<<目次へ 団通信1491号(6月11日)
吉川 健司 | 司法は生きていた ―大飯原発三、四号機運転差止訴訟勝訴報告 |
長田 清明 | 最高裁が山梨県議会議員の視察旅行を違法と認定 |
草場 裕之 | 日弁連の法制審特別部会における盗聴法自由化法容認は許されない。 〜特別部会案取り纏め段階における、日弁連執行部の危機的状況〜 |
上山 勤 | 国家秘密を考える・・・スノーデンの秘密バクロを通じて |
飯田 美弥子 | 「戦争を知らない子ども達」の替え歌で 戦争大好きアベシンゾー |
池田 眞規 | 書評と提案 瀬木比呂志著「絶望の裁判所」を読んで裁判所の腐敗の改革を考える |
中川 勝之 | 書籍紹介 「これでいいのか 自治体アウトソーシング」 (城塚健之・尾林芳匡・森裕之・山口真美編著) |
田井 勝 | 五・二九「STOP!アベノ雇用破壊」院内集会を開催しました。 |
山口 真美 | *五月集会特集* 和歌山・南紀白浜五月集会のご報告 |
新屋 朝貴 | 五月集会に参加して |
藤木 邦顕 | 五月集会教育分科会に参加して |
服部 泰子 | 五月集会・教育分科会に参加して |
石畑 晶彦 | 五月集会・労働分科会に参加して |
成見 暁子 | TPP分科会報告 |
清田 美喜 | 五月集会のご報告 |
永尾 廣久 | 五月集会あれこれ |
福井県支部 吉 川 健 司
一 二〇一四年五月集会特別報告集において報告した大飯原発三、四号機運転差止訴訟ですが、ご存じのとおり、二〇一四年五月二一日一五時、福井地裁において、裁判所は、関西電力に対し、大飯原発三、四号機の原子炉を運転してはならない、という主文を言い渡しました。
もんじゅ訴訟の控訴審判決、志賀原発訴訟の第一審判決以来、三番目の原発における勝訴判決です。判決の全文は、原子力資料情報室のHP(http://www.cnic.jp/)からPDFでダウンロード可能です。
裁判所の判断部分は約三〇頁とそれほど長くありませんが、その内容は、分かりやすい上に、極めて格調高いものであり、すばらしい判決文です。
二 できれば全文を引用したいくらいの判決ですが、以下では、主な部分を紹介します。
まず、判決は、「生命を守り生活を維持する利益は人格権の中でも根幹部分をなす権利ということができる。」「原子力発電所の稼働は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法二二条一項)に属するものであって、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。」と述べて、住民の人格権が、原発を稼働させるという経済活動の自由よりも重視されるべきだと述べました。
その上で、福島原発事故により、原発技術の危険性、被害の大きさが明らかになったことから、原発を稼働させて原発事故が発生すれば、人格権の中核部分が極めて広汎に奪われる事態を招くため、「かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば、その差止めが認められる」としました。さらに「本件訴訟においては、本件原発において、かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり、福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」と述べました。裁判所の役割をここまで明確に述べた判決はほとんどないでしょう。
次に、地震が起きた際に原発の冷却機能が維持されるか否かの判断において、「地震は地下深くで起こる現象であるから、その発生や機序の分析は仮説や推測に依拠せざるを得ないのであって、仮説の立論や検証も実験という手法がとれない以上過去のデータに頼らざるを得ない。」「正確な記録は近時のものに限られることからすると、頼るべき過去のデータは極めて限られたものにならざるをえない。」として、現時点での地震の規模の想定には科学的な限界があるとし、「したがって、大飯原発には一二六〇ガルを超える地震(関西電力も炉心燃料の重大な損傷を回避する手段がなくなると認めている規模の地震―筆者注)は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。」としました。地震という自然現象に対する現在の科学的知見の限界を踏まえたこの判断は、この判決において特に重要な部分であると言えます。
さらに、関西電力の「七〇〇ガルを超える地震(関西電力が炉心損傷の原因となることを認めている規模の地震―筆者注)が到来することはまず考えられない」との主張に対しては、「全国で二〇箇所にも満たない原発のうち四つの原発(女川原発、志賀原発、柏崎刈羽原発、福島第一原発のこと―筆者注)に五回にわたり想定した地震動を超える地震が平成一七年以後一〇年足らずの間に到来しているという事実を重視すべき」である、「これらの事例はいずれも地震という自然の前における人間の能力の限界を示すもの」であるから、「本件原発の地震想定が基本的には上記四つの原発におけるのと同様、過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づきなされたにもかかわらず、被告の本件原発だけが信頼に値するという根拠は見いだせない。」として、関西電力の主張に根拠がないとしました。
また、関西電力が、七〇〇ガル以下の地震が起きた場合に、外部電源が断たれ、主給水ポンプが破損するおそれがあることを認めながら、非常用ディーゼル発電機と補助給水設備で冷却機能が維持されると主張していることに対し、裁判所は、冷却機能維持のための手順のいずれか一つに失敗しただけでも、加速度的に深刻な事態に進展し、未経験の手作業による手順が増えていき、不確実性も増していくのであるから、事態の把握の困難性、時間的な制約のなかで、冷却機能維持の実現に困難が伴う、として、関西電力の主張に根拠がないとしました。
そして、「地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。」として、運転差止を認めました。この「現実的で切迫した危険」という判断は、福島原発事故を経た現在においては、住民の実感にも合致するものと言えます。
最後に、コスト論について、「当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。」「コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」と判示して、関西電力のコスト論を一蹴しました。
判決文をかなり引用して紹介しましたが、これも判決文が分かりやすいからこそです。しかも、引用しませんでしたが、伊方最高裁判決、使用済み核燃料の問題、新規制基準等にも触れており、全体として隙のない判決になっています。この判決の論理を覆して、原発を再稼働させることは、決して簡単なハードルではありません。
三 判決主文が読み上げられた後、原告の方が「司法は生きていた」の旗を出しました。原発訴訟においては、原告の敗訴が連続し、わずかに勝訴したもんじゅ訴訟、志賀原発訴訟も、上訴審において逆転されたように、裁判所は、原発訴訟に関しては、行政と事業者の主張を追認するばかりだったため、原告・支援者の実感として、裁判所は「瀕死状態」としか評価できませんでした。そのような状況で、今回の勝訴判決だったため、「司法は生きていた」という言葉になりました。
今後も、各地の原発訴訟で判決が出されるでしょうが、「やはり司法は死んでいた」とならないよう、裁判所の見識を示した判決であってほしいと思います。
四 関西電力は、福井地裁判決において「国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っている」と厳しく批判されたにもかかわらず、判決日の翌日には控訴しました。
弁護団は、控訴審、上告審において、この判決を維持し、原発を再稼働させないため、全力を尽くす決意を固めています。全国の団員の方々の訴訟に対するご支援をよろしくお願いいたします。
山梨県支部 長 田 清 明
本年五月一九日、最高裁第一小法廷は、山梨県議会議員が行った海外研修(地方自治法一〇〇条第一三項)及び政務調査費を用いた調査研究をめぐる住民訴訟について、山梨県知事の上告及び上告受理申立てをいずれも退けました。これにより、県議会議員らによる海外研修及び政務調査費を用いた調査研究を違法として、山梨県知事に対して議員への返還請求を命じた平成二五年九月一九日東京高等裁判所判決が確定しました。本件は、私を含め五名の団員が代理人でしたが、代表して報告します。
一 これまでの経過
平成二一年七月 県議七名 韓国へ政務調査費を用いた調査研究を実施
平成二一年一二月 県議八名 鹿児島県屋久島へ政務調査費を用いた調査研究を実施
平成二二年一月 県議三名 アメリカへ海外研修を実施
平成二二年四月 県議五名 エジプト・トルコへ海外研修を実施
平成二三年二月 監査請求
平成二三年五月 甲府地裁へ住民訴訟を提起
視察に参加した議員三名に対する証人尋問を実施
平成二五年三月 地裁判決 請求棄却
平成二五年九月 高裁判決 逆転全面勝訴
平成二六年五月 上告棄却及び不受理決定
二 本件の意義
地方公共団体の議員による視察旅行については、その目的や成果が疑問視され、全国各地で議員らに対する返還請求を求める住民訴訟が提起されてきました。しかし、裁判所は、そのうちの多くの訴訟において、議会や議員に広範な裁量権を認めたうえで、議会や議員の視察旅行を適法と結論付けてきました。
本件においても、第一審判決は、「研修を行った議員らには公金を使用したにもかかわらず、その成果を最大限に活用しようとする意識や姿勢が希薄であると言わざるを得ない。その意味で、本件研修が視察に名を借りた私事旅行だったのではないかとの疑念を抱かれてもやむを得ない」と指摘しながらも、視察目的や視察先の選択は議会や議員らの裁量に委ねられており、議会及び議員に裁量権の逸脱濫用はないとして、原告らの請求を棄却しました。
しかしながら、東京高等裁判所は、視察目的と視察先の関連性について踏み込んだ検討をしたうえで、議員ら作成の報告書等の記載内容から、視察としての実態のない私的な旅行であった(裁量権の逸脱濫用があった)との結論を導きました。
本件は、議員による視察旅行について、裁判所が議員の裁量権を重視して視察内容の実質的検討に踏み込まないという姿勢を変え、視察目的や視察先との関連性や、視察内容及び成果を報告書等から具体的に検討したうえで、問題となった四つの旅行に要した費用全額の返還請求を県知事に命じたという点において意義を持つものと考えます。
控訴審の裁判長は、第一回口頭弁論の冒頭で、「議員による視察旅行については、県民の意識が大きく変わってきている。その点も踏まえて改めて判断したい。」旨を述べました。
三 今後の活動
山梨県では、本年四月に再び議員の海外旅行を違法とする住民監査請求を出しましたが、前回と同様、監査委員は請求を棄却しました。現在再び、住民訴訟を準備しています。
宮城県支部 草 場 裕 之
一 五月集会においても議論された法制審特別部会問題において、私達に突きつけられている問題の本質は、「より良い取調の可視化は如何にあるべきか」だけではない。むしろ、人権擁護を使命とする日弁連が、盗聴自由化法を容認するか否かが鋭く突きつけられた問題と考える。
日弁連執行部は、共謀罪と親和性の強い盗聴という捜査方法を自由に行う法改悪を狙う法務省、警察官僚の企みに与しようとしている。すなわち、極めて不十分な可視化法を法律要綱案に盛り込むことと引き替えに、盗聴法自由化法に賛成する意向を固めており、六月一九日から始まる理事会において、その承認をとりつけようとしている。
一九九七年から一九九八年にかけて、自由法曹団はもちろん日弁連も市民とともに、令状主義違反、プラバシー侵害の重大な違憲性を指摘して盗聴法案に反対運動が組織され、同法案を廃案寸前に追い込み、武器輸出のように構成要件の中に組織性が組み込まれた組織犯罪四類型を対象とする現行盗聴法に限定させ、法律の適用も抑え込んだ。日弁連執行部は、こうした歴史への背信を行おうとしている。
今般の法制審特別部会では、現住建造物等放火、殺人、傷害、逮捕・監禁、略取・誘拐、窃盗、強盗、詐欺、恐喝、爆発物使用、犯罪収益隠匿にまで対象犯罪を拡大し、主要な犯罪のすべてに盗聴を可能とするまさに盗聴自由化法が法律要綱案として取り纏められようとしている。五月二日付け日弁連FAXニュース(No3)では、法制審事務局案には組織性の要件が入れられているかのように説明されているが、数名が相談すれば適用される程度の要件であって、現行法のような犯罪類型そのものに組織的犯罪に限定する仕組みにはなってはおらず、上記FAXニュース説明は、日弁連会員への詐欺的広報の類である。
盗聴法自由化法が成立した後に、秘密保護法を対象犯罪に組み込む改悪がなされることは容易に予想される。共謀罪や独立教唆罪も内包している秘密保護法と盗聴自由化法が一体となれば、ジャーナリスト、市民活動家、民主的運動体、弁護士、一般市民など、殆ど全ての者が、公安警察と自衛隊秘密保隊の監視下におかれるこになる。盗聴の捜査対象となることによって市民運動や民主運動が被る甚大な打撃は想像を絶する。
二 日弁連執行部の盗聴自由化法容認の方針
日弁連執行部が右のような方針を固めていることについては、日弁連五月理事会における日弁連会長らの発言から明らかである(正確には日弁連HP参照
【村越会長】「法制審特別部会で日弁連が多数をとることは、難しい。いずれかの段階で、政治的な判断をしなければならない。正論を言い続ければよいというものではない。犯罪被害者の刑事手続参加問題においては、日弁連が被害者をバーの中に入れることに絶対反対との立場をとったことから、本来、七〇パーセントですむものが、一二〇パーセント実現するという酷い結果となった。可視化においても、日弁連の主張のみを言い続けると、同じことにもなりかねない。」
【宮阜ウ日弁連会長】「可視化が実現の方向に歩みだしたのは、新たな捜査手法の導入(注*新たな捜査手法とは盗聴自由化法や司法取引、被告人偽証罪導入等)とセットになったからであり、そのセットでの論議に日弁連ものってきた以上、今更そのセットをはずせということはありえない選択である」「肉や野菜だけでなく、毒まんじゅうも出されている。肉や野菜しか食べないというわけにはいかない」
【竹之内刑事司法改革戦略会議委員】「日弁連の意見でないとだめと言い続けると、 事務局案で消えた可視化について第二案や会話傍受が復活される可能性もある。正論だけでは、刑事司法改革は実現しない。現実的対応が求められている。」
【小坂井特別部会幹事】「刑事司法改革は、一〇〇年かけてやるものである。長期的な展望が必要。」
日弁連執行部のなみなみならぬ強い決意と既に法制審事務局との間で盗聴自由化法を飲むことについて合意がなされていることがうかがえる。
私が所属している日弁連刑事法制委員会や、仙台弁護士会、その他の多くの単位会が、上記のような日弁連執行部の方針に反対する声明を続々とあげ始めているが、日弁連執行部は態度を変えようとはしていない。
全国の団員の皆さまは、御自身の所属単位会が、上記のような日弁連執行部の方針に対して如何なる態度をとろとうとしているかを調査し、急ぎ積極的な働きかけをしていただきたい。六月理事会では、日弁連執行部は、明確な方針決定を避けて、法制審議会委員に選出されている弁護士委員個人的意見に委ねるという、欺瞞的な方針で逃げ切りを図る可能性も否定できない。
弁護士委員が法制審において、法制審事務局提案に賛成し、これを日弁連執行部が咎めないようなことがであれば、日弁連も盗聴法に賛成したとみなされる。盗聴自由化法案が国会に提出された時に、弁護士会が盗聴法には賛意を表明し、集団的自衛権行使容認反対、秘密保護法廃止、共謀罪反対だけを主張するという、跛行的な運動の悪夢が現実のものとなることを私は強く恐れる。自由法曹団員は、こうした日弁連が誤った道を選択することの片棒を担いではならないと考える。
三 戦争する国を支える公安警察強化としての盗聴自由化法
松川事件等に関わられた故上田誠吉弁護士は、『国家の暴力と人民の権利において「常備軍と警察とは、国家権力の暴力行使の主要な道具である。」「この軍隊と警察とが相当程度の実力を組織しえていて、対外的には侵略戦争を遂行しうる軍事力をもち、対内的には侵略戦争にともなう国内治安を維持しうる警察力をそなえていることが、軍国主義体制を考える場合の不可欠の指標であることはいうまでもない。」(前掲書三六五頁)と書かれている。
私は、盗聴自由化法をはじめとする刑事訴訟法改悪法は、秘密保護法と相俟って、戦争する国の国内治安体制づくりの重要なピースとして登場していると考える。秘密保護法と盗聴法は、必ずや一体となって私達市民に襲いかかるだろう。憲法擁護の闘いが正念場を迎えている今、警備公安警察や自衛隊の情報保全隊、内閣調査室のような治安組織に大きな武器を与えてはならない。
法制審特別部会において、私たちに突きつけらた最も重要な問題は、「より良い可視化」は如何なる道筋で実現していくべきかという選択ではない。私は、日弁連が多くの冤罪被害者が、法制審議会特別部会事務局の可視化法案に反対して欲しいという声を無視して妥協をすべきではなく、彼らとともに法制審議会の外で闘うべきだと考える。しかし、法制審議会において妥協するのがベストな選択であるという闘争方針も尊重したい。機会を改めて議論をしたいところである。
しかしながら、仮に十分な可視化法が成立することと引き替えであっても、盗聴自由化法に賛成する道は、決して選択してはならない日弁連の自殺行為であると考える。
四 お願い
(1)各単位会の理事らへの説得をお願いします
六月一九日に開催される六月理事会は、日弁連が憲法改悪反対の重要な局面の中で歴史的な汚点を残すか否かが問われることになる。
全国の自由法曹団員の皆さまに心からお願いしたい。各単位会の理事や常議員に対して、私達の目の前に突きつけられた問題の本質を伝え、日弁連が誤った選択を行うことのないように説得していただきたい。
(2)法制審議会への申入れ書への賛同拡大へ
また、松山事件再審弁護団長青木正芳、袴田事件弁護団長西嶋勝彦、日野町再審弁護団長の石川元也弁護士ら一二人の冤罪事件弁護士らの呼びかけによる、「法制審・新時代の刑事司法制度特別部会審議のとりまとめに当たっての申し入れ」への弁護士賛同署名は現在約一二〇〇名であるが、六月一九日の理事会までに二〇〇〇名に達するよう、御尽力をお願いしたい(同申入書は必要であれば、私宛てのメールをいただければお送りします。)
大阪支部 上 山 勤
一 エドワード・スノーデンという人物
スノーデンはもと米国NSAの職員であり、CIAの職員でもあった。二〇〇九年にはCIAから離れ、NSAに戻ったスノーデンは、NSAの請負企業であるデル社の社員として日本に派遣され、さらに高度な機密情報に触れ得る立場となっていく。いわく「そこで目にしたものについては心底悩むようになりました。ドローンによって殺される運命にある人の監視映像をリアルタイムで見たことも在ります。村全体の様子や人々の様子が手に取るように見えたんです。」スノーデンは自分の知った国家の秘密と違法行為の重みに耐えられなくなって、部外者に連絡を取った。その相手の一人が英国ガーディアン紙の契約記者グレン・グリーンウォルドであった。記者とスノーデンは、周辺に注意を配りながら接触し、打ち合わせをし、新聞発表に至る。五月に発売となった、新潮社の「暴露」ではこの辺の経過が、スパイドラマを見ている調子で展開していく。
二 暴露の動機
何故、自分のすべてを危険にさらし恋人や故郷を捨ててまでスノーデンは秘密の暴露に踏み切ったのか。ドイツのテレビインタビューで、スノーデンは、NSA長官であるJams Clapperが議会で宣誓のうえ、「NSAが国内でスパイ行為はおこなっていない」と嘘の供述をしたことでブチ切れた(breaking point)、と答えている(注1)。ただ彼は、抽象的な正義感だけで秘密の暴露を行ったのではない。ガーディアンの記者がそのことを質問すると『人間の本当の価値は、その人が言ったことや信じる物が何かによって測られるべきではありません。本当の尺度になるものは行動です。自らの信念を守るために何をするか。もし自分の信念のために行動しないなら、その信念はおそらく本物ではありません。』と。これが、スノーデンの答えであった。
3 暴露
最初の報道は、二〇一三年六月のガーディアンの電子版の記事であった。見出しは“NSAが〈ベライゾン〉加入者数千万人の通信記録を収集”・・独占記事・機密文書を入手・・ベライゾンに全通信履歴の提出を求める裁判所命令がオバマ政権による国内監視の規模を物語る(注2参照)となっている。反響はすさまじいものであったという。米国政府は直ちに、声明を発表し「通話履歴収集プログラムは国をテロリストから守るために不可欠のツールであった」と弁明した。しかし通信履歴の収集は、ベライゾンだけでなく大手通信会社のすべてを対象に過去何年も行われてきていたことも報道された。スノーデンの明らかにした情報はまだまだ、底深い恐ろしいものであった。翌日の報道は「プリズム」という名前の諜報システムの暴露であった。二〇〇六年、ニューヨークタイムスが、ブッシュ政権は裁判所の令状を取らずに国民の電子通信を傍受するようNSAに命じている!とすっぱ抜いた。国会で問題となり、従来の外国諜報活動監視法(FISA)が改正された。しかし、結果は、ブッシュが違法にやっていたことを合法化するような内容であった。改正法は、米国人とそれ以外の市民を区別して論じ米国市民の電子情報の聴取は従来通り、令状が必要。外国人に対する諜報活動については、たとえ連絡相手が米国人であったとしても個別の令状を取る必要はなくなった。同法七〇二条に基づき、NSAは一年に一度外国諜報活動監視裁判所(FISC)に出向き、その年の諜報対象者を示す一般指針を提出するだけでいい。全面的な許可が与えられることが慣例となっている。NSAは承認のスタンプをもらえば、いかなる外国人でも監視が可能となる。インターネット会社のサーバーに直接アクセスして通信記録を自由に傍受できるのである。NSAに対してサーバーへの直接のアクセスを許した企業として「フェイスブック」「グーグル」「アップル」「ユーチューブ」「AOL」「スカイプ」などの名前がNSAの書面に記載されていた。これらが文書の裏付けをもって報道されたのである。
この記事に対する反応は世界的な規模で爆発的なものであった。このプリズムについては、実は六月七日のワシントンポスト(電子版)も報道している。見出しは『US,British intelligence mining data from nine US internet companies in broad secret program』(米英の情報機関は米国の九つのインターネット企業から秘密裏に広範囲な情報を抜き取っている)となっている。
四 テロの防止のために許されるか。
(1)スノーデンがリークした当初、米国政府は「NSAによる監視活動の対象は外国人のみであり、米国国民は安全だ、」と弁明。例えばオバマ大統領は、二〇一三年六月一八日のインタビューで「私にはっきりといえるのは、もしあなたがアメリカ合衆国の国民であれば、NSAがあなたの電話を盗聴することなどあり得ません・・法律と規則でそう決まっています。アメリカ国民に諜報活動をする場合、裁判所に行って、妥当な理由を主張し、令状を取らなくてはなりません。」と述べている。ここでは二つの点が重要である。一つは、米国において、プライバシーが保護され、権力的にこれが奪われる場合は裁判所の令状が必要とされ、つまり、修正四条の保護を受けるのは米国民だけだということ。二つ目は、そもそもこのようなオバマの弁明は嘘であるという点。二〇〇八年の外国諜報活動監視法の改正によって、外国籍の諜報対象者とのやり取りであればNSAは令状なしにアメリカ国民の通信内容を傍受できるようになった。(NSAはこれを偶発的情報収集だ、という。しかし、もとNSA長官のマイケル・ヘイデンは二〇〇六年の上院の司法委員会で「片方がアメリカにいる通信を傍受することが我々にとって最も重要な意味を持つ。」と証言している。二〇〇八年法改正の大きな目的は「アメリカ国民の国際通信を傍受し、違法行為に加担しているかどうかにかかわりなく情報を収集できるようにすること」であった。電子通信のセキュリティは現在も同じ状態である。つまり、米国のNSAにはすべて筒抜けなのである。
(2)本当にテロの予防に役立っているのかといえば答えはNOである。オバマ大統領は最初「NSAの諜報活動は、米国に対する五四例のテロを妨害するうえで中心的な役割を果たした、修正四条の例外として十分に合理的である」と主張していた。しかし、NSAの局長であったGen Keith Alexxanderは議会で一つの成功例しか指摘ができなかった。それは、サンディエゴに暮らすソマリヤからの移民と三人の共犯者が、ソマリヤのテロリストのグループに八五〇〇ドルを送ったということで捕まえたというものであった。
(3)では、データは何に使っているのか。
情報は、三つの段階に分けられ、トップの秘密はNO Foreignerとして、米国だけが管理、第二段階はFive Eyesとして知られる米・英・オーストリア・ニュージーランド・カナダで共有、第三段階の情報は必要に応じて使用されたりされなかったりだが、ここに、日本やフランス、ドイツ、ブラジルなどがはいっている。情報には色々な使い道が考えられる。ネット上で調べると、カナダがブラジルのエネルギー公社の開発計画や予定などの情報を諜報して、開発計画に参画することに成功した、などという例が出ている。
五 秘密というもの
ノーム・チョムスキーはスノーデンのリークを受けて、カリフォルニアのサンタバーバラでの講演で、こう述べている。
冷戦時代の国際関係理論の中心は『安全の保障』という定式化された命題であった。この命題は、もっともらしくなるほどと思わせるものがある。但し、よく近づいて、「誰のための秘密か?」と尋ねるべきである。この問いに対する答え次第で、securityの重要性が違ってくる。国家権力のための秘密であれば、自国の民衆による監視・監督から自分たちを守るため、秘密の程度は極めて高くなる。秘密にしておく試みは自由貿易協定やTPP交渉にもよくみられるが、国内での強力な部門(セクション)の保護・維持を図るために必用だからだ、と。Gen Keith Alexander の議会での証言をみれば、政府の言う安全のために必要という意味は、権力者にとっての秘密という意味であり、国を挙げて内密に国民を諜報している事がばれると大変だという意味に解釈すべきだろう。
六 日本で成立した秘密保全法も、防衛・外交・スパイ・テロの四つの領域について、行政庁の長が特定秘密と指定すると、なにが秘密か、国民には分からない。日本の法制の下で、政府や公安警察がNSAと同じことをやったとしよう。勿論違法である。しかし、日本のスノーデン君が現れない限り、我々国民がそのことを知らされる機会はない。安倍首相は、解釈でもって、米国の艦船を守るために国外での自衛隊の行動・武器の使用も認められると公言する。本来なら憲法上は認められない政府の行動、自衛隊の違法な活動も進行するだろう。一切が秘密とされ国民の知らないところで憲法の破壊が進行することとなる。解釈改憲の動きと秘密保全法の施行とはどちらも願い下げである。
(注1) (二〇一三年三月一二日国家情報長官ジェームズクラッパーは、上院議員のジョンワイデンから「NSAは米国民の数百万人あるいは数億人に対して、どんな種類であれ、データ収集活動を行っていますか」と質問され、「いいえ」と答えている。しかし、スノーデンが開示した情報には、数百万人の米国人のメールと電話のデータ収集がされてきた証拠が添付されていた。
(注2)現在、NSAは四月に発せられた外国諜報活動監視裁判所の命令書に基づきアメリカの大手通信会社ベライゾンの国内加入者数千万人分の通信履歴を収集している。入手した命令書のコピーによると、裁判所はベライゾンに社内のシステム上すべての国内外通話履歴を「毎日継続して」に提出することを指示した。この文書により、オバマ政権の下、数千万に上るアメリカ市民の通信記録が不正行為の容疑の有無にかかわらず、無差別かつ大量に収集されていることが発覚した。FISA(Foreign Intelligence Surveillance Act外国諜報活動監視法)での判決は自動的に最高機密に分類される。その判決文では、『裁判所はベライゾンビジネス社(米国の大手通信業者)に対し、(1)米国と海外との間での通信及び(2)市内通話を含む米国全土での詳細な通話記録のすべてをNSAに提出せよ、命じていた』こうした米国人の全通話記録の無差別大規模な収集は愛国者法二一五条によって認められている、と説明されている。
東京支部 飯 田 美 弥 子
1 戦争に敗れて 私は生まれた
リベンジできずに 私は育った
首相になって 叫び始める
中国 韓国 なめるじゃない
※私の名前を覚えて欲しい
リベンジしたい アベシンゾー
2 敗戦国だと 軍隊持てない
被爆国では 原爆持てない
平和 憲法 邪魔立てするから
慰安婦 ぐらいで バッシングされる
※(繰り返し)
憲法変えたい アベシンゾー
3 勝ち組が好きで 弱者は切り捨て
切り捨てられる わが身を恨め
国が勝つには 犠牲が必要
死んだら 靖国に 祀ってあげるよ
※(繰り返し)
靖国 大好き アベシンゾー
※(繰り返し)
戦争大好き アベシンゾー
東京支部 池 田 眞 規
団通信一四八八号(本年五月)に後藤富士子女史が最高裁判事の選任について引用した「絶望の裁判所」を読んでみた。裁判官の腐敗ぶりに煮え湯を飲まされた経験をした「刑事及び行政事件の弁護士と依頼者たち」にとっては珍しいことではない。私も若気の至りで検察官の横暴を放置する裁判官を激しく追及したために執行猶予の予想された判決で実刑を食らって、被告人から解任された苦い思いがある。
長沼訴訟の福島裁判官の違憲判決を機に、最高裁は青年法律家協会加盟の裁判官の徹底した粛清に転じた。これに対し我々在野法曹が「司法の独立運動」に立ち上がってから久しい。
にも拘わらず司法の反動化は容赦なく今日まで留まることなく進んできた。反動化の進むこの三三年間を、現職の裁判官が、現実に体験し観察した裁判所内部の詳細な「腐敗の進行の暴露」したことは貴重な資料である。詳細は本書にゆだねるが、彼の総合的な結論は、現在の日本の裁判官らは最高裁の事務総局中心の精神的「収容所群島」(「檻」)の囚人たちであるとの断定である。裁判官を体験した本人が断定するのであるから「嘘だ」と言えず、「事実である」ということである。
ところが、残念なことに、この本の著者「勇気ある囚人」は、外遊もした秀才なのに、自らの奴隷解放については一切触れていないのである。
現体制は裁判所囚人からそのような発想をする能力までも奪つてしまったのだろうか。実現不可能と諦めていたのだろうか。よくわからない。
そこで、私は、日本の裁判官を「囚人の檻」から解放する方法を次に考えることにした。これは外国の例を参考に実現可能なものである。
一 裁判官の人事についての私の具体的な提案
所属裁判所の人事は、各裁判所の裁判官の長は「選挙か互選」による。したがって最高裁長官は最高裁所属の裁判官と調査官による選挙か互選による。全国の高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の各所長は所属する裁判所の裁判官の選挙か互選による。最高裁判所の裁判官は、全国の高等裁判所の裁判所長による選挙か互選による。裁判官の候補者の資格は司法研修所の研修を修了した者の外、法律で決める。
二 その実現の条件である裁判官の基本的人権とその障害について
裁判官の基本的人権の保障は当然である。特に、日本の裁判官に無視されている、上記告発にかかる、苦役からの自由、思想及び良心の自由、集会結社の自由、表現の自由、居住移転の自由は保障されねばならない。
ところが、以上の裁判所改革案は、これを実現するには現在の憲法及び法律が障害となっており、改正する必要がある。つまり、憲法では、最高裁の長官は内閣の指名で天皇が任命、それ以外の裁判官は内閣が任命することになっている。この規定が、日本の司法が、瀬木裁判官のいう囚人の収容所に墮落してしまった原困となっているのだ。日本の司法に、裁判官が絶望し、続いて弁護士も絶望しなければならないのか。
さてどうする、百年河清を待つわけにはいかない。どう行動するか。
三 裁判所の改革に取り掛かる方法を考える。
まず、欧州ではこの問題をとっくの昔に解決している。ギリシャを何回か訪問した時のことである。アテネ地方裁判所で裁判官らと会談した。裁判所の庁舎内に裁判官組合の広い事務所があるのに先ず驚く。私が「日本の裁判官は最高裁の指名によって三年毎に転勤をさせられる」と語ると、彼らは「信じられない」と逆に「おうー」と驚く始末である。彼らは異句同音に「司法の独立は裁判官個人では守れないのだ。だから司法の独立を守るために、裁判官組合があるのだ」と、彼らの論理は極めて明確である。裁判官の九〇%は組合に加入している。裁判に対する干渉はすべて組合に報告して、組合が闘う、という。二度目に訪問した時は、裁判所長の選挙で当選した元気のよい若い裁判所長がご機嫌で応対してくれた。
また、私が参加した核兵器禁止の法律家の国際会議に欧州の参加者のなかに現職の裁判官が出席している事実をかなり確認できた。 つまり日本の司法が、世界の標準から決定的に遅れているのである。そうすると、わが国の司法界の改革は、安倍総理の憲法改悪に暴走する波を阻止する闘いと併行して、市民的自由を最大限に利用して裁判所の実態を暴露する運動を併用すれば希望が見えてくる。 我々は諦めないで、檻に収容された日本の裁判官の参加も求めて、共に知恵を絞りながら司法の民主化を実現しよう。具体的な方法については、また投稿したい。
東京支部 中 川 勝 之
自由法曹団の社会保険庁PTが発展的改組されて構造改革PTとなって何年も経過するが、地域主権改革、道州制、独立行政法人制度、TPP等について多数の意見書を発表してきた。意見書に貫かれている視点は、国が責任をもって全国民の最低限の生活を守らなければならないという憲法二五条の視点である。そのために法律等による実効性ある規制、十分な財源、知識・経験豊富な人員等が必要であるが、財界等がその利益追及のために手を変え品を変えてそれらを攻撃してきた。それは、国レベルだけでなく、地方自治体レベルにおいても既になされ、国民・住民の被害は深刻である。
本書は、「自治体の民間化」として分けられる二つ、すなわち、「内部的民間化」(自治体運営について民間企業の手法を取り入れる)と「外部的民間化」(自治体の業務を外部化し民間に委ねる)のうち、主として後者を取り上げるものであるが(もちろん、両者は新自由主義仕様の自治体作りという意味では同じと指摘する)、自治体アウトソーシングの本質及び実態を理解するための最新の書籍と言える。三名の団員及び立命館大学の森裕之教授(財政学とくに地方財政と公共事業を専攻、また、社会的災害(アスベスト問題等)についても公共政策論としての立場から考察)の四名が編著者であり、他に自治体職員等の自治体の現場を熟知する専門家六名が著者である。
まず、自治体アウトソーシングの全体像を知りたいのであれば、「第一章 自治体アウトソーシングの現段階と自治体の課題」(城塚健之団員)を読めば「公務の市場化」を概観できる(わずか二一頁)。
各地で現実に起こっている問題のうち、保育所、図書館、病院、戸籍事務、水ビジネスについては、それぞれ一章が設けられ、専門家六名が書いており、興味関心ある分野から読んでも良い。
今流行の特区制度や橋下維新府政、大阪都構想についても論じられている。特に「第三章 特区制度と国家戦略特区の危険性」(山口真美団員)は、自治体アウトソーシングをさておいても一読していただきたい内容である。個人的には「第二章 地方財政からみた自治体民間化の視点と課題」(森裕之教授)が大変勉強になった。
参考文献や全国各地の事例も多数紹介されているので、今後、実践的に理解を深めるためにも有益である。
個人的には労働組合から委託替え・指定管理者変更等による雇止めについて相談されることが多いが、雇用問題という事件活動に矮小化されるものではなく、自治体アウトソーシングは自治体そのものを問う問題であり、まさしく団員が担うべき問題である。
ところで、構造改革PTで扱われる問題は団内でも玄人好みなのか、あまり新人が寄り付かない。是非とも本書を読んで構造改革PTに顔を出していただければ幸いである。
事務局次長 田 井 勝
一 二〇一四年五月二九日(木)、自由法曹団は、「STOP!アベノ雇用破壊」院内集会を参議院会館で開催しました。
現在会期中の通常国会において、政府は労働関係の二つの法案を提出させています。一つは、派遣労働者についての業務毎の三年の期間制限を撤廃させる、(1)労働者派遣法「改正」案、もう一つは、有期労働者が「五年超」働けば企業に無期雇用への転換を請求できる労働契約法一八条を修正させる、(2)労働契約法一八条特措法案です。自由法曹団は、この二つの法案の成立をSTOPさせるべく、本年三月三一日にも院内集会を行いましたが、今回はその第二弾ということで、通常国会会期中である五月二九日に院内集会を開催した次第です。
二 今回の院内集会では、はじめに、鷲見賢一郎労働法制改悪阻止対策本部長より、この二つの法案の内容の説明がありました。鷲見本部長からは、労働者派遣法「改正」案については、我が国に「生涯派遣・正社員ゼロ」をもたらす危険な内容であること、次に、労働契約法一八条特措法案については、無期転換権を認めた労働契約法一八条を骨抜きにする内容であること、との説明がありました。
その後、対策本部の団員より、産業競争力会議で審議されている「残業代ゼロ」案、国家戦略特区法に基づく雇用特区の問題についての報告もありました。
報告の後、全労連、電気・情報ユニオン、全建総連等の民主団体からの発言や、職場復帰を求めてたたかうDNPファイン争議の原告、いすゞ争議の原告からの発言もありました。発言の中では、特に残業代ゼロ案について、集会前日の各新聞・メディアにおいて、「企業が社員を幹部候補とみなせば、残業代が支払われなくなる法制度が検討中」との報道がなされたため、このことの危険を訴える内容が多かったです。
また、共産党の小池晃議員にもお越しいただき、情勢の報告もしてもらいました。小池議員からは、「このままでは労働者の権利全てが奪われてしまう、なんとしても安倍政権の暴走をとめたい」、との力強い発言がありました。
三 集会終了後、議員要請を行い、労働法制の改悪反対を厚労委員の議員に訴えました。
今回の二つの法案について、本通常国会では可決まではされず、次回の臨時国会に真偽持ち越しとなるのではないか、との報道があります。もっとも、本通常国会で可決されようとされまいと、危険な情勢にかわりはありません。衆参で過半数を占める与党がその気になれば、これらの法案をいつでも強行採決できる状況です。
労働者の苦しい現状、特に派遣社員や期間社員などの非正規労働者の生活実態などを一番知っているのは、団員はじめ、労働事件で奮闘されている弁護士です。
全力になって、この労働法制改悪の問題を世論に訴えましょう。たたかいはこれからです。
事務局長 山 口 真 美
一 はじめに
本年五月一七日から一九日にかけ、和歌山県・南紀白浜において、二〇一四年五月研究討論集会が開催されました。青い海と白い砂浜が美しい南紀白浜で開催された今年の五月集会には、全国から四八二名もの参加者が集まり、経験交流と熱心な討論が繰り広げられました。
詳細はおって団報にて報告いたしますが、取り急ぎ概略についてご報告いたします。
二 憲法討論集会
憲法討論集会では、一日目にアメリカのアジア戦略及び、東アジア情勢を中心とする国際情勢の変化について担当者の報告に基づき討論をした後に、安倍政権の改憲戦略について、国家安全保障戦略の分析を中心に討論を行いました。
二日目には、安倍政権が目指す集団的自衛権の行使容認及びグレーゾーン事態への対処として目論まれている自衛隊法の改正等について、担当者の報告に基づき討論を行いました。
三 全体会(一日目)
全体会の冒頭、和歌山支部の岡田政和団員と東京支部の金井克仁団員が議長団に選出されました。篠原義仁団長の開会挨拶に続き、和歌山支部の由良登信団員から歓迎の挨拶がありました。
来賓として、地元和歌山弁護士会から、団員でもある小野原聡史会長にご挨拶をいただきました。
この後、緒方靖夫日本共産党副委員長の記念講演があり、続いて静岡支部の西嶋勝彦団員から袴田事件について特別報告があり、長澤彰幹事長から、安倍政権による改憲策動とのたたかい、教育委員会制度や労働法制の改悪阻止のたたかいなど、現在団が取り組んでいる重要課題についての基調報告と、分科会の討論へ向けた問題提起がなされました。
四 記念講演
今回の全体会での記念講演は、日本共産党副委員長である緒方靖夫氏による「世界とアジアの動きと日本」と題した講演でした。講演では、アメリカ・オバマ政権のリバランス政策や対中政策など対アジア戦略の大きな転換の状況、その中でのアメリカによる対日政策の基本的立場、こうした世界・アジア情勢の動きに呼応した安倍政権の集団的自衛権の行使容認をはじめとする国家安全保障戦略の全体像についてお話がありました。他方で、発展途上国の発展や中南米やASEANにおいて軍事に頼らない安全保障の道が開拓されている状況など、平和に向けた世界の流れが紹介され、世界での国連憲章の復権とその中で日本国憲法が果たす役割について「日本国憲法は世界へのパスポート」であるというお話がありました。緒方氏の詳細な世界情勢の分析と改憲阻止のたたかいに向けた展望は、全国で日々改憲策動とたたかっている団員にとって大きな力になったことと思います。
五 分科会
今回の分科会も従前どおり、経験交流と討論とを交えて行われました。分科会の概要は次のとおりです。
1 憲法分科会(一日目、二日目)・選挙制度(二日目)
憲法分科会は、憲法討論集会での討論及び、緒方靖夫さんの講演を受けるかたちで、安倍政権の改憲策動を阻止するための運動論について、昨年来の九六条改憲阻止のたたかい、秘密保護法反対運動の成果及び反省点をふまえて討論を行いました。二日目には、沖縄・基地問題、選挙制度改革問題等についても討論を行った上で、長澤幹事長から、三日間の討論をふまえた行動提起が行われました。
2 労働分科会(一日目、二日目)
労働分科会一日目は、鷲見賢一郎本部長からの安倍「雇用改革」の議論状況と運動について問題提起を受け、各地の団員から、各支部での労働法制改悪阻止に向けた運動面を中心にした報告がありました。特に、労働者派遣法改正案の改悪阻止に向け、「どう訴えたら、運動が広がるのか」といった課題について、議論しました。
二日目の前半は、日本航空解雇事件の争議団から「不当解雇とのたたかい」について報告、そして、団員からも、各地の解雇事件の報告がありました。後半は、青年ユニオン弁護団の団員から「ブラック企業」についての報告が行われました。
3 教育分科会(一日目、二日目)
教育分科会では、一日目に名古屋大学大学院の中嶋哲彦教授をお招きして、現在行われようとしている教育委員会改革についてご講演いただきました。教育委員会制度が発足した当時の理念や、それがゆがめられつつも現在の形でなんとか教育の政治的中立性を維持してきたこと、現在の教育委員会制度改革により政治的介入が強まるなどの問題点などについて指摘されました。また、中嶋教授自身が犬山市の教育委員を務められた経験も語られ、有意義な内容でした。二日目は、現在の安倍「教育再生」に関して、教育問題と憲法改正問題・雇用改革についての報告や、各地の状況や取り組みについてなどの報告、討論が行われました。
4 TPP分科会(一日目)
国際問題委員会、TPP対策PTの分科会では、山田正彦先生を講師にお招きし、講演をしていただきました。先生は元農林水産大臣で、現在はTPP反対側の論客として先頭に立って頑張っておられます。講演では、これまでのTPPの交渉において、アメリカとの関係で日本が極めて劣勢に立たされていること、特に食の安全の観点で極めて危険な情勢にあること、本年中にTPPの妥結への動きが急速に進んでいくので何とか運動を盛り上げるべきであること、との話がありました。講演後は、多くの参加者からの質疑もあり、盛況に終わりました。また、各団員より、各支部や団体でのTPPに関する取り組みなどの発言もありました。
5 治安・警察分科会(一日目)
分科会前半は、法制審・新時代の刑事司法特別部会が本年四月三〇日に公表された「時代に即した新たな刑事司法制度」特別部会の事務当局試案について議論を行いました。事務当局試案の問題点(限定的な録音・録画制度、盗聴法の拡大、司法取引等)を議論し、共有しました。今後、具体的な反対運動をどのように行っていくかを検討しました。
後半は、全生連に対する弾圧事件、倉敷民商の弾圧事件等について、ご報告いただき、今後、どのように弾圧とたたかっていくべきかを共有しました。
6 給費制分科会(一日目)
給費制分科会では、二年修習時代の団員も交え、北海道から九州までの参加者による活発な意見交換が行われました。政治情勢、貸与制下での現状、日弁連・ビギナーズネット・給費制廃止違憲訴訟や各地の取組みの報告、どう話せば市民に伝わるか、今後の行動提起など、発言が相次ぎました。予定時間を三〇分オーバーするほどの白熱ぶりでした。
7 構造改革分科会(二日目)
構造改革分科会では、国家戦略特区、道州制、地方分権、以上、三つのテーマを柱に、基調報告後、討議を行いました。
国家戦略特区については、特区指定を受けた「東京都」における雇用・医療に関する特区構想について議論しました。道州制、地方分権については、推進を止めるための世論、運動論について議論しました。各地の団員が「地方で運動を開始する」、これが世論喚起の取っ掛かりになることを再確認しました。
8 貧困分科会(二日目)
貧困分科会では、まず、現在福祉事務所で横行している生活保護の「水際作戦」と、「改正」生活保護法の施行で予想される不当な窓口の対応を寸劇で行いました。寸劇の後、寸劇中の福祉事務所の対応が不当であることを厚労省の資料や国会答弁から明らかにしました。次に、全生連の安形義弘会長から生活保護をめぐるこの間の取り組みを厚労省との交渉の結果を示しながら報告していただきました。この中で弁護士には今後の生活扶助費引下げ取消訴訟や、生活困窮者を全生連に紹介することなどの要望も出されました。そして、佐賀の甲木美知子団員から二〇一三年八月に実施された生活扶助費引下げに対する取消訴訟の報告がされました。さらに、林治本部事務局次長から生活保護を巡って法律事務所が弾圧の対象とならないようにするための注意点を報告がありました。
休憩をはさんだ後半には、各地からの報告がなされ、二〇〇人規模で生活扶助費引下げに対する取消訴訟を準備している北海道や、違法な生活保護行政の実態調査を行う大阪、生活保護に限らず広く福祉政策全般についての取り組みをするべきとの広島や福岡からの報告がなされました。
最後に貧困問題委員会の笹田参三委員長からまとめの発言なされて終了しました。
9 原発分科会(二日目)
前半のパネルディスカッションでは、(1)日高原発建設反対運動を行ってきた地元活動家より、和歌山県内に原発を作らせなかった運動をどのように組織し、展開し、勝利に結びつけていったのかについて報告をいただき、そのうえで、(2)九州玄海訴訟弁護団から訴訟を含めた脱原発運動の状況、(3)被害賠償訴訟弁護団から全国の被害回復運動の状況、(4)エネルギー基本計画の問題点と原発ゼロ社会への展望を報告していただきました。後半の討議では各地で脱原発訴訟にかかわる団員から全国の活動状況を報告していただき、国の責任を明確にして原発依存政策から撤退させることを求めて全国的な運動を展開していくことを確認しました。
六 全体会(二日目)
分科会終了後、全体会が再会され、次の九名の全体会発言がありました。なお時間の関係上、法制審特別部会について(宮城支部・草場裕之団員)、刑事記録の目的外使用禁止規定の是非について(大阪支部・遠地靖志団員)、八法亭みややっこのとりくみについて(東京支部・飯田美弥子団員)は、要旨の紹介のみとさせて頂きました。
(1)憲法討論集会の討論を踏まえて改憲を阻止するためのたたかいの提起 東京支部・山添健之団員
(2)辺野古新基地建設について 沖縄支部・新垣勉団員
(3)安倍教育「再生」の内容の危険性とこれに対する行動提起 神奈川支部・阪田勝彦団員
(4)福岡支部の労働法制改悪阻止のとりくみについて 福岡支部・田篭亮博団員
(5)法制審特別部会での逆行を許さず、えん罪をなくすための刑事司法の改革を 東京支部・加藤健次団員
(6)エネルギー基本計画及び今後の原発政策に関する問題点 静岡支部・佐野雅則団員
(7)TPPについて 神奈川支部・近藤ちとせ団員
(8)給費制について 福岡支部・石井衆介団員
(9)自衛隊いじめ自殺「たちかぜ」」事件高裁判決について 神奈川支部・神原元団員
全体会発言に引き続いて、次の一〇本の決議が執行部から提案され、会場の拍手で採択されました。
(1)憲法の平和主義破壊を許さず、集団的自衛権行使容認を阻止する決議
(2)辺野古への米軍新基地建設に反対し、名護市の新基地建設反対の取組みを支援し、沖縄県民の反対運動と連帯する決議
(3)教育への政治介入を許す教育委員会制度の改悪に反対する決議
(4)安倍政権の労働法制の第改悪に反対し、労働者派遣法「改正」案と労働契約法一八条の特措法案の廃案を求める決議
(5)TPP(環太平洋戦略経済連携協定)交渉からの早期撤退を求める決議
(6)法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の事務当局試案の抜本的見直しを求める決議
(7)袴田事件の早期再審開始と無罪の確定を求める決議
(8)川内原発の再稼働に向けた動きに反対する決議
(9)無責任な原発輸出政策に対し強く反対する決議
(10)司法修習生に対する給費制の復活を求める決議
以上の決議が採択された後、拡大幹事会が開催され、新人団員の入団が拍手で承認されました。
続いて、今年一〇月の総会開催地である福井支部の海道宏美団員から、開催場所となる福池の芦原温泉の紹介と歓迎の挨拶がありました。
最後に、和歌山支部の良原栄三団員から閉会の挨拶が行われ、全てのプログラムが終了しました。
七 プレ企画について
例年どおり、五月集会の前日(一七日)に、プレ企画がもたれました。
1 将来問題
将来問題プレ企画では、「若手団員交流集会‐どう稼ぐ、どう活動する」と銘打って、三つのテーマについて議論しました。第一のテーマは「弁護士としての力をつけるために、顧客獲得のために」とし、自己紹介を兼ねて各事務所で行われている取り組みなどを紹介し、意見交換をしました。二つ目のテーマは「活動参加」であり、団の活動に取り組む意義や、取り組むための条件・障害について議論しました。三つ目のテーマは「弁護士としての不安と要望」でしたが、先の2つのテーマの中でも様々な悩みが出されました。今回は、若手を中心に据えた議論を行うこととしましたので、若手ばかりだからこそ語ることのできる問題について率直に発言し、またそれについて若手が答えるなど、若手自身が自らも含めた将来を考える機会となりました。
2 事務局交流会
事務局交流会では、全体会で、和歌山支部の阪本康文団員から、「自由法曹団員としての活動と団事務所の事務員の皆さんに期待すること」と題して、和歌の浦景観保全訴訟の裏話や意義を中心にお話いただきました。事務局の講演は、ゆら・山楓@律事務所の織部利幸さんから、「団事務所における事務局の役割」と題して、玉野裁判の専従事務局としての活動を含め、お話いただきました。
その後引き続き行われた分科会では、「1 事務局の仕事と運動」「2 団事務所の運営と事務局の役割」「3 新人交流会」の三つの分科会が設けられ、経験交流と討論が行われました。
八 最後に
安倍政権は、解釈改憲による集団的自衛権の行使の容認を狙っており、平和主義を投げ捨て、憲法九条を空文化しようとしています。同時に、「教育再生」と称して、教育への政治介入をはかるなど戦争する人づくりをも目論んでいます。さらに
原発再稼働に躍起になり、TPPの妥結や雇用を破壊する労働法制の改悪、社会保障の切り捨てなど、国民の命と暮らしを脅かす政策を次々打ち出しています。こうした情勢を踏まえて、今年の五月集会は、プレ企画とあわせて憲法討論集会を開催するという例年にない特別な形で開催しましたが、憲法討論集会の段階から百数十名の参加を得ました。また、集団的自衛権の行使容認を目論む安倍首相の私的諮問機関である安保法制懇の報告書が出された直後の開催されたこともあって、憲法討論集会でも五月集会でも、たいへん熱心な討論が繰り広げられました。憲法問題だけでなく、教育問題、労働法制の大改悪の問題、治安強化の動き、原発再稼働、TPP、構造改革問題、貧困問題、給費制問題など、いずれの分科会でも活発な討論が行われました。今回の討論集会が団員一人一人の全国各地での今後の活動にとって役立ちうるものになったのであれば主催者側としてたいへんうれしく思います。
最後に、今回の五月集会も、地元和歌山支部の団員、事務局員の皆様方の多大なるご尽力によって成功しました。執行部一同、御礼申し上げます。ありがとうございました。
東京法律事務所 新 屋 朝 貴
入所二年目になる事務局の新屋です。五月集会に参加するのは昨年に続き二度目です。憲法討論集会と憲法分科会に参加し、計九時間半も憲法に関する議論や報告を聞き続けるというハードな日程となりましたが、とても刺激的な三日間でした。
東アジアの安全保障環境、アメリカのアジア戦略の分析の報告などは非常に面白く、初日から興奮していました。そして安倍政権の改憲戦略に関する報告を聞き、頭の中で論点や情勢の変化について整理することができました。
しかし、運動論をテーマにした議論が始まると、若手と年配者とでは力を入れようとする部分が異なっているように感じました。若手からは、「二〇代、三〇代の人に受け取ってもらえるような宣伝物を活用する」といったビジュアル重視で、憲法に関心がない人たちに向けて運動を広げていくという趣旨の発言が多く見られたと思います。これはとても共感しました。
一方年配の方々は、「ブックレットを緊急出版する!」「対策本部ではなく闘争本部にするべき!」という発言もあり、私と感覚が違うことを痛感しました。
会場では、明日の自由を守る若手弁護士の会の事務局長を務めている早田弁護士も発言していましたが、その問題意識にはとても共感しました。本を出版しても読むのは私たちに近い人たち、運動をしている人たちが読むものであって、その他多くの憲法について関心のない人たちは読まないと私も思います。
もちろん、どちらが正しいとかそういう問題ではなく、会場からも発言があった通り、「役割分担」だと思います。刻一刻と変化する情勢や法律の条文を的確に分析、解説することも重要です。しかし、それだけでは関心のない人たちにとっては他人事のように聞こえてしまうはずです。
では私は何をすれば良いのか。飲み会などにも参加せず(苦手なので)、ひとりで悶々と考えていました。私の事務所では、毎月六の日と九の日のお昼に駅頭で宣伝をしていますが、私はまだ弁士をやったことがありません。難しいことを話したり、解説していたりするイメージがあり、私にはまだ難しいことだと思っていました。
しかし五月集会に参加して思ったのは、もっと自分の言葉で伝えるべきだ、ということです。宣伝活動も堅苦しく考えずに、私が感じている「戦争できる準備が着々と進んでいる今の社会が怖い」ということを、もっと多くの人に伝わるように訴えていきたいと思いました。この前の宣伝でも「秘密保護法が騒がれているのは知っているが、自分と関係あるのかわからない」という人がいました。「何が問題なのか」よりも、「あなたと関係がありますよ」と訴えたい、そのように訴える人がいても良いと思いました。
五月集会に参加したことによって、私のように新たに挑戦したいと思う人が出てきたら良いなと思います。
大阪支部 藤 木 邦 顕
一 五月集会では、当初憲法分科会に参加を予定していましたが、教育委員会制度改悪法案の問題もあり、急きょ教育分科会に変更して参加しました。第一日の中島哲彦先生のお話をお聞きし、ひとくちに首長の教育行政に対する介入を強める目的があるといっても、新教育長の権限を強め、首長が任命権を持つこと、新教育長の任期を三年とすること、総合教育会議を設けること、教育に関する大綱を定めることなど、きわめて重層的に首長権限強化が図られており、そのうえに国の教育振興基本計画を尊重することがかぶせられていることが理解できました。
二 教育委員会制度改悪については、大阪の橋下・維新の会がまさに突撃隊としての役割を果たしました。二〇一一年以来、橋下・維新の会は、(1)知事・市長が教育委員会と協議して教育目標を定め、これを達成しなかった教育委員については、免職事由があるとする。(2)学力テストの学校別公表をして、三年連続定員割れの学校は統廃合の対象とする。(3)教職員に対しても、人事相対評価をする。などの教育基本条例を制定しようとしました。当時野党であった自民党、特に安倍晋三現総理が、これに賛同し、大阪府・大阪市の条例は法律に従ってかなり形を変えたものになりましたが、法改正をもって教育委員会制度を変えようという動きになり、今回の法改正案に至っています。また、熊本や埼玉のように政治の露骨な介入が起きており、その先鞭をつけたという点ででも、橋下維新の会の害悪を全国に及ぼしてしまったと反省しなければなりません。
三 教育委員会制度は、戦前の国家主義教育の反省から生まれたものです。戦前の教育行政は、文部省と内務省によって支配され、内容的には教育勅語と国定教科書によって、行政的には都道府県学務課長と視学官によって、教員養成的には師範学校によって、徹底して国の意向が反映するようになっていました。日本国憲法のもとで、この国家主義体制を解体し、地方自治体の事務としたうえ、当初は住民の公選による教育委員の選任が行われました。首長の任命による選任となった後も、旧教育基本法一〇条一項に「教育は不当な支配に服することなく、国民に対して直接に責任を負う。」と規定されていたこともあり、首長から独立して教育行政に当たってきました。これを逆戻りさせ、首長の意向を反映させるとしながら、実は教育振興基本計画を通じて、国の意向を反映させるのが今回の法改正案の趣旨で、安倍内閣の国家主義強化の戦略を感じます。
四 教育委員会については、大津いじめ事件をはじめ、確かに子どもたちの意見や保護者の訴え、現場の要求が実現されないという批判があります。分科会でも、東京・中野区の準公選制の実情も紹介され、公選制が改革案となるかという議論にもなりました。しかし、今回の改正法案は、明らかな逆行です。五月集会の後に、大阪弁護士会子どもの権利委員会では、弁護士会として明確に反対の立場をとるべきだとの意見も出されました。教育委員会制度改悪は、集団的自衛権問題の陰に隠れていますが、日本の将来を左右する問題であり、残された参議院の審議期間中も訴えて行かなければならないと感じています。
武蔵小杉合同法律事務所 服 部 泰 子
法律事務所の職員として勤めて丸四年が経ちました。日々、所属弁護士や団員の先生方の活動・運動に触れて、その重要性を感じながら過ごしています。諸問題に対して当事者意識が芽生えるようになった今ですが、勤め始める前は政治や社会問題への関心が希薄で、世間の風潮に合わせてコロコロ転がる、いわゆる“B層”でした。
しかし、そんな私でも、こと戦争に関しては絶対的な不正義を認めていました。「平和のためには武力行使も仕方がない。」だったり、「あの頃(戦前や戦中)の日本人の精神・姿勢は素晴らしかった。もう一度あの頃の様に。」という意見を持つ人が、ごく身近にいる環境下にいましたが、決してそれに同調することはありませんでした。
なぜ、無関心でありながらも、確信を持って戦争を否定することが出来たのか。改めて考えてみると、その要素のほとんどが、学校教育によって培われてきたものであることに気が付きます。学校で、その不当性や理不尽さ、悲惨さを教わった私にとって「正しい戦争などない。」ということは、この場で改めて公言するのも憚られる程、至極当然なことなのです。
現在、横浜市では全国最多一四七校の中学校が育鵬社の教科書を使用しています。中学時代を横浜市で過ごした私の母校でも後輩達が育鵬社の教科書で学んでいるのです。
戦争体験者の方から直接話を聞ける機会も失われつつある中、あたかもそれが正当だったかのように記述されている教科書で学んだ生徒は、戦争に対してどのような印象を持つのでしょうか。私が「当然」と思っている事が、彼らには違って映るかもしれません。
分科会の中で、育鵬社の歴史教科書には『大東亜戦争』という記載があることが触れられました。
これについて教員用指導書には「大東亜戦争という公式名称に触れつつ、戦況の推移や日本軍の進撃地域を理解させる。」とあります。また「なぜ、日本政府はこの戦争を『大東亜戦争』という名称にしたのか。」という発問例を挙げていることから、侵略戦争であったことを否定させようとするねらいが伺えます。
公民教科書では、ご存じロック、ルソー、モンテスキューを差し置き、エドマンド・バークという聞き慣れない人物(フランス革命を強く批判し「保守主義の父」と呼ばれたそうです。)を大きく取り上げていることが紹介されました。
育鵬社教科書ではバークの思想を、人権の歴史の項において[理解を深めよう]という補足欄を用い〈「最も大切なもののひとつは、社会秩序を維持するために必要なモラルやマナーやルールに関するものであり、それらが守られてはじめて自由や平等も守られる」と説いた〉と解説しています。
教員用指導書では、バークを取り上げたそのねらいを「三人の人権思想家と対比して、伝統的なモラルやマナーを重視する思想家がいたことを紹介する。」としています。さらに、補充資料として『反「人権」宣言』(八木秀次著/ちくま新書)から抜粋し、「バークが最も嫌悪したのは、現在ただ今を生きている者が、ただそれだけの理由で、まるで万能者であるかのように、先祖を顧みることなく、その「理性」を振り回して世の中を変革しようなぞという『なりあがりの高慢』な態度を示すことであった。その意味では『理想的で人間的な自由』なぞという発想は無秩序をもたらすものでしかない。」と、バークの保守的な思想を強調しています。
伝統、モラル、マナーといった主観的な事柄をクリアするか否かで、守られたり守られなかったりするものが果たして「自由」や「平等」と呼べるのでしょうか。彼らの目指す「秩序」のために押しつけられた傲慢な価値観は、多様性とはほど遠い、暗く狭い世界への入り口を開けようとしています。
安倍内閣の言う『教育再生』は私にとって『破滅』に等しい響きです。改めて、問題意識が刺激された五月集会となりました。
神奈川支部 石 畑 晶 彦
五月集会では、一八日(日)、一九日(月)のいずれの日についても労働の分科会に参加した。一日目は主に労働法制について、二日目については労働裁判の取り組みについての報告であったが、ここでは、二日目の労働裁判の取り組みに関する分科会に参加した感想を述べる。
リストラ・解雇とのたたかい対する報告では、JAL争議団の報告が印象に残った。特に、印象に残ったのが、企業再生支援機構と管財人代理人の発言である。具体的には、「機構は、争議権が確立された場合、それが撤回されるまで、三五〇〇億円の出資をしない。」「裁判所からは、争議権が確立された場合、かりに更生計画案が債権者投票で可決されても、裁判所は更生計画案を認可しないかもしれない。」という発言があったという。当然のことながら、右発言は不当労働行為発言であり、都労委において支配介入が認められ、救済命令が下された。そもそもJALの整理解雇に問題があることは知っていたが、それのみならず、管財人らが平然とこのような不当労働行為発言をしたことに愕然した。都労委の命令について取消訴訟も提起されているようであるが、管財人らは争議行為を威嚇する右発言について素直に謝罪すべきであると思う。
非正規切りとのたたかいでは、藤田団員から、日産・資生堂派遣切り裁判の報告があった。
日産事件の方は既に横浜地裁で判決がでているが、判決の結論が不当であることはもちろんのこと、その内容も派遣先への黙示の労働契約の成立の可能性は無く、また、有期雇用の雇い止めを安易に認めてもよいと言ったに等しい内容であった。このような判決は確定させてしまってはならないもので、藤田団員と同様に日産事件の弁護団員である私としても高裁を全力で戦っていこうと感じた。
さらに、公務員の非正規問題について、塩見団員から報告があった。塩見団員は普通の企業との間であれば有期雇用における解雇権濫用法理で勝てる事案も、有期の公務員では全く勝てなくなることについて問題提起を行っていた。塩見団員によれば、勝てる唯一の方法としては、労働委員会に復職を命じてもらうという方法が考えられると述べていたのがとても印象的であり、そういう方法があったのかと目から鱗であった。私も機会があれば活用していきたいと思う。
最後に野口団員が行ったブラック企業弁護団の告知について感想を述べたい。
新人団員である私でさえ、既に何度もブラック企業の相談を受けており、相談だけでなく実際に事件として受任しているものも数件ある。ブラック企業は全国に広がっており、ブラック企業に対して、全国的に取り組む弁護団ができたことは市民としてもとても心強いと思う。ブラック企業相談会といったユニークな企画も行っているようであった。
五月集会の労働分科会のように労働事件の全国的な取り組みを知ることができる機会はあまり多くないので、全国の取り組みを知ることができ、とても勉強になったし、よい刺激になった。今後も、労働者の権利を守るための様々なたたかいに取り組んでいこうという決意を新たにした。
宮崎県支部 成 見 暁 子
一 二〇一一年の五月集会(松江)以来、密かにTPP問題への関心を持ち続けている私は、来る八月に開催予定の県弁護士会主催のTPPシンポジウム準備のヒントを得ようという思惑もあり、TPP分科会に参加しました。大変有意義な講演、分科会でした。
二 メインスピーカーの元農水大臣山田正彦氏は、二四期の弁護士です。長崎での修習中に牛を飼い始め、何とか修習は修了したもののそのまま牛飼いになり、牧場経営や有機農業に取り組み、農政問題に関心を持ち、衆院議員(五期)、菅直人内閣時の農林水産大臣、衆院農林水産委員長などを歴任、TPP反対を理由に二〇一二年一一月野田内閣時に民主党を除名され、現在TPP阻止のため世界中を飛び回っているという異色の経歴の持ち主です。二〇一〇年宮崎県での口蹄疫発生の際には現地本部長を務められました。著書多数、日本ペンクラブ会員でもあるそうです。講演後はすぐ東京に戻り、TPP閣僚会合が開かれるシンガポールに飛んで、各国NGOとの会合に参加するとのことでした。
三 講演で特に印象に残った点などご紹介します。
*米国民の七八%がTPPに反対している:
TPP問題は、国と国との対決ではなく、一握りの企業と世界各国国民との対決という点がポイントです。米国民の多くがTPPに反対しているということに驚きましたが、二〇年前のNAFTA(北米自由貿易協定)の経験によってTPPの欺瞞を見抜いているのだそうです。NAFTAのとき、「WinWinの関係で互いに経済成長できる」「安いトルティーヤが食べられる」などの触れ込みでしたが、実際には、米国の遺伝子組換トウモロコシが大量にメキシコに輸入されてメキシコ農家三〇〇万戸が倒産、メキシコから安い労働者が流れ込み、米国の工場はメキシコに移転、米国の失業率が激増したのです。
*米国では大統領に交渉権限を与えるTPA法案に議会が反対している:
TPA法案に民主党議員二〇九名中一五一名が反対、共和党議員も含め反対が広がっているそうで、二〇一四年内の妥結はないというのが山田氏の見通しです。
*TPP並行協議で米国の対日要求が「戦略特区」で実現。雇用、医療、農業が破壊される:
医薬品や手術の方法でも多くの特許をとっている米企業。TPP参加によって、日本の医療費は跳ね上がり、公的皆保険制度は民間との競合で崩壊する危険があります。
米国の圧力に屈する日本政府に、セーフガードの発動も期待できません。米韓FTAでは韓国農家七万戸が廃業しました。すでに、所得補償を止めて小さな農家をつぶし、農地を企業に売り渡し企業の農業経営を進める日本。農業が食料自給率を支え、環境を保全し、国民の食の安全を守るものとの認識で、農業を担う小農家に国が八割の所得補償をしているスイスなどヨーロッパの農業政策との違いが際立ちます。
自動車の安全基準の引き下げも、軽自動車の優遇廃止も、「遺伝子組換」表示や「国産」表示撤廃もすでに米国から要求されています。残業代ゼロ、金で解雇できる制度を先取りして実現する戦略特区なども米国企業が狙っていることです。TPPがどうなるかにかかわらず進められている米国との並行協議も要注意です。
*ISD条項により、あらゆる分野で投資家の利益が優先され、国家主権が失われる:
*秘密交渉と四年間の守秘義務、特定秘密保護法:
米韓FTA批准の際、韓国の国会では十分な情報提供がなされず、締結後に重大な内容が初めて分かったのだそうです。日本でも、交渉の内容は国会議員にも明らかにしないと明言する内閣府。国会での批准時にも大事な付属文書は明らかにされず、発効後四年間秘密になります。そしてTPPの秘密を隠すため、特定秘密保護法が大いに機能を発揮するというわけです。
四 宮崎県弁護士会では、憲法委員会を中心に、この間TPP問題に取り組んできました。委員会内で学習を重ね、消費者や環境や業拡など他の委員会も巻き込んで大阪の杉島幸生先生を講師に弁護士会内学習会を実施し、今年三月二八日には「TPP(環太平洋連携協定)交渉について広く国民に情報提供することを求める会長声明」を発表し、現在、八月二四日市民向けシンポジウムの準備を進めています。
TPPは、基本的人権の尊重や国民主権を定めた憲法秩序を破壊するシステムです。憲法を大事にするあらゆる団体・個人が連携して取り組む必要があります。TPPの危険性を知ってしまった皆さま、ぜひ各地で警鐘を鳴らし、TPP参加阻止に取り組みましょう。
福岡支部 清 田 美 喜
全国の団員の先生方、はじめまして。福岡支部の新人の清田美喜と申します。去る五月一七日から一九日にわたり行われた五月集会のご報告を申し上げます。
初日は懇親会から参加し、憲法討論集会後の熱気も冷めやらぬご挨拶、ご発言を聞きつつ、思いがけずベテランの先生方と近しくお話をさせていただくことができました。
翌日は憲法討論集会に続き、全体会と分科会が行われました。
午後の全体会では、集団的自衛権に関するご講演及びご報告と、先生方の熱いご意見を聞かせていただきました。詳細な資料とご報告に基づいて、広い視野で考えるべき問題であるという認識を新たにするともに、日ごろの報道を追っているだけでは、集団的自衛権の問題をアジアレベル、太平洋レベルで捉えることが難しいことをつくづく感じました。
全体会後の分科会は、給費制の分科会に参加しました。私は給費制廃止違憲訴訟の六六期原告団の一員として、六六期提訴に向けて取り組んでいるため、五月集会で給費制分科会を設けていただき、そこで多くの先輩方、同期とともに給費制廃止の問題性について考える機会をいただいたことを、心から嬉しく、また心強く思いました。
分科会では、政治情勢、各種団体の活動状況、そして当事者の声を報告するとともに先輩法曹からの疑問やご意見をいただくなど、大変充実した内容となりましたので、その一部をご紹介させていただきます。
・政治情勢
司法修習生に対する経済的支援の復活に関する情勢には、近時動きがあります。今年に入って、公明党が法曹人口問題とともに司法修習生に対する経済的支援の問題にも言及した緊急提言を行い、自民党もこれに続いて法曹人口問題に関する緊急提言を行いました。そして、六月末から七月上旬にかけて、自民党が司法修習生に対する経済的支援に言及する緊急提言を再度行うことが予測されており、どのような内容となるかが注目されています。
・団体の取り組み
この問題には、日弁連及び単位会の給費制対策本部、若手法曹や司法修習生、学生からなる団体のビギナーズ・ネット、そして給費制廃止違憲訴訟の訴訟団と、さまざまな角度からの取り組みがなされています。一例として、日弁連及び単位会は団体署名を積極的に集め、医師会や農業団体、労働組合や生協とさまざまな政党の支持母体から一四〇〇を超える署名を集めました。
・当事者の声、先輩との質疑応答
今回私がとても印象に残ったのは、先輩法曹から「自分たち給費世代と貸与世代は、もらっている額は大差がない。貯金して借金の返済に備えることはできないのか」という疑問が示されたことです。その場で新人が「住居手当も、通勤手当もない。給費世代と貸与世代が強いられている出費には大きな差があり、とても貯蓄の余裕はない」と返答すると、疑問を持たれていた先輩も驚き、また納得してくださった様子でした。
私たち当事者は、さまざまな場で窮状を訴える機会をいただいていますが、まだまだ給費制下の修習と貸与制下の修習の違いについては伝えきれていない点があるのだと反省するきっかけをいただけたと思っております。
この文章をお読みいただいている団員の先生方にも、ぜひ給費制の問題に関心を持っていただき、私どもの活動にご支援、ご協力を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
二日目も大盛り上がりの懇親会から一夜明け、二日目の分科会は労働分科会に参加しました。
各地の弁護団からの事例報告が中心で、有期労働者の雇止めで厳しい判断が下され、ベテランの先生ががっかりされている様子など、事件に取り組まれた先生方ならではの生の声を聞くことができました。
今はまだ、事例報告をただ聞くだけの新人ですが、年数を経て、これらの報告を事件処理の参考にしていけるようになりたいと、労働事件に取り組む意欲を新たにすることができました。
最後の全体会では、集団的自衛権、米軍基地の辺野古移設、労働法制改悪、TPP、原発等そして給費制の復活と、さまざまな問題に関して決議がされました。団員の先生方が、日ごろ実に幅広い活動に熱心に取り組んでおられることを再認識するとともに、問題を発見し、それについて声を上げ、裁判所、国会、そして国民全体に強く訴えかけていくことが法曹の重要な役割であることを改めて感じました。
最後になりましたが、本年の五月集会、特に給費制分科会の開催、決議の採択に向けてご尽力くださった団員の先生方に心から感謝を申し上げます。
福岡支部 永 尾 廣 久
団通信の読まれかた
和歌山県の白浜温泉で開かれた五月集会に今年も参加した。団通信の一年間のまとめが今年も資料として配付されている。いつものことながら、少し紹介したい。
団通信の投稿数のピークは二〇一一年の三四九件。月に三〇件弱。そして二〇一三年三一四件なので、一〇%も減少している。もちろん団員は三年間でそれなりに増加しているので、投稿率の減少は大きい。広報委員会は、「事件関係の減少が顕著なのは、気がかり」だとしている。まったく同感だ。といっても、事件関係について、全国レベルの団通信に何を投稿できるのか、また、していいのか、若手団員は悩んでいるのかもしれない。
私は、その点、これが全国レベルの意義があるのかないのか悩むくらいなら、さっさと文章にして、団本部に投稿すべきだと考える。全国レベルのものかどうかは、他人が読めば、おのずと分かるものなので、本人がうじうじ悩むようなものではない。
文字が多すぎる、あまりにも硬すぎるという批判があることが紹介されているが、まったく、そのとおりだ。もっともっと、さらに平明な言葉で、絵とき付きの解説で、読み手の腹にすとんと落ちる論稿を大いに期待したい。
団通信の執筆者では、今年も私を含む二六期がトップの座を占めた(一八九通)。二位は三一期の一六九通、三位は五三期の一六九通、三位は五三期の一五五通。
ところが、年代区分でいうと三〇期から三四期が五四七通でトップに立ち、わが二六期をふくむ期は、四〇〜四四期の四二通、五〇〜五四期の四一〇期に次いで、三五〜三九期と同じく四番目だった。
地域的には、東京(一八八九通)、近畿(六二七通)、関東(五七〇通)となり、九州は中部(三三一通)に次ぐ五位、そのあと、東北一三七通、中国(一三〇通)と続く。
北海道(六二通)、四国(一五通)は少ない。
テーマとしては、今回は、情勢を反映して平和(四八二通)と憲法(二六二通)が最多であり、労働問題が続いている(四六六通)。貧困・災害・原発(二〇二通)、人権(一五五通)、民主主義(一二一通)という順になっているのは正当だろう。
それにしても投稿が少なかったと思う。先日の内山新吾団員のようなユーモアあふれる文章をもっと読みたいものだ。
なお、紙媒体としての団通信では、速報性に難がある。団本部も広報を、それなりに重視し、ホームページだけでなくフェイスブックやツイッターも開設している。こちらの活用は、どれだけすすんでいるのだろうか。
公安警察の尾行DVD
懇親会がお開きになったあと、加藤健次団員の設営する二次会に参加した。
東京の下町で「しんぶん赤旗」号外をマンション等に配布したことで逮捕・起訴され、結局、無罪となった事件について、検察官が証拠請求してきたDVDをみんなで視た。
驚いたのは日本の公安のレベルの低さだ。休日に自分の余暇の過ごし方として、いわゆる「合法ビラ」を近所のマンションに配布したのが公選法違反だとして、逮捕・起訴され、結局、無罪となった。この事件について、摩訶不思議なことに、検察官が、それを撮ったDVDを有罪の証拠として裁判所に提出したという。
この映像は、平和な国・ニッポンで、白昼公然と、公安警察が「犯罪」をつくり出している過程が明らかにされているという点で貴重だ。まさしく、火のないところに煙を立てるのが公安警察だということが実感できる。
私は、全国の団員必見のビデオ(DVD)だと思う。
そして、もう一つ、検察官が裁判所に提出し、公開の法廷で公開されたDVDを裁判外で公開・公表できるかという新たな問題点がある。
しかし、このような内容を広く市民に知ってもらう(見てもらう)ことには大きな意義があり、それこそ公益にかなうことではないか。税金の適切なつかい方を監視するという意味でも必要なことなので、単純に公表・公開を制限するなんて許されないものだと、このDVDを見ながら改めて痛感した。