<<目次へ 団通信1434号(11月11日)
久保木亮介 | 南相馬での東電説明会と集団訴訟の訴え |
吉田 悌一郎 | 自治体が主導する震災復興事業について 〜岩手県大船渡市の場合 |
守川 幸男 | 脱原発基本法案についての意見 ―「脱原発」「原発ゼロ」の定義が出発点 |
広田 次男 | 原発被害地からのお願い |
鈴木 亜英 | ナショナルロイヤーズギルド総会 研究集会「社会権規約を国内で活用する戦略」を考える |
鈴木 麗加 | NLGパサディナ総会、二つのワークショップに参加して |
板井 優 | 「川辺川ダム中止と五木村の未来」の公刊にあたって |
川口 創 | 内藤功弁護士の「憲法九条裁判闘争史」が出版される |
高橋 謙一 | 馬奈木昭雄弁護士古希記念出版 『勝つまでたたかう』のご紹介 |
市民問題委員会 | 「債権法改正問題のスケジュールについて」 |
労働問題委員会 | 労働者派遣法と有期労働契約法の抜本的再改正をめざす全国会議のお知らせ 〜どうみるか、どう使うか、どう変えるか。〜 |
東京支部 久 保 木 亮 介
一〇月二七日、「原発事故の完全賠償をさせる南相馬の会」(今年七月に結成)が、福島県南相馬市内に於いて賠償説明会を開催した。鹿島・原町・小高の各区から約四〇名の会員が参加。会の要請に応え、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団から私が参加した。東京電力からは、福島原子力補償相談室の部長以下七名と代理人弁護士が出席した。
会員には個別に賠償請求している方々も多いが、会として東電を呼んでの説明会は初めてである。東電の被害者切捨ての露骨な態度を、参加会員が実体験する貴重な場となったので紹介したい。
会の要請と東電の回答は、概要以下のとおり。
第一、原発事故を人災と認め汚染の調査と除染の責任を果たせ、との要請。回答は、津波対策に不十分な点があったと述べるのみで、「人災」とは頑として口にせず。除染は、放射性物質汚染対処特別措置法により除染は国と市町村が実施するので、東電はそれに協力する立場、との回答。特措法で国が仕切ることになったのだから、と他人事の様な口ぶりが顕著であった。
私から、国会事故調も出ているのに未だ津波原因説に固執し、防潮堤を高くすれば再発は防げるかのように述べることの無責任さを、強く指摘した。会場からは、原町区の旧緊急時避難準備区域(昨年九月解除)や、鹿島区の三〇km圏外地域でも、未だ高い放射線量の箇所がある、との訴えが次々なされた。
第二、金銭賠償について。回答は、「中間指針を踏まえ」「相当因果関係が認められる損害について」適切に対応してゆく、というもの。とりわけ、避難に伴う生活費増加分は原則的に精神的損害の賠償額に含まれるとの点が強調された(中間指針第三、「六 精神的損害」の指針II)。
中間指針は賠償の最低限を定めたものに過ぎないとの会の主張に対し、東電代理人は「そうは考えない。合理的な賠償の範囲を示したものだ」と明言。会場から怒りの声が上がった。
第三、原発からの距離や期間により賠償についての線引きをするな、との要請。回答は、多くの被害者がいるので「中間指針を踏まえて」対応することが「迅速かつ公正な賠償につながる」。中間指針や追補が避難等対象区域により線引きして基準を作っているのだから、原則としてそれを超えて支払うつもりはない、というのである。
例えば市内北部に位置する鹿島区は、一部を除いて福島第一原発三〇km圏外にあり、旧緊急時避難準備区域に入らない。東電は、旧緊急時避難準備区域の滞在者や帰還者については今年の二月二九日まで慰謝料月一〇万円を支払うとするが、鹿島区は同じ南相馬市でありながら、原町区や小高区と異なり、平成二三年九月末までしか慰謝料支払いの対象とならない(八月一三日東電プレスリリース「旧緊急時避難準備区域等における精神的損害に係る賠償について」)。
鹿島区の参加者から、「原発事故が起こり市長の指示に基づき避難をした。帰還した後の不安も続いているのに、同じ南相馬で、なぜ私たちだけ慰謝料支払いの対象にならないのか。」との声が次々上がったが、東電は「一定の範囲内で区別せざるを得ない」の一点張りであり、参加者の怒りの発言が相次いだ。
東電退席後、参加者に弁護団作成のリーフレット「私たちが取り戻したいのはもとどおりの生活」を配布し、現在準備している集団訴訟の説明を行った。
(1)東電の無反省と切り捨て姿勢の背景には、加害者である国の法的責任があいまいにされているという問題がある。
(2)放射能で汚染されていない環境で生活する権利が侵害されている点で滞在者・避難者は共通している。数千規模の原告団を結成して、原状回復とそれまでの慰謝料請求を内容とする、国と東電相手の大きな裁判に取り組みたい。そうしてこそ、汚染調査や除染、健康手帳交付など政策的要求も実現できる。
(3)一一月二〇日に東電・経産省交渉の後、議員会館内で原告準備会を行うので、ぜひ会からも参加されたい。
弁護団から以上の内容を訴え、会として検討することを確認して、終了した。
県内外の被害者、避難者の会においても、東電に面と向かって自分たちの要求を踏みにじられる実体験を通じ、被害者間のより広い共同の必要性と、国の責任をも追及しなければ事態は打開されないことについての認識が広がっている。
弁護団は、引き続き集団訴訟の主体づくりを急速に進めるため奮闘する決意である。
東京支部 吉 田 悌 一 郎
一 あの三・一一から約一年七ヶ月が経過し、各被災地現場では、被災自治体が主導して、高台移転等の復興事業が計画され、動き出している。本稿では、私がこの間通っている岩手県大船渡市の復興事業を取り上げ、同時に震災法律相談活動を通じて見聞きしたこの事業に関係する問題点を簡単に整理してみたい。
二 大船渡市は岩手県の南部に位置する沿岸部地域で、人口は約四万人、震災及び津波による死者は三四〇人、行方不明者は八〇人、建物被害は五五二六世帯(全壊二七八七、大規模半壊四二八、半壊七一八、一部損壊一五九三)である(大船渡市HP、平成二四年九月三〇日現在)。津波により、JR大船渡駅周辺の中心市街地が甚大な津波被害を受けた。
三 大船渡市災害復興局は、平成二四年七月、大船渡駅周辺の土地区画整理事業の概要を発表した。それによると、まず沿岸部の防潮堤や湾口防波堤の整備を行うと同時に、施行区域を約五メートル嵩上げし、JR大船渡線(現在不通)の線路を挟んで山側の地域を土地区画整理事業対象区域、海側の地域を防災集団移転促進事業対象地域とする。
山側の土地区画整理事業対象地域は引き続き居住区域となり、対象地域の権利者は、原則として現位置やその付近で住宅再建が可能である。ただし、不正形な土地の整備や公共用地の整備のための換地や減歩が行われる。
一方、海側の防災集団移転促進事業対象地域は非居住区域となり、対象地域の権利者は原則として現位置での住宅再建ができなくなる。土地は大船渡市によって買い取られることになる。その場合、換地により居住区域への移転を行うか、自力で他の地域での住宅再建を行うか、自力再建が困難な場合には、この事業計画によって整備予定の災害公営住宅へ入居するかを選択することになる。災害公営住宅は、大船渡市が住宅の確保ができない被災者のために整備することとなっているが、現時点ではこの大船渡駅周辺(市中心街)への建設予定はないとのことである。
この事業計画は、平成二四年一〇月二九日に都市計画決定を受け(大船渡市HP)、現在この地域は、都市計画法五三条の規定に基づき建物の建築が制限されている。事業は、平成二六年度に着工予定とのことである。
四 他方で、震災・津波で自宅を失った多くの被災者は、現在も市内約四〇カ所に建設された応急仮設住宅(約二〇〇〇戸弱)や雇用促進住宅(市内二カ所、約一二〇戸)での生活を余儀なくされている。仮設住宅の入居期限は現在のところ概ね二年から三年とされており、さりとて上記のように事業対象地域は建物の建築制限がかけられているため、自宅の再建もままならない。
私が相談を受けたAさんは、津波によって自宅が全壊した。しかし、住宅ローン他の負債を抱えている。Aさんの所有地は、上記でいう海側の防災集団移転促進事業対象地域である。大船渡駅周辺の中心街は震災前、海側の地域の方が栄えていて、地価も高かった。ところが震災が起き、上記の事業では非居住区域となってしまった。今後市による土地の買い取りがなされる予定はあるものの、その時期の見通しがまったく立たない上、具体的な買い取り金額もおそらく極めて低額になることが予想される。Aさんは、震災前の地価が維持されていれば、土地を売却して借金の大半を返済することができたのにと憤っていた。同時にAさんは、山側の地域の所有者との間の不公平感(居住できるか否かや今後の土地の価格などについて)を感じている。
もう一人のBさんは、自宅がAさんとは逆に山側の土地区画整理事業対象地域にあったが、建物は全壊した。Bさんの所有地は、上記のように居住可能区域ではあるものの、嵩上げ事業の完了ははるか数年先の予定であり、それまでは自宅再建の目途はまったく立たない。また当該所有地を処分し、そのお金で他の地域に自宅を再建することもできない。
五 多くの被災者は、震災によって家族を失い、家を失い、仕事を失い、そして長引く仮設住宅等での避難生活の中で生活にも困窮している。言うまでもなく、災害復興事業はその土地で暮らす被災者のためになるものでなければならない。復興事業によって被災者の生活困窮に拍車がかかるようなことがあっては本末転倒である。
たとえば、上記の事業に即して言うなら、防災集団移転促進事業対象地域の権利者に対する土地の買い取り(補償)についての見通しを速やかに行うべきである。そして、買い取り(補償)は、従前の地価などを考慮し、被災者の生活再建に資する適正な価格によってなされるべきである。
また、災害公営住宅の整備も早急に行うべきである。この点に関して、平成二四年一一月一日付毎日新聞東京朝刊で、大船渡市が平成二四年一二月初旬に完成予定の災害公営住宅について入居者を募ったところ、四四戸の枠に対して応募はわずか六件であったとの報道がなされた。これは旧雇用促進住宅二棟を市が購入して改修工事を行ったもので、3LDKの間取りで賃料月額一万八〇〇〇円から三万五〇〇〇円程度(収入に応じる)という。応募が少なかった理由として、建物が築二八年と古いこと、五階建てでエレベーターがないこと、賃料がかからない仮設住宅にまだ住めることなどが考えられるという。災害公営住宅の整備にあたっては、被災者の生活や住居としての最低限の利便性などに配慮がなされるべきである。
その上で、事業内容の詳細や今後の見通し、具体的なスケジュールなどを含めて市民に対する情報公開も欠かせない。
同時に、海側の地域と山側の地域の公平を保つ配慮も必要であろう。上記のAさんのように、この問題は放置すると被災者同士や地域の分断・対立に繋がりかねないように思われる。
そして、復興事業全体が、地元の住民(被災者)の意思を反映した民主的な手続で進められるべきであることもこれまた当然である。
千葉支部 守 川 幸 男
一 はじめに ―法案の提出
二〇一二年九月七日、脱原発法制定全国ネットワークが作った頭書の法案が国会に提出された。このネットワークの代表世話人は、大江健三郎、内橋克人、鎌田慧、坂本龍一の各氏のほか、弁護士の河合弘之、小野寺利孝、宇都宮健児の各氏などであり、海渡雄一弁護士が事務局長である。
二 法案の内容と問題点
法案の第三条の(基本理念)の一項では「脱原発は、遅くとも、平成三二年から三七年までのできる限り早い三月一一日までに実現されなければならない。」とされている。
(1) 「脱原発」「原発ゼロ」の定義は単純明快に
法案第二条の(定義)の一項は、「この法律において、『脱原発』とは、原子力発電を利用しなくなることに伴う各般の課題への適確(ママ)な対応を図りつつ、原子力発電を利用せずに電気を安定的に供給する体制を確立することをいう。」とされている。
しかし、これは抽象的でわかりにくい。特に「体制を確立」とは何であろうか。
法案第一条(目的)では、「脱原発について、基本理念を定め、」「脱原発のための施策に関する基本的な計画について定めることにより、できる限り早期に脱原発の実現を図り」とされ、また、第八条(脱原発基本計画)の二項では、脱原発基本計画で定める事項として一一項目掲げられているが、これとの関係はどうなるのであろうか。基本計画の策定があってはじめて「脱原発」ということになるのであろうか。
私は一〇月の自由法曹団焼津総会の第一分散会でも発言したが、定義は単純明快にすべきだと思う。すなわち、客観的なすべての原発の稼働ゼロ状態と政治決断(原発を稼働させず廃炉にする方針の確立と再生可能エネルギーへの抜本的転換)が「脱原発」「原発ゼロ」ということでよいのではないだろうか。そうなら、あれこれの計画や手続、廃炉に至る過程などややこしいことを考えずに「即時」と主張することの実現可能性が裏づけられる。
原発をなくす全国連絡会とふくしま復興共同センターが「『原発ゼロ』へ 政府の決断を求めます」として進めている、全国紙と福島二紙の意見広告運動の呼びかけ文の末尾も、「エネルギーの中心を今すぐ自然再生可能エネルギーに切り替え、『原発ゼロ』へ、政府の決断を求めましょう。」となっており、おそらく同じ立場だと思われる。
しかし、法案だと「脱原発」と「原発ゼロ」とは違う概念になるのであろうか。私はこの二つは同じ概念と思っていた。問題は、この概念ないし定義をどう考えるかと、「即時」か八年後ないし一三年後のいずれを選択するかである。
(2) 運転やその再開を認めるのか
第三条(基本理念)の四項は、「脱原発を実現するに際し、発電の用に供する原子炉は、その運転を廃止するまでの間においても、最新の科学的知見に基づいて定められる原子炉等による災害の防止のための基準に適合していると認められた後でなければ運転(運転の再開も含む。)をしてはならないものとする。」となっている。「運転を廃止」とはいわゆる廃炉のことであろうか。そして、「運転(運転の再開を含む)。」はどう見るのか。最終的な廃止までの間も、安全なら、現に運転している「大飯原発」やその他の原発の運転再開を認めることになるのであろうか。それでよいのだろうか。
三 よく議論を
脱原発の時期については、社民党や民主党の一部議員などの考え方との妥協の産物のようである。国会で成立させるために幅広い党派や議員を結集する、という理由があったのかも知れない。しかし、国民世論の前進という変化のもとで、なおそれでよいのか、よく議論をする必要がある。
この問題は、団内でもまだ議論が始まっていない。ぜひ意見を寄せてほしい。
福島支部 広 田 次 男
一 はじめに
事故後、二回目の正月も間近になってきた被害地の状況を単的に言うと、「ナニヒトツ解決していない。混迷と矛盾が深まる一方で、社会的忘却だけが進んでいる」という事になる。
二 広野町(福島第一原発から約二五キロ南、双葉郡の最南端)の例
昨年一二月、町長が町庁舎を再開し、町民に「故郷に戻って復興に汗を流そう」と呼びかけた。事故前の人口五五〇〇人のうち、呼びかけに応じたのは二〇〇人程度である。今年八月末の町立小中学校の再開を宣言したが、それでも町民は帰らなかった。正確には帰れなかった。新聞発表される放射線量の数値を信じられないからである。事実、発表される線量よりは、各人居住地で実際に測定される線量が遙かに高いのである。
東電は今年九月まで広野町民に支給していた「慰謝料」という名目の生活費の支給を停止した。帰らない町民への兵糧攻をしても、帰町した町民は全人口の五%と言われている。
川内村も同様な展開であり、楢葉町がこれに続こうとしている。
三 予想される東電の戦略
上記の自治体方針とタイアップして、生活の全てと展望を失った被害者に対して、「人参をブラ下げる」ようにして、東電規準による低額最終和解を迫る事は目に見えている。「正月も近いですから」「復興に国も町も協力しますから」「金の亡者になっている訳ではないでしょうヨ」そんな台詞を使って、圧倒的多数の被害者をローラー作戦で潰しにかかる事は必定である。
草深い福島に住む人々が、これらの言葉に弱い事を東電は充分に承知している。大多数の被害者と東電規準の最終和解を締結し、これに抗う人々を零にはできないにしても、圧倒的少数者に追い込み、抗う人々に対しては「偏屈な人」できれば「アカ」のレッテルを貼る事を狙っていると思われる。
四 今、必要なのは対抗軸を掲げる事
これに対し今すぐに「国と東電の言う事に抵抗する人々も多数存在する」という旗を高々と掲げる事が求められている。福島県浜通り地方(太平洋沿岸地域)では、避難指示区域からの避難者約一〇〇人が年の内提訴を目指している。避難指示区域外の居住者約二〇〇〇人が来年三月を目標に提訴の準備に入った。即ち、約二一〇〇人の人々が東電に対しての抵抗の旗を掲げ、多数派の結集を目指している。福島県中通り地方(福島、二本松、郡山、白河などの諸都市の存在する地域)でも提訴の準備が進む。
五 しかるに斗う弁護士が絶対的に不足している
浜通でも中通りでも現場で被害者に寄り添い、東電に対する反旗を被害者と共に支えようとする弁護士が圧倒的に不足している。
原発事故という未曽有の公害に対して、地域の人権を守るために立ち上がった人々が存在するにも拘わらず、これを支える弁護士不足のために、その志を挫いてしまうとすれば、自由法曹団の鼎の軽重が問われる事になるだろう。
原発公害の現場で斗い抜く事こそ、自由法曹団の魂と根性を鍛え抜く事に外ならないのではないか。
是非多くの団員が、現場弁護士に参加する事を重ねて要請する。
追)私は一〇月総会で上記趣旨を全体会で発言するため、発言通知書を二回書き、口頭申入を一回行いましたが、私の全体会での発言は認められませんでした。そこで「団のなかでの風化」を危惧しこの投稿となりました。
二〇一二年一〇月二六日
東京支部 鈴 木 亜 英
全米を席巻したオキュパイ九九%運動は、行き過ぎた市場原理主義とグローバル化がもたらす不平等分配など、アメリカ社会に様々な課題を提起した。不定期仕事と低賃金、抵当権の実行と強制追い出し、そしてホームレス。人々がこうした状況に追い込まれるアメリカ社会において、すまいや仕事、食べ物にありつく権利を脅かされた人々の群れは日本の比ではない。貧困の問題に法的援助が必要なことは云うまでもない。しかし、アメリカの国内法だけでは十分な対応は望めないことは誰もが分かっている。今こそ経済的、社会的、文化的権利が語られるべきときである。とりわけ国際人権規約のひとつ、いわゆる社会権規約といった国際人権基準を活用するための戦略とメカニズムを学び、国内で活用することが必要だというのが標題の分科会だ。私たちはこれに参加し、この問題の実践者たちのはなしを聞くことができた。モデレーターもプレゼンターも五人はすべて女性という構成であった。
ところでアメリカは日本が一九七九年に批准したこの社会権規約を未だに批准していない。アメリカは国際人権条約について、伝統的に腰の引けた国だ。改めて調べてみたら、批准しているのは自由権規約、人種差別撤廃条約、拷問禁止条約の三条約だけで、社会権規約をはじめ、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約など主要な人権条約をほとんど批准していない。分科会でも度々問題になったのが、アメリカの「例外主義」(exceptionalism)だ。アメリカ合衆国は他の先進国とは質的に異なっているという信念からピューリタン革命以来二〇〇年余りにわたる歴史のなかで培われてきた概念であるが、これが国際法の分野においては、アメリカの利益に供する場合を除いて、それに縛られるべきではないという信念となって表れる。こうした外交姿勢は、アメリカ南部諸州が連邦政府のリベラルな路線に反対し、圧力をかけてきたという国内事情によっても後押しされている。
こうしたことが今日ではアメリカの社会的諸矛盾を解決するブレーキにもなっている。
批准はしていないものの、この世界基準をどう国内に持ち込むか。これが分科会のテーマであるが、議論を要約するとこうだ。まず、社会権の実現は政府の責任であることが強調され、社会権規約がカバーする、雇用、教育、医療、健康、福祉といった幅広いフィールドで、社会権規約の先進的な原理を国内法の解釈のなかに取り込み、全米の法廷で旺盛にこれを主張し、展開すること。云うまでもなくアメリカはコモンロー法体系の国であり、国際慣習法も重要な法源のひとつである。次に、批准はしていないがゆえに、即国内法化しているとは云えないこの社会権規約の精神や原理を取り込んだ主張を裁判官に解釈させ、前進した判断を勝ち取る、第三に、この問題のために構築されたネットワークを通じて有用な判例を集約し蓄積して、さらにこれを活用することだという。社会権にかかる問題解決をこうした方法を用いてレベルアップしてゆくことが戦略だというのである。
かねてからネットワークをつくり系統的にこの戦略を組織してきたコロンビア大ロースクールの人権研究所(HRI)のリサ・カウフマンさんの話は、すでに社会権規約のカウンターレポートなどを提出してこの規約の先駆性を多少なりとも知っている私たちには、“基礎的な”講義に聞こえたが、聞いているうちに、底の浅いものではないことに気づかされた。
日本は社会権規約を批准してすでに三三年が経つ。費やされた時間からみれば、この規約の内容と精神が十分活用され、国内的に定着していて良い筈である。しかし、実態は程遠いものがある。批准していない国の法律家のこうした真剣な模索と継続した努力と比較して、批准している国の法律家の怠惰と安住は、やはり猛省させられる。新自由主義に侵され、セーフティネットもままならないアメリカにおいて、ピープルズロイヤーの真面目な議論はやはり学ぶべきものがあるというのが、この研究集会に参加した私たちの率直な感想である。
東京支部 鈴 木 麗 加
一〇月一一日、一〇月一二日とパサディナで行われたNLG総会に出席した。
私が出席したワークショップは二つ。一つめは「国家権力による人権侵害とどう闘うか。セクション1983をつかい国賠事件を成功に導く」という題名で、要するに、警察相手の国賠訴訟についてのワークショップだった。「アメリカでも警察の国賠あるんだな」と少し意外だった。というのも、私が担当している薬害イレッサ事件の関係でアメリカの薬害訴訟について調べていると、製薬会社を被告にしても、FDAを被告にした事件が見あたらなかった。国には懲罰的賠償の適用がないから、国賠はやらないのかと勝手に思っていたのだ。セクション1983というのは、後で調べたら「USC section 1983」のことで、アメリカ人あるいはアメリカにおける人権侵害が起きた場合の法律らしい。まあアメリカ法は判らないが、ワークショップの中身は、要するに事件の話であり、法律は判らなくても興味深い内容だった。
ワークショップのプレゼンターは二人の弁護士。現在はプエルトリコで開業しているジュディス・バーキンさんとロスで弁護士をやっているというサム・パズさん。パズさんは、警察による違法な監視によって人権侵害を受けたケースや誤射死亡事件、拘禁施設における適切な治療がなされず死亡した事件など数多くの警察相手の国賠事件で勝利している。バーキンさんはロースクールでも教えているということで、ワークショップの内容は、訴状やディスカバリーの手続きのときの申立書などを使いながら、二人のプレゼンターが説明し、質問に答えるという形式だった。
警察から開示された資料が一部非開示であり、非開示部分について秘匿条項に署名を求められることがあるらしく、このような場合、開示されるのであれば、署名をしても資料を入手したいという誘惑に駆られるがどう思うかとの会場質問があった。二人のプレゼンターが口をそろえて、非開示には徹底的に闘わないとダメ、闘うことが大切と言い、質問者がため息をつきながら「やっぱりそうだよね」と答えたのがちょっとおもしろかった。
講演の途中、パズさんは、たびたび書式番号を引用する。たとえば、preliminary discoveryのあとの修正後の訴状は資料二というように。その都度、参加者は配布物を探すのだが、今回は、グリーンポリシーが採用されており、配布物はなし。全ての資料はNLGのウェブに掲載されているという。
帰国後メールチェックしたら、ちょうど日本を発った日にNLGからメールが来ているのを発見した。遅ればせながら中身をみたら、パスワードが送られており、警察のワークショップの資料にアクセスしたら、三〇〇ページもの資料集となっていた。たぶん事前に読んでいたらもっとおもしろかったかもしれないが、何しろ大部である。ほかのワークショップやパネルの資料も膨大で、全てウェブにある。なるほど全て印刷して配布していたら、紙代だけで大変だろう。
二つ目のワークショップは「ワークバランス」。要するに、事務所経営と人権問題を両方やるのは大変で、どうやって人生のバランスを保つかという問題提起で、一人開業弁護士や何人かでやっている弁護士、ロースクール生も参加していた。幾重も円陣を組むよう椅子が並べられていて、真ん中には空いた椅子が一つ置いてある。メインスピーカたちが話している途中でも発言したいなら、この椅子に座って発言してということで、実際に何人も座って自分の主張を述べ、メインスピーカも交えて議論が発展していく。「精神のバランスを保つためにはヨガをやっているけどいいわよ」「いやジョギングもいいよ」などと、はっきりいってまとまりがないが、そもそもテーマが難しいので、どちらかというと言いっぱなしに近く、それぞれが示唆をもらっていけばよいという雰囲気だった。おもしろかったのが、システムエンジニアの男性がメインスピーカに混じっていて、NLG会員のために、仕事を効率的にするためのパソコンソフトの使用方法を教えていたこと。また、アメリカらしく、ゲイの弁護士や最近養子をもらったという六〇代の女性弁護士などから、家族の多様な在り方についても発言があった。中身もさることながら、議論の方法や雰囲気もおもしろいワークショップだった。
どうやら来年のNLG総会はプエルトリコらしい。上記のプエルトリコのバーキン弁護士はお孫さんが長崎の佐世保にいるということで、来年五月ころに来日するから連絡するわと言っており、もし来日が実現したらもっと国賠のことを聞きたいなと思っている。
今回、鈴木亜英弁護士(「月刊むし」を数冊携行)と尾林弁護士(時刻表マニアと判明)と一緒に参加した。三人とも驚くほどのマイペースぶりなので、大変気楽だった。いろいろ珍エピソードもあるが、字数が足りないのでこのくらいにしておきます。
熊本支部 板 井 優
動き出したダム中止への道
二〇一二年三月一三日、野田佳彦内閣は「ダム事業の廃止等に伴う地域振興に関する特別措置法」(いわゆるダム中止特別措置法)案を閣議決定し、国会に上程した。
そもそもこの法案は、国土交通省が起案したもので、民主党内部において了承され、上程ということになった。
この法案は、大きくいって二つの側面を持っている。
一つは、この法案が国会で可決成立すれば、住民の闘い如何によっては全国で建設中にして水没していないダムの廃止を実現することができるということである。
二つは、この法案が水没予定地であった熊本県五木村をモデルにして作られたというところからして、ダム建設を法的に中止する上でいよいよ最終コーナーを曲がったということであり、何より公共事業を止める重要な法律である。
法的にダム中止を求める闘い
二〇一一年八月二八日、熊本県球磨郡五木村で第一五回川辺川現地調査シンポジウム「ダムによらない五木村の再生を目指して」が開催された。
このシンポジウムは、私が基調報告を行い、和田拓也、五木村村長、藤田恵旧木頭村村長(現徳島県那賀郡那賀町)、中島煕八郎熊本県立大学教授がシンポジストとして参加した。司会は、中島康「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」代表である。
私たちがこのシンポジウムを行ったのは、いわゆるダム中止特措法の成立を目指したからに他ならない。
二〇〇九年九月一七日、成立したばかりの鳩山由紀夫首相と前原誠司国土交通大臣(当時)は、川辺川ダム(熊本県球磨郡五木村・相良村)と八ッ場ダム(群馬県吾妻郡長野原町)の中止を明言した。
しかし、これは法的な意味ではなく、政治的な宣言にすぎなかった。その後、前原国交大臣は、同年九月二六日、川辺川ダム予定地(相良村四浦)を視察したうえで、五木村民に謝罪し、その後開かれた意見交換会で、川辺川ダム中止時の補償について新法を作ると表明した。
しかしながら、その後、民主党連立政権は、新法を作ることを先延ばしにし、八ッ場ダム建設中止を撤回する発言を行うようになる。
こうした事態の中で、私たちは、五木村の方々と力を合わせてシンポジウムを行い、その成果をブックレットとして出版することとした。これが、ブックレット「川辺川現地調査報告 五木村」(花伝社)である。
民主党内での政治力学とダム中止特措法
ところで、国交省は、二〇〇八年九月一一日の川辺川ダム反対の蒲島郁夫熊本県知事発言を受けて、「ダムによらない球磨川水系の治水を検討する場」の開催を余儀なくされた。そして、二〇一一年一二月二一日、『検討する場』実務者レベル第二回幹事会で、国交省九州地方整備局の報告では、「遊水地のなどを導入する案を本年度中に取り纏め」「取りまとめ案を三〇年程度の治水策を盛り込む『河川整備計画』の原案に反映、一二年度中に計画策定」と、ダムによらない治水へと具体的に方向転換をした。
そして、民主党は、二〇一一年一二月二四日、八ッ場ダム建設の予算化と同時に五木村の生活再建をモデルにした法案を次期国会に提出すると言明した。
これを受けて、私たちは、熊本県人吉市(青井人神社参集殿)で開かれたダム関係団体の新年会で次の方向を確認した。
(1)国のダム水没予定地の生活再建を支援する法案の国会提出・成立を勝ち取ること
(2)全国のダムの建設事業の中止を求めていくこと
そして、二〇一二年三月一三日、ダム中止特措法は国会に上程されたのである。
八ッ場ダム建設計画も対象に!
二〇一二年六月五日、私たちは、全国公害被害者総行動の一環として、国土交通省と交渉を行った。その際、国交省の担当者は、法案がすでに上程されており、法案の廃ダムの対象に八ッ場ダム建設計画も含まれることを認めた。
これは貴重なことである。こうして、ダムの中止を巡っては、ダム中止特措法を早期に成立させ、これを武器に住民の力でダムの中止を実現していくことが現実的な課題になりつつある。
ダム中止特措法案の問題点と課題
いわゆるダム中止特措法は、国営ダム、水資源公団ダムを対象とし、かつ計画はしたが完成していないこと(水没していないこと)が要件になっている。現実に問題になるのは、水没予定地として用地買収した土地で、これを出捐した自治体や買収された関係者に戻すことを主な骨子としている。脱ダムに至る道筋は、河川整備計画にダム計画を作ることを記載しない形で計画変更をするとしている。
この点を取り上げて、整備計画の前提になる河川整備基本方針の廃棄まで論及する運動体もある。しかしこれは、ダム問題の解決には必ずしもつながらないことを指摘しておきたい。
脱ダムを具体的に追求する闘いの必要性
問題は、われわれに闘う力があるのかという点である。
ダムを作られて困るのはその地域である。まさに、その地域の住民に闘う力があるのかどうかである。その意味では、被害を受けた人たちに、なにが被害なのかを明確にし、闘う力を蓄積させるのが闘いに加わった者の責任である。
どうすれば、勝てるのか
今、川辺川(球磨川)ではまさに流域住人の闘いが国を追い詰めてきた。手前味噌ではあるが、その闘いの成果に謙虚に学ぶことが、ダムをめぐる闘いでは必要ではないだろうか。そして、ダム中止特措法を一日でも早く国会で成立させることが必要ではないであろうか。その力で八ッ場ダム建設を中止させることは十分に可能ではないだろうか。
今、熊本では、熊本市を流れる白川(しらかわ)の上流にある立野ダム建設計画を問題にしている。これをダム中止特措法が成立した時の次の対象にしているのである。
闘う力は、地元流域住民の中にあり、これをどうやって引出して闘うかが、問われている。住民こそが主人公、住民決定をどうやって実現していくのか、まさにそのことを川辺川の流域住民は示してきた。
ちなみに、今回公刊したブクレットの入手方法は次の通りである。是非ともご購読をお願いしたい。
「川辺川ダム中止と五木村の未来」(子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会編・花伝社)
定価 八〇〇円+税
県民の会:〒八六〇-〇〇七三熊本市西区島崎四-五-一三
共栄書房:〒一〇一-〇〇六五東京都千代田区西神田二-五-一一
出版輸送ビル二階(発売元)
愛知支部 川 口 創
つい先日、かもがわ出版から、内藤功弁護士の「憲法九条裁判闘争史」という本が出版されました。この本は、イラク訴訟弁護団の私川口と中谷雄二弁護士の二人で、内藤弁護士からインタビューをしたものをまとめたものです。
内藤功弁護士の名前を知っている方はもちろんお求めいただきたいですが、仮に内藤功という名前を知らなくとも、砂川、恵庭、長沼、百里という裁判の名前は知っているでしょう。内藤弁護士は、これらの裁判に関わり、最近ではイラク訴訟でも顧問として支えてくださった、まさに戦後憲法九条の裁判をずっとたたかってこられた弁護士です。
この本の紹介として、私が書いた「はじめに」に書いた一文を引用させていただきます。
一人でも多くの方に、読んでいただきたい本です。是非お求め下さい。「かもがわ出版」のHPを開いていただければ、すぐにご注文いただけます。送料は無料です。
※ ※ ※
内藤弁護士から、砂川、恵庭、長沼、百里、そしてイラク訴訟までの闘いの経験を伺い、形にしていきたいと思い、今回の「対談」を思いついた次第です。
私一人では、「対談」相手として能力不足だと思い、名古屋弁護団の理論的な支柱であった中谷弁護士にも声をかけ、二人で内藤弁護士から話を伺う、ということになりました。
当初は、一度合宿をして、二日間くらいで伺う内容を形にしようと考えたのですが、話が盛り上がり、結果的に二回の合宿と、二回の「座談会」の合計四回を行うこととなりました。
内藤弁護士からは、それぞれの闘いの苦悩や高揚感が伝わってきて、毎回興奮しながら聞きました。本当に贅沢な時間を過ごさせていただいたと思います。
ちまたに、「回顧録」が溢れています。人の自慢話ばかりを聞くのは、はっきり言って苦痛です。
しかし、内藤弁護士の話は、常に、その経験を、今、そして将来どう活かすか、という観点を意識して話して下さるので、単なる「回顧録」では決してありません。
むしろ新鮮な思いを持って読むことが出来、自分たちの闘いに活かすことが出来るはずです。
しかも、対談の前に、私の方から、「今回伺いたい柱はこうです」とメモを送らせていただいたりしたのですが、対談の際には項目毎にしっかりと話される内容をご準備された詳細な手控えをお持ちになってお話しいただいていました。
もちろん、雑談じみたところもありますが、そういったところも含めてすべて、伝えるべきことと明確に意識をされる内容を精査されて、正確にお話しを頂きました。
明晰な頭脳と、謙虚なお人柄、そして、何よりもご自身の経験・知見を次に活かそうという意識を持っていただいていることに、ただ頭が下がるばかりです。
二〇一二年九月の時点で、憲法を巡る情勢は極めて危険な状況にあります。改憲論が声高に叫ばれ、集団的自衛権行使を容認する「政治家」の影響力が一気に高まっています。
中国や韓国との領土問題についても、外交努力を怠り、安易に軍事力を容認するような危険な風潮が高まっています。
二〇一二年八月に出された「第三次アーミテージレポート」では、アメリカが日本の自衛隊に対して、世界で米軍と共に戦争できる軍隊になるよう、強く求めています。
日米軍事同盟は今後ますます深化し、近い将来憲法九条の改憲は具体的な政治日程に上がってくる可能性がとても高いと思います。
平和憲法を守り活かそうとすれば、私達は、市民として、法律家として、覚悟を決めて憲法を守り活かす闘いに身を投ずる必要があるでしょう。
その時、新たな深刻な局面だからこそ、戦後の平和憲法を活かそうとしてきた闘いから学ぶことが大事になってくるのではないでしょうか。
その闘いの中で、困難に直面したときにヒントになるような一文が、この本にはきっと書かれていると思います。この本は、憲法を武器に闘う市民、弁護士にとって、バイブルになるものだと思います。
是非、多くの法律家、市民の皆さんに、この本を手にとって頂き、平和訴訟のバトンを受け継ぐ走者になっていただきたい。
心からそう願います。
福岡支部 高 橋 謙 一
一 今年の三月で、福岡県久留米市の久留米第一法律事務所所長馬奈木昭雄弁護士が古希を迎えられ、先日の総会でも表彰されました。
二 馬奈木先生は、皆さんご存知のように、水俣病、予防接種、各種じん肺、炭鉱事故、筑後大堰、税理士会の献金、廃棄物、有明海異変、残留孤児、電磁波、原発等々、実に多種・多彩かつ多数の集団事件・社会問題の解決に、取り組まれてこられました。このような事件に立ち向かう時、馬奈木先生は常に、何が真の解決なのか、そのためにはどのように戦えば良いのか、も追求してきました。そしてその中から、自分なりの「ものの考え方」を確立なさり、しかも今なお、さらに発展させている最中です。この「馬奈木イズム」とも時に称される馬奈木先生の「ものの考え方」は、前記の多数の事件に馬奈木先生が関わる中で、ある時は先輩方から教えられ、ある時には同輩との議論の中で浮かび上がり、またある時には後輩に教えることで整理されながら、日々発展・拡大され、形成されたものです。
三 そのような馬奈木先生の「ものの考え方」をきちんと学ぶことは、若い人にとって勉強になるだけではなく、馬奈木先生同様に自分の「ものの考え方」を確立している方にとっても刺激となるのではないかと、私を含む馬奈木先生の「教え子」たちは思いました。そうすると、重大な人権侵害問題・社会問題に直面した時、馬奈木先生が、あるいは馬奈木先生と一緒に戦った方々(先輩・後輩を問わず)が、何を考え、どのように対処してきたのか、をきちんとまとめて本にすることこそが、馬奈木先生の古希の記念にもっともふさわしいだろうということになりました。
そのような発想・構想に基づき、馬奈木先生と一緒に事件解決に携わった方々に、各人の「ものの考え方」を、いろんな事件を題材にそれぞれの立場から寄稿していただき、このたび、花伝社から、馬奈木昭雄弁護士古希記念誌『勝つまでたたかう』を発刊しました。
四 本記念誌には六〇名を超える方々が寄稿してくださいました。
現団長篠原義仁先生は、過去の三度の「逆流現象」の経験から、現在の四度目の司法反動にどう立ち向かうべきかを考察しています。この点については、大阪の村松昭夫先生も、大阪じん肺アスベスト訴訟を題材に、論じています。
熊本の板井優先生や、元団長の豊田誠先生らは、「何を目指してたたかうのか」という根本問題について、詳しく論じています。
他方、京都の近藤忠孝先生は、イタイイタイ病の戦いを通じて「被害とは何か」「その回復とは何か」を語っています。この「被害をどうとらえるか」については、立命館大学の吉村良一先生も、「包括一律請求」を手がかりにした興味深い論稿を寄せてくれました。学者といえば同大学の松本克美先生もまた、筑豊じん肺やカネミ油症事件を題材に、「時効の起算点」について深い考察を寄せています。水俣協立病院名誉院長の藤野糺先生も水俣病の戦い方を論じています。それ以外にも、京都の中島晃先生、松井繁明元団長、山下潔先生などにも寄稿していただいております。特に山下先生の、水俣1次訴訟現場検証における緊迫感溢れる「器物損壊実行犯の手記」(?)は、「たたかう人」がどうあるべきかを教えてくれると同時に、単純な「読物」としても面白く、私の一押しです。
五 もう少し若いところ(それでも相当なベテランですが)では、じん肺の法理論に関して札幌の伊藤誠一先生や福岡の岩城邦治先生が、その運動に関しては福岡の稲村晴夫先生や小宮学先生が、予防接種訴訟に関しては福岡の上田國廣、田中久敏先生が、有明海問題の運動論に関しては福岡の堀良一先生や民主党(佐賀)の大串博志衆議院議員などが、中国人強制連行については福岡の椛島敏雅先生などが、それぞれ、「どのように解決していくのか」について詳しく論じています。もちろん、馬奈木先生の薫陶を受けた若手も多数寄稿しており、かくいう私も、廃棄物問題について、拙稿を寄せています。
六 このように、本の内容は、「馬奈木先生の思い出」みたいなものは少なく、多くが「いかに戦うか」を論じており、法理論のみならず、法実践にも踏み込んだ内容となっております。従いまして「たたかう人」である限り、弁護士であろうが市民活動家であろうが、男だろうが女だろうが、駆け出しであろうが大家であろうが、どのような方が読んでも、示唆に富んだ有益なものになってい居ると思います。
執筆者多数のため、大部(約五五〇ページ)となり、値段が四二〇〇円(消費税込)となっているのが欠点といえば欠点ですが、決して損はさせない本だと私個人は確信してお勧めします。
ぜひ、ご購入のうえ、ご一読ください。注文は、下記の私の事務所まで、電話、ファックス、メールいずれでもOKです。
〒八三〇-〇〇三二 久留米市東町二五-三-四F
たかはし法律事務所
弁護士 高橋謙一
TEL 〇九四二-三五-一一一二
FAX 〇九四二-三五-一一一三
E-MAIL takahashi-lo@cello.ocn.ne.jp
市 民 問 題 委 員 会
先日一〇月三〇日、団本部にて債権法改正問題の意見交換を行いました。
債権法改正問題については、二〇〇九年一〇月に法務省が法制審議会に債権法改正を諮問し、同年一一月から法制審議会民法部会による議論が行われています。二〇一一年四月法制審議会民法部会により「民法(債権法)改正に関する中間的な論点整理」が公表され、現在「中間試案」の作成に向けた議論がされています。
今後、本年一二月に「中間試案のたたき台」の提示があり、来年三月に「中間試案」の公表がされ、来年四月に同試案に対するパブリックコメントの募集がされる予定になっています(パブコメの締切は五月末予定)。
意見交換の中で、まだ債権法改正問題が団員に周知されていないのではないかという意見がありました。そこで、今後、団通信で、債権法改正で検討されている事項及び具体的事件にどういう影響があり得るかというテーマで連載をしていきたいと思います。
また、弁護団事件など各分野で取り組まれている団員からの意見を引き続き募集しています。FAX(〇三―三八一四―二六二三)や市民問題メールで是非団本部までお寄せ下さい。
労 働 問 題 委 員 会
改正労働者派遣法が二〇一二年一〇月一日から、労働契約法の一部を改正する法律が二〇一三年四月一日から(一部は二〇一二年八月一〇日から)、それぞれ施行されます。
各改正法については、自由法曹団はかねてよりその抜本的再改正の必要性をとなえてきたところですが、これらの具体的な変更点やポイント、予想される諸問題等について、このたびの全国会議で理解を深め、今後の労働事件実務や、真の非正規労働者保護法とするための再改正に向けた活動にはずみをつけるものとするべく、準備を進めています。
会議の最後には、非正規労働者の裁判闘争の現状と課題についても、報告と討論をします。
労働者の雇用と権利を守るため、全国の工夫と経験を持ちよりましょう。
皆さま、奮ってご参加ください!
労働者派遣法と有期労働契約法の抜本的再改正をめざす全国会議
日時 二〇一二年一二月八日(土)一三時〜一七時
場所 団本部
内容 (1)改正労働者派遣法の変更点と諸問題
(2)労働契約法の一部を改正する法律の変更点と諸問題
(3)非正規労働の現場からの報告
(4)非正規労働法制の抜本的再改正に向けた行動提起
(なお、非正規裁判闘争の現状と課題についても報告・討論します。)
※ 会議終了後、懇親会も予定しています