいたものの、二〇〇六年四月、最高職位の五級の地位確認及び慰謝料請求を求める訴訟を提起した。会社と協調姿勢を取っている組合からは支援を受けることはできず、たった一人のたたかいであった。
提訴から十か月経過時から和解期日が六回ほど開かれた。会社はKさんの昇級は認めたくないとの姿勢であったが、裁判所はKさんが置かれた状況は異常であるとの認識の下、七級への昇級と若干の慰謝料での和解の提示を行った。しかし、Kさんは「このまま、会社がしていた差別の実態が公にされず、うやむやにされるのは我慢できない。法廷で証言したい」と訴え、和解は成立せず、訴訟は尋問に突入することとなった。
尋問は原告本人尋問と会社関係者四名の証人尋問となった。Kさんの陳述書は四十頁を超え、尋問準備には相当の時間を費やした。そのかいあって、反対尋問、本人尋問とともに、被告会社の悪質な人格差別が明白となった。
尋問後の和解期日では、五級への昇級は叶わなかったものの、七級の最高号俸(次期に六級に昇級できる号俸)という地位確認ができた上、慰謝料についても大幅な増額となった。かかる和解は、会社の評価の不当性、日常業務の実態を丹念に拾い上げたこと、繰り返しなされた嫌がらせについてはKさんが取った録音テープの反訳を提出したことなど、裁判官に昇級による救済が必要と思わせることができた結果であると思う。
事件終結後、弁護団からねぎらいの花束を受け取ったKさんの目に涙が浮かんだように見えた。共同受任弁護士は、橋本佳子団員、平井哲史団員である。
東京支部 伊 藤 和 子
一 裁判員制度に関して、複数の野党が、「延期」「延期も含む再検討を」などとする見解を発表し、少なからぬ衝撃を呼んでいる。国会が一度は決議した裁判員制度について、何らの課題も方向性も示さないまま、無期限延期を決めて、再び刑事裁判を職業裁判官に白紙委任するとしたら無責任な話であり、私はそのような延期論には賛成できない。
しかし、様々な疑問や懸念のあるなか、「決まってしまったのだから三年後の見直しまでは我慢してとにかく施行しよう」と突き進んでよいのか。
先日、裁判員制度に関するテレビの討論番組に参加する機会があり、識者の見解に接するとともに、その後に視聴者の方や市民から送られた感想・意見に多く接する機会があった。特に深夜を押して長時間の番組を見る熱心な市民の方々からの懸念表明を読んで、国民の不安や反対は決して根拠のないものではない、と感じた。多くの国民は真剣に考えて懸念しており、その疑問に応えないまま、表面的な広報キャンペーンをしても問題は解決しないだろう。
裁判員制度は、制度設計段階における日弁連の当初要求や団の提言からみて著しく不十分なものにとどまっており、冤罪防止のための条件整備も進んでいない。さらに問題なのは、法律の条文を離れて、裁判所主導で運用に関する既定路線が形成されつつあり、制度が大きく歪められていることである。
まだ、施行まで時間は残されている。これを機会に、臨時国会や来年の通常国会で十分な審議と国民的議論の時間をとって、必要な修正を実現し、かつ、運用に抜本的な見直しを迫っていくべきだと切実に思う。問題は多々あるが、ここでは最近もっとも懸念している点に絞って述べたい。
二 量刑について
死刑・無期を含む事件を対象とする裁判員制度下で、国民は死刑・無期という人の生死・運命に関わる判断を多数決で強いられるが、このことが国民の負担感の最大の要因となっているようである。「証拠に基づいて有罪・無罪を決めるならよいが、人の一生を左右する死刑か無期かの判断を、何を根拠に決めればよいのか」という懸念が極めて多い。しかも、量刑は原則単純多数決とされており、死刑にどんなに反対の者がいても(死刑廃止論者でも)、死刑判決が合議体全体の結論として出される。そういう職業と知りつつ職業選択の自由により職業裁判官となった者なら格別、そのような選択をしていない市民に、一生そのような十字架を背負わせるというのは過酷な負担ではないか。
先進国で未だ死刑を維持しているのは米国と日本だけであり、欧州では市民が死刑判断に参加する余地はない。米国でも陪審は死刑事件においては、全員一致で有罪評決をし、かつ、全員一致で死刑と判断したときだけ死刑評決が出される(米上院は今年、陪審一二人中一〇人が死刑に賛成すれば判事は死刑を決定できる、という法改正案を否決したばかりである)。市民参加で多数決により死刑を決める、というのは世界的に異例な事態である。
また、日本では死刑に関する議論は成熟しておらず、冷静な議論が成立しているとは到底いえない。昨年の国連総会は、死刑執行停止を世界に呼び掛ける決議を賛成多数で採択したが、政府はそのような国際的潮流すら裁判員となるべき国民にまったく周知していない。(むしろ最高裁は、明らかな死刑廃止論者は裁判員から排除するとしているhttp://www.courts.go.jp/saikosai/about/iinkai/keizikisoku/pdf/07_05_23_sankou_siryou_05.pdf)。こうした状況のもとで、何のよって立つべき基準も示さず、「死刑については市民の常識に任せよう」と、無作為抽出された市民を矢表に立たせるのは無責任である。裁判員の責務から量刑判断を外す法改正は是非とも実現すべきである。
三 「審理は原則三日以内」という運用の危険性
最高裁は、普通の人が抵抗なく参加できるのはせいぜい三日だ、として、三日以内にすべての立証を終わらせることを前提に、当事者双方に争点を徹底的に絞り込ませ、立証も大幅に制限する方針のようである(司法研修所編「裁判員制度の下における大型否認事件の審理の在り方」参照)。裁判員法には何ら規定がないのに、いつのまにか、すべての裁判員裁判を超短期審理で行うことが既定路線になろうとしているようだ。
しかし、極刑が予想され、有罪無罪が徹底して争われる事案について、事実審理、量刑審理、評議・評決のすべてを三、四日で終わらせる、というのは暴論である。そのために必要な立証が大胆に制限され、防御権は著しく侵害され、真実発見に反する結果になる重大な危険がある。また、事実認定に関する評議も、量刑判断も、全員一致をめざすどころか、「皆さんに早くお帰りいただくために」議論を尽くさないまま多数決評決となって終わる危険性が高い。
実は、市民の懸念のなかにはこのような短期審理で判断を迫られることへの危惧が少なくない。制度に反対、または参加したくない、という市民の意見のなかには、「三、四日で有罪無罪も、刑も決めるというが、そんな時間で人の一生を左右する判断をするのは無責任だ。そんな恐ろしい裁定には、加わりたくない」「冤罪も増えるでしょう」という趣旨の批判が目立った。本当に誠実に刑事裁判に関わろうとする市民であれば、人の生き死に関わる問題を拙速に決めたくない、たとえ時間がかかっても丁寧に関わりたい、と思うはずではないだろうか。三日以上は集中力が続かないだろう、などというのは国民をばかにした考えだと思う。
最高裁はおそらく、米国のたいていの陪審裁判が三日程度で終わる、という前提でこうした方向性を打ち出したのであろうが、前提に大きな誤りがある。米国では重罪・軽罪の如何を問わず、争いのある事件が陪審となる。ところが、殺人事件で否認し有罪評決まで進むと死刑の危険があるため、認めて司法取引で終わる事件が少なくなく、殺人事件で陪審に移行するケースはそれほど多くない。そして、真剣に無罪を争う殺人事件では、数週間ないし数か月かかる例が多い。それでも対応できる、という人に、陪審員になってもらうのであり、それで十分成り立っているのだ。一方、南部の州では、死刑事件でも二日程で結審することが少なくないが、これは貧しくて私選弁護人を雇えない黒人の被告人に不熱心な国選弁護人がついて、必要な立証をしないためであり、こうした拙速裁判では冤罪が続出して大きな社会問題になっている。
私は米国で多くの冤罪事件を調べたが、冤罪は陪審に必要な情報が与えられないときに発生していた。ある米国の冤罪事件では、検察官が被告人に有利な証拠を開示せず、真実から陪審が遠ざけられたまま有罪・死刑の評決がされ、雪冤まで多年を要したが、「必要な情報を与えられないまま誤った死刑判決を出すこととなった陪審員たちは深く悩み、傷ついていた。彼らも冤罪の犠牲者だった」(元死刑囚の発言)という。今導入されようとしている超短期審理により、裁判員に必要な情報が与えられず、審理が尽くされず、納得もいかないまま拙速な判断を迫られることになれば、被告人も裁判員も冤罪の犠牲者になる危険がある。このような運用の方向性には、強く反対すべきだ。
四 「無罪推定原則の徹底」はされるのか。
米国の陪審制度では、無罪推定原則が判断の根本原則として陪審員に幾度となく徹底されている。裁判官は、公開法廷において繰りかえし無罪推定について説示を行い、陪審員選定手続においてもこの原則に従えるか、と陪審員に問い、従えない者は公正な裁判ができない者だとして不適格排除される。
ところが、裁判員制度ではどうか。そもそも裁判官による公開法廷での説示がなされず、評議中に裁判官が裁判員に説明を行う(裁判員法三九条)こととなっていて、密室でどのような説明がされるかを知ることもできない。
昨年、最高裁刑事規則制定諮問委員会は、評議での立証責任などに関する裁判員への説明に関して、「法三九条の説明例」という文書を作成・公表したが、そのなかには無罪推定、「疑わしきは被告人の利益に」の原則へ言及が全くない。(http://www.courts.go.jp/saikosai/about/iinkai/keizikisoku/pdf/07_05_23_sankou_siryou_03.pdf)。この「説明例」によると、裁判官は、立証責任について「証拠を検討した結果,常識に従って判断し,被告人が起訴状に書かれている罪を犯したことは間違いないと考えられる場合に,有罪とすることになります」と説明すればいいという。最高裁は、裁判員選定過程における質問例も作成して公表しているが、これにも無罪推定に関連するものはない。これでは無罪推定の徹底どころか、裁判員は、「疑わしきは被告人の利益に」という言葉を裁判官から一度も説明されないまま、判断することになろう。上記説明例では、被告人を有罪とするストーリーと無罪とするストーリーのうち、常識で判断して合理的なのはどちらか、というような、「合理的疑い」よりはるかに低い立証責任で、有罪・無罪が判断される危険性がある。私は、弁護士会の模擬裁判の評議を評価する役割を経験したが、評議では、市民から「(理由をあげつつ)有罪というストーリーのほうが無罪というストーリーよりも腑におちるので、有罪」など、無罪推定原則をまったく履き違えた意見や、直観的な有罪論が展開され、それが誰からも修正・訂正されないまま、評決になだれこみ、過半数で有罪、という評決をいくつも見た。上記のような説明では、こうした由々しき事態が現実に起こることを回避できない危惧がある。また、九九%の有罪率を前提とする裁判官の事実認定のあり方を転換するのも困難であろう。
「疑わしきは被告人の利益に」が刑事裁判の鉄則であるということは、一九七五年白鳥決定で最高裁自らが判示したものである。裁判所からの裁判員候補への質問や公開法廷での説明に、無罪推定原則をきちんと導入させるよう、迫っていかなければならない。
五 このほか、取調べの全面可視化が実現していないこと、守秘義務と罰則規定、開示証拠の目的外使用など、問題は山積している。審理期間の問題や無罪推定の徹底などの運用問題も、個々の弁護士の戦いでは限界がある。「無条件延期」でもなく、「無条件実施」でもなく、この機会にもう一度国民的議論を尽くし、必要な改正を実現させ、誤った運用の方向性を正面から問題とし、是正を勝ち取る、ぎりぎりの努力をする姿勢に立つべきだと考える。
東京支部 中 野 和 子
七月二四日、新聞でも報道されましたが、東京地裁で行った神山啓史弁護士、小川英郎団員(被告人役)二弁弁護チームが東京地検公判部長チームに裁判員裁判模擬裁判で無罪を勝ち取りました。この模擬裁判は評議内容も含めてDVD化されます。
私は、冒頭手続きから弁論後の評議まで二日間傍聴しました。
事案は、一緒に酒を飲んでいた大工仲間の友人が、先に店を出て酔って歩道に寝ているところを起こそうとした被告人が腹を何度か足で踏んで、暴行を加え、死亡させたという傷害致死で起訴された事案です。
死亡原因は解剖の結果、小腸腸間膜破裂とわかりました。あまり硬くないもので腹部に圧力をかけたために、内臓が破裂して出血性ショックで死亡したことがわかりました。
検察側は、冒頭陳述で、「三本の矢」を放ちました。
第一は、犯行時刻である八時から八時三〇分に一緒にいたのは唯一被告人だけであること
第二は、被害者のシャツに二本線の跡があり、被告人のサンダルの先の部分と考えてもおかしくないという鑑定があること
第三は、他の大工仲間に「殴ったり、蹴ったりしたかもしれない」と告白したこと
です。
これに対し、弁護側は、一〇分程度の冒頭陳述の中で、被告人側からのストーリーを述べ、「『空白の一五分間』というキーワードにすべてポイントを集約する」(神山弁護士の弁)形で問題提起をしました。
被告人にとっての事実は、友人である被害者と酒を飲んで被害者の一五分あとに店を出たところ、被害者が歩道に横たわっていたため、被害者をかついで車に乗せて、コンビニの駐車場まで行き、そこで一寝入りして起きてみたら、被害者の容態がおかしくなっていた、病院に運んだらしばらくして死んでしまったということです、とまず述べたのです。
そして、酒を飲んで酔っ払って寝てしまい、目を覚ましたときには飲んでいたときの記憶がないということはありませんか、と裁判員に問いかけました。
被告人が被害者と一緒にいたから犯人だとといわれているけれども、「空白の一五分間」があるではないか、この一五分間にほかの誰かが腹を踏んだかもしれないではないか、と問題提起したのです。
八時から八時三〇分ころまで一緒にいたのは被告人ですが、その前の空白の一五分間、被害者は一人だったと、しかも、店は駅前の大通りであり平日の夜八時ころは人通りが多かったのだから、他に犯人がいてもおかしくないと提起したのです。
そして、裁判員には三つのことがポイントだからこれからの尋問のときにはこの三つの観点からよく聞いていてほしい、と呼びかけました。
一つは、サンダルのあとは被告人のものかもしれないし、そうでないかもしれない
二つは、「空白の一五分間」があること
三つは、犯行後の被告人の言動は「蹴ったかもしれないがよく覚えていない」
尋問は、あさがお亭主人、大工仲間のA、死亡数日後に被告人から話を聞いた大工仲間B、そして被告人でした。被害者遺族については手紙を読み上げるという形にしました。
尋問によれば、被害者と被告人とは、大工仲間で朝の仕事が終わったあと、車でひまわり亭という飲み屋に行き、昼間から酒を飲んで、夕方もあさがお亭という別の店で飲みなおしたあと、午後七時四五分に被害者が先に店を出ました。そのあとトイレに行っていた被告人が八時ころ店を出ると、隣の薬局の前の歩道に被害者が寝ていたので、被告人がかついで自分の車に乗せ、近くのコンビニの駐車場まで行き、ポカリスエットを飲みたいと被害者がいうのでそれを買って、そのあとしばらく寝てしまったあと、夜一〇時半ころ目を覚ますと、被害者の様子がおかしいことに気づきました。被告人が同じ大工のA男にケータイで電話をして相談をして、A男から救急車を呼んだほうがいいと言われてもA男が来るまで呼ばず、A男が来るまでに心臓マッサージをしたり人工呼吸(!)をしたりしていて、午前0時すぎにA男が来て始めてA男の運転で病院まで連れて行ったけれども午前一時四〇分に死亡したというものです。
大工仲間のB男は、被告人が蹴ったかもしれない、と言ったことを証言しました。動作もその場で行いました。B男は右足で蹴った動作をしました。
被告人も、どのように被害者が横たわっていたか、法廷で寝転がりました。仰向けでなく右を下にした横たわり方でした。
検察側の論告は、四五分くらいあり、長かったです。途中で眠くなりました。しかも求刑は八年!
神山弁護人の最終弁論は、一五分だけでした。弁論では、推定無罪とは、検察官の立証によって確信できなければ無罪なんですよ、とルールを説明し、三本の矢の一つ一つが、確実ですかと、被告人に質問した裁判員一人一人に目を向けて、問いかけました。神山弁護人は、「最終弁論の半分は無罪推定にかけた」と述べています。そして、また、「それは弁護人の最低限やらなければならない重要な要素であり、そこで言っておくことによって、その直後に行われる評議のときに、言葉がわかりやすければ、生きて、そのまま入っていけることになる」と述べています。
この裁判では、公判前整理手続きで争点がしっかりと絞られたこと、弁護側冒頭陳述で、争点が裁判員にわかりやすく提示されたこと、弁護方針が正しかったこと、裁判長が何度も「どちらかわからない場合は有罪にはできません」と評議の中でも言ったこと、裁判員の皆さんの人間心理に対する洞察や事実に対する切込み方、疑問の持ち方がすばらしく、左陪席より説得力のある事実認定を展開したこと、などが無罪に導いたと思います。多数決でなく全員一致で無罪だということが、本当にすばらしいです。是非、DVDを見てください。
これまでの刑事裁判はほとんど有罪なので優秀な弁護士かどうかで結論はあまり変わりませんでしたが、裁判員裁判では、弁護士の力量で相当結果が異なることになりそうです。
推定無罪のルールの徹底、優秀な弁護士、正確な弁護方針、誠実で社会経験のある裁判員が揃えば、無罪にすべきものは無罪になることがよくわかりました。
検察官は、パワーポイントの操作はよくできていましたが、そもそも、論点を個別にしてしまった、証拠構造が弱かったというのでしょうか、「三本の矢が一本も矢になっていなかった」(裁判員の発言)のです。そして、主尋問も反対尋問もできが悪かったのです。主尋問は、検察事務官が証人役であったせいか、詰問調となり、裁判員に悪い印象を与えていました。被告人質問は、公判部長が担当したのですが、二三年も法廷に出ていない人が担当するなんて無理があったのではないでしょうか。
何を聞いているのかわからないと感想会で裁判員が言った公判部長の反対尋問を、右陪席が「よい尋問だった」と評議の中で述べたときには、唖然としましたが、その裁判官の感覚について考えてみました。そこであらためてわかったのは、裁判官は有罪の証拠を探しているということです。公判部長は、被告人が嘘をついていることを立証しようとしたのです。そのために、昼のひまわり亭のときからそれほど酒は飲んでおらず、車も無事に運転できたのだから酒を飲んでよく覚えていないというのは嘘であろうと(核心に迫らない遠い論点でありかつ非常識!)、それを被告人尋問で立証しようとしたのです。これは、職業裁判官にとっては、被告人の有罪証拠であり、是非、それでうまく有罪にできる証言を引き出してほしいということのようでした。
七月二九日に、神山弁護士、小池振一郎団員、今村核団員、そして布川事件の桜井昌司さんとで裁判員裁判の座談会を行いましたが、神山弁護士は、「ルールに基づいて判断する」、これをルールどおりにしてくれるのは、職業裁判官ではなく一般国民である裁判員であると述べていました。取調べの一部だけ出すのではなくなぜ全部出さないのか、全部出せないのは何かまずいからではないか、と思ってくれるのは、職業裁判官でなく裁判員であろう。北陵クリニック事件で捜査規範に反して再鑑定に必要な分量を残さずに全量を使ってしまったことを、おかしいと問題視してくれるのは職業裁判官ではなく裁判員であろうという話になりました。
そして、裁判員裁判制度では、訴因変更や釈明もできないだろうということです。裁判官が検察官に肩入れすると思われるのは避けたいということだからです。何よりも訴因変更などしたら裁判員がわけがわからなくなるでしょう。検察官は裁判官の「推定有罪」の助けを借りずに立証しなければならないのです。
公判前整理手続きでは、幅広く類型的証拠開示を行うことになります。そのとき、検察官が調書は三通あります、と言ったとしても、弁護人が怠らず、「三通で全部なのか」「別件の調べでとった調書はないのか」と全ての証拠を検察官が出したかどうかを確認することが必要になります。そして、証拠開示の対象としては、検察官の手持ちでない捜査メモも出さなければならないというのが最近の最高裁の決定です。証拠開示の面では急速な変化がおきています。
裁判員裁判制度が、刑事司法を変化させていますし、弁護士の取り組み次第では、大きな前進の可能性があります。
弁護士は、まず模擬裁判に参加してみたらよいと思います。弁護士会が大量の予算を使って模擬裁判を行うと、それは、弁護士の研修にもなると同時に、一般市民に刑事裁判のルールを徹底することにもなります。その模擬裁判の裁判員になった市民の声を集めることで研究にもなります。裁判官役は、刑事法の大学教員にお願いしたらどうでしょうか。こんなに刑事裁判の仕組みそのものが国民の関心事になった今こそがチャンスです。
最近、裁判員裁判の実施を延期すべきだという声がまた上がりましたが、裁判員裁判においても大衆的裁判闘争を放棄することにはなりません。大衆的裁判闘争は、特定の裁判だけに限らず、刑事司法の推定無罪のルールを全国民に徹底することに重点が置かれるようになるという新しい課題が課せられたというべきです。
もちろん、これまで布川事件の桜井さんや杉山さんを支援してきた支援者の皆さんの活動は真にお二人を支えてきたと思います。桜井さんはまず、支援者の皆さんに感謝されていました。
しかし、支援するということは、これまでのように特定の事件を学び傍聴するということだけではなく、裁判員裁判の下では、そもそも刑事司法のルールを知り、国民に広げていくことを含むようになったのです。
そして、国民の中で最も重視すべきが、将来裁判官になる法科大学院生です。ロースクールの授業で推定無罪のルールを徹底することが必要です。
最後に、司法の民主化は一直線には進みませんが、国民にわかりやすい平易な言葉で正確に伝えることが、刑事司法に求められていることは確かです。
今回の模擬裁判では、神山弁護士の冒頭陳述を傍聴していた裁判官が「これは無罪かもしれない」と述べたということでした。団員の皆さんをはじめとして多くの弁護士がこのような冒頭陳述ができるようになれば、そして裁判員が皆、推定無罪のルールを忠実に守るような刑事司法への深い理解をもって裁判に臨めば、検察官もこれまでの捜査方法、立証方法ではだめだという認識に到達するのではないでしょうか。
京都支部 渡 辺 輝 人
現在、恒久派兵法制やテロ特措法に関する国会の議論は表面上は凪の状態が続いているようですが、選挙の結果に関わらず、恒久派兵法制や新たな派兵特措法の議論は必ず出てくると思われます。こういう時こそ反対世論を盛り上げていくための地道な運動が求められます。
京都支部では団本部が空色の恒久派兵法制リーフレットを作成して以降、各種の学習会等で配布するとともに、四回の街宣活動も行っており、最初に本部に発注した二〇〇〇部は学習会等と街宣で既に配布し終えました。今回はこの間の街宣活動について簡単に報告いたします。
一 六月一三日八時一〇分から四条烏丸交差点にて
四条烏丸は京都のオフィス街です。通勤中のサラリーマンや修学旅行生が行き交います。この日の宣伝には七人の支部団員が参加し、四五分で約三三〇枚のリーフレットを配布しました。街宣の時にはハンドマイクでの演説も行うことにしていますが、この日は福山事務局長が修学旅行生など若い人向けの話を情熱的に行い、リーフレットの受け取りもかなりよかったです。
二 六月一九日八時〇〇分から京都府庁舎の南東角にて
京都府庁舎の周辺には検察庁や京都府警本部など京都の官公庁が集中しています。この日は通勤途中の公務員を対象として宣伝を行いました。四人の支部団員が参加し、三〇分で二〇〇枚のリーフレットを配布したと記憶しています。この日の宣伝は途中で雨が降り出したため、短めに切り上げました。
三 七月二日八時〇〇分から京都市庁舎前にて
この日は京都市役所の前で通勤中の市役所の職員等を対象に宣伝を行いました。支部団員七名が参加し、一時間で約五〇〇枚のリーフレットを配布しました。私は去年の一〇月から団支部憲法プロジェクト担当の事務局員をやっている関係で、街宣にハンドマイクを持っていったり、担当者なので仕方なく自分で演説をしたり、という機会が増えています。この日は私がハンドマイクを市営地下鉄の出入口付近ではなく、市役所の敷地内の広場に置いて演説していたところ、市役所の警備員が二〜三人来て文句を言いに来る事態になりました。奥村団員が中心になって抗議をしつつ、宣伝は続行しました。
四 八月一五日一八時〇〇分から三条河原町の商店街入り口にて
この日は、団女性部が素敵な憲法リーフレットを作ってくれたので、これも使いつつ、「終戦の日」に街宣をすることにしました。 三条河原町は繁華街であり、若い人も多く通行する所です。この日の宣伝には四人の支部団員が参加し、一時間で二〇〇部の女性部リーフレットを配布しました。ただ、恒久派兵法制のリーフレットと重ねて配布したりしていたので、それも含めるともっと数は多くなります。六〇代から三〇代までの四人の団員がそれぞれ一五分程度ずつ、思い思いに演説をしました。それなりに耳を傾けてくれる若い人もいたように思います。当初はラジカセで昭和天皇の玉音放送を流す計画もありましたが、直前に私が日和見主義に陥ったため決行されませんでした。岩佐団員は「やらないの」と残念がっていました。
五 さいごに
実は、朝の出勤時のビラ撒きは受け取りがよく効率がよい、というのがここ一〜二年の京都支部の経験です。朝早くからビラ撒きをすると、必然的に早起きになるので、その後の時間を有効に使えます。みなさんも恒久派兵法制の街宣を朝にやってみませんか。
東京支部 榎 本 武 光
I 問題状況
二〇〇八年二月、都市再生機構(UR)は、首都圏にある三団地の賃貸住宅について、「耐震性」を理由として住宅の取壊し、居住者への明渡しをすすめようとしている。
対象団地は、日野市高幡台団地、千葉市幸町団地、春日部市武里団地のなかにある住居棟である。
取壊し対象の住居棟は、団地の中心に位置する高層の住居棟であり、郵便局・銀行・診療所・集会室・商店などがあり、団地住民の生活に重大な影響を及ぼすものとなっている。
URは、すでに、該当する住居棟に事務所を設置し、住民に「意向調査表」を配布して、執拗に転居を迫っている。
URは、二〇〇七年末に、一〇年間で八万戸の住宅を削減することを内容とする「UR賃貸住宅ストック再生・再編計画」を発表し、そのなかで、「集約化」と名づけて、住居棟を取壊し、更地化して、敷地を民間に売却する方針を打ち出している。
今回のURの取壊し計画は、「耐震性」を理由とするものであり、一見すると取壊しに反対しにくい装いをもっている。
しかしながら、団地住民のなかに、住み続けたいとの強いのもとで、住民の会が発足し、『当該住居棟の除却計画の撤回と速やかな耐震対策の実施を求める』署名運動が盛り上がってきている。
対象住居棟には、高齢世帯が多く、『いまさら引越しなど考えられない。』『今の住宅にはエレベーターがあるが、転居するとエレベーターがなく会談での上り下りで、日常生活が困難になる。』との訴えがあり、『なぜ耐震補強工事ができないのか。』との声が上がっている。
II 自由法曹団への要請
今回のURの耐震性を理由とする建物除却計画について、居住者の会からは、建築家に対して、本当に耐震性に問題があるのか調査してほしいとの要望がだされ、現在、URの耐震調査報告の検討がなされているところであるが、法律家に対しては、居住者とURとの間の住宅使用関係の法律関係及びURがすすめようとしている一時使用契約への切替え及び転居住宅のあっせん、補償等の覚書の交換に対してどう対処するかなど法律的な支援の要請がなされている。
そこで、当面対象となっている三団地に関わる東京・千葉・埼玉の三支部の対応が求められている。
なお、これまで、三団地に行ってきた学習会のレジュメは次のとおりである。
III 「耐震性」を理由とするUR計画の問題点
一 UR住宅『除却』の意味するもの
建物の取り壊し
居住者の立退き
URは入居者に対し、建物明渡し請求
建替え・再入居はない。
二 UR住宅の使用関係
1 UR住宅の使用関係は、賃貸借契約関係
2 URが賃貸借契約関係を終了事由
(1) 賃借人の契約不履行を理由とする契約解除
(2) 賃貸借契約の解約と更新拒絶がある。
3 賃貸借契約の解約は、期間の定めがない賃貸借契約について将来に向かって解約をしようとするもの、解約の申入れは六か月前にすることを要する。
賃貸借契約の更新拒絶は、期間の定めのある賃貸借契約について期間満了の一年前から六か月前までの間に、更新拒絶の通知をするもの
4 解約についても、更新拒絶についても、正当事由及び使用継続に対する異議の申立てが必要
三 正当事由
1 『正当事由』とは、自ら使用する必要その他正当とする事由をいう。
2 URが、住宅を自ら使用する必要は考えられない。
そこで、URは、『耐震補強工事を実施しても、耐震性を確保することが期待できない建物』であることを理由に明け渡しを求めている。
3 賃貸借契約の目的物である建物がどのような状況にあるかという『建物の状況』は、正当事由の一事由となりえるが、『建物の状況』について、『耐震性』を正当事由とすることには、以下の問題点がある。
(1) 耐震性を確保していなければ賃貸することができないとする 法律上の根拠がないこと
(2) 耐震性が一定基準以下になれば建物を解体しなければならな いとする法律上の根拠がないこと
(3) 消防法の改修等の命令(第五条)、使用禁止等の命令(第六 条)がない。
(4) 建築基準法の保安上危険な建築物等に対する措置(第一〇条) 除却、改築、修繕、使用制限などの措置がなされていない。
(5) そもそも、想定した地震がいつ来るのか、そのとき建物が倒 壊するのか、倒壊するとしてもどのような態様で起こるのか証 明することは困難であること
(6) UR機構が行ったとする耐震診断及び検討した耐震補強工事 の内容が正当なものか。耐震補強工事を選択することができず、 解体以外にないこと証明できるのか
(7) 耐震診断の調査資料及び改修方法の検討資料を公開すべき
四 UR機構の本当の狙いは
(1) これまでの改修方針からなぜ除却の方向に転換したのか
(2) 更地にした跡地の利用・処分計画はどうなっているのか=建 替えは予定しているのか、民間への処分か
(3) 耐震性問題は口実
五 住み続けるために
(1) 自分の権利を認識しよう
(2) 対象棟の居住者の団結
(3) 自治会の取り組み
(4) 他の対象団地との連携
(5) 広く社会に訴える
市民問題委員会 担当事務局次長 町 田 伸 一
UR住宅の解体・更地化による明渡し問題が発生しており、自由法曹団宛に法律的支援の要請がなされています。
そこで、市民問題委員会では、左記のとおり、本問題の説明会を行います。榎本武光団員(東京支部)と「国民の住まいを守る全国連絡会」(住まい連)代表幹事の坂庭国晴さんから、本問題の事実関係と法律問題をご説明頂き、当事者である団地居住者の方々からも実態をお話し頂く予定です。
現時点で明らかにされている対象団地は、東京都日野市高幡台団地、千葉市美浜区幸町団地、春日部市武里団地及び熊本市武蔵ヶ丘団地の四団地のみですが、URによれば、対象団地は全国で八都道県の一七団地に上るとのことです。まだ明らかにされていない団地が一三あることになり、今後、全国に波及していく問題と思われます。東京、千葉、埼玉及び熊本の各支部団員を始めとして、多数のご参加をお願いします。
なお、説明会終了後には懇親会を予定していますので、こちらにも、ぜひ、ご参加下さい。
記
と き:一〇月一日(水)午後六時三〇分から午後八時三〇分まで
ところ:自由法曹団本部