過去のページ―自由法曹団通信:1421号        

<<目次へ 団通信1421号(7月1日)


菊池  紘 東京代々木公園に一〇万人の怒りの声を
・・・・七・一六さよなら原発集会
柿沼 真利 *五月集会特集その三*
原発問題分科会感想
原発被害者を二度と出さないために
鴨田   譲 構造改革+震災問題分科会(一日目)に参加して
種田 和敏 陸自レンジャー市街地武装行軍訓練 後記
鷲見賢一郎 ホンダ・いすゞ判決と裁判闘争の再構築の重要性
中川 創太 伊方原発訴訟について
大久保賢一 被爆者のたたかいがフクシマに伝えること
―原爆症認定集団訴訟の教訓―
中瀬奈都 第三七回全国公害被害者総行動に参加して
杉島 幸生 TPPサービス貿易(第一二章)の章を読んでみました。
森  孝博 *書評*
「大学生がえがく脱原発の未来マニュアル  検証!自然エネルギーのチカラ」
松井 繁明 坂本 修『比例定数削減か民意の反映か』普及のお願い
泉澤  章 七・一一秘密保全法学習集会へご参加を
篠原 義仁
小部 正治
七・一六原発弁護団全体会議にご参加下さい!



東京代々木公園に一〇万人の怒りの声を
・・・・七・一六さよなら原発集会

東京支部  菊 池   紘

 昨年三月一一日の地震と津波による福島第一原発の爆発を受けて、自由法曹団は全労連などとともに七月二日の原発反対の緊急行動(明治公園)を呼びかけました。この集会には、当時最高の二万人が集まり、原発からの撤退を求める声の大きさを示しました。

 そして大江健三郎さんらの呼びかけた九月一九日の明治公園の集会には、じつに六万人が集まりました。千駄ヶ谷駅に降りた人は身動きもできないありさまで、多くの人々が明治公園までたどりつけなかったのでした。労働組合を始めかつてなく幅広い諸団体が集まり、はじめて自らの意思を表す若い母親や父親、そして多様な若い人びとが、おしゃれで個性的なメッセージをもって駆けつけました。あの歴史的な七〇年安保以来の参加数と言われたこの集会は、原発に反対する声の強さを示すとともに、その後の世論の流れを動かしがたいものとしました。

 こうした動きは年を越して、さらに多彩に創造的に広がっています。


 もともと今夏の電力需要について、政府は「計画停電を避けるため」を振りかざし、その一方で発電の整備を意図的に避けてきました。最初から再稼働ありきの道を進め、ほかの道の検討はしなかったのです。こうして野田政権は「脱原発」の民意をないがしろにし、消費税増税三党合意の翌一六日に再稼働を決定し、なりふりかまわず無理無体な大飯原発の再稼働を強行しようとしています。野田首相は「安全が確保された原発は」「私の責任で判断」というけれども、その鈍感な無反省と無責任には驚かされます。「安全の確保」も「私の責任」も、いずれもその言葉の軽さに薄気味悪いものを感じます。福島第一原発の爆発によって否定された安全神話の再現であり、政権をあげての原子力利益共同体への回帰です。


 「電力不足」などの脅しにもかかわらず、国民の多数が再稼働に反対していることは、この国の未来について希望を抱かせるものです。野田首相が再稼働を決める前夜の一五日には、インターネットでの緊急の呼びかけで、若い人々をはじめ一万一〇〇〇人が首相官邸を包囲しました。そして一週間後の二二日には同じ場の抗議の人なみは四万五〇〇〇人にふくれあがりました。

 大江健三郎さんらは、「私たちはいまこそ、日本の指導者たちにはっきりと、『原発はいらない』という抗議の声を突きつけましょう』『反省なき非倫理、無責任、無方針、決断なき政治に対して、もう一度力強く、原発いやだ、の声を集めましょう』」と呼びかけています。

 七月一六日には、伊方原発をはじめ再稼働を許さず、原発のないあたらしい政治と社会のあり方を求める声を広げたいものです。

(六月二三日記)

さようなら原発一〇万人集会  七月一六日(海の日)

  会   場 代々木公園

  メイン集会 一二時三〇分

  パレード  一三時三〇分

  呼びかけ人 内橋克人.大江健三郎.落合恵子.鎌田慧.坂本龍一.澤地久江.瀬戸内寂聴.辻井喬.鶴見俊輔


*五月集会特集その三*

原発問題分科会感想
原発被害者を二度と出さないために

東京支部  柿 沼 真 利

 二〇一一年三月一一日の東日本大震災に伴う、東京電力福島第一原発の爆発・放射能漏れ事故から、一年以上経過した。しかし、同事故によって故郷を追われ、帰れずにいる方々が数多く存在する現状が存在する。また、避難していなくとも、福島県にお住まいの方には、健康被害への不安(特に、子ども達)、風評被害などの困難が立ち塞がっている。

 また、本年五月には、北海道電力泊原発三号機が、定期検査のために停止し、日本国内にある五〇機の原発が全て停止した状況になっている。

 このような状況下で、今回の五月集会が開催された。

 第一日目は、全国各地から脱原発に向けた取組の報告、第二日目は、東電福一原発事故の被害救済に関する取組の報告などが行われた。同分科会には、いずれも一〇〇名を越す参加者を得ることができ、注目の大きさを示していた。

 第一日目の脱原発分科会では、まず、現在、関西電力大飯原発の再稼働で注目を浴びている、福井、滋賀、京都、大阪、岐阜の各府県から報告がなされた。特に、目を引いたのは、岐阜支部の船田さんの報告した取組で、二〇一二年三月三日に、福井県の美浜原発近くにある水晶浜から、一〇〇〇個の風船を飛ばし、風向きを調査した、というものであった。この実験により、福井県からは、その西側から吹く風によって、多くの風船が岐阜県に飛来していることが判明し、もし、福井県内の原発で事故が発生すれば、岐阜県周辺にも多くの放射性物質が飛来し、深刻な放射能汚染を発生させる危険性を明らかにしていました。この実験の結果は、カラーA3版の地図で風船の飛来地に番号が振って示してあり、非常に分かりやすく報告された。東電福一原発事故においても、その風向きにより放射能汚染の範囲が変わることが分からず、当初、むしろ放射線量の高い地域に住民の方々を避難誘導してしまったことが想起された。また、九州熊本の板井団員からは、原発をなくそう、九州玄海原発訴訟、九州川内原発訴訟について方向がされ、その中で、脱原発の訴訟、運動の中で、今回の東電福一原発事故の被災者の方々の被害実態をまとめてこれを可視化し、活用することの提案がなされた。

 第二日目の被害者救済の分科会では、現地、福島の荒木団員、倉持団員、宮城の菊地団員から報告があった。荒木団員からは、原発事故後の福島の状況の報告、エネルギー政策の転換の必要性、除染の困難さ、低線量被曝による健康被害の防止の必要性について、述べられた。倉持団員からは、自身も被災者であったことについての報告、南相馬における避難区域、屋内退避区域、それ以外の地域等に住民が分断されていった問題など報告があった。菊地団員からは、福島だけではなく、宮城県でも大きな放射線被害を受けており、放射線というものが、県境によって回避してくれるものでないことが報告された。そして、大阪市立大学准教授の除本理史先生より、研究者の立場から、福島原発被害の調査結果、その特質などについてお話しいただいた。その後、現在東電に対する損害賠償請求に取り組んでいる、福島原発被害弁護団、生業弁護団などの各弁護団より、現状などが報告された。

 この原発問題ついて、「脱原発」と「被害者救済」は、正しく「車の両輪」である。そもそもなぜ、「脱原発」が求められるかといえば、それは、原発事故が一旦起こってしまえば、深刻な被害を発生させてしまうからであり、今回の東電福一事故で、そのことを再認識させられた。そして、二度と原発事故被害者を発生させないためにも、「脱原発」は必要になるのである。また、「被害者救済」を適切に行うことによって、原発推進派の主張する、原発の低コストというメリットの虚偽性を明らかにすることになるのである。

 今回の五月集会の原発問題分科会はそのことを再認識する良い機会になった。


構造改革+震災問題分科会(一日目)に参加して

埼玉支部  鴨 田   譲

一 はじめに

 私は五月集会の一日目に構造改革+震災問題分科会に出席しました。この分科会では、東日本大震災の発生から一年が経過したいま、被災地の現実と復興のあり方を考えるという題目で、被災地でこの問題に取り組んでおられる方と被災地以外の地域で避難者等の支援をされている方とがこれまでの活動報告を行った上で、復興に向けてこれから国や自治体はどうすべきか、また、我々団員がいかなる活動を行っていくべきかが議論されました。

二 「被災者の生活再建は何も変わっていない」

 宮城で働く弁護士のこの言葉で分科会はスタートしました。震災から一年が経過しましたが、被災地では孤独死やDVは増え続ける一方、二重ローン問題はいまだ解決されていない、被災支援金として三〇〇万円は支給されるものの生活再建の額としては少額に過ぎる、被災者支援に全力を傾けた団員のうち三名が過労のため亡くなられるなど、問題は震災直後より深刻化・広範化しているとのことでした。

 被災地で暮らす人々も、そこで働く弁護士も「どうしたらよいか分からない」というのが本音で、せめて公的資金を投入して国から十分な生活費と再建のための費用を出してほしいという意見がありました。

三 「むしろ社会主義特区をつくれ!」

 震災で最も被害の大きかった地域の一つである石巻からも二名の弁護士が参加し、主に漁業権特区について発言されました。ここで言う漁業権特区とは、村井宮城県知事が提起した「水産業復興特区構想」で、養殖業、定置漁業への参入障壁を撤廃し、民間資本を導入するというものです。これに関しては、漁民を企業の労働者化するものである、後継者育成という長期的視点に欠ける、お金が地元に回って来ず結局地元の経済復興にはならない等の理由で漁協とともに先生方もこれに反対され、政府は漁協の判断に委ねたため特区構想は収束したとみられるとのことでした。現在の漁業の状況としては、魚を獲るところまではできるようになったそうですが、獲った魚の処理ができない状態ということで、現在のところ、漁協及び民間企業の力だけでは漁業が前進しないため、やはり公的資金を投入するしかないとのお考えでした。

 岩手の弁護士からも同様に公的資金投入の必要性が説かれました。大槌町では、人口が激減し、高齢者率が異様ともいえるほど高くなっており、地域の将来があまりにも不安定であるゆえ若者が次々に流出してしまっているとのことです。国や自治体から、支援金・義援金は支給されるもののそれらはもともとのローンの支払いに消え、新たに船を買ったり、その他漁業の復帰に向けての資金までは賄われてはいない状況だそうです。この事態の解消のためには、民間資本の投入ではなく、一刻も早く十分な公的資金を拠出することが必要で、「むしろ社会主義特区をつくれ!」と仰っていたのが印象的でした。

四 立ちはだかる二つのドグマ

 私は埼玉で働いているため、原発避難者の方とお話する機会があり、その苦労は多少理解しているつもりでしたが、被災地で生活再建をしようとする方々の苦労はまたこれとは質の異なる大変さがあり、未だ現地が悲惨な状態にあることを知ることが出来ました。

 また、現地の弁護士の報告の中で、何度も公的資金投入の必要性が説かれており、ここまで声があがりながら何故実現できないのか私は疑問に思いながら報告を聞いていましたが、それは大きな二つのドグマがあるせいだということが分かりました。その二つとは、@「個人財産形成には公的資金は使えない」、A「再建は自助努力」です。しかし、理論的には正当であっても前記のように被災地で今後どう生きてゆくかも見えない人々が現実に多数いる以上、いい意味で結論ありきの議論と施策の実行が望ましいのではないかと思いました。


陸自レンジャー市街地武装行軍訓練 後記

東京支部  種 田 和 敏

一 はじめに

 板橋区及び練馬区で六月一二日に実施された陸自レンジャー市街地武装行軍訓練については、住民有志が同月四日に同訓練禁止の仮処分を申立てたこと、裁判所が同月一一日に却下決定をしたこと等を前々号より連続して投稿させていただいています。図々しくも本号でも紙幅をいただき、陸幕長のコメントを分析し、これからの運動についても言及したいと思います。

二 陸自幕僚長の会見

 君塚栄治陸上幕僚長は、六月二一日、記者会見において、今回の訓練について、「(住民に)一部反対もあったが、大部分の方が説明を通じて理解してもらえた。」と評価したうえで、「都市にかかわる訓練は、避けることなく、説明をした上でやりたい。」、「都市での武装行進などテロ、ゲリラ対策になる訓練は意義がある。住民や自治体の理解を得ながら進めていきたい。」とも述べ、今後も同様の訓練を続ける意向を示しました(共同通信社配信記事)。

三 大部分の住民が陸自の説明を通じて理解したか

 陸自は、本件訓練実施の直前、住民の方々の粘り強い要請に根負けし、六月六日から三日間連続で住民説明会を開催しました。私はそのうち二日間に参加しましたが、説明会に参加した女性が「説明を聞けば安心できると思ってきたけど、あなた(陸自第一普通科連隊長)の説明を聞けば聞くほど、不安が増すばかりだ。」と発言したことが印象に残っています。

 そもそも、私も、五月二九日に練馬駐屯地で行われた住民と陸自との協議において、陸自側の説明にまったく納得できなかったことがきっかけで、今回の仮処分申立てに至ったといっても過言ではありません。直前に開催された三回の住民説明会でも、陸自側は、住民の真摯な質問に正面から答えようとせず、形式的な問答を繰り返し、終了時間が過ぎると逃げるように去っていくありさまでした。

 また、陸自は、住民説明会の開催自体も、そもそも開催の二、三日前に実施を決めたにもかかわらず、町会などを通じた従前の広報手段を用いず、あえて周知しようとしないともとれる態度をとっていました。そのため、住民説明会に参加したのは、ごく一部の住民に限られ、結局、ほとんどの住民は陸自の説明を聞くことはできませんでした。事実、公園で子供を遊ばせていた女性は、「事件でもあったのかとみんなで話していたところ。怖いですよね。」と話しています(平和新聞六月二五日号)。

 したがって、陸幕長が大部分の住民に説明を通じて理解してもらえたと強弁しても、まさに大部分の住民自身が陸幕長の言葉が事実無根の虚言にすぎないことを最もよく知っているのです。

四 訓練に意義があるか

 国は、答弁書において、本件訓練の必要性について、「自衛官は、日本国土内外のあらゆる環境で、国民の生命及び財産を守るという使命を果たさなければならない。そのため、富士地区演習場のような山野での訓練だけでなく、市街地及び舗装道路を使用した訓練をも実施し、いかなる場所においても上記使命を果たせるようにしておく必要がある。」と主張しました。

 しかし、いかなる場所も戦場になる可能性があるから、そこで訓練をする必要があるというのは、極論にすぎ、論理的な説明ではなく、むしろ詭弁です。たしかに抽象的にはどこでも戦場になるおそれがあることは間違いではないですが、その一事をもって市街地での訓練が必要となるわけではなく、住民らに多大な精神的不安と交通安全上の障害を生じさせるだけの必要があるかを想定される脅威と比較衡量した上で、必要性の有無を議論すべきです。

 この点、陸自は、住民説明会において、本件訓練の想定はないと断言しています。スポーツの練習でさえ、何らかの想定をした上で行うのが通常です。想定のない基礎訓練(スポーツで言えば、筋力トレーニングが該当するか)も必要かもしれませんが、わざわざ住民に迷惑をかけて駐屯地外で白昼堂々やる必要性はありません。

 また、東富士演習場には、二〇〇六年三月に総工費二五億円をかけて中隊規模(約二〇〇名)の訓練が行える市街地戦闘訓練場が完成しています。血税を投入して用意した訓練場があるのに、あえて本当の市街地でやる必要がどこにあるでしょうか。さらに、隊員らは、日常生活において、まさに市街地で生活をし、舗装道路を歩いているにもかかわらず、市街地に慣れるための訓練を住民の犠牲をかえりみずに行うだけの必要性があるでしょうか。加えて言えば、皆さんも本件訓練の様子をテレビ等で見て感じられたと思いますが、疲れ切った隊員がよちよちと下を向いて歩くような訓練をして、国民の生命・財産を守るためにどれほど資するのでしょうか。

 以上より、いかなる場所においても国民の生命及び財産を守る必要はあるものの、だからといって市街地で白昼堂々、武装しての行軍訓練を実施する必要はなく、本件訓練に意義があるとはいえません。

五 これから

 今回の訓練は、ほとんどの住民に事前に知らされず、説明を聞いたとしても到底理解できるものではなく、そもそも訓練自体に意義を見出せるものでもありませんでした。したがって、私は、今回のような訓練は今回限りにしていただきたいと願うばかりです。

 しかし、国はどうしても訓練を継続して実施したいようなので、この国を二度と戦争をするような国にさせないためにも、必要性のない訓練のためにわが街を訓練場にさせないためにも、自衛隊を監視し暴走させないためにも、訓練の実施を阻止する運動を盛り上げていきたいと思います。


ホンダ・いすゞ判決と裁判闘争の再構築の重要性

東京支部  鷲 見 賢 一 郎

一 はじめに

 今年二月一七日と四月一六日、私が担当する労働裁判で二つの敗訴判決を得ました。ホンダといすゞの判決です。この二つの判決を検討、分析するなかで、東京地裁の裁判官が大企業擁護、労働者無視の姿勢に終始していることをあらためて痛感しています。私は、ホンダ、いすゞの裁判とも勝訴の可能性は十分あると思っていました。そういう意味では、私自身、東京地裁の裁判官の考えを見誤っていたわけです。その反省を込めて、ホンダ・いすゞ両判決を紹介し、最後に私が今後の課題と思うところを述べます。

二 ホンダ判決

 判決は、ホンダとの間で一一年一か月にわたり有期契約を七五回更新してきた原告の桜井さんに対する雇止めを有効とし、地位確認、賃金支払、損害賠償の請求をすべて棄却しました。

 ホンダは、二〇〇八年一一月二八日の説明会で、栃木製作所の期間契約社員一六六名全員に一二月三一日をもって雇止めにすることを通告しました。そして、その場で、期間契約社員に一二月一日から同月三一日までの不更新条項付雇用契約を締結させました。説明会は、わずか一五分です。

 判決は、「被告は期間契約社員について、基幹となる正社員の雇用継続を前提にした上で、景気変動や生産計画変動等による製造ラインの需給調整に対応する臨時的、一時的な雇用者として明確に位置付けている」、「原告自身も長期雇用を前提とする正社員とは全く異なる期間契約社員の働き方を十分に了承し」、「原告は、本件雇止めについて何らの不満や異議も述べず、雇用契約の継続も求めず」などとして、不更新条項を有効としています。次いで判決は、原告がホンダとの間で不更新条項付雇用契約を締結したことをとらえて、「原告は、被告の説明会が開催された同年一一月二八日時点において、本件雇用契約の期間満了後における雇用契約の更なる継続に対する期待利益を確定的に放棄したと認められる」として、解雇権濫用法理の類推適用を否定し、原告の請求をすべて棄却したのです。

 「製造ラインの需給調整に対応する臨時的・一時的な雇用者」との期間契約社員についてのいすゞの位置付けをそのまま容認し、不更新条項付雇用契約を根拠に請求を棄却する判決を読む時、ホンダ判決が大企業擁護、労働者無視の考えに立っていることは明白です。

三 いすゞ判決

 判決は、いすゞの休業に伴う賃金カットを違法とし、原告の松本さんら四名に対してカット賃金額の支払を命じましたが、他方、雇止めを有効とし、偽装請負等の違法派遣の責任を免罪し、原告の松本さんら一二名の地位確認、賃金支払、損害賠償の請求をすべて棄却しました。

 判決は、期間社員になってから約二年六か月にわたり有期契約を七回更新してきた原告の松本さんら四名に対する雇止めについて、「不況等の事情の変化による生産計画の変更に伴う要員計画に変更がない限り、契約更新により雇用が継続される合理的期待を有していたというべき」として、解雇法理の類推適用を認めました。しかし、これでは、景気変動の際にはほとんどの場合合理的期待は認められず、雇止めは有効とされることになります。事実、判決は、本件雇止め時の二〇〇九年四月を底にして販売台数、生産台数、必要人員、営業利益等がV字回復しているのにもかかわらず、「商用車受注の急激かつ大幅な減少が、世界同時不況に伴うものであることから、被告としては、同年四月の本件雇止め時に至るまで、当該状況がいつまで続くのか、更なる悪化に導かれないのかを的確に予測することは困難であった」などとして、雇止めを有効としました。

 判決は、パナソニックPDP事件最高裁判決を援用するなどして、原告の松本さんら七名の偽装請負等の違法派遣を理由とする地位確認請求を棄却しました。さらに判決は、「派遣禁止業務について派遣労働者を受け入れ、また、派遣可能期間を超えて派遣労働者を受け入れるという労働者派遣法違反事実から、直ちに不法行為上の違法があるとは解せない」として、何らの根拠も示さず、原告の松本さんら七名の損害賠償請求を否定しました。

 日研総業や綜合スタッフ等の派遣会社は、いすゞによる労働者派遣契約の中途解約に連動して原告の古家さんら八名を解雇しましたが、判決は、この派遣切りについてのいすゞの損害賠償責任も否定しました。

 「不況等の事情の変化による生産計画の変更に伴う要員計画に変更がない限り」との期間労働者を景気の調整弁扱いする基準を設定し、また、偽装請負等の違法派遣の責任をすべて免罪する判決を読む時、いすゞ判決もまた大企業擁護、労働者無視の考えに立っていると言わざるを得ません。

四 おわりに

 二〇〇九年一二月一八日のパナソニックPDP事件最高裁判決以来、派遣先の雇用責任や損害賠償責任を否定する不当判決が相次いでいます。いま、非正規労働者の裁判闘争は重大な困難に直面しています。また、日本IBM退職強要事件、日本航空整理解雇事件、アスベスト訴訟、イレッサ訴訟等でも不当判決が相次いでいます。

 今、事実に即して、大企業擁護、労働者無視の判決内容を批判し、それを打破し、克服する裁判闘争を再構築することが重要です。そのための全団の討議を希望します。


伊方原発訴訟について

四国総支部(愛媛) 中 川 創 太

 二〇一二年六月一八日、中村愛媛県知事は、大飯再稼働の政府決定直後の定例記者会見で、伊方原発について「条件が整った上での再稼働は必要だ」との認識を示した。伊方三号機は、保安院の実施するストレステスト一次評価を通過しており、大飯の次に狙われるのは伊方三号機である。

 同日、四国電力原子力本部長柿木氏は、中村知事と面談し、伊方三号機の安全上重要な施設一三四すべてで、基準値振動五七〇ガルの二倍以上の揺れに耐える余裕があると報告した。ストレステスト等の国の検査においては二倍以上の余裕がないとされていた設備について、四国電力が、「国の想定より現実的な数字」で再評価した結果、いずれも二倍以上の耐震余裕を確認したと報道されている。

 例えば、原子炉格納容器の耐震余裕については、従前の国の検査においては、基準値振動の一・一三倍であったものが、何の耐震補強工事も実施していないにもかかわらず、今回の報告では二・〇一倍の余裕があると報告されている。この一事からも明らかなように、この報告は、評価方法の詳細も明らかにしないまま、四国電力自らが設定した「国の想定より現実的な数字」により評価している点で、お手盛りと言う外ないものである。福島事故を防ぎ得なかった保安院等の国の検査においてすら、二倍以上の余裕がないとされていた設備について、さらにそれよりも甘い評価をすることは到底許されない。

 四国電力は、本件訴訟の答弁書において「万が一、本件原子炉を運転できないとすれば、被告の所有する原子力発電に関連する資産はその投資に見合う回収ができず、被告の株式会社としての事業運営に大きな影響を及ぼすこととなり、結果的には、四国地域の電力供給における経済性を著しく損ねることにもなる。」と主張し、一私企業の投下資本の回収のため、原子炉を運転する必要があることを、臆面もなく主張している。この主張は、四国電力の本音であり、四国電力は、前記の報道に見られるように、安全性を度外視して、投下資本の回収と企業維持のため、再稼働に突き進んでいる。

 確かに、原子力発電所建設は、ひとたび過酷事故を起こせば、企業倒産必至の危険な投資である。幸運にも、過酷事故を発生させなかった場合にも、使用済み核燃料の処理費用、廃炉費用を考慮すれば、余りにも高くつくおろかな投資であることは明白である。

 しかし、誤った投資のリスクは事業者が負担すべきであり、一企業の愚かな投資の回収のため、国民・県民の生命健康と、地球環境を危険にさらすことは許されない。

 なお、訴訟の進行状況等については、「伊方原発をとめる会」のHP参照されたい。


被爆者のたたかいがフクシマに伝えること
―原爆症認定集団訴訟の教訓―

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 原爆症認定集団訴訟は、広島・長崎の被爆者が、自らの疾病は原爆放射線に起因する「原爆症」であるとして、それを否定する厚生労働大臣の処分の取消を求めて、全国各地の裁判所(一七地裁)に提起した行政訴訟である。原告総数は三〇六名であった。

 この裁判は、二〇〇三年に提起され、二〇〇六年の大阪地裁を皮切りに、全国各地の裁判所で勝訴判決(却下処分の取消)を積み上げてきた(三〇判決)。

 裁判所は、原告らに放射線の影響は及ばないとする被告の主張を排斥し、原告の疾病は、原爆放射線に起因するとしたのである。裁判所は、争点とされていた残留放射線による内部被曝の影響について、原告の主張を採用したのである。

 その連続する勝訴を背景に、二〇〇七年八月、安倍首相(当時)が認定基準の見直しを発言し、二〇〇八年四月には、「新しい審査の方針」が策定され、二〇〇九年八月には、麻生首相(当時)との間で「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」(確認書)が締結された。

 そして、同年一二月には「原爆症認定集団訴訟の原告に係る問題の解決のための基金に対する補助に関する法律」(基金法)が制定され、敗訴原告に対する処遇が確立し、集団訴訟の終結が視野に入ったのである。

 このように、原爆訴訟認定集団訴訟は、裁判所、政府、国会という国家の統治機構全体を動かし、敗訴原告を含む被爆者の救済を実現することができたのである。

 この成果は、日本裁判史上、画期的なものであると評価できよう。

 この特筆すべき成果を獲得できた要因は、第一に、原爆被害の実相があまりにも非人道的・犯罪的であったこと、第二に、その悲惨さが法廷で立証され、裁判官がその事実を無視できなかったこと、第三に、政府も国会も、その裁判所の判断を無視できなかったことなどにある。もちろん、原告、弁護団、科学者・医者などの専門家、支援者の主体的たたかいを忘れてはならない。

 非人道的な被害の当事者が、勇気をもって立ち上がった時、それを支える専門家や市民社会が協働し、「山が動く」典型例がここにある。

 被爆者の「私たちを最後にして欲しい。」との願いは、被爆者援護と核兵器廃絶を希求する多くの人々の正義感と共鳴したのである。被爆者と専門家および市民社会の法廷内外のたたかいが、「国家の壁」を打ち破ったのである。被害者に共感し、不正義を許さない民衆の戦いが、社会を動かしたのである。

 私は、ここに、原爆被害者(ヒロシマ・ナガサキ)が原発被害者(フクシマ)に手渡せるものがあるように思えてならない。

 もちろん、原爆投下による被害と原発事故による被害を一律に論ずることは適切ではない。けれども、原爆被害と原発被害は、放射能被害だけではなく、「国策」による被害という意味でも共通している。

 私たちは、「大東亜共栄圏」という植民地支配のために、「一億火の玉」、「鬼畜米英」と駆り立てられ、「戦争の早期終結」、「植民地の解放」などという理由で原爆を投下された歴史を知っている。そして、原発は、資源のないわが国において、「経済性に優れ」、「環境に優しく」、「安定的であり」、「安全であり」、「地域振興にも役立つ」などとして建設され続け、今、多くの人々が、故郷と生業を失い、家族や地域社会との分断を味わい、放射能被害に慄かされている現実も知っている。ここに、「国策」による被害という類似性を認めることができるのである。

 支配者は、その権力維持と利権のためであるならば、人々の命や、自由や、財産や幸福などどうなってもかまわないと考えている。「わが亡き後に洪水は来たれ」である。核兵器に「安全保障」を委ね、原発の「経済効果」に依存する政・財界の「要人」、そしてそれに追従する連中たちの言動がその証左である。

 今、私たちが求めているのは、核兵器や武力に頼らない国際社会の平和と安全であり、コントロール不能な核物質に頼らないエネルギー政策である。

 にもかかわらず、彼らはそうしようとしないどころか、核抑止力を含む日米同盟の強化を図り、原発の再稼働を進め、原発の輸出まで準備している。 

 「平和のうちに生存する権利」や「健康で文化的な最低限度の生活」を無視・軽視する改憲が日程に上っている。

 核兵器によるものであれ、原発によるものであれ、放射能被害から免れることは、現在と未来の人類の生存と共同生活のための必須条件である。

 戦争も貧困もない、各人の幸福が万人の幸福につながるような未来社会の実現のために、ヒロシマ・ナガサキの被爆者のたたかいをフクシマの被害者のたたかいに生かさなければならない。

  二〇一二年六月二六日


第三七回全国公害被害者総行動に参加して

神奈川支部  中 瀬 奈 都 子

 二〇一二年六月五、六日にわたって開催された「第三七回全国公害被害者総行動」に、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団の団員として参加して参りました。私が参加した環境大臣交渉、総決起集会について、ご報告申し上げます。

一 環境大臣交渉

 当弁護団からは、福島支部の渡邊純団員が、そして、原発事故直後に自死されたキャベツ農家の方の息子さんであるAさんが出席し、発言されました。

 「農家にとって、田んぼ、畑を耕すなと言われたら、それは職場を奪われたのと同じです。父の死は、国民としての訴えの死だと思っています。」

「自分たちで作った作物ですら、出荷してもいいのか、自分たちで食べて安全なのか、いまだに迷う日々が続いています。」

「これほどの事態を引き起こしたにもかかわらず、なぜ原発の再稼働を考えるのか。結局は、福島原発事故は、他人事なのでしょうか? もし、貴方の街がこうなったらどうしますか? 私たち百姓にとって、土や環境は、命の次に大事なものです。放射能で汚された環境を元に戻してほしい。それだけが私たちの願いです。」

 Aさんの訴えは、代々土作りにこだわって取り組んできた農家の跡継ぎとして、福島で再び安心でおいしい作物を作ることができるよう環境の完全回復を求める、本質的な訴えでした。

 環境省側は、横光副大臣および南川事務次官をはじめとした事務方が複数人出席し、被害者側の要請や訴えに耳を傾けていましたが、特に、Aさんの訴えは、いま福島の農家が抱える重大な問題を認識させ、環境省として取り組むべき課題を明確にしたのではないかと思います。

二 総決起集会

 一日目夜は、日比谷公会堂に全国の公害被害者が集まり、それぞれの活動報告や訴えを行い、互いの連帯を深めました。特に、今年は原発事故から一年が経過したこともあり、原発事故被害者との連帯・協力・共同が位置づけられていました。

 総決起集会においても、Aさんが、全国の公害被害者に向けて、六分以上にわたる長い訴えをしました。原発事故によって父を奪われた怒り、農業に対する思いにあふれた涙ながらの訴えに、場内が水をうったように静かになったのが印象的でした。

 我々の他に、福島県浜通り地方に住む方を中心として組織された「原発被害を完全賠償させる会」からも多くの被害者が参加されていましたが、福島の被害者団体と交流する良い機会となりました。

三 最後に

 私自身、初めての参加でしたが、Aさんやその他全国の被害者の方々の発言を聞き、被害者自身の言葉で語られる被害実態や思いの重さ、パワーを強く感じさせられました。そして、全国に多くの仲間がいることの力強さも感じました。今回、当弁護団が関わる被害者の組織化が現在進行中ということもあり、被害者の参加が少数となってしまいましたが、来年は多くの被害者が参加できるよう、被害者との連携を深めていきたいと考えています。


TPPサービス貿易(第一二章)の章を読んでみました。

大阪支部  杉 島 幸 生

一 あらゆるサービス事業が適用対象となる。

 TPP一二章は、加盟国による公共サービスの提供やサービスを規制するための権利に配慮しつつ、「サービス貿易の拡大を促進すること」(二条)を目的としています。

 同章は、「サービス貿易に影響を与える、加盟国が採択又は維持する措置」に適用されますが(三条)、ここでいう「サービス貿易」は、(1)いずれかの加盟国から、別の加盟国領内へのサービスの提供(越境サービス方式)、(2)いずれのかの加盟国の領域における別の加盟国人に対するサービスの提供(外国消費方式)、(3)いずれの加盟国人による別の加盟国領内における商業拠点を通じてのサービス提供(商業居拠点方式)、いずれのかの加盟国人による別の加盟国領内におけるサービスの提供(自然人存在方式)とされており(一条)、結局、例外化リストに記載されていないすべてのサービス業が適用範囲ということになります(ネガティブリスト方式)。もちろん、私たち弁護士業も適用対象です。

二 TPPルールに拘束される国内措置

 同章が適用されると、適用対象であるすべてのサービス事業について、加盟国企業・人を国内事業者と同様に扱うことが義務付けられます(内国民待遇―四条)。これにより国内事業者は、外交事業者との競争にさらされることとなります。

 これだけですと、単に競争相手が増えるというだけのことです。しかし、同章は、それだけでなく、サービス事業者に適用される国内規制そのものが、TPPルールに照らして「合理的で客観的かつ公平な方法」であることを義務づけています(一〇条)。

 そして、同章が求める「合理的で客観的かつ公平な方法」とは、

まず、(1)サービス提供者数に対する制限、(2)サービスの取扱総額・資産総額に対する制限、(3)サービスの総産出量に対する制限、(4)サービス提供者の雇用できる自然人数に対する制限、(5)サービス提供者の企業形態に対する制限であってはなりません(市場アクセス―六条)。例えば、タクシー免許をあたえるについて、当該地域の人口とタクシー台数を考慮するなどということは、国内においてもできないということになるはずです。

 サービス業については、多くの資格制度が存在しています(マッサージ師、理容師など)。こうしたサービス業については、相手国の事業者にも資格を求めることができます。しかし、その場合、それが、(1)客観的で透明性のある基準に基づくものであり、(2)サービスの質を維持するために必要である以上の負担ではなく、(3)サービス提供の制限にならないものであることが求められます(一〇条)。これをわが弁護士資格について考えてみると、加盟国人に対して、司法試験を受験することは求められるが、その合格基準は、「客観的で透明性」であり、かつ、一定の水準以上であれば資格を与えなくなくてはならず、量的制限(合格者数)は許されないとういことになるのではないでしょうか。

三 専門家資格の共通化

 現在、サービス事業に関連して様々な国家資格が存在しています。いずれも一定の知識・技術水準を確保することで消費者を保護することを目的としています。もちろん我々、弁護士業もそのひとつです。

 先に述べたように日本国内で弁護士活動をしようと考える加盟国人に対して、日本人と同じ取り扱いをすること(内国民待遇)は許されます(司法試験合格と研修を条件とする。但し、これについても制限されかねないことはすでに述べたとおりです)。

 しかし、そうした内国民待遇を実施するだけではなく、他の加盟国内において同様の専門家資格が存在する場合には、相手国内における専門家資格や実務経験を、自国内におけ専門家資格の要件に組み込むことが求められこととなります(一一条、付属文書B)。弁護士で言うと、ある加盟国で弁護士としての実務経験を有する人については、自国内でも弁護士としての資格を認めようというようなことが問題となります。これを専門家資格の共通化といいます。

 どのような条件があれば、資格の共通化を認めることができるのかということはそう簡単に決められるものではありません。そこで、同章は、加盟国政府が、それぞれの専門職についての規制当局や関係事業団体と協議し、資格の共通化にむけた提言を作成することを義務付けています(一一条)。そして、この提言は、TPP関係国によって組織される委員会によって審査されることとなっています(付属文書B)。

 私たち弁護士で言えば、外国弁護士が日本で弁護士業を行うことができるための要件について政府と日弁連が協議して提言を作成し、TPP委員会でその適否が審査されることとなります。もちろん、この審査が先に述べたTPPルールを基準としてなされるものであることは言うまでもありません。

四 国民生活を無視するTPPルール

サービス事業に対する国内規制は、大きくわけて、(1)サービスの質を確保するためのものと、(2)過当競争から事業者を保護するものとがあります。

 TPPルールからは、(1)は認められるにしても、(2)は認められません。しかし、実は(2)の規制も、そのことを通じてサービスの質を維持するという機能を果たしているのであって、実際にはそう簡単に、(1)と(2)の規制を明確に分けることはできません(つい先日の高速バス事故を思い出して下さい)。

 また、(1)についても、TPPルールに照らして「合理的で客観的かつ公平な方法」でなければなりません。

 本来、国内におけるサービス事業者に対する規制をどのようなものにするのかは、様々な要因を考慮して、私たち自身が決定していかなくてはならないはずです。ところが、TPPが締結されれば、そうした私たちの判断よりも、TPPルールが優先されることとなってしまうのです。それが国民生活にとって必要な規制であっても、TPPルールに違反しているとなれば、それを維持しつづけることはできません。

 やはり、TPPは、国内秩序を破壊する危険性を有していると言わざるをえないのではないでしょうか。そうした危険性を有するTPPをこのまま締結させてはなりません。


*書評*

「大学生がえがく脱原発の未来マニュアル 検証!自然エネルギーのチカラ」

東京支部  森   孝 博

 本書は、東京電力福島第一原発事故を目の当たりにしたフェリス女学院大学の学生が「原発のない、自然エネルギーによる日本再生に向けて、自分たちにも何かできないか」と考え、行動し、それを形にしたものです。

 原発ゼロのくらしとそれを支える自然エネルギーという明るい未来をえがく一助にしたいというコンセプトのもと、「第一章 『原発がないと困る』は本当か?」、「第二章 自然エネルギーは無限大、イチオシは風力」、「第三章 実はお得な自然エネルギー」、「第四章 問題は社会のルールだった」、「第五章 原発ゼロの未来マニュアル」と各章でいずれも興味深いテーマが取り上げられています。

 内容も、専門家への取材や文献などをもとにまとめられていて、かなり本格的なものですが、本書の特徴はそのわかりやすさにあります。見開き一頁ごとに一テーマを扱い、左側には文章、右側にはグラフ、写真、イラストなどを掲載するという構成で、とても読みやすいです。しかも、イラストなどはカラフルかつ可愛らしいものが多く、女子大生のセンスが存分に発揮されています(団でビラやリーフレットを作る際にも学ぶべき点が多々ありそうです)。

 内容の詳細については紙面の関係でここでは触れられませんが、本書全体を通じて「原発の脅威から未来を守りたい」という大学生の思いが伝わってきます。ツイッターの呼びかけで六月一五日に大飯原発再稼働に反対するため首相官邸前に一万人以上の人が集まったように、原発の問題について本当に幅広い層の人が関心を寄せ、反対の声を挙げるようになっていることを感じますが、本書もそうした流れの一つの形であると思います。原発をなくすためにこうした声に団がどう応えていくことができるのかということも考えていかなければなりません。

 私は篠原団長の紹介で本書の存在を知ったのですが、本書を読んでいろいろ学ぶとともに、原発をなくすために大学生も頑張っていると勇気づけられました。皆様にも是非ご一読いただければと思います。


「大学生がえがく脱原発の未来マニュアル 検証!自然エネルギーのチカラ」

        フェリス女学院大学エコキャンパス研究会 編

 発行所:東京新聞 

 定 価:九五二円


坂本 修『比例定数削減か民意の反映か』普及のお願い

東京支部  松 井 繁 明

 六月二一日に会期末をむかえた国会は、会期を七九日間(九月八日まで)延長した。民・自・公の野合によって、消費税増税法案は六月二六日に衆院で採決される見通しである。

 消費税増税法案の見返りとして「身を切る」ための比例定数削減法案は現時点で上程されていない。延長国会でのテーマとなる。

 会期末直前、民主党は独自の法案を公表した。小選挙区を「〇増五減」し、比例区を全国一律の一四〇(四〇削減)とし、うち三五を連用制にする、というものである。

 以上の内容そのものも、とうてい賛成できるものではないが、見のがせないのがその附則四条である。これは次々回以降の選挙制度「改革」を方向づけるものだが、そのなかに「定数四〇〇」と「政権選択と民意反映の両立」を規定している。「政権選択と民意反映の両立」とは小選挙区比例並立制のスローガンだから、これによってなんと「八〇削減」と並立制があらかじめ規定されてしまっているのである。

 民主党はこの法案を独自に国会に提出する方針である。選挙制度についても民・自の密室談合で成案を得るつもりだった自民党は、これに反発。「〇増五減法案」を国会上程することも検討中といわれる。

 こうなったばあい、延長国会での選挙制度の審議はどうなるのか―。だれにも判らない状況が続く。

 延長期間が比較的短いもの(八月一〇日ごろまで)と観測されていたころには、審議時間不足で結局「〇増五減」に落ち着くのではないかとする見方がつよかったが、もうそうは言い切れない。なんといっても、消費税増税について民・自・公の合意が成立したことの意味は大きい。これは「それなりに対立する」二大政党制の基盤を掘り崩し、国会を戦前の大政翼賛会化するものである。この状態のもとであれば選挙制度についても、さきの民主党案をめぐって密室談合がすすみ、比例定数の大幅削減で合意が成立する条件は十分にある、とみるべきであろう。

 このときにあたって、自由法曹団の方針は明確である。第一に、国会のいかなる事態にも対応して、なすべき行動を果敢にとることであり、第二に、かりに「〇増五減」程度で決着したばあいでも、「民意の反映する国会」を実現するために全力でたたかうことである。

 そのためにお願いしたいのは、坂本 修『比例削減か民意の反映か―明日のための今日の選択』(ブックレット)の普及に努めていただくことである。自由法曹団もこれまで、このテーマではいくつかの文書を発表してきたし、それぞれの価値はあるのだが、いずれも現時点での情勢に間に合っていない。それにたいし今年五月上旬脱稿のこのブックレットは、ほぼ情勢に見合ったものとなっている。

 このブックレットのすぐれた点は第一に、情勢分析が正確なことである。「正確」という意味は、宗教者の預言のように一点を指し示すということではない。選挙制度をめぐる各党派・各勢力の目的・策動・絡み合いなどが複合的・重層的に把握されていることである。

 第二に、それぞれの選挙制度についての基礎的知識が提供され、「民意の反映」という明確な視点から解明されていることである。

 さいごに、著者自身の悩みや迷いも率直に延べながらも、各所に光を見出して、将来への明るい展望を提示していることである。

 このブックレットを大きく普及できるかどうかは、比例定数削減阻止・小選挙区制度廃止・民意の反映する国会の実現のたたかいに少なからぬ影響をおよぼすものと考える。個人的著作ではあるが、自由法曹団発行の文書に準じて、各支部・各事務所ごとに相当数を買取り、各地・各界の活動家諸氏の手許に一日も早く届けていただきたいのである。

 野田政権のもとで、国民の六割以上が反対する消費税増税、原発再稼働、沖縄のオスプレイ配備などが着々と進められる。この異常な事態を打破するためには、それぞれの闘いをつよめるとともに、「民意の反映する国会」をなんとしても実現しなければならない。無理なお願いをあえてする理由は、ここにある。

(一二・六・二二記)


七・一一秘密保全法学習集会へご参加を

事務局長  泉 澤   章

 今年三月に官房長官が「今国会での秘密保全法上程はない」と発言し、その後原発再稼働問題や消費税増税法案など立て続けに重大争点が出てきたことから、秘密保全法に対する関心が若干薄らいでいた感は否めません。

 しかし、政府は秘密保全法の上程を決して諦めたわけではありません。むしろ、アメリカとの合意もあり、すぐにでも成立させたいと考えているはずです。この間国会で成立した数々の悪法の制定過程をみれば、反対運動が息を継いでいる間を狙って、ほとんど国会の議論を経ることなく一気に成立させることも想定されます。

 私たちは、今こそ秘密保全法の危険性をもう一度正確に認識し、差し迫る法案上程に立ち向かうことが必要ではないでしょうか。

 そこで自由法曹団は、全労連や救援会、マスコミ関連団体とともに、秘密保全法の危険性を学び今後の反対運動に生かすため、次のような学習集会を企画しました。

 この時期だからこそ、ぜひ多くの方々に参加いただけますよう呼びかけます。

「TPPも原発も大事な情報が隠される!?  もっと知ろう秘密保全法 七・一一学習集会」

日 時 七月一一日(水)午後六時三〇分(六時開場)

会 場 平和と労働センター・全労連会館ホール(JR御茶ノ水駅下車・徒歩八分)

内 容 講演「『秘密保全』ってなあに?」

講 師 日弁連秘密保全法対策本部事務局長 清水勉弁護士 マスコミ、関連職場からの声

呼びかけ団体 全労連、日本マスコミ文化情報労組会議、日本ジャーナリスト会議、マスコミ関連九条の会、自由法曹団、日本国民救援会

連絡先 日本国民救援会


七・一六原発弁護団全体会議にご参加下さい!

団 長  篠 原 義 仁

幹事長  小 部 正 治

 昨年の三・一一福島原発事故による被害の救済、東京電力と国の責任を明らかにし汚染された環境の原状回復をもとめる活動、原発からの脱却に向けた活動が全国で広く展開されています。自由法曹団の団員は、これらの闘いにおいて中心的な役割を担って奮闘しています。

 福島原発被害の各弁護団では、東京電力と国の責任を明らかにし、汚染された環境の原状回復を求める集団訴訟に向けた議論が始まっています。また、九州玄海原発訴訟では、原発操業差止めと停止までの慰謝料を請求しています。

 この度、全国公害弁護団連絡会議(公害弁連)の呼びかけにより、左記の日時・場所において、東電と国の責任と原状回復を求める集団訴訟の構想につき集中的に検討するため、原発弁護団全体会議を開くことになりました。

 国・東電という強大な権力と対決するに相応しい運動と理論・体制の構築が求められており、これまでの国賠訴訟に比しても入念な準備が必要となります。

 すでに各地の弁護団に参加されている団員の皆さんを始め、全国の多くの団員が参加されるよう呼びかけます。

 なお、七月一六日は都内代々木公園にて「さようなら原発 一〇万人集会」も行われ、日程が重なっています。今回の全体会議は九州など遠方からの参加も予定されており、調整の結果この日時での開催となりましたので、ご理解下さい。

日 時 七月一六日 午前一〇時〜一五

場 所 中央区日本橋三―四―一三 新第一ビル 東京八重洲ホール九階 九〇一会議室

電 話 〇三―三二〇一―三六三一