<<目次へ 団通信1503号(10月11日)
団 長 篠 原 義 仁
一 安倍内閣は、昨年末、国家安全保障会議設置法と秘密保護法を強行採決し、一二月一七日には、国家安全保障戦略、新防衛大綱、中期防衛力整備計画を公表しました。
その上、四月一日、武器輸出三原則に代る「防衛装備移転三原則」を閣議決定し、武器輸出三原則を放棄するに至りました。
そして、七月一日、五月一五日の「安保法制懇」の報告を受け、集団的自衛権の行使を可能とする憲法九条の「解釈変更」を閣議決定しました。
この閣議決定は、政治的には大きな影響力をもちますが、しかし、その実効化のためには、来春の通常国会での自衛隊法や武力攻撃事態法などの「改正」が必要で、安倍内閣は、国際平和協力法の制定を含め「安全保障一括法案」の強行をもくろんでいます。
二 安倍内閣は、七・一閣議決定を既成事実化するために、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の中間報告(九月末予定がズレ込む)を行い、年明けの決着をはかろうとしています。
「安全保障一括法案」の国会提出に先立つ、「ガイドライン」の見直しが、米軍の武器等防護のための武器使用や集団的自衛権行使も組み込と予測され、厳しく監視する必要があります。
他方、一二月一七日の前記諸計画の具体化としての二〇一五年度軍事予算は、過去最大の五兆五四五億円となり、前年比で一六九七億円、三・五%増で、初めて五兆円の壁を超えました。
ここでは、垂直離着陸機オスプレイや水陸両用車、無人偵察機など新兵器の導入が次々と盛り込まれ、「海外で戦争する軍隊」の装備が拡充、強化されるに至っていて、自衛隊の攻撃能力の増強がとりわけ目につくところとなっています。尖閣・竹島を視野に入れた「島嶼防衛」を口実に「殴り込み」作戦を主任務とする「水陸機動団」や水陸両用車部隊を長崎県佐世保市に創設し、オスプレイ部隊の佐賀空港配備も狙われ、上陸侵攻作戦で、「水陸機動団」やオスプレイ、水陸両用車などを輸送し、作戦の指揮統制や負傷兵の医療活動ができる「多機能艦艇」の導入調査も盛り込まれています。
一連の装備強化は、憲法上の制約から専守防衛に徹するとしてきた自衛隊を、「積極的平和主義」の名の下に、侵略性のある自衛隊にする、ということで自衛隊の「質の変化」を要求するもので、東北アジアでの軍拡競争の危険性を高めるものとなっています。
こうした先取り現象に反撃し、同時に七・一閣議決定の実効化を狙う「安全保障一括法案」の強行は、断固として阻止する必要があります。
三 「徹底解剖! イチからわかる安倍内閣の集団的自衛権」(合同出版。定価一五〇〇円+税)は、こうした情勢に対応して、自由法曹団の編著として緊急出版されるところとなりました。
これは、三月に同じ合同出版から自由法曹団・秘密保護法プロジェクト編として出版された「これが秘密保護法だ。全条文徹底批判」と対をなす、徹底批判・徹底解剖の第二弾で、団員弁護士の学習会用に、そして、改憲策動に反撃して取り組む活動家向けに執筆されたものとなっています。
内容的には、編著者がいうように、七・一閣議決定は、憲法論や安全保障論と深く関わりますが、それは別途の論稿に譲って、必要最小限の論述とし、主要には、「閣議決定」そのものを基本にすえて、「閣議決定全文にコンパクトな解題を行い」、その上で、閣議決定に沿った四〇問のQ&Aを設定して、その内容と問題点を解説したものとなっています。
具体的には、閣議決定の内容を、(1)「まえがき」につづき、(2)武力攻撃に至らない侵略への対処、(3)国際社会の平和と安定への一層の貢献、(4)憲法九条の下で許容される自衛の措置、(5)今後の国内法整備の進め方、と五部構成にした上で、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」というタイトルの閣議決定につき、「国の存立と国民を守る」ということが安全保障法制整備の正当化の名目となっていることに対し、鋭く斬り込み、そして、「切れ目のない」という名のもとに総合的、全面的法整備を行うことについて、団活動の実践からそれを解剖し、その問題点を鋭く抉り出しています。
Q&Aの説明について、より詳しく紹介すると、まず「基本知識」の章では、閣議決定につき、わが国の平和主義、憲法九条との関係、国連の集団的自衛権との関係、従前の憲法九条に係る憲法解釈との関係、従前の安全保障政策と近時における「安全保障環境の変化」の関係を個別的に論じ、読者との間で憲法問題の共通の認識を深めようとしています。
次に、「グレーゾーン事態への対応」の章では、閣議決定のいう「グレーゾーン事態」の解明、「グレーゾーン事態」での「切れ目のない対応」のもつ意味とその批判的検討、自衛隊の「海上整備活動」の手続の迅速化とその整備活動のもつ問題点の指摘などを具体的に明らかにしています。
「自衛隊の海外派兵に関する活動」の章では、自衛隊の海外活動の活動地域、武器使用に係る限定と今回の閣議決定の比較検討、「武力行使との一体化」論のもつ問題点の解明、従前の「後方地域」「非戦闘地域」と今回の閣議決定との比較検討、閣議決定と周辺事態法との関係、自衛隊の「戦闘現場」での活動内容の矛盾、自衛隊の武器使用。とりわけ「自己保存型」の武器使用の問題、「駆け付け警護」の武器使用とPKO法の関係、「邦人救出」などの「警察的な活動」での武器の使用の問題や国際平和協力法案の課題が個別的に検討されています。
「集団的自衛権の行使容認」の章では、過去における集団的自衛権行使の実例についてまず、検討し、次に、国際法上の集団的自衛権に係る要件について検討し、これとの対比の意味を込めて、従前の自衛権行使(個別的自衛権)についての政府見解をおさらい的に確認し、今回の閣議決定の憲法上の問題点の検討、集団的自衛権行使に係る閣議決定でいう「新三要件」について批判的に検討しています。
最後に「変更される関連法」の章では、本年末に改定が予定されている日米ガイドラインの分析、来春の通常国会に提出が予定されている関連法案の分析と明文解憲の策動等の関係が検討されています。
この外に本書では「コラム」欄が設けられ、「集団的自衛権の行使容認」のQ&Aの補充として、さらに、新三要件のうらの第二、第三要件の検討、閣議決定でいう集団的自衛権の「限定的」行使についての解明、集団的自衛権行使の要件としての「密接な関係」「明白な危険」の有無、「他に適当な手段」の有無の問題が検討されています。「邦人の乗った艦船」を守る、「機雷を掃海」することの問題、「日本人を乗せた米艦船の防護」の問題、すなわち、安倍首相がパネルを提示しての「国民受けを狙った説明」についても、わかりやすく説明、解説されています。
四 目次的に拾っただけでも、本書が、団員弁護士が学習会に向うにあたり、「必読書」であることがわかります。
その上、本書の末尾には、(1)安保法制懇と与党協議の類型・事例、(2)憲法改正・海外派兵をめぐる展開と第二次安倍政権、(3)関連する法制についても、資料編として収録されていて、さらに「わたしたちにできること」ということで、当面する活動の指針も付されていて、これ一冊で講師活動がOK、という内容で、まさに学習会用「必携書」です。
今、「戦争をする国」と直結する秘密保護法の廃止を求める運動が、ひきつづき粘り強く展開されています。この間、改憲策動に反対する取り組みも、弁護士会の活動、九条を守れの市民的運動として、急速に進展しています。
くり返しいえば、秘密保護法の廃止問題と結合して、解釈改憲、立法改憲、明文改憲−いかなる改憲にも反対する運動が大きく盛り上り、今、さらに、より一層深く学習したいということで、九条の会関係を中心に労働組合、民主団体、市民団体のなかで、団に対し、数多く学習会の講師要請が寄せられています。
「秘密保護法・徹底批判」と本書「徹底解明・集団的自衛権」を大きく普及し、同時にこの本を手に持って講師活動を旺盛にくり広げることが喫緊の課題として提起されています。
「秘密保護法・徹底批判」は、国民的要求をうけて二刷(六〇〇〇部)に入り、大きく普及しています。
本書「徹底解明・集団的自衛権」も、それ以上に普及してゆこうではありませんか。
東京支部 松 島 暁
合同出版発行の二冊目、『徹底解剖!イチからわかる安倍内閣の集団的自衛権』の原稿書きのために、集団的自衛権に関する出版書籍の何冊かに目を通しました。正直なところ、某有名書店発行のものを含めて、雑誌原稿を手直ししたような類いのものが多く、閣議決定そのものを扱ったものがあるはずもなく、役に立ちそうなものがない中でお勧めの一冊が、表題の『別冊法学セミナー・集団的自衛権容認を批判する』(日本評論社)です。
本書は、民科法律部会が今年の四月二七日に開催したシンポジウム「憲法九条解釈の変更をめぐる法と政治―集団的自衛権を中心にして」での報告をベースにつくられていて、その内容・水準は、「さすがは民科!」というのものです。八月一五日の発行であったため、実際に参照できたのは、『徹底解剖』の第一稿を書き終わった後となりましたが、改憲対策本部での議論とほぼ同様のもので、第一稿を修正する必要はほとんどありませんでした。
全体は、五章から構成され、渡辺治、山形英郎、浦田一郎、君島東彦、小沢隆一の各氏が執筆を担当されています。
第一章・渡辺治「安倍政権の改憲・軍事大国化構想の中の集団的自衛権」は、改憲策動の歴史とその到達段階、安倍政権の改憲構想の全体像が提示されている。渡辺氏のいつもながらの俯瞰的視点からの論述です。同時に、安倍政権を現実に支え、リードしている新しい勢力の分析も示されています。
第二章・山形英郎「国際法から見た集団的自衛権容認の問題点」は、集団的自衛権が国際法上いかなる本質をもった権利であるかという基本的視点をふまえた上で、我が国における解釈や議論、ICJによるニカラグア判決にまで目配りされています。
第三章・浦田一郎「集団的自衛権はどのように議論されてきたか」は、この問題の第一人者によって、わが国の過去の議論がコンパクトにまとめられています。
第四章・君島東彦「東アジア平和秩序平和への道筋」は、安倍政権の安全保障政策が、米国との関係、中国との関係の「再定位」であるとし、米・中・日の防衛政策についての冷徹な観察、的確な分析が必要だとします。特に、尖閣問題が単なる領土問題ではなく、アジアにおける日中の覇権闘争だとする指摘が重要です。そしてその厳しい現実をふまえた上での平和の構築が提言されています。
第五章・小沢隆一「集団的自衛権の行使容認をめぐる最近の動向について」は、五月一五日に公表された「安保法制懇報告」とそれを受けた政府方針についての批判的検討です。
七月一日の閣議決定が脱稿後であったため、第五章末尾に付された検討は極めて簡単なものとなっています。閣議決定そのものやその後は、『徹底解剖!イチからわかる安倍内閣の集団的自衛権』をご参照ください。この二冊は必携です! 以上、宣伝も兼ねて。
*福井県特集*
福井県支部 海 道 宏 実
幅広いネットワーク作りの核を団員が担う
反貧困全国キャラバン二〇一二に呼応して、福井県では、これまで核となった団体がなく運動の実績も少なかったことから、一から幅広い団体・個人に呼びかけて実行委員会を作ろうという議論になり、団員が中心になってそれぞれのつながりを生かして呼びかけた結果、二〇一二年の反貧困全国キャラバン福井実行委員会が結成されました。特徴的なのは、弁護士会・司法書士会・行政書士会・社会福祉士会といった各士業団体、労働者福祉協議会、民医連、北陸生活保護支援ネット福井等運動団体、さらには自死遺族アルメリアの会、茂幸雄さんが代表と務めるNPO法人心に響く文集・編集局も共催に加わり、福井においては過去例を見ない幅広い共闘ができたことです。
この成果を受けて、二〇一三年には、さらに社会保険労務士会・福井労働弁護団も共催団体に加わって「生活保護切り捨てを許さない」プレ企画を実施し、九月には、自死問題の講演会とライブ、当事者のリレートーク、パレード、駅頭宣伝、県庁前出発式、行政への要請、何でも相談会が実施され、成功しました。
そして二〇一四年には、全国のキャラバンは提起されませんでしたが、福井では継続することになり、さらに法テラス福井・福井過労死弁護団も共催団体に加わりパワーアップしました。今年の講演会は、ポッセ代表の今野さんによる「ブラック企業問題とは何かー地域の行政、親、教師、福祉関係者にできること」と題した講演で深刻な実態と私たちがなすべきことを学び、当事者のリレートークでも貧困や労働の実態等生々しく発言され、参加者約一〇〇名が問題意識を共有できました。来年以降もこのような取り組みが発展していくこととなるでしょう。
反貧困運動においては、団員が各分野の先頭に立ってリードする役割を果たすとともに、とりわけ地方では(既に各地で取り組まれているとは思われますが)各団体個人の力や実績が弱い分、幅広い力を結集して取り組む、その結節点の中核となることが求められていることを実感します。安倍内閣の各方面にわたる相互に関連する同時多発攻撃に対抗するためにも、一層の努力をすすめたいと思います。
旅行に参加して、茂幸雄さんの話を聞こう!
今総会の半日旅行・一泊旅行では、ご案内の通り、昼食後に東尋坊で茂幸雄さんの話を聞くことが予定されています。既に、佐賀の人権大会分科会で発言したり全国各地で自殺防止活動の講演をしている等から、ご承知の方も多いと思われますが、地元三国警察署(現在の坂井西警察署)副署長時代に東尋坊で自殺防止パトロールを始め、定年退職後にNPO法人を設立し、活動してきた方です。私も反貧困キャラバンや県の自殺防止協議会等を通じて数多くのお話をお聞きしたり講演をお願いしてきました。吉川団員の団通信での紹介記事にもあったように、私も何度聞いても新たな発見や教えられることが多いです。やはり観光業者からの反対の声を乗り越えて活動を継続し、現実に多く(昨年一一月時点で四六一人)の命を救い、最後まで寄り添ってきた経験と実績が裏打ちされているからでしょう、一言一言の言葉の重みが違います。昨年の日本労働弁護団総会でも「過労死防止基本法」スタディグループで講演していただきました。その中で茂さんは「セーフティネット紹介ではだめ。片道切符で来た自殺企図者に対して(1)避難場所(2)頼れる人(3)支えてくれる人による生活支援が重要。冷静になった後に悩みを軽くする手伝い(たとえば職場のいじめ事案では一緒に会社に同伴し謝罪と労災申請をしてもらう等)とメンタルヘルス対策を行ってきた」等訴え、活動を通じて知る最近の労働現場の実態については「若い労働者に超過勤務をさせながら翌日期限の仕事を与え持ち帰り残業を強制させる、派遣社員を自由に全国へ転勤させて退職させる等巧妙な手口が増えてきた」等述べました。
風光明媚な東尋坊の観光と併せて、短時間ですが、団らしい企画として、HP(http://toujinbou.web.fc2.com/member.html )もご覧になった上で、是非話を聞いてみてください。
福井県支部 吉 川 健 司
一 事件の経過
福井女子中学生殺人事件は、一九八六年三月一九日夜に、福井市内の市営住宅の一室において、そこに住んでいた女子中学生(当時一五歳)が、何者かによって殺害された事件です。
再審請求人である前川彰司さんは、一九八七年三月二九日に逮捕されてから一貫して無罪を主張し続けました。そして、一九九〇年九月二六日に一審において無罪となりましたが、控訴審で懲役七年の逆転有罪となり、最高裁で有罪が確定したため服役しました。出所後、二〇〇四年七月一五日に名古屋高裁金沢支部に再審請求を行い、二〇一一年一一月三〇日、再審開始決定が出ました。ところが、異議審の名古屋高裁は、二〇一三年三月六日、検察官の異議申立を認め、再審開始決定を取り消す不当決定をしました。
現在は、最高裁に特別抗告中です。
二 事件の概要、弁護団の主張概要と異議審決定の不当さ
本件については、以下のような捜査経過の異常さ、極めて脆弱な証拠構造が判明しています。
(1)事件から半年が経過し、捜査が行き詰った状況下で、暴力団員A男が、自らの覚せい剤使用事件の減刑目的で始めた供述を契機に捜査が展開したこと
(2)当初、A男は、前川さんと犯行現場まで同行した人物としてL男を名指しし、その結果、L男は逮捕までされたが、後に本件とは無関係と判明し釈放されたこと
(3)A男の知り合いのK男の所有する白色スカイラインから被害者と同じO型の血痕が発見され、A男をはじめとする関係者全員が、同車が犯行当日に使用されたと供述し、それが前川さん逮捕の決め手とされたが、後に同血痕が事件とは無関係と判明したこと
(4)自白や物証、犯行目撃供述等の前川さんの犯人性を示す直接証拠が皆無で、犯行時刻ころに現場付近に前川さんと同行したとか、事件後に着衣等に血をつけた前川さんを見たといった関係者供述のみに基づいた事実認定であること
(5)A男も含めた関係者がいずれも捜査機関に迎合しやすい素地を有する人物(薬物関係の捜査、裁判中であった、供述当時執行猶予中だった等)で、実際に公判では取調で強引な誘導を受けたことを証言し、捜査段階と異なる供述をする者が複数いたこと
これらに加え、弁護団は、再審請求にあたり、以下の三つの新証拠を提出しました。
第一は、被害者の身体に、犯行現場に残された二つの包丁ではできない大きさの創傷があり、第三の刃物が存在するという鑑定書です。これにより、第三の刃物は犯人が現場に持ち込んで持ち帰ったことが明らかであり、突発的・偶発的犯行という確定判決の認定とは矛盾することを明らかにしました。
第二は、前川さんが犯行現場への往復に使用したとされる自動車内から、被害者とは別人が事件の一年前に付着させた血痕が発見されているのに、A男が、血痕の付着を目撃した、と供述した部分からはルミノール反応がないことを踏まえ、実験によれば血痕付着後長期間経過してもルミノール反応がなくなることはない、という実験についての鑑定書です。これにより、A男の血痕付着目撃供述は信用できず、ひいては、前川さんの着衣に血痕が付着していたという関係者らの供述も信用できないことを明らかにしました。
第三は、首つり自殺を偽装した痕跡が残るなどの犯行現場の状況から推測される犯人像は、確定判決の、シンナーの影響により心神耗弱状態に陥った犯人が犯行に及んだという認定とかけ離れているという法医学鑑定意見書です。
そして、再審請求審において、新たに証拠開示された供述調書により、関係者供述は同時期に同内容に変遷することを二回も繰り返しており、取調官の誘導が認められ、信用できないということも明らかにしました。
ところが、異議審決定は、前述の証拠構造の脆弱性に一言もふれませんでした。
そして、弁護団提出の新証拠については、抽象的な別の可能性を示すだけで、新証拠としての価値を否定しました。
一例を挙げれば、確定判決は、A男が前川さんから「かっとなって訳が分からず被害者を殴る、刺すなどし、気がついたら血だらけで、びっくりして逃げた」との犯行告白を聞いたという伝聞証言を前提に、シンナーを吸引した前川さんがシンナー遊びに被害者を誘おうとして断られ、シンナーによる幻覚妄想状態で激昂し、心神耗弱状態に陥って被害者をめった突きにするなどした犯行だと認定しました。
しかし、犯行現場の部屋の鴨居には、ぶら下げられたドライヤーコードで輪が作られていて、これが首つり自殺偽装目的でつり下げられたことは、再審請求審の検察側鑑定人も認める動かしがたい事実でした。
再審開始決定はこれが自殺偽装であるとの弁護人の主張を認め、犯人は、確定判決の認定とは異なり、「合理的で、高度の思考能力を備えた犯人により実行されたと考えなければ説明のつかない点が多々認められる」と認定しました。
ところが、異議審決定は、「犯人が首つりの偽装工作を試みたとは限らないというべきであって、ヘアドライヤーのつり下げと本件犯行との関係は明らかでない」と述べるだけで、開始決定の認定を覆しました。
また、異議審決定には、再審請求審の審理経過をも無視した不当性があります。一例をあげると、再審請求審では、第三の刃物が存在したのか否かという争点について、検察官は、当初、創口の長さの測定の誤差の可能性を理由に第三の刃物の存在を否定しました。これに対して弁護側が反論すると、検察官は誤差の可能性の主張を撤回しました。その上で、再審請求審では、弁護側の鑑定人と検察官の鑑定人の尋問が行われ、弁護側の鑑定人の主張を認める開始決定がなされました。
ところが、異議審において、検察官は撤回した誤差の可能性について、再び主張を行い、異議審決定は、撤回された主張の根拠となる鑑定書を証拠として引用し、検察官の主張を採用しました。再審請求審の審理経過を無視するだけでなく、弁護側に検察官側鑑定人に対する反対尋問の機会も与えないという点でも不当さが際立っています。
三 特別抗告審での逆転勝利に向けて
弁護団は、異議審決定から五日後の三月一一日に特別抗告申立書を提出し、さらに二〇一四年九月二六日までに補充書七まで提出しました。合計で約八〇〇頁にもなる書面により、本件が冤罪であることは明らかになったと確信しています。
本件は、冤罪であるというだけでなく、捜査機関の証人、参考人に対する密室取調、取引による供述の誘導、検察官による証拠隠し、検察官による上訴の弊害等、現在の刑事司法の問題点が集中的に表れている事件でもあります。前川さんの無罪によって、本当の意味での刑事司法改革が必要であることを明らかにしたいと考えています。
特別抗告審で再審開始決定を認めさせ、前川さんの無罪が確定するよう、全国の団員の支援をお願いいたします。
福井県支部 諸 隈 由 佳 子
総会に参加される皆様に、比較的総会会場に近い飲食店をご紹介いたします。
芦原温泉街周辺で、福井名物のおろしそばが食べたいという方には、「日の出屋」(福井県あわら市二面三四―四三、TEL〇七七六―七七―二二七四)や、「福乃家」(福井県あわら市温泉五―三〇三、TEL〇七七六―七七―二〇七五)がおすすめです。福井県民は、冬の寒い日でも冷たいおろしそばを食べますが、おろしそばは身体が冷えるという方には、温かいおそばや丼物もメニューにあるようです。
また、おろしそば以外では、「ようしょく源の屋」(福井県あわら市温泉一丁目四〇五、TEL〇七七六―七七―二〇四五)があり、ランチなどがおすすめです。
いずれのお店も、少し分かりにくいところにありますが、総会会場から徒歩圏内です。
早めに福井に到着された方には、少し足を延ばして、福井の名勝東尋坊のある三国町周辺の飲食店をご紹介いたします。
「食事処田島」(福井県坂井市三国町宿一―一七―四二、TEL〇七七六―八一―七八〇〇)は、宮内庁御用達の魚問屋直営のお店で、海鮮丼は絶品です。
三国町のおそば屋さんも紹介しておきますと、「盛安」(福井県坂井市三国町北本町三―二―三〇、TEL〇七七六―八二―〇四〇五)は、地元の人も多く通うお店です。
港町三国の伝統的な料亭「料理茶屋 魚志楼」を紹介します。お店の建物は、有形文化財に登録されていて、刺身や天ぷら、炭火焼などさまざまな甘エビ料理をコースや懐石料理で味わえます。ランチでは、甘海老天丼がおすすめです。
また、三国町には、イタリアンのお店も多く、ナポリピッツア協会(Associazione VERACE PIZZA NAPOLETANA)認定を受けたオーナーが焼き上げるマルゲリータが有名な「バードランド」(福井県坂井市三国町緑ケ丘四丁目一九―二一、TEL〇七七六―八二―五七七八)がおすすめです(ただし、残念ながら第三日曜日は定休日のようです。)。ほかにも、「ソニョーポリ」(福井県坂井市三国町安島一四―二一―一、TEL〇七七六―八一―三〇六三)では、地元産の食材をふんだんに使用した料理を味わえます。時間に余裕を持ってお出掛けください。
「ジェラート&スイーツ・カルナ」(福井県坂井市三国町南本町三丁目四―三四、TEL〇七七六―八一―三二二五)も有名で、その中でも、「三國の海の塩」ジェラートは定番です。
総会当日の夕食のメニューには、かにがあるそうなので(ちなみに越前がに漁の解禁日は、毎年一一月六日です。したがって、越前がにではありません。念のため。)、かにの剥き方について、一例を説明します。
一.足の付け根の関節のところをはさみで切ります。二.かにをひっくり返して、ふんどしを開いて切り取ります。三.甲羅を開きます。四.がにと呼ばれるえらの部分を切り取ります。五.胴の部分をはさみで二つに切ります。六.足の太い部分の平らな面をはさみで開きます。七.開いた殻を切り取ります。八.爪の部分は切れ目を二本入れると殻を開くことができます。
但し、むき方にもいろいろあります。インターネットで検索(越前ガニ+むき方)すると、画像付きで解説されていますので、事前に調べてみてください。
福井県支部一同、皆様の参加を心よりお待ちしております。
大阪支部 井 上 洋 子
二〇一四年九月、NLGのシカゴ総会に参加の合間に、鈴木亜英、鈴木麗加、杉本朗の各団員と井上で、ノースウエスタンロースクールのえん罪救援センターを訪れた。
私たちの一番知りたかったのは、「司法取引を認めることが、えん罪増加につながるのではないか。アメリカのえん罪事件において司法取引制度からくる弊害があるという認識はないのか。」ということだった。
このことについてはえん罪救済センターだけでなくNLG総会参加の弁護士にも尋ねてみたので、まずその結論を言うと、総じて消極的意見であり、これは私には意外なことであった。
ロイヤル弁護士:「司法取引のない制度を体験したことがないから、想像ができないが、司法取引制度がないと、事件処理に時間がかかりすぎてしまうと思う。」、ピーター・アーリンダー:「日本でも自白して罪を認めた事件は裁判で情状が軽くなるだろう。アメリカはそれと同じことを、訴追前の段階でやっているにすぎない。罪を認めれば軽い処分になるということを、司法制度の中で、どの場面でやるかの違いが日米にあるにすぎない。アメリカの司法取引制度を悪しきものと言うことはできない。」、NLGのススラー弁護士(Jan Susler)も消極的だった。唯一、ドリズィン教授が、「今、日本に司法取引制度がないのなら、新たに制度を導入すると検察官の権限が強くなるから、それは良いこととは思わない。」と、中間的意見だった。
さて、えん罪救済センターに話を戻す。ここにはいきなり訪問をしたのだが、センターのパンフレットとTシャツをくれただけでなく、翌日には忙しい仕事の合間を縫って面談の時間をとってくれるという、きわめて好意的な対応だった。話をしてくれたのは、雪冤当事者のジャックさん(Jaques Rivera)、ロイヤル弁護士(Judy Royal) 、リーガルクリニックの副学長ジェラフティ氏(Thomas F.Geraghty)、ロースクールのドリズィン教授(Steven A.Drizin)、と名刺交換をしなかった男性弁護士の五人だった。(ドリズィン教授の著書は伊藤和子団員が翻訳して出版されている。「なぜ無実の人が自白するのか」日本評論社二〇〇八年)
えん罪救済センターの活動はそのHPに詳しい。無実を主張する人が面談して相談し、センターが数ヶ月以上かけて調査し、具体的支援へとつなげていく。取り扱うのはあくまでえん罪事件だけで、減刑を求める事件は取り扱わない。センターの設立は一九九八年であり、毎月約二〇〇件の相談がある。調査と支援は、ロースクールの教授陣、スタッフ弁護士、大学院外の協力弁護士、学生が行う。運営資金は基金や個人や法律事務所からの寄付でまかなっている。(二〇〇八年の一〇周年冊子によれば、五〇〇〇万円以上の寄付者が二名、一〇〇〇万円以上の寄付者が一〇名など多額寄付者がいる。しかし、一件あたり年額四六〇万円の経費がかかり、二〇〇八年時点では、二六件のえん罪事件を抱えているということである。)
活動の成果としては、二〇〇〇年にイリノイ州の死刑執行停止、二〇〇三年に殺人事件で身体拘束された被疑者に対する警察の取り調べの全録画の義務化、二〇〇八年にイリノイ州の刑事補償法の成立、二〇一一年にはイリノイ州での死刑廃止、などが挙げられている。連邦最高裁判所に意見書を書いたり、名張事件に関する意見書も成果として挙げられている。
一八九〇年以後のイリノイ州の雪冤者は一五〇人以上で、一九七三年から二〇〇四年のえん罪の原因のうち、スニッチ(snitches)と表現される偽証や報償付きの誣告証言が四五%、犯人の同一性の誤りが二五%、虚偽自白が一四%、誤った科学的捜査が一〇%とのことである。
この統計があるからこそ、私たちは、このスニッチの誘因が司法取引制度ではないのか、と尋ねたのであるが、それには積極的回答が出なかったのは前述のとおりである。
対応してくれた方々からは、自分たちが雪冤していることへの誇りが強く感じられた。また、センターはとくに女性についてのえん罪救済プロジェクトを作って支援しており、全米初だと自負しておられた。女性雪冤者にはそもそも事件性がない事例、家族が亡くなった事例、自白をしてしまう事例が多いといった一定の特徴があるからということである。
このようなえん罪救援センターで学んだ学生も、多額の教育ローンを抱えているので経済的理由から会社法務弁護士になる者が多い。しかし、学生のときに雪冤活動の体験をさせて、心にその喜びや興味を植え込むことが、将来、雪冤活動やその支援につながる、とドリズィン教授は言っておられた。
東京支部 飯 田 美 弥 子
一 あれから一年
今年度の団総会が迫ってきました。
今年五月三日に発行した「八法亭みややっこの憲法噺」の担当編集者と、出版の予定などなかったのに、何となく名刺交換をしたのが、昨年の団総会の会場(安比高原)であった、と遠い昔のことのように思い出した次第です。
夜のミニライブについては、滋賀支部の玉木団員が、「八法亭みややっこに惚れた」という衝撃的なタイトルの感想文を団通信に投稿してくださいましたっけ。それも、懐かしい。
当時は、昨年度でいっぱいで、噺家の真似事は止めて、普通の弁護士に戻ろうと考えていたのでした。
ああ、それなのに、それなのに…。
二 今年の高座総数四〇
昨年五月の初演(まだネタは定まっていなかったが。)から一二月末までの高座数は一五。主に八王子界隈、すなわち、東京の市部。新日本婦人の会のニュースや会員の皆さんの口コミの力で、広がったものです。
それと郷里・茨城県のつてで、結城市の九条の会。そこでの録画が、みややっこDVDの元資料となりました。
ところが、年が明けるや、五月集会の報告文書にも書いたとおり、みややっこは全国展開に。
現時点で、二七高座をやり遂げ、年末までにあと一三高座の予約が入っています。(ちなみに、来年も既に一〇高座の予約あり。)
平日はスーツ姿で弁護士をしており、土日・休日だけの噺家で、一月・八月は高座を休みにしていましたから(しかし、弁護士として合宿などに参加していた。)、ほぼ全部の休日が、高座で埋まっているということです。
ちなみに、我が事務所の四〇周年レセプションのように、短時間の「発言」や「挨拶」は、カウントに入っていません。一時間は「憲法噺」をさせてもらえたところだけの数字です。
お陰さまで、二つの草履の底がはずれていまいました。衣替え時には、夥しい数の着物を染物屋さんに持ち込みました。普段の衣装の手入れは、私が自分でやっています。
私生活は、ほぼありません!
三 事務所内の密かな楽しみ
もうこの状態になりますと、楽しみは、全国制覇となってきました。事務所の壁に、白地図を貼りだして、伺った県には色を塗っています。
既に関東地方は全ての県に色が塗られています。(中本団員、谷萩団員、城口団員、森団員、お招きありがとうございます。)
中部エリアは、愛知(宮田団員)、滋賀(玉木団員)、岐阜(笹田団員)、長野(長野中央法律事務所)、山梨、石川(青法協)に色が塗られています。
関西地方では、京都に伺い(六七期司法修習生)、大阪・兵庫からお招きをいただいて、色付きです。
中国地方では、既に山口、広島(服部団員)に伺い、島根からお招きいただいています。
四国では、高知に御予約いただき、九州では、福岡に伺いました。
東北地方は、秋田と宮城に御予約いただきました。
北海道には、来春伺う予定です。
というようなわけで、三重・奈良・和歌山、船で四国に渡って、徳島・香川・愛媛、また船で九州に渡って、大分を皮切りにぐるっと回ると、一筆書で制覇できるのにねえ、あ、沖縄は無理か…などという会話が交わされます。
或いは、「岡山と鳥取が白いから、山陽道も山陰道も通じてないのが口惜しいわね」とか。「最後に残るのは意外と盲点の静岡かしら」とか。
いや、そんなことが現実になっては、私は弁護士業務をお休みして、旅芸人になることになってしまいますから(全国ツアー?)、全くの戯言なのでございますが。
でも、まだお呼びいただいてないところの団員の皆さま、皆さまの県が、地図上に白いままで残るのは、お嫌ではありませんか?
滋賀支部 玉 木 昌 美
滋賀弁護士会では、九月二三日、元内閣法制局長官であった阪田雅裕氏をお招きして、市民シンポジウム「元内閣法制局長官が語る集団的自衛権」を開催した。これは七月一日の集団的自衛権行使容認の閣議決定を踏まえ、立憲主義の意味、法の番人としての内閣法制局の意義、「集団的自衛権の行使」は憲法上認められないというこれまでの歴代内閣の見解等を市民向けにわかりやすくお話していただくことにした。
その準備の過程では、委員会において、坂梨勝彦副会長に『「法の番人」内閣法制局の矜持』の中身を報告してもらい、学習して議論した。その中で、今回の閣議決定には内閣法制局も事前に関与しているのではないか、そうなると、表面的には従来の政府見解を変えていないという説明や限定的にしか行使を認めていないような表現を阪田氏は評価することになるのではないか、それでは弁護士会の考えとは異なってしまう、と考えた。そして、最近の雑誌(『第三文明』等)における阪田氏の発言を確認するとやはりそうであった。そこで、その点については、坂梨副会長とのディスカッションにおいて論点を提示していくことを確認した。そのための質問事項についても委員会で活発に議論した。
集会の冒頭、近藤公人会長は、滋賀弁護士会の総会決議や会長声明を説明し、内閣の閣議決定で憲法を変えることはできない、立憲主義に反することを強調した。
阪田氏は、まず、法律とは統治の手段であり、万能であるが、憲法に背くことはできない、法律は多数決で決定されるが、多数による少数の人権侵害は許されない、憲法は公務員を名宛人としている、それを守るべき立場にある者が勝手に解釈することは許されないと立憲主義についてわかりやすく展開された。また、最高裁が違憲の判決を出した事例を説明し、事後にしか対応できない問題点を強調され、そもそも法律は違憲と言われないものをつくる必要がある、そのために内閣法制局があると指摘された。
次に、憲法九条二項こそ重要であり、自衛隊がなぜ戦力に該当しないのか、という点について、自衛権が存在し(砂川判決)、必要最小限度の実力組織であるから戦力に該当しない、それゆえに自衛権発動の第一要件には、我が国に対する急迫不正の侵害があることとされ、歴代内閣は、これまで集団的自衛権の場合はこれに該当しないと一貫していた、と説明された。集団的自衛権はベトナム戦争等大国が軍事介入するときの理由に使われた点の説明や日本と韓国の対応の違い(韓国は参戦、五〇〇〇名に近い戦死者)についても説明があった。
肝心の七・一閣議決定については、以下のとおりであった。
「武力行使ができるのは『我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険ある場合』に限られていて、従来の政府見解と基本的な考え方を同じくするものであり、その延長線上にあるものといえる。その意味では内閣法制局や公明党が頑張ったともいえる。この制限のもとでは、韓国が攻められる朝鮮半島有事の際放っておけば、日本も攻められるというような場合しか考えられないのでほとんどの場合は武力行使できないことになる、閣議決定の撤回と言っても難しいので、まずは決定自体を守らせることが必要である。」
この内容については、想定ずみのことであったことから、ディスカッションにおいて、坂梨副会長が閣議決定の撤回を求める弁護士会の立場から、明白な危険があるかどうかの判断を時の政権に委ねることの危険性、抽象的な基準は限定的な表現であっても、安倍首相はたとえばホルムズ海峡の地雷封鎖までできるような説明をしていることをどう見るのか、閣議決定は論理的整合性を保っているとみてよいのか等質問し、議論しました。
阪田氏は以下のように説明された。「説明した場合以外にも武力行使をできるとするならば、すなわち、自衛隊が他国の軍隊と同様の活動ができるとするならば、九条は意味がなくなる。ホルムズ海峡の機雷除去や米艦船の防護は閣議決定からみてもできない。それを確認していくことは重要である。そもそも、閣議決定は、『安全保障環境の変化』を理由に従来の解釈に一部変更を加えるものであるが、なぜ、それが集団的自衛権行使容認につながるのか説明がない、立法事実がない。」
阪田氏の見解は、内閣がやることを何とか九条との関係で説明しようとされてきた経歴や基本的立場からすれば、閣議決定の表現はそれなりに頑張ったことになると思うが、抽象的な表現を重視することはできない。また、具体例でみれば、安倍内閣がやろうとしている事例は閣議決定の要件も満たしていないことになるが、その点では我々も阪田氏も完全に一致する。もっとも、それをストップさせる場合に、閣議決定は憲法違反であって憲法の最高法規性からして無効であり、撤回するほかない(弁護士会の立場)、という方が明解であるといえるが、阪田氏の立場からすれば、閣議決定を守らせる手法を重視することになる。いずれにしても、安倍の手法については、集団的自衛権を認める必要性があるなら、政権は堂々と国民にそれを訴え、憲法改正手続きを行うべきである、国民的な議論も経ないで政権の解釈でごまかしてすり抜けることは立憲主義に反するという点も完全に一致する。もっとも、阪田氏が「明白な危険」がある極限的な例としてあげた朝鮮有事の場合については異論も多いであろう。
閉会の挨拶では土井裕明弁護士が委員会における議論の経過を説明するとともに参加者に若い方が少ないのが残念であることに触れた。
今回、テーマの内容からして、参加者が少ないことが心配されたが、うれしいことに会場は約二〇〇名の参加者で満杯となった。集会に先立ち、弁護士会では、行事案内とともに会長声明を裏面に掲載したビラを配布する街頭宣伝活動を大津駅前や膳所駅前で合計三回行った。また、地元選出の国会議員や自治体の首長にも案内を行った。
八七名もの方から感想が寄せられたが、その一部を紹介する。
・講師のお話はとてもよくわかった。難しいテーマであるが、丁寧な語り方がよかった。
・憲法を守ることの大切さ、深い理解ができた。
・さすがに、政治の第一線で知恵をしぼってきた人の言葉は重いなあ、筋通っていると思いました。
・市民、弁護士会、そして、阪田さんのように権力に深くかかわってきた役人の立場からも様々な見方や議論があることはよくわかりました。政権は拙速すぎますね。閣議決定の到達点がどこにあるのかよくわかりました。
・質疑応答が大変よかった。阪田氏の積極面がよく引き出された。
・質疑応答により、わかり易く理解できた。又、問題点についても確認できました。
・質問への答えは法制局長官の限界であろうが、一致できる点での共同はあってもよいと思う。滋賀弁護士会の対応はよかった。
・阪田雅裕氏と弁護士会の意見が違うところがよかった。閣議決定をもう一度自分なりに読んでみたいと思いました。
・国際法の視点も入っていて非常に参考になった。また、閣議決定の読み方や考えるべきことなども具体的に話してくださり分かりやすかった。論理の当否と政策の当否は別というのはとても心に染みました。政策の当否は私たちが判断するしかないと強く感じました。
・朝鮮半島有事の場合は集団的自衛権も可とする考えには同意できない。
・阪田氏が七月一日閣議決定を評価されたのは意外だった。「安全保障環境の変化」はまやかしである。弁護士会の意見と少し違ったが、それもいい。
・講演の中身の筋についてはよく理解できたし、講師の寄って立つ立場からの精一杯の集団的自衛権行使の批判かと思い、お聞きした。
・取組のあり方は、集まっている人たちは、専門家的(?)な面々が多く、市民といった生活者はほとんど見えていない。
・若い人への働きかけも具体的に行ってください。計画してください。
・こういう難しいテーマの講演会に参加する度に思うことは、女性の参加者が少ないことです。半分は女性なのですから、無関心はこわい事です。
沖縄知事選の応援に行きませんか?
東京支部 竹 村 和 也
安倍政権は、辺野古を埋め立て、沖縄に新基地を建設しようとしています。新基地建設が争点となる沖縄知事選は一一月一六日に投開票です。
恥ずかしながら、私は普天間基地や辺野古の海に行ったことはありません。そもそも沖縄の基地問題について詳しいわけでもありません。けれども、「虚像の抑止力」のもと、危険な米軍基地を押しつけてきたあげく、また美しい海を汚して新基地を建設しようとすることはおかしいと思うわけです。そして、東京で色々考えるよりも、この大事な時期に現地に行ってみたいのです。
沖縄知事選へ、県外からも応援(連帯)に行きませんか。柳澤協二さんは、「弁護士九条の会・おおた」でご講演され、このように言いました。「一一月の沖縄知事選は、勝つだけでなく、アメリカが驚くくらいの勝ち方をしないといけません」と。その一助に是非なりたい。
私は、一一月八日夜から一一月一一日朝まで行きます。沖縄で活躍する同期に軽く伝えただけで何も具体化していません。事務所にも伝えていませんが何とかなるでしょう。ご一緒できる団員の先生方、是非ご連絡ください(一人では寂しいのです)!!カンパも遠慮がちに募集させていただきます。
連絡先 takemura@nanbu-law.gr.jp
神奈川支部 中 野 直 樹
九月二五日から一〇月三日まで、立川駅前のビルの一画で、鈴木亜英団員の約三〇年間に採集した昆虫が標本箱で七〇点以上展示された。私は国民救援会中央本部のメンバーと一緒に鑑賞し、その後緒方靖夫さん、藤原真由美弁護士も交えての虫談義・懇親に参加した。
虫は嫌われものか
デング熱を伝染する蚊、毒をもつセアカゴケグモが世間を騒がせている。虫がつくことわざを探すと、虫がいい、虫が好かない、飛んで火にいる夏の虫、虫酸が走る、虫の居所が悪い、弱虫、泣き虫、点取り虫など、否定的な評価に使われるものが大半である。ちなみにきわめてどうでもよいことだが、あの「BEATLES」は、甲虫を意味するbeetlesをもじった造語だと言われている。
虫屋
昆虫展で、栞、小冊子「虫エッセイ綴り」が頒布されていたが、ここから虫ワールドに生きる鈴木さんの生態が垣間見られる。鈴木さんは、昆虫少年から、高校・大学時代の生物部を経て、一九六八年、三多摩法律事務所で弁護士(二〇期)になった後、アマチュアの虫の追っかけ人となった。これを虫屋と呼称するそうである。鈴木さんは、「自由と正義」の九六年八月号一筆に「熱帯ジャングルに甲虫を追う」、〇一年五月号一筆に「虫屋の嘆き」と二回も投稿の機会が与えられている。救援情報九七年七月号エッセイ「雲豹の親子」にはボルネオの川にいるワニの子をぶら下げている鈴木さん、捕虫網で保護した「ウンピョウ子」の写真が載っている。団東京支部ニュース「ボルネオ日誌」には、「セミ食、ネコ食に挑戦しながら」などと野生化している鈴木さんの休日が描かれている。
蟻集まって木揺るがす
一九八六年一一月、東京都町田市にお住まいの緒方靖夫さん(当時日本共産党国際部長)の自宅が、神奈川県警の隠密組織・四係によって電話盗聴されている事件が発覚した。既に物故者となられた上田誠吉弁護士ら九名の団員が緒方さんの代理人となって、国(警察庁)と神奈川県(県警)等を被告とする国家賠償裁判をたたかった。新米弁護士の私も参加した。弁護団の一人に鈴木さんがいた。当時は、共産党は政界や・マスコミ社会では徹底して「排除」されていた時代であり、当初は、共産党VS警察の構図で、共産党だから仕方ないのではないかとの色づけがなされた。この雰囲気を変えていったのが、地域住民の会話と心が盗まれたも同然として立ち上がった玉川学園の住民運動と、被害者として徹底して大衆的にたたかう決意をして行動をとり続けた緒方さん一家のがんばりであった。栞の略歴によると、ちょうどこのたたかいが始まった頃から鈴木さんのボルネオ通いが始まり、「珍品・新種」発見に狂喜乱舞していたようである。国民救援会が全面的に支援に入り、全国に真相究明運動がひろがった。そしてこの人権運動は海を越え、アメリカ人権の旅やジュネーブ人権委員会通告へと発展した。鈴木さんは、虫眼鏡の目で、警備公安警察の実態をあばく資料を読み込み、虫採りのための実践英語で、国際人権活動の世界に足を踏み込んだ。アメリカツアーでは、緒方さんが鈴木さんを、盗聴器(bug)の犯人と虫(bug)の二つを追い続けている弁護士です、と紹介するグッドジョークが大いに受けたそうである。
企画の虫
鈴木さんが、一九九〇年、ある被疑者弁護で黙秘権行使を助言した。警察官は黙秘を指導する鈴木弁護士の素性の調査を行い、「党員として把握されている」との捜査報告書を作成し記録に綴った。後年偶然に、鈴木さんはこの捜査報告書を採取し、原告となって、東京都(警視庁)と国(検察)等を被告としてプライバシー侵害の国家賠償裁判を起こすこととなった。私は弁護団の一員となった。この弁護人思想調査事件と緒方宅電話盗聴事件は兄弟事件となった。当事者の鈴木さんは、大衆的裁判闘争を実践するために、支援組織の集会の出し物に凝りに凝った。講談の戯作に挑み、寸劇の演出を手がけ、シナリオ書きに没頭し、舞台のために日活映画の大道具屋に出向いておでん屋の屋台を借りることまでして、そこまでやるんですかとあきれ顔の弁護団員の尻を叩いた。警察はスズキバチの巣をつついてしまったのである。東京地裁八王子支部は、警察が個人の私的情報をみだりに利用することは違法だとして、警察と検察に賠償を命じた。プライバシー権を情報コントロール権ととらえる判例の一つとなった。蟻の思いも天に届いた。
五月蝿い団体の軸に
鈴木さんと同期の菅野昭夫弁護士が中心となって団の国際人権活動を切り拓いた。この新機軸の鈴木さんは九八年総会で幹事長となった。緒方事件の高裁判決が確定した直後の九七年から盗聴法制定の策動が始まり、参議院議員となった緒方さん、弁護団は全国の緒方事件勝利報告集会にでかけて、卑劣な耳をもつ警察に盗聴器を与えてはならないと訴えた。私は団本部の事務局次長となり、鈴木幹事長とともに、盗聴法反対の運動の渦のなかに入った。
鈴木さんは我が国の国際人権活動の中核の人となり、〇八年、日本国民救援会中央本部の捕獲網にとらえられて、その会長となり、今日に至っている。
本題の虫展に戻って
鈴木さんは、弁護士活動、団体活動を担いながら、毎年約二週間ジャングル内のテント生活で虫を採り続け、標本でなんと「二百箱を超えてしまい、増え続ける標本箱と減り続ける余命の狭間でなお格闘の日々を送っています。」と案内文に書いておられる。鈴木さんは、現地の商売の虫屋との間で、採集した虫は昆虫マーケットに販売しないとの約束で入山していることから、たまる一方なのである。鈴木さんが団の幹事長をしている頃に、青梅市の鈴木宅におじゃまして、団の執行部や緒方応援団を中心にしたクリスマス会などが幾度も開かれ、私も子どもを連れて出向いた。鈴木さんは、わざわざサンタやトナカイのぬいぐるみをレンタルしてきて、子どもと親を楽しませた。そのときにいただいた貴重なボルネオの虫の標本は今も本箱を彩っている。敷地内には虫棟があり、標本箱が所狭しと並び、作業机の上には無数の虫が整理の順番待ちをしていた。
鈴木さんは、絵の才能もあり、生まれて初めての昆虫展にあたり、七〇箱の標本の解説リーフレットをつくり、そこに一つ一つの箱を代表する虫の彩色画を描いている。この虫絵とコメントをみながら、一つ一つの標本箱を見ていると、虫ワールドの仲間入りをした気分となった。読売新聞にも載り、一日六〇〜七〇人の来場者が訪れ大賑わいである。鈴木さんはまるで、ボルネオで長さ五メートルの釣り竿を改造してつくった捕虫網を振り上げている実況を中継しているかのように、はつらつの語り部を演じていた。子どもは大型のカブトムシ、クワガタに歓声をあげ、女性は色鮮やかなタマムシを見て装飾品にできないかと思案しているようにも見えた。私は、クモを狩るクモバチに擬態して身を守るアオカミキリ、葉隠れ・枝隠れ・幹隠れの術で獲物を待つ虫の知恵などに興味が尽きないひとときであった。鈴木さんが一番話したいのは虫の食物連鎖のようだ。小さな虫から世界が広がったスズキワールドの報告、これでおしまい。
埼玉支部 上 田 月 子
一 厚生労働省に「改正」案再提出反対を申し入れ
政府は先月二九日、現在は三年となっている企業の派遣労働者受け入れ期間の上限を撤廃する労働者派遣法「改正」案を国会に再提出しました。「改正」案は、今年の通常国会に提出され、罰則「一年以下」とすべきところを「一年以上」と間違っていたことから審議入り出来ず廃案となった法案の、間違い部分を直しただけで、後は全く同じものです。「改正」案では、企業は労働組合から意見を聞くだけで同意を得る必要はなく、三年毎に派遣労働者を入れ替えるだけで、永久に安価な労働力である派遣労働者を使用できるようになります。
「改正」案の国会再提出に先立ち、労働法制改悪阻止対策本部は先月二六日、「廃案法案の再提出は許されない!!労働者派遣法「改正」案の廃案を求める意見書」を持参し、厚生労働省に「改正」案再提出への反対を申し入れました。
二 意見書の説明と意見交換
申し入れとともに、派遣担当の係長と一時間ほど面談し、意見書の説明をし、意見交換をしました。
係長は、「派遣元の責任を強化することで雇用安定につながっている。」などと、派遣労働者の保護は強まるとの意見でしたが、鷲見団員が「派遣先の直接雇用義務をなくしていることが問題。雇用安定にはつながらない。」などと反論しました。
この意見交換で特に私が違和感を覚えたのは、「企業はせっかく仕事を覚えた人材を手放さないだろうから、三年経っても他の派遣労働者と入れ替えず、その派遣労働者を正社員にすることが期待できるので、雇用安定につながる。」という点です。私は複数の職場で合わせて七年間、登録型派遣労働者として働いた経験がありますが、派遣先で出会った派遣労働者通算一五人中、正社員になった派遣労働者は一人だけでした。派遣の仕事は、補助的業務が中心なので、人が変わってもそんなに困りません。むしろ、「派遣は期間が長くなると生意気になるから、三年経ったら入れ替えろ。」と言う大企業の部長もいました。「改正」案はその部長の希望にぴったりです。
三 記者会見
厚労省での意見交換の後は、厚労省の記者クラブで記者会見し、意見書を厚労省に提出したことを発表しました。記者の参加は予想より多い一二名でした。
鷲見団員が「派遣法は何度か「改正」されたが、今度の「改正」が最悪だ。」と述べ、田井団員や私が、自分が担当した箇所の説明をしました。
記者会見終了後も、私たちに個別に質問する記者もおり、労働者派遣法「改正」問題に対する記者の興味は高いのだと思いました。実際、複数の新聞で記事になりました。
四 団ホームページで読める
私は意見書の三頁から四頁にかけての「リーマンショック時の派遣労働者の離職、解雇の状況」と、二六頁から二七頁にかけての「雇用と使用の分離による責任の曖昧化―製造業務派遣における労働災害発生割合の多発」を担当しました。
「改正」案は、無期雇用派遣労働者であれば期間制限を設ける必要はないとしていますが、リーマンショック時のデータによれば、無期雇用派遣労働者であっても、解雇率が七割を超えており、同じく解雇率が七割台である有期雇用派遣労働者と解雇率においてはさほど変わりません。
また、製造業務派遣における労働災害発生割合は、製造業務に従事する全労働者における労働災害発生割合に比べて、全ての年において高く、約一・七〜二・五倍にのぼることが分かりました。
意見書は団ホームページの【速報】欄の該当箇所をクリックし、「意見書本文はこちら」をクリックすることで読む事ができます。上の【お知らせ】欄にも意見書の報告が載っており、こちらの方が目立ちますが、お間違えのないように。
労働法制改悪阻止対策本部
安倍内閣は、九月二二日、臨時国会を召集し、同日、労働者派遣法「改正」案を国会に提出しました。臨時国会は、一一月三〇日までです。
安倍内閣の労働者派遣法「改正」案は、常用雇用代替防止原則と臨時的・一時的原則を廃棄し、派遣先への直接雇用と正社員化への道を閉ざし、派遣労働者のままで永続的に働くことを強要する「生涯派遣・正社員ゼロ」法案です。
自由法曹団は、労働者派遣法「改正」案の成立を阻止し、廃案にするために、左記のとおり、院内集会と国会議員要請を計画しました。院内集会では、労働者派遣法「改正」案とあわせて、労働時間法制の改悪案や「限定正社員」制度についても報告し、討論する予定です。
全労連等の労働組合や諸団体にも広く参加を呼びかけています。 団員、事務局の皆さんが全国から多数参加されることを呼びかけます。
許すな!!生涯派遣・正社員ゼロ法案 一〇・二九労働者派遣法改悪に反対する院内集会
○日時:二〇一四年一〇月二九日(水) 午後一時三〇分〜三時三〇分
(院内集会後、午後三時三〇分過ぎから国会議員要請を行います。)
○会場:参議院議員会館 地下一階 B一〇七号室
○内容:(1)労働者派遣法「改正」案の特徴と問題点
(2)労働時間法制改悪案及び「限定正社員」制度の特徴と問題点
(3)全国の活動の経験交流 今後の活動についての意見交換
(4)国会議員要請
○主催:自由法曹団
(※議員要請終了後、懇親会を予定しています。)