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坂本 雅弥 都議、都教委らの違法性を認めた 七生養護学校事件判決
田中  隆 ブッシュ・ドクトリン+統帥権の独立……海賊対処法案が描き出す国
篠原 俊一 視覚障害を持つ人たちと裁判員制度
田井  勝 三・一九 NECの事業場における早朝宣伝活動について
伊須 慎一郎 三・一三大量解雇阻止対策本部 第一回全国会議のご報告
倉持  恵 三・一三大量解雇阻止対策本部 第一回全国会議に参加して
松本 育子 三・一三大量解雇阻止対策本部 第一回全国会議に参加して
大量解雇阻止対策本部・労働問題委員会 雇用と生活を守る相談活動をさらに大きく広げよう―ブックレット普及のお願い



都議、都教委らの違法性を認めた

七生養護学校事件判決

東京支部  坂 本 雅 弥

一 はじめに

 三月一二日、東京地裁で七生養護学校事件の判決がありました。この裁判は、東京都日野市の都立七生養護学校で実践されていた性教育に対する都議、都教委らによる政治的な不当介入が、旧教育基本法一〇条の「不当な支配」にあたるか等が問題となりました。本稿では、この七生養護学校事件について、報告をさせていただきます。

二 七生養護学校で行われていた性教育

 知的障がいのある子どもは性的知識が十分に認識できないために性被害の対象となる危険があり、また問題行動を起こしてしまうことがあります。また、排泄方法を認識できていないと衛生面の問題も生じます。そのため、障がいのある子に対する性教育はとても重要です。

 同学校の性教育は、教師たちが子ども達の実態に目を向け、保護者と共に試行錯誤しながら作り挙げていったものでした。一例を挙げると、同学校で実践されていた「からだうた」は、性器も含めた身体の部位をメロディーあわせて歌い、体が頭、首、手足ととつながりのあるものと捉えにくい知的障がいのある子どもにボディーイメージができるように工夫された教育です。このような同学校の性教育は校長会が主催する研修などに取り上げられる等高い評価を受けていました。ところが、二〇〇三年になり、同学校の性教育は不当な介入を受けることになります。

三 「こころとからだの学習」に対する政治的介入の経緯

 同学校への不当介入は二〇〇三年七月二日に行われた都議会の一般質問において、ある都議が同学校の性教育内容を「不適切な性教育」と指摘したことに端を発します。その二日後の七月四日には都議ら都教委らが産経新聞記者を伴わせ、「視察」と称し突然七生養護学校に訪れました。そして、都議らは七生の性教育で用いられている教材や教育について、「あなた『からだうた』を宴会で歌えるんですか。感覚が麻痺しているよ」など一方的に同学校の性教育の内容を批判、非難、侮辱し、都教委は教材を没収していきました。

 また、この翌日の産経新聞には同学校で行われていた性教育について「過激な性教育」「まるでアダルトショップのよう」など報じました。

四 提訴、そして判決

 本件事件後、都教委らの行為は許されないと訴える五〇〇〇名を超える市民等が申立人となり、東京弁護士会に対して人権救済の申立を行いました。そして、二〇〇五年一月二四日、東京弁護士会は都教委に対し、子どもの学習権及び教師の教育の自由を侵害するとして、没収した教材の返還と不当な介入をしてはならないことを内容とする「警告」を出しました。

 その後、二〇〇五年五月一二日に本件提訴を行いました。原告は同学校の教師、保護者たち三一名。原告らが求めた内容は、(1)東京都、都議、産経新聞社に対する損害賠償、(2)東京都及び都教委に対する没収した教材の返還請求、(3)同学校の性教育を「不適切な性教育」等と報道した産経新聞社に対する謝罪広告です。

 東京地裁の判決は、(1)損害賠償について、都議ら及び東京都に対して賠償責任を認めました。

 判決は、都議らが突然同学校を訪れ、同学校の性教育に対して一方的に批判、非難した行為は政治的な主義、信条に基づき同学校の性教育に介入・干渉したものであり、教育の自主性を阻害し歪める危険があるとして旧教育基本法一〇条の「不当な支配」にあたるとしました。また、都教委には、都議らの「不当な支配」から個々の教師を保護する義務があるところ、都教委らは都議らが行った政治的な介入を放置したことについて「保護義務違反」があるとしましました。

五 これから

 本判決は都議らや都教委らの違法性を認めた点で評価できる判決です。ただ、上記(2)教材の返還や(3)産経新聞社の謝罪広告が認められなかった点など内容的に不十分な点もあります。本原稿執筆時点では今後の方針について検討中ですが、団員の皆さまには今後とも本裁判に対するご支援をいただけますよう、よろしくお願いいたします。



ブッシュ・ドクトリン+統帥権の独立

……海賊対処法案が描き出す国

東京支部  田 中   隆

一 海賊対処法案の「哲学」

 「さざなみ」と「さみだれ」の二隻の護衛艦がソマリア沖に向かった三月一四日、政府は海賊対処法案を提出した。法案は四月一四日に審議入りとされている。

 ソマリア沖派兵と法案については、意見書「ソマリア沖派兵と海賊対処法案に反対する」で全面的な検討・批判を加えており、この問題が投げかける憲法問題については、五月集会特別報告集原稿「ソマリア沖海賊問題と『非対称の戦争』」で解析を試みた。

 本稿は、そうした検討作業をふまえて、この法案のはらむ構造的な問題をスケッチしたものである。

 法案は、わずか一三条からなるまことに簡素な派兵法案で、いささか稚拙で粗雑な立法の印象すら受ける。だが、その簡素な法案は「おそるべき牙」を秘めている。

 法案の「哲学」は次のようなもののはずである。

 軍事・戦争の世界でやればたちどころに憲法違反になるものを、治安・犯罪の世界に移してやってしまう。だから、憲法との整合性などに気を配る必要はなく、余計な議論をうまないためにも法案はできるだけ簡素にする。

 憲法九条で厳しい制約を受ける軍事や戦争を、異論が出にくい治安と犯罪の世界におきかえようとする概念操作であり、軍事と治安の障壁が低くなる「非対称の戦争の時代」ならではの着眼と言わねばならない。

二 構造と問題点

 法案は、

(1) 一条で目的を定め、
(2) 二条から四条までで、海賊行為を定義して海賊罪を新設し、
(3) 五条、六条および八条で、自衛隊や海上保安庁の権限を規定し、
(4) 七条で、自衛隊の「海賊対処行動」の手続を規定し、
(5) 九条(我が国の法令の適用)、一〇条(関係行政機関の協力)、一一条(国等の責務)、一二条(国際約束の誠実な遵守)、一三条(政令への委任)の総則的規定をおく

だけのものである。問題点を簡単に指摘する。

a 目的(一条)

 この国の「海上輸送の用に供する船舶の安全」と「海上における公共の安全と秩序の維持」の「二本立て」。治安・犯罪を押し出すことにより、経済利権の擁護と世界の海の治安維持を公然と目的に掲げたことになる。海軍とは、そもそもの成り立ちからして通商のための制海権の確保を目的にした軍隊であり、利権擁護や治安維持が軍事目的であることは、ことさら置き去りにされている。

b 海賊行為と海賊罪(二〜四条)

 目的犯を含めた広範な行為類型の海賊行為を規定し、もっとも軽いものでも「三年以下の懲役」の海賊罪を新設する。対象の船舶に日本関係船舶の限定はなく、地理的限定や期間の限定も存在せず、対象海域の公海には排他的経済水域まで含んでいる。その結果、海賊掃討と銘打ちさえすれば、いつでも、どこででも、他国の艦船との共同作戦が展開でき、沿岸国の領海寸前まで進行して危害射撃や船体射撃(後述)ができることになる。

c 護衛艦の武器使用(五、六、八条)

 まず、警職法七条の準用で人に危害を与える射撃(危害射撃)を可能にする。海賊罪の刑罰は「三年以下の懲役」以上だから、「抵抗」や「逃亡」をはかれば危害射撃が可能になる(正当防衛・緊急避難の要件は必要がない)。

 次に、海賊船が民間船舶に接近を続ける場合には、停船させるための射撃が認める。機関部を狙って発砲するこの船体射撃には、危害射撃と違って「抵抗」や「逃亡」の要件は必要ない。

 これらはいずれも、海賊船の攻撃を受ける前に行なえるから、先制射撃以外のなにものでもない。護衛艦が装備する速射砲や多銃身機関砲(ファランクス)が、漁船改造の海賊船に掃射を加えたときに発生する事態は、説明するまでもあるまい。

d 軍部への権限集中と国際約束への従属(七、一〇、一二条)

 海賊対処出動の発令には国会承認も閣議決定も必要なく、防衛大臣が内閣総理大臣の承認さえ受ければいい。しかも、緊急の場合には、その承認さえ不要で通知だけでいい(七条)。関係する行政機関(国土交通省や外務省など)には、海賊対処について防衛大臣(および海上保安庁長官)に協力する義務が課せられる(一〇条)。これでは、海賊問題や海賊対処は、国会や内閣の権限を排除して防衛大臣(=軍部)の専権のもとにおくと言っているに等しい。その軍部が約束させられるただひとつのものは「国際約束」(一二条)、わざわざ書き込まれたこの規定が、「新ガイドライン」をはじめとする日米の「軍事約束」であることも明らかだろう。

三 犯罪と警察を口実にした九条の迂回

 ほかにもいろいろ問題はあるが、この四つが法案の構造的問題であり、ポイントと考えていい。

 これがなにを語っているかは、四つのポイントを軍事・戦争の場面におきかえてみればたちどころに判明するだろう。「世界の憲兵」として権益擁護を掲げ(a)、世界の紛争に対する軍事介入をためらわず(b)、先制攻撃と共同作戦を旨とし(b+c)、統帥権の名のもとに議会や内閣の関与すら排斥する(d)。ブッシュ・ドクトリンにアジア太平洋戦争に出て行ったころのこの国を重ねた悪夢とでも言えようか。

 真っ向から憲法九条に抵触するから、軍事・戦争の世界ではこんなことは絶対に通用しない。

 では、この道を行こうとする側がこう考えたらどうなるか。

 いまやられている戦争は、古典的な「国対国の戦争」ではなく、テロリストや専制君主などに対する「非対称の戦争」だ。そして、米軍が傀儡政権をつくったあとの、反政府勢力や部族・氏族・宗派、テロリストなどを「敵」にした治安掃討作戦や警護作戦などは、すべて犯罪行為と警察活動で説明できる。

 法案の海上の権益を「すべての権益」に拡大し、陸海空三軍での治安掃討作戦(=安全確保活動)を加えれば、犯罪対処と警察活動を理由に海外派兵恒久法が生み出せる。そうすれば、国民的な支持が強くて明文改憲が困難な憲法九条から、現代的な意味を奪い取ることができるではないか・・。

 だから、海賊対処法案の構造は、それ自体として海外派兵恒久法の「突破口」となる性格をもっている。それは、犯罪行為と警察活動を口実に、九条を迂回して「戦闘ができる国」に道を開く策動にほかならない。

 それゆえにこそ、「『非対称の戦争』の時代の憲法九条」の意味が問い直されねばならないのである。

(二〇〇九年 四月 五日脱稿)



視覚障害を持つ人たちと裁判員制度

大阪支部  篠 原 俊 一

 二〇〇八年一一月、大阪視覚障害者の生活を守る会の事務局長さんから、「裁判員制度のあり方を考える学習会」の講師を引き受けて欲しいという電話をもらいました。私のところにたどり着くまでの間、いろいろと講師要請をされたそうですが、なかなか引き受け手がなく、最後の手段で、自由法曹団の扉を叩いたということでした。なら引き受けなければ団の名折れ、とばかりに、適任は探せばいるだろうと引き受けたものの、結局、二〇〇九年一月一八日に設定された学習会には、私自身が行くしかないことになりました。

 学習会の目的は、主に、間もなく実施される裁判員制度が、視覚障害を持つ人たちにとって、障害を持たない人たちと同等の情報量を保障される制度になっていないのではないか、障害を持たない他の裁判員と同じ条件で裁判員としての役割を果たせるものになっていないのではないか、という疑問に応えるというものでした。ですから、学習会で問われることが、団の意見書に挙げられるような問題点についてではないことは、およそ察しがついたので、質問事項のサンプルを送って欲しいとお願いしました。すると、「視覚障害があるという理由で、裁判員を辞退できるか」、「SPコードでの文章が送られてくると聞くが、それを読むためのスピーチオという機器を視覚障害者の誰しもが持っているわけではなない状況は把握されているか」等々の質問が送られてきました。

 前の質問には答えられても、後の質問に応えることは難しいので、京都の竹下義樹先生に協力を求めたり、大阪地裁の裁判員制度の係に電話をしたりして、サンプル質問に対する回答を一応用意しました。そして、学習会当日に配るためのレジュメ〜内容は、「裁判員選任手続」、「公判手続(冒頭手続・証拠調べ手続き・弁論手続)」、「評議」、「判決宣告」という、手続きの流れに沿って、視覚にハンデがある場合の手当がどれだけなされているか、を話すための枠組みを記したもの)〜を作成しようと決めました。

 私の視覚障害者を持つ人たちへの無理解から、「こちらでコピーして、当日持って行けば良い」と思っていたところが、点字に訳す必用から、前日までにとの連絡をもらい、慌てて、レジュメを作成して、データを送り、何とか点訳に間に合わせました。

 こんな私が講師をするなど、本当に失礼な話ではあったのですが、当日は二〇人の方が学習会に参加してくださいました。

 私はレジュメに書いた手続きの流れに沿って、視覚障害のハンデを手当てする方法がどのくらいあるのか、説明しました。結論を言ってしまうと、呼出状、起訴状以外は点字の提供が予定されておらず(冒頭陳述、論告、弁論が書面で配られる場合でも、点訳はされず、法曹三者による口頭の説明で、理解してもらうというのが基本的な方針です)、視覚障害を持つ人たちにとって、他の裁判員と同等の情報を得られるかというと、それはかなり難しいというものでした。

 学習会の中で、参加者から、「選任手続で、宣誓書に署名、押印する際、字の書けない者はどうするのか、書記官が宣誓者の手を持って、半ば無理矢理書かせるとすれば、それは屈辱的だ」という意見、視覚障害者が参加して評議したこと自体で、批判の対象になることを理論的にどう防御するかが大切だ等の意見が出されました。

 極めて、不十分な私の話でしたが、これをきっかけに、今後とも継続して、勉強しようということで、何とか学習会を終えることができました。

 今回は、視覚障害を持つ人にとっての学習会でしたが、同じことが聴覚障害など他の障害を持つ人たちにもあてはまります。裁判員制度が国民の司法参加である以上、ハンデを持った人の参加も当然予定すべきであり、そうである以上、被告人の運命を左右する判断の前提となる情報をハンデを持たない人と同様に保障されることが必用なのですが、現実にはそうなっていないということを私自身が学ぶ機会になりました。



三・一九 NECの事業場における

早朝宣伝活動について

神奈川支部  田 井   勝

 平成二一年三月一九日、神奈川支部の弁護士を中心として、川崎市中原区のJR向河原駅前にあるNEC玉川事業場前において、同社から解雇、雇い止めの通告をされた方を対象として、団神奈川支部、神奈川労連作成のリーフレット「事実、それは違法です」を配布し、また演説などの宣伝活動を行いました。

 当日は、神奈川支部の弁護士一一名、事務局員四名、組合や民主団体の運動体一〇名が、朝七時三〇分から活動を行いました。

 非正規、派遣社員の方を中心として、多くの方がリーフレットを受け取ってくれました。また、仕事の始業前とあわただしい中、多くの方が、我々の演説に足を止め、聞いてくれました。結果として、我々が用意していたリーフレット五〇〇部は、四〇分足らずで配布を終わりました。

 また、いすゞ期間工従業員であり、現在、横浜地裁で解雇無効の仮処分申立中の三浦康範さんも、この活動に参加しました。彼自ら、拡声器を持ち演説を行い、会社による解雇の不当性を訴え、「ともに闘おう」と呼びかけました。実際に解雇された人の発言であり、大変説得力のあるものであって、多くの人が足を止めて熱心に聞いておりました。

 宣伝後、NECで働く数名の期間工、派遣社員の方から、我々に電話相談等が来ています。

 今後、彼らと相談し、実際に、裁判等で争っていくことになります。 ちなみに、昨年末にいすゞ藤沢工場前、今年の二月に日産追浜工場前等でも同様の宣伝活動を行い、その中で、我々のビラを受け取った数名の労働者が現在、解雇無効の仮処分等で会社と闘っています。

 昨年末のいすゞによる期間工、派遣社員の解雇の後、今年三月末には、多くの自動車メーカー等で、大量の期間工、派遣社員の解雇、雇い止めがなされております。しかしながら、解雇、雇い止めされた労働者、特に派遣社員の多くの方は、会社と闘うことをあきらめ、別の新たな就職先を探している状況にあると聞いています。

 今回のリーフレットは、解雇等の通告を受けた労働者に対し、今回の会社の行為が違法であることを訴えています。団支部の弁護士や組合が、出来るだけ多くの労働者にこのリーフレットを配布し、労働者は会社と闘える方法がある、ということを伝えたいと思います。

 今後また、近日中に、同様の宣伝行動を行う予定です。眠い目をこすりつつ、私もまた、参加できればと思います。



三・一三大量解雇阻止対策本部

第一回全国会議のご報告

事務局次長  伊 須 慎 一 郎

 三月一三日、団本部で大量解雇阻止対策本部:第一回全国会議が開催されました。関東一円のみならず、岡山、京都、岐阜、福島からの団員のみなさまの参加や、全労連の井上事務局次長、首都圏青年ユニオンの川添書記長など総勢三〇名の参加があり、四時間を超える活発な議論・報告がなされました。

 その状況を簡単にご報告します。

一 労働局への直接雇用を求める申告運動について

 団本部では、ホームページ上に労働局への申告書のひな型を掲載するなど、労働者の要求があれば積極的に申告活動を行うことを提起しています。この点について、全労連の井上事務局次長から、現状では、解雇後の申告に対し、労働局は指導を行わないようであり、突破すべき問題だとの指摘がありました。大多数の労働者からの相談が解雇後であることからすると、解雇後は指導しないということでは派遣法四〇条の四の存在意義が失われます。

 この問題点については、この間の常任幹事会でも議論になり、解雇前の労働者と解雇後の労働者が一緒に申告をすることにより、何とか指導を引き出すなどの工夫が必要であるという意見も出されています。

 また、解雇前の申告については、滋賀労働局や兵庫労働局から派遣先に対し、直接雇用を促す是正指導を行ったことが報道されています。この指導を武器に派遣先との団体交渉を通じて直接雇用を勝ち取ることができるはずです。

二 日立メディコ最高裁判決の克服

 鷲見幹事長からは、企業の一〇〇年に一度の大不況論や赤字決算に対し、企業が貯め込んだ内部留保金をどのように活用すべきか、また、三月末日での雇い止めに対し、正社員よりも臨時職員を先に解雇・雇い止めの対象とされることを肯定する日立メディコ事件最高裁判決が乗り越えられるべき裁判例であると問題提起されました。非正規労働者の数が飛躍的に増え、大企業の基幹的業務に従事している現状からすれば、臨時職員という形式面のみで正社員よりも先に解雇されるという考えはもはや通用しないのではないでしょうか。この問題について、今後も大量解雇阻止対策会議で議論してゆきます。

三 派遣切りの=即、派遣労働者解雇は×許されない

 大企業が派遣切りを強行した際、派遣元は派遣労働者を派遣する先がなくなることから、「派遣先に対する指針」を参考に、派遣会社と派遣労働者の間で、三〇日分の賃金を派遣先が派遣労働者に支払うことを合意した場合には当該「解雇」に「やむを得ない事由」があるという主張があります(安西愈著「新版 労働者派遣法の法律実務下巻七九三頁)。裁判において派遣会社はこの主張を繰り返します。

 しかし、この見解は、(1)登録型派遣の場合、派遣契約が打ち切られても直ちに雇用契約終了に結びつくものではなく、雇用期間が満了するまでは労働者と派遣会社の間に雇用関係が維持されるという一九八五年四月一六日の社会労働委員会における加藤孝労働省職業安定局長の答弁に反すること、(2)厚生労働省が二〇〇八年一二月一〇日に発表した「労働者派遣契約の中途解除等の対応について」における「登録型派遣のような、派遣労働者と派遣会社との労働契約が有期労働契約の場合には、やむを得ない事由がなければ、契約期間中に解雇することはできません。期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断されます。」とする通達にも反することから完全な誤りであることは明白です。

 また、対等でない労使間に安易に合意を持ち込む点でも誤っています。

 したがって、派遣切り=即、解雇の事例は許されず、派遣労働者がたたかえばよほどのことがない限りは勝てることが確認されました。

四 その他各地からの報告

京都支部からは、「事実、それは違法です。」のリーフレットを利用した取り組みが報告されました。京都支部の積極的な活動は神奈川支部、埼玉支部にも広がっています。

 岐阜支部からは、ブラジル人労働者が多く通訳がいないと実態をつかみにくいという実情や、若手団員による中途解雇事案の仮処分申し立てや、大規模な非正規切りによって住まいと職を同時に失った人たちを支援する「ぎふ派遣労働者サポートセンター結(ゆい)」の活動報告がありました。

 三多摩からは、約二万六〇〇〇人の非正規労働者の解雇が予想されており、労組、地方議員、消費者団体、医療組織などが協力して青空相談会を開催していることなどが報告されました。

 神奈川支部からは偽装請負に対し、神奈川労働局へ集団申告を行った報告がありました。首都圏青年ユニオンの川添書記長からは、解雇を争っている場合、寮を立ち退く必要はなく、住み続けられることをもっと知らせるべきだとの指摘や、全労連の井上事務局次長から地域ぐるみで支える体制がないと派遣先の責任追及まではなかなかいかないという実情が報告されました。

 その他にも、松下PDP大阪高裁判決の射程につき議論があがったり、日本郵便運送株式会社を派遣先とする派遣労働者五名が会議に参加し、違法派遣を隠ぺいするために雇い止めされそうであるが、たたかうという報告などもあり、非常に盛りだくさんでした。

 最後に、松井団長から憲法二七条を踏まえたたたかいが大事であるという提起と、鷲見幹事長から、ブックレット「なくそう! ワーキングプア」の普及と活用や、国民ぐるみの総反撃が必要な時期であり、若手団員だけでなく、ベテラン団員も積極的に非正規労働者の大量解雇問題にかかわってほしいと提起がありました。 

六 大量解雇阻止対策会議

 第一回全国会議で議論された内容は、五月集会においても、議論されることになります。全国各地の団員のみなさまには、労働局への申告事例、直接雇用を求める訴訟、各地の相談会などの実践例を、ドシドシご報告いただきますようお願いします。



三・一三大量解雇阻止対策本部

第一回全国会議に参加して

福島支部  倉 持   恵

 二〇〇九年三月一三日、大量解雇阻止対策本部第一回全国会議が、東京で開催されました。私のいる福島は、昨年末の「非正規労働者の雇止め等の状況について」と題する厚生労働省報告の中で、非正規労働者の失職数が全国第三位という非常に不名誉な烙印を押され(本年二月末の同報告では、幸か不幸か全国五位に転落しました。)、本年三月末までに相当数の労働者が失業するという状況にあります。そのような環境に、ほんの一握りの関心と自らの置かれた立場(現在、次期東北弁連大会のシンポ講演部会員として、この種の問題を研究している(せざるを得ない?)立場に置かれている)が私の背中を後押しして、今回、はるばる福島から参加致しました。

 会議では、松井団長からの挨拶に続き、鷲見本部長、伊須次長、全労連・井上事務局次長から大量解雇の現状と対応策、現在の運動状況等についての報告がありました。中途解雇については丁寧な理論面の検証に加えて、証拠の集め方から訴え提起後の戦い方まで実践的な指南があり、大変勉強になりました。中でも、「派遣元は、和解したがっている。」との鷲見本部長の発言は、非常に興味深いものがあり、今後、裁判や交渉を行うに当たっての重要なヒントを得た気がしました。

 その後、各出席者から全国各地の活動や状況について報告がありました。東京や京都等の各団員の活躍には、いつもながら圧巻され、感銘を受けておりました。そうしたところ、今回は、地方の団員からもかなり積極的な活動や裁判が行われているとの報告があり、これはのんきに感銘を受けている場合ではないと大変な刺激を頂きました。

 今後、ますます頑張ろうという気持ちを胸に福島へ戻りましたが、私のところには、これまでこの類の相談はなかったため、実際にこれらの情報が役に立つのは、もう少し先の話と、実は少々、高をくくっていました。そうしたところ、本会議への出席が運を引き寄せたのか、福島へ戻るや否や、私のところにも、とうとう派遣切りの相談がやってきたのです。派遣先は、あのパナソニックであります。派遣労働者は、本年四月での雇止めを通告されていますが、偽装請負期間と派遣労働期間を通算すると、優に三年を超えているため、直接雇用をパナソニックに要求したいということでした。現在、県労連を中心にして、パナソニックへの直接雇用申入や労働局への申告の準備等を行っていますが、派遣元がともかく邪魔をします。派遣先であるパナソニックと交渉をすること自体が難航している状態です。

 「派遣元は和解したがっている」・・・鷲見本部長の言葉を、こんなに早く肌で感じることになろうとは、思いも寄りませんでした。と同時に、まだ先のことと、軽い気持ちで聞いていた会議での報告や議論、それに頂いた資料が今、非常に役に立っており、はるばる地方から参加してよかったなあ、という思いでいっぱいです。今回の会議では、私は勉強させていただく一方でしたが、次回、参加するときには、多少なりともフィードバックできるように、今はともかく精一杯、パナソニックと戦ってみたいと思います。



三・一三大量解雇阻止対策本部

第一回全国会議に参加して

神奈川支部  松 本 育 子

 二〇〇九年三月一三日、自由法曹団本部において、大量解雇阻止対策本部の第一回全国会議が開催されました。昨今の厳しい景気情勢をふまえて今年三月末に確実に予想される有期契約労働者の大量解雇ないし雇止めを阻止し、労働者の権利を守るという目的を実現するため、全国から多くの団員弁護士や労働組合のメンバーが参加し、会議室は活気に溢れていました。

 松井団長の「われわれに今、何ができるか探っていきたい。」という力強い挨拶に引き続いて、鷲見本部長からは、現在の企業や雇用を取り巻く情勢把握、労働局への申告活動、違法派遣に対する対処における今後の課題について、非常に示唆に富んだ指摘がなされました。

 「日立メディコ最高裁判決。この判例は、絶対に乗り越えなければならない。」鷲見先生のこの言葉は、私の心に強く響きました。日立メディコ最高裁判決は、有期契約が期間の定めのない労働契約に実質的に同視することができない場合でも、雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性がある場合には、解雇権濫用法理が類推適用されることを認めています。

 しかし、解雇権濫用法理が類推適用される場合の雇止めの効力を判断する基準においては、「いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結している本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべき」として、期間の定めのない従業員についての人員削減に先立ち、臨時工員の雇い止めが行われてもやむを得ないと判断したのです。

 この日立メディコ判決の論理によって立つ限り、現在の雇用環境から、労働者の正当な権利を守ることは非常に厳しいと言わざるを得ません。だからこそ、今まさに労働者を取り巻く雇用環境や経済情勢の急激な変化を現代的変容として主張し、私たちの手で判例法理を変えていく必要があるのだと実感しました。

 伊須次長による問題提起のなかにも、労働契約法一七条一項の「やむを得ない事由」は、労働契約法一六条の要件よりもはるかに厳格なものであるという点の再確認や、整理解雇の四要件における人選の合理性要件の解釈の仕方については抜本的な再考が必要であるというお話があり、非常にためになりました。

 このような問題提起のほか、労働者の権利を守るために現在全国各地で行っている取り組みの報告が行われ、参加者全員で現状に対する問題意識を共有することができました。大量解雇の動きは、既に現実のものとなっています。神奈川支部でも、弁護士、労働組合との連携により対策会議をもち、弁護団を結成するなどして、迅速に適切な手段を講じることができるよう行動を始めています。私も弁護団に参加していますが、今後、一人でも多くの労働者の力になれるようさらに力を尽くしてゆきたいと思いました。



雇用と生活を守る相談活動をさらに大きく広げよう

―ブックレット普及のお願い

大量解雇阻止対策本部・労働問題委員会

 戦後最悪ともいわれる経済環境の中で、大量の労働者切りが行われています。厚労省は、三月三一日、昨年一〇月から今年六月までに職を失う非正社員の数が一九万二〇六一人に上ると公表しました。一方で、正社員に対する希望退職募集や倒産による失業も急速に増加しています。大和総研の試算では、今年一二月末までに正規・非正規あわせて二七〇万人もの人が失職する可能性があるとされています。

 労働者の雇用と生活を守る取組みが急務です。団の総力を上げて取り組む時がきています。大量の労働者切りを阻止するためには、まず、非正規切りをはじめとする乱暴な解雇は現行法や現在の行政指導・判例等において許されていないということを知ってもらうのが決定的に重要です。そのための相談活動が求められています。

また、非正規労働者の労働相談は生活問題に直結しています。労働条件が劣悪なため十分な蓄えがなく、職を失うと住む場所がなくなり、雇用保険や社会保険にも未加入というケースがほとんどだからです。生活費や子どもの教育のためにサラ金などから借金をしている人もたくさんいます。こうした労働者の生活を守るためには、労働相談と同時に、生活保護や借金整理の相談に応じることが必要不可欠です。

 団は、こうした相談活動に役立ててもらうために、ブックレット「なくそうワーキングプア―労働・生活相談マニュアル―」を作成しました。この本は、今まさに問題となっている「非正規労働者の権利」や「生活保護の受給権確保」等に焦点をあて、Q&A方式でわかりやすく解説したものです。

 全国で雇用と生活を守るための相談活動が急速に立ち上がっています。活動への参加を希望するボランティアの方も非常にたくさんおられます。そうした方々にとって役に立つ一冊となること請合いです。相談活動のいっそうの広がりのためにも、是非、このブックレットを大きく普及させていただくようお願いいたします。

四 ブックレットは学習の友社

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