<<目次へ 団通信1549号(1月21日)
中川 勝之 | 早稲田大学による非常勤講師攻撃を跳ね返す♪ |
瀬川 宏貴 | マイナンバー違憲訴訟について |
弓仲 忠昭 | 日弁連会長選挙にあたり、 刑訴法等「改悪」一括法案推進の誤った 日弁連方針を転換すべきとの声を上げよう。 |
緒方 蘭 | 給費制運動の現状と今後の課題 |
郷田 真樹 | 自由法曹団福岡支部・女性部の活動がはじまりました(上) |
永尾 廣久 | 事務所ニュース新春号に学ぶ |
後藤 富士子 | 「円満別居」調停のすすめ ―「共同監護」を創造する |
森 卓爾 | *書評* 日本版「司法取引」を問う 白取祐司・今村核・泉澤章・編著 |
黒澤 瑞希 | リーフレット「とりあえず知っておきたい イマドキの改憲のはなし」のご案内 |
中野 直樹 | 山河が泣いているそして人々が流してきた幾多の涙(二) |
東京支部 中 川 勝 之
一 はじめに
二〇一三年三月から始まった早稲田大学と首都圏大学非常勤講師組合(東京公務公共一般労働組合大学・専門学校非常勤講師分会)との間の争議は、二〇一五年一一月一八日の都労委での和解協定書の締結により、組合のほぼ全面的な勝利で解決となった。賃金格差の解消等が今後の課題となる。
二 本件争議の経緯
本件争議は、二〇一二年八月成立の労働契約法(以下「法」)「改正」を契機とする。大学は、同年一一月二日の学術院長会において、法潜脱目的と考えられる方針を定め、次々と実行するに至った(以下「」は同会の「有期労働契約の規制と大学の雇用管理について」と題する書面からの引用)。組合(私も同じ)が主張する法「改正」による雇止め促進の危惧が現実化したのである。
(1) 無期労働契約への転換(法一八条)潜脱
契約更新の上限を五年と設定し、無期転換申込権発生を阻止
「非常勤講師を含めた各資格での契約のあり方と契約年数の上限を規定する必要がある。」「無期雇用の助教は想定していないため、上限を五年とする規程改正を行なうこととし」
(2) 「雇止め法理」の法定化(法一九条)潜脱
契約更新の上限を五年と設定し、雇用の期待権を有する非常勤講師を一掃
「特に助手や非常勤講師については、雇用期間を含め、雇用条件を明確に提示する必要がある。また、非常勤講師に関する就業規則を整備する必要もある。」「雇用の上限が設定されておらず、既に長年に渡り契約を反復している非常勤講師などの有期労働契約者に対して、今回の法改正のみを理由として、契約期間を新たに設定する(または、契約を終了する)ことは、法的紛争になる懸念がある。」
(3) 不合理な労働条件の禁止(法二〇条)潜脱
非常勤講師の担当コマ数の上限を四と設定し、処遇の格差を不問とする
「(1)任期の有無や、常勤・非常勤の差異による役割や職務内容の違いを明確にし、労働条件が異なることが合理的に説明できる状態である必要がある。(2)上記(1)の役割や職務内容の差異によって、格差を説明できない労働条件(手当等)が存在しないか確認する必要がある。」
(1)及び(2)の方針に基づき、大学は、二〇一三年四月に契約更新の上限を五年と設定した非常勤講師就業規則を新設したと主張した。
(3)の方針に基づき、大学は非常勤講師の担当コマ数を専任教員の責任担当コマ数以下の四に制限することを目指し、二〇一四年度は一〇以下にするため、二〇一三年六月一八日付で非常勤講師の一部に対して、その担当コマ数の調整・制限を二〇一四年度に実施する旨通知する等した。また、商学部は二〇一四年度、大学の一〇〇%子会社にチュートリアルイングリッシュ(少人数の英会話授業)を請け負わせ非常勤講師の担当コマ数を減らした。
これらの攻撃に対し、組合は就業規則の過半数代表者選出・意見聴取手続等には労働基準法九〇条違反があり、同就業規則は無効と争い、組合の松村比奈子委員長らが前記違反につき東京地方検察庁に対し刑事告訴・告発を行った。また、団体交渉を旺盛に行うとともに、不誠実団交等について都労委に救済申立を行った。さらに、チュートリアルイングリッシュの問題については、いわゆる偽装請負(労働者派遣法四〇条ないし職業安定法四四条違反)又は学長の統督違反(学校教育法九三条違反)を主張し、組合が東京労働局に調査・是正勧告に関する申立(情報提供)をするとともに、担当コマ数減となる外国人非常勤講師二名が原告となって提訴した(同事件の弁護団が、平井哲史、大竹寿幸、青龍美和子及び私の各団員である)。
三 和解協定の内容と本件争議の意義
和解協定内容のうち、年数上限については、二〇一四年三月三一日以前から勤務の非常勤講師は年数上限なし、同年四月一日以降勤務の非常勤講師は一〇年上限となった。担当コマ数については、従前から一〇コマ以上、九コマの非常勤講師は各一〇コマ、九コマが上限、その他の非常勤講師は八コマが上限となった。上限設定による担当コマ数減の一部に対して解決金が支払われた。
結局、組合は大学による五年の無期転換申込権発生阻止を許さず、基本的には不利益変更を許さなかったのである。なお、一〇年上限の根拠は改正後の大学教員等の任期に関する法律(以下「任期法」)と考えられるが、非常勤講師は任期法の要件を欠くので勤務開始時期にかかわらず、法の原則どおり五年の無期転換申込権が発生する。
組合は、攻撃を許すなの声を大学内で大きく広げ、非常勤講師よりもさらに劣悪な賃金の日本語非常勤インストラクターの組合加入も相次ぎ(同人らにかかる和解条項もあり)、大学での組合員数が一〇数名だったのを約一五〇名に拡大した。何よりも数の力が本件争議解決の原動力となった。そして、本件争議は全国的に大学における五年上限設定の動きを事実上ストップさせる役割を果たした。弁護団は受任事件の遂行だけでなく、組合の労働局・労働基準監督署対応等を援助した。
ただ、非常勤講師、日本語非常勤インストラクター等と専任教員との間の賃金格差は依然として大きい。組合はさらに組合員を各大学に広げながら闘おうと本件争議の解決を新たなスタートと位置付けているところである。
東京支部 瀬 川 宏 貴
一 はじめに
昨年一〇月から、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(「マイナンバー法」)に定める一二桁の個人番号(「マイナンバー」)の通知が開始され、本年一月からマイナンバーの利用が開始された。
マイナンバーは、「社会保障」と「税」、「災害対策」の三つの分野で利用が開始される。まず、この三分野の手続きで、本年一月から、自治体や勤務先の会社、証券会社などにマイナンバーを届け出ることになる。
二 法改正による利用拡大
さらに、利用開始前でもあるにもかかわらず、昨年九月にマイナンバー法の改正が行われ、利用範囲が拡大された。
これにより、二〇一八年から個人の預貯金口座とマイナンバーが結び付けられることになる。この改正では、マイナンバーを金融機関に伝えるかどうかは個人の任意となっているが、国は「二〇二一年以降に義務化の検討もありうる」としている。この預貯金口座への拡大により、マイナンバーの利用範囲が格段に広がることなる。その他今回の改正により、メタボ健診や予防接種の記録もマイナンバーと結びつけられることになる。
三 マイナンバーの概要〜住基ネットとの相違点
住基ネットとの相違点からマイナンバーの概要を述べると、以下のようになる。
まず、扱う個人情報の範囲では、住基ネットは、氏名、生年月日、性別、住所のいわゆる四情報に限られていたのに対し、マイナンバーでは、社会保障や税金、三年後からは預貯金口座に関する情報など極めて機微性が高いものも対象となる。
次に利用の範囲で言うと、住基ネットは行政内部の利用に限られていたのに対し、マイナンバーは前述のように広く民間で利用される。
したがって、社会保障や税金、金融といった分野において、行政機関のみならず民間においても、膨大な数のマイナンバーつきの個人情報データベースが作成されることになる。
また、現在、各世帯にマイナンバーを通知する「通知カード」を配布しているが、これとは別に、各人の申請により、マイナンバー、氏名、住所、生年月日、性別を記載し、顔写真のついた、ICチップ入りの「個人番号カード」を配布する予定である(住基カードは有料であったが、個人番号カードは利用拡大のために当面無料で配布するとされている)。
国は、この「個人番号カード」を、身分証明証、健康保険証、印鑑登録証などとワンカード化すること目指すとしており、また、国家公務員の一部については、本年四月から、身分証明書と個人番号カードの一体化が計画されている。
しかし、「個人番号カード」を申請し、身分証明書として使うことになれば、マイナンバーを持ち歩くことになり、マイナンバーの漏洩の危険が格段に高まることになる。
四 漏えい、名寄せ・突合、成りすましの危険性
このように、マイナンバーは、民間利用、個人番号カードの利用という点からみて漏えいの危険性が高いものであり(ただし、昨年六月の年金機構からの年金情報流出のように行政機関からの漏えいの可能性も十分にあり得る)、漏えいした場合のプライバシー権の侵害は重大であり、かつ、個人情報の回収や修正等は極めて困難である。
さらに、一旦漏れた個人情報は、マイナンバーにより、名寄せ・突合(データマッチング)することが可能となる。漏えいした個人情報の名寄せにより、本人の関与しないところで、その意に反した個人像が勝手に作られることになり、かつ、場合によっては、成りすましによる被害が生じることになる。
五 マイナンバー違憲訴訟の提起
このようなマイナンバー法の廃止をめざし、マイナンバーの差止等を求めるマイナンバー違憲訴訟を昨年一二月一日に各地で提訴した。現在、仙台地裁、新潟地裁、東京地裁、金沢地裁、大阪地裁に係属中であり、今後、横浜、名古屋、福岡の各地裁での提訴を準備中である。
訴状では、プライバシー権侵害等を理由として、マイナンバーを収集、保存、利用、提供をすることの差し止め及び国家賠償等請求等を求めている。訴訟では、マイナンバー制度により、国民の個人情報漏えいの危険性がどこまで具体的に生じているかを主張立証できるかがポイントになると考えられる。
住基ネットの施行の際も、差し止めを求める訴訟が全国各地で提起されたが、その際は、二〇〇五年五月三〇日の金沢地裁判決、二〇〇六年一一月三〇日の大阪高裁判決と二つの違憲判決が出ている。前記のとおり、マイナンバーでの個人情報漏えいや不正利用の危険は、住基ネットと比べて格段に高い。例えば、前記大阪高裁判決を破棄し、住基ネットを合憲とした最高裁判決は、プライバシー侵害の具体的危険性がないと判断した理由の一つとして、住基ネットがデータマッチングを禁止していることを挙げるが、マイナンバーではそもそもデータマッチングを目的としているのである。
今後は各地の運動と連携しながら、裁判所に対し、マイナンバーの違憲性を訴えていくことになる。皆さまのご支援をお願いしたい。
※東京支部ニュース二〇一六年一月(No五〇六)号より転載
東京支部 弓 仲 忠 昭
日弁連会長選挙は刑訴法等「改悪」一括法案推進の誤った方針是正のチャンスである
戦争法案廃案を求める闘いでは、ご承知のとおり、日弁連も積極的役割を果たした。
しかし、日弁連執行部は、微々たる「録音・録画」(しかも、大幅な例外規定により捜査に都合の良い供述だけが録音・録画される危険がある。)と引き替えに、冤罪撲滅という本来の目的とかけ離れた「盗聴拡大」や「司法取引」という警察の望む「捜査手法の拡大」を受け入れ、それらの毒まんじゅうを含む刑訴法等「改悪」一括法案をパッケージとして推進してきた。日弁連村越進現会長は、その先頭に立ち、三度にわたる早期成立を望むとの会長声明で害悪を垂れ流し、冤罪被害者や反対市民を裏切り続けた。
この村越進会長の姿勢は、強く批判されねばならない。
二年前の会長選挙で村越氏を推し、投票した方々はこの事態をどう考え、どう行動しようとするのか。
われわれは、日弁連会員の一人として、日弁連執行部のこの方針の誤りを糾すべく行動することが、市民に対する義務である。
今、向こう二年間の日弁連運動の動向を左右しかねない日弁連会長選挙が始まった。候補者の中には、刑訴法等「改悪」一括法案については村越現会長の推進姿勢を踏襲しつつ、戦争法廃止・憲法擁護・立憲主義回復の課題についてはその姿勢を曖昧にし、「憲法についてはいろいろな考えがある」などと従前より後退する見解を述べる者もいる。要警戒のレベルは高い。
各団員が、この日弁連会長選挙を通じて、日弁連の刑訴法等「改悪」一括法案推進の姿勢を改めさせるべく、それぞれできるところでできる努力をしようではないか。また、日弁連に戦争法廃止、憲法擁護・立憲主義回復への闘い継続の姿勢を堅持させるべく行動しようではないか。
公聴会で候補者に質問をぶつけ追及しよう
日弁連選挙管理委員会からの通知によれば、もうすでに、北海道、東北、中部、近畿、中国地方での公聴会は終了し、四国(一月二二日)での公聴会は直近に迫っている。各地の団員諸氏において、候補者に対して刑訴法等「改悪」一括法案の問題点をあぶり出し、日弁連現執行部の推進方針の根本的転換を迫る質問や戦争法の廃止と憲法を守る観点からの質問がなされ、或いは、準備されていると思うが、各候補者はどのような答弁をしたのであろうか。
是非、団通信の次号(二月一日号)でご報告をお願いしたい。投票日(二月五日)の各自の投票に際しての強力な参考資料となるはずである。
さらに、九州(福岡、一月二五日)、沖縄(一月二六日)、関東(横浜、一月二八日)、東京(一月三〇日)での公聴会はこれからであり、当該地域の団員は、公聴会での質問の準備をして、各論点に対する候補者の姿勢を余すところ無く明らかにさせよう。
公聴会で、質問を希望する会員は、公聴会期日の二日前までに、答弁を求める候補者の氏名、質問事項の要旨、自己の氏名及び所属弁護士会を、公聴会開催地の弁護士会気付けでその選挙管理責任者に書面で届け出る必要がある。この質問事項に対する答弁については、公聴会当日に再質問や関連質問も可能とされている。参加団員で協力し、再質問・関連質問も繰り出し、問題ある候補者を追及しよう。
また、単位弁護士会で会長選挙が行われ、公聴会が開かれるところでは、各会の刑訴法等「改悪」一括法案などへの態度に関連して、候補者に質問をぶつけよう。
あらゆる機会を通じて、通信の秘密やプライバシーを侵害する盗聴拡大の違憲性、自らの罪を軽くするために他人を陥れる虚偽供述(冤罪)を招きかねない捜査公判協力型「司法取引」の危険性、立憲主義及び憲法の危機に弁護士会は立ち向かうべきことなどを訴えよう。
おわりに
私自身、三六年余の弁護士生活の中で、日弁連や所属する第一東京弁護士会の選挙公聴会に出席したことは皆無であった。所属会の総会にも久しく出なくなっていた。
しかし、その間に、日弁連や日弁連執行部派の単位会が、「盗聴拡大」・「司法取引導入」などの毒まんじゅうを含む刑訴法等「改悪」一括法案を推進するなど、冤罪防止という本来の目的を見失った方針が跳梁跋扈してきたのである。かかる状況に直面し、今や自らの弁護士会に対する態度を深く反省し、自ら思うところを発言せねばならぬとの思いに駆られている。
私は、今般の各会長選挙について、日弁連の東京公聴会や所属する第一東京弁護士会の公聴会に出席し質問し思うところを述べる。これからは、日弁連総会のみならず、第一東京弁護士会の総会にも積極的に出席し発言したい。
「おかしいことはおかしい」「間違っていることは間違っている」との声を全国至る所で上げていこうではないか。
東京支部 緒 方 蘭
一 給費制問題の現状
(1)政治的解決
いま、給費制問題の政治的解決の機運が高まっています。ビギナーズネット、日弁連が中心となって国会議員から司法修習生の経済的支援を求めるメッセージを獲得しており、一月九日時点で三五四名の国会議員のメッセージが集まっており、衆参全体の過半数に届こうとしています。過半数のメッセージが集まった段階で、複数の単位会で会長声明を出し、本年の通常国会での議員立法を目指しています。
もっとも、日弁連は従前の給費制の復活ではなく、「司法修習生への経済的支援」を目指しており、新制度の給付額・内容は未定ですので、必要な水準での制度創設を求めていく必要があります。
また、新しい制度では、既に給費制廃止下での修習を終えた者への遡及適用は予定されておらず、政治的運動や給費制訴訟で遡及適用を求める必要があります。
(2)給費制訴訟
政治的運動とは別に、給費制訴訟も続いています。
・六五期訴訟
原告の法的主張がほぼ終わり、それを踏まえた国のからの反論が出ました。今後は尋問を実施し、地域によっては年内に結審する見込みです。
東京訴訟 三月一四日午後三時半から
名古屋訴訟 二月一五日午後四時から
広島訴訟 一月二五日午後二時から
福岡訴訟 二月九日午後一時半から
・六六期訴訟
六六期訴訟では、現在、原告が毎回の期日で主張を出しているところです。
札幌訴訟 三月一七日午前一一時から
東京訴訟 二月一六日午前一一時半から
熊本訴訟 二月一七日午後一時半から
・六七期訴訟は、これから他の地域もさらに提訴する予定です。
大分訴訟 三月二五日午後二時から
二 団給費制対策本部による若手団員のアンケート結果
団総会での給費制特別企画のために、昨年九月に、新六五期から六七期の全団員に給費制に関するアンケートを送付し、四八名より回答を得ました。結果は次のとおりです。
・貸与申請者 四八名中三九名(約八一・三%)
・修習修了時の借金(奨学金と貸与金の合計)の平均額四七五万円
最高額一三〇〇万円。「借金なし」と答えたのは五名(約一〇・四%)のみでした。
・「給費の支給があれば修習の充実度が変わる」と回答した者 四八名中四三名
給費の支給があれば、安心して修習に専念できること、課外活動や飲み会など行動範囲が広がって様々な問題に触れられること、就職活動で希望の地域の事務所を訪問できること、責任感や公益性が高まることなどが書かれていました。
・奨学金や貸与金の返済について、借金がある者(約八九・六%)は全員「返済の不安がある」と回答しました。
不安の理由として、次のように、収入に対する不安を述べた回答が圧倒的に多かったです。
「将来、確実に稼いで返せていけるのかということ。現時点では、自分の生活は精一杯で、返済に充てると遠征や弁護団活動等はやはり控えざるをえない。将来、結婚や出産で育休をとったりした際、収入が減ることも心配。」
「勤務弁護士で固定給をもらってはいるが、今後も安定した収入があるとは限らず、年次が上がり返済が近づくほど身分や収入が不安定になりうることに恐怖を感じる」
「現在奨学金だけで毎月四万円返済しており、それ以上の返済は厳しい。」
「パートナーになると到底食べて行くことができない」
修習修了後五年経過時から貸与金の返済が始まりますが、この時期には新人の頃よりも事務所内での経費負担割合が高まりますし、近年の増員や事件収入の減少もあって、返済に不安を感じる者が多くなっています。私は給費制の廃止が、団事務所の後継者の確保に悪影響を及ぼしていると感じています。
三 皆様へのお願い
給費制の復活について、各単位会を通じて日弁連に対してご意見をいただけると大変助かります。
また、給費制訴訟についても、期日への傍聴、公正裁判を求める署名(「給費制訴訟」ホームページのトップ画面からダウンロードできます)へのご協力をお願い致します。
福岡支部 郷 田 真 樹
九州の皆様には、九州ブロック総会用の原稿の転用で失礼します(末尾の平成二八年部分を少し書き足しました)。
平成二六年春から、(今のところ)福岡県内の女性団員で集まり、勝手に「女性部」を名乗る活動を開始しました。
こうした活動をはじめるにあたっての、私自身の個人的なきっかけは、団員の皆様の人権感覚を強く信頼し、皆様の熱心な活動に感動したり、なにもできていない自分に恥じ入ったりしつつ、それなのに女性問題に対するこの違和感は何だろう?という気持ちを持っていたことです。
たとえば、今年五月の団の研究討論集会「特別報告集」には、情勢、憲法と平和・基本的人権、選挙制度、治安強化、弾圧えん罪、裁判員裁判、労働法制改悪、子どもと教育、原発事故被害救済、貧困問題、市民の生活と権利、公害・環境、構造改革、人権問題などとして、多数の素晴らしい報告が出されています。
このなかに、埼玉から憲法ママカフェ、東京からたかの友梨ビューティークリニックでのマタハラ、千葉から県営住宅母子心中事件調査、東京から性的マイノリティ(渋谷区パートナーシップ条例)などについての充実したご報告もいただいています。
けれども、冊子全体として、いわゆる「女性」あるいは「ジェンダー」について、項目として取り上げられたり、団がこの問題に取り組んでいこう!という雰囲気が押し出されたりはしていないようにも感じてしまいます。DV被害も性暴力被害も減らず(性暴力被害については刑法改正議論の最中でしたが)、職場内での女性差別は相変わらず存在し、男女間の賃金格差は解消されず、多くの母子家庭が著しい貧困状態におかれ、安定的な養育費支払いを促す公的制度は整わず、面会交流実施のサポート制度もごく僅かしかなく、保育園の待機児童の問題は解消されずと、女性をとりまく社会環境はこれだけ厳しく、社会問題は山積しているにもかかわらず、です。
例年、このことに頭をひねりつつ、とはいえ大した活動もできていない自分への自責感から、その思いを引っ込めるということを繰り返していました。
こういう話をすると、「それは一部の被害者とか母子家庭の問題で、女性全体は強くなったからもういいだろ!」と言われる男性団員や、「私は勉強でも仕事でも自由にのびのびとやってきたのよ」、「今さら『女だから』と差別されたことなんてないわ」という女性団員の声が聞こえる気もします。
けれども、本当にそうでしょうか?
世界経済フォーラムが毎年発表している、男女平等(ジェンダー・ギャップ)指数は、経済分野・教育分野・政治分野・保健分野のデータから、各国における男女格差を測るものですが、二〇一四年の日本の順位は、一四二か国中何位だと思われますか?(原稿の最後に回答を書きます)。「両性の平等」って、暴力をふるわずに、セクハラとかマタハラとかのことを考えていれば大丈夫だよね?と思われるむきには、おそらく驚愕!されるような数字が出ています。
景気がよければ家庭・介護・看護・保育といった重労働を、無償ないし低賃金で担いなさい、景気が悪くなれば社会に出て「輝いて」貢献しなさいと、女性が都合良く利用されている社会状況は、ただなんとなく眺めているだけでは見えてきません。人間生活の礎を無償で、大きな評価もないままに、懸命に支え続けているのが誰なのか、誰がその人に、こうした労働を当然のように押しつけ、あるいは無意識に「私の仕事」と思うように育ててきたのか、を意識して見ることや、その膨大な負担を、社会の構成員全体で分担していこうとする努力が必要です。
ご自分が生まれてから弁護士になるまでの間、あなたの毎日の衣食住の世話をしてくれたのは誰でしょうか。パートナーや子どもがいらっしゃる方、要介護のご家族がいらっしゃる方は、自分の日々の衣食住や育児・介護に務められている方は誰でしょうか。その人が、膨大な人生の時間を捧げて家族を支えていることについて、「手伝う」といったレベルではなく、同じように荷を背負って共に生きていこうと思い、そういう行動がとれているでしょうか。あるいは、それに見合うなにかを、その人に与えることはできたでしょうか。仕事の大変さに追われて、経済的に稼げてさえすればそれでいい、それで家族を支えていると、つい思いがちになっていないでしょうか。(次号に続く)
福岡支部 永 尾 廣 久
庭いじりに精を出し・・・
大晦日は、毎年近くの山寺に除夜の鐘を撞きに行きます。待っているあいだは一月末に受けるフランス語の口頭試問にそなえてシャンソンを聴きながら、一年を振り返るのです。今年は初めて一番に鐘を撞きました。不安一杯の世の中なので、どうぞ世界と日本が平和でありますように願って、力強く鐘を響かせました。
明けて正月は年賀ハガキと事務所ニュースの新年号を読みふけり、午後からは庭に出て畑仕事に精を出します。今年の正月も温かく、気持ちよく庭を掘り起こし、残っていたチューリップの球根を植えつけました。ついでに、ジャーマンアイリスの球根を掘りあげて植え替えました。
ポケットサイズのニュース
事務所ニュースの定番はA4サイズでオールカラーというものです。ところが、今回、私の目を惹いたのは長野第一のポケットサイズ(A6)です。これならフツーの封筒(八二円の切手ですみます)で送ることができます。
ところが、広げてみると、A3サイズになるのです。うまく折り畳んでいて、劔岳の写真がでーんと中央に鎮座していて、いかにも憎いレイアウトになっています。これはアイデアの勝利でしたね。
所長の武田芳彦団員はすさまじい近況報告をしています。なんと、毎朝七時三〇分に出勤し、夕方六時には帰るというのです。私は相変わらず朝一〇時から夜八時まで事務所にいます。夕方六時以降は書面かき。八時までに終わらないと自宅へ持って帰って、夕食後に続きを書きます。
武田団員のメッセージが心に残ります。「気持ちが後向きになったときは、呼吸が浅くなっています。深いため息をついて、立ち上がって外へ出て動くと体温が上昇し、心が前向きになります。生きにくい世の中ですが、日々新たに工夫しながら、よい一年にして下さい」
まことに名言、至言だと思いました。
「絆」の語源は家畜をつなぐ・・・
あべの総合の「いずみ」に大阪のおばちゃん(谷口真由美准教授)が「絆」という言葉は嫌いだと書いています。ええっ、どういうこと・・・。三・一一のあと、日本中で「絆」を大切にしようと叫ばれているわけですが、実は、この言葉の語源は、家畜をつないでおく頸城という意味なのだそうです。つまり、犠牲をともなう関係性であるということを最初からふくんでいる言葉なのです。ちっとも知りませんでした。
「完全にコントロールできている」はずの福島第一原発ですが、実際には炉心の状態すら分かっていないのです。「絆」というまやかしの言葉で国と東電の責任をあいまいにしてはいけません。
このニュースで、百円玉が一度に二〇枚までしか使えないという法律があることを知りました(蒲田豊彦団員のコラム)。銀行の窓口での混乱を防止するためなのでしょうか・・・。
弁護士になった森野俊彦元判事(福岡高裁におられたとき、お世話になりました)が、弁護士になって初めての判決をもらう前にあれこれを気を揉んだという体験を書いていて、ほほえましく思いました。
駐車場の事故で一〇〇対〇
スーパーの駐車場内で車同士が衝突する事故が頻発しています。最近は、LAC利用が普及していることもあって、二〇万円前後の物件事故でも受任して交渉し、また裁判に持ち込むことが増えています。
黒崎合同の安部千春団員は、八〇対二〇とした一審判決に対して怒りをこめて直ちに控訴し、一〇〇対〇の控訴審の判断を勝ちとったことを報告しています。たいしたものです。
一審判決はあらかじめ後退駐車しておくべきだったという認定をしたのですが、実は相手方の主張にもなかった。不意打ち認定でした。
コンビニでは前進駐車をしている人は少なくないと私も思いますが、「アメリカなど外国では前進駐車は九割の人がしている」という主張をしたそうです。本当に、そうなのでしょうか・・・。
実物より老けて見える安部団員の顔写真ですが、そのレポートはいつも勉強になります。チーチャン節が相変らず健在なのは、ご同慶のいたりです。
パワハラ自殺事件で勝利
二七歳の青年が上司のパワハラによって自殺に追い込まれた事件を堺総合の平山正和・井上耕史団員が報告しています。まずは労災申請して、労災と認定され、同時に会社を訴えたのです。会社側は自殺とパワハラとの因果関係がないとして争いました。四年半たってようやく、会社は責任を認めて裁判上の和解が成立しました。
勝利の原因は、第一に、現に勤務している同僚三人がパワハラがあった事実を勇気をもって証言してくれたこと。第二に、遺書にパワハラの事実と怒りが生々しく書かれていたこと。第三に上司のパワハラが電話とメールに記録されていたこと。第四に、精神科医がパワハラと自殺の因果関係を解明したこと。第五に、支援が広がり、毎回、傍聴席が満杯だったことです。和解条項に会社の謝罪を明記すると同時に、席上で役員が両親に頭を下げて謝罪したとのことです。
ここまで完璧な勝利も珍しいと思いました。それにしても、こんなひどいパワハラを許している会社って、社会的にみて存在意義があるのでしょうか、疑問を感じます。
コンビニのオーナー店長も労働者
セブンイレブンそして、ファミリーマートのオーナー店長が、それぞれ労働組合を結成して本部に団体交渉を申し入れることが相次いでいます。
その拒否に対して労働委員会に不当労働行為として救済申立をしたところ、オーナー店長も「労働組合法上の労働者」であり、労働組合を結成して団体交渉を要求できる。地方労働委員会が本部は団交に応じるよう命令を出しました。
旬報の棗一郎団員のレポートです。オーナー店長は、家族ともども年中無休で二四時間営業を義務づけられています。自ら店頭に立って販売、接客、品出し、陳列、掃除などをしているわけです。この労働実態からすると、オーナー店長もFC本部に労務を提供し、指揮命令にしたがい、事業に組み込まれていると判断されました。当然だと思います。
全国どこでも商店街はシャッター通りと化し、コンビニが一人勝ち状態です。そして、そのコンビニは、現代の小作人ないし半ば奴隷としか言いようがないほど本部から酷使され、搾取されています。
労働組合運動の停滞のなかで、コンビニに働く人々が団結して本部にモノを言うべきときだと思うのです。
事務所紹介リーフレット
北海道合同は事務所ニュースとともに事務所紹介のリーフレット(A6サイズ)を同封していました。あずき色に白く「あなたに寄り添い、あなたの力に」と書かれていて訴求力があります。その下には、三つの囲み記事。初回相談料無料、夜間も土曜日も相談に応じるというものです。シンプルで惹きつけます。
そして、開いてみると、大柄な佐藤哲之団員を真ん中にV字型に並んだ弁護士全員の集合写真と、一人ひとりの顔写真とスポット・スピーチが囲みます。みんなの笑顔が素敵です。このリーフレットはよく出来ています。困ったときに、頼もしい相談相手になってもらえると思えます。
イタイイタイ病資料館で語り部
富山中央の青島明生団員は富山県立イタイイタイ病資料館で語り部をしているとのことです。この資料館には、毎年四月になると三井金属の新入社員が四〇人前後、やってきてイタイイタイ病のことを学んで帰るといいます。これはすごいことですね。そして、昨年は、天皇が視察に来て、予定外の青島団員にまで声をかけました。
「難しくて、大変だったでしょう」「いろいろご苦労されたでしょう」「大変でしょうが、これからもよろしくお願いします」
今の天皇は、ハンセン病や水俣病の患者にも親しく声をかけるなど、制度としての天皇制には違和感をもつ私ではありますが、人間としての天皇個人には心から尊敬しています。
東京支部 後 藤 富 士 子
一 夫婦関係調整事件
離婚は、調停前置主義がとられている。その調停は、「夫婦関係調整」事件とされ、離婚だけでなく、円満修復を求める調停も含まれている。とはいえ、一方が離婚を希望して別居した場合、残された配偶者が「円満調整」の調停を申し立てても、その調停が成立することは殆どない。それは、「円満調整」=「同居」と考えられるからである。
しかし、夫婦関係の「円満調整」は、「同居」に限られるだろうか? ちなみに、民法七五二条は、夫婦の同居・協力・扶助の義務を定めているところ、これに対応する調停・審判は家事事件手続法別表第二の一号に該当するが、「同居」は除外されている。なぜなら、「同居」を審判で強制することはできないと考えられているからである。すなわち、夫婦関係の円満調整は、法律上も「同居」を前提とするものではない。
そこで、現実的に考えれば分かることだが、同居していると喧嘩ばかりの夫婦でも、別居していれば離婚することもない、というケースは少なくないと思う。これは、配偶者の親家庭と「スープの冷めない距離」に住むとか、一つの家に住む場合でも、親家庭と子家庭が独立区画にあれば、なんとかうまく生活していけるのと同じことである。親子であろうと、夫婦であろうと、異なる人格なのだから、「大人の付き合い方」は重要である。そう考えると、「円満別居」も、夫婦関係の「円満調整」である。
二 子の監護をめぐる紛争
民法七六六条は、離婚後の子の監護に関する処分について定めている。養育費や面会交流などである。離婚後は単独親権になるので、親権者でなくなった親の子の監護をめぐる規定である。
しかるに、現在の家事実務では、離婚前の別居状態でも、別れて暮らす親の子の監護をめぐる紛争について、民法七六六条を準用ないし類推適用して、家事事件手続法別表第二の三号の手続に載せる。養育費は離婚後、離婚前は婚姻費用と厳格に区別されているが、離婚前の面会交流について民法の規定がない。まして、単独監護者指定・子の引渡しなど、離婚前に審判できる法的根拠はないのみならず、民法八一八条三項の「婚姻中は父母の共同親権」という明文規定に反する。
このような違法な家事司法を是正するには、「夫婦の別居」=「親子の断絶」にならないようにすることが肝要である。すなわち、父母が別居していても、共同監護態勢を構築することである。それには、「夫婦の円満別居」調停が活用されるべきである。
三 「円満別居」は「共同監護」の土台
「円満別居」の合意は、離婚の法的手続に消耗するリスクを回避し、実情に見合った家族構成員全員の生活が保障される。とりわけ、未成年の子にとっては、父母が別居していても、安心・安定した生活が保障されるはずである。
離婚後の単独親権者になるために、子どもを連れ去る別居が横行する。そして、家裁は、実定法違反の調停・審判をするので、どうにもならなくなる紛争が充満している。考えるだけで気分が重くなる。『絶望の裁判所』ではないが、「家裁の門を潜ったが最後・・・」である。
それを克服するには、夫婦関係調整事件について、積極的に「円満別居」調停を試みることにしたらどうだろうか? それに伴い、「共同監護」を具体的に実践するのである。
ちなみに、私は、次の趣旨の調停を申し立てている。
(1) 申立人と相手方は、現在の別居状態を互に尊重する。
(2) 申立人と相手方は、双方が未成年者の共同親権者であることに鑑み、親子三人での面会交流について、必要な事項を取り決める。
この事件では、調停開始前に、既に宿泊を含み、共同監護態勢を作り始めている。但し、私が受任する前に、相手方を単独監護者と指定し、子を相手方に引き渡せ、という審判が出ており、即時抗告中である。家裁の単独監護原理主義は、子の福祉を破壊する思想にほかならない。
二〇一五・一二・二四
神奈川支部 森 卓 爾
いま、国会で審議されている「刑事訴訟法等の一部改正案」(以下「法案」と言う)は、盗聴法の改悪と日本版司法取引を導入を目指す法案として提案されている。昨年の通常国会に提出され、衆議院法務委員会で八〇時間の審議が為された後、一部修正されて参議院に送られたが、参議院法務委員会では、実質審議が行われないまま今国会に継続審議となっている。団は、この法案に一貫して反対をしており、反対の意見書を「その三」まで出して、国会議員要請を続けた。
こうした中、今村核団員、泉澤章団員と刑事法学者の白取祐司教授が中心になり「日本版『司法取引』を問う」を出版した。
日弁連が法案について、賛成の立場を取り、法案成立に積極的に国会議員要請を行っている中で、そしてこれから参議院での審議が始まろうとしている中で、いま、この本が出版された意義は大きい。
本は、三部構成になっており、第一章は、日本版「司法取引」制度とは、何かと題して泉澤章団員が執筆している。法案の内容と法制審特別部会での議論を紹介しながら、徹底的な議論をよびかけている。
第二章は、今村核団員が、日本の「闇取引」と題して、「他人の罪を明らかにし、自分の罪を軽くする司法取引」の具体例を紹介している。取り上げているのは、アメリカでの事例、日本における事例として、(1)真犯人が無実の者を巻き込むケース、(2)共犯者自身も無実の場合、(3)同房者の供述、(4)知人による情報提供等について、多くの事例を紹介している。
第三章は、「海外の司法取引制度とその運用」と題して、アメリカ(笹倉香奈甲南大学法学部准教授)、ドイツ(内藤広海熊本大学法学部准教授)、フランス(白取祐司神奈川大学法科大学院教授)の司法取引が紹介されている。
法案における司法取引「捜査協力型協議・合意制度」は、弁護人を巻き込んで取引するものであり、場合によっては、弁護士をえん罪の創出に加担させる可能性のある制度である。日弁連がこの法案の問題点を無視し、一部「可視化」に目を奪われて、法案成立に動いていることは許しがたいことである。
団員各位も是非読んでいただいて、この法案の成立を許さない運動にご参加下さい。
埼玉支部 黒 澤 瑞 希
新しい年が明け、早くも野党共闘を呼びかける市民連合が大規模なデモを開催したり、全国各地でスタンディングやデモが実施されており、立憲主義と民主主義を取り戻そうという国民の情熱に勇気づけられます。
そんな民意はどこへやら、安倍首相は一月四日の年頭記者会見で、憲法改正の具体化についての質問に対し、「私たちは自由民主党として公約の中に掲げ、そして私たちの考えとして明確にお示しをしています。」「我々が政権公約の中においてお約束していたことはしっかりと実行していかなければならないと考えています。」と述べました。名文改憲を狙うという明確な決意表明です。
そう、今さら驚きもしませんが、今年は安保関連法(戦争法)の廃止とともに、名文改憲の阻止も「必ずやり遂げなければならない」課題です。
自民党はじめ名文改憲を目指す諸派が、どんな手練手管を使うか、すでに見えてきています。改正草案の中にしれっと入れてある緊急事態条項を「テロや大災害の時に備えておくべきだ」と不安をあおることで導入する――これを「お試し改憲」として最初の国民投票にかけよう、という作戦です。ご存知の通り、緊急事態条項とは、ひとたび内閣が緊急事態宣言をすれば「国会が立法権を独占する」という国家体制が一時停止し、立法権と同様の権能を内閣が持ち、地方自治体と国民には服従義務が課される、というものです。改正草案の条文を読むと明らかに基本的人権の制約が予定されており、要するに憲法秩序の停止を意味する制度といって過言ではありません。
パリでの同時多発テロをきっかけにフランスでは非常事態宣言が長期にわたり発令され、令状無しの捜索や移動の自由の制約など、異常な事態が続いています。民意を敵視し、おそれる日本の現政権が模索する緊急事態条項(国家緊急権)がどれほど危ういものか、想像に難くありません。おそらくは、北朝鮮や中国といった「脅威」への不安をあおる形で、「お試し改憲」に賛成させようとするでしょう。なにがなんでも食い止めなければなりません。
多くの団員が所属する「明日の自由を守る若手弁護士の会」は、昨年一一月、新たなリーフレットを作成いたしました。
その名も、「とりあえず知っておきたい イマドキの改憲のはなし」。
仕掛けられるであろう名文改憲を念頭に、改憲論議のイロハを分かりやすくまとめました。
改憲したいしたいしたーいと叫ぶ自民党(とその取り巻き)がなぜ改憲したいと考えているのか、という頭の中をまとめて、ぶった斬る、というスタイルです。
例えば、おなじみ「押しつけ憲法」論。そもそも押しつけられてないし、本質的な議論じゃないわね、と歴史的な経緯をマンガで描きました。
また、「現行憲法は環境権など新しい人権に対応していない!」という批判をしてくるわりには、改正草案に環境権を書いてない(むしろ国民の義務として規定されている)のはなぜかしら?とツッコみました。
緊急事態条項はじめ、改憲を訴える自民党が発表している改正草案がどれだけおそろしいものか、しっかり説明しています(詳細は当会第一弾リーフレット「憲法が変わっちゃったらどうなるの?」をお読み下さい)。
そして最後に、改憲を食い止めるには国民一人ひとりの行動にかかっていることを語り、「おかしい!と思ったら反対票を入れにいくことが必要よ。」「子どもの未来のためにも、必ず投票に行かなくちゃ!」と危険や白票ではなくきちんと反対票を入れることの重要性を伝えています。
毎度おなじみ、大島史子さんのかわいくカラフルなイラストで、随所にクスっと笑ってしまうポイント満載のマンガ仕立てです。政治や憲法は決して堅苦しいものではなく、敷居の低い、身近な問題なんだよ、と伝わればいいなと思い、作成しました。アベ政治を許さない国民の躍動には心打たれますが、今現在怒っている国民だけが動いただけでは、まだ選挙には勝てないのが現実です。今まだ立ち上がっていない、意識が高くない国民にも関心を持ってもらわなければ、名文改憲は現実化してしまいます。この怒りの輪を広げるためのマストアイテムとして、ぜひ、このリーフレットをご活用頂ければと思います。学習会の資料としても、街頭宣伝での配布物としても、最適です。
一部一五円(五〇〇部以上注文ごとに五〇〇円割引)です。
「明日の自由を守る若手弁護士の会」ホームページ上の、注文専用フォームからご注文ください。
残念ながら、緊急事態条項への危機感は社会でもメディア上でもいまだ薄いと言わざるを得ません。どれだけ警戒心を醸成できるかは、私たち法律家の腕にかかっています。「あすわか」は、これからも力の限り訴え続けますが、団においても、これを大きく位置づけて取り組んで頂きたいと思います。
それでは大量のご注文、心よりお待ちしています!!
神奈川支部 中 野 直 樹
フクシマの一変
二〇一一年三月一二日、Nさんは福島第一原発の異変を知った。ウクライナ国籍の妻は一三歳のときにチェルノブイリ原発を体験していた。やはり白河で生活をしているキエフ出身の女性には子どもの頃に甲状腺を切除した手術痕が残っていることを知っていた。Nさんと妻は、原発が次々と爆発する映像をみて、子どもをもつ親の誰もが体験した、八歳の娘の被曝の恐怖に直面した。一七日午前一時、ウクライナ大使館から電話がかかってきた。チャーター便を用意したのでウクライナにいかないかとの連絡だった。Nさんたちは決断し、翌朝那須塩原駅から運行している新幹線に乗り込み成田空港に着いた。Nさんは家族一緒に避難するつもりであったが、ウクライナ国籍をもたないNさんは同乗を認められなかった。泣きじゃくりながらゲート向うの通路に幾度も振り返りつつ消えていく妻と娘の姿。それを追いかけるNさんの胸ははり裂け、眼から滂沱の涙が流れた。このつらい場面の回想にかかったとき、Nさんの声はつまった。竹村さんも私も思わずもらい泣きをしそうになった。一人白河に戻ってきたNさんは、生きていくための気力を失い、食欲も失せ、不眠症となった。そして、とうとう生きる意欲自体を失いかけた。
一週間後にようやくウクライナの妻と電話でつながり、やがてスカイプという無料の通信手段でつながった。四月、Nさんがあまりに痩せて落ち込んでいる姿を心配した地元の山仲間が誘ってくれた県外の山歩きで、Nさんは大きな自然と触れ合い、癒され、少しずつ気力を回復し始めた。五月、Nさんは、妻と子との生活を取り戻したいとの一心で、自宅回りの空間線量を計って記録し始め、自宅建物を高圧洗浄水で洗い流す努力を始めた。そしてNさんは六月ウクライナに渡航した。妻と子を連れ戻しに行ったNさんは、逆にウクライナに移住することを強く勧められた。帰国をめぐって、妻、妻の両親と真剣でしんどい議論を繰り返す日々。九月中旬、ようやく妻と娘の帰国となった。
しかし、目に見えない放射線曝露から娘を守ろうとする毎日は、妻を疲れさせ、次第に妻の表情はふさいだ状態となった。Nさんは連れ帰ったことがよかったかと苦しみ始めた。アルゼンチンで生活する妻の姉が心配し、二〇一二年三月、妻と娘にアルゼンチンへの避難を勧めた。Nさんは拒むことができなかった。妻と娘が地球の反対側の国に行ってしまい、再びNさんは辛い家族との離別生活となった。尋問の二番めの柱が決まった。
泣いている山河 地元の水 農産物
Nさんは、自宅での打ち合わせの後、帰りの新幹線の時刻まで、竹村さんと私を車に乗せて阿武隈川の上流域に向かった。Nさんは、山の世界に新入りした竹村さんに、靴は奮発していい物を買いなさい、俺はイタリア製を愛用しているとコーチングをしていた。甲子山や赤面山は紅葉真っ盛りだった。竹村さんは、それ以外の言葉にならず、ただただ、素晴らしいを繰り返していた。阿武隈川の流れは赤や黄色の衣に包まれ、その渓相は私の釣り心のスイッチを入れた。Nさんは、あそこのポイントは必ず釣れる、ここのポイントで何センチの岩魚をあげた、など益々私を刺激してやまない。そこには、Nさんの帰郷の心の火種を実感することができた風景があった。
しかし、ここに存在する現実は、Nさんが今年も岸辺に張り出した「通年全面禁漁」の札である。Nさんをどん底状態から救い出した山仲間のSさんのログハウスにも案内された。Sさんも原告の一人だ。Sさんは、地元山のガイド、春の山菜摘み、秋のキノコ採りも生業としているが、三・一一後は、不可である。Sさんのつくため息はとても重たく感じられた。
二度目の打ち合わせも自宅で行った。アルゼンチンへの避難は三〜四年の予定であったが、娘さんは、両親揃った家族生活の喪失感を高め、帰りたい、寂しいと精神の不安が増幅し、結局、その年八月に妻と娘が帰国となった。娘さんは相次いだ海外避難のために勉強が遅れ、とりわけ国語の習得に苦しんだ。
Nさんが、漁協組合員として、毎年阿武隈川に不本意な禁漁立て札を立てていると、川沿いの温泉宿の経営者から、風評被害となるからなるべく目立たないところに立ててほしいと求められる。白河は水資源の豊富なところである。しかし、Nさん家族は、今も水道水を飲料とすることができず、ペットボトルに頼っている。地元産の農産物を食べることへのためらいから解放されていない。自ら誇りをもってきた地元の価値を否定することは、アイデンティティを自ら否定することでもあり、つらい。Nさんは、そのことは地元の復興、生業を阻害するものであることも十分にわかっている。ここの葛藤・苦悩を裁判官に伝えること、これを尋問の三番めの柱にしようと竹村さんと話し合った。
一一月一七日、Nさんと竹村さんが福島地裁の法廷に立った。
(終わり)