<<目次へ 団通信1552号(2月21日)
藤田 温久 | 資生堂・アンフィニ事件 全面勝利解決! |
増田 悠作 | 曙ブレーキ工業アスベスト被害賠償訴訟 被害者救済の和解解決!! |
小池 さやか | フクダ電子子会社 ・定年後の継続雇用更新拒否事件 |
結城 祐 | 特定整備路線補助二六号線 事業認可取消請求訴訟提起のご報告 |
川岸 卓哉 | ブラック企業の入り口「求人詐欺」に対して刑事告訴 |
馬奈木 厳太郎 | 浜通りの検証実施が決定し、中通りも検証実施の見込みとなりました 〜「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟第一六回期日の報告 |
菅野 昭夫 | アメリカ大統領選挙の序盤の様相(下) |
和泉 貴士 | 二〇一六・一・二八 対リニア地域戦略と相模原の成果(下) |
早田 由布子 | TPP 労働分野も要注意! |
久保田 明人 | 「安倍政権下の派遣法制と解雇法制の問題点」学習討論会を開催しました。 |
清水 善朗 | 倉敷民商事件弁護団への参加を呼びかけます |
神奈川支部 藤 田 温 久
六年八ヶ月にわたり全国から支援を受けて闘われてきた資生堂/アンフィニ争議が、ついに全面勝利解決を勝ち取りました。
第一 合意の内容
二〇一六年一月二五日、東京都労働委員会において、資生堂/アンフィニ争議につき、(株)資生堂、(株)アンフィニ、七名の原告・争議団の女性、全労連・全国一般神奈川地本の四者の合意による和解が成立しました。
和解の要点は、(1)解雇・雇止めを撤回する、(2)資生堂とアンフィニは、解雇雇止めの経緯等の本件紛争に関する事情につき遺憾の意を表明する、(3)資生堂とアンフィニは、連帯して解決金を支払う、という三点です。解決金の額は公表できませんが、解雇・雇止め撤回に相応しいものと評価しています。
鎌倉工場が昨年三月末に閉鎖され、原告らの希望する製造現場が通勤可能な場所になかったため職場復帰はかないませんでした(解雇・雇止日付で退職)。
しかし、契約上は派遣先・発注者に過ぎず何の雇用責任も負わないと主張し続けてきた資生堂が全面解決を決断し和解の当事者となり、「解雇雇い止めの経緯などに関する本件紛争に関する事情」につき遺憾の意を表明し、しかるべき解決金の支払ったのです。まさに、事実上、資生堂が雇用責任を認めたものというほかなく、労組と女性たちの全面勝利と評価すべき和解です。本和解により東京高裁に係属中の本訴等は全部取り下げられ、資生堂/アンフィニ争議は終結します。
第二 資生堂・アンフィニ争議とは
一 露骨な「偽装請負」「偽装派遣」
資生堂鎌倉工場で口紅製造に従事していた女性達の有期労働契約は、八年〜二年間以上更新され続け、所属会社と契約形式は、(株)リライアンス(請負)→(株)コラボレート(請負)→〇六年六月(株)アンフィニ(派遣)→〇七年一月(株)アンフィニ(請負)と順次替えられましたが、資生堂の指揮命令の下での労働実態は全く同じでした。特に、コラボレートからアンフィニに移籍(請負から派遣に転換)させられた経緯は露骨です。コラボレート所属の労働者のうち、化粧水ラインの者は全員ワールドに、口紅ラインの者は全員アンフィニに移籍させられ、しかも労働条件は従前通りとされました。資生堂が、労働者の所属会社を決め、労働条件を決めることなくしてあり得ない経緯であり、労働者派遣契約を仮装した組織的・脱法行為です。松下PDP最高裁判決で、派遣先との黙示の契約成立の可能性を認めた例外的場合(派派遣先が(1)労働者採用、(2)賃金等重要な労働条件の決定につき決定的に関与している場合など特段の事情がある場合)にずばり該当する場合ともいえます。
二 解雇・雇い止め
二〇〇九年四月二日に資生堂が従前の発注量を約四割減らす通告した直後,アンフィニは、労働契約の期間を詐欺的手法で同年末から五月末日に書き換え、五月一七日、原告の女性五人を含む二二人を解雇し、五月末日、労組加入通告した原告の女性二人に期間満了による雇止めを通知しました。
三 争議の経緯(法廷闘争・労委闘争)
(1)仮処分
二〇〇九年七月、横浜地裁にアンフィニを相手に賃金仮払などを求める仮処分申立て、同年一〇月申立は却下。しかし、東京高裁に即時抗告し同年一二月逆転勝利決定。
(2)本訴
二〇一〇年六月、解雇、雇止めは無効だとして、資生堂と労働契約があること(またはアンフィニと労働契約があること)の確認と未払賃金の支払等求めて、横浜地裁に提訴。二〇一四年七月、横浜地裁は、原告五人の解雇と、原告二人の雇止めを無効とし、アンフィニとの間に労働契約上の地位があることを認め、未払賃金と今後の賃金支払を同社に命じる判決言渡。他方、資生堂と労働契約あることを否認。アンフィニと女性達がそれぞれ敗訴部分を東京高裁に控訴。
(3)不当労働行為救済申立
二〇一五年六月、所属労組は、資生堂に対し争議解決等を議題とする団交拒否を理由に、都労委に対し不当労働行為の救済を申立。同年一〇月に和解勧告。自主交渉を繰り返しながら、二〇一六年一月二五日に争議解決合意。
第三 本合意の意義
一 リーマンショック後の大量非正規切りに対し、全国で数十件以上の訴訟が闘われてきました。いくつかの判決が損害賠償を認め、唯一例外となった山口地裁のマツダ事件判決が派遣先であるマツダの雇用責任を認め広島高裁で和解解決しました。しかし、松下PDP最高裁判決以降、全国の下級審の判決の多くは非正規労働者側全面敗訴の不当なものでした。本争議の全面勝利解決は、暗雲を一挙に晴らし、非正規労働者も闘うことで勝利の展望を開けるという確信となるものです。
二 非正規労働者敗訴の判決の多くは、多くの労働者派遣法違反の事実を認定しながら、派遣法は行政取締法規にすぎず、その違反は労働契約の効力に影響を与えないという松下PDP最高裁判決の「理屈」で派遣先の雇用責任を免責しています。派遣先大企業は、組織的、継続的に脱法目的で偽装請負、偽装派遣などの違法行為を行いながら、その「理屈」を口実に違法行為を継続・拡大してきたのです。
資生堂が、他の大企業が乗り越えられなかった地平に踏み込み本合意に至ったことは、企業倫理とCSRに沿い法令違反の違法状態を解消する道に踏み込んだものと評価しています。本合意は、日産や、いすゞなど他の大企業に対し、資生堂の姿勢に習い、企業の社会的責任回避を止め、非正規労働者に対する自らの雇用責任を認め違法状態を解消することを求める大きな契機となるものです。
第四 本全面勝利和解の要因、その他の重要な意義については、五月集会などの機会に報告させていただきます。常用代替を許さず誰もが正社員として働ける社会を作るために引き続き闘う決意です。 弁護団は、関守、高橋宏(横浜合同)志田一馨(湘南合同)、川口、石井、小野通子、中瀬、藤田(川崎合同)の各団員です。
埼玉支部 増 田 悠 作
一 訴訟の経過
本件訴訟は、二〇一二年一一月二八日、曙ブレーキの元労働者及びその遺族が原告となり(合計一四名。被災労働者単位では一二名)、さいたま地裁に提訴した。
曙ブレーキは、主要製品で国内四〇%のシェアを誇る世界的な自動車部品メーカーであり、早くから石綿先進国であった米国の会社と技術援助契約を結ぶなどして世界最先端の情報を取り入れ、その製造技術を導入し、莫大な利益を上げてきた。
原告らは、曙ブレーキがそのような大企業でありながら、石綿を使用したブレーキ製品を製造する過程において、労働者の健康を守るために必要な局所排気装置の設置や防じんマスクの着用などの石綿ばく露防止措置を怠り(社史の工場内の写真では労働者は誰一人としてマスクを装着しておらず、当時の劣悪な労働環境を物語っている)、その結果、元労働者を石綿肺や肺がん等の重篤な疾患に罹患させ、あるいは死亡にまで至らせた責任を、訴訟の中で厳しく追及した。
対する曙ブレーキは、適切な安全確保措置を講じていたとしてその責任を争うものの、提訴から半年以上経過してやっと出してきたのは法令に基づく表面的な安全対策の主張のみであり、最後まで積極的な主張・立証を行わなかった(法廷で曙ブレーキが環境測定に関する分厚いファイルを保管していたことを確認したが、最後まで証拠提出されることはなかった)。
原告らは、曙ブレーキの訴訟態度に構わず、元労働者の証言により、ブレーキの製造工程の各作業場面において大量の石綿粉じんが発生し、それに曝露していた実態、及び労働者を粉じんから防護するための措置が講じられていなかった実態を積極的に主張・立証していった。また、あわせて、遺族も含め、石綿関連疾患によって健康を害され、またその結果として肺がん・石綿肺によって命を奪われた被害の深刻さを立証した。原告の一人は、利益を優先させてきた会社に対し、涙ながらに、労働者の命を軽々しく扱わないで欲しいと訴えた。
曙ブレーキは、訴訟中盤以降は、消滅時効や、いずれもじん肺管理区分決定や労災決定を受けている原告らに対して、そもそも石綿関連疾患に罹患していないなどと争ってきた。
交代前の裁判体は、曙ブレーキからの病院への文書送付嘱託の申立に対して、原告らからの必要性無しとの反論に沿って即日却下したことから、二〇一四年秋頃、一時は一気に結審まで進むかに思われた。
しかし、交代後の裁判体は、曙ブレーキからの再度の文書送付嘱託申立に対して、範囲こそ限定したものの、これを採用したため、訴訟はその後長引くこととなった。
曙ブレーキは、元労働者の石綿関連疾患の罹患を否定する立証として、岸本卓巳医師(岡山労災病院)の尋問を実施したが、反対尋問により、現在確立している判断基準を無視し、当時論文として発表すらされていない基準を用いて判断していたこと、個々の原告らの石綿粉じんへの曝露歴を詳細に検討せずに判断していたことなどが明らかとなった。原告側は、宮岡啓介医師(埼玉協同病院)の証言で、確立した判断基準に基づき手堅く立証した。
全ての証拠調べが終わり、昨年一二月に結審し、早期の判決が予定される状況に至った。こうした中、裁判所から、原告・被告双方に対して和解の打診があり、裁判所の強い関与の下で和解協議が進められた。
二 和解の内容
提訴から約三年が経過した二〇一五年一二月二五日、法廷において裁判長が和解条項を読み上げ、和解解決を迎えるに至った。
和解の内容は、(1)曙ブレーキ工業による遺憾の意の表明と、(2)相当額の解決金の支払である。解決金については、曙ブレーキの要望により、その金額は非公開とされることとなった。
和解協議の過程においては、泉南アスベスト最高裁判決が示したアスベストによる生命・健康被害に対する慰謝料額が参考にされたが、弁護団としては、解決金の水準は、曙ブレーキの石綿ばく露防止措置懈怠の責任を踏まえ、かつ原告等の石綿関連疾患の罹患の事実をも踏まえた相当額となっており、実質的に被告の責任を認めたものと評価している。
三 他の運動との連携
訴訟の進行過程においては、原告ら自身のがんばりや支援する会による支えはもちろん、同じく建材に含まれる石綿による被害の救済を求めて提訴した建設アスベスト訴訟にも大いに励まされてきた。また、二〇一四年一〇月には、泉南アスベスト国家賠償請求訴訟の最高裁判決において、石綿工場の石綿被害についての国の責任が明らかにされ、これが本件訴訟に対しても大いなる追い風となった。
このような石綿被害の回復を求める運動や訴訟と連携した結果、今回の和解解決に至ったものであり、関係する方々に、この場を借りて厚く御礼を申し上げる。
長野県支部 小 池 さ や か
表題の事件について、二〇一六年一月二一日に長野地方裁判所松本支部に訴えを提起しましたので、報告を致します。
一 事案の概要
事案は、心電図やAED等の医療機器を製造・販売するフクダ電子株式会社の一〇〇%子会社であり、長野県松本市に本店を置くフクダ電子長野販売株式会社(被告会社)で起きた事件です。
原告は、高校卒業後被告会社に入社し、定年となる二〇一三年一二月末日まで医療機器の営業員として勤務してきました。その後、継続雇用され、二〇一四年一二月に継続雇用の更新がなされ、従前どおり仕事に従事してきました。原告の被告会社への貢献は大きく、被告会社の事情で一時期代表取締役を務めたこともあるほどの実力、実績のある人物でもあります。原告としては、当然、六五歳まで継続雇用が更新されるとの期待を有していました。
ところが、二〇一五年一二月一六日、被告会社の代表者に呼び出された原告は、二〇一六年以降の契約内容として要旨以下の二つの選択肢を提示されました。(1)従業員ではなく顧問として半年間の顧問契約を締結し、被告会社から呼び出されたときのみ出社すること。外回りの仕事、外出は禁止する。顧問料は毎月払う(但し定年再雇用された現在の給与の半額以下)。(2)嘱託社員として半年間契約を結ぶ。その場合、週三日三時間出社し、会社の指示する仕事をやってもらえばよいが、外出はできない。給料も現在の四割未満の額。
(1)(2)ともに、原告との契約を半年後に終了するとともに、入社以来従事してきた営業の仕事を取り上げ、給料も著しく減額するという、定年再雇用とは全く異なる契約内容の提示でした。原告が当該申出を拒否すると、被告会社は、「二〇一六年以降の継続雇用の法的義務はない」との理由で継続雇用の更新を拒否し、二〇一五年一二月末日をもって原告を雇止めにしました。
原告は、全日本勤続情報機器労働組合(その後名称変更。通称「JMITU」)に加入し、団体交渉を申し入れましたが、被告会社は団体交渉に応じないため、本件提訴に至っています。
二 裁判で予想される争点
改正高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)が施行され、六〇歳定年で退職する労働者のうち、希望者は全員継続雇用されることとなりましたが、経過措置として、使用者と過半数労働者の代表者とが協定した選定基準が適用される道が残されています。現在、答弁書が提出された段階ではありますが、被告会社にある当該協定の継続雇用の要件、特に原告の人事考課を巡り争点が形成されることが予想されます。団通信一五四六号で日本郵便継続雇用拒否事件の報告がありましたが、人事考課の裁量権逸脱濫用の立証につき、大いに参考にさせて頂きたいと思います。
三 先行事件(パワハラ事件)の存在と協同した戦い
被告会社をめぐっては、現在、二〇一四年一〇月に提訴したパワハラ事件が同地裁に係属し争われています。この事件は、二〇一三年四月に被告会社に赴任してきた現代表者が、被告会社にいた女性事務員に対し、給料や年齢、仕事内容への攻撃、女性蔑視の発言を繰り返し、本店及び松本営業所にいた事務員全てが退職に追い込まれたという事件です。
パワハラ事件及び本件雇止め事件は、長年被告会社のために献身的に働いてきた従業員の尊厳を顧みることなく、「給料が安い従業員に置き換える」という被告会社の考えを背景に、法律、人権を無視して強行的に従業員の雇用が奪われた事件です。
両事件ともに協同し勝利判決のご報告。労働者の尊厳回復のための戦いにご注目頂くとともに、ご支援・ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。
東京支部 結 城 祐
二〇一五(平成二七)年八月二一日、板橋区大山駅の目の前にある「ハッピーロード大山商店街」の付近住民を中心とする原告五〇名が国を被告として特定整備路線補助二六号線事業認可取消請求訴訟(以下「補助二六号線訴訟」といいます。)を提起しました。
一 事案の概要
東京都は、二〇一五(平成二七)年二月二四日、国土交通省から約七〇年前に都市計画決定のあった道路事業の認可を取得し事業に着手したと発表しました。
この約七〇年前の都市計画決定とは、一九四六(昭和二一)年四月二五日に戦災復興院が決定したもので、品川区東大井一丁目を起点とし、板橋区氷川町を終点とする全長が二万二三五〇メートルの都市計画道路で、「特定整備路線補助二六号線」と通称されているものです(以下「本件都市計画決定」といいます。)。
東京都は、戦後七〇年の昨年になって、東京オリンピックが開催される二〇二〇(平成三二)年までを事業期間として、本件都市計画決定に基づく道路事業の認可を取得しました(以下同認可を「本件事業認可」、同認可の対象事業を「本件事業」といいます。)。本件事業の結果「ハッピーロード大山商店街」(中小企業庁選定の「がんばる商店街七七選」にも選ばれています。)が分断されることになります。
「ハッピーロード大山商店街」は東西に長く連なるアーケードが特徴で、お年寄りから子どもたち、ベビーカーを押す親子連れまで、安心して買い物ができると評判の商店街です。板橋区だけではなく近隣の地域からの買い物客が絶えません。この点で本件事業によって「ハッピーロード大山商店街」が分断されてしまうものですから、「ハッピーロード大山商店街」で生業を営む住民、その商店街に居住する住民、またその商店街で買い物を楽しみ、通勤・通学で利用する住民のかけがえのない権利を奪うことになります。
しかも、大山地区では「ハッピーロード大山商店街」の活気をさらに活かすべく、これまで住民と板橋区が協議して「大山まちづくり総合計画」を策定するなど、住民との合意の上で街づくりを進めてまいりましたが、本件事業認可は、住民との協議ではなく再開発を優先し道路整備ありきで、住民や地域環境を置き去りにして唐突に進められたものなのです。
本訴訟は、戦後直後に決定された本件土地計画決定を強引に持ち出し、東京オリンピックや防災を殊更に強調して、再開発優先、道路建設ありきの本件事業認可の違法性を問うものです。
二 違法性
現時点において大きく(1)本件都市計画決定の違法性及び(2)本件事業認可自体の違法性を主張しています。それぞれ簡単に紹介します。
(1)①本件土地計画決定の違法性に関して
第一に、本件土地計画決定の決定をしたのが、旧都市計画法第三条一項が規定する主務大臣ではなく、国務大臣ですらない戦災復興院総裁(民間の建築家であった阿部美樹志氏)であるという点です。
第二に、旧都市計画法三条二項には都市計画決定の関係図面を縦覧に付するようにとの規定があるにもかかわらず、本件都市計画決定の関係図面が付されていないという点です。
(2)②本件事業認可自体の違法性
第一に、「公共の福祉の増進」(都市計画法一条)に寄与しない点で違法であるといえます。すなわち、本件事業区間の東端にある踏切は東武東上線との平面交差によりいわゆる「開かずの踏切」(最大一時間あたり約四七分)となっており、この現状を放置したまま本件事業が進めば交通渋滞が増発することは明らかであり、本件事業の目的である「交通の円滑化」に資さないばかりか、交通量の増大による付近住民の健康被害等の発生が懸念されます。さらには、今日の用途として「延焼遮断帯」の設置を挙げていますが、延焼遮断の改善率は僅かなものとされています。このように、本件事業が公共の福祉の増進に寄与するとはいえません。
第二に、「環境配慮義務」(都市計画法一条、二条、一三条)に違反する点で違法であるといえます。すなわち、本件事業完成後、交通量が増加することに関して、環境基準値を達成できるか否かの見込みが示されていませんし、上述のとおり、「開かずの踏切」が開くのを待つ自動車の排気ガスなどで、周辺環境の著しい悪化が容易に予想されます。このように、環境配慮義務にも違反するといえます。
第三に、交通の円滑化のためであるとしても、本件事業は、全国的に有名な「ハッピーロード大山商店街」を分断し、「開かずの踏切」付近での交通渋滞と環境汚染を引き起こすものであり、「土地の合理的利用」(都市計画法二条)にも適さず違法であるといえます。
三 提訴
二〇一五(平成二七)年八月二一日に提訴しました。原告一〇数名と共に横断幕を掲げビラを配布するなど地裁前で提訴行動をし、記者会見に臨みました。記者会見にはテレビ局や新聞社が詰めかけ「ハッピーロード大山商店街」に対する注目度が高いことが改めて実感されました。その後、実際にテレビで放映されるなどして原告の士気が高まりました。
四 第一回期日
二〇一五年(平成二七)年一二月一八日に第一回期日を迎えました。この日も地裁前で横断幕を掲げビラを配布してから一〇三号法廷に入りました。原告のみならず多くの付近住民が傍聴にお越しになり一〇三号法廷の傍聴席がほとんど埋まるような状況となりました。そして、原告団長他二名の方に意見陳述の機会が与えられ、三名とも「ハッピーロード大山商店街」への愛着とともに何故今頃になって分断するのか「ハッピーロード大山商店街」を残してほしいと裁判官に向けて切々と語りました。
その後報告集会にも四〇名を超える方々が集まり、望年会にも原告を中心に二〇名が集まりました。
五 最後に
まだ裁判は始まったばかりで、今後長期の闘いとなることが予想されます。原告らと共に力を合わせ、時には法廷外での地域運動を盛り上げながら、「ハッピーロード大山商店街」の分断を食い止めることが出来るよう全力で取り組んで行く次第です。また、同じような問題を抱える地域の方々と意見交換をしながら協力し合って解決してきたいと思っています。
次回期日は三月一五日一四時から、場所は東京地裁一〇三号法廷となっております。ぜひ傍聴にもお越しください。
皆様、今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。
神奈川支部 川 岸 卓 哉
一 求人票と全くことなる就労実態の末の過労事故死
二〇一四年四月二四日午前九時頃、二四歳だった若者が、株式会社グリーンディスプレイにおける徹夜勤務から原付バイクで帰宅途中、川崎市の路上で電柱に衝突して死亡しました。一周忌の昨年四月二四日、横浜地方裁判所川崎支部へ、会社の安全配慮義務違反があったとし提訴しています。さらに、この件に関し、本年一月二三日、虚偽の労働条件での募集があったとして、職業安定法違反で会社を刑事告訴しましたのでご報告します。
事故死の半年前の二〇一三年一〇月、被害者は、グリーンディスプレイ社で、百貨店などに観葉植物を飾り付ける仕事を、アルバイトとして始めました。きっかけは、被害者が大学卒業後も、就職難で就職先がなかなか決まらない中、ハローワークで見つけた正社員の求人票に応募したことでした。しかしながら、被害者の従事した労働実態は求人票の記載とは全く異なるものでした。募集内容は「試用期間無し」の「正社員」でしたが、会社は、被害者に対して、試用期間と位置付けアルバイトとして働くことを求めました。被害者は、正社員として採用してもらうために、会社に言われるままに働きました。残業時間も、求人では「月平均二〇時間」とされていましたが、過労死認定基準を超える月平均八〇時間以上に及んでいました。さらに、就業時間は「八時五〇分〜一七時五〇分」とされていたにもかかわらず、顧客店舗営業時間外に植物を装飾するため徹夜で長時間作業することは避けられない業務であり、深夜不規則労働は、被害者の疲労をさらに蓄積させました。このような状況で半年間アルバイトとして働いた末ようやく正社員として採用されたわずか一か月後、被害者は、二二時間連続の徹夜勤務後に原付バイクで帰宅途中、極度の疲労状態から、今回の事故死に至たりました。
二 死文化した職業安定法の虚偽求人規定
被害者がグリーンディスプレイ社で働く原因となったのはハローワークに出されていた虚偽の求人票でした。ハローワークの求人票が実際の労働条件と違うという相談は全国の労働局に相次いでおり、厚労省の集計では、二〇一五年度には一万二〇〇〇件に上っています。うち、三割の四千件以上で、実際に食い違いが確認されています。
職業安定法六五条には、虚偽の条件を呈示しての職業紹介、労働者の募集に対しては、六か月以下の懲役又は三〇万円以下の罰金が定められています。しかしながら、これまでこの罰則が適用され処罰されたことはなく、完全に死文化しています。さらに、厚労省は、ハローワークにおける求人については、職安法の刑罰が適用されないという解釈をとっています。国は、虚偽求人問題に対して対策を怠ってきたと言わざるを得ません。このような状況を打破するため、ブラック企業対策プロジェクトと連携し、会社の求人票に虚偽があったとして、刑事告訴するに至りました。
三 ブラック企業の入り口としての求人詐欺
国が対策を怠ってきた背景には、求人情報はあくまで会社側の「広告」であり実際の労働条件を正しく示す必要はなく、若者が求人票と実際の就労実態の違いに気付けば、その時に仕事を辞めれば構わないと、問題を軽視する考えがあります。しかし、いわゆる「ブラック企業」は、好条件をエサに社会経験の少ない若者をだまし、過酷な仕事を押し付けてきました。若者にとっては、働き始めるまでどこがブラック企業かわからず、虚偽の求人だと気づいても、短期間で仕事を辞めればキャリアに傷がつき次の就職先も望めないため、簡単に辞めることはできないのが実態です。結果、過酷な労働に従事し、心身の健康を害し、時に命までも奪われます。ブラック企業対策は、入り口の求人段階での対策が重要なのです。
本件告訴は、各メディアでも取り上げられ、塩崎厚労大臣も虚偽求人に対する対策の必要性を明言し、厚労省内において、青年若者雇促進法(いわゆるブッラク企業対策法)の実効化や、職業安定法の改正などの検討が始まりました。求人詐欺に対する問題提起をさらに社会に広め、抜本的対策となる制度作りが求められます。
東京支部 馬奈木 厳太郎
一 想田和弘さんを迎えて
一月二六日、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の第一六回期日が、福島地方裁判所において開かれました。この日は、国と東電から新たな書面が提出されました。
国の書面は、裁判所が実施に前向きな検証について、実施の必要性も相当性もないとし、仮に実施するにしても、浜通りと中通りを一日で周って実施すべきだとするものです(検証申出に対する意見書)。
東電の書面は、検証について、放射線量や地域の現状については行政情報や報道などの資料で十分であり、原告本人尋問も行っているのであるから、実施の必要性や相当性はないとするもの(検証申出に対する意見書)、原告側が求めている津波試算に関する資料を提出すべき必要性も合理性もないとするものです(文書送付嘱託申立に関する意見書)。
原告側からは、国と東電の検証に対する意見について、裁判所自ら現地を訪れ直接被害実態に触れることが重要であるとして、検証実施の必要性について反論したもの(意見書)、東電の津波試算に関する資料の提出について、裁判所が審理対象を明言しているにもかかわらず審理に必要ないとすることが議論の蒸し返しにすぎないなどと反論したもの(文書送付嘱託申出書の補充書)などの書面を提出しました。
期日当日は、雪が少ない今シーズンとはいえ、寒い一日となりましたが、本年最初の期日ということもあって、あぶくま法律事務所前には三〇〇名ほどの方が集まり、配布資料が足りなくなる事態となりました。朝のテレビ番組を終えて駆け付けた堀潤さんや、映画『大地を受け継ぐ』を撮った井上淳一監督、原発事故被害救済千葉県弁護団の藤岡拓郎団員と滝沢信弁護士、東電の記者会見に最も参加しているおしどりの二人、かもがわ出版編集長の松竹伸幸さんが参加されたほか、傍聴席に入りきれなかった方々向けの講演会では、『熱狂なきファシズム』の著者で映画作家の想田和弘さんが、「安倍政権とどうたたかうか」と題して講演され、こちらも大好評でした。
二 二回目の原告本人尋問
この日は、前回に続いて原告本人尋問が行われ、六名の方が法廷に立ちました。お子さんとともに避難したお母さんの立場から健康被害や地元での生活・人間関係などについての苦悩や葛藤を語ったほか、国と東電による一方的な線引きに対する異議と福島県外での被害実態、避難先と避難元との二重生活に伴う苦労や苦痛、稲作などが行えない生産者の怒り、地域の伝統行事が失われていく無念さなど、事故直後の様子や被害の実態、事故から五年近く経過した現在の状況、国と東電に対する想いなどについて、それぞれご自身の言葉で語られました。それに対して、国や東電の反対尋問は、受領した賠償額がいくらかといったものや自宅から最寄りの線量測定器までの距離を確認したうえで線量の状況を尋ねるといったもので、原告の被害を相対化し、代表性を薄め、被害を小さく見せようとすることに徹底したものでした。
三 浜通りの検証が正式決定
もう一つ、今回の期日では、浜通り(浪江町・双葉町・富岡町)での検証が正式に決定されました。実施は三月の予定ですが、福島第一原発事故をめぐる裁判で検証を実施するのは全国で初めて、避難指示区域に裁判所が立ち入るのも初めてのこととなります。期日翌日の新聞各紙には、「生業訴訟で現地検証」(朝日新聞)、「避難区域内で三月現地検証」(福島民友)といった見出しが並びました。
また、裁判所は、福島市など中通りでの検証の実施についても別途期日を設けて実施する意向を示しました。中通りにおける被害の実態を明らかにするためにも、浜通りとあわせて中通りでの検証は極めて重要です。
公害訴訟などのたたかいの歴史においては、「裁判官を飛躍させる」という言葉がしばしば語られますが、被害実態を余すことなく明らかにするためにも、原告本人尋問も検証も全力で取り組む決意です。
石川県支部 菅 野 昭 夫
このような中で、思いかけずに大統領候補者として脚光を浴びてきたのは、バーニー・サンダース上院議員です。サンダース議員は、学生時代から「民主的な社会主義者」を自認し、労働運動、公民権運動などで進歩的な立場で活動に従事してきました。その後、二大政党制が支配するアメリカにおいて、長く、共和、民主両党に属しない無党派の政治家として、バーモント州選挙民の圧倒的支持を得て、バーリントン市長(四期)、合衆国下院議員(一六年)を経て、二〇〇六年からは上院議員を務めています。その間、イラク戦争の開始と継続や愛国者法などの治安立法に反対し続け、格差是正を訴えて金持ち減税に異を唱え、グリーンスパン連邦準備銀行総裁の金融政策に批判的立場を堅持し、などなど、全米で最も進歩的な無党派議員として知られてきました。その彼が、二〇一五年四月に民主党予備選挙への参加を表明し、それ以後資金集めでは大企業からの献金を断って小口の個人献金を募る運動を展開し、オバマの一期目の選挙を上回る成果を獲得しています。彼の選挙キャンペーンでの訴えは、社会的格差の是正と貧困問題の解決、最低賃金の改善、国民皆保険、ウオール・ストリートを初めとする金融資本の規制強化、金持ち優遇税制の廃止と中間層への減税等オバマがなしえなかった政策課題を提起しています。これらの点で、彼は歴史上の民主党候補者のなかでも最も進歩的な政策を提起しているようです。
現在の世論調査は、民主党支持者の中で、彼はヒラリー・クリントンを猛追しており、しばしば優位に立っています。また、トランプなどの共和党候補者との選挙という点でも、ヒラリーよりも当選可能という数値を得ています。
彼がもし二月一日から始まるオハイオ州の党員集会とそれに続くニューハンプシャー州の予備選挙に連勝して勢いをつけ、さらに三月一日全米の多数の州で行われるスーパーチューズデイと呼ばれる予備選挙の多くで勝利すれば、民主党の候補指名を受けることもありえることになります。しかし、彼は、民主党支持者のなかで鍵を握る黒人やヒスパニック層には浸透していないという弱点があります。加えて、もし民主党の指名を得ても、共和党との本選挙では、巨大メディアでの広告宣伝が選挙を左右することになり、大資本に資金を頼らない姿勢をどれだけ貫けるのかが試されることになります。著名な進歩的学者のノーム・チョムスキーは最近アルジャジーラとのインタヴューで、「サンダースは最上の候補者ではあるが、金がものを言う今の選挙で究極の勝利を得るとは思わない」とコメントしています。さらに、かれの政策があまりにもリベラルすぎるという懸念に対して、彼の陣営は最新のタイム誌の取材に「彼はプラグマティストである」とも述べていますが、結局は、当選のために、または当選しても、政策を変更せざるを得なくなるのではないかとも危惧されています。
最後に、日本との軍事同盟関係については、共和党、民主党のどの候補も全世界におけるアメリカの軍事プレゼンスを是としており、どの候補が当選しても、これまでの政策に変更は見られないと予測せざるを得ません。
(なお、一月二四日のNBCテレビで、ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が、無所属での出馬を検討していることを報道していますが、富においてはトランプをはるかにしのぐ同氏の立候補はもし現実のものになれば、様相はさらに興味深いものになると予測されます。)
二〇一六・一・二八
東京支部 和 泉 貴 士
五 牧馬残土処理場反対運動
次に、もう一つの特徴的な運動として、牧馬を紹介する。
神奈川とはいえこの辺りの地域は水道もなく沢の水を汲んで飲料水として利用している。もともと旧藤野町と呼ばれるこの地域は、かつて行政が芸術家を積極的に誘致した時期があり、山間の芸術家村とでもいうべき地域だ。この地域の独特な風土を愛して移住してきた若い世帯も多い。違法な産業廃棄物処理場やごみの不法投棄に苦しんできた地域でもある。
牧馬にはパーマカルチャーセンタージャパン(http://pccj.jp/)という環境問題に取り組む団体の本部がある。パーマカルチャーの発祥はオーストラリア、消費社会に疑問を呈し、地球に負荷をかけない持続可能性ある生活への転換を提唱している。ビレッジヴァンガード町田店で先端的な環境運動として本が紹介されたり、歌手のUAが活動を紹介するなど、環境問題に関心のある人々の間では徐々に知られつつある。大企業が作った物を大企業の言い値で購入し、その資金を得るために企業で長時間働く。現代社会を生きる私たちが抱える問題について、消費に束縛される暮らしを見直し自給自足の比率を増やすことによって解決を目指せないか。パーマカルチャーが提唱する視点は、私にとっても十分共感できるものであった。
パーマカルチャーの理念に共感して牧馬に移住した若い世帯も多く、その中で生まれたのが女子会運動だ。若い世帯の女性が中心となって、様々な社会問題について勉強会を行う。その過程でリニアに関する勉強会も開催され、地域を挙げての反対運動の契機となった。
折しもその頃、パーマカルチャーセンターの代表理事を務めるSさんの借家が不動産屋業者に買収されるという事態が生じた。相模原市の不動産業者が、リニアの残土処理場の建設目的で牧馬の土地買収を行っていることが判明した。
不動産業者の説明は、「牧馬にはリニアの非常口ができる。大量の残土が発生し、これを搬送するために大量のダンプが集落を走り回るようになる。これを防止するためには牧馬に全土処理場を作るしかない。県と市の内諾も得ておりもう決まった事なので、ぜひ協力して欲しい。」というものだった。しかし、後日これは全くの虚偽であることが判明した。
早速弁護団は現地に向かう。転落しそうな隘路を尾林弁護士の運転で現地を視察した。地主が変わっても賃借権は対抗可能であると説明し、集落での一致団結しての反対こそが集落を救うと説明した。
その翌週には村祭りがあり、集落の全員が顔を合わせる意思統一の最大の機会であったので、白神弁護士にお願いして村祭りに参加してもらった。残土処理場建設反対で集落の意思は統一された。さらに、不動産業者による買収交渉についても情報収集を行い、業者が自治体の承諾を得ている等、虚偽の説明を行っていることの確証も得た。
実は、約九割をトンネルが占めるリニアの建設工事について、残土処理場は必要ないというのがJR東海や自治体の見解である。発生した残土は、リニア工事の埋め立てが必要な部分や、他の公共事業で使用すると述べて、十分なアセスも行わないまま現在に至っている。上記見解自体がリニア建設工事に関する最大の疑問の一つなのだが、残土処理場について自治体の内諾を得ているという不動産業者の説明はこの見解と明らかに矛盾する。この点を突けば、残土処理場計画を頓挫させる事は可能であると考えた。この方針は、後述する議会質問で実を結ぶ。
不動産業者は、Sさんに対して、残土処理場の計画が認可されたら退去する旨の条項を入れた新しい契約の締結を求めてきた。弁護団は不動産業者との交渉を受任し、賃貸借契約について従前どおりの条件を維持することに応じさせた。
六 議会質問と序盤戦の勝利
相模原市において、リニアの建設に反対している政党は日本共産党のみである。共産党の田所健太郎相模原市議とは、従前から定期的に連絡を取り合い、活動を続けてきた。その田所市議から、牧馬の問題を市議会の質問で取り上げたいとの連絡があった。
平成二七年一二月一七日、連絡会や牧馬の住民など多数の傍聴者が詰め掛ける中、議会質問は行われた。まず、田所議員はリニア新幹線について、市が残土処理場建設に関与している事実はあるか確認した。市はこれを否定し、不動産業者による市の内諾云々の主張が虚偽である事が明らかとなった。続けて、相模原市で発生する残土の処分先について確定しているものがあるかと田所市議が質問した。市は、三〇%は鳥屋の車両基地の埋め立て工事に使う、残りの七〇%の処分先については決まっていない。公共事業での利用が不可能な場合には、JR東海が「責任を持って処分する。」と聞いている、と回答した。この「責任を持って処分する」方法の一つが牧馬の残土処理場だったのだろうかと想像すると(つまり、「責任を持って地域住民を立ち退かせる」ということだ。)、あまりにお寒いリニアの工事計画の一端が見えてくる。
ともあれ、牧馬の残土処理場問題は、住民運動、弁護士、市議の連携により、事実上阻止された。
七 裁判闘争へ
鳥屋や牧馬の問題と並行して、連絡会では訴訟に向けた準備活動も行ってきた。
平成二七年一〇月に原告団募集のためのシンポジウムを開催し、パーマカルチャーセンターのS氏と私が講演を行った。S氏は、リニアに代表される大規模設備投資中心の都市計画や産業構造を批判し、消費に依存せず地域環境を大切にする生活こそが日本の将来にとって必要であると訴えた。私はこれを受けて、そのような生活の実現するための手段、具体的にはリニアを止めるための具体的戦略と裁判の意義を語った。市民運動家が理想を語り、弁護士がその法的、運動論的裏付けを語る、そのコンビネーションはまずまず聴衆の耳には分かりやすく響いた模様だ。徳田弁護士からも運動に関して報告があった。多数の原告団参加者を得た。
八 終わりに(弁護士が地域で活動するということ)
地域事務所の弁護士の仕事の醍醐味は、運動を作ることだと思う。弁護士の助言でパズルのピースがつながるようにして、人間の有機的な連携が生まれることも少なくない。他者が既に引いたレールの上を走る作業とは異なり、運動を一から作り出す作業には、それが世間に知られていない問題であればあるほど、開拓者としての楽しみがある。
沢山の出会いが生まれ、それが活動のエンジンとなった。単に集まって不平不満を語るだけではない、他者と理想を語り合い共有することは感動を生む。そのような出会いを増やすためにも、たけのこトラストなど皆が楽しく参加できる企画を考え続けていきたい。
繰り返すが、真にリニアを止めるためには地域の地雷原化が必要だと考えている。弁護士と地域住民が連携しあって日本中を地雷原化して工事を遅らせ、世界最速、三大都市圏融合の夢の裏に隠れた諸問題をあぶり出すと同時に経済的に追い詰める。そのような活動が各地で行われて欲しいと思う。
以上が、リニア前哨戦の活動報告である。今後も様々な人と出会いを楽しみながらリニア反対運動を続けていきたい。
東京支部 早 田 由 布 子
一 本年二月二日、TPP協定の仮訳が発表されました。二月四日にオークランドで行われた調印式のわずか二日前に日本語訳が発表されるという、国民が検証する機会をまったく無視した、アリバイ的な公表と言わざるを得ないものでした。
二 TPP協定書は、全文で二八〇〇ページという大部なものですが、労働分野に関する章は二四ページあります。TPP締結国に課せられた義務の多くは、強制労働の撤廃、児童労働の廃止など、日本の労働基準法以下のものとなっています。そのため、昨年一〇月五日に内閣官房から公表されていた概要では、「追加的な法的措置が必要となるものはない」とされています。
しかし、労働者の権利向上のため以外の点で、TPP締結国が「協力」するとの定めがなされています(第一九章「労働」第一〇条)。問題は、その協力がなされる分野です(六項)。これを見ると、TPPを口実に労働規制緩和がすすめられるのではないかと思えるものがいくつかあります。
三 たとえば、
「(a)雇用の創出及び生産的で質の高い雇用の促進(豊富な雇用を伴う成長を創出し、並びに持続可能な企業及び企業家精神を促進する政策を含む。)」
これは、「生産的で質の高い雇用の促進」のためと言って、ホワイトカラーエグゼプションがすすめられるのではないか、また、「企業家精神を促進する」ためには、人件費が高かったり労働規制が厳しかったりするとこれを阻害するなどと言われかねません。
また、
「(c)労働者の福祉を向上させ、並びにビジネス及び経済の競争力を高めるための職場における革新的な慣行」
「競争力を高めるための」「革新的な」という規制緩和のキーワードが並んでいます。残業代支払いの免除、労働時間管理の免除、あるいは解雇規制の緩和などにつながるおそれがあります。
あるいは、
「(o)経済危機における労働及び雇用に関する課題に対処すること」
これは、整理解雇規制を経済危機の場面では特に緩和しましょうという発想につながりかねません。
リーマンショックのときに派遣労働者が大量の派遣切りにあい、雇用の調整弁とされたことは記憶に新しいところですが、派遣といわず直雇用の社員であっても、経済危機なのだから、解雇しよう、あるいは簡単に賃下げできるようにしよう、ということがありえます。
四 TPPでは、日本政府がTPPの義務に反していた場合、これによって企業活動が阻害されたという外国企業が日本政府を直接訴えて損害賠償請求をすることができる、いわゆるISDS条項が問題をはらんでいます。これらの労働分野における協力が、もしISDS条項の対象となるとすれば大きな問題です。さらに、ISDS条項の適用がなかったとしても、TPPでこういう条項があるからと、規制緩和の立法の口実にされることは、容易に想像ができます。
TPPでは関税ばかりでなく、非関税障壁といわれる分野もとても重要です。医薬品や金融その他、関連する分野をぜひご一読ください。
(労働分野)
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/text_kariyaku/160202_kariyaku_19.pdf
(全体の目次)
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/tpp_text_kariyaku.html
事務局次長 久 保 田 明 人
一 二〇一六年二月五日、東京の全労連会館で「安倍政権下の派遣法制と解雇法制の問題点」学習討論会を開催しました。若手を含め団員や団体職員三七名が参加しました。
学習討論会では、まず、高橋賢司さん(立正大学准教授)から「EU法・ドイツ法における労働派遣法と解雇の補償金制度」についてご講演いただき、その後、昨年九月一一日に成立した改正労働者派遣法と現在導入が進められようとしている「解雇の金銭解決制度」について討論を行い、日本の問題点とこれからのたたかいを話し合いました。
二 高橋さんのご講演では、EU法・ドイツ法における労働者派遣法の原理・経緯をご説明いただきました。
ドイツでは、同一賃金原則の適用除外により派遣労働者の賃金が安く抑えられていたことに加え、当初、短期に定めていた派遣可能期間を規制緩和により撤廃したことにより、派遣労働者数が増加し、あわせてワーキングプア労働者も増加するという結果をもたらしました。
EU法は、雇用の質と安定性を保障することを原理として、EU労働者派遣指令で、派遣はあくまで「一時的な労働」であることと、直接雇用との平等取扱原則が定められております。ドイツでは、規制緩和によりワーキングプア労働者が増加したことも踏まえ、EU指令を国内法に置き換えるべく、一時的な労働と最低時間賃金を規定するという再規制の方向へと進んだとのことです。
ドイツは、同一賃金原則をとらず派遣可能期限を撤廃した場合に派遣労働者が増加し、ワーキングプアも増加することとなり、日本の負の先行事例であるとご説明いただきました。
三 また、ドイツにおける解雇の補償金制度についてもご紹介いただきました。
ドイツでも、労働者の申立てに基づき労働関係を解消し、使用者に対し相当な補償の支払いを命じる「解消判決」という制度がありますが、労働関係の存続を保護することが解雇制限法の趣旨であることから「解消判決」は法律上厳格で、運用も厳格になっています。
すなわち、「解消判決」は、解雇訴訟で労働者側が勝訴する場合で、かつ、労働関係の存続が労働者には期待しえない場合(いじめが予想される場合、労働者による名誉棄損がある場合など)にしか認められず、実際にも実務ではほとんど利用されていないとのことです。
日本で導入されようとしているような「解雇したいときに保証金をつけて解雇する」という制度ではなく、「解雇の金銭解決制度」はこれまで築き上げてきた解雇法制をなし崩しにすることとなるとお話しいただきました。
四 高橋さんからのご講演と質疑応答の後、鷲見賢一郎・労働法制改悪阻止対策本部本部長から、討論にあたっての問題提起をいただき、参加者間で担当事件のご報告、主に派遣労働者の日本における処遇や問題点について活発な議論を行いました。
五 本学習討論会では、改正労働者派遣法が労働者の生活を破壊するものであり、日本で導入しようとしている「解雇の金銭解決制度」が労働者のためではないことを改めて確認することができました。
自由法曹団ではこのような改正労働者派遣法や「解雇の金銭解決制度」にみられる、「労働」の根本的なルール、すなわち、安定性・平等性があり生活の需要を満たし、健康と安全を守る「労働」を根底から覆す安倍政権の策動に今後も断固として反対していきます。
岡山支部 清 水 善 朗(弁護団長)
二〇一四年一月に、倉敷民主商工会(以下、「倉敷民商」とします)の事務局員であった禰屋町子さんが法人税法違反で逮捕され、同年二月に、倉敷民商の事務局長小原淳さんと事務局員の須増和悦さんが逮捕されました。禰屋さんは、法人税法違反幇助と税理士法違反で起訴され、小原さんと須増さんは、税理士法違反で起訴されました。
起訴事実の税理士法違反というのは、事務局員が税理士資格を有しないのに倉敷民商会員の確定申告書を作成したというものです(税理士法五二条)。しかしながら、三人の事務局員たちは、会員本人が確定申告書を作成するのをサポートしただけであり、それによって、何らの実害も生じていません。
これまで、弁護団は、税理士法違反の点について、(1)本件公訴は民商を狙い撃ちにした差別的な強制捜査と起訴であって公訴権の濫用である。(2)自主申告権を制限する税理士法五二条は限定的に解釈すべきであり、事務局員の行為は税務書類の作成に該当しない。(3)事務局員の行為には可罰的違法性がないとして、事務局員の無罪を訴えてきました。しかしながら、小原さんと須増さんの事件について岡山地裁、広島高裁岡山支部ともに有罪とされ、現在上告審で審理中です。
なお、禰屋さんの事件は岡山地裁で審理中です。
この裁判は、民商とは何か、申告納税制度、納税者の権利の憲法上の位置づけや民商の結社の自由が問われている憲法訴訟であり、全国の民商組織に影響を与えるものです。
つきましては、全国の自由法曹団の先生方に小原さんと須増さんの上告審の弁護団に加わってもらいたいのです。そして、弁護人となられたからには単に名前を出すということにとどまらず、上告趣意書を作成して頂きたいのです。
弁護団に参加していただける方は、
倉敷民商事件事務局・弁護士岡邑祐樹
木もれび法律事務所
電 話:〇八六―四三五―〇九三三、
FAX:〇八六―四二二―五五〇四、
メール:okamura_yuuki@mbr.nifty.com
まで御連絡くださるようお願いいたします。
また、三月四日(金)午後一時より、自由法曹団本部にて、倉敷民商事件の状況共有・意見交換会を開催したいと思いますので、こちらも是非御参加下さい。