過去のページ―自由法曹団通信:1479号        

<<目次へ 団通信1479号(2月11日)


井上 正信 国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む(二)
永尾 廣久 集団的自衛権と田中耕太郎
川合 きり恵 TPP学習会
―米韓FTAから見たTPPの問題点
柿沼 真利 三月九日(日)は「NoNukesDay」で脱原発の声を!!



国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む(二)

広島支部  井 上 正 信

専守防衛政策を放棄する二五大綱

一 専守防衛政策は維持されるのか

 二五大綱には、これまでの防衛大綱や防衛白書に登場する専守防衛政策の説明文章がそっくりそのまま引用されています(五頁)。これを読む限り二五大綱は専守防衛政策を維持しているとも思えますが、私にはそうは考えられません。
 二五大綱は「統合機動防衛力」という目新しい表現の防衛力構想打ち出しました。二二大綱は「動的防衛力」でした。二五大綱は「統合機動防衛力」を、「高度な技術力と情報・指揮通信能力に支えられ、ハード及びソフト両面における即応性、持続性、強靭性及び連接性も重視した統合機動防衛力」と説明します。二二大綱は「動的防衛力」を「即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力」と説明します。いずれも形容詞ばかりで、どれほどの違いがあるのか不明です。実は二つの防衛力構想にはさしたる違いはありません。二〇一三年六月の自民党提言では「強靭な機動防衛力」と表現し、「動的防衛力」は防衛力の運用に焦点を当てたものだが、その運用を担保する防衛力の質と量のことであると説明しているのです。このことから、「動的防衛力」も「統合機動防衛力」も防衛力を見る角度を変えた表現であることがわかります。「動的防衛力」については、日弁連「新防衛計画大綱についての意見書」(二〇一一年九月一五日)が、「専守防衛政策を大きく変容させるおそれがある」と批判しています。「統合機動防衛力」は「動的防衛力」以上に、中国との武力紛争を戦う態勢を作るもので、一層専守防衛政策から離れるものであると思われます。

二 専守防衛を否定する敵基地攻撃能力保有、水陸機動団新編

 二五大綱は「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力の在り方についても検討の上、必要な措置を講ずる。」と述べて、敵基地攻撃能力保有のための措置をとることを決定しました。中期防も同じ文章です。中期防は五年間の防衛力整備計画ですから、五年間で敵基地攻撃能力保有のための具体的措置を講ずる計画となります。敵基地攻撃能力のために必要な攻撃力とは、二〇〇九年版、二〇一〇年版自民党提言によると、巡航ミサイルと弾道ミサイルのことです。敵基地攻撃能力保有は、政府憲法解釈でも、法理上は保有が可能だが、専守防衛政策から保有できないとしていますし、先制攻撃にもなりかねないものです。また政府解釈では弾道ミサイルは憲法九条に反する武器であるとしています。 
 二五大綱は、中国との武力紛争を想定して、中国軍が占領した島嶼部を「奪回」するため、水陸両用作戦部隊を保有するとし、中期防は水陸機動団を新編するとしています。そのための装備としてティルトローター機(オスプレイだ)と水陸両用車、水陸両用作戦のための多機能艦(米海軍の強襲揚陸艦のことだ)を導入するとしています(多機能艦は検討の上結論を得るとする)。水陸機動団は米海兵遠征隊(MEU)がモデルです。島嶼部防衛だけではなく、アジア太平洋、さらには多機能艦に乗ってもっと遠方の戦域へも出動できるでしょう。敵前上陸を想定した戦闘部隊は、専守防衛政策からは保有できないはずです。
 二五大綱は、毎年の防衛白書に登場する専守防衛政策に関するステロタイプの表現を残してはいるものの、その内容は、専守防衛政策を否定するものになっているのです。

集団的自衛権行使の態勢を作る二五大綱

一 国際協調主義に基づく積極的平和主義とは

 二五大綱にも安保戦略にも集団的自衛権という言葉は出てきません。未だ政府の公式解釈では集団的自衛権行使はできないのですから当然です。だが、安保戦略、二五大綱は明らかに集団的自衛権行使の軍事的態勢を作ろうとしています。実態とすれば集団的自衛権行使に踏み込んでいる内容なのです。
 安保戦略は「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を国家安全保障の基本理念とし、二五大綱も、我が国防衛の基本方針としています。この概念については、いずれの文書でも何ら定義はなされていません。これでは安全保障、防衛政策の基本文書としては欠陥商品と言うほかありません。基本理念や基本方針の中心概念ですから、ここがしっかり定義されていなければ、その時々でいい加減な、もっといえば、その時々の政権が恣意的な政策を「国際協調主義に基づく積極的平和主義」だと説明することが可能になります。日本の進むべき路線の基本にご都合主義が支配することになります。政府の安保政策について、国民をごまかすマジックワードになりかねません。
 しかし安保戦略、二五大綱を読めば、その意味は軍事力を積極的に活用するということと理解できます。これまでの政策を消極的平和主義と考えたから、それとは反対の積極的平和主義を唱えているのです。これまで憲法九条の制約でできなかったことといえば、集団的自衛権行使、国連の集団的措置へ武力行使で参加すること(他国部隊の警護活動、安全確保活動、任務遂行のための武器使用)、他国軍隊の武力行使と一体化した支援、およそ個別的自衛権行使以外の場面での海外で武力行使、などでした。武器輸出も一切禁止されていました。これらを消極的平和主義と呼ぶのであれば、積極的平和主義では、これらのことができなければなりません。
 基本理念に基づき、安保戦略は国家安全保障上の戦略的アプローチ、二五大綱は我が国防衛の基本方針として、三本柱を挙げます。我が国自身の努力(能力役割強化)、日米同盟の強化、国際社会との協力という三本柱です。積極的平和主義は三本柱のいずれにも貫徹されるべき基本理念、基本方針となっています。日米同盟強化の分野での積極的平和主義が集団的自衛権行使になるのです。

二 集団的自衛権行使の態勢を準備する安保戦略、二五大綱

 二五大綱は、「日米同盟の抑止力及び対処力の強化」の項目で、日米防衛協力の指針(以下ガイドライン)見直し方針を述べています。安保戦略も同じ方針を述べています。しかし、どちらの文書にも現在のガイドラインのどこが不十分で、どのような内容に見直すのか一切言及していないのです。これも実におかしなことで、我が国の安全保障と防衛政策を規定する基本文書に言及されていないということは、これらの文書は欠陥商品と言わざるを得ません。ところが二〇一三年版自民党「防衛を取り戻す提言」がこの点を明確に述べているのです。「日米防衛協力強化のためのガイドライン見直し」という項目の中で、「『集団的自衛権』に関する議論を加速する。」と述べているからです。ガイドラインは八七年と九七年に作られましたが、いずれも個別的自衛権行使を前提にして、日米の軍事協力を定めました。ガイドライン見直しとは、個別的自衛権の制約を乗り越えて集団的自衛権行使を前提にした日米の軍事協力態勢を作ろうというものです。
 安保戦略、二五大綱はガイドライン見直し方針を記述したことに続き、日米間で「共同訓練・演習、共同の情報収集・警戒監視・偵察(ISR活動)及び米軍・自衛隊の施設・区域の共同使用の拡大を引き続き推進するとともに、弾道ミサイル防衛、計画検討作業、拡大抑止協議等、事態対処や中長期な戦略を含め、各種の運用協力及び政策調整を一層緊密に推進する。」と述べています。この一文を読んで、私はある文書を思い出しました。二〇一二年四月二七日2+2共同発表文です。民主党内閣時代に合意された米軍再編見直し合意のことです。ここで日米は、二二大綱の動的防衛力構想を、日米の防衛協力の概念に格上げしたのです。それが動的防衛協力です。これはオバマ政権の新しい国防戦略(同盟国、友好国との連携を前提に、アジア太平洋を優先させる戦略)に日本側が全面的に協力するものです。動的防衛協力と称した新たな日米防衛協力の内容がアジア太平洋地域での「共同訓練、共同のISR活動、施設の共同使用」でした。これは平時の日米協力です。平時からアジア太平洋地域で、日米が共同して(おそらくは中国海軍の潜水艦や水上艦艇に対する)ISR活動を行う態勢は、平時から情勢緊迫時、戦時にいたる各段階で日米が緊密に共同行動をとるという態勢でもあります。そのための共同作戦計画策定も進めるでしょう。二五大綱を引用した上記一文に出てくる「計画検討作業」がそれに該当します。計画検討作業とは日米共同作戦計画策定の意味で使用されてきた日米の慣用句です。このような軍事活動は周辺事態法、自衛隊法では想定されていない違法な活動になります。なぜなら、平時では周辺事態が起きたわけではないので、自衛隊は周辺事態法による米軍の後方支援はできません。共同訓練はできても、平時での共同のISR活動(これは訓練ではない)は、自衛隊法のどこにも規定されていません。周辺事態法でも共同のISR活動はできません。それは米軍の武力行使と一体化するからで、周辺事態法の別表にはありません。
 このように、安保戦略も二五大綱も集団的自衛権行使という言葉は出てきませんが、それに向けた準備を着々とすすめる方針を述べているのです。ごく近い将来の憲法解釈見直しや国家安全保障基本法制定を想定して、晴れて集団的自衛権を行使できる法制度を作った暁には、すぐにでも集団的自衛権を行使できるよう先行的に準備しようというのです。
 *この原稿はNPJ通信「憲法九条と日本の安全を考える」にアップされたものです。NPJ通信を是非お読み下さい。


集団的自衛権と田中耕太郎

福岡支部  永 尾 廣 久

和集団的自衛権の行使容認論

 いま安倍政権は、集団的自衛権の行使は認められないとする従来の政府見解をなんとしても行使容認へ切り替えようとしている。
 そのための舞台装置の一つが「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)である。昨年一二月一七日の第五会合の議事要旨を読んだとき、忘れかけていた亡霊が登場しているのに気がついて、息が詰まりそうになった。
 内閣官房副長官補がペーパーを配っている。「国連の集団安全保障措置」等について政府側がまとめた資料である。なんと、その冒頭に一九五七年に起きた砂川事件についての最高裁判決における田中耕太郎裁判長(長官)の補足意見が紹介されているのだ。
 砂川事件について、一九五九年三月の東京地裁(伊達秋雄裁判長)の判決は日本に米軍基地を置くこと、それを容認することは日本国憲法に反すると明確に判断した。この伊達判決が日米両政府に与えた衝撃はすさまじいものがあり、直ちに反撃の手だてが講じられた。その一つが跳躍上告、すなわち、本来の控訴審である東京高裁をとばして最高裁で判断してもらおうというものだった。
 このアイデア、実は、アメリカ側の示唆によるものである。そして日本の法務省・検察庁は唯々諾々と受け入れ、最高裁へ上告した。
 伊達判決のすばらしさを今ここで再確認することは、最近の安倍政権の動きをみたとき決して無意味とは思われないので、少し引用しておきたい。読めば、日米両政府があわてふためくのも無理からぬことがよく理解できると思う。
 「わが国に駐留する合衆国軍隊は、・・・合衆国が極東における国際平和と安全の維持のために・・・戦略上必要と判断した際に当然日本区域外にその軍隊を出動し得るのであって、その際にはわが国が提供した国内の施設・区域はもちろんこの合衆国軍隊の軍事行動のために使用されるわけであり、わが国が自国と直接関係のない武力紛争の渦中に巻き込まれ、戦争の惨禍がわが国に及ぶ虞は必ずしも絶無ではなく、したがって日米安全保障条約によってかかる危険をもたらす可能性を包蔵する合衆国軍隊の駐留を許したわが国政府の行為は、『政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意』した日本国憲法の精神に悖(もと)るのではないかという疑念も生ずるのである」
 「このような実質を有する合衆国軍隊がわが国内に駐留するのは、もちろんアメリカ合衆国の一方的な意思決定にもとづくものではなく、前述のようにわが国政府の要請と、合衆国政府の承諾という意思の合致があったからであって、したがって合衆国軍隊の駐留は一面わが国政府の行為によるものということを妨げない。けだし合衆国軍隊の駐留は、わが国政府の要請とそれに対する施設・区域の提供、費用の分担その他の協力があってはじめて可能となるからである。かようなことを実質的に考察するとき、わが国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用するという目的で合衆国軍隊の駐留を許容していることは、指揮権の有無、合衆国軍隊の出動義務の有無にかかわらず、日本国憲法九条第二項前段によって禁止されている陸海空軍その他の戦力の保持に該当するものと言わざるを得ず、結局、わが国内に駐留する合衆国軍隊は、憲法上、その存在を許すべからざるものと言わざるを得ないのである」
 「合衆国軍隊の駐留が憲法九条第二項前段に違反し、許すべからざるものである以上、合衆国軍隊の施設又は区域内の平穏に関する法益が一般国民の同種法益と同様の刑事上、民事上の保護を受けることは格別、とくに後者以上の厚い保護を受ける合理的な理由は何ら存在したいところであるから、国民に対して軽犯罪法の規定よりも特に重い刑罰をもってのぞむ刑事特別法二条の規定は、…何人も適正な手続によらなければ刑罰を科せられないとする憲法三一条に違反し無効なものといわなければならない」
 ところが、最高裁は一九五九年一二月一六日、米軍基地は憲法違反の存在ではないと判決して「決着」がついた。そして、そのときの最高裁長官は田中耕太郎であり、判決に補足意見を付した。それが先に紹介した、冒頭の資料となっている。
 田中耕太郎は、この補足意見において憲法九条二項があっても国際協同体内の平和と安全の維持の手段は行使しうるかのように主張している。それが、集団的自衛権行使を容認する論拠の一つとされている。
 そもそも、田中耕太郎の補足意見なるものを、政府が「有識者」による価値ある意見と扱ってよいのか、私は根本的な疑問を抱いている。なぜ、疑問なのか。それは、この間の一連のアメリカ国立公文書館の資料が掘り起こされた結果にもとづいている。それを紹介した最新作が次の本である。

『砂川事件と田中最高裁長官』

 この本(布川玲子・新原昭治、日本評論社)は、日本に司法権の独立なんて実は昔からなかったということを暴露している。この本のサブタイトルは「米解禁文書が明らかにした日本の司法」である。
 今から五〇年以上も前の話ではあるが、ときの最高裁長官・田中耕太郎は最高裁の合議状況を砂川事件における実質的な当事者というべきアメリカ政府にすべて報告し、その指示どおりに動いていたのだった。
 この本はまず、そのことが明らかになった経過を明らかにしている。
 砂川事件に関するアメリカ政府の解禁文書が日本で明らかにされたのは、この本の著者の一人である新原昭治氏がアメリカ国立公文書館(NARA)で二〇〇八年に発見した一四通の資料に始まる。その後、二〇一二年に末浪靖司氏が同じくNARAで二通の資料を発見し、二〇一三年に、もう一人の著者である布川玲子氏がアメリカ情報自由法にもとづく開示請求で入手した資料一通によって、一審の伊達判決が日本とアメリカ両政府に与えた衝撃、安保改定交渉に与えた影響、そして跳躍上告に至る経緯をリアルタイムに知る手がかりが得られた。このなかに、田中耕太郎・最高裁長官が自らアメリカへ最高裁内部の情報を提供していたことを明らかにする資料がふくまれていた。
 ダグラス・マッカーサー駐日大使が本国へ送っていた電報がコピーとともに紹介されている。このマッカーサー大使は、かの有名なマッカーサー将軍の甥にあたる人物。よくぞ、こんなマル秘電報が開示されたものだ。昨年一二月に強行採決によって成立した日本の特定秘密保護法では、このようなマル秘電報の電文が将来、開示されるという保障は、残念ながら、ない。
 「内密の話し合いで、田中長官は、日本の手続きでは審理が始まったあと、判決に至るまでに少なくとも数ヶ月かかると語った」(一九五九・四・二四)
 「共通の友人宅での会話のなかで、田中耕太郎裁判長は、砂川事件の判決はおそらく一二月であろうと考えていると語った。
 裁判長は、争点を事実問題ではなく、法的問題に閉じ込める決心を固めていると語った。彼の一四人の同僚裁判官たちの多くは、それぞれの見解を長々と弁じたがる。
 裁判長は、結審後の評議は実質的な全員一致を生み出し、世論をゆさぶる素になる少数意見を回避するようなやり方で運ばれることを願っていると付言した」(一九五九・八・三)
 「田中裁判長は、時期はまだ決まっていないが、最高裁が来年の初めまでには判決を出せるようにしたいと語った。
 裁判官のいく人かは、手続き上の観点から事件に接近しているが、他の裁判官たちは法律上の観点からみており、また他の裁判官たちは憲法上の観点から問題を考えていることを田中裁判長は示唆した」(一九五九・一一・五)
 自ら合議の秘密を漏らしていたにもかかわらず、まったく厚かましいことに田中耕太郎は一九五九年一二月一六日の判決後の記者会見において、「判決は政治的意図をもって下したものではない。アカデミックに判決を下した。裁判官の身分は保障されており、政府におもねる必要はない」などと高言した。
 田中耕太郎にとって、合議の「秘密の漏洩」は問題ではなかった。なぜなら、アメリカとは共同関係にあるのだから・・・。この田中耕太郎は、『裁判所時報』において、「ソ連・中共は恐るべき国際ギャング」と公言していた。
 しかし、このような田中耕太郎の言動は裁判所法七五条などに明らかに反するものであり、現職の裁判官なら即刻、罷免すべきものであることは明らかだ。そして、少なくとも最高裁長官としてふさわしくなかった人物だとして、裁判所の公式文書に明記すべきだと思う。
 そんなこともできない日本の最高裁であれば、司法権の独立を主張する資格はないものと確信する。この本は日本の司法の実態を知るうえで欠かせない貴重な文献として、一読を強くおすすめしたい。
 そして、安倍政権のすすめている集団的自衛権行使容認への動きは明らかに憲法違反であることに確信をもてる文献ともなっている。


TPP学習会
―米韓FTAから見たTPPの問題点

東京支部  川 合 き り 恵

 立教大学経済学部の郭洋春教授を講師としたTPP学習会に参加した。
 TPPは交渉内容が秘密とされている。日本の団体がTPP交渉に参加する前に、米国にTPP交渉の情報を求めに行ったとき、米政府高官は「米韓FTAはミニTPPである」と述べ、米韓FTAを学ぶように述べたそうだ。そこで、TPPを知るために米韓FTAを学んだ。

一 米韓FTAの内容と問題条項

 米韓FTAの特に問題となる条項は以下の通りである。

・ネガティブ・リスト方式

 →交渉の際話題に上がらなかった品目は、全て無関税になる。

・ラチェット条項

 →一度関税を下げたら、将来上げることができない。

・ISD条項

 →提訴された国家は、国際仲裁機関による仲裁に応じなければならない。

・未来最恵国待遇

 →今後米韓FTA以上に自由化を進めた条約を他国と締結した場合、その条約が米韓間にも適用される(ただし、韓国にのみ適用)。

・間接接収

 →政府の法律や規制で外資系企業の営利活動が制約された場合、間接的な接収があったとみなし、被害の賠償を求めて提訴することができる。

・サービス非設立権の認定

 →米国企業が韓国に進出する際、韓国で法人登録する必要がない。韓国は税金を徴収することができない、違法行為を規制することができない。

・非違反提訴

 →米韓FTA義務違反といえなくても、合理的に期待できる利益を得られなかった場合、紛争解決の場への提訴が認められる。

・スナップバック条項

 →ラチェット条項の例外。自動車輸入関税二・五%を撤廃したことにより米国企業が深刻な影響があると判断した場合等は、撤廃を無効にできる。

 米韓FTAの序文には、韓国企業が米国に進出する場合は米国の国内法が適用されるが、米国企業が韓国に進出する場合は米韓FTAが適用されるとの文言がある。米韓FTAは圧倒的に韓国にのみ不利な不平等条約であった。
 しかも、米韓FTAでは、国際仲裁機関への提訴を認めているが、国際仲裁機関の判事自らが米国法務省より圧力を受けて米国に有利な判断を下したことがある事実を発表した例もあり、国際仲裁機関は中立公平な判断をする場所と期待することはできない。
 上記のような不平等条約を、韓国がなぜ締結したのかとの疑問が出るが、安全保障上必要であると大統領が議員を説得したとのことであった。

二 米韓FTA発効後の主な出来事

 米韓FTA発効後の韓国では、特に非関税分野の打撃が大きかった。二〇一二年四月には経済自由区で自由診療が許可された(医療)。同年六月にはBSEが発生したが、ISD条項をおそれて十分な調査ができず、輸入を継続した(食の安全)。同年一〇月、経済自由区域内で営利病院開設のための施行規則が公布された(医療)。同年一一月、ローンスターがISD条項を発動した(ISD)。二〇一三年一二月、韓国版エコカー減税制度が二年間延期された(公共政策)等。
 関税分野では関税の下落により二〇一二年の米国産牛の輸入量は過去五年間の平均より約五〇%増え、牛農家が深刻な被害を受けた。

三 米韓FTAの問題点=TPPへの教訓

 TPPでは日本経済は成長しないどころか、日本の法律・制度・習慣が、アメリカ企業に都合の良いように変えられてしまう。米韓FTAによって、実に韓国の法令六六が改正されたが、米国の法令は一つも変わらなかった。
 企業の自由な経済活動と市場へのアクセスというアメリカ的企業倫理が最優先される経済社会構造が作られることが問題である。
 日本の政治家はここまで深刻な事態になることを単純に知らないのではないかと郭教授は述べ、米韓FTAが国家主権を害するという問題点を韓国で最初に指摘したのは弁護士であることからも、弁護士への期待を述べられた。取り返しのつかない事態にならないよう、米韓FTAを通じてTPPの問題点を把握し、共有し、行動していく必要があると強く感じた。


三月九日(日)は「NoNukesDay」で脱原発の声を!!

東京支部  柿 沼 真 利

 二〇一一年三月一一日の東日本大震災、そして、これに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故から、まもなく三年という月日が経とうとしています。
 この事故により、故郷をおわれ、困難な避難生活を強いられている方々は、なお一四万人にのぼるとされています。また、事故現場は、収束どころか、混迷の度を深めています。爆発した一〜三号機では、放射線量のため、溶けだした燃料の所在、現状はもとより、原子炉格納容器の状態確認すらできない状態が続いており、原子炉建屋への地下水の流入と、原子炉からの冷却水漏れにより、高濃度の汚染水が大量に流れつづけて、その減量化、処理のめども立っていません。海洋汚染も含めた深刻な事態に至っています。爆発を免れた四号機からの使用済み核燃料棒の取り出しが始まりましたが、一〜三号機では燃料の存在場所さえ特定できず、原子炉の廃炉、解体の目途さえ立っていない状況です。
 しかし、現政府は、なお、原発再稼働、原発輸出など、原発政策の推進を目論んでいます。経済産業省の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会策定の「エネルギー基本計画」では、原発を「重要なベース電源」と位置付けており、政府はその閣議決定を狙っています。

そ・こ・で、「NoNukesDay」です!!

 「NoNukesDay」は、昨年の六月二日、一〇月一三日と二回行われ、大成功を収めました。同行動は、「首都圏反原発連合」「さようなら原発一〇〇〇万人アクション」「原発をなくす全国連絡会」の三者が合同で、統一行動を呼びかけるものです。
 本年三月一一日の三周年を前に、三月九日(日)、三度、「NoNukesDay」を開催します。場所は、日比谷野音(大音楽堂)・国会議事堂周辺です。
 昨年九月一五日以降現在まで、日本は、「原発稼働ゼロ状態」が続いています。これは、多くの国民の「脱原発!!」を求める「声」により達成した成果であると確信します。
 団員の皆さん、ぜひぜひ、ご参加下さい!!
 当日は、プラカード、旗など持参の上、大いに「声」を挙げましょう。
 出来ましたら、日比谷公園内の「図書館前」辺りにお集まりください。
 なお、詳細は以下の通りです。

 0309 NO NUKES DAY
 原発ゼロ☆大統一行動
 〜福島を忘れるな!再稼働を許すな!〜

【日時】二〇一四年三月九日(日)
【場所】日比谷野音(大音楽堂)・国会議事堂周辺
*アクセス
○「日比谷公園」最寄り駅:地下鉄日比谷線「日比谷駅」、地下鉄丸ノ内線・千代田線・日比谷線「霞ヶ関駅」、地下鉄三田線「内幸町駅」
○「国会議事堂」最寄り駅:地下鉄有楽町線「桜田門駅」、地下鉄丸ノ内線、千代田線「国会議事堂前駅」、地下鉄丸ノ内線・千代田線・日比谷線「霞ヶ関駅」、地下鉄有楽町線・半蔵門線・南北線「永田町駅」
【タイムテーブル】
 <<第一部>>
 一三時〇〇分〜 大集会 *場所:日比谷野外音楽堂
 一四時〇〇分〜 巨大請願デモ/国会大包囲 *日比谷公園出発で「請願デモ」と「国会包囲」を同時に行います。
 主催:首都圏反原発連合/さようなら原発一〇〇〇万人アクション/原発をなくす全国連絡会
 <<第二部>>
 一五時三〇分〜一七時〇〇 国会前大集会
 主催:首都圏反原発連合