<<目次へ 団通信1053号(4月11日)
岡崎 守延 | 研修医の過労死に初の司法判断 | |
二〇〇二年三重五月集会案内A | ||
野澤 裕昭 | 推進計画骨子についての司法改革推進本部に申し入れ(三回目)とその後の動き | |
大久保 賢一 | 政党助成金違憲訴訟の提起 | |
岩田 研二郎 | 府民、事業者を警察の監督下に置く「大阪府安全なまちづくり条例」に反対する | |
小島 周一 | 弁護士自治を巡る議論に寄せて(前) | |
川人 博 木村 晋介 |
北朝鮮拉致疑惑問題 法律家勉強会のご案内 | |
池田 眞規 | 『軍隊を捨てた国』の法律家との対話集会へ参加しませんか? | |
大森 浩一 | 書籍紹介 「憲法の危機」に対峙するエネルギーを補給しましょう −「憲法改正の争点」(渡辺治著)を繙く− |
大阪支部 岡 崎 守 延
一 本年二月二五日に、大阪地方裁判所において、研修医の過労死につき、使用者である関西医科大学に対して損害賠償を命じる、初の司法判断が下されました。
二 本件は、一九九八年六月一日より関西医科大学に研修医として勤務を始めた森大仁(ひろひと)さんが、同年八月一六日の午前〇時頃、過労を原因とする急性心筋梗塞症にて亡くなったことに基づき、遺族であるご両親から使用者である関西医科大学に対して、過労死の損害賠償を求めた事件です。
昨年秋にもご報告したとおり、本件に先立って昨年八月二九日に、同じ事案に関し、最低賃金法に定める賃金に満たない差額賃金の支払、並びに私立学校共済保険への未加入による遺族補償受給権の侵害に対する損害賠償を求めた二つの事件の判決がなされています。
この二つの事件では、研修医の労働者性が最大の争点とされましたが、同裁判所において、研修医を労働者と認める画期的な初の司法判断がなされました。
三 森大仁さんは、一九九八年六月一日より関西医科大学にて勤務を始めてから、午前七時三〇分〜午後一〇時という一日一四時間半にも及ぶ長時間勤務を、連日余儀なくされました。
大仁さんは、平日のみならず、土日も休まず勤務を続け、前記堺支部判決の認定によっても、亡くなる八月一五日までの約二カ月半の間に、実に計三八八時間三〇分もの時間外勤務に就いたことが認められています。この中には、深夜勤務五四時間、休日勤務一二六時間も含まれるという過酷さです。この中で大仁さんは、定期的に夜勤(副直)にも就いていますが、驚くべきことに夜勤明けでも休暇はなく、そのまま午前七時三〇分からの通常勤務に従事し、これによって大仁さんは、実に三八時間半もの連続勤務に再三従事していたのです。大仁さんは、この様な異常な長時間勤務の結果、過労を原因とする急性心筋梗塞症を発症して、勤務開始から僅か二カ月半でなくなりました。医師としての希望と使命に燃えながら僅か二カ月半で死という結果に至ったことは、ご本人は勿論、ご両親ご家族にとって、無念極まりないことでした。
四 裁判で関西医科大学は「研修は教育だから研修医は労働者ではない」と述べましたが、判決は「研修医と被告病院の間には教育的側面があることを加味しても労働契約と同様な指揮命令関係を認めることができる」として改めて労働者としての身分を確認しました。
裁判所が病院の責任を認めた最大の根拠は、やはり何といっても際立った長時間勤務にあります。御存知のとおり、昨年末に厚生労働省より示された労災認定の新基準によれば、「発症一か月前に一〇〇時間を超える残業のあるときは、業務と発症との関連性が強い」とされています。本件では、「発症一か月前」をとっても時間外勤務は一五〇時間に達しており、しかもこの状態が二か月半も続いています。
本件は、この新基準の定める残業時間を遥かに超えており、判決も、この点を業務起因性の最大の要素と見たところです。
五 また、関西医科大学は過失相殺を主張しましたが、判決は、業務の過重さからして「研修医が研修を休んで診察を受けることを期待することは、被告(関西医科大学)が負う安全配慮義務に照らすと、酷にすぎる」として、これも認めませんでした。
六 本件の意義は、ひとり森大仁さんに関する権利の救済という、個別的意義に全く止まりません。
研修医は、程度の差こそあれ、どこの医療機関でも、充分な労働条件が保証されているとは到底言い難く、よって本件は、研修医全体の労働条件の向上に大きく資するものです。
現在、二〇〇四年四月からの研修医制度の改正に向けて、関係機関で議論が続いていますが、本件の判断は、その新制度の内容にも大きく影響することになります。のみならず、このことは医師全体にも共通する問題です。圧倒的多数の医師もまた、研修医と同様に、長時間勤務を始めとする、甚だ過酷な労働条件のもとでの勤務を強いられています。「無給医」などという、一般の社会では凡そ考えられないようなことが、疑問なく実行されています。
本件は、この様な医師全体の労働条件についても、その改善を迫るものです。そしてこのことが、延いては良好な医療水準確保の条件を整えることに繋がります。
本判決は、この様な国民医療の改善にとっても、重要な問題提起を行っていると言えます。
前号団通信(一〇五二・四月一日号)では五月集会の日程のあらましをご案内しました。今号では関連行事、分科会について詳細をご案内します。参加のお申し込みはお早めにお願いいたします。
プレ企画「これからの自由法曹団を考える」
司法改革の大波のなかで、弁護士を取り巻く環境は大きく変わります。その行き先を悲観的にみるか、楽観的にみるかについて大きく意見の分かれるところですが、いずれにしても、新しい事態はいやがおうでも自由法曹団の事務所のあり方、さらには団活動のあり方にも影響を及ぼすでしょう。
ここ五年間、新弁護士から自由法曹団に入団される方は、毎年三〇数名です。合格者数が飛躍的に増加しているなかではこの安定に満足していることはできません。団も後継者問題を本格的・系統的に位置づけて取り組みを開始しなければならない時期と認識しています。
将来に向けての討論テーマとして、@就職受入れ枠の格段の拡大ができるのか、Aロースクール教官に派遣できるのか、B弁護士任官に積極的に取り組めるのか、C弁護士過疎地への派遣をどうするか、Dこれらの挑戦を支える条件として財政問題と確実な後継者の確保の方策、などを想定しています。
このプレ企画はその出発です。支部・事務所での論議開始の機会と論点整理を行い、今後の論議の方向性をつくり、さらに夏の時期に、秋の総会でと討論の積み重ねを予定しています。
大都市部、地方でかなり状況が異なり、討論のかみ合わせに特段の工夫がいるところですが、とりわけ事前の準備が大事です。その準備のひとつとして、国際問題委員会には、米ロースクール調査・大学法学教育に携わっておられる方々からのヒヤリングをもとに提言を準備してもらっています。さらに全支部と九七年以降に入団された方々にアンケート調査をお願いしています。ご協力をお願いします。
定員は特にありませんが、一〇〇名規模の会場を用意しています。皆様の積極的な参加を呼びかけます。
(文責 事務局長 中野直樹)
新人学習会
新人学習会 午後一時〜五時
講演1「ハンセン病訴訟を担当して」国宗直子団員(熊本支部)
講演2「産廃とたたかうー拡大生産者責任の確立をめざして」村田正人団員(三重支部)
新入団員の皆さん、入団二年目の団員の皆さん、五月集会で新人学習会が二年ぶりで開催されます。新人学習会へ是非ご参加ください(また、中堅、ベテラン団員の方も参加は自由です)。一昨年一〇月に弁護士になられた方で新人学習会に参加されていない団員の皆さんにも参加を呼びかけます。
今回の新人学習会の講師をお願いしているのは、熊本支部の国宗直子団員と地元三重支部の村田正人団員です。国宗直子団員は、司法研修所四〇期の中堅団員であり、ハンセン病訴訟での経験を中心として、講演をしていただきます。また、村田正人団員は、同二八期のベテラン団員であり、「産廃とたたかう」との題で、講演をしていただきます。お二方からは、真摯に事件に取り組む中で、お二人が経験したことや感じたことを率直にお話いただく予定です。新人、若手団員の皆さんにとっては、今後弁護士活動を行う上で、大変参考になる貴重なお話を聞くことができると思います。
今回の新人学習会は、従来の弁護士登録直後と異なり、新人団員の皆さんも登録後半年余りの期間が経過する中で開催されます。したがって、講師の方に対する質疑のほかにも、実際に弁護士として、業務に携わってみて、どのような感想を持っているか、弁護士になる前に抱いていたイメージと違う点はないか等々についても、参加者の間で活発に意見交換をしてもらいたいと思います。
とにかく、新人、若手団員の皆さんが参加してよかったと思える学習会を準備したいと考えています。是非ご参加ください。
(文責 事務局次長 柿沼祐三郎)
法律事務所事務局員交流集会
あまりの暖かさに桜も早咲きとなってしまったところも多い今年の春ですが、皆様の地域ではいかがでしょうか。
さて、私たちは「自由法曹団」に所属する弁護士と一緒に働いています。では「自由法曹団」とは果たして何を目指してゆくところなのでしょう。そして、そこに参加する弁護士の下や事務所で働く事務局は何を考え、何をしてゆけばいいのでしょうか。
今年も五月集会の時期を迎えます。この五月集会の事務局員交流集会は、例年全国から新人の方からベテランの方までが揃い、日頃の業務や運動での課題や到達点を話し合うという貴重な場となっています。今年の五月集会はそういうことをじっくりと考え、話し合うことができる場にしようと考えています。全体会では坂本修弁護士(東京支部)から自由法曹団とは何か、団員と事務局員がどんな連帯をしていくのかというテーマの話を伺い、その後、参加した事務局員からいくつかの具体的な活動への取り組みを報告してもらいます。それらをモチーフとして分散会でそれぞれが意見を出し合うという形式を考えています。
五月、初夏の陽射しまぶしい三重の海と山に囲まれつつ、世話人一同、皆様と有意義で楽しい会がもてることを期待して、全国からの多数の参加をお待ちしております。
(文責 法律事務所事務局員交流集会代表世話人 浅野洋輔)
浅井基文・明治学院教授 記念講演のご案内
テーマ「アメリカのアジア戦略と有事法制」演題未定
浅井先生の紹介は特に必要あるまい。学習会や講演会の講師として全国区で奮闘されている。
浅井先生の近著「集団的自衛権と日本国憲法」(集英社新書)はぜひ読まれたい。浅井先生は、「いま、日本は安全保障のあり方そして国家としての進路をめぐって、重大な岐路に立たされています。それにもかかわらず、多くの国民は無関心です。そして保守政治は、国民の無関心をいいことに、自分たちの好きな方向に日本をもっていこうとしている」と危機感をもち、「このことを許している原因を真剣に考える必要がある」ことを力説している。そしてこのままブッシュ政権と小泉政治の自制心のない暴走が続くことを許すと、国際社会と日本は第二次世界大戦後の大局的な方向を根底から変えることになってしまう。二一世紀の安全保障としてこのような道を選択するのか。浅井先生は、日本国民の政治的自覚を正すことを願ってこの本を書き、気迫を込めた講演活動をされている。
有事法制化をつき動かしているアメリカの軍事戦略の奥行きに触れ、どのような視点と座標軸をもって世界と日本の政治状況を転換していく国民的な議論をしていったらよいのか、について豊富な素材をもとにしたお話しをいただく。請うご期待。
(文責 事務局長 中野直樹)
分科会のご案内
一日目分科会
@有事法制・憲法
−有事法制阻止と平和の構築をめざして
政府は、日本の戦争体制を整備する有事法制関連法案を四月中に国会提出し、今国会成立を狙っています。今国会提出予定の有事法制諸法案は武力攻撃事態にとどまらず「周辺事態」にも発動が予定され、地方公共団体や指定公共機関に戦争協力義務を負わせるなど、まさにアメリカの主導する戦争に国民を総動員する「国家総動員体制」をつくる危険極まりない内容です。憲法九条と国民の基本的人権を踏みにじり、日本を再び「戦争をする国」にする有事法制を阻止する闘いは団の存在意義をかけた闘いです。今回の五月集会はまさにそうした闘いのさなかに行われます。今回の分科会では、全国各地での有事法制阻止の闘いの中間総括をしたうえで、今後の闘いについて実践的な討議を尽くしたいと思います。いかにして国民多数とともに広大な闘いを構築していくのか、そのために団は今何をなすべきか、全国の経験を交流し、今後の課題を確認したいと思います。中身の濃い議論とするために、二つの分散会にわけて討議をします。是非、全国各地での旺盛な実践を持ち寄ってください。有事法制阻止の展望を切り開く、活発な討議を尽くしましょう。
(文責 事務局次長 伊藤和子)
A司法改革(1)情勢・労働裁判制度改革
−司法改革をめぐるせめぎあいと私たちの労働裁判制度改革
政府・日弁連・最高裁の各推進計画が三月発表されましたが、「二つの流れのせめぎあい」が益々鮮明になっています。また各検討会も一月以降審議が重ねられています。
司法民主化に関する分科会は、全体の情勢及び労働裁判制度改革に関するもの(一日目)と裁判員・刑事司法及び裁判官制度に関するもの(二日目)の二コマを予定しています。
一日目には、司法改革を巡る全体の情勢につき認識を共通にするとともに、労働裁判制度設計に関する具体的提言を練り上げ、あらためて国民的運動を進める基礎としたいと考えています。
情勢については、労働、司法アクセス(敗訴者負担)、裁判員・刑事司法、法曹制度(裁判官制度改革)等に留意したいと思います。また労働裁判の分野では、第三回検討会(五月一日)で裁判所ヒヤリングが終了し、労働側代理人のヒヤリング(第四回、五月三〇日)直前のこの時期、労働参審、簡易労働訴訟、労働委員会救済命令の司法審査等がどうなるかも注目されます。多数のご参加をお待ちしています。
(文責 事務局次長 山田 泰)
B警察改革
−市民による警察改革と刑事弁護の交流
警察刷新会議による「緊急提言」により、警察の「改革」が形の上で行われたものの警察の抜本的改革にはほど遠いものであった。その結果、警察の不祥事は「改革」以前との比較でも一向に減少する気配がない。また、昨年、情報公開法・情報開示条例が施行され、一定の「情報」が開示されるに至ったが、国民が真に知りたい情報・資料の開示については極めて不十分である。現在、日弁連においても警察問題が真剣に議論されている。
そこで、情報公開条例の施行状況や警察「改革」の現状についての分析を行いつつ、今後のたたかいの方向について討議・交流をしたい。
また、弾圧事件や刑事事件についても、警察捜査の問題点という視点から報告・討議を行いたい。
1 基調報告「警察情報開示の現状について」
2 警察問題についての各地の取組状況と討議
@国民救援会 A神奈川支部 B奈良支部 Cその他
3 弾圧事件・刑事事件における警察捜査の問題点と弁護活動
(文責 事務局次長 大川原 栄)
C金融・貸し手責任
−規制緩和、誤った経済政策から市民・零細業者の利益をいかに守るか
二〇〇一年四月から消費者契約法と金融商品販売法が施行され、一年が経過しました。規制緩和が進み、また金融ビッグバンにより国民の金融資産を投機資金などに取り込む動きが激しくなるなか、一般市民を守るための有効な武器となるはずだった消費者契約法はかなり骨抜きにされ、また横断的な金融サービス法の制定は放棄されて説明義務に限定した金融商品販売法が施行されたわけですが、自己責任の強調が叫ばれるわが国の状況下において消費者被害の激増をくい止めるには心許ない立法であったといわざるをえません。これらの法律が消費者を守る武器となっているとは必ずしも思われません。現実にも高齢者を狙った証券、商品取引の勧誘はあとを絶たず、その被害は増大しています。法施行一年を経過して、その問題点を検証するとともに、不十分な法律ながらもどのようなところを活用できたかの検討も必要になっています。なお、不況に便乗して内職・モニター商法なども蔓延していることから、〇一年六月一日より「特定商取引に関する法律」も施行されており、消費者被害が増大していることを示しています。
他方、不良債権処理政策が進むなか、金融機関による強引な回収、担保権の実行、短期資金の借り換え拒否、突然の融資打ち切りなど小零細業者を破綻においやる事態が進行しています。今、小零細業者はどのような状況におかれているのかを直視し、法的対抗措置としてとり得る手段は何かを検討することが求められています。実際にこのような場面で法的に対抗した団員から報告を受け、経験交流をしたいと思います。
また、不良債権処理のかけ声にあわせるように、担保権実行を容易にするために、短期賃貸借保護制度の廃止も打ち出され、法制審議会で検討が始まりました。しかし、テナントビルなどは賃借人が存在することは建築当初から予定されています。金融機関は賃借人の賃料収入で返済を受けることとして融資計画を立てるわけです。それにもかかわらず、担保権実行となると賃借権は何らの保護もされないというのではあまりに賃借人を無視するものというほかありません。執行妨害的賃貸借を排除することは当然としても、正当な賃借人は保護されるべきです。現状の短期賃貸借保護制度の問題点、担保権と利用権の保護の調整点はどこにあるかなどを検討します。
(文責 市民問題委員会 赤沼康弘)
第二日目分科会
D憲法
−改憲の動きと憲法・平和運動のひろがり
有事法制という憲法九条を換骨奪胎する法制の整備がされようとしているが、一方で憲法の明文改悪に向けた策動も着々と準備されている。この分科会では、そのような、憲法九条の明文改憲に向けた策動を阻止し、憲法九条擁護・平和の取組を前進させるための憲法運動をテーマとしている。そして、この分科会を通じて、各地の憲法運動等について経験交流し、新たな憲法運動の展望を開いていきたい。
報告としては、憲法調査会の動向、憲法改正国民投票法案、パキスタン調査、コスタリカ調査を予定している。その後、五・三中央集会の到達点と課題、各地の取組、基地撤去問題、戦後補償問題、えひめ丸問題等について討議したい。
(文責 事務局次長 馬屋原 潔)
Eリストラ・合理化
−大リストラ時代の到来と職場・地域からの反撃
大企業を中心とした無法なリストラがかつてない規模で進められています。発表されているリストラ計画は、電機を中心にして自動車、情報産業の大手三〇社だけも一六万人、上場企業で五〇万人以上の規模になるといわれます。会社の儲けを増やすために、退職を強要する。分社化を利用して、子会社に転籍させて賃金を下げる。応じない者は、遠隔地へ配転して勤められないようにして辞めさせる。あるいは、できない仕事にかえて自分から辞めさせる。その手法はこれまで私たちが築いてきた労働のルールをことごとく無視する違法、脱法行為です。NTT(国が株式の四六%を保有)のリストラは、それがまさに国策として進められていることを意味しています。
しかし、他方で、こうしたリストラ・合理化に対する職場、地域からの闘いも始まり、反撃の規模もこれまでの枠を超えて大きく広がっています。分科会では、今日のリストラの実態、本質を明らかにするとともに、この間の団員の取り組みの経験交流を図り、さらに、社会の労働ルールの確立のために、団として、何ができるのか、何をすべきかを議論する予定です。
(文責 事務局次長 山崎 徹)
F司法改革(2)裁判員制度・裁判官改革
−裁判員・刑事司法改革と裁判官改革を考える
司法制度改革推進計画が三月一九日に閣議決定され、政府の考える改革の優先順位が明らかになってきました。刑事司法については、裁判員制度、公的弁護制度の導入、刑事裁判の迅速化等の改革が大きな柱になっています。しかし、捜査や取り調べの問題点等には軽視され、座視していては実質的改悪になる危険もはらんでいます。危険性を認識しつつも、この改革の機会を活かし、改革を私たちの側になるべく引きつけたものにするために、議論し、運動を組み立てていく必要があります。
具体的には、@裁判員制度について、どのような制度設計が望まく、何を達成すべきなのか。A刑事裁判の迅速化について現状はどのように動いているのかについて事例報告をもとに確認した上で、迅速化の功罪と今後それにいかに取り組んでいくべきか。B裁判官改革について、何を達成目標としていくのか、などについて議論していこうと思っています。
(文責 事務局次長 井上洋子)
G教育改革
−出席停止・不適格教員・学校週五日制をめぐって
昨年教育三法が成立しましたが、教育基本法改悪問題が急を告げています。分科会では、教育三法成立後の教育現場の現状と教育基本法改悪への取り組みについて討議したいと思います。
分科会の柱は次のとおりです。
@教育三法成立後の教育現場の状況
「指導力不足教員」問題については、各地の深刻な状況があります。他方で「出席停止」問題は状況が複雑であり、実態が掴めていないのが実情です。
これらの状況について、全教本部からご報告をいただきます。
A学校五日制、「三割削減」をめぐって
教育現場の実情について、現場の教師の方からご報告をいただきます。
B教育基本法改悪問題
団では意見書を作成中です。また、運動では一〇〇〇万人署名運動や「二一世紀に教育基本法を生かす会」の発足など、広範な運動が開始されつつあります。
教育基本法改悪反対の取り組みついて討議します。
(文責 教育改革対策本部 黒岩哲彦)
H公害環境
−司法は変えられるか
自然破壊の公共事業を止める環境訴訟の現状と展望
環境を破壊し、無駄な金を使った公共事業に対する批判が広がっています。これをくい止める、住民訴訟、環境訴訟も、おおいに取り組まれていますが、果たして私たちはどこまでこの自然環境を保全する運動を前進させてこれたのでしょうか。海山町原発差し止め住民訴訟や、ジュゴンの保護運動、諫早湾、川辺川など、全国で闘われている自然保護運動・訴訟の現状報告とともに、運動の到達点を確認したいと思います。
また、今取り組まれている司法改革の中では、行政訴訟の改革も重要です。行政訴訟で行政に勝ち、無駄な開発をくい止めるためには、どんな行政訴訟改革が必要なのか、議論したいと思います。
(文責 事務局次長 齋藤園生)
司法民主化推進本部事務局長 野 澤 裕 昭
1 政府は、三月一九日、司法改革推進本部が作成した司法改革推進計画(以下、「推進計画」)を閣議決定した。推進計画は、司法改革推進法第七条に基づくものであるが、その趣旨は三年間の期限のなかで司法改革をどのように進めるかのタイムスケジュールを策定する点にある。
2 ところが、推進計画に先立って公表された推進計画骨子案は、推進「計画」と言いながら計画の範囲を超え、司法制度改革審議会の意見書が提言した項目のなかで法案化するものとしないものとを取捨選択し、改革する項目に優先順位をつけるようなものとなっていた。すなわち、骨子案は、前書きで「司法制度改革に関し政府が講ずべき措置について、その内容、時期、法案の立案などを担当する府省などを明らかにするものである。」とし、「政府は以下の措置を講ずる。」とあたかも改革の内容、法案の立案の要否、時期の策定を決定するような文言が記載されていた。その内容は、最終意見の改革項目に逐一対応させて、@「法案提出」とするもの、A「所要の措置」とするもの、B「必要な場合の所要の措置」とするもの、C「検討」とするもの、Dまったくふれないもの、と五段階に区分けしている。事務局の説明では、Aの「所要の措置」という中には検討の結果法案提出となるものも含まれているというが、@により法案化の可能性は低く、B以下については定かではない。これは三年内に必ず法案化するものとそうでないものとに分け、そうでないもののなかでも何らかの措置を要するとするものとそうでないものとにさらに序列化するものといえる。事務局が主導して推進計画の策定という名の下にこうした改革項目の選別、序列化を行うことは推進法七条の趣旨を逸脱するものであり、事務局主導で検討会の今後の論議にタガをはめる恐れのあるものとなっている。
3 団としては、推進計画が閣議決定される前に意見書を出す必要があると判断し、急遽、第一に、推進計画で改革項目について法案化の要否や優先順位をつけるような記述を削除すること、第二に、推進計画が改革の方向や内容を拘束するものではないことを明記することを要望した意見書を推進本部事務局を通じて、三月七日の顧問会議に提出した(詳細は意見書を参照されたい)。
意見書の提出にあたり推進本部事務局の川原隆司参事官補佐と懇談した(団から、四位、篠原、小賀坂、伊藤、野澤)。
団の意見書に対し、川原氏から、@推進計画は検討会の顧問会議や検討会の論議を拘束するものではない、A法案提出、所要の措置、検討の表現は審議会の最終意見が枠囲い(意見書のなかで四角い枠で囲んだ部分)の中で述べている表現に従っただけで、事務局としては最終意見の枠囲いの部分に従って行なう立場でそれ以上でもそれ以下でもない、B「所要の措置」「検討」とされているものでも今後の論議の結果法案化されるものもありうる、C「所要の措置」と「必要な場合の所要の措置」との違いは、後者は弁護士会、裁判所の改革に関するもので弁護士自治、司法の独立に配慮した表現であり、前者に比べて改革に消極的であるということではないなどと説明した。
申し入れで鮮明になったのは、推進本部は審議会の最終意見書に記載された内容を一歩も出ない、しかも意見書の中で枠で囲まれた部分以外は基本的に手をつけない、ということである。また、「必要な場合の所要の措置」は裁判所の独立に配慮したものというが、弁護士制度改革に比べて裁判官制度改革には消極的ではないかと指摘したところ、川原氏は弁護士制度改革の項目にも同様の表現があり、事実誤認であると強く反発した。しかし、弁護士制度改革にも同様の表現はあるものの、弁護士制度改革には法案提出予定のものがあるのに対し(綱紀懲戒手続きに関するもの、弁護士法七二条、特任検事、副検事等への法曹資格の付与等)、裁判官制度改革には法案化を予定しているものがないなど異なる扱いがなされていることを指摘したが結局並行線であった。
約一時間にわたり懇談を行い(多少口論となる場面もあったが)、今後も意見書など要望書を顧問会議、検討会メンバー全員に配布することを約束させて終了した。
4 その後、三月一二日の法曹制度検討会で、推進本部事務局は推進計画骨子に基づいた「主な検討項目と検討順序」を配布したが、これは検討項目を「第一類型」(平成一五年通常国会法案提出予定)から「第二類型」(平成一五年末までに措置予定)「第三類型」(@日弁連・最高裁における第一次的検討を踏まえて検討し、なお必要な場合に措置、A所要の措置、B所要の検討)、「第四類型」(各府省や他の検討会における検討・措置など)も分けたものであった。第一類型には、弁護士の公務就任の制限・営業許可制について届け出制にする問題、弁護士会による綱紀懲戒手続き問題、弁護士法七二条改正問題、特任検事・副検事・簡裁判事経験者などへの法曹資格の付与問題がこれにあたり、裁判官制度改革に関する問題は第三類型にされている。
「検討順序」との表現はまさに検討項目の序列化であり、団の指摘が正鵠を得ていることを示している。
同検討会では、事務局から「政府の推進計画に盛り込まれているのは、政府による措置のみである。最高裁や日弁連は「政府」すなわち行政の一員ではないので、最高裁が規則や運用等で対応するもの、日弁連が会則や運用等で対応するものは政府の推進計画の外になり、そもそもこの計画には表示されていない。政府の推進計画の中に入ってくるのは、立法による措置があり得る部分だけである。この立法措置の可能性のある分野についても、弁護士自治や司法の独立の観点から、第一次的検討を日弁連や最高裁にお願いすることとしている。
これに対し、検察官は行政に属しているため、立法まで必要ではなく運用で対応する部分についても政府の計画に盛り込まれている。推進本部の主たる任務は法案の立案であり、運用で対応する部分については、所管の府省に基本的にお願いすることになる。検察官制度に関し運用で対応する部分については、法務省にお願いしたということである。 」(以上議事概要より抜粋)との説明がなされている。要するに、裁判官制度、検察官制度について、最高裁、法務省の判断を第一義的なものとし、法務省の検討項目は推進本部の検討事項には必ずしもならないとしている。裁判官、検察官改革は最高裁、法務省にお任せという危険性が多分にあることを示している。
当日の法曹制度検討会では、「検討順序」について異論も出たようで、次回検討順序や各類型の関わりについて討議することになったようである。
労働検討会でも事務局がタイムスケジュールとして検討順序を示したが、高木剛委員などから異論が出て「たたき台」に過ぎないことを明記させたとのことである。
5 推進計画骨子は、三月七日顧問会議で了承され、三月一九日に文章化の上推進計画として閣議決定された。骨子と比べると労働参審制の導入の可能性を示唆した点、裁判官検察官の大幅増員の必要性を明記した点など変化もあったが基本的内容は変わっていない。推進計画の名のものとに検討会が事務局主導で検討範囲や順序を制約される危険があり、これに十分警戒する必要がある。検討会で何を検討させるか自体で「せめぎあい」が展開されている。検討会での検討テーマ、順序などを国民の要求や関心を優先した討議にするように国民の側から働きかけることが非常に重要となっている。
埼玉支部 大 久 保 賢 一
一、三月二八日、埼玉県飯能市周辺の市民一一三人が、政党助成金違憲訴訟を東京地方裁判所に提起した。政党助成法による各政党への交付金の交付は、原告の政治的自己決定権、思想・信条の自由、平等権などを侵害する違憲の制度であるとして、原告一人あたり一七五〇円(法施行以来七年間の交付額一人あたりの負担額)の慰謝料を求める裁判である。原告らは、「小選挙区制・政党助成法の廃止を求める飯能連絡会」のメンバーとして、この七年間運動を継続してきた市民を中心としているが、新たに「政党助成金訴訟の会」を結成して訴訟に臨んでいる。「訴訟の会」の会長は須賀貴団員で、安倍晴彦弁護士も原告になっている。訴え提起のために一年半の準備をしてきた。
二、政党助成金をめぐる裁判は、既に二件あり、いずれも国が勝訴している。これらの裁判での裁判所の判断は、法律の違憲性はその制定過程に一見明らかな違憲性が認められない限り合憲性が推定されるとか、思想・信条の自由なども「対外的には」多数決原理に従うなどという理由で、いずれも原告の請求を退けている。
三、今回の訴訟においては、この裁判所の論理を突破することが求められている。そのために、政党にかかわる立法については、その合憲性の判断は厳格になされるべきであるとか、思想・信条の自由の制約は多数決原理に親しまないなどの議論を展開している。
四、政治と金を巡り国民の間に大きな関心が寄せられているし、政党に対する優遇措置を憲法論のレベルで争いたいと考えている。しかし、東京新聞と赤旗を除いて、マスコミは関心を示していない。
当面、弁護団は上条貞夫団員と松井繁明団員と私だけであるが、三人とも長期戦の覚悟をしている。政党に対する交付金の交付は、私は絶対に嫌だと思っている。これは多数決で決められる事柄ではなく、私の自由な意思によるべきものだと思う。
その単純なことを問い掛けたいのである。全国各地で、同種の訴訟が提起されることを期待したい。また、多くの団員に知恵を貸していただきたいと思う。
大阪支部 岩 田 研 二 郎
大阪府知事は、この三月府議会に、「大阪府安全なまちづくり条例」を提案し、可決成立しました。警察権限を拡大する条例で、大阪府での成立を機に、全国に制定の動きが及ぶ可能性もあります。大阪支部では意見書を作成して、府議会議員へ配布したり、マスコミに公表するなどして、反対しました。
支部意見書では、「相次ぐ警察の不祥事と警察への信頼の失墜」として、「生活の安全確保をすべて警察に頼り、警察権限をつぎつぎに強化拡大していくことで、本当に府民の安全は守れるかが問われている。また情報公開に乏しく、国民の民主的コントロールとはほど遠い警察に、際限なく警察権限を拡大させていって、本当に乱用の危険はないのか不安がある。」と警察権限の拡大に反対する視点を指摘し、条文に即して、つぎのような問題点を指摘しています。
[警察主導のまちづくり−防犯を口実に事業者が警察の監督下に]
一、マンション業者も警察の監督下に−事前相談の義務づけ
条例案は一七条で「知事又は公安委員会は、共同住宅等の整備等に関し、共同住宅を建築しようとする者、設計者その他の者に対し、情報の提供、技術的な助言その他必要な措置を講ずるものとする」として、公安委員会つまり警察からマンション等の建設をする業者に、防犯上の指導をすることができるとしている。
つまり、警察は、マンション業者が自主的に警察に防犯上の整備についての相談をもちかけてこないでも、マンション業者を警察に呼び出して建築図面を提出させて、指導、助言を理由に防犯設備の設置などを指導できることになる。こうなれば、マンション業者は、あとで言われるより事前に自ら警察に建築図面を提出して、相談し、警察のいうとおりに設計変更などをして、お墨付きをもらわなければ建築することができない事態となる。そして警察は、それにより、所轄の地域のマンションなどの情報をすべて手に入れ、またマンション業者を警察の支配下に置くこととなる。
府警本部の原案では、建築情報をすべて警察の網にかけるために、建築確認申請を受けた建築主事に警察署長への通知義務を課することまで検討していたようであるが、ここにも、所轄地域のすべての情報を警察が把握するというねらいが込められている。
二、錠前業者、中古自動車輸出業者は警察の監督下に
条例案二〇条は、ピッキング用具の有償譲渡や方法教授を禁止している。これは罰則付きであるが、これが犯罪の誘因になっているのであれば、本来は国の法律により規制すべきことで、大阪府だけで販売規制しても、兵庫県で購入することができれば、犯罪は防止できない。ピッキングなどによる窃盗犯はプロであり、ピッキング用具の購入を大阪府のみで禁止しても、他県での入手は容易であり、何の意味もない。
同条二項は、錠前業者に、譲渡の相手方についての確認義務を課しているので、これを通じて警察が錠前業者を監督下に置くことを可能にする。現に、府警本部の原案では、錠前業者を警察の登録制にしようと考えていたのであり、規定は変わったものの、警察の意図がそこにあることは変わらない。また公安委員会(警察)が「ピッキングに強い錠前の開発及び普及に資する措置を講ずるよう努める」と規定するが、条例に規定しなければならないようなことではない。これも錠前業界を警察の監督と指導の下に置くための法的根拠を規定したものといわざるをえない。
また条例案二二条は、盗難自動車の不正な輸出を防止するためとして、中古自動車輸出業者に窃盗などの被害車両情報を提供するとともに、業者に対して、その情報にもとづく車両確認義務と盗難自動車の警察への通報義務を課することとしている。
これについても、府警本部の原案では、輸出対象の自動車についての情報を警察署長に届出を義務付ける方法を検討していたようであるが、これにより、古物販売業界と同じく、中古自動車輸出業界も警察の監督下に置かれることとなる。
[公園や乗物での鉄パイプ、ゴルフクラブ、バットなどの携帯規制]
一、不明確な構成要件ー条例が自認する罪刑法定主義違反
−ゴルフクラブとバット、組合の旗ざおを持っているだけで罰則
条例のもうひとつの目玉は、鉄パイプ等の携帯禁止と罰則で、暴走族や不審者対策を理由とする。
条例案一九条は、「何人も、道路、公園、広場、駅、空港、埠頭、興業場、飲食店その他公衆が出入りできる場所や電車、乗合自動車などの乗物において、その本来の用途に従い使用し、運搬する場合その他社会通念上正当な理由があると認められる場合を除いて、鉄パイプ、バット、木刀、ゴルフクラブ、角材その他これらに類する棒状の器具であって公安委員会規則で定めるものを携帯してはならない」と規定し、罰則付き(罰金一〇万円以下)で携帯を禁止する。
しかし、正当な理由という除外規定はきわめて不明確であり、罪刑法定主義に違反する。その判断権は取り締まる警察官に委ねることとなり、労働組合や民主団体の旗ざおも、「棒状の器具」として当然規制対象になり、警察官の干渉の危険がある。また市民が公園や広場で使用するバットやゴルフクラブにも規制が及び、持っているだけで警察官の職務質問にさらされる。
そのために、条例案は、一九条二項で「バット又はゴルフクラブを携帯している者について違反事実があるかどうかの判断を行おうとする場合には特に慎重にしなければならない」と定めたり、三項で「公安委員会は前二項の解釈及び運用に関する基準を定め公表する」と定めたりしているが、これは、一項の規定では、府民に何が許され、何が許されないかが明確でないことを自認している。
この規定の体裁では、携帯は原則禁止で、一部除外という形になっているが、そうすると、府民の携帯行為は原則は条例違反で、除外事由に該当することを府民側から抗弁する必要がある。
これは府民の行動を大きく警察の取締りの網にかけてあとは現場警察官の自由裁量にまかせるという取締り法規であり警察官の恣意的な判断に委ねられており、ゴルフクラブやバットなど日常的に使用される器具を携帯する府民の自由を大きく制限することとなる。
二、他の条例との比較と乱用の危険
他の県などの条例でも、迷惑防止条例などで、鉄パイプ等の携帯について規制する規定が存在するが、いずれも、「突出し、振り回し等公衆に不安又は困惑を覚えさせるような行為」(福岡県迷惑防止条例)、「公衆に対し不安を覚えさせるような仕方での携帯」(兵庫県迷惑防止条例)を禁止するもので、単純な携帯自身を原則禁止する条例は異例で、乱用の危険が高い。
三、態様を限定した規制をーバット、ゴルフクラブは除外するべき
暴走族対策であれば、それに限定できるような態様などに絞るべきであるし、市民が通常使用するバットやゴルフクラブは除外すべきである。
暴走族対策を理由に、府民の生活が警察の監督下に置かれることは危険である。防犯を理由にすべてを規制対象にするのではなく、府民の生活と警察の関係を考慮してバランスの取れた規制、府民が警察の監督下に巻き込まれないような規定をすべきである。
また、本条例は、鉄パイプ等と疑われる物の提示を求める権限、隠されていると疑われる物の開示の権限を警察官に与え、また鉄パイプの一時保管の権限を付与する。これは、銃砲刀剣類所持等取締法の提示、開示、一時保管措置に準拠したものとなっている。
四、この条例が大阪府ではじめて試みられようとしたのは、ひったくり事件が全国一ということや池田小学校事件などで安全への府民の関心が高まっていることもあるが、大阪府では、最近は警察不祥事が表面化していなかったこともある。ところが、府議会での警察常任委員会の審議と委員会採決がされた直後、本会議採決の前日に、市民に恐喝行為を行っていた大阪府警警察官の逮捕が報じられた。
警察不祥事は相次いでおり、「刷新」がなされたとは国民は考えていない。抜本的な警察改革なくして、国民の安全への要求を逆手にとった警察権限の拡大は危険である。
(条例案と意見書を入用の団員にはお送りします。きづがわ共同法律事務所・電話〇六六ー六三三ー七六二一)
神奈川支部 小 島 周 一
一 問題の所在
この間、弁護士自治の問題に関して、団の中でも活発な議論が行われ、また、先日開催された日弁連の臨時総会でも、執行部の綱紀・懲戒制度改革の基本方針に関して厳しい議論が闘わされた。
しかし、この総会に出席して感じたことでもあるが、私が常々感じていたのは、これらの議論において、それぞれの論者が、自分自身の日々の弁護士業務から来る弁護士イメージの中で議論をしているということである。実際に我々弁護士が、弁護士以外の人々(市民と呼んだり人民と呼んだり、あるいは国民と呼んだりすると、それぞれの定義の問題が起きるので、あえてこういう言い方をさせていただく)から、全体としてどのように見られているのか、ということに関する実証的な視点が、必ずしも十分ではないという気がしてならない。しかしこれでは、我々がどのような力関係の中でこの弁護士自治の問題を討議し、方針を立てようとしているのかを見ないままで議論することになりはしないだろうか。また、それとも関連するのだが、例えば日弁連の総会では「執行部案は、執行部が言うように弁護士自治を前進させるものであるのか、それとも反対にこれを後退させるものであるのか」という論点に関して議論され、いわば空中戦になってしまっている嫌いがあった気がする。
しかし「自治」の本質が「外部の干渉を排して、自分のことを自分で決める」というものである以上、今回の日弁連執行部の議案が、「制度的には」自治を後退させるものであることは明らかである。
問題は、執行部提案が制度的に自治を後退させるものであったとしても、今の情勢の中では、この方針の方が、実質的には自治の後退をより少なくくい止められると言えるのかどうか、ということだと思う。もちろん、そのような問題の立て方に対しては、「執行部提案が、制度的に自治を後退させるものであれば、まずもって、そうさせないための運動を組むことがなによりも大切で、それもしないでおいて直ちにこのような方針を提起すること自体敗北主義であり、そのような敗北主義に基づく方針を掲げると、今後も歯止めなく自治を後退させられることになる」という批判を行うことは当然考えられる。しかし問題は、そうさせないための運動を起こせば、規制改革委員会が一昨年に出したような、綱紀・懲戒制度への司法審査権の付与や、外部委員の過半数化と議決権の付与、というような攻撃を現実にくい止め、跳ね返すことのできるような情勢にあるのか否か(またはそのような情勢を運動によって作り出しうる情勢にあるのか否か)ということだと思う。
いずれにしても、今、我々弁護士が、弁護士以外の人々からどのように見られているのかということをできる限り正確に検討することなくしては、ある方針が敗北主義なのか正しい方針なのか、あるいはそれに対する批判が正しい批判なのか玉砕主義なのかということについての検討も不可能であると思う。
しかも、重要なことは、ここで問題となっているのは「自由法曹団員が」どう見られているか、あるいは「私が」どう見られているかではなく「弁護士が」どう見られているかということなのである。私から見ても、この議論に真剣に参加しているような人は、概ね、懲戒請求されるようないい加減な仕事はしていない。しかしそのことは、知らず知らずのうちに「自分の仕事の仕方」を、この問題を考える基準にしている可能性があるということでもある。そうではなくて「弁護士が」どう見られているのかということを正確に見ることなくしては、情勢に正しく対応した議論はできないと思うのだ。
そこで、二〇〇一年度、横浜弁護士会で、担当副会長として、綱紀・懲戒と、市民からの会員弁護士への苦情という二つの問題に直面してきた経験を踏まえて「弁護士以外の人々が弁護士をどう見ているか」という論点からの問題提起をしたいと思う。もちろんそれも、その意味での限定された経験だが。なお、これからは面倒なので「弁護士以外の人々」のことを便宜「市民」と呼ばせていただく。
二 市民からの苦情・懲戒申立とその意味するもの
1 苦情の増加とその内容
横浜弁護士会会員の弁護士活動に関して、横浜弁護士会に寄せられる市民からの苦情申し出件数は、ここ数年、大幅な増加傾向にある。具体的には、一九九六年度には一八〇件強であった苦情が、一九九九年度には約四〇〇件、二〇〇一年度には約五〇〇件である。即ち、一九九六年度から二〇〇一年度までの五年間で、苦情申立件数は実に三倍近くにまで増加している。
では、どのような人が苦情申出人であるのか。私が副会長をしていた二〇〇一年四月一日から、年度途中であるが同年一一月下旬までの申立約三三〇件をもとに分類してみると、依頼人からの苦情と相手方からの苦情が概ね二対一であった。つまり、依頼者からの苦情の方が圧倒的に多いのである。
次に、苦情の内容であるが、これも同期間の約三三〇件で見てみると、事件処理の不満に関するものが半数近くを占め(約一五〇件)、それよりも少し少ないが対応の不満(言葉遣いが悪いなど)がそれに続く(約一二〇件)。報酬関連の不満も約五〇件ある。
では、このような苦情を申し立てられる対象弁護士にはどのような特徴があるのであろうか。逆に言えば、苦情を申し立てられるような弁護士は、弁護士同士で見ても、その事件処理に問題がある弁護士なのかということである。これについていうと、苦情を申し立てられた弁護士のうち、一回だけ苦情を申し立てられた弁護士と二回苦情が来た弁護士を合わせると、苦情を申し立てられた弁護士全体の八割を超える。つまり、特定の「札付き弁護士」だけが苦情の対象となっているわけではないのである。
この苦情の内容であるが、特に一回・二回しか苦情を申し立てられていない弁護士に関しては、そのほとんどが、弁護士業務に対する誤解乃至理解不足に基づくか、あるいは対象となった弁護士とのコミュニケーション不足に基づくものである。つまり、それ自体を取り上げて懲戒問題に発展するようなものはほとんどない。しかしいずれにせよ、苦情を申し立てられるリスクを負っているのは、いわゆる問題のある弁護士に限らなくなっている現状が、この数字からも明らかである。
2 懲戒申立の増加とその内容
この傾向は苦情申立だけではない。懲戒申立件数に関しても、この五年間で、やはりほぼ同様の三倍近い増加率を示している。
また、懲戒申立を行うのは、事件の相手方がかなりの割合を占めており、横浜弁護士会の場合は、そのほとんど全てがいわゆる普通の市民や会社である。少なくとも「事件屋」や「暴力団」による、ためにする懲戒は非常に少ない。
では、苦情の増加と相俟って、また、懲戒申立の増加と相俟って、弁護士の業務の質が、この五年で三倍も悪くなったのであろうか。
これに関していうと、横浜弁護士会の場合でも、懲戒の議決がなされた件数は、この五年間で特に増加してはいない。年間二〜三件程度で、非常に少ない数で推移している(〇件の年もある)。その意味では、弁護士の職務の質は、特に落ちているわけではないということができるし、それは私の実感でもある。
3 苦情、懲戒申立増加の意味するもの
弁護士業務の質が特に悪くなったわけでもないとすると、特に問題はなく、それだけで直ちに「綱紀・懲戒制度を変えなければならないような立法事実はない」としてよいのか。
しかし私は、弁護士の業務の質自体は変わっていないにもかかわらず、どうして苦情が増え、懲戒申立が増えたのか、まさにその部分を分析・検討する必要があると思う。
私が、苦情及び綱紀・懲戒の担当副会長としてこの一年間仕事をして最も感じたのは、市民の弁護士に対する意識が急激に変化してきているということである。極端に言えば「原則信頼」から「原則不信」にぶれてきているのではないかと思うくらい、市民の弁護士一般に対する目は厳しくなってきている。その背景には、もちろん、提携弁護士問題や、依頼者から預かった金を横領するようなとんでもない弁護士の存在があるのであるが、これに対する見方も極端に言えば「例外的なほんの一部の弁護士」というものから「ひょっとしたら氷山の一角かも」というものに変わってきていることを感じる。
弁護士会が行う懲戒処分に対しても、「結局仲間内でかばっていて、かばいきれないものについてしょうがないからこうして懲戒しているのではないか」という不信の目を、役員をしていると切実に感じる。懲戒不相当という結果が当然と思われる懲戒請求について、「そうやって仲間だからかばうのだろう」という抗議の手紙やはがきを送られることもまれではない。
しかも、大蔵省の不祥事や外務省の不祥事など、社会的に権威があり、偉そうにしているところでも、実は裏では汚いことをしているではないかという風潮が、そのような「弁護士への疑いの目」を一層助長している。
そしてそれを弁護士自治を奪おうと何十年にも亘って狙ってきた勢力は、作りだし、助長し、かつまた利用している。それらが苦情件数の増加や懲戒申立の増加に表れていると思うのだ。(続く)
東京支部 川 人 博
東京支部 木 村 晋 介
ご存知のとおり、行方不明中の有本恵子さんの拉致をめぐる新証言も出て、北朝鮮の拉致疑惑問題をめぐる情勢は、一層重大になってきています。
北朝鮮拉致疑惑問題に関しては、一九九八年一一月に横田滋さんが日弁連人権擁護委員会に人権救済の申立を行い、二〇〇〇年三月に日弁連より政府・外務省に対して要望書が出されました。しかしながら、全体として見れば、この問題を重大な人権侵害問題ととらえ取り組みをおこなう点で、弁護士の活動は弱いと言わざるを得ません。こうした反省を踏まえて、後記のとおり、横田滋さんにお越しいただき、有志の勉強会をおこない、あわせて、この問題での法律家のとりくみについて意見交換をおこないたいと存じます。
日頃人権問題に携わっている多くの方々や若い皆様方のご参加を期待しております(今回参加できる方および将来参加の可能性がある方は、FAXのご返信をお願い致します。FAX 〇三・三八一三・六九〇二 川人法律事務所)。
日時 四月一七日(水) 午後六時半〜八時半
会場 弁護士会館五階五〇八A号
内容・北朝鮮拉致疑惑問題の被害者の活動 横田滋さん
・同問題に関する有識者・ジャーナリストの話(要請中)
・法律家のとりくみについて
東京支部 池 田 眞 規
五月の憲法記念日に向けた各地での取り組みにあわせ、コスタリカという『軍隊を捨てた国』から法律家のカルロス・ヴァルガス教授を日本に招く準備を進めています。(文末来日予定参照)
「なぜ、コスタリカのような小さな国が軍隊なしでやっていけるのか?答えは簡単だ。民主主義をうまく実践してきたからだ」(週刊金曜日2/20)と語るヴァルガス教授。
ブッシュ政権のいいなりに有事法制の方向へ邁進する小泉政権のもとで暮らす日本国民にとって、中米の紛争地域にありながら、常備軍を廃止し、平和を確立・維持している小国コスタリカから学ぶことはあまりにも多く、深い。
私は一昨年初めてコスタリカに行ってきました。そこで、五二年前、軍隊の廃止を宣言した元大統領の夫人から「コスタリカでは軍隊は要らない、という考え方を共有しております」といきなり語りかけられて先ず強烈な衝撃をうけました。そして、今年も行って、ご自慢の大統領選挙を見てきました。
この国で一番大事なことは教育です。軍隊を捨てて余った予算を教育と福祉に当てた。教育の方針は、意見や利害が対立したら「対話」で解決すること、暴力で解決してはならない、ということを子供のときから教えこむ。軍隊を捨てることは、民主主義を実現することです。民主主義は「すべての人の命を大事にすること」です。だから戦争や軍隊は民主主義ではない。民主主義の実現のために重要なことは選挙だから、世界で最も進んだ選挙制度を作りました。それは選挙を管理する最高裁判所を創設しました。これで選挙には行政、司法、立法の三権からも干渉できなくなりました。完全比例代表制で選挙運動の規制は殆どありません。投票日でも投票所のある学校の校庭で個人が自分の支持政党への投票を呼びかけることは、「表現の自由」なので規制しません。大統領選挙・国会議員選挙は全国的な「お祭り」です。子どもも独自に選挙運動に参加します。投票日の投票所の周辺は、身動きができない程の「お祭り」騒ぎです。これに比べると、日本の選挙は 国民の表現の自由を葬る「お葬式」です。自由な市民が強くなれば、政府は民主主義の政府になります。ヴァルガス教授との対話集会に多くの団員が参加されますようにお誘い申し上げます。
カルロス・ヴァルガス氏(コスタリカ国際法律大学教授、国際反核法律家協会副会長)来日日程
@五月二日(木)18:30〜 さいたま憲法集会・講演と映画の夕べ
「憲法九条・世界にはばたけ!コスタリカ」埼玉憲法会議主催
さいたま市民会館浦和大ホール(旧浦和市民会館)
ヴァルガス氏の講演と映画「軍隊をすてた国」(参加費千円)
A五月三日(金)13:00〜15:00 東京『憲法集会』
ヴァルガス氏の一〇分間の特別スピーチ 東京日比谷公会堂
B五月四日(土)13:30〜16:00 山形県憲法会議主催
『軍隊をすてた国、平和憲法五〇年のコスタリカに学ぼう』
会場 遊学館(山形市緑町一)/参加費五〇〇円
C五月六日(月)『「軍隊をすてた国」を見てコスタリカのお話を聞く会』
東京オリンピック記念青少年総合センター(代々木公園オリンピック選手宿舎跡)
13:00 〜15:00 講演 早乙女勝元・早乙女愛と映画「軍隊をすてた国」
15:30 〜17:30 ヴァルガス氏の講演と市民の対話
18:00 〜20:30 ヴァルガス氏を囲む懇親会
*参加費一三〇〇円、懇親会費二〇〇〇円
D五月七日(火)東京・法律家五団体との対話集会(予定)
15:00 〜17:00 日本反核法律家協会理事会(協会事務所)ヴァルガス氏の挨拶
17:00 〜19:00 法律家五団体とヴァルガス氏との法律家との対話集会
会場 プラザ・エフ(旧主婦会館)JR四谷駅麹町出口駅前
19:00〜21:00 法律家五団体の歓迎夕食会(〃)
法律家五団体=自由法曹団・日民協・国法協・青法協・反核法協
E五月八日(水)京都又は大阪にて「ヴァルガス氏との対話集会」 時間・会場調整中
F五月九日(木)大阪又は京都にて「ヴァルガス氏との対話集会」
時間・会場調整中
G五月一〇日(金)18:00〜20:30 一橋大学教職員組合憲法集会
H五月一一日(土)18:00〜長野県AALA連帯主催『憲法集会』
ヴァルガス講演と映画「コスタリカ」
東京支部 大 森 浩 一
今、渡辺治教授(一橋大)の活躍がめざましい。「乱世」ともいうべき混迷した時代状況を鮮やかに読み解き、誰よりもわかりやすく語りきる論旨の明快さは、他の追随を許さない。とりわけ、この国の権力構造と経済構造のあり方に向ける氏の鋭い視線は、軍事大国化と新自由主義改革を指向する権力者の焦燥と欲望を見事にあぶりだす数々の労作を生み出している。九〇年代以降における団内の情勢認識は「渡辺説」に負うところ大なりと言っても過言でないであろう。「乱世」に映える研究者が、当面する最大の政治的対決点に真正面から挑んだのが表題の「憲法改正の争点」(旬報社刊・三八〇〇円)である。一昨年の憲法調査会の始動以来、「憲法改正」に関わる書物が多数出版されるようになっているが、氏の最新刊には際だった特色がある。この書物のサブタイトルに『資料で読む改憲論の歴史』とあるように、改憲論の現在と過去をパースペクティヴに把握するために極めて有益な言説・法令等が網羅されていることである。これは、氏が「憲法改正」問題に関わるあまたの講演依頼をこなす過程で、「今何故憲法改正なのか?」というテーマにいかに斬り込むかという格闘の所産として形作られたというべきものであろう。収録された資料の前段に付されている短文のコメント(その背景に膨大な情報量の存在が垣間見える)が驚くほど秀逸である。改憲論のエッセンスをあますことなく紹介することによって、かえって日本国憲法の生命力を際だたせる「渡辺流」は巧みというほかない。この書物の野心的なねらいは、おそらく、改憲論に対峙する「憲法の語り部」を民衆の中から続々と生みだそうということにあるのではないか。明文改憲をめぐる前哨戦ともいうべき有事法制阻止の課題に向き合う私たち団員には必須アイテムであることは疑いない(とりわけ、学習会の講師を担う団員には準備時間の大幅な短縮という副産物も得られるであろう)。
去る三月二七日、団東京支部が関わる第二期東京憲法スクールの掉尾を飾る講座(「憲法を生かした二一世紀の日本」)が開かれた。メイン講師は、戦後を代表する論客たる上田耕一郎氏。熱弁をふるう上耕さんが演壇でしばしば手にとっていたのが唯一この書物であった。むべなるかなである。