<<目次へ 団通信1455号(6月11日)
渥美 玲子 | *憲法特集* イタリア共和国憲法の修正規定 |
太田 啓子 | 家庭訪問・ママ友学習会の報告 |
守川 幸男 | 参議院選挙で自民党を追い込もう 九六条だけでなく「アベノミクス」も正面から批判しよう |
南雲 芳夫 | 福島原発事故の「被害」と「現地」から国の責任を問う「大衆的裁判闘争」へ |
馬奈木 厳太郎 | 「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟第一回期日にあわせて福島現地調査に参加しよう! |
笹田 参三 | 生活保護制度改悪を許すな |
渥美 玲子 | 福子先生のこと |
牛久保 秀樹 | ILO一二二号雇用政策条約活用の意義 |
労働問題委員会 | 二〇一三・七・五「安倍『雇用改革』を切る!」全国会議への参加のよびかけ |
*憲法特集*
愛知支部 渥 美 玲 子
憲法九六条の改正問題については、日弁連が三月一四日に早々に意見書を出しているが、この意見書の中に「諸外国の憲法との比較」という項目があるので、イタリアについて少し調べてみた。
イタリア共和国憲法における憲法改正関連手続きは、一三八条と一三九条にて規定されており、一応「硬性憲法」に入る訳であるが、憲法の改正に賛成する人は、「硬性憲法をもつ諸外国でも複数回改正しており、イタリアでも過去一六回も改正してきたではないか。だから過去一度も改正されない日本がおかしい」と考えているようである。
そこで、一度イタリア共和国憲法(以下、イタリア憲法という)の修正された条項を検討したいと思う。
イタリア憲法は一九四七年一二月に公布され、一九四八年一月一日に施行された。従って日本の憲法が一九四六年(昭和二一年)に一一月に公布され、翌一九四七年(昭和二二年)五月三日に施行されたという経過に近似している。
一六回の改正は、以下のようである。
一九六三年二月九日 両院の議席配分変更(五六条、五七条)、共和国上院の任期(六〇条)
一九六三年一二月二七日 モリーゼ州の新設に伴う改正(一三一条、五七条)
一九六七年一一月二二日 憲法裁判所の裁判官の任期の短縮(一三五条)
一九八九年一月一六日 大臣の弾劾裁判制度の廃止及び大臣の犯罪の裁判
管轄(九六条、一三四条、一三五条)
一九九一年一一月四日 大統領が解散権を行使できる期間の緩和(八八条)
一九九二年三月六日 大赦及び減刑の法律事項への変更(七九条)
一九九三年一〇月二九日 国会議員の不起訴特権の一部廃止(六八条)
一九九九年一一月二三日 州の自治権強化及び州知事直接選挙の導入(一二一条〜一二三条、一二六条)
二〇〇〇年一月一七日 公正な裁判の確保及び刑事被告人の権利保障(一一一条)
二〇〇一年一月二三日 在外選挙区の設置(四八条)
二〇〇一年一月三一日 在外選挙区で選出された国会議員定数の確定(五六条、五七条)
二〇〇一年一〇月一八日 国と地方の関係の根本的改革(第二部五章)
二〇〇二年一〇月二三日 サヴォイア王家子孫の公民権剥奪及び男系子孫の帰国禁止規定の削除(経過規定)
二〇〇三年五月三〇日 女性の政治参加促進策の合憲化(五一条)
二〇〇七年一〇月二日 死刑廃止導入(二七条)
二〇一二年四月二〇日 憲法への均衡予算原則の導入及び財政権の政府権限強化(八一条、九七条、一一七条、一一九条)
これら一六回の修正の大部分がいわゆる「統治」に関する条項であり、人権に関すると思われるものは、少数であるので簡単に見てみた。
二〇〇一年のイタリア国外にいる選挙人の選挙権に関する規定についてである。実は、このような規定は日本国憲法であれば憲法改正手続きではなく、公職選挙法を改正すれば足りる問題であって、現に一九九八年四月には公職選挙法の第四章の二として追加的に規定され、第三〇条の二以下の条文にて整備された。
さらに二〇〇七年には死刑廃止規定が修正された。これは従来「死刑は、戦時軍法に定められる場合を除くほか、許されない」という規定であったものを、一切の例外を認めない死刑廃止としたものである。イタリアでは一九四七年に死刑が執行された以後は執行はなかったことから、この修正についてはほとんど反対論はなかったと聞く。ところで、刑罰に関しては日本国憲法では第三六条で「公務員による拷問及び残酷な刑罰はこれを禁ずる」と規定されているに過ぎないので、例えばイタリアのように「死刑制度は採用しない」という方向で変更するためには憲法を改正するのではなく、「死刑は残酷な刑罰である」という理由で「刑法」を改正すれば足りることになっている。
二〇〇三年には女性の政治参画についての修正がなされた。これは人権拡充の方向での修正であるが、憲法第三条で「すべての市民は等しく社会的権威を有し、法律の前に平等であり、性、人種、言語、宗教、政治的意見、個人的及び社会的条件によって差別されない」と規定しているので、どのような理由で憲法を改正する必要があったか、私はには分からない。なお、日本国憲法ではすでに第一四条や第二四条があるので、女性の政治参画積極策について憲法を改正する必要はないと思われ、現実に一九九九年には「男女共同参画社会基本法」という法律が不十分ながらも制定・施行されている。
二〇〇〇年には裁判に関する第一一一条が大幅に拡充された。新設された第一項は「裁判は法律に定められた適正手続きにより実現される」という規定であるが、その他の新設された条項は刑事訴訟における被告人の権利保護を目的としている。日本国憲法第三一条では「何人も法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑を科せられない」と規定されているほか、刑事被告人の権利については第三七条や第三八条などで保障されている。
このように見てみると人権に関する修正事項のうち日本の憲法でも改正を要する条項はほとんどないと言えるのではないだろうか。
他方、統治に関する修正を見てみる。
一九六三年の両院の議席配分変更というのは、イタリア憲法では五六条で「下院は六三〇議席」、五七条で「上院で三一五議席」とそれぞれ議員数が規定されているための改正である。日本では両院の議席数は憲法四三条によって「両議院の定数は法律でこれを定める」とされており、公職選挙法第四条で定数が規定されている。従って、定数を変更することは憲法改正事項ではない。
同じく一九六三年のモリーゼ州の新設に伴う改正は、当然と言えば当然の改正だった。なぜならばイタリア憲法第一三一条では共和国を構成する二〇の州のすべての名前が列記されているからである。日本国憲法にはこのような規定は存在しないので、例えば沖縄が返還されて沖縄県になったときも憲法改正手続きはなかった。
二〇一二年の修正は、イタリアが財政危機に陥ったことから、欧州連合の財政基準と合致させるために憲法で規定されている予算や決算の方法を修正したものである。
以上、簡単に概観したが、イタリアで行われた一六回の憲法の改正とは言っても、現在日本で問題になっているような基本的な事柄ではなく、日本人が想像していた事柄と大きく異なっていたことが分かる。
何でも単純に比較して論じることの危険性を感じた。
神奈川支部 太 田 啓 子
私は最近、地域で知り合った個人の方(主にママ友)主催で、一〇〜二〇人くらいの小規模学習会の講師をしており、新しい護憲勢力がここにあるという手応えを感じていますので、報告致します。
そもそものきっかけは、私が、福島第一原発事故による放射能汚染を非常に心配しており、「放射能からこども達を守る会」という保護者の任意のネットワークに参加して、そのなかで地域の保護者(多くは母親)の知り合いが多くできたことでした。
この方々の多くは、三・一一前には政治や社会問題にはそれほど関心をもたず、のんきに暮らしていた、とおっしゃっています。しかし福島第一原発事故についての国の対応を見て、「国ってそういうところなんだ、子どものことを真剣に守ろうとしてくれないんだ」と、国に対するナイーブな信頼が崩れたということのようで、私はこういう「三・一一デビュー」層は、力強い新興護憲層となると確信しています。
三・一一デビュー層はもはや国のことを盲信してはおらず、権力に対する健全な懐疑心というべきものをしっかり抱いています。この方々は、放射能汚染や原発についてほんとうに自分の問題としてとらえ、一所懸命考えているなかで、「放射能のことだけ」、「原発のことだけ」の解決ということはありえないと実感し、社会のその他の問題にも広く目をむけられています。
そんな方々とはきっと、憲法改悪についても問題意識を共有できるだろうと思い、昨年末の衆院選の衝撃の結果が出た直後頃から、「子連れ可、飲食可、授乳可、早退遅刻可、個人のお宅訪問でも少人数でも出張します」と、顔の広そうな方に憲法学習会の宣伝をしていたら、「そういうことだったら参加しやすい」「周りのママ友も誘いやすい」ということで、春先頃から何件かお声掛け頂きました。初回は五月初めに、個人のお宅の広めの和室で、一二人くらいの大人が座って、本当に車座でやりました。レジュメの上をハイハイの幼児が横切っていきました。このあとも五、六件予定しています。
私自身が、家庭の事情で夜や週末の学習会には全く出られないので思いついた方法でもありますが、夜や週末は出られないというのは聞く側も同じ、ということもあるようです。
対象を子育て中の親に限定しているわけではありませんが、実際にはこういう設定だと、小さい子どもがいるような、若め(二〇〜四〇代)の専業主婦層が来やすいようでそういう方が中心です。
少人数なので、色々意見交換、情報交換、感想も聞きやすいのもいいです。トータルの人数は少ないですが、ほぼ一〇〇%、憲法初学者という感じです。
先日の学習会では、二四条に関し、「今、憲法はそもそもこういうもの、と聞いたから、国民の義務が書いてあるのは変なんだ、とわかったけれど、普通はわからないと思う、家族は助け合わなければならないなんて、そうそうそうだよね良いこと書いてあるじゃんと思ってしまうと思う」という感想がありました。
どうしたら、周りの、いまはまだ関心がない人たちに関心を持ってもらえるだろうかという話も、一〇人くらいだと色々話しやすく、「親になったら知っておきたい一般教養講座みたいなシリーズにして、他のテーマもくっつけてやったらどうか」というようなアイディアも出ました。
「皆さんこどもの学校や塾は一生懸命選びますよね、それと同じように、こどもが生きていく社会をどういうものにしたいかできるか、考えないとっていうことですよね」と話したところ、本当にそうだと共感していただきました。
改憲は、若い世代ほど影響が大きいことですし、参院選前に、なんとか少しでも多くの方の関心をほりおこしたいという気持ちです。
千葉支部 守 川 幸 男
先の総選挙で二大政党制が決定的に破綻して「大連立」もままならず、これを補うべく歴史の「予定」を前倒しして鳴りもの入りで登場した第三極も、当初は自民、民主、第三極合計で保守連合全体としては圧倒的となって歴史の「役割」を果たしつつあったものの、最近は橋下暴言もあって落ち目である。
九六条問題も潮目の変化がある。
勝てるたたかいの追撃の手をゆるめてはならない。
しかし、安倍内閣の暴走は破綻しつつもとどまるところを知らない。それは高支持率に支えられているからである。その理由は唯一(と言ってよいかわからないが)「アベノミクス」である。アベノミクスは総選挙前からの支配層の戦略であり、とりあえず成功した。もちろん破綻への道を突き進んでおり、まともに考えれば亡国への道であることはだれでもわかるはずであるが、マスコミの責任もあって、株価が高けりゃ政策が成功している、という雰囲気が蔓延している(もっとも、最近、株価が暴落してこれも潮目の変化の可能性がある)。
この危険性を短いことばでポイントを突いてうまずたゆまず訴えることを呼びかけたい。自民党が参議院選挙で勝ったら、九六条も消費税もT.P.P.も原発もそのほかの悪政強行も続くからである。
そこでまたポエムを紹介する。これは、実は連休前から作っていたが、六月五日に共産党の参議院議員(非改選)の大門実紀史さんをお呼びしての「アベノミクスで景気とくらしはよくなるのか」との講演会の企画で紹介したものである。
アベノミクスで景気冷え
選挙前からアベさんと
投機筋が仕かけたら
あらあらどんどん株上がり
円安どんどん進んだね
賃上げしっかり迫ったら
内閣それはもっともと
大きな企業が少しだけ
上げたら支持率高くなり
世論誘導うまいなあ
アベノミクスでマスコミも
世論善導こそ使命
あおる報道するばかり
輸入製品上がり出し
日常用品値上がりし
格差と貧困広がって
これじゃ景気は冷えていく
投機にゃいずれ反動が
投機筋は売り逃げし
バブルで踊った国民は
株価急落大損か
過去の歴史を学びましょ
景気よくなりゃ消費税
上げるねらいは見え見えで
賢い主権者学びましょ
二〇一三年六月五日
もりかわ うらゝ
埼玉支部 南 雲 芳 夫
【問題のスケールと深さ、そして現在から将来へ】
・「けた違い」の被害の広がり
福島原発事故については「未曾有」という形容がなされることが多い。しかし、単なる言葉で終わらせずに、私たちは、福島原発事故のもつ歴史における重みを、いま一度確認する必要があるのではないか。
産業公害により地域破壊がもたらされた事件として、足尾鉱毒事件がある。旧谷中村は、明治政府によって暴力的に廃村とさせられた。当時の村民は約二七〇〇名。これに対して、現在福島原発事故によって避難を余儀なくされている住民は約一六万人、約六〇倍である。
わが国の産業公害の象徴であり、五〇年以上を経てもいまだ解決していない水俣病。これまでの賠償総額は一五〇〇億円という。これに対して、福島原発事故の賠償額は、本年三月末時点で二兆五〇〇億円であり、一四倍である。これまでの賠償水準が極めて不十分であること、今後、膨大な額に及ぶであろう不動産等の賠償が始まることを考えると、原発事故の賠償額は、これまでの公害事件とは「桁違い」である。
中通りなどのいわゆる自主的避難地域とされている地域やその周辺においては、放射線被曝の恐れに起因する「平穏生活権侵害」及び「自主的避難」の被害が生じており、その被害者は二〇〇万人を超える。被害地域は福島県だけでも一万三七八〇?、日本の国土の三・五%に及ぶ。竹島の比ではない。
・問題の根の深さ・・・・国のあり方にも連なる
原発事故は被害が広範に広がるだけではなく、問題の根が「深い」。想像を絶する被害が発生し事故の収束も図れない状況であるにも関わらず、財界及び自民党等は、脱「脱原発」、原発の再稼働と輸出を公言し、成長戦略の柱にしようとさえしている。原発推進は、財界・政府が一体として進めるエネルギー政策、そして経済政策の根幹をなしており、その背後には軍事的な思惑も存在する。国民の生存と国土の保全という利益と、財界求める経済性(一言いえば「金儲け」だが・・)の対立の根は「深い」。
・時間的なスパン・・・将来に続く歴史的な課題であること
参院選前の現時点では原発も選挙の争点の一つとされている。しかし、この問題は、仮に脱原発の方針をとるとしても、完全な廃炉まで数十年のスパンで議論が必要となる。すぐに脱原発が国の方針とならないとしても、ドイツの例に見られるように、原発とどう向き合うかというテーマは数十年をかけて国民的な議論が続くこととなろう。
原発を巡る闘いは、「広く」、「深く」かつ「長く」続く。
【国を訴える意義はどこにあるのか】
本年三月一一日に千葉(原告二〇名)、東京(同八名)、福島地裁本庁(同八〇〇名)、同いわき支部(同八二二名)において、原発事故に関して四つの訴訟が提起された。その法律構成や原告の数・属性に違いはあるものの、東京電力のみならず国を被告としてその責任を追及している点は共通している。
原発事故による賠償請求、原状回復請求等に際して国を被告とすることには特別の意義がある。なぜなら、表面的な加害者である東電を相手とするだけでは、本当の意味で問題を解決することはできないからである。
第一に、損害賠償に限ってみても、東電は実質的には破綻しているのであり、賠償原資も国が原子力損害賠償機構を通じて負担しているところである。東京電力は、国からの資金交付を理由として、「適正な賠償を行う」と称して被害の切り捨ての口実にしているところである。
第二に、原発事故からの被害救済は、金銭的な賠償にとどまるものではない。公害事件の特質として、地域環境の回復(除染等)、それに基づく生業や人間関係などを含む「地域社会の再生」なども、当然、住民の要求となる。こうした課題は、国家的規模の施策の中でしか実現できないことは明らかであり、国の法的責任に裏打ちされた関与が不可欠である。
第三に、重大な原発事故から引き出すべき最大の教訓は、二度と被害を発生させないということ、すなわち脱原発である。これも国の責任を踏まえて決断されるべきことがらである。
原状の不十分な賠償水準を考えたときには、被害者の被害の救済の観点からは、東京電力に対して被害に見合った十分な賠償を行わせることの意義は極めて大きい。しかし、他方で、原発事故のもつ被害のスケールと、国家のあり方にもかかわるという根の深さ、さらには将来に向けての原発の問題が今後長く取り組むべき課題であることを考えると、視野をより広く持って、国の責任を問うていかなければ、この問題に正しく向き合ったことにはならないのではないか。
定式化していえば、現今の情勢は、「(1)責任の曖昧化、(2)被害の切り捨て、(3)その延長上の原発推進と輸出」であり、すなわち原発事故前の無責任状態の再現の危険があるということである。これに対して、われわれが対置すべきは「(1)国と東電の責任の明確化、(2)被害の完全な賠償と、環境面及び地域社会の原状回復、(3)その延長上としての脱原発」である。国を被告とする裁判の意義は、現在の情勢を転換する突破口とすることにあるのではないか。
【現地との結びつき被害を闘いの軸にすることの意義】
六月以降、前記の四つの訴訟に続いて、各地で避難者を中心とする訴訟の提起が予定されている。その中では、国を被告とする訴訟も多いという。
国を被告とする国家賠償等の裁判闘争は、一般に和解による解決が極めてまれである。まして、原発推進政策という政権の基本政策のあり方を問う訴訟となれば、当然に長期間の裁判闘争が予想されるのであり、「腹をくくって」臨む必要がある。
こうした観点からは、従来の公害裁判闘争の経験などからすれば、次の教訓が再度確認される必要があるのではないか。
第一に、「被害に始まり被害に終わる」という点である。広範かつ多様な被害がある。これを闘いの軸に位置づけることが出発点となる。
第二に、被害者が、裁判闘争を通じて、救済の客体ではなく、闘いの主体・主役へと転換していけるように継続的な援助を行っていく必要があろう。この点は弁護団の果たす役割も大きいはずである。
第三に、現場の重視である。全国に避難している人の被害救済の闘いは、強制的に避難地域とされた福島第一原発の周辺の被害、さらには「低線量」といわれながら被曝による不安に耐える中通りの住民などの被害と結び付くことが必要ではないか。
【核エネルギーからの自由】
われわれは先の大戦の惨禍のなかから、貴重な教訓を引き出し、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」(憲法前文)という規範を打ち立てた。
福島原発の事故を経て、われわれは、「放射性物質によって汚染されていない環境において生活する権利」すなわち「放射線被ばくによる健康影響への恐怖や不安にさらされることなく平穏な生活をする権利」を規範として獲得することを目標とすべきであろう。板井団員のいうところの「原発からの自由」である。
【大衆的裁判闘争の経験を原発の闘いに】
われわれは、大先輩の団員から、「大衆的裁判闘争とは・・・」という話を何度も伺ってきた。「主戦場は法廷の外にあり」という言葉も、証拠によって犯罪事実を認定するという刑事事件において語られたという。
六月二日にはノーニュークス・ディの国会大包囲があり、全国で脱原発の運動が繰り広げられている。原発事故による賠償請求や原状回復請求の闘いは、こうした法廷外の闘いとともに進んで初めて勝利の展望を持ちうるものではないだろうか。
【現地へ】
我々が取り組む「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故(原状回復請求)訴訟(福島地裁本庁)は、七月一六日午後三時から第一回口頭弁論が開かれる。それにあわせて、休日である前日一五日から一六日午前にかけて福島県浜通り(相双地区)における現地被害調査を企画しており、その詳細は、馬奈木団員の別稿のとおりである。原発訴訟に取り組む全国の団員との現地での交流を期待している。
東京支部 馬奈木厳太郎
一 五月集会での提起
さきの五月集会の原発分科会において、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団に属する団員は、次々と発言し、各地の避難者のたたかいが現地福島のたたかいと結びつく必要があること、ともに国を被告とする被害救済の訴訟と原発差止の訴訟が連携し国を追いつめていく流れを構築していくことなどを訴えました。
あわせて、過去の松川事件や水俣病などがそうであったように、現地調査を継続的に行い、被害実態を多くの人々に知ってもらうこと、現地の被害者との交流を通じて取り組みの輪を広げていくことの必要性についても訴えました。
二 七月一五日〜一六日は福島へ
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第一回期日は、七月一六日の午後三時から行われます。
そこで、原告団と弁護団では、第一回期日にあわせて、第一回現地調査を行うことを計画しました。要領は、次のとおりです。
七月一五日(祝)
一〇時〇〇分 福島駅集合 → 南相馬市へ出発
一三時〇〇分〜 南相馬市・浪江町など視察、被害聞き取り
一六時三〇分 南相馬市 → 相馬市へ出発
一九時〇〇分〜 原告団相双支部との懇親会
七月一六日(火)
〇九時〇〇分〜 相馬市・原釜漁港など視察・被害聞き取り
一〇時〇〇分 相馬市 → 伊達市霊山町へ出発
一一時〇〇分〜 霊山町・原木シイタケ農家視察・被害聞き取り
一二時〇〇分 霊山町 → 福島市へ出発
一五時〇〇分〜 第一回期日傍聴・模擬法廷参加
一七時〇〇分〜 報告集会
【宿泊場所】 相馬市内
【参 加 費】 二万円を予定(福島市までの交通費は各自負担)
三 ぜひご参加を
今回の現地調査では、浜通りを中心に多様な被害実態をご覧いただくことを目的としています。いまも避難を余儀なくされている方の住居や、漁業被害、農業被害、事業者の被害などを現地を回り、聞き取りを通じて知っていただけたらと思います。
また、それぞれの訪問先では、原告団のメンバーが「語り部」として被害内容をご紹介するとともに、初日の夜には、原告団との懇親も予定しています。
今回の現地調査は、原告団にも多数参加している民商や農民連の協力を得て実施されるものです。原告団と弁護団は、多くの方の参加を心からお待ちしています。
参加希望の方は、東京合同法律事務所(電話:〇三―三五八六―三六五一)の馬奈木宛てまでご連絡ください。
岐阜支部 笹 田 参 三
一 生活保護法改悪案の情勢が緊迫
昨日五月三一日、衆議院厚生労働委員会において、生活保護法改悪案が強行採決された。与党は、六月四日には衆議院本会議での審議を予定し、今国会中に改悪案の成立をめざしている。
この動きに対し、生活と健康を守る会(以下「生健会」という)を中心として、連日国会前での座り込み、六月五日には「ストップ!生活保護基準引き下げ」アクションが主催する請願、デモが予定されている。
同法案は、口頭による生活保護申請が認められてきた従来の運用に対し、民主党等の修正が加えられたとしても、生活保護申請の書面主義が原則として維持されており、例外の特段の理由に関する判断が行政に任される結果、生活保護申請を抑制する「水際作戦」を許容するものである。
更に、同改悪案は、一 扶養義務者に対する調査権限の強化によって保護開始要件でない扶養義務の履行を事実上強要し、申請抑止につながること、二 同法案と同時に提出された生活困窮者自立支援法によって、生活保護基準を下回る仕事でも「とりあえず就労」を強要し、生活保護からの追い出しと水際作戦に使われる危険性があること等の深刻な改悪内容を持つものであって、廃案とすべき内容である。
新潟湯沢で開催された五月集会では、社会保障審議会の生活保護特別部会の委員でもあった藤田氏を貧困問題分科会の講師としてお招きして、重大な改悪案であって廃案を免れないことを確認した。
緊迫する国会情勢を受けて、自由法曹団貧困問題委員会は、生健会、社会保障推進協議会、民医連に呼びかけて、六月一日に四団体の懇談会を開催した。そこでは、緊迫する国会情勢を踏まえて、幅広い反対運動を展開する方向について協議が行なわれた。当面幅広い共同記者会見等を開くことによって、同法案の白紙撤回、慎重審議を国民世論に訴えて行くことを確認した。
二 生活保護基準引き下げ
生活保護費基準切り下げもそれを実行する予算が五月に成立したことを受けて、厚生労働大臣告示も行なわれ、今年八月から三年間で最大一〇%生活保護費が引き下げられる。
六月一日の四団体の懇談会では、生健会が受給者の生活保護費がどうなるかの計算会で検討し、審査請求を幅広く組織する方針であること、北海道では、一〇〇〇軒、新潟では五〇〇軒の世帯を目標として動いていることが示された。審査請求は、訴訟と直ちに直結するものではなく、政治的な運動として広く展開する位置付けである。その審査請求を各県の生健会が行う際に団及び団員の協力を要請された。同時に、生健会以外にも各県の反貧困ネットワーク等で審査請求をするための働き掛けを求められ、団としても県支部等に要請し、協力していくとの意見を述べた。
尚、二〇一三年六月二日付生活と健康を守る新聞に、生活保護受給額を求める計算式が示されているので参考にされたい。
三 生活保護問題での運動のために
前記のとおり、当面の生活保護法改悪案を許さない国会への要請行動、生活保護基準引き下げの処分に対する審査請求に協力していくことは不可欠である。
第一に、各県の生健会と団支部の協議を行って欲しい。
第二に、その運動を幅広いものとして展開する為に、生活保護改悪案、生活保護基準引き下げの不当性に関する学習会の講師として活動しよう。その資料として、日弁連が作成したパンフレット「Q&A 今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」が参考になる。
第三に、デフレを理由とした大幅な生活保護引き下げが不当なものである。
それが最低賃金や住民税等の非課税限度額に影響するを学習会で旺盛に語ろうではないか。それが、審査請求の運動に大きく寄与すると思う。
四 貧困問題委員会への参加を呼び掛ける
次回団反貧困問題委員会を、二〇一三年六月一五日午後五時から団常任幹事会終了後に開催する予定であり、そこで緊迫する国会情勢への対応、基準切り下げに対する反対運動の方針を検討していきたい。多くの団員の参加を呼びかける。
(二〇一三年六月一日記)
愛知支部 渥 美 玲 子
福子先生に最後にお目にかかったのは、すいれん社の出版物に岡谷鋼機の件を掲載するということで、二〇一〇年二月二四日に名古屋にお越し頂いたときでしたね。一つ一つの裁判資料やチラシを見ながら、みんなで「ああ、あんなこともあったね・・・・」と言って懐かしくおしゃべりをしたときです。本当に岡谷鋼機の女性差別裁判を先生と一緒にすることができて、とても有り難くまた嬉しく思います。
福子先生に最初にお目に掛かったのは、修習生の時でした、前期修習で東京にいたとき、看護婦さんの労働状況などを聞くという企画が、どこかの法律事務所であったので、参加することにしました。時刻より早めに到着すると、部屋には二人の女性が座っていて一人はがっちりしたタイプ、もう一人は小柄なタイプでした。私は「ああ、看護婦さんが患者さんを連れてきて、看護婦の仕事が大変だったというお話をするのかしら」などと勝手に想像していました。ところがこれが大間違い。この小柄な女性こそが福子先生だと紹介され、本当に驚きました。ご免なさいね、福子先生、今白状します。
一九八九年九月から自由法曹団愛知支部の事務局長になった後は、東京での幹事会や総会・五月集会にも参加するようになりました。そのときいつもお見かけするのが福子先生で、女性差別や労基法改悪や均等法など法改正問題についても発言されていました。男性の多い自由法曹団の集会で、凛とした姿勢で発言される福子先生の両性平等における情熱をひしひしと感じました。こんな風に毎回きちんと報告しないと女性差別の問題は山積する諸問題の中に埋もれてしまうと言う危機感をお持ちだったのではないでしょうか。
一九九四年福子先生から突然電話があり、「岡谷鋼機で働く女性二人が裁判を起こすことになった。管轄は名古屋地裁なので名古屋で弁護団を編成して欲しい。そして渥美先生には主任になってもらいたい」とのことでした。実は私はそれまで女性差別裁判を手がけたことはまったくなかったため、もちろん「やる気はあるが、能力と経験が付いてこない」という状態で、これをお引き受けするときには、まさに「清水の舞台から飛び降りる」覚悟が必要でした。福子先生にはお分かりだったと思いますが。その後福子先生からはそれまで先生が手がけてらした訴訟資料が一杯届けられてきました。もしかして先生は私にいろいろ教えるのが楽しかったのでしょうか。だって、そういう資料のことを私に説明してくれるときの福子先生はとても楽しそうで生き生きしていたので・・・。
提訴前には当然愛知の労働運動の活動家や組合の方々に支援要請をしました。しかしいずれも冷たい対応で「傍聴人を集めるって大変なことだよ。解雇問題なら別だけど、そんな大変なことできない」、「二人ともだんなが働いているんだから、賃金差別って言っても生活に困って騒ぐほどのことじゃない」、「裁判なんかよりも職場の労働組合を強くするとか、他にやることがあるはずで、裁判なんて論外」、「弁護士は金が欲しいから裁判を勧めているんだ。」などという発言がありました。私は驚きと怒りで震えそうになりましたが、福子先生は「それは大変ね。でも女性差別の裁判の重要性を彼らは分かっていないのよ。私達は正しいことをしているんだから、このまま進めましょう」という泰然自若のご様子でした。やはり先生の豊富な経験に裏打ちされているのだろうと納得せざるを得ませんでした。むしろ原告予定の女性二人が「支援がない以上、裁判なんてとても無理」と躊躇して迷っていたとき、福子先生は「こんな差別許される?岡谷鋼機の場合は女性差別だってこと、こんなにはっきりしているじゃないの!」と言い、二人の背中を後押ししたのです。というより、こんなことで動揺している私を叱ってくれたのではないかと思いました。
そして提訴後少しずつ支援者は増えて、「岡谷鋼機から差別をなくす会」が結成され、最後に高裁で和解解決ができたときの二〇〇六年五月の和解解決報告集会には、溢れる程の多くの方々が集まって来てくれて一緒に喜んでくれました。こんな楽しい集会をすることができるなんて提訴時に誰が予想することができたでしょう。もしかして福子先生お一人だけが感じていたのでしょうね。こんな風にして福子先生は一一年以上も、雨でも風の日でも名古屋に通って来てくれました。本当に有り難うございました。
それにしても弁護団の打ち合わせは、机の上にはいつもお菓子が一杯で楽しかったし、福子先生から全国の状況や世界の動向などの貴重なお話を名古屋にいてお菓子を食べながら知ることができるなんて、本当に勉強になりました。打ち合わせの後は、みんなで福子先生のお好きなフランス料理でワインをいただきましたね。それに先生の小さい頃のお話や修習生のときのお話、そして修先生のお話など、少し恥ずかしそうになさったときの表情をいまだに忘れることは出来ません。「毎回名古屋に来るのは大変ですよねえ。すみません」と私が言うと、「あら、名古屋は以前から親しみのある土地だし、この弁護団はとても明るくてみんな優しいので、来るのが楽しみなのよ」と却って気を遣ってくれたのも福子先生でした。
どこかでまた一緒にフランス料理とワインを楽しみたいですね。私もいつかそちらに行くと思うので、そのときまで待ってて下さい。
東京支部 牛 久 保 秀 樹
〈重要な雇用政策条約〉
一八九あるILO条約の中で、改めて、一二二号「雇用政策に関する条約」が注視される。
条約は、不完全就業の克服を図り、完全雇用と生産的な雇用の実現を目指して、積極的な政策をとることを政府の義務として定めている。限定社員、派遣労動の規制緩和、解雇の金銭解決等、雇用の不安定化を一層進めようとする安部内閣のもとで、一二二号条約は、一層重要性をましている。
実際に、ジュネーブのILO本部を訪問した際に、ILO担当事務局は、一二二号条約に関わる情報提供を歓迎すること、また、日本航空の整理解雇についても、「一企業の問題であっても、その国の雇用政策全体に関連するとみることができれば、条約上の問題となる」と回答している。
〈日本の非正規雇用に対して勧告〉
一二二号条約について、郵政産業ユニオン、全労連が、ILO条約の適用状況を監視する条約・勧告適用専門家委員会に情報提供した。委員会は、今年、三月、報告を公表して、日本政府に対して、事態の改善に向けた報告を提出するように勧告している。
雇用政策全体について、「震災で影響を受けた人々の雇用に関するデータを含む、経済社会政策の枠組みにおいて完全雇用促進のためにとられた政策の影響」の報告を求めている。
郵政については、郵政の民営化が、「既存の仕事をより不安定な状況にするのではなく生産的な雇用のために」貢献することを求めている。
非正規労働者について、「非正規労働者の生産的で持続的な雇用機会のために具体的に適用」された状況の報告を求めている。
女性労働について、「女性の雇用を促進し、男女の雇用機会確保のためにとられた政策・制度の影響」の報告を求めている。
若年雇用について、「若年労働者に対して生産的で継続的な雇用機会創出のためとられた措置」について、影響を含めて報告を求めている。
高齢者雇用について、「生産的雇用機会促進のためにとられた」とする施策の状況報告を求めている。
〈日本の雇用政策の検証〉
これらの勧告は、我が国の雇用政策全体についてのILOの見解表明である。今後、政府回答がなされる。労働者側からの更なる情報提供がなされる。そのことによって、日本の雇用状況が、ILOから監視されていくこととなる。
ILOは、今、特に若者雇用の充実を求めている。そのようなILOの動向を含めて、ILOとの交流、活用を強めて、この国の労働条件の根本的な変更を実現していきたいものである。
労 働 問 題 委 員 会
安倍首相は、四月二日、厚生労働大臣に対して、「雇用制度改革」について、「雇用支援施策に関して、行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策シフトを具体化すること」等を指示しています。このような考えのもとに、政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)は、六月五日、「雇用制度改革」について答申を出す予定です。この答申を受けて、政府は、六月十四日、「雇用制度改革」を含む成長戦略を閣議決定する予定です。
規制改革会議は、(1)限定正社員制度(勤務地や職種がなくなった場合に解雇を容易にする制度)の創設、(2)企画業務型裁量労働制の対象業務等の拡大、(3)労働者派遣の受入れ期間の制限の撤廃、(4)有料職業紹介事業の要件緩和等を答申する予定と伝えられています。
安倍「雇用改革」のもとでは、解雇規制・労働時間規制・労働者派遣に対する規制等が大幅に緩和され、働くルールが根底から破壊されます。いま、安倍「雇用改革」の全体像をとらえ、安倍「雇用改革」反対の世論を広げることが重要です。
当日は全労連等各界から参加していただきともに研究、討論する予定です。全国の団員・事務局の皆様の多数の参加をよびかけます。
「安倍『雇用改革』を切る!」全国会議
○日 時:二〇一三年七月五日(金)午後一時〜五時
○場 所:自由法曹団本部会議室
○内 容
(1)「規制改革会議の答申」及び「政府の成長戦略の『雇用制度改革』」の報告と討論
(2)安倍「雇用改革」をめぐる情勢と私たちの課題
(3)その他
(全国会議終了後、懇親会を予定しています。多数ご参加下さい。)