<<目次へ 団通信1331号(1月1日)
団 長 菊 池 紘
みなさんはどのように新しい年をお迎えですか。
わたしは信州野沢温泉の熱つぅいお湯を我慢し、スキー場の深い雪の中に埋まっています。毛無山の頂上から広がるやまびこゲレンデを、カービング大まわりで雪面を彫る(カーヴする)快感に身を任せて舞い上がっています。ゲレンデを囲むブナ林の霧氷はいま白く光り輝き、その繊細さは比類がありません。
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雪の山を下って俗世に戻ると、一月の常任幹事会は沖縄です。
三党連立政権の「政策合意」は「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、日米再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向でのぞむ」とし、普天間基地の辺野古移設計画の見直しを公約しています。辺野古に新基地の建設を許さず、普天間基地の無条件返還を求めることこそ、唯一の解決の道です。
また登録型の原則禁止、製造業派遣の全面禁止、違法派遣の「みなし雇用」、均等待遇など、派遣法の抜本的な改正が求められています。歴史的な自民党政権の崩壊から三か月、あたらしい年を大きな前進のときにしたいものです。
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他方で、民主党のマニフェスト「衆議院比例代表定数八〇削減」は、構造改革や自衛隊海外派兵を否定する共産党と社民党が広範な国民とむすびついて、一定の影響力を保持したことから、これを排除しようとするものです。削減を許し、社民党と民主党の選挙協力がなくなれば、得票率一一パーセントで八〇〇万票を得る共・社両党の一六議席はわずか四議席になります。構造改革に反対し、九条改憲を許さない政党を存在させまいとする意図を、許してはなりません。
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今年は現行安保五〇年です。普天間がアフガン戦争やイラク戦争など殴りこみ部隊・海兵隊の基地となっていることは日米安保条約に違反していますが、無条件に普天間基地を返還させることは、日米同盟・安保絶対論のくびきにぶちあたる課題です。
またこの年八月二二日は「韓国併合」一〇〇年にあたります。「植民地支配の完全な清算と歴史認識の共有を目指す『併合』一〇〇年日本委員会」が各地で集会をもちますので、その企画に協力願います。「坂の上の雲」がNHKから三年にわたり放映されますが、日露戦争を描くなかで、誤った歴史観を広げるおそれがあります。「日本は維新によって自立の道を選んでしまった以上、すでにそのときから他国[朝鮮]の迷惑の上においておのれの国の自立を保たなければならなかった。日本は、その歴史的段階として朝鮮を固執しなければならない」と司馬は書いています。そして、閔妃・明成皇后を殺害したことなど、なにも書かなかったのです。
この年が皆さんにとってよい年になりますように。
愛知支部 宮 田 陸 奥 男
一 はじめに
平成二一年一二月四日、名古屋地裁刑事三部(堀内満裁判長)は、被告人S氏に対し無罪判決を言い渡した。この事件は、平成二〇年八月一三日逮捕されたS氏が、一旦略式命令で罰金刑を受けた後、これを不服として正式裁判請求をした結果、簡裁から地裁へ移送された事件である。
二 事件の概要
平成二〇年五月二九日、タクシー運転手のS氏は、春日井市内で深夜若い女性(仮にAと呼ぶ。あとで一六歳の高校生と判明)を乗せ、目的地の小牧市の自宅近くまで送り届けた。この間約二〇分間であったが、Aは酔っ払っており寝込みそうだったので、S氏はいろいろ話しかけたところ、Aは「いままで彼氏とエッチをしてきた」などと話した。そしてAは「タクシー代が足りないので貸してくれないか」と言ってきた。S氏はAの身なりや言動から、Aがキャバクラ勤めの女と思い込んだ。これまでも同様なケースで、タクシー代を貸したことがあったので携帯電話番号を聞き、確認した上で、貸すことにした。S氏は、自動販売機のある所で停車し金を渡し、ジュースを買うようAにすすめた。すると、Aはいったん車外に出て自販機に向かったがすぐに戻り、「早く帰らないと母に叱られる」などと言って、自ら助手席を開けて乗り込んできた。S氏はあと一〇分もすれば目的地だと考え、そのまま発進し、目的地まで走り、タクシー代を精算してAを降ろした。
三 デッチ上げ
Aはその男友達と共に、その日の午後、タクシー会社に乗り込み、「おたくの運転手にセクハラをされた。どうしてくれる」とねじ込み、相手にされないとみるや、警察へ被害申告した。捜査当局は、Aの申告を真に受け、S氏がタクシー車内でAに対し性交類似行為を行なった(Aに口淫させた)、との被疑事実でこれを立件し、事件から二ヵ月半たった八月一三日に、児童買春禁止法違反でS氏を逮捕した。S氏としては、事件直後、Aの父親から電話があり、この件の被害申告を取り下げるとのことであったので、もうすんだことと思っていたので、逮捕はまったく青天の霹靂であった。S氏は、当初否認していた。しかし、初めての勾留体験と捜査官の脅しと自白強要、利益誘導(酒気帯び運転で罰金刑になったと思えばよいなど)に負け、ついに八月一五日全面自白に追い込まれた。そして、略式罰金を受け、釈放された(八月二一日)。しかし、これに納得がいかないS氏は、弁護士に依頼し、正式裁判を請求した。
四 弁護側から公判前整理手続を申立
地裁では、弁護側から公判前整理手続に付すよう申し立てた結果、平成二〇年一〇月一〇日公判前整理手続に付された。そこで、検察官は同年一〇月二四日、証明予定事実記載書面とともに請求予定証拠を開示した。それは、Aの検面調書一通とAの男友達の警面調書一通、S氏の検面調書一通と警面調書二通および捜査報告書五通などであった。なお、Aの検面調書は、S氏が正式裁判を請求した後の九月四日に作成されたものであった。
五 証拠開示と公判前整理手続期日
弁護側は、同年一一月七日と一二月一二日、類型証拠開示請求をおこなった。その結果、Aの警察調書四通とS氏の弁解録調書(二通)、勾留質問調書、警面調書と自供書の五通、取調状況報告書六通などが開示された。開示された証拠を分析すると、Aの警察段階の供述調書はその内容がくるくると変遷しており、また客観的な証拠(タコグラフや乗務日報等)と矛盾するものであった。またS氏が弁録や勾留質問段階では否認していたが、八月一五日に「自供書」なるものに署名させられた結果、自白においこまれたという経過も明らかとなった。
弁護側は、平成二一年一月二一日、予定主張記載書面(この段階では主張の骨のみ)を出すと共に、主張関連証拠(Aの取調に関して作成された捜査官の取調メモなど)開示を請求した。しかし、検察官はこれらの証拠はいずれも「存在しない」という回答で開示しなかった。そこで弁護側は、前記事件の概要で述べたような被告人側の事件についての「物語」を予定主張記載書面にまとめ提出した(三月一一日)。そのうえで再度の主張関連証拠開示請求を行い、Aの被害届やAの父親の供述調書や捜査官のメモなどの開示を請求したが、いずれも「存在しない」という回答であった。
以上の証拠開示請求手続と併行して、公判前整理手続期日が平成二一年二月一二日から六月一九日にかけて合計五回開かれた。その結果、本件の争点が(1)性交類似行為の有無、(2)対償としての金銭交付の有無、(3)Aの年齢が一八歳未満であったことをS氏が認識していたかどうか、の三点であることが確認された。またS氏の自白調書(検面)の任意性がもう一つの大きな争点であることも確認された。
六 公判
公判は八月から九月まで三回に渡って証拠調期日が開かれ、A及びその男友達、Aの父親の三人の証人調に続き、被告人質問が実施された。証拠調では被告人質問とAの証人尋問がヤマであった。被告人質問では、逮捕直後からの警察のS氏に対する自白強要の実態が明らかとなった。ただS氏が途中で否認を断念し、検察官に対しては「あんたの好きなように書いておいてくれ」という態度を取ったため、検面調書の任意性は認められてしまい、証拠採用されてしまった。
Aの証人尋問では、検察官は警察段階の供述を維持することは困難と判断したのか、問題の行為の行なわれた場所や時間を「平成二〇年五月二九日の午前一時五五分から二時〇六分の間、春日井市××町から小牧市○○町間でのタクシー車内において」などと概括的な供述しか引き出せなかった。弁護側はAの供述の不自然さを反対尋問で明らかにすると共に、捜査段階のAの供述証拠を刑事訴訟法三二八条の自己矛盾供述(弾劾証拠)として請求し、これを採用させた。
七 判決
判決は、Aの公判供述の信用性を判断するに当たって、(1)被告人の陰茎の特徴、(2)母親から電話のあった時間及びその場所、(3)途中でタクシーが停まった場所、についての捜査段階におけるAの供述を詳細に分析し、その供述が変遷しており、その変遷の理由につき合理的な説明がなされているとはいえないばかりか、その後の捜査、検討後に明らかとなった事情に沿う形で変化している、とし、しかもこれらがいずれも口淫被害と密接に関連する部分であって、この点についての供述に信用ができないことの意味はきわめて重要であるとし、結局口淫させられたというAの供述の信用性には疑いを入れざるを得ないと判断した。またS氏の自白調書についても、Aの供述に整合するように作成されたと推察され、Aの供述が信用できない以上、被告人の供述もやはり信用できないとした。
こうして、裁判所はS氏に対し無罪の判決を下した。この判決は一二月一八日確定した。
東京支部 梅 田 和 尊
一 最高裁判決までの経緯
二〇〇九年一一月三〇日、最高裁判所第二小法廷(今井功裁判長、中川了滋、古田佑紀、竹内行夫裁判官)は、葛飾ビラ配布弾圧事件に対し、全員一致で、弁護人らの上告を棄却し、罰金五万円の刑罰を科した原判決を維持する不当判決を下した。
葛飾ビラ配布弾圧事件は、僧侶の荒川庸生氏が、二〇〇四年一二月二三日午後二時過ぎ、東京都葛飾区のオートロックでないマンションのドアポストに日本共産党の議会報告等を投函する目的で、マンションの三階から七階の共用部分に立ち入った行為が住居侵入罪に該当するとして起訴された事案である。
第一審判決(二〇〇六年八月二八日、東京地裁刑事第一二部大島隆明裁判長)は、「共用部分への立入行為を刑事上の処罰の対象とする違法な行為とすることについての社会通念は未だ確立しているとはいえない」、「被告人のした立入行為は『正当な理由』がないとはいえず、住居侵入罪を構成する違法な行為であるとは認められない。」として、無罪判決を言い渡した。
これに対して、控訴審(二〇〇七年一二月一一日、東京高裁第六刑事部池田修裁判長)は、無罪判決を破棄し、罰金五万円の有罪判決を下した。
弁護団は、上告審において、上告趣意書の提出に続き、上告趣意補充書を一三通提出し、本件が重大な憲法上の権利が問題となっていることから大法廷に回付し、口頭弁論期日を開き無罪判決を下すように求めてきた。
二 最高裁判決の内容
ところが、一一月三〇日に言い渡された判決は、「憲法の番人」、「人権の砦」たる最高裁判所の役割を完全に放棄すると共に、荒川氏、弁護団が訴えてきた種々の主張に全く応えない、極めて形式的かつ杜撰な不当判決であった。
判決は、本件マンションの構造や管理状況等の事実関係を約二頁を割いて認定した上で、「本件マンションの構造及び管理状況、玄関ホール内の状況、上記はり紙の記載内容、本件立入りの目的などからみて、本件立入り行為が本件管理組合の意思に反するものであり」、「本件立入り行為の態様は玄関内東側ドアを開けて七階から三階までの本件マンションの廊下等に立ち入ったというものであることなどに照らすと、法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできず」、住居侵入罪が成立するとした。そして、憲法二一条との関係では、「表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず、本件ビラのような政党の政治的意見等を記載したビラの配布は、表現の自由の行使ということができる。しかしながら、憲法二一条一項も、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって、たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されない」とした上で、本件は、表現手段の憲法適合性が問われているところ、本件立入り行為は管理組合の意思に反し、管理組合の管理権を侵害し、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するので、住居侵入罪に問うても憲法二一条一項に違反しないというものであった。
三 表現の自由と民主主義を護る闘いは続く
最高裁判決は、表現の自由が民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならないとしながら、表現の自由の優越性に基づく人権制約基準を立てることもなく、対立利益との比較考量すら行うこともなく、管理組合の管理権に絶対的な優位性を認めるものである。荒川氏の立入行為が、表現の自由としてどのような意味を持っていたのか、これによりいかなる具体的な被害が生じたのかなど、管理組合の管理権をいかにして「不当に」害したのか、憲法の番人たる最高裁判所が当然に行うべき具体的な検討を何ら行っていない。そして、最高裁判決は、管理組合の意思に反するから住居侵入罪が成立するという極めて形式的な判断を行い、しかも住居侵入罪が成立する、故に憲法上の人権の制約として是認されると判断した。憲法の人権に照らして刑法上の犯罪の成否が決められるべきが、最高裁は、犯罪の成立=人権制約として合理的と判断したのである。最高裁判所が示した法律判断、憲法判断は、事実認定の部分にも及ばない僅か一頁半のものであり、内容も極めて拙劣、杜撰である。
もっとも、最高裁は、七階から三階までの廊下部分に立ち入った事実を強調し、そのことから「法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはでき」ないとしており、本判決は集合ポストに対するビラ配布までをも禁止したものではない。
人権は権力に対する不断の闘いの中から産まれ醸成されてきたものである。憲法一二条も「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」とある。本事件はまさに人権は権力に脅かされ、権力に対する闘いによって成長するものであることを実感させられた事件であった。今後も表現の自由と民主主義を護る闘いを続けていかなければならない。
東京支部 上 条 貞 夫
二〇〇九年一一月二二日、「非正規労働者の権利実現全国会議」(略称・非正規全国会議)が結成されました。これは、日弁連の二〇〇八年人権大会が「労働と貧困」をテーマに非正規労働者の無権利状態の改善を求める提言を全会一致で決議し、その継続的な取組みのために「貧困と人権委員会」が設置されたことから、これに対応する市民団体として、非正規労働問題を抜本的且つ長期的視野に立って解決すべく、非正規労働者の権利の実現を支援し権利拡充を根本的に図るための研究と交流、提言を進める全国会議の結成に至ったものです。
非正規全国会議は、広く市民・労働者の参加を呼びかけ、労働法制、社会保障、年金制度など、労働政策・社会政策を視野においた幅広い議論のための研究・交流・提言を行うこと、そのために従来の労働運動、関係弁護団、日弁連委員会とも連携を深めることを目指しています。まさに時宜を得た新たなステップで、一一月二二日の結成総会のシンポジウムは、パネラーに労働法の脇田滋教授と西谷敏教授とともに社会保障理論の木下秀雄教授を迎え、中村和雄団員の絶妙な司会に答えて、各パネラーから、現在の非正規雇用問題の根源に迫って抜本的解決の展望を端的に語る生気あふれる論述が相次いで、会場に居合わせた私自身、かけがえのない新たなエネルギーを授かった思いに胸を躍らせました。派遣切りの最先端を行く原告本人の報告も加わって、総評会館の大会議場は、さまざまな立場の数多くの参加者の熱い思いが一つに融け合う、素晴らしい盛り上がりを示しました。
いま、全国各地で、不法な非正規・派遣切りに対して、人間として譲れない一線を守り抜くたたかいが、数十件の裁判提訴も含めて、団の内外を問わず、とりわけ一番若い世代の数多くの弁護士を中心に、一斉に取り組まれていることは、かつてないことです。古くなった私達の世代も、遅れまじと横一線に並んで論陣を張っていますが、リストラ万能のイデオロギー攻勢に飲み込まれた裁判所の、派遣法万能の超形式論を打破ることは、生易しいことではありません。ふと『自由法曹団物語』の上巻(戦前篇)を思い出しました。民主主義が、ひとかけらもない圧政の暗黒時代に、命がけで勤労国民の人権を守る努力を営々と貫いた、優れた弁護士の先達たち。人間らしく生きる切実な要求を守って運動を組織すると途端に徹底的に弾圧された、あの時代。それに比べると今は違う。どんなにリストラの嵐が吹き荒れても、これに抗して立上る運動が、組織できる。特に非正規労働問題では、既成の運動とともに、ときには既成の運動を超えて、かつてない取組みが、知恵と力を紡ぎ合わせて、前進していることを実感します。その中で、いよいよ、もっと幅広く奥深い、非正規全国会議がつくられました。ここに全国の情報、実践と研究を集約すれば、きっと、嵐に抗して立ち向かう力強いエネルギーが育まれ、そこから全国会議として社会的な力を発揮する新たな運動が展望されることでしょう。
結成総会に参加しただけで、これほどの思いに駆られました。まさに情勢に噛み合った新しい運動を私達が(若手も古手も一緒に)築く、これは半端でない、したたかな展望です。
非正規全国会議は、「本会の目的・趣旨に賛同する学者、法律実務家、市民・労働者で構成する」(規約四条一項)、個人資格の参加ですから、いつでも誰でも加入出来ます。
次回、二〇一〇年一月九日(土)には、さきの最高裁不当判決(松下PDP事件。二〇〇九年一二月一八日判決)を受けて、これを乗り越えるための討議が、大阪で開催されます。是非、多くの方々のご参加を、心からお待ちします。
広島支部 井 上 正 信
はじめに
九条改憲の軌跡と北朝鮮脅威論・・・・・・・・以上本号
北朝鮮問題をどのようにとらえるのか
北朝鮮問題とは何か・・・・・・・・以上次号
はじめに
News for the People in Japan(NPJ)というネット上のメディアがあり、「憲法九条と日本の安全を考える」というコーナーで、二〇〇七年一二月から私の連載が始まっています。URLは次のとおりです。
http://www.news-pj.net/npj/9jo-anzen/index.html
これまで二七回続いていますが、最近の五回は北朝鮮問題を考えるシリーズとなっています。「北朝鮮脅威論をどのように考えるか」、「北朝鮮脅威論を批判する」、「北朝鮮による核開発をどのようにして止めさせるか」、「政治的早産に終わったピョンヤン宣言」、「私たちが目指すもの(実憲のすすめ)」というタイトルです。今回団通信へ掲載されるものはこの一部です。
わたしがこのシリーズを書いたきっかけは、二〇〇九年一〇月六日の日弁連憲法施行六〇周年記念シンポ・パートV「北東アジアの安全と平和を探求するー朝鮮半島の非核化を求めて」に、パネラーとして参加し、発言の準備をしたことです。シンポは、北朝鮮問題をどのようにとらえるのかということから、脅威論、非核化への展望を議論し、北東アジアの平和構築にまで議論が進みました。シンポで議論されたことは、九条を改正するのか、九条による外交政策を進めるのか、日米同盟をどうするのかなど重要な論点に関わるものです。シンポの概要は「自由と正義」誌に掲載される予定です。このシンポで準備した内容を敷衍しながら私なりにまとめたものがこの原稿です。
同年一一月二六日憲法委員会で渡辺治教授の講演があり、渡辺教授は講演の最後で、知識人・弁護士の大きな役割として、対抗する国家構想の具体化、代案提示のイニシャチブを話されました。
五回目の原稿を書き上げたのは、この一一月二六日の憲法委員会への行き帰りの新幹線の中です。渡辺教授の講演は、最後の原稿を書く上で励みとなりました。しかし、対抗する国家構想、代案提示は集団の英知を集めなければなりません。私の書いた内容は極めて初歩的なものですが、団内には関心の深い、一家言をお持ちの団員がいますので、是非皆様で議論を起こしてくださることを期待します。また、改憲反対の学習会などで講師をされる場合、北朝鮮問題を避けて通れません。私の書いたものをお読みいただければ、北朝鮮問題についてそれなりに受け答えできるのではないかと自負しています。不十分な点をご指摘くだされば幸いです。
来年は安保改訂五〇周年です。私たちはそろそろ日米同盟から決別するための具体的な提言を行う必要があるのではないでしょうか。そして今はそのチャンスだと思っています。なぜチャンスなのかは、これから団通信へ連載するものをお読みください。そして是非、NPJの以下のサイトへアクセスして、全文をお読みください。
http://www.news-pj.net/npj/9jo-anzen/index.html
九条改憲の軌跡と北朝鮮脅威論
北朝鮮脅威論は、日本の政治過程の中で長きにわたり、九条改憲の最大の根拠にされてきました。
古くは、三矢作戦計画があります。「三矢」作戦計画とは、「昭和三八年度統合防衛図上研究」の「三八」の語呂合わせです。自衛隊と在日米軍が第二次朝鮮戦争を想定して、指揮所演習を行ったものです。その際日本の国家総動員態勢を作るため、わずか二週間で有事立法を含む緊急事態法を成立させるということを計画したのでした。これがその後に続く有事立法制定の源流となります。
一九七八年一一月には、日米防衛協力の指針(旧ガイドライン)が策定され、福田赳夫総理大臣は有事立法の研究を防衛庁へ命じました。その成果が二〇〇二年以降の有事立法制定に引き継がれます。旧ガイドライン策定後、それを実行するため日米共同の軍事演習が行われるようにもなります。一九八二年一月には、日米間で極東有事と朝鮮半島有事の場合の共同作戦研究に合意しますが、作業は途中で中断します。
一九九四年春には、前年から北朝鮮核開発問題の事態が悪化したため、米国は北朝鮮との戦争を決意して、第二次朝鮮戦争の一歩手前になりました(第一次核危機)。そのときの羽田連立内閣(社会党を含む)の政権合意の中に、米国と共に北朝鮮の経済封鎖を入れました。ところが第二次朝鮮戦争になり、日本が総力を挙げて米軍の後方支援をするための国内法制(有事立法)がないため、有効な後方支援ができないことが問題となりました。このときに有事立法制定の動きがありましたが、カーター元大統領の北朝鮮訪問で、事態が急展開したため、有事立法制定の具体的な動きにはなりませんでした。しかし、このときの経験が、その後の有事立法制定への大きな衝動になっています。
一九九七年に新ガイドラインが策定され、第二次朝鮮戦争(周辺事態)を想定した日米共同作戦計画作りが、日米で合意されました。その後二〇〇一年九月に、第二次朝鮮戦争を想定した日米共同作戦計画五〇五五が日米の制服組の間で調印されます。新ガイドラインを実行するための国内法制として、九九年には周辺事態法が制定されます。米韓連合作戦計画五〇二七(後述)を自衛隊が後方支援するためです。
二〇〇二年一〇月の米朝高官協議以来、北朝鮮のウラン濃縮問題が表面化し、北朝鮮は核不拡散条約(NPT)から脱退宣言を行い、またもや朝鮮半島での危機が高まりました(第二次核危機)。このとき、民主前原衆議院議員、自民安倍・額賀衆議院議員が「敵基地攻撃論」を主張し、自民・民主を中心とした超党派の「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」も緊急声明で、「敵基地攻撃論」を提言しました。国会では有事法制三法案(武力攻撃事態法、自衛隊法改正、安全保障会議設置法改正)が審議されます。改憲論議が次第に具体的且つ活発となり、その後の自民・民主・公明による改憲草案や要綱・提言などに繋がります。
二〇〇六年七月、北朝鮮は七発の弾道ミサイルの発射実験と、初の核爆発実験を敢行しました。安保理で制裁決議(一七一八号)が採択されます(第三次核危機)。日本政府は北朝鮮に対する制裁を強化します。周辺事態船舶検査法を発動しようとするなど、米国以上の強硬路線を取ります。その様な雰囲気を追い風にして、改憲を目標にした安倍内閣が誕生します。同年一二月には、防衛二法が改正され、防衛庁は防衛省となり、自衛隊の海外活動が本来任務とされ、自衛軍化への大きな一歩を記します。自民党新憲法草案の先取りといえるものです。
このように、朝鮮半島が緊張するたびに、解釈改憲、立法改憲が進められているのです。今年四月に行われた北朝鮮によるロケット発射に際しては、自衛隊は初めて弾道ミサイル破壊措置命令を受けて、実戦配備につきました。この措置を大半の国民は支持しました。
憲法改正(とりわけ九条改憲)に反対する立場からは、北朝鮮脅威論は扱いにくい問題です。護憲の立場から、有効な反論がしにくいということもあります。しかし、決してそのような問題ではないことは、私の意見をお読みいただければ、理解していただけると思います。
(NPJより一部修正のうえ転載)
・事実上の九条改憲につながる「国会法」改悪反対!
・強権的国家づくりをめざす「国会改革」、衆議院比例定数削減を許すな!
主 催 全労連・自由法曹団・憲法会議
日 時 二〇一〇年一月一四日(木)一五時〜一八時
場 所 衆議院第二議員会館第一会議室
プログラム
学習会 通常国会めぐる情勢と「国会法」改悪がねらうもの
穀田恵二さん(予定・日本共産党国対委員長)
報告・意見交換
議員要請行動(予定)
民主党は、一月からの通常国会冒頭に、内閣法制局長官の答弁を禁止する国会法「改正」案を提出しようとしています。
今、強権的国家づくりをめざす「国会改革」に反対する時です。全国から多数ご参加下さい。
労働政策審議会の派遣法改正論議は大詰めを迎えており、年内には改正法案のベースとなる答申が出されます。しかし、答申には均等待遇原則が入らないなど、重大な問題点があります。
二〇一〇年通常国会で抜本改正を実現するために、今回のシンポジウムでは答申の問題点について明らかにし、現場の実態から私たちの要求をいかに法案に盛り込ませていくのか、そのためにどうたたかうのかについて議論します。
全国から多数ご参加下さい。
日 時 二〇一〇年一月二一日(木)一八時三〇分〜二一時
場 所 全労連会館二階ホール
内 容 シンポジウム
シンポジスト 学 者 大橋範雄教授(大阪経済大学)
弁護士 自由法曹団 鷲見賢一郎幹事長
女 性 新日本婦人の会 笠井副会長
コーディネーター 全労連 生熊茂実副議長
派遣労働者など現場からの訴え
製造業派遣
事務系派遣(登録型派遣)
請負派遣 など
主 催 労働法制中央連絡会と全労連の共同開催