<<目次へ 団通信1036号(10月21日)


  吉田 健一 「薫風、いま吹きぬけて」ー白木屋闘争の大きな勝利
 

テロ問題特集 その2

  大久 保賢一  非・理・法・権・天
神田  高 ”報復戦争ノー"のたより号外を一三〇〇〇名の依頼者に
伊藤 和子 国家機密法を復活させる自衛隊法「改正」防衛秘密保護条項の導入を許さない
南 典男
伊藤 和子
「STOP報復戦争と日本の参戦」緊急プロジェクト結成へ
神原 元 一〇月四日戦争協力反対デモ行進の報告と「米国報復戦争・日本による戦争協力に反対する新聞意見広告運動」のご協力お願い
玉木 昌美 再審請求前に証拠保全決定
中川 重徳 二〇〇一憲法フェスティバルの報告

「薫風、いま吹きぬけて」ー白木屋闘争の大きな勝利


東京支部 吉 田 健 一


 二〇代の可憐な女性三人が頑張りぬいて勝ち取った大きな勝利である。

白木屋、魚民、笑笑など全国チェーンで九〇〇店舗の居酒屋を経営し、二万人の労働者を抱えるという企業・モンテローザで、本社七〇名の女性労働者が組合(西部一般白木屋分会)を結成したのは、一九九八年五月のことであった。休憩所もない職場で長時間働かせたうえ、残業代も未払わない。そのうえ、電車事故で遅刻しても一回で一万円を賃金から引かれる。

 「『えー、どうなっているのこの会社!』と労働条件のひどさにア然とする毎日。一方的に賃金がどんどん下げられ、私たちの怒りと不安はピークに達し、白木屋分会は結成されました」と有働昌子分会長は当時をふりかえる。

 しかし、いやがらせや配転など露骨な組合潰しの攻撃で、組合員はヒトケタに。副分会長に対しては、朝五時までという深夜営業の店舗への配転が命じられるなど、苦難のたたかいが始まった。弁護団を結成して、未払賃金の支払いを求める裁判や労基署への申告・告発、労働委員会への救済申立などで反撃に転じる一方で、地域の労働者を中心に集会や駅頭での宣伝行動が取り組まれた。しかし、会社側からも、社長宅や店舗への要請・宣伝行動に対して、面談強要禁止の仮処分が申し立てられた。弁護団で応戦するととにも、運動面でも様々な工夫をしながら粘り強く取り組み、約一年をかけて一定の合意を成立させ和解に持ち込んだ。

 組合は、各店舗で働く労働者に対し、事実を告発して協力を求めるオルグ活動を全国的に展開した。「自分の残業代も未払だ!何とかならないか」との声が組合に寄せられ、一〇〇名を超える労働者が組合員となって残業代を請求した。労基法違反での告発や残業代請求の裁判に参加する労働者も現れた。「白木屋・魚民でのまない会」も結成され、青年労働者の積極的な応援が広がっていった。全労連青年部も全面的にバックアップし、若者を中心にして渋谷で六〇〇名のパレードが取り組まれた。

 会社は、残業代の未払という犯罪を隠蔽すべく、労働者に数分の一を支払ったうえ残額を放棄させる合意書に署名させ、「問題は解決した」と労基署に説明するという姑息な手段に打って出た。それだけでも、会社は、数億円を支払ったといわれている。しかし、そもそも合意書自体が労基法違反であることが大森衆議院議員の国会質問で明らかにされ、裁判でも、その作成が強要されたものであることを含めて、その違法性を明らかにしていった。

 運動でも包囲され、労基法違反で送検され社長も含めて起訴される事態を目前にした会社は、去る九月六日、ようやく組合に謝罪し、解決金を支払って解決に応じるに至った。この解決では、すべての店舗に休憩室を設置させること、異動を事前通告させ必要な費用を会社で負担すること、一時金不支給など過重な処分を禁止することを含め、様々な労働条件の改善を勝ち取った。組合や組合員のみならず、全従業員に対する未払の残業代も支払われることとなった。その額は、組合が取り組み始めた以降、合計で三八億円となった。

 解決後数日して、会社と社長個人を略式罰金で起訴したとの通知が検察庁から告発人代理人である私たちに届けられた。

 ご支援いただいたみなさんに感謝するとともに、若い労働者を結集したこのたたかいの勝利が大きな変化への一歩となることを期待する。

 なお、弁護団の構成は、小林克信、長尾宜行、鈴木敦士、それに吉田の各団員。「薫風、いま吹きぬけて」というのは、本事件の勝利解決を報告したパンフの表題で、このたたかいを象徴する言葉でもあるので、借用させてもらった。


テロ問題特集 その2


非・理・法・権・天


埼玉支部  大 久 保 賢 一


一 一〇月八日、アメリカとイギリスが、アフガニスタンへの武力攻撃を始めた。二一世紀最初の「戦争」である。アメリカとイギリスの国連安保理への報告は自衛権の行使であるという。アメリカは個別的自衛権をイギリスは集団的自衛権を行使しているというのだ。国連安保理では、この主張について、イスラム諸国も含め、明確な異議は述べられなかったと報じられている。他方、タリバンの指導者は「聖戦」を呼びかけ、ビン・ラディンは「パレスチナに平和が訪れるまで、アメリカの平安はない」と戦意を隠していない。この戦争が何時どのような決着がつくかは不透明である(「軍事革命」を進めているアメリカの優位性は動かないだろうが)。けれども、また多くの人命が失われることだけははっきりしている。自衛と正義の名において殺戮と破壊の効率性が競われるのだ。そして、私たちにはこの戦争を阻止する力もあのテロリズムを処断する力も未だない。けれども、私たちは、テロも戦争も自衛隊の派遣も反対なのだ。

二 私たちは、テロを承認しない。政治的であれ宗教的であれ、その主張を関係のない民衆の命を犠牲にする形で展開することは、人道的にも法的にも許されていない。テロは非行である。「非」は「理」にも「法」にも劣後させなければならない。では、人道上は別論として、今回の同時テロはどのような法に違反するのだろうか。アメリカの国内刑法に違反することに異存はあるまい。実行犯だけでなく、重罪の謀議に参画した者も犯罪者である。アメリカがその犯人の逮捕と訴追と処罰の権限を有することは明瞭である。犯人の引渡しも含め、国際社会が協力することは当然である。では、国際刑法上はどうなるのか。このテロ事件を「戦争犯罪」とすることは、従来の「戦争犯罪」概念からすると困難ではなかろうか(「人道に対する罪」の適用が考えられるがどうだろうか)。そして、仮に「戦争犯罪」であるとしても、その犯人個人を裁く恒常的な国際法廷は存在していない。また、「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」(一九七〇年・ハーグ)や「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(一九七一年・モントリオール)なども、アメリカ国内機のアメリカ国内での事案であることを考えると適用困難かもしれない。仮に、その適用があるとしても、その審理はアメリカの法廷になる。要するに、現時点で、「法による裁き」を主張するとすれば、それは「テロリストをアメリカの法廷で裁け」という主張と同義なのである。もちろん、国際社会が協力して、武力の行使ではなく法的処理体制を確立することは必要なことではある。けれどもそのためには、何が犯罪であるかという事前の提示と適正な手続きが確保されなければならない。けれどもそれは、時間的にも、論理的にも不可能である。そうすると、「法による裁き」を主張する私たちは、犯人の逮捕や裁判については、アメリカ政府に協力しなければならないことになる。

三 では、今回の事件の犯人が真実ビン・ラディンであったとしよう。アメリカは彼をどのように裁きの場所に連れ出せばいいのだろうか。アフガニスタンを実効支配するタリバンがアメリカに協力しないことははっきりしている。ここでは、法の執行は不可能なのだ。そこで、「権」が顔を出す。法の執行が不可能であれば、法よりも強い力、即ち剥き出しの権力が求められる。要するに実力行使である。ここでは、理屈も既存の法も背景に押しやられる。正義を実力で実現しないことは「臆病者の言い訳」か「平和ボケのエゴイスト」でしかないとされる。こうして、アメリカは「偉大な宗教であるイスラム」や「困難な状況にあるアフガンの民衆」を敵とするのではなく、犯罪者の引渡しを求めるのだとして武力の行使を継続するのである。私たちは、その実力行使をどのような理由で反対するのだろうか。テロリズムの根絶に役に立たない、新たな犠牲者を生み出す、報復は報復を生むという理由は説得的だろうか。何ら効果的な反撃をされない無法者はもっとつけあがるのではないだろうか。テロを放置することは更なる犠牲者を出すことにならないだろうか。「権」の行使は不可欠ではないのだろうか。「権」を越えるものはないのだろうか。それが問題である。

四 この問いに答える上で忘れてはならないのは、今回のテロのターゲットが、ペンタゴンと世界貿易センタービルだったことである。アメリカの軍事覇権と多国籍企業の牙城が狙われたのである。テロリズムということを捨象して考えれば、核抑止論と常時戦時体制を柱とするアメリカの世界戦略と「南」の諸国の民衆に飢餓と不衛生と無知を恒常的に強要する体制への反逆だったのである。ここには「権」だけでは解決することのできない問題が提起されている。強大な軍事力を乗り越え、「自由な経済活動」がもたらす不正を乗り越えようとする意志をそこに見て取ることは決して不自然ではない。人間が、恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生活したいと願うことは、宗教心の原点であり、人権思想と民主主義の原風景であろう。そして、日本国憲法の非軍事平和の思想である。利潤追求を第一義とし、逆らう者の抹殺をも辞さない「権」を超えるのは、殺し合いと蹴落としのない人間社会の創設に向けての思想と運動である。そこに「天」がある。

五 今、私たちは、史上最強の軍事力を持つ国家と対峙している。私たちが、人権と民主主義と非軍事平和の実現を試みようとするのであれば、その軍事力を乗り越える力を持たなければならない。もちろんテロリズムは論外である。「天」を踏まえて、「権」の野蛮さを告発し、「法」を確立し、「理」を生かし、「非」を根絶しなければならない。さて、私に何ができるのだろうか。それが問題だ。
(二〇〇一年一〇月一〇日)



”報復戦争ノー”のたより号外を一三〇〇〇名の依頼者に


東京支部  神 田  高


 九月一一日の米国での無差別テロへの報復の軍事行動の動きと、これに便乗した小泉政権の自衛隊派兵、テロ対策立法=?報復戦争参加法?制定の動きが強まる中、我が事務所では「どうしたらよいか」「法制定に間に合うか」など喧々囂々の議論を経て、一〇月六日の事務所総会で事務所の「たより号外」を全依頼者に出し、テロ、報復戦争、自衛隊の参戦法に反対の緊急の訴えをすることに決定。立法の緊迫した情勢を鑑み、一二日に発送を行うことを決め、突貫工事でニュース原稿を作成することになった。九九年の「周辺事態法」の時に、団東京支部でタブロイドの宣伝紙をつくった経験はあるものの、今度は普段あまり知らない中東、アフガン、イスラム問題などあってどうすべきか迷ったが、”武力行使”を禁止した国連憲章と日本国憲法を基調に写真などを入れ読みやすいものにすることに(タブロイド版表裏)。

 一〇日には、全労連、安保破棄中央実行委員会、憲法会議などが呼びかけたテロ・報復戦争反対の共同センターの集会に参加したが、報復戦争法案と自衛隊による米軍基地等の警護、国家機密法に通じる情報漏洩を罰する自衛隊法「改正」に焦点を合わせた適切な教育宣伝資料がない問題を痛感。我が事務所のたより号外の話しをすると、全商連(商工新聞)の記者から、できたら是非送って欲しいと頼まれ、”これはあたる”と実感する。

 予定どおり一二日に完成した「たより号外」の表には米国テロの翌日にローソクを持って犠牲者追悼に集まった人たちの写真、?軍事報復から平和は生まれない?のタイトル。裏には、法案が憲法九条が禁止した「武力行使」に該当し、安保条約にも違反し何らの法的正当性もないことを解説、最後に“テロ根絶を目指して”いくつかの提言をまとめる。

 同日発送して、一五日には着いた様子。私が一五日に研修所修了一〇周年パーティ実行委員の慰労会に参加したところ、埼玉で弁護士をしているOさんはわざわざ着いたばかりの「たより号外」を持ってきてくれ、「法案反対のファックスを送った」とのこと。

 この闘いは息の長い闘いになりそうだ。自衛隊海外派兵を野放しにして改憲阻止はできない。今、国民一人一人の胸に届く訴えをすべき絶好のときではないだろうか。
※「たより号外」の問い合わせは、

東京法律事務所(〇三・三三五五・〇六一一)まで。



国家機密法を復活させる自衛隊法「改正」防衛秘密保護条項の導入を許さない


担当事務局次長  伊 藤 和 子


 一〇月五日国会に「報復戦争参戦法」とセットで上程された自衛隊法「改正」案には、防衛秘密に関する改悪が盛り込まれている(九六条の二、一二二条)。

 二〇〇〇年秋提出されたいわゆる「アーミテージ報告」は、日本に対し有事立法制定・集団的自衛権行使を要求するとともに「日本の指導者たちは、機密情報を保護する法律の立法化に向け、国民の支持と政治的支持を得なければならない。」と提言した。政府与党がこの提言に忠実に従い、テロ問題のどさくさに紛れて国家機密法の一部を滑り込ませたのがこの自衛隊法「改正」案九六条の二、一二二条である。

一、現行秘密保護規定  
 現行自衛隊法は、五九条一項で「隊員は、職務上知ることの出来た秘密を漏らしてはならない。その職を離れた後も、同様とする」と規定し、一一八条に五九条一項に違反した者及びこれを「企て、教唆し、又はそのほう助をした者」は「一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する」としている。防衛秘密に関しては、これ以外に、@在日米軍の秘密を保護する「日米安保条約に基づく米軍地位協定の実施に伴う刑事特別法」、A「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」(MSA秘密保護法)がある。

二、「改正」の問題点
 今回の「改正」は、まず、防衛庁長官が「改正」法九六条の二別表四に掲げる極めて広範な事項の中から「公になっていないもののうち我が国の防衛上特に秘匿することが必要であるもの」(但し上記MSA秘密保護法上の秘密を除く)を防衛秘密として指定できることとし(九六条の二第一項)、次に防衛庁長官が「国の行政機関の職員のうち防衛に関連する職務に従事するもの又は防衛庁との契約に基づき防衛秘密に係る物件の製造若しくは役務の提供を業とする者」に対し、防衛秘密の取り扱いの業務を行わせることができるとし(九六条の二第三項)、防衛庁長官が秘密保護上必用な措置を取れるものとしている。そして、一二二条で、「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者」がその業務により知得した防衛秘密を漏らしたときは五年以下の懲役、過失による漏洩を一年以下の禁固又は三万円以下の罰金、共謀、教唆、煽動を独立構成要件として三年以下の懲役にするとしている。

 これは第一に、防衛秘密に関する現行自衛隊法の処罰規定より対象者・処罰範囲とも拡大し、罰則を強化した点で重大である。

 対象者は、現行自衛隊法に規定される自衛隊員から、他の公務員・民間人にも拡大しており、処罰範囲も「過失」「共謀」「煽動」にも拡大している。

 現在自衛隊がその装備調達の発注をしている企業は膨大な数に上るが、これらの膨大な企業に関わる産業秘密が「防衛秘密」のなかにとりこまれる。そしてこれら「防衛秘密」に関与する労働者、技術者は、製造のみならず、兵器・艦船・航空機の修理、航空、港湾、海運、建設、陸運、医療、情報産業等極めて広範で多数にのぼる。これら民間人・労働者が防衛庁長官の指定により、「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者」とされ、秘密保護の義務を負わされ、故意過失を問わず漏洩を処罰されることとなる。国民多数に処罰の矛先が向けられるものである。

 また、「共謀」「教唆」「煽動」も独立構成要件で処罰するとなれば、我々国民や報道機関が防衛情報の公開を求める行動を起こす正当な行為自体が「共謀」「教唆」「煽動」として処罰されることとなる。国民の知る権利、取材・報道の自由、言論の自由を著しく制約する重大問題である。

 また、罰則については、国家公務員法の秘密漏洩規定と均衡した処罰であった現行法の罰則をはるかに強化している。

 第二に、防衛に関する広範な事項が防衛庁長官の指定により秘匿される点で重大である。

「改正」案では防衛庁長官が「秘密」と指定したものがすべて「秘密」として国民から秘匿され、漏洩は故意・過失を問わず処罰対象となる。秘密の指定は、防衛庁長官による「標記」(九六条の二第二項一号)「通知」(九六条の二第二項二号)という極めて簡便な方法で、国民のあずかり知らぬところでなされる。防衛庁長官が「秘密」として指定できる事項は、「別表四」に記載された一〇項目である。この一部を以下に摘示するが、極めて広範で包括的な事項に及ぶ。

 1 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは  研究
 2 防衛に関し収集した電波情報、図画情報その他の重要な情報
 4 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究
 5 武器・弾薬・航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む)  の種類又は数量
 10 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途

「自衛隊の運用」「見積り」「計画」、「武器・弾薬・航空機・船舶」、防衛施設等すべてが防衛庁長官の指定により秘密となるのであり、自衛隊の行い、行おうとする活動すべてを防衛秘密とすることも可能である。

 そして、秘密の判断権は防衛庁長官の専権に属するとされ、「秘密」に関する司法審査は排除され、国会・内閣のコントロールすら一切及ばないこととなりかねない。

 このように防衛庁長官の専権で膨大な防衛に関する広範な情報が「秘密」とされれば、国民はこれら防衛情報から一切遠ざけられ、有効な監視・批判を行えないこととなる。
日本がアメリカとどのような憲法違反の共同作戦行動を取ろうとも、防衛庁が極秘に核開発・核武装をしようとも、すべて「秘密」として国民から秘匿される危険があり、防衛庁の独走を許すこととなりかねない。これでは戦前の国家秘密保護法の二の舞である。

三、国家機密法と今回の「改正」
 一九八五年に国会上程され、国民の強い批判により廃案となった国家機密法は、「国家秘密」を防衛及び外交に関する別表に掲げる事項で(中略)、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ公になっていないもの」と定義した。そして七条二項で「国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を他人に漏らしたもの」を一〇年以下の懲役とし、一〇条には、七条に掲げる者が過失により国家秘密を漏らした場合を二年以下の禁固又は十万円以下の罰金とし、一一条に煽動、教唆者の処罰規定を掲げている。これは、罰則の軽重が異なるが、構成要件は今回の自衛隊法改悪案とほぼ同じである。

 しかも、国家機密法の防衛秘密事項として「別表」として記載されている事項は、「防衛のための態勢等に関する事項」と、「自衛隊の任務の遂行に必要な装備品及び資材に関する事項」であって今回の自衛隊法「改正」案より限定されており、「改正」案の別表四第一項「自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究」のような包括的な規定は存在しない。今回の改正はその意味で国家機密法の一部を取り込み、かつ国家機密法を上回る防衛情報の秘匿を容認するものといえる。

 確かに、今回の「改正」には、国家機密法が定めた「外国への探知・通報」を死刑・無期とする規定(一条)や、「不当な目的で国家秘密を探知し、又は収集した者」を十年以下の懲役とする規定(七条一項)は盛り込まれていない。しかし、この自衛隊法改悪を既成事実として、今後有事法制化の策動とともに、これら国家機密法の規定をも盛り込んだ総合的な秘密保護法制化へと突き進む危険性は極めて高い。
四、防衛に関する重要な国政情報が国民に公開されることは、知る権利の要請であるのみならず、国民主権、平和主義の基礎である。国民が防衛情報を正確に知る権利を奪われ、報道機関が防衛情報に関する取材・報道の自由を奪われれば、いかに憲法九条に違反する事態が進行しても、国民・報道機関はそれを認識しえず、正確に批判することはできない。かくて国民の知らないうちに「戦争をする国づくり」を進める体制が出来上がる。

 このような策動を絶対に許してはならない。法案はろくな審議もせずに強行成立させられようとしているが、事は重大問題であり、急速な反対運動を展開し法制化及び適用を阻止するため、「報復戦争参戦法」の課題とあわせて団員の奮闘を是非お願いしたい。



「STOP報復戦争と日本の参戦」緊急プロジェクト(仮称)結成へ


担当事務局次長  南   典 男
             同   伊 藤 和 子


 報復戦争と日本の参戦策動に関する情勢は極めて緊迫しています。一〇月一五日現在、政府与党は「報復戦争参加法」等の早期成立を期して民主党との修正協議を画策しており、一六日には衆院を通過させようとしています。この団通信が団員の皆さんに届く頃には、報復戦争がどこまで拡大し、参戦策動がどのような段階になっているか、本当に予断を許さない事態です。

 団は、この事態に対し、改憲阻止対策本部を中心として相次いで声明・意見書を発表し、国会要請行動を行うとともに、一〇月四日の法律家デモ、各地での宣伝・学習、集会開催等の活動を行ってきました。しかし、報復戦争を停止させ参戦を阻止するために、集中した運動を行うことが必要となっています。現在、報復戦争と日本の参戦に反対する声は大きなうねりとなっており、未だかつてない広範な共同の可能性が広がっています。インターネットを活用した市民の運動や、連日の様々な団体・市民による集会、デモ、ピースウォーク等の行動が展開されています。法律家の中でも、県弁護士会単位のアピール運動や、若手法律家の意見広告運動などが展開されています。二一世紀の世界と日本の進路を決する分岐点ともいえる今日、団はさらに積極的な役割を果していく必要があります。
そこで、全団員の知恵と力を結集して旺盛な活動を行うための運動に集中して取り組む「STOP報復戦争・日本の参戦」緊急プロジェクト(仮称)を結成する方向で検討を急いでいます。

 この緊急プロジェクトでは、
(1)わかりやすい国民向けのパンフレットの作成(既に五四期のみなさんが中心となって動き始めています)。
(2)海外派兵反対を呼びかける全国津々浦々の一斉宣伝行動。
(3)海外派兵反対の弁護士等アピール運動。
(4)政府、国連、世界各国への要請行動
などなど、企画を考え幅広い運動に取り組みます。

 緊急プロジェクトの日程はファックス・ニュース等でご連絡しますが、「われこそは」「このまま黙ってはいられない」と思う団員の皆さん、若手、新人の皆さん、是非参加して下さい。それぞれの得意分野を生かして創意ある取り組みをしましょう。意欲のある方、電話・FAXなど何でも結構ですのでご一報ください。

 歴史的なこの闘いへの団員多数の参加を心から呼びかけるものです。


一〇月四日戦争協力反対デモ行進の報告と「米国報復戦争・日本による戦争協力に反対する新聞意見広告運動」のご協力お願い

神奈川支部  神 原  元


1 アメリカの戦争行為は違法である
 アメリカが(また)戦争を始めるという。テロに対する復讐だという。小泉総理は早々と「全面協力」を約束してしまった。

 アホぬかせ。テロはテロだ。個人の犯罪であって「戦争行為」ではない。個人犯罪を理由に、なぜ、アフガンの一般民衆が殺されなければならないのか。(テロ撲滅のためだ、という人々よ。ならば、仮にオウム真理教がアメリカでテロを行ったら、東京爆撃が正当化されるのか。)

 「自衛のためだ。」というが、これもおかしい。戦場はアフガニスタンだ。「復讐」ではあっても、断じて「自衛」ではありえない。アメリカの行為は、国際法違反ではないのか。

 小泉政権の態度も許し難い。政府は「自衛隊は自衛のために存在する」とずっと言ってきたじゃないか。(そのおかしさは於くとしても)自衛隊をインド洋に出すのが、なんで日本の「自衛」なのか。どう逆立ちしても、全然さっぱり全く理解できない。

 アメリカでテロが起きた。これはチャンスだ。自衛隊海外派遣の既成事実を作ろう…。そういう「きったねえ」下心以外、一体何があると言うのか。(ちなみに、日本政府は難民支援とか言いながら、国内のアフガン難民認定申請者を拘束し始めたという。実にうんざりするほど、馬鹿馬鹿しい話だと思う。)

2 一〇月四日のデモ
 という訳で、怒りに燃えて、戦争反対のデモに参加した。

 時は一〇月四日お昼頃。日比谷公園から議員会館までの約一キロ、三〇分程の距離。法律家四団体(自由法曹団、青法協、日本民主法律家協会、日本国際法律家協会)の主催で弁護士、労働者等がおよそ一八〇人参加した。若手も多く参加していたと思う(前列にいた篠原さんは、「年寄りだから上り坂は行進がのろくなる。」等と言っていた)。

 天気も良かった。広い道の真ん中を行進するのは実に気分がよい。いい運動にもなった。たまには大声を上げるのもよい。いいストレス発散だ。「戦争反対」のついでに「小泉辞めろ」とか「自民党は潰れろ」とか言ってやった。

 議員会館前では、民主党、社民党、共産党議員とエールを交換した。社民党の議員がよいことを言っていた。「小泉さんは、国会で決める前に、アメリカと(戦争協力の)約束をしてきてしまった。これは国会無視ではないのか。」正にしかり。小泉は日本の総理なのか、アメリカ政府の役人なのか。民主党の議員がアメリカの行為の違法性について明快に論じ、気分がすっきりした。

3 「米国報復戦争・日本による戦争協力に反対する新聞意見広告運動」へのご協力お願い
 こうしている間にもアメリカが本当に戦争を始めてしまった。実に悔しい限りだ。日本の世論もアメリカに同調的な方向に傾いているように思える。これは新しいファシズムの到来だと思う。ファシスト的世論に水をぶっかけなければならない。

 そこで、若手の同期の弁護士で今月末頃を目標に「新聞に『戦争反対』の意見広告を出そう。」ということになった。会の名称は、「報復戦争・日本の戦争協力に反対する法律家の会」(文末参照)。早稲田大学の水島朝穂先生を始め、憲法学者、国際法学者、弁護士の先輩が呼びかけ人になって下さった。もちろん、意見広告には金がかかるが、全国からのカンパを募る(目標三〇〇万円)。

 ささやかな試みではあるが、世論に水をさす力にはなるかもしれない。幸い国際法に詳しい者がおり、アメリカの戦争行為の違法性についての根拠も明らかになった。

 我々の主張は以下のとおりだ。
  ・アメリカの戦争行為は国際法違反
  ・テロリストは、司法の場で裁け。
  ・日本はアメリカの戦争に加担するな。

 もちろん、今回のテロリストを国際法廷で裁くには、その枠組み作りが必要となるだろう。その作業が困難を極めるであろうことは間違いない。しかし、国際紛争を「法と理性」によって解決する仕組みを作っていくことこそが、不戦条約から国連憲章にいたる、法の進歩なのではないか。「力による解決」は人類の進歩を止め、歴史を逆戻りさせることではないのか。

 さらに、真にテロ撲滅を言うのであれば、国家間の経済的、政治的不平等を解消していかなければならないのではないか。そして、我々法律家は、かかる人類のかかる方向への発展に貢献するべきではないか。

 カンパの連絡先は次のとおりです。団員の皆様のご協力を、どうかお願いします。


「報復戦争・日本の戦争協力に反対する法律家の会」
連絡先 東京駿河台法律事務所内 土井香苗 
電話〇三・五二九六・五五三三/FAX 〇三・五二九六・五五三四Email doi@surugadai.org
呼びかけ人:水島朝穂早稲田大学教授、君島東彦北海学園大学助教授、藤本俊明神奈川大学講師、長尾浩行司法試験塾講師、(以下、弁護士)森川金寿、松井康浩、菊池紘、杉井静子、内田雅敏、上柳敏郎、八尋光秀、藤原真由美、青木護、小島延夫、東澤靖、玉木一成、立松彰、米倉勉、尾林芳匡、村木一郎、小沢年樹

 振込先  東京三菱銀行 神田支店 普通預金口座 1091276
 名 義  報復戦争・日本の戦争協力に反対する法律家の会

 賛同下さる方は申込みのフォームを送りますので川崎合同法律事務所・神原までご連絡ください。
電話〇四四・二一一・〇一二一/FAX〇四四・二一一・〇一二三



再審請求前に証拠保全決定


滋賀支部  玉 木 昌 美


1、日野町事件は、昭和五九年一二月二八日夜以降に発生した酒店の女主人を被害者とする強盗殺人事件である。平成一二年九月二七日上告が棄却され、異議申立ても棄却されて無期懲役が確定したが、被告人とされた阪原さんは一審から無実であると争ってきた冤罪事件である。一審判決は、「その自白内容に従った事実認定ができるほど自白の信用性が高いとは考えられない。」としたものの、その他の情況証拠によって被告人の犯人性が認められるとし、二審判決は「前記間接事実は、それだけでは、被告人と本件犯行とを結びつけるものではない。」としたものの、自白の根幹部分は信用できるとして控訴を棄却した。

2、再審請求に当たり、関西を中心に新たな弁護団を結成する必要が生じた。私が湖東民商ポスター弾圧事件でお世話になり、上告審で加わった伊賀興一団員と二人で個人的なつてを利用して人集めをし、 平成一二年一二月一五日、七名で再審弁護団(団長石川元也団員)を結成した。私と伊賀団員以外の五名は再審段階から参加で、刑事弁護の大家である団長から一年目の若手まで多彩である。早速同年一二月二八日、二九日には弁護団で現地調査を行い、自白調書の内容に従って現場を確認する作業をした。そして、これまで弁護団会議を重ね、論点を再検討してきた。(実は石川団員らの鋭い指摘に旧弁護団の私は毎回針のむしろに置かれる哀れな状況であった。)

3、そして、平成一三年四月二七日、弁護団から大津地方検察庁に対し、確定記録の保存の確認と未提出記録の保管・開示の要請を行った。検察庁からは、確定記録は未提出の記録とともに保管している、証拠物は大津地方裁判所が保管している、未提出記録は開示できない、との回答であった。そこで、大津地方裁判所に対しても、証拠物の保管について確認を行ったところ、事件が確定しているので証拠品還付の手続を始めている、との回答を得た。それゆえ、口頭や文書で還付を止めるように要請した。しかし、被害者の息子から還付の要請を受けているので、このままでは還付手続を進めざるをえない、とのことで証拠保全を請求する必要が生じた。また、死体の鑑定結果についての検討を進める中、再鑑定のためにも滋賀医大に保管されている死体鑑定資料一式を確保する必要が生じた。

 そこで、同年七月一七日、大津地方裁判所に対し、押収された証拠品についての証拠保全の請求をなし、さらに、同年八月二四日滋賀医大に保管されている死体鑑定資料一式について証拠保全請求をなした。大津地方裁判所(安原浩裁判長)は同年九月七日両者について証拠保全決定をなした。再審請求前にこうした決定がなされたことは極めて画期的なことである。

4、証拠保全請求のポイントは、弁護団が一審の死体鑑定について専門医に確認したところ、それが誤りであり、本件被害者の殺害方法について、手で絞め殺したという有罪判決の認定が誤りであることが判明したことである。すなわち、被害者は紐等の索条物によって絞殺された可能性が極めて高い。これは注目すべき新事実である。従って、再審弁護団は殺害方法というもっとも重要な点について新証拠を提出し、自白調書にある殺害方法の誤りを明確にできることになる。再審において専門家による詳細な再鑑定をすれば、手指による扼殺を認定した原判決の誤りが明確になり、自白と犯行が結びつかないことは確実である。

5、弁護団はその他の論点、被告人の精神鑑定の問題、被害金庫の再鑑定、被告人の家庭が事件発生当時、比較的裕福な経済状態にあり、動機が全くなかったこと等についても鋭意検討を重ねている。この一一月には再審請求する予定である。この事件は上告審段階から国民救援会の支援を受けて闘ってきたが、一部マスコミも注目しており、今後とも全国的な支援をお願いしたい。


二〇〇一憲法フェスティバルの報告


東京支部  中 川 重 徳


 さる五月一九日(土)東京の文京シビックホールで開催された「二〇〇一年憲法フェスティバル」の報告をさせていただきます。みなさんご存じ「憲法フェスティバル」は、音楽や演劇、映画、トーク等親しみやすい媒体を使って日本の憲法のすばらしさ・輝きをはば広い市民に実感してもらおうという催しです。今年で一五回目を迎えるそうですが、私は今年はじめて実行委員に参加しました。

 今年の「憲フェス」は、青年劇場演じる、憲フェス版「真珠の首飾り」で幕を開けました。「真珠の首飾り」は、一九四六年二月、GHQ民政局が現憲法の草案を九日間で書き上げたエピソードをもとに、ジェームス三木氏が脚本・演出を手がけた作品です。当日は、青年劇場の特別のご好意で、ハイライト部分のみを特別に上演していただき、時代背景を実行委員会制作のスライドで補い、フィナーレで実行委員会メンバーが「その他大勢」として舞台にあがらせていただく(佇立?)というおまけもつきました。

 青年劇場による演劇の後には、主人公のモデルである、ベアテ・シロタ・ゴードンさんその人と、ジェームス三木さんにトークをしていただきました。ベアテさんは、少女時代を日本ですごし、一九四六年当時弱冠二二歳にしてGHQ内部の起草メンバーに抜擢されました。女性の人権条項や教育の条項を起草し(そこには、非嫡出子に対する差別の禁止等が含まれていた)、GHQ部内でこれらの条項を守るために奮闘し、さらにGHQと日本側との交渉では通訳を務めました。

 ベアテさんは、「世界で一番すぐれた憲法を作ろうと思って夜も寝ないで作業した」「女性の権利は具体的に書いておかないと、日本の政治家たちは男性ばかりだからきっと削除されてしまうと思って涙を流しながらがんばった」等、当時の熱い思いを、ユーモアたっぷりに語ってくれた。また、日本における近時の憲法「改正」の動きについても、「私は外国人だから私の意見は聞かなくてけっこうです。でも、もっと日本の女性たちの声を聞くべきだ」、「日本は憲法の戦争放棄、武力放棄の考えを世界に広げるべきだ」と話してくれました。

 この後、プログラムは、松崎菊也さん(元ザ・ニュースペーパー)の憲法調査会をめぐる辛口のコント、そして趙博さん(ナニワの歌う巨人)、喜納昌吉さんのライブと進み、本当に盛りだくさんの内容でした。

 文京シビックホールは、例年の会場よりキャパが数段大きく、当日になるまで果たしてどれだけの人が来てくれるか心配でしたが、ふたをあけてみると開演前には長蛇の列。結局一〇〇〇人近くの市民が来てくれました。

 私は、当初、日本の憲法がアメリカ人の手によって書かれたという事実に、なんとなくすっきりしないものも感じていました。しかし、実行委員として、資料や青年劇場の上演台本を読み、劇団の人たちの話をきき、スライド作りで当時の写真をあさり(毎日フォトバンクのお世話になった。http://photobank.mainichi.co.jp/)、ベアテさん、三木さんとうちあわせし、ベアテさんの講演会を企画した学生たちの活動にふれるうちに、時代も国籍も飛び越えて、私はベアテさんたちの人生のドラマに心ひかれていきました。同時に、私の中でちょっぴりホコリをかぶっていた憲法の条文が、なんだかとても生気に満ちた存在になった気がします。

 ベアテさんに、憲フェスに来てくれた人へのメッセージを求めると、ちょっと考えた末に、May the 21'st century bring us peace!
と書いてくれました。アメリカのテロ事件以後、暴力と戦争の波がかつてないほどの勢いで押し寄せていることを感じます。ベアテさんのメッセージを現実のものにするために、時代や国境を越えて自分に何ができるかを考えなければと思っています。