<<目次へ 団通信1460号(8月1日)
篠原 義仁 | 暑中お見舞い申し上げます。 |
加藤 修 | 熱血弁護士 仁比さんついに再び国会へ |
大久保 賢一 | 日本政府は核兵器の使用を排除していない ―外務省との意見交換会に参加して― |
田場 暁生 | 新外交イニシアティブ(New Diplomacy Initiative/ND)を設立します |
飯田 美弥子 | みややっこのネタ帳その二(教育) |
上田 月子 | 「安倍『雇用改革』を切る!」全国会議報告 |
中野 和子 | 憲法九条を守る女性アピール五・三意見広告運動 |
団 長 篠 原 義 仁
一 参院選後の臨時国会では、六月二六日閉会で積み残しになった大きな課題が、私たちの前に提起されています。
六月七日、団はマスコミ関係団体と共催して、秘密保全法に反対する院内集会を開催し、内藤功団員を講師にして、「国家安全保障会議」(日本版NSC)の学習会を行いました。
席上、赤嶺政賢議員は、同日午前、安倍内閣が国家安全保障会議設置法の改正案を国会に提出したと緊急報告しました。閉会間際の提出で、法案は継続審議となって現在に至っています。
法案は、昨年七月四日、自民党が野党時代に石破現幹事長中心でまとめた、国家安全保障基本法案の第六条に「安全保障基本計画の策定」をうたい、その具体化のために、別途、安全保障会議設置法の改正を要求したのに対応しています。
同時に、法案は、本年六月四日付の自民党の「新『防衛計画の大綱』策定に係る提言」(自民党提言)が掲げた、(1)「国防軍」の設置を始めとした「憲法改正」、(2)国家安全保障基本法の制定、(3)国家安全保障会議の設置、(4)日米同盟の抜本的強化の観点からの集団的自衛権などの法的基盤の整備、(5)日米ガイドラインの見直し、のうちの(3)に対応しています。
二 改正案の骨子は、「外交政策及び防衛政策の双方の観点から総合的な戦略企画を立案する」としてその目的を拡大し、しかも「四大臣会合」(総理、官房長官、外相、防衛相)を新設し、これを「機動的、定例的」に開催して、国家安全保障に関する外交、防衛政策の司令塔とするものとなっています。 そして、国家安全保障に関する情報、資料を集中、集約して一元的管理をはかり、会議には、統合幕僚長等の制服組を「事務局」的位置づけで置くとしています。
法案には多くの問題が含まれていますが、「四大臣会合」の一点をとってみても、現行憲法が「行政権は、内閣に属する」(六五条)、「内閣は、内閣総理大臣とその他の国務大臣で組織する」(六六条一項。同二項が「文民統制」の規定)と定めていることと明かに牴触します。
次いで、七月一七日、防衛省は、自衛隊の運用について、文官(背広組)からなる内部部局の運用企画局を廃止し、幹部自衛官からなる統合幕僚監部に一元化する方針を固めました。これは、制服組の権限を強化するもので、防衛省は来年度の実施をめざす、としています。
これらを総合して考えると、これは、「戦争のできる国」づくりの一貫としての法「改正」というほかありません。
自民党は今秋の国会で、この法案の成立をめざし、そののち、集団的自衛権に係る解釈改憲を狙いつつ、平行的に秘密保全法の法案を提出(二〇一三・三・三一.安倍政権として「今秋の臨時国会に提出する方針」を表明)し、集団的自衛権の行使を明記した国家安全保障基本法による立法改憲にも突き進もうとしています。
それにつづけて、自民党をはじめとする改憲勢力は、九六条改憲の先行と憲法の全面的「改正」をも狙っています。
ちなみに、内閣法制局は、現行憲法下での集団的自衛権の行使は認められない(憲法九条違反)としていますが、それでも安倍内閣は、内閣法制局を押え込んで強引な解釈で、中国、韓国との領土問題を口実に集団的自衛権の行使を図ろうとし、他方、内閣法制局の壁が厚いと判断した場合には、政府提案の法案は必ず内閣法制局のチェックを受け、そこを通す必要があるものの、議員立法ならば、内閣法制局を通す必要がないとして、抜け道的やり方で集団的自衛権の行使をもり込んだ国家安全保障基本法の制定をはかろうと画策しています。
団は、一月常幹で二〇一三年を「憲法の年」として位置づけ、「九条の会」運動をはじめ憲法運動に全力を尽すことを確認しました。それ以降、従前にも増して、各支部の憲法運動、とりわけ、学習会の開催は、二倍、三倍と拡大し、常幹確認の実践が追及されています。
三 六月二六日、参議院で首相の問責決議が可決され、採決が予定されていた生活保護改悪案は廃案となりました。
二〇一三年度予算の成立によって、生活保護の生活保護基準額は平均六・五%、最大で一〇%引き下げられ、生活保護受給世帯の九六%の受給額が減少すると予想されています。生活保護基準は、最低賃金の指標、国民年金保険料の減免基準、介護保険料・利用料の減額基準、就学援助金の利用基準となり、また、住民税の非課税限度額、医療の自己負担限度額、障害者福祉のサービス料、保育料にも連動します。それは、ひとり生活保護世帯の問題ではなく、国民生活に大きな影響を与えます。
一方、年金は一〇月に一%、来年四月一%、一五年四月に〇・五%、合計二・五%の切下げが予定され、年金生活者に大きな痛手となっています。
さらに、アベノミクスの展開で、円安、株高の一方で(それも、株価は暴落、乱高下)、円安により輸入品は高騰し、石油関連製品、各種食料品の値上げ(七月一日に一斉値上げ)で、アベノミクスの「毒矢」が国民に突きささる状況となっています。
労働者の賃金に還元されない政策、大型公共事業中心で街場の仕事に還元されない政策によって国民生活の危機は、一層深まっています。
そうしたなかで安倍内閣は、福祉に回すかのように装って消費税増税を声高に主張する一方で、生活保護改悪案の制定に足を踏み出しました。
現行制度下で、行政当局は、「水際作成」を展開し、これに対し、本年二月、三郷市生活保護裁判で口頭申請を有効と認めさせ、「水際作戦」に風穴をあけるに至りました。
ところが、改悪案は、生活保護の申請には原則として申請書の提出を義務づけ、「水際作戦」を合法化して、その上に、要保護者の扶養義務者の収入、資産報告を要求し、官公省や金融機関、雇主への調査もすることができるとし、その実質は「生活保護締め出し法」となっています。
幸いにも、六月二六日の国会の閉会により、廃案となりましたが、安倍内閣は、一部野党との修正すり合せも完了しているということで、今秋の臨時国会への再提出をうかがっています。
自民党改憲草案は、二四条で「家族は、互いに助け合わなければならない」として、憲法二五条を実質的に改悪しようとしていますが、今回の生活保護改悪案は、まさにその先取りを狙うもので、絶対に許してはならない内容となっています。
この闘いと連動して、生存権訴訟に取り組む諸団体は、八月一日から実施される生活保護基準の切下げに対し、「生活保護基準引き下げは憲法違反」として、全国の生活保護世帯に呼びかけて、「切り下げを許さない」を合い言葉に一万人規模の審査請求の申立て、そののちの大規模の取消訴訟を準備しています。
四 こうした情勢のなかで闘われた参院選は、先日の都議選で自公完勝、共産党の躍進、民主低落、みんな、維新の停滞、と同様の傾向を示し、客観的にみれば、「自民の一人勝ち」、日本共産党躍進の構図を示すにいたりました。
第一八三回通常国会の積み残し課題、これから画策される解釈改憲、立法改憲、そして明文改憲を許さない取り組みが、いよいよ正念場を迎えます。
猛暑にまけず、体調を整えて、団の歴史と伝統の上にたって、地域に入り、闘う仲間と連帯してより一層奮闘してゆきたいと考えています。ひきつづくご協力、ご活動をお願いする次第です。
熊本支部 加 藤 修
七月二一日の参院選の結果をテレビで観る。
共産党は、選挙区の方でまず東京吉良よし子さん、大阪でたつみコータローさんとフレッシュな顔ぶれが入る。さらには京都の倉林明子さんも当選。
比例の方の報道はあまりなされないが、共産党は三議席と見られて、それ以上なかなか伸びない。ようやく夜中に比例四議席目がついてこれで合計七議席。
比例の残が五議席となって夜中の1時近くNHKが予想した競馬のようなシュミレーションでは当選ラインに向かっているのが自民から三頭、公明・民主等の馬はいても、共産党の馬はなく「これでは共産党の五議席はない」と判断して床に入る。
ところが、朝八時過ぎに起きてテレビを見ると共産党の議席は八になっている。そういえば全英オープンゴルフの中継をした放送局は共産党八を出していたが解説も何もなかったので、まさか共産党が比例で五議席を取ったとは思えなかった。
妻が「今、テレビで仁比さんが当確と出たよ」いわれても半信半疑。自分も同じテレビを見ていたのに、そんなものは目に入っていない。結局比例五ということは仁比さんも入ったのであろうとは思いつつ確認できず、事務所に向かう。妻から「共産党が躍進してもあまり喜んでないね」といわれるが、仁比さん当選の確認ができていないので八議席はうれしいに違いないがこれまで負け続けてきたせいか実感が湧かない。
事務所でインタ―ネットで検索して、仁比さんの当選が今朝の六時〇五分に残り四つのところで決まったことを知る。そこで当選直後の映像や、今朝博多駅での挨拶の映像をみる。その外にも仁比さんの映像があり(大牟田、岡山、四国、沖縄)、仁比さんが大怪我をした腕で一七県を飛び回って大変だったなあ、よくやったなあ、仁比ネットが全国的にも役立ったなあ、と思ってようやく安心。
仁比さんの当選は団の皆様のおかげです。ありがとうございました。
埼玉支部 大 久 保 賢 一
はじめに
七月一日、外務省で、NGOと外務省担当者との「核軍縮・不拡散政策に関する意見交換会」が開催された。外務省からは政務官と担当課長などが参加した。私は、日本反核法律家協会の一員としてその会合に出席した。
この意見交換会は、核兵器廃絶日本NGO・市民連絡会(注)が外務省に提起して行われるもので、不定期ではあるけれど、政府と市民社会の貴重な意見交換の機会となっている。
今回の会合でも、政務官は「意見交換の機会を作れてうれしく思う。軍縮・不拡散は外交政策の柱。その取組みに当たっては市民の協力も大切。有意義な会にしたい。」と挨拶している。
核兵器の非人道性に対する日本政府の態度 その一
今回のテーマのひとつは、なぜ、日本政府は「核兵器の非人道性」を強調する共同声明に賛同しないのか、ということであった。この間、国際社会において、核兵器の使用は非人道的な結末をもたらすことを強調して、それを核兵器廃絶に向けたエネルギーにしようという潮流が表われているが、日本政府はその動きに同調していない。これでは「唯一の被爆国」の政府の態度とおかしいではないかという問題意識である。
例えば、今年四月二四日、NPT再検討会議第二回準備会で、「核兵器が二度と再び、いかなる状況下においても、使用されないことに人類の生存がかかっています。…核兵器が二度とふたたび使用されないことを保証する唯一の方法は、それを全面的に廃棄することしかあり得ないのです。」との共同声明が提案されたが、日本政府は、「いかなる状況下においても」という文言が入っているので賛同できない、という態度をとったのである。これは、「場合によっては、核兵器使用はありうる」という選択を意味している。
核兵器の非人道性に対する日本政府の態度 その二
私は、日本政府のこのような政策選択を知ってはいたけれど、せっかくの機会なので、担当課長に率直に確認してみた。以下、その要旨を再現する。
大久保 日本は核兵器使用を想定しているんでしょ。
課長 抑止力とは、核兵器を使用すれば自分にも及ぶかもしれないと思わせることによって、核使用を抑止するという考えである。
大久保 その抑止が壊れたら核兵器を使うということだね。
課長 それを排除しないということ。
大久保 安全保障のためとはいえ、国際人道法上の制約がある。 一九六三年の「下田事件」判決もある。核兵器使用は国際人道法に反するという考え方をとらないのはなぜなのか。
課長 そもそも日本に対して核兵器を使うことは、国際人道法に違反している。それを思い止まらせる担保は何ですか。
大久保 相手が非人道的手段をとるならこちらもとるぞ、ということか。抑止という発想は、場合によっては使うということ。相互確証破壊(MAD)という発想のようだね。この発想は条件が変われば変わるのだろうか。
課長 米国の核抑止を含む拡大抑止政策は防衛大綱で決まっている。民主的に選ばれた政府が決定したこと。有識者懇談会の中でも核抑止を見直すべきだとの意見は出ていない。民主的正当性はある。
大久保 政策決定の正当性について議論するつもりはない。ただ、被爆者が何を求めているのか、核兵器が人類に何をもたらすのか、そのことに耳を傾けていただきたい。そのための意見交換会でしょう。
日本政府の態度
日本政府は核兵器による安全保障政策をとっている。核兵器使用を排除していないのである。その正当性は、民主的に選出された政府の方針だということにある。他方では、核兵器使用がもたらす非人道性は劣後されているのである。
ところで、この発想は、決して日本政府だけのものではない。核兵器保有国に共通する発想であるし、国際司法裁判所も、核兵器の使用や使用の威嚇を一般的に違法としつつも、国家存亡の危機においては、違法であるとは断言していないのである。
けれども、「唯一の被爆国の政府」の姿勢として、これでいいのだろうか。日本政府は、核兵器に依存しているがゆえに、核兵器廃絶の先頭に立つ気概はないことを確認しておきたい。
忘れてはならないこと
外務省の担当課長は、核抑止論は民主的手続きで決定されたものだと主張している。民主的手続きで決められたかどうかということと、非人道的であるかどうか、国際法違反であるかどうかは、全く次元が異なる問題である。
民主的に選出された米国大統領トルーマンは、広島・長崎に原爆を投下した。その原爆使用は、非人道的でないのか、国際人道法に違反しないのか、担当課長に聞いてみたいところである。
多数決原理は、非人道性や違法性の問題を解消するわけではないのである。この違いが分からない人が、核軍縮の第一線で指揮をとっていることを忘れないでおきたいと思う。
そして、もう一つ忘れてはならないことは、日本には核兵器がないので、わが国の存亡の危機に際しては、米国に核兵器を使用させようとしているということである。米国に非人道的兵器を使用させようという魂胆である。
このことは、わが国の究極の安全保障を米国に委ねるということであるから、米国の意向を最優先するということになる。対米従属と非難される由縁である。
他方では、米国が使用しないことを想定すれば、独自の核武装を検討しなければならないこととなる。プルトニウムの備蓄はその準備である。
小括
結局、核兵器に依存する安全保障政策をとれば、米国の都合の範囲内で国策を決定するか(対米従属)、核兵器の独自開発に手を染めなければならないのである。そのいずれをも拒否するためには、核兵器に依存する安全保障政策からの脱却を図らなければならない。
そのために有効なアプローチが、核兵器使用の非人道性の強調である。この非人道性の強調について、米国は実際の核軍縮・不拡散を妨害するものだなどと言い、日本の担当課長は非核兵器国に分断をもたらすものだなどと言っている。いずれも苦し紛れの主張である。核兵器依存国がその様な対応をしていること自体が人道的アプローチの有効性を物語っているといえよう。
核政策委員会の・ジョン・バローズ博士は、「核爆発の非人道的帰結の強調は、核兵器を管理・廃絶するための部分的アプローチと包括的アプローチの両者を補完するものである。」と言っている。私は強く共感する。
(二〇一三年七月九日記)
(注)川崎哲(ピースボート)・田中熙巳(日本被団協)・朝長万左夫(核兵器廃絶地球市民長崎実行委員会)・内藤雅義(日本反核法律家協会)・森瀧春子(核兵器廃絶をめざすヒロシマの会)を代表世話人とする核兵器廃絶を目指す団体の連絡会組織。原水協、原水禁、ピースデポ、YWCAなども構成団体。
東京支部 田 場 暁 生
今夏、弁護士、ジャーナリスト、研究者などと「新外交イニシアティブ(New Diplomacy Initiative/ND」という団体を設立し、八月一一日には設立記念パーティ「オリバー・ストーンと語る もうひとつの日米関係」を開催します(タイトルはNHK-BSで最近放映された「オリバーストーンが語る もうひとつの・アメリカ史」を参考に(笑)。NDは日・米・東アジア等において、外交・政治に新たな声を吹き込むシンクタンクです(現在の理事は鳥越俊太郎氏、藤原帰一氏、マイク・モチヅキ氏、山口二郎氏)。NDは現在外交・政治に反映されていない声を届けるために、情報発信・政策提言を行い、その提言した政策実現のため、国内はもとより各国における政府・議会・大学・メディアなどへ直接働きかけることを目的にしています。また、既存のマスメディア・外交ルートでは流されない情報を、国境を越えて収集し、また国内から発信します。
私は、鳩山政権発足直前に留学のためワシントンの土を踏み、鳩山政権の辺野古移設断念にいたる流れをワシントンで見てきました。その際、ワシントンと東京とをつなぐ外交のチャンネルが非常に限られていることを実感しました。沖縄米軍基地・TPPといった典型的な外交問題ではもちろん、憲法改正、原発、消費税などの問題についても「米国」からの影響力は圧倒的です。ご存知のように、アーミテージ・ナイレポートは、過去一〇年の日本の防衛・安全保障政策を形作ってきました。また、昨年九月には「米国」の要求により、民主党政権の二〇三〇年代原発ゼロ閣議決定が見送られました。
もっとも、ここにおける「米国」とは何か、米国において「日本」の名で語られるのは誰なのかについては考える必要があります。日米外交の従来のチャンネルは、米国側はいわゆる「知日派」などと呼ばれる人々、そして日本側も一部の人々に限られており、それにより運ばれる声は一面的です(在ワシントン日本メディアについての問題もありますが割愛します)。米議会やワシントンの有力シンクタンク等で日本についての議論を聞く度に、「日本にはもっと多様な声がある。」と感じてきました。このような状況がわかりやすく表れたのが、鳩山政権時代の普天間基地移設問題です。普天間基地を「最低でも県外に」と鳩山氏は求めましたが、その声を米政府関係者に伝える日本人はワシントンにはいませんでした。日本大使館はその声を積極的に運ぶことはせず、他方民主党はワシントンに事務所や駐在員すらも有していませんでした。日米二カ国間には、戦後六〇年以上自民党を中心として作られてきた限られたチャンネルしか存在せず、また、そこに風穴を開ける具体的努力もほとんどなされていないのです。たとえばドイツの主要政党はいずれもワシントンに事務所を置いています。民主党の国会議員等に、民主党のワシントン・オフィスを作っては?と話したこともありましたが、「いいアイディアだが国内政治が難しい」「お金がかかる」などの反応でした。結局本気で交渉する意思も能力もなかった、そういわざるを得ません。
そのような状況下で、「沖縄の声を運んでほしい」との要請を受け、NDメンバー等は米国政府・議会に対するロビーイング活動等を始めました。米国側では対日政策の多くを、一握りの国務省・国防省の官僚や限られた数の「知日派」が決めています。その狭いコミュニティに属する人以外は、ほとんど対日政策に関知してきませんでした。それを示す良い例が、鳩山政権時代に米国連邦議会下院の沖縄米軍基地問題を管轄する小委員会の委員長と面会した際のやり取りです。普天間をはじめとする沖縄米軍基地問題を米議会で取り上げて欲しいとのこちらの要求に対して、「重要な問題だと認識している」と答えた委員長は、まず沖縄の人口を「二〇〇〇人くらいか」と聞いてきました。「一〇〇万人以上います」とのこちらの回答に、「では、飛行場を一つ作ることがその人たちのためになるのでは」と委員長は続けました。これは、米国政治における日本関連問題の扱われ方も端的に示していますが、この六〇年の日米間の外交チャンネルだけでは、沖縄の声はこのように重要な人物にすら届いていないのです。
現状の日米関係に問題があることを指摘する日本の識者は少なからずいますが、ネットワークの構築などを含めてその問題を具体的に解決するために必要な実践や方法などについてはほとんど指摘や検討もされてきていません。国内で声を上げていてもその声はそのままでは米国には届きません。しかし、米国の議員等とも、実際に話をすれば顔が見える関係を築くことができます。ワシントンでのロビーイングで沖縄米軍基地問題について話をする際、環境問題や人権問題、女性問題に関心を持っている多くの議員が、当初、沖縄について知識がなくてもそれら諸問題を踏まえた対話を重ねることで、沖縄の状況について理解を示すようになります。米国議会では、財政難の観点からの海外基地縮小論は賛同者が増えていますし、ティーパーティ(茶会派)といわれる保守層からも沖縄の基地削減に支持が寄せられています。海兵隊が沖縄にいるのはナンセンスだ、と言い切る有力議員もいます。しかし、米国政治の中で優先順位の低いこの問題について、こちらが問題を掘り起こさねば彼らも発信しませんし、その声が日本のメディアに載ることもありません。戦略を立ててアピールすることが重要です。もちろん、沖縄の基地問題に限らず、TPP問題などにも通じることです。日本の声が様々であるように、現在、対日政策を担当している「知日派」だけが「米国」ではありません。現在の外交チャンネルが運んでくる流れに対峙するには、他にもチャンネルを作り、適切なカウンターパートを見つけて共に動いていくことが欠かせません。
ND関係者は、この間、米議会・米政府・関連シンクタンク等に対するロビーイングを、また、日本の国会議員・地方公共団体・市民団体等の訪米団をサポートするなどして、直接米国に声を運ぶ活動をしてきました。例えば、辺野古基地建設反対を訴える沖縄名護市長訪米の際には、面談すべき米議員・官僚の選定と面談設定、米議会内での院内集会開催やシンクタンクでのシンポジウム開催、日米メディアへの取材依頼・記者会見などもしました(日本大使館関係者も「こんなに充実した訪米日程は見たことがない」と舌を巻くほどの充実した行動でした)。このように米議会等に足を運んでいれば議会内等に知人が増え、日本の国会議員との関係同様、議会質問の作成の手伝いなどもできるようになります。人と人との繋がりが重要なのはどこでも同じです。
以上のような活動の規模を拡充すべく、NDを正式に設立します(将来的には東アジア等も活動の視野に入れています)。このような取組みをするのには必ずしも弁護士である必要はありませんが、誰もやらないならやるしかない、そう思っています。また、事件活動や団体活動等を通じて広く人脈を持ち、専門家の力も得ながら、政策提言はもちろん、説得・ロビーイング等の技術を身につけている弁護士の出番だともいえます。設立パーティ後は、柳澤協二氏(前内閣官房副長官補)等をお呼びしての外交・安全保障・憲法改正問題研究会、前中国大使丹羽宇一郎氏の講演(一〇月二四日)等も予定しています。皆さま、この新しい(無謀な?)チャレンジを会員としてもしくはご寄付により、支えていただきますよう心からお願い申し上げます(詳しくはNDのウェブサイトをご覧ください。「ND」や「新外交」ですぐに出てきます。
東京支部 飯 田 美 弥 子
一 奉安殿
私の母は、昭和九年生まれ。終戦当時、国民学校の生徒でした。
国民学校には、「ホーアンデン」…なんでんねん?って顔ですね。
「奉安殿」という字を書きまして、何を安置しているかというと、天皇の写真。当時は、「御真影」と言っていたのですが、それが入っている建物?らしいです。私も、実物は知らないので、百葉箱の色違いみたいな物みたいなイメージしか持てないんですけれど、他所でそう話しましたら、もっと立派だった、とお叱りを受けてしまいました。
とにかく、写真を入れる建物?があって、子ども達は、ふざけ合いながら登校してきても、奉安殿の前では、一度、直立不動、最敬礼してから、また、走っていく、ということが、行われていた。何しろ、現人神と教えられていましたからね。お尻を向けるなんてもっての外。そういえば、平成になってからだったでしょうかねえ。任命されたときに、天皇に対して後ずさりができにくくなったというので、衆議院だか議長を辞退したご高齢の国会議員さんがいましたよね。戦前の匂いを感じる出来事でした。
八王子でも、空襲のときに、真っ先に、学校に行って、奉安殿の中にある御真影を避難させた教員がいたそうです。それほど、大事な畏れ多い写真だったのでしょう。私には、理解できませんけど。
さて、終戦も近くなってくると、国内は物資不足。ちり紙もなくなって、古新聞を切って、揉んで、使っていたそうです。
あるとき、私の母が、お便所に入ると、古新聞が最後の一枚。よかったと思って、用を足し、拭こうとして手を伸ばしたら、そこに「天皇陛下」の文字が見えて、わ、と思って…ねえ。写真にお尻を向けてもいけない方ですからね。まして、ねえ。で、拭かずに出てきた、という話を、子どもの頃に聞きました。うわあ、お母さん、きったない。そんな字なんか関係ないじゃん、と私は大笑いしましたが、戦争をしていた頃の状況は、笑ったりできない。母などが、天晴、偉い、と褒められたのだと思います。
アホなことです。
二 教育勅語
教育勅語を覚えておられる方、います?
私の母は、元教員ですが、先生に褒められることがいいこと、という価値観の持ち主なので、幼い私に対して、「私、これもできる、あれもできるのよ」とばかりに、源氏物語の末摘花の話をしたり、「君死にたまふことなかれ」を暗唱してくれたりした反面、教育勅語も暗唱して聞かせる人だったんですね。
子どもながらに、「お母さん、『君死にたまふことなかれ』と『チン、思うに』は、違うこと言ってない?」と質問したのですが、「いいのよ!」と一蹴されました。
そんな訳で、私、若いんですけど、教育勅語の冒頭を覚えているんです。
「チン、惟うに」…チンというのは、犬の種類でも、電子レンジで残り物を温める音でもありませんよ。国家元首の一人称代名詞、お殿様が自分のことを「予」と呼ぶようなものでしょうね。
「朕、惟ふに、我が皇祖皇宗の国を肇むること宏遠に、徳を樹つること深厚なり。」
「我が臣民、よく忠に孝に、億兆、心を一つにして世々その美を済せるは、此れ、我が国体の精華にして、教育の淵源また実にここに存す。」
…まだまだ長いんですけど、生徒は、これを、毎日、諳んじるのが日課だったのです。天皇様が国を始めてくださったので、我ら臣民は、その天皇様のために、皆、心を一つにして、忠孝に励むのが、国の美徳であって、教育はそのためにある、ということです。
私の母は生徒でしたから、余り考えずに私に暗記して聞かせたのでしょうけれど、この教育を教え子に施して、戦争に送り出してしまった教師らの悔恨は、どれほどのものだったでしょう。「再び教え子を戦争に送らない」という標語の下、戦後は、旺盛に民主教育が模索されたのでした。
ところが、そうした負の記憶は、なかなか伝承されていない。
日の丸君が代強制について、若い先生方が、その問題の所在もわからない、ということが起こっている。危険なことだと思います。
事務局次長 上 田 月 子
一 平成二五年七月五日(金)、午後一時から五時まで、自由法曹団本部で、「安倍『雇用改革』を切る!」全国会議を開催した。平日であったが、関東近辺の団員のみならず、京都、岐阜、宮城の団員、全労連、郵政産業労働者ユニオン、航空労組連絡会、ロースクール修了生など、各界から二六名が参加した。
二 安倍雇用改革概論
最初に鷲見団員が安倍雇用改革の概略を説明した。安倍「雇用改革」は一言で言うとグローバル企業のための労働規制緩和である。鷲見団員は第一 大量失業を生み出す「人が動く」安倍「雇用改革」と、第二 安倍「雇用改革」の構想する労働者像、に分けて説明した。
三 現場からの報告
(1)郵政産業労働者ユニオン
須藤書記長から郵政非正規労働者の現状と「限定正社員」につき報告を受けた。会社は新たな人事政策として、(新)一般職というものを導入しようとしている。非正規社員から(新)一般職への登用は狭き門である。
(2)航空労組連絡会(航空連)
津惠事務局長から航空における職種限定、地域限定社員等につき報告を受けた。
(3)金融ユニオン
黒澤団員より、ポジションがなくなったことを理由に退職を迫られた事件の事例報告を受けた。
四 ジョブ型正社員制度
(1)並木次長より、ジョブ型正社員制度に関する説明と判例分析結果の報告を受けた。ジョブ型正社員とは、職務、勤務地または労働時間が限定されている正社員のことであり、無限定正社員かジョブ型正社員かの別について使用者に明示を求めることが検討されている。
もっとも、規制改革会議雇用ワーキンググループにより挙げられた一三判例を分析した結果、ジョブ型正社員に関する事案であっても、解雇回避努力を厳格に判断すべきとする判例が圧倒的に多かった。
(2)規制改革会議雇用ワーキンググループ報告一一頁に挙げられている、「なぜジョブ型正社員の普及が必要か」に対する反論を私が行った。結局、ジョブ型正社員のメリットとして挙げられているものは、わざわざジョブ型正社員にしなくても達成できるものばかりなので、あえてジョブ型正社員を普及させる必要は無い。
(3)質問・討論
質問・討論は非常に盛り上がった。その一部を紹介する。
まず、今の正社員が世界のどこへでも行かなきゃ行けないような錯覚が危険だ。正社員であっても、職種や勤務地は決まっていて、合理的な理由がないと変更できないはずだ。無限定が原則だということが誤りだという意見があった。
また、多様な正社員(三極化)を生じさせることは差別を助長するから反対すべきという意見があった。全労連からは、限定正社員はだめだ、という論陣を徹底して張る事にしたとの発言があった。
勤務地限定に関して言えば、勤務地限定は労働者の利益なので、会社が他の勤務地を考えなくて良いとはいえないとの意見があった。そして、配転・人事異動の可能性によって、賃金を区別することは労契法二〇条に反するという意見があった。
雇用にはもともと、男女差別があったのが、雇用均等法が出来たので、男女差別が出来なくなり、コース別となった。しかし、パート法や派遣法の改訂により、パートや派遣から通常の労働者への転換が迫られた。労働契約法においても、いつまでも不安定な雇用はだめだとされた。企業はいずれ全部正社員にしなければならないなら、と、新しい枠組みとしてジョブ型正社員を出して来たのだと思う、との意見もあった。
五 労働者派遣法
(1)規制改革会議報告
大浦団員より報告を受けた。規制改革会議の答申は、常用代替防止の原則を排除しようとしており、対象業務の限定、派遣期間制限の見直しを求めている。今後の検討課題として(1)派遣期間の在り方(2)派遣労働者のキャリアアップ措置(3)派遣労働者の均衡待遇の在り方が挙げられている。労働政策審議会で平成二五年に検討し、結論を出し、結論を得次第措置される。
(2)今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会(在り方研)報告
京都の諸富団員のレジュメに基づき、同支部の中村団員より報告を受けた。研究会と規制改革会議の言っていることが非常にズレている。一年間かけて登録型・製造業派遣禁止について検討するため、在り方研が設けられた。しかし、派遣を積極的に位置づけて行くような議論が進められている。八月にも報告がなされる予定である。
(3)意見書案
埼玉の伊須団員より、意見書案の報告があった。
(4)質問・討論
岐阜からは貧困型の取り組みの報告があった。これを受けて、中間的就労の問題につき、厚労省の説明会をやったら、派遣会社が大勢来たという話が出た。
EUでは、同一労働、同一賃金の原則が徹底しているとのことだ。
正社員の仕事を奪うな、派遣社員の保護などどこにもない、というのが派遣法の理念だと言っているが、ある程度長く使うんだったら、正社員にしなさい、という理念があると思うとの意見も出た。
派遣に良い派遣と悪い派遣があると言おうとしている。これだけひどいことが起きているのだから、良い派遣などなく、原理転換できないということを言うべきとの意見も出た。
六 労働時間法制
(1)労働時間法制の規制緩和に関し、伊須団員から報告を受けた。営業も工夫するから専門性があるなどの理屈で、普通の営業社員も事務職も裁量労働制にされようとしている。
(2)ホワイトカラーエグゼンプションに関し、埼玉の斉藤団員から報告を受けた。残業代ゼロ法案、過労死促進法案、というネーミングが適切かはさておき、団としては、積極的な反対意見を述べて行く。
(3)質問・討論
日米答申イニシアティブで、労働時間規制に関する各種適用除外と裁量労働制の整理・統合が求められている。事務系労働者の労働時間規制撤廃、ホワイトカラーエグゼンプション、解雇の金銭解決制度、の三点はアメリカの要望だ、という意見があった。ネーミング自体で外圧ということが明確であり、こういう制度が議論されていること自体がいかがなものか、という意見があった。
ロースクール修了生からは、自分も派遣で働いていた。どういう問題が起きているかが分かって、興味深く聞かせてもらったとの発言があった。
七 ブックレット紹介
斉藤団員から、ブックレットの紹介がなされた。団は全労連と中央連絡会とともに、六四頁で定価六〇〇円くらいのブックレットを作成中である。参院選の中身も反映させて、八月末あたりの発行予定である。メインタイトルは、「安倍『雇用改革』を切る!」で、サブタイトルは、「許すな!日本をほろぼす雇用破壊」である。
八 行動提起
鷲見団員から行動提起がなされた。経済財政諮問会議の民間議員経験者であり、伊藤忠商事の元社長である丹羽宇一郎氏が「北京烈日」という本の中で、安倍「雇用改革」を、首切りのすすめであり「愚策中の愚策」と言っている。保守・革新を問わず、懸念を持っている人は広がっている。大きい視野で安倍「雇用改革」が国民生活にどういう影響を与えているのかを見極めよう。
東京支部 中 野 和 子
自由法曹団女性部も加盟している婦人団体連合会(婦団連)の今年一月に開かれた総会で、憲法運動の強化に取り組みことが決まりました。女性団体に呼び掛けて、五月三日の新聞に意見広告を載せることが決まり、三月八日の国際婦人デーの記者会見で憲法九条を守る女性アピールを発表し、五月三日朝日新聞生活面一面にフルカラーでいわさきちひろの「戦火のなかの子どもたち」からシクラメンの花のなかの子どもたちをモチーフにして意見広告を発表しました。街頭での宣伝活動でも募金を集め、賛同人の掲載は一〇〇名に止めましたが、募金は一口一〇〇〇円で四月中に一三〇〇万円を超え、意見広告掲載後も募金を寄せていただいています。
四月の団常幹でもご協力を呼びかけさせていただきましたが、意見広告がとてもきれいで広告代理店からも非常に反響があったと報告を得ていましたので、残った募金で安倍首相宛てはがき付リーフを作成しました。団報とともに送付いたしますので、ご活用ください。