自由法曹団通信:1056号        

<<目次へ 団通信1056号(5月11日)


篠原 義仁 全国すべての地方自治体に対して 有事法制反対を求める要請活動を
伊藤 和子 四・一八有事法制に反対する 国会要請行動のご報告
中野 直樹 五月集会プレ企画「これからの団を考える」に向けて(上)
高森 裕司 民主的法律家養成問題を考える
山田 泰 個人情報保護法案には反対だ
齋藤 園生 五・二二司法総行動に参加を
萩尾 健太 重大局面となった国鉄問題への対応を!
大川原 栄 第一二回「裁判勝利をめざす全国交流集会」の報告
宇賀神 直 書評 リストラ、合理化との闘いに強くなる本「暴走するリストラと労働のル―ル」坂本修団員著
井上 正美
藤原 真由美
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全国すべての地方自治体に対して
有事法制反対を求める要請活動を


幹事長  篠 原 義 仁


1 地方自治を破壊する有事法制

 四月二六日、有事法制関連三法案(武力攻撃事態法案、安全保障会議設置法「改正」案、自衛隊法「改正」案)が審議入りし、今国会成立に向けての動きが強められています。

 しかし、これらの法案は、自衛隊や米軍支援のために様々な法律の規制を取り外すとともに、国民や地方自治体を動員しようとするものです。土地・建物の収用や物資の保管、労働者の動員の命令は、当然自治体に及びます。

 武力攻撃事態法案は、地方公共団体が「武力攻撃事態への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する」としています(五条)。内閣総理大臣の指示や防衛庁長官の要請に従って活動することを義務づけるものです。自治体がこの指示を拒否すれば、内閣総理大臣等の直接執行も可能とするのです(一五条)。しかも、「対処措置」を進めるために、自衛隊の方面隊や師団の幹部らが対策本部職員として、その調整や要請を担当することになり、主導的役割を果たすことになるでしょう。自衛隊が地方自治体の組織や施策に関与し、あるいは影響を与える状況が想定されます。しかも、自衛隊法「改正」案では、道路、公園、河川・海岸・港湾などについての自治体の管理権を無視して、自衛隊の部隊が道路の補修工事を行い、陣地の構築、樹木の伐採や施設の建築工事などを進めることができるようにしています。

 結局、軍事が最優先され、住民の生活や権利が犠牲にされ、住民の安全や福祉、環境を守るべき地方自治体の役割や職員の仕事が無視されることとなります。自治体の自主性が奪われ、憲法の定める地方自治の本旨がないがしろにされ、自治体の機能は破壊されます。

 住民や職員はもとより自治体を運営する立場からも、到底看過することのできない問題です。

2 全国各地から自治体に要請を

 地方自治体から「異議あり」の声をあげていくことは、法案成立を許さない大きな力となると思います。すでに東京都小金井市・国立市、秋田県稲川町・東成瀬村、岩手県北上市等の地方議会で、反対ないし慎重審議を求める意見が採択されています。

 自由法曹団各支部・県において、都道府県内すべての自治体に対して、各首長の態度表明と地方議会での決議を求める活動に、ぜひ取り組んで下さい。

 自由法曹団本部から自治体あての自治体宛要請書及び意見書「地方自治を破壊する有事法制関連法案の重大な問題点」(一体のもの、八頁)を、各支部・県にお送りしています。全国の自治体で予定されている六月議会での審議に間に合うように、遅くとも五月中に送付ないし要請して下さい。

 なお、この取り組みは、自由法曹団支部ないし法律事務所・弁護士として各自治体に直接送付していただいても結構ですし、法律家や関係諸団体とともに取り組んでいただいても結構です。

 全国各地の自治体から「有事法制に異議あり」の声を大きく広げましょう。


四・一八有事法制に反対する
国会要請行動のご報告


担当事務局次長  伊 藤 和 子


 四月一六日、有事法制関連三法案が国会提出され、GW明けから実質審議に入ろうとしている。団では、法案提出直後の四月一八日、早速国会要請行動を行なった。この日までに「有事法制阻止闘争本部」は三法案を分析・批判した意見書「戦争動員法に反対する」を完成、これを武器に衆院の関連委員会所属議員六〇名に要請を行った。「是非大勢で要請しよう!」の呼びかけに、三九名(弁護士二八、事務局九、東京革新懇一、他一)が参加、関東近県中心であったが、京都からわざわざ小笠原団員が参加された。五三、五四期の団員が八名も参加し、にぎやかな要請行動であった。

 有事関連三法案は、有事法制発動の要件たる「武力攻撃事態」が極めて広範、「対処措置」は無限定、自治体・指定公共機関に戦争協力義務を負わせ、国民にも協力の「努力義務」を課し、刑罰の威嚇で協力をさせ、今後二年間で戦争法制を完成させていくという、まさに日本を「戦時国家体制」に導く法律である。団の申入れに対する応対は秘書が中心であったが、様々な反応があった。

 民主党は、「全議員が有事法制の勉強会に参加している。党内で意見が割れており、まだまとまらない」「党内で連日議論している。」等という反応が多数を占めた。個別には「私は戦争反対の立場だ」「団と立場は同じ。努力することを約束する」との心強い(?!)意見や、「この法案はアメリカの圧力ではないのか」という意見もあった。

 私が要請に行った民主党有力議員の秘書は「法案についてはまだ詳しく検討していないのでまだ賛否はいえない」と言いながら、「しかし民主党としては審議入りに応じない考えだ」と言う。意外な反応だったので「何故ですか」と聞くと、「それは当然でしょう。これだけの疑惑があってひどい事態なのだから。疑惑の真相解明もないまま有事法案の審議入りなど応じられない」という。法案の問題点を指摘したところ「でも、一説には一〇日で法案を成立させるという噂もあるんです。永田町の噂は結構あたるんです。これだけ国民の権利義務に関わる法律なのに、一〇日で審議するなどとんでもない。本来二年くらいかけてじっくり議論すべき法案でしょう。疑惑の解明をせずに国民の権利だけ制限するなんて無茶苦茶だ」と言い、「出来る限り審議入り拒否でがんばります」と言う。由々しき噂が耳に入ったわけであるが、この「疑惑の真相解明なきまま、ろくな審議もしないで今国会で有事法制をゴリ押しするのは反対」という一致点であれば、野党共闘ができ、国民的規模の広範な世論となりうるのではないか、と思った。民主党への要請は今後とも重要である。注目すべきは公明党。法案への態度については「党内で意見が割れている」という共通した回答があり、「あちら(創価学会)は八割反対ではないか」等の発言も見られ、党内や学会との矛盾に揺れている様子が窺える。さらに自民党のある議員秘書まで、要請した団員に「本当に大変な法律ですね、戦争することになっちゃうんですね」と感想を漏らしたという。とにかく、与党内にも三法案に相当の違和感があるようだ。矛盾を正確に突き、世論を作れば、今国会成立を阻止しうる展望は十分あると思う。

 今回議員本人に面会したのは高村正彦(自民・法案賛成)、東門美津子(社民・法案反対)の両議員だけだったが、今後の要請では出来る限り議員本人との対話を追求し、秘書とももっと話しこむことが必要であろう。若手弁護士からは「次回は本会議の日を避けて、議員本人に要請しよう」「次回は、自分の出身地の議員のところに要請に行きたい。地元出身弁護士だと言えばむげに断らないと思う」という意見が出されており、今後の要請はもっと改善し工夫した要請にする予定である。

 次回国会要請は五月一四日午後一時〜五時である。特別委員会の委員だけでなく、民主党・公明党の議員に力点を置いて出来るだけ多くの議員に要請する予定である。今後とも是非全国から多くの団員に「国会攻め」に参加していただきたい。


五月集会プレ企画
「これからの団を考える」に向けて(上)


事務局長  中 野 直 樹


 来る五月集会で表題のテーマでの集まりを呼びかけている。四月末時点で約八〇名の参加申し込みがある。

 四月一一日付け団通信の企画案内でも書いたとおり、このプレ企画は支部・事務所での論議開始の機会と論点整理の場として位置づけ、今後の論議と実践の方向性がつくれればと考えている。その上で、夏の時期に、さらに秋の総会で討論の積み重ねを予定している。もちろん時期に応じて煮詰まったことは適宜実践に移して行きたい。

 これまでの準備は執行部と国際問題委員会で行い、次の素材を提供する予定である。

1 ロースクール調査
(1) アメリカ・ロースクール訪問による調査報告書
(2) ニューヨーク州弁護士からの聴き取り
(3) 早稲田宮沢教授、立命館大学法学部、九大大出教授、塚原団員からの聴き取り
2 大学での人権ゼミの実践ー川人団員からの聴き取り
3 民医連における後継者対策の聴き取り
4 全国の支部と集団事務所に対するアンケート調査集計
  (回答数 五三)
5 一九九七年以降に入団した団員に対するアンケート調査集計
  (回答数 八七)

 すでに、鈴木亜英団員が三月一日および五月一日号の団通信で、「ロースクール時代を迎え、団の後継者養成はどうあるべきか」との問題提起を行っている。

 九七年以降の新入団員数は、四九期二九人、五〇期三一人、五一期三一人、五二期三一人、五三期三二人、五四期三六人、それに四八期以前の方九人を加え、一九九人である。このほかに入団されたが所属事務所の変更等を機に退団した弁護士が若干名いる。

 支部別に分けると、東京が四七人(二三%)、大阪二四人(一二%)、福岡二一人(一〇%)、神奈川一三人、愛知・奈良・兵庫九人、埼玉・千葉・京都六名、北海道五名、宮城・群馬・新潟四名・・となっている。

 大都市部をかかえた支部に偏っていることが顕著である。地方では奈良が目立って多い。東京は四九期から五二期まで五〜六名であったが、五三期一二名(三七%)、五四期一〇名(二七%)と格段に増えている。合格者増と修習期間の短縮が就職決定時期を早めており、そのことが一因となっているのだろうか。アンケートで地方支部から、有望な修習生が実務修習に配属されたと喜んでいたら、すでに関東の事務所に就職が決まっていたとか、全然情報が来ないとの悲痛な声が出されている。古くて新しい問題であろうが、二〇年前に比べ新入団員減少のなかで首都圏と地方の格差が一層開いていると思われる。ここ五年間新入団員がゼロの支部は、青森、秋田、山形、栃木、岐阜、三重、島根、鳥取、香川、高知、宮崎、長崎、佐賀の一三である。

 九七年以降の新入団員八七名からアンケートへのご協力をいただいた。感謝します。

 自由法曹団を学生時代に知った人二三名、受験中に知った人一四名に対し、修習中に知ったと回答した人は三二名である。きっかけは、先輩弁護士からとの回答が四一名でだんとつに多く、次いで事務所訪問一五名である。弁護士をめざした動機の中に団と団員の活動のイメージがあったかどうかという質問について、ないとの回答は五〇名である。しかし、学生・修習生の時代に団員弁護士から話をきいたことがある人は六六名で、ここが接点となり、団員の事務所への就職訪問に連なっているのであろう。他方、学生・修習生時代に団員との接点がなかったとの回答も一五名あった。

 入団した経緯については、元々考えていた方が三四名(うち五四期が一一名)に対し、団員の事務所に就職したからとの回答が四一名であった。

 団と団員をつなぐ団通信については毎号読んでいる方が三三名、時折読んでいる方が四七名、あまり読んでいない方が三名であった。

 団が学生時代・修習生時代にどのような形で接する機会をもつことが必要だと考えるかとの質問には、たくさんの意見をいただき、さらに「自由法曹団への招待」についても多様な意見が寄せられた。これらはプレ企画の貴重な素材である。


民主的法律家養成問題を考える


愛知支部  高 森 裕 司


 五月集会のプレ企画「これからの自由法曹団を考える」に向けたアンケートの回答に際し、思いつくままに書いた拙稿を同封した。それを読んでいただいた団本部より団通信に掲載していただく機会を与えていただいた。以下はその拙稿である。

 団は存亡の危機にある。以下は、愛知支部の団議案書で私が担当した原稿の一部である。

 支部活動の方針として、以上述べてきたことのどれよりも重要なのが新入団員の確保の問題である。これは、「長期的な視点で見た、努力すべき課題」といった悠長なことを言っていられない段階に来ている。すでに愛知支部では五二期・五三期の新入団員がなく、今年は久しぶりに五四期一名の入団見込みがあるものの、新人確保は深刻な状況にある。これまで支部が取り組んできた活動・闘争も、新人が入らなければ、発展が望めないばかりか全部過去の出来事として消滅してしまう。新入団員の確保の問題は、「差し迫った緊急の、団の生命に関わる課題」なのである。

 すでに愛知支部では次期事務局長の人選に困っている状態である。中心となって活動するような人材が四〇期台で断絶しているのである。これは組織として大問題である。後継者問題を本格的・系統的に位置づけて取り組みを「開始しなければならない時期」などもうとっくの昔に過ぎ去った。

 とはいえ、後ろ向きの議論をしていても仕方ない。私の結論も、決して暗いものではなく、未来は明るいと言いたいことにある。

 ここ数年、入団者が毎年三〇数名いるという。この三〇数名というのを聞いて、後継者問題に何の関心もない人は、「そんなに少ないのか。俺たちの頃は・・・」などとノスタルジックに語り出す。しかし、三〇数名というのは立派な数字である。

 今の修習生は研修所の統制がかなり厳しい(青法協青年法律家号外「司法研修所の現状を告発する」)。クラ連は実質的に当局によって解体されて自治組織を持てず、夕方五時すぎまで当局に時間を拘束され、起案に追われる毎日である。そんな中、団に入団する三〇数名は貴重な存在なのである。これだけの人数が入団しているのは、青法協のプレ研修企画の功績が大きい。青法協では、数年前から、合格者に向けて事務所研修を行っており、合格者に会員の日々の取り組みを直に感じ取ってもらっている。

 もっともこれが成功しているのは、そもそも青法協の会員活動にシンパシーを感じてくれる合格者がいるからである。右も左もわからない合格者のうちに関わりをもてば会員になってくれるなどという簡単なものでは全くない(そのような組織・集団は危ないだけである)。もともと青法協会員にシンパシーを感じられる人がいて、青法協から合格者に積極的にアプローチすることで、意識はあっても組織嫌いから会員となることを敬遠しがちな人、まだそのような意識に自分自身気づいていない人に、当事者・現場を見て生の事実を知ってもらい、素朴な怒りや感動を共感する機会を提供し、共感できる人に、会員となることの偏見を取り除いているだけのことである。同じように、本来であれば、団に入団すべき人、入団して欲しい人、団に入団していなくても団員と同じスピリッツをもっている人は大勢いると信じている。そのような人たちを団員として迎え入れ、共に闘う仲間を集めることに意味がある。

 もう少し大学生・受験生・合格者・修習生の話をする。

 私は昨年一年間で、五〇日以上、受験生・合格者・修習生と各種企画で接し、また個人的な懇談をもつ機会があった。それぞれに個性あふれる魅力的な人物であり、一般化・抽象化することは余り好きではないが、個人的な感想として言えば、今の受験生・合格者・修習生には以下のような傾向が見られる。

 「組織離れ」「組織嫌い」と言われて久しいが正にそのとおりである。組織というと政治色が出てしまい、政党離れ、政党嫌いという今の情勢が率直に表れてしまう。署名、デモ、街頭宣伝に対する冷めた目と警戒心、自衛隊、天皇制、「公」を抵抗感なく受け止めてしまう保守的思考、さらに民主的勢力に対する「反対のための反対」というレッテル貼りに妙に納得してしまう面もある。

 反面、DV、犯罪被害者、児童虐待の問題に関心をもって熱心に取り組んだり、現場・当事者と接したときに純粋な正義感を抱くことができる。また「テロ、報復戦争反対」という大きな枠組みでは比較的容易に一致できる。

 ここ数年入団している三〇数名の人たちは、その中でも仲間と共にその正義感をもっと多くの人と共感するため、楽しく明るく積極的に活動する意識のある人たちである。五五期の青法協修習生部会は、一月集会に、会員の五倍以上の人を集めた。私が「未来は明るい」と言う根拠はここにある。

 ただし、そのような修習生がやりたいことをもっとやるには、やはりもう少し仲間は欲しい。人数が多ければ、それだけもっと活動は拡がる。

 もとより、これまで少なからぬ団員が個人的に新入団員確保のため努力してきたことは事実である。しかし、既に述べた現状からすれば、団員個々の努力だけでは限界がある。

 幸い当局の統制が強化されても柔軟な発想をもった元気な修習生も少なからず存在し、また組織には抵抗があっても人権課題に興味のある修習生も意外に多く存在する。これらの修習生にこちらから積極的にアプローチしていかなければならない。

 これまで余りに後継者問題に無関心だった団が、遅ればせながらこのようなアンケートや企画を立てたこと自体は非常にすばらしい。まずは団員が現状をしっかり認識し、このような取り組みの必要性を実感することから始まると思う。

 次には、大学生、受験生を対象に、団というより団員が関わっている事件についてもっとよく知ってもらう機会を持つことである。

 そして、その「機会を持つ」ことについて、一方ではより具体的に構想を練ることが必要であるが、他方では出来ることからまずやっていくフットワークの軽さが大事である。

 愛知では、青法協でプレ研修、修習生企画などをやりつつ、他方で大学生・受験生・合格者・修習生を集めて不定期に当事者の話を聞いたり現場に行くという企画、「憲法フィールドワーク」を実施しており、最近では毎回二〇名以上の参加者がある。さらには青法協以外の各団体でも修習生向けの企画をしたり、受験団体ともつながりを持っている。まだまだ不十分ではあるがそれらを通じて団員の人権課題への取り組みを積極的に提示する試みをしている。ただ、「企画」をわざわざ立てなければならないものではない。大学生や修習生と会う機会にメールアドレスの入った名刺を渡し少し話をすれば向こうから連絡をくれる場合もある。大学生や修習生のメールアドレスまで聞いておけばこちらからいろいろな機会に誘うこともできる。修習指導担当をしている弁護士なら修習生と食事をする機会に他の修習生を誘えばそれだけで立派な後継者養成対策である。

 また、ベテラン・中堅団員と若手団員(というと語弊があるが)の連携、たとえば、ベテラン・中堅団員が、若手団員の企画に講師として参加したり、財政面で支援したりすることは重要である。我々若手団員は大学生や修習生とつながりを付けやすい。しかし、我々自身に経験が不足しており、我々だけでは彼らに十分に団員の活動の魅力を伝えきれないもどかしさがある。団には貴重な活動・闘争を実践・体験してきたベテラン・中堅団員が多く存在する。これは団の宝である。そのようなベテラン・中堅と若手との連携が必要なのである。青法協やその他の団体との位置づけを考えると、むしろ団の果たすべき役割は、大学生や修習生とつながりをつけたり企画を立てることよりも、このような企画の援助にあるとも言える。

しかし、いま最大にして緊急の団の果たすべき重要課題は、何をおいても団員からロースクールの専任講師を輩出すること、団系のロークリニックの設立である。
ロースクールの専任講師に団員がならないとなれば、団員と大学生・受験生の距離はますます遠くなり、修習自体の存続が危ぶまれている中、団員の活動を提示する機会は失われる。そうなれば団は確実に消滅し、団のこれまでの活動・闘争は全く引き継がれずに終わっていく。専任講師として運営に携わる一方で、ロークリニックで団員と一緒に活動をし、団員の活動を直に体感してもらう必要もある。しかもこれはあと数ヶ月の内に手を打たないと本当に手遅れになる緊急の課題である。

5 ロースクールの専任講師にと言っても、団から一方的に各団員に押しつけるわけにはいかない。最後には団員から自発的に手が上がらない限りどうしようもないことだが、その重要性の認識を共通にすること、財政的・人的支援をすることなど、団として考えられることも多くあるはずである。

 まずはいち早く、この問題の重要性を団全体の共通認識にして欲しい。抽象的危機感など誰でも持っている。今はそんなものではどうしようもないほど切迫した状況であるということをまず認識して欲しいと思う。


個人情報保護法案には反対だ


担当事務局次長  山 田   泰


 個人情報保護法案は昨年三月国会に提出されたが、吊しのままとなっていた。そして先般、行政機関の保有する個人情報保護法案も提出され、有事法制等とともに後半国会の対決法案となっている。新聞協会の反対声明をはじめ各メディアも連日のように大きく取り上げている。

 ここでは前者の法案につき問題点を若干指摘しておきたい。

◇         ◇

 法案は、公的部門、民間部門双方を対象としているものの、公的部門の情報については基本法、民間部門については規制法という構造となっている。そして第二章で、適正取得や本人の適切な関与など五つの基本原則を置き(これは個人情報を取り扱う者すべての努力義務とされる)、更に第五章において個人情報取扱事業者の義務等を定め、第六章が第五章の適用除外等を定める雑則、そして罰則を第七章に置いている。

 個人情報保護のため、個人情報取扱事業者につき開示・訂正・利用停止権を不十分ながら認めているものの、自己情報コントロール権の規定を欠いていたり(そもそもIT関連法案であって憲法上の権利を具体化しようとするアプローチと異なる)、センシティブ情報(思想・信条、前科・前歴、病歴等)の収集禁止の欠如、第三者提供の制限が甘い、罰則適用の要件の不備など問題点は多岐にわたる。

 注目したいのは、「取扱事業者」の範囲と「取扱事業者の義務等」(主務大臣の監督権限)の範囲(適用除外)である。

 「取扱事業者」とは、「個人情報データベース等を事業の用に供している」者で、国の機関や自治体等は除かれ、また小規模事業者(取り扱う個人情報の量及び利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定める者)も非該当とされる。小規模とはどの程度かであるが、五〇〇〇件程度で裾きりすると言われている。大きめの労働組合ないしその連合体、医療機関、生協、大きめの市民団体それに日弁連、単位会、弁護士法人、大きめの法律事務所は「取扱事業者」となる。

 そして「取扱事業者」となれば、報道機関、学術研究機関・団体・者、宗教団体、政治団体という四つの適用除外に該らない限りは「取扱事業者の義務等」が適用となる。つまり、主務大臣の報告徴収権限、助言、勧告・命令に服する(権限発動の要件は広範で限定性に乏しい)こととなり、報告徴収、勧告・命令違反には六月以下の懲役又は三〇万円以下の罰金という罰則まで用意されている。

 メディアは基本原則の適用そのものに危機感を持ち、とりわけ報道機関とは直ちに言いがたいフリージャーナリストや雑誌・出版関係者の怒りには強いものがあるが、当然のことであろう。

 そしてこれらの団体や人々とともに声を大きく上げるべきは、わたしたちであり(日弁連は抜本的修正がなされない限り反対との意見書を昨年出している)、また民主主義のために闘う多くの団体であろう。有事法制の下では民主主義は窒息し、民主主義の危機は有事法制の前触れである。


五・二二司法総行動に参加を


担当事務局次長  齋 藤 園 生


 九八年から始まった司法総行動も、今年で五年目を迎えます。今年の司法総行動は五月二二日です。司法総行動は、国民のための司法を目指して、団や労働組合、争議団、市民団体、裁判当事者などが連帯し、毎年司法の改革要求をもって、法務省、裁判所、労働委員会など司法関係者への要請行動を粘り強く繰り返してきました。

 特に今年の司法総行動は、司法改革を国民のための司法改革にするのか、政府・財界の求める規制緩和型の司法改革になるのか、まさに「せめぎ合い」の中で行われます。昨年一二月に司法制度改革推進法が成立し、推進本部が発足。今後二、三年で、各法案が整備されようとしています。一〇の検討会が設置されましたが、日弁連の委員はわずかで、官僚主導の傾向が顕著に出ています。裁判員制度にしろ、労働裁判改革にしろ、弁護士費用敗訴者負担問題にしろ、何もしなければ官僚主導で押し切られる危険性は高いと言わざるを得ません。この時期に国民側の制度改革要求を突きつけることがきわめて重要です。

 司法総行動実行委員会では四月一八日高橋勲団員を講師に「司法改革の現状と問題点」というプレ企画も実施し、制度改革要求を練り上げています。二二日には一部だけの参加でも結構です。是非御参加ください。日程は以下の通りです。

午前九時三〇分 弁護士会館二階 集合
一〇時〜一〇時四〇分 集会
一一時〜 司法改革推進本部、最高裁、地裁・高裁、中労委に要請
午後二時〜 法務省、都労委、警察庁に要請
四時〜五時 集約集会 衆議院第一議員会館第一会議室

 (午後の集合場所は一四日に決まりますので、途中参加の方は団本部までお問い合わせください)


重大局面となった国鉄問題への対応を!


東京支部  萩 尾 健 太


 去る四月二六日、自民、公明、保守の三与党は、社民党に対して「四党合意」破棄の最後通告を行った。

 その内容としては、「国労は、JRに法的責任がないことを認めたとしながら、引き続き裁判によってJRの法的責任を追及する姿勢を堅持するという言行不一致を未だに解消しておらず、さらには組織内をまとめるという点についても、四党合意賛成派が離脱する一方で、不採用関係者の約三分の一もの組合員が鉄道建設公団を相手取り新たな訴訟を提起するなど、むしろ矛盾は拡大している。」この矛盾の解決が「四党合意から丸二年を経過する本年五月三〇日までに国労執行部においてなされない場合は、与党としては、四党合意から離脱せざるをえない。」と言うものである。

 これは、要するに、国労に対して、まず裁判を取り下げよ、そして鉄建公団訴訟に取り組む組合員に制裁を科せ、その後に何らかの解決案を考えてあげよう、というものである。

 しかし、何ら条件提示もなく、一方的に裁判の取り下げを迫る与党の態度は、国労の完全屈服を迫るものであり、不当である。

 また、鉄建公団訴訟は、JRの法的責任を問うものではないから、形式的には四党合意に反するものではない。

 にも関わらず、三与党は、五月三〇日までの「対応」を迫ってきているのである。事態は極めて重大な局面に至ったと言える。

 全動労の事件も東京高裁での審理が結審し、判決へ向けて運動がなされている時期であり、判決への影響も見過ごせない。

 分割民営化当時の首相であった中曽根康弘氏は「国労が崩壊すれば、総評が崩壊すると言うことを明確に意図してやったわけです」と赤裸々に語っている。その言葉通り、総評は崩壊し、今日、日本の労働組合の組織率は、NTTに象徴されるリストラの嵐のなかで漸減を強いられている。その根元となった国鉄問題がどうなるかは、極めて重大である。

 一昨年、私が四党合意受け入れに関する国労執行部の対応について、団通信誌上で痛罵したのに対して、京都の荒川団員が、私の論調を批判しつつ、全国の団員に国鉄問題での討論と対応を呼びかけたことがあった。残念ながらそれに対する目立った反応はなかったようだが、今この局面にいたって、自由法曹団としてやはり集団的な議論が必要な課題ではないだろうか。

 ぜひ、検討されたい。


第一二回「裁判勝利をめざす全国交流集会」の報告


担当事務局次長  大 川 原  栄


 全労連、自由法曹団、日本国民救援会の三団体の主催による歴史ある「裁判勝利をめざす全国交流集会」が四月二一日、二二日、熱海において開催されました。本年は、昨年を約二〇名上回る二〇〇余名の参加がありました。

 初日の全体会において、主催者を代表して宇賀神団長が問題提起を行い、伊藤事務局次長が司法改革の情勢と取り組みの現状についての特別報告を行いました。その後、@大衆的裁判闘争のすすめかた、A最高裁のたたかい、Bリストラ合理化、企業閉鎖・倒産、解雇C不当労働行為、差別、D刑事事件裁判、E再審事件、F権力犯罪追及事件の七分科会に分かれて報告・討議を行いました。今年は、各分科会とも基調報告を冒頭にセットし、その後に各事件についての報告・討議をするという工夫がもたれたことから、各分科会とも充実した討議ができました。その中で、この一年間において勝利した事件(浜松市職組・差別事件)や原告を増やして元気に頑張っている事件(鈴木自工・思想差別事件)等の報告も行われ、全国からの参加者が事件から学ぶと同時に元気を貰って帰っていくという姿が見られました。二日目の全体会においては、篠原幹事長が有事法制についての緊急報告を行いました。

 この「裁判交流集会」には大組織の支援を受けられない事件当事者の参加も少なくなく、労働・刑事・再審等の多分野にわたる事件当事者や支援者がお互いに励まし合うという実践的目的も有しており、今年もこの目的を十分に達成できたように感じました。

 今年の「全国交流集会」には、団から団本部役員全員と分科会報告者(講師)として四名、助言者として三名、事件弁護団から一名が参加しました。今年は、例年以上に事件弁護団からの参加を呼びかけたのですが、まだまだ団員弁護士の参加者が少ない状況です。事件当事者と支援者の全国規模の交流は予想を遙かに上回る熱気があり、各弁護団から少なくとも一名は参加してこの雰囲気を味わって欲しいと思います。来年春にまた参加呼びかけがあると思いますが、是非ともその時まで心の隅にこの報告を止めておいて下さい。


書評

リストラ、合理化との闘いに強くなる本
「暴走するリストラと労働のル―ル」

坂本修団員著


団長  宇 賀 神  直


 今、リストラ・合理化がNTTを始めとして全ての企業で大規模にしかも急速に進められている。それはルールなき資本主義のあがきであるが、労働者とその家族に対する果てしない生活破壊の攻撃であり、権利侵害である。労働者、国民はその攻撃を跳ね返して生活と権利をまもる闘いを展開しなければならないが、自由法曹団と団員は労働者に連帯して闘いを推し進めなければならない。

 その労働者と団員の闘いに応えるため坂本修団員は急遽この本を著したのであるが、期待に沿うものである。坂本団員は「労働弁護士四三年、今ほど『この国をルール破りの資本主義国にしてはならない』『だれもが人間らしく生き、働くルールの確立』を思うときはありません。そうした思いから、現場でつかんだ証拠にもとづいて、暴走リストラ・合理化の違法・不正を告発し、たたかう労働者と労働運動を弁護しょうとするものです」と本書緊急出版の思いを述べている。その思いが実現する筋道が書かれており、労働者や労働運動に携わる人の活動の武器になる。また、労働弁護士の闘いの武器でもある。本書は「何が問題なのか」を序章に書き、第一「何が起きているのか」、第二「なぜ新自由主義・規制緩和なのか」、第三「規制緩和、労働のルール破りのための法制」、第四「ここまで来ている世界の労働のルール」、第五「日本にも労働のルールはある」、第六「始まった反撃ー見えてきた光」、終章「大河の流れを」、の六部からなっている。時間のない方は先ず第六章の「始まった反撃、見えてきた光」を先に読むと分かりやすいと思う。この章は著者の最も得意とするところであり、四三年の労働弁護士の含蓄ある経験が活かされており団員はもちろん、闘いの最中にある労働者も、これから闘いに立ち上がる労働者にも参考になり励ましを与えてくれる。日本のルールが世界とEUのルールに反しているが、闘いの法的ルールも残されており、現に闘いが進められており、成果を挙げている労働者、労組もあることが「光が見えてきた」ことの証拠であると著者は言う。もちろん、その細かな光を大きな光にし、確実なものにして行く労働者のナショナルセンターを柱にした全国民的な運動を推し進め「大河の流れ」を創り出すことの必要性を訴えている。その『大河の流れ』の中にわが自由法曹団と団員の活動の軌跡がある。そのような活動を展開したい。団の五月集会ではこの問題の分科会が持たれるので団員はこの本を読んで参加して欲しい。なお、一〇部まとめて坂本団員か新日本出版社に申し込むと一六〇〇円の定価の所、一四〇〇円で手にすることが出来る。


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えひめ丸事件〜真相究明なしに幕引きは許さない


四国総支部(愛媛県)井 上   正 美
東京支部藤 原 真 由 美


 昨年の二月一〇日、愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」が米海軍の原子力潜水艦に衝突され、沈没する事件が起きてから、一年あまりが経ちました。この事件では九人の尊い命が奪われ、生還した人たちもPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんでいます。

 しかし事件の幕引きを急ぐ米海軍に遠慮して、日本政府は「補償交渉は当事者の問題」(三月一五日、川口外相国会答弁)と、被害者家族に冷淡です。また、加戸県知事は「再発防止に万全の体制がとられている」(三月五日県議会答弁)と、米軍を代弁するかのようなことを言っています。

 実際には、米海軍が過失の重さを認めないため補償交渉は難航しており、民間人を乗せた体験航海や、危険な緊急浮上はいまも続けられているのです。

 被害者・遺族は、どうしてこのような悲惨な事件が起こったのか真相が知りたい、二度とこうした事件が起こらないよう徹底した再発防止策を講じて欲しい、と訴え続けてきました。二月一五日に東京で開かれた集会で、亡くなった寺田祐介君(当時一七歳)のご両親、寺田亮介・真澄夫妻は「訴え続けなければ解決の手段がなくなる。歯を食いしばってがんばるしかないんです」と声をふるわせ、満場の共感を得ました。

 「ワドル艦長に宇和島に来てもらい、海が好きだった子どもたちのことを知ってほしい」、「再発防止をきちんとしてほしい」という遺族の思いを私達は支え、あくまでも事件の真相究明を求めます。そのため、愛媛県でひろく読まれている愛媛新聞に、全面意見広告を載せることを計画しました。又、愛媛県出身の著名人(早坂暁氏、天野裕吉氏)から賛同者の代表への快諾をいただいています。  みなさまのご協力を心からお願い申し上げます。