<<目次へ 団通信1614号(11月11日)
森 悠 | ※三重・鳥羽総会特集 その二 三重・鳥羽総会プレ企画に参加して |
辻田 航 | 嵐の後の第二分散会に参加して |
冨田 真平 | 第三分散会に参加して |
三村 悠紀子 | 分散会へ参加しての感想 |
守川 幸男 | 三重・鳥羽総会の議案書と討議で考えたこと 九項目(前編) |
佐藤 博文 | 戦場で兵士は、どう殺し・殺されるか ―現代の戦闘と兵士の命(救命)― (一)殺傷の方法と効果 |
佐藤 誠一 | 「安倍九条改憲NO!」 「核兵器廃絶国際署名」に全力で取り組もう! |
愛知支部 森 悠
一 はじめに
本稿では、一〇月二一日に行われた鳥羽総会一日目のプレ企画の内容について概要をお伝えし、その感想を述べさせていただきます。
二 三重・芦浜原発建設阻止の報告
プレ企画前半は、芦浜原発建設反対運動に携わった元紀勢町の元議員や住民の方にご登壇いただき、当時の運動の経過や思いを語っていただきました。
芦浜原発は、一九六四年、現在の三重県南伊勢町に建設されるという予定が中部電力から公表されました。当初は住民のほとんどが反対していましたが、中部電力は地元住民や漁協などに買収工作を仕掛けました。その結果、一時は賛成住民の数が反対住民の数を上回り、一九九四年には当初は反対していた漁協も建設予定地の調査を受け入れるなど、建設に向けて住民の意見は賛成に吸い寄せられていきました。反対住民による運動は建設予定が公表された当初から行われていましたが、一九九〇年代になり特に賛成住民の数が過半数を上回ったのを受けて、その運動を建設予定地周辺の町にとどめず、県内全域にまで運動を波及させていきました。その結果、八一万の署名を集め、平成一二年にはついに当時の三重県知事である北川知事が原発建設計画を白紙撤回するに至りました。
反対住民の方々は、賛成派から大量の宅配の注文を勝手にされる、無言電話、石の投げつけなど様々な嫌がらせを受け、それは一日だけでも複数回に及びました。それは一日だけでも相当な精神的苦痛であるのに、何十年も継続して耐えながら反対をしてきたエネルギーというのは、感服させられるものがありました。弁護士も訴訟等を通じて支援をすることはできますが、やはり当事者の強い意思で成り立っているのだと実感することができました。
国家が進めている大きな計画に対して、地元住民の力は弱く、覆すことは容易ではありません。しかし、信念を貫き、あきらめずに継続していくことで道が開けるのだということを、成功体験をもって教えていただけました。このような成功体験は、今後の様々な運動の励みにもなっていくものと思います。
三 原発差止め訴訟の取組み
プレ企画後半では、北村栄団員らから、原発差止め訴訟や運動の現在の取組みについて報告がされました。
三・一一の震災以降、福井地裁や大津地裁で差し止めを認める複数の判決が下されましたが、二〇一七年三月以降は四連敗と再び認められなくなっています。三・一一から六年が経過し、裁判官の意識も風化しているのではないかということでした。最近の敗訴判決は、その内容もひどくなっていて、例えば大阪高裁(大津地裁抗告審)では、国の規制基準の合理性の有無について住民側に立証責任を課すという伊方原発最高裁判決(一九九二年)にも反する判断をし、電力事業者は「本件各原子力発電所が原子力規制委員会の定めた安全性の基準に適合することを、相当の根拠、資料に基づいて主張立証」すればよいという判示をしています。
現在名古屋地裁では、高浜原発一、二号機が建設から四〇年超であることから、全国初の老朽化に焦点を当てた訴訟を行っています。また、大阪地裁に対しては、政府が北朝鮮からのミサイル攻撃に国内で警鐘を鳴らしていることに対応して、高浜原発三、四号機に関してミサイル攻撃の恐れ及びそれに対し政府の破壊措置命令が常時発令になっていることだけを理由とする高浜原発運転差止め仮処分を申し立てています。
判決が近い日に見込まれていて期待されるものとして、広島高裁の伊方原発仮処分抗告事件(今年一二月上旬に決定が出される可能性)、函館地裁の大間原発建設・運転差止め訴訟(今年六月三〇日にすでに結審、来年三月までに判決見込み)が挙げられます。
東京支部 辻 田 航
一 嵐の中の団総会
初参加となる団総会は、二つの嵐の中で行われました。
一つは、超大型の台風二一号。もう一つの嵐は、一〇月二二日(日)に行われた衆議院総選挙です。
台風とも総選挙ともバッティングした今回の団総会は、忘れがたいものになりました。
二 総選挙の結果
みなさますでにご存知とは思いますが、今回の総選挙の結果を確認しておきます。
まず、政党別の議席数ですが、全四六五議席中(前回より一〇議席減の戦後最小定数)、自民二八四議席(追加公認三人含む)、公明二九議席、立憲五五議席(追加公認一人含む)、希望五〇議席、共産一二議席、維新一一議席、社民二議席、そして無所属二二議席となりました。与党が三一三議席と全議席数の三分の二(三一〇議席)を超えているのに対し、立憲・共産・社民の立憲野党は合計六九議席です。
公示前との議席増減数は、自民同数、公明五減、立憲四〇増、希望七減、共産九減、維新三減、社民同数です。与党の五減、希望・維新の一〇減に対し、立憲野党は三一増となっています。
また、投票率は五三・七%であり、戦後最低だった前回総選挙は上回ったものの、戦後二番目の低さでした。
なお、分散会が始まった一〇月二三日午前時点では、台風の影響で開票できない地域があったため(総会開催地である三重県鳥羽市もその一つです。)、四議席だけ結果が出ていませんでした。
三 第二分散会での議論
嵐の後の分散会のテーマは、明文(九条)改憲阻止に向けた取り組みと、北朝鮮問題を含む情勢と課題についてでしたが、当然ながら、総選挙の結果を踏まえた討論になりました。
数字だけを見れば、与党が三分の二を占めるという憂鬱な選挙結果になりましたが、参加者の方々と分散会での議論は冷静でした。前夜のうちに、選挙速報を肴にしつつ、すでに議論を済ませた方が多かったのでしょうか(かくいう私もその一人です)。
ある団員は、小選挙区制のおかしさ、不合理性を述べられました。得票率四八%の自民党が七五%の議席を得たように、小選挙区制は第一党に過剰な議席数を与えます。そして、民意と議席数に乖離があると、市民の政治不信や投票率の低下をますます招くように思います。現行の小選挙区制の廃止・改正を打ち出すべきでしょう。ただ、私のような平成生まれは、現在の小選挙区制しか知りません。一〇代・二〇代にもイメージしやすい主張が求められます。
また別の団員からは、今回共産党の議席は減ってしまったが、立憲民主党が結党されず共産党だけ三〇議席を得た場合よりも、中道的で共闘可能な立憲民主党があった方が、安倍政権と対決しやすいのではないか、との意見が述べられました。確かに、仮に共産党が議席を増やしても、野党第一党が意思統一できなければ、結局は与党に押し切られてしまうでしょう(共謀罪の審議で実感しています。)。立憲民主党が躍進し、注目されている現状からしても、前述の意見同様、私も、今回の選挙結果が最悪だったとは思えません。
四 これからについて
選挙期間中、私は、枝野代表の立憲民主党結党後初の街宣と、安倍首相の秋葉原での最終日の街宣を見ました。通行人が立ち止まりやすく、自然発生的・草の根的だった枝野代表の街宣に比べ、安倍首相の街宣は、多数の警察官の警備の中で無数の日の丸がはためいており、いかにも権力的な場でした。今回の選挙結果と民意の乖離が、街宣にも表れていたように思います。
ただ、一〇代・二〇代の投票先は、他の世代に比べ、自民党が多かったのも事実です。今後の社会を形作っていく世代に野党の主張が届いていないのは、長期的にも大きな課題です。団としても、若い世代にも理解されやすい「共通言語」を作っていく必要があるのではないでしょうか。
嵐の後の第二分散会に参加して、今はそのようなことを考えています。
大阪支部 冨 田 真 平
第三分散会では、前日の総選挙において自公が三分の二の議席をとったことを受けて、今後憲法改正の発議をどう阻止するか、どのように国民世論をももりあげていくかという点を中心に感想・意見交換が行われた。
選挙結果については、二〇一四年の衆議院選挙との比較において当時民進党がまだ安保法制についての立場すら明らかにしていなかったことを考えるとはっきりとした護憲勢力で八〇〜九〇の議席を占めたことに一定の意味がある、立憲民主党が野党第一党の立場を確保したことが大きい、今まで薄氷を踏む思いで続けてきた民進党を含めた野党共闘について結果的に今までよりも強い野党共闘ができるようになった、などと前向きな発言がなされた。
続いて、今後予想される憲法九条の発議を防ぐためにどのような運動をすべきかについても、活発な意見交換がされた。
まずは発議を防ぐことが大切であり、そのためには国民投票をして勝てないという認識を持たせることを大事であるという点については何名かの団員より同趣旨の発言があり、そのためにどう世論を盛り上げていくか、どのような運動を展開していくべきかについて、様々な意見が出された。今まで各自が講師活動を行った団体に対しこちらから学習会を行うことを呼びかけるべきではないか、運動家による戸別訪問も検討すべきではないかというような今まで以上の運動が必要になってくるという意見が出されるとともに、貧困が問題になっている中で憲法の話をする際にまずは社会保障を切り口にして話す(憲法二五条と九条を結びつけて話す)ということも必要ではないか、運動面について弁護士会とどのように強調していくかを考えることも重要である、などの意見も出された。
社会保障を切り口にして話すという点については、貧困が広がる中で国民が重視する点としては社会保障が大きく、そういった中でいきなり憲法の話をしてもなかなか関心を持ってもらえる層は限られてしまうのではないかと私自身の実感としても感じるところである。したがって、社会保障や貧困問題を切り口にして憲法の話に結びつけていく、憲法二五条と憲法九条を結びつけて話していく、そういう話がどれだけできるかということが重要であると改めて感じた。
また、各団員の話の中で若い世代へのアプローチ方法についても意見が出された。この点については、学習会や街頭での宣伝活動だけではなかなか伝わらない層も多く、ネット等での情報発信が重要になると思う。若い世代が情報を得るツールとしてはスマホが圧倒的に割合が高いが、現在ネット上では右翼の言論があふれており、そのような言動に影響を受け若者が右傾化していく危険があると感じる。実際大学の教授と話した際に、比較的問題意識を持っている学生の方が、自分で調べるため、右傾化する傾向にあるとのことだった。そういう意味では、学習会や街宣や署名活動だけでなく、ネットでの情報発信も重要になってくると感じた。大阪支部では憲法問題についてのQ&AをまとめたHPを作成中であり、このHPを通じて今後どんどん情報発信を行う予定である。また、このほかにも法教育の分野で行われている高校への出張授業に団員が関わっていくということも重要ではないかと思う。
分散会での議論に参加し、いずれ来るであろうアベ改憲に対し、とにかく今まで以上の運動が必要であり、今まで以上に学習会や街頭での宣伝活動、署名活動に取り組む他、社会保障など貧困の問題とセットで語ることやネット上でも情報発信していくことの重要性を改めて感じた。
茨城県 三 村 悠 紀 子
分散会の議題は、第一に九条明文改憲阻止に向けた取り組み、第二に北朝鮮問題を含む情勢と課題でした。
私は、これまで九条や北朝鮮問題に関連する活動にあまり携わってきておらず、また前日に衆議院選挙の結果が発表されたこともあって、今後これらの問題についてどのような活動や働きかけをなしうるのか、疑問を持った状態で分散会に参加をすることとなりました。そんな私にとり、分散会におけるご意見は、問題意識を生じさせる刺激的なものばかりでした。
九条明文改憲阻止に向けた取り組みとして、分散会では、現在、国民は自衛隊が憲法に書き加えられたら何がどのように変わるのかなどについて何ら情報提供を受けていない状態にあるところ、このような状態で改憲論を唱えるのは早計であると国民に問題提起をすること、自衛隊が憲法に書き加えられた際に生じうる事態を国民に知らせることが重要、等のご意見がありました。
また、北朝鮮問題に関しましては、安倍政権の政策は、ただ北朝鮮の危機を煽るのみで対処法などにつき具体的内容を語らない荒唐無稽な政策であることを国民に伝えていくことが重要、等のご意見がありました。
いずれも、多くの国民に問題意識を持たせ国民世論を形成することが最終目標であるところ、それではどのようにして国民に各問題について興味をもって話を聞いてもらう機会をつくるのかが重要な議題です。憲法、国際情勢問題というと、自分の生活とは離れた世界の話と考えてしまい、関心の生じない方々も当然いることと思います。これらの方々に、いかに各問題に関心を持っていただくのか、きわめて難しい課題だと感じました。
この点について、本分散会では、様々示唆に富むご提案がなされました。
まず、関心のない人に話を聞いてもらう機会をつくるべく、身近な問題を切り口にした学習会やセミナーを開く、というご意見がありました。
憲法や国際情勢問題に関心がないとしても、多くの方々は貧困問題、社会保障など、自分の生活に直結する身近な問題について強い興味を持っています。そこでまずは、身近な問題をテーマに学習会やセミナーなどを開きます。そして、「社会保障費が減額されている一方で、軍事予算は増加されている。現在の政治は社会保障より軍事を優先する国づくりを進めているのではないか。」などのように、身近な問題に関連して軍事問題など他の社会問題の議論を展開すると、これらの問題も自己の生活に関連した問題として興味をもっていただけるようになる、という内容でした。お話を聞いて、まずは多くの方に話を聞いていただく機会を持つことの重要性を感じました。
他にも、若年層が手に取り読み進めやすい漫画の中から、社会問題について論じているものを勧める方策もある、とのご意見もありました。また、若年層において、インターネットでニュースや調べものをする傾向があることから、インターネットに社会問題について解説するページを作成しているというお話もありました。社会問題に関する情報に容易にアクセスできる環境を整えたり、アクセスしやすい媒体を提案したりすることも、社会問題を広く知らしめ、関心を深めさせるのに重要なことだと思いました。
以上、関心のない方に興味をもってもらう方策、情報への容易なアクセスを進める方策等、国民世論の形成に向けた様々なお話をお伺いしました。これらは、九条改憲問題や北朝鮮問題のみにとどまらず他の活動にも生かせる内容ですので、今後の活動の参考にしていきたと思います。
千葉支部 守 川 幸 男
総会議案書は、最大公約数的に、常幹討議で意見の一致したものが提案される。ただ、団内でも意見交換や意見の分かれる論点について討議しておいた方がよい。そこで、総会での討議も含めて、考えたことを問題提起的に議案書の記載順にあれこれ書いてみたい。
一 北朝鮮の脅威についてアメリカの責任こそきびしく批判を
1 「口実」「強行」「挑発」?
議案書の一ページ末尾で、北朝鮮が「米韓合同軍事演習」を口実に弾道ミサイル発射実験と核実験を「強行した。」との表現が二ページに二ヶ所ある。では米韓は強行ではないのか?さらに北朝鮮の「挑発」とある(二ページ)。ではアメリカによる「斬首作戦」は挑発ではないのか?
北朝鮮を強く批判するのは当然としても、これらはマスコミの報道ぶりに引きずられていないだろうか。このまま威嚇の応酬では、リビアの教訓からも北朝鮮が核を放棄するはずはない。偶発的または誤算による軍事衝突の危険を直視し、威嚇や抑止力で解決した例などないことを強調すべきである。
2 「対話」でなく「外交交渉」との表現が適切
二ページの「対話」という表現も気になる。お話し合い、という生ぬるい雰囲気がある。例えば裁判上の和解手続も闘いである。「外交交渉」と言うべきであろう。「圧力、圧力」と叫ぶのに能力はいらない。外交能力やその発揮のタイミングが重要である。一五年前の小泉元首相の電撃的訪朝はその例の一つである。
また、すでに六カ国協議のワク組みがあることを強調するのは当然である。
3 核兵器禁止条約に対する態度
核兵器禁止条約交渉会議で条約が採択された(一五ページ)が、国連総会第一委員会(軍縮、国際安全保障)では、この開始決議に日本はアメリカに追随して反対したが、北朝鮮は賛成した(その後は決議の効力を避けるためか欠席)。加えて、今回、この第一委員会で核兵器禁止条約歓迎決議に対し、日米は反対したが北朝鮮は棄権した。北朝鮮に核放棄の意思がないわけではなかったし、今もそうである。アメリカが追い込んで来たのであり、北朝鮮が一方的に約束を破って来た、とは単純に言えない。
二 共謀罪を発動させないために
「発動」の意味を区別して考えてみる必要がある
破防法は発動を阻んできた。しかしそれは破壊的団体に対する処分請求を受けての公安審査委員会による各種処分を許さなかった、というにとどまり、内偵など公安警察や公安調査庁の捜査はこっそり行われて来た。ただ萎縮効果はそれほど大きくない。
他方、共謀罪には、暴対法のような暴力団の指定制度がないし、発動させない闘いが必要だと言っても、警察による捜査はこっそり行われるから、違法な捜査の発動を阻止すること自体はかなり困難であり、萎縮効果も大きい。
次に、実際に逮捕、起訴に至るような発動については、国民の大きな批判や監視によって、そう簡単にはできない状況を作り出す必要がある。
警察監視のための第三者機関設置の必要性も指摘されている。(二〇ページ)。しかし議案書では組織的犯罪集団の指定制度について指摘がない。恣意的な発動をさせないために、この二つの制度の必要性を強調すべきである。もっとも、これらの制度があれば共謀罪を認める、ということではなく、恣意的な発動をさせない制度的保証のないような共謀罪は廃止せよ、が基本である。
(それにしても、当面これらの制度がないもとで、かつ、六項記載の超監視社会のもとで、違法捜査の発動を阻止し、どのように萎縮効果を少なくするのか、検討課題ではある)。
三 供述心理鑑定と「非体験的兆候」
大崎アヤ子再審決定に関して、「法医学鑑定」とともに「供述心理鑑定」という聞き慣れないことばがある(二三ページ)。
供述の変遷を科学的に分析して、体験の裏打ちのない供述について「非体験的兆候」として、「無知の暴露」とともに、目撃供述をその変遷も含めて批判するのである。そのような鑑定を裁判所が採用したり採用しても信用しない例が多いとは思うが、供述の変遷ほかを検察官からの被告人批判として独占させないことが、弁護実践の中で重要な視点である。
四 死刑廃止問題などと弁護士法一条
議案書二五ページに指摘がある。昨年の日弁連人権大会で紛糾した。今年の人権大会でも、かつて被害者参加制度に対して日弁連が反対したとして激しい日弁連執行部批判の発言等があった。しかし、絶望的とも言われる日本の刑事司法の現状や在野法曹の立場からの考察と二つの利益の考量を考える必要がある。被疑者、被告人の権利が不十分な現状で、被害者の権利を理由にこれを犠牲とするかのように受け取られるなら本意ではないと思うし、バランスを欠くと受け止められる。
ただ、これだけ強い反対意見のあるもとで決議することに躊躇もあり、私は昨年の人権大会で何度も迷いながら結局賛成した。また、週刊法律新聞では、死刑廃止反対、被害者の権利擁護の立場からの悲痛な訴えを内容とする記事が頻繁に掲載されている。
立憲主義違反の治安立法ほかに反対することは弁護士法一条に基づいて肯定されるし、同旨の東京高裁判決もある。ただ、死刑問題でも同じように弁護士法一条を根拠にすることがそのまま妥当するのか、意見交換しておくべきであろう。(次号に続く)
北海道支部 佐 藤 博 文
初めに―問題意識
安保法制により、自衛隊員は「殺し・殺される」ことになったと言い、ママの会は「だれの子どもも殺させない」と訴える。これは、戦争や軍隊の本質を表す言葉であるが、実は、私たちは「現代の戦争」のリアリティを知らない。
そこで、南スーダンPKO差止訴訟(原告は現職自衛官の母親)では、これを裁判官に理解してもらうために、「現代の戦闘と兵士の命(救命)」と題する書面を作成・提出した。自衛隊員が、南スーダンという戦場でどのように殺傷がなされるか、そこに生命、身体の安全を守る十分な装備も教育もなく派遣されたことを、戦場医療・教育に精通した照井資規氏(元陸上自衛隊富士学校・衛生学校研究員)の論文に基づいて論じたものである。
論文には目を背けたくなる写真が多数あるが、以下には、弁護団の書面の要旨を紹介する。全文は、弁護団HPで見ることができる。
効率的な殺人と救命との格差拡大
まず、現代戦闘の殺傷力と医療の救命力との間の著しい能力差を認識する必要がある。現代の戦闘とは「効率的な殺人」に他ならない。他方、負傷者の救出・救助・救命・救護・治療は一人ずつ行なうほかに方法はない。従って、効率的な殺人と救助の間には決定的な差があり、今後、たとえ医学がどれだけ発達しても、この差は拡大していく一方である。大量破壊兵器(大型兵器、生物・化学兵器、核兵器など)が用いられた場合は、この差は途方もないほど大きなものとなる。
「効率的な殺人」は、戦争でもテロでも同じである。政府は、相手が国家又は国家に準ずる者か否か、戦闘か衝突かなどと区別した議論をするが、そこに事実としての戦闘状態がある以上、戦場に立つ兵士にとっては意味のないことである。
銃による殺傷方法の変化
五・五六mm小銃は、一九七〇年代以降の世界標準であり、自衛隊員も南スーダンに持って行っている。この小銃弾は、身体への侵入直後に破壊力が最大になり、容易に破片化することにより、一発の銃弾で複数箇所の穿通性外傷をもたらすものである。
さらに、二〇一〇年以降には、小銃による戦い方にも効率的な殺人が追求され、一発の銃弾で戦闘力を確実に奪うため、骨盤付近を狙うようになった。骨盤に命中できれば直ちに歩行困難になり戦闘力を奪うことができるうえ、止血困難であるため戦死になりやすいため、射撃においては優先的に狙われる部位となった。
骨盤部を狙う射ち方は、もともとはイラクやアフガニスタン等で武装勢力が始めたもので、自衛隊が武装勢力から銃撃を受けるとすれば、この戦法による可能性が大きい。
地雷の殺傷力
確実な殺傷を期すようになったのは爆弾、砲弾や地雷においても共通する。
地雷であれば、以前は戦車のキャタピラを爆破により離断させたり、装輪装甲車の車輪を吹き飛ばす程度であったが、現在では一五トン以上もある装甲車を何mも地上から吹き上げるほどの爆発力で、乗員を確実に殺傷するようになっている。自衛隊は、軽装甲機動車を持って行っているが、狙われたらひとたまりもない。
多用されるIED(即製爆発装置)
現代の戦闘では、IED(即製爆発装置)が多用されている。IEDとは本来は、砲弾として大砲から発射したり、爆弾として航空機から投下する爆発物を武装勢力が正規軍を襲撃するなどして奪い、それらに携帯電話等による起爆装置を設けて製造する即製の爆発装置である。元来が砲弾、爆弾であるため殺傷力が強い。IEDは遠隔操作で爆発させるので、爆破の実行者は安全を確保しながら効率的な殺傷が可能である。
自衛隊の海外派遣における駆けつけ警護が開始されれば、IEDによる爆発に遭い、死者や手足を失う負傷者が出るだろう。
(続く。次号は「(二)戦場における救命医療」)
東京支部 佐 藤 誠 一
一 先の総会で、「安倍九条改憲NO!」に取り組む意義と決意が確認された。反面で総会当日現在、団員各事務所のこの署名への取組が、「未だ」であることを知った。
私の所属する東京南部法律事務所は、この署名の目標を七五〇〇人と掲げ、総選挙だからこそ今から取り組もうと、総選挙前に事務所の顧客ら六八〇〇人に発送した。今、毎日のように一〇〇通からの記録的な数の返信がある。返信が多すぎて、署名数の集約ができないほどだ。
二 目標は七五〇〇人
二〇〇〇万人署名のとき、大田区の共同センターは大田区内で一〇万人を目標とした。当事務所の論議で、その五%に責任を持とうとなって、五〇〇〇人を目標とした。六〇〇〇人を越える署名を集約し超過達成した。
今回は三〇〇〇万人であり、大田区の目標も一・五倍、それなら当事務所の目標も一・五倍の七五〇〇人となる(事務所会議で確認した)。そしてまずは、二〇〇〇万人署名に協力いただいた皆さんから、確実に署名を頂戴することが重要であると論議した。
三 選挙を待たずに直ちに
ではいつから始めるか、総選挙だしその後からか、いやいや総選挙だからこそ、「安倍九条改憲NO!」を選挙の争点とする意味でも、直ちに始めるべしと事務所会議で議論し、再び事務所の顧客ら六八〇〇人に発送した。時期的にも費用的にも、せっかくなので「核兵器廃絶国際署名」もセットで、「平和のための二つの署名にご協力下さい」と訴える送り状を添えた。
三 待たれていた二つの平和署名
選挙の前後から、毎日一〇〇通にのぼる回答が届いている。手紙やカンパが添えられ、開封してこれらを整理することで事務局スタッフが大わらわである。ゆえに署名数の集約ができない。
皆さん、選挙結果もあって、共産党や立憲民主党・社民党などに投票した(立憲)野党共闘を応援する皆さんは、選挙後、この今、何かできないか、何かすることはないか、待っておられるんです。少しでも早く、そうした皆さんにこの二つの署名をお届けしようではありませんか。