<<目次へ 団通信1357号(9月21日)
笹山 尚人 | 非正規労働者の権利闘争で連続勝利! 〜「洋麺屋五右衛門」&「すき家」(後編) |
萩尾 健太 | 早川由紀子さん勝利判決の報告 |
佐藤 博文 | 女性自衛官人権裁判、完全勝訴! |
笹田 参三 | どっこい 生きている 新自由主義 |
長谷川 一裕 | 河村たかし名古屋市長の市議会リコール運動について |
石川 賢治 | 滋賀支部八月集会、若手の活躍で大成功 |
多々納 ゆりか | 『坂本修』に恋をした!? |
前川 雄司 | 美谷島邦子著「御巣鷹山と生きる 日航機墜落事故遺族の25年」(新潮社)を読んで |
角銅 立身 | 上田誠吉さんをしのぶ会に出席して |
近藤 ちとせ | 第四回大量解雇阻止全国会議を終えて |
「国会改革」・衆院比例定数削減阻止対策本部 | 削られるのは民意(衆)比例定数削減反対 九・二九学習決起集会 参加の呼びかけ |
東京支部 笹 山 尚 人
四 「すき家」争議の経緯
次に、「すき家」争議である。
「すき家」のたたかいはもともとは〇六年六月に整理解雇事件が発生したところから始まった。首都圏青年ユニオンが団体交渉を通じて解雇撤回と現職復帰、残業代の適法な支給という成果を勝ち取った。その成果を聞き及んで全国のすき家で働くアルバイト従業員が首都圏青年ユニオンに加入し、彼らの残業代等の問題解決のために首都圏青年ユニオンが団体交渉を「すき家」を運営する株式会社ゼンショー(以下、「ゼンショー」という)に申し入れたところ、ゼンショーは、〇七年二月に団体交渉を拒否。そのため組合が団交拒否の不当労働行為救済申し立てを行った。これについて東京都労働委員会は組合の申し立てを全面的に認め、〇九年一〇月に会社に団交に応じること等を命じる命令を下した。ゼンショーがこれに対し中央労働委員会に再審査を申し立てたが、一〇年八月二六日、中労委は、同年七月二一日付の命令書を交付して、ゼンショーの再審査申し立てを棄却した。
他方、ゼンショーが団交拒否を続けるため未払い賃金問題が解決せず、やむを得ず当該組合員のうち仙台泉店に勤務する三名は、〇八年四月、ゼンショーに対して、未払いの本給、残業代及び紛失立替金の支払いを求めて裁判を提起。
この訴訟では、ゼンショーは、こともあろうにアルバイト従業員の労働者性を否定し、彼らとの契約は業務委託契約である、などと主張、そのほかにも自らが賃金計算で活用している「デイリー勤怠報告書」の労働時間管理のための書面としての信用性を争うなど、無用な争点を増やして訴訟進行を遅延させた。その後一〇年四月二三日、六月一一日に原告本人及び会社の労務担当者、原告らの元上司について尋問が行われ、同年九月一〇日が結審のための口頭弁論が指定され、そこに向けて原告ら及びゼンショーがそれぞれ同年七月末日までに最終準備書面を裁判所に提出することとされていた。ところが、会社は七月末日になっても最終準備書面を提出せず、その後になって、突如として当方の請求九九万四七七七円全額について認諾してきたのである。一〇年八月二六日、認諾が裁判所で確認され、仙台訴訟が終結した。
なお、すき家争議には、やはり本給未払いを請求する長野県岡谷市の「すき家」店舗に勤務していた組合員の岡谷訴訟が現在も継続中である。
五 「すき家」の成果の評価
ゼンショーが訴訟の結審の直前の段階に至って認諾するという、異例と言うべき経過で仙台訴訟が終結したことは、当事者及び首都圏青年ユニオン、弁護団の粘り強いたたかいの成果といえる。組合は情宣活動を重ね、訴訟でも全ての論点で組合側はゼンショーの言い分を圧倒した。特に尋問の中では、業界トップを走る「すき家」が、アルバイト従業員を劣悪な労働環境の中で酷使している実態が明らかになった。ゼンショーは判決での全面敗訴を覚悟し、それゆえ判決直前になって認諾を選択したと想像される。
中労委命令も、ゼンショーの態度が労働組合法の観点から許されないものであることを改めて明らかにし、かつ都労委命令後比較的迅速に命令が下されたことで首都圏青年ユニオンや組合員を励ます内容であり、高く評価できる。
六 売上金紛失事件の立替金返還について「認諾」させたことの意義
とりわけ弁護団としては、「売上金紛失立替金についての返還請求について認諾」の成果を誇りたい。これは、店舗の売り上げ金が全額いつの間にか紛失してしまった事件について、当時店長であったアルバイト従業員が、ゼンショーからその全額を肩代わりすることを求められた結果その全額賠償の合意を交わし、現実に賠償が終了した後で、当該立替金の返還を求めたものである。
こうした「営業上の損害についての使用者から労働者に対する賠償請求」という論点については、従来の判例上、「信義則上賠償請求は制限される」という法理が確立しているところである(「茨石事件」等)。ところが、これらの判例は、使用者が労働者に対してこれから請求する場合に関するものである。本件は、アルバイト従業員の側が売上金の紛失額全額について肩代わりすることを承諾する文書をゼンショーとの間で交わしており、現実に賃金の天引きによって紛失金全額についての弁済が終了した後で、錯誤及び公序良俗違反を理由に、肩代わりの合意は無効であるとして、既に支払い終わったお金の返還を求める事案であった。この場合に、茨石事件の法理が及ぶのかが問題であった。
本件は認諾によって、結果としては判決でこの問題について判断がなされることは回避された。しかしゼンショーがこの請求に関する点についても認諾したことは、ゼンショーが労働者との合意によって賠償金を支払って貰ったとの主張を放棄し、合意があるから使用者が賠償金を返還をしないと主張することは正当性を持たないと認めたに等しい。この点は今後に活用できると考える。なぜなら、損害賠償請求に関して、使用者が労働者と合意を取り付け、それに基づいて全額返還されたとしても、ゼンショーが認諾したことでこれは、茨石事件の法理が、合意に基づいて賠償が完了した後に当該合意の無効によって返還を求めるケースにも妥当することを認めたに等しいからである。この点は、損害金を労働者に立替させた使用者から当該金員を返還させる場合に、本件を武器として活用できる先例として紹介できる、そのような成果だと自負する。
七 首都圏青年ユニオンの今後のたたかい
首都圏青年ユニオンは、「すき家」の勝利についての声明で、次を述べた。
「近時、「ワーキングプア」「格差」「貧困」といった問題が起き、このような状況下で苦しむ非正規労働者が多くいることが社会問題化している。この問題が引き起こされている第一の原因は、企業が労働法令を守らないことにあり、特に、非正規労働者への賃金未払いや紛失金の強制立替えはめずらしくないといわれている。今般の勝利は、非正規労働者であっても声をあげてたたかうことによって大企業に法律を遵守させることができるという道筋を示したという点で非常に重要である。(中略)今回の勝利を非正規労働者の権利擁護に活かすよう、私たちはこれからも奮闘する決意である。」
非正規労働者の権利の実現を求める首都圏青年ユニオンのたたかいは、このようにまだまだ続く。「すき家」の争議も、ゼンショーが中労委命令の取り消し訴訟を起こすだろうし、岡谷訴訟も継続しているからまだまだ続く。
しかし、今までのたたかいで非正規労働者の権利実現の成果をあげたことは貴重だし、私は、そのたたかいに参加できたことを誇りに思っている。
最後に、弁護団を紹介すると、「すき家」争議は、首都圏青年ユニオン顧問弁護団から、大山勇一、佐々木亮の各団員と私が担当している。
東京支部 萩 尾 健 太
このたび、原告早川由紀子さんの公務災害認定請求手続きに関する損害賠償請求訴訟で、東京地裁民事一一部(白石哲裁判長)は、画期的な勝訴判決を言い渡したので、報告します。
一 事案の概要
一九七三年に、東京都の中学校教員であった原告早川由紀子さんは、頸肩腕障害を発症しました。
校長らによる療養妨害によって症状が悪化していく中で、一九九二年に、原告は、公務災害(民間における労災に相当する)の認定を求めて、公務災害認定請求書(以下「請求書」という)を文京第七中学校の校長、東京都教育委員会を経由して地方公務員災害補償基金(以下「基金」と言う)に提出しようとしました。
ところが、校長は、二〇年近くも前のことを公務災害と証明できない、として、所属長としての証明印を拒んで何度も突き返し、原告が都教委に直接請求書を送付しても、所属長の証明がないから、と突き返しました。民間の労災認定請求と違って、公務災害の場合、所属部局長の証明印が得られないと、手続きが進まず、所属部局長が門前払いすることがまかり通ってきたのです。しかし、頸肩腕障害のように公務起因性の判断が困難で所属部局長が証明をなしえない場合に、そのことを理由に所属部局長が手続きを止めてしまう、などということがあってよいのでしょうか。医学の専門家でもない校長の判断で公務災害認定が受けられないようであれば、何のために審査機関である基金は存在しているのでしょうか。
そうした当然の思いから、原告があきらめずになおも校長に請求書を提出した際、校長は「預かる」と述べたのですが、最終的には校長が請求書を保管したまま、本件訴訟の中で明らかになるまで一六年間も経過しました。その間、原告は、勤務態度不良として分限免職の憂き目にあい、公務災害認定請求権が侵害され続けたまま、病状悪化のもとで呻吟し続けてきたという事案です。
原告は、まず、分限免職の無効確認を求めて提訴しましたが、地裁、高裁、最高裁と敗訴しました。
そこで、原告は、二〇〇六年八月一六日に、被告基金に対して、請求書を都教委に受理させなかった不作為の違法確認、被告東京都(都教委)に対して、請求書の受理と基金への送付を求める行政訴訟を提起しました。併せて、被告らに対して、長年にわたる請求書未送付の不作為についての損害賠償を請求しました。
二 訴訟中の重大な出来事
訴訟進行中に、二つの重大な出来事がありました。
(1)裁判所からの求釈明に基づき、被告都教委が調査した結果、一九九二年に原告が校長に提出した公務災害認定請求書が、文京第七中学校の校長室のロッカーに保管されていた、として、二〇〇八年になって発見されたのです。
(2)結審が予告されていた二〇〇九年末、裁判所が、上記の経過で発見された原告の請求書を、所属部局長たる校長の証明印なしで、都教委を経由して基金のもとに送付するよう訴訟指揮をし、原告の頸肩腕障害が公務に由来するものかどうかが、一八年の歳月を経て、ついに審査されることとなりました。
そのため、原告は、不作為の違法確認及び義務付けの訴えを取り下げ、損害賠償請求のみとしました。ただし、基金は、原告の請求書について全く関知していなかったと主張した。また、被告らは、損害賠償請求の時効を主張しました。よって、本件の主たる争点は、(1)不作為の違法が認められるか、(2)損害賠償請求権が時効にかからないか、(3)被告基金の責任が認められるか、の三点となりました。
三 判決の内容と評価
提訴から四年を経た本年八月二五日、東京地方裁判所民事第一一部は、原告の請求を認める判決を言い渡しました。判決は、
(1)基金業務規程の定めから、所属部局長には、公務上外の判断権はなく、所属部局長による証明は、当該疾病が公務上によるものか否かについてまでの証明ではないとしました。そして、所属部局長たる文京七中校長は、少なくとも過失によって、原告の公務災害か否かの判断を被告基金から受けることに対する期待権を侵害したと認定しました。
(2)原告の請求書が長年、校長室のロッカーに保管されていたという事実から、請求書を預かり状態のまま放置したという不作為による義務違反の継続を認め、そのため消滅時効は完成していないとして、僅か五〇万円ではあるが原告の損害賠償請求を認めました。
(3)文京七中校長の給与負担者であった東京都はもちろん、校長は、公務災害認定請求手続きにおいては、被告基金の「公権力の行使に当たる公務員」であるとして、基金の責任を認めました。
本判決が、学校長の不法行為を認め、違反事実の継続による不作為の不法行為の損害賠償請求権について消滅時効の完成を認めなかったことは高く評価できます。しかし、一方で原告の損害額を五〇万円と著しく低く認定したことは、一八年以上にもわたる原告の頸肩腕障害と被告らの職務の怠慢という事実を不当に軽んじるものであって、到底納得できるものではありません。
四 判決の実務に及ぼす影響
これまで所属部局長の証明がない場合には、都教委及び基金は、請求書の送付及び受領を一切行っていませんでした。しかし、前述のように、本件では、裁判所の訴訟指揮により、所属部局長の証明なくして請求書が基金へと送付されました。そして、判決文中にも、所属部局長が違法に証明を拒む場合には、民間の労災申請手続きと同様、証明印がなくても申請を受け付けられると解釈すべきと判示されています。このことは、原告だけでなく、証明が得られないばかりに公務災害認定請求手続を行うことができなかった大勢の公務員の公務災害認定に大きな影響を与えるものです。
五 強制執行と控訴審での闘い
原告は基金に対して執行官による動産仮執行を行いました。執行の二時間ほど前に通告したところ、基金は現金を用意しており、執行費用を含めて満額を執行することが出来ました。
しかし、東京都・基金ともに控訴したため、舞台は高裁での審理に移ります。
始まった公務災害認定請求の手続きと合わせ、引き続き長い闘いとなりますが、さらに地裁の認定を前進させた判断を勝ち取る決意です。
北海道支部 佐 藤 博 文
一 七月二九日、札幌地方裁判所(橋詰均裁判長)は、女性自衛官に対する性暴力に関する国家賠償請求事件で、原告の主張をほぼ全面的に認める判決を下した。同判決は、八月一二日の控訴期限当日、防衛省は控訴しないと記者発表し、確定した。
この裁判は、事件当時二〇歳、提訴時二一歳の原告が、自衛隊を相手取り現職のまま闘ったことが社会の注目を集めた。原告の勇気と頑張りに全国から激励、支援が寄せられた。勝訴判決に、日本中から喜びのメッセージが届いた。
二 原告は、高校を卒業した〇四年三月に航空自衛隊に入隊し(任期制隊員)、約一年の新人教育を受け終わって、初任地である北海道の通信基地に来た。そこで二年目となる〇六年九月九日未明、基地内(庁舎ボイラー室)で上司により性暴力を受けた。
原告が上司に被害を訴えたところ、逆に原告が宿舎(庁舎の最上階にある)を離れたなどの規律違反を理由に懲戒処分の対象にされ、厳しい取り調べを受け、さらには「処分待ち」であることを理由に様々な不利益を受けた。加害者は、事件前に決まっていた転勤が取り消しとなり、原告と同じ基地で働くことになる。事件から五カ月経った翌〇七年二月、三月の任用更新を控えていた原告に上司の熾烈な退職強要が行なわれた。
三 原告は、〇七年二月、上司の退職強要により、実家に帰らされた。このとき父親が東京の弁護士(団員)に相談したところ、自衛隊イラク派兵差止訴訟全国弁護団連絡会議の『自衛隊員・家族の一一〇番』をやっていた札幌の私の事務所を紹介された。
原告に会った私は、基地のひどい対応と、孤立無縁の環境、若い彼女の将来を考えたとき、退職せずに頑張れとは言えなかった。「いま貴女ができる抵抗は、退職願に判を押さないこと」とだけアドバイスした。
それまで部隊に迷惑をかけている自分が悪いと思っていたが、部隊の方が悪いと思い直すことができ、頑張る気持ちが芽生えたという。そして、「自分から判は押さない」の一点で頑張った結果、任用期限が差し迫っていた自衛隊は継続せざるをえなくなった。
そして、原告はすぐ裁判を提起した。原告にとって、周りの全てが敵という中で、裁判は市民社会に開かれた暗闇の中の一条の光だった。
四 三年三カ月後に下された判決は、性被害の分析に深い洞察を加えており、今後先例となっていく画期的なものとなった。
(1)物理的強制の存否や程度にとらわれず、被害者の供述の一部に変遷や不合理と思われる点があっても、「性的暴行の被害を思い出すことへの心理的抵抗が極めて強いこと」「共感をもって注意深く言い分に耳を傾けないと、客観的事実と異なる説明やもっとも恥ずかしい事実を伏せた説明をしてしまうことはままある」「原告からの事情聴取はもっぱら男性上司や男性警務隊員によって行われており、原告が性的暴行を冷静に思い出したり、記憶を言葉で説明することができなかった可能性が高い」等としたことである。性被害者の心理を深く洞察した事実認定をしている。
(2)「隊内の規律統制維持のため隊員相互間の序列が一般社会とは比較にならないほど厳格で、上命下服の意識が徹底した組織」であり、原告が「上位者である加害者に逆らうことができない心境に陥る」と、軍事組織の本質に迫った認定をしたことである。加害者による物理的強制の存否や程度、それとの関係で被害者の物理的抵抗の存否や程度の問題に「同意」の事実認定が傾斜しがちな中で、当事者の社会的関係を的確に捉えた判断をしている。
(3)職場の責任につき、@被害職員が心身の被害を回復できるよう配慮すべき義務(被害配慮義務)、A加害行為によって当該職員の勤務環境が不快となっている状態を改善する義務(環境調整義務)、B性的被害を訴える者がしばしば職場の厄介者として疎んじられさまざまな不利益を受けることがあるので、そのような不利益の発生を防止すべき義務を負う(不利益防止義務)、と事後の配慮義務について積極的かつ具体的な判断基準を示し、その全てに違反があったと認定したことである。
(4)慰謝料五八〇万円を認容し、その内訳を性暴力二〇〇万円、保護・援助の不作為三〇〇万円としたことである。性暴力後の対応に多額の慰謝料を認めたことは、性被害の実態の捉え方(二次被害の深刻さ)、組織の責任の重大さを示した点で重要であり、賠償水準の引き上げにも寄与するものとなったことである。弁護士費用八〇万円(認容額の一六%)も、「本件訴訟の難易度を考慮すれば」と判示し、この点でも賠償水準の引き上げに寄与する内容となっている。
五 本裁判に対する弁護団の取り組みの教訓、自衛隊員の人権保障や自衛隊組織への影響などの問題については、後の機会に述べたい。
岐阜支部 笹 田 参 三
一 今年の暑い夏はいつ終わるとも知れない。しかし、九月半ばになって暑さは少し和らいだ。
二 河村名古屋市長の挑戦
最近日本一暑いと言われる岐阜県、その隣の名古屋市で熱い戦いが展開されている。八月二七日から名古屋市議会の解散署名が集められている。
河村市長の政策と解散請求に市民の支持が集まっているとの世論調査も出ている。
河村市長の特異なパフォーマンスによるところもあるが、それ以上に新自由主義政策に一定の支持が集まっているのではないか。市民税一〇パーセント減額、議員歳費の減額等の政策は、明確に新自由主義的政策である。ブッシュ政権の金持ち優遇減税と同様である。同時に、河村市長の狙いとして、減税遂行と同時に、地方議会と首長との関係を首長優位の一元的制度にすることが指摘されている。
三 地域主権政策の進行
国会で地域主権法案が審議されている。自公政権時代の「地方分権」政策を引き継いで、多数の制度を一括して変更しようとしている。特に注目されているのは、保育所等の保育水準を国が定めているところ、その保育基準を放棄することになろうとしている。同時に、今後の政策課題として、労働局機能の地方への移譲も検討されている。
国による各種の規制が取り払われようとしている。ナショナルミニマムの危機と称される。
四 公務労働分野での非正規労働の浸透
最も権力的作用とされてきた刑務所、拘置所で非正規労働が増えている。PFI方式で刑務所が建設され、多くの民間企業が新方式の刑務所の業務に参入している。それの止まらず、公務員に対する厳しいマスコミ等のバッシングを受けて、全ての公務労働の分野で非正規化が進行している。教育も例外ではなく、クラス担任を持つ教員についても、非正規教員が担当する時代になっていると言われている。
更に、正規と非正規との格差が大きくなったことを理由にして、正規労働者に対し、攻撃が加えられようとしている。正規労働者は解雇が困難であるとして、その解雇基準を切り下げる声が出されている。賃金を下げることも狙われている。
五 司法分野での貧困化
労働分野に止まらず、法曹養成にも、新自由主義政策が進行しようとしている。司法修習生の給費制を廃止して貸与制にする法律が施行されようとしている。
法曹資格を取得することは、私的事項であるとして、自己責任の分野であるから、給費制ではなく貸与制にすべきとの主張が背景にあると思う。
私たちは、司法制度改革を巡って、苦しい戦いをしてきた。弁護士が自らの問題として初めて経験する新自由主義政策との戦いであった。弁護士の経済的基盤に打ち込まれた、法曹人口増員という嵐は現在も進行している。
現在、給費制を廃止して貸与制にすることによって、法曹人口大幅増員と併せて、弁護士の貧困化の危機が迫っている。
六 貧困化は進行し、一層激しさを増している。
このような貧困化の進行に歯止めを掛けるには、自らの足元での給費制廃止反対の大きな戦いを進めると同時に、国民各層を苦しめている貧困問題解決を目指して、国民各層と連帯して、労働、教育、社会保障等多方面にわたる戦いを旺盛に進めるべきである。
我々は、小泉政権の規制緩和路線と激しく戦い、その後進行した格差社会、貧困問題と対峙してきた。ホワイトカラーエクゼンプション導入の動きに反対し、その実現を阻止した。
この間の給費制廃止に反対する運動で政治が動き始めた。
七 「(仮)地域主権改革を切る! 地域再生に何が必要か」
岡田知弘京都大学教授による学習会のご案内
団貧困問題委員会では、現在進行している新自由主義政策の本質を把握すべく、地域主権論を厳しく批判している京都大学岡田知弘教授をお招きして、学習会を企画している。内容としては、大企業の利益を追求する地域主権改革による地域経済・生活の破壊をやめ、住民一人一人の生活向上、地域経済発展のために「グローバル国家」から「地域内再投資」社会にシフトする新しい仕組みなどを考えるものである。
団愛媛総会前の忙しい時期であるが、その総会内容を深め、どのような戦いが求められているのかを語り合いたいと考えている。
日 時 二〇一〇年一〇月二〇日(水)午後六時三〇分
場 所 東京都文京区シビックセンター四階ホール
(二〇一〇年九月一四日記)
愛知支部 長 谷 川 一 裕
今、一つの妖怪が名古屋にあらわれている。河村たかしという名前を持つ妖怪である。
河村市長がリーダーを務める「ネットワーク河村市長」は、市議会の解散を求める直接請求の署名運動を八月二七日から開始した。周知のように、地方自治法は、有権者総数の三分の一以上(総数が四〇万人を超える場合には「40万人を超える数÷6+40万÷3」となり、名古屋市では約三六万六〇〇〇人)の署名を一ヶ月以内に集めて選挙管理委員会に請求し、同委員会の審査後、六〇日以内に住民投票を実施し過半数の同意により議会を解散する直接請求の制度(リコール)を設けている。同制度は、地方議会が住民の利益を無視した施策に固執したり、重大な不正行為を行ったりした場合に、住民がチェックできる民主的機能を持つが、今回のリコール運動はいささか様子が異なる。それは、市長選挙で掲げた公約に市議会が従わないという理由に基づき、市長自らが、自らに都合の良い議会を作り出すことを目的として、それを先導する、という点である。
鹿児島県阿久根市の市長が議会の招集に応じない等、全国のいくつかの地方自治体で市長の専横が問題となっているが、河村市長のリコール運動は大都市名古屋で議会解散のリコール運動という荒技に出たものとして、その成否が注目を集め、地元メディアでは連日、大きく報道されている。
署名運動は、個別訪問、街頭行動等により行われているが、世論調査では河村市長を七割の市民が支持するという数字が出ており、労働組合等が街頭で消費税問題等の署名運動をやっていると、「河村市長の署名ですか」と市民が尋ねてくるという。先週、推進団体が記者会見したところでは、署名は目標数の一五%という到達点である。メディアは、当初は河村市長の応援団的な色彩が目立っていたが、徐々に変化が見られ、批判的な記事も目立つようになってきている。
このたび、愛知支部では後述のような声明を発表した。声明は、憲法と地方自治法の定める二元代表制、議会制民主主義を守る立場から、市長による議会解散運動に反対するというものである。庶民減税、市議会議員の報酬半減といった庶民受けするパフォーマンスを前面に押しだし、市民を議会否定の道にひきずりこもうとする政治手法には、危うさを感じる。同時に、市議会が、住民の切実な要求を実現しながら、報酬削減等の議会改革を推し進めることが、地方自治における間接民主制の積極的意義を擁護するためにも喫緊の課題となっているという実感を持つ。
河村名古屋市長の議会制民主主義否定の市議会解散運動に反対する(声明)
名古屋市の河村たかし市長の支援団体「ネットワーク河村市長」は、八月二七日から市議会解散請求(リコール)の署名運動を行っている。
自由法曹団愛知支部は、愛知県弁護士会に所属する弁護士一〇〇余名が結集する法律家団体であるが、憲法で保障された地方自治の根幹をなす議会制民主主義を擁護する立場から、この市議会解散署名運動に反対する。
同署名運動を主導しているのは、間違いなく河村たかし名古屋市長その人である。
日本国憲法は、地方政治の仕組みを、住民から直接選挙で選出された議事機関である議会と執行機関である首長によって行なわしめ、対等な関係にある両者の抑制と均衡により住民の権利を実現するという二元代表制を採用している。執行機関である市長の権限が余りに強大になると、その専横によって地方行政が歪められ、住民意思が十分に反映されなかったり、市民の人権侵害が発生するおそれがある。市議会議員が、市民生活の実情を踏まえ、多様な価値観、意見を反映させながら、本会議や委員会等の開かれた場所で衆議を尽くして適切な政策形成を行うとともに、市長が独断専行に走らず行政を適切に執行しているか否かを監視する役割を果たすことが求められている
河村市長は、自らが選挙公約として掲げた住民税減税、議会改革の方針に議会が同意しないため、自らの公約が実現しないということを解散運動の理由としている。
しかし、たとえ公約であったとしても、それが議会の意思と異なる場合には、議会との冷静な話し合いにより解決すべきであり、それこそ憲法の予定する二元代表制のあるべき姿である。
民意を問うとことであれば、来春にも名古屋市議会議員選挙が予定されている。それにもかかわらず、性急に現時点で強引に議会の解散に持ち込もうとするのは、河村市長に何らかの政治的なねらいがあるためであるとしか考えられない。河村市長は、リコール運動によって市議会を解散に追い込むと同時に自らも市長職を辞し、その上で来年二月にもダブル選挙を行うことをめざし、同選挙では自らが指導する新党を結成して候補者を擁立する方針であると伝えられている。河村市長の市議会解散運動のねらいが、自らのいいなりになる市議会を作り出そうとするものであることは明白である。
河村市長が市議会解散を求める理由として掲げている「住民税の恒久減税」について言えば、住民税の非課税世帯等、半数以上の家計には効果がない一方、一律減税であるため大企業、高額所得者ほど厚い恩恵があり、「金持ち減税」という性格が強いと批判されているものである。同減税を継続した場合には平成二三年度には二二六億円もの財源不足を来たすとも言われおり、福祉、教育予算等住民生活に関わる予算が切り捨てられるのではないかと懸念されている。次年度には、住民税減税のために国民健康保険料の値上げが見込まれ、低中所得者の暮らしに大きな打撃となることが危惧されている。
河村市長の「議員報酬の半減」「市議会議員のボランティア化」を中心とした議会改革についても、市議会議員が果たすべき重要な職責とその専門性を見ないという批判がなされている。議員報酬について言えば、名古屋市議会は、従来の条例額からの一〇%削減に加えて新たに議員報酬の月額一〇万円削減を打ち出し、自己改革の努力を強めているが、この問題も話し合いによって十分解決できる類のものである。
従って、河村市長の議会解散運動に正当な理由はないと言わざるを得ない。
河村市長が主導する市議会解散運動は、日本国憲法、地方自治法が保障する二元代表制を否定し、地方政治の根幹をなす議会制民主主義を否定する暴挙であることは明らかである。
自由法曹団愛知支部は、河村市長の市議会解散運動に強く反対する。同時に、市議会の民主的機能を無視する言動を繰り返し、「庶民の負担軽減」を目的とするように装いながら、議会との話し合いにより解決すべきとする憲法の予定する二元代表制のあるべき姿を無視し、市民を誤った方向に誘導しようとする河村市長の政治手法の危険性を率直に指摘するものである。
二〇一〇年九月一四日
自由法曹団愛知支部
支部長 宮 田 陸 奥 男
滋賀支部 石 川 賢 治
去る八月二〇日、滋賀支部の年中行事として定着しつつある「八月集会(はちしゅう)」が開催された。県内四箇所の団事務所から、弁護士、事務局各一六名が参加し、講師の坂本修団員、来賓の中野善一郎氏(国民救援会滋賀本部会長)を含め、総勢三四名の盛会となった。
集会は、まず冒頭、本年七月に逝去した野村裕団員の追悼を行い、滋賀支部の団員による事件報告、坂本修団員による記念講演と続いた。
事件報告は、昨年までは、各人数分の持ち時間で報告希望のあった報告を順次行うというスタイルであった。しかしこれでは、次から次へと矢継ぎ早に報告がなされメリハリがないし、何よりも、弁護士と同数参加する事務局がどういうテーマに関心を持っているかという点に対する配慮がなさすぎるのではないかとの、向川さゆり団員(新六一期)からの問題提起があった。そこで今年は、報告希望のあったテーマをアンケートに付し、得票数の多かったテーマをメイン報告と位置付けて他の報告よりも多くの時間を確保し、得票数が少なくかつ特に集会での報告にこだわらないというテーマについては懇親会での報告に回すというスタイルに変更した。アンケートの結果、メイン報告のテーマには「裁判員裁判」が選ばれ、裁判員裁判を経験した団員から感想が報告された。永芳明団員からは、従来の刑事裁判では当然のように良情状として考慮されていた被告人に妻子ありとの事情が有利に考慮されなかったとの報告がなされ、量刑事情について従来よりも丁寧な説明が求められていると実感した。
講師としてお招きした坂本修団員からは、「未踏の峰をめざすみなさんへ―五〇年団員からの『贈る言葉』―」とのタイトルで記念講演を頂いた。比例定数削減がテーマでないことを意外に思われる読者もおられると思うが、事前の支部例会における、大野聡子弁護士(新六二期)の「五月集会に参加したが、団員ならではの生きがい、やりがいについての話が十分に聞けなかった」との発言をきっかけに上記記念講演が実現した。坂本団員の講演は、常に労働者と共に闘い抜いてきた弁護士ならではの迫力に溢れており、聴く者を圧倒した。人民と広く団結することが団の闘いにおける生命力の源であるなど闘いの基本姿勢についての話も、経験に裏付けられており説得的であった。私を含めた若手団員が、団員であることの意義を再確認するに十分な講演であった。
もちろん、比例定数削減問題についての講演も行われた。民意の反映という代表民主政の根幹が揺るがせにされようとしている問題状況や、民主党・自民党による議会支配が現実のものになろうとしている危機的状況について非常にわかりやすく説明され、弁護士・事務局共に問題意識を共有することができた。今後、滋賀支部においても、運動への取り組みが強化されるものと思われる。
集会後の懇親会は近傍のイタリアンレストランで行われ、弁護士一五名、事務局八名が参加し、一人一人が近況を報告し合い、大いに親睦を深め合った。その後さらに近くの居酒屋に場所を移したが、とりわけ後半の記憶は霞の彼方であり報告できない(しかし、最後までお付き合いくださった坂本団員にはこの場をお借りしてお礼申し上げます)。
今年の滋賀支部八月集会を総括すると、記念講演のテーマ決定、事件報告のスタイル変更など主要な点で若手団員から卓抜なアイデアが示され、若手団員が支部活動においてその存在感を示した集会であったと言える。報告スタイルの変更も好評であった。またこれは今回に限ったことではないが、弁護士と事務局が集会から懇親会までずっと一緒に行動することによって問題意識の共有が図られるし、連帯感を深めることもできる。こうした点は、五月集会のような大規模集会では難しいところであり、滋賀支部の八月集会のようなものを近畿地区などの単位で行ってはどうかとの話もあるやに聞いている。若手としては、何を仰せつかるかわからないという不安もあるが、面白そうとは確かに思う。
滋賀第一法律事務所 多々納ゆりか
坂本修先生は、いつも五月集会でお顔を拝見しますが、ゆっくりとお話をうかがう機会がなく、事務所の玉木昌美弁護士を通じて聞く話の中で、私は『特別な弁護士』と思いこんでいました。
滋賀支部主催八月集会での、坂本先生の講演を、私は『特別な話』を聞ける機会と身構えていました。
ところが講演で、ご自身や自由法曹団のことを生き生きと語りはじめる坂本先生に、私はすぐに心奪われたのです。
先生の講演の中で、印象に残っているのは、これまでの闘いのひとつで、三光自動車タクシー労働組合の委員長であった丸山さんが暗殺された事件の話でした。事件は聞いているだけで恐ろしくなる残虐な内容でしたが、先生自身が、犯人逮捕のためにテロ集団や国家権力を相手に、労働者と一緒に文字通り命をかけて闘われたことには驚きでした。しかし、そのような闘いを、決して特別なことではない、弁護士として弱者のために何かをするのではなく、普通の国民を闘いの主人公にして共に闘う、自分にできることを、と言われるので、さらに驚きでした。
国民の権利が侵害されるところには必ず自由法曹団があり、国民と共に不屈にたたかう団の歴史はとても誇り高いものがありますし、今、事務所で抱えている事件の中にも、やはり団の志は生きていると感じました。
もう一つ衝撃を受けたのは、歴史の中に自分をおいてどう生きるかということです。
自分の生き方と歴史を重ねる―とても壮大な話に聞こえますが、自由法曹団員として後悔なく生きてこられた坂本先生の人生は、とても現実的で人間味あふれるものでした。
先生のように生き生きと自分を語りたい!そうだ!まずは運動に参加を。それならわたしにもできる!と考えながらも、先生のような勇気や志が私にあるのだろうかと疑問に思ってしまいました。すると私の心を見透かしたかのような「人間にはそういう素質が遺伝子に組み込まれていると思う」という先生の言葉。遺伝子レベルの話をされても空想に聞こえないのは、生きた言葉だったからではないでしょうか。
自由法曹団の事務所で働く事務局として自分には何ができるのか、そして歴史の中で自分はどういう生き方をすれば輝けるのか、私にとっては壮大なことですが、考えるだけでワクワクしてしまいます。
そんな気持ちにしてくださった坂本先生はやはりすごい!
先生の講演を聴く中で、私は大きく心を揺さぶられ、『坂本修』に恋しちゃったのです。
東京支部 前 川 雄 司
一九八五年八月一二日、日本航空一二三便(ボーイング747)は群馬県上野村近くの御巣鷹山に墜落しました。救助された四名を除く五二〇名が死亡しました。この本の著者である美谷島邦子さんは九歳の健ちゃんを失いました。
事故から四ヶ月目、遺族は「八・一二連絡会」を結成します。美谷島さん夫妻はその事務局を引き受けます。会報「おすたか」の発行、刑事告訴、検察審査会への申立て、原因究明に向けての活動、遺族へのアンケートの実施、生存率向上の検討、残存機体や身元不明の遺品の保存活動、独立した事故調査機関の設置を求める活動、藤岡市や上野村の人たちとの交流、慰霊祭や灯籠流し、御巣鷹山への慰霊登山、日航による安全啓発センターの開設とそこでの美谷島さんの講話、被害者や遺族の連帯、遺族支援……。この本には二五年にわたる遺族たちの歩みが記されています。
この本を読むと、事故原因の迅速な解明、再発防止、被害者や遺族への経済的・精神的支援などにおいて、日本の法制度や行政・企業の対応に極めて大きな問題があることがよくわかります。私もシンドラー製エレベーター事故(二〇〇六年六月)の遺族の代理人の一人としてこの問題と取り組んできましたが、事故から四年以上経過しても未だに事故原因の全面的な解明はなされていません。刑事捜査が事故原因調査よりも優先する法制度がこのような事態を引き起こしています。
そのような状況の中で、日航機墜落事故、信楽高原鉄道事故(一九九一年五月)、中華航空機事故(一九九四年四月)、明石歩道橋事故(二〇〇一年七月)、東武伊勢崎線踏切事故(二〇〇五年三月)、JR西日本福知山線脱線事故(二〇〇五年四月)、シンドラー製エレベーター事故など、さまざまな事故の被害者や遺族・支援する人たちの連帯が広がっていることが紹介されています。そして、法や社会の仕組みを変えつつあることが記されています。
この本は、遺族や支援する人たちの言葉、気持ち、行動、行政や日航や報道の人たちの言葉や行動など、豊富な具体的事実によって織り上げられています。それとともに、美谷島さん夫妻をはじめ多くの人々の歩みが描かれています。人としての生き方や価値観などたくさんの大切なメッセージをいただいたように思います。ぜひ多くの人に読んでいただきたいと思います。そして、その連帯と支援の輪に加わっていただければ幸いです。
福岡支部 角 銅 立 身
一 正面左の上田誠吉さんの写真を見ながら、一一名の発言を聞く
前に、私は一九六八年の自由法曹団の団報を手にとって、「トロッキストであろうが、なかろうがその人権は守られるべきである」という後藤昌次郎(東京・旬報)さんとの討論の様子を思い浮かべていた(蒲郡市三谷にて)。
当時三年目の弁護士であった私は、六〇年安保の闘い・三池闘争の中でのトロッキスト集団が、労働組合運動昂揚の中で果たすべき役割が、全くないということでスゴスゴと引揚げてしまった事実を知っているだけに、その役割について否定的な見解をもっていた。
上田幹事長は閉会の言葉の中で、「私たちは、団の力を結集して、この来るべき日本人民の壮大な闘争に勇躍して、参加したいと思います。分裂的な挑発分子に対する私たちの闘いについても、自由法曹団としての見解を打ち立てるために、貴重な討論が行われました。・・・・私たちはこれから一層、豊富な経験をもつことになると思いますけど、その経験を豊かにしていく中で、全ての団員の先生方に共通する見解を確立していきたいと考えます」とキッチリ締めています。
二 発言者でメーデー事件の元被告、松澤信祐さんはまず絶句して
涙をボロボロこぼしながら、先生にこの事件で出逢って、人生に
意義と、生き様を覚えた。兎に角感謝していますと。
政治学者の大先輩である畑田重夫さんは、歯切れのよい言葉で
上田さんの先見性のある行動を指摘し、一〇年先、二〇年先をみた思想性について。
石川元也さんは学生時代、メーデー事件の被弾圧者として受傷しながら、司法試験に合格し入所にあたって、事実を申告するかどうか議論したこと。松川事件の弁護、大須事件として日本弁護士連合会内での自由法曹団活動の定着化を・・・。
鶴岡灯油裁判元原告の立川常子さんの生協活動の中で、私は脇山淑子(一五期)生活協同組合議長と、宮本康昭(一三期―再任拒否された裁判官)、故佐々木恭三(一七期)と上田誠吉(一二期)団長らの鶴岡と、秋田の現地通いは一〇〇回にも及ぶ長期裁判の実情を知っているだけに、例えば被告会社が「冬の日本海の時化で、タンカーが酒田港から粟島に通う定期航路の運行状況によれば、昭和四八年には粟島航路欠航が増えるまどにも荒れなかったこと、つまり石油会社の言い分がでたらめであることを証明したなど。最高裁では逆転敗訴したものの、脇山さんのありがとう一五年≠フなかで、「私たちはこれからも、灯油裁判を語り継ぎ、協同のあるまち、いつまでも住み続けられるまちづくりを目指しています。・・・弁護団で会食をしたとき、秋田の銘酒を何種類か注文し、どれが一番おいしいか、飲みくらべをしました。佐々木さんと私は(ここからは私の記入ですが、上田団長も同じと思う!)、辛口の「新政」が一番好きということで、意気投合したのでした。偲ぶ会には出席できませんが、その日、私は鶴岡で、「新生」の熱燗を佐々木恭三さんと上田誠吉団長に、献杯しましょう(援用)。
その他は割愛します。
三 上田誠吉さんの思い出の締め切りは、七月一二日でした。
実はその原稿は二〇枚ほど書いていたのですが、前日の七月一一日の参議院議員選挙で、仁比聡平(弁護士)と、小池晃(医師)を落選させてしまったので、原稿を送るのを失念してしまったのです。
事務局次長 近 藤 ち と せ
九月七日、団本部において第四回大量解雇阻止全国会議が開かれました。当日は、東京、神奈川、京都、茨城など全国から多くの団員と、非正規社員の生活などをテーマとして取り上げている小説家、非正規事件の当事者、組合の方々等が集まり以下のような問題について意見交換をしました。
一 現代の非正規社員と日立メディコ最高裁判決
この最高裁判決は、期間社員の雇い止めに先立ち、正社員について希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、不当・不合理であるということはできない等とした判例です。鷲見幹事長からは、非正規社員の正規社員との置き換えが進んだ現代社会では、三人に一人は非正規社員であるし、この事件が起きた昭和五〇年代とは非正規を巡る状況が全く異なる。有期契約社員の雇い止め事案では、積極的に正規社員と非正規社員の業務と責任の同一性を主張した上で、非正規社員の雇止の前に、正規社員と非正規社員を一体として希望退職者を募集していなければ違法であること等を主張すべきとの発言がありました。
二 松下PDP最高裁判決を乗り越える法律論
次に、松下PDP最高裁判決を乗り越える法律論についての討議に移りましたが、そこでは、まず、東京の今村幸次郎団員から、最高裁判決の分析がなされると共に、派遣先と派遣元の契約関係が職安法上の「労働者供給」に該当するか否かを抜きにしても公序良俗違反になりうるという法律構成についての説明がありました。
また、日産事件に参加する神奈川の田井団員からは、派遣先と労働者との間に雇用契約の成立を認める法律構成として、黙示の合意論とは別に、解雇権濫用法理の脱法を目的として派遣という形式を利用したに過ぎない場合は、規範的に見て労働者と派遣先の間に雇用契約が成立するとする解釈に基づいて主張しているとの報告もあり、この解釈を巡って、多くの意見や質問がなされました。
三 有期労働契約研究会「最終報告書案」の批判的検討
会議では、非正規社員が不安定な地位におかれている元凶は、派遣法だけではなく、有期雇用法制にもあるという認識から、有期労働契約研究会の最終報告書案についての批判的検討もなされました。埼玉の伊須団員からは、この最終報告書案には、期間の定めのない契約こそが雇用契約の大原則であるという位置づけがないが、この点についてしっかり位置づける必要との指摘がありました。また、最終報告書案には新たに正規と非正規労働者の中間に位置する雇用形態の創設について提言されていることなども問題であるとのことでした。
四 諸外国の有期法制・派遣法制について
さらに、会議では、諸外国の有期法制・派遣法制についての比較検討も行い、「日本のスタンダードは世界のスタンダードではない」ことが明らかになりました。
例えば、有期法制に関しては、EU諸国では有期労働に関して
(1)正当な理由がある場合にのみ認める、(2)期間の上限を決める、(3)更新回数の上限を決める、のうち一つ以上を選択して法制化しなければならないとされており、ドイツやフランスでは、(1)、(2)、(3)の全てが法制度化されています。
また、派遣についても、多くのヨーロッパ諸国では派遣社員を利用できる場合を一時的臨時的な必要性のある場合に限定する規定を設けるとともに、正社員との均等待遇を保障していること、また、期間を超えて派遣したり、違法な派遣をした場合には、直接雇用みなし制度を設けています。
しかし、日本の派遣法には、入り口規制はなく、直接雇用申し込み義務も実効性がない等、大きく立ち後れているのです。
五 偽装請負、違法派遣等についての損害論
最近、違法派遣があったとしても、そのことから直ちに損害が生じたとはいえない等とする裁判例が出されて問題となっています(NTT多重請負事件等)。会議では、いかなる損害の主張がなし得るかについて意見交換がなされ、解雇されたこと自体による精神的損害、非正規という不安定な立場におかれたことで被った精神的損害、派遣元などによるピンハネ分などを損害として主張すること等が上げられました。また、その場合の法的根拠や具体的主張内容などについて意見を交換しました。
六 非正規事件裁判における文書提出命令の活用等について
埼玉の金子団員が作成してくれたレジュメや資料を基に、偽装請負や違法派遣などのケースで労働局申告に対して是正指導等が出た場合、指導書や関係書類について文書提出命令を求める意義や具体的な方法についての発言もありました。
労働局による具体的な調査結果に関する書面を開示させることで、労働局が違法の認定のための調査過程で得た具体的事実の詳細が明らかになるなど、非正規の裁判に役立つということでした。
七 非正規闘争を支える支援体制
神奈川労連の水谷議長からは、日産やいすゞなどの非正規事件を支援している経験に基づき、非正規事件支援の難しさ、特に、経済的な苦境の度合いが正規社員の解雇等の場合よりも厳しいことが多く、そのため精神的にもひどく追い詰められてしまう傾向があること等の報告がありました。そして、その支援のために、組合などの団体が加盟して支援する体制の他に、個人加盟の守る会などを立ち上げて支援している状況が報告されました。
以上、会議自体は四時間に亘る長いものでしたが、非正規事件を勝ち抜くための多くの視点を提供する盛りだくさんの会議であったとともに、私自身は、皆さんとの意見交換、情報交換もできて、今後もがんばろうという元気をもらうこともできた会議でした。
「国会改革」・衆院比例定数削減阻止対策本部
「なぜ、いま比例定数削減なのか?激動の政局と比例定数削減、選挙制度のあり方を考える。強権政治を許さず、小選挙区制廃止をめざす運動をどう進めるか?」
こんな問題意識で、憲法会議、自由法曹団、全労連等九団体で、九・二九学習決起集会を持つことにしました。多数の団員、事務局の皆さまの参加を呼びかけます。
削られるのは民意 衆院比例定数削減反対九・二九学習決起集会
○日時:二〇一〇年九月二九日(水)午後六時三〇分〜八時三〇分
○場所:全国教育文化会館(エデュカス東京)七階大会議室
○内容:各政党代表あいさつ・国会情勢報告
講演 小沢隆一(東京慈恵会医科大学教授)
各団体の取組の交流
アピール提案
○主催:憲法会議 自由法曹団 新婦人 全商連 全労連 全学連 民医連 民青 農民連