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村松 昭夫 大阪・泉南アスベスト国賠訴訟
二陣高裁で、画期的な勝利判決!
谷  文彰 ブラック企業による元従業員への損害賠償請求を「不当訴訟」と断罪
馬奈木厳太郎 東電の過失が審理対象へ
〜「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の現状について
鶴見 祐策 ぜん息医療費助成制度とトヨタら自動車メーカーの社会的責任
井上 正信 国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む(一)
平井 哲史 現代版『黒船』=TPPの恐ろしさを学ぶ
〜一・二三 団本部TPP対策PT学習会に参加して〜
高橋 敬幸 仁比聡平参院議員を迎えての団中国ブロック交流会
山口 真美 団通信に全国各地からの投稿をお願いします
労働問題委員会 二・一〇「労働法制改悪反対をどう訴えるか?!」検討・交流会参加の呼びかけ



大阪・泉南アスベスト国賠訴訟
二陣高裁で、画期的な勝利判決!

大阪支部  村 松 昭 夫

一 三度(みたび)、国を断罪

 昨年一二月二五日、大阪高裁第一三民事部(山下郁夫裁判長)は、泉南アスベスト国賠訴訟(二陣)において、三度(みたび)、国の規制権限不行使の責任を明確に認め、総額三億四四〇〇万円の支払いを命じる原告勝訴の判決を言い渡しました。
 泉南アスベスト国賠訴訟は、二〇〇六年五月に一陣訴訟(被害者数二六名)を提訴し、一〇年五月には、わが国で初めてアスベスト被害に対する国の責任を認める原告勝訴の判決を勝ち取りましたが、一一年八月、大阪高裁第一四民事部(三浦潤裁判長)は、過度の規制は産業発展を阻害する、石綿の工業的有用性や産業発展のためにはいのちや健康が犠牲になってもやむを得ないとして、行政裁量を大幅に認めて原告らの請求をすべて否定する驚くべき不当判決を言い渡しました(この判決に関しては、一〇〇〇名を超える代理人によって上告され、現在、最高裁第一小法廷に係属中)。しかし、そのわずか七カ月後の一二年三月、大阪地裁は、二陣訴訟(被害者数三三名)において、国の責任期間を六〇年〜七一年までに限定したものの、再び、国の責任を認める判決を言い渡しました。 
 今回の二陣高裁判決は、そうした経過を経て、七年半に及ぶ原告、国の死力を尽くした主張、立証のなかで、いわば一陣訴訟、二陣訴訟の集大成として言い渡されたものであり、極めて重い、重要な意義のある判決です。

二 一陣高裁判決を乗り越え、二陣地裁判決を前進させた判決

(一)判決の重要なポイント

 はじめに、今回の判決内容の重要なポイントを紹介したい。
 第一に、規制権限不行使の違法の判断基準について、筑豊じん肺最高裁判決などの最高裁判決の到達点を踏まえて、労働関係法令によって国に付与された省令制定権限は、「労働者の生命、身体に対する危害を防止し、その健康を確保することを主要な目的として、できるだけ速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時かつ適切に行使されなければならない。」とし、国の規制権限不行使の違法は、この判断基準に基づいて規制権限が行使されたかどうかで判断されるとしました。実際にも、判決の随所で、この基準に基づく判断がされています。
 では、どこに国の怠慢(規制権限不行使)があったのか。判決は、五八年時点で、国は、石綿肺の重大な被害発生を予見することが可能であり、局所排気装置の設置を義務付ける技術的基盤も存在したとして、この時点で局所排気装置の設置を義務付けるべきであったとしました。また、局排気装置の設置が義務付けられた七一年以降も、七二年には、肺がんや中皮腫の医学的知見が集積され、一層の規制強化が求められていたとして、国は、使用者に対して、労働者にマスクを使用させることを義務付けるべきであった、また、その補助手段として、特別安全教育を義務付けるべきであったとしました。さらに、七四年九月には、「抑制濃度」の数値を日本産業衛生学会の勧告値に見直すべきであったとしました。
 そのうえで、以上のような国の規制権限不行使の責任は、使用者の安全配慮義務違反の責任とは別個独立の被害者に対する直接的な責任であるとし、国の違法期間が長期であること、違法内容も基本的な粉じん対策全般にわたっていること、義務違反の程度も重大であることなどを指摘して、国の責任範囲を、二陣地裁判決の三分の一から二分の一に引き上げました。そして、石綿関連疾患の重大性を考慮して、慰謝料額を従来よりも各ランク一〇〇万円増額し、国が主張した喫煙等の減額理由も全て否定しました。
 さらに、石綿工場に出入りしていた運送業者の従業員に対する責任判断の部分では、人の生命、身体、健康は、行政活動において常に尊重されるべきであり、反射的利益だからと言って、規制権限不行使を原因とする不法行為責任(損害賠償)に関して保護範囲に含まれないことにならないとする注目すべき判断も示しました。

(二)説得力のある明快な判決

 今回の判決は、規制権限不行使の違法性判断において、最高裁判決の到達点を踏まえ、労働関係法令の趣旨、目的を重視し、行政の裁量権を大幅に認めた一陣高裁判決や国主張を明確に否定し、行政による国の違法期間を五八年から九五年まで三七年間にわたって認め、違法内容も基本的な粉じん対策全般について認め、さらに、責任範囲を従来の三分の一から二分の一とするなど、本件の全般的な争点について、ほぼ全面的に原告主張に沿う判断を行っています。間違いなく、一陣高裁不当判決を乗り越え、二陣地裁判決を大きく前進させた画期的な判決です。七年半に亘る一陣、二陣の審理を集大成した極めて優れた明快な判決です。

三 勝利判決を勝ち取った要因は何か

 基本的には、一陣高裁判決の苦い経験を踏まえて、控訴審において常に緊張感を持って妥協することなく、各分野の研究者や他のアスベスト弁護団等の協力を得ながら、各論点に関して主張・立証を尽くし、法廷外においても、二五万を超える公正判決署名や、公害やアスベスト被害者団体代表一一一名による連名アピール、四大公害訴訟をはじめとする公害・薬害・じん肺等の著名な弁護団代表五九名による共同アピール、「風の会」参加の主婦連などの消費者団体代表による連名アピール、学者・研究者アピールなど各分野からのアピール運動、七年半にわたる原告団・弁護団による定期的な裁判所周辺での宣伝活動など、多彩な世論形成とそれを裁判所に届ける活動を継続的に行ったこと、そして、何よりもアスベスト被害の深刻さなど被害救済の必要性、被害者の声を裁判所に届け続けたことなどを指摘できます。同時に、一二年一二月の建設アスベスト東京訴訟での勝利判決が力強い追い風になりました。
 さらに、被害の訴えや広範な世論を正面から受け止める裁判体であったことも大きかったと思います。

四 早期解決の願いを踏みにじった国の対応

 原告団と弁護団は、判決期日が年末ぎりぎりであったことから、昨年八月の結審時から、首都圏での取り組みを重視し、首都圏の建設アスベストや公害などの仲間の大きな支援に支えられて、二〇〇名規模での院内集会を開催するなど早期解決を求めて政治等に対する働きかけを行いました。そうしたなかで、国会閉会中であったにもかかわらず、すべての政党の一一八名の議員から早期解決を求めるアピールへの賛同が寄せられました。
 また、原告団・弁護団は、判決日当日から三〇名規模で上京し、厚労省前での座り込みを行い、連日昼休み集会を開催など厚労大臣と首相に対して、上告断念、早期解決を求め続けました。これに呼応して、判決当日には野党全会派の議員による申し入れ、翌日には、自民党と公明党のアスベスト問題の責任者が厚労大臣に直接面談しての解決申し入れも行われました。マスコミも、朝日新聞、毎日新聞が早期解決を求める社説を掲載したのをはじめ、ほぼ全社がこぞって早期解決を求める論陣を張りました。ところが、国は、原告ら被害者の面談要求を拒否し、一月七日、最高裁に上告しました(正確には、上告受理申立)。国の上告にあたってのコメントは、「一陣高裁判決と二陣高裁判決の乖離が大きいので、上告せざるをえない」というものであり、まさに、行政としての責任を放棄したに等しい不当なものでした。しかし、行政、政治による解決責任はこれで免罪されることはありません。行政や政治が、自らの責任を放棄して解決を司法に丸投げすることは決して許されません。原告団と弁護団は引き続き行政、政治に早期解決を求め続けていく決意です。

五 最高裁での最終的な勝利に向けて

 同時に、裁判の舞台は最高裁に移りました。原告団と弁護団は、いのちや健康よりも産業発展が優先するとした一陣高裁判決を支持するのか、それとも、人の生命、身体、健康は、行政活動において常に尊重されるべきであるとする二陣高裁判決を支持するのか、最高裁に、その選択、判断を鋭く問うていく決意です。
 二陣高裁判決は、筑豊じん肺最高裁判決等の規制権限不行使の判断基準に沿って、それを各論点の判断の基軸に据え、かつ、事実認定でも二陣控訴審で新たに出された証拠も含めて豊富に証拠を拾っており、説得力があり、国自身の文書、公的文書等を認定証拠にふんだんに使用していることも説得力を増しています。また、二陣高裁判決は、国が、責任を否定するためになりふり構わず行ったあらゆる主張を、ことごとく「完膚なきまで」に明快に論破し、退けていています。さらに、二陣控訴審の審理は、裁判所が特に関心を持っている事項を明示して双方に主張立証を尽くさせたうえでの判断であり、その点でも極めて重い判断です。
 決して油断することはできませんが、今後も必要な主張を行うとともに、広範な早期救済に向けた世論形成と最高裁への要請行動を行うなかで、最高裁において、早期に二陣高裁判決を支持する判決を勝ち取れる展望は十分にあると確信しています。
 原告団と弁護団は、最高裁闘争を基軸にして、早期に最高裁でも勝利判決を勝ち取り、その勝利判決を梃子にした政治による早期の全面解決をめざしていく決意です。引き続き大きなご支援とご協力をお願いし、二陣高裁勝利判決の報告とします。


ブラック企業による元従業員への損害賠償請求を「不当訴訟」と断罪

京都支部  谷   文 彰

一 「不当訴訟」による損害賠償を認めた広島高裁判決

 いわゆるブラック企業の特徴として、巷間、様々な点が挙げられるが、典型例の一つとして、退職を申し出た労働者に対して高額の損害賠償を請求すると脅し、場合によっては退職した労働者に対して実際に訴訟を提起するという場合が挙げられている。本件は、正にこのようにして、会社が元従業員に対し高額の損害賠償を請求した訴訟において、会社による本訴提起は不当訴訟であると認め、会社に対し、不法行為による損害賠償を支払うよう命じた事案である。
 裁判所にとって、訴訟提起自体が不法行為であるという認定はなかなかしにくいものらしい。起こされた裁判を適切に処理していくということが裁判所の仕事であり存在意義であるから、それも理解できなくはないが、その結果、訴訟提起が相手方との関係で違法な不法行為となるのは、「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」とされている(最判昭和六三年一月二六日)。この要件は、非常に厳しい。また、不当訴訟であるという判決を実際に書くことも、裁判官には抵抗があるのかもしれない。現に本件でも、第一審(支部での単独事件)では、結果的には高裁判決とまったく同じ事実認定でありながら不当訴訟であるとは認められておらず、ハードルの高さを痛感したものである。
 そのような中で不当訴訟性を明確に認め、不法行為に基づく損害賠償を会社に命じた広島高裁平成二五年一二月二四日判決には、一定の意義があるのではなかろうか。ブラック企業に対して強く警告を発するものでると同時に、真面目に働く労働者にとって会社の不当な要求を毅然と拒絶することの正当性をも示すものと考え、報告をさせていただく次第である。

二 横領をでっち上げた会社、反訴を提起した元従業員

 元従業員(「A」とする)は、昭和六〇年代に会社(「Y」とする)に入社し、経理を中心に長年真面目に業務を行ってきたが、平成二〇年、言いがかりをつけられる形で退職に追い込まれた。何とか新しい生活を始めようと模索し、給料は低いものの新しい仕事を見つけて頑張っていたとき、突然Yから訴状が届いた。Aは勤務期間中に多額の現金を横領してYに損害を与えており、その金額は四〇〇〇万円を超えるというのである(元従業員Bも相被告として訴えられていた)。実は、AはYから別の裁判所でも同様の損害賠償を請求されており、それを合わせると何と三億円を超える額になる。ブラック企業という呼称すら値しない会社だ。
 しかし、Aはもちろん横領などしておらず、すべてY代表者らの指示に従って業務を行い、経理として金銭を扱う場合もすべて代表者らに渡し、記録も正確につけていた。会社としても、記録を調べればAが横領などしていないことは容易に理解できたはずである。というより、そもそもYは金銭をすべて受け取っていたのであるから、Aの横領など存在するはずがないし、そのことは分かっているはずである。Y社はこれらの事実を無視し、意図的に隠蔽してこれほど多額の請求をかけてきたのであり、Aに嫌がらせをするためであるとしか考えられない。
 経済的に苦しい中、Aは弁護士に依頼して毅然と闘うことを決めた(弁護士費用はほとんどもらっていないが、この裁判は広島の方で起こされたため、実費だけでも相当な額になる)。そして、Yの請求は不当訴訟であるとして逆に損害賠償を求める反訴を提起したのである。

三 裁判所での闘いと高裁での不当訴訟の認定

 横領事件の反証は困難であることが多い。資料は基本的に会社が握っているからである。本件でも当初手持ちの資料はほとんどなく、立証には苦労が伴ったが、第一審は、AはYの指示で業務を行っていた、金銭はすべてY側に交付していた、横領行為は存在しない、としてYによる本訴を全面的に棄却した。しかしその一方で、Aの起こした反訴も棄却してしまった。横領の有無について一応調査をしていたから、不当訴訟であるとまではいえないというのである。しかし、Yは金銭を全て受け取っておきながら、Aが横領したなどという架空の事実をでっち上げて裁判を起こしているのだ。これは、調査をすれば済むというようなレベルの問題なのであろうか。
 方針について議論した結果、いくつかの理由でAは控訴することにした。Yも控訴して舞台は広島高裁に移り、下された判決は、Yの主張を完膚なきまでに否定して本訴を改めて棄却し、他方でAの反訴を認容して、Yに対し二五〇万円(慰謝料五〇万円、弁護士費用二〇〇万円)の損害賠償を支払うよう命ずるものだった。その理由づけは至って短く、「Yが主張したAに対する不法行為による損害賠償請求権は、事実的・法律的根拠を欠くものであり、かつ、Yは、その請求が事実的・法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて訴えを提起したと認められ、訴訟の提起自体が、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであり、不法行為を構成する」というものである。シンプルなだけに、説得力があるといえよう。当然の判断である。
 一回結審となった期日で高裁から和解の打診があり、原判決のうち反訴に関する部分については問題があるという趣旨の心証が開示されていたとはいえ、私も素直に嬉しかった。金額については大いに不満があるが(不法行為だから弁護士費用相当額は請求額の一割だろうと思って請求していたので)。

四 ブラック企業と毅然と闘うことの意義

 高裁判決は、Yから極めて高額の請求をされ長い間苦しめられてきたAにとって久しぶりの、そして大きなクリスマスプレゼントになった。私自身も、資料の少ない中で苦労して主張・立証を重ね、手弁当で広島まで繰り返し足を運んだだけに、喜びもひとしおである。Yは上告し、他の裁判所での裁判も継続しているが、高裁判決を機に完全勝利を目指す所存である。
 また、本判決は、ブラック企業の要求を毅然と拒絶することの大切さ、毅然と拒絶していれば必ず裁判所も認めてくれるという当たり前のことを改めて示したともいえよう。不当な要求に屈することなく、労働者一人ひとりの権利と生活を護っていくために、これからも全力を尽くしたいと思う。


東電の過失が審理対象へ

〜「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の現状について

東京支部  馬奈木厳太郎

一 福島地裁が全国初の判断を示す

 本年一月一五日付の福島の紙面には、「東電の過失審理対象に」「全国初の争点」「裁判長『重要な争点』」といった見出しが躍った。前日、裁判長が、「裁判所としては、東電の過失の有無は重要な争点であると認識している」と述べ、東電に対し、その前提で準備するよう求めたことを受けての報道であった。東電の過失を審理対象としないとする裁判所も存するなか、これを審理対象とする全国で初めての判断が示された。
 今回の事故について被害救済を求める訴訟は、本年一月現在、一三の裁判所(本庁・支部)に係属し、原告は四〇〇〇名を超えている。「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(「生業」訴訟)は、そのなかでも二〇〇〇名という最大の原告団を擁し、本年二月に予定されている第三次提訴の原告予定者をも含めると、全国の原告の約六割を占める訴訟となっているが、国と東電を被告とし、原状回復と慰謝料を請求している。その「生業」訴訟において、東電の過失が審理されることとなった意味は大きい。

二 なぜ審理対象とすべきか否かが論点なのか

 なぜ東電の過失の存否について、審理すべきか否かそれ自体が論点となるのかは、この裁判の本質にかかわるだけに、改めて問われてよいだろう。
 多くの被害救済訴訟では、東電と国を被告としているが、このことは、東電はもちろん、国の責任も追及するということを意味している。私たちも同様である。
 この点、東電は、原発事故には民法ではなく原子力損害賠償法(原賠法)が適用され、同法が過失を要件としていないことから、過失を審理対象にすべきでないと主張してきた。
 東電の主張は、民法と原賠法のいずれが適用されるべきかという次元での問題にとどまらず、原賠法に基づき原子力損害賠償紛争審査会が定めた指針が、自賠責の傷害慰謝料を参考に、すなわち「加害者の非難性を抜きにしたもの」(中島肇)として策定されていることをふまえ、慰謝料算定の次元においても過失を斟酌すべきでないとする点に意味がある。いわば“原賠法スキーム”とでも称されるべきものの範囲内での処理を訴えるものである。
 これに対し、原賠法一条の目的を、「原子力事業の健全な発達」と「被害者の保護」という並列的な意味でとらえず、“金を払うから原発をやらせろ”ととらえ、“被害者を金で黙らせる”発想をむきだしにしたものと解する「生業」訴訟においては、“原賠法スキーム”を乗り越えて責任を追及することが絶対的な課題だったのであり、まさにこの意味において、過失が審理対象になるか否かは本質的な問題であった。
 もちろん、東電の過失を審理することの先に、本丸である国の過失をめぐる審理を通じた責任追及が視野にあることはいうまでもない。そのためにも、東電の過失が審理対象となるか否かは決定的に重要であった。

三 なぜ審理することになったのか

 「生業」訴訟においては、提訴以来、民法を主張し、訴状においても原賠法に基づく請求をたてなかった。「生業」訴訟以外の訴状が、民法とならんで原賠法を掲げ、あるいは原賠法のみを主張していることからすれば、異色といえるが、国と東電の責任追及という観点からすると、裁判所に対しても原告の強い姿勢を示しえたと考えている。仮に、訴状で民法とならんで原賠法を掲げていた場合、この段階で、同じように東電の過失を審理対象とできたかについて、私たちの弁護団においても、自信をもって“できた”という者はいないはずである。
 そして、訴訟の目的や訴状の構成からすると当然の帰結ともいえるが、「生業」訴訟においては、損害論に先んじて責任論の主張を徹底して行うことを方針とした。注意義務の設定や予見可能性の対象、違法性判断の枠組み・考慮要素などの主張に、極めて重い位置づけを与えてきた。この位置づけは、今回の事故について国には責任があり、その追及を行う裁判であるとする、私たちの決意によるものであったが、責任論の主張を先行させたのには、国に対する責任追及を主眼としていることを裁判所に対して明確にする意味もあった。実際、国との関係では、国賠法上の違法を主張しているのであるから、過失の存否が争点となることは当然であり、そうである以上、東電の過失をオミットした形で国の過失を審理することは、およそ現実的ではない。しかし、東電を発想の中心にすえた場合、しかも原賠法を(も)主張し、損害論を先行させた場合、国の責任は裁判官のなかで後景に退けられ、東電の過失についても審理する動機づけが弱くなる危険性があると考えられた。私たちは、あくまでも国が主眼であると裁判所に認識させること、そのことに腐心してきたのである。
 さらに、東電の過失を審理対象としえたのには、被害地のお膝元という地元での裁判であり、福島県やその周辺全域の原告からなる大規模な原告団だったからということも無関係ではない。各期日において(被告が主張を行う期日においても)、原告は意見陳述を行っているが、いずれの意見陳述も、聞く者の胸に強く訴えるものばかりであった。その原告の背後には、一席の空席もなく原告や支援者が傍聴しており、さらには傍聴席に入りきれなかった数百の者は付近の会場で模擬裁判に参加している。そして、裁判所はこれらを知っているのである。およそ影響がないということは考えられない。

四 国を訴えるということ

 私たちは、国を被告とすることには悩まなかった原告団・弁護団であるが、国を訴えるということのもつ意味は常に意識し、ある種の怖れを抱いている。決して生半可の気持ちで被告に加えてはいない。そしてそうである以上、法廷の内においても、外においても、国を被告にしたたたかいとして相応しい構えと内実を構築していくことが不可欠である。
 次回期日以降、国と東電の反論が本格的に始まるが、私たちは、国を被告としたたたかいとして相応しいもの、そして国を圧倒するものとすべく、他の原告団・弁護団とも意識を共有しつつ、引き続き全力で取り組む決意である。


ぜん息医療費助成制度とトヨタら自動車メーカーの社会的責任

東京支部  鶴 見 祐 策

 東京の「公害患者と家族の会」とこれを支援する「東京あおぞら連絡会」は、東京大気汚染公害訴訟の和解により創設された「医療費助成制度」の継続と充実」を求める運動に全力を挙げて取り組んでいる。
 都条例に基づくこの制度(ぜん息患者に対する医療費全額助成)は、東京都、国(政府)、首都高速、そしてディーゼル自動車を大量に製造販売した自動車メーカー七社の拠出による基金をもとに発足した。すでに都内に居住の七万七〇〇〇人にのぼる患者が認定を受けて大きな効果をあげている。
 ところが、発足の五年目を迎えて東京都は、新たな認定の打ち切りと患者に対する新たな負担を打ち出した。新たな財源の負担を求めたが、政府やメーカーからの協力が得られない。それが口実にされている。その根底には公害被害への責任回避の魂胆が透視できる。これは、かつて東京都が自らの責任を認め、敗訴判決に控訴をせず、和解に向けて積極的に取組んだ姿勢とは雲泥の差があると言わねばならない。
 公害患者と支援者は、この東京都の方針に抗議して寒風ふきすさぶ都庁前に連日の「座り込み」の行動に取り組んだ。あわせて各自動車メーカーほか燃料関連業界などにも対象を広げた新たな基金の拠出を求める要請を行ったほか、一月二四日からは、トヨタ東京本社前でも大勢の患者、支援者による「座り込み」の要請活動を本格化させている。すでに一部のメーカーからは、「社会貢献」の形ではあるが、患者の切実な要請に対して前向き態度が示され始めている。
 かつての環境基準の規制緩和や公健法の指定解除など環境行政の後退が進められ、とりわけ財界の主流を占める自動車メーカーに向けて厳しい批判が展開された時期があった。その世論を意識してと思われる。トヨタでは「社会貢献」の必要を自ら標榜するようになった。
 「トヨタの企業サイト」によると、一九二五年に創業者の豊田佐吉が「帝国発明協会」に一〇〇万円の寄付を約束した故事にまで触れて「創業当初より、トヨタは『モノづくり、車づくりをとおして豊かな社会づくり』を行うことを基本理念として社会のご支援のもと社業に努めてまいりました」とし、「しかし、一九六〇年代後半に入ると自動車の保有台数の増加が交通渋滞や交通事故の社会問題化を招くことになりました。交通環境の悪化は『いかなる企業と言えども、社会のご理解・ご支援がなければ、発展はおろか、存立すら危うくなる』ことを再認識する契機となりました」と述べている。
 そして「一九八九年に社長を委員長とする『社会貢献活動委員会』を設置。一九九五年に『社会貢献活動理念』を制定するなど着実に社会貢献活動が体制を整え、組織的に社会からの要請を評価し効果的なプログラムが展開できるよう努力してまいりました」と述べ、同社の「基本理念」として「積極的に社会貢献を推進いたします」と謳っている。その言やよし。公害被害者の救済のため、自らに課した社会貢献の責務を率先して果たすべきであろう。


国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む(一)

広島支部  井 上 正 信

憲法と安全保障防衛政策

 言うまでもないことですが、政府が策定する安全保障防衛政策は、憲法に適合することが立憲主義の要請です。国家安全保障戦略(以下安保戦略)、新防衛計画大綱(以下二五大綱)、中期防衛力整備計画(以下中期防)という三文書は、閣議決定ですから、閣僚の憲法尊重擁護義務を持ち出すまでもなく、憲法に反することを決定できません。これらは我が国の今後一〇年間ないし五年間の安全保障防衛政策を規定する基本文書となります。
 三文書は安全保障防衛政策の基本文書として、安全保障防衛政策の是非という観点から読むこともできます。私は法律家として三文書を立憲主義の観点から分析しようと思います。その際、基準となる憲法規範は憲法九条になります。

安保戦略、二五大綱、中期防の関係

 防衛大綱は抽象的な内容が多いため、防衛政策を理解するためには中期防とセットで読まなければ、具体的な中身はわからない仕組みです。二五大綱は安保戦略の防衛政策を具体化するものです。安保戦略は、「(我が国の防衛の)中核を担う自衛隊の体制整備にあたっては、本戦略を踏まえ、防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を含む計画体系の整備を図る」と述べているように、二五大綱・中期防の上位文書という関係です。
 ところが、安保戦略を策定するための有識者懇は二〇一三年九月に作られていますが、二五大綱はそれに先立ち六月には自民党提言がなされ、七月にはそれを踏まえた防衛省が中間報告を作成し、有識者懇が作られた九月当時には、二五大綱は概略ができていたので、安保戦略はいわば付け足しの観が否めません。安倍内閣もこれを忠実に実行しようとの姿勢は見受けられません。安保戦略は、冒頭から我が国の安全保障を巡る環境は厳しいと述べ、それを改善するため、安保戦略は中国と戦略的互恵関係を作り、韓国との友好関係を強化するという戦略を打ち出しているのです。ところが、靖国神社参拝と対中・韓外交を眺めると、安保戦略など無関係といわんばかりに見えます。安倍首相は、自分の個人としての政治信念を貫くことを、日本の安全や国益に優先させているのです。
 前置きが長くなりましたが、ここでは二五大綱、中期防を中心に見てゆきます。

二五大綱の特徴(二二大綱との比較で)

 二五大綱は、以下に詳しく述べるように、憲法改正を先取りし、解釈改憲、立法改憲を準備するものです。また、軍拡を指向するものです。

二 中国との武力紛争を戦うための防衛大綱

 防衛大綱は一〇年間の防衛計画を定めるものです。二二大綱からわずか三年でなぜ二五大綱なのでしょうか。この疑問が二五大綱の特徴を理解する鍵になると思います。二二大綱と比較しながらそのわけを考えてみます。
 新しい防衛大綱を策定する理由として二つの理由を挙げています。中国の脅威と北朝鮮の脅威です。この二つの脅威が三年前よりも高まったとの認識なのです。北朝鮮脅威は「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」、中国に対しては「我が国として強く懸念」と書き込んで、二二大綱よりは一層踏み込んだ脅威認識を示すのです。しかしこれだけでわずか三年後に新しい防衛大綱を策定する理由としてはいかにも根拠は乏しいように思えます。二二大綱も中国・北朝鮮の脅威を強調した防衛政策を策定していましたし、防衛大綱の末尾には必ず情勢の変化に応じて修正するとの「留意事項」があるからです。
 二五大綱を二二大綱と比較しながら読んだ最も強い印象は、二五大綱は中国との武力紛争を本気で想定し、戦う態勢を急速に作ろうとしているということです。二五大綱を読み解く一つのキーワードは「グレーゾーン事態」と思います。二五大綱では七回登場します。その意味は「領域主権や権益等をめぐり、純然たる平時でも有事でもない事態」(安保戦略一〇頁)です。ちなみに大綱には「事態」という言葉が多用されていますが、「紛争」と読み替えたほうが理解しやすいでしょう。二二大綱は一回しか出てこず、それも一般的な国際情勢として述べているだけなのです。平時でも有事でもないグレーな事態を、日本の基本的な防衛政策のキーワードにすれば、それこそ明確な防衛政策ではなく、グレーなものになります。有事でなければ防衛力の出番ではなく、警察力の出番になるはずですが、防衛政策にこれを位置づけるのですから、防衛力行使の限界がきわめて曖昧になります。
 二五大綱は、「グレーゾーン事態」を国際情勢一般にとどまらず、我が国周辺を含むアジア太平洋の安全保障環境に位置付け、さらに我が国防衛力の構築の目的、日米同盟強化に位置付けています。グレーゾーン事態とは言うまでもなく中国と日本との間の東シナ海を巡る各種紛争を意味しています。とりわけ島嶼部防衛に結び付けられています。
 防衛力の役割として「各種事態における実効的な抑止及び対処」を挙げ、具体的には五つの事態(正確には六つの事態)を挙げます。ア周辺空海域における安全確保、イ島嶼部に対する攻撃対応、ウ弾道ミサイル攻撃対応(ゲリ・コマ対応を含む)、エ宇宙空間・サイバー空間における対応、オ大規模自然災害への対応というものです。この各種事態は二二大綱と同じものを列挙していますが、グレーゾーン事態を強調する二五大綱では、アイウエの四事態は中国との武力紛争を想定していると理解できます。さらに、島嶼部防衛では、その記述内容は二二大綱とほとんど同じですが、「島嶼への侵攻があった場合には、これを奪回する。」と二二大綱にはない強い表現となって、読んだ際にドキッとしました。でも、中国軍が島嶼部を占領するということは、自衛隊による島嶼部周辺海空域での優勢が崩れて、中国軍が制海権、制空権を握っているのですから、どうやって奪回するのでしょうか。奪回部隊はみすみす撃破されるために行くようなものです。
 二五大綱に「自衛隊の体制整備にあたっての重視事項」という項目があります。これは二二大綱にもありますが、二五大綱は極めて詳細です。ここに二五大綱の特徴がよく表れていると思います。ここで強調されているのは、海上・航空優勢の確保とそのための警戒監視能力と輸送能力、指揮統制・情報通信能力です。海上・航空優勢を維持し、東シナ海での中国軍の動きを早期に察知し、機動展開能力を高めた自衛隊により、迅速に対応するという戦術のようです。海上・航空優勢と機動展開能力強化は中期防が最も重視しています。
 二五大綱、中期防は新たな能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3 MSE)導入や、防衛力の運用基盤の強化の最初に基地の「抗たん性」を挙げています。二五大綱は、中国との武力紛争で、我が国に対する中国からの航空攻撃、弾道ミサイル、巡航ミサイル攻撃を想定しているのでしょう。「抗たん性」とは、基地や防衛施設が敵の攻撃を受けても破壊を免れたり、破壊されてもすぐに修復できる能力を意味するものです。防衛力増強の項目も中国との武力紛争を想定しています。護衛艦部隊・潜水艦部隊・航空警戒管制部隊・空中給油・輸送部隊を増強すると述べているのです。
 このような防衛政策は、憲法九条の恒久平和主義に抵触するものになるであしょう。次に憲法九条とのかかわりで二五大綱を読んでみましょう。
*この原稿はNPJ通信「憲法九条と日本の安全を考える」にアップされたものです。NPJ通信を是非お読み下さい。


現代版『黒船』=TPPの恐ろしさを学ぶ

〜一・二三 団本部TPP対策PT学習会に参加して〜

東京支部  平 井 哲 史

一 本投稿の動機

 一月二三日に立教大学経済学部の郭洋春先生をお招きして団本部でおこなわれたTPP学習会に参加してきました。TPPについて私は、もっぱらどの分野・項目の関税をなくし、どういう規制を緩和するのかという問題かと思っていましたが、TPPのモデルとされている米韓FTAからTPPを考えるという郭先生のお話を聞いて文字通り愕然としました。米韓FTAの条項そのものを確認したわけではないので、又聞きの話になってしまいますが、この衝撃を早く全国に伝えて、まだこの恐ろしさを知らないと思われる方々に広げていく必要があると考え、ひとまず投稿します。

二 仕組まれている罠(1)=片面的適用

 驚いたことに、米韓FTAでは、韓国はこの協定に定める条項に従うことになっているのに、アメリカは自国の法律に従うことになっているそうです。それゆえ、アメリカだけが一方的に韓国に協定の実施を要求できることになります。こんな不平等条約ってあるんだろうか?まるで『黒船』で脅されて開国を飲まされた江戸幕府みたいな話です。

三 仕組まれている罠(2)=「ネガティブリスト」方式

 米韓FTAはいろんな項目(分野)ごとにいくつもの条項があるのですが、基本的に「ネガティブリスト」方式をとっており、自由化の対象外として列挙し忘れたものは、「書いてなかったから」として、悉く自由化の対象になり、次々と開放を迫られる事態になります。実際に韓国では、遺伝子組み換え食品は議論していなかったのに、ソウル市の給食への遺伝子組み換え食材の使用を制限する条例について、米韓FTA発効で協定違反に問われるおそれがあるという警告が出される事態になったそうです。

四 仕組まれている罠(3)=進行性ガンのような「ラチェット条項」

 しかも、自由化の対象から除外したものについても、「内国民待遇の規定の対象外として留保した措置に関し、自由化の程度を低下させない場合に限って修正できる。」とする「ラチェット条項」と呼ばれる規定が随所に入っているそうです。これにより、協定破棄でもしない限りは改定交渉のたびにずるずると開放を迫られる結果となります。

五 仕組まれている罠(4)=一方的な規制復活条項

 こうして進行性のガンのように韓国側は自由化を迫られる仕掛けがある一方で、アメリカ側には「自動車分野で韓国が協定に違反した場合、または米国製自動車の販売・流通に深刻な影響を及ぼすとアメリカ企業が判断した場合、(協定が定める)アメリカの自動車輸入関税二・五%撤廃を無効にする。」という、一方的に関税障壁を復活させられる「スナップバック条項」が盛り込まれているそうです。「深刻な影響を及ぼす」かどうかは「アメリカ企業」ができることになっているため、アメリカの自動車産業が「これは深刻だ」と言えば、アメリカ政府は一気に自動車輸入関税を復活させられることになります。

六 仕組まれている罠(5)=やりっ放しを許すサービス非設立権の認定

 通常、越境サービスを供給する場合、現地に駐在事務所あるいは現地法人の設立が求められるようですが、米韓FTAでは、国内での駐在員事務所や企業の設立または居住を義務づけてはならないとする「サービス非設立権」が定められているそうです。
 これがあると、現地法人や事務所が置かれないため、徴税はおろか、行政指導すら実質的にできなくなってしまう、問題があれば人を引き上げてしまえばつかまることもない、というやりっ放しを許しかねません。

七 仕組まれている罠(6)=ISD条項

 そして恐ろしいのは、協定に反して設けられている規制によって投資家が受けた損害についての賠償を求めて国際仲裁機関に相手国政府を訴え出ることを認める「ISD条項」が入っていることです。
 これにより外資系企業が続々と政府を訴え、その対応に追われる中で、あるいは多額の和解金を支払う事態となったり、一層の開放を迫られることになるでしょう。(このことは愛知支部の岩月団員の論考が詳しい。)

八 仕組まれている罠(7)(8)=言いがかりを許す仕掛け

 しかも、米韓FTAでは、さらに二つの仕組みが用意されているそうです。
(1)一つは、政府が直接的に資産を接収したり、物理的な損害を与えていない場合でも、「法律や規制により外資系企業の営利活動が制約された場合、間接的な接収とみなす」とする「間接接収」の規定です。そもそも規制があれば営利活動も当然「制約」を受けますから、こんな規定があれば営利企業はいいがかりに近い訴えさえ起こせることになりかねません。
(2)さらに驚くのは、協定違反がなくても、「米韓FTAの規定に基づいて合理的に期待できる利益が無効かまたは侵害を受けた場合、両国が加盟している協定による紛争解決の場に対し、提訴することが認められる場合がある」とする「非違反提訴条項」が入っていることです。この条項を活用すれば、損害がなくても、「これだけの利益が得られたはずだ」と言って訴えることができることになります。
八 米韓FTAからうかがえるアメリカ企業のための属国化協定 
 ここまでくると、まるで属国扱いです。ひるがえってTPP交渉の報道をみると、農産物の限られた項目の関税を残すかどうかくらいしかあまり報道されていません。それすら最近では怪しくなってますが、他方で日本が求めていた自動車輸入関税などは、今回のTPP交渉ではなくならない見込み、すなわち日本の製造大企業にとってのうまみすらないことが報道されています(二〇一三年一一月六日付『日刊ゲンダイ』ほか)。すでに一方的に日本が市場開放・規制緩和を要求される状態になっている上に、前述した米韓FTAに仕掛けられたような条項が入ってきたら、どんな事態になるか想像に難くありません。

九 恐ろしい罠があることを知らせよう

 国際経済学者の多くや、マスメディアに登場する「識者」の皆さんは、「乗り遅れるわけにはいかない」と言って条約締結に向けた論陣を張っています。その主要な論拠は、日本の輸出産業が市場から閉め出されてしまうというもののようですが、前述したようにアメリカが自動車の参入障壁を守ろうとしていますので前提を欠いた議論に見えます。
 また、日本国憲法七三条三号で条約について原則として事前に国会の承認を得ることとされているのは、国民の選挙で選ばれた代表によりチェックをさせるためです。ところが、TPPの交渉内容は秘密だというのですから、全くデタラメもいいところです。そもそも慌てて千ページにおよぶ英文で書かれた内容を読まされた交渉団が、そこに仕掛けられた罠を理解できているかも確実ではなく、『締結してみたらこんな不利な条項が入ってました』なんてことも起こりえます。
 国民に開示し、説明することもできないのですから、TPP交渉は手続面でも重大な問題があります。内容面だけでなく、手続面でも国民の納得に基づく国家間の合意とはなりえない今回のTPP交渉については手を引くべきです。
 郭先生のお話を聞いて、TPPの問題点は、(1)単にどの品目をどの程度開放するかだけではなく、(2)開放を強制される仕組みがいくつも組み込まれている可能性があり、(3)しかも国家間の紛争ではなく企業と国家との紛争として次々と訴えられ、譲歩を余儀なくされていくおそれがあるものであるようです。(1)にばかり目を奪われず、(1)から(3)全部の仕掛けがされている可能性があることを広く拡散する必要があると思います。TPP対策PTが拡散に足りる情報を発信していただき、全国の団員の皆様がPTの呼びかけに呼応して取り組みを広げられることを期待したいと思います。(とりあえずフェイスブックには書いたから次は何をしようかな。)


仁比聡平参院議員を迎えての団中国ブロック交流会

鳥取県支部  高 橋 敬 幸

 中国地方在住の団員は、前回の二〇一三年三月二三日、二四日の山口県祝島での交流会に引き続き、団中国ブロック交流会を、二〇一三年一二月七日、八日の二日間、鳥取県米子市の皆生温泉で開催しました。一九九九年の団総会と同じ旅館「天水」です。皆生温泉は海岸べりにあり、海に湯が沸き塩分を含んだ源泉で有名です。九州からの参加者四名を含め、弁護士、家族など総勢二二名が参加しました。
 以前から、仁比聡平参議院議員の当選祝賀会及び中国地方の団員の参議院選挙活動慰労会も兼ねて、仁比さんが参加出来るようにと、開催日を国会会期終了後としてこの日にしていたところ、特定秘密保護法案を通すために会期が延長され、仁比さんは開催日前日の一二月六日夜に参議院での採決前の唯一の反対討論を行い、参加は困難かと思われましたが、一日目の夕方駆け付けて頂きました。(オー!何と義理堅い!何と仲間思い!)
 一二月七日(一日目)は、広島県福山の井上正信団員(日弁連秘密保護法対策本部副本部長)から特定秘密保護法の問題点、反対の闘いの様子、今後の課題などについて問題提起をうけ、各地の闘いを出し合い、意見交換しました。反対運動は時期が遅くなったという問題点はありましたが、その急速性、広がり、弁護士会が果たした役割などについて大きな評価ができ、「敗北感はない。次の運動につなげよう。」と意思一致し、日本版NSCと特定秘密保護法の次に来る真打ち「国家安全保障基本法」の法案提出をさせない、成立を阻止することを議論しました。一日目は他に、憲法九条を巡る各地の運動の報告、討論をしました。
 山陰の冬の味覚「松葉ガニ」づくしの懇親会開始前の温泉タイムに仁比さんが到着し、会は俄然ヒートアップしました。懇親会では、「反対討論を昨夜し、今朝寝たのは五時。まだ頭の中はまとまっていませんが、」から始まった仁比さんの挨拶に釘付けになりました。
 参加者から各地の地酒七本が持ち寄られ、懇親会では山口県の純米大吟醸「獺祭」を楽しみました。
 懇親会の後は、客室に集り、各人の担当事件の交流や近況報告をして、お互いを激励し合いました。鹿児島の芋焼酎「森伊蔵」を飲みながら、国会報告や秘密保護法案との闘いと並んで酒談議にも花が咲きました。
 二日目は、仁比さんの熱い湯気のたっている国会報告、仁比ネットからの選挙総括・報告、鳥取県児童手当差押事件高裁判決報告、祝島・島根・玄海・岡山など各地の原発訴訟関係の報告と意見交換をしました。特に、特定秘密保護法案に対する国会での仁比さんの質問・討論には目を見張るものがあり、参加者から「このたびの国会論戦を通じて、仁比さんを当選させて本当に良かったと実感した。」との発言が相次ぎ、国会で正しいことを正面から説得力を持って堂々と主張する弁護士国会議員が是非とも必要であることを、全員で改めて確認しました。
 次回のブロック交流会を、本年七月に広島支部の担当で広島県内もしくは愛媛県辺りで開催することを決めて散会しました。
 米子市内の干潟には毎年ロシアから越冬のために白鳥が飛来していますが、二日目には写真撮影に行く人、散会後は国立公園大山(標高九〇〇mに出来た新しいレストラン、新雪を冠って太陽に輝く大山南壁)に行く人など、楽しい有意義な交流会でした。
 私は、持ち回り担当の鳥取県支部としてこのたびの交流会を企画しましたが、参加者から「温泉につかって、疲れが取れた。」「次の活動の英気を養えて良かった。」と言って頂き、開催した甲斐がありました。仁比さんや参加者から元気を頂いたことに感謝するとともに、皆生温泉でのこの交流会が仁比さんの今後の益々の活躍の一助にもなったと、喜んでいます。


団通信に全国各地からの投稿をお願いします

事務局長  山 口 真 美

 自由法曹団通信(団通信)は、毎月一日、一一日及び二一日の月三回発行しています。
 団通信は、自由法曹団と団員、団員と団員をつなぐ情報ツールです。広く団員に知って欲しい、呼びかけたい、そういった内容を載せることを目的にしています。各地の事件活動や運動のとりくみの報告によって各地の団員の皆様の活動を全国で共有できたり、憲法問題や教育問題、TPP、労働法制の改悪、司法問題などの投稿によって重要課題について団内の議論を活性化する役割も果たしています。映画や演劇、本の感想など、ちょっと一息できる話題も大歓迎です。
 団通信には、いつでも誰でも原稿を投稿することができます。広く他の団員に知って欲しい、呼びかけたい、そんなことがあったとき、ぜひ原稿をお寄せください。
 各支部のニュースと団通信にダブルポストで投稿することもできます。
 団通信の執筆の要領は次のとおりです。

* *団通信執筆要領* *

テーマ:自由
締 切:随時募集中
 毎月四日までに届いたものは当月一一日号、一四日までに届いたものは当月二一日号、二四日までに届いたものは翌月一日号に掲載するようにしています(原稿の多寡や緊急のお知らせなどの関係で多少前後することはあります)。
投稿方法:基本的にメールにファイルを添付する形でお願いします。送信先は、「jlaf@ca.mbn.or.jp」です。
字 数:一五〇〇字を一つの目途として下さい。二四〇〇字で見開き二頁になります(紙面に限りがあり、長い原稿は困りますので、一五〇〇字を目処にお願いしたいところです)。
HP掲載:原則として、自由法曹団のホームページに転載させていただきます。
 ぜひぜひ、団通信への団員のみな様の原稿をお待ちしております。


二・一〇「労働法制改悪反対をどう訴えるか?!」検討・交流会参加の呼びかけ

労 働 問 題 委 員会

 いま、安倍政権のもとで、「(1)期間制限をなくして、労働者派遣を恒常的・永続的に使えるようにする労働者派遣法の大改悪、(2)企画業務型裁量労働制の拡大、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入等の労働時間法制の大改悪、(3)限定正社員制度の導入等の解雇規制の緩和、(4)有期労働契約の無期転換権の発生時期の「五年超」からの延長」等の労働法制改悪の作業が急ピッチで進められています。
 このような中で、労働法制中央連絡会では、全国の労働法制改悪反対闘争を強化するため、下記の検討・交流会を計画しました。自由法曹団の弁護士には、全国で報告者になることが期待されています。団員、事務局の皆さんが全国から多数参加されることを呼びかけます。

「労働法制改悪反対をどう訴えるか?!」検討・交流会

○日時:二〇一四年二月一〇日(月)午後六時〜八時三〇分(早目にお集まり下さい。)
○会場:全労連会館三階会議室
         住所 東京都文京区湯島二―四―四
         電話 〇三―五八四二―五六一一
○内容:(1)報告「労働法制改悪反対をどう訴えるか?!」
        弁護士 鷲見賢一郎
      (2)討論と経験交流
      (3)労働法制中央連絡会からの行動提起
○参加者:自由法曹団の弁護士。全労連、産別、MIC、東京地評、女性団体等の役員、労働法制問題担当者。
○主催:労働法制中央連絡会
       (※ 会議終了後、懇親会を予定しています。)