過去のページ―自由法曹団通信:1564号      

<<目次へ 団通信1564号(6月21日)


今村 幸次郎 改憲阻止のために―参院選勝利を
西田 穣 *五月集会特集*
札幌・定山渓五月集会のご報告
白根 心平 ―五月集会・新人弁護士学習会―
勇気を受け継ぐ
守川 幸男 ヘイトスピーチ問題の位置づけについて
大久保 賢一 オバマ大統領の広島訪問に想う
永尾 廣久 団通信とホームページのリニューアル
後藤 富士子 「隔離法廷」の違憲性
――憲法七六条からの乖離について
仲里 歌織 「わたしたちの政治活動は自由だ。」
リーフ完成!ぜひご活用を(^o^)



改憲阻止のために―参院選勝利を

幹事長  今 村 幸 次 郎

 参院選が六月二二日公示、七月一〇日投開票と決まりました。安倍首相は、三月二日の参議院予算委員会で、自らの在任中に「憲法改正」を成し遂げたいと明言しました。今年の参院選で自公におおさか維新の会などをあわせて三分の二以上の議席を確保したうえで「憲法改正」を進める考えも繰り返し表明してきました。
 しかし、安倍首相は、参院選を間近に控えた現在、あれほど繰り返していた「憲法改正」にほとんど触れなくなりました。参院選では「消費増税再延期・アベノミクス継続の信を問う」をテーマにしようとしています。自民党パンフレットでも強調されているのは、「『経済の好循環』をさらに加速」「さあ、一億総活躍社会へ」「地方創生を目指します」などで、「憲法改正」は政策BANKの末尾に小さく盛り込まれているにすぎません。
三 けれども、この手法にだまされてはいけません。二〇一三年七月の参院選に「アベノミクスの三本の矢、この道しかない」と訴えて選挙に勝った安倍首相が行ったのは、日本版NSCの創設、秘密保護法の強行、武器輸出三原則の廃止、集団的自衛権容認の閣議決定でした。二〇一四年一二月の衆院選も、自民党のキャッチフレーズは「景気回復、この道しかない」でしたが、選挙で多数を得た安倍首相が行ったのは、問答無用の戦争法制定でした。
 七月の参院選は、九条二項削除・国防軍創設の改憲草案を掲げる安倍政権による改憲発議を許すのかどうかが問われる重大な政治決戦です。どんなに隠そうとしても、安倍首相の本音が九条改憲にあることは間違いありません。私たちは、これを絶対に許すわけにはいきません。
 歴史的共闘を実現させた野党四党は、六月一日、安倍政権のもとでの改憲に反対、格差と貧困の是正、安保法制(戦争法)廃止など、参院選に向けた共通政策を確認しました。全国三二の一人区すべてで野党統一候補の擁立が決まりました。さらに六月七日、野党四党と市民連合は、安保法制(戦争法)廃止、立憲主義回復、改憲阻止、個人の尊厳擁護のための具体的な政策要望につき合意し、自公を少数に追い込むために力をあわせることを確認しました。
 勝利の条件は整いつつあります。しかし、それだけで勝てるわけではありません。あとは私たち一人一人の奮闘にかかっています。立候補を決意された団員各位の支援をはじめとして、改憲を阻止するため、参院選に勝利するため、みんなで力をあわせて頑張りましょう。今こそ集中して全力を尽くす時です。


*五月集会特集*
札幌・定山渓五月集会のご報告

事務局長  西 田   穣

一 はじめに
 本年五月二八日から三〇日にかけ、札幌・定山渓において、二〇一六年五月研究討論集会が開催されました。安倍政権の暴走、そして改憲策動が押し進められる情勢のもと、憲法、平和、人権を守るべく、全国から四六四名の参加者が集まり、経験交流と熱心な討論が繰り広げられました。
 詳細はおって団報にて報告しますが、取り急ぎ概略につき、ご報告します。
二 全体会(一日目)
 全体会の冒頭、北海道支部の大賀浩一団員と東京支部の三澤麻衣子団員が議長団に選出されました。荒井新二団長の開会挨拶に続き、北海道支部の佐藤哲之団員(支部長)から歓迎の挨拶がありました。
 来賓として、地元札幌弁護士会から愛須一史会長、全国商工団体連合会から石塚隆幸副会長、日本共産党から仁比聡平参議院議員にご挨拶をいただきました。
 その後、北海道大学法学部教授の遠藤乾教授の記念講演があり、続いて、今村幸次郎幹事長から、安倍政権の改憲策動を打ち砕くべく、この夏の参議院選挙で、改憲勢力の三分の二以上の議席獲得を絶対阻止すべきことが訴えられました。また、アベノミクスの矛盾がもたらした経済格差是正のための雇用政策の抜本的転換の必要性、刑事訴訟法等一括改悪の問題点、TPP、ヘイトスピーチ、「主権者」教育、原発再稼働反対、女性差別撤廃、子供の貧困など、現在団が取り組んでいる重要課題についての基調報告と、分科会討論へ向けた問題提起がなされました。
 また、その後、全体会発言として、元朝日新聞記者の植村隆韓国カトリック大学客員教授、続いて、熊本支部から板井俊介団員からそれぞれ発言をいただきました。
三 記念講演
 全体会では、北海道大学法学部教授の遠藤乾教授を講師に迎え、「リベラルの安全保障論―安保/九条、抑止/和解、国家/人間―」と題した講演を行いました。憲法、平和を守るたたかいに取り組む団員には、「安全保障」という言葉自体に少なからず心理的な抵抗があるところ、遠藤教授からは、多くの国民の理解を得るために、リベラルの側から安全保障論を構築する必要があるとの指摘がありました。遠藤教授は、米中のはざまで揺れる日本の安全保障論の変異を概説しつつ、安全を保障(保持)するために、威嚇(抑止)と安心供与(和解)というスタンスがありうるところ、後者の安心供与を構成する防衛に専念することが必要であると指摘されました。我が国が戦後積み上げてきた憲法九条を基軸とする日本から攻撃をしないという安心供与のシグナルは、地域・日本の安全に寄与しているとも指摘されました。現状の安全保障体制の是非の問題はあるも、遠藤教授の視点は、各地の学習会などで、安心・安全を求める質問への回答を求められる団員の議論・思考の一助になったことと思います。
四 分科会
 今回の分科会も従前どおり、経験交流と討論とを交えて行われました。分科会の概要は次のとおりです。
1 憲法分科会(一日目、二日目)
 一日目は、情勢を中心に討議が行われ、東アジア情勢(南シナ海での米中の覇権争い、北朝鮮問題等)、国民の安全保障に関する意識に対して憲法の平和主義を活かしてどう応えるのか、明文改憲をめぐる攻防・緒論点についてそれぞれ基調報告が行われた後、南スーダンの情勢、緊急事態条項と改憲策動、JALISAのCOLAP・六等の活動報告、宇宙基本計画の問題点、NHK受信料訴訟などの報告・討議がなされました。
 二日目は、昨年の戦争法反対の運動の経験を報告し、今後の参議院選・改憲阻止の運動について討議しました。
 まず、岐阜支部・山田秀樹団員から、地方所属事務所での戦争法阻止の取り組みが報告され、「パパママの会」や青年団体、これまでつながりのなかった地方議員など地方でも共同のたたかいが実現されたことや、既存の民主団体の高齢化、無党派層への働きかけの必要性など課題も見えてきたことが語られました。その後、各地での運動の経験や教訓について活発に討議されました。
2 労働分科会(一日目、二日目)
 労働分科会は、二日間にわたって討論が行われました。
 一日目は、労働法制改悪問題がテーマでした。安倍政権が進める労働法制改悪などの問題、特に国会で継続審議となっている残業代ゼロ法案、厚労省の検討会で議論が行われている解雇の金銭解決制度、一億総活躍プランにも盛り込まれた同一労働同一賃金、全労連などと共著でマニュアルを作成した改悪派遣法に対する対応、各地域での取り組みなど、様々な問題についての報告があり、それを受けて活発な議論が行われました。
 また、二日目は、個別の労働事件をテーマに各団員から発言がありました。資生堂・アンフィニ事件やIBMロックアウト解雇事件、ブラック企業被害対策弁護団の活動、過労死事件、労働契約法二〇条の問題などについての報告があり、事件活動を通した経験交流が行われました。
3 刑事法制分科会(一日目、二日目)
 本分科会は、二日間にわたり開催し、一日目は、元・北海道警察の原田宏二さんのご講演と刑事訴訟法等改正案について、二日目は、弾圧事件「倉敷民商事件」について討議を行いました。
 一日目は、これまで警察の健全化・透明化について活動をされてきた元・北海道警察本部長・警視長の原田宏二さんに、現在の逸脱した警察捜査の実態や、刑事訴訟法等改正案が施行された場合にはより一層逸脱した捜査が行なわれる危険性が高いことについてお話しいただきました。その後、五月集会直前に成立された刑事訴訟法等改正案に反対するこれまでの運動が報告され、改正案の実践的課題を改めて検討し、今後も引き続き改正法に反対していくことを確認しました。
 二日目は、「倉敷民商事件」について、岡山弁護団より上告趣意書のポイントが説明されました。全商連からは、民商運動の歴史、運動の内容について話があり、この事件の本質が、民商の運動そのものに対する弾圧であることが報告されました。国民救援会からは、四月末に倉敷民商弾圧事件の全国連絡会を立ち上げたことが報告されました。今回の事件を契機とし、自主記帳、自主申告のために会員相互の協力や運動が必要となること、また、弾圧対策として、介入を招きにくい方法を取る必要があり、我々も理解を深めていく必要があることを確認しました。
 最高裁での戦いに向けて一致団結して頑張りましょう。
4 TPP分科会(一日目)
 冒頭でのTPPに関する国内外の情勢報告の後に、北海道新聞社編集委員・北海道大学客員教授である久田徳二さんから「TPPは諸権利を奪う」と題して基調講演をしていただきました。久田さんの講演は、「遺伝子組み換え」「残留農薬」「成長ホルモン」など食の安全安心の問題にスポットをあてて、TPPによって日本にもたらされる危険性を具体的に述べられ、綿密な取材に裏付けられた詳細な報告には説得力がありました。「北海道を守る一〇の戦略」は、北海道からTPPに関する情報を発信し、北海道の農業を守り、そして日本の食の安全を守るという強い意気込みを感じました。当面の課題として、政府に対して情報公開と詳細な説明を求めることが大切であり、TPP条項の内容の危険性分析と学習・議論の重要性を述べられました。大阪支部・杉島幸生団員からは、ISDS条項について、わかりやすくかつコンパクトに報告をしていただきました。その後の質疑応答も活発に行われました。
5 貧困分科会(一日目)
 本分科会では、前半は、北海学園大学教授の中囿桐代教授から、「子どもの貧困と母子家庭の抱える困難」と題してご講演いただきました。近年、報道でも取り上げられている子どもの貧困、母子家庭の貧困について、日本の貧困の実態を踏まえて、母子家庭における非正規、低賃金、長時間労働といった構造的な問題が子どもへのしわよせとなり、働いて子どもを育てられるという当たり前の生活の保障ができていない現状と課題についてお話いただきました。子どもの支援策の実効性にも課題が残り、申請しなければ支援を受けられないという申請主義の原則では子どもに直接届く支援が困難であるといった問題意識も共有されました。
 後半では、北海道支部の池田賢太団員から奨学金問題などの子どもの貧困に関わる弁護士の取り組みについて、東京支部黒岩哲彦団員から銚子事件での取り組みの成果と教訓について、東京支部田所良平団員から、東京都立川市の生活保護受給者に対する違法な就労指導で自殺した事件について、それぞれ報告がなされ、その後活発な意見交換がなされました。
6 女性差別撤廃条約分科会(一日目)
 女性差別撤廃条約分科会では、前半で、(1)女性差別撤廃委員会(CEDAW)日本報告審議傍聴の報告及びCEDAW総括所見についての報告、(2)二〇一五年一二月一六日最高裁判決についての解説と日弁連の取り組みに関する報告、(3)CEDAW総括所見を踏まえた慰安婦問題の解説(日本社会が世界の常識から孤立しないために)が行われました。日本政府が国際社会から度重なる指摘を受けながら、女性差別撤廃条約の目的達成に真摯に取り組んでいない実態が浮き彫りになりました。
 後半では活発な意見交換が行われました。男女の経済格差という視点も重要で、専業主婦の家庭で別姓を選択している例を知らない、経済的基盤がないと別姓を主張できないのではないか。離婚女性の貧困の拡大、現行の年金制度による高齢女性の著しい貧困化という問題等、男女差別が看過できないレベルで広がっており改善されていない、このような問題に切り込んでいくのがまさに団の活動であるはず。団の中でこういった問題に今後は取り組んでいくべきということが確認されました。
7 ヘイトスピーチ分科会(二日目)
 札幌の島田度団員から、ヘイトスピーチとは何かという基本的な話から、映像を交えながら被害の実情や団員としての取組みなどを交えた基調報告がありました。その後、札幌での「ウェルカムさっぽろアクション」の報告や、大阪での職場におけるヘイトハラスメント問題についての弁護団からの報告や原告からの被害の実情報告や支援のお願いがありました。また、地方公共団体向けにQ&Aパンフレットを発行した東京弁護士会の取組み、大阪市条例の制定の経緯や今後の課題、川崎での市民集会と今回の法律制定の経緯など、各地における取組みの報告がありました。質疑応答の中では、団としてヘイトスピーチの根絶に向けた各地の取組みについて、今後も継続的に経験交流していくことの提起がなされました。また、時間に限りがある中で、被害の実情も踏まえつつ、ヘイトスピーチ対策法について意見交換がなされ、決議案も一部表現の修正がありましたが、趣旨を変更することなく了承されました。
8 教育分科会(二日目)
 本分科会では、前半は、北海道大学名誉教授の姉崎洋一教授から、「『主権者教育』とは―憲法と教育基本法の観点から」と題してご講演いただきました。いかなる「主権者教育」(シティズンシップ)をめざすのか、何のための「主権者教育」なのかなどについて、学校教育の場面については文科省の一〇・二九通知等を題材として、社会教育・生涯教育(成人教育)の場面についてはさいたま市の九条俳句不掲載訴訟などを題材としてお話いただきました。
 後半は討議に入り、本部で作成した意見書「一八歳選挙権と政治教育・政治活動・選挙運動はいかにあるべきか」の解説、北海道の高校教員の校門前での署名活動への介入の問題、宮城県での育鵬社の教科書採択、高校での安保法制に関するアンケート問題、滋賀での学校での出前授業の報告、京都支部と東京支部・本部のそれぞれが作成した高校生の政治活動についてのリーフレットの説明、大阪での育鵬社教科書採択の問題点、今後の課題などについて報告が行われ、最後に行動提起があり、(1)学習会や懇談会の開催、(2)宣伝行動、(3)教育現場介入への迅速な取り組み、(4)学校現場の政治教育への積極的な参加を行っていくことが確認されました。
9 原発分科会(二日目)
 本分科会では、前半では、北海道支部の高葡ィ団員から、「核の時代に生きる私たち」と題して、被爆者との出会いや原爆症認定集団訴訟などご自身の経験を踏まえてお話いただきました。
 核兵器と人類が共存できないという大前提のもと、核兵器廃絶の運動にとどまらず、原発が核兵器と密接不可分であるにもかかわらず核の平和利用のもと許容されてきた歴史的経緯を踏まえて反原発運動へ取り組む重要性についても言及されました。
 また、後半の脱原発、被害救済訴訟の成果と課題の中では、現在の情勢と問題提起を踏まえて、脱原発分野では、高浜三、四号機の大津地裁仮処分決定の成果や名古屋での四〇年超の老朽原発に焦点をあてた高浜一、二号機の差し止め行政訴訟の報告がなされ、被害救済分野では、全国の訴訟状況を踏まえて、いわき訴訟や福島生業訴訟の現状や到達、その課題について報告がなされる等、全体を通じて活発な発言のもと充実した議論が行われました。
五 全体会(二日目)
 分科会終了後、全体会が再開され、次の一一名の全体会発言がありました。テーマと発言者は次のとおりです。
(1)安倍改憲策動とのたたかい〜憲法分科会の討論を受けて
  東京支部・山口真美団員
(2)元米海兵隊員による女性死体遺棄事件に抗議、全ての米軍基地の撤去をを求める決議(案)に関連して
  沖縄支部・林千賀子団員
(3)資生堂アンフィニ非正規切りとのたたかい
  神奈川支部・藤田温久団員
(4)刑事訴訟法等改悪阻止とのたたかいの到達点と課題
  東京支部・加藤健次団員
(5)大津地裁・原発運動差止仮処分決定の意義、裁判の経過、決定の特徴、今後の展開について
  滋賀支部・高橋陽一団員
(6)TPPの現段階と取り組みについて
  北海道支部・佐藤博文団員
(7)関西建設アスベスト訴訟、京都地裁判決について
  京都支部・村山晃団員
(8)高校生の政治活動の自由について
  東京支部・仲里歌織団員
(9)ヘイトハラスメント訴訟の報告と支援のお願い
  大阪支部・冨田真平団員
(10)女性参政権七〇周年の今年、女性の社会進出と選挙制度を考える
  東京支部・中野和子団員
(11)ヘイトスピーチ対策法制定を受けて、今後のヘイトスピーチ根絶に向けた団員としての取り組みについて
  北海道支部・島田度団員
 全体会発言に引き続いて、次の一〇本の決議が執行部から提案され、会場の拍手で採択されました。
(1)安倍政権の暴走を阻止するために全力を尽くそう
(2)元米兵海兵隊員による女性死体遺棄事件に抗議するとともに、全ての米軍基地の撤去を求める決議
(3)安倍政権の労働法制大改悪に反対し、働くルールの確立を求める決議
(4)夫婦同氏強制条項など民法の差別的条項の即時廃止を求める決議
(5)文科省の一〇・二九通知(「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」)等の撤回を求め、かつ、教育公務員特例法を改正して罰則規定を設けようとする動きに反対する決議
(6)ヘイトスピーチの根絶に向けてたたかうことを誓う決議
(7)福島第一原発事故による被害の全面救済の実現及び原発推進政策からの即時撤退を求める決議
(8)司法修習生に対する給費制復活を求める決議
(9)陸上自衛隊の実弾射撃訓練に強く抗議し、事実の解明と訓練の中止を求める決議
(10)道立高校教員が生徒に戦争法制反対の署名を要請したことについて北海道教育委員会が処分を行わないことを求める決議
 以上の決議が採択された後、拡大幹事会が開催され、新人団員の入団が拍手で承認されました。
 続いて、今年一〇月の総会開催地である佐賀県支部の名和田陽子団員から、開催場所となる佐賀県唐津市の案内と歓迎の挨拶をメッセージにて議長団が読み上げました。
 最後に、北海道支部の佐藤博文団員から閉会の挨拶が行われ、全てのプログラムが終了しました。
六 プレ企画について
 五月集会の前日(二八日)に、プレ企画がもたれました。
1 支部代表者会議
 今年は四年ぶりに支部代表者会議を開催しました。第一部「団支部活動の活性化をめざして」、第二部「事務所の人づくり・基盤づくり」の二部構成で討議しました。
 第一部では、事前アンケートの結果も踏まえ、出席支部から概況等の報告をいただき議論しました。戦争法反対・廃止の取り組みを通じて、若手の参加を含めて活動が盛り上がっている様子等が報告されました。団はこの一〇年で団員が約五〇〇名増え、二一〇〇名の体制となっています。うち三割(昨年総会時点で六二九名)が六〇期台です。引き続き、若手の参加、若手への継承等を含めて、団活動をどう活性化させていくか等について考えていきたいと思います。
 第二部では、弁護士をめぐる事業環境が大きく変化する中で、事務所の基盤をどう作っていくか等について意見交換しました。空白地域に積極的に進出している例や専門性をHPで訴えること等により財政基盤を支えつつ人権活動と両立させている例などが報告されました。貴重な経験交流の場になりました。引き続き議論していきたいと思います。
2 新人学習会
 新人学習会は、ベテランの佐藤博文団員(四〇期)と若手の谷文彰団員(六二期)に講演をしていただきました。
 佐藤博文団員には、戦争法制下の自衛隊と弁護士の役割と題して、ご自身が長年取り組んでこられた自衛隊裁判について、具体的な事例を紹介しながら、弁護士として自衛隊員の人権問題にどのように取り組んできたかをお話しいただきました。また、講演には、元自衛官の方も同席され、自衛隊員の現状について、実体験を踏まえた切実な訴えもありました。
 谷文彰団員は、京都地裁に提訴した建設アスベスト訴訟で、全国に先駆けてメーカーの責任を認めた画期的な判決を勝ち取った弁護団のメンバーで、まず、全国各地で展開する建設アスベスト訴訟についてお話をいただきました。そして、新入団人に向けて、弁護団活動をすることのメリットについてお話をいただきました。色々な弁護士の考え方に触れることができ、見聞・経験ともに広がる弁護団事件を、新人のみなさんにもぜひ経験して欲しいと思います。
3 事務局交流会
 今年の事務局交流会は、全体会で、北海道支部の橋本祐樹団員から「あくまで例え話〜冗談半分で聞いてください〜〔コント・歌つき〕」と題し、憲法改悪を食い止める運動の在り方、意気込みなどについての講演がありました。その後、同じく北海道の法律事務所事務局の野津喜代美さんから「団事務所での経験と活動について」と題し、団事務所の事務局員の姿勢、在り方についての講演がありました。
 全体会終了後は、(1)新人事務局交流会、(2)事務局業務の経験交流(効率化・ITの活用・事務職研修等)(3)運動交流の三つの分科会に分かれ、それぞれ活発な意見交換がなされました。
七 最後に
 安倍首相は、この夏の参議院選挙で、自民、公明におおさか維新の会などの改憲勢力をあわせて参議院の三分の二以上の議席を確保し、自らの任期中に改憲を成し遂げる考えを表明しています。すでに集団的自衛権の行使容認を法制化した「戦争法制」は施行されており、今、日本は「戦争をする国」へ変貌させられようとしています。また、戦争法制のみならず、盗聴法の拡大や司法取引導入を盛り込む刑事訴訟法等の改悪は、日本を監視・密告社会にし、戦争に反対する国民の声を封じ込めようとするものです。さらには、雇用ルールを破壊する労働時間法制の改悪、国民の声を無視したTPPの妥結、財界重視・人命軽視の原発再稼働の促進など、安倍政権は国民を犠牲にする政策を続けています。二〇一六年五月集会では、こうした情勢を受けて、全体会及び一二の分科会において、いずれも大変熱心な討論が繰り広げられました。今回の討論集会が団員一人一人の全国各地での今後の活動に役立ちうるものになったのであれば、主催者側として大変嬉しく思います。
 最後に、今回の五月集会も、地元北海道支部の団員の皆さま、事務局員の皆さま、大変多数の、多大なるご尽力によって成功しました。執行部一同、深く御礼申し上げます。ありがとうございました。


―五月集会・新人弁護士学習会―
勇気を受け継ぐ

東京支部  白 根 心 平

 新人弁護士学習会で陸上自衛隊第五旅団戦車隊に昨年まで所属していた末延隆成(すえのぶたかなり)さんのお話を聞きました。
 「自由法曹団の皆さんは、自衛隊に否定的な意見を持っている人が多いと思いますが、自衛隊は東日本大震災等災害時に出動し、災害救助活動を行うことによって、一般の市民の人から信頼を得、自衛隊の公共的な必要性・有益性が広く認識されるようになりました。でも、自衛隊は紛れもない軍隊で、軍隊の本質は如何に効率よく人を殺傷するかを追求することなんです。」末延さんは、講演の冒頭でこのような話をされました。
 捕虜自身に地面に穴を掘らせ、捕虜を突き落とし、捕虜をまとめて手りゅう弾で殺害するという捕虜の「始末」の仕方。
 血管を効果的に傷つけるために、ナイフは縦方向に振るのではなく、横方向に払うこと。頸動脈を切れば人が一分程度で死に至ること。
 人を効率的に殺すためには、殺害する方法を教え込むだけではなく、人を殺すことへの心理的抵抗を払拭しなければならず、自衛隊員の教育課程には「精神教育」と銘うたれた洗脳教育が幾重にも盛り込まれていることも話してくれました。
 自衛隊での生活は、常に上命下服が徹底されており、上官の命令には理不尽なものでも背くことは許されず、深夜であろうと呼び出されればこれに応じなければならないこと。このような人権の抑圧された環境がセクハラ・いじめの温床になっていること。
 僕は、この話を聞いて、「下級の者が上官の命令を承ること、実は直ちに朕が命令を承ることと心得よ」という軍人勅諭の一節を思い出しました。自衛隊の闇の部分、軍隊の本質・根本は、災害救助・人命救助にあるのではなく、今も昔も如何に人を効率的に殺傷するか、そのために一人一人が自分自身で思考することをどのように放棄させるのかということを追求する構造的な暴力性にあるんだと改めて感じ、戦慄がはしりました。
 末延さんは、自衛隊での劣悪な環境下での活動によってじん肺に罹患したため、講演中もゼェゼェと苦しそうにせき込み、酸素吸入をする場面もありながら、それでも情熱的に自らの経験を語ってくれました。
 じん肺に罹患し、公務災害を申請しようとした際、自衛隊は非協力的な態度を示したこと、「なんで、国のためにまじめに尽くしてきた自分を切り捨てるような真似をするのか。」、このように思い再び自分のような苦しみを受ける人間を無くすために勇気をもって立ち上がったこと。そのような人間の素朴な感情から出発する不信・憤りを語ってくれました。
 弁護士になって半年近くが経ちました。僕は、地域で活動する活動家や弁護士の仲間と話し、議論していくなかで、傷ついてやり場のない悲しみや苦しみを抱えた人の気持ちにもっともっと寄り添えるような人間にならなくちゃいけないと思うことがよくあります。
 不条理に苦しみ、悩む人たちに寄り添い、ともに悩みを共有し、そして苦しむ人々の生活実感から社会の矛盾を正していかなければならないと思っています。常日頃このように思い、このことを自分が弁護士として活動していく原点にしなければならないと、この日改めてこのように思いました。
 末延さんの怒りと情熱、そして不条理に屈せず声をあげ続ける勇気を僕自身も受け継いでいきたいと思い、講演後どこか清々しくも自分の心の中で熱くなるものを感じました。


ヘイトスピーチ問題の位置づけについて

千葉支部  守 川 幸 男

 定山渓五月集会のヘイトスピーチ分科会に出席した。私はこの問題で何も取り組んでいないが、関心を持って参加した。ほかにもそういう人は多いと思う。取り組んでいなくても、そのことを棚に上げて(そのことを自覚しつつ)感想や意見を自由に出すことも意味があると思う。分科会では私以外の発言はすべてこの問題に取り組んでいる団員によるものであったが、私は最後に発言した。ここではほぼ同じことを、少し補強して書いた。
一 その時代背景は?
 なぜ最近になって(と言っても年単位であろうが)ヘイトスピーチやヘイトクライムがこれだけ公然と動き出すようになったのか、どういう人たちがだれと結びついて活動しているのかとか、その時代背景について、情勢全体との関連での分析が必要だと思う。現在の政治情勢との関連があることは明らかだと思うが、この問題に深く関わっている団員からの分析に期待したい。
二 その位置づけは?
 今回の五月集会の特別報告集においてヘイトスピーチ問題は、TPP問題とともに、「人権問題への国際的な取り組み」の中で取り上げられている。
 また、(以下は補強部分であるが)昨年の宮城・蔵王総会の議案書では、第一章の「情勢と私たちの課題」の項には記述がないようで、第一四章の「国際人権法の活用と国際連帯のために」の項で「第二 自由権規約委員会の勧告と国際連帯のために」として取り上げられているが、内容的には、時代背景や歴史的経過についても触れられている。同時に、法規制について、表現の自由に関して安倍政権による悪用の危険をどう考えるのかなど、討議の必要性を訴えている。
 ところで、青法協の本年六月二五、二六日の定時総会の議案書では、「I 平和と憲法に関する取り組み」の「六 憲法の理念、民主主義を破壊する動き」の(4)項で「ヘイトスピーチ問題」として項立てされている。その中では「自由や民主主義と相いれず、健全な市民社会と両立しない。」としたうえで、「政治家等によるヘイトスピーチへの加担が目立っている。」として、山谷えり子・国家公安委員長、高市早苗・総務相、稲田朋美・自民党政調会長の言動(写真撮影)などを指摘して、これらが「ヘイトスピーチの温床」と断じている。
三 私の考え方
 ―ファシズムの温床、民主主義問題としての大きな位置づけを
 ヘイトスピーチ問題が重大な人権侵害であり、被害救済のために力を尽くすべきこと、さっぽろ雪まつりを成功させてみんなで楽しむためにヘイトスピーチを撃退すべきことは、規制の方法等についての意見の違いがあっても、一致できると思う。
 ただ私は、これにとどまらず、ファシズムの温床になりかねない民主主義に対する重大な脅成という観点からの大きな位置づけもすべきだと思う。
 報道の自由に対する権力の攻撃に呼応した国民の一部による報道機関やジャーナリストに対する攻撃、ネット社会における不寛容なやり取りや匿名でのターゲットを定めた攻撃などなど。これらの雰囲気を権力が意図的か結果的にかはともかく、悪用したりあおれば、これは容易にファシズムに結びつく。
 フジ住宅損害賠償請求事件では、社長がヘイトスピーチ文書や書籍類を社員に大量に配布し、ヘイトスピーチや政治活動への参加動員を行い、社員である在日コリアン三世に対するパワハラ、退職勧奨が続いているが、同じように権力が目的を持ってこの問題を悪用して国民をあおることは可能である。
 また、新しい歴史教育をつくる会のニュースでは、「ヘイトスピーチ規制法案は日本人差別法だ」と訴えている。
 安倍内閣の立憲主義破壊にもかかわらず高支持率が続いたり、橋本徹やアメリカのトランプ大統領候補の発言に熱狂する独裁志向が強まっている。
 かつて関東大震災時に朝鮮人虐殺事件があった。ナチスの親衛隊や文化大革命における紅衛兵の街頭での暴虐も忘れてはならない
 こう見て来ると、この問題は、ファシズムの温床になりかねない民主主義に関わる重大問題として、情勢論や総論に位置づけて論じるべきことがわかる。


オバマ大統領の広島訪問に想う

埼玉支部  大 久 保 賢 一

 五月二七日、オバマ米国大統領が広島を訪問した。彼は、原爆資料館を訪問し、被爆者と会い、原爆慰霊碑に献花し、核兵器に関するスピーチをした。この広島訪問についての感想を記してみたい。
オバマ大統領への要望
 日本反核法律家協会は、オバマ大統領に四項目の要望をしていた。(1)原爆資料館の訪問。(2)被爆者との面会。(3)「核兵器のない世界」実現の再度の誓約。(4)「核兵器のない世界」の実現と維持のための法的枠組作りの開始の四項目である。要望書を提出した理由は、「核兵器のない世界」の実現のための米国の道義的責任を述べたことがある現職大統領の広島訪問を少しでも意義のあるものにして欲しかったからである。
 この要望書を提出した五月二三日ころ、オバマ大統領が資料館を訪問することや被爆者と会うことなどは流動的であった。米国内にある「原爆投下正当化論」との調整が未解決だったからである。けれども、最終的には、短時間ではあるけれど原爆資料館訪問は実現したし、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のリーダーたちとの面会も実現した。また、「七一年前、空から死が降ってきて、世界が変わりました。」で始まり、「広島と長崎は、核戦争の夜明けではなく、私たちの道義的な目覚めの始まりです。」で終わるスピーチも行われた。
 これらの要望のうち三項目には実現したことになる。もともと、核超大国米国の大統領が、「核兵器のない世界」に向けての法的枠組みの制定の先頭に立つなどと言わないだろうから、私たちの要望はそれなりに受け入れられたことになる。その限りにおいて、私はオバマ訪問をプラスとして評価したい。彼が、広島を無視して何もしなかったことを想定すれば、「謝罪の言葉がない」、「時間が短い」などの非難はあるとしても、この訪問は、一筋の光明と思うからである。
オバマ大統領の行動
 オバマ大統領は、原爆資料館に手作りの折り鶴をもって来ていた。それは美しいエピソードとして語られている。けれども、彼と一緒だったのは折り鶴だけではなかった。核兵器発射ボタンが入ったカバンも同行していたのである。平和への願いである折り鶴と核の発射ボタンを同時に持ち歩くのは、オバマだけかもしれない。きっと、プーチンや習近平は折り鶴を持たないだろう。それはともかくとして、彼はこの地球を「猿の惑星」に変えるかもしれない凶器を持ち歩いているのである。そこに、「核兵器のない世界」への使徒の姿を見出すことはできない。
 また、彼は、二〇〇九年四月のプラハ演説以降現在まで、核兵器の削減に取り組んで来ている。その退役させた核兵器の数は七〇二発だという。ブッシュ・ジュニア前政権は約五〇〇〇発削減したそうだから見劣りする数字ではある。そして、解体した退役済みの核兵器の数は一〇九発だとされている。一年間の解体数としては、一九七〇年以降最低水準とされている。これが彼の「核兵器のない世界」に向けての実績である。
 他方、彼は、保有核兵器の維持と近代化のために、二〇五〇年代まで核兵器を保有し続けることを前提に、三〇年間で一兆ドル(約一〇八兆円)を支出しようとしている。
 ところで、近時、国際社会では、核兵器使用の人道的影響に着目して、核兵器廃絶に向けての動きが活発になっている。国連総会では「核兵器の禁止と廃絶のための人道的誓約」決議が採択されているだけではなく、核兵器廃絶のための法的措置を検討する「作業部会」(OEWG)が設置されている。けれども、米国は頑なにこれをボイコットしている。
 米国は「核兵器が存在し続ける限り、米国の核兵器の根本的役割は、米国や同盟国に対する核攻撃を抑止することにある」という核抑止政策をとり続けているのである。
 私たちは、オバマ大統領のスピーチで語られることと、その実際の行動との乖離をしっかりと認識しなければならない。バラク・オバマのスピーチが美しければ美しいほど、米国大統領としての彼の行動の醜悪さが際立つのである。
核兵器廃絶をオバマ大統領だけに任せるな
 私は、オバマ大統領のプラハ演説も広島スピーチも好感を持って受け止めている。そこには、単なる美辞麗句ではない、彼の知性と理想を見て取ることができるからである。何よりも「核兵器のない世界」を実現しようという呼びかけに共感するからである。 
 そして、その彼の呼びかけを実現するためには、彼の足りなさを言い立てるだけでは足りないと思うのである。「核兵器のない世界」を実現するには、彼だけの力では足りないことは明らかだからである。彼は、その実現は自分の生きている間は無理かもしれないという。それを無責任だと責めるよりも、どうすれば速やかに実現できるかを一緒に考えたいと思う。
 核兵器は人間が作ったものであり、人間が使うものである。であるがゆえに、その使用の禁止も廃絶も可能である。政治的意思を形成し、必要な技術的対応をすればいいだけの話である。しかしながらも、それは一人の力では無理である。
 私たちは、核兵器が人々に何をもたらしたのかを知っている。また、その使用が何をもたらすのかを予見することもできる。使用の結果を知ったうえで使用を容認する人はいないであろう。
 核兵器の使用の禁止も廃絶も決して不可能ではない。任期満了を迎えるオバマさんも含めて、一日も早く「核兵器のない世界」の実現に向けての努力を続けたいと思う。

二〇一六年六月一三日記


団通信とホームページのリニューアル

福岡支部  永 尾 廣 久

団通信への投稿が史上最大
 団通信への投稿は〇九年までは二〇〇件台、一〇年から三〇〇件台で推移していたが、一一年の三四九件をピークとして、一二年、一三年と減少していき一四年にやや持ち直して、一五年に四二六件と史上最大の投稿数となった。それでも月に四〇件までにはまだ届いていない。
 一五年に史上最大となったのは団執行部が運動課題に団通信を積極的に位置づけ、投稿を呼びかけたことが大きい。憲法・戦争法制への反対運動の経験交流の場にもなった。
 第二に、ひところ少なかった事件関係の投稿が定着したこと。毎月一〇本ほどの記事が掲載されるようになった。
 こんな工夫をしてみました。こんな特色のある判決をもらいました。こんな成果をあげました。このように団員の取り組んだ事件について、大小さまざまなレベルの事件紹介があると、団通信はぐぐっと身近なものに感じられる。
どの期が多い?
 六〇期から六八期までの団員の投稿が全体の三分の一以上を占めている。これは、まことに心強い。この調子で若手団員には、どしどし自分の活動を活字にして投稿してほしい。
 とは言っても、相変わらず、今年も私をふくむ二六期が断然トップ(二一一通)の地位を譲っていない。二位も同じく三一期(一九六通)、三位は四〇期(一八四通)、四位は昨年三位の五三期(一七〇通)。以下、三〇期(一六九通)、三二期(一五五通)、六〇期(一一六通)、そして、六二期、六四期、六一期と続いていく。
地域的な偏り
 問題なのは、地域的な偏りを依然として克服しきれていないこと。北海道(七七通)、四国(一六通)は少ない。東京(二二四〇通)は当然としても、大阪(三八九通)は少なすぎるのではないだろうか。神奈川(三四三通)、埼玉(二〇八通)、京都(一四六通)、福岡(一四五通)、千葉(一二〇通)、滋賀(一一九通)、広島(一〇〇通)、までが一〇〇通以上。愛知(九五通)、長野県(八八通)、宮城県(六九通)となっている。愛知が一〇〇通にも満たないというのは、いくらなんでも少なすぎだと思う。
たまには息抜きも・・
 テーマとしては、平和(六八二通)、憲法(二九〇通)、が最多であり、次いで、労働問題(五一八通)、民主主義(一三四通)というのは当然のことだろう。
 貧困・災害・原発(二五四通)も目立つ。馬奈木厳太郎団員の投稿を読むと、原発をめぐる裁判の状況を知ることができる。
 ただ、たまには身辺雑記のような息抜きの話も読みたい。中野直樹団員の山歩き紀行文のようなものは、こちこちに固まった頭をすすっとほぐしてくれ、うれしい読みものだ。
ホームページのリニューアル
 団のホームページへのアクセスが少なすぎるのではないかとコメントしたことがある。アクセス件数が一〇年間で半減し、年間三万二千件だということだった。
 ところが、今回は、一五年の春から夏にかけては月平均一万七千、一六年の冬から春は月平均八千という数字となっているという。このアクセス数の違いの原因はよく分からないが、いずれにしても今年になって半減したというのは、いささか残念としか言いようがない。
 トップページについて、前回は「いささか魅力に欠ける」としたが、今回はなるほど改善されていて、親しみがもてる。しかし、「自由法曹団の法律事務所」として掲載された事務所があまりにも少ない。申し訳ないことに、私の事務所も登場していない。「団員のページ」には故池永満団員の名前が残っていて、増田尚団員のブログ以外は動いていない。どうやら団のホームページ全般を団本部としてこまかく点検していないのではないかと疑った。
 執行部のフェイスブック・ツイッターの活用については、私自身は目にしていないので何とも言いようがない。ただ、なるほど、これからは情報発信のツールを積極的に拡大していくべきだという点に異論はない。


「隔離法廷」の違憲性
――憲法七六条からの乖離について

東京支部  後 藤 富 士 子

一 最高裁の謝罪
 四月二五日、最高裁は、ハンセン病患者の刑事裁判などを隔離された療養施設などの設けた「特別法廷」で開いていた問題で、調査報告書を公表し、「社会の偏見や差別の助長につながった。患者の人格と尊厳を傷つけたことを深く反省し、お詫びする」と、今崎幸彦事務総長が記者会見で謝罪した。「隔離政策は一九六〇年以降違憲」とする熊本地裁判決が確定した直後に政府と国会が謝罪してから一五年を経た「司法」の虚しい謝罪であった。
 また、最高裁裁判官会議は、「違法な扱い」であったことを認め、「開廷場所の指定についての誤った差別的な姿勢は、当事者の基本的人権と裁判のあり方をゆるがす性格のものだった。人権を擁護するために柱となるべき立場にありながら、このような姿勢に基づく運用を続けたことに、司法行政を担う最高裁裁判官会議として責任を痛感する」とし、「これを機に、司法行政に取り組むにあたってのあるべき姿勢を再確認する」との談話を発表した。ここでは、「開廷場所の指定についての誤った差別的な姿勢」が裁判所法六九条の適用につき違法とし、しかも司法行政の問題と捉えているようである。
 最高裁が調査を始めたのは、特別法廷の死刑判決が確定し、無罪を訴えながら六二年に死刑が執行された「菊池事件」の再審弁護団らが「裁判手続が違憲だった」と訴え、一三年に調査を要請したのがきっかけという。最高裁は、一四年五月に内部で検証を始めたが、元患者らから「内輪の議論では不十分だ」と批判を受けて有識者委員会を立ち上げ、一五年九月から議論を始めた。その有識者委員会の意見は、憲法の平等原則に反し、公開原則については違憲の疑いがあると指摘している。
二 「特別法廷」は「事務方」の問題か?
 今崎事務総長によれば、最高裁が「裁判の違憲判断」を回避したのは、それは「訴訟手続の中で判断すべきで、手続外の検証は許されない」との理由である。一方、今回の調査の対象が「裁判所の事務方が行った手続が違法だったか否か」であったという。すなわち、「裁判」は裁判官が行うが、「開廷の場所」を決めるのは、裁判官ではなく「事務方」だというのである。だから、「事務方」トップの事務総長が謝罪するのである。
 ちなみに、裁判所法第五編は「裁判事務の取扱」を規定しており、第一章が「法廷」で、六九条「開廷の場所」の二項は、「最高裁判所は、必要と認めるときは、前項の規定にかかわらず、他の場所で法廷を開き、又はその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる。」と定めている。そして、当事者がハンセン病患者であることを理由とする特別法廷は、一九四八〜七二年に九五件開かれているが、各地の裁判所から九六件の申出があり、撤回された一件を除くすべてについて特別法廷の設置を認める「定型的な運用」がされていた。
 しかし、最高裁事務総局総務局『裁判所法逐条解説(下巻)』によれば、裁判所の権限は、広義の司法行政権と広義の司法裁判権に大別され、第五編は後者を、第六編は前者を規定しているが、第五編にいう「裁判事務」には、裁判所が取り扱う事件に関する一切の事務が含まれるとされている。具体的には、民事事件(訴訟、非訟、調停、強制執行、破産事件等)、行政事件、刑事事件、家庭事件、法廷等の秩序維持に関する法律違反事件、裁判官の分限事件に関する事務を指す。すなわち、「事務方が行った手続」も「裁判事務」にほかならず、裁判官の職権に属する。
 しかるに、日本の裁判官は「事務方」に支配されているのであり、それは最高裁裁判官も同様である。しかし、それが憲法七六条三項の「裁判官の独立」と両立しないことは自明である。
三 法曹の役割 ― 日本国憲法の司法制度の中で闘う
 有識者委員会の意見は違憲判断に踏み込んだものであったし、元患者にすれば、最高裁が違憲を認めなかったことに納得できないのも当然である。しかし、仮に最高裁が有識者委員会意見のように違憲との見解を表明したとしても、それで確定した裁判が無効になることは現行制度上あり得ない。最高裁は、具体的手続を離れて「裁判の違憲・無効」を宣言できないのである。
 しかるに、団通信一五五九号で齊藤展夫団員は、「最高裁は、六〇年以降になされた二七件の有罪判決について、徹底した調査をしたうえで、その有罪判決を取り消して、早期に無罪判決をすべきである」と主張しているが、これこそ憲法七六条一項三項に違反する。また、有識者委員会の石田法子弁護士は、「この問題は(特別法廷の開廷を認定した)最高裁事務総局だけの責任ではない。それを阻止できなかった弁護士会にも法曹の一員としての責任がある」と述べているが(赤旗四月二六日号)、問題を「裁判事務」の問題としないで、裁判外の「司法行政」の問題としている点に過誤がある。
 この問題の解決を考えると、違憲の手続であることが明らかなのに、再審事由に該当しないため、当事者が救済されないことに行きつく。最高裁の調査が「菊池事件」の再審弁護団の要請で始まった所以であろう。しかし、刑事裁判においては手続こそ命であることを考えれば、違憲の手続でされた確定判決は、再審によって無罪が宣言されるべきではなかろうか。ちなみに、実際の「特別法廷」では、単に公開原則や平等原則に限らず、「国選弁護人からしてとても弁護をしているとは言えなかった」と告発されている(前掲赤旗)。「法廷」は、「裁判の器」というより、「手続そのもの」であり、国選弁護の質の問題は、現在でも問われている。
 また、「特別法廷」の許可を最高裁事務総局に求めたのは、具体的事件を担当する裁判所書記官であろう。担当裁判官が自分で判断して裁判所の法廷で手続を行えばいいのに、また、最高裁から通達があったはずもないのに、最高裁事務総局に「許可」を求めたのである。換言すれば、裁判官が「独立して職権を行う」ことを自ら放棄しているのであり、しかもそれが裁判所法六九条に違反しているのだから、憲法七六条三項は存在しないに等しい。
 日本では「すべて裁判官は、事務方に支配される」のである。ハンセン病患者が当事者であっても通常の裁判所法廷で手続を行ったケースは一件もなかったのであろうか?「定型的な運用」をした最高裁よりも、通常の裁判所法廷で手続を行ったケースが一件もないことの方が深刻である。一九七二年最後の「隔離法廷」から約四四年を経た今でも、日本の裁判官は、法律を守らない。それは、裁判官が、法律の適用にあたって独立した人格をもたないことに起因するのではなかろうか。

(二〇一六年五月三日)


「わたしたちの政治活動は自由だ。」
リーフ完成!ぜひご活用を(^o^)

東京支部  仲 里 歌 織

一 高校生の政治活動に関する国の通知の問題
 一八歳選挙権に伴い、国は、高校生の政治活動を全面的に禁止していた旧通達を廃止し、新通知を出しました。しかしその内容は、学内での政治活動の禁止や学外での届出制を容認する等、高校生の政治活動の自由・思想良心の自由等を侵害するものです(そもそも禁止・制限・指導の対象となる「政治的活動」の概念が不明確かつ広汎、SNSまで把握され禁止・制限・指導される問題等詳細は、東京支部決議(二〇一六・三・二三)や本部意見書をHPからご覧ください)。
 国の通知のもとでは、高校生は委縮してしまい、自由にデモや集会に行ったり、署名集めをしたり、SNSで発信したりすることが困難になってしまいます。一八歳選挙権における初の参院選が迫っている中、一部の高校では既に国の通知を受け、届出制に校則を改定する等、深刻な状況です。
二 リーフ「わたしたちの政治活動は自由だ。」作成
 高校生の政治活動の自由の問題は、高校生の成長発達や、民主主義・国民主権の根幹にかかわる重要な問題であり、団としては今こそ声をあげる必要があります。
 そこで、「本来自由であるはずの政治活動を、高校生が自由にのびのびとできるように」との思いを込め、東京支部と本部の共同でリーフレット「わたしたちの政治活動は自由だ。」を作りました(A5版フルカラー片面刷り、観音開き)。
 作成に関わった私が言うのもなんですが、宣伝させてください!
“重要論点を網羅し、かつ、ハイセンスな素敵なリーフに仕上がっております”(なお、デザインは、埼玉中央法律事務所の事務の方に担って頂きました。この場を借りてお礼申し上げます)。
【内容/構成】
表紙:「わたしたちの政治活動は自由だ。」高校生の政治活動・選挙運動Q&A
コラム:政治って、実はみぢか
    国連・子どもの権利委員会による勧告
Q1:高校生にも政治活動の自由があること
Q2:届出制は思想良心の自由の侵害であること
Q3:生徒会での請願を否定することは問題であること
Q4:一七歳もデモや署名活動を自由に行えること(選挙運動との区別)
コラム:文科省の通知等に法的拘束力はないこと
Q5:一八歳にも「○○さんに投票して」とツイートする等選挙運動として手軽にできることがあること。一七歳にも落選ツイート等政治活動として手軽にできることがあること。
裏表紙:高校生へのメッセージ。
三 リーフ活用例
 一部一〇円でありながら、様々に活用できるお得なリーフです!
・高校の校門前で配布(ダイレクトにメッセージが伝わる。おススメ!)
・街宣の際、一緒に配布(おしゃれなので、セットにすると受け取りがいい。)
・教組に持ち込んでみる(先生にも読んでもらうと効果的。)
・九条の会に持ち込んでみる(若者に働きかけるツールにしてもらう。)
・学習会で配布(ぜひ身近な高校生に渡してくださいとお願い。)
四 リーフ活用報告♪
 東京支部と本部は、総勢一三名で、六月七日朝七時三〇分から日比谷高校前でリーフ配布を行いました!また、各方面からリーフ活用報告をいただいていますので、以下に紹介します。
◆戸山高校前で配布
 写メをとっていく生徒あり。プラスターも注目。高校の先生が良く受け取る。
 →リーフの表紙や中身を拡大してプラスターを作ると良い。
◆日比谷高校前で配布
 一八歳選挙権のリーフです、と配布。表紙が目立つので何だろうという感じで、リーフを手に取ったあと、友達と表紙を見ながら会話している様子あり。
◆九の日宣伝(所沢駅前)で配布
 グループで受け取った高校生がリーフの中を開いて漫画をみて、「おお、なんだこれ〜」と仲間で驚いていた。「これマンガが書いてあるから後で読んで」というアピールの仕方もあり。普段はほとんどチラシを受け取ってもらえないが、リーフと九条の会のチラシをセットにし、若い人にかなり受け取ってもらえた。
五 各支部・各事務所でぜひご活用を(^o^)
 今夏の参院選で投票を行う高校生などへの宣伝配布物として積極的に活用し、各地で政治活動の自由を獲得する運動を広げ、ともに、高校生の政治活動・選挙運動を励ましていきましょう!
 ちなみに、東京では、東京法律事務所(六・一六高校前)、三多摩法律事務所(六・一六高校前、六・二四高校前)、東京東部法律事務所(六・二一高校前)、代々木法律事務所(六・二九)、まちだ・さがみ総合法律事務所(教組中心に)等でリーフ配布をする旨聞いています。
 まだ入手されていらっしゃらない方は、ぜひ団HP掲載の注文書(一部一〇円、注文先:自由法曹団本部宛)にてリーフの注文&リーフ配布をお願いします!!!