<<目次へ 団通信1338号(3月11日)
毛利 崇 | 「派遣法抜本改正」に向けた京都支部における活動報告 |
牧 亮太 | 「地域から貧困問題を考えるいのちをまもるネットワークを」 |
松村 文夫 | 少額労働事件で勝訴 |
木村 夏美 | 朝井志歩氏との意見交換会 〜外国軍地位協定と環境的公正について〜 |
松井 繁明 | 平山基生『米軍違憲』を薦める |
京都支部 毛 利 崇
一 京都支部は、京都総評、新婦人京都府本部、全労働京都支部などと一緒に、人間らしい働き方をめざす京都連絡会を結成し、連絡会を中心にして、京都全体の労働法制運動に取り組んでいます。この間は、特に派遣法改正問題を中心に運動を強めており、今回は、そのことを紹介したいと思います。
二 議員要請活動
まず、昨年の六月には、京都選出議員に対して、派遣法改正について議員会館に出向いて要請を実施し、さらに、地元の国会議員事務所に対しても、派遣切りをはじめとした大量失業問題や派遣法改正問題について申し入れを行いました。
また、総選挙後には、民主党の議員を中心に地元の国会議員事務所を訪問し、民主党などがマニフェストに掲げた派遣法抜本改正について、非常に注目をしているということを伝えるとともに、総選挙前の野党三党案について、我々が不十分だと考えている点について改善をするように要請を行いました。
三 街頭宣伝活動
市民に向けた訴えとしては、「派遣法抜本改正」をテーマにして、昨年の一〇月末から現在に至るまで、毎週水曜日一七時四五分〜を定例街頭宣伝日に定めて街頭宣伝活動を行ってきました。年末年始などもあり、必ずしも毎週実施はできていませんが、これまで一〇回の街頭宣伝を実施し、京都支部からも団員を派遣し街頭宣伝の弁士やビラ配布要員として活動をしています。京都支部に入ったばかりの津島団員も街頭宣伝に参加をして、団の活動をいち早く体感しています。
派遣法抜本改正の署名用紙や、派遣法改正問題のビラを入れたティッシュを毎回五〇〇個用意して配布をしていますが、三〇分弱で宣伝物がなくなってしまう状況が続いています。
四 派遣法改正学習会
昨年一二月八日に、棗一郎弁護士を招いて派遣法改正の学習会を実施し、さらに、二月一七日には、京都支部の中村和雄団員を講師として派遣して、(実にタイムリーなことに)当日の午前中に公表された法案要綱もふまえて、最新の派遣法改正の状況について学習を深めました。いずれの学習会も、多数の参加者があり、派遣法改正問題について意識が高まってきています。
また、京都連絡会では、三月上旬をめどに、学習会用の一〇〇円パンフレットを作成し、今後実施が予想される春闘学習会にあわせて派遣法改正問題学習会を提起する予定です。京都支部では、このパンフレット作成と学習会講師を主体的に担っていくことを幹事会で確認し、準備を進めているところです。
五 現在、派遣法改正について法案要綱が出されていますが、団本部の意見書にも述べられているとおり、到底、満足のいく内容にはなっていません。しかし、まだまだ、そのことが個々の労働組合員や民主団体に所属している人たちの共通の認識にはなっていない状況です。ましてや、一般の市民の方々の認識は、「政権が変わったから、日雇い派遣みたいな不安定雇用がなくなる方向で動いているのね。」程度の認識しかなされていないと思います。
国会で法案要綱に示された内容を変えさせるためには、国民が納得していないという声を届けることが不可欠です。これを実現するためには、今回だされた法案要綱の数々の欺瞞を、我々が率先して各団体や市民の方々に直接伝えていく努力が必要です。派遣法を真に派遣労働者保護のための法律に変えさせるために(最終的には、派遣というピンハネ間接雇用をなくすためにも)、全国の自由法曹団の力を結集して、この問題を大きく発信していきましょう。
大阪支部 牧 亮 太
一 はじめに
本年一月二四日、京橋共同法律事務所の開設三〇周年記念にあわせて、地域の民主団体の方々をパネリストとして招き、シンポジウムを開催しました。
シンポジウムの企画中、大阪府門真市において、「国民健康保険の実態調査」が行われたこともあり、「地域から貧困問題を考える」というテーマで行うこととなりました。
内容は二部構成であり、まず、第一部において、三重短期大学生活科学科准教授である長友薫輝先生に、国民健康保険制度の矛盾点とその矛盾点が格差を助長していることについて講演をしていただきました。
第二部では、門真・守口の生活と健康を守る会事務局長の江田みどりさん、大阪社会保障推進協議会事務局長の寺内順子さん、北河内合同労組書記次長の中村鎮夫さんを招き、国民健康保険をはじめとする行政のセーフティーネットが機能していない状況で、地域の民主団体のネットワークがセーフティーネットとして果たす役割について、パネルディスカッションを行いました。
二 長友先生の講演について
(1)国民健康保険制度の矛盾点
長友先生は、国民健康保険制度の矛盾が、健康の格差・命の格差を助長しており、制度の根本的な改革が必要であることを、実にわかりやすく講演して下さいました。以下、講演の内容の概略を述べます。
国民健康保険は、皆保険を下支えするセーフティーネットの役割を担うものです。
にもかかわらず、現在の国民健康保険制度には、
(1)健康保険等と比較して保険料の高い国民健康保険を担っているのが、平均所得の低い市民であること
(2)平均所得の低い市民が多く居住する自治体は、収納率が低くなり、その結果、国から制裁措置として交付金が減額されることがある
という大きな矛盾があるのです。
(1)について説明すると、国民健康保険加入者は、かつては自営業者・農林水産業者などを想定していたのですが、現在の加入者の多くは無職者、フリーターなどの健康保険に加入させてもらえない労働者、退職後の高齢者が占めます。つまり、国民健康保険の加入者は、上記のような低所得者が担っているのです。
(2)については、低所得者が多く居住し、国民健康保険の徴収率の低い自治体に対して、国は制裁措置として交付金の減額を行っています。そうなれば、その自治体の財政はさらに苦しくなり、国民健康保険の保険料を値上げせざるを得なくなります。そして、さらに徴収率が下がり、また交付金が減額されるという、悪循環が起きるのです。
そして、国民健康保険の最大の問題は、保険料の滞納の結果、資格証明書が発行され、医療を受ける際に、一旦、医療費が全額負担となることです。保険料を支払えない人が、全額負担で医療を受けることができるはずがありません。そうなれば、保険料を支払えない所得の低い人は、どれほど重い病気になろうとも、医療機関に診てもらうことさえできないのです。
(2)門真市の実情
上記の二つの国民健康保険制度の矛盾点が顕著に現れているのが、大阪府門真市です。
門真市は、大阪府で最も平均所得が低い自治体であり、かつ、国民健康保険の徴収率が全国ワースト二の自治体です。にもかかわらず、国民健康保険の保険料は、全国の自治体の中で一九番目に高額なのです。
そうしたことから、門真市では、国民健康保険の保険料を支払えない人が増え続けています。そして、医療を受けることができない人が増えているのです。
長友先生の話によれば、門真市の男性の平均寿命が全国でも際だって低いとのことでした。
まさに、経済格差は、健康格差であり、命の格差にもつながっているのです。本来は、その格差を是正するはずの国民健康保険制度が、その格差を助長しているのです。
長友先生によれば、このような国民健康保険制度の問題点は、広域化だけでは解決できないものであるが、まずは問題の認識を広めるために、門真市において国民健康保険の実態調査を行ったとのことでした。
三 パネルディスカッションについて
第一部では、国民健康保険制度の問題について講演していただいたのですが、この制度の改善は、一朝一夕でできるものではありません。長期的な制度改善とは別に、明日の食事に困っている人をどうするのか、という視点でパネルディスカッションを第二部で行いました。
内容は、地域の民主団体が日々、直面している医療、生活、労働、法律について、具体的なケースを挙げ、そのケースを各分野の専門家であるパネリストの方々の知識と経験に基づき解決策を探るというものでした。
会社を解雇され、借金を抱えた相談者が、国民健康保険も滞納により資格を失っており、病気になっているような場合、相談を受けた者は、自分の専門分野としてはどのようなアドバイスをして、自分にわからない分野については誰に、どのように相談者をつないだらいいのか、どうやって連携をとって相談者の悩みを総合的に解決すべきか、ということを議論しました。
実際、日常の業務においても、私は自分でわからないこと、知らないことをパネラーの方に相談することもありますし、その逆もあります。そうしたネットワークがあれば、ネットワークのどこかに何らかの問題を抱えた市民がアクセスすることで、地域のセーフティーネットがその人を支えることができます。
第二部のパネルディスカッションでは、命を守る地域のネットワークの存在というものを示すことができたと思います。
四 今後の取組
今回の催しは、派手なレセプションのようなものではなかったにもかかわらず、参加者は、一四〇人を超え、大成功でした。
そして、私にとって大きな収穫は、地域のネットワークの存在と大切さを改めて知ったことです。国民健康保険の制度改善という長期的な課題にも取り組んでいくと同時に、今後も地域のネットワークを強固なものとし、さらに広げることが重要だと思いました。
今回、パネリストとして参加して下さった方々は、今後もケーススタディのような形で、継続的に勉強会のようなものを続けようと言ってくださったこともあり、今後も継続的に続ける予定です。弁護士・地域の民主団体等の地域のネットワークを、より強固なものとして、一人でも多くの地域の方々のお役に立つことができればと思います。
これからも、市民の生活を守る地域のネットワークとしての役割をしっかりと果たしていきたいと思います。
長野県支部 松 村 文 夫
一 報告する程のものでないかも知れませんが、珍しいのではないかと考え、地方の初老団員が頑張っていることを示すためにも、あえて報告します。
二月一二日長野地方裁判所松本支部で九万一一九円の支払を命ずる判決をかち取りました。事案は、信州名鉄運輸に勤めるトラック運転手が積荷破損(荷崩れ)事故の頻発を理由として、下車勤務(一週間)を命令されたのに対して、これを無効とし、運行手当の支払を命じたものです。
下車勤務命令は就業規則にも定めがないことから提訴したものですが、会社は、懲戒処分にある乗務停止処分ではなく、職務命令権に基くものであると主張しました。
長距離運送では荷崩れが起こりがちであり、このためにラップでまいたりしておりますが、そのラップは運転手負担となっておりました。また、荷台のベニヤ板に穴があいているために荷物をひっかけて落としてしまうことが起こり、運転手が要求しても、会社は改修せず、放置していました。
審理のなかで、会社は荷主に対してラップをまいたり、ベニヤ板の穴を修繕したことを写真付きで報告しており、このために、同様な事故については、荷主に対して別の事故原因を作りあげて虚偽の報告をしていることも判明し、支店長は、「下車勤務は、荷主に対して、見せかけるためであり、再発防止のためのものではない」と述べました。
二 判決は、下車勤務が基本給の倍にもなる運行手当の不支給となることからすれば、職務命令権に基く下車勤務命令は厳格な制約を受けるものというべきであるところが、事故再発防止の指導・教育もしていないのであるから、本件下車勤務命令は裁量の範囲を逸脱し、違法・無効であるとするものでした。
その労働者は、一年三か月の間に一〇回の積荷事故を起こしており、労働者のミスに対しては厳しい判例が多いことからすると、判決については心配しておりましたが、この勝訴判決は、会社の控訴もなく確定し、ほっとしています。
なお判例としては、自宅待機命令が業務命令として有効というものがありますが、本件では運行手当が大幅に削減されるという点が、異なっております。
三 この裁判より一年前の二〇〇八年二月二七日にも、信州名鉄に対して八万〇四三一円の支払を命ずる判決をかち取っています。
これは今回と同じ労働者が、信名労組から全交運支部に移ったのに、チェックオフを信名労組に対して、信名労組が除名するまでの五か月間渡していたことについて請求したものです。
会社は、信名労組とのユニオンショップ協定を理由に信名労組に渡さざるをえなかった、信名労組に返還請求すべきと主張していましたが、判決は、会社に対して、全交運支部への支払を命じました。
この判決は、全交運支部の請求を認めましたが、判例では、当該労働者に請求権があるとなっているようです。
四 このような少額ながらも提訴したのは、私の思いがあったからです。
信州名鉄では、一九六〇年代組合が分裂し、ユ・シ協定に基いて、信名支部側に残った労働者十数名が数次にわたって解雇され、一審では、ユ・シ協定に基く解雇を有効とする敗訴判決が続いておりました。六九年弁護士となった私が取り組んだ最大の労働事件がこれでした。一三年間闘い、ユ・シ協定は分裂した他の組合には及ばないという判決をかち取り、職場復帰となりました。
それから三十年余り、細々ながら、労使協調の信名労組から移る労働者があとを引き継いで差別のなかで頑張っています(事故が多いのも、古い車を配車されていることもあります)。
私も、判決で得た額だけの弁護料で(他の弁護士を引っ張り込むこともできず)頑張りました。
三重支部 木 村 夏 美
一 一月一六日、社会学博士であり、現在法政大学兼任講師等を務められている朝井志歩氏と意見交換会を行ったので、報告させていただきます。
日 時 二〇一〇年一月一六日午後一時から午後三時
場 所 東京都内 山の上ホテル
参加者 朝井氏、籠橋隆明団員、西川研一団員、木村夏美
意見交換会は昼食を取りながら和やかに行われました。
二 朝井氏は、基地騒音の問題について社会学の立場から研究され、環境的公正の観点からの基地騒音の解決策を考察されており、二〇〇九年八月には財団法人法政大学出版局より『基地騒音―厚木基地騒音問題の解決策と環境的公正』を出版されています。
三 朝井氏は、厚木基地、岩国基地、ドイツのシュパンクダーレム基地の周辺で、住民団体や基地対策課職員、議員、弁護士等への聞き取り調査を行っています。
ドイツのシュパンクダーレム基地の滑走路からわずか八〇〇メートルの距離にある村の住宅地では、毎日平均で七〇デシベルから七五デシベルの騒音が毎日測定され、九〇デシベルを超える騒音も頻繁に生じているということでした。
四 ドイツでは、一九三三年にNATO軍地位協定が大幅に改正されました(ボン補足協定)。
協定改定の最大の成果といわれるのが、駐留軍施設や区域へのドイツ法の適用です。ただし、これには留保条件が付いていて、ドイツの利益全般に抵触しない駐留軍の内部事項が問題となる限りにおいてのみ、駐留軍施設・区域内でドイツ国内法の適用が限定的に免除される点が強調されることになったということです。
また、基地の運営に対して、環境アセスメントが義務づけられました。そして、有害な影響が避けられない場合は、「適切な回復措置または清算措置」をとることが義務づけられました。
五 このように、ドイツではボン補足協定によって、駐留軍に対しても国内法が適用され、環境アセスメントが義務づけられたため、環境問題を駐留軍に対して主張していけるようになったかに思われます。
しかし、実際には、ドイツ法自体に軍隊や軍事施設に対する適用除外が儲けられているため、他の施設で認められている環境規制などが基地には及ばない場合が多く、実際にはボン補足協定を活かせていないのが現状のようです。
また、ドイツにおいても、基地関係で生み出される雇用や商取引が大きいことから、騒音被害を受けている基地周辺の住民の中でも、基地反対を主張する人は決して多数派ではないということです。
六 朝井氏は、「誰の近所でも困る(not in anyone's back yard: NIABY)」施設が一定の地域に存在し、その地域の人々が不利益を受けている現状が環境的公正に反するのではないか、という問題意識を強く持っておられます。
生活環境を騒音等の公害で害し、場合によっては生命の危険をも惹起するということを、国の外交政策のためという理由で一部の地域の人に強いることが果たしてできるのだろうかと述べていらっしゃいました。
七 朝井氏との意見交換会を経て、外国における外国軍地位協定を知ることは、日本の基地問題を解決する一つの手がかりとなると感じました。
そこで、公害環境委員会ではドイツや韓国等、諸外国の外国軍地位協定を調査引き続き行っていくこととしています。
東京支部 松 井 繁 明
今年は、新安保条約成立の五〇周年にあたる。あらためて日米軍事同盟のあり方を見直すべき年だ。鳩山政権は今年五月までに普天間基地の移転先を決定すると約束している。沖縄問題は、沖縄県民だけでなく、すべての日本国民にかかわっている。
このような時にあたって、好著が刊行されている。畏友平山基生氏著のブックレット『米軍違憲』(本の泉社、八〇〇円+税)がそれだ。平山氏は『沖縄・日本から米軍基地をなくす草の根運動』責任者。平山知子団員の夫でもある。
端的で印象深いタイトルのこのブックレットは、大きく四章に分かれている。
第一章では、米軍立川基地の拡張に反対する農民らの闘い・砂川闘争の概要がまとめられている。著者は、この第一章について「特に関心がない読者は読み飛ばされてもよいでしょう」(「はじめに」)と書いているが、謙遜が過ぎる。当時の砂川町基地拡張反対同盟の「闘争資料」などにもとづいて、事件の経過が描かれている。
一九五五年五月に砂川闘争が開始されたころは「反対」でまとまっていた砂川町議会も、同年九月ごろには「条件闘争への転換」を主張する条件派が多くなる。同月一七日、条件派の要求で臨時町議会が開かれた。当時すでに多数の人びとが逮捕され、そのなかには二名の町議員もふくまれていた。反対同盟と故久保田昭夫団員ら弁護団の要求によって、なんと「手錠をはめたまま議員を議会に連れて」きたという。午後七時から始まった町議会では反対派と条件派の主張が平行線のまますすみ、逮捕された議員は「自分たちの逮捕を乗り越えていってほしい」と訴えた。翌日午前三時に採決となり、条件闘争の提案は、反対八、賛成七、保留二で否決された。
一〇月一二、一三日には警官隊と農民、支援者との激突があり、一六名の逮捕者、約一〇〇〇名の重軽傷者を出しながらも、測量は終了しなかった。同月一四日、政府はついに測量を中止すると発表した。
――こうした感動的場面を「読み飛ば」したいと思う読者はいないだろう。
第二章は、砂川闘争の過程で発生した刑事特別法違反事件の概要とこれにたいする東京地裁判決(一九五九年三月三〇日)――裁判長伊達秋雄氏の名をとって「伊達判決」とよばれる――の内容が紹介されている。
東京合同法律事務所の事務局員坂田さんが、この事件で被告人とされた坂田茂氏のご子息であることを、私もはじめて知った。
団通信の性格から、伊達判決の詳細に触れるのは控えよう。本著の巻末には、伊達判決の全文が、資料として収められている。
ひとつだけ指摘しておけば、「わが国内に駐留する合衆国軍隊は憲法上その存在を許すべからざるもの」という結論を導くその論理 ――「合衆国軍隊の駐留は一面わが国政府の行為によるものということを妨げない」――の強固さである。これを覆すのは容易ではない。
伊達判決は検察側に跳躍上告され、最高裁に係属した。
第三章は、これにたいする最高裁の対応とその判決(一九五九年一二月一六日)にたいするきびしい批判である。
まず、二〇〇八年四月に新原昭治氏が入手した二通の電文が紹介されている。これらによって、マッカーサー駐日大使(当時)が藤山愛一郎外相(当時)にたいし伊達判決の跳躍上告を指示し、同外相がこれに同意した事実、同大使が田中耕太郎最高裁長官(当時)と密談し、田中長官から審議日程などの説明を受けた事実が暴露される。田中耕太郎といえば、口を開けば「法の支配」を説いてきた人物。もっとも田中のいうそれは法による権力的支配のことであり、英米法の「法の支配」――権力者や資産家も等しく法の適用をうける――とは異なっていた。それにしてもその田中が、「法の支配」どころか「アメリカの支配」を屈辱的に受入れていたとは――。驚きと怒りを禁じえない。
伊達判決にたいする最高裁判決は、
(1)日米安保条約のような高度の政治性を有する問題については「一 見極めて明白に違憲無効」なばあいを除いて「裁判所の司法審査 の範囲外のもの」とする部分と
(2)「わが国が指揮権、管理権を行使しうる戦力」ではない外国の軍 隊は憲法九条二項にいう戦力ではない、とする部分とから成る。
著者はこの両者が矛盾することを指摘しながら、それぞれの内容に鋭い批判を加えている。
しかし評者の見解では、判例拘束力をもつ判旨は前者だけであって、後者は傍論にすぎない。したがって最高裁判決にたいする内容的批判は前者に集中すればよく、後者にたいしては、傍論において「安保条約合憲論」を展開するごまかし自体を批判するほうがよかったのではないかと思われる。
第四章では、曲折を経ながらも、一九七七年立川米軍基地が返還されたことなどが述べられる。
――ともあれ、野球にたとえればド真中の快速球ともいうべき、この好著を薦めるしだいである。
ブックレットは、あかしあ法律事務所で取り扱っています。
【ご注文】〇三(五三六九)〇七九〇までお願いいたします。