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黒岩 哲彦 「足立区戸籍業務の民間委託によるプライバシー侵害裁判(住民訴訟)」を提訴
中島 晃 NHK大河ドラマ「花燃ゆ」の危うさ
三上 侑貴 一・一七 京都「特定秘密保護法廃止」学習会の講師をつとめました。
田井 勝 二・六全国会議の報告
永尾 廣久 「さいちゅう」って、何?
鈴木 康隆 小林保夫団員の「私の人生・社会・読書ノートから」の紹介



「足立区戸籍業務の民間委託によるプライバシー侵害裁判(住民訴訟)」を提訴

東京支部  黒 岩 哲 彦

 自由法曹団通信一五〇七号で報告をした東京都足立区の戸籍業務の外部委託問題の住民監査請求(二〇一四年一一月一七日)に続いて、足立区民一三九二人は東京地方裁判所に二〇一五年一月二一日住民訴訟を提訴しました。
一 住民監査請求の到達点
 近藤区長が戸籍業務の外部委託を「合法化」するために設置した「足立区特定委託業務調査委員会」は、一一月一八日の答申書で、(1)「富士ゼロックスシステムサービスが過去に大きな個人情報漏洩事件を起こした企業である」ことを暴露し、(2)「個人情報保護審議会においては、その当時、本漏洩事件の報告、審議が行われていない。今回の委託の委託についての審議の場面でも、議論の土俵にあがることはなかった」こと、(3)「コンピューターシステムと業務の委託先が同じ会社であることは、セキュリティーの基本的考えに悖るものであるにも拘わらずこの点が見過ごされている」こと、(4)「業者選定委員会においてもこの件は議論されておらず事業者の起こした過去の事件・事故、その改善策についての評価が盛り込まれていない」ことと指摘して「区民の個人情報保護について重大な懈怠」があるとしました。私たちは一二月一日の口頭意見陳述で近藤区長が富士ゼロックスシステムサービスの個人情報漏洩事件を足立区議会・記者会見・個人情報保護審議会などで足立区民に一切説明をしなかったことを強く糾弾しました。
 足立区監査委員は四名で構成され、二名が自民党・公明党の区議会議員、二名が会計専門家です。二〇一四年一二月二五日の監査結果は「公金の支出は、違法・不当ではない。」とする全く不当で不十分なものでしたが、「業者選定委員会等において、過去の情報漏えい事件の報告、審議が行われなかったことは適切を欠いていたといわざるをえない」「東京法務局や東京労働局からの指摘にみられるように準備不足が露呈し、区民に不信や不安を与えたことも事実である。」と指摘をせざるを得ませんでした。
二 住民訴訟の提訴
 足立区監査委員が受理した足立区民一三九二人は、地方自治法二四二条の二第二項の「三〇日以内」の規定に基づいて、一月二一日に東京地裁に住民訴訟を提訴しました。担当部は民事第三部(八木一洋裁判長)です。
 「請求の趣旨」は次の通りです。一・地方自治法二四二条の二第一項一号に基づく差止め、二・地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、被告近藤区長に対し、権限行使を求める(1)相手方近藤弥生に対しては、損害賠償請求権の行使、(2)相手方富士ゼロックスシステムサービスに対しては、不当利得返還請求権の行使。
「請求の原因」は次の通りです。一【違憲・違法理由一】戸籍業務の外部委託は足立区民のプライバシー権である人格権を侵害する。(1)プラシバシーの権利は憲法に基礎付けられた権利、(2)平成一九年戸籍法改正によるプライバシーの権利の保護に違反、(3)戸籍業務の外部委託に従事した労働者の構成の問題、(4)被告近藤区長は富士ゼロックスの過去の大きな戸籍情報漏洩事件を認識しながら、記者会見や足立区議会・個人情報保護審議会・業者選考委員会で説明をしなかった。二【違法理由二】本件戸籍業務の外部委託は「最大の経費で最小の効果」であり非能率、非効率であり地方自治法に違反する。三【違法理由三】本件戸籍業務委託は戸籍法に違反する。(1)戸籍の届出も証明も要は「本人確認」、(2)平成一九年戸籍法改正は外部委託を前提としていない、(3)東京法務局の戸籍事務現地調査結果(平成二六年三月一七日)、四【違法理由四】本件戸籍業務の外部委託は労働者派遣法に違反する。
三 弁護団の拡充と支援共闘会議の態勢が整う
 黒岩一人が代理人であることを見るに見かねて、東京自治労連弁護団の尾林芳匡団員(八王子合同法律事務所)、久保木亮介団員(代々木総合法律事務所)、白神優理子団員(八王子合同法律事務所)が黒岩の代理人に馳せ参じてもらうことになりました。また支援共闘会議は二月九日に結成され、代表に宇都宮健児弁護士、東京地評議長の森田稔などの方々に就任をしていだくことになりました。
四 国会論戦と結びついた裁判闘争
 日本共産党の仁比参議院議員の法務委員会での論戦が戸籍法問題の大きな力になってきました。それに加えて、衆議院法務委員会に日本共産党の委員が生まれたことを力強い限りです。


NHK大河ドラマ「花燃ゆ」の危うさ

京都支部  中 島   晃

 今年(平成二七年)一月から、NHKの大河ドラマ「花燃ゆ」の放映が始まった。
 この大河ドラマの制作発表にあたって、NHKは「花燃ゆ」の企画意図について、“明治維新はこの家族から始まった―。明治維新で活躍した志士を育てた吉田松陰。その松陰を育てたのが杉家の家族たちでした。”と述べ、“杉家の四女の文(ふみ)を中心に、ともに困難を乗り越えていった杉家の強い絆と、松陰の志を継いでいった若者たちの青春群像をダイナミックなスケールで描きます”と説明している。
 ところで、この「花燃ゆ」の第一回放映の視聴率は必ずしもかんばしいものではない。歴代の大河ドラマのワーストスリーだということである。「花燃ゆ」の視聴率が低い背景には、この大河ドラマがときの政権に対する露骨なごますりが見え隠れしていることに、視聴者が嫌気を起こしていることにあるのではないだろうか。
 周知のとおり安倍晋三首相の郷里は山口県である(安倍首相の出身地は東京都であるが、本籍地は山口県となっている)。山口県が生んだ「偉大」な時代の先覚者であり、幕末の思想家吉田松陰と松下村塾で学んだ久坂玄瑞、高杉晋作、伊藤博文、山県有朋らの若者が活躍する、この大河ドラマの放映が、安倍首相の郷土愛を大いにくすぐるものであることは間違いない。
 そうすると、今回の大河ドラマ「花燃ゆ」の製作は、NHKがときの政権に媚を売っているように見えるは当然のことではないだろうか。
 しかし、大河ドラマ「花燃ゆ」の問題点は、これにとどまるものではない。
 幕末における倒幕の原動力となったといわれる吉田松陰と松下村塾の塾生たちが過激な攘夷思想の持ち主であったことは知られているが、その思想の根底に極端な膨張主義があったことは見逃されてならないことである。このことは、これまで必ずしも広く知られていることではないが、松下村塾で学んだ伊藤博文や山県有朋らが明治政府の指導層を占めたことは、松陰の唱えた過激な膨張主義が日本の対外政策として現実化することにつながったことを直視する必要があると考える。
 松陰の膨張主義は、朝鮮半島の属国化にはじまり、北は満州、南は台湾を勢力下に治め、フィリピンまで攻め取ろうというものであり、中国はおろか遠くインドにも勢力を伸ばすことを示唆していた。こうして見てくると、松陰の膨張主義は、明治以降日本国家の対外政策として忠実に実行され、それが敗戦まで継続したということができる。
 確かに、吉田松陰は、幕末維新で活躍した志士を育てたという点では、傑出した教育者であったかもしれないが、同時に日本を侵略戦争に駆り立てた膨張主義の思想的源流となったこともまた否定できない事実である。
 こうした松陰の思想の否定的な側面に目をふさいで、一面的に美化することは非常に危険である。その意味で、今回のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」の放映には、こうした危険がつきまとっているといわなければならない。
 いま、ときの政権によるNHKの「乗っ取り作戦」が進行し、公共放送としての「独立性」が脅かされ、NHKは政府の「国策放送局」へと変質しかねない事態に直面している。
 それは、NHKの会長に籾井勝人(元三井物産副社長)という、とんでもない人物が就任し、さらには経営委員に長谷川三千子や百田尚樹など、安倍首相と思想的、政治的に極めて近い右翼的思想の持ち主が選任される中で、顕在化してきた事態である。
 しかし、こうした状況をこのまま放置することはできないと考え、昨年四月、京都では「NHKを憂える運動センター・京都」が発足し(私はこの運動センターの共同代表の一人である)、籾井会長、長谷川、百田両経営委員の罷免を要求する署名運動や集会の開催、宣伝行動などに取り組んでおり、こうした運動の組織は、現在、一一府県に広がっている。
 以上述べたとおり、NHKは、いま公共放送の「独立性」をめぐって、最大の危機に直面しており、それは日本の民主主義そのものの危機に直結するものとなっているといっても過言ではない。こうしたときに、全国各地で、NHKに対する“監視と激励”に取り組む視聴者・市民団体の運動を組織し、これを強化発展することが重要になってきていることはいうまでもない。その点で、団と団員の果たすべき役割もまた重要となってきている。
 なおまた、最近、NHKの現在の問題状況をわかりやすく解説し、再生の展望をさし示した松田浩氏の「NHK 新版―危機にたつ公共放送」(岩波新書)が出版された。ぜひ一読されるようお勧めする。


一・一七 京都「特定秘密保護法廃止」学習会の講師をつとめました。

京都支部  三 上 侑 貴

 平成二七年一月一七日、京都の社会福祉会館で、特定秘密保護法廃止に向けた学習会の講師をつとめました。
 最近、憲法というテーマで学習会の講師を依頼されることは多かったのですが、特定秘密保護法だけで一時間、というのは久しぶりでした。
 特定秘密保護法が施行されてしまい、世間にはあきらめムードがただよっている中の学習会でしたので、どれだけ人が集まるのか不安でしたが、当日は用意していた席が埋まるくらいたくさんの方が来てくださいました。若い方も来てくださり、若者層の特定秘密保護法に対する関心の強さを感じました。
 私は、いつも学習会をするときには、わかりやすく、楽しく、というのを心がけています。強い興味があるときはどんな話しでもずっと聞いていられますが、やはり人間はそれほど強い興味がない場合には、単調な話や堅苦しい話だと話が頭に入ってこず、はっと気づくと学習会が終わっていた!ということになってしまいます(私もそうです)。
 ですから、私は、まず、学習会の冒頭に、来てくださった皆さんに対し質問をし、挙手していただいたりお答えいただくようにしています。そこで、「もしかしたらこの後も手をあげたり答えたりしないといけないことがあるかもしれないので寝ていられない!」と思っていただきます。
 今回は、来られている方々に対し、「日本が世界ランキングで一位のものはなんでしょう?」という質問をしました。答えは「平均寿命」なのですが、これは答えられる方がちらほらいらっしゃいます。次に、「では、日本が世界ランキング五九位のものはなんでしょう?」という質問をしました。これはさすがにみなさん答えられません。答えは、報道の自由度です。これは、国際的なジャーナリストの団体である「国境なき記者団」が平成二六年二月一二日に発表したランキングによるものです。平成二二年は一一位だった日本は、福島第一原発事故に関する情報のあり方が問われ、平成二五年には五三位と大幅にランクダウン。さらに、特定秘密保護法が成立したことで、調査報道・公共の利益・情報源の秘匿がすべて犠牲になる、としてついに一八〇か国中五九位になってしまったわけです。というと皆さん、「えー、こりゃやばいなぁ。なんでそんなことになったのかな」となります。そう思っていただけることで、ただ講演を聴くだけでなく、自ら問題意識をもって聴いていただけます。
 その後、みなさんが興味をもってくれたところで、特定秘密保護法の問題点をお話ししました。適正評価等によりプライバシーを侵害することや、特定秘密を国民から永久に隠すことができてしまうことも大きな問題ですが、何よりも、特定秘密の範囲が不明確であることで萎縮効果が生じ、表現の自由の前提である知る権利を著しく侵害することが問題であることを強調しました。「この情報知りたいけど、知ろうとすると罰せられるかもしれないし、怖いから止めとこう、となってしまう人は多いと思います」と話すと、うんうんとうなずく皆さん。「人間は、様々な情報を入手して、その中から自分の視点で情報をピックアップし、その情報をもとに、国の施策や社会問題に反対したり賛成したり変更を求めたりするわけです。はなから国が出す一つの情報しか入手できなければ、その情報が実は国の都合の良い部分だけを切り取って出されたもので本当はその裏側に危険なことが隠れていたとしても、そのことに気付くこともできません。」と言うと、確かに・・・という声が漏れていました。
 特定秘密保護法については、「私はジャーナリストでもないし秘密を取り扱っているわけでもないから関係ない」と思っている方が多いような気がしています。しかし、知る権利を害されるという意味で国民すべてに大きな影響を与えるものです。また、特定秘密保護法が集団的自衛権と組み合わされることでより一層危険になります。集団的自衛権を行使した理由自体を秘密にしてしまえば、どうせ国民に知らされることもないのだからと、むちゃくちゃな理由で集団的自衛権を行使することもできてしまいます。そうなれば、国民の誰かが殺し殺されることになります。こう言って、特定秘密保護法はみんなの生活に大きく関係するものだから無関心ではいられないということを周囲の人に伝えてくださるよう、お願いしました。
 特定秘密保護法は、国にとって不利な情報を知ることをできなくすることで国民に国に対して否定的な表現をさせないという意味で、国民の目と耳を奪うことで口をふさぐ、「見ざる聞かざる、言わざる」法です。憲法は権力を縛るという立憲主義の考えと真っ向から反する、とんでもない法律です。
 最後に、「施行されてしまい、がっかりしている人もいるかもしれませんが、まだまだあきらめる必要はありません。廃止に向けてがんばりましょう。」との言葉で私の講演は終わり、みなさんは特定秘密保護法廃止に向けて、元気にパレードに出発しました。音楽隊のリズムにあわせながらの楽しいパレードです。降っていた雨もやんで光が差し込み、今後の特定秘密保護法廃止に向けて明るい兆しが見えた一日でした。


二・六全国会議の報告

事務局次長  田 井   勝

 二〇一四年二月六日(金)、自由法曹団は東京の文京シビックセンターで労働法制改悪阻止・労働裁判闘争勝利をめざす全国会議を開催しました。
 安倍政権は現在、「成長戦略」の目玉として労働法制改悪に関する動きを進めています。昨年は派遣法「改正」法案が国会に提出されましたが、世論の反対もあり、通常国会でも臨時国会でも廃案となりました。でもその一方で、有期契約特措法が採決されるなど、政権側は改悪の動きに関する強固な姿勢を崩していません。また過労死促進・残業代ゼロ法案についても今年の通常国会で提出される危険があります。そこで自由法曹団としてこの動きに立ち向かうべく、改悪に関する様々な問題を検討し討議するため、この会議を開催しました。
 会議当日は、平日の午後にもかかわらず、七六名の方が集まり、団員のみならず、労働組合・解雇争議でたたかう原告の方なども参加されました。また、高橋千鶴子衆議院議員にもお越しいただき、現在の国会情勢など報告していただきました。そのほか、派遣法の労政審審議で労働者委員として参加された全建総連の清水さんもお越しになり、当時の労政審の状況等々についての報告もいただきました。
 会議では、労働法制改悪阻止対策本部の団員弁護士から労働時間法制や派遣法改悪に関する情勢についての報告がありました。
このうち、労働時間法制については現在、労政審の労働条件分科会で報告書案が提示されています。具体的には、「高度プロフェッショナル制」と称して平均年収の三倍の支給を受ける労働者を対象としての労働時間法制の撤廃や、裁量労働制を拡大する動きが進められています。報告した団員弁護士からこの動きに関する報告をしたうえで、「このような改悪は更なる長時間労働を招き、過労死・過労自殺を増やしてしまうので極めて問題である」と訴えました。また、「働きすぎを防止するため、このような労働時間法制を改悪するのではなく、一日八時間労働を徹底するとともに、残業の上限規制やインターバル規制を設けることこそが大事である」、との訴えがありました。
 また、京都支部の中村団員からは、アメリカのホワイトカラーエグゼンプションに関する報告があり、「アメリカでは収入も平均程度の労働者に対して残業が支払われないことが許容されており、日本もまたこのような方向に進んでしまうのではないか」との報告がありました。
 その後、鷲見対策本部長から、「この改悪の動きに立ち向かうために、全国で街頭宣伝や学習会を行うなどし、この問題の危険性を世論に訴え続けていこう」との提言がありました。
 労働法制改悪の後、JAL解雇事件、日産・いすゞなどの非正規事件等々に関しての原告の訴えがありました。原告の方々の多くが、「このような改悪法案が成立してしまえば、いま以上に日本の労働者は不安定な働かせ方を強いられてしまう」と発言していたのが印象的でした。また、JAL事件については、当日に最高裁から上告棄却決定がおりたばかりでしたが、原告や弁護団から、最終解決に向けて頑張っていく旨の力強い発言もありました。
 今年の春先あたりから、国会でこれら改悪法案の審議が始まるのではないかといわれています。何とかストップさせるべく、全団員で頑張って行ければと思います。


「さいちゅう」って、何?

福岡支部  永 尾 廣 久

 はじめ、何か変な雑誌というか、グラビア誌が間違って送られてきたと思いました。カード会社の宣伝パンフレットかとも思いました。
 「さいちゅう」って、何のこと・・・。「真っ最中」とも言うんです。いえいえ、本当は埼玉中央法律事務所の事務所ニュースです。

類をみない事務所ニース
 このニュースは、大判のA4サイズで、ホッチキス止めのない一二頁というものです。とてもカラフルな体裁につくられていて、写真に迫力があります。とりわけ表紙の写真には圧倒されます。私はこれを見てカード会社のコマーシャル誌に見間違えたのでした。
 写真といえば、弁護士のアップの顔写真もよく撮れています。少し前まで東京駿河台法律事務所のニュースの顔写真に迫力を感じていましたが、それに匹敵します。「さいちゅう」の顔写真はプロが撮ったとしか思えません(本当に、プロですか・・・?)。
 記事のレイアウトも秀逸です。マンガカットとの組み合わせのセンスも抜群で、読みやすく、読みたいと思わせます。ニュースなのに、準備書面のようにナンバリングをうつなんていう野暮な記事はありません。
 これほど、読み手を惹きつけるレイアウトを素人の弁護士とか事務員がしたとは思えません。もし、プロに頼んでいるのだとしたら、その費用が気になりますね。
 準備書面だと漢字主体の要件事実を散りばめて難しく書いても、読み手(裁判官)がそれに慣れているから、問題ありません。しかし、ニュースは日頃あまり本を読まず、活字に慣れていない人に読んでもらうものです。そのような人たちに、読んでみようかなと思わせる必要があります。たとえば、「ママカフェ」に来る人のなかにも、たくさん本を読んでいる人はいるでしょうが、少ないでしょう。それでも、あっ、これは読んでみよう、面白そうだな、役に立つみたい、そう思わせなければなりません。その工夫が求められています。
 いずれにせよ、この「さいちゅう」は、手にした人は、読んだあとも簡単に捨てようとは思わないでしょう。そして、困ったときに、埼玉中央法律事務所に相談しようと思いだし、あれ、あの雑誌はどこにしまったかな・・・と思うに決まっています。そして、それが狙い目だと感じさせる体裁と内容になっています。
読ませる記事のつくり
 法律事務所ニュースに欠かせないのが、法律相談コーナーです。もちろん、「さいちゅう」にもあります。「行列のできぬ法律相談所」を大塚信雄弁護士が連載しています。法律にのっとった然るべき回答のうえに、学ぶべき人生の教訓まで添えられていて、面白く読ませます。
 そして、弁護士って、どんな種類の人間なのか、その生態もちょっぴり紹介するコーナー(頁)があります。テーブルのうえには、酒の肴が載っていて、楽しい酒盛り談義が展開されます。お固いイメージばかりの弁護士って、本当は人間味あふれる存在なんですよ、ということがじんわり伝わってくる紙面なのです・・・。
 そして、山本政道弁護士は、趣味の旅日記を思いのままに書きつづり、幅広い教養をもとに薀蓄を傾けて、ほっと一息つくことができます。
より読ませるニュースを目ざして
 最後に、あえて「さいちゅう」の難を指摘すると、二つあります。ひとつは、記事のバックにまで模様を入れてしまうと、記事が読みにくいのです。目がチラチラしてきます。せっかくの竪十萌子弁護士の文章が読みにくくなっています。
 その二は、まだまだ文章が堅く、漢字が多すぎます。黒っぽいのです。もっとひらがなを多く使うと紙面が白っぽくなって、読みやすくなります。こればかりは編集者もなかなか手の出せないところではあります。ですから、編集も業とすると自称している私は、いつも大胆に他人の文章に手を入れて、ひらがなを多くするように変えています。そこまでやったら「さいちゅう」は最高だと思います。
 事務所ニュースで、私がいつもよく出来ているなと感心しているのは京都第一と東京合同です。京都第一は、小型サイズですが、しっかり読ませます。東京合同は、いかにも昔風のタブロイド判ですが、私の先輩である藤本斎弁護士が編集していたときから、内容が濃いと思って高く評価してきました。有名人との対談など、いつも読みごたえがあります。
 埼玉中央法律事務所ニュースは二〇一三年夏からリニューアルしたとのこと。コメントしてほしいという要望にこたえてみました。いかがでしょうか・・・。


小林保夫団員の「私の人生・社会・読書ノートから」の紹介

大阪支部  鈴 木 康 隆

 このたび小林保夫団員が「私の人生・社会・読書ノートから」を出版しました。これは、小林さんが五十有余年の弁護士生活の中で、折に触れ会報などに書いたものをまとめたものです。
 この本の内容は大まかに言って、小林さんの生い立ちとその後弁護士になってからの身辺雑記を綴った「私の歩んできた道」、そしてつぎの「私の読書ノート」は、小林さんがこの五十有余年間に読んだ本のうちのあれこれについての感想と意見、第三章は司法とその他小林さんが関心を寄せた社会問題、最後は、イギリスやソ連などを訪れたその旅行記です。
 この中で、私はやはり「私の歩んできた道」の中に書かれている「銃後の母―母の日記から」「父の軍歴」「母の思い出」は興味を持って読みました。実のお母さんは、お父さんが昭和一六年に三度目の出征を見送った後、その帰国を見ることなく亡くなった。そのお母さんは、昭和一二年から一四年までのお父さんが戦地に行っている間日記をつけていた、その日記が紹介されています。「母の思い出」は、そのお母さんのことではなく、戦地から帰ってきたお父さんが再婚したいわゆる継母のことです。小林さんは、この二度目のお母さんにも実の母親と同じように接していました。
 つぎの、「私の読書ノート」は、小林さんが読んだいろいろな本の中の一部についての感想文です。「縄文語の発見」とか「惨事便乗型資本主義の正体を暴く」、ジョン・グリシャムのあれこれの本、などなど実に幅広い分野に及んでいます。また小林さんは、タイのピラ・スダムという作家の短編小説「見習僧」「食べ物売りとタクシー運転手」の二編を自分で翻訳し、それをこの本に掲載しています。物語は二つとも、波乱万丈というのではなく、なんとなくメコン川の流れのような感じのものです。私は、小林さんがこのような翻訳をしているとは全く知りませんでした。今から思えば小林さんが、ジョン・グリシャムのあれこれの本を原文で読んだとしきりに言っていた時期があり、おそらくその頃に翻訳したのだろうと思います。
 第三章の「司法と社会を考える」で加えられている、戦前天皇制権力のもとで活躍していた裁判官たちの多くが、戦後何らの戦争責任も問われず、また自らも何らの反省もしないまま裁判を続けてきたことに対する厳しい批判は、私も大いに共感するところです。この章には他にも、いじめや、子供の権利条約など教育に関する問題についてもかなりの論稿が収められています。
 小林さんは、国際法律家協会の大阪での代表者をしていました。そのこともあって、一九七七年にポルトガルのリスボンで開かれたアパルトヘイトに反対する国際会議を皮切りとして、いろいろな国で行われた法律家の国際会議に出席しています。「外国 駆けある記」は、それらの旅行記です。会議の内容もさることながら、旅行記としても興味があるものです。
 私は、昭和四二(一九六七)年に弁護士になり、当時の東中法律事務所(現関西合同)に入りました。私より六年先輩の小林さんは、この事務所ですでに中堅として活躍していました。翌昭和四三年、正森さんが衆議院の候補者に決まり、それとともに、新たに正森さん、小林さん、私などが一緒になって正森法律事務所(現きづがわ共同法律事務所)を設立しました。私はこうして今日まで小林さんと、四八年間を一緒に過ごしてきました。
 この本は、私たちが日頃接してきた小林さんの姿かたちが、それぞれの文章の中に余すところなく表れていると思います。そこに流れているのは、弱い立場の人、虐げられている人たちに寄り添うこころです。それは、ヒューマニズムです。小林さんが、この本の随所で引用している斎藤茂吉の「あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり」という歌の、小林さんにとっての一本の道とは、まさにこのヒューマニズムなのです。
 問合わせ先
 きづがわ共同法律事務所 電話 〇六―六六三三―七六二一