過去のページ―自由法曹団通信:1332号        

<<目次へ 団通信1332号(1月11日)



吉田 悌一郎 丹羽良子さんふたたび地位確認!
〜法人格否認の法理に基づく雇用契約上の地位確認が認められた事例
青木 努 民主制の衣をかぶった独裁制への危険
―衆議院定数削減に反対する
井上 正信 北朝鮮非核化から北東アジアの平和構築を考える(下)
後藤 富士子 夫婦別姓と婚外子差別



丹羽良子さんふたたび地位確認!
〜法人格否認の法理に基づく雇用契約上の地位確認が認められた事例

東京支部 吉田悌一郎

 私と萩尾健太団員が取り組んできた労働事件で、二〇〇九年一二月一〇日、東京地裁民事第一一部において、法人格否認の法理を適用して雇用契約上の地位確認請求を認容する判決が言い渡された。以下で、この事件について紹介する。
 原告丹羽良子さんは、二〇〇一年四月に、主に外国人に対する日本語教育や、日本語講師の養成等を事業目的とした会社である株式会社教育情報研究所に雇用されたが、その後職場における上司等からの嫌がらせなどを受け、二〇〇二年六月に会社から不当解雇された。
 そこで丹羽さんは、二〇〇六年六月、教育情報研究所に対し、雇用契約上の地位確認、解雇後の賃金及び未払の時間外割増賃金等の支払を求めて提訴した(第一次訴訟)。ところが、この訴訟の審理の途中である二〇〇六年一二月に、突然会社側の代理人弁護士が辞任し、翌二〇〇七年二月に同社は事実上倒産した。その後はほとんど被告欠席のまま審理が続けられ、二〇〇七年五月、丹羽さんの請求をほぼ認容する判決が言い渡され、六月に同判決が確定した。
 教育情報研究所は倒産したが、同社では二〇〇六年頃から従業員の賃金の未払が常態化しており、同社の倒産時には多数の従業員の賃金が未払のままであった。加えて、同社が受講料を預かったまま倒産したため、受講料を支払ったにもかかわらず授業を受けられないという被害者も全国で多数発生した。ところが、教育情報研究所が行っていた日本語教師養成講座の一部が、同社の倒産後、同社の関連会社である有限会社日本言語研究所及び有限会社日本語教育新聞社において行われていることが発覚した。これら三つの会社は、いずれもオーナーであるTの一族が実質的に支配する会社である上、三社は同じビル内にて営業しており、役員もほとんどT一族によって占められているという状況であった。こうした状況から、T一族が、教育情報研究所が抱える多額の負債を免れる目的で、同社を事実上倒産させ、同社の営業基盤等を関連の二社に移転させて営業を行っていることは明らかであった。
 そこで丹羽さんは、二〇〇七年八月、日本言語研究所に対して、同社は法人格を濫用したものであるとして、法人格否認の法理に基づく雇用契約上の地位確認請求を、また関連二社及びT一族に対しては不法行為に基づく慰謝料の支払を求めて提訴した(第二次訴訟)。
 訴訟では、教育情報研究所の元役員などの原告側への全面協力を得ることができた。それにより、T一族が三社を含む全関連会社に対して極めて強い支配力を有していたこと、教育情報研究所の従業員が、他の二社の役員から直接命令を受けてその会社の業務を行うことが常態化するなど、業務の混同があったこと、倒産直前の時期に、教育情報研究所が従業員への未払賃金の支払いなどに優先して、他の二社に対する多額の買掛金の支払などをしていたこと、倒産直前の時期に、教育情報研究所がそれまで行っていた講座と同一の講座を他の二社が開講し、それにより教育情報研究所の営業が悪化したこと、また、代表取締役であるTが、関連会社の幹部が集まる会議において、教育情報研究所を倒産させて業務を他の二社に移す旨を述べたこと、被告二社が教育情報研究所から大量の顧客データを無償で承継したことなど、三社の法人格濫用の実態が次々と明らかになった。
 実質的支配者であるTに対する反対尋問では、相代理人である萩尾団員が会社の従業員の賃金未払に言及し、「仮差押えをしてくるような従業員に賃金はこれ以上支払いたくないと思いませんでしたか。」と質問したのに対し、Tが「思わなかったというとうそになるでしょうね。私も人間ですからそういう感情はありますが。」などと答え、思わず賃金を支払わずに会社を倒産させたいとの本音を吐露するという場面もあった。
 判決では、こうした三社の実態やTによる支配を反映する事実を的確に認定した上で、「以上の諸点に照らせば、被告保則は、教育情報研究所及び被告二社を自己の意のままに管理支配することのできる地位にあったものというべきである。」と述べ、実質的経営者であるTの支配を認めるとともに、「これらの事実に鑑みれば、教育情報研究所は、原告その他の債権者に対して負担する多額の未払賃金等の債務を免れる目的で、営業権のすべてを被告二社に承継させ、自らを倒産させたものと認めるのが相当である。」と述べて教育情報研究所の倒産について違法な目的があったものと認定した。そして、「したがって、教育情報研究所の倒産及び被告二社への営業権の承継は、原告その他の債権者に対する教育情報研究所の債務の免脱を目的としてされた会社制度の濫用というべきである。」「そうすると、法人格否認の法理により、被告研究所は、原告に対しては、信義則上、教育情報研究所とは別異の法人格であることを主張することができず、原告に対して教育情報研究所が前訴判決で命じられた内容について、教育情報研究所と並んで責任を負わなければならない。」と判示し、形式上別法人である日本言語研究所の原告に対する雇用契約上の責任を認めた。
 一方で、被告らに対する慰謝料請求については、「原告は、前訴判決を得たものの、・・・教育情報研究所がその債務を免れる目的で事実上倒産したことから前訴判決による執行が不能となったため、本件訴訟を提起せざるを得なくなったものであり、これにより相当程度の精神的苦痛を受けたことが推認されるが、かかる精神的苦痛については、・・・法人格否認の法理を適用して被告研究所に対し前訴判決と同一内容の請求を認めることによって慰謝されるものと認めるのが相当である。」と述べて棄却した。
 本判決は、被告らが教育情報研究所を偽装倒産させ、丹羽さんや多数の受講生被害者、従業員被害者に対する責任を回避しながら、一方で被告二社が教育情報研究所から引き継いだ資産を使って堂々と営業活動を続けているという被告らの不正義を糾弾し、法人格否認の法理を適用して丹羽さんに対する雇用契約上の責任を認めたという点で画期的な意義のある判決であると思われる。
 原告である丹羽さんは、教育情報研究所に不当解雇されて以来今日まで約七年間にわたって苦しい闘いを続けてきた。丹羽さんは長い間極めて不安定で困窮した生活を強いられながら、苦労して時間をかけ、勝利を勝ち取るためにがんばり抜いてきた。そうした丹羽さんの執念とがんばりが認められた判決である。
 今後舞台は控訴審に移るが、この画期的判決をより一層前進させるべく丹羽さんとともに鋭意奮闘したい。



民主制の衣をかぶった独裁制への危険
―衆議院定数削減に反対する

埼玉支部  青 木   努

はじめに

 紀元前のローマ、終身独裁官に就任したユリウス・カエサルは、共和政支持者に暗殺された。その後の内戦に勝利したカエサルの後継者オクタヴィアヌスは、独裁制に拒絶反応を示すローマ市民に配慮し、共和政への復帰を高らかに宣言した。

 しかし、実質は、元老院の力は削がれ、オクタヴィアヌスは、アウグストゥスの尊称を得るとともに、プリンチェプス(第一人者)、そしてローマ軍のインペラトール(最高指揮官)として、事実上、帝政を開始した。

 現在の日本でも、同様の事態が発生しつつある。

民主党がすすめる「国会改革」の動き

 民主党は、政治主導を掲げ、次期通常国会には、政府参考人制度廃止等の法案を提出する予定である。

 ただ、これだけではすまない。一一月四日、「新しい日本をつくる国民会議(二一世紀臨調)」は、小沢一郎民主党幹事長の諮問に応じ、緊急提言を行っている。

 その中には、通年国会の実現や、委員会の定例日、定数、定足数の見直しなど、見過ごすことができない内容が含まれている。

 すなわち、会期不継続の原則の下、少数政党の武器であった法案を審議未了に追い込み廃案にするという方法が不可能になり、また、委員会の定数を削減することにより、少数政党議員の委員会出席を困難ないし不可能にする(さらに定例日を決めず随時開催可能とすれば掛け持ちも不可能となる)ことで、次々と法案を通すことが可能となるのである。

 このような国会では、民意を反映させながら、法案に対する多角的な検討をすることなどできず、空虚な政治家だけの議論が行われ、一方的な審議の後に単に法案を粛々と通過させるだけの存在に国会はなりかねないのである。

鳩山「新憲法試案」の考え

 このような「国会改革」の考えは、すでに二〇〇四年一二月に発表された鳩山「新憲法試案」にも表れている。鳩山試案においては、現行憲法四一条の「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」との規定を、「国権の最高機関」という規定を削除し、単に「国の立法権は国会に属する」としており、直接国民の意思が反映される国民代表機関である国会の地位を低めているのである。

 その一方で、憲法六五条の「行政権は、内閣に属する」を、「行政権は内閣総理大臣に属する」としており、さらに内閣総理大臣の他の大臣に対する指揮・監督権を強化し、その権限を肥大化させている。

 ここでも内閣総理大臣の権限を強化し、国会の力を弱めることが企てられているのである。

衆議院比例代表定数削減の動き

 これらの動きの「総決算」が、衆議院比例代表定数削減である。

 今回の総選挙において、民主党は、衆議院の比例代表定数を現在の一八〇から一〇〇に削減するとマニフェストに掲げている。自民党も、比例代表とは明示していないもののやはり衆議院の定数削減を掲げている。

 もちろん比例代表部分は残り、完全小選挙区制が導入されるわけではない。しかし、例え比例代表定数が一〇〇残されるとしても、その効果は、限りなく完全小選挙区制が導入されたのと異ならない。

 すなわち、今回の衆議院選挙の結果は、民主党三〇八、自民党一一九、公明党二一、共産党九、社民党七、みんなの党五、国民新党三、その他という議席配分であるが、もし、比例代表定数が八〇削減されて一〇〇議席となり総議席数が四〇〇となったら、今回の投票結果に基づく議席配分は、民主党二七四、自民党九四、公明党一〇、共産党四、社民党三、みんなの党四、国民新党三、その他となる。もっとわかりやすい形で表わすと、民主党と自民党の合計得票率は六九%にすぎないが、その議席占有率は九二%にもなり、その他の政党は、合計得票率が三一%にもなりながら、その議席占有率は僅か八%にしかならないのである。

 そうすると、少数の声は国会にほとんど反映されることにはならず、国民生活の破壊に繋がりかねない事態の発生が大いに憂慮されることになる。

 民主党にしろ自民党にしろ、現行制度のもとでは、一定程度は共産党や社民党の主張を取り込まなければ選挙に勝つことはできない状況にある。それが、確固たる革新政党を破壊してしまえば、そのような主張に「挨拶」する必要もなくなる。つまり彼らが「目指すべき国家」実現に向けて邁進することができるのである。

 一九九四年に小選挙区制が導入された時とは異なり、今回の「売り文句」は、「無駄を省く」ということである。

 アメリカに比べると、日本は人口当たりの国会議員数が多く、無駄遣いだという世論誘導もなされている。しかし、人口は日本の約半分のイギリスでは、下院(日本の衆議院に相当)の議席数は六四六、日本の一四分の一の人口しかいないスウェーデンでも三四九名もの国会議員がおり、むしろ先進諸国の中では日本の国会議員は少ないといえる状況にある。

 このように比例代表定数を削減するということは、「無駄を省く」のではなく、「民意を省く」ことになることに注意する必要がある。

 民主党や自民党の狙いは、社会の両端や底辺をはじくことで均質的な二大政党制を作り上げることにある。しかし、均質的な二大政党制を採るアメリカを見てみれば、アフガン・イラク戦争をはじめ、貧富の差が極端になっても自己責任と評価し、弱者は切り捨てられている。他方で、比例代表制を重視している国では、弱者の声も十分に国政に反映されることから社会保障制度が充実しているという現実もある。

おわりに

 わたしたちの運動は、国会の内外で、お互いに励まし合い、それぞれの活動と連動して構築されてきた。

 しかし、現在、その一方の力であった国会内での活動が封じられようとしている。国会内での活動が弱まれば、国会外での活動も弱められかねない。

 その意味で、これらの動きには、断固として反対していかなければならない。団員一人ひとりが運動の先頭に立つ覚悟をもって、まず、広く市民や運動体に働きかけねばならない。

 帝政ローマにおいても元老院は存在し続けた。しかし、その権力は、皇帝ひとりが掌握し、元老院は、皇帝が実施する施策を追認し正当化するだけの存在へと堕ちてしまった。

 それでもローマは繁栄した。しかし、その繁栄は、暗愚な皇帝の出現、皇帝の承継をめぐる争いが続く中、いつの日か衰退への道へと続いていった。

 現在の日本が、同じ道を辿ることがないことを願う。



北朝鮮非核化から北東アジアの平和構築を考える(下)

広島支部  井 上 正 信

はじめに

九条改憲の軌跡と北朝鮮脅威論・・・・・・・・以上前号

北朝鮮問題をどのようにとらえるのか

北朝鮮問題とは何か・・・・・・・・以上本号

北朝鮮問題をどのようにとらえるのか

 日本では、北朝鮮問題といえば拉致問題が真っ先にあり、もっぱら日本の安全に対する脅威としてのみ捉えます。このことが、日本の世論を誤った方向に誘導し、日本政府に誤った北朝鮮政策を採り続けさせる最大の原因となっています。

 私は、北朝鮮問題を単に脅威の対象として理解するのではなく、また、具体的には拉致・核開発・弾道ミサイル開発という問題だけを取り出して議論するだけではなく、より幅広い、且つ歴史を背景にした認識が必要だと考えています。その様に見てゆけば、北朝鮮・金正日は何をするか分からない、怖い、約束を守らない等といった、北朝鮮に対する悪しきイメージは変わってくると思います。北朝鮮問題を考える際、お互いに根強い脅威感と不信感が存在することを確認することが出発点であるとの私の意見も、きっと理解されると思います。

北朝鮮問題とは何か

 北朝鮮問題の最大の要因は、朝鮮戦争です。日本の敗戦後朝鮮民族による統一国家の樹立に失敗し、国際社会の介入により分断国家が創られ、南北それぞれが武力統一を掲げて内戦状態にあったところへ、北朝鮮が総力を挙げて韓国側へ武力侵攻を計り、国際社会が武力介入した結果、三年一ヶ月の朝鮮戦争となり、二〇〇万を超える犠牲者(誰も正確な数字はわかりません。論者によっては、これよりも大幅に多い犠牲者の数字を挙げることもあります。)を出しながら停戦し、その後平和条約締結もなく、五六年間にわたり戦争状態が続いていることをまず挙げなければなりません。

 朝鮮戦争時、米国は北朝鮮を原爆攻撃しようとし、アイゼンハワー大統領は沖縄と航空母艦へ原爆を配備する命令を出しました。休戦協定締結後、間なしに米韓相互防衛援助条約が締結され、在韓米軍が駐留し、九二年に撤去されるまで、韓国には北朝鮮を標的にした戦術核兵器が三〇年以上配備されていました。北朝鮮の核開発への衝動はこの歴史的経験があると思われます。

 朝鮮戦争休戦後も、非武装地帯(DMZ)をはさんで、南北で膨大な戦力がその周辺に集積しています。

 日米同盟も北朝鮮を最大の標的にする軍事同盟となっています。米韓同盟では、九二年以降第二次朝鮮戦争を想定した作戦計画(OPLAN5027)があり、日米同盟には二〇〇一年九月策定された、第二次朝鮮戦争を想定した作戦計画五〇五五があります。毎年のように米韓合同軍事演習が行われ、軍事的緊張を高めています。

 更に、日朝、米朝間には国交がありません。冷戦体制崩壊後の米国は、クリントン政権時代(特に第一期)には、北朝鮮を最大の標的にする「ならず者国家ドクトリン」を採用し、国防戦略として「拡散対抗戦略」を打ち出し、九四年には北朝鮮核開発疑惑を理由に、北朝鮮核施設への先制攻撃をしようとしたのです。クリントン政権末期には米朝国交回復の寸前まで行きながら、ブッシュ政権になってから、北朝鮮との緊張を高める政策(強硬な関与政策)を打ち出し、クリントン政権の緩和路線を否定します。

 北朝鮮問題とは、冷戦崩壊後も北東アジアにおいて冷戦の遺構を根強く残し、北東アジアにおける分断と対立、軍事的緊張関係を作り出す最大の要因です。この取り扱いを失敗すると、大規模地域紛争となり(米韓連合作戦計画五〇二七では、湾岸戦争規模の戦争を計画しています)、その際には核兵器使用の危険性もあります。

 私は、朝鮮半島の隣人として、絶対のこのような事態は避けなければならないと考えます。このことが、北朝鮮問題に取り組む際の私の出発点です。

 半世紀以上にわたる北朝鮮と、米・日・韓の間に横たわる不信と対立、脅威感情は根が深いのです。このことを直視することから、北朝鮮政策を組み立てなければなりません。私たちが、金正日は何を考えているかわからない、怖い、信用できないと考えると同じように、彼は日・米・韓を同じように見ているはずです。

 脅威論を強調する論者やそれに同感する人々は、自分たちは脅威ではないし信用できると考えているのではないでしょうか。北朝鮮脅威論を強調すればするほど、北朝鮮もこちらに対して不信と脅威を感じます。

 北朝鮮問題を解決するためには、根気強い交渉が必要ですし、政治家にも私たちにも平和的解決への強い意志が求められます。「強い意志」と強調するわけは、今後も北朝鮮の行動や発言に対して、脅威論が強調され、対北朝鮮強硬路線が声高に主張されても、それに流されてはならないという意味です。

 北朝鮮の核開発・弾道ミサイル開発問題は、北朝鮮問題という全体状況の中の一部にすぎません。これだけを単独に切り離して解決することはできません。拉致問題も同様です。

 このことは、六者協議での二〇〇五年九月共同声明、二〇〇七年二月合意文書を読めばよくわかります。核開発問題を中心にしながら、日朝、米朝の国交正常化、米国による消極的安全保障(北朝鮮に対して攻撃しないとの保障)、朝鮮戦争終結のための平和条約締結協議、北東アジアの安全保障対話の枠組み協議、経済支援などが核開発問題解決と一体のものとして協議され、合意されていることが理解できます。

(NPJより一部修正のうえ転載)



夫婦別姓と婚外子差別

東京支部  後 藤 富 士 子

 この夏の総選挙で政権交代した内閣の、法務大臣は千葉景子弁護士、男女共同参画など内閣府特命担当大臣が福島みずほ弁護士である。これに勢いを得て、夫婦別姓や婚外子差別解消の民法改正論議が盛況?である。

 しかし・・である。夫婦別姓と婚外子差別は、「法律婚」という枠組みでみたとき、同根ではないか?と私の本能が警告している。

 婚外子の相続分差別規定(民法第九〇〇条四号)を合憲とした平成七年の最高裁大法廷判決の論理は「法律婚を保護するための合理的差別」というのである。しかし、「正妻」に子がない(つまり嫡出子がいない)場合には、妻の相続分が増えるわけでもなく、また、婚外子の相続分にも差別はないから、「法律婚」が保護されるわけではない。一方、母の遺産相続についてみると、「法律婚を保護する」ことは、全く合理性をもたない。

 すなわち、「法律婚を保護する」という論理には実体が伴わないのである。

 ところで、「夫婦別姓」についてみれば、事実婚なら別姓はあたりまえである。だから、別姓にしたければ、事実婚でいけばいい。夫婦別姓を実践する福島大臣も事実婚である。これほど簡単に、夫婦の意思だけで実現できるのに、なぜ事実婚にしないのか?というと、事実婚では、婚外子差別など「法律婚の保護」が得られないからだという。

 な〜んだ、国家のお墨付きをもらって法的保護を得たいのか(シラケル)。

 法律婚の枠内に収まりたい夫婦別姓は、「両家墓」を想起させる。かつて、墓は家名とともにあったが、嫁いだ娘しかいない家系で墓を継承するのが困難になったため、夫婦の「両家墓」が認められるようになった。翻って、夫婦別姓といったって、夫婦各自の姓も父または母の「家名」じゃないか。自分の生まれた「家名」を維持したいなら、事実婚でどうぞ。

 「法律婚の保護」を得るための夫婦別姓が、どうして「法律婚の外」に生まれた婚外子の差別を解消することと並列的に考えられるのか、私には理解できない。

 『パリの女は産んでいる』(中島さおり著)によれば、フランスでは「事実婚」カップルが多いせいで、新生児の四五%、第一子の五六%が婚外子という。だから、フランスには「未婚の母」や婚外子の差別がないのである。これにひきかえ、日本では二〇〇二年の数値で婚外子は新生児の僅か一・九%(二%足らず)!

 というわけで、婚外子差別をなくすために、自立した自由な女性たちは、「法律婚の保護」など求めずに、是非とも事実婚を実践していただきたい。

(この原稿は、事務所のHPに掲載したものです)