<<目次へ 団通信1506号(11月11日)
小関 眞 | 軍機保護法と特定秘密保護 |
山下 潔 | 「従軍慰安婦問題」について一つの提案 |
杉本 朗 | インターナショナル・コミッティー・レセプションの夜 |
佐藤 宙 | *福井・あわら総会特集・その二* プレ企画第一部 大衆運動における弁護士の役割 〜弾圧事件の弁護活動を考える〜感想 |
増田 悠作 | 第二分散会に参加して |
佐野 雅則 | 第三分散会感想 司法取引導入問題について |
上田 月子 | 退任のあいさつ |
齊藤 園生 | 超きまぐれ映画評論 「NO」を観る |
中野 和子 | 団女性部活動報告と団内男女共同参画推進PTの設置について |
川上 麻里江 | 自由法曹団女性部総会二〇一四in有馬 |
上田 月子 | 労働者派遣法改悪に反対する院内集会及び議員要請の報告 |
田井 勝 | 派遣法「改正」案を廃案に。労働時間法制の改悪を防ぐ。 〜意見書の活用を!!〜 |
宮城県支部 小 関 眞
特定秘密保護法と類似する軍機保護法に関し、興味ある資料がありましたのでご紹介いたします。軍機保護法を適用した判決文やその適用状況に関する資料です。軍機保護法と同様、秘密の範囲が曖昧な特定秘密保護法による市民の権利を侵害する状況が見えるようです。
一 軍機保護法違反の裁判
第一
(イ)昭和一五年一月頃自己の友人にして予てより汪兆銘を首班とする中華民国国民政府樹立工作に関与し来れる犬養健より、昭和一四年一二月三〇日日華両国間に妥結を見たる中華民国に於ける日本軍隊の駐屯及其の占領地域よりの撤退等軍事に関する外国との約定を含む所謂「内約」の内容を記載したる文書を偶々呈示せられて其の内容を別紙に抜萃し、之を手許に保管し居たるが、前記軍事に関する記載事項の存することを知悉し乍ら、其の数日後東京市神田区駿河台三丁目五番地なる被告人前居宅に於て当時南満州鉄道株式会社(略称「満鉄」)東京支社調査部嘱託にして而も内実秘に外国の為諜報活動を為し居りたる友人尾崎秀実に対し其の諜者たるの情を知らずして右所持に係る文書を貸与し同人をして其の内容を了知せしめ
(ロ)昭和一六年八月下旬頃内閣嘱託として同市麹町区永田町内閣総理大臣官舎に出入中偶々其の頃東京に於て開催せられたる我陸軍首脳部及関東軍代表者等の会議に於て当面対ソ攻撃は之を為さざる旨決定せられたる事実あるを聞知したるが、該事実が我作戦に関する事項にして軍事上の秘密に係るものなることを知悉し乍ら、其の数日後同市赤坂区葵町二番地なる当時の「満鉄」東京支社内食堂「アジア」に於て右事実を前記尾崎秀実に告知し
以て孰れも偶然の原由に因り知得したる軍事上の秘密を他人に漏泄し
第二ー略ー
たるものにして、前記第一の(イ)及(ロ)の各所為は犯意継続に係るものなり。(みすず書房・現代史資料(3)ゾルゲ事件(三)より)
これは、ゾル下事件に連座した西園寺公一に対して昭和一八年一一月二九日に下された軍機保護法及び国防保安法違反の東京地方裁判所判決の軍機保護法違反の公訴事実部分です。
昭和一二年改正の軍機保護法は、第一条で「(1)本法ニ於テ軍事上ノ秘密ト称スルハ作戦、用兵、動員、出師其ノ他軍事上秘密ヲ要スル事項又ハ図書物件ヲ謂フ (2)前項ノ事項又ハ図書物件ノ種類範囲ハ陸軍大臣又ハ海軍大臣命令ヲ以テ之ヲ定ム」と規定しており、最高刑が死刑であるにもかかわらず「軍事上の秘密」の概念が不明確であると批判されていました。
前記判決によると、第一(イ)においては「内約」が、同(ロ)では、「当面対ソ攻撃は之を為さざる旨決定せられたる事実」が軍事上の秘密と言うことになります。(イ)では、「内約」のいかなる事項が「軍事上の秘密」であるのか不明確です。また、公一は「内約」の写しを友人であった尾崎秀美に「其の諜者たるの情を知らずして」貸した行為が、(ロ)では、公一が「偶々」聞知した「陸軍首脳部及関東軍代表者等の会議に於て当面対ソ攻撃は之を為さざる旨決定せられたる事実」が軍事上の秘密に該当するとされ、これを尾崎秀美に話した行為を断罪されています。
公一の予審訊問調書によれば「内約」の写しを尾崎に貸した際、公一は「尾崎については非常に信頼し尊敬し将来の抱負という点から見ても大切な協力者と考えておりましたと同時に、現在微力を尽くして国家に尽くすためにも尾崎の如き人材はできる限り之を活用して己の足らざる所を補って行きたい」と考えていたと述べています。
また「対ソ攻撃は之をなさざる旨決定せられたる事実」を知った経過については「私が先ず軍の代表が集まって(対ソ攻撃の)話をしたそうだが結果はどうかと聞きましたのに対して、藤井中佐は官邸の廊下だと思いますが、手を振りながら、単に『大丈夫だ心配ない』と答えましたように記憶しております。」と供述、これを尾崎秀美に「告知」した経過については「私が『その会議で決まったらしいね』と申しますと、尾崎は『ふんふんそうらしいね』と云いましたので、私は重ねて『やらない方にね』と申しますと、彼も『そうらしいね』と申しました様な経緯で、結局私が其の会議の結果を告げたような結果と結果になった次第であります。」と供述しています。
つまり、公一が、国家のためと考えて秀美に「内約」の写しを渡した行為、藤井中佐との「大丈夫だ心配ない」との回答を聞いた行為が軍機を「聞知」したとされ、秀美に対して「その会議で決まったらしいね。やらない方にね。」と回答した行為について「軍機を告知した」とされたのです。
何が軍機にあたるかも不明確なうえ、いかなる行為が「偶然の原由に因り知得したる軍事上の秘密を他人に漏泄し」たとされ検挙されるか全く予測できないと思います。
二 軍機保護法の具体的運用ー検挙者数と起訴数
特定秘密保護法は、適用範囲が特定されているとされています。しかし、戦前の軍事上の秘密保護に関する法律の制定、改正過程を見ると、適用範囲が限定されているとしても安心できません。陸軍刑法や海軍刑法における秘密保護についての規定は、当初、戦時に限定すると共に、対象を軍人・軍属に限定していました。しかし、適用範囲が軍人以外の者にも拡大しています(一八八八年(明治二一)一二月、法律第三号・陸軍刑法一〇五条改正)。さらに、軍機保護法(一八九九年公布、一九三七年改正)、国防保安法(一九四二年施行)等により、戦時に限らず適用されることになったのです。特定秘密保護法においても、その適用範囲の拡大は十分予想できます。
特定秘密保護法の人的適用範囲は限定されているとされています。しかし、法文上で限定されていることから、実際に適用範囲が限定されるとして安心できないのです。
さらに問題なのは、実際の適用場面なのです。軍機保護法では、その拡大適用が問題とされています。同法の検挙者数と起訴されて有罪となった人数に関する資料によれば、改正軍機保護法が制定されてから三年間、同法で検挙された人数は三七七名でしたが、そのなかで起訴・有罪となったのは一四名で、検挙者数の三・七%にすぎません。さらに、一九三九年における軍機保護法の検挙人数が二八九名でしたが、実際に有罪となったのは四名だけでした(内務省警保局編「外事警察概況」)。憲兵が軍機保護法を拡大解釈して、適用できない場合にまで適用して市民を検挙した可能性が高いのです。このような状況も影響したのでしょう。一九四〇年(昭和一五年)一二月二七日付憲兵司令部本部長名で通牒された「憲兵の防諜措置を適正ならしむべき件」は、その冒頭で「最近憲兵の実施しつつある防諜関係法規(改正軍機保護法等)の解釈並びにその指導要領に於いて往々に適正を欠くものある」と指摘しています(憲兵司令部編「憲兵令達集・第二巻)。軍事上の秘密の概念が不明確であることから、軍機保護法等が恣意的に適用されていたのです。
このように、法文上、人的適用範囲が限定されていることから、これが濫用されないという保証はないのです。一般市民が家宅捜索をうけ、逮捕されるなどした場合の抑制効果、不利益は重大です。実際に、起訴されて刑事裁判を受ける必要はないのです。特定秘密保護法の人的適用対象が限定されていることになっていますが、取締側がこれを拡大適用しないという根拠はないのです。
特定秘密保護法は、秘密の概念が不明確であることから、実際の運用でいくらでも拡大解釈される法律なのです。検挙あるいは捜査だけして起訴はしないという運用がなされることは十分予測できます。権利自由に対する大きな脅威となることは明らかです。
大阪支部 山 下 潔
一 松井繁明団員が団通信で「朝日パッシングと従軍慰安婦問題」について現在の現象形態について指摘されていることには異論はない。
「とくに声明を発表するだけで団の行動によって運動化することが期待できないような事項についてはやめた方がよい、但しメールで「論争」が続いているということであれば常幹で時間をとり意見交換をしてみるのも一つの手だと思う。」といわれる。松井団員が少しでも従軍慰安婦問題についての努力は多としたい。私なりに一つの提案をしたい。
二 従軍慰安婦問題は憲法一三条個人の尊厳の尊重と国際人権法の根幹を貫いている人間の尊厳の尊重・確保の点において、正面から取り組まれる問題である。
三 従軍慰安婦問題は自由法曹団員の方々に、全般的に事実関係において十分理解できているか否かの問題がある。政党委員長がこの問題で団員に配布されたが一定の理解がされている。しかし、どれだけの資料を沈澱して団員の理解が深められているかが残されている。
四 日本弁護士会等が従軍慰安婦問題について相当深く資料を蒐集しているし、団員の中にも、例えば中国人従軍慰安婦について大森典子さんがおられるし、その他にもかなり精通している団員がおられる。声明のレベルでなく団員に資料を豊富にして団員全体のものにし、不動の事実関係を団が作ることが急務ではなかろうか。自由法曹団はこれを成就できる力量があると考える。
五 団本部が従軍慰安婦問題についてどれだけの資料を蒐集しておられるかわからない。従軍慰安婦問題については、私の拙い経験でも、朝鮮人民民主主義共和国(ピョンヤン)とインドネシア(ジョックジャカルタ)で従軍慰安婦の事情聴取し、生の体験をしている。また、一九九二年一二月、東京で従軍慰安婦の国際公聴会において、世界人権宣言を起案した一人であるハンフリー教授(カナダ)も参加され、従軍慰安婦(中国・フィリピン・オランダ・台湾)の生の証言の報告書がある。吉見義明中央大学教授はこの公聴会で発表されている。団員の方も参加されている。又一九九三年六月、日弁連代表団がウィーンの世界人権会議において、従軍慰安婦問題が問題化しており、団員も参加されている。
六 団本部におかれては、従軍慰安婦問題について取り組んでこられた、例えば東日本では大森典子弁護士、西日本では寺沢勝子弁護士が中心になって、従軍慰安婦について生の体験を持った団員が結集してもらったら如何。団全体が従軍慰安婦の不動の事実関係を作る会議、集会をもつことが大切ではないか。以上、提案したい。
神奈川支部 杉 本 朗
ナショナル・ロイヤーズ・ギルドの総会は、多くのコーカスやらワークショップやらミーティングやらが行われる。
その中に、インターナショナル・コミッティー・レセプションというのがあって、これは各地から来た人たちと、軽食や飲物(アルコールあり)を取りながら、立食形式で懇談するというもの。自由法曹団から参加したメンバーは、このレセプションにはちゃんと参加するようにして、ついでに挨拶もさせて貰っている。今年も、コロンビアやフィリピンからの人たちの間に挟まって、連帯の挨拶をしてきた。ただ、挨拶するだけでは物足りないと、前回だったか前々回だったかくらいから、国際問題委員会でニューズレターを作成して、レセプションで配付するようにしている。中味は、その時点において、話題となっている論点を二つ三つ取り上げ、状況の説明と団の取り組みなどを述べたものだ。
今回も、英文でA四判四ページあまりのニューズレターを作成して、配ってきた。論点として取り上げたのは、集団的自衛権、福島原発、TPPの三点である。論点のセレクションについてはいろいろと批判もあるところかもしれないけれど、リーフレットという総量の問題やNLGの人たちにすぐに理解されるかという配慮などもあるので、なにとぞご容赦いただきたい。
自由法曹団からの挨拶は、このニューズレターをもとにして、アメリカ留学経験を持つ近藤ちとせ団員が行った。
当初は五分程度ということで、それに合わせて、近藤さんは手書きで発言内容のドラフトを作っていた。今、私の手許にはその手書き原稿があるのだが、ほぼそのまま読み上げればいいような原稿が出来ていた。
ところが悲劇が起きた。そろそろ発言という段になって、時間がおしているので、二分でお願いしたいと言われたのである。近藤さんなら、自分のところ(自由法曹団のこと)での発言であればそんな制限を無視して話を出来るかもしれないが(知ってる人だけウケて下さい)、さすがによその団体にお客様としてきているのにそんな傍若無人なことも出来ない。近藤さんは、大慌てで、集団的自衛権に話を絞ることにして、なんとか二分間を乗り切ったのである。喜ぶべきか悲しむべきか、安倍首相はそれなりにフェイマスというかノートリアスというか、とにかくそんな人なので、安倍首相に対する批判は、結構聴衆に受け入れられていたように思った。近藤さん、ご苦労さま。
金沢の菅野団員が、古稀表彰の文集で、五〇歳くらいの時に国際会議に行って、自分の語学力を磨かなければいけないと思って、努力をした、というようなことを書かれていたように記憶しているのだが(整理が悪いので、古稀文集などどこにあるか分からない)、私もNLG総会に行って、ちゃんと英語をやらないなといけないな、という思いを胸に抱いて帰ってきた。私と偉大な菅野さんとの違いは、そのあと実行するかしないか、というところに。
東京支部 佐 藤 宙
一〇月一八日に福井にて開催された団総会プレ企画に参加した。主に我々新人向けの学習・討論企画であるとのことであった。プレ企画は二部構成で、第一部では、刑事弾圧事件に対する団員として有しておくべき知識と心構えについて、堀越事件の主任弁護人を務めた石崎和彦団員から講演が行われた。
改めて言うまでもないが、弾圧事件は、刑事処罰を目的とするものではなく、国家権力を用いて、民主団体の保有する情報を獲得することを目的として行われるものである。石崎団員は、弾圧事件においては、司法は、公正な判断者ではなく、警察組織の強制力を伴う暴力を正当付けるための暴力組織と化すという。このため、裁判所にとっては、自らの訴訟指揮や判決の正当性について国民に疑問を持たれてはならず、いかに「何事もなかった」かのように事件を終結させ、弾圧を完了させるかがポイントとなる。故に、弁護人としては、弾圧事件においては、無罪獲得という目的のみならず、弾圧目的を達成させないための活動をすることが求められる。そのためには、弾圧事件の存在を多くの国民に知らしめ、不当な訴訟指揮をすれば裁判所がその正当性を維持できなくなる状況を確保することが必須となる。堀越事件においては、これら「無罪獲得目的」と「弾圧不達成目的」が一致しいていたため、無罪を獲得すると同時に、弾圧目的を阻止できたとのことであった。
我々団員弁護士が弾圧事件にどのように対応していくべきであるかを明快に示す石崎団員の講演は、まさに目から鱗というべきもので、前日の寝不足による睡魔が一気に吹っ飛び、時間が経つことも忘れてしまうほど興味深く充実した内容のものであった。
第一部では、この他にも、刑事弾圧事件における捜索差押の際の心構えや、捜査機関の証拠をいかにして開示させるかなどをテーマに、会場との双方向の討論も行われた。会場からは、新人団員からベテラン団員まで、多くの意見が出され、とても充実した討議が行われた。
第一部は、石崎団員の名言で締めくくられた。昨今問題となっている、開示証拠のマスコミへの提供と目的外利用禁止規定違反について、石崎団員は、次のように述べて、必要があれば断固として開示すべきであるとした。「懲戒が怖くて、弾圧事件はやれない!」
第一部が終わった休憩時間に、会場の廊下を歩きながら、現代日本において、弾圧事件が起きていることに、強い違和感と得体の知れない恐怖を感じた。超高画質の地上デジタルハイビジョンテレビやスマートフォンの普及により、私たちの生活は一面においてどんどん「豊か」になっている(地デジは国家を挙げた政策とすら評すべきものだろう)。その一方で、本当の豊かさを求める市民を「弾圧」する国家権力の闇が今もなお存在している。石崎団員の明快な講演により、若干興奮気味になっていた私だったが、この事実に得体の知れない恐怖と違和感を覚えずにはいられなかったのである。
本当の豊かさとは、一人ひとりがその個性を尊重される社会が実現することであると思う。国家権力としては、そんな社会になられては都合が悪い。だから本当の豊かさを求める市民に対し、国家権力による弾圧が行われるのではないだろうか。弾圧事件とは、国家が権力として存在する以上、永遠に続いていくのかもしれない。私たちが、人間としての本当の「豊か」さを希求し続ける以上、弾圧との闘いは避けられないものなのであろう。
埼玉支部 増 田 悠 作
一〈憲法と平和・民主主義をめぐるたたかい〉について
他の分散会でも同様であったと思われるが、第二分散会においても、〈憲法と平和・民主主義をめぐるたたかい〉についての発言が最も多く、初日のほとんどの時間が充てられた。各地の運動の報告では、これまで中々運動が広がりづらいと感じていた若い世代を対象とした憲法学習会の企画が進んでいることなどが報告された。埼玉においても、「憲法ママカフェ」と題して、現在子育てを行っている比較的若い世代の女性を対象とした憲法学習会がこれまでに十数回開催されており、大変盛況となっている。
同柱建てについては、「国民安保法制懇」の立ち上げの経緯や報告書作成の過程についての報告もあった。報告書については憲法学者自らが原稿を書き、それを叩き台として短期間で密度の濃い議論を積み重ねて完成に至ったことや、末尾には「立憲主義を無視し、特殊なイデオロギーで国のあり方を根本的に変容させようとするこの策動への注視を怠らず、反対の声を今後とも広げていく必要がある。」との記載があり、政治や運動論にまで踏み込んだ意見が述べられていることなどが、報告書の特徴として報告された。
今後も、まさに「国民安保法制懇」のように、様々な立場や思想を持つ者らが団結し、共闘していくことが求められる。
二〈治安警察問題 主に盗聴法拡大・司法取引導入について〉
答申案では、被疑者・被告人が検察官との間で司法取引を行うには、弁護人の同意が要件とされているということである。そもそも、捜査段階の乏しい資料で判断することの困難さや、弁護人が引っ張り込みの可能性を感じた際に、司法取引を望む被疑者・被告人との関係をどうするかなど、具体的なケースを想定すると問題点ばかりが浮かんでくるような制度を導入するべきではない。
三〈その他の諸課題〉について
貧困問題に関する発言では、生活保護費の切り下げ等の政策が、他の社会保障の分野にも大きく影響することや、貧困と労働・平和問題との関連についての報告がなされた。
貧困と労働の関係については、大阪府豊中市において生活保護受給者を「中間的就労」などといって最低賃金の半分以下の給料で働かせる制度の問題点などが報告された。
四 感想
私は今回、初めて団本部の総会に参加した。全国各地の団員からの報告では、同じ思いを持って熱心に活動している団員が多数いることを再認識することができ、私自身がとても勇気づけられた。
また、今回、本部の事務局次長を引き継ぐこととなり、様々な全国的な課題について、各地の団員が活動しやすいよう努めなければならないと感じた。
静岡県支部 佐 野 雅 則
司法取引導入について、海外における「司法取引」の概念と日本が導入しようとしている制度との相違点、理論的な問題点、過去の冤罪事件を踏まえた問題点などを整理した基調報告があった。私もまったく同感であるが、本稿では、それに加えて、具体的な弁護人の弁護実践の観点から考えてみる。
司法取引の適正を担保する手段として、(1)捜査官に対する虚偽供述の禁止(罰則規定あり)と、(2)弁護人の同意があると説明される。
しかし、(1)これまで宣誓をしたうえで裁判官の前でさえ平気で嘘を言う証人はいくらでもいた。利益供与が目の前にぶら下がっているのであるから、まったく歯止めにならない。弁護人が共犯になる可能性もある。そもそも被疑者・被告人が嘘を言ったら処罰されるということ自体黙秘権も無視する憲法違反である。
(2)弁護人の同意もまったく適正担保にならない。
もしも、依頼者である被疑者が司法取引に応じたいと言い出したら、弁護人としてどうするか。まず、弁護士としての信条に反するので辞任をするという手段はある。しかし、国選事件であれば辞任はできないし解任事由にもならない。そもそも自分が弁護人でなくなったとしても次の弁護人が同じ局面に立たされるだけである。
次に、弁護人としては事実の確認ができないから同意しないという手段がある。この場合は、被疑者・被告人の減刑の機会を故意に奪ったということで、弁護人の誠実義務違反を理由に懲戒請求がなされることになろう。それでは、被疑者・被告人の利益を優先させて同意するという手段をとった場合はどうなるか。この場合、被疑者・被告人が提供する「他人の犯罪事実」が真実でない限り、冤罪を生み出すことに加担することとなる。この時点で真実かどうかなど判断できないので、同意をした弁護人は常に冤罪作出の可能性に加担させられることになる。これが真の弁護活動だと果たして言えるだろうか。
逆の視点で、密告された「他人」の弁護人だった場合どうなるか。
その供述が信用できないとして無罪を争った場合、この「弁護人の同意」がとてつもなく高い障害になることは間違いない。弁護人が同意していれば任意性の問題は争う余地はない。信用性についても、そもそも客観的証拠がない、あるいは乏しいからこそ、他人の供述で処罰しようという犯罪類型であるから、供述の信用性を争うことも相当な困難を伴うし、やはり「弁護人の同意」が最大の障壁となることは容易に予想できる。そうなると無罪を争ったとしても、本当は真実に反する供述だったとしても、その供述者の弁護人が同意をしているという決定的な事実の重みが裁判官を有罪認定に導くことになろう。
こうしてみると、司法取引制度については、弁護人の具体的な弁護活動の中において、百害あって一利なしと言わざるを得ず、絶対に導入を阻止しなければならない制度であることは明らかである。
埼玉支部 上 田 月 子
一 二年前、就任のあいさつで、次長になって何が変わったかというと、今まで行けるときに行っていた団事務所に、事務局会議、担当委員会会議、常任幹事会時に必ず行かなければならなくなっただけと書いたと思います。
退任にあたっても、次長になって、各種会議に必ず行かなければならなくなっていたのが、行けるときに行けばよいという状態に戻っただけだなと感じます。
二 そうは言っても、今思えば、次長ゆえの義務はいろいろとありました。
まず、常任幹事会についてです。原則毎月第三土曜日に、そして年に原則二回(二月と七月ころ)地方で、常任幹事会なるものが開催されていることや、常任幹事でなくても参加できることは、次長になるまで知りませんでした。
常任幹事会の議事録は、次長が交替で取ります。執行部は常任幹事会に向けて、毎月二回事務局会議を開いて準備をします。
三 次に、五月集会や一〇月の総会の準備のために、執行部は二月ころと八月ころに合宿して準備します。二月ころの合宿では、主に特別報告集の原稿のテーマを何にし、誰に頼むか、どの分野での掲載とするか、原案をエクセルファイルで一覧にして持ち寄り、検討します。八月ころの合宿では、主に総会議案書の下書きを持ち寄り、修正すべき点はないか、書き落としはないか検討します。ここだけの話ですが、次長が執筆者の場合、この合宿中に書き上げる猛者もいます。
四 さらに、毎年一〇月ころに行われる司法総行動(原則一日がかり)と、四月ころに行われる裁判勝利を目指す全国交流集会(一泊二日)への参加が義務づけられています。
司法総行動は年によって、一一月だったり、一〇月だったりします。私が次長になった年の日程が一一月一日で、今年の日程が一〇月八日だったことから、任期中に三回参加しました。要員として、地裁、高裁、最高裁、法務省、警察庁、厚労省、中労委、都労委などに行くことを求められます。報告者になると、夜まで残って報告する義務も生じます。
裁判勝利を目指す全国交流集会は例年熱海で行われます。正規、非正規労働、冤罪、その他、などの分科会に別れて、司会や報告などを担当します。この報告は二日目の分科会が終わってすぐに行うことを求められるので、まとめる時間がなく、結構大変です。
五 喉元過ぎれば何とやらで、今は全てが懐かしいです。今後も、何かと団事務所に出入りする気でいるので、今後ともよろしくお願いします。
東京支部 齊 藤 園 生
先輩に見るようにいわれ、早速見に行って、これは映画評を書かねば、と思ったのですが、ずるずる時間がたってしまいました。上映期間も終わってしまうみたいだし、もう止めようかなとも思いましたが、やっぱりこれは書いておきたい映画です。
「NO」。監督パブロ・ラライン、主演ガエル・ガルシア・ベルナル。
七三年九月、チリのアジェンデ政権を軍事クーデターで倒したピノチェト将軍。その後大統領として軍事独裁政権を築きますが、年々高まる国際的批判の前に、八八年とうとう政権の是非を巡り国民投票の実施を決定します。何しろこの政権はメディアまでほぼ手中におさめているので、賛成派(「SI」)は負けるわけがないと高をくくっているのです。反対派(「NO」)には国民投票まで深夜のテレビで一五分だけの枠が与えられます。反対派だって、どうせ負けると思いつつ、それでも若手売り出し中の広告マンであるレネを頼ってCM作りを始めるのです。古手活動家風の反対派重鎮達は、ピノチェト政権がいかに人権を無視したひどい政権かを言いたいのに対し、レネの作るCMは自由と明るい未来を歌うもの。「まるでコーラの宣伝じゃないか」とさんざんけなされるのです。しかし、政党は非合法化され、秘密警察による拉致や拷問が横行し、恐怖政治の元で自由が保障されない人々は、明るい未来を歌うこのCMに激しく共感。いろいろな妨害を乗り越え、とうとう国民投票では勝利を収めるのでした。
実はこの映画、チリでは賛否両論が巻き起こったといいます。CMで反対派が勝利したみたいな表現は事実の歪曲だというのです。実際には、分裂していた反対派が粘り強い話し合いで反ピノチェトで統一されたこと、反対派の運動員が有権者登録をするように一軒一軒を説得しに回り、さらに不正を防ぐために投票箱一つ一つに監視員をつけるなど、まさに草の根の運動を展開したことなどが、勝利の要因だったようです。でもこの映画、業界人のレネの軽薄さなんぞもしっかり描いていて、決してCMだけで勝利したなんて言っていません。むしろ、反対派の集会に襲いかかる警察隊のすさまじい暴力や、拉致された夫や息子を待つ女性達の実に悲しい訴えなど、いかに圧政の元でチリ人民が自由を望んでいたのかを鮮明に描いています。そして当時の実映像を映画に取り入れることから、画質を統一するために、ビンテージカメラとフイルム(いずれも日本製というところがおもしろい)を使って撮影したという懲りよう。まだ三〇代という監督パブロ・ララインのこだわりがとてもよく生かされています。
考えてみれば、七三年アジェンデ政権を転覆させた軍事クーデターを描いた映画「サンチャゴに雨が降る」は、大学生の頃、どこだか忘れたけど薄暗い怪しげな映画館で見ましたっけ。最後の場面でアジェンデが死ぬ場面なんて衝撃でした。それから、およそ四〇年。ピノチェト後も紆余曲折はありましたが、今、チリでは、七三年軍事クーデターに最後まで反対し殺されたバチェレ将軍の娘が大統領に、そしてアジェンデ元大統領の娘が上院議員をつとめています。時代は変わるなあ。なんだか自分が遙か遠くまで来てしまったような・・・。
秋の夜長にちょっとノスタルジーを感じながら、社会の変化を実感する映画です。
東京支部 中 野 和 子
二〇一四年九月一二日、一三日、兵庫県有馬温泉にて、女性部総会を三六名の参加を得て開催しました(別途保育児三名)。
自由法曹団の女性団員は、四二〇名を超えており、二〇〇〇名を超える団員の二〇%に達しています。女性団員の中で、特に加入を希望されない団員以外は、団女性部に所属しています。年会費五〇〇〇円をいただいて、運営しています。団女性部は、対外的には女性団体(婦人団体連合会、日本母親大会連絡会、国際婦人年連絡会など)に法律家団体として加盟し、対内的には女性の地位向上のための企画と女性部員の交流を図り、女性団員の弁護士業務と人権活動の継続に資するように活動してきました。二〇一八年七月一八日には、創立五〇周年を迎えることとなります。
今年の総会では、団本部から山口真美事務局長、松山秀樹兵庫県支部事務局長を来賓として迎え、大阪の正森克也氏(社会福祉法人こばと会理事長)から社会保障事業の歴史と介護保険に関する記念講演をしていただきました。
また、議案討論においては、憲法運動(五月集会でのゆるカフェ、紙芝居、出前講座、街頭宣伝)、事件報告(JAL、日産自動車、メトロコマース)、介護職ヘルパーに対するセクハラ問題、子ども・子育て支援新制度、CEDAW勧告、日弁連の第二次男女共同参画推進基本計画などを討議しました。
特に、若手団員は、妊娠・出産・育児と弁護士業務の両立に不安を抱えており、各事務所の方針と対応能力に差があるため、具体的な困難について多くの意見交換が行われました。そして、個々の団員により希望も状況も異なることから、統一した基準を求めるというよりも、事務所内でよく話し合うこと、事務所内で解決できない問題があれば、社会的な制度を検討する必要もあることなどの意見が出されました。
個々の女性団員の自助努力に任せるのではなく、継続的に団全体が女性団員の妊娠・出産・育児に対して意識的な取り組みを行うことが求められています。
そのために、団女性部として、団本部に男女共同参画推進プロジェクトチームの設置を求めていくこととしました。
最後に、恒例の新人歓迎会の日程ですが、総会で確認した日程の変更があります。
二〇一五年一月二八日(水)から同年二月六日(金)午後三時からに変更となりました。企画内容は、「ビジネス文書の書き方」を予定しております。
場所は、団本部です。女性の新人弁護士は、懇親会費は無料ですので、お声かけいただければ幸いです。
北海道支部 川 上 麻 里 江
今年の自由法曹団女性部総会は、兵庫県・有馬温泉の月光苑游月山荘にて開催されました。三〇人ほどの女性部員が集まり、六六期の部員を含め、初参加の者も数名おりました。
保育制度の改悪、労働事件の報告等の特別報告に続き、社会福祉法人こばと会事務局長の正森克也氏よりご講演を頂きました(正森氏のお父様は、元きづがわ共同法律事務所の正森成二団員です。)。憲法八九条に基づき社会福祉が国家の責務とされていたはずが、社会福祉事業に株式会社など社会福祉法人以外の主体が参入することが可能になるまでに行われた制度の改悪、またそれによって現場で起こっていることなどについて、お話を頂きました。
憲法八九条は、公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、公金その他の公の財産を支出し、又はその利用に供してはならないものとしています。従来、専ら社会福祉事業のために設立された社会福祉法人が福祉事業を営んできたのは、そのためです。ところが、介護保険法の下、介護事業者としてNPO法人や株式会社のような営利法人までもが参入しています。そこには、介護保険を、医療のような現物支給ではなく現金支給の制度をとり、支給された公金をいったん利用者の手をくぐらせた私的財産とすることで(ただし、実際には国が利用者を“代理”するという名目で、国から事業者へ直接支払がなされています。)事業者が公金を受け取っていないという外観は保ちながら、実質的には公金を原資として、介護事業を行っている(ゆえに、介護事業で得た金を配当など福祉事業以外の用途にまわしてもよい)というカラクリが存在するのです。
現場では、「自助、共助、公助」の掛け声の下、これまで医師、看護師、介護士といった専門家が担ってきた役割が地域ボランティアへと押し付けられ、介護を担う人材は非正規雇用に置き換えられ、福祉事業は資本の食い物にされて、国の責任が放棄されています。「“公助”という言葉はおかしい。“助”ではなく国家の責任ではないか。」という講師の言葉は大変印象深く、参加した部員たちは深くうなずいていました。
自民党憲法草案では、二四条一項において「家族は互いに助け合わなくてはならない。」と謳われ、家族の自己責任が強調されています。福祉をやせ細らせる自民党憲法草案の先取りは、既に始まっているといわざるを得ません。
総会二日目の討議では、弁護士の出産、育児休暇についての経験交流(未経験の部員は質問、相談、決意表明など)が大変盛り上がりました。(今のところ)出産ができるのは女性だけですが、長期休業をせざるを得ない事態は、病気、けがなど性別に関係なく起こり得ることであり、安心して休業できる制度づくりは、誰にとっても他人事ではないはずです。すべての事務所において、休業中の事務所の維持や弁護士の生活、事件処理の方法などについて、備えをしておくべきことと思います。
最後には、参加費の低額化についても話題に上りました。男性中心の会ではなかなか話せないことも共有できる大変貴重な機会ですので、次回以降も、多くの女性部員の参加を望みます。
埼玉支部 上 田 月 子
一 団は先月二九日、午後一時三〇分から二時間、参議院議員会館において、労働者派遣法改悪に反対する院内集会を行いました。その後、議員要請も行いました。
二 院内集会の様子
(1)衆参議員会館前は労働組合の旗で埋め尽くされていました。前日二八日に労働者派遣法「改正」案が衆議院で審議入りしたことに抗議し、連合・全労連などが結集して座り込み行動に出ていました。
(2)このような、会館の外では派遣法改悪絶対阻止の抗議行動が続く中、荒井団長の主催者あいさつ、全労連生熊副議長の連帯あいさつで院内集会が始まりました。
(3)続いて、団で作成した派遣法と労働時間に関する二つの意見書(団のホームページにアップ済み)を基に、安倍「雇用改革」の各改悪内容の報告を行いました。
労働者派遣法「改正」案の改悪内容と問題点については、全体的に鷲見団員から、各国の制度比較について近藤団員から、労働時間法制の改悪内容と問題点については、全体的に三浦団員から、各国の制度比較について竹村団員から、「限定正社員」制度、解雇の金銭解決制度等の内容と問題点については、田井団員から報告しました。
今回は、意見書の作成から多くの団員が関わり、報告者も若手中心で五名という、団の底力を示せる報告でした。
(4)上記報告中、日本共産党の吉良よし子参院議員が駆けつけ、あいさつをしてくださいました。団の行事では初めてとのことです。
(5)討論と経験交流では、JAL原告団、埼玉私教連、電機情報ユニオン、全労働、JMIU日産自動車関連支部、JMIUいすゞ支部、全国一般資生堂アンフィニ分会、日本婦団連、東京地評、JMIU IBM支部の組合員や弁護士が、原告や弁護団、組織の一員としてなどの立場で次々と発言しました。
原告の方々の発言は重みがありました。中でもJMIU日産の原告の方の発言だったと思うのですが、派遣切りに合ったせいで精神的健康を害し、元の健康な状態に戻して欲しいという話と、派遣労働者は労災に遭っても労災として扱ってもらえるのはほんの一部であり、実際の労災件数はもっと遥かに多いという発言が印象に残りました。
(6)並木団員が、意見書やリーフ(団作成)を使って学習会を行おう!派遣法「改正」案の廃案を求める直接要請やFAX、メール要請、署名を行おう!一一月一二日午後五時〜七時新宿駅西口の街頭宣伝を成功させよう!一一月一八日午後六時〜七時四五分の衆議院第一議員会館一階多目的ホールの日弁連の院内集会に参加しよう!などの今後の行動提起を行いました。
(7)閉会のあいさつは、中村団員が行いました。参加者は八二名でした。
三 議員要請の様子
(1)院内集会終了後すぐに、二名ずつ八グループに別れて衆参厚生労働委員約七〇名に議員要請を行いました。
(2)私は埼玉私教連の方と第二議員会館に行き、電話が繋がった六名を回りました。五名は最初に応対してくださった秘書の方に訪問の趣旨を告げて、資料を渡し、議員に渡していただくようお願いしました。埼玉私教連の方は、教員の中にも派遣が広がっているが、教員という仕事は派遣で行うべきではないと、意見を伝えました。
維新の井坂信彦議員のところで、「先生はいらっしゃいませんか?」と聞いたところ、奥から政策秘書の方が出て来てくださいました。派遣法については党内で協議中とのことでしたが、埼玉私教連の方の話に、「教員にも派遣がいるのですか?知りませんでした。」と熱心に聞いてくださいました。
(3)他のグループは、公明の輿水恵一議員本人に会えて、「このまま派遣が増える事にはならない。そうならないようにきちんとやる。やらせます。」とのコメントをいただいたとのことでした。
事務局次長 田 井 勝
一 再提出された労働者派遣法「改正」案の中身
安倍政権は、本年一〇月から開かれている臨時国会において、労働者派遣法「改正」案を再提出しました。
ご存じのとおり、この法案は、これまで労働者派遣法で定められていた、一業務についての派遣可能期間である「原則一年、最長三年」を事実上撤廃させるものです。
仮にこの法案が成立してしまえば、派遣先企業が一つの業務について永続的に派遣労働を使用し続けることが可能となるため、従来の正社員の業務を派遣労働者に置き換えることが可能となります。これが「正社員ゼロ」法案といわれる所以です。
他方、派遣先企業は派遣労働者を三年働かせても直接雇用する義務を負わず、他の派遣労働者に入れ替えることで派遣労働を使用し続けることが可能となります。また、派遣元で無期となっている派遣労働者について、派遣先は永久にその労働者を派遣労働者として使用し続けることが可能になります。これが、「生涯派遣」法案と呼ばれる所以です。
二 臨時国会での審議状況
本臨時国会においては、小渕大臣ら二閣僚の辞任もあり、この派遣法「改正」案の審議入りも、当初予定されていた一〇月一四日から同月二八日に延期しました。また、一〇月三一日の衆院厚労委員会において、与党である公明党が突如として修正法案の骨子を提出したため、審議が紛糾し、一一月七日の衆院本会議での採決が微妙になっている状況です。
この団通信が発効される頃にどのような状況になっているのかわかりません。もっとも、いずれにせよ審議が遅れているのは確かであり、廃案に追い込むチャンスであり、法案の成立・施行をとめるため、全力でたたかうべき状況にあることには変わりありません。
三 意見書の発表
自由法曹団の労働法制改悪阻止対策本部は本年一〇月、「『生涯派遣・正社員ゼロ』法案は許されない!!労働者派遣法『改正』案の廃案を求める意見書」を発表しています。この意見書は派遣法「改正」案の具体的な中身とその危険性を解説するとともに、我が国の派遣労働者の雇用の不安定さ、低賃金、労災被害の実態等々も詳しく記載しております。また、海外の労働者派遣の規制状況も伝え、日本における労働者派遣の規制が極めて弱いことの問題にもふれています。意見書は団総会でも配布しましたが、別途、団のHPにも掲載されています。この意見書を活用し、労働者派遣法「改正」案の恐ろしさを世論に伝える必要があります。全国各地での街頭宣伝、学習会の開催を強く呼びかけます。
また団の労働法制改悪阻止対策本部は、「過労死を激増させ、残業代をゼロにする労働時間法制の大愛悪に反対する意見書」も発表しています。労働時間法制に関する改悪については現在労政審で審議されており、早ければ来年の通常国会に法案が提出されるといわれています。この意見書を活用し、法案の問題点を世論に訴えるよう、強く呼びかけます。