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国民のための司法制度改革を─司法制度改革審議会「中間報告」への意見─

2000年12月
自 由 法 曹 団

第1、はじめに

 自由法曹団は、10月、司法制度改革審議会に対し設置以来の審議会での議事録を詳細に調査したうえで、その時点までの全審議内容を踏まえて意見書を発表しました。意見書において、審議会の審議のあり方、個別の検討内容の対する問題点を指摘しました。そのなかで、審議会審議の基本的、構造的問題点として、@本来、審議会設置法を審議した際の国会決議(衆参の附帯決議)からすれば司法の現状(現在の裁判の内容)を十分調査し憲法の保障する基本的人権、法の支配が実現されているかという観点から審議されるべきこと、Aしかし、実際の審議内容は、政府や財界が要求する規制緩和、構造改革の推進という特定の政策実現に適合するように司法を改造するという観点に偏していること、B規制緩和を提唱する反面として労働、公害、社会保障関係事件等の社会的弱者の保護、救済のための改革が欠如していること、C裁判と裁判官のあり方に対する審議がきわめて不十分であり裁判と裁判官の実態を把握する努力をすべきこと、D改革のためには現在の裁判所や裁判官が抱える問題の根本原因である最高裁事務総局による中央集権的裁判統制と裁判官不足に対する認識が不可欠であることを指摘しました。今回の中間報告はこれまでの審議結果をまとめたものであり、その内容は基本的に設置以来の審議内容と同じです。したがって、われわれはこれに対して意見書とまったく同様の問題点を指摘するものです。

十分な審議は行われていない
 中間報告は、「調査審議」の成果を誇るように、「これまでの審議経過」としての中で30数回の会議、ヒヤリング、公聴会、国内外の司法制度の実情調査、民事訴訟の利用者意識調査等を行ったことし、「一通りの調査審議を終えるに至った今日、その結果を踏まえ」中間報告を取りまとめたと報告書の目的を述べています。しかし、調査の対象からは肝心の裁判内容に対するものは除外されているばかりか、公聴会でえん罪被害者、裁判経験者等から裁判に対する少なくない批判的意見が寄せられていたはずですが、それがどのような内容でどのように審議に活かされたのか全く触れられていません(裁判官改革の項目であるべき裁判像が語られていますが、その内容は漠然とした抽象論で、公聴会などで出された裁判経験者の生の声が全く感じられません)。民事訴訟の利用者の意識調査もサンプルの抽出方法などに不十分さを持っていますが、国民の裁判に対する要求や不満を把握するうえで実証的な意義のある調査といえますが中間報告までには分析結果すら出ていません。労働事件、行政事件、公害事件など社会的弱者の人権救済を必要とする訴訟のあり方については先送りされ十分な審議は行われていません。これでは本当に「国民の立場にたってそのニーズがどこにあるかといったことを常に念頭に置」いた審議をしたとはいえません。殊に、中間報告でいくつかの個所で強調されている「違憲法令審査権」の適切な行使がなされているかどうかに関してはまったく調査、審議もないままです。これで「一応の審議を終えた」というのは中間報告自体に大きな矛盾があるといわざるを得ません。違憲法令審査権は現行憲法によって新たに司法に託された権力による法律を手段とした基本的人権の侵害から国民を擁護するという重要な権限であり、その適正な行使こそ国民の司法に対する信頼の基礎をなすものです。まさに、違憲法令審査権のあり方についての審議、調査は司法制度改革のおける柱のひとつとなるべきものであり、審議会が裁判官制度を真剣に憲法と国民の立場にたって「真摯に」検討しているかどうかをためす試金石をなすものと言えます。この点において、中間報告までの審議会の審議にはきわめて不十分であり、今後の審議会での徹底した論議が不可欠です。