<<目次へ 団通信1591号(3月21日)
加 藤 健 次 | 憲法違反の共謀罪を阻止するために全力で取り組もう! |
齊 藤 豊 治 | 共謀罪法案における対象犯罪の検討(下) |
川 口 智 也 | 三月一〇日 東京法律事務所での所員学習会報告 |
中 島 哲 | 北海道労働委員会労働者委員獲得に向けたたたかいの軌跡(一) |
大久保 賢 一 | 「核兵器禁止条約」交渉の開始にあたっての覚書(上) |
幹事長 加 藤 健 次
論戦で崩壊した政府の「ウソ」
安倍政権は、東京オリンピック・パラリンピックのための「テロ」対策を前面に掲げ、共謀罪を新設する組織犯罪処罰法等の「改正」法案を今国会で成立させようとしている。しかし、法案提出前の国会論戦によって、共謀罪を強行成立させようとする安倍政権の数々の「嘘」がすでに暴かれている。
最大の問題は、「テロ等準備罪」と打ち出しておきながら、与党に示された法案には「テロ」という言葉さえ入っていなかったことだ。われわれは、「看板を変えても共謀罪の危険な本質は変わらない!」と批判してきたが、「看板」を変えることすらできなかったのだ。厳しい批判を浴びた安倍政権は、あわてて「テロリズム集団等」という言葉を法案にすべりこませようとしているが、このことは「テロ」対策が口実に過ぎないことをかえって浮き彫りにしている。
つぎに、安倍首相は、「テロ等準備罪」を創設しなければ、国際組織犯罪防止条約を批准できず、東京オリンピックを開けないといっても過言ではない、と強調した。政府はこれまで同条約が対象とする犯罪すべてについて共謀罪を創設しなければ批准できないと主張してきたが、今国会でその解釈を改め、条約の解釈として対象犯罪を「限定」することは許されるという新たな見解を示した。対象犯罪を「限定」することができるのなら、共謀罪を創設しないという選択も可能なはずだ。そもそも国際組織犯罪防止条約は、国境を越えたマフィアなどの組織的経済犯罪の取締を目的とするものであり、「テロ」防止とは関係のないものである。それに加えて、「条約批准のために共謀罪が必要」という政府の主張は、政府自身の見解の変更によって崩壊したのである。
手を変え品を変えても「共謀罪」はやはり「共謀罪」
政府は、これまで三度にわたって廃案になってきた共謀罪と今回の法案は違うものだ、と強調している。第一に、共謀(法案では「計画」)だけでなく犯罪の「準備行為」が要件とされている、第二に、単なる団体の行為ではなく、「組織的犯罪集団」の行為を対象とするから、従来の法案よりも限定されており、「一般市民が対象となることはあり得ない」というのである。
しかし、このような「限定」をめぐる議論は、すでに三度の廃案の過程で決着済みの問題である。今国会での論戦を通じて、彼らの言う「限定」が決して限定にはならないことが浮き彫りになっている。
第一に、「準備行為」として、資金や物品の調達、現場の下見などが例示されているが、行為自体が危険なものである必要はない。 ATMでの引き下ろし、ホームセンターでの物品購入、単なる散歩など、日常的な行為が対象となる。そして、準備行為に当たるかどうかは、結局は捜査機関が判断することにならざるを得ない。第二に、「組織的犯罪集団」と「一般市民」の線引きはあいまいであり、ここでもその判断は捜査機関が行うことになる。
どのように装いをこらそうとも、話したことや内心で考えたことが処罰の対象となるという共謀罪の本質は何ら変わらない。共謀罪はやはり共謀罪。憲法違反の法案であることは否定しようがないのである。
共謀罪を阻止するための運動を全国で強化しよう
共謀罪の本質が明らかになるにつれ、与党内でも共謀罪法案についての異論が出るようになってきた。森友学園の疑惑も絡んで、閣議決定は当初の予定よりも遅れている。
安倍政権は、三月一〇日、突如、南スーダンPKOに派遣している自衛隊を五月末で撤退させることを発表した。「戦闘」を「衝突」と言い換えてきたごまかしが破綻したものといってよい。共謀罪をめぐる議論もある意味で似たような面がある。
共謀罪が言論の自由や思想良心の自由を侵害するものであること、共謀罪が「戦争をする国」づくりの一環として監視・密告の社会をもたらすことを多くの国民に伝えていけば共謀罪を阻止する条件は十分にある。そして、共謀罪を阻止することは、数に頼んで悪政を強行してきた安倍政権に対する大きな打撃になることは間違いない。
この間、法律家七団体(社会文化法律センター、自由法曹団、青年法律家協会弁護士学者合同部会、日本国際法律家協会、日本民主法律家協会、日本労働弁護団、日本反核法律家協会)により、共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会が発足し、さらに市民団体などとともに「共謀罪NO!実行委員会」が結成された。また、個人加盟の「共謀罪創設反対百人委員会」も結成された。総がかり実行委員会は、緊急統一署名を作成して共謀罪阻止の運動に取り組んでいる。
日弁連は共謀罪の創設に反対する意見書を公表し、市民集会や院内集会を開催している。日弁連の呼びかけを受け、全国の単位会で会長声明や宣伝・集会などが取り組まれている。
このように、共謀罪を阻止するための多彩で幅広い運動の陣形が整ってきた。あとは、多くの国民に語り、広げていく実践が決定的に重要である。共謀罪を阻止するために、以下のような行動に、全国の団員の皆さんが全力で取り組むことを心から訴える。
○各地で共謀罪の学習会や反対集会を開催しよう
○共謀罪に反対する宣伝行動と統一署名に取り組もう
○全国の単位弁護士会で共謀罪反対の宣伝、集会などに取り組もう
○各地の報道機関に働きかけを行おう
○全国から国会議員に対する要請を行おう
(二〇一七年三月一四日記)
大阪支部 齊 藤 豊 治
二.特定秘密保護法との関連(続き)
対象犯罪のリストには、明示的に特定秘密保護法の罰則は含まれていない。しかし、特定秘密保護法の秘密漏洩(二三条)、不正取得(二四条)に関しては、共謀罪が設けられていることを考慮しているからと思われる(二五条)。しかし、漏えいについても不正取得についても、その行為態様が共謀罪法案の共謀となる可能性がある。特定秘密保護法は、わざわざ、二四条三項で、特定秘密の漏洩と不正取得に関して、刑法その他の罰則の適用を妨げないと規定している。このように特定秘密保護法の罰則に関する共謀とは別に、行為態様をとらえて、共謀罪法が適用される可能性がある。
国に対して情報公開を求めて、特定秘密取扱業務者や業務上知得者である公務員等とやりとりをする場面を想定してみよう。その情報が主観的には特定秘密だとは知らなかったが、客観的に特定秘密であった場合、厳しく開示を迫った市民団体の活動家たちが、事前に相談しておれば、組織的強要の共謀罪となりうる。行為態様の如何によっては、組織的な業務妨害の共謀罪ともなり得る。この場合、客観的に特定秘密ではなかったことが明らかになった場合にも、組織的強要共謀罪が成立することになる。
より深刻なのは、特定秘密の不正取得罪との関連である。不正取得罪の行為態様は、(1)欺罔等の行為、(2)管理侵害行為に分けて規定されている。
(1)の行為態様は詐欺、暴行、脅迫であり、共謀罪法案ではこれらの行為態様は組織的詐欺共謀罪、組織的傷害共謀罪、組織的恐喝共謀罪、さらには組織的強要共謀罪、組織的威力業務妨害共謀罪、組織的偽計業務妨害共謀罪が成立するとされる可能性が高い。
(2)の行為態様は、窃盗、損壊、施設への侵入、有線電気通信等の傍受、不正アクセス等である。ここでは、窃盗共謀罪の適用の可能性がある。
共謀罪法案での共謀罪のリストのなかには、不正競争防止法の営業秘密侵害罪が含まれている。特定秘密保護法の特定秘密は、多くの場合、企業の「営業秘密」でもある。特定秘密でもある営業秘密について、共謀罪が及ぶことに及ぶ。
三.テロ資金提供罪法との関連
テロ対策に関しては、「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律」という特別法(テロ資金処罰法)が存在する。この法律でいう「公衆等脅迫目的の犯罪行為」とは、テロを指している。共謀罪法案では、この特別法のうち、(1)テロを実行しようとする者が他の者に資金等を提供させる行為、(2)テロを実行しようとする者に対する資金等の提供等が共謀罪の対象のリストに加えられている。
このうち、(1)はそれ自体が、テロ犯罪の実行行為以前の準備段階を想定している。すなわち、資金を提供させる行為等はそれ自体がテロ犯罪の準備罪としての性質を持つ。それにもかかわらず、共謀罪法案では資金を提供させる行為、提供を受ける行為の双方について、共謀罪が提案されている。政府側は、共謀罪法案は準備罪だと強弁しているが、実際にはすでにテロ資金処罰法では準備罪が存在しているわけである。テロ対策と称して、テロ犯罪の「準備の準備」、「準備の共謀」を犯罪化しようとしている。あまりにも過剰な法規制と言わざるを得ない。
ここでは、テロ犯罪に関しては、主要な行為領域である資金等の提供に関して、立法上の手当てが済んでいることを確認しておきたい。
(2)は、それ自体が独立幇助罪と考えられる。他方、それは「他人のためにする準備行為」でもある。ここでも「準備の準備」、「準備の共謀」を犯罪化しようとしている。これまた、(1)と同じく、過剰な法規制である。
このように、政府がいうところの「テロ対策」に必要とされる「共謀」ないし「準備」はすでに立法上の手当てが済んでいる。この点は、重要なポイントとして、世論に訴えていく必要がある。
四.補足
共謀罪法案のなかに「テロリズム」という文言を盛り込むようであるから、どのような定義が行われるか、注意が必要である。
テロリズムに関しては、テロ資金処罰法とは別に、特定秘密保護法一二条二項一号の定義もある。それによれば、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動」がテロリズムとされている。この文言自体、分かりにくく、同法の立法過程でも議論があった。解釈としては、目的犯であるから、目的と実行行為とを分けて検討する必要がある。その目的とは(1)政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」する目的か、または「社会に不安若しくは恐怖を与える」目的が必要である。他方、実行行為は人の殺傷、重要な施設その他の物を破壊するための活動」となる。殺傷、破壊はともに現実化する必要はなく、殺傷しまたは破壊する「ための活動」で足りるのであり、殺傷、破壊の前段階での規制を可能にする性格をもつ。テロリズムの概念は、いわゆる前段階的行為類型となりやすいといえる。
以上
東京支部 川 口 智 也
三月一〇日夜、私たち東京法律事務所の所員と民放労連の皆さまで、「ニュース女子」沖縄報道問題と「共謀罪」をテーマとして、学習会を行いましたので、報告します。
・「ニュース女子」沖縄報道問題
まず、第一部として、民放労連の方から、「ニュース女子」沖縄報道問題について報告して頂きました。
「ニュース女子」とは、東京MXで毎週金曜日午後九時から一〇時に放送されている番組であり、DHCの子会社であるDHCシアターが単独で制作しています。問題となったのは、一月二日放送された「他のメディアが報道しない沖縄米軍基地反対運動の真実」というコーナーでした。番組を実際に見ましたが、基地反対運動を誹謗中傷するためだけの、根拠・裏づけのない主張を延々と述べるだけの番組でした(放送内容の詳細については、この問題を取り上げているブログ等が多数ありますので、そちらをご確認ください。)。
二月二七日、東京MXは、この番組について、「違法行為を行う過激な活動家に焦点を当てるがあまり、適法に活動されている方々に関して誤解を生じさせる余地のある表現があったことは否めず、当社として遺憾と考えて」いるという見解を示しましたが、それと同時に、「事実関係において捏造、虚偽があったとは認められず、放送法及び放送基準に沿った制作内容であった」という見解も示しています。また、東京MXは、「再取材、追加取材をもとに番組を制作し、放送致します。調査及び取材を丁寧に実施するため、数か月の制作期間を経て放送することを予定しています。」と表明しています。放送時期は、未定のようですが、今後どのような放送が行われるのか、注視する必要があるでしょう。
三月一三日、東京MXが予告していた「検証」番組とは別に、「ニュース女子」の制作会社であるDHCシアターが、インターネット上において、「マスコミが報道しない沖縄 続編」と題する番組が放送されました(制作会社によりyoutube等で公開されています)。しかし、この番組は、当時とほぼ同じ出演者が一月二日に放送した内容を正当化するだけであり、出演者や制作会社からの謝罪や反省は一切存在しません。しかも、同番組は、批判から少しずれた六つの問題点しか取り上げず、個々の問題点に対する反論するにあたり、同番組にとって都合のよい事実だけを番組の主張に沿うように解釈するなど、上記の放送内容に対する批判に正面から答えたものとはいえません。また、結局、反対運動に対する取材は行っていないようで(そのような場面が一切存在しません)、反対運動の当事者の声を置き去りにしたまま、一方的に「放送内容は正しかった」という主張に終始しています。この番組によって、問題はより深刻化したと言わざるを得ません。
・「共謀罪」
その後、第二部として、私から「共謀罪」に関する報告を行いました。ちなみに、この報告が、私にとって初の学習会の講師経験となりました。
私は、報告のテーマとして、「多くの方に『共謀罪』の危険性を理解してもらうにはどうすればよいのか?」という設定をしました。そもそも、「共謀罪」については、何となく危ないものなのかなという感覚を持っている方は多いものの、その本質的な危険性については、あまり知られていないような気がします。しかし、「共謀罪」は調べれば調べるほど、問題のある内容であることが明確になります。報告では、共謀罪の危険性について、できる限り端的にわかりやすくお伝えしようと心がけましたが、あまりうまくできなかったように思います。
意見交換の際には、街頭演説などの際に、「多くの方に理解してもらう」ための手段についてご意見をいただきました。
今回の学習会を通じて、共謀罪をわかりやすく解説することの難しさを実感するのと同時に、講師を務めることの楽しさも理解できました。今後も、共謀罪だけでなく、憲法問題、労働問題など、分野を問わず、積極的に講師を務めていきたいと思います。
北海道支部 中 島 哲
一 はじめに
二〇一六年一二月一日、北海道労働組合総連合(以下、「道労連」といいます。)副議長の赤坂正信さんが、高橋はるみ北海道知事から、北海道労働委員会の第四二期労働者委員として任命されました。一三期二六年に及ぶ労働者委員の連合独占が終わりを告げた瞬間でした。
この労働者委員の任命に至るまで、第三七期から第四一期までの労働者委員の任命について、自由法曹団北海道支部団員によって、任命処分の取消と損害賠償請求を求めた訴訟を五期連続で行っておりましたので、その報告をさせていただきます。
二 第三七期任命訴訟
(1) 札幌地裁判決
二〇〇六年一二月一日付けの労働者委員九名の任命(任期二年)について、道労連と、その傘下の明星自動車労働組合と、同組合から労働者委員へ推薦されていた組合役員とを原告として、二〇〇七年五月二九日付けで札幌地裁に提訴したのが、はじまりの第三七期任命訴訟です。
また、このころ、連合北海道は、北海道労働委員会に労働者委員の推薦候補者の名簿を提出する際に、実際に任命すべき、いわば「本命」の候補のみ太字のゴシック体で記載して提出するということをやっていたようでしたので、これについて連合内部資料を入手して、証拠として提出しました。さらに、連合系労組の中から協力者を得て陳述書を提出しました。
この訴訟は、札幌地裁民事第一部合議係(竹田光広裁判長)に係属し、北海道の雇用労政課長と原告本人の尋問を行ったうえで、二〇〇八年一〇月六日に結審し、同年一一月一七日に原告敗訴の判決が言い渡されました。「北海道内における組合員数の組織率の差異や労働委員会の委員の任命が各任期ごとに知事の裁量によってされることなどを考慮すると、本件各任命処分において、殊更に原告道労連の系統に属する候補者を排除する意図があったことを推認することまではできない」とする、ある意味もっとも予想された内容の判決でした。
(2) 札幌高裁判決
これに対し、原告らが控訴し、札幌高裁第三民事部(信濃孝一裁判長)は二〇〇九年六月二五日付けで控訴棄却の判決を言い渡しました。しかし、同控訴審判決は、その判決理由において、「労働組合の組合員数の組織率の推移や労働組合の各系統の勢力関係の比率の状況、各系統から推薦された候補者の数及びその比率等のいかんによっては、特定の系統に属する労働組合の推薦に係る候補者を労働者委員に選任することを必要とする特段の事情が認められないにもかかわらず、この系統に属する労働組合の推薦に係る候補者のみが労働者委員に選任されることが繰り返された場合には、他の系統に属する労働組合が推薦する候補者を労働者委員から排除することを意図して労働者委員が任命されているとの推認が働くことがありうると言わなければならない」と判示し、今後、道労連系の委員を排除する意図があることを推認する余地が生じてくることに言及しました。
この判示が弁護団の第一の武器となりました。
三 第三八期任命訴訟(続き)
次の第三八期任命訴訟は、二〇〇八年一二月一日付けの労働者委員七名の任命(任期二年)について、道労連、その傘下の北海道勤医労、建交労北海道本部、札幌地区労連・ローカルユニオン結の三単組、及びこれらから推薦を受けた組合役員四名(建交労は二名推薦)を原告として、二〇〇九年五月三〇日付けで札幌地裁に提訴しました。
この訴訟は、札幌地裁民事第五部(石橋俊一裁判長)に係属し、第七回期日まで実施し、北海道の雇用労政課長と原告二名の尋問を行ったうえで、二〇一〇年九月二四日に結審し、同年一一月一九日に判決が言い渡されました。特に見るべきところのない判決でした。
原告らは控訴しましたが、二〇一一年七月二九日に札幌高裁民事第二部(小林正裁判長)が言い渡した控訴棄却判決も、地裁判決同様、特に見るべきところのない判決でした。
実は、第三八期から、労働者委員任命に大きな変化がありました。委員の人数が九名から七名に減員されたのです。これは弁護団にとって痛手でした。
道労連は組織率が六〜七%程度ですので、委員の人数比にすると、委員九名のときは八・三対〇・七くらいになり、比較的労働者委員一名分の枠の配分を要求しやすかったと言えます。また、先の第三七期高裁判決からすると、任命されないことが続くことにより排除意図の推認に結びつきやすいところでした。しかし、委員七名になると、人数比にして六・五対〇・五になるかならないか、更には〇・五すら割り込むことになりかねない状況でした。そうなると、果たして〇・五にも達しない系統の組合に一枠を与える必要があるのかという問題にもなりかねません。
また、一度訴訟を起こしたことにより、連合側の警戒心も強くなり、第三七期訴訟で提出したような資料の入手も困難となりました。
こういった逆風の下で、第三八期は忍耐の時期でした。(続く)
埼玉支部 大久保 賢 一
◆はじめに
一.今、国連で、核兵器のない世界の維持と達成に向けて、核兵器を禁止しそれらの全面的廃棄に導く法的拘束力のある文書(以下、「核兵器禁止条約」)を交渉するための会議が係属している。国連総会は、核兵器の禁止を、単に政治宣言としてではなく、法規範として実現しようと画期的な行動をとっているのである。「核兵器のない世界」を求める私たちは、その成功のために可能な貢献をしなければならない。
二.この会議は、二〇一六年一二月二三日に採択された国連総会決議に基づいている。この決議は、賛成一一三、反対三五、棄権一三で採択されている。国連加盟国一九三カ国の五八パーセントの国家が賛成している。ちなみに、日本政府は反対。核兵器国のうち中国、インド、パキスタンは棄権、北朝鮮は欠席、米国、ロシア、イギリス、フランス、イスラエルは反対である。
三.この決議の基底にあるのは、核兵器が使用されれば「壊滅的な人道上の結末」がもたらされる。その結末を避けるためには、核兵器そのものをなくす必要があるという思想である。単に核兵器の使用禁止だけではなく、「核兵器のない世界の達成と維持」という目的が導かれているのである。この思想と行動は「人道アプローチ」といわれている。核兵器の安全保障上の役割は度外視されているのである。ここに、核兵器を国家安全保障上の「切り札」と位置付ける核兵器国や我が国を含む核兵器依存国との決定的な相違がある。
◆人道アプローチの意味
一.「壊滅的な人道上の結末」とは、(i)広島や長崎にみられるような直接的被害、(ii)爆発がもたらす気候変動やそれに伴う食糧供給の低下などの中長期的影響、そして、(iii)被害者に対する救助・救援の不可能性などを意味している。これまで、広島や長崎や核実験被害者などのヒバクシャは、自らの体験を証言してきた。また、科学者たちは、核兵器が使用された場合の自然や社会に対する影響のシミュレーションを積み上げてきた。そして、国際赤十字などは被害の大規模性と放射線被害という特殊性からして、救出や救援、治療は不可能あるいは極めて困難としているのである。
二.核兵器使用の非人道性については広く認識されている。核兵器の使用は、無差別で理不尽な死傷と破壊をもたらすだけではなく、被害者本人の将来はもとより、次世代に対しても悪影響を及ぼし続けるのである。核兵器使用がもたらす大規模で、無差別で、残虐な被害は、核兵器は、いかなる戦闘行為においても使用されてはならない兵器であることを特徴づけている。その武力の行使が、たとえ正当な目的を持つものであっても、核兵器はその使用を禁じられるべき兵器だとするところに、人道アプローチの特徴がある。国際人道法(戦争法)の基本理念と通底しているのである。
◆戦争の放棄と核兵器の廃絶
一.すべての戦争と兵器が廃絶されることは望ましいけれど、それは難しいことであろう。そこで、核戦争や核兵器の特殊性に着目し、先行して禁止し廃絶していくことが求められているのである。それは、最終的ではないとしても、重要な一歩となるであろう。
二.けれども、武力の行使という手段で紛争を解決しようとする限り、国家は核兵器を手放そうとしないであろう。なぜなら、核兵器はその対抗手段がないがゆえに、最終兵器として有効だからである。このような文脈で考えると、核兵器の禁止を求めるのであれば、国際紛争を武力の行使で解決しようとすることもあわせて求める必要がある。なぜなら、核兵器を使用する国家間の武力衝突は、「全面的な死の危機」(ラッセル・アインシュタイン宣言)をもたらすからである。
三.国連憲章は戦争の違法化を宣言しているが、武力の行使が許容される例外的場合を想定している。他方、日本国憲法は、戦争の放棄だけではなく、陸海空その他の戦力を保持しないとしている。この質的違いは誰の目にも明らかである。戦争手段の全面的放棄が行われれば、武力による紛争解決が不可能になるであろう。改めて九条の先駆性を確認しておきたい。そして、この違いが存在する理由は、国連憲章制定の後に広島・長崎での原爆投下があるといわれている。(続く)