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西   晃 大阪市思想調査アンケート 国家賠償訴訟について
松井 繁明 橋下・維新の会とファシズム
井上 正信 集団的自衛権と秘密保全法
松村 文夫 再雇用更新拒絶 無効判決
白百合荘事件 長野地裁松本支部(平二四・七・二五)
神田  高 《国民的共同の力で》その一
“脱原発・復興支援・普天間基地閉鎖をめざすアジサイ連合”はいかがでしょうか。
柿沼 真利 「原子力規制委員会設置法」報告
―脱原発という観点から
中山 隆弘 七・一六 さよなら原発一七万人集会に参加して
玉木 昌美 国民救援会第五六回全国大会に参加して
青龍 美和子 女性部・家事事件手続法の学習会
宇賀神 直 《もしも千人の詩人がいたら》
宮川 泰彦 向 武男さんのこと
西田  穣 「更新料解決マニュアル〜その更新料払う必要ありません〜」(旬報社)が発刊になりました。



大阪市思想調査アンケート 国家賠償訴訟について

大阪支部  西  晃

(はじめに)本稿の概要

 橋下徹大阪市長が、野村修也大阪市特別顧問(以下単に「野村氏」)等に委託し、本年二月に実施した思想調査アンケート調査につき、去る七月三〇日(月)、大阪市職員(元職員含む)五五名を原告、大阪市を被告とする国家賠償請求訴訟(請求金額約一八〇〇万円)を大阪地裁に提訴しましたので、その報告をします。

一 思想調査アンケートの実施経過とその後(顛末)の概要

 橋下徹大阪市長は、本年一月、野村氏外数名をメンバーとする第三者調査チームに対し、「行政と政治の明確な分離を図るための規範となる条例」を制定するための調査を委託しました。これを受けて野村氏は、本件アンケートを作成し、本件二月一〇日から一六日にかけて、被告の職員に対し、同アンケートへの回答を求めました。

 その際橋下徹大阪市長は、

 「市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動などについて、次々と問題が露呈しています。この際、野村修也・特別顧問のもとで、徹底した調査・実態解明を行っていただき、膿を出し切りたいと考えています。」との認識を示した上で、

 「このアンケートは任意の調査ではありません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。」「正確に回答がなされない場合は処分の対象となりえます。」

 と述べて、従わない場合は処分もあり得ることを明示して、本件思想調査への回答を市長の職務命令をもって強制したのです。

 このような被告職員の人権を著しく侵害する本件思想調査に対して、日弁連、大阪弁護士会をはじめ、自由法曹団本部・支部等多くの法律家団体、労働組合等広範な市民から激しい抗議がなされました。

 その結果、本件思想調査アンケート回答期限後の同月一七日、野村氏は、データ開封作業や集計などを「凍結」することを表明せざるを得なくなりました。

 また、野村氏は、本年四月六日、未開封の本件思想調査アンケート用紙をシュレッダーにかけて裁断したりして、本件思想調査の結果を破棄したと称しました。しかし破棄されたアンケート用紙や電磁的記録媒体以外に、別途データが保存されているか否かについては明らかとなっていません。

二 本件思想調査アンケートの違憲・違法性について

(1)思想・良心の自由の侵害

 本件思想調査アンケートは、「大阪市における組合活動や選挙活動に関して、自由に回答して下さい」(Q15)、「あなたは組合に加入することによるメリットをどのように感じています(ました)か」(Q17)等、職員の組合活動や政治活動に対する考え方を直接問う質問が存在します。

 また、「あなたは、これまでに大阪市役所の組合が行う労働条件に関する組合活動に参加したことがありますか」(Q6)、「あなたは、この二年間、特定の政治家を応援する活動(求めに応じて、知り合いの住所等を知らせたり、街頭演説を聞いたりする活動も含む。)に参加したことがありますか」(Q7)等、組合活動や政治活動に関する事実の摘示を強制する項目が存在しています。

 このように、本件思想調査アンケートは、職員の内心の組合活動や政治活動についての考え方を直接問う項目や組合活動や政治活動についての事実を摘示させることによって職員の組合活動や政治活動に対する考え方を推知させる項目を含んでおり、原告らの思想・良心の自由を侵害するものです。

(2)労働基本権の侵害

 本件思想調査アンケートには、「あなたは、これまでに大阪市役所の組合が行う労働条件に関する組合活動に参加したことがありますか。」(Q6)、「あなたは組合に加入していますか。」(Q16)、「あなたは、これまでに組合に待遇等の改善について具体的に相談したことがありますか。」(Q17)など、組合活動への参加・関与の有無について回答を求める項目が存在する。また、「あなたは組合に加入することによるメリットをどのように感じています(ました)か」(Q17)、「あなたは、組合にはどのような力があると思いますか」(Q18)、「あなたは、組合に加入しない(脱退する)ことによる不利益は、どのようなものがあると思いますか」(Q19)など、労働組合活動についての意見を求める項目も存在します。

三 本件思想調査アンケート強制が原告ら職員に与えた耐え難い苦痛

 本件思想調査アンケートに回答した原告の一人は、二年余り病気休職し、二〇一一年に職場復帰したばかりでした。提出拒否後の生活が思い描けず、悩んだあげく、空白の多い本件思想調査アンケートを提出した。しかし、提出後、「ホンマにこれで良かったのかな?この内容で提出して良いものだったのか・・・でも生活がかかっているし・・・」と苦悩し、大きな後悔に襲われた。子供に対して、「断った」と言えない自分にも嫌悪感を感じました。その後、アンケートの返却を所長に求めることにしましたが、「アンケートの返却を要求すれば所長にどう言われるのかと思い、市労組の友人たちにメールや電話をして、ずっと悩み続けながら、出勤しました。心が乱れ、泣き顔で歩いていました。」と述べています。

 このように、原告らは、自らの内心に土足で踏み込まれ、本件思想調査アンケートに回答すべきか否かの苦悩と葛藤を余儀なくされたのです。回答した原告らは回答してしまったことへの苦悩と後悔の念を抱くこととなり、回答を拒否した原告らも、回答拒否を決断するまでに苦悩と葛藤に直面し、また、回答を拒否することによる処分、昇進や人事異動などでの不利益等を覚悟せざるを得なかったのです。

四 本件訴訟の意義・・市長の独裁を排し、法の支配を求めて

 民意(選挙)によって選任された市長による本件アンケート調査。その背景には「政治と行政」に関する様々な問題点が存在します。多様な意見があってしかるべしだと思います。しかしながらそこでの議論内容の如何を問わず、雇用主として絶対に乗り越えてはならない領域があるはずです。仮に本件アンケートが任意であっても許容されるべきものではありません。

 ましてや行政が公権力を背景に、懲戒処分を予告し、対象者職員の基本的人権を侵害する形で強制する事は絶対あってはなりません。憲法秩序を頂点とする法の支配(基本的人権保障と司法権の優位)は、本件事案についても貫徹されるべきです。本件アンケート実施責任主体がその行為の違法性を全面否定している以上、その点を司法判断により明確にさせる事が本件訴訟の意義であると考えています。

 本件訴訟の代理人は常任弁護団一二名(全て団員、弁護団長井関和彦、長岡麻寿恵、杉島幸生、河村学、高橋徹、増田尚、大前治、遠地靖志、楠晋一、中村里香、宮本亜紀、そして事務局長は西晃)を含む全国一一〇名に上っています。尚、去る七月二一の大阪常幹の場で、四〇名以上の各地団員に代理人就任を頂きました。改めて御礼申し上げます。


橋下・維新の会とファシズム

東京支部  松 井 繁 明

 橋下・維新の会はファシスト・ファシズムである。自由法曹団としても(あまり賛同を得られないとは思うが)、そのように定義すべきだと、私は考える。

 団通信(七月一一日号)で私は、ファシズムはその侵略性・暴虐性だけではなく、それを支持・許容し、阻止できなかった者の悔恨・反省の問題でもあると指摘した。橋下・維新の会にどう立ち向かうかは、あとで悔恨しないための私たちの歴史的責任なのである。

 ファシズムと規定するのは、物事の本質を見きわめ、われわれの思考と行動を規定することである。ファシズムにたいしては、一ミリも後退してはならず、宥和や譲歩はありえない、そのことを確認するためである。宣伝や選挙スローガンを目的とするものではない(それらには、状況に応じた配慮や技術が求められる)。

 ファシズムについては、(1)対外的侵略性、(2)国内的には極端な金融資本主義政策とテロ、拷問をふくむ弾圧性、(3)極端な民族主義とその裏返しの、ホロコーストにいたる民族差別主義、(4)平和・人権と民主主義などの諸価値の否定・じゅうりんおよび(5)テロをふくむ「大衆」運動との結合などが、その特徴として指摘されている。―しかしこれらの要素のすべてが充足されなければファシズムと規定してはならないわけではない。

 橋下・維新の会は、これまで明らかになったところから判断するかぎりでも、(1)新自由主義的構造改革論にたち、(2)権力主義的恐怖政治をすでに実行し、将来も実行することを公言し、(3)平和・人権・民主主義などの諸価値を否定・じゅうりんし、(4)人為的につくりだした「対抗勢力」の撲滅をめざす維新の会の「大衆」運動と結合している。ファシスト・ファシズムと規定するそれなりの要件をそなえているのではなかろうか。

 これらはすでにファシズムの「萌芽」の域を脱している。ヒトラーが街頭でゴロツキのように暴れていたころは「萌芽」期であったが、議会に相応の議席を占めた段階ではそれを脱し、いわば「成長」期である。橋下・維新の会も、すでに大阪府・大阪市の権力を掌握し、国政進出をもくろんでいる。すでに「成長」期といえよう。

 ファシスト・ファシズムの思想・言動にたいするわれわれの対応は明確である。かれらの思想・言動とは決定的に対抗し、否定し、克服しなければならない。

 民主主義社会にはありうるひとつの思想・言動のように扱い、理解に努め、ときには譲歩するようなことがあってはならない。民主主義社会に敵対する存在として、打倒の対象なのである。

 われわれはあくまで、平和・自由・人権および民主主義の諸価値にたち、これらを押し出すことによって、ファシスト・ファシズムと闘うべきである。それらがいかに不完全でまどろっこしく見えようとも、今日までの人類の最高到達点にほかならないからである。

 以上はあくまで私見であり、簡単に団内の賛同も受けられないかもしれない。ではなぜ、あえてこの投稿をするのか。

 第一に、自由法曹団は一九三三年、主力の弁護士が日本型ファシズムによって、いっせい検挙されて一二年間の活動停止を余儀なくされた団体である。

 第二に、自由法曹団は、すくなくとも戦後の時期において真のファシズム(と思われる)勢力との闘いを経験したことがない。団はこの時期、幾多の貴重な経験を蓄積してはきたが、その相手は、アメリカ帝国主義や日本の政治権力、大独占資本などであって、ファシズムそのものではなかった。われわれは今、まったく新しい局面に直面していると考えなければならない。私にもためらいがないわけではないが、必要な発言はしておきたいと考える。


集団的自衛権と秘密保全法

広島支部  井 上 正 信

 七月六日、自民党総務会は国家安全保障基本法案(概要)(以下基本法案)を承認した。新聞報道によると、次期衆議院選挙での選挙公約の柱にし、政権奪取後法案として国会へ提出するとのこと。同じ日に、政府の国家戦略会議フロンティア分科会の平和のフロンティア部会報告書(以下報告書)が発表された。

 両者とも、憲法九条のもとでの集団的自衛権行使は違憲であるとの政府解釈を変更して、集団的自衛権行使を行おうとするものである。それだけではない、秘密保全法制定を提言していることも共通している。

 ご承知のように、政府は今国会へ秘密保全法案を提出しようとしているが、PKO協力法の改正法案も提出しようとしている。恐らく任務遂行のための武器使用や、警護任務を付与する内容になるのではないかと想像している。PKO協力法改正法案は、法案化作業は済んでおり、内閣法制局との調整を残しているだけと言われている。

 奇しくも同日に、憲法改悪に関する同じ内容の提言がなされるという事態は、これまで経験したことがない。その上、四月二七日には自民党が憲法改正草案を発表し、たちあがれ日本やみんなの党がほぼ同じ内容の改憲提言を発表している。憲法改悪を巡る情勢は一気に緊迫してきている。これらの動きを正確に見据えて反対運動の力を高めなければならない。日弁連は、七月二七日に会長声明を公表し、集団的自衛権行使禁止の政府解釈の見直しに反対し、それを可能にするような憲法違反の法案を国会提出しないよう強く求めた。

 なぜ今集団的自衛権と秘密保全法がなぜセットで提言されているのであろうか。まず「なぜ今」を考えてみたい。

 NPJ通信へ六月一日にアップした「米軍再編計画見直しと憲法九条」を、是非お読みいただきたい。ここで、四月二七日の日米安保協議委員会(以下2+2)共同発表文と五月一日の日米首脳会談共同声明を論評した。

http://www.news-pj.net/npj/9jo-anzen/20120601.html

 ここで私は、米軍再編見直し協議は米国の新しいアジア太平洋戦略を実行するためのものであり、民主党政府はこれに全面的(無批判)に付き従い、台湾海峡有事から派生する南西諸島有事を想定している防衛計画大綱の動的防衛力構想を、アジア太平洋へ拡大し、それを日米の動的防衛協力と称して、平時から、日米両軍が警戒監視、偵察活動、グァム・テニアンでの共同訓練を行うもので、これは平時からの共同防衛態勢をとることで、集団的自衛権行使の態勢に他ならないことを述べた。これは、ここに至る九〇年代以降の日米同盟の変革により、我が国の防衛政策が個別自衛権行使の態勢を次第に拡大したものの、憲法九条の制約から公然とは集団的自衛権行使ができなかったが、それを乗り越えようとしていることも述べた。

 これを書いた時点では、冒頭に書いた動きはまだ表には出ていなかったが、まさかその一ヶ月後に具体的な動きとなるなど、思いもしなかった。自民党内からは、安全保障基本法案に対して、これができれば憲法改正の必要性がなくなるとして、反対意見もあったという。憲法九条の下でも集団的自衛権行使を可能にする国内法制を制定することは、いかにも性急である。それだけ憲法九条明文改正を待ってはおれないのであろう。

 ではなぜ秘密保全法が必要になるのか。基本法案は「我が国の平和と安全を確保する上で」秘密保全法制が必要だとする。平和と安全の確保といえば、必ずそれを脅かす脅威を想定する。基本法案は「外部からの軍事的または非軍事的手段による直接又は間接の侵害その他あらゆる脅威」と定義している。  

 基本法案が集団的自衛権行使を規定しようとしているのは第一〇条である。詳しいことは別稿に回すが、ここで規定されている集団的自衛権行使は、国連憲章第五一条と何ら差異がない。国際平和協力と称するPKO活動や、安保理の要請による軍事的関与だけではない。米国がタリバーン政権下のアフガニスタンを攻撃し、NATO諸国が軍事協力をしたのも、集団的自衛権行使なのだ。

 我が国が集団的自衛権を行使する事態とは、米国との集団的自衛権行使が最も考えられる事態である。基本法案が国内法として制定されれば、日米安保体制はNATO並みの集団防衛体制となるはずである。九〇年代以降の日米安保再定義、その後の日米防衛政策見直し協議は実態面からそれを目指してきた。ただ憲法九条が制約となって、国内法制がついてゆけなかった。秘密保全法制もその一つであった。

 なぜ秘密保全法制が求められるのか、その理由は簡単である。日米が集団的自衛権を行使するためには、今以上に日米両軍の一体化が求められる。九〇年代以降の日米安保体制の変革はすべてそれを目指していた。日米の軍事一体化は次第に抜き差しならないところまで到達している。既にごく最近、航空自衛隊総隊司令部が横田基地内に開設され、横田基地をホームベースにする在日米空軍と航空自衛隊の戦闘部隊の司令部が同じ基地に同居しているのだ。横田基地には、既に日米統合運用調整所が設置されている。陸上自衛隊では、海外派兵の先遣部隊として真っ先に派兵される中央即応連隊の上部組織である中央即応集団司令部が、来年三月末までには、在日米陸軍司令部のあるキャンプ座間へ移転する。キャンプ座間には米陸軍第一軍団前方司令部がある。このように組織面でも日米両軍の一体化は着々と進んでいる。

 米軍と自衛隊との一体化が深まればそれだけ軍事秘密が共有されることになる。米軍の秘密=自衛隊の秘密ということだ。自衛隊の秘密が簡単に漏洩するようでは、米軍としては安心して情報提供ができない。現代の戦闘は情報の共有、協力が要である。二〇〇七年八月一〇日に日米で軍事秘密包括保護協定(GSOMIA)を締結したのもそのためである。現在進められている秘密保全法制の制定も、GSOMIAが促進している。

 日米同盟の強化は、このように最早抜き差しならないところにさしかかっている。明文改憲を正面から求めようとすれば、日米同盟の強化のテンポについてゆけないため、九条の解釈を変更するという、なりふり構わない手段を執ろうというのであろう。

 二〇一〇年五月二六日には、自民党から議員提案として国際平和協力法案が提出されて、現国会まで継続審議となっている。この法案は、二〇〇六年八月三〇日に自民党国防部会防衛政策検討小委員会がまとめたものである。この法案は海外で公然と武力行使を行おうというものである。詳しくは自由法曹団通信第一二一八号「自民党防衛政策小委員会『国際平和協力法案の分析』」を参照されたい。

 私はうかつにも、この法案が既に国会へ提出されていたことに気付いていなかった。ごく最近赤旗新聞の記事で知ったばかりである。国際平和協力法案といい、集団的自衛権行使の憲法解釈見直しといい、PKO協力法改正法案といい、これらが作られれば、最早憲法九条は死滅してしまうだろう。秘密保全法制はそれを補強するためのものである。憲法九条改悪を許さないためにも、秘密保全法制を制定させてはならない。

 この論考は、八月一日NPJ通信「憲法九条と日本の安全を考える」にアップされたものを転載しました。


再雇用更新拒絶 無効判決

白百合荘事件 長野地裁松本支部(平二四・七・二五)

長野県支部  松 村 文 夫

 特養老「白百合荘」は、これまでも報告しましたように、数々の不当労働行為・解雇をくり返して来ました。これに対して、私たち、次々と提訴し、勝訴をかち取って来ました。

 その一環として労組委員長畠山の雇止めがあります。

 畠山は、六〇歳停年後も再雇用(一年更新で六五歳まで)され、二回更新されたのに、平成二一年三月法人側の「一か月一日勤務」という非常識な提案を拒否したところ更新契約不成立を理由に「雇止め」されました。

 これに対して、長野地裁松本支部は、この七月二五日法人側の更新拒絶・雇止めとして、「本件契約終了は、客観的に合理的な理由を欠き、従前の労働契約が更新されたと同様の法律関係となる」と判示しました。

 法人側は、平成二〇年更新契約における「譴責処分を受けた場合には更新しない」という条項を用いて解止めを合理化しようとしましたが、判決は、譴責処分は無効と判断しました。また賃金減額について、判決は不当労働行為を認定し、不当労働行為以前の賃金額の支払を命じました。

 高年齢者等雇用安定法の施行にかかわらず、更新するか雇止めするかは経営者の自由であるかのような事例が横行していることから、本件判決は、当然のことを判示しているのに過ぎませんが、参考になるかと思い、報告した次第です。

 「白百合荘」事件は、

(1)不当労働行為については、地労委・中労委・一審・二審いずれも勝訴し(法人上告受理申立)、

(2)一時金不支給については、期待権を理由として八割の支給を命ずる判決が最高裁で確定し、

(3)執行委員甕が腰痛によって休職したのをとらえ、休職命令を発してその満了をもって退職扱いとされたのについては、一審で勝訴しました(法人控訴)。しかしながら、

(4)組合員が前日に三日間の有給休暇取得を申請したのに法人側が時季変更権を行使したのに休んでしまったのに対して、無断欠勤扱いと出勤停止処分をして削減した六日間の賃金を請求したのについて、松本支部が時季変更無効を認めましたが、東京高裁は、証拠調をせず二回で結審して、この六月二六日逆転敗訴(一審判決取消)の判決を言い渡しました。これは、一審で証人調もしないで勝訴したものですが、高裁で逆転されるおそれも予想して証人調をしておくべきであったと反省しているところです(高裁判決は、一審判決が認定した事実を無視するひどいものですが)。

(5)そして、その一か月後本件判決を迎えることにあたり、高裁逆転判決で松本支部裁判官(合議体)が動揺しないか、心配していただけに、勝訴してほっとしております。

(6)一〇月には、副委員長に対する解雇についての判決言渡が予定されているだけに、本件勝訴がバネになると考えています。

 この他に、他に就労しているのに仮処分決定によって賃金分を取立したとして、

(7)弁護士倫理違反による懲戒処分の申し立て、

(8)詐欺による告訴までなされております。

 預金五億円借入なしの法人が女性だけで高齢者の多い労組に結成直後から襲いかかったものです。

 中島嘉尚・上條剛・蒲生路子各団員と私が全力を尽くして取り組んでおります。


《国民的共同の力で》その一
“脱原発・復興支援・普天間基地閉鎖をめざすアジサイ連合”はいかがでしょうか。

東京支部  神 田   高

 三鷹九条の会は、六月三日に憲法学習講演会として『核・原発開発の源流〜マンハッタン秘密計画』を開いた。地元三鷹、武蔵野では、数次にわたり“パパママぼくの脱原発ウォーク・放射能から子どもを守りたい”をはじめ、様々な市民グループが共同して、脱原発アピールのアクションをおこなった。井の頭公園から吉祥寺ルートでも沿道の買い物客らの温かな声援があった。

 原発再稼働の動きはあったが、参加者は明るく元気であった。

 昨年一〇月、これに先立ち三鷹九条の会は、原発問題住民運動全国連絡センター代表委員阿部愃三さんに“福島原発事故の真実とチェルノブイリ”をテーマに講演いただいた。

 時機が時機だけに武蔵野三鷹ケーブルテレビ(日本一発達しているそうだ)の取材と放映もなされた。

 丁度このころ、たまたま地元の友人と呑んだ時、原爆の開発・製造から広島・長崎への投下に至る経緯を詳細に記録した『資料マンハッタン計画』(大月書店)を翻訳し、出版された岡田良之助さんが地元の井の頭にいらっしゃることが分かった。同書は、核開発の原点である原爆製造・投下についての第一級の資料であり、早速講演をお願いしたわけである。

二 『資料マンハッタン計画』を読む

(1) 同書は八〇〇頁に及ぶ詳細で貴重な資料が集積された大著で ある。

 「第一部・原爆の開発と製造」の冒頭の資料一「一 政策決定への道」には、世紀の大天才である“アインシュタインからローズヴェルト大統領への書簡”(一九三九・八・二)が記録されている。

 「最近四か月の間に、・・フランスのジョリオキュリーの研究によっても、次のことが有望になりました。すなわち、大量のウランのなかで核連鎖反応を発生させることが可能であり、それによって巨大なエネルギーとラジウムに似た新元素が大量につくられるという可能性です。近い将来にこれを実現できるのは、まず確実であるとみられます。」

 「初めて発見されたこの現象は、結果として爆弾の製造にもつながります。・・これによってきわめて強力な新型爆弾を製造することが考えられます。この型の爆弾一箇を船で運び、港湾で爆発させれば、それだけで、港湾全体のみならず、同時に周辺地域の一部をもたぶん破壊するでしょう。」

 この書簡には、新型爆弾製造に必要なウラン鉱石の確保の必要性にふれ、「今後の開発について絶えず情報を提供し、・・米国が必要とするウラン鉱石の供給確保の問題に格別の注意を払う。」と記されている。

 そして、アインシュタインが米大統領宛てに同書簡を送った重要な事情として、「ドイツは、同国が接収したチェコスロヴァキアの鉱山から産出するウランの販売を実際に停止した」こと、ドイツが「米国で行われた、ウランに関する研究の一部が現在そこでも繰り返し行われている」ことがあった。

 同様のことは、資料三(アレキザンダー・ザックスから大統領宛の書簡・一九三九・一〇・一一)でも、「自由な人間精神の所産を搾取してきた全体主義に対する歴史的な闘いの中で」「ドイツによるベルギー侵攻の危険に鑑み」「米国が十分ウラン供給量を確保できるようにすることが緊急問題」と述べている。

 当時の侵略的なドイツの動向が結果的に米国らを原爆開発・製造に追い立てていった事情が見てとれる(実際には日本の広島・長崎に原爆が投下された事情はより複雑だが、米国が第二次世界大戦の終結後の覇権を意図して、核爆弾投下の実験、実践の機会として行われた側面は否定できないと思う。)

(2)『マンハッタン計画』(単に『計画』ともいう)は、「第一部 原爆の開発と製造」「第二部 マンハッタン計画の国際関係」「第三部 資源戦略と海外諜報活動」「第四部 対日原爆使用への歩み」「第五部 原爆投下」との編立てになっているが、原爆開発の頭書から、核エネルギーを利用した“原発”にも若干の言及がなされている(これは対外的な“平和利用”イメージ作りの意図があったかも知れないが)。

 資料二(研究者のレオ・シラードの覚書・一九三九・八・一五と推定)

 これには、核開発によって生み出される巨大なエネルギーとともに、「大量の新しい放射性元素」にも言及されている。

 「今年初めに、中性子によってウラン元素を分裂させうることが分かった。この核分裂過程でウランそのものが中性子を放出する可能性があると思われた。・・実験を行ったところ・・一定の限られた条件のもとに大量のウランのなかで核連鎖反応を持続させることができると結論してよい。」

 「物理学におけるこの新たな進展は、今や新しい動力源が創出されつつあることを意味する。このような連鎖反応をつうじて大量のエネルギーが放出されるとともに、大量の新しい放射性元素が作り出されるであろう。」

 しかし、この後、『計画』には、大量の放射性元素にふれる人間を『防護する必要』にも言及している。

 「放射性元素は一定期間継続してエネルギーを放出する。単位重量当たりの放出エネルギー量はきわめて大きく、したがって、そのような元素は船舶または航空機の動力燃料として―大量利用が可能になれば―使用することができるであろう。しかし、この新しい放射性元素によって放出される放射線の生理学的作用のために、その元素が大量に存在する場所の近くにいなければならない人、例えば航空機の操縦士については、『防護』する必要がある。」「それゆえに、大量の鉛の運搬が必要となる。」

 そして、「連鎖反応により大量のエネルギーが放出されるであろうから、定置発電所をつくれば、電力生産の目的に利用できるであろう。」

(3) 原子核分裂の軍事的利用〜放射能が生命に及ぼす破壊効果

「数年以内に爆発性核分裂の利用が軍事行動において支配的な要因となりうる」(資料一〇・米国科学アカデミー原子核分裂委員会報告書)

 同報告書は、「爆発生成物に含まれる強烈な放射能に及ぼす破壊効果は、ひょっとすると爆発そのものの破壊効果に劣らず重要」と述べているとおり、米国にとっては放射性物質の問題は敵国を殺戮するための手段としか位置づけられていない。


「原子力規制委員会設置法」報告
―脱原発という観点から

東京支部  柿 沼 真 利
(自由法曹団原発問題委員会事務局次長)

 七月一六日代々木公園での「さよなら原発一〇万人集会」、七月二九日「脱原発国会大包囲」、毎週金曜日の首相官邸前行動など、脱原発に向けた国民の声が日に日に強さを増す中、現在(八月七日時点)行われている第一八〇回通常国会においては、原子力規制について、注目すべき立法がなされており、その内容・問題点などについて、「脱原発」という観点から、報告する。

一 原子力規制委員会設置法の成立・概要

 今国会における原子力規制立法で重要なものとして、六月二〇日に成立した、「原子力規制委員会設置法」が存在する。同法は、従来、「原子力の利用」に対する安全確保のための諸施策・規制に関し、原子力「推進」機関と、安全確保のための「規制」機関が分離できていなかったこと(経産省下の「資源エネルギー庁」と「原子力安全・保安院」の関係)、縦割り行政の下、複数の機関により多元的に行われていたこと(ex.内閣府の下の「原子力安全委員会」、経産省下の「原子力安全・保安院」など)を反省し、「規制」機関を、「推進」機関とは分離し、独立させ、かつ、一元化した、「原子力規制委員会(なお、その事務局として『原子力規制庁』が置かれる。)」を新しく設置するものであり、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資すること」をその目的とする。

 同法は、本則三一条、付則九七条から構成され、付則部分において、原子力規制委員会が新たに設置され、同委員会が、従来の「規制」機関に代替して、職権を行使するため、多くの法律について、その代替のための改定、条文の読替などを行っている。

二 原子力規制委員会設置法の主な内容

 原子力規制委員会設置法の内容で重要な点としては、(1)原子力規制委員会(及び、その事務局としての規制庁)の職権行使独立、(2)「我が国の安全保障に資する」ことの目的化が挙げられる。

(1)規制委員会の独立性について

 同法は、従来の原子力規制の不十分さを反省し、明文で、同委員会の「委員長及び委員は、独立してその職権を行う。」という職権行使の独立を規定する(同法五条)。

 そして、これを担保する制度として、

i)第二条、国家行政組織法第三条第二項の規定に基づく、「環境省の外局」としての設置、

ii)第七条、委員の人選について、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命すること、

iii)付則六条二項、原子力規制庁の職員について、原子力利用の推進に係る事務を所掌する行政組織への配置転換を認めない「ノーリターンルール」の採用、

iv)付則六条三項、原子力規制庁の職員について、原子力利用における安全の確保のための規制の独立性を確保する観点から、その職務の執行の公正さに対する国民の疑惑又は不信を招くような再就職を規制する「天下り規制」の実施

(2)「安全保障に資すること」の目的化について

 一方で、同法は、第一条で、その目的として、「我が国の安全保障に資すること」を明示し、さらに、付則一二条では、原子力基本法の基本方針条項である第二条に、第二項を付加し、原子力利用の安全確保について、「我が国の安全保障に資するを目的として、行うものとする。」と規定し、原子力利用に、「我が国の安全保障に資すること」を目的化している。

三 上記内容の問題点

(1)について

 上記の規制委員会の職権行使の独立自体には、評価すべき点もあるが、未だ不十分であり、抜け道、骨抜き化が懸念されるという問題が存在する。まず、i)環境省の外局としての地位と言っても、従来、環境省が必ずしも原子力発電に適正な規制を行っていたわけではないこと、ii)人選についても、従来原子力発電が国策として行われ、政・財・官が一体となって行っていた点、両議院の同意、内閣総理大臣の任命で、事足りるとはいえない点、iii)ノーリターンルールには、例外規定が存在し、抜け道として悪用され、骨抜きにされてしまう危険がある点、iv)天下り規制についても、規定内容が抽象的であり、抜け道を容易に作られてしまいかねない点、など問題は多数ある。

(2)について

 この点については、あからさまに、原子力の軍事転用・核保有化、あるいは、安全保障を口実とした原子力関係の情報の非公開化などへの危険がある。一応、国会の審議において、安全保障を掲げることにより軍事転用を図ることはないとの答弁がなされているものの、本来、同法が、今回の東電福島第一原発事故に由来する原子力の危険性への対応を目的とするのであれば、その目的条項にある「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を掲げれば足りるのであって、殊更に「我が国の安全保障」などという項目を紛れ込ませる必要はない。

四 脱原発への「ガス抜き」としての危険

 また、同法には、現在、国民の中にある、脱原発を求める動きに対する「ガス抜き」として利用されかねないという問題点がある。

 ここ最近の、関電大飯原発三号機、四号機の再稼働問題において、野田内閣、地元自治体が、「安全は確保されている」という形ばかりの状況を作り出し、再稼働反対の国民の声を無視し、これを強引に推し進めていった経緯が存在する。

 この、原子力規制委員会についても、原発推進勢力が、同委員会の見解などを、単なる「お墨付き」として利用し、「ガス抜き」にしかならないと言う危険は払拭されない。

 今回の東電福島第一原発事故により、本質的には、「原発」と「人権」とは両立し得ないものであることが明らかになったのであり、脱原発は不可避な要請である。同委員会の役割は、脱原発達成までの、あくまで「過渡」的なものと捉えるべきである。

五 その他―原子炉等規制法関係

 また、規制委員会設置法は、原子炉等規制法の一部規定についても改定を行っている。

 特に、注目すべき点は、発電用原子炉の運転期間を原則として四〇年に制限している点であろうか(付則一七条、原子炉等規制法第四三条の三の三一)。しかし、これについても、二〇年を越えない期間、一回延長できるという例外規定があり、実質的な骨抜きが懸念される。また、少なくともその運転期間中であれば、廃炉や、運転停止はせず、運転を継続させる「口実」となり、脱原発の達成を「先送り」させる阻害事由にもなりうるものである。

 その他、規制委員会が、最新の安全基準を満たさない発電用原子炉施設について、「使用の停止」等の措置を命ずることができる「バックフィット制度」を導入している点は、注目に値する。この制度は、脱原発の達成の観点から、積極的に運用し、活用すべきであろう。ただ、そのためにも、委員の人選は、厳格かつ中立的に行われるべきであろうし、前述した職権行使の独立性は、確保されるべきであろう。


七・一六 さよなら原発一七万人集会に参加して

神奈川支部  中 山 隆 弘

 二〇一二年七月一六日、代々木公園で行われた「さよなら原発一七万人集会」に参加してきました(当初の正式名称は「さよなら原発一〇万人集会」でしたが、参加者は一七万人に上ったので、このように表現させていただきます。)。

 私は、自由法曹団の一員として、東京合同法律事務所の泉澤章先生、八王子合同法律事務所の與那嶺慧理先生、北千住法律事務所の柿沼真利先生、渋谷共同法律事務所の森孝博先生方と共に、集会要員の立場で参加し、一日中、代々木公園の新宿側入り口で、集会参加者に対する案内、同所におけるパンフレット配り(手元に用意されていた一〇〇〇部が一瞬で無くなりました。)の役割等をこなしました。

 朝の九時三〇分に集合し、解散したのが夕方となりましたが、私はその間一度もトイレに行けず、真夏の熱気と、それを上回る参加者の方々の熱気で、ずっと汗だくになっていました。

 (なお、上記のように、私はずっと入り口付近での任務でしたので、公園内で行われたイベントの内容につきましては体験しておりませんが、第一ステージ(サッカー場)、第二ステージ(野外音楽堂)、第三案内カー、第四案内カーにおいて、トーク、発言、ライブ等が行われ、一三時三〇分からは順次パレードの出発が始まりました。)

 私が会場入り口で案内をしていて印象的だったのは、デモ等に参加するのが初めてという、個人の一般参加者の方の数の多さでした。何十人もの方々から、「私は一人で来たんだけれども、このようなデモに一人で参加してもよいのか。」、「私たちはこういうイベントに参加するのは初めてなんですが、どのようにしたらよいのでしょうか。」などという質問を沢山受けました。

 このように、普段デモや集会等に参加したことがない方々がこれほどの数で一堂に会したという事実は、脱原発の意識が全国民的なレベルにまで浸透していることの表れでしょう。そしてまた、より多くの市民が表現の自由を積極的に行使するようになったという点で、大変意義深いことでもあります。今後は、もっともっと多くの市民が、自らの意見を行動で表明するということの重要性を実感していってほしいです。

 以上のような様々な意味で、この脱原発運動の流れを決して止めてはなりません。そう決意を新たにできた一日でした。

 参加された皆様、お疲れ様でした。今後ともどうぞよろしくお願い致します。


国民救援会第五六回全国大会に参加して

滋賀支部  玉 木 昌 美

 二〇一二年七月二八日から三〇日まで日本国民救援会(鈴木亜英会長)の第五六回全国大会が兵庫県の舞子で開催された。私は、滋賀県本部の副会長をしており、代議員として参加した。

 大会は、全国から五〇〇人以上の参加で、盛会であった。これまで日野町事件支援でお世話になってきた関西や岡山、広島、名古屋等の懐かしい顔ぶれと再会できた。

 大会議案の提案では救援運動をめぐる情勢を的確に捉えたものであり、憲法・国際人権規約を生かす活動の重要性が指摘され、言論弾圧事件である国公法弾圧2事件の闘いが強調された。福島・原発現地からの報告では、浪江町の馬場共産党町議が「原発の放射能で一人も死んでいないというが、避難中、避難先等で死亡した人は一〇〇〇人を下らない。」という話が印象に残った。勝利報告では、布川事件の桜井さんが、「検察の証拠の隠蔽は許しがたい、国賠訴訟でその不当性を明らかにしていく」と決意を表明された。事件紹介で事件関係者が前にずらーっと並んだときには、余りの数に愕然とする思いがした。夜、懇親会のあとに、名張毒ぶどう酒事件の映画「約束」の試写があったが、裁判所のひどい対応に腹が立つばかりであった。「まともな判断をする裁判官に出会わない不幸」は日野町事件と同じである。また、裁判官が「重大事件で人はうその自白をするはずがない」と思い込むことがえん罪を生み出していることも共通である。名張事件では一審無罪を高裁が逆転死刑を言い渡したが、その高裁の余りにひどい判決文が思い出された。この映画は団員必見である。総会の懇親会後に上映したらいいし、支部でも上映会を開催すべきと思う。

 二日目からは討論であるが、発言通告の数が一〇〇通をはるかに超え、議長の仕事はいやがられても発言時間を制限することであった。私も救援会の全国大会で議長をした経験があるが、制限されても訴え続ける人を抑えるのは大変であった。さて、発言を聞いて一番に思ったことは、えげつない事件や裁判が余りにも多いことである。裁判員裁判が導入されたとき、最高裁は「これまでの刑事司法はうまく機能してきた」と説明していて唖然としたが、これだけ多いえん罪事件に反省がないこと自体が狂っている。その人の人生を狂わせていることを何とも思わないだろうか。税金を使って集めた証拠を被告人に開示しないでえん罪事件を生む構造がそもそもおかしい。桜井さんの言うとおりである。具体的報告では、JAL不当解雇撤回裁判の報告、三鷹バス痴漢えん罪事件、東電OL事件の報告は特に感銘を受けた。次に、印象的であったことは、ヒューマニズムあふれる救援会の活動も組織拡大には相当の困難が伴うが、それぞれに工夫をこらして楽しくやっている経験が数多く語られた。各県本部の活動状況は組織人員、支部大会の開催状況等の一覧表が資料として配布されたが、滋賀県はそれなりに頑張っている。近江八幡、草津栗東、湖東の各支部大会に講師として日野町事件の報告、訴えに回ったことが思い出された。いつも「参加人数は少なくても、支部で会議、学習を」と各支部を指導してきたが、それなりの活動をしているといえる。また、滋賀県は三名以上の拡大をして表彰された人が一六人であったが、私も直前に五名拡大してその一人となった。

 救援会の全国大会に来るたびに、もっと自由法曹団の若い人に参加してもらうべきであると思うが、今回、若い人は来賓の瀬川団員だけであったようだ。この大会の常連は、仙台の庄司団員と私である。顧問に内藤団員のお顔も拝見した。今回、山梨の小笠原団員が参加していた。裁判官に刑事司法の悲惨な現状を知らせる意味で、新任判事補研修、判事研修にこういった集会が利用されるとよいのではないかとも思う。

 私は、日野町事件の闘いについて報告し、故阪原弘さんの長女丸山美和子さんが「父の無念を晴らしたい。」と決意を述べた。丸山さんの訴えに感動する人が多かった。JR山科京都間痴漢えん罪事件の被告人の柿木さん(滋賀)は妻とともに熱く支援を訴えた。

 二九日、三〇日はかなり早朝に起き、海岸べりをジョギングしてぐっしょり汗をかいた。三〇日は早朝でもかなり暑かったが、走り終わったとき、ある大会参加者からは、「弁護士には体力と気力がいりますから、ジョギングも必要ですね。」と感心された(内心は、「この暑いのによくやる。」かも)。

 ちょうどオリンピックの時期であったが、鈴木事務局長の「人権のオリンピック」ともいうべき大会という例えがぴったりはまった集会であった。今回、日弁連から初めてメッセージが届き驚いたが、よく考えれば、届いて当然である。

 若干気になったのは大会参加者の年齢層であり、二〇代、三〇代、四〇代は極めて少なく、六〇代、七〇代、八〇代が中心で、五〇代で若者という現状である。若い後継者づくりの必要性は喫緊の課題である。私は、大津支部長の樋口団員(六四期)を次回から参加させなくては、と思った。

 今回の大会はみんなから力をもらい、爽快感が残るものであった。「さらに滋賀県本部を発展させなくては」という思いを強くした。


女性部・家事事件手続法の学習会

東京支部  青 龍 美 和 子

 女性部では、本年五月三一日、家事事件手続法について学習会が行われました。

 講師は、法務省法制審議会の非訟事件手続法・家事審判法部会の委員であり、家事審判法の改正・家事事件手続法の成立に深く関わっておられる杉井静子団員です。

 今回の家事審判法の改正(廃止)の趣旨や、改正の経緯、現行法からの主な改正点について解説を伺い、参加者同士で、実際の家事事件を担当している中で家庭裁判所の運用に対する実感や、今回の法改正によってどのような影響があるかなどを議論しました。

一 改正の趣旨

 今回の改正のきっかけになったのは、二〇〇八(平成二〇)年五月八日の最高裁決定です。これは、婚姻費用分担に関する家事審判事件の抗告審が、抗告の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず、反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが憲法三二条に違反するかが争われた判例です。

 最高裁は、本件で裁判を受ける権利を侵害したものとはいえないと結論づけましたが、「原々審の審判を即時抗告の相手方である抗告人に不利益なものに変更するのであれば、家事審判手続の特質を損なわない範囲でできる限り抗告人にも攻撃防御の機会を与えるべきであり、少なくとも実務上一般に行われているように即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しを抗告人に送付するという配慮が必要であったというべきである。」と判断しています。この最高裁決定を機に、制度上、当事者及び利害関係人の手続保障を強化する必要があるということで、今回の法改正が行われることになりました。 実に、六五年ぶりの大改正です。

二 家事事件手続法のポイント

 現行の家事審判法から大きく変わった点として、まず、「甲類、乙類」の用語が廃止され、「別表第一、別表第二」として、紛争性の高い事件類型の審判についての手続保障が強化されました。例えば、合意管轄(六十六条)、申立書の写しの交付(六十七条)、審理の終結(七十一条)、審判日の指定(七十二条)などです。

 また、制限行為能力者には原則は手続行為能力がないとしつつも(十七条)、各則で意思能力がある限り手続行為能力があるとされたこと。例えば、後見開始の審判(百十八条一号)、子の監護に関する処分の調停(二百五十二条一項二号)などについて、意思能力があれば、それぞれ成年被後見人や未成年者自身が法定代理人によらずに自ら手続行為をすることができます。また、このような制限行為能力者が、裁判所に申し立てることによって、弁護士を代理人に選任することもできます(二十三条)。

 審判における手続参加に関する規定も整備され、当事者以外にも、審判を受ける者となるべき者、それ以外の者でも、審判の結果により直接の影響を受けるものは、利害関係参加ができることになったこと(四十二条)。例えば、面接交渉関する事件において、子どもが手続に参加できることになります。この場合、前述のとおり、子どもが独自に弁護士を代理人として選任できます(子どもの手続代理人)。

 その他、電話会議が可能になったこと(五十四条)、審判申立てを待たず調停係属中から保全処分の申立てが可能になり(百五条)、例えば、離婚後の財産分与を求める家事調停事件の係属中に、申立人に分与することが見込まれる相手方名義の土地建物が処分される可能性が急に高まった場合などには、家事審判事件を別途申し立て、又は調停を不成立にして審判移行させるまでもなく、直ちに保全処分の申立てができるようになったことがあります。

三 感想等

 これまで審問では、裁判官が主体的にかかわり、代理人弁護士はあまり出番がなかったそうですが、今後は対審構造に近づき、当事者の主体的な手続追行が求められるようになりました。また、未成年の子どもにも、「子どもの手続代理人」として弁護士がつけられるようになったことも含め、家事事件において弁護士の果たすべき役割が拡大することがわかりました。この子ども手続代理人は、新しい思い切った制度だと思いきや、諸外国では意思能力のない(例えば〇歳児)の子どもでも手続代理人をつけられると聞き、さらに驚きました。

 今回の改正法はまだ施行されておらず運用はこれからである一方、ベテランは従前の手続に慣れてしまって新法への対応が難しいため、新人にとっては今がチャンスであること、また、今後、裁判官に働きかけて、不十分な点も良い運用をさせることができること等の助言を受け、弁護士一年目で家事事件の経験が浅くても、しっかり仕事ができるよう励ましていただきました。

 学習会が始まる前には、会場として使わせていただいたひめしゃら法律事務所を見学しましたが、机・イスや棚など事務用品が木調の柔らかな雰囲気で統一されていて、訪れる人がリラックスできるつくりになっていることに感動しました。また、学習会後も、参加者が持ち寄った惣菜類に加え、杉井団員ご自身が近くの山から採ってきた山菜の手作り料理を美味しくいただきながら、参加された皆さんとおしゃべりできたことも楽しかったです。これも女性部ならではの取り組みだと感じ、また参加したいと思いました。


《もしも千人の詩人がいたら》

大阪支部  宇 賀 神  直

 われらの詩人《みちのく赤鬼人》さんが、この度、前記の詩とエッセイを出しました。この詩人は昨年三月一一日の大震災のあった石巻で弁護士活動をしている団員で大きな災害をもたらした震災への思いを折に触れて詩とエッセイを書き、この度一冊の本にまとめたのです。この大災害の実情については多くの人々に知れ渡っていますが、その多くの人々の心と思いを短い言葉で語り文にして読者に訴えることも大切なことです。それは詩人の役目です。そして千人の詩人がいて多くの被害者を初めとして多くの人間の思いを詩に託し、世に訴えることが出来たらとの強い気持ちで《もしも千人の詩人がいたら》という本の題名にしたものと思います。その詩の一部を紹介します。

「墓 標」

 「三月一一日―午後三時前後に―出来てしまった―たくさんのガレキたち―それは壊された家屋である―

 それは流された車である―それは陸に揚った船である―これらがガレキと呼ばれるのは すべてが持ち主の意思に反して そこにあるから すべてが元の容貌を留めないで そこにあるから すべてが元のように使えない姿で 今ここにあるから 宅地に折り重なってここにあり ガレキと呼ばれてここにある それは喪われた街の残影 津波の前の街の思いで 大魚の思いで 今はガレキと呼ばれている 失われた街の 失われた生命たちの 悲しい墓標 ガレキたち」

 皆様がこの詩集を手にして詠んで下さい。

申しこみ先

庄司法律事務所

〒九八六―〇八三二  石巻市泉町四丁目一番二〇号

     電話  〇二二五―九六―五一三一

     FAX 〇二二五―九四―〇四七四


向 武男さんのこと

東京支部  宮 川 泰 彦

 向 武男さんは、一九二四年一一月一二日生まれ、司法研修所は一七期、東京南部法律事務所の創設メンバーの一人で(研修所同期の松井繁明さんも創設メンバーの一人)、同事務所の最年長なるも好奇心旺盛な弁護士でした。

 その向 武男さんが間質性肺炎で自宅療養中の八月一日未明、肺性心(肺の病気が原因で引き起こされる心臓の機能障害)にて亡くなりました。享年八七才でした。

 葬儀は家族葬で行われました。

 向 武男さんと交わりの深かった方々には、向さんがまとめた「想い出」の発行披露を兼ねた「偲ぶ会」の催すべく、ご遺族と準備を進めているところです。

 ご存じのとおり、向さんは治安維持法、とりわけ弁護士活動に向けられた同法の実態とそれに抵抗する弁護士像を自ら足を運び聴き取り調査をするなどして研究を重ねていました。

 向さんは「想い出」と題する本を出す予定にしており、製本業者との打合せも進んでいたようです。亡くなる二週間ほど前に書いたと思われる「まえ書」の原稿には、手書きのふるえる文字で「ここ三、四年の間に中田直人、上田誠吉、大塚一雄、そして竹沢哲夫さんが亡くなった。あらためて先達の足跡などを想い出す。」旨が書かれています。「想い出」には「自由法曹団物語戦前編」、「伏石事件と弁護士若林三郎」、「岡崎一夫の新潟三・一五事件」、「抵抗運動下の弁護士像」、「弁護士近藤左内」、「森長英三郎を偲ぶ」などが記載されています。

 また、向さんは、佐藤大四郎に関する研究成果を文書にし発表する予定でもありました。向さんから聞いていたところによると、「佐藤大四郎は日本共産青年同盟に加盟し、治安維持法違反により執行猶予の判決を受けた後の昭和九年五月に満州に渡った。満州農業の研究促進と満州農村共同組合の建設に力を尽くした。この活動が関東軍司令部の策謀により治安維持法違反に仕立てられ昭和一六年実刑判決を受けた。」とのことです(不正確かも知れません。もっと真面目に聞いているべきだったと反省)。佐藤大四郎に関する向さんの発表は簡単ではないと思われますが、彼がまとめた論文・資料は価値ある研究資料として生きていくでしょう。 

 東京南部法律事務所の何人かで、向さんの米寿の祝いはどのようしたら良いか等と相談をしていたところでした。

 向 武男さん、もうちょっとでも良いから生きて、そして話しを聞かせて欲しかった。


「更新料解決マニュアル〜その更新料払う必要ありません〜」(旬報社)が発刊になりました。

東京支部  西 田   穣

 この度、東京借地借家人組合連合会及び東借連常任弁護団の編著にて、旬報社より「更新料解決マニュアル〜その更新料払う必要ありません〜」(価格一二〇〇円)が発刊になりました。

 昨年七月一五日、更新料の支払を有効とする最高裁判決が出て以降、更新料の支払に関する誤った見解(更新料は支払わなければならないもの)が、一般市民だけでなく、弁護士の中にも広まっているように思われます。また、これは以前からの流れでもありますが、和解交渉の過程で、裁判官・調停員から強烈に更新料の支払いを求められる場合もあります。

 このマニュアルは、上記最高裁判決も考慮にいれつつ、原則として更新料は払わなくていいというスタンスから、更新料を請求された場合や更新料不払いを理由に解除を主張された場合等につき、平易な言葉でまとめました。

 基本的に、法律家より一般市民向けに作成した書籍ですが、借地借家紛争に不慣れな方や直近の情報に疎くなっている方にもお勧めの一冊です。

 是非、ご購読下さい!