<<目次へ 【意見書】自由法曹団
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アメリカとイギリスは、去る10月8日未明アフガニスタンへの空爆を強行し、報復戦争を開始した。テロ根絶で諸外国が一致して取り組む努力を尽くすこともなく、未だ国連が十分その機能を発揮していない状態のもとで、アメリカとイギリスによって武力攻撃が強行されたのである。武力行使を原則禁止している国連憲章にも反する暴挙に他ならない。
しかも、アメリカは、9月11日の航空機によるテロ事件の容疑者及びその引き渡しを拒否している勢力への攻撃、さらにはタリバン政権打倒、テロ組織撲滅へと攻撃の目的と対象を拡大している。このような武力行使によっては、何ら問題の解決にならないばかりか、報復はさらに報復を呼び、いわば血で血をあがなう悲惨な事態の繰り返しになりかねない。
日本では、10月5日に、政府のいう「テロ対策措置法案」が国会に提出された。しかし、この法案は、アメリカなどによる報復戦争に日本が参戦する法案に他ならない。いわば「テロ対策」を口実に自衛隊をどこにでも海外派兵できるようにするものであって、戦争を放棄し武力行使を禁じた日本国憲法を完全に蹂躙する。あわせて提出されている自衛隊法「改正」案も、平和主義に反し、かつ悪名高い「国家機密法」の復活ともいうべき「防衛秘密」条項をもりこむなど人権侵害を拡大する憲法上重大な問題がある。ところが、小泉内閣は、上記の空爆が開始されるや、ほとんど十分な審議もしないまま同法案の成立を強行しようとしている。
私たち自由法曹団は、すでに10月4日に「テロを根絶し、軍事報復と自衛隊の海外派兵に反対する意見書」を作成し発表したが、今般、法律家の立場で、提出された法案を分析し、憲法を蹂躙する法案の重大な問題点をまとめたのが本意見書である。このような法案を提出すること自体、小泉首相ら各閣僚が負っている憲法の尊重擁護義務に反するものであって、直ちに撤回するべきであり、国会においても廃案にされなければならない。 本意見書では、最初に法案の本質について述べたうえ、本法案の目的とされている国連憲章の目的達成や実際の国連決議と如何にかけ離れたものであるかを明らかにする。次に、法案によって実現しようとしている自衛隊の海外派兵とその活動内容について解明し、それが憲法で禁止された武力行使に該当するものであり、かつ、それらが国会や国民を無視して進められていることについて述べ、最後に、今回あわせて国会に提出された自衛隊法「改正」法案について、「防衛秘密」条項、米軍基地警備など自衛隊の任務拡大についても、重大な問題点を指摘する。
すでに、法案について国会審議が異常なスピードで強行されているが、本意見書を十分参照していただき、ここで指摘した問題点に関して、国会においても十分な検討が行われることを望むとともに、報復戦争と自衛隊の海外派兵に反対する国民の理論的武器として活用していただければ幸いである。
本法案は、アメリカ・イギリスの引き起こした今回の報復戦争に日本が参加するために提案されている。いわば参戦法案にほかならない。
テロ根絶を標榜しながら、実際にはテロを法により処罰するための努力を十分尽くさないまま、報復戦争に参加するために、世界中どこにでも自衛隊を派兵し、武力行使や集団的自衛権行使に及ぶというのがこの法案なのである(この点については、法案によって実現しようとしている自衛隊の活動内容とその問題点とともに、後述する)。
しかし、いま進められている報復戦争は、国連憲章・国際法に明確に違反するものである。「報復戦争参加法」と称される本法案は、この国際法違反の戦争に参戦するための法律であり、これを根拠に日本が参戦することは、日本自身が国際法違反行為を行うことに他ならない。
この点に関して、ここでは、まず、国連憲章、国際法が戦争根絶のために武力行使を原則禁止していること、そして、進められている報復戦争は国際法上の何らの根拠もないことを明らかにする。
国際連合憲章は第2条4項で武力行使を原則として禁止した。第33条では、紛争の平和的解決追求の義務を課し、「交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない」としているのである。
国連憲章が例外的に許容する武力行使は、自衛権行使(憲章51条)と安全保障理事会の決定による軍事措置(憲章42条)のみである。いわゆる「友好関係宣言」(「国際連合憲章にしたがった諸国家間の友好関係と協力に関する国際法の諸原則についての宣言」、1970年10月24日国連総会決議2625付属書)は、武力行使禁止の原則を再確認し、「武力行使をともなう復仇行為」を明確に禁止している。
国連憲章・国際法は、戦争の根絶を目指して人類の多年の犠牲の上に立って形成されてきたものである。戦争が世界的規模に展開され、悲惨な犠牲を生んだ第一次世界大戦以降、1928年のパリの不戦条約を始めとして、武力行使の絶対的禁止こそが戦争をなくすただひとつの道であり、これをめざすことが世界の主流になったといえる。ところが、国際連盟においては大国の横暴を押さえることができず、再び世界大戦(第二次大戦)を引き起こしてしまった。この教訓の上に国際連合が設立されたのである。
このように、武力行使を原則禁止した国連憲章、国際法は、戦争根絶のための人類の英知の結晶として、また超大国の横暴も許さない工夫として形成されてきたのである。今こそ冷静に国際関係のルールとしての国連憲章・国際法が厳正に守られなければならない。
国連憲章の許容する自衛権行使は、「国連加盟国に対する武力攻撃」の発生を要件とする(憲章51条)が、この「武力攻撃」の主体はあくまで「国家」であるとされている。
自衛権発動には、国家による正規軍の武力攻撃ないしは、これと同視しうる国家の実質的関与が必要とされる(ニカラグァ事件に関する国際司法裁判所1984年11月26日判決、この判決は、ある国家が、他国で武力行為を展開する叛徒に対し支援の供与の形で援助を行ったとしても、この国家に対する自衛権の発動はできないと判断している)。
今回のテロは国際犯罪であって、国家による武力攻撃ではなく、国家の実質的関与も認められない。少なくとも、アフガニスタンのタリバン政権がテロの主体という証拠は何もない。アフガニスタンがビンラディンの即時引渡に応じないことを理由としてアメリカがアフガニスタンに武力行使をすることは、国連憲章上の自衛権行使として認められない。
また、自衛のために取られる措置は、「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持について必要な措置を取るまでの間」、他の措置をとることができない緊急やむを得ない場合に限って、攻撃を除去するのに必要かつ相当な限度に限られる。アメリカは外交努力など他に取りうる手段があるにも関わらず、アフガニスタン・タリバンとの交渉を一方的に打ち切り、テロ行為とは関係ない一般のアフガニスタン国民も巻き込んだ大規模な「報復戦争」を行おうとしており、必要性・相当性は認められない。アメリカが公言するとおり、アフガニスタンへの武力攻撃の本質は、「自衛」ではなく「報復」「復仇」であって自衛権行使に該当しない。
そもそも、歴史をみれば、あらゆる戦争が「自衛」の旗印の下に行われたといっても過言ではない。日本が中国を侵略したときも、アメリカやイギリス等に宣戦布告したときも「自衛」を標榜した。国連憲章で例外として認められている「自衛権行使」が厳格な限定に服さなければならないのは当然であり、「テロリストはいつどこで何をするかわからない」として「自衛」の名のもとに地球規模での戦争行為を行うことは、歴史の教訓をも全く無視するものであって、到底許されない。
アメリカ等が独自に進めている軍事報復は、国連安保理の決議に基づくものとは認められない。
今回のテロ事件に関連して国連安保理決議1368号・1373号が採択された。しかし、いずれも国連憲章の軍事措置(憲章42条)を決議したものでないことは決議の文言をみれば明らかである。国連安保理では、アフガニスタンに対する軍事的措置は何ら決議されていないのである。
1368号決議は今回のテロ事件を「平和に対する脅威」(憲章39条)とみなし、「テロ攻撃の実行犯と組織者、後援者に法の裁きを受けさせるための共同の緊急行動をすべての国に呼び掛け、こうした行為の実行犯、組織者、後援者を援助、支援、匿うものは責任を負わなければならないことを強調する」とし、あわせて、いかなる動機からであれ、あらゆるテロ行為を非難し、テロ根絶の国際協力の強化が必要だと訴えた1999年の決議1269など国連の諸決議を全面的に実行するよう呼びかけたものである。
この1368号決議は、「テロ行為が国際的な平和と安全に及ぼす脅威とあらゆる手段でたたかうことを決意し、憲章に従い個別的または集団的自衛の固有の権利を認め」るとしている。しかし、これは、国連がテロとたたかう決意を抽象的に述べ、自衛権についての憲章51条の規定を確認したに止まり、具体的な軍事措置を決議したものではない。
1373号決議はテロリストの資金を凍結する非軍事措置(憲章41条)をとることを決定したものであり、軍事的制裁については何ら決定していない。
しかも、今回の事件に関しアフガニスタンを名宛人とする決議はない。
以上の決議はあくまで「テロリスト」に対する対処としてなされており、アフガニスタンを名宛人とする勧告(憲章39条)や、非軍事的措置(憲章41条)は決議されておらず、ましてアフガニスタンに対する軍事的措置(憲章42条)は一切決議されていない。パンナム機事件犯人不引渡の際に、リビアに対し安保理決議748,883号が非軍事的措置として決定されたのと対比しても、今回の国連安保理の決議の範囲はきわめて限定・抑制されている。
アメリカ・イギリスの今回の軍事報復を、憲章42条によって国際法的に根拠づけることはできないのである。
以上のとおり、アメリカ・イギリスが現在行っている軍事的報復は国連憲章と国際法上何らの根拠もない明らかな国際法違反行為であり、断じて許されない。
本法案は、このような国際法違反の報復戦争への参戦を可能にするものであって何らの正当性もない。
本法案の名称は、「平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議に基づく人道的措置に関する特別措置法」とされている。
この「法律の目的」も、国連決議を引用し、「我が国が国際的なテロリズムの防止及び根絶のため国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与するため、次に掲げる事項を定め、もって我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資すること」とされている(1条)。 そして、政府は、この法案について「テロ対策法案」との略称を標榜している。 しかし、このような法案の目的にもとづく日本の参戦は、国連憲章、国際法によっても、また憲法によっても何ら正当化されるものではない。むしろ、日本の参戦は、国連憲章上許容されない武力行使であるうえ、憲法に明確に違反するものである。
本法案で定める事項は、@アメリカ合衆国その他諸外国の軍隊等の活動に対して、「我が国が実施する措置、その他実施の手続きその他の必要な事項」(1号)、A国際連合等が行う要請に基づき「我が国が人道的精神に基づいて実施する措置、その実施の手続きその他の必要な事項」(2号)であるとしている(1条)。
政府が意図している行動はいうまでもなく自衛隊の行動である。「我が国が実施する措置」というのは自衛隊の海外派兵とそれに伴う諸活動である。これは、後に詳述するその活動内容からいっても明らかなように、武力行使を伴う自衛隊の海外派兵を認めるものであって、日本が世界的規模で参戦する法案である。
今回、日本が報復戦争に参戦し、海外派兵するのは、日本の個別的自衛権の発動でないことは明白である。
アメリカは今回の報復戦争を「個別的自衛権」の発動である旨主張し、NATO諸国は集団的自衛権(北大西洋条約5条)を適用して参戦することとなったとしている。アメリカが説明している「自衛権」発動が認められないことについては、すでに明らかにしたが、仮に百歩譲ってこれを自衛権行使と認めるとしても、日本は、憲法上集団的自衛権行使を明確に禁止しているのであり、集団的自衛権行使を根拠として参戦することは許されない。
実際、NATOは集団的自衛権行使を明言し次のような支援を決定している。
「一は情報の共有及び協力の向上。二、テロリストによる脅威にさらされている、又はその可能性のある国家に対し、個別的または集団的に適切かつ水化の能力に応じて支援を提供すること。三、関連施設の安全を向上させるための必要な措置。四、テロに対する作戦を直接的に支援するために必要とされるNATOの責任地域における特定のアセット(資産)を補てんする。五、テロに対する作戦に関連する軍事飛行のために包括的上空飛行許可を提供する。六、給油を含むテロに対する作戦のために港湾及び飛行場へのアクセスを提供する。七、常設艦隊の一部を東地中海に展開する用意。八、空中早期警戒戦力の一部を展開する用意等」である(10月10日参議院予算委員会での田中外務大臣の答弁)。
これらは、法案が予定している「支援協力活動」と多くの部分でぴったり重なるものである。つまり、政府が「非戦闘地域での後方支援」と強弁しているものは、国際的に言ってもNATOが率直に認めるとおり集団的自衛権行使の内容そのものなのである。
そもそも、法案の提出者の説明によっても「アメリカに対する攻撃に対してアメリカが自衛権を発動し、これに対して同盟国である日本が支援する」ものであり、後に述べるように日本の支援が武力行使そのものである以上集団的自衛権行使にあたるものといわざるを得ない。これについてはどんな詭弁を弄してもごまかしきれるものではない。
集団的自衛権行使が憲法違反であることは歴代の政府が認めてきたことである。法案は集団的自衛権行使に踏み込むもので憲法違反は明白である。
法案第1条(目的)において、国連安全保障理事会の1267号、1269号、1333号、1368号の各決議を引用し、日本の参戦が「国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動」に対して行われるなどといわば、美辞麗句を弄して、日本の参戦があたかも国連安保理決議によって正当化されるかのような文言に仕立て上げている。
しかし、自衛隊の海外派兵は、国連決議にもとづく活動ではない。このことは、法案の正式名称、第1条(目的)いずれもが国連決議を直接の根拠としていないことをはしなくも自認しているのである。つまり、法案は、国連安保理決議を挙げながら、「(安保理事会諸決議が)国際的なテロリズムの行為を非難し、国際連合のすべての加盟国に対しその防止等のために適切な措置をとることを求めていることにかんがみ」としているにとどまっているのであって、「我が国が実施する措置」(自衛隊の派兵)が国連決議の「履行」としてなされるという表現をあくまでも避けているのである。
以下、国連決議を具体的に検討する。
@ 武力行使を容認していない国連決議1368号
すでに明らかにしたように、国連安保理決議1368号は、今回のテロ行為も含めあらゆるテロ行為を非難し、テロ根絶の国際協力の強化が必要だと訴えた1999年の決議1269など国連の諸決議を全面的に実行するよう呼びかけたものである。アメリカの武力報復を容認するものではないばかりか、これに参戦する自衛隊の行動を合理化するものでもない。1368号決議が自衛隊の海外派兵の根拠となるようなものではないことは明らかである。
A 1267号、1269号、1333号決議について
法案が目的として挙げている1368号以外の諸決議はいずれも今回のテロ発生以前の決議である。これらも自衛隊の海外派兵を正当化する根拠とならない。これらの諸決議のどこをみても法案に定める「措置」を根拠づけるものとはなり得ない。
これら3つの決議は一連のものである。
まず1267号決議は、1999年10月15日のもので、)アフガニスタン国内の,特にタリバン勢力地域におけるテロリストの保護や育成に強い懸念を表明し、)タリバンがビンラディンを同人が訴追され又は逮捕されることになる国の当局に対して引き渡すことを要求し、)タリバンに対する航空機の発着・リース等の禁止と、タリバン関連の資産の凍結について、国連加盟国が実行するよう要請する、という内容である。
次に、1269号決議は国際テロリズムに対して国際協力によってこれを封じ込め、合法的な方法による資金援助を防ぐこと。そしてこれについての国際連合の重大な役割を強調したものである。これは、1999年10月19日のものである。
さらに、1333号決議は2000年12月19日のもので1267号決議の履行を再度タリバンと加盟国に要求するとともに、タリバンへの武器等の輸出禁止、軍事的助言などの役務提供の禁止、タリバンから雇われて安全保障問題で助言する自国民の引き揚げなどを始め多岐にわたる制裁措置を決定したものである。ここで注目されるのはこれらの措置について12ヶ月の期間を定めて実行し、その効果を検証しようとしていることである。
これらの決議はいずれもタリバン勢力がテロリストを保護しているとの認識に立ち国連加盟国が結束して平和的、経済的制裁を加えそれによってタリバンの政策変更を促すものとなっている。これらの決議はアメリカの武力報復を正当化していない。いわんや直接日本の自衛隊の参戦を正当化していないことは明白である。
国連憲章第7章の各条項をみればわかるとおり、安全保障理事会の制裁の手段は「必要なあらゆる措置」と述べており、従前の実際の経緯も経済制裁など非軍事的な「措置」を活用しながら平和的解決を目指してきた。
そして、2000年12月19日の1333号決議は、これまでの決議を再確認した上で制裁措置もさらに詳細に決め、タリバンが安保理の勧告をどう受け入れるか、また各国の制裁の効果はどうだったかについて12ヶ月の「検証期間」を設定した。この「検証期間」は未だ経過していない。また、これまでの国連安保理の各決議を見ると武力制裁の片鱗も見えない。
さらに、今回の同時多発テロ事件発生後にあげた1373号決議(9月28日)は、テロリストの資金を凍結するための国際協力を決定したものである。この決議も何ら軍事的制裁について決定していない。
安保理事会は平和的解決を追求し続け、その意思は、テロとたたかうための方策としては当面軍事的な方法を選択していないというのが実情である。
以上いずれの意味からも本法案の存立の前提・根拠として国連安全保障理事会決議を引用するのは的はずれであることが明白になった。もともと国連がいきなり軍事行動を容認することなどあり得ない。まして、安保理事会の判断を媒介しないアメリカ中心の軍事行動など安保理事会は容認していないとみるべきである。
むしろ、軍事報復作戦は、逆に国連を通じてテロ撲滅を進めてきた粘り強い国際的努力に水をかけ、これまでの努力をご破算にするものとさえ言えるものである。国連決議を本法案の根拠にすることはできないことがますます明白となったばかりでなく、国連決議が目指してきたテロ撲滅の努力の積み重ねの流れにも逆行するものである。
こうした国連安保理の取り組みに対し、日本政府は真摯に協力していなかった。外務省は2001年9月22日次のような発表をした。
「タリバーン関係者等に対する資産凍結等の措置について
我が国政府は、国連安保理決議(第1267号及び第1333号)に基づき、タリバーン関係者等に対して次のとおり資産凍結等の措置を9月22日(土)より講ずることとした。
1 支払規制
タリバーン関係者等(国連制裁委員会の指定に基づくリスト)に対する支払を規制す る。このため、
アフガニスタン向け支払を許可制とする。
アフガニスタン以外の国に住所を有するタリバーン関係者向け支払を許可制とする。
2 資本取引規制
タリバーン関係者等との間の資本取引(預金契約、信託契約、貸付契約等)を許可制と する。」
驚くなかれ、日本政府は国連安保理が1999年10月に出した決議について1年以上にわたって国内での実施をしていなかったばかりか、1267号決議の実施状況が芳しくないとして2000年12月に再度出された1333号決議についてさえも9ヶ月以上もその実施を怠り、今回のテロ行為がおこったあとになってようやく国連安保理決議の実施に乗り出したのである。
これは単に日本政府の怠慢を示すにとどまらない。2つの意味で重要である。一つはテロリストを批判し、テロの封じ込めを目指す国際的な協調がまだまだ進んでおらず取り組みは緒に就いたばかりだということである。もう一つは今ほどテロに対する国際的意識が高まったときはなく、今後国際的結束で十分効果を上げる条件があるということである。つまり国際的には国連レベルでも「平和的解決追求の義務」(国連憲章第33条参照)が尽くされていないのである。
あわせて言えば日本政府には「国連の経済制裁では効果がなく武力行使しかない」「だからアメリカの武力報復に協力するのだ」などという資格はまったくないということである。日本政府はみずからの怠慢を恥じてこれを改めるとともに、いままでみずからが怠ってきた平和的方法によるテロ根絶のための努力を尽くすべきなのである。
本法案は、日本が報復戦争に参戦し、自衛隊の海外派兵と武力行使を認めるものであり、明らかに憲法に違反する。
以下、法案の内容に沿って
第1に、世界中どこにでも武装した自衛隊が派兵されること
第2に、自衛隊が海外で武力行使や戦闘行為にあたる活動を行うこと
第3に、自衛隊の武器の使用範囲を拡大し武力行使を大幅に容認すること
第4に、国会が無視されたまま海外派兵が実施されること
について明らかにする。
法案の第2条は、基本原則を定めている。まず、この法案にもとづく活動を、協力支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動その他必要な措置とし、これらの活動が「国際なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に我が国として積極的かつ主体的に寄与し、もって我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に努めるものとする」としている(2条1項)。
これらの活動は、現在開始されているような報復戦争を支援の対象としている。しかし、報復戦争は、そもそもテロ根絶に役立つものといえるのであろうか。
すでに明らかにしたように、無法なテロに対して、国際法上の根拠もない、いわば無法な報復戦争で対応することは、さらに次のテロに出る口実を与えることになって、テロ組織を利することになるばかりか、テロ根絶で一致しうる国際世論をあえて分断することになる。むしろ、テロ根絶に逆行することにもなりかねない。
このような実態を無視して、アメリカなどが行っている報復戦争に対して、いち早く賛成して協力を表明し、上記各活動によって報復戦争に参戦しようとすることは、決して、テロ根絶につながるものとはなり得ない。法案は、現実を無視したものであって、無責任といわざるを得ない。
なお、法案では、上記各活動が「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」(2条2項)と規定しているけれども、後述のように、上記各活動は、武力行使にあたる活動及び武力行使そのものである。法案の規定は欺瞞といわなければならない。
今回の報復戦争の支援は、自衛隊の派兵される地域はアフガニスタン周辺といわれているが、法案においては、活動地域は「我が国領域」、「公海及びその上空」、「外国の領域」(当該外国の同意が要件)とされている(2条3項)。地球を分類すると公海と日本及び外国領域しかないのであるから、いわば、地球上であれば、どこでも、海外派兵できることになる。このように地域的な限定は全く存在しない。小泉首相も、「どこの地域かと言えば無限定。どこへも行ける。」と答弁している(10月12日衆議院特別委員会)。
実際、ブッシュ米大統領は去る9月29日の全米ラジオ演説で、テロリストが潜むすべての場所が戦場であることを明言したうえ、「全軍が世界に展開中で、国の命令にこたえる準備を整えている」と説明している。さらに、10月7日、アメリカは、国連安保理理事国に対する書簡でアフガニスタン以外の国や組織にも、軍事攻撃を加える可能性がある旨通告しており、アメリカが地球規模での戦争を引き起こすことが憂慮される。これに対応して自衛隊の海外派兵が地球規模でなされることとなる。
自衛隊の海外派兵の限界については、周辺事態法でも「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」に限定して、自衛隊の海外派兵を認めるにとどまっていた。しかし、報復戦争への参加のために海外派兵を認める今回の法案では、このような限界すら突破して、地理的にも全く無制限な海外派兵が実現されることとなる。
このことは、日本の自衛権の発動とは何ら関係のない事態や地域まで、自衛隊が海外に派兵されることを意味するものであり、憲法9条が個別自衛権の発動を容認しているとの従来の政府解釈の立場に立ってみても、到底説明できないものであって、明白な憲法違反である。
海外派兵された自衛隊の活動範囲について、法案は、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域としている(2条3項)。
けれども、第一に、戦闘行為が行われていない地域がどのような地域なのか、実際上は、全く明確になりえない。
法案では、戦闘行為について、「国際的な武力行使の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう」としている。このような行為が行われない地域というのは、あり得るのであろうか。特に、テロ行為も戦争だとか戦闘行為だなどとして自衛権を行使しているアメリカの立場を前提とすれば、今回の相手がさらなる報復をねらうテロ勢力であるから、テロ勢力がどこで攻撃をするのか限定することは到底できない。どこで戦闘行為が行われることになるのか、あるいはならない地域なのか、地域的な限定は無理なのである。「戦闘行為が行われることがないと認められる地域」などは、存在しないといっても過言ではないのである。とすれば、このような法案は、それ自体欠陥法案といわなければならない。
実際、過去に周辺事態法案を審議した国会においても、「戦闘行為が行われている地域と一線を画された地域」ということに関して、「戦闘に巻込まれることが通常予想されない地域ということで・・・・・・紛争あるいは戦闘の全般的な状況あるいは戦闘行為を行う主体の能力、その展開状況等を総合的に勘案して判断する」とし、また、「その状況が時間の推移により変化するということもあり得る」としている(1998年3月12日衆議院安全保障委員会での政府答弁)。
今日における航空機や長距離ミサイルを考えた場合、戦闘行動の行われている地域とそうでない地域と明確に一線を画すことが可能かは極めて疑問である。現に、自衛隊の幹部も、「航空優勢(航空機の展開状況が相手より優位であること)は、時間的、地域的に変りうる」(平岡裕治航空幕僚長・当時)、「今の兵器は長射程で、戦闘場面でないところまで飛んでくる場合もある」(山本安正海上幕僚長・当時)と戦闘地域との線引が困難であることを指摘している(98年4月11日付「朝日新聞」)。
さらに、問題は、日本側が日本の基準で戦闘地域と非戦闘地域を区別したとしても、相手方からみた場合、このような区別が果して通用するかが問われなければならない。この点について、久間防衛庁長官(当時)は、「他国がどう思うかというふうに言われますと、ちょっと言葉が詰まります」(98年4月17日衆議院安全保障委員会)と答弁せざるを得なかったのである。
小泉首相自身も、現に軍事行動をしている米軍自体がみずから戦闘区域と指定している地域についても、これと法案の戦闘区域(戦場)とは定義が違うとし、自衛隊が米軍の戦闘区域で活動することを否定していない(10月12日衆議院特別委員会)。活動地域に関する法案の規定は、国際的に通用しないものである。
法案が第1に挙げている協力支援活動は、「諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供、便宜の供与その他の措置であって、我が国が実施するもの」である(3条1項)。 この活動については、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港及び港湾業務並びに基地業務が列挙されている(3条別表第1)。
物品・役務の提供については、以下の7項目であって周辺事態法と同様の内容であるが、その活動内容は、きわめて多岐にわたるものであり、かつ戦闘部隊の活動に不可欠で直結するものである。
@補給(給水、給油、食事の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供)
A輸送(人員及び物品の輸送、輸送用資材の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供とされ、武器弾薬の輸送も含む)
B修理及び整備(修理及び整備、修理及び整備用機器、部品及び構成品の提供並びこれらに類する物品及び役務の提供)
C医療(傷病者に対する医療、衛生器具の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供)
D通信(通信設備の利用、通信機器の提供並びにこれらに類する物品及び役務の提供)
E空港及び港湾業務(航空機の離発着及び船舶の出入港に関する支援、積み降ろし作業並びにこれらに類する物品及び役務の提供)
F基地業務(廃棄物の収集及び処理、給電並びにこれらに類する物品及び役務の提供) 水や食料、燃料など自衛隊の輸送・補給した物資により戦闘部隊の活動基盤が確保され、自衛隊が輸送した武器・弾薬によって、紛争地域の民衆に対する武力攻撃が行われることになる。これらの活動は、武力行使に該当するといわざるを得ない。元防衛庁最高幹部も、「広い戦争行為には、戦闘部隊も後方活動も全部包含されるはずです。ある意味では輸送とか通信というのは、前線で戦う歩兵より重要なくらいで、医療だって戦争行為の外側とはみなされない」(西広元防衛事務次官『文芸春秋』90年10月号)と述べているのである。
法案は、「物品役務の提供には、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を含まない」としている(別表第1、備考2)。これは武力行使との一体性の強い活動を除外するかのごとき趣旨で規定したものと思われる。けれども、それ以外は、武力行使と一体とみられる行為であっても、何でも可能とするものであって、全くのまやかしといわなければならない。例えば、待機中の航空機であれば給油も整備も排除されていないし、艦船や戦車等に対しては、発進準備中であろうとも、発進後であっても、給油が認められることとなるのである。
とりわけ、今回の法案では、外国領域内の陸地での活動をも予定している。野戦病院で負傷兵を治療する活動はもとより、食料や水、燃料などを陸上輸送したり、外国の基地での補給や整備、さらには通信業務なども含むものであって、まさに兵站業務すべてにわたる活動を担うこととなる。
このような自衛隊の活動は、当然武装したうえで行われる。そして、相手側からは、これら自衛隊の活動は、まさに攻撃の対象となりうる。このことは、武器・弾薬など戦争のための物資を交戦国に輸送する船舶は公海上でも拿捕の対象になるとした「海戦法規に関する宣言」(「ロンドン宣言」1909年署名)によっても、明らかである。直接戦闘行為が行われていない基地や空港・港湾などでの支援活動も、明白な参戦行為であって、これらも、相手側から攻撃の対象となりうるのである。攻撃を受けた自衛隊がこれに反撃して、新たに戦闘行為に突入するという事態にもなりかねない。自ら携帯・装備する武器によって、直接武力行使に突入する危険が大きいといわなければならない。
なお、法案は、「戦闘行為が行われることが予想される場合には、当該協力支援活動の実施を一時休止し又は避難するなどとして当該戦闘行為による危険を回避しつつ」、計画の変更命令を待つという(5条5項)。けれども、これでは、支援を受ける米軍等側から見て、いわば「本当に必要なときに、何ら支援にならない」ことを想定しているものであって、実際は不可能ないしきわめて困難な判断を強いるものであり、あまりにも非現実的である。この法案は、いわば無理を重ねる欠陥法案といわなければならない。
捜索救助活動とは、「諸外国の軍隊等の活動に際して、行われた戦闘行動によって遭難した戦闘参加者について、その捜索又は救助を行う活動(救助した者の輸送を含む)であって、我が国が実施するものをいう」とされている(3条1項2号)。
この活動は、戦闘行為中に海上に墜落したり行方不明になった米軍等の将兵を自衛隊が捜索し、救助する活動である。自衛隊によって救助された戦闘員は、再び戦闘員として戦闘に赴くことになるのであるから、戦闘の相手国からみれば、自衛隊の行動は戦闘行為の一部とみなされることになる。
例えば、空母艦載機の事故は、空母からの離発艦の際に起きることが多い。そこで、空母の付近で捜索・救出用の駆逐艦などが待機しているのが通常である。捜索救助活動の名の下に、海上自衛隊の護衛艦が米空母を中心とする艦隊にあらかじめ組み込まれて活動することも予想される。にもかかわらず、「弾が飛んでこない場所だから戦争行為ではない」などというのはとうてい通用しない議論である。しかも、この活動自体も、相手方から攻撃を受ける対象となりうるものであって、これに自衛隊が反撃すれば、自衛隊そのものが自ら武力行使に及ぶ事態になる。
周辺事態法では、当該外国の同意のもとに隣接する外国の領海での活動が一部認められていたけれども、今回は、当該外国の同意のもとに外国領域内での活動を広く認めているのであって、外国の陸地での捜索救助活動も予定している。山岳・砂漠の連なる中央アジアでの戦闘機乗員や特殊部隊員などの救助活動は、当然に相手方武装勢力の攻撃を誘発し、戦闘の拡大に及ぶ可能性は強い。
このように、今回の法案は、米軍の戦闘活動と一体となって行う活動範囲を一気に拡大するものといわざるを得ない。
なお、捜索救助活動に関して、物品及び役務の提供も予定されている(3条別表第2)。前記7項目との関係で言えば、空港及び港湾業務、基地業務の代わりに、宿泊、消毒の活動を行うものとしてる。これらの活動も、前項で指摘したのと同様、重大な問題がある。
被災民救援活動は、「テロ攻撃に関連し、国際連合の総会、安全保障理事会若しくは社会経済理事会が行う決議又は国際連合等が行う要請に基づき、被害を受け若しくは受けるおそれのある住民その他の者(以下「被災民」という)の救援のために実施する食料、衣料、医薬品その他の生活関連物資の輸送、医療その他の人道的精神に基づいて行われる活動であって、我が国が行うものをいう」とされている(3条1項3号)。
これは、PKO法で定める人道的な国際救援活動とほぼ同一の規定である。けれども、PKO法と異なり、いわゆるPKO参加5原則の限定が全く取り払われたことが重大な相違である。つまり、5原則とは、@紛争当事者の間で停戦合意があること、A紛争当事者が日本の参加に同意していること、B中立的な立場を厳守すること、C条件が満たされない状態が生じたときは撤収すること、D武器使用は要員の生命等の防護のために必要な再使用限度のものに限られること、である。
しかし、今回の法案では、このような限定がことごとく取り払われてしまうこととなる。
当面、想定されているのはアフガニスタン難民に対する活動である。もちろん、停戦合意も成立していないばかりか戦闘が行われている状態のもとで、自衛隊を海外派兵させようというのである。しかも、アフガニスタンの同意などは得られようはずもない。
もちろん、中立的な立場での活動にもならない。そもそも、日本は、アメリカ軍等の支援のために参戦し、海外派兵された自衛隊が武力行使の活動を展開しているのであるから、難民救援の活動においても、中立と見なされることはない。実際、パキスタンとの国境が封鎖されたもとで多数の難民が生じているおり、空爆が開始された後にも、難民は増加するばかりである。その支援のためにパキスタンやウズベキスタン等で活動するとすれば、そこは、いわば紛争地域であって、アフガニスタン側からみれば、敵側と見なされ、攻撃の対象となる可能性が大である。中立的な活動とは到底見なされないのである。
さらに、今回の法案は、後述のように武器使用の範囲も大幅に拡大した。
結局、そのような地域で武装した自衛隊が活動していることは、相手方から攻撃を受ける危険性を拡大する。実際、難民の中にいるテロリストやゲリラからの攻撃も十分あり得ると言われている。これでは、自衛隊が紛争の渦中に自らを投じるといっても過言でない。自衛隊が武器を使用するとすれば、自らが直接武力行使の当事者となる危険が大である。
自衛隊は武装して海外派兵されるのである。自衛隊が攻撃を受ければ、これに対して当然に自衛隊側からも武器が使用され、自衛隊として憲法9条で厳に禁止されている武力行使の事態に発展する。すでに明らかにしたように、直接武器を使用して武力行使に及ぶ事態は、自衛隊の支援活動において不可避と考えられる。「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」とする法案の記載は、国民を欺罔するに等しい。
武器の使用は、「現場に上官が在るときは、その命令によらなけばならない。」(11条2項)とされており、「組織として武器を使用」することが前提とされている。このような上官の命令、指示による自衛隊の組織としての武器の使用は、それ自体、武力行使といわなければならない。
また、使用される武器については、PKO法(22条)が小型武器に限定しているのに比して、制限がつけられない。とすれば、機関銃や迫撃砲、さらにはロケット弾やミサイルまでも可能となる。
さらに、自衛隊法95条の適用が排除されていないのであるから、武器・弾薬や船舶・航空機・車両、燃料、通信設備などが攻撃された場合にも、自衛隊による武器等防護のための武器使用が認められることとなる。海外での武力行使をいっそう拡大するものである。
法案では、「他の自衛隊員もしくはその職務を行うに伴い自己の管理下に入った者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で、武器を使用することができる」(11条1項)と規定し、難民の防護等という目的で、さらに武器使用の基準を拡大している。
ここでいう「職務を行うに伴い、自己の管理下に入った者」については、難民以外でも、診療中の傷病兵、輸送中の外国の兵員、現地機関や外国軍隊の連絡要員、視察者なども、これに含まれるとされている(10月11日衆院特別委員会・福田官房長官答弁)。そのほか、捜索救助した戦闘員なども含まれるであろう。武器の使用がきわめて広範囲にわたって認められることとなる。
このように武器使用の基準を拡大するのであるから、その結果、武力行使の事態に発展する危険はいっそう大きくなる。
政府・自民党は、従前、自衛隊の海外での活動に関して、PKO法については「国連の平和維持活動に対する協力」を、また、周辺事態法については「日米安保条約の円滑な遂行」をそれぞれ目的にして、これらの法案の成立を強行してきた。
ところが、今回想定されている自衛隊の活動に関しては、その前提となる軍事報復について国連安保理決議も武力行使を容認していない。このことは、また、日米安保条約によっても説明できないことが明らかである。しかも、9月29日のブッシュ大統領の演説に示されているように、国際的な広がりを持つと言われているテロ組織を対象としているだけに、どの範囲の組織あるいは国家を報復攻撃作戦の目的とするのかも、どの地域で活動することになるのかも限定されていない。
しかも、アメリカ政府は、「テロ勢力をかばう国をも攻撃する」旨を明言してはばからない。
法案は、自衛隊の海外派兵には国会の承認は必要とせず、閣議決定した基本計画決定又は変更そして終了について、内閣総理大臣が、それぞれ事後に遅滞なく国会に報告すればたりるとしている(10条)。
政府がどのような判断をもとに支援の具体的内容を決定し、それをどのように実行するのか、国民に全く知らされないままに、世界のどこへでも派兵が先行することになるおそれがある。
さらに、アメリカとの協議や情報交換は、軍事上の機密(防衛秘密)とされ、国会へも明らかにされない可能性がある。このことは、後述するように自衛隊法「改正」により防衛秘密保護規定が提案されていることとあわせて、きわめて重大である。
これに対して、自衛隊法では、防衛出動及び治安出動について、いずれも、国会の承認を必要としている。しかも、防衛出動については、「特に緊急の必要がある場合」を除いては、事前の国会承認が求められている。不承認となれば、出動できないことになるし、事後に不承認の議決があった場合には、直ちに撤収を命じなければならない(自衛隊法76条、78条)。
今回の軍事報復の支援活動には、このような国民主権と議会制民主主義の原則からの最小限の制約さえないのである。結局、アメリカの判断を優先して、日本が自動的に参戦する事態に陥る危険を指摘せざるを得ない。
自衛隊法「改正」案の重大な問題の一つは、防衛秘密保護条項の導入である(「改正」案96条の2、122条)。
現行自衛隊法は、59条1項で「隊員は、職務上知ることの出来た秘密を漏らしてはならない。その職を離れた後も、同様とする」と規定し、118条に59条1項に違反した者及びこれを「企て、教唆し、又はそのほう助をした者」は「1年以下の懲役又は3万円以下の罰金に処する」としている。なお、国家公務員法は職員に秘密漏洩をしてはならないとし、違反に対する罰則は自衛隊法同様1年以下の懲役又は3万円以下の罰金である(100条・109条)。
また、現行法制上、防衛に関する秘密保護規定は右自衛隊法の規定以外にも、以下のとおり存在する。
@ 在日米軍の秘密を保護する「日米安保条約に基づく米軍地位協定の実施に伴う刑事特別法」
A 日米相互防衛援助協定等に基づきアメリカ政府から日本に供与された装備品及び装備品に関する情報についての秘密を保護する「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」(MSA秘密保護法)
そもそも、自衛隊は「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない」(憲法9条)とした憲法に違反する違憲の存在であり、自衛隊の合憲性を明確に認めた最高裁判例は存在しない。その自衛隊に関し、運用に関する情報を「秘密」として国民の目から遠ざけ、国民の知る権利を侵害すること自体そもそも違憲性は明白である。その点で防衛秘密に関する現行法自体が違憲といわなければならない。しかし今回の改悪案は、これら現行法規定をはるかに超えて、自衛隊のほとんどすべての活動を「秘密」として国民から秘匿しようとしているものであり、以下の通り重大な問題がある。
今回の「改正」は、まず、防衛庁長官が、「改正」法案96条の2別表4に掲げる極めて広範な事項の中から「公になっていないもののうち我が国の防衛上特に秘匿することが必要であるもの」(但し上記MSA秘密保護法上の秘密を除く)を防衛秘密として指定できることとし(96条の2、1項)、次に防衛庁長官が「国の行政機関の職員のうち防衛に関連する職務に従事するもの又は防衛庁との契約に基づき防衛秘密に係る物件の製造若しくは役務の提供を業とする者」に対し、防衛秘密の取り扱いの業務を行わせることができるとし(96条の2、3項)、防衛庁長官が秘密保護上必用な措置をとれるものとしている。
そして、122条で、「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者」がその業務により知得した防衛秘密を漏らしたときは5年以下の懲役、過失による漏洩を1年以下の禁固又は3万円以下の罰金、共謀、教唆、煽動を独立構成要件として3年以下の懲役にするとしている。
これは、第1に、防衛秘密に関する現行自衛隊法の処罰規定より対象者・処罰範囲とも拡大した点で重大である。
まず、対象者は、現行自衛隊法に規定される自衛隊員から、防衛庁・自衛隊以外の他の国家機関の公務員や民間人にも拡大しており、処罰範囲も「過失」「共謀」「教唆」「煽動」にも拡大している。
現在自衛隊がその装備調達の発注をしている企業は膨大な数にのぼる。これらの膨大な企業に関わる秘密が「防衛秘密」のなかにとりこまれる。そしてこれら「防衛秘密」に関与する労働者、技術者の数は計り知れないほど多数にのぼる。兵器・艦船・航空機の製造のみならず修理、さらには航空、港湾、海運、建設、陸運、医療、情報産業等極めて広範で多岐にわたる各分野の産業に従事する労働者、技術者、経営者が対象になりうる。これら民間人・労働者が防衛庁長官の指定により、「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者」とされ、秘密保護の義務を負わされ、故意過失を問わず漏洩を処罰されることとなる。まさに、国民多数に処罰の矛先が向けられるものである。
第2に、処罰の対象とされる行為自体も拡大されている。「過失」つまり不注意で秘密が漏れてしまった場合まで処罰の対象とするほか、「共謀」「教唆」「煽動」も独立構成要件で処罰するとなれば、我々国民による防衛情報の公開を求める行動やマスコミの取材活動など、全く正当な行為自体が「共謀」「教唆」「煽動」として処罰されかねないこととなる。国民の知る権利、取材・報道の自由を著しく制約する重大問題である。
第3に、罰則を強化したことも看過できない。罰則については、国家公務員法の秘密漏洩と均衡した処罰内容であった現行法の罰則をはるかに強化し、「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」(MSA秘密保護法)の水準にまで引き上げている。防衛秘密のみを他の秘密に比して優越的に保護し、厳重に秘匿しようとするものである。
秘密の指定権を防衛庁長官の専権としている。
「改正」案では防衛庁長官が「秘密」と指定したものがすべて「秘密」として国民から秘匿され、漏洩は故意・過失を問わず処罰対象となる。秘密の指定は、防衛庁長官による「標記」(96条の2、2項1号)「通知」(96条の2、2項2号)という極めて簡便な方法で、国民の預かり知らぬところで指定されることになる。
国民主権・国民の知る権利に照らし、国政に関する情報は主権者国民に公開されるべきであり、知る権利を制約する国家情報の秘匿に関しては司法審査の対象となるはずである。防衛秘密を巡っては、那覇市情報公開条例に基づき海上自衛隊の施設の工事計画に関する公文書の開示決定に対して、国が防衛秘密であることを理由に開示の取消を求めた訴訟について「防衛上重要な施設であることを前提としても」「要保護性が認められない」などとして国の取消請求を否定した判決が下されている(那覇地裁平成7年3月28日判決)。この事件に関しては最高裁も平成13年7月13日判決で国の取消請求を否定した。国防という大義名分だけで、すべての情報公開を拒みつづけることはできないのであり、司法審査によって実質的な秘密か否かが厳格に検討されるべきことは当然である。
しかるに、「改正」案では秘密の判断権者は防衛庁長官であり、司法審査の余地は完全に排除されることとなる。「改正」案の矛先を向けられる国民に対する司法救済の道が閉ざされることとなり、憲法上重大な問題であることは明白である。
そればかりか、このように防衛庁長官の専権により、膨大な防衛に関する広範な情報が「秘密」とされることとなれば、国会・内閣のコントロールすら一切及ばないこととなる。これは三権分立を根底から覆すものであって、防衛庁の独走を許す重大な危険がある。防衛庁長官が指定さえすれば、内閣、国会、司法にすら広範な防衛情報が秘匿され、従って、主権者国民からこれら情報が秘匿される。仮に日本が核武装する等、憲法と非核三原則に反する重大な事態となっても、その情報は、「秘密」として秘匿され、いかなる司法審査にも服さず、国民には一切知らされないこととなる。
このような事態が、国民の知る権利を侵害し、三権分立に反するものとして違憲であることは明白である。
「別表」に列挙された情報は極めて広範である。別表は10項目が列挙されており、それは、以下のとおりである。
1 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究
2 防衛に関し収集した電波情報、図画情報その他の重要な情報
3 前号に掲げる情報の収集整理又はその能力
4 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究
5 武器・弾薬・航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む)の種類又は数量
6 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
7 防衛の用に供する暗号
8 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発時段階のものの仕様、性能又は使用方法
9 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発時段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
10 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途
このような包括的かつ広範な情報がすべて防衛秘密の対象となって国民から秘匿されることとなる。国民は、防衛予算や基地機能、防衛計画、作戦運用の実態、日本に配備される武器・弾薬・航空機に関する情報から一切遠ざけられる危険がある。
何より「自衛隊の運用」(1項)すべてが防衛庁長官の指定により秘密となりうるのであるから、自衛隊の行い、行おうとする活動すべてを防衛秘密として国民から秘匿することも可能となる。日本がアメリカとどのような憲法違反の共同作戦行動に突入しようと、一切国民に知らされない危険性がある。
平和憲法を持つ日本において違憲の存在である自衛隊の活動に関し、主権者国民が常に監視・批判を行うのは国民の当然の権利である。しかるに、このような広範な防衛情報を全て「秘密」として指定するとなれば、国民はこれら情報から一切遠ざけられ、批判・監視を行えないこととなる。自衛隊の運用・作戦行動がいかに憲法9条に重大に反するものであっても、国民は何らそれを知ることができないこととなり、防衛庁の独走を許すこととなる。これでは戦前の国家秘密保護法の二の舞になりかねない。断じて歩んではならない道である。
そもそも、国政情報のうち、防衛秘密のみをこのような秘匿対象とするのも重大な問題である。
情報公開法施行等により国政情報を基本的に公開しようとする流れの中で防衛情報のみをこのように広範に秘匿することは、憲法9条の精神に反する。
「国防は行政の一部であるから、平時における国防のみが独り他の諸部門(外交・経済・運輸・教育・法務・治安等)よりも優越的な公共性を有し、重視されるべきものと解することは憲法全体の精神に照らし許されない(東京高裁昭和62年7月15日米軍横田基地公害訴訟判決)のである。
この自衛隊法「改正」規定は、国民の反対で阻止し廃案とした国家機密法の先取りである。
ブッシュ政権の国務副長官であるアーミテージらが作成したいわゆるアーミテージ報告は、日本に対し有事立法制定・集団的自衛権行使を要求しているが、これと同時に「日本の指導者たちは、機密情報を保護する法律の立法化に向け、国民の支持と政治的支持を得なければならない。」と明確に提言している。
政府与党がこの提言に忠実に従い、テロ問題のどさくさに紛れて国家機密法の一部を滑り込ませたのがこの自衛隊法「改正」案96条の2、122条なのである。
1985年に国会上程され、国民の強い批判により廃案となった国家機密法は、「『国家秘密』を防衛及び外交に関する別表に掲げる事項で(中略)、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ公になっていないもの」と定義した。そして7条2項で「国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を他人に漏らしたもの」を10年以下の懲役とし、10条には、7条に掲げる者が過失により国家秘密を漏らした場合を2年以下の禁固又は10万円以下の罰金とし、11条に煽動、教唆者の処罰規定を掲げている。これは、罰則の軽重が異なるものの、今回の自衛隊法改悪案とほぼ同じ構成要件である。
しかも、国家機密法の防衛秘密事項として「別表」として記載されている事項は、「防衛のための態勢等に関する事項」と、「自衛隊の任務の遂行に必要な装備品及び資材に関する事項」であって今回の自衛隊法「改正」案より限定されており、「改正」案の別表4、第1号「自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究」のような包括的な規定は存在しない。今回の改正はその意味で国家機密法の一部を取り込み、かつ国家機密法を上回る防衛情報の秘匿を容認するものなのである。
確かに、今回の「改正」には、国家機密法が定めた「外国への探知・通報」を死刑・無期とする規定(1条)や、「不当な目的で国家秘密を探知し、又は収集した者」を10年以下の懲役とする規定(7条1項)は盛り込まれていない。しかし、この自衛隊法改悪を既成事実として、今後有事法制化の策動とともに、これら国家機密法の規定をも盛り込んだ総合的な秘密保護法制化へと突き進む危険性は極めて高い。事態は重大である。
防衛に関する重要な国政情報は全て国民に公開されることが国民主権の基礎である。国民は、これらの国政情報について知る権利を持っている。それは憲法21条の保障するところであるばかりか、憲法のよって立つ国民主権の要請である。
主権者国民は、日常普段に、国政を監視する選挙を通じてその主権を適切に行使する責務があり、そのためには、国政の重要情報を正確に知る機会・権利が保障されていなくてはならない。国民主権は、国政情報について国民が知る権利を持つことを当然の前提としており、この権利がないところに、国民主権は成り立つことが出来ない。
もし国家機関が掌握する国政情報を自由に秘匿することが許されるならば、主権者としての国民は国政を客観的に認識することができず、したがってこれを正確に批判することもできない。これでは国民主権は死滅する。国政情報は民主主義の不動の原則であり、平和を守る保障である。
防衛庁の専権による広範な防衛秘密の秘匿を許し、国民の知る権利を侵害する秘密保護規定は明らかな憲法違反であり、到底許すことができない。
今回の「改正」案では、自衛隊の施設、米軍基地に向けて、「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要し、又は社会に不安もしくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合」に、自衛隊施設・米軍基地の警護のため自衛隊が出動する規定を新設しようとしている(81条の2)。
現行自衛隊法は、内閣総理大臣が、「間接侵略やその他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合」(78条、命令による治安出動)と都道府県知事が「治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認め」内閣総理大臣に対し要請した場合(第81条、要請による治安出動)に、自衛隊の出動を命ずることができるとしているが、これに加えて、自衛隊の施設と米軍基地の警護のための自衛隊の出動を認めようとするものである。
この「改正」案の新設規定は、以下の点で問題である。
第1に、「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要し、又は社会に不安もしくは恐怖を与える目的」の場合を想定して、自衛隊の出動を命ずることができるとしている点である。これは、「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要」する目的にあたる場合として、集会やデモなどが含まれると解釈されるおそれがある。そして、自衛隊施設や米軍基地に対して集会やデモが行われ、その中に暴力的行動をとる者がいたとして、警察力の行使にとどまらずに、集会やデモそのものに対して自衛隊が出動するおそれも生じる。そもそも、「政治上その他の主義主張」の表現行動は、表現の自由(憲法21条)として保障されている民主主義社会における重要な人権の行使であって、それに対して暴力的行為を防止するということで自衛隊が出動し、これを制限する可能性のある「改正」案はきわめて問題である。
第2に、「多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合」に自衛隊の出動を命ずることができるとしている点である。
現行法では、内閣総理大臣の命令による自衛隊の出動ができるのは、「間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができない場合」に限定されている(78条)。これに対し、「改正」案では、自衛隊の出動を「緊急事態」にならない以前の段階、単に「おそれ」がある段階で出動を命ずることができるとしている。この規定によれば、自衛隊の出動の認められるケースが大幅に拡大されることになり、問題である。
また、現行法が「一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合」に限定しているのに対し、「改正」案では「被害を防止するための特別の必要があると認められる場合」として、その判断を大幅な裁量に委ねている。これでは、自衛隊の出動できる場合を限定しえない。
第3に、「多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為が行われるおそれがあり、かつ、その被害を防止するため特別の必要があると認める場合」に該当するかどうかの判断を内閣総理大臣の専権にゆだねている点である。
「おそれ」があるかどうか、「特別の必要」があるかどうかは、一義的に明確でなく漠然としているため、裁量の幅が大きくならざるを得ないが、この判断を自衛隊の出動を命ずる内閣総理大臣ができるというのである。これでは、自衛隊の出動に関し、内閣総理大臣に事実上フリーハンドを与えるおそれが大きい。
なお、「改正」案では、内閣総理大臣は、「あらかじめ、関係都道府県知事の意見を聴くとともに、長官と国家公安委員会との間で協議をさせた上」で自衛隊の出動する場所と期間を指定しなければならない(81条の2、2項)と規定しているが、意見を聞いたり、協議をさせるというだけで、あくまで内閣総理大臣に決定権があることに何ら変わりはない。
第4に、自衛隊や米軍の施設のための警護出動に際し、警察官職務執行法2条、4条並びに6条1項、3項及び4項が準用されている(「改正」案91条の2、1項)点である。
すなわち、自衛隊や米軍の施設のための警護出動に際し、自衛官は、職務質問(警職法2条準用)、その場に居合わせた者等に対する引き留め、避難等の措置(警職法4条準用)、他人の土地、建物、船、車の中への立ち入り(警職法6条1・3・4項準用)ができるのである。
しかも、この権限は、当該施設だけでなく、警護のためやむを得ない必要があり、その必要な限度において、警護の対象となっている施設や区域の外部においても行使することができるとしている(「改正」案91条の2、4項)。
第5に、自衛隊や米軍の施設警護のための出動に際し、警職法5条及び7条が準用され、武器の使用が認められている(「改正」案91条の2、2項)点である。すなわち、自衛隊や米軍の施設のための警護出動に際し、自衛官は、犯罪の予防及び制止(警職法5条準用)ができ、「犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合」には、武器の使用ができるのである。
さらに、武器を使用できる場合を拡大している(「改正」案91条の2、3項)。
第6に、米軍施設の警護のための自衛隊の出動を規定している点である。米軍施設の警備、防衛は、もともと米国の役割となっている(安保条約6条、日米地位協定3条)。自衛隊が米軍施設の警護のために出動することになれば自衛隊は誰のための武装部隊かが問われることになる。そのことは今以上に米軍傘下の軍隊になることを意味する。
「改正」案は、「武装工作員」に対する対応として、防衛庁長官が、武器を携行する自衛隊の部隊に情報の収集を命ずることができるとし(79条の2)、さらに情報収集に従事する自衛官が武器を使用できる(92条の2)との規定を設けようとするものである。しかし、かかる規定は、以下の点で問題がある。
第1に、「事態が緊迫し第78条第1項の規定による治安出動命令が発せられること及び小銃、機関銃(機関けん銃を含む)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合」に自衛隊の部隊に情報収集を命ずることができるとしている点である。
治安出動命令が発せられることが予測される場合及び不法行為が予測される場合に自衛隊の部隊に情報収集を命ずることができるとしているが、単なる「予測」の段階で情報収集を命ずることができるとしているのは問題である。
第2に、「当該事態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるとき」に自衛隊の部隊に情報収集を命ずることができるとしている点である。「特別の必要がある」かどうかは、判断権者の裁量に大幅に委られることになる。
第3に、「予測される場合」かどうか、「特別の必要がある」かどうかを判断するのが防衛庁長官とされている点である。
「予測される場合」かどうか、「特別の必要」があるかどうかは、一義的に明確でなく漠然としているため、裁量の幅が大きくならざるを得ない。防衛庁長官に事実上フリーハンドを与えるおそれが大きい。
第4に、「当該者が存在すると見込まれる場所及びその近傍において」武器を携行する自衛隊の部隊に当該情報の収集を命ずることができるとしている点である。「見込まれる場所及びその近傍」というのでは、情報収集を行うことのできる地域が無限定となる危険がある。
第5に、情報収集の職務に従事する自衛官に武器の使用が認められている(92条の2)点である。
すなわち、情報収集に従事する自衛官は、「当該職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には」、武器の使用ができるのである。
「改正」案は、海上保安庁法を改正して、海上保安庁法20条2項を新設した上、その新設条項を海上自衛隊の自衛官の職務の執行に準用するとの規定を設けている(91条2項)。
すなわち、海上警備行動時等において、立入検査又は職務質問の実施(海上保安庁法17条1項)目的で、当該船舶の進行の停止を繰り返し命じても乗組員等がこれに応ぜず、なお海上自衛隊の自衛官の職務の執行に対して抵抗し、又は逃亡しようとする場合、武器を使用できるとする。
この新設規定は、自衛隊による武力行使に及ぶ事態を拡大するものであるが、とりわけ以下の点で問題である。
第1に、@外国船舶と思料される船舶が我が国領海内で無害通航でない航行を現に行っている、A放置すれば将来繰り返し行われる蓋然性がある、B我が国領域内における重大凶悪犯罪の準備のためとの疑いを払拭できない、C当該船舶を停船させて立入検査をしなければ、将来の重大凶悪犯罪の予防ができない(海上保安庁法「改正案20条2項1号ないし4号」)という規定のすべてに該当すると認めたものについて武器の使用を許容しているが、この判断権者が防衛庁長官である点である。
第2に、武器の使用が「危害射撃」を許容しており、船舶そのものに対する武器使用も肯定されることになる。「危害射撃」の許容については、「改正」案についての政府の説明文書(2001年10月3日付け)の中で明らかにされている。
「改正」案では、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは整備するための施設設備、営舎又は港湾若しくは飛行場に係る施設設備が所在するものを警護するに当たり、自衛官の武器の使用を認める規定を新たに設けている(95条の2)。
かかる施設は広範にわたっており、ほとんどの自衛隊の施設の通常時の警護にあたって自衛官の武器の使用を許すことになり、問題である。
以上のとおり、「改正」案の内容は、有事法制の先取りとも言うべき内容を有しており、また、自衛隊の武装部隊が国内の市民社会に中に機能を拡大していく道にふみだしていく危険性をも有していることを指摘せざるを得ない。
報復戦争参加法案に反対する意見書
2001年10月15日
編 集 自由法曹団沖縄・改憲問題特別対策本部
発 行 自 由 法 曹 団
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