<<目次へ 団通信1480号(2月21日)
宮川 泰彦 前川 雄司 齊藤 園生 |
東京都知事選での宇都宮弁護士への支援の御礼 |
松本 育子 | 日産自動車事件が結審 〜二〇一四・三・二五判決言渡しを前に |
井上 正信 | 国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む(三) |
野口 景子 | 給費制復活へ向けた新たな波―超党派の結成を |
田井 勝 | 「労働法制改悪反対をどう訴えるか?!」 |
山下 潤 | 福島県の被災者を棄民させないための運動 平成二六年二月九日、福島県で釣りを楽しむ会が主催した「釣りと環境シンポジウム」に参加してきました。 |
笹山 尚人 | 東京法律事務所主催 「被害者が語る、原発事故被害の現在」はいつもと違う大成功でした |
長谷川 悠美 | 「東京法律事務所、原発事故での被害者の支援について、取り組み報告」 |
飯田 美弥子 | みややっこからお知らせ |
太田 啓子 | ファッション誌「VERY」三月号(光文社)に出ています! |
田中 隆 (秘密保護法プロジェクト責任者) |
緊急出版と報告集のご活用を秘密保護法の闘争を発展させるために |
東京支部支 部 長 宮 川 泰 彦
幹 事 長 前 川 雄 司
事務局長 齊 藤 園 生
二月九日に実施された東京都知事選挙において、団と東京支部が支援決定した宇都宮健児氏(日本弁護士連合会前会長)は残念ながら勝利には至りませんでした。
開票結果の概要(得票・得票率)は次のとおりです。
舛 添 要 一 二一一万二九七九票 四三・四〇%
宇都宮 健 児 九八万二五九四票 二〇・一八%
細 川 護 煕 九五万六〇六三票 一九・六四%
田母神 俊 雄 六一万〇八六五票 一二・五五%
なお、前回二〇一二年の開票結果の概要は次のとおりでした。
猪 瀬 直 樹 四三三万八九三六票 六五・二七%
宇都宮 健 児 九六万八九六〇票 一四・五八%
松 沢 しげふみ 六二万一二七八票 九・三五%
笹 川 たかし 一七万九一八〇票 二・七〇%
全国の団員の皆様には募金や支持拡大などさまざまなご支援をいただき、ありがとうございました。
猪瀬直樹前都知事が徳洲会グループからの五千万円の不明朗な資金提供について東電病院売却の賄賂ではないかと追及され、十分な説明もなく都政を投げ出す中で、団は昨年一二月二一日の常任幹事会で「四つの柱」の政策((1)脱原発、(2)格差・貧困の克服、(3)教育の再生、(4)憲法の生きる東京)を掲げる候補の支持を決定し、団東京支部も同月二六日の臨時幹事会で「四つの柱」の政策を掲げる候補を支持し当選のために全力で支援することを決定しました。
前回の都知事選挙に「四つの柱」の政策を掲げて立候補した宇都宮健児弁護士が本年一月六日に正式に出馬を表明し、「四つの柱」の政策を発展させた次の政策を発表しました。
一 基本政策
(1)世界一働きやすく、くらしやすい希望のまち東京をつくります。
(2)環境重視、防災・減災重視のまち東京をつくります。
(3)原発再稼働・原発輸出を認めず、原発のない社会と経済を東京からめざします。
(4)教育現場への押し付けをなくし、いじめのない、子どもが生き生きと学べる学校をつくります。
(5)安倍政権の暴走をストップし、憲法を守り、東京からアジアに平和を発信します。
二 特別政策
(1)オリンピック政策
環境に配慮したシンプルなオリンピック・パラリンピックを実現する。災害の被災者と原発事故の被害者に受け容れられ、アジアの平和につながる真の平和の祭典を実現する。
(2)猪瀬前都知事の問題
猪瀬問題を徹底的に究明し、カネと利権の東京から訣別する。
出馬表明を受けて、日本共産党、社会民主党、緑の党や「革新都政をつくる会」が、宇都宮氏を推薦することを表明しました。
団東京支部は一月二二日に「宇都宮けんじさんとともに『希望のまち東京』へ 一・二二集会」を開き、宇都宮さんを含めて一〇一人の方々が参加して決起集会を成功させていただきました。
団東京支部、支部団員と事務局員は次のような行動提起に基づいて諸活動に取り組みました。
一 宇都宮さんの当選のため、各事務所が事務所全体で取り組もう。
二 各事務所で支持拡大目標を決めて、支持拡大に取り組もう。
三 街頭宣伝を行って宇都宮さん当選のムードを盛り上げよう。
四 各事務所のホームページや各弁護士・事務局のブログ、フェイスブック、ツイッターなどを活用してネット選挙に旺盛に取り組もう。
五 支持拡大とあわせてカンパを集めよう。
六 支持拡大の到達点や活動の状況、反応や工夫などを団支部に寄せていただき、FAXニュースやメーリングリストで交流し、団支部全体で選挙戦に取り組もう。
また、「希望のまち東京をつくる弁護士の会」のアピールに全国から三二〇名の弁護士の賛同が寄せられ、人権・環境・平和のために活動する弁護士・弁護団が支援の文章を寄せ、裁判所前などでの街頭宣伝が行われました。
さらに、団と団東京支部は「希望のまち東京をつくる会」の法規対策に協力し、世田谷選管によるポスター撤去命令に対し、「希望のまち東京をつくる会」と全国革新懇と団東京支部が世田谷選管に申し入れをしたり、「希望のまち東京をつくる会」の街頭活動に団員が立ち会うなど、選挙活動等の自由を広げ、妨害や弾圧と闘う活動を行いました。
それらの貴重な経験やつながりを今後の活動に生かし、「希望のまち東京」をぜひ実現したいと思います。
なお、寄付金控除を受けるためには次のような手続が必要とのことです。
公職選挙法により皆様方から二〇一四年一月一日より二〇一四年一二月三一日までに、「希望のまち東京をつくる会」指定の「振込先口座」にお振込みいただいた金額が対象となります。
寄付金控除を受けるためには、「希望のまち東京をつくる会」が寄付者の(1)氏名、(2)住所、(3)職業、(4)寄付金額、(5)寄付年月日を記載した「寄付金控除のための書類」を作成し、総務省に提出する必要があります。
この書類が必要な方は、送金後に上記必要事項(1)から(5)およびどの銀行口座にお振込されたかを明記して、
メール:kifu@utsunomiyakenji.com
または
FAX:〇三(三三五一)五〇五五にお送りください。
これらの内容が明確な方、かつ五〇〇〇円以上の寄付金をいただいた方を対象に「寄付金控除のための書類」の作成をいたします。
その他、詳細は「希望のまち東京をつくる会」のホームページ
http://www.utsunomiyakenji.com/support/kifu.html
をご覧ください。
神奈川支部 松 本 育 子
これまでどれだけの道のりを走り続けてきただろうか。思い返せば、二〇〇九年二月の自由法曹団神奈川支部総会で、二〇〇八年秋のリーマンショックを契機として間近に迫っていた非正規労働者の大量解雇の動きに備え、神奈川支部として労働者から相談を受け、弁護団を組んで闘おうということになり、すぐに私は日産自動車事件弁護団の一員となった。弁護団では何度も白熱した議論を交わし、無我夢中で訴状を書き、二〇〇九年五月一二日、原告五名で、日産自動車ないし日産車体に対し地位確認等を求め、横浜地方裁判所に提訴した。日産自動車事件の提訴が、私には弁護士としての第一歩でもあった。
二七回に及ぶ弁論期日は毎回満席の傍聴席で埋められ、二〇一三年一一月二一日、弁護団は最終準備書面を提出、期日において代理人四名と原告一名が意見陳述をして結審した。
いよいよ、二〇一四年三月二五日午後二時、一〇一号大法廷で判決が言い渡される。
一 事件の概要
原告二名(グループI)は、日産自動車デザイン本部テクニカルセンターにおいて、約六年もの長期にわたり日産自動車に派遣され、同社の指揮命令下に正社員同様、自動車デザイン業務を遂行し、就労し続けてきた。原告らは、いずれも日産自動車による個人情報収集の上、デザイン画の作品集を持参させての事前面接で、十分な能力審査を経て採用と所属部署が決定された。以後、原告らは長年、正社員同等の能力を発揮して働き続け、業務内容とそれに対応する賃金も日産自動車が決定してきたが、突然、二〇〇九年三月末での解雇を通告された。
また、原告二名(グループII)は、日産車体の製造工場で期間工として働き続けてきたが、リーマンショックを理由に二〇〇九年三月末で雇止めされた。内一名は、「期間工―派遣―期間工」というように、いわゆる「地位のキャッチボール」を繰り返されながら、約六年もの長期間働き続け、本来解雇権濫用法理が類推適用されるところ、日産車体は黒字経営であったにもかかわらず、原告らを含む期間工を全員一斉に雇止めした。
そして、原告一名(グループIII)は、製造業派遣として日産自動車に派遣され、同様に期間工と派遣の間で「地位のキャッチボール」をされながら同じ職場で働き続け、正社員登用試験を受ける話も出ていたが、労働災害を申告した途端、突然派遣切りされてしまった。
二 二〇一二年の忌避申立て、そして二〇一三年、五期日に及ぶ証人尋問へ
二〇一二年春、証人尋問期日の設定、証人採用をめぐり不公正な訴訟指揮が行われたことに対して裁判体全員を忌避する事態となり、裁判手続は中断したが、その四か月後には、弁護団の要請をふまえ、あらためて証人尋問期日を決め直すこととなった。その結果、二〇一三年三月から七月まで、毎月一回のペースで五回の証人尋問期日を設定することが決まった。以後、原告五名の陳述書作成、証人尋問・当事者尋問に向けた準備、打ち合わせ、会議、そして尋問調書を読み込んでの最終準備書面作成へと、弁護団のメンバーは皆、息つく間もない日々へと走り出した。
三 本訴訟の審理で明らかとなったこと
(1)日産自動車、派遣会社テンプスタッフテクノロジー、日産車体の社員らの尋問を通じて、被告らの違法行為の数々が明らかとなった。そして、それらひとつひとつの違法行為は過失により偶然生じたものではなく、すべて会社としての組織的な脱法意図に基づき行われてきた実態についても明らかになったと考えている。
(2)具体的には、グループIでは、日産自動車による事前面接での採用決定、賃金決定への関与(賃金交渉のやり取り)、正社員と同じ労務管理システムと三六協定に反する長期恒常的な残業指示の実態、就労可能期間規制及び直接雇用申込義務の脱法、さらには、日産自動車による解雇対象者の人選が行われたこと等、まさに日産自動車こそが終始一貫して自ら使用者として行動してきた事実の数々を立証し、松下PDP最高裁判決がいう派遣労働契約を無効とすべき「特段の事情」が存在し、日産自動車との間に黙示の労働契約が成立することを明らかにした。
グループIIでは、日産車体が期間工と派遣の間で組織的、大々的に「地位のキャッチボール」を行って非正規労働者を長期恒常的に利用してきた実態を詳細に明らかにし、かかる日産車体の行為が解雇権濫用法理の脱法として許されないこと、日産車体は黒字であり人員削減の必要性は全くなかったため、原告らに対する解雇は解雇権の濫用として無効であることを明らかにした。
グループIIIでは、一時的臨時的労働力であるはずの派遣労働者を、日産自動車が主導して、期間社員との「地位のキャッチボール」を繰り返しながら、同一の職場で長期恒常的な熟練の労働力として安価で使用し続け、解雇の局面では、自ら雇用主としての責任を免れようとした脱法行為の実態を明らかにした。しかも、原告は労働災害の申告をした途端に解雇され、職場から追い出されており、かかる解雇が無効であることはもちろん、被告らの悪質な行為は決して許されるものではない。
(3)本件の特徴として特筆すべきことは、以上に述べてきたとおり、日産自動車、日産車体等被告らによる異常なまでに多くの派遣法違反、各種法令違反の存在である。これらの法違反の数々は、日産グループが、派遣法等の趣旨に反し、脱法目的で非正規労働者を常用労働の代替として長期間使い続けたことの当然の帰結であるといえよう。しかも、これら数々の違法行為は、一九九〇年代後半から二〇〇九年までの長期間、日産自動車デザイン本部テクニカルセンターにおいても、日産自動車の製造工場においても、さらには、日産車体の製造工場においても常態として行われていたことが明らかとなった。被告らが、異常なまでに多くの違法を組織的に犯しながら非正規労働者を常用労働の代替として使ってきた事実の背景には、正社員であれば当然適用される解雇権濫用法理により解雇が制限されるため、その規制をかいくぐろうとする悪質な意図があったことは明白である。
四 今後に向けて
「職場に戻って働き続けたい。」〜ある日突然、解雇を告げられた原告五名の職場復帰の思いを実現したい。理不尽な解雇を許せないという気持ちからの出発だった。これまで何度も準備書面を書きながら白々と夜が明けることがあったが、二〇一三年一一月に最終準備書面を書き上げるまでが、最もつらく苦しい日々だった。結審の期日に行った意見陳述は、五年間の思いが凝縮したものだったと思う。
今、私は、原告、弁護団の先生方、組合、関係者の皆さんから多くのことを教えていただき、一緒に汗をかきながら進んできた道のりを、心から誇りに思っている。判決言渡しの日には、「勝訴」の文字を掲げたい。
弁護団(実働)は、岡村共栄、高橋宏、藤田温久、近藤ちとせ、田井勝、北神英典、高橋由美、清水俊、中尾繁行、山根大輔、松本である。
広島支部 井 上 正 信
憲法九条に反する防衛政策
二五大綱は他にも憲法九条に反する防衛政策を定めています。
一 PKO参加五原則の見直し等
二五大綱は、国際平和協力活動等につき「幅広い分野における(自衛隊)派遣を可能にするための各種課題につい検討を行い、必要な措置を講ずる。」と述べています。各種課題とは何か。二五大綱を準備する防衛省中間報告は、警護活動、治安維持活動、宿営地の共同防衛などを挙げて、そのための各種態勢検討の必要性を述べています。つまり各種課題とは、現在の国際平和協力活動において憲法九条の武力行使禁止原則からできないとされている、警護活動、安全確保活動、駆けつけ警護やそのための武器使用権限の拡大(任務遂行のための武器使用、対人殺傷に刑法三六条、三七条の要件をはずすなど)、他国軍隊支援のための武力行使一体化論の見直しを意味しているのです。二五大綱は、自衛隊の体制整備の重視事項で、国際平和協力活動等において「任務遂行のために必要な防護能力を強化する。」と述べて、任務遂行のための武器使用を前提に、相手からの攻撃に対する防護力強化の方針まで示しています。自衛隊海外派遣恒久法の制定も含まれるでしょう。自民党の「防衛を取り戻す提言」でそれを述べているのです。二二大綱は「国連平和維持活動の実態を踏まえ、PKO参加五原則等我が国の参加のあり方を検討する」と述べていますが、二五大綱はさらに踏み込んで「必要な措置を講ずる。」と述べて、解釈改憲、立法改憲をより明確にしているのです。
二 武器輸出三原則の撤廃
安保戦略も二五大綱も武器輸出三原則を撤廃してこれに代わる新しい原則を定めるとしています。二二大綱が、防衛装備品の国際開発の流れを指摘しながら「このような大きな変化に対応するための方策について検討する。」と、武器輸出三原則という言葉も敢えて出さずに述べて、暗に見直しの方向性をおずおずと示していたことと比較すると、二五大綱は明確に見直しを方針を示したことで、解釈改憲の方向性を明確にしたといえます。武器輸出三原則は憲法九条の精神に則った日本の基本的な外交方針で、日本の平和国家としてのブランド力を支えてきたものです。
三 国家安全保障基本法案(概要)の先取
国家安全保障基本法案(概要)は、集団的自衛権行使や自衛隊海外派遣恒久法の制定、武器輸出三原則の撤廃を規定していますが、安保戦略、二五大綱、中期防はこの法案を先取りするものとなっています。国家安全保障基本法案(概要)は、単に集団的自衛権行使を可能にする法律というだけではありません。日本の国の形を変え、私達の生活全般にわたり、軍事優先の価値が支配します。戦争ができる国作りの重大な法案です。自民党改憲草案の先取りでもあります二〇一三年四月一日アップした「国家安全保障基本法案の制定と憲法九六条の改正を許してはならない」をお読み下さい。
軍拡を進める二五大綱
二五大綱の大きな特徴は、軍拡方針を掲げたことです。二二大綱は「効率的・効果的な防衛力整備」の項目で、「格段に厳しさを増す財政事情を勘案し、一層の効率化・合理化を図り、経費を抑制する」と軍縮方針を示していました。二五大綱にはこのような記述はありません。逆に統合機動防衛力を構築するため、「『質』及び『量』を必要かつ十分に確保」と軍拡方針を明確にしました。具体的には「増強された護衛艦部隊」「増強された潜水艦部隊」「増強された航空警戒管制部隊」「増強された戦闘機部隊」「増強された空中給油・輸送部隊」を保持すると、軍拡のオンパレードです。いずれも中国との武力紛争を想定した軍備の増強分野です。中国との間で東シナ海での武力紛争を想定すれば、海上・航空優勢を確保することが不可欠です。ところが二五大綱は、これに付け加えて陸上自衛隊の機動展開能力を重視します。尖閣諸島のように平地のほとんどない岩礁へ陸自部隊を機動展開することは考えられません。沖縄本島や宮古島、石垣島などの先島諸島へ機動展開するのでしょうか。それは中国軍に占領される可能性を考えているのかも知れません。占領された島嶼部を奪回するというのですから。この軍事的想定は恐ろしいものです。
二五大綱を作った防衛官僚の本音は、外の箇所では、戦車や火砲を削減する内容になっているので、海上自衛隊や航空自衛隊の戦力を増強するだけでは陸上自衛隊の不満が出るので、陸上自衛隊も戦力を増強するということを書き込んだのではないかと思います。
結論
二二大綱策定からわずか三年経過した今、なぜ新しい防衛大綱なのかという最初の疑問の答えは明らかになったと思います。安保戦略、二五大綱、中期防はいずれも安倍内閣が目指す解釈改憲、立法改憲を安保防衛政策の分野で準備、先取りをするものだということです。それはすなわち、憲法や自衛隊法などの防衛法制にも反して、立憲主義原理も否定するものです。二五大綱も安保戦略も国会で審議されるものではありません。内閣が閣議決定するだけですから、市民の関心もそれだけ薄いものがあります。今年は憲法改正を巡る重要な正念場になるはずです。その中心が集団的自衛権行使の憲法解釈見直しと、国家安全保障基本法の制定です。そのような事態になる前から既にその先取りが始まっています。国会審議のなされない安保戦略や二五大綱に反対してそれを撤回させるということはできないでしょう。しかし、集団的自衛権行使の憲法解釈見直しと、国家安全保障基本法の制定への反対運動を準備する上で、安保戦略と二五大綱の中身をしっかり理解して、批判することは重要と思います。
*この原稿はNPJ通信「憲法九条と日本の安全を考える」にアップされたものです。NPJ通信を是非お読み下さい。
東京支部 野 口 景 子
一 政府の動き
パブリックコメントで大多数を占めた「給費制復活を」との声を無視して、政府は、昨年七月、「貸与制を前提」に修習生の「経済的支援」を行うとの方針を示した(法曹養成制度関係閣僚会議)。
それを踏まえ、現在、政府内では新たに法曹養成制度改革顧問会議が立ち上げられ、法曹養成制度全般について議論がされている。給費制の問題は、顧問会議の下部機関である法曹養成制度改革推進会議で検討されているが、貸与制を前提に、実務修習地への移転料の支給、集合修習中の入寮の確保、さらに兼業禁止の運用緩和という三つの措置で「経済的支援」は事足りるというのが、当初の推進会議の態度だった。
二 自民党から異論が
ところが、今年に入って、以外な場所から異論が唱えられた。
自民党内に設置されている司法制度調査会が、推進会議に注文を付けたのだ。
もともと、司法制度調査会は、昨年六月に発表した中間提言の中で、修習生に対する経済的支援として給費制の復活も選択肢から排除していなかった。政府が設置した検討機関に対し与党から注文が付けられるという、少し珍しい現象が起きていたのだ。
しかし、この半年間、政府は、司法制度調査会からの問題意識に明確な答えを用意することなくやり過ごしてきた。そうしていたところ、ついに司法制度調査会が「いったい、いつ、どうするつもりだ?」と強く迫ったのだ。
司法制度調査会に問いただされ、推進会議は、現在、経済的支援のあり方を再度検討すべく、対応に追われている。
三 超党派の議連を目指して
さらに、一月三〇日、日弁連やビギナーズ・ネット等が共催した院内集会では、自民党の保岡興治議員が、経済的支援は三つの措置では足りないこと、方向性は「皆さん(=集会参加者)と一緒」であること、超党派で取り組む必要があることを明言した。司法制度調査会の顧問である保岡議員の発言は嬉しい驚きだった。
従来、給費制復活にかなり後ろ向きであったものの、考えが変わったという議員は相当数現れ始めている。
この好機を逃すことなく、すべての政党に所属する議員から理解を得る必要がある。日弁連では団体署名を継続して行っており、ビギナーズ・ネットも議員要請を強化している。
四 団員の皆様へのお願い
給費制復活の活動に取り組むメンバーの間では「潮目が変わった」と言われる今、各地団員の皆様には以下の二点をお願いしたいと考えています。
(1)日弁連が実施している団体署名に引き続きご協力ください!
団体署名は、当初、一月末を締切としていましたが、二月末を目途に締切を延長しています。二月末を過ぎても日弁連にお送りいただければ、給費制復活まで活用させていただきます。是非、繋がりのある団体への呼びかけをお願いいたします。
(2)各地での議員要請にもご協力ください!
現在、日弁連、各単位会では、議員要請を強化しています。様々な活動を通じて議員要請の経験豊富な団員の方も大勢いらっしゃると思います。是非、各地で、与野党問わず、給費制復活を求める議員要請にご参加ください。
事務局次長 田 井 勝
一 本年二月一〇日、全労連会館において「労働法制改悪反対をどう訴えるか?!」検討・交流会が開催されました。
この会は、現在の様々な労働法制改悪の動きをどのように国民世論に訴えていくか、という点について、弁護士と労働組合等の運動体で議論しよう、との観点で開催されました。団員の弁護士をはじめ、全労連や全国一般等の組合員の方々、各民主団体や国会議員秘書等々、合計四二名が参加し、二時間以上もの間、熱く議論が交わされました。なお、団員は合計二一名(弁護士・事務局員)が参加しましたが、若手団員が多数参加していたのは印象的でした。
労働法制の改悪について、弁護士と運動体が一体となって議論したのはほぼはじめてとのことで、大変意義深いものであったと思います。
二 本会ではまず、鷲見大量解雇阻止対策本部長から、現在の労働法制の改悪の動きについて報告があり、それを受け、団員や組合の方々等からいろいろな意見が交わされました。
労働法制の改悪の動きについては、(1)限定正社員問題、(2)労働時間法制の撤廃(ホワイトカラーエクゼンプション)、(3)派遣法の見直し、(4)有期雇用無期転換権ルールの見直し、(5)解雇の金銭解決制度の導入、など様々です。どの内容も、労働者の権利を制限する大きな問題を含んでいます。もっとも、内容が複雑であり、また、肝心の審議の内容についても十分に公開されていないため、問題点を正確に掴みにくいのが現状です。
この点につき、本会では、組合員から「個別の問題を細かく追っていくよりも、政府側が考えている方向をつかみとり、それを訴えるべきではないか」との意見がありました(ちなみに、政府側の改悪に関する考え方を端的に掴むには、二〇一三年六月一四日に閣議決定された「規制改革実施計画 雇用分野の個別措置事項」などが参考になるかと思います)。
また、団員の弁護士からは「改正の内容を詳細に伝える、というのでは世論に訴えにくいのではないか。それよりも、『もしこの改悪がなされた場合、我が国の労働者の働き方がどうなっていくのか』、ということをテーマに訴えてみてはどうか。たとえば、派遣労働者がずっと派遣で働くことになれば、正社員の採用枠が従来よりも小さくなる。また、限定正社員制度が導入されれば、妊娠・出産した女性や五〇歳以上の労働者が、一方的に正社員から限定正社員に降格する恐れも生ずる。あるいは、働き盛りの労働者については『無限定正社員』として勤務地も残業も無制限な働き方を強いられることになる。このような訴え方で、一般の国民も自分たちに近い問題と実感してくれるのではないか」との意見もありました。
その他にも、本会に参加した長澤幹事長からは「憲法・教育の動きと絡めて訴えるのはどうか。安倍政権側は、派遣法などの見直しにより、若者の正社員としての働き口を少なくする一方、軍隊を強め、そこに若者を配備させようとする。そして、そのために教育でも愛国心を強くさせるようにしている。当然このようなことを念頭に置いて動いているはずであり、この点についても国民に訴えるべきだ」との発言もありました。
三 労働者派遣法の改正や有期雇用無期転換ルールの見直しについては、本通常国会で改正案の提出が予定されています。一部報道では本年三月以降から国会での審議が本格化されるとのことです。労働法制の改悪は、アベノミクスの三本目の矢の「成長戦略」の核となるゆえ、政権側は早期に実行しようと躍起になっています。我々もこの問題に真剣に取り組む必要があります。
昨年末、特定秘密保護法が成立しました。成立してしまったのは大変問題ですが、その一方で、全国各地の団員や民主団体の運動により、この法律の問題点を世論に訴えることができたのは大きな成果と考えています。
この労働法制問題についても、各団員が全国各地で訴えることで、問題点を浮き彫りにし、改悪の動きを止めることが可能だと思います。団本部でも引き続き労働法制改悪反対の行動を続けていきますが、各地でも学習会・宣伝行動の開催を強く呼びかけます。
長野県支部 山 下 潤
一 福島県で釣りを楽しむ会とは
「渓流九条の会」言い出しっぺの渡辺政成さんが、福島県の被災者が政府・メディアから見捨てられつつある現状に憂慮して、立ち上げた会です。平成二四年一月末に川内村の遠藤雄幸村長が「帰村宣言」を出して以降も人も車も通らない村の変わりように「泣きたくなった」という渡辺さんは、昨年、一昨年と、川内村を流れる木戸川上流域において、同会、川内村観光協会及び木戸川漁協の共催で「釣り大会」を開き、釣れたヤマメ・イワナの全てを対象に放射性セシウムの検出を行いました。
今年の釣り大会は、平成二六年五月三一日(日)と六月一日(土)に開催される予定で、川内村の遠藤雄幸村長も「釣る」と張り切っています。
二 シンポジウムでのパネリストの発言
パネリストとして壇上に上がったのは、渡辺政成さん(福島県で釣りを楽しむ会事務局長、根がかりクラブ創設者、渓流9条の会言い出しっぺ、埼玉憲法会議事務局次長、何でもやってる埼玉の有名人です)、大島肇さん(東京労釣連事務局長)、岡田直紀さん(京都大学大学院准教授)でした。
渡辺政成さんは、一昨年、昨年と木戸川上流域でイワナ・ヤマメの試験釣行をやり、その模様をメディアに取り上げられたことなどを豊富な資料をもって示してくれました。特に、福島県の被災者に対して、政府が棄民政策に入ってきたことに危惧感を感じ、日本中が福島県の自然や農業を通して被災者に目を向けるように頑張っている姿勢が印象的でした。
大島肇さんは、東京労釣連全体の取り組みとして、関東近郊のさまざまな地点におけるハゼ、ニジマス、フナ、ヤマベ、ブラックバス、ブルーギル、チャネルキャットフィッシュ、イサキ、シロギス、手長エビ、アユ、イナダ、ベラ、ウミタナゴ、メジナ、ウナギ、ヒラメの一七種目について放射性セシウムの濃度を継続的に測定し、その結果について分析的に論じられていました。
京都大学大学院の岡田准教授の発言は特に秀逸でした。
木戸川上流域における落葉、表土、深層土、地形、風向き、魚、川水、泥、海外における過去の核実験の歴史等についての詳細なデータと深い分析に基づいて、放射性セシウムの拡散、流出、濃縮等について科学的に話をされました。それだけでなく、放射性セシウムに汚染された食物を口にすることについてのたいへん興味深い見解も示されていました。残念ながら、ここに書くことはできませんが。
三 参加者の顔ぶれも多彩
パネリストだけでなく、平場の参加者も渓流釣り界の大御所ぞろいでした。
(1)瀬畑雄三さん(テンカラの達人)、(2)堀内正徳さん(フライの雑誌社代表取締役)、(3)奥山文弥さん(東京水産大学教授・フライフィッシャー)、(4)浦壮一郎さん(環境ジャーナリスト)、(5)相吉孝顕さん(日本友釣同好会・日本渓流釣連盟会長)、(6)加藤恵司さん(労釣連名誉顧問)(7)反町工建さん(PFJフィールドテスター)などなど、渓流釣りをやる私としては、スーパースター勢ぞろいと言った感じでした。
みなさん、一家言ある方ばかりなので、原発問題、ダム問題、底石採取問題などについて平場からの発言も大いに盛り上がり、時間が足りないほどでした。
他に、ミスター過労死の岡村親宜弁護士、中野直樹弁護士、大森創弁護士らが釣り好きの弁護士として参加する予定でしたが、前日の記録的な大雪の前に戦意喪失したのか欠席でした。
私も、渓流釣界のスーパースター達に負けまいと少々発言しました。
やはり、過去の公害問題と原発問題は、構造も被害者切り捨ても全く同じです。ですので、われわれとしてはいつも通り「勝つまで戦う!」これしかありませんね。
四 渓流九条の会の紹介
さきほどから出てきている渓流九条の会について少し説明しますと、平成十八年二月二五日、釣り雑誌『渓流』発刊二〇周年記念式典において、瀬畑雄三さん・故大森鋼三郎弁護士・岡村親宣弁護士・我妻徳雄米沢市議・渡辺政成さんが結成を呼び掛け、平成二〇年三月十六日に結成されました。
「渓流九条の会」は、結成以降着々と会員を増やし、同時に、平和を願い、釣りを楽しむさまざまイベントを行いました。実は、自由法曹団員の中にも元会長を含めて少なくない人数の「渓流九条の会」会員がおり、皆こっそり遊んでいるのです。
遊びの方は、言い出しっぺの岡村親宜弁護士が買取り、維持管理している築四百年の『岩魚庵(いわなあん)』を基地にした釣り・囲炉裏遊び・大宴会が年間最大のイベントです。日ごろのストレスは、一夜で吹き飛び、体中に生気が溢れますよ(参加者募集中です♪)。
平和運動の方も多彩にやっていますが、最近では、毎回の「NO NUKES DAY 原発ゼロ★大統一行動」に釣竿隊として参加していることに注目が集まっています(気になる方はユーチューブを見てください。)。
会員大募集中なので、谷底であんなことやこんなことをやってみたい大先生は、ぜひ会員になってください。詳しくは「渓流九条の会」のホームページをご覧ください。
五 今後の予定等
「福島県で釣りを楽しむ会」は、今年の五月三一日、六月一日に、川内村の木戸川上流域で釣り大会を予定しています。また、同会が主催する「釣りと環境シンポジウム」は来年も開催予定です。
「渓流九条の会」は、今年三月九日の「NO NUKES DAY 原発ゼロ★大統一行動」、六月五日から六月十日まで岩魚庵で釣り遊び、九月二一日から二十三日まで木曽の田中前町長宅に泊まって釣り、九月二六日から三十日まで過労死弁護団の例会に出つつ釣り(特に弁護士会員)が、当面の行動として予定されており、その他にも会員数人が打ち合わせての釣り、キャンプ、キノコ狩りがゲリラ的に発生します。
釣り、キャンプ、キノコに興味のある大先生はぜひ「渓流九条の会」に参加して下さい。
東京支部 笹 山 尚 人
一 今の感慨をどう伝えたらいいのだろう。無事イベントを終了して、帰りの電車の中にいる今、そんな不思議な興奮の中にいる。とにかく団通信で報告し、かつ、記憶が新鮮なうちに一刻も早く記録にとどめなければという思いで、電車の中でPCのキーをうっている。
二 二〇一四年二月六日、東京法律事務所は、四ッ谷駅前にある主婦会館(プラザエフ)で、「被害者が語る、原発事故被害の現在」というイベントを開催した。事務所では、弁護士の何人かが原発事故被害に伴う法律問題に関与している。そこで、この問題の現況を事務所の内外でリアルに共有し、これからの運動の糧にしようという趣旨である。
原発事故の被害としては、浜通り、中通りの各地域の被害を、それから原発廃炉の業務に従事している労働者の問題という三つのテーマを選定し、「リアルに共有する」ために、原発事故に伴う被害について、被害者自身に語ってもらい、それぞれの訴訟や争議を担当する弁護士が補足的に報告するという形式をとった。
浜通り地域の被害を語ったのは、福島原発被害避難者訴訟の原告団事務局長・金井直子さんと、NPO法人とみおか子ども未来ネットワーク理事長・市村高志さん。弁護団から補足の報告をしたのは、山添拓団員。
中通り地域の被害を語ったのは、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害賠償請求訴訟の原告団長・中島孝さん。弁護団から補足の報告をしたのは、青龍美和子団員。
原発労働の問題を語ったのは、派遣ユニオン書記長の関根秀一郎さんと、当事者で元原発労働従事者、林哲哉さん。弁護団から補足の報告をしたのは、水口洋介団員。
それから、会場発言の形式をとって、首都圏訴訟の原告から、「区域外」とされた地域からの避難者の苦難の実情を語ってもらい、また、公害総行動実行委員会の清水瀞さんからは、現在首都圏で取り組んでいる原発事故被害根絶のための支援活動として、三月七日に首都圏支援組織の準備会の立ち上げを準備していること、四月五日から七日まで、福島大学で開かれる「原発と人権」集会とそれに引き続く現地調査があること、それらへの参加の訴えをしてもらった。
三 当日は、参加目標一〇〇名のところ、一二〇名の参加があった。内容としても、各発言者の生々しい発言は、それぞれに原発事故被害の問題の重大性を伝えるもので、参加者の胸を打ち、原発事故被害の現在をリアルに共有できたと思う。以上により、イベントとしては大成功といえる。
四 福島第一原発事故被害の賠償問題で、私は浜通り弁護団の事務局長として、弁護団全体の運営や、訴訟実務などを担当している。毎日が目の前の仕事で忙しく流れていく。今回のイベントは、改めて今回の福島第一原発事故公害の実相、スケール、問題の質、そういった全体像を実感させられた。忙しい日常の中、ついつい目先のことに夢中になり、全体を見失っていたことを気づかせてくれた。
被害者の語った被害は私たちが今までも経験も想像もしたこともない被害であり、この問題が、極めて根の深い問題であることを赤裸々に明らかにした。被害者である福島県民同士が賠償をもらったもらわない、それがいくらで高いか低いか、そんなことからいがみ合う様子。「暮らし」のあった場所が突然断ち切られた様子。子ども達が自分たちの気持ちを押し殺して明るく振る舞う様子。福島市、いわき市、郡山市といった福島県の都市部では高い線量数値が出ているのに避難も指示されない様子、それどころかどのくらいの被爆があったのか意図的にデータも取っていない様子。一号機から三号機の原発建屋には放射性物質の影響が強すぎて近づくことすらできない様子。そして、一つ間違うと−再び大規模な地震や起こった場合など−今度こそ首都圏を巻き込む壊滅的な事態が発生しかねない危険な状況が、隠蔽されたまま、政府が原発再稼働に突き進む様子。
五 七日になった。事務所に来て、たくさん集まっているアンケートを読んだ。いくつか引用する。
「テレビや新聞で知ることの難しい現在の実状がわかった。」「やはり東京にいてはわからない生の声はインパクトが違います。」「まだまだ終わっていないと実感。むしろますます被害が広がっているのではないかと思いました。この企画は金曜脱原発行動で知りました。」「原発労働者の方が撮影された動画と、“自分が見る限り福島第一原発事故を収束もしくは廃炉にするための作業は何一つ進んでいないように思える”という言葉が、重く響きました。」「心のいやしの必要を強く感じました。」「苦しい状況というものが人々の間にいかにたやすく分断を生むか、つくづくつらいと思いました。」
六 私の今の思いを一言。
これまで、東京法律事務所は、様々なイベントを開催してきた。少なくとも私が入所して以来、失敗したことはなかったと思う。しかし、今回の成功は、どこか違う成功と思える。
この問題は、国力の総力を挙げて、解決に取り組まなければいけないのではないか、と思う。なぜなら、これほどの問題があるのに原発にこだわる政府、財界というところは、私たちの暮らしのある場所が、ふるさとが、この国が、どうなってもいいと考えてるのではないかと思えるからだ。なにか、動物的な生存の危機のようなものを感じる。これは、憲法改悪の策動にしても、労働法の規制緩和の総攻撃をみても、むしろそれらが一体となってきているところから、そう感じるわけだけれど。
だから、一回のイベントとして、うまくいった、良かった良かった、と思っていてはいけないと思うのだ。アンケートを見ても、当日の会場の雰囲気からも、そうした思いは、参加者の多くが共有してくれたのではないかと思える。
私たちには目の前の訴訟がある。立ち上がっている運動がある。脱原発の金曜行動も続いている。これを大きな大河にしていくため、出来ることに取り組んでいこう。
さしあたり団のみなさまには、青法協を中心とした実行委員会主催で、三月二一日・二二日に宮城県石巻市で開催される第一五回人権研究交流集会(東日本大震災からの復興がテーマ)と、四月五日から六日まで福島大学で開催される第二回「原発と人権」集会と、それに引き続く福島第一原発被害地現地調査(日程は七日まで)へのご参加をうったえます。
東京支部 長 谷 川 悠 美
一 はじめに
私が所属する東京法律事務所は、二月六日、四ッ谷駅前の主婦会館プラザエフで「被害者が語る原発事故被害の現在」と題するつどい企画を開催しました。
浜通り地域の被害、中通り地域の被害、原発労働の問題という三つの立場から、それぞれ、当事者の方にお話しいただき、当事務所の弁護士から法律上の問題点や訴訟の目的などを報告しました。
二 浜通り地域の被害
「福島原発被害避難者訴訟」の原告団事務局長である金井直子さんは「強制的に避難させられ、今また、強制的に帰還させられようとしている。雇用や、自然環境、地域のつながりなど、一度喪失したものを元に戻すことはできない。八一歳の母親はいわき市内に家を買った。東電からの賠償金だけでは足りず、残りは貯金から出した。老後のための貯蓄をなくし、新しい土地で暮さなくてはならないことは、高齢者にとってとても酷だ。」と語りました。
金井さんのご友人である市村高志さんは、同じ町内にも、帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域に指定されている区域があり、それぞれの区域で賠償額が違うため、町内が分断されていると話しました。「賠償金がもらえていいねと言われることもあるので、もう放っておいて欲しいという気持ちの人もいる。避難者が、今後の生活について落ち着いて考えられる環境だけでも作って欲しい。」と訴えました。
弁護団の山添拓弁護士は、「生活再建ができるだけの賠償を求めていく。そのためには、裁判官に現地を見てもらうことが必要だ。」として、検証の必要性を強調しました。
三 中通り地域の被害
「生業を返せ訴訟」の原告団長である中島孝さんは、「行政の情報への不信感があるため、空間線量が低くても、水道水には不安がある。三割の人が、ペットボトルのミネラルウォーターを買って、料理や飲み水に使う生活をしている。避難したくても、避難区域外だと救済がない。避難区域か否かという国の線引きが困窮をもたらしている。」と語りました。
弁護団の青龍美和子弁護士は、東電が、津波による原発事故の危険性を予測していたことを裏付ける資料の提出を拒否したものの、引き続き東電の責任を争点化し、資料の提出を求めていくことを報告しました。
四 原発労働の問題
派遣ユニオン書記長の関根秀一郎さんは、原発労働では、五次下請け企業と雇用契約を締結している労働者に対し、元請けや一次下請けが、現場での作業指示などを行うといった偽装請負が横行しているなどの実態を語りました。
元原発作業員の林哲哉さんは、「作業員は、一日だけの放射線教育しか受けない。五分で交代しなければならないような高線量の場所で、未成年が働いていた。線量が高すぎて、建屋の周りに作業員はいないし、炉心にはアプローチもできていない。」と、悪質な労働環境と、廃炉作業の難しさを報告しました。
水口洋介弁護士は、原発労働において、線量計を鉛カバーで覆い計測値を下げたり、汚染水に入ったりして作業が行われていたことなどから、労働組合を組織して労働環境の改善を求めることの必要性を訴えました。
四 おわりに
一〇〇人定員の会場に、一二〇人以上が参加し、大成功を収めました。
お話を聞ける機会の少ない原告や元作業員の生の声を聞き、参加者全員が真剣に聞き入り、質疑応答の時間にも、活発に質問がなされました。
今後も、首都圏各地で「語る会」を催し、支援の輪を広げていきたいと思っています。
東京支部 飯 田 美 弥 子
一 何の因果か、全国区
ご無沙汰いたしました。「八法亭みややっこ」こと、弁護士の飯田美弥子でございます。
さて、噺家の真似事は昨年いっぱいでやめるつもりが、いろいろ頼まれて断り切れず、春までは・・・などと言っているうちに、どういう巡り合わせか、「落語で憲法 会場爆笑」という見出しで、写真入りで新聞に掲載されたりしたものだから、一月後半は、南は石垣島から北は青森まで、全国から「おいでいただけませんか?」のお問い合わせを受ける有り様。
私は、仁比聡平議員のように東奔西走できる身体ではないのだ、と事情を話して、幾つもお断りしなければならず、心苦しいことでした。
今、三月、四月、五月、六月に一回ずつ地方での高座の予約が入りました。日程が合えば、伺います。その際は、一度になるべく大人数で聞いていただけますよう、ご協力をお願いします。それぞれのところで、録画して、地元で使い回していただけると、大変助かります。
二 DVDとブックレット
「みややっこ」の講師依頼の中には、「老人会でオレオレ詐欺のことを話して欲しい」というものまであり、困惑しています。落語のネタはそんなに簡単に作れるものではありません。
「みややっこの憲法噺」は一つの出来上がったネタなので、お招きいただくときは、九〇分を確保していただきたいと思います。(前半四五分で憲法の基本原理と歴史、後半四五分で自民党改憲案批判となります。)
とりあえず、昨年九月、郷里・茨城県での高座を、主催団体が録画していたDVDの提供を受けました。私的な録画であり、かつ、地元ネタも多いものですが、「みややっこの憲法噺」のイメージをお持ちいただくために、実費でお分けすることにしました。
ご希望の方は、
「ゆうちょ銀行 記号一〇一三〇 番号八〇〇九六九〇一
飯田美弥子名義」
宛に、DVDの送付先住所・氏名(団体名)・連絡先電話番号を明記した送金用紙で、金五〇〇円をご送金ください。
着金確認後一週間以内に、DVD一枚をお送りいたします。法律事務の合間にダビングなどをしていますので、たくさんは用意できません。一団体一枚でお願いします。
また、団通信に掲載した原稿に、書き下ろしの「改憲案批判」の稿を加えたブックレットを、五月の連休前頃に発行する予定です。
出版社から予約のご案内があると思いますので、そのときは、是非ご協力ください。
神奈川支部 太 田 啓 子
宣伝で恐縮ですが、いま発売中のファッション誌「VERY」三月号(光文社)に私が出ています。
「VERY」は三〇〜四〇代くらいの、妻になっても母になっても女であること素敵であることを諦めない、というテイストの女性を主なターゲットにしていると思われるファッション誌で、発行部数は三七万部と聞いています。
記事のタイトルは「VERY白熱教室第一〇弾『お母さんこそ、改憲の前に知憲!今、改憲が実現したら、将来、戦地に行くのは誰?』」というものです。
記事タイトルの下にある「『いつの間にか』決まっていた国の制度に驚いた経験は誰にでもあるでしょう。我が子が戦争にいかなければならないことが『いつの間にか』決まっていたら?知らなかったではすまない日本の未来を左右する改憲と、私達ができることを当たり前に考えてみませんか?」というのが、企画のコンセプトを端的に表しています。
VERY専属モデルのクリス-ウェブ佳子さん、タレントのパトリックハーランさん(パックンマックンのパックンのほう)、社会学者の古市憲寿さん、ジャーナリストの堀潤さんと私で座談会形式で憲法について語るという形でした。
この記事は、私が編集部にアプローチしたのがきっかけで実現したものでした。
私が「論壇誌、オピニオン誌ではなく、ファッション誌で、VERYでこそ憲法をとりあげてほしい」と念じ続け、会う人ごとにそう言っていたところ、たまたま知り合って学習会を取材してくれた新聞記者さんが編集部の方とお知り合いでにつないで下さったので、編集長さんと副編集長さんにお会いして改憲をめぐる状況をお話ししたところ、編集部がこの座談会企画に練り上げて下さったのでした。
当時は、「VERYの誌面に憲法、立憲主義、集団的自衛権という言葉が踊るのを見たい見たい」と、突拍子もないかもと思いながら言い続けていたのですが、実現しました。言ってみるものでした。
座談会でご一緒した皆さんはとても感じよく素敵な方々でした。誌面ではかなりマイルドになっているのですが、皆さんリベラルな論客で、改憲案に問題意識をお持ちでした。
よかったらお読みください。もしできたら読者アンケートも送ってください。
次は、子育て、教育系の雑誌にアプローチできないかなと思っています。
もし何かアイディアやコネをおもちの方いらしたらぜひご一報頂けますと幸いです。
東京支部 田 中 隆
(秘密保護法プロジェクト責任者)
一 強行から二か月
二〇一三年一二月六日に秘密保護法の強行採決が行われてから、二か月余になります。
「公布(一二月一三日)から一年以内」の施行に向けて、政府は運用基準や政令、「保全監視委員会」「独立公文書管理官」などの準備を進めようとしており、本年一月一七日には「唯一の第三者機関」というべき「情報保全諮問会議」の初会合が行われました。
一方、秘密保護法強行の暴挙を許さず廃止を求める運動が急速に広がっており、廃止を求める地方議会決議は一〇〇自治体を超え、一月二四日の通常国会開会日には廃止を求める市民三〇〇〇人が国会を包囲しました。
秘密保護法の動きへの監視と批判を緩めず、廃止を求める運動を前進させていかねばなりません。そのためにも、秘密保護法の本質と内容・問題点を暴露し続けることは、依然として重要な意味を持っています。
一三年一二月一七日、秘密保護法の強行を待っていたかのように国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画が発表されました。「積極的平和主義」を掲げ、「統合機動防衛力」の構築を叫ぶ国家安全保障戦略や新防衛計画大綱は、「秘密保護法が守ろうとするもの」がなんであるかを物語っています。
日本版NSC・秘密保護法―国家安全保障戦略・新防衛計画大綱―「集団的自衛権」行使容認―国家安全保障基本法体系への移行は、安倍政権の改憲戦略のなかでひとつに結ばれており、秘密保護法のたたかいは改憲策動との激突の「緒戦」の意味をもっています。
それゆえに、秘密保護法のたたかいは、改憲阻止のたたかいに発展させられなければなりません。
秘密保護法プロジェクトが、全条文を徹底批判する緊急出版を行い、各地・各分野のたたかいを記録する報告集の発行を行うのは、こうしたたたかいに寄与するためです。
たたかいを発展させるために、二冊の冊子のご活用と普及をお願いいたします。
二 緊急出版「これが秘密保護法だ」
「これが秘密保護法だ 全条文徹底批判」を、自由法曹団秘密保護法プロジェクト編で緊急出版します。出版社は、公害・環境関係、消費者関係、憲法関係の出版物の多い合同出版株式会社です。
「これが秘密保護法だ」は以下の構成です。
●第一部 秘密保護法逐条解説
本則(二七条)+附則(一〇条)+別表
●第二部 解題
秘密保護法と国家安全保障会議(日本版NSC)
●私たちにできること
自由法曹団第一意見書「徹底解明 秘密保護法案」のコメンタールをベースに、第二、第三意見書での検討や国会審議での政府答弁、強行直前に開示された「内閣官房・逐条解説」を加え、集団的な検討を経てまとめあげたもので、三冊の意見書の執筆者一一名が執筆を担当しています。
すでに初校の校正に入っており、二月下旬には印刷が終わって三月初頭には配本が可能になります。
A5判並製一七六頁定価一五〇〇円(+消費税)ですが、「自由法曹団扱い」は二割引の一二六〇円(消費税を含む 五冊以上は出版社が送料負担)。Faxニュースに添付するなどして配布するチラシの「申込書」を出版社にFaxして発注すれば、自動的に「自由法曹団扱い」となります。
反対闘争は大きく高揚しましたが、秘密保護法の内容や問題点が十分知られたところまではいっていません。秘密保護法への批判を広げ、廃止の運動や改憲阻止の運動を前進させるために、地元地域や関係する団体に積極的に普及していただくようお願いします。
チラシがない場合の申込み方法などは、団本部にお問い合わせください。
三 報告集「法案と政府を追いつめた四〇日」
全力をあげて取り組んだ秘密保護法反対のたたかいは、短期のうちに大きな高揚を生み出しました。団員の活動は、国会に向けた活動、地方・地域の運動、日弁連や弁護士会での活動、地方公聴会での公述、NGOや「若手弁護士の会」での活動、各分野での弁護団での活動など、実に多彩に展開されました。
たぐいまれな展開を示したこのたたかいを記録にとどめ、次なるたたかいに発展させるため、報告集「法案と政府を追いつめた四〇日 自由法曹団の秘密保護法反対闘争」を編集・発行しました。
報告集は以下の構成で、計五一本の報告を掲載しています。
I 展開と自由法曹団のたたかい 三本(声明を含む)
II 支部の活動、各地でのたたかい 二六本(二六支部)
III 団員の活動、各分野でのたたかい 二二本
作成にあたっては、各地・各分野で活動された団員の皆さんに無理な寄稿をお願いしました。ご多忙のところ、快く寄稿していただいた皆さんにこころから感謝します。皆さんのご協力によって、報告集はA4判六〇頁(本文)におよぶものとなり、各地・各分野の熱や息吹を映し出した貴重な資料となりました。これからの運動に必ず役立つと確信します。
報告集は、一定数を各支部にお送りするとともに、自由法曹団のホームページに掲載して公表します。また、廃止へ!実行委員会やStop秘密保護法!共同行動などの運動関係者に配布するともに、学者・研究者や地方紙を含む新聞社にも送付する予定です。
それぞれの支部や法律事務所などでも、積極的に活用いただければ幸いです。
(二〇一四年 二月一二日脱稿)