過去のページ―自由法曹団通信:1502号      

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黒澤 有紀子 「はじめての出版!〜弾圧事件が発生したつもりで取り組んだ夏〜」
田巻 紘子 『「立憲主義の破壊」に抗う』(川口創著)のおすすめ
馬奈木厳太郎 “吉田調書”も審理対象へ
〜「生業を返せ、地域を返せ!」 福島原発訴訟第八回期日の報告
柿沼 真利 「九月一八日」という日について 二〇一四年九月一八日記す
鈴木 麗加 NLGシカゴ総会の報告
近藤 ちとせ NLGシカゴ総会に参加して
―TPP問題分科会、労働問題分科会参加の報告―
杉山 佐枝子 実り多い八月集会
横山  雅 *福井・あわら温泉総会・プレ企画のご紹介*
「大衆運動における弁護士の役割
〜弾圧事件の弁護活動を考える」に是非ご参加を!
山添 健之 集団的自衛権行使に反対する
一〇・八日比谷野音大集会&パレードにご参加ください!



「はじめての出版!〜弾圧事件が発生したつもりで取り組んだ夏〜」

東京支部  黒 澤 有 紀 子

 二〇一四年七月一日に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が出されました。
 その後、自由法曹団の改憲対策チームでは、閣議決定の分析をした上で、「安倍内閣が日本を戦争ができる国にしようとしている、そのカラクリを明らかにしよう」、ということで、「徹底解剖!イチからわかる安倍内閣の集団的自衛権」というQ&A本(全部で四〇問)を刊行しよう、ということになりました。出版する書籍を作成するにあたって重視したことは、「活動家や各地で学習会をしている方々に武器を提供しよう。」ということでした。したがって、内容としては、Q&Aの形にして分かりやすくしつつも、多少難しいこともきちんと書いています。
 この出版にあたっては、まず出版社を交えて段取りが検討されました。「時期を逸しないためにも、少なくとも一〇月上旬には出版をしたい。編集作業などを考えると原稿は一ヶ月程で作らないと・・・。」ということで、自由法曹団側の執筆作業は七月二八日〜九月一一日の四〇日間で完成させることが求められました。
 そして、自由法曹団本部(改憲対策チーム)の先生方、東京支部枠で齊藤園生先生、久保田明人先生、私の三名が執筆を担当させていただき、まさに「勢い」と「根性」でやりきるぞ!という感じで作業に入りました。
 その後は、第一回目の出版社との会議から二週間くらいで第一稿を起案。途中でお盆休みもありましたが、お盆中にも出版会議を入れ、とにかく原稿作成に集中する、という日々でした(田中隆先生は弁護士になって初めてお盆休みが取れなかったとおっしゃられていました!!)。
 田中隆先生から執筆担当者へ送られた激励(?)の言葉として、とても印象的だったのは、「まあ、弾圧事件が一つ生じたと思ってやれば大丈夫だ!頑張ろう!」というものでした(確かにスケジュールの過密さは弾圧事件並みだったかもしれません・・・)。
 私は、集団的自衛権行使の三要件についての分析部分のQ&Aを担当させていただきました。国会の議事録を読んで追っていく中で、安倍政権のいい加減で国民を騙すために注力されている説明に改めて怒りが沸き上がりました。
 松島暁先生、田中隆先生を筆頭に編集がなされた今回出版される「徹底解剖!イチからわかる安倍内閣の集団的自衛権」では、閣議決定の分析は勿論のこと、今後予想される「安全保障一括法」についてもきちんと書いております。その他、普段なかなか追えていない事項についても盛り込まれております。
 閣議決定そのものを素材として、集団的自衛権を巡る情勢及びそれに関わることについて、きちんと一冊でまとまっている書籍は、今回出版される「徹底解剖!イチからわかる安倍内閣の集団的自衛権」を置いて他にありません!
 「四〇日間で原稿を作成しました」と申し上げると、いかにも大丈夫??と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、内容としては、執筆担当者の血と涙と汗と夏休み返上の結果、かなり良いものになっていると思います。
 私自身は出版作業に携わるのは初めてのことでしたので、ご迷惑をおかけしたことも多々ございましたが、とても楽しく勉強になる日々でした。
 ぜひ、団員の皆様におかれましては、お手にお取りいただき、ご活用いただければ幸いです。


『「立憲主義の破壊」に抗う』(川口創著)のおすすめ

愛知支部  田 巻 紘 子

 保育園を利用して子育て真っ只中の私の周りで“大ブーム”を巻き起こしている本があります。「一晩で読んでしまった。すごくわかりやすい!」、「思いがいっぱい詰まっていて共感しながらあっという間に読みました。」、「友達に是非すすめたい。それも今までこういう問題を話しあったことがない友達に。」寄せられた感想の主は、どなたも保育士さんです。
 第二次安倍内閣による集団的自衛権行使容認のニュースは、今まで憲法九条をめぐる問題に必ずしも積極的に関心を持ってこなかった人たちの間にも大きな衝撃を与えています。政府・自公がどんなに「これで戦争することはありません」と喧伝しても、ことの真相を感じ取っている人がたくさんいるのです。「育む」ことを仕事としている保育士さんが、集団的自衛権行使容認のニュースに対して感覚的に敏感であるのは必然かもしれません。私も、とあるベテラン保育士さんから「これまで平和の問題にとくに関心をもっていなかった若い保育士が、『このまま日本は戦争するんでしょうか』と言いだした」という話を聞きました。
 感覚的にはこんなのおかしい、と分かっている。でもこの感覚が本当に正しいのか確信がもてない、あるいは、友人にこの思いをどうやって伝えたらいいのだろう?、という方に自信をもってお勧めするのが、冒頭の“大ブーム”を巻き起こしている本書『「立憲主義の破壊」に抗う』(川口創著)です。本書では、立憲主義の基本から、従来の政府解釈の理屈、イラク戦争を例に集団的自衛権行使容認で何が起こるかを論じ、容認派の議論の誤りと危険性を知らせ、憲法・平和的生存権を手に立ち上がろうと訴えます。中でもイラク自衛隊派兵差止訴訟弁護団事務局長であった著者がイラク戦争の実態を踏まえて集団的自衛権の実態を描くところはとても説得的です。イラク戦争は今から約一〇年前に始まりましたが、現在一〇〜三〇代である若い世代の中にはイラク戦争といってもピンと来ない人も多いです。今夏、私は保育園での学習会に数回出かけましたが、実際のイラク戦争の実態を伝えつつ話をすると「そんなことが起こっていたなんて全然知らなかった。集団的自衛権なんて絶対だめ」という感想がたくさん寄せられます。集団的自衛権の問題を議論するときに、実際何が起こるのか、から考えていくことはとても大事な視点だと思います(現代の戦争の実態を伝えることで、イスラエルによるガザ地区攻撃やイスラム国討伐を理由とするシリア空爆についても意見を持ち行動できるようになるとも思っています)。また、本書は解説に留まらず、最後に著者が読者一人一人に向けて「あなたもさあ、一緒に」と呼びかけ、その気にさせるところもお勧めポイントです。
 来年の通常国会を前に、これから約半年間、大いに活用できる本です。装丁もライト、厚さも手頃、価格もワンコインとまではいかないけれど一〇〇〇円(+税)。構えずに読めます。集団的自衛権の「はじめての一冊」に、ぜひお勧めを。


“吉田調書”も審理対象へ
〜「生業を返せ、地域を返せ!」 福島原発訴訟第八回期日の報告

東京支部  馬奈木厳太郎

一 多彩なゲストを迎えて
 九月一六日、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第八回期日が、福島地方裁判所において開かれました。この日の期日では、国と東電、そして原告側がそれぞれ書面を提出し、原告団会津支部に属し、林業に従事している原告の方が意見陳述しました。
 国の書面は、規制権限の不行使を判断するに際して行政の裁量を否定する原告らの主張は誤りであり、O・P・+一〇メートルの津波到来につき国に予見可能性は認められず、経済産業大臣には基準適合命令を出す権限が事故当時にはなかったとするもの(準備書面八)、東電の書面は、一〇メートル超の浸水高の津波では電源喪失するとは考えられず、事故前に本件津波を予見するような科学的知見は確立されていなかったとするもの(準備書面一〇)、原告らの主張する精神的損害は中間指針などで示されている精神的損害と重なるものであり、賠償は中間指針などで示されている対象者と水準で十分であるとするものです(準備書面一一)。
 原告側の書面は、国が、情報収集・調査義務、敷地高を超える津波対策をとらせる権限、長時間の全交流電源喪失に陥らないよう対策をとらせる権限のいずれについても、そのような権限はなかったとしていることを批判するもの(準備書面二四)、ふるさと喪失にかかる被害を明らかにするもの(準備書面被害総論六)、その他訴訟進行などに関するものです。
 期日当日は、穏やかな秋晴れとなり、あぶくま法律事務所前には二〇〇名を超える原告団が集まりました。また、映画『あいときぼうのまち』の脚本を担当した井上淳一さん、ラジオ福島アナウンサーの大和田新さん、元NHKキャスターの堀潤さん、かもがわ出版編集長の松竹伸幸さんらが駆けつけたほか、金沢星稜大学の沢野先生、中京大学の成先生、「原発なくそう!九州玄海訴訟」から東島団員、原発事故被害救済千葉県弁護団から藤岡団員にも参加していただきました。多彩なゲストによるリレースピーチも行われ、活気溢れる裁判所前集会となりました。
二 過失の解明にますます積極的な裁判所
 この日のハイライトは、なんといっても“吉田調書”に記載のある事故が審理対象となったことです。
 九月一一日、いわゆる“吉田調書”が公表されました。弁護団では、連休を返上して読み込み、期日においても、“吉田調書”を証拠として提出するのみならず、原告側の問題意識を詳らかにしつつ、調書内容もふまえた主張を速やかに行う旨表明しました。
 そうした原告側の姿勢を受けて、裁判長は、“吉田調書”で明らかになった一九九一年の非常用発電機の水没事故について具体的に言及し、当該事故の事実関係や、国や東電の対応などについて明らかにするよう求めました。また、事故から一五年後の二〇〇六年に改正された「多重性」「多様性」「独立性」を新たな要件とした技術基準省令への影響についても明らかにするよう求め、「この点について裁判所は注目し、関心を持っている」と発言。国と東電の過失責任とのかかわりで、“吉田調書”が明らかにした水没事故に関心を示したのでした。期日翌日の紙面には、「過失判断に『吉田調書』」、「九一年のトラブル内容明示求める」といった見出しが並びました。
 あわせて、この日の弁論では、原告側が、裁判所も求めていた津波の試算データの提出を拒否している東電が、そのデータを前提に主張していることを厳しく批判。「主張しながら証拠を出さないのは無責任な反論」とし、準備書面の撤回を求めました。東電はその場でまともに答えられず「書面で回答する」と応じ、傍聴者からたびたび失笑を買いました。
三 ペースアップしてきた生業訴訟
 原告側の求めに応じ、過失の解明に積極的な裁判所。その姿勢に原告側では、さらに詳細に、そしてより明確に過失を根拠づけるべく立証に取り組む方針です。
 また、責任論のみならず、被害論についても、裁判所から原告被告双方に釈明がなされ、被害立証についてもペースアップしていくことになります。
 期日を終えて、原告団事務局長は、「裁判所の“覚悟”が半端ではない。我々も、裁判所の熱い思いに応え、彼らが迷いなく勝訴判決を下せるよう、できる限りのこと全てをやり尽くさなければならない」と決意を語りました。
 原告団も弁護団も意気軒昂です。引き続くご支援を、心からお願い申し上げます。


「九月一八日」という日について 二〇一四年九月一八日記す

東京支部  柿 沼 真 利

 「九月一八日」という日付を聞いて、「ああっ、『あの日』だな。」と「ピン」と来る人は、あまりいないのかもしれません。日本では・・・。
 最近、当職は、中国人留学生の方(大学院生)と交流を持つ機会があり、その方とのお話の中で、大日本帝国時代の日本の対中国戦争に関する「日本人」と「中国人」との認識の違いを感じました。
 「九月一八日」は、今から八三年前の一九三一(昭和六)年に、「満州事変」の発端となった「柳条湖事件」の発生した日です。柳条湖事件とは、満州(現在の中国東北部)の奉天(現在の瀋陽市)近郊の柳条湖付近で、日本の所有する南満州鉄道(満鉄)の線路が爆破された事件で、大日本帝国の関東軍は、この爆破事件を自ら行ったにもかかわらず、これを中国軍による犯行であると虚偽の発表することで、満州における軍事展開およびその占領の口実として利用した、というものです。歴史学者の方の中には、この柳条湖事件、及び、満州事変の発生から、一九四五(昭和二〇)年八月の大日本帝国による「ポツダム宣言」の受諾表明までの、足掛け一五年間の戦争を一連のものとして、「一五年戦争」と分析・評価する方もいます。
 中国では、この「九月一八日」は、大日本帝国による中国(当時は、「中華民国」)に対する侵略戦争が開始された日として、重要な「記念日」とされ、多くの方々に認識されているそうです。日本で言えば、戦争に関する「一二月八日」や、「八月一五日」のようなものでしょうか(性質は、かなり異なるかもしれませんが)。
 これに対して、日本では、この「九月一八日」という日のもつ意味を認識している方は、あまり多くないように思えます。
 最近こんな報道がされていました。
 「安倍晋三首相は一五日、政府主催の全国戦没者追悼式の式辞で、歴代首相が表明してきたアジア諸国への加害責任の反省について昨年に続いて明言せず」(日本経済新聞 二〇一四年八月一五日一二:〇一)
 また、現安倍内閣は、今年七月一日、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更を決定しました。これは、自衛隊の海外での武力行使に道を開くもので、憲法改正によらないで、権利を保有していても行使できないとしてきた従来の政府解釈と正反対の結論を導き出したものとされています。
 さらには、最近、いわゆる「従軍慰安婦問題」に関する朝日新聞の誤報問題に関し、従軍慰安婦制度に関する「強制性」、「非人道性」の問題が全て、あるいは、大部分が「虚偽によるもの」であったかのように述べる言説が横行しているように思います。確かに、朝日新聞が記事にしていた、いわゆる「吉田証言」は、事実に基づかない誤報であり、この点について訂正・反省などすることは当然でしょう。が、「吉田証言」で述べられた済州島での強制連行事件は、あくまで従軍慰安婦制度の「強制性」、「非人道性」問題の中では一部分に関するものであり、その一部分が虚偽によるものであったからといって、従軍慰安婦制度の問題全てあるいは大部分が覆ったわけではないと思います。今回の朝日新聞の誤報問題を契機として、従軍慰安婦問題は「全てあるいは大部分虚偽だった」かのように述べる言説は、問題の一部分を大げさに騒ぎ立てることで、問題の全体を有耶無耶にしてしまおうとする、「薄っぺらなプロパガンダ」レベルの代物であると感じます。
 日本国憲法は前文で、「日本国民は、・・・政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」と、大日本帝国時代の「戦争の惨禍」(これは、日本側の「被害」だけでなく、「加害」も含むものと考えます。)に対する反省を率直に述べ、第九条のような「反戦・反軍平和主義」を採用しています。
 これに対し、人間には、「自己防御」、「自己正当化」の欲求がありますので、戦争における「加害」の事実のような「自国」乃至「自国民」による不祥事、不名誉な事象について、できればそれを、隠蔽、正当化、矮小化、相対化してしまいたいという思いが生じてしまうのは、ある程度やむをえないのかもしれません。
 とはいえ、時として、自己を「省み」、「戒める」ということは、自身の生活・人生をより豊かにするために、重要なことであると思います。日本国憲法前文中にある、「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて」という部分は、まさにこのことを意味するものと思います。
 「九月一八日」という日について、そんなことを考えて見ました。
 あっ、あと、ついでに、「九月一八日」は、当職の誕生日でもあります。


NLGシカゴ総会の報告

東京支部  鈴 木 麗 加

 今年シカゴ総会のキーノートアドレスのメインスピーカーはシカゴ教職員組合の会長であるカレン・ルイスさんでした。シカゴ教職員組合には三万人の組合員が所属しています。カレンさんは一九八八年からシカゴの公立高校で化学を教えており、自分自身も大学までは一貫して公立校で教育を受けてきました。一九七四年にダートマスカレッジに入学したとき、彼女はクラスで唯一のアフリカ系アメリカ人だったそうです。現在、イリノイ州では公立学校を縮小し私立校を増やすという政策が取られています。そのため、貧困層の子ども達にとって、教育の機会が失われつつあることをカレンさんは大変危惧し、その流れに断固反対しているとお話しされていました。カレンさんは、シカゴだけでなく、イリノイ州や全国組織でも活動する大変著明な活動家ということで、NLGメンバーも彼女を迎えて大騒ぎという感じでした。一人のメンバーが彼女のお話を録音しようとしていたらしく、カレンさんに「ダメよ。イリノイではテープ録音は承諾がいるのよ。メモはとってもいいわよ、ブラザー」と陽気に注意をされたところ、その方は「妻が教師なんだ。録音とってきてよと言われたんだよね」とやりとりをしていました。
 NLG総会のキーノートアドレスは、メインスピーカーがお話しをする前に、何名か人権分野で特に活躍されたメンバーの表彰式があります。カレンさんのお話の前に、お二人の女性が登壇しました。一人目はウェストバージニア州弁護士のメアリー・ケニーさん。この方はテキサス法律家協会のディレクターをしており、現在はワシントンDCのAmerican Immigration Council(移民の人権擁護のために闘う非営利の団体です)で、移民の人権擁護と訴訟担当をしている弁護士です。テキサスはメキシコと接しているためヒスパニック系の移民が多いわけですが、警察や移民局による人権侵害も多くあり、相談活動のほか、損害賠償請求訴訟等も担当しているとのことでした。
 次に登壇したのが、リン・スチュワートさんでした。リンさんは、NLGのメンバーでもある刑事弁護士で、二〇〇二年四月に、愛国者法違反を理由に逮捕され、二〇〇六年一〇月、二八ヶ月の禁固刑を言い渡されましたが、二〇〇九年まで収監されませんでした。ところが、二〇〇九年に審理が差し戻され、一〇年の禁固刑が言い渡され収監されることになったのです。リンさんの行為については、菅野先生が団通信一一六三号で書かれていますし、自由法曹団では、二〇〇五年五月二四日に彼女を支持する決議を表明しておりますので、詳しくはそちらをご覧頂きたいと思います。二〇一三年一二月三一日、連邦地裁は、リンさんが七四歳という高齢であること、末期がんのため余命一八ヶ月と宣告されたことを理由に、compassionate release(恩赦のようなものでしょうか)を認め、リンさんはようやく釈放されました。実際に釈放を求めたのは、司法省の付属機関であるBOP(Bureau of Prisons)ですが、NLGメンバーの要請が契機となったことは間違いないでしょう。釈放されてから九ヶ月、リンさんはお元気そうで、ユーモアたっぷりに、「政府経営のホテル(刑務所のこと)」の食事は不味かったこと、刑務所で友達が出来たが彼らの弁護士のアドバイスがひどいので自分がアドバイスをしていたこと等をお話しし、余命なんて関係ない、これから益々頑張るという決意を新たにして、参加者は彼女に対する尊敬と喜びで沸き返っていました。私たち日本の弁護士も、リンさんと写真を撮らせて頂きました。本当にエネルギーに溢れた方でした。
 今回、ピーター・アーリンダーさんも来られていました。二年前のパサディナ総会のときは、ルワンダのショックのためあまり元気がなかったのですが、今年は恰幅も戻ってお元気そうだったのが何よりでした。ユーモアのセンスも回復していて、鈴木亜英先生の昆虫展の冊子を見せると、「コマリマシタネ」と片言の日本語でお話ししていました。
 今回は他にもノースウェスタン大学のえん罪防止センターでお話しを聞いたりすることもでき、実り多いシカゴ訪問となりました。えん罪防止センターでいただいたパンフレットはとても良く出来ていたので、また団通信で内容をご紹介したいと思います。


NLGシカゴ総会に参加して
―TPP問題分科会、労働問題分科会参加の報告―

神奈川支部  近 藤 ち と せ

 二〇一四年九月三日から同月六日までの間、NLGシカゴ総会に参加しました。総会では、連日多くの全体会や分科会の企画がありますが、ここでは私が参加したTPP問題の分科会と、労働問題の分科会について報告します。
TPP問題分科会
 九月五日の午前中、「フィリピンとアジア太平洋地域における米国帝国主義の現状とTPP問題、米国の軍事展開」をテーマとした分科会に参加しました。
 分科会では、BAYANというフィリピンの学生、研究者、女性等の団体が構成する人権活動団体の連合組織のアメリカ支部から、ジャックリンさんというフィリピン人活動家がメインスピーカーとして参加し、三〇人ほどのNLGメンバーが集まって討議をしました。
 ジャックリンさんによれば、アメリカは現在九九%の国民が一%によって支配され、格差が広がっているといわれているが、フィリピンこそ、まさに九九%が一%によって支配されている。しかも、その一%の支配層は、アメリカ政府と結託することで権力を維持しているとのことでした。
 また、フィリピンは、一九九二年に米軍基地が撤去されましたが、二〇一四年四月には、アメリカとの新軍事協定を締結し、再駐留につながる動きが加速しているとのこと。フィリピン政府は、新軍事協定の必要性について、中国がフィリピンの島々を狙っているからと説明しているということも、日本政府の集団的自衛権に対する態度と同じであると知りました。
 TPPについては、フィリピンの国民の九九%にとっては何のメリットもない反面で、低賃金の固定化、産業のさらなる空洞化等の社会問題が深化するばかりか、アメリカによる軍備強化と相まって、一%の支配層による九九%の搾取という構造をさらに固定化する方向へ作用すると分析されていました。
 討議の中では、参加者から、TPPは、アメリカ国民にとってすら、九九%の関係では何のメリットはなく、多国籍企業と、その活動によって利益を得る一%を喜ばせるだけであるとの発言がありました。アメリカでも、NAFTAのときと同様に、産業の空洞化や労働の低賃金化に拍車をかけるだろうというのです。
 分科会の最後には、ジャックリンさんから、TPPに反対するため日本やアメリカ、フィリピンの活動家が連帯する必要があるとの呼びかけがあり、参加者はメールアドレスを交換して、今後の連帯を誓い合いました。
 TPPについては、一握りの多国籍企業の利益のために、非関税障壁を撤廃することで、参加国の法律を変容させ、多国籍企業の活動しやすい環境を作り出すことが目的であることが明らかになってきていると思います。TPPを介した多国籍企業による支配は、私たち日本国民にとっても、食の安全、健康を守る皆保険、農業、健全な労働環境などを脅かし、九九%の国民を被害者の立場に突き落とすもであろうと思います。しかし他方で、フィリピンのような後進国では日本以上に、低賃金の労働供給が強要され、国内産業も空洞化する危険が高いのです。私たちは、被害者であると同時に、フィリピンの九九%との関係では、加害者にもなりうると感じました。
労働問題分科会
 九月六日午前中は、「なぜ不平等が是正されないのか:賃金格差と収入の不平等にいかにして対抗するか」というテーマのパネルディスカッションに参加しました。
 パネルとしては、アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL−CIO)の上級スタッフであるビル・フレッチャー氏、元イリノイ州議会上院議員ガルシア氏、全米ゲストワーカー同盟 (National Guestworker Alliance)のディレクターであり、ニューオリンズ・労働者センターの代表であるサケット・ソニ氏が参加しました。
 AFL―CIOのビル氏からは、ここ数十年で米国内に賃金格差と不平等が広まった背景には、労働組合の衰退、グローバリズムによる製造の空洞化、個人主義の蔓延があるとの分析がなされました。その上で、このような格差を是正するには、組合の復興(ルネサンス)と、左翼勢力全体の再構築も必要と指摘されました。
 ガルシア氏からは、米国内で賃金格差と不平等が広まった背景には、グローバリズムによって地域の産業が衰退し、まともな職に就く機会が奪われたという事情がある。まともな職がなくなったことは、特に都市部ではギャングや薬中毒者を増加させ、州全体では、子どもの貧困、女性の貧困を招いた。そこに、教育の民営化が公教育を崩壊させたことで、格差に歯止めのきかない状況が生まれていると分析がなされました。そして、この状況に対応するには、正常な給料が払われる職場を郡などの地方自治体が供給する必要があるが、それには国家による支援が欠かせない。イリノイ州では、精神病院が閉鎖されたことで、刑務所に収容される精神病者が増加しているが、正常な職場を増やして、刑務所の収容人数を減らすことも必要。全米ファーストフードユニオンのように、労働者を組織化することも非常に重要だとの発言がありました。
 サケット・ソニ氏からは、ニューオリンズは、全米でも最も格差や不平等が顕著な地域であり、その背景には、女性や、黒人など一九三〇年代から四〇年代にかけて労働組合などによる組織化の網から外されてしまった人たちが多いという事実がある。そのため、「努力をすれば報われる」といえる立場にある人は、全体の四〇%ほどに過ぎない。これらの労働組合という形で組織化できなかった人たちを、労働者センターという形で組織化して、権利実現を下支えする活動に力を入れているとの話がありました。
 各パネリストの発言の後、会場との活発な討議がありましたが、会場からは、「正常な労働を取り戻すにはどうすればよいと考えるか」という質問が出たのに対して、産業のグローバル化の中で、産業の本拠は賃金の安い方へと流されているが、正常な労働を取り戻すには、平等な教育を保障するとともに、生活できるだけの最低賃金を保障し、富の再配分を図るしかないとパネリストが回答していました。
 また、NLG総会の期間中、アメリカの各地ではマクドナルドの低賃金労働に反対する従業員のデモが行われていました。NLGの参加者やパネリストからはこのような抗議デモを連続的に行い、成果を上げていくことが労働運動と労働組合の復活のため、さらには不平等の是正のために必須であるという発言がなされていました。
 私は、NLGへの参加は二回目ですが、NLGに参加することの意味は、もちろんアメリカの社会問題、経済問題などについて直接情報を得られるということもありますが、やはり、一番は、アメリカにも同じ問題に取り組み、闘っているたくさんの仲間に出会えることだと思います。ここでは報告できませんが、愛国者法違反で長年刑務所へ収容されていたリン・スチュワート弁護士が釈放されて挨拶する姿を見ることができたのには、感動で涙が出ました。
 来年の総会は、カリフォルニア州のオークランドで行われるそうです。NLGのメンバーからは、来年の総会で、日本が抱える問題について分科会を企画してはどうかという連絡が来ています。国際問題委員会では、公の破壊、原発問題など、いくつかのテーマを取り上げて分科会を行おうという議論も始まっています。一緒に参加して分科会を盛り上げ、連帯を深めませんか!


実り多い八月集会

滋賀支部  杉 山 佐 枝 子

 平成二六年八月二六日、守山市で八月集会を実施しました。「八月集会」とは五月集会の滋賀版であり、弁護士・事務局・各種団体とで学習や交流を深めることを目的としています。例年、各団員からの活動報告、記念講演会、学習会という構成ですが、今年は活動報告に時間を多く割き、活動報告+記念講演会の二部構成としました。
 今年の活動報告では、原発差し止め訴訟、延暦寺霊園残土処理問題、カネボウ白斑対策弁護団、国際裁判管轄(離婚)、B型肝炎訴訟、面会交流、日野町えん罪事件と幅広い分野の報告がありました。七件中四件の報告を女性団員が担当したというのも、今年の特徴です。報告を聞いた団員からは「自分もいつか報告できるような事件を担当したい」「他事務所の取り組みが聞けて新鮮だった」といった感想が寄せられるなど、私も含めて参加者にとって非常に有意義な企画でした。
 休憩を挟み、大阪弁護士会の木村達也弁護士をお招きしての記念講演会が開かれました。「クレサラ運動三五年 ぶれない生き方について」と題し、木村弁護士のこれまでの活動内容を中心にご講演頂きました。「昔は個人の破産制度がなかった」「受任通知を送ったらサラ金業者から毎日のように電話がかかり対応が大変だった」「依頼者が業者に連れ去られそうになった」という、今から考えると信じられないような話ばかりで驚きの連続でしたが、木村弁護士をはじめとする諸先輩方が地道に活動してきてくださったおかげで、上限金利引き下げ等の成果に結びついているのだと実感しました。また、恥ずかしながら日々の業務の中でも特に金融業者との電話対応に苦手意識を持っていたのですが、木村弁護士の講演をお聞きして「しっかりしなくてはだめだ!」と強い気持ちを持つことが出来ました(ただ、今のところ実践の機会はまだありません。)。
 八月集会終了後、多くの団員・事務局が参加して懇親会が開かれました。集会とは異なり、打ち解けた雰囲気で話に花が咲きました。毎年実施している一言スピーチでは、各団員の個人的な近況や今後取り組みたい事件、気になっている事などを知る事が出来ましたが、話好きな人が多いのかお酒の影響なのか、みんな「一言」では終わらず、司会兼タイムキーパーとしてはドキドキしっぱなしでした。
 次回以降の八月集会について、「フィールドワークや現地視察をしてみたい」「団員以外の人にも、団の活動を知ってもらう機会になるようにしては」といった意見が寄せられています。今後も色々工夫しながら、より実りある八月集会にしていきたいと思います。


*福井・あわら温泉総会・プレ企画のご紹介*

「大衆運動における弁護士の役割
〜弾圧事件の弁護活動を考える」に是非ご参加を!

事務局次長  横 山   雅

 プレ企画第一部の内容をご紹介させていただきます。
 第一部は、弾圧事件の弁護活動について、石崎和彦団員より講演していただきます。石崎和彦団員は、最高裁で無罪が確定した国公法弾圧堀越事件の弁護団でご活躍なさった弾圧事件の弁護活動の経験が豊富な団員です。講演の後、弾圧事件の弁護活動の悩みどころを設問形式で会場の皆さんと議論をしたいと考えております。設問は、最初の接見で聴取すべきこと、助言すべきこと、捜索・差押えの立ち会いにおいて気をつけるべきところ、公判において証拠開示についてどのように対応すべきか等を用意しようと考えております。
 弾圧事件の弁護活動は、経験をしたことのない団員にとっては、どのような弁護活動を行えば良いのか分からないと思います。近時、大生連や倉敷民商等に対する捜査機関の介入が行われました。また、統一地方選も控えていることを考えますと弾圧事件の弁護活動に対する準備は不可欠な情勢にあると思います。また、弾圧事件の弁護活動の知識や考え方は、弾圧事件に限らず通常の刑事事件の弁護活動にも必ず生きるものです。
 若手団員のみならず多くの団員にご参加いただき自由法曹団の神髄である弾圧事件の弁護活動を検討する機会にしたいと考えております。
 皆様のご参加をお願いいたします。


集団的自衛権行使に反対する
一〇・八日比谷野音大集会&パレードにご参加ください!

事務局次長  山 添 健 之

 日本弁護士連合会は、一〇月八日に、日比谷野外音楽堂において、「閣議決定撤回!憲法違反の集団的自衛権行使に反対する一〇・八日比谷野音大集会&パレード」を開催します。日弁連は、集団的自衛権行使容認の閣議決定が、恒久平和主義及び立憲主義に反し違憲であるとしてその撤回を求めており、この集会を、立憲主義を堅持し恒久平和主義を守るための世論喚起にとって極めて重要な集会と位置づけているとのことです。
 また、日弁連からは、春名一典事務総長名で、団に対して、本集会の開催についての協力要請を頂いています。
 私たち団員も、この大集会に結集し、集団的自衛権行使容認にむけたあらゆる策動を決して許さない、大きな世論のうねりを作り出しましょう。
 あわせて、上記集会の前の時間帯に、団も参加する「STOP!秘密保護法共同行動」主催のマリオン前街宣も予定されています。ぜひ、上記集会と合わせて、全国各地の団員の参加をお願いします。弁士も募集しております!

〜閣議決定撤回!憲法違反の集団的自衛権行使に反対する
一〇・八日比谷野音大集会&パレード〜

(主催:日弁連 共催予定:東弁・一弁・二弁・横浜弁護士会、埼玉弁護士会、千葉県弁護士会、関弁連 協力団体:戦争をさせない一〇〇〇人委員会、解釈で憲法九条を壊すな!実行委員会、立憲デモクラシーの会)
日時:一〇月八日(水)一八時〜(開場一七時三〇分)
場所:日比谷野外音楽堂(会場中央付近に団の旗を立てる予定です)
プログラム:青井未帆さん、上野千鶴子さんほかの発言、日弁連からの報告
一九時一五分(予定)から、銀座・東京駅方面にむけてのパレードを行います。
〜STOP!秘密保護法共同行動 マリオン前街頭宣伝〜
日時:一〇月八日(水)一六時〜 場所:有楽町マリオン前(終了後、徒歩八分程度で日比谷野音に移動できます。)