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鶴見 祐策 権利保障の期待に背く「新国税通則法」の成立
萩原 繁之 時機に後れた感想文
―東京空襲ツアーに参加して
東京支部
 谷村 正太郎
松川事件元被告  
 本田  昇
大塚一男さんを偲ぶ会のご案内
―二〇一二(平成二四)年四月七日(土)―
瀬川 宏貴 共通番号制度学習会のお知らせ
◆自由法曹団結成九〇周年記念出版
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権利保障の期待に背く「新国税通則法」の成立

東京支部  鶴 見 祐 策

一 新法の成立の経過

 民主党政権が「納税者の権利保障」を謳って提案した「所得税等の一部を改正する法律案」は、それとは全く異質のものになり変って二〇一一年一一月三〇日に成立した。総会の決議後の経過も含めて報告したい。

 当初の法律案では、その一七条が「国税通則法」の一部を改正する部分であり、そこに「納税者権利憲章」の策定や税務職員の質問検査権や課税に関する横断的な規定が用意されていた。民主党の公約に掲げられ、また政府の税制大綱が示されてより、主として納税者の権利保護を更に進める観点からの議論が大きな高まりをみせた。日弁連も「納税者権利保護法の制定に関する立法提言」(二〇一〇年二月一八日)を行っている。わが団では、この法律案に対して納税者の権利強化の観点から「批判意見書」(二月一九日)を発表した。

 ところが、立法作業の当初の段階から、課税側の官僚らとこれを代弁するイデオログによる働きかけが執拗に展開されてきたのである。その集大成がこの法律の中身と言ってよい。

 とりわけ民主党の政権基盤の脆弱に乗じて「課税権の強化」と「納税者の劣位」を盛り込もうとする一連の策動を見過ごすことはできない。これに呼応する野党の政局がらみの揺さぶりがあり、それらが相乗する結果として「納税環境整備の進展」を織り込んだ民主、自民、公明の「三党合意」(六月八日)がなされ、これを受けて臨時国会では、法律名も現行の「国税通則法」に戻すとともに「納税者権利憲章」策定条項の放棄や「国税に関する国民の権利利益を図りつつ」(第一条)の文言を削除する新たな修正案が編み出され、大詰めの一一月一〇日には、三党の税制調査会長の協議で「納税環境整備」のため衆参両院とも議決することまで合意されたのである。「納税環境の整備」とは、いわば課税庁側の権限強化と同義の通用語にほかならない。かくして「納税者の権利」の保障とは全く逆のものにすり替えられて「新国税通則法」という形で結実したのがこれである。

二 団総会の決議

 政府税調が「権利憲章」を断念との報道(一〇月八日)があり、それを裏付ける資料が明るみに出た事態をふまえ、団は、この改悪の策動を厳しく抗議する総会決議を行ったが、その後に精力的に取り組まれた反対運動の先駆けの意義を持つものであった。短期間ではあったが、全国から国会内の大衆集会や議員要請に集中する活動が展開された。それらは、「納税者の権利」確立に向けた次の運動の出発点でもあった。

三 新法の問題点

 決議でも指摘されたが、この新国税通則法案の中身は、要するにこれまで課税庁側の優位を背景に事実上行われてきた慣行に法律的な根拠を付与するものに限られており、納税者側の劣位を明確化し固定化するものにすぎないのである。その特徴は、書面不要の「事前通知」、「修正申告の勧奨」、帳簿書類等の「提示」「提出」「留置き」(罰則つき)などで示されている。これらは、中小自営業者に対する強権的な税務調査に対して、その現場では勿論であるが、その後の裁判闘争でも憲法の租税法律主義や適正手続の保障の条項に依拠して闘ってきた納税者の立場をいっそう脆弱に導くための仕掛けにほかならない。少なくとも、これらを創設させた課税権力の狙いは、そこにあったと見るべきであろう。

 いっぽうこの新法でも前進面があるとの指摘がなされている。更正の請求の期間の延長や課税処分に対する理由附記の必要などである。

 しかし、更正請求の期間については、課税側の更正との均衡は当然としても、総額主義が支配(争点主義の排除)する税務行政の実務のもとでは、容易に不正と認定される危険があり、新しい刑事制裁の威嚇が伴うことから納税者に対する真の救済の機能を著しく減殺させるものと言わねばならない。

 不利益処分に対する理由附記は勿論当然である。税務に限って行政手続法の適用を排除した制度自体が異常であった。それを原則に戻すわけであるが、もともと実務では処分を正当化するに足りる理由がなかったのが実際であったろう。

 だからこそ嫌がらせに類する調査のあげくにころ合いを見て「和解案」まがいの修正申告の「慫慂」が行われてきた。このくらい増額の修正に応ずれば、もう調査は終わりにする、これ以上の追求はしない。これに応じなければ、もっと調査を続けて多額の更正になるだろう。こういう脅迫と甘言の「取引」が広く横行してきたのである。その代わり修正で確定するから不服申立てはできないという。

しかし「慫慂」に規定がなかった。そこで新法は「勧奨」の名目で根拠を作ったのである。それで「理由附記」の障壁を迂回したのである。

 しかも所得三〇〇万円以下の業者にも記帳義務を課した。これは消費税の強化とも連動している。

 もともと修正申告でも更正の請求はできる。それを文書で伝えることになった。しかし、修正を覆す更正の請求が罰則の危険と隣り合わせであることは前述のとおり。

四 これからの取組み

 申告納税制度が有効に機能するためには、公平適正な税制と税務行政に対する国民の信頼と理解を得ることが基本にすえられなければならないとされる。それは、かつての裁判闘争の経験をふまえた国税庁自身が作成した「税務運営方針」などで建前として掲げたものであった。その基本に立ち返るためには、税務行政の透明化の徹底が欠かせないであろう。今回の新法では、その片鱗もない。

 納税者の権利を守り前進する立場からは、これまでの経験と教訓を活かしながら真の「納税者権利憲章」を確立するために取組を更に強めるほかはない。その決意を新たに固める機会ともなった。

五 政治と官僚の癒着

 ところで余論だが、行政の透明化は一向に進まない。最近刊行された元公明党委員長の著書「乱脈経理」(講談社)では、大金入りの金庫がゴミとして捨てられていた事件をきっかけに支持母体の宗教団体が税務調査にさらされることになったが、その名誉会長に脱税追及の矛先が及ぶことを極度に恐れて当時の自民党の実力者である元首相や幹事長に税国税庁長官らに口利きを依頼して抑え込んだ話が詳細に語られている。元首相から「税金をゼロに説き伏せた」との電話があったという。その衝に当った本人の証言だけに信憑性は十分と言えよう。その見返りに国会では一転してイラク派兵に賛成したという裏話もある。大物政治家の口利きで莫大な税額が見過ごされた例は勿論これに尽きないであろう。それは、この立法の背景にも深くつながっている。


時機に後れた感想文
―東京空襲ツアーに参加して

静岡県支部  萩 原 繁 之

 一〇月の団総会後の一泊ツアーの感想文を年明け後の今頃提出するのは、我ながら著しく時機に後れている。同じテーマで、先輩の千葉県支部藤野善夫団員の原稿は、一一月二一日号の団通信に掲載されている。遅筆で知られた故井上ひさし氏を真似ているわけではないが。民訴法一五七条を準用して却下されても仕方ないと思いつつ、提出することにする。

 僕が司法修習生の時に五五歳で逝った僕の父羊之助は、東京大空襲の体験者だった。翌朝、累々たる焼死体が発していた悪臭のひどさについて、また、空き缶に入れて楽しみに集めていた鉛筆が全て焼けてしまったことについてなど、聞かされたことを思い出す。また、僕は地元沼津で「オリーブ・ジャム」という平和運動団体に関わっていて、この団体は毎年、アジア太平洋戦争開戦の日である一二月八日のほか、沼津に大空襲のあった七月一七日を中心とする日も含め年二回「戦争と平和を考える市民のつどい」というイベントを開催している(最近週刊金曜日が取り上げてくれた)。こうしたことから、東京大空襲に関する知見を、早乙女勝元氏の著書二冊を読んだ程度の範囲から広げることは、有意義だと思った。それに、父は、伊豆の下田で生活しながら生涯自分は江戸っ子だということをアイデンティティにしていたし、父の祖父すなわち僕の曾祖父が吉原の大門の門番をしていて、曾祖母は吉原の茶屋のわがまま娘だったなどという、真偽不明で怪しげながら自分の「ルーツ」に関する関心もあったから、浅草を中心とする下町を巡ることにも興味を感じた。ついでに書くと、曾祖父は名を金三郎と言った(これは原戸籍から疑いない)が、三遊亭円朝作の「牡丹灯籠」で、自分に焦がれ死にした女性に取り殺されてしまう萩原新三郎の名前と無関係なのか、気になっている。そんなこんなが、五月集会の石見銀山ツアーに続いて団総会後の旅行に参加する動機になった。

 前置きが長くなったが、総会当日の屋形船遊覧と打って変わって、翌日の東京大空襲ツアーは、参加者が、いつもご一緒する藤野団員と団本部事務局の薄井さんとの三名だけ。驚くべきことに、主催支部のはずの東京支部からは参加者、随行員が一人もいなかった。

 もと大月書店勤務(したがって我が同期の怪人K団員と元同僚)の川杉元延さんをガイドに、富士国際旅行社の太田さんの運転するレンタカーで、原爆の火の碑や海老名香代子さんらが建立した平和記念の碑などなど、上野、浅草周辺の空襲に関する数々のモニュメントを案内していただいた。こうした記念碑の内容を明確にすることや、また維持、存続にも、これらを邪魔にし、排除したがる勢力との不断のせめぎ合いがあることを併せて教えていただいた。

 さらに、浅草寺の境内を散策しながら、空襲によって焼けた境内の樹木の何本か、そして今も架かっている橋の土台の石に、焼け焦げた痕跡が未だに残っていることを目の当たりにさせていただいた。何事もなかったかのように多くの観光客で賑わっている浅草寺に戦争時の痕跡、傷跡が、七〇年近い時を経てなお残されていることは、新鮮な驚きだった。

 浅草の老舗で日本そばを食べてから東京大空襲訴訟原告団の決起集会にわずかな時間、合流し、この訴訟に関わって献身されている黒岩哲彦団員とも顔を合わせた後、川杉さんと別れて東京大空襲・戦災資料センターへ。ここで、東京空襲が、カーチス・ルメイの指揮下、東京の下町が、まず周囲から目標地域を取り囲むように火の海にされ、しかる後に目標地域内がくまなく火の海にされるという、周到な大量殺戮だったことを認識させられた。ついでに父の母校、第二砂町国民学校の所在地も、初めて地図上で確認した。この空襲で父が命を落としていたら、当然、僕という存在はなかったことになる。

 そのような、我が国一般市民の大量殺戮を指揮したそのカーチス・ルメイが、戦後日本政府から勲章を授与されたことは、僕にとって、既知ではあったが、空襲の周到さを知ることで、勲章授与などということの売国性を改めて痛感した。僕のマイミク(インターネット交流サイト「ミクシィ」上の友達)である、若干「ネット右翼」気味かと見られる高校生は、こうした事実を知らなかったが、もっともっと多くの国民に知らされ問題提起されて良いことだと思う。

 ツアーは最後に江戸東京博物館を見学して終わったが、川杉さんや、太田さんはじめ富士国際旅行社(きっと赤字だったでしょう)の皆さんのおかげで、実に内容の濃い充実したものだった。僕は常々、団員として、弁護士として、人として、知っておくべきことで知らないことは、世の中にたくさんあると思っているが、このツアーにもそうしたことが満載だった。僕だけでなく、東京支部の団員の皆さんなどにとってもそうなのではないかと思うのだが・・・。

 今年秋の総会後の旅行には、二〇〇〇年の五月集会後の旅行と同様、静岡県支部からの参加者、随行員は、きっといるでしょう。


大塚一男さんを偲ぶ会のご案内
―二〇一二(平成二四)年四月七日(土)―

東 京 支 部  谷 村 正 太 郎
松川事件元被告  本 田   昇

 私たちが敬愛する大塚一男さんが九月三日逝去されました。

 大塚さんは、昭和二四年四月、戦後新たに設けられた司法研修所一期生として東京弁護士会に登録され、再建された自由法曹団の、又自ら創立にかかわられた東京合同法律事務所の青年弁護士としての活動を踏み出されました。大塚さんを待ち受けていた事件が、畢生の仕事となった松川事件です。大塚さんは、福島に常駐するなどして、先輩岡林弁護士と世論に訴えると同時に、若い全国の自由法曹団員や仙台弁護士会の弁護士とともに、新しく施行された刑事訴訟法を駆使して謀略的弾圧事件に立ち向かい、全員無罪に導いたのです。

 以降再審事件にも取り組むとともに、日弁連人権擁護委員会委員長に推されて、弁護士会の人権活動が社会的に評価される土台を築かれました。

 大塚さんはまた、各地の悪法反対の集会に呼ばれて、松川事件や再審事件の教訓を語り続けられました。

 大塚さんとこれらの活動を共にすすめた人、大塚さんに薫陶を受けた人、その他大塚さんと直接・間接に接した人々などが集って、大塚さんを偲ぶ会を後記のとおり企画しました。会場から、上智大学や四谷土手の満開の桜が見下ろせるはずです。ご出席いただければ幸いです。出欠の回答は、後記事務局宛にメール又はTEL、FAX、郵送でお願いします。

 上記偲ぶ会に間に合うように、大塚さんとの交流と思い出を記した文集を編集・作成したいと考えています。二〇一二年一月末日を目途に、原稿を募りますので、是非ご協力下さい。

 内容、字数は自由としますが、できれば二〇〇〇字以内で、後記事務局宛にメール又はFAX、郵送でお願いします。

 会に欠席された方でも、入手希望の向きには、実費(郵送料込み二〇〇〇円)で頒布いたします。

〈呼びかけ人(順不同)〉

松川事件関係    本田昇、鈴木信、松本善明、鶴見祐策

日弁連人権擁護委員会元委員長  谷村正太郎、大川隆康、青木正芳、相良勝美、岡部保男

東京弁護士会関係  小篠映子、安井規雄、黒岩哲彦

再審事件関係    関原勇、河村正史、田中敏夫、高野孝治

自由法曹団     竹澤哲夫、篠原義仁、小部正治、泉澤章

日本国民救援会   山田善二郎、斎藤喜作

東京合同・四谷法律事務所  荒井新二、高畑拓、山本真一

報道・出版関係   大石進、沢田猛

武蔵野地域関係   石崎和彦、川村武郎、長塩征生


大 塚 一 男 さんを 偲 ぶ 会

日 時 二〇一二(平成二四)年四月七日(土)午後一〜三時

会 場 東京都千代田区麹町六―六

     「スクワール麹町」五階芙蓉の間

      電話 〇三―三二三四―八七三九

      JR四谷駅(麹町口)正面、旧主婦会館隣り 地下鉄丸の内線・南北線四谷駅より徒歩一分

 なお、宿泊希望の場合は、同会館宿泊予約係〇三―三二三四―一〇五七へ

会 費  弁護士  一〇、〇〇〇円

     上記以外  七、〇〇〇円

出欠の回答先 及び 文集原稿送付先

事務局 東京都千代田区神田須田町一―四―八・八階

    お茶の水合同法律事務所 西 嶋 勝 彦 

     TEL 〇三―五二九八―二六〇一

     FAX 〇三―五二九八―二六〇二

     メール katu@gem.hi-ho.ne.jp

カンパ(欠席者)又は文集の代金送金先

    三井住友銀行神田支店 普通六四四五〇八八 西嶋勝彦


共通番号制度学習会のお知らせ

事務局次長  瀬 川 宏 貴

 政府は、国民の納税記録や社会保障などの個人情報を一括管理する、共通番号制度「マイナンバー」法案の概要をまとめ、二〇一五年からの導入に向け、二〇一二年の通常国会への法案提出の方針を明らかにしています。

 この制度は、国家による個人情報の一元管理を可能にし、第三者による情報の不正取得などプライバシー権を侵害するものです。また共通番号が不正に利用された場合深刻な財産的損害を受けるおそれもあります。

 そこで共通番号制度について、以下の日程で学習会を行う予定です。講師は大阪支部の坂本団団員にお願いしています。皆様どうぞご参加ください。

日 時 二〇一二年一月一九日一七時〜一八時三〇分

場 所 自由法曹団本部

講 師 坂本団団員(大阪支部)


◆自由法曹団結成九〇周年記念出版

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 自由法曹団本部あてにFAXでお願いします。

 定価 五二五〇円(税込)→ 団員価格 四二〇〇円(税込)

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