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2000年6月10日

警察改革への緊急提言

自 由 法 曹 団
目    次
第1 はじめに
 T なぜ、いま警察か
  1 警察で何が起きているか
  2 警察刷新会議の議論
  3 自由法曹団の提言
 U 警察腐敗の原因は、警察の体質にある
  1 極端な秘密主義
  2 自浄作用が働かない
  3 人権感覚の欠如
第2 公安委員会の民主的改革
 T 公安委員会制度の意義と現状
 U 公安委員会が機能しない原因
 V 公安委員会を改革するために
  1 警察から独立した国家公安員会とするために
  2 権限を強化する
  3 国会と国民に対する可視性を強化する
 W 都道府県公安委員会
第3 警察情報の公開
 T 警察の情報公開をめぐる現状と課題
  1 警察情報とアクセスの遮断
  2 警察情報公開への進展と現状
  3 警察情報の公開をめぐる諸問題
 U 公開されるべき警察情報
  1 開示義務除外規定と警察情報
  2 警察情報の公開をめぐる具体的実例
 V 警察情報の公開をめぐるその他の問題
  1 情報公開の実施機関
  2 不服審査と第三者機関の関与
  3 国(情報公開法)と自治体(情報公開条例)の関係
第4 おわりに

第1 はじめに

T なぜ、いま警察か

 1 警察で何が起きているか

 今、国民の警察への批判、怒りが広がっている。警察官の犯罪行為、腐敗行為、人権侵害、職務怠慢、捜査の不手際などあらゆる膿が吹き出している。それは、単に「不祥事」と言って済ませるほどのものではない。
 神奈川県警の元本部長ら県警幹部による覚せい剤事案の犯人隠秘事件について、横浜地裁は、元本部長らの行為を「万死に値する」と断罪した(2000年5月29日判決)。事件は、本来事実を究明し、責任を明らかにするべき責任を負っている県警本部長、警務部長、監察官室長ら神奈川県警幹部が警察官による悪質な犯罪事実が発生していることを知りながら、率先して事件を隠蔽したものである。その他、神奈川県警の組織ぐるみの犯罪は、国民を驚かせるばかりである。
 新潟県警においては、長期間に亘り行方不明となっていた少女が逮捕監禁されていたという事実が判明したとき(2000年1月28日)、県警本部長が特別監察に来た管区警察局長と酒宴と麻雀に現を抜かしていたということであり、ことの重大性を全く認識していないという事案である。そして、これらについて調査を命ぜられた警察庁の調査チームも右事実を正確に把握することが出来ず、おざなりな報告しか出来なかった。更に、国家公安委員会もまた警察庁の言いなりの「処分」を持ち回りという違法な方法で決定していた。国家公安委員会の委員もことの重大性についての認識に欠けている事実が明らかになった。
 埼玉県警管轄内の桶川のストーカー殺人事件、栃木県警管轄内の上三川町のリンチ殺人事件は、いずれも被害者や肉親の訴えを真摯に聞くことをせず放置したため、或いは安易な対応をしたために被害者が殺されるという事態に発展している。
 その他、いちいち上げていたらきりが無いほどの警察官による「不祥事」が多発している。

 2 警察刷新会議の議論

 政府は、警察刷新会議を設けて、警察改革に向けて議論をしている。その中で、苦情処理や監察と公安委員会のあり方などを議論しているが、その内容は、現在の体制を前提とした小手先の改革論議に終始している。例えば、大きな問題となっている公安委員会について「公安委員会を補佐する体制については概ね警察内部の組織とし、その体制を強化することが適当であり、人数的にも大きなものは必要ではない」(第6回議事要旨)としている。
 警察による監察の強化として「警察庁監察部門の増強、管区警察局における『監察部(仮称)』の設置・体制強化、都道府県警の監察担当官の増強を行う」「都道府県警の首席監察官等に国家公安委員会の任命による者を充てる」「警察庁、管区警察局による抜き打ち監察の頻度を高める」(第7回議事要旨)などとしているのに過ぎない。
  このようなことで、現在の腐敗した警察の刷新など出来るはずもない。

 3 自由法曹団の提言

 自由法曹団は、従前から警察と市民の人権について発言してきた。1984年2月「警察と市民の人権」を発行した。少年非行と警察、五千万ドライバーと警察、働く人たちと警察など市民のくらしと警察の関わりの中で警察のあり方を問題として指摘した。また、警備公安警察や警察と右翼の関係についても問題としてきた。
 更に、1986年11月、「警察と市民の人権PAPTU」として「市民生活と警察」を発行した。その中で、自由法曹団は、「公安委員会委員の選挙による選出、下級警察官の労働組合をつくる権利を認めさせ、また、警察官の教育内容を民主的に管理し、不偏不党、公正中立で市民にサービスする警察官を養成するなど警察制度の民主化するため、抜本的改革」を求めた。
 今また、警察に対する国民の怒り、批判が大きくなり問題とされているとき、警察問題について取り組んできた自由法曹団として、現在問題となっている情報公開制度、公安委員会制度、監察のあり方について意見を明らかにする。

U 警察腐敗の原因は、警察の体質にある

 1 極端な秘密主義

 第1は、警察の極端な秘密主義である。警察は、その予算、組織、教育(警察用語では教養)等の警察の実態を国民に明らかにしない極端な秘密主義を採っている。
 警察官教育の内容、カリキュラムは明らかにされていない。個々の警察官が憲法を守り、人権を守るためには、警察官に対する人権教育が重要であるがこれらの教育はなされていない。一方で警備公安重視の偏向教育が徹底的に行われているのが実態である。
 警察の予算決算の詳細が明らかにされておらず、二重帳簿による違法な裏金作りがなされていると言われている(松橋忠光・わが罪はつねにわが前にあり)。
 これらの秘密主義の背景には、警察における警備公安警察の極端な偏重があり、国会でも裁判所でも立ち入りを許さない「聖域」を作り出している。
 警察の情報公開は、必要不可欠である。

 2 自浄作用が働かない

 第2に、警察には、市民の批判を受け入れる姿勢が無く自浄作用が働かない。人権侵害事例について、各地の弁護士会が警察に対して警告書を出すことがあるが、警察はこれを受け取ろうとしないし、調査に協力しようとしないことが多い。他からの批判を受け入れようとしないのである。本来、監察官室は、警察官の「不祥事」が発生した場合、事実を究明し、これを県民に明らかにして批判を受け、同様な事案が再発しないようにすべき職責があるにもかかわらず、その役割を果たしていないことが明らかになった。もはや、警察内部のみの改革では不十分である。
 警察を管理する公安委員会制度の改革と外部監察は必要不可欠である。

 3 人権感覚の欠如

 第3に、個々の警察官の人権感覚の欠如である。本来、強力な警察権・強制権を持つが故に、警察官は法に従い相手の人権を最大限に尊重しなければならない職責があるにもかかわらず、現実には成績至上主義・検挙第一主義の下で人権侵害を繰り返している。警察による人権侵害の例は枚挙に暇がない。日本弁護士連合会が編集した「検証・日本の警察」(日本評論社)には、警察官による人権侵害事例が数多く報告されている。
 神奈川県警は日本共産党緒方宅電話盗聴事件を起こしている。実行犯である盗聴警察官らは裁判所の呼出にも応じなかった。そして、裁判所で数回に亘り神奈川県警の組織的犯罪であると認定されているにもかかわらず、警察は、警察庁から神奈川県警まで未だにこれを認めず開き直っているのである。
 警察官に対する人権教育が必要である。

第2 公安委員会の民主的改革

T 公安委員会制度の意義と現状

 戦後新たに公安委員会制度が設けられた。その目的は、国民の良識を代表する者が警察行政の運営を民主的に管理し、その独善や政治的偏向を防止して、国民の基本的権利を擁護することにある。
 しかし、公安委員会制度が形骸化している現状は衆目の一致するところとなっている。国家公安委員会が、警察を管理する機能を果たしていないどころか、むしろ、警察に管理され、警察の「追認機関」に成り下がっていると批判されている現状にある。

U 公安委員会が機能しない原因

 国家公安委員は内閣総理大臣が両議院の同意を得て、都道府県公安委員会は都道府県知事が都道府県の議会の同意を得て任命するが(警察法7条1項、同39条1項)、公安委員の候補者名簿は警察庁、都道府県警察本部から提出され、チェックされることなくそのまま候補者名簿から任命されている。警察に都合の悪い人間が公安委員会に入らない運用となっている。
 公安委員会には独自の事務局はなく、警察庁や道府県警本部が公安委員会の庶務を処理することになっている(警察法13条、同44条)。委員会の権限に属する事項の原案・素案は警察機関から出されることになる。そのため、公安委員会は、警察を管理する立場にありながら、警察の意向にそって運営され、警察の「追認機関」化せざるを得ない現状を生み出している。
 公安委員会が本来の目的を果たし、国民から負託された権限を発揮するためには、公安委員会が警察から独立すること、警察に対する直接の指示監督権を付与されるなど職責に相応しい権限をもつこと、公安委員会の事務局を充実し、調査能力を向上させることなどが求められている。
 以下、国家公安委員会の民主的改革を中心とした幾つかの提言を試みる。

V 公安委員会を改革するために

 1 警察から独立した国家公安員会とするために

(1) 委員選任方法の改革
 両院の同意に先立って、両院の関係委員会は、内閣総理大臣が任命する委員予定者に出席を求め、聴聞を行うこととする。
 両院において、内閣が任命する委員予定者の適否を判断できる機会を制度的に保障するためである。関係委員会の聴聞は、両院において行うか、(アメリカの上院聴聞会を参考にして)参議院に委ねるかは、なお検討する。
 右提言の実現は、警察法の改正を必要とするものではなく、両院の同意を得る手続きに関する両院(又は参議院)の運用で可能である。
 国家公安委員の公選制を求める意見がある。公選制となれば、全国を一つの選挙区として、全国の有権者が選挙で選出することになるのであろう。
 日本国憲法は、国民の直接選挙(投票)制度として、国会議員選挙、最高裁判所裁判官に対する国民審査、憲法改正の承認、一つの地方公共団体にのみ適用される特別法に対するその地方公共団体の住民投票を定めている。国家公安委員の公選は直接民主主義、国民主権の理念には適うものの、日本国憲法が予想している範疇にあるのか、疑問の残る問題を抱えていると思われる。

(2) 事務局体制の確立
 公安委員会に独自の事務局を設置する。
 事務局は、警察の組織・運営などの行政にかかわる諸問題、予算配分などに必要な調査、検討を行い、広く警察運営を司る。
 警察職員は事務局職員にはなれない。警察職員であった事務局職員は、退職後警察職員に戻ってはならない(退職後の問題は、職業選択の自由を制約することのなるので、運用指針に委ねることになる)。
 警察庁は、国家公安委員会からの調査に応じる義務を負う。求められた資料の提出・説明義務、質問に回答する義務を負う(応諾義務、提出義務、回答義務)。
 事務局設置および現職警察職員の事務局職員不適格条項につき、警察法改正を改正すべきである。

 2 権限を強化する

(1) 監察委員会の設置
 公安委員会の直属機関として常設の監察委員会を設置する。 監察委員会は、警察庁及び警察職員に関する監察を行う。
 監察委員会は、監察を行うが処分者ではない。
 監察委員は、その職務上、警察からの特段の独立性と信頼・公平性が求められることから、警察職員、警察職員であった者はなれない。
 監察委員の半数は弁護士などの法曹資格を有する者で構成する。
 弁護士である監察委員は、日本弁護士連合会の推薦を得て公安委員会が任命する。
 監察委員会の下で、事務局は、警察職員の職務犯罪等につき資料提出要求、質問、照会などの調査権を有する。警察庁、都道府県警察、警察職員は、調査官の調査に協力する義務を負う。
 監察委員会の設置、監察委員の不適格条項、調査官の調査権限の付与、警察庁等の協力義務を実現するために警察法を改正すべきである。
 警察内部の監察制度は機能していない現状にあるが、公安委員会の直属機関として監察委員会を設置したことをもって、警察庁、都道府県警察本部は警察内部の監察制度の充実を怠ってはならない。

(2) 公安委員は名実ともに常勤とする
 現在も建前は常勤である。だからこそ、年間2600万円を超える報酬が支給されている。しかし、週1回の定例会に参加し、緊急課題が発生したときに臨時の会議に出席する実態にある。
 公安委員は、警察行政の運営を民主的に管理し、その独善や政治的偏向を防止し、国民の基本的人権を擁護するといった任務を日常的、具体的に果たすためには、常勤者であることが求められる。
 常勤であることと、兼職禁止は必ずしも同一ではない。国会の承認を得た業務については、兼職を認めることとする。

 3 国会と国民に対する可視性を強化する

(1) 国家公安委員会は、毎年、国会に対し、活動状況を報告する義務を負う
 国家公安委員は、国会の求めがあれば、国会に出席し、答弁し、意見を述べることができる。
 現在は、国家公安委員長も含め、公安委員は国会への出席義務はない。
 国務大臣等、会計検査院長等の国会出席説明を定める国会法(第7章)を改正する。

(2) 警察運営、警察官に関し、
 国民が直接公安委員会に意見、苦情などを寄せることのできる部署を設置する
 部署は、監察委員会の内部に設け、寄せられた意見、苦情、などに対し可及的速やかに応答する。寄せられた意見などは、定期的に公安委員会に報告する。

W 都道府県公安委員会

 事務局体制の確立、監察委員会の設置、議会と住民に対する可視性の強化など、基本的には、国家公安委員会の民主的改革を都道府県公安委員会に適う形で実現する。
 公安委員の任命については、当面は、議会内の関係委員会による聴聞手続きを実現しつつ公選制を目指すべきと考える。国家公安委員の任命とは異なり、地方自治の理念、自治体警察の性格に照らし、都道府県公安委員会は、住民の直接選出手続きをとることが望ましい。

第3 警察情報の公開

T 警察の情報公開をめぐる現状と課題

 1 警察情報とアクセスの遮断

 警察は情報公開の最も遅れた分野となっている。
 「開かれた政治」への国民的な要求が強まり、全国各地で情報公開条例が制定・拡充されるなかで、公安委員会・警察の保有する情報(以下、「警察情報」)だけは、現在もなお情報公開の「埒外」におかれている。情報公開条例の実施機関から公安委員会・警察が意図的に除外されてきたことがその原因である。
 首長部局や教育委員会など自治体のほとんどの執行機関が実施機関となり、最近では地方議会すら実施機関となって情報公開を進めるなかで、同じく自治体の執行機関である公安委員会とその管理下の警察が除外されているところに、この国の警察の根強い秘密主義と独善的な権威主義があらわれている。
 この間、公開拒否を争う情報公開訴訟が全国で展開され、警察に関わる公費支出に関わる情報について、「実施機関である知事の職員(出納長)が取得し、知事が管理する文書」として公開を命じる判決があらわれてきた(1999年4月26日福岡地裁判決など)。こうした判決にもとづいて、都道府県(知事)が警察の食糧費・旅費等の公開に踏み切る例もあらわれてきている(2000年5月31日 宮城県)。
 公費支出の面では警察も首長部局の管理を経由することに着目して警察情報にアクセスしたものであるが、あくまで知事による公開であって、この方法では予算執行に関わらない警察行政などには公開は及ばない。
 こうした警察情報へのアクセスの遮断は、
@ 情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)の制定やそれに伴なう全国各地での情報公開条例の見直しの進行
A この間噴出した警察の構造的腐敗への国民的な批判と「開かれた警察」への要求の前に、根本的な是正が要求されることになっている。
 警察の構造的な腐敗の根底に、「国民の目を遮断することによって警察の威信を守る」という前近代的・反国民的な秘密主義があることが明らかだからである。

2 警察情報公開への進展と現状

警察情報の公開をめぐる現状は以下のように整理できよう。

(1) 情報公開法
 1999年5月に制定された情報公開法では、国家公安委員会が実施機関として法定され(法第2条@3)、本年2月に公布された同法施行令によって、警察庁が実施機関に指定された(法第2条@4 施行令第1条@)。これによって、国家公安委員会と警察庁の保有する情報は、一般行政情報と同じく情報公開法の公開手続に服することになった。
 前記施行令によって検察庁も実施機関に指定されているから(法第2条@5、施行令第1条B)、検察・警察という刑事捜査を担当する機関の情報が、他の行政機関の情報と同様に、情報公開の対象になったことを意味している。
 また、情報公開法では、情報公開審査会(法第21条〜)が、開示決定・非開示決定に対する不服申立てについて審議することになっているが(法第18条)、警察や検察の情報がこの審査会への諮問から除外されていないことも重要である(例外は別の審査会を設ける会計検査院のみ 法第18条)。
 ただし、情報公開法の施行は2001年4月1日とされているため、警察情報の公開もまだ実施には至っていない。

(2) 情報公開条例
 情報公開法の制定に伴なって全国各地の自治体で進められた条例の見直し作業のなかで、地方公安委員会や都道府県警察を実施機関に加える改正が行なわれ、神奈川県・三重県をはじめとする9県が警察情報を追加する改正を終わっている(2000年5月現在)。また、東京都が6月の総選挙後の都議会で東京都公安委員会と警視総監を追加する条例改正を行なうと発表しており、警察刷新会議の論議等を受けて全国で追加改正の動きが進むと思われる。
 この条例見直しのなかでも、
@ 東京都知事の諮問を受けた「東京都における情報公開制度のあり方に関する懇談会」が、「公安委員会(警視庁)の追加」を提言したにもかかわらず(98年4月「提言」)、「情報公開法が未成立」等の理由で、1999年3月に行なわれた改正では削除される
A 警察情報を追加した条例でも、警察情報についての施行期日を情報公開法の施行まで先送りし、条例施行後に取得した情報に限定する(神奈川県情報公開条例など)
B 警察情報については、不服申立てについての審査会等への諮問を行なわない(同)
など、警察の抵抗や自治体の消極姿勢をうかがわせる事態が続いている。

(3) 警察刷新会議
 警察の構造的腐敗への国民的批判を受けて設置された警察刷新会議(座長 氏家薺一郎民放連会長)では、本年3月以来の警察改革のひとつの柱として情報公開の推進が取り上げられ、「警察の情報公開に関するガイドライン」の作成等が審議されている(「警察刷新会議会議録要旨」 警察刷新会議のホームページで公開されているが、会議録すべてではなく、発言者を記号表記した要旨である)。
 上記「ガイドライン」には、
@ 不開示とする情報は、「刑事法の執行を中心としたものに限定」する。
A 行政警察活動に関わる情報は、「個人に関する情報等不開示情報に該当する部分」は原則として開示する。
B 懲戒事案については、発表の基準を明確にする
などが盛り込まれるものと考えられている(第4回会議録要旨(4月26日)、新聞報道等)。
 基本的に積極的な方向と考えられるが、いっそう具体的な検討と厳格な基準の設定等が求められよう。
 そもそも、情報の公開基準を論じるには、警察が保有している情報の種別・標目や保有目的・管理部局などが明らかにされねばならないはずであるが、「会議録要旨」を見る限り、警察刷新会議にこうした「情報リスト」が提出されて、具体的に検討が行なわれた形跡は認められない。警察は「どんな情報があるか」そのものを明らかにしていないのであり、「リスト」にもとづいた具体的な検討と「リスト」に即した厳格な基準の設定が行なわれなければ、例外のはずの非開示の範囲が拡張される危険は甚大なのである。

3 警察情報の公開をめぐる諸問題

 警察情報の公開については、警察法による警察組織のあり方と刑事捜査等に関わる警察機能とのかかわりから、一般の情報公開の問題とは独自にいくつかの問題点が存在する。
@ 情報公開の対象となる情報
   警察情報をどこまで公開するか
A 実施機関
   どこを実施機関とし、どこにある警察情報を公開するか
B 不服申立と審査手続
   非開示決定への不服申立ての審査に第三者機関を関与させるか
C 国(情報公開法)と自治体(情報公開条例)の関係
   自治体は自律的に警察情報の公開を推進できるか
は、こうした警察情報に関わる問題である。
 以下、これらの諸点について検討を加える。
 なお、情報公開法や情報公開条例は積極的な意味を持ったものであるが、請求権者や請求手続、開示義務除外情報の範囲、不服審査手続等にさまざまな問題をはらんだものでもある。これらについては、今後とも情報公開の推進の方向で改善・改正が行なわれるべきものであるが、本稿においてはさしあたり現行の法・条例を前提にする。

U 公開されるべき警察情報

 1 開示義務除外規定と警察情報

(1) 法・条例の開示義務除外規定
 警察情報の公開をめぐっては、警察が「個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持する」ために設けられていることと(警察法第1条)、情報公開法・情報公開条例の開示義務除外規定との関係が問題となる。
 情報公開法においては、
@ 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障をおよぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(第5条4 以下、「公安秩序関係情報」)
A 公にすることにより、「監査、検査、取締り又は試験に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ」など、「適正な業務遂行に支障をおよぼすおそれ」がある情報(第5条6 以下、「業務阻害情報」)
などの開示義務除外がおかれておる。
 情報公開条例においても、上記2つの除外規定と同趣旨の開示除外が設けられるのが常となっており(東京都情報公開条例第7条4、6 神奈川県情報公開条例第5条4、6)、これらはほとんど全国共通といっていい。

(2) 除外規定拡大解釈の危険
 警察情報についてこの除外規定を拡大解釈すれば、警察情報の公開への重大な制約としてはたらくことは容易に想像できるだろう。「警察は公共の安全と秩序の維持を目的としている。だから、およそ警察に関わる情報で公にして公共の安全と秩序の維持に支障をおよぼさないものはない。公開していいのは警察が発表しているホームページとリーフレットだけだ」などいう「論理」さえ登場しかねない。こうなれば、情報公開が「絵に書いた餅」となるのはあまりも自明である。
 とりわけ、この国の警察では、「不祥事は漏らすべきでない。漏らせば警察の権威が失墜し、秩序の維持を保てない」などという「準則」すらまかりとおろうとしていたのであるから、開示義務除外規定の解釈には厳格な上にも厳格な縛りが必要となるのである。

(3) 除外規定は厳格に解釈されねばならない
 除外規定の解釈運用には、以下の基準が厳守されねばならない。
 第1に、前記@の「公安秩序関係情報」の除外規定は、刑事訴訟法上の司法警察として遂行される具体的・個別的な犯罪捜査に限定されるべきであり、仮にも広範な行政警察活動や一般の犯罪予防活動に拡張されるべきものではない。
 情報公開法の検討・立案にあたった行革審・行政情報公開部会においても、「『公共の安全と秩序の維持』に、いわゆる行政警察の諸活動まで広く含める理解があり得るが、本号は、犯罪の予防・捜査等に代表される刑事法の執行を中心としたものに限定する趣旨」(「情報公開要綱案の考え方」)としている。行政警察が除外されないことは情報公開法の立法趣旨として厳格な解釈運用を要する。
 第2に、前記@の除外規定は、行政機関の長が「認めるにつき相当の理由」との表現になっている。あたかも実施機関の主観的裁量を許すかのような表現であり、法改正が求められるところであるが、現行法の解釈でも「個別的具体的なおそれがあると認めるについて司法判断として相当性がある場合」に限定されねばならない。
 第3に、前記Aの「業務阻害情報」の除外規定も、具体的な「取締り」に関わって、情報公開によって違法行為を助長する現実的な危険がある場合に限定されなければならない。そうでなければ、「公安秩序関係情報」の範囲を刑事司法に限定しても、広範な行政警察活動、犯罪予防活動等が「業務阻害情報」に取り込まれ、@Aの併用によって警察情報の公開は画餅に帰すことになる。
 この点でも、「『支障』の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、『おそれ』の程度も単なる確率的な可能性ではなく法的保護に値する蓋然性が当然に要求される」とした前記「考え方」(行革審・行政情報公開部会)の基準が厳守されねばならない。

2 警察情報の公開をめぐる具体的実例

 警察情報の情報公開が実効性をもつかどうかは、警察内部の情報公開とともに広範な行政警察活動、犯罪予防活動が公開されるかどうかにあり、このことは警察刷新会議でも指摘されている(第3回会議録要旨(4月10日))。
 そもそも、犯人逮捕・証拠収集のために本質的に「密行性」が要求される刑事司法と異なって、行政警察や一般的な犯罪予防は市民に広く情報を公開し、市民の協力のもとに実現されるべきものであり、「秘密」にすべき領域はほとんど存在しない。また、警察の組織構成や「不祥事」をはじめとする問題は、他の行政部門と同様に主権者たる国民に公開されるべきであり、警察を特別に扱う理由は全く存在しない。こうした分野において、「警察だけが知っている」だの、「警察だから秘密」だのという領域を残すことは、警察の秘密主義を温存し、ひいては構造的腐敗をいっそう深化させることにしかならない。
 こうした視点から、いくつかの情報公開をめぐるケースを検討する。

(1) 警察官の教育等をめぐる情報
――― 警察大学校等における警察官教育の内容
――― 警察署において実施されている職務指導のマニュアル
など
 これらは警察活動が適正に行なわれることを保障するものであり、市民生活にも密接に関わるものであるが、「手の内を見せない」との意向からかほとんど公開されていない。これらの公開が個別事件の捜査に支障をきたし、あるいは違法行為を助長する蓋然性などは全くないことが明らかであるから、当然に市民の前に公開されねばならない。
 教育等の内容が、市民の求める「警察像」と合致したものであれば、積極的な公開によって市民の警察活動への理解を得られるだろうし、市民的常識に反した部分があるなら市民の目でチェックされてよりいいものに改善されるだろう。こうした分野での「公開の許否」は、市民の不信を助長することにしかならないのである。

(2) 地域における警察活動をめぐる情報
――― 犯罪予防や行政警察活動の重点・実施状況等
――― 青少年保護育成条例、風俗営業法等行政警察関連法規による調査・指導の実施状況、摘発の状況を示す情報
――― 交通警察活動の重点方針および取締り活動の実施日時・場所の予定を示す情報
など
 これらはいずれも地域の防犯・公共の安全・交通の安全などを目的として実施されている行政警察活動であり、市民生活と直接に関わりをもつ重要な活動である。こうした市民生活と密着した活動分野においても情報の公開がほとんど行なわれず、警察活動が「市民から見えないもの」になっているのが実態である。
 行政警察分野について、ときに「警察の取締り方針を明らかにすれば、裏をかかれて犯罪を誘発する」かのような主張が提出されることがある。犯罪予防は警察だけの役割ではなく、市民の積極的理解と協力を得てはじめて成り立つことを考えれば、このような主張は「市民不信」「警察独善」との批判を免れないだろう。警察が毅然と取り締まりの体制をとり、それを市民が認識して協力するから犯罪は防げるのであり、「警察の目がどこからか光っているから」ではないのである。
 なお、「『ネズミ捕り』の場所を明らかにしたらひっかからないではないか」などという「論理」が、倒錯に近い逆立ちであることは言うまでもないだろう。犯罪予防は犯罪をおこさないために行なうものであって、「犯罪をやらせて点数を稼ぐ」ためのものではないのである。

(3) 警察署等の人的・物的配置、活動と経費に関する情報
――― 警察署等の警察官の数・職務配置、
――― 配属されている警察官の地位・担当職務等
――― 警察署等に配備された警察車両、装備・備品の数・性能
――― 警察官の会合・出張・研修等の出席状況と経費
など
 これらは警察署の所轄地域の「公共の安全」等を守る人的・物的装備や活動に関わる情報であり、「どれくらいの警察官が、どのような装備を備え、どのような配置についているか」「あの警察官はどういう地位にあってなにを担当しているのか」などが、市民にとって重大な関心時であることは言うまでもない。
 ところが、こうした情報は、所轄地域の住民にすら明らかにされていない。それどころか、個々の警察官が名前を名乗らないことも多く、名前がわかって警察署に問い合わせても、「いるかどうか答えられない」などという事態が頻発している。こうしたことは他の行政機関では到底考えられない。国民(住民)の税金によって公的に配置された人的・物的装備について、警察だけが「秘密機関」のように扱われるいかなる理由もないのである。
 これらの多くは、情報公開を待つまでもなく積極的に公表されるべきものであり、少なくともこれらの情報の公開が、個別事件の犯罪捜査の支障になったり、犯罪を惹起する蓋然性をはらむことは全くない。これらすべてが当然に情報公開の対象とされねばならない。
 なお、さる5月31日、宮城県は県警本部の食糧費・旅費の公開を行なったが、そのなかの「警部以下の警察官や吏員の名前は『捜査に支障が生じる』などの理由からすべて黒塗りされて一律非開示」だったと報道されている(同日、毎日新聞夕刊)。「特定の事件の捜査を遂行している警察官の名前」なら別論、懇談会や出張に出た警察官の氏名の開示が、「捜査の支障」にあたるというのでは、「警察の中は秘密」と言っているに等しい。こうした運用はただちに是正されねばならない。

(4) 警察官の人権侵害事例、懲戒処分等の措置に関する情報

――― 警察官による人権侵害事例やいわゆる「不祥事」が発生した場合の県警本部・公安委員会等の調査と判明した事実

――― 監察機関によって調査・是正等が行なわれた事案についての調査報告・改善勧告等
など
 警察に対する国民的な不信・批判の最大の理由のひとつは、警察が警察内部で発生した人権侵害事案やいわゆる「不祥事」について、摘発・是正して謝罪しようとせず、かえってそれらを隠蔽しようとしたことにある。これは警察ぐるみの構造的腐敗以外のなにものでもない。この腐敗が露になった現在、人権侵害事例等の被害者は自ら被害事実等を発表して被害救済を求め続けており、それがこれまでなら隠蔽されてきた事案が次々に明るみに出る背景となっている。
 こうした構造的な腐敗を克服し、国民の信頼を回復するには、警察自身が機敏に問題を調査・摘発して是正措置を行い、すみやかに国民の前に明らかにするしかない。その意味では、これらもまた「自ら国民に発表すべき情報」であって、情報公開以前の問題である。そうである以上、これらすべての情報が、情報公開の対象とされるべきことは論を待たない。

(5) 「警察が保有する情報」に関する情報
――― 警察の教育・活動・組織・予算等に関する情報の種別・標目・管理部局等
――― 警察が収集・管理している個人・法人に関する情報の種別・標目、根拠法令・管理目的、管理部局等
 警察がどのような情報を収集・管理しているかを示す情報であり、これらは当然にすべて公開されねばならない。
 教育・活動・組織・予算等の情報がすべて公開されるべきことはこれまで見たとおりであるが、情報公開に実効性を持たせるには、これらに関わる情報の種別・標目等が明らかにされねばならず、情報公開の前提として積極的に公表されるべきである。
 また、警察は膨大な個人情報・法人情報を収集・管理しているが、「どのような情報を収集しているか」自体が明らかにされていない。これらの情報そのものは、個人情報等によって保護されるであるが、警察が収集・管理している情報の種別・標目等は公開の対象とされねばならない。

V 警察情報の公開をめぐるその他の問題

1 情報公開の実施機関

(1) 警察そのものを実施機関にしなければならない
 情報公開法においては法で国家公安委員会、政令で警察庁が実施機関に加えられることになっており、政令を介してではあるが国家レベルの警察情報全体の公開が求められる構造になっている。
 情報公開条例に警察情報を加えた自治体はまだ少数にとどまっているが、すでに追加改正を行なった神奈川県や三重県の情報公開条例では「公安委員会」とともに「警察本部長」を実施機関に加えている(神奈川県条例第3条A、三重県条例第2条@)。条例で直接県警本部を実施機関に加えている点は、積極的に評価されるべきものである。
 言うまでもなく、警察に関わる情報を直接保有するのは管理機関の公安委員会ではなく、警察組織そのものであり、現在の公安委員会では膨大な警察情報を収集・管理することなどおよそ不可能である。しかも、昨今の「不祥事」型の問題事例のなかには、公安委員会にすら事実が報告されないで隠蔽されているケースが多く、このままでは公安委員会に情報が届かない事態すら考えられる。警察組織が保有する情報への直接のアクセスが遮断されれば、警察の秘密主義は温存されることが明らかであり、公安委員会のみでなく警視庁・道府県警察本部が実施機関に加えられることが絶対の要請である。

(2) 警察署にある情報が公開されねばならない
 警察法では、都道府県警察本部が「地域を管轄する警察署」を指揮監督する関係になっており、警察署が本部の事務を分掌するものとはされていない(第47条、53条指定市の市警察部とは異なる)。このことから、それぞれの警察署が保有する情報へのアクセスが遮断されることがあってはならない。市民のくらしや権利に重大な関わりを持つ情報が集中するのは「現場」にあたる警察署であり、警察署に存在する情報が公開の射程外に置かれれば、「報告しなければ明るみに出ない」ことにしかならないのである。
 そもそも、情報公開の実施機関は「開示請求を処理する単位」であって、「下部の機関の保有する情報についてもその機関が保有するものとして開示請求を処理する」ものであり(「情報公開要綱案の考え方」行革審・行政情報部会参照)、このことはとりわけ警察情報について徹底されねばならない。
 もし万一、これに反して、「警察署にある情報は県警本部にない」などとの「理由」での公開が妨げられるようなことがあるなら、自治体はダイレクトに警察署(警察署長)を実施機関に加える改正措置をとるべきである。

2 不服審査と第三者機関の関与

(1) 法と条例には乖離がある
 情報公開法、情報公開条例では、実施機関の開示請求に対する決定(実質的には非開示決定)に対して行政不服審査法による不服申立が行われた際、実施機関の決定(再決定)に先立って情報公開審査会等の第三者機関に諮問するのが常となっている(情報公開法第18条、東京都条例第19条、神奈川県条例第第16条など)。
 これら審査会等の答申は実施機関の判断を法的に拘束するものではないが、実際には審査会が開示相当とした場合にはほとんどの場合実施機関が開示にあらためているから、審議会の機能は大きい。この審査会の関与が警察情報にまで及ぶかどうかは、警察の情報公開を推進する上で重大な意味を持っている。
 すでに見たとおり、情報公開法は、国家公安委員会・警察庁の情報についても例外を設けず、一般の行政情報と同じく情報公開法によって設置される情報公開審査会諮問するものとした。警察情報を特別扱いしなかった点は、積極的に評価されよう。
 ところが、県警本部を実施機関に加えた神奈川県条例では、警察情報以外は神奈川県情報公開審査会への諮問を義務づけながら、公安委員会・県警本部の警察情報のみは諮問から除外し、第三者機関の審査を経ずに実施機関が決定することにしている(神奈川県条例第16条)。これでは、非公開決定を行なった実施機関が再度判断するだけのことで、不服申立段階での是正はまず期待できず、警察情報についてはすべて行政訴訟による是正を求めるしかないことになる。
 東京都が発表した東京都公安委員会と警視総監を追加する条例改正案でも、審査会への諮問は除外されており、「諮問除外」が全国一律のものになる可能性は大きい。
 こうなると、第三者機関の関与については、法と条例に乖離があることになる。

(2) 地方自治法施行令は除外の根拠にならない
 この「諮問除外」について、地方自治法施行令で公安委員会については附属機関が置けないことになっていることが「理由」とされることがあるが、(地方自治法第138条の4B 地方自治法施行令第121条の4)、あまりに形式的で合理的理由とはならない。
 この施行令の趣旨は、犯罪捜査等にたずさわる警察活動そのものについての「調停、審査、諮問又は調査のため」の機関を設置することが不適切とされたものと考えられ、情報公開への審査は施行令の趣旨とは明らかに違った場面の問題である。しかも、上記のとおり、国家レベルの警察情報についての審査会諮問が情報公開法で法定されているのであるから、むしろ施行令そのものの改正が求められるところである。
 次に、仮に上記施行令を前提にするにしても、禁止されているのはあくまで直接の附属機関を設置することであって、非開示決定への不服審査を知事等の諮問機関としての審査会に委ねることまで禁止が及んでいるものではない。このことは、地方自治法によって直接附属機関が否定されている地方議会の情報公開について、不服審査を知事等の諮問機関に委ねている例があることからも理解されよう。
 神奈川県条例は、公安委員会・警察本部のみならず、県議会までひとつの情報公開条例の実施機関にした条例であり(別途「議会情報公開条例」を制定した東京都とは異なる)、その県議会の情報公開も神奈川県情報公開審査会に委ねている。こうした諮問機関の活用が地方自治法に照らして問題がないことは、主務官庁の自治省も認めるところであり、神奈川県条例は「議会以上に警察を特別扱いにした」とのそしりを免れないことにもなろう。

(3) 「捜査の秘密」も除外の理由にならない
 第三者機関の審査には、いわゆる「インカメラ」や「ヴォーン・インデックス」が採用されている関係で(情報公開法第27条等)、「捜査の秘密の漏洩」等の「主張」が警察側から提出されるかも知れない。
 しかし、
@ 第三者機関の関係者には守秘義務が課せられること
A 具体的事件の捜査記録は、内容を見るまでもなく、標題からして非開示が相当であると判断できるから、審査会が「インカメラ」等を要求するとは考えられないこと
を考えれば、「ためにする主張」とでも言うほかはないだろう。
 現に、情報公開法施行令で実施機関に指定された検察庁は、警察から送致された捜査書類を含む膨大な捜査情報を保持しているが、情報公開審査会への諮問の対象から除外されていないのである。
 警察情報についてだけ第三者機関の関与を排除する理由は全くなく、情報公開条例の公安委員会・県警本部への不服申立てについても、審議会等への諮問を義務づけるべきである。

3 国(情報公開法)と自治体(情報公開条例)の関係

(1) 自治体の消極主義は克服されねばならない
 多くの都道府県ではかねてから情報公開条例を制定していたが警察情報は加えられていなかった。情報公開法の策定に伴なう条例の見直しが各地で行なわれたが、東京都など「国待ち」を言い立てて追加を見送る自治体が続出した。神奈川県など追加に踏み切った自治体でも、国に先んじて施行しようとはしない。
 この間の、警察情報の公開をめぐる都道府県レベルでの事態の推移はこういったものである。ここには、「警察には手が及ばない」という自治体側の根深い消極主義が見受けられ、自治体や議会の制約にも服そうとしてこなかったこの国の警察の体質があらわれている。
 もし、このような消極主義や体質がそのまま温存されれば、情報公開条例に警察情報が追加され、情報公開法の施行に伴なって条例が施行に至ったとしても、地方自治の精神にもとづいた積極的な運用は望み得ないことになるだろう。これは、地方自治法の精神にも、地方分権にも逆行する事態と言わねばならない。
 「自治体や地域住民から切り離された警察でいいのか」という問題は、情報公開の分野でも問われねばならないのである。

(2) 「警察の一体性」は消極主義の根拠にならない
 自治体が「国待ち」に終始する理由は、国家公安委員会が「警察行政に関する調整」を行なうこととされ(警察法第5条@)、警察庁長官が「警察庁の所轄事務について、都道府県警察を指揮監督する」とされ(同第16条A)、都道府県警察が、「相互に協力する義務を負う」とされている(同第59条)など、「国家レベルでの一体性」が求められているとの「主張」にある。
 確かに、警察法にこうした「調整」や「警察共助」の規定は存在しているが、これは「法律の定めるところ」によって設置される自治体の執行機関(地方自治法第138条の4@)に共通するものであり、「調整」や「共助」はなにも警察だけのものではない(たとえば、地方教育行政の組織及び運営に関する法律=地教行組法の教育委員会にもさまざまな規定が存在する)。
 都道府県公安委員会は、その都道府県の警察を管理することを本来の使命とする地方自治体の執行機関であり(地方自治法第180条の5、警察法第38条)、それゆえに公安委員は都道府県議会の同意のもとに都道府県知事によって任命されることになっている(同法第39条@)。また、一部の幹部職員を除く警察職員は地方公務員であり、人件費の大部分は地方自治体が負担している(全警察職員26.3万人中、自治体負担が25.5万人)。
 こうした公安委員会や警察について、「国との関係」を理由に「国待ち」の姿勢に終始することは、公安委員会が地方自治法にもとづく自治体の機関であることを否定し、警察を市民・住民といっそう切り離そうとするに等しい。
 住民のくらしと権利の擁護に責任を持つべき地方自治体は、自らの権限と責任で自律的に警察情報の公開を推進すべきであり、情報公開法の施行を待たずに実施機関を追加して施行し、積極的な情報公開を進めるべきなのである。

第4 おわりに

 以上当面の課題である、公安委員会制度、監察制度、情報公開問題にしぼって緊急提言をとりまとめたが、その他にも改革すべき課題は多い。その幾つかを指摘すると次の通りである。
1 警察官人事の民主化である。警察官は、警察庁が国家公務員T種試験合格者を採用するキャリア組と都道府県警察が採用するノンキャリア組に分けられるが、ここに大きな差を設けておりこの差が警察組織を歪めている。警察庁採用のキャリアの人事を中央集権的に行うことで警察は統制されて、上命下服の絶対服従体制が出来上がっている。人事の公正を図るためにもキャリアシステムは廃止し、人事に関する情報も公開すべきである。
2 警察官に労働基本権を認めることである。自浄作用が機能していない警察にあって、警察内部から民主的改革が行われるためには、少なくとも団結権、団体交渉権を認めることは必要不可欠である。
3 警察官に対する人権教育を重視すべきである。国連の国際人権(自由権)規約委員会は、1998年11月5日、人権に関する日本政府の報告書を審査して最終見解を採択したが、その第32項で「委員会は、規約で保護された人権について、裁判官、検察官、及び行政官に対する研修が何ら提供されていないことに懸念を有する。委員会は、このような研修を受講できるようにすることを強く勧告する」としている。国際的にも警察官に対する人権教育は、早急に実施しなければならない。
4 警備公安警察偏重の廃止である。日本の警備公安警察の偏重は、予算、人事など中枢部分で徹底しており、一方で刑事警察の弱体化を招いていると言われている。
 警備公安警察は、警察庁警備局を頂点に各都道府県警察の警備部長(課長)を直接指揮できる仕組みで中央集権性が著しい。神奈川県警警備部公安一課の警察官が警察庁警備部の指揮の下に日本共産党幹部宅の電話盗聴を行った。この違法行為について裁判所は、組織的犯罪であると認定しているにもかかわらず、警察は未だにこれを認めず、謝罪しようとともしない。このような非合法活動を行う組織は解体すべきである。
5 警察官の個人責任を明確化すべきである。警察官の不法行為については、警察官個人は責任を負わないとされるが、故意による違法行為などは、警察官個人の責任も認めるべきである。
6 警察官は、私服で外出するとき以外は全ての場合において名札を着用すべきである。時として、警察官が被疑者等に暴行を加えることがあることが後を絶たない。このような場合に、警察官の氏名が分からずその警察官の責任を追及するのに非常に困難を伴うことになり、責任追及が出来ないことが起こりうるので、個人責任を明確化するためにも警察官は名札を着用すべきである。