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改憲阻止対策本部 *六月行動提起*
戦争法制を阻止するために全団を挙げた取り組みを訴えます
穂積 匡史

*改憲・戦争法制阻止特集*
戦争法制と自治体・自治体労働者 −国民保護法「不改正」の意味するもの

平 和元 石川島播磨重工業にみる戦争協力と労働者
田中 隆 アフガン報復戦争が生み出したもの
田巻 紘子 自衛隊イラク派兵違憲判決にみる「後方支援」活動の危険性
荒井 新二 武器使用の「拡大」とPKO法の自壊
松井 繁明 治安掃蕩作戦の生み出すもの −三光作戦にてらして
橋本 敦 自衛隊の海外派兵を許さぬ国会決議をまもれ!
岩佐 英夫 戦争立法の背景・アーミテージ報告について
石川 元也 「ホルムズ海峡機雷封鎖」は現実的か
佐野 雅則 袴田事件からの警告 〜えん罪を生み出す捜査方法に法的根拠を与えるな
大塩 慧 労組法上の「使用者」 ―二重業務委託での就労先に認める!
田井 勝 労働者派遣法「改正」案の廃案を求める院内集会の報告と塩崎厚労大臣の辞任申入れについて
後藤 富士子 「共同親権」と「単独親権」の狭間で −「共同監護」を創造する
黒澤 瑞希 「だけじゃない憲法」出版のお知らせ
  *戦争法制阻止のとりくみのご案内*
  戦争法案廃案の運動にご参加を!!



*六月行動提起*
戦争法制を阻止するために全団を挙げた取り組みを訴えます

改憲阻止対策本部

 安倍政権は、本年五月一五日、切れ目のない安全保障法制の整備と称して、国際平和支援法案と自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態対処法等の一〇の改正法案(平和安全法制整備法案)と国際平和支援法案を国会に提出しました。
 安倍政権が成立を目指す戦争法制は、憲法九条が禁止している戦争・武力の行使の解禁に踏み切るものであり、日本を戦争する国にするという安倍政権の安全保障戦略の全面再編の最終段階に位置するものです。戦争法制が成立すれば、自衛隊は、文字通り、アメリカの世界戦略に組み込まれ、いつでも、どこでも、切れ目なく米軍やその同盟軍が行う世界中の戦争に参入し、軍事活動を行うことができるようになります。平時(グレーゾーン)においても、自衛隊の武器使用が拡大され、なし崩しで武力衝突が起こる危険性が高まります。
 戦争法制は、日本国憲法が定める恒久平和主義を根底から覆すものであり、違憲法案にほかなりません。憲法は未曾有の危機にあります。戦争法制は絶対に阻止しなければなりません。
 戦争法制を阻止するため、五月一六日から一八日にかけて開催された広島・安芸五月集会において改憲阻止対策本部も体制を拡充・強化することが確認されました。体制は次のとおりです。
 本部長代行  田中隆団員(東京支部)
 副本部長    吉田健一団員(東京支部)
           長澤彰団員(東京支部)
           松島暁団員(東京支部)
           山崎徹団員(埼玉支部)
 事務局長   山口真美団員(東京支部、本部事務局長兼任)
 事務次長   山添健之団員(東京支部)
           森孝博団員(東京支部)
 五月一六日、一七日に実施された朝日新聞の世論調査では、集団的自衛権を使えるようにする法案に賛成が三三%、反対が四三%、自衛隊の後方支援を日本周辺に限らず世界中でできるように変える法案に賛成が二九%、反対が五三%、恒久法の制定に賛成が三〇%、反対が五四%、今国会で成立させる必要があるが二三%、必要はないが六〇%となっています。国民の大多数は、安倍政権の戦争する国づくり、戦争法制の成立に反対しています。
 橋下大阪市長の策動を打破した大阪市の住民投票や、三万五千人が参加した「オール沖縄」の集会は、安倍首相の暴走に痛撃を与えています。広範な勢力が結集した「総がかり」実行委員会の運動や民主・共産・社民・生活四党の共闘など、戦争法制反対のたたかいにも新たな前進が生まれています。
 戦争法制の成立を阻止するためには、こうした戦争法制に反対する運動国民の声をいっそう大きくし広げ、国会を戦争法制に反対する国民の声で包囲することが不可欠です。そのためには、今まさに、(1)戦争法制の危険性を国民に知らせ、広げるとりくみ、(2)国会に国民の声を届けるとりくみ、(3)戦争法制に反対する共同を広げるとりくみを急速に広げていくとりくみなどことが求められています。
 戦後七〇年の節目の年にあたる今、日本国民と憲法は歴史の岐路に立たされています。安倍政権が目指す戦争する国づくり・軍事大国化の道を歩むのではなく、平和憲法を守り活かし平和な世界を創る道を歩むために、全団をあげて戦争法制阻止のとりくみに立ち上がることを呼びかけます。
(行動提起)
 戦争法制の危険性を明らかにする学習会や集会をを開催し、街 頭宣伝を行いましょう。
 リーフレット「平和な戦後が終わる」の普及を訴えます。リーフレットを活用し、各地で宣伝を強めましょう。
 日弁連や憲法会議の集団的自衛権行使容認反対の署名を急ぎ推進しましょう。
 地方選出の国会議員への働きかけ(政党への要請、地元事務所・国会事務所への議員要請、FAX、メール、意見書や声明文の送付など)を集中的に行ないましょう。
 地方議会への働きかけを行いましょう。六月議会で戦争法制反対の意見書採択などを実現しましょう。
 地元メディアへの働きかけを行いましょう。広く国民に戦争法制の危険性を明らかにする報道を急速に広めるよう求めましょう。
 中央での集会や行動を成功させるとともに、各地で連帯した集会や全国一斉行動を行いましょう。
 各地方・各地域での戦争法制阻止の取り組みについて情報を共有しましょう。団通信、改憲阻止MLへの投稿を呼びかけます。
 全国活動者会議に結集しましょう。
日 時 六月一九日(金) 一三時〜一八時
場 所 参議院議員会館B一〇九
※ 冒頭一時間は宣伝行動を予定しています(詳細はおってお知らせします)


*改憲・戦争法制阻止特集*
戦争法制と自治体・自治体労働者 −国民保護法「不改正」の意味するもの

神奈川支部  穂 積 匡 史

一 住民を戦争に巻き込んでも国民保護法は「改正なし」
 戦争法制は、様々な「事態」を「切れ目なく」定めて、いつでも、どこでも自衛隊が戦場に赴く道を切り拓く。日本サイドでは、様々な「事態」ごとに理屈をつけているつもりでも、相手国サイドから見れば、自衛隊の出動は、日本が敵国に加わったと受け止められるだけであろう。その場合、日本が反撃を受け、戦争に巻き込まれる危険は、飛躍的に高まる。
 反撃時の攻撃目標は、首都や主要都市、米軍基地や自衛隊基地、原発その他の危険施設などになる可能性が高い。したがって被害を受けるのは、その地域に暮らす住民である。このような反撃(武力攻撃事態)への備えとしては、国民保護法制がある・・・はずだが、今回の法改正案に国民保護法は含まれていない。新たな「事態」をたくさん設定したのであるから、これらの「事態」ごとに国民保護の在り方も変わりそうな気がするのだが、一体どう考えればよいのか。
二 「改正なし」の裏に存立危機事態拡張の思惑
 安倍政権は、今国会での戦争法制において、国民保護法の改正は「不要」と判断した。その理由とされたのが、集団的自衛権を行使する前提となる「存立危機事態」と、国民保護法を発動する前提となる「武力攻撃事態等」は、併存するというロジックである。政府は、与党協議会配付資料において、「『存立危機事態』であって警報の発令、住民の避難や救援が必要な状況・・・の場合は、併せて武力攻撃事態等と認定して、国民保護法に基づく措置を実施。したがって、国民保護法について、『存立危機事態』の認定を新たに要件として定める必要はな(い)」と説明している。
 しかし、存立危機事態とは、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」を指すのであるから、政府の説明のように、存立危機事態の中に「警報の発令、住民の避難や救援が必要」である場合と、そうでない場合が併存するというのは、奇異である。警報も避難も不要ならば、そもそも「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」には当たらないと考えるのが自然だからである。
 結局、このロジックの裏には、「存立危機事態」と「武力攻撃事態等」を区別した上で、「存立危機事態」には「経済的な危機」をも含めて拡張的に解釈したいという安倍政権の思惑があると見るよりほかない。
三 夏までの成立を優先して国民保護を後回し
 国民保護法改正「不要」の理由はもう一つある。国民保護法を改正するとなれば、「数か月かけて自治体関係者らと協議しなければならず、今国会中の法整備が厳しくなる」(毎日新聞二〇一五年一月三〇日配信)という政府の「本音」である。これは、二〇〇三年に有事三法を先行して成立させ、国民保護法は後回しにして翌年成立させたのと同じ手口である。安倍首相は、国会を無視してアメリカに公約した「夏までの成立」を優先させる余り、国民保護を後回しにしたということになる。ご都合主義ここに極まれりである。
四 戦争のリアリティがもたらす戦争法制阻止のインパクト
 実は、国民保護法制の見直しがもたらすインパクトは、「(戦争法制の)今国会中の法整備が厳しくなる」という程度に留まるものではない。戦争法制そのものを葬り去るほどの力を持っている。なぜなら、戦争法制の下で国民保護法制を見直せば、次に述べるように、住民に多大な被害をもたらす戦争法制のリアリティがいよいよ白日の下に晒されるからである。
(1)国民保護法によって住民の生命・財産を守ることはできない
 国民保護法が規定する国民保護計画や国民保護訓練の実態を見れば、実際に武力攻撃事態が発生してしまったときに、国民保護法によって住民の生命・財産を守ることはできないことが明らかである。
 たとえば、鳥取県の「岡山県方向への避難」の図上演習では、「北上する部隊が国道のすべての車線を占有することが判明して、県の職員が愕然とした」と報じられている(田中隆「有事法制がまちにやってくる」七七頁・自治体研究社二〇〇五年)。つまり、国民保護法が発動されて、自治体が住民の避難・救援を行う時、その一方で、アメリカ軍や自衛隊は、侵害排除のための作戦行動を行っている。その際、住民の避難方向とアメリカ軍・自衛隊の進撃方向が正反対になり、一本の幹線道路上で向き合うようになることは、容易に予測される。あるいは、逃げ遅れた住民の救援活動と、アメリカ軍・自衛隊の作戦行動が矛盾衝突して、救援と作戦のいずれか一方を犠牲にせざるを得ないという場面も出てくるかもしれない。このような時に、作戦行動を優先して、住民の避難・救援が後回しにされるであろうことは、歴史的経験から明らかである。
 こうした現実を慮ってか、現在各地で行われている国民保護訓練は、そのほとんどが化学剤、放射性物資または爆発物を用いたテロや、武装グループによる立てこもり事案への対応となっており、敵国による武力攻撃という想定は極めて例外的だ。
(2)自治体・自治体労働者は現実を知っている
 そもそも武力攻撃事態は、自然災害と異なり、侵害の意図を持つ敵がいつどこからどうやって襲い掛かってくるのかわからない状態である。攻撃を具体的に想定して住民避難・救援に備えるなど到底不可能である。したがって、武力攻撃事態等において自治体が住民の避難・救援を的確に行うためには、必要な情報が正確に開示されることが不可欠である。どこにどのような武力攻撃が生じているのかという情報を知らされないまま、自治体・自治体労働者が住民を避難させることなど荒唐無稽というほかない。
 ところが、特定秘密保護法の成立により、これらの情報は基本的に自治体に開示されないこととなる可能性が高い。自治体・自治体労働者は、戦争法制の下で、住民を守る術を持たないのである。
 そればかりか、武力攻撃事態等において、政府が住民の安全よりも作戦行動を優先して、情報操作や情報隠しさえ行うであろうことは、容易に想像できる。現に、武力攻撃の例ではないが、東京電力福島第一原発事故の際には、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報開示が妨げられた結果、多くの住民が放射性物質の拡散予測を知らされないまま、線量が高い地域に避難してしまい、避けられたはずの被曝に遭っている。これと同じ事が武力攻撃事態で行われれば、自治体労働者と住民は、自ら武力攻撃の真只中へと飛び込んで行くという事態に陥る。悲劇というほかない。
 自治体・自治体労働者は、国民保護法によって武力攻撃から住民を守ることはできないという現実を知っている。この一年間に二〇〇を超える地方議会で集団的自衛権行使容認に反対する意見書が可決されるなどしているのは、その証左である。
五 自治体・自治体労働者と連帯して戦争法制を阻止しよう
 戦争法制の下で国民保護法を改正すれば、このような戦争法制の悲惨なリアリティを国民的議論に晒すことになる。戦争法制が国民にとって身近な恐怖であることが理解されれば、戦争法制反対の声が高まるであろう。安倍政権はそれを恐れて、国民保護法を改正対象から外したのではなかろうか。そうであれば、我々は自治体・自治体労働者と連帯して、このリアリティを広く市民に伝え、戦争法制反対の声を盛り上げようではないか。


石川島播磨重工業にみる戦争協力と労働者

東京支部  平   和 元

一 成長戦略として位置づけられた軍需産業
 二〇一三年一二月一七日、安倍政権は国家安全保障戦略を閣議決定し、そのなかで「積極的平和主義」などという言葉が使われ、軍需産業の活用が謳われている。二〇一四年四月武器輸出三原則が撤廃され、防衛装備三原則となり、本年秋には防衛施設庁が設置され、武器輸出が奨励されようとしている。
 日本共産党員及びその支持者たちを職場から排除してきた石播思想差別事件において、裁判の中で、ZC(ゼロ・コミュニスト)管理名簿が暴露され(二〇〇四年)、東京地裁で労働者に謝罪し多額の賠償金を払った石川島播磨のケースについて述べる。
二 自衛隊の後方支援に民間企業
 一九九九年に「周辺事態法」が成立した。周辺事態に対処するために、海外で作戦中の米軍に対し、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務、基地業務および捜索・救難などの後方支援活動を自衛隊が行えることとなった。
 同じ年、「ミサイル防衛」日米共同研究が開始された。
 そして二〇〇一年九月一一日「同時多発テロ」が発生。これに対してブッシュ大統領は直ちに「テロとの戦争」、アフガニスタンに対する報復戦争を開始したのである。小泉首相はブッシュ大統領を全面的に支持した。
 〇一年一一月「テロ特措法」が成立し、国際法上認められないアメリカの報復戦争に参加するための派兵が開始された。インド洋上の米軍空母からクラスター爆弾やミサイルをかかえた戦闘爆撃機がアフガンの民衆を殺すために出撃する、その米軍空母に日本の自衛艦が、燃料その他の物資を補給するためである。
 ITのかたまりである最新の近代兵器を使った戦争も、燃料・弾薬が補給されなければ続けらないし、壊れればすぐに修理しないと戦闘に差し支える。
 テロ特措法で、インド洋へは補給艦のみならず、イージス艦も出撃した。インド洋へ出撃した自衛艦のサポートは、どのようにしたのであろうか。
三 企業も防衛秘密漏洩で処罰
 まず日本政府は二〇〇一年一一月、テロ特措法成立と同時に、自衛隊法一二二条を「改正」した。自衛隊法一二二条とは防衛秘密を漏らしたものは五年以下の懲役に処するというものである。それまでは処罰対象は、防衛庁関係者に限られていたのを、「防衛秘密を取り扱うことを業務とするものがその業務により知り得た防衛秘密をもらしたときは、五年以下の懲役に処する。」と「改正」して民間業者を追加した。
 そして防衛庁は、テロ特措法が成立すると同時に、自衛隊艦艇をインド洋へ派遣する一方で、石川島播磨重工業などの兵器生産企業一〇数社を集め、現地での修理を行う技術者の名前とパスポート番号を登録するよう指示した。二〇〇二年七月からテロ特措法に基づき計一六回五〇人、イラク特措法に基づき三回七人が現地に派遣されている(二〇〇二年七月以前、二〇〇四年以降については公表されていない)。防衛庁は、民間人派遣は安全が確保されている地域に限っていると言い訳しているが、派遣企業名は一切明らかにしていない。兵器産業の生産職場ではこれらの出張自体が「防衛秘密」とされているので、出張を命じられたものは同僚にも家族にも秘密にしなければならない(記録ビデオ「軍需工場は、今」製作・日本電波ニュース社)。
 二〇〇三年一月インド洋上で行動中のイージス艦「きりしま」の修理に石川島播磨重工業の従業員七名が派遣された。同社の労働者である渡辺鋼は、そのことを労組の職場集会で発言し、「使用者の安全配慮事務」「災害の場合の労災適用」などの調査を求めた。しかし、労組支部委員長は、(1)情報源を示さなければ調査はしない、(2)当社は国防を担う企業であり現地修理は当然だ、(3)この任務に協力しないものは業務を続けることはできない、と答えた。防衛庁は会社のみならず、労働組合までもこのように締め付け、インド洋への派遣を強行したものである。
 渡辺鋼は今では秘密保護法の秘密漏洩罪として処罰されかねない。
 クウェートに派遣された空自輸送機P3Cの修理の準備を指示された川崎重工の内部文書が国会で追及されたとき、石破防衛庁長官は「民間企業の文書について答える立場にない」(〇四年二月衆院予算委)と回答を拒否している。企業側は「顧客情報、企業秘密を守る」として答えない。社員は出張先について家族にも同僚にも秘密のまま戦地派遣を命じられていた。
四 海外派兵のための有事法制
 二〇〇一年から二〇〇四年にかけて、国は兵器産業企業に対してはこのように事実上の強制ができても、自治体や他の民間企業に対してはこのようにはいかなかった。
 しかし現実に自衛隊が海外に派遣され、戦争に参加することになり、「軍隊をバックアップするシステム」(兵站)がどうしても必要となってきた。そのシステムが不十分では戦争を遂行することはできないからである。
 二〇〇二年四月、武力攻撃事態法・自衛隊法「改正」・安全保障会議法「改正」の有事基本三法案が国会に提出された。
 二〇〇三年三月二〇日、米英軍によるイラク攻撃が開始された。直ちに支持を表明した小泉内閣によって、その年の六月に有事基本三法が成立し、七月にイラク特措法が成立した。まさに戦争をしている国に対して、自衛隊を派兵する法律である。
 二〇〇四年二月陸・海・空三自衛隊がイラクに派兵された。
 二〇〇四年六月、「捕虜の取扱い」「避難や疎開」「公海上の船舶の臨検」「港・飛行場の優先利用」「電波管制」などの個別法、米軍の行動を支える「米軍支援法」など有事関連七法とジュネーブ条約追加議定書など三条約が成立し、兵站の心配もなくなり、日本も普通に戦争を遂行できる国として戦争遂行法を完成させた。
 二〇〇四年以降も兵器産業の企業からは自衛隊の派遣先に派遣されている筈である。しかし二〇〇四年以降は民間の企業からの派遣については公表されていない。
五 九条支持者は企業から排除
 民間企業の戦地派遣は闇のなかであるが、企業が軍需産業の発展のため従業員の意識改革も含め奮闘努力している様子は以下の連合労組の主張をみれば明らかであろう。
 石播の機関誌に掲載される「労連の主張」において、朝鮮併合は朝鮮を守るため、おかげで朝鮮は発展した(二〇〇五年四月No8)、靖国神社参拝は当然、極東裁判は不公正、戦犯を分祀するのは見当外れ(同八月No9)、中国はアジア最大の脅威、アジアのシーレーン確保や日本の安全のための軍事協力は必要(〇六年一月No10)と述べ、歴史認識を含め社員教育(?)に余念がない。
 石播は二〇〇四年に差別してきた労働者に謝罪したが、戦争法制のもと政府によって武器輸出が奨励される情勢となれば、九条を守れと主張する労働者を排除しようとする動きはますます加速することになろう。


アフガン報復戦争が生み出したもの

東京支部  田 中   隆

一 アフガン報復戦争と「テロ」特措法
 二〇〇一年九月一一日、いわゆる「同時多発テロ」が発生した(九・一一事件)。アルカイーダの犯行と断定した米・ブッシュ政権は、「庇護」を理由にアフガニスタンに対する報復戦争に踏み切った。
 一〇月七日、米軍および「集団的自衛権」を発動した英軍などによって空爆が開始され、一一月一三日には反政府勢力・北部同盟軍が首都カーブルを制圧した。米軍等の圧倒的な軍事力によって、正規軍間の戦闘は約二か月間で終結し、タリバーン政権は消滅した。
 一二月五日、暫定政府の樹立、国際治安支援部隊(ISAF)の編成などを含む「ボン合意」が行われ、国連安保理に承認された。一二月二〇日、ISAFが発足し、一二月二二日にはカルザイ議長を首班とする「暫定行政機構」が成立した。
 一〇月五日、小泉純一郎政権は「テロ」特措法案を国会に提出し、一〇月二九日には採択が強行された。武力を行使する米軍等への「協力支援活動」などを認め、戦地に向けて自衛隊を送り出す最初の法制であった。
 一一月九日、海上自衛隊の「支援艦隊」が出航し、インド洋で米機動部隊などに対する補給活動を行った。補給活動はカルザイ政権成立後も続けられ、八年にわたる活動は、「後継法」である補給支援特措法(参議院の否決後、衆議院の再可決で強行成立)が、民主党政権のもとで一〇年一月一五日に失効したことにより終了した。
 自衛隊海外派兵の「原型」というべき案件なので、要点だけ指摘する。
 第一に、いかに大規模でも犯罪にすぎない「テロ」に軍事力で報復を加えた報復戦争は、本質的な誤りであった。そのことは、「果てることのないテロとの戦争」の現実が雄弁に物語っている。
 第二に、空爆を行う米機動部隊に対する補給活動はそれ自体軍事行動で、この国は「手を汚さなかった」わけではない。それでも、活動地域が「非戦闘地域」に限定されて洋上での補給が主要な活動になり、治安維持活動に参加しなかったため、直接銃火を交わすことはなかった。中東地域で、この国の平和的な貢献が評価されている理由はここにある。
 第三に、そうした派兵ですら参院否決−衆院再可決や失効を繰り返したが、国の内外から「派兵再開」の声は起こらなかった。国際社会も国民世論も、戦地への自衛隊派兵など求めていなかったからである。
二 アフガン空爆がもたらしたもの
 「支援艦隊」の補給は空爆を支えるものであった。その空爆はなにをもたらしたか。
 〇二年一月七日から一四日まで、自由法曹団は「アフガン問題調査団」を派遣した。筆者を含む調査団は、パキスタン国境の難民キャンプやパキスタンで活動するNGO、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などを訪問した。
 空爆被害の状況は、米軍発表などによる報道とはかけ離れたものだった。
 「一〇月一五日から一〇日間連続で村が爆撃を受けた。村の近くにタリバーンの軍事施設はなかった。七人が死んだ家族も近所にいた。二〇〇家族で逃げ出した。イランへの道は国境が閉鎖され、ペシャワルへの道も危険だった。だから、ここに逃げてくるしかなかった」。アフガニスタン北方のマザリシャリフ付近からパキスタン西北部のクエッタ周辺の難民キャンプに逃れた農民たちの証言である。脱出経路をたどると実に一〇〇〇キロ。二〇〇家族の農民たちは、二〇年にわたるソ連侵攻や内戦で荒廃し、地雷が散乱した山野を一〇〇〇キロにわたって彷徨し続けたことになる。
 「トラボラにはたくさんの村がある。どの村にも空爆が行われている。ディージーカッター(燃料気化爆弾)が中心部に落とされた村がある。トラボラでの死者の正確な数はわからないが、一〇〇〇人くらいの死体が発見されている。トラボラではすべての村が破壊された」。パキスタンのペシャワル周辺の難民キャンプに逃れてきた難民の長老の証言である。トラボラはオサマ・ビンラディンの潜伏が疑われて空爆が集中した地区であり、周囲数キロを一瞬のうちに焼き尽くすディージーカッターが農村に投下されている。
 米軍は「目標は軍事施設と国家機関だけだ」と発表し続けていた。本当にそうなら、「最も安全なはずの村」を捨てて逃避行に踏み出し、無数の地雷が埋まった山野を彷徨するはずがない。だが、現実には村や町を捨て、国境を超えてパキスタンに逃れた難民は二〇万人とも四〇万人とも言われ、国内には国外に脱出できなかった膨大な数の国内避難民が生まれている。
 これは、「誤爆」ではとうてい説明できない。タリバーン政権の転覆やビンラディンの「いぶり出し」のために、米軍は村々に無差別爆撃を行った。民衆が殺戮され、生きのびた民衆は難民・避難民となって爆弾の降り注ぐ荒野を彷徨し続けるしかなかった。日本軍が中国大陸で展開した三光作戦や南京大虐殺と同じく、明白な戦争犯罪にほかならない。
 キャンプを訪れた〇二年一月には、タリバーン政権は崩壊して「暫定行政機構」が生まれており、UNHCRが管理するキャンプにその情報はもたらされていた。だが、難民から、「独裁政権から解放された喜び」や「新しい祖国への帰国の希望」などの言葉を聞くことはなかった。
 その後のアフガンを暗示するものである。
三 その後のアフガンと戦争法制
 あれから一四年になる。
 カルザイ政権と連携したISAFは〇三年八月からNATOに指揮を委ね、その兵力は最大時には一三万四千人に及んだ。そのISAFは、アフガン各地で、タリバーンの残党や種々の反政府勢力などの掃討を続けてきた。〇一年から一四年末までのISAFの犠牲者は約三五〇〇人とされている。米軍を中心としたISAF軍は完全装備の正規軍、対するのは武装勢力ときには民衆である。「非対称の戦争」で、アフガンの武装勢力や民衆には、はるかに大きな犠牲が発生していたに違いない。
 それだけの犠牲を払った活動は、平和を生み出すことができたか。
 「タリバーン等反政府武装勢力による駐留外国軍、アフガニスタン治安部隊、政府関係者らに対する攻撃が依然として頻発しています。二〇一三年にアフガニスタン全土で発生したテロ関連事件数は約二万三千件以上確認されており、過去最高を記録した二〇一一年の事件数と同水準となるなど、治安は極めて厳しい状況です」。これは、外務省の「渡航情報(危険情報)」の一節。アフガン全土が「退避を勧告します。渡航は延期してください」の赤一色に塗られている。
 それだけではない。政府軍と反政府勢力との戦闘は難民キャンプが集中していたパキスタン北西部に及び、自由法曹団調査団が訪れたペシャワルなども「退避勧告」の赤で塗りつぶされている。キャンプにいた難民がどうなったかを、知るすべはない。
 アフガン報復戦争にはじまる「反テロ戦争」は、甚大な犠牲を伴ったにもかかわらず、遂に平和を生み出すことはできなかった。
 にもかかわらず、安倍政権は戦争法制を強行しようとしている。
 あのとき戦争法制が存在していたら、自衛隊は、武力攻撃を加える米軍等に「戦闘地域」で兵站支援を行い、カルザイ政権成立後はISAFに加わって治安掃討作戦を展開していたに違いない。また、政府が、九・一一事件を「我が国の存立を脅かす米国への武力攻撃」と認定していれば、「集団的自衛権」を口実に英軍などとともに報復戦争に直接参戦していたことにもなる。
 かかる戦争法制は断じて許されてはならない。


自衛隊イラク派兵違憲判決にみる「後方支援」活動の危険性

愛知支部  田 巻 紘 子

一 自衛隊イラク派兵違憲判決
 自衛隊イラク派兵違憲判決は、平成一九年四月一七日付で名古屋高等裁判所が言い渡した違憲判決(判決理由中において違憲判断がなされている)である。違憲判断の理由は、航空自衛隊が平成一八年七月三一日以降行っているC―130―H輸送機を用いたバグダッド空港への輸送活動が、アメリカ軍による武力行使と一体化するものであるとして、憲法九条一項違反、というものである。
 自衛隊の創設以後、自衛隊の具体的な行動について憲法九条一項違反と判断された初めて、かつ現時点において唯一の司法判断である。判決では、憲法九条一項違反判断の前提として、詳細かつ具体的な事実認定を行った。現代の戦争におけるリアリティを伝える貴重な司法判断であり、戦争法制が発動した場合に、どうなるのかを具体的に考える際に不可欠な判決である。
 なお、判決全文は判例タイムズ一三一三号一三七頁に掲載の他、
http://www.haheisashidome.jp/hanketsu_kouso/#hanketsu
においてダウンロード可能である。判決が言い渡された当時、全国各地の市民から、論理明快で非常に読みやすい、よくわかると評判の判決文であった。
二 判決「認定事実」を読む(本項では「」内は全て判決文の引用である)
(1) イラク戦争とは何だったのか

 判決は次のとおり認定した。
 「イラクのサダム・フセイン政権が大量破壊兵器を保有しており、その無条件査察に応じないことなどを理由として、国際連合の決議のないまま、アメリカ合衆国軍、英国軍を中心とする有志連合がイラクへの攻撃を開始した。これにより、間もなくフセイン政権が崩壊し、同年五月二日、アメリカのブッシュ大統領がイラクにおける主要な戦闘の終結を宣言した。」(補注:主要な戦闘終結宣言後も実際には戦闘が続いていたことを判決文では後記(2)のとおり認定した。)
 「もっとも、当初のイラク攻撃の大義名分とされたフセイン政権の大量破壊兵器は、現在に至るまで発見されておらず、むしろこれが存在しなかったものと国際的に理解されており、平成一七年一二月には、ブッシュ大統領自身も、大量破壊兵器疑惑に関する情報が誤っていたことを認めるに至っている。」
(2) 多国籍軍の軍事行動
 イラク各地における多国籍軍の軍事行動として、判決文ではアメリカ軍の掃討作戦のいくつかについて次のとおり事実認定をした。
1) ファルージャ
 平成一六年三月 アメリカ軍雇用の民間人四人が武装勢力に惨殺された。同四月五日、武装勢力掃討の名の下に、アメリカ軍による攻撃が開始され、同年六月以降は、間断なく空爆が行われるようになった。
 同一一月八日からは、アメリカ軍兵士四〇〇〇人以上が投入され、クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾、マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用して、大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。これにより、ファルージャ市民の多くは、市外へ避難することを余儀なくされ、生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され、多くの民間人が死傷し、イラク暫定政府の発表によれば、死亡者数は少なく見積って二〇八〇人であった。
2) 首都バグダッド
 平成一六年六月、イラク暫定政府発足後、政府高官を狙った自爆攻撃等が相次いで多数の者が死傷し、武装勢力による多国籍軍に対する攻撃も相次いだ。平成一六年六月二七日、同七月末 バグダッド空港離陸直後にC130輸送機が銃撃を受け、アメリカ人とオーストラリア人の乗組員二人が死亡した。平成17年1月30日、バグダッド近郊を低空で飛行していた英国軍のC130輸送機が、武装勢力により撃墜され、乗員全員が死亡する事件が生じた。このような事態を受けて、多国籍軍は、バグダッドにおいて、武装勢力に対する大規模な掃討作戦を展開するに至った。
 平成一七年五月二九日、アメリカ軍約一万人、イラク軍約四万人を動員して大規模な掃討作戦が行われた。しかし、武装勢力を掃討することはできず、却ってバクダッドの治安が悪化した。そこで、多国籍軍は、バグダッド及びその周辺における掃討作戦を強化させ、平成一八年八月からはアメリカ兵約一万五〇〇〇人をバグダッドに集中させて、掃討作戦を行うなどした。(中略)
 このように、アメリカ軍を中心とする多国籍軍は、時にイラク軍等と連携しつつ掃討作戦を行い、特に平成一九年に入ってから、バグダッド及びその周辺において、たびたび激しい空爆を行い、同年中にイラクで実施した空爆は、合計一四四七回に上り、これは前年の平成一八年の約六倍の回数となるものであった。
(3) 多数の被害者
 判決文では「多数の被害者」という項目をもうけて次のとおり事実を認定した。
1) イラク人
 WHO平成一八年一一月九日:イラク国内において戦闘等によって死亡したイラク人の数が一五万一〇〇〇人に上ること、最大では二二万三〇〇〇人に及ぶ可能性もある。
 イラク保健省(平成一八年一一月頃):アメリカ軍侵攻後のイラクの死者が一〇万人から一五万人に及ぶ。
 英国臨床医学誌ランセット(平成一八年一〇月一二日発行):イラク戦争開始後から平成一八年六月までの間のイラクにおける死者が六五万人を超える旨の考察を発表。
 NGO「イラク・ボディ・カウント」:平成一九年の民間人犠牲者数は約二万四〇〇〇人に上る。
 「イラクの人口の約七分の一にあたる約四〇〇万人が家を追われ、シリアには一五〇万人ないし二〇〇万人、ヨルダンには五〇万人ないし七五万人が難民として流れ、イラク国内の避難民は二〇〇万人以上になるといわれている」
2) アメリカ軍の兵員等
 平成一九年八月の時点で多国籍軍の兵士の死者数が四〇〇〇人を超えたと報道された。
 アメリカ国防総省の発表によれば、イラク戦争開始以来現在までのアメリカ軍の死亡者は約四〇〇〇人であり、重傷者は一万三〇〇〇人を超えている。特に、平成一九年に死亡した米軍兵士は同年一一月の時点で八五二人に上り、それまで最も多かった平成一六年の八四九人を超えて、過去最高となっている。
(4)航空自衛隊の空輸活動
 憲法九条一項違反であることを判断した結論部分は次のとおりであった。
 「航空自衛隊の空輸活動は、それが主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われているものであり、それ自体は武力の行使に該当しないものであるとしても、多国籍軍との密接な連携の下で、多国籍軍と武装勢力との間で戦闘行為がなされている地域と地理的に近接した場所において、対武装勢力の戦闘要員を含むと推認される多国籍軍の武装へ委員を定期的かつ確実に輸送しているものであるということができ、現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえることを考慮すれば、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものということができる。
 したがって、このような航空自衛隊の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドへ空輸するものについては、前記平成九年二月一三日の大森内閣法制局長官の答弁に照らし、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動であるということができる。」
三 まとめ―戦争のリアリティを無視してはならない
(1) 判決では、一国が他国に対して武力行使を行うかどうかを決める極めて重要な情報でさえ操作され、誤った判断がなされたという事実が認定されている。
 判決文が認定したように、アメリカ合衆国は先制自衛の考え方を根拠としてイラク戦争を始めたが、その際、大量破壊兵器の存在に関する判断を一八〇度誤った(存在しないものを存在するとして戦争を始めた)。そしてイラクにも自国にも多大な被害を生じさせた。
 この歴史的事実は、自衛目的であっても、国として武力行使を行うことについては大いに謙抑的でなければならないという教訓を示すものである。
(2) 判決では、武力により他国の政権を崩壊させ、当該国の領土を制圧しても、その後、抵抗勢力が発生・流入・拡大するなどし、紛争が泥沼化した事実が認定されている。
 仮に今後、日本の安全が何らかの外的要因によって害されることがあるとしても、その対策として武力を行使することは、かえって紛争を拡大し、日本側についても犠牲を増やすことになる。武力行使は、問題の解決にならない。この前提認識が、今の安倍政権の議論にはまったく欠如している。
(3) 判決では、どんな大義名分によって始められても、戦争は、多くの非戦闘員を殺傷し、その生活を根底から破壊するものである事実が認定されている。
 現代の戦争は、非対称の戦争であると言われる。大国の軍隊に攻め込まれ、生活の場が戦場と化した非戦闘員の側に、圧倒的多くの被害が生じる。イラク戦争にいても、圧倒的にイラク側の被害が大きい。日本の自衛隊が直に手を下して、他国の普通に生活している市民を殺傷し、その住居を壊し、まちを破壊することを、私たち日本国民は望むのか。真剣に考えなければならない。
 あわせて、非対称の戦争とはいえ、大国側の軍隊にも死傷者が出る。現在、安倍政権がともに軍事行動を行う同盟国であると考えているアメリカは、このイラク戦争及びそれに先立って開始されたアフガン戦争の結果、自国内にも多くの被害者をだした。多くの若者の命が失われ、多くの若者が負傷したのである。そのアメリカは、戦費の巨額な負担とこれら損失の大きさから、地上戦には消極的である。戦争法制が確立された暁には、日本の自衛隊員が、イラク戦争におけるアメリカ軍の役割を担わされることになる。自衛隊の海外活動に対する切れ目・歯止めをなくすのが戦争法制のねらいであり、歯止めがなくなれば要求を断ることはできない。しかしそれが、日本の安全保障に本当に必要なことだろうか。自衛隊員に対して、殺してこい、死んでこい、と命じる日本であってよいのだろうか。
(4) 判決の憲法判断部分で注目すべきは、「現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえることを考慮」し、輸送という行為(形式的には武力行使ではない)の実質的意味(武力行使に等しい)を正しく評価した点である。
 どんなに強大な軍隊であっても、水、燃料、食料、医薬品、そして人員の補給がなければ戦闘行為を行うことはできない。人員の輸送は、現代の戦争に不可欠な情報の伝達にも使われる。「後方支援」というと、自らは手を下さない中立の任務に思えるが、直接の戦闘行為と同視すべき行為である。どこでも「後方支援」を行える法整備を進めることは、どこでも戦闘できる自衛隊になる、ということである。
 また、判決では、憲法九条一項違反と判断された空自のバグダッドへの空輸活動について、当初は危険な地域であるとして空輸活動を行わずにいたところ、「アメリカからの強い要請により」、空輸活動を行うようになった経緯も認定されている。どんなに海外での武力行使はしないとの答弁があっても、海外で切れ目無く武力行使可能な法整備を行った結果、「アメリカからの強い要請により」、海外で武力行使を行わざるを得なくなるのではないか。
(5) 以上は判決文の一部の紹介であるが、判決文はイラク戦争について事実を認定する中で、現代の戦争のリアリティを明らかにしている。
 今回、国会へ上程される戦争法制中で多用される「○○事態」という言葉は、戦争のリアリティをまったく感じさせない。また、どのような場合を存立危機と捉えるかについての安倍首相の発言が様々報道されているが、武力行使することがどのような結果を引き起こすか、についてのリアリティはまったく感じられない。
 戦争のリアリティを無視して、戦争法制の議論をすることは許されない。


武器使用の「拡大」とPKO法の自壊

東京支部  荒 井 新 二

一 PKO法の「武器使用」の制限
 海外に派遣される自衛隊の活動内容や範囲が一気に拡がり、意表外の戦闘行為のおこることが予想される。私には、自衛隊員の安全確保上の措置を求めると言う案は、悪い冗談のように思える。地球規模で武器使用を強いられる自衛隊員の安全をいかに考えるか。厳冬の冬山登山を命じながら、生還の無事を祈願するのと、さほど変わりはあるまい(断じて登攀とザイルの関係ではない)。戦闘のなかで兵士たちが安全を確保するためには、任務放棄で逃げ出してしまうか、敵を殲滅し尽くすかのいずれかであろう。
 「従来のPKO参加五原則を遵守する」と報じられるPKO法改定の問題も同じ様な与党の自己瞞着であろう。
 国連PKOの活動では、伝統的にこの五原則が基本になっている。国連安保理事務局のモデル協定案でも、「最小限の武器使用」を含めて停戦合意・受入国の同意・中立性等がもともと、もり込まれている。他方わが国の場合には、もうひとつの原則である武器使用だけが異なる。国連PKOでは武器使用には「自己防衛」と「妨害排除」が認められる。わが国のPKO参加五原則は憲法九条により従来「自衛」のみが認められ、「妨害排除(任務遂行型)」はこれまで排除されてきた(法二四条)。「妨害排除」のための武器使用はしないところに、わが国のPKO参加五原則の独自の意義がある。
二 肝心かなめの論点「武器使用」
 現行PKO法は自衛隊の業務を限定する。治安維持確保活動等が従来、業務から除かれてきたのは、諸業務のなかで武器使用に至る蓋然性が高いと考えられてきたからである。自衛隊のPKF活動が凍結されたり、その解除後でも実際には一度も派遣されなかったことは「武器使用」の虞(その高さ)に由来する。
 今回のPKO法改定では「武器使用」に、「自衛」のほかにあらたに「妨害排除」(任務遂行型)と「駆け付け防護」がつくことになる。自衛隊の任務遂行にたいする妨害を武力で排除(制圧)することが許される(指示される)ならば、「武器使用」の限界は無いに等しい。武器使用の制限は、憲法の非戦平和に由来するが、それが扇の要(かなめ)になってPKO法は作られ、かつ運用されてきた。その制限を外して武器使用の範囲を飛躍的に広げる。要(かなめ)がほどければ、扇は形を失う。「PKO5原則の遵守」とは、よくぞ言ってくれたものである。
三 PKO法の解体を目ざす法案
 いったん、ほどけたPKO法はどのようになるか。
 まず目的(頭部)が、従来の(1)国連のPKOのほかに、(2)国連の統括(指揮)しない治安維持活動という「国際連携平和安全活動」をいただく双頭に変身する。武力そのものを背景にした自衛隊部隊の活動である。国連の指揮が及ばない軍事的あるいは準軍事的活動をPKO法にとり込む。イラクで「人道支援」の名目で行われ、一部違憲と言われた自衛隊の活動をひろく認める。
 つぎに自衛隊の部隊業務として、PKO法にあげられていた活動のほかに、(1)と(2)を通じて、監視・駐留・巡回(パトロール)・検問・警護等のPKF本体にまでウイング(腕)を広げる。危険との理由から棚上げされた業務を本来の任務(業務)としてカバーする。他国の軍隊との一体化が一層すすむことになろう。こうして自衛隊の国際活動は縦横にふくれあがることになる。
 この「膨張」に即応して「武器」自体も「使用」態様も拡充の一途をたどる。当初の武器使用→業務とは逆のベクトルへの変換である。「自衛」は、過去に中身が拡大されたことがあったが、このたびの「改定」では「自衛」とは別に、「妨害排除」が加わる。有効な業務遂行に必要とされる「妨害排除」は、妨害排除そのものが容易に「任務」に変わりうる。さらに他国の軍隊等への防護(駆け付け警護)が容認される。現地の住民・邦人のほかにも、他国の軍隊を防護するために戦闘行為が行われる。これらは(1)(2)の目的分野に、ともに適用される。
 急いで付け加えるならば、国あるいは国に準ずるもの以外の武装集団等に対する制圧・攻撃は、PKOの俎上にものぼらないとされ、武器使用の制限をそもそも受けることなく許されるであろう。その判断は実は相当に微妙なものではあるが、あげて政府に託されることになる。
 こうしてPKO等のために派遣された自衛隊の活動は、地球規模で、地域・範囲・局面を問わず、軍事力を誇示して行われ、極めて危ないものとなる。PKOは、もとの姿・形とは全く違ったたものになる。PKO派遣は大きく変質し、自衛隊は文字通り「海外で戦う軍隊」に変貌する。安倍首相・外務官僚らにとっては、「わが軍」のかげりなき国際的な活躍というなが年の悲願を達したことになるのであろうが。
四 PKO法案改定に反対する
 武器使用の拡大は、海外で自衛隊員が、かつてなく住民を殺傷する機会をたかめ、自ら戦死者(単なる犠牲者ではない)をだすリスクを高める。交戦それ自体が戦闘の拡大と自己波及をうむ。このような武装されたPKO活動を誰がのぞむというのか。しかも自衛隊の抗争の具体的な状況・推移は当の自衛隊員のほかに、分からないことが多い。実際には国民的なチェックとコントロールは難しい。NGOの活動にも深い障害をまねくだろう。彼らがながねんの非暴力/平和の努力等によって築き上げてきた現地住民等の信頼が壊滅することになりかねない。国際的な貢献と信任をかえって阻害することにならないか。憲法九条の否認のうえにPKO法改定作業をおしすすめることは、PKOの自壊をもたらすであろう。現下の国際関係において抗争と戦争に至る紛争を逆に煽る結果にならないか。PKO法の今回の改定は国際平和を構築することには決して繋がるものではない。


治安掃蕩作戦の生み出すもの −三光作戦にてらして

東京支部  松 井 繁 明

一 国際平和協力法(PKO法)の改悪
 戦争法制のひとつに国際平和協力法(PKO法)の改悪がある。
 そのなかでは「安全確保活動」(保安のための監視、駐留、巡回、検問、警護)が自衛隊の任務とされ、任務遂行目的(業務を妨害する行為を排除するため)の武器使用が認められることになる(詳細は意見書「戦争法制を批判する−いつでもどこでも切れ目なく戦争へ」一七ページ以下)。
 安全確保活動という用語は一般に治安維持活動と同義である。現行の自衛隊法でも自衛隊の任務のひとつとされている(自衛隊法三条一項、「公共の秩序の維持」)。とはいえこの規定は日本国内を対象とするもの。自衛隊の武器使用を必要とするほどの武力紛争がほとんど予測されない日本の現状では、死文化している。
 しかし治安維持活動=安全確保活動が他国の領土でおこなわれることになれば、恐るべき事態が現出しかねない。そのことを日中戦争のおける「三光作戦」との対比で考察したい。
二 「三光作戦」とは  
 二〇〇一年九月私は、小野寺利孝、田中隆ら弁護士五名、井上久士、石田勇治ら研究者・院生四名とともに、中国河北省定県の北タン(ほくたん)村(発音が同じなので「北坦村」と表記されることもある)を調査した。このときの調査・研究はのちに石田勇治ら編「中国河北省における三光作戦―虐殺の村・北タン村」(大月書店.二〇〇三)にまとめられた。
 「三光作戦」とは、日中戦争における日本軍の粛正掃蕩作戦のことである。中国側はこれを「焼き尽す」「奪い尽す」「殺し尽す」の「三光(中国語の「光」は「し尽す」という意味)作戦」と呼んで厳しく批判したのである。日中戦争での日本軍の残虐さを示すものとして南京大虐殺が著名である。しかし南京大虐殺にはやや偶発的要素が付きまとうのにたいし、三光作戦は、その規模の大きさ、計画性、実行期間、犠牲者数などにおいて、中国民衆に最大の被害をあたえたものである。
 日本軍はなぜ、これほど凶暴・冷酷な粛正掃蕩作戦をおこなったのであろうか。
 一九三七年に日中戦争を開始した日本軍は、三八年には華中・華南では激烈な戦争を継続していたものの、華北では、点と戦の範囲とはいえ占領を終え、治安維持作戦に入っていた。主に敵対していたのは国民政府軍(蒋介石軍)であったが、四〇年八月八路軍(中国共産党軍)が百団(団は連隊)大戦をおこなって日本側に多大な損害をあたえた。
 これによって日本軍も八路軍を主敵のひとつとして認識するようになった。八路軍の主力を捕捉殲滅する作戦はことごとく失敗。八路軍と農民とを分離する作戦が考えられた。しかし八路軍と民衆の結びつきは強固で、容易に分離できるものではなかった。そこで、抗日拠点の村そのものを消滅させる、生き残った住民を別の地域に移住させ、堡塁で囲って監視するという粛正掃蕩作戦が実行されたのである。抗日村を消滅させることが作戦の目的となり、村と村民自体が敵となった。
 一九四一年日本が米英蘭との戦争(太平洋戦争)を開始すると、中国の物資を奪って日本本土へ移送することも作戦目的に付け加わった。
―これが三光作戦の正体である。
三 北タン村の惨劇
 一九四二年五月二七日早朝、日本軍一箇大隊(約五〇〇名)が北タン村を急襲した。人口一〇〇〇人ほどの村には八路軍(正規軍)と民兵など一〇〇〜二〇〇人ほどの武装兵が存在し、午前七時ごろから一一時ごろまで村を包囲した日本軍との間に銃撃戦がおこなわれた。日本軍の襲撃とともに住民はすぐに地下道に避難したが、遅くとも正午ごろまでに日本軍が村に進入すると、武装兵らも地下道に入った。
 北タン村には長大な地下道があった。一九四一年冬から四二年春までに建設されたものである。地下道は村中にはりめぐらされ、隣接する村ともつながっていた。幅は約一メートル、高さは人の背丈ぐらいで、灯火はないので真っ暗だったが、必要な箇所に換気口が設けられていた。近隣の南タン村などにも地下道はあったが、北タン村ほど立派でもなく、規模も小さかったという。
 それ以前にも日本軍の部隊が北タン村を襲撃することがあった。しかしそれらの部隊は、突然住民が“消滅”してしまった村から空しく引返さざるをえなかった。しかしそのことが日本軍に地下道の存在を疑わせたかもしれない。
 五月二七日の北タン村の地下道には村民だけでなく付近の村の住民も入って非常に混雑していた。
 スパイの手引きによって地下道の入口を発見した日本軍は、そこから毒ガスの緑筒(催涙性ガス)を投入した。ガスがもれないよう入口をぬらしたフトンでふさぎ、トウモロコシの葉などを燃やして毒ガスを地下道の奥まで送込んだ。地下道内で多数の死者が出た。
 苦しくなって地下道外へ逃出した人々を日本軍は射殺し、刺殺・斬殺した。死体は井戸に投げ込んだ。「妊娠中の女性を刺殺し、おなかをあけて赤ん坊を取り出した」、「三、四歳の女の子を火に投げ込んで殺した」などの証言もある。「同じ人間にたいしてどうしてこんな残虐なことができるのか」という問いかけは痛烈である。
 北タン村での中国側の死者は八〇〇人以上。日本側の死者は三人にすぎなかった。まさに大虐殺としか言いようがない。
 この日以降の北タン村は、出入口を一つにして堀や塀で封鎖され、砲台が設けられ、日本軍の食糧を要求された。―三光作戦の典型となった。
四 外国領土での安全確保活動の危険性
 北タン村の惨劇に代表される三光作戦=粛正掃蕩作戦は、他国の領土における治安維持作戦の行きつく果を示している。どうしてこんなことになったのか―。
 当時の日本軍将兵には、中国人を同じ人間として見ない差別感と冷酷さがあったのは事実である。しかしそれだけでは説明のできないものがある。三光作戦が実施されるにいたる過程には、八路軍鎮圧という作戦目的のために、段階ごとに必要とされる要素が積み上げられてきたことは、前に述べたとおりである。その結果は、当初の想定をはるかに超えた重大なものとなる。これが外国領土での治安維持作戦が必然的に内包する危険性なのである。
―戦争立法推進勢には、そのこと理解し、それに立向かう覚悟があるのだろうか。
 そのことが今、鋭く問われなければならない。


自衛隊の海外派兵を許さぬ国会決議をまもれ!

大阪支部  橋 本   敦

一 今、平和憲法危うし―安倍総理の重大な国会軽視―
 戦後七〇年の今、わが平和憲法は重大な危機に直面している。
 すでに安倍内閣は昨年七月、集団的自衛権を認める閣議決定を行って、重大な憲法破壊をすすめ、さらに今、いつでも地球上のどこでも、自衛隊を海外に派兵して、アメリカの目下の同盟軍となって戦争する国への道を進めるために一連の戦争法の制定を急いでいる。
 そして、この方針を安倍総理は日米防衛指針(ガイドライン)の改定と今回の訪米時の米議会での演説によって対米約束として強行しようとしている。
 しかし安倍総理のこの暴挙については、朝日新聞も四月二八日、「平和国家の変質を危ぶむ」と題する社説をかかげて、『対米公約を先行させ、国内の論議をないがしろにする政府の姿勢は容認しがたい。(中略)だが、国内の合意もないまま米国に手形を切り、一足飛びに安保政策の転換をはかるのは、あまりにも強引すぎる。』ときびしく指摘している。
 戦争する国へと急ぐ安倍内閣には到底許せないもう一つの重大な国会軽視がある。
二 「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」
 それは、昭和二九年七月一日の自衛隊発足を目前にして、同年六月二日に超党派の圧倒的多数によって参議院本会議において可決されたもので、その決議文は次のとおりである。
 『自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議
 本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。右決議する。』
 これはまさに憲法九条をもつ国権の最高機関たる国会にふさわしい重要な決議である。
 この決議案の提案理由を、提案者を代表して鶴見祐輔議員は次のように演説した。
 「自衛隊出発の初めに当り、その内容と使途を慎重に検討して、我々が過去において犯したるごとき過ちを繰り返さないようにすることは国民に対し、我々の担う厳粛なる義務であると思うのであります。
 その第一は、自衛隊は飽くまでも厳重なる憲法の枠の中に置くことであります。
 その第二は、すべての法律と制度は、その基礎をなす国民思想と国民感情によって支えられて初めて有効であります。そして今日の日本国民感情の特色は、熾烈なる平和愛好精神であります。
 ― 中 略 ―
 故に今日創設せられんとする自衛隊は、飽くまでも日本の国内秩序を守るためのものであって、日本の平和を守ることによって東洋の平和維持に貢献し、決して国際戦争に使用さるべき性質のものではありません。― 中 略 ―
 条約並びに憲法の明文が拡張解釈されることは、誠に危険なことであります。故にその危険を一掃する上からいっても、海外に出動せずということを、国民の総意として表明しておくことは、日本国民を守り、日本の民主主義を守るゆえんであると思うのであります。
 何とぞ満場の御賛同によって、本決議案の可決せられんことを願う次第であります。」
 次に、賛成討論に立った羽生三七議員(日本社会党)は次のように演説した。
 「自衛隊の海外出動を認めないという一点で各派の意思が、最大公約数でまとまったことは、参議院の良識として、誠に欣快に存する次第であります。
 自衛隊の創設は、直接侵略に対応するものとして企図されたものであり、どのように呼ばれましょうとも、国際紛争に介入するような自衛隊の出動は、断じてこれを避けなければなりません。
 ― 中 略 ―
 広島、長崎において世界で初めて原爆の洗礼を受け、更に又世界で初めて水爆実験の被災を経験した我が日本民族は、それ故にこそ、強く世界に、日本国憲法の精神を以て訴えるべき最善の立場に置かれております。この立場に立って自衛隊の海外不出動を示した本決議案の精神には、自由党も社会党もなかろうと思います、これは我が八千万日本民族の悲願であり、そして更には又、世界全人類の希望と言うべきものと思います。以上を以て本決議案賛成の討論といたします。」
 討論を終わり、採決の結果、本決議案は圧倒的な賛成多数により可決された。
 そして、この決議に対して、吉田総理出席の下、政府を代表して、本村篤太郎保安庁長官は、次のとおり、この決議を尊重する政府の方針を明らかにした。
 「只今の本院の決議に対しまして、一言、政府の所信を申し上げます。
 申すまでもなく自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接並びに間接の侵略に対して我が国を防衛することを任務とするものでありまして、海外派遣というような目的は持っていないのであります。従いまして、只今の決議の趣旨は、十分これを尊重する所存であります。」(昭和二九年六月二日、参議院会議録五七号)
三 安倍内閣の重大な政治責任
 こうして、我が国憲政史上、特筆されるべき重要な国会決議がなされているのである。
 言うまでもなく、国会は、国民を代表する国権の最高機関である(憲法第四一条)。その国会が憲法九条をまもり、これにもとづいて前記のとおり、明確に自衛隊の海外派兵はしてならぬと決議していること、そして、政府の代表者も、この決議に従って自衛隊の海外派兵はしないと、国会すなわち全国民に対して誓約したこの歴史的事実を、安倍総理と政府閣僚は今、なんと考えているのかと厳しく追及しなければならない。
 憲法第四一条で国権の最高機関とされている国会の決議は、憲法遵守の義務を負う政府・閣僚がこれを尊重する責務があることは言うまでもない。平成一三年六月六日、当時参議院議員であった私も出席していた参議院憲法調査会において、内閣法制局第一部長阪田雅裕は、「国会決議は大変重いものであるが、その法的な意義はどう認識しているか」と問われて次のとおり答弁している。
 「国会決議がなされた場合に、政府としては議院の意思として示された決議の趣旨、これを十分に尊重して行政を遂行する責務を有するということは当然であろうかと思います。」
 また「新・国会事典」(第三版)でも『内閣は行政権の行使について国会に連帯して責任を負っていることから(憲法六六条三項)、各院の決議は、内閣に対して政治的・道義的拘束力を有している。』と書いてある(一四八頁)。
 このように、政府には国会決議を誠実に尊重して行政を遂行する責任があることは明白である。
 にもかかわらず、国会決議を誠実に尊重する責任を負う安倍総理と安倍内閣は、この重要な決議を一顧だにせず踏み破ってよいのか。その政治責任は極めて重大であり、大きな国民的批判がよせられて当然である。
四 おわりに
 今戦後七〇年を迎えて森英樹教授が「戦争への道があろうことか戦後七〇年の今年の政治的焦点になる深刻なめぐり合わせです。…ここで私たちは憲法の初心に立ち、戦争と武力行使・武力による威嚇と軍事力の保持を根底から否定する構えに立つことが必要だと思うのです。その初心こそが政府の動きに『限定』をもたらしてきた根源だからです。」(安倍自公政権の「九条壊憲閣議決定に立ち向かう」前衛二〇一四・九)と述べられていることに熱い共感が湧く。
 河上肇が五年に及ぶ獄中の苦難に耐えてようやく迎えた終戦の日によんだ歌「あなうれし とにもかくにも 生きのびて いくさのやめる けふの日にあう」が、今私の心にときめく。その「いくさやめける」日本を戦後七〇年の今、再びいくさする国にする安倍政権の暴挙に怒りがたぎる。「憲法の初心にたって」、なんとしても平和憲法をまもりぬこうと誓う。


戦争立法の背景・アーミテージ報告について

京都支部  岩 佐 英 夫

一 はじめに
(1)安倍首相が、国会に上程し、国民に説明をする前に、先ず“アメリカ詣”を行い、「夏までに戦争立法を成立させる」旨約束したことが、国会・国民主権の軽視として大きな怒りを呼んでいる。こうした卑屈なアメリカ従属、戦争立法をめぐる安倍政権の動きの背景を理解する重要な資料のひとつとして、アメリカの“知日家”グループが三次にわたって発表したアーミテージ報告がある。
(2)「アーミテージ報告」は、米国の「戦略国際研究所」(CSIS:Center for Strategic & International Studies)が発表した報告であるが、著者の一人であるリチャード・L・アーミテージ(ブッシュ第一次政権の副国務長官)が著名であることから「アーミテージ報告」と呼ばれる。アーミテージは、"boots on the ground!"と、イラクに自衛隊地上部隊の派遣を日本に要求した人物である。
(3) 同報告は共和党・民主党両党にまたがる「超党派」の政策研究集団の報告書であり、いわば米国支配層の意向を表明しているとみるべきであろう。CSISは一九六二年に設立され、現在約二二〇名の常勤スタッフを擁し、地球規模で現在の情勢、将来の見通し・変化を調査分析し、政策的イニシャティヴを発揮することをめざし、その対象は軍事安全保障のみならず、地域の安定、エネルギー・気候問題ないし地球規模の開発・経済統合にまたがる国際的挑戦と自負している。
(4) アーミテージ第三次報告は冒頭部分で「よりよい世界への海図」を描くなどと自己を美化しているが、そのすぐ後で、「CSISは発足以来、『世界の幸福を実現する力』(as a force for good in the world)であるアメリカの『突出した地位』(prominence)と繁栄を維持する方法を見出すことに献身してきた」と露骨に本音を述べている。三次にわたるアーミテージ報告は、いずれも米日同盟をテーマにしているが、それは米国の覇権と繁栄の維持のためであり、「日本のため」でないことは明白である。forceは「支配」と訳すこともできるし、prominenceは「覇権」と訳しても決しておかしくない。
(5) 同報告、とりわけ第三次報告の「日本に対する勧告」を検討すると、日本で現在進行中の事態が、あまりにも露骨に予告(日本への命令)がなされていることに愕然とし、情けなくなってくる。
(6) 二〇〇〇年一〇月に発表されたアーミテージ第一次報告は、日本に対して「日本が集団的自衛権を禁止していることは、同盟国間の協力にとって制約となっている。」と指摘したことで有名である。しかし同報告はそれにとどまらず、さらに、「米英同盟を米日のモデルと考えている」と指摘している。英国は、世界中から非難されたイラク空爆に、米国に従って率先して当初から参加した国である。これを“モデルにせよ”というのは、「米日同盟の対等化(自衛隊も対等に血を流せ)」を求める現在の米国の要求の原点が明確に提示されている。
(7) アーミテージ第三次報告は、日米安保条約の「極東」、あるいは「周辺事態」の範囲を超えて地球規模の日米同盟を確立するとの要求を、当然の前提としている。同報告の“Introduction”は次のように述べている。 
"Our assessment of, and recommendations for, the alliance depend on Japan being a full partner on the world stage where she has much to contribute."
 「我々(CSIS)の日米同盟に対する評価は、世界的舞台で多大な貢献をするべき日本がアメリカと完全なパートナーとなるか否かにかかっており、また、そうなることを同盟に対して勧告する。」
二 アーミテージ第三次報告の「日本に対する勧告」(以下、「勧告」)の具体的内容
(1) 「勧告」でも米国との「共同防衛」を地球規模に拡大することを求めている。
 「日本は、その役割・任務を新たに見直し、地域的偶発紛争における日本防衛及び米国との共同防衛を責任範囲に含めるよう拡大すべきである。(米国関連の)同盟諸国は(日本に対して)、日本領土の範囲をはるかに超えて、より積極的、相互分担、相互運用可能なISR(情報、監視、偵察)の能力及び運用を要求している。(勧告六項)
・上記の「地域的」が「極東」や「周辺事態」の範囲に限定されないことは「勧告」二項で、「日本は、イランの核計画のような地域平和の脅威にも立ち向かうべき」という文言が登場することからも明らかである。
(2) “切れ目のない(シームレス)”の本当の怖い意味
 四月二七日の新ガイドラインには、しばしば“切れ目のない”という用語が登場するが、勧告の六項には、「平時・緊張時・危機的状況時そして戦時のすべての局面を通じて、安全保障について米軍・自衛隊の全面的協力を可能にすることは、日本側の責任である。」という文言が出てくる。新ガイドライン第四章でさえ、せいぜい「平時から緊急事態までの」というレベルに表現を抑えているが、「勧告」では、ずばり「戦時」(まさに戦闘状態)の時も含めて自衛隊は全面的協力、即ち血を流す協力を要求しているのである。これこそ、安倍首相の持論である対等な軍事同盟=“血の同盟”(扶桑社「この国を守る決意」六三頁)を想起させる。
(3) 「停戦合意」のはるか以前の段階で機雷掃海艇派遣を要求!
・「イランがホルムズ海峡を閉鎖する意図を示唆する最初の兆候が見られた場合は、日本は同地域へ掃海艇を単独派遣すべきである」(勧告七項)
・国会論戦では、停戦合意成立前の機雷掃海は戦闘行為になるとして問題になったが、「勧告」は、停戦成立のはるか以前の段階から掃海艇派遣を日本に要求しているのである。
(4) PKOでの「駆け付け警護」も要求
・「より全面的にPKOに参加することを可能にするために、日本は、必要あれば武力行使も含めて文民及び他国のPKO要員を防護できるよう、PKO要員の権限を拡大すべきである。」(勧告九項)
(5) 南シナ海での共同監視参加を要求
 勧告第七項は、日本に対して、米国と協力しての南シナ海での監視増強を要求している。
(6) 勧告第八項は、秘密保護法体制の強化も要求している。これに従って、アーミテージ第三次報告の翌二〇一三年一二月六日に「特定秘密保護法」が強行可決された。
(7) 歴史認識問題
 なお、勧告第四項は、「米日同盟がその潜在的可能性を全面的に実現するために、日本は、韓国との関係を複雑にし続けている歴史問題に正面から立ち向かうべきである。日本政府は、長期的・戦略的な展望をふまえた相互関係を検討すべきであり、不必要な政治的声明を出すことは避けるべきである。三極防衛協力を高めるために日韓両国政府は、懸案の「軍事情報総合安全協定」(General Security of Military Information Agreement:GSOMIA)及び「物品役務相互提供協定」(Acquisition and Cross-Serving Agreement:ACSA)の防衛協定の結論を出すべく努力し、三極軍事関与を継続すべきである。」と述べている。
 勧告が、韓国との関係で日本の歴史認識を問題にしているのは、「米・日・韓」の三極軍事同盟関係強化に支障があるからという立場からであり、早く日韓の間でGSOMIA及びACSAを締結することを要求している。
(8) 日本に対する経済的要求も安保条約二条にあるように、米国の対日要求の根幹である。
i 驚くべきことに、福島事故の収束もしていないのに、日本が原発再稼働で世界でのリーダーシップをとることを、勧告冒頭第一項で要求している。
ii TPPは勿論、それよりも更に包括的・強力な「経済・エネルギー・安全保障に関する包括協定(CEESA)」を要求している。(勧告三項)    
 なお、アーミテージ第三次報告本文二、八項は、東北大震災・福島原発事故の際の、自衛隊・米軍の支援「トモダチ作戦」について、事実上、集団的自衛権行使の演習の実践であったと告白している点に留意する必要がある。


「ホルムズ海峡機雷封鎖」は現実的か

大阪支部  石 川 元 也

一 イランへ行ってきた
 このゴールデンウイークに、「ペルシャ歴史紀行」という旅で、イランへ行ってきた。観光とは別に、二三〇〇キロにも及ぶバス移動の車内で、現地ガイドさん(日本滞在歴三年)に、現代イランをめぐる問題など質問ぜめにした。
二 ホルムズ海峡機雷封鎖が存立危機事態といえるか
 安倍政権の戦争法案には、停戦前の機雷の徐去・掃海のために自衛隊の派遣が予定されている。イランによるホルムズ海峡への機雷の敷設が想定されている。
 政府は、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」という要件に、「ホルムズ海峡に機雷が敷設され、日本への石油供給が滞るような場合」が当てはまると答弁している。団の意見書も、そんなことはあてはまらないとしている。元法制局長官宮崎礼一氏もこの要件がほとんど『歯止め』になっていないことは明白だとしている(五、一九朝日)。
三 ホルムズ海峡機雷封鎖は現実的に起こりうるか
 そうした法案の分析だけでなく、イランを含む中東地域の現状分析で、「ホルムズ海峡機雷封鎖」などあり得ない、非現実的な口実設定だといえないだろうか。
 歴代米大統領による、「悪の枢軸」、「テロ支援国家指定」などでイランは危険国家ないしは危険地域だという認識が、日本中に蔓延しているようだ(現に、私がイランへ行ってきたというと、多くの団員から、「危なくなかったか」、「大丈夫だったか」と、先ず第一に聞かれたのである)。そんな雰囲気が、いかにも、イランによる機雷封鎖がありそうだと思わせていないか。
 イランでの見聞や、帰国後の僅かな勉強でも、そんなことはあり得ないと思っている。(一〇日ぐらいで何がわかるか、といわれるのを覚悟してあえていって見る。末尾の記載のように検証もしてもらいたい)
 先ずイラン革命以後今日までの三六年間、アメリカのイラン敵視策による執拗な攻撃・制裁のひどさがある。一九七九年のホメイニ師指導のイラン革命は、国王の独裁、浪費による財政破綻、親アメリカ、親イスラエル路線への批判、イスラムへの回帰にあった。この革命の広がりをおそれたアメリカはイランを敵視、駐イラン大使館内に大量の武器類を持ち込んでいたことが大使館人質事件で発覚した。翌年には、イラクを使嗾して、イラン・イラク戦争を起こさせた。イラクの奇襲攻撃で始まったこの戦争にアメリカは最大限の武器援助・経済援助をした。八年に及ぶこの戦争に、イランは寸土ともイラクへ攻め入ることなく、ひたすら防衛に終始した。三五万人の若者が亡くなった。いまも、街中にこの若者たちの写真が掲げられ、その犠牲を悼んでいる。その後は、アメリカは、イラク戦争を起こしたが、その大義名分がなかったことは周知のところだ。そして今度は、イランはテロ支援国家だとして経済制裁を強める。しかし、いまのISなど、イランは「あれはムスリムでも何でもない、関係ない」という。言うて見れば、「自主独立」「専守防衛」、そしてペルシャ帝国以来の誇り高い国民である。
 厳しい経済制裁のなかでも、イランは、よく耐え抜いているようだ。物資も周辺国よりはずっと豊かなようだ。ペルシャの遺蹟・世界遺産の保存、芸術・文化の振興にちからも入れ、ヨーロッパからの観光客があふれている。日本人は少ないが。もちろん、イラン人の人波も凄いものだった。
四 イランの平和主義、信用してやってもいいのでないか
 イランの国教は、イスラム教シーア派とされている。しかし、ゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教も少数宗教として憲法上認められているし、イスラムは自ら他を排他・攻撃するものではない。もちろん、やられればやり返す。
 経済の中軸、石油の問題では、国内の精油施設の建設は、フランスや出光興産も、アメリカの圧力で引っ込み、結局、中国の援助による施設が来年完成する予定。原油はあるのにガソリンは輸入という事態は解消されるという。大事な石油の輸送路であるペルシャ湾の海峡封鎖をイランがするはずがない。また、イラン以外の国あるいは海賊などが機雷を敷設しうる可能性は先ずないといえよう。かって、自衛隊の掃海艇が出動したのは、一九九一年の湾岸戦争時、イラクが敷設した一一五七個の機雷について、米英などが九〇〇個あまりを除去したあと、イランの立ち会いの下、数十個の機雷の徐去をしたことがある。いずれにせよ、日本への石油の輸送が途絶したような事実は全くない。
 最近では、アメリカも態度を少しは変えたのか、イラン核問題の協議も進展しているようだ。イランは、もともと核兵器など持っていないから査察もOKだという。ホルムズ海峡機雷封鎖の非現実性は明白だ。
 団の対策本部でも、中東問題・軍事問題専門家などと意見を交わしたり、イラン大使館に突撃取材してみたらいかがだろうか、法律家団体としての節度を保ちながら、こういう角度からの批判も期待したいところである。 


袴田事件からの警告 〜えん罪を生み出す捜査方法に法的根拠を与えるな

事務局次長  佐 野 雅 則

一 そもそもの目的はどこに行った
 今国会での審議が始まった「刑事訴訟等改正法案」は、そもそもの出発がえん罪を防止するための検察の在り方の検討だったはずである。なぜえん罪は生じるのか、えん罪を防止するためには何が必要なのか、このようなことが議論されるはずだった。ところが、議論の中心になるはずだった取調べの全面可視化は大きく後退し、その一方で、盗聴の拡大など警察権力に強大な捜査手法を認める方向にシフトしていった。
二 虚偽自白を排斥できない不十分な取り調べの可視化
 まだ法制審で議論されていたころの平成二六年三月二七日、静岡地方裁判所で袴田事件の再審開始決定が出された。袴田事件では、証拠のねつ造問題がクローズアップされるが、虚偽自白の強要も大きな問題の一つである。確かに、袴田事件のような事件は、現在であれば裁判員裁判対象事件なので、改正案でも全過程の録音録画が実施されることになる。しかし、このような重大犯罪でなくとも虚偽自白によるえん罪事件が多数発生していることは枚挙にいとまがない。袴田事件の虚偽自白の問題は、なにも重大犯罪に限った危険性を訴えるものではない。自白に頼る捜査手法そのものの危険性を訴えるものである。法制審での審議の最中に袴田事件の再審開始決定が出され、その危険性が明らかにされたにもかかわらず、この問題の根本的議論がなされることもなく、取調べの可視化は一部にとどまり、他方で盗聴法の拡大やえん罪の温床になりかねない司法取引の導入までもが盛り込まれた。
三 濫用される盗聴の危険
 袴田事件は現在、東京高等裁判所で即時抗告審が争われているが、その中で警察による弁護人接見の盗聴の事実が発覚した。憲法上の権利である秘密接見交通権を侵害する重大問題である。この問題が発覚した後、自由法曹団はすぐさま抗議声明を出した(二〇一五年四月一五日)。また、静岡県弁護士会も抗議声明を出した(同月二四日。
 法的な根拠がなくとも(憲法違反であるから当然であるが)、警察は重大な違法行為を平然と行い、それは秘密裏に行われ国民に知られることない。このような人権無視・隠ぺい体質の警察権力に対し、「明確な法的根拠」を与えれば、それが暴走することは容易に考えられる。
四 開かれつつある証拠開示が閉ざされる危険
 袴田事件をはじめ、近時の再審事件の決め手となったのは、「証拠開示」であることは疑いない。これまで隠されていた数多くの「無罪の証拠」が明らかにされた。これは従来からある証拠開示制度の運用に基づくことによるが、そもそも、捜査機関がどのような証拠を所持しているのかその全貌を明らかにする手段はない。検察が「存在しない」と言えばそれ以上踏み込むことは難しい。改正案は、証拠のリストの交付を義務付けるが、それは公判前整理手続に付された事件が対象でありその範囲は狭い。また、再審事件は対象外である。さらに、交付しなくてもよい例外規定もあり、「逃げ道」はきちんと用意されている。これまで運用の努力によって積み上げてきたものが、「明確な法的根拠」をもって例外規定が設けられれば、一気に瓦解することは容易に予想される。
五 絶対阻止
 刑事訴訟法の第一条には、「個人の基本的人権の保障を全うしつつ」と書かれている。すなわち人権保障を大前提にしているはずである。しかし、現在行われている改正案は、人権保障を後退させて「真実発見」を優先する。その「真実発見」の方法が、過去多くのえん罪事件を生み出し、その中には死刑の恐怖に約半世紀にわたり曝し続けたえん罪事件も存在するという現実をまったく反省してない。
 袴田事件は、刑事司法の膿を吐き出させた。このまま手当をしなければ再び化膿する。えん罪の根絶は、「刑事訴訟法等改正法案」では実現できないどころか、さらなるえん罪を生み出す。絶対に阻止すべきである。


労組法上の「使用者」 ―二重業務委託での就労先に認める!

埼玉支部  大 塩   慧

 本年四月一九日、埼玉県労働委員会で、労組法上の「使用者」性に関して、画期的な救済命令が出ましたので報告いたします。
 本件は、塾・学校の講師を派遣する会社Zに登録していた社会科講師Aさんが、埼玉県の私立高校Yに派遣され、Y高校の指揮命令の下、二年間勤務したのち、三年目の更新を拒絶された。そこでAさんは組合に加入し、Y高校に対し、直接雇用等を求める団交を申し入れたが、Y高校は労組法上の「使用者」に当たらないとして団交を拒否した。そこで不当労働行為の救済を求めた事案である。
 右で派遣に傍点を付したのは、派遣法上の適法な派遣とは全く異なるからである。AさんとZ社の業務委託契約、さらに、Z社とY高校の業務委託契約、この二重の業務委託契約によって、AさんはY高校で二年間にわたり教育指導にあたった。本件は労働者派遣でもなければ、いわゆる偽装請負(派遣元と労働者との間には曲がりなりにも雇用契約がある。)ですらない。どこにも雇用契約がなく、Aさんの雇用責任を負う者がどこにもいないのである。
 二〇一〇年三月、AさんはZ社員と一緒に、履歴書と小論文を持参してY高校校長の面接を受け、校長の合格を告げられたのち、同年四月からY高校で勤務を開始することになった。そして、Y高校で決められた時間割のコマに授業を行うだけでなく、Y高校の指揮命令のもと、定期試験問題作成、採点、追試対応、成績評価、職員会議、補習などにも対応した上、教育実習生の指導までも担わされた。
 他方で、Z社は毎月Aさんに業務報告をさせていたが、それは担当した授業時間を書かせるだけの形式的なもので、Aさんの労務提供の実態は全く把握していなかった。そして、毎月決まった「委託料金」の支払いだけを行っていた。
 Aさんは当初から契約に問題を感じZ社に訴えていたが、Z社は明確にAさんとの雇用関係、Y高校への労働者派遣を否定していた。当然ながら派遣法上求められる規制のほとんどに違反していた。一年目の契約が終了し二年目の更新を控え、AさんはY高校校長に契約の問題点を指摘して、直接雇用を求め、一度は非常勤としての直接雇用契約書を交わした。しかし、次年度から校長に就任予定であった当時の副校長やZ社の妨害を受け、AさんはY高校で勤務を継続するため、止む無くZ社と契約し、二年目の勤務を開始した。そして、三年目の更新に際し、Z社から一度は更新決定の連絡があったが、その後更新を拒絶された。
 このような事実関係の下、私たちは、本件は労働者派遣の枠組みから完全に逸脱した違法な労働者供給(職業安定法四四条)であると主張した。そして、雇用契約がどこにもない中で、労組法上の「使用者」性は、本件の実態に照らし、「労働者の基本的な労働条件(採用・配置・終了)について、部分的であっても現実的かつ具体的に関与決定することができる地位にある者」か否かによって判断すべきであり、Y高校は労組法上の使用者に当たると主張した。
 他方、Y高校は、本件は違法な派遣に過ぎず、Y高校は使用者たりえないと主張したが、県労委は概ね私たちの主張を認めた。すなわち、Aさん・Y高校・Z社の関係については、「AさんとZ社との間に雇用関係が成立しているとは認められない」一方で、「Y高校はAさんの就労の管理を行い」、「雇用契約なしにAさんに指揮命令を行い就労させ、利益を享受」していることから職安法が禁止する労働者供給であったことを認めた。そして、Y高校は採用、配置、雇用の継続、終了について具体的かつ現実的に決定できる地位にあったと言える、としてY高校の使用者性を認めた。
 本件はY高校に再審査申立されて中労委に移り、また地裁での地位確認請求訴訟も係属している。冒頭で、「画期的な」命令と書いたが、本件事案からは至極当然の命令である。今後も私たちの主張の正当性を訴え続けるとともに、苦戦を強いられている間接雇用の問題について、風穴を開けていきたいと思う。


労働者派遣法「改正」案の廃案を求める院内集会の報告と塩崎厚労大臣の辞任申入れについて

事務局次長  田 井   勝

 二〇一五年五月二五日(月)、自由法曹団は、「労働者派遣法『改正』案の撤回と塩崎恭久厚生労働大臣の即時辞任を求める意見書」を発表し、同日に記者会見と院内集会を開催しました。
 意見書は実質一週間で完成させました。いわゆる「一〇・一」問題文書について、厚労省がこのような文書を作成し、派遣法四〇条の六の適用を逃れようとしていることの問題性を示し、併せて塩崎大臣の辞任を求める内容となっています(原文は自由法曹団HPにアップしますので参照ください)
 この意見書について、当日の午前中、厚労省で記者会見を行いました。荒井新二団長と鷲見賢一郎対策本部長が担当し、一四名もの記者が参加しました。この問題に関する社会的関心の高さがあらわれています。
 その後、午後一時から、衆議院第一議員会館において院内集会を開催しました。
 この院内集会については急きょ二週間前に開催を決定したので、どの程度の方が参加して頂けるのか不安でしたが、五〇名強の方にお越しいただきました。国会議員も日本共産党の堀内照文衆議院議員、社民党の福島瑞穂参議院議員にお越しいただき、その他、民主党の秘書の方にも来ていただきました。また、全労連、JMIU,映演労連、全建労連、生協労連の方々等、民主団体や解雇争議でたたかう仲間も大勢集まりました。その他、神奈川、埼玉等の団員も多く参加しました。
 集会では、多くの方が、この派遣法改悪により、多くの労働者が派遣のまま、低賃金で不安定雇用の状態を続けることを余儀なくされることや、前述の「一〇・一」問題文書の不当性を発言されていました。この内、国会議員の先生からは、この文書の表題に「経済界等の懸念」などといった記載があって、さらに、文書の中で派遣事業者や派遣先の経営上の支障のみが厚く取り上げられることの指摘があり、「派遣労働者のために派遣法を改正する、という政府の主張が詭弁であることは明らかである」との発言があったのが強く印象に残りました。
 院内集会の後は、国会議員要請として、特に与党議員の下に要請に伺いました。塩崎大臣の辞任を求める申し入れとなっており、要請する側も幾分緊張感を持って要請に伺いましたが、どの議員事務所でも(多くが秘書対応でしたが)、一定の時間、話をして訴えることが出来ました。また今回は、安倍首相や塩崎大臣の部屋にも伺いました。秘書対応でしたが、この法案の問題点等を訴えることが出来ました。
 派遣法「改正」案について、政府は五月中に衆院で強行採決し、六月にも法案を成立させようとしています。この団通信が発行される頃にどうなっているかはわかりませんが、何としてもこの動きをストップさせなければなりません。
 各支部の団員が、それぞれの地域の選出議員の下に要請したり、あるいはFAXで要請したり、街頭宣伝をしたり等々。私たちがやれることは無数にあります。
 弁護士会や日弁連、労働弁護団等々の活動なども含め、あらゆる場所で奮闘し、絶対にこの派遣法「改正」案を廃案に追い込まなければなりません。全団員で頑張っていきましょう。


「共同親権」と「単独親権」の狭間で −「共同監護」を創造する

東京支部  後 藤 富 士 子

一 民法七六六条類推適用の限界
 民法は、婚姻中は父母の共同親権とし、離婚後は単独親権(監護)とするが、婚姻が破綻している場合や、破綻していないまでも別居しているような場合について、何らの規定も置いていない。そのために、当然のことながら、家事審判の手続法には司法が介入する根拠規定がない。しかるに、父母間での子の監護をめぐる紛争は、その状態自体が「子の福祉」を損なうと考えられることから、離婚後の子の監護に関する事項について定めた民法七六六条を類推適用し、家事審判法九条一項乙類四号により「家庭裁判所は相当な処分を命じることができる」とする平成一二年最高裁決定により、その後の実務が運用されてきた。「監護者指定」や「面会交流」も、ここでいう「相当な処分」である。
 問題は、「子の引渡し」である。父母の離婚後であれば、「監護親」と「非監護親」との間の問題であるから、「監護者指定」の審判を要しない。そして、前記のように、婚姻中の父母間の「子の引渡し」も離婚後の単独監護を類推するなら、端的に「子の引渡し」についてのみ判断すればよいはずであり、「監護者指定」を宣言する必要はないことになる。しかるに、離婚前の父母間における「子の引渡し」について、「監護者指定」を媒介しないでされたものはないようである。それは、やはり「離婚後の単独親権」と「離婚前の共同親権」との実定法上の差異を無視できないからであろう。
 しかるに、裁判官は、この実定法上の差異を無視して、「子の引渡し」を導き出すための法的根拠として「監護者指定」の審判をする。すなわち、「単独監護者指定」により、共同親権者から親権を剥奪するのである。しかも、それが「子の福祉」を口実にされるのだから、言語道断である。ちなみに、「子の福祉」の観点から、親権・監護権に何らかの制限を加える必要があるのであれば、親権喪失や親権停止によるべきである(民法八三四条、八三四条の二)。
 また、「面会交流」の審判でも、同様である。裁判官が立論の最初にもってくるのは、「非監護親と子の面会交流は、子の福祉に反すると認められる特段の事情のない限り、子の福祉の観点からこれを実施することが望ましい。」という「命題」である。離婚前の共同親権者を「非監護親」と決めつける法的根拠はない。法的根拠を別にしても、この「命題」から明らかなのは、子を監護教育する親の権利(親権)は、裁判官が「子の福祉」を口実にして、いかようにでも制限できるという宣言である。「四か月に一回程度、妻が子らの写真を夫に交付する」という破廉恥な審判もある。四か月に一回程度子どもの写真を見せられて、何が「親子の交流」か。子どもは、父と接触を断たれて、どんな福祉を享受するというのか。このような審判は、子を連れ去られた父親の親権・監護権を剥奪しながら、裁判官が父親に「お恵み」を施しているにすぎない。
二 「単独親権制」廃止を展望した「共同監護」
 現行実務が「単独監護原理主義」だからといって、それに反発する「共同親権教条主義」では、違法で異常な実務を打破できない。いつまで、離婚後の単独監護条項の類推適用で凌ごうというのか? 法律家なら、このような法運用が「単独親権の前倒し」であることが分からないはずがない。その実務運用を平然と肯定している法曹ばかりであり、日本国民は不幸である。
 ところで、離婚前の「監護者指定」審判について、かつては実務でも共同監護の規定を活かす形での解決が模索されてきた。沼田幸雄判事によれば、「監護者指定」の審判が暫定的なものであることをも併せ考慮すれば、条文に反する単独監護を特に固有の効果もないのに審判主文であえて宣言する必要はなく、むしろ共同監護であることを確認した上で、必要に応じて夫婦の双方または一方に対する不作為命令とか作為命令などを組み合わせて主文を掲げることとすれば足りるのではないか、という。それは「共同監護命令」というべき内容であり、カリフォルニア州の「共同監護」モデルを参考にしている。すなわち、単独監護という一方の親の親権を停止するような内容の審判から、子どもとの時間を平等にするような形態の内容のものまで、夫婦の実情に合せて、「共同監護形態の形成処分」をしていくべきではないか、という。「親権停止」を「単独監護者指定」で代替するのは法的には誤りである。しかし、「監護者指定」を「共同監護命令」の内容をもつ「バリエーション豊かな形成処分」とする点で、家事審判の真骨頂を発揮しているといえる。
 「共同監護命令」の内容をもつ「バリエーション豊かな形成処分」となれば、当事者が解決の主導権を握らなければならないし、そこでは「単独監護原理主義」も「共同親権教条主義」も無意味になる。ここで何より大事なことは、離婚前の「共同監護」が離婚後に引継がれていく「現実」である。そして、当事者の「共同監護」の実績が、離婚後の単独親権制廃止を展望させる。すなわち、まず民法改正があって、それによって共同親権が実現するのではない。父母が「共同監護」を実践することによってのみ、単独親権制は廃止されるのである。したがって、家裁を利用する当事者は、「争う」よりも「共生」の解決を目指すべきであろう。

(二〇一五.五.一三)


「だけじゃない憲法」出版のお知らせ

埼玉支部  黒 澤 瑞 希

 遅ればせながら、本の出版のご報告です。
 去る五月三日、われらが種田和敏団員が、「明日の自由を守る若手弁護士の会会員」の肩書きで本を出版しました。タイトルは『だけじゃない憲法』!手短ですが、シャイで自薦できない本人に代わってご紹介いたします。(出版社は猿江商會)
 「だけじゃない」というのは、「憲法というと、九条の話しか思い浮かばない人もいるかもしれないけれど、憲法は九条だけじゃないんだよ」という意味です。
 舞台はごくごく普通のサラリーマン一家。親と子の日々の生活を追いかけつつ、様々なライフステージごとに憲法(九条以外の条文)と生活(人生)の深い関わりを語る、という構成です。例えば、目次をピックアップすると、「最寄駅からは始発電車が出るので座って通勤!×第一四条」「残業後の一杯、そして満員の終電車で家路に着きます×第三一条」。な、なんだ!?どういうつながりなの?と、法律家もワクワクしませんか?
 もはや九条破壊だけでは済まされない「壊憲」の動きに対して、国民に憲法を親しんでもらうためにはとてもいい(実際、面白い)スタイルだと思います。もちろん、九条だけではないといっても九条はめっちゃくちゃ重要な条文ですので、平和は自由を行使する前提だという意味を込めて、九条の大切さもスタートとゴールで語っています。
 自民党が憲法改正についてマンガを製作して大規模配布をしはじめていることはご承知のとおりです。あちらが一見分かりやすいタッチで国民に「改憲は怖くないんだよ」とにじり寄っている今、国民に自由と平和の価値を再認識してもらわなければ、波に飲み込まれかねません。種田団員の本はそのとっかかりとして最適ですので、ぜひ学習会などでの宣伝・販売をよろしくお願い致します!


*戦争法制阻止のとりくみのご案内*

 戦後七〇年の節目の年、国民が選択するのは平和への道です!!
 戦争法制阻止の声を高め、共同を広げ、国会を取り囲みましょう!!
 多数の参加を呼びかけます!!
◇◆ 院内集会 ◆◇
日 時:六月二日(火) 一八時〜
場 所:参議院議員会館一階 一〇一
主 催:法律家六団体(自由法曹団、社文、青法協、日民協国法協、反核法協)

◇◆ マリオン前街頭宣伝 ◆◇
日 時:
六月九日(火)一二時〜
     六月一七日(水)一二時〜
場 所:有楽町マリオン前
主 催:四団体(自由法曹団、JCJ、MIC、マスコミ関連九条の会)


戦争法案廃案の運動にご参加を!!

 六月九日(火)一七時〜「戦争法案ストップ 九の日宣伝」
 場 所 西新橋一丁目交差点 
 主 催 戦争させない・九条壊すな!総がかり行動実行委員会
 
 六月一一日(木)一八時三〇分〜
         「とめよう!戦争法案 国会前行動」

 場 所 国会議事堂周辺(詳細は追ってFAXニュース等で連絡します。)
 主 催 戦争させない・九条壊すな!総がかり行動実行委員会
 
 六月一三日(土)一二時〜(開場一一時〜)
         「STOP安倍政権!六・一三大集会」

 場 所 東京臨海広域防災公園
 主 催 STOP安倍政権!六・一三大集会実行委員会

 六月一四日(日)一四時〜「戦争法案反対国会包囲全国集会」
 場 所 国会議事堂周辺(詳細は追ってFAXニュース等で連絡します。)
 主 催 戦争させない・九条壊すな!総がかり行動実行委員会