<<目次へ 団通信1060号(6月21日)
宮腰 直子 | 有事立法問題で千葉県副知事に要請 | |
石川 憲彦 | 群馬県立桐生工業高校・生徒会誌切取り事件 東京高等裁判所の不当判決 | |
鶴見 祐策 | 感想・団五月集会に参加して ―全体会・金融分科会・司法分科会― | |
小笠原 基也 | 五月集会感想 | |
佐藤 正知 | 五月集会に参加して | |
長尾 詩子 | 五月の風をうけて | |
笠松 健一 | 再び弁護士費用敗訴者負担反対の全国的運動を | |
小沢 年樹 | 東京大気汚染裁判 ―自動車メーカー責任パンフ普及のお願い | |
萩原 繁之 | 宮里新一CD「あの頃僕は」のすすめ | |
中野 直樹 | 全国法律関連労組連絡協議会からの要請の報告 |
千葉支部 宮 腰 直 子
本年六月七日午前一〇時過ぎ、自由法曹団弁護士五名(高橋・守川・市川・岩橋・宮腰)で、白戸章雄千葉県副知事に対して有事法制反対の申入れをしました。堂本知事が六月議会の準備で忙しいとのことで副知事の対応になりました。
まず、守川幸男弁護士が、自由法曹団の説明と、自由法曹団の有事法制反対の取組みを簡単に説明し、日本弁護士会連合会が法案に反対していることにも触れ、予め堂本知事に送っておいた自由法曹団の「有事法制に関する要請書」について検討されるよう要請しました。
これに対して、副知事は手元の要請書を確認しながら聞いておられましたが、要請書には線が引いてあるなど内容を検討されている様子が伺えました。
守川弁護士は、有事法案では憲法の保障する地方自治が脅かされることを指摘し、千葉県としても何らかの意見表明をするよう促しました。さらに、千葉県が成田空港を抱えていること、自衛隊基地が各所にあること、県の管理する港湾があることなどを指摘し、これらが有事法制のもとでは軍用とされる可能性が高いこと、あるいは攻撃対象となりうることを説明しました。
次に、高橋勲弁護士が、体験談として、今から三〇年ほど前の成田空港闘争のときに、当時の運輸大臣、千葉県知事、および新東京国際空港公団総裁と住民との間で「成田空港を絶対に軍事利用しないこと」の誓約がなされたことに触れ、千葉県のとるべき立場を訴えました。副知事と同席された行政官は、当時のことについて知っている様子で、高橋弁護士の話にうなずいていました。
副知事は、有事法制の賛否については触れませんでしたが、法案の内容があいまいすぎて全体像が見えないため県議会で議論しようにも議論にならない、政府には法案の内容をもっと明らかにしてもらいたい、という申入れをするつもりだと話されました。また、今回の有事法案が二年以内に具体的な法制度を作ることを義務づけており、その内容が白紙委任であり問題だとの指摘がありました。
さらに、副知事は、自衛隊法の改正案が地方自治体の手足を縛るものとなるので、国会では十分に議論されるべきだと話されました。
その他、私からは、県民の立場から、国よりも県民生活の実情をより近いところで把握できる千葉県にぜひ県民の立場を汲み取ってもらいたいと申し入れました。
団支部としては、いずれ知事本人にも直接要請の機会を持っていただくよう、再度申し入れる予定です。
群馬支部 石 川 憲 彦
この事件は、高校教師が定年退職を前に、生徒会誌に寄稿した回想文を、回想文の中に勤務評定と日米安保条約について、反対運動に参加したことを回想した部分を、校長が「特定の立場に立った政治的見解」である、教育の場にはふさわしくないとし、職務命令で回想文全文を切取らせ、切り取った生徒会誌を生徒に配布したという事件です。校長の職務命令が、教師の表現の自由、教育の自由、生徒・生徒会の編集権、表現の自由・意見表明権を侵害するとして争われた。
一審前橋地方裁判所敗訴、二審が東京高等裁判所第一六民亊部で審理されていたが、五月九日判決が言い渡され、全面的敗訴判決だった。この判決は多くの問題を提起しているが、ここでは次の四点を報告します。
第一点、判決は回想文を「意見の分かれる政治的問題である勤務評定及び日米安保条約に関する特定の立場のみを強調するもの」であって、「現在の控訴人の政治的主張ないし政治的情宣と考えざるを得ず」と非常識な断定をし、生徒会誌に掲載されたものを切り取って配布することを命じた校長の職務命令は合理的で、手段として切り取る方法も適切であるとした。その理由は、生徒会誌に寄稿する教師は、事柄が教科(日本史、政治経済、公民)に関連する場合、その教科の学習指導要領の規定に従わなければならず、回想文は客観的に述べてないので学習指導要領に反している。政治的活動を禁止している教育基本法八条二項の趣旨に反している。校長は校務について全面的な権限を有しているので、切取りの職務命令を発しうると言うものである。校長の命令は適法なので、表現の自由の侵害とならないと表現の自由をまともに論じない。
基本的に憲法、国際条約より、学習指導要領を中心とする行政解釈を優位に置き、教育行政に追随し補完するものと言える。かかる校長の職務命令が許されることになると、教師の教育の自由、教育権、生徒たちの学習権、子どもの権利は奪われて教育の管理統制が強まることが懸念される。
第二点は、回想文を前記のように、特定の立場での政治的見解の表明である、と独断し断定していることである。これまでの審理の中で回想文を判決と同じように問題があると判断したのは校長一人だけであり、回想文は問題ないと言う関係者は、当時の生徒会係の教師八名、その翌年度の教師七名、教育法・教育行政学の専門家である堀尾輝久証人、浦野東洋一証人、市川須美子の意書書、当時の生徒二名の多数であった。判決は回想文には何ら問題が無いと明確に証言した証人を無視し、成立に争いのない学者の意見書も無視していることである。裁判官として、証拠にもとずき、裁判官の良心と、良識のある経験則にもとづく判決とは程遠いものであった。裁判官こそ政治的であった。
このことは、法廷で判決理由を述べる裁判官に傍聴人が思わず不当性を批判する状況が続き、その発言を制止する事が出来ず、退廷するときには大声で抗議する声に、逃げるようにして退廷した姿に顕われていた。
第三点は、教育の場における政治的活動の排除の論理である。
教育基本法八条は良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならないと政治教育の必要性を明記している。しかし現実の教育現場は行政通達により、政治的問題を話題にすることさえ制限されている。訴訟でもそのような状況を反映してか校長は「特定の政治的な見解の表明」は許されないと主張してきた、(「特定の政党、政治団体のための」という目的をはずす)教師(地方公務員)の政治活動の制限(教育基本法八条二項・人事院規則等)は目的犯的なもので「特定の政党その他の政治団体を支持し、又は反対する」政治活動を制限するものであるが、判決は回想文で勤評反対闘争・安保反対闘争に触れた事が政治活動であり、教育基本法八条二項の趣旨に反し、同時に学習指導要領にも反しているとした。教育基本法八条の解釈をせず、引用するだけのもので、これまでの公務員にたいする政治活動の制限の法理、判例を無視する反動的な判断で、教師は政治的問題について発言してはならないと言っている。
第四点は、子どもの権利条約・意見表明権についての無理解である。子どもの権利条約第一二条の意見表明権について正面から判断した最初の判例かと思うが、判決は、生徒が作った生徒会誌を、生徒の意見も聞かず、説明もせず切り取ったことはやむを得ないもので職務命令は違法ではないとした。生徒の意見を聞くには教師の準備や、生徒どうしの議論、その取りまとめ、そのため時間と労力がかかる、生徒の意見を聞いても教育効果が不明であるから、そのような配慮を校長がしなくても校長の裁量権の濫用とならないとした。条約の国際解釈、学会の解釈を無視するものである。
(松本裁判を支援する会のサイトで、切り取られた回想文、一審判決、二審判決が読めます。http://www7.wind.ne.jp/shien/)
東京支部 鶴 見 祐 策
全体会に議論の焦点が有事法制反対に合わされたのは当然だと思う。浅井先生の講演もよかった。
分科会では「金融・貸し手責任」に参加した。弁護士だけでなく事務局の出席が目立った。それだけ日常的で切実なテーマなのであろう。ネーミングされた金融の問題に限らず、大企業や金融資本主導の「規制緩和」戦略が、いかに中小零細業者や労働者など勤労市民層を苦境に追い込んでいるか、その実情とあわせて、これとどう闘うかが討議された。裁判では未開の分野であり、団員の取り組みはまだ十分とは言えないが、団に対する法律的な援助の期待が寄せられており、今後避けられない課題と言えよう。
「司法制度改革」分科会にも参加したが、私にとっては勉強の場であった。団の意見書が討議されていたが、そこで感じたのは私たちが心で描いている「本来あるべき司法制度」と「現在ある司法制度」との違いを明確に意識して論議する必要であった。例えば、裁判官に対する考課基準の透明化、客観化の問題などは、弁護士会レベルでも論議されているし、現状改革の提言として適切だと思う。だから意見書に盛り込まれることには異論がないけれども、そもそも裁判官の処遇につながる成績の評価が必要なのか、それがどういう意味を持っているのかが意識されていなければならないと思う。
実務修習のとき、ある裁判官が「裁判官に出世はあり得ない」と言ったことを思い出す。裁判官の処遇による差別をもちこみ、「裁判官」の上に立つ「裁判官」を作り、それをテコに権力統制を貫徹させている現在の最高裁事務総局の徹底的な解体こそが、現在の「司法制度改革」の最も重要な課題とさえ思われる。人事の「透明化」は「改革」の一里塚の意味を持つのである。事務総局に裁判官を配してエリート集団とするのは最悪である。文字通り裁判の環境を整備する事務方に徹すべきである。裁判官である必要はない。裁判所の人事を含めて組織の運営は各裁判所の裁判官会議に委ねるのが当然である。会議の主催者は投票で選ぶべきである。かつては曲がりなりにもこれが行われていた。ついでに「地裁所長」「高裁長官」「最高裁長官」の呼称はやめるべきだ。せいぜい「裁判官会議の主宰者」「主席」にすぎない。給与は任命の年数を問わず、同額とする。職階制度は廃止。最高裁も簡裁も同格である。職務分担で処遇に差を設けない。扶養家族や任地で合理的な手当の支給や物価の変動など社会環境の変化によるものは別として、原則として金額は変わらない。家庭生活と社会的体裁を維持するに足りる額とする。在任中、下がりはしないが、上がりもしない。職務の希望は自由。例えば、しばらく簡裁に勤めたから今度は最高裁に行きたいと裁判官会議で手を挙げるのも随意(容れられるかどうかは別)である。要するに裁判所の民主化と裁判官の自主性の徹底である。
弁護士任官が論議されている。これの実効的な遂行が必要である。しかし事務総局が支配する現状のもと任官の応募が進むとは思われない。司会者から突然の指名で私は舌足らずな発言をしたが、現実をすこしでも「改善」する努力が必要なのはもちろんだが、その先に本来あるべき「理想像」が常に念頭にあってその視点からの提言であることの必要もあわせて感じさせられたのである。その意味でも私には有益な分科会であった。
岩手支部 小 笠 原 基 也
岩手支部の小笠原といいます。昨年の一〇月に新人登録したばかりなので、初めての五月集会でした。
私は、修習前から、自由法曹団の東北ブロック大会などに参加させていただき、弁護士になったら団員になろうと思っていましたので、弁護士登録してすぐに入団申し込みをしました。そのときから、五月集会には、新人研修があるので、行ってきなさいと言われていたので、非常に楽しみにしておりました。
三重県は、伊勢神宮や松坂、鈴鹿など伊勢の国には修習中に行ったことがあったのですが、今回の開催地である志摩の国には今まで行ったことがなかったので、半分以上は旅行気分で参加しました。 ところが、二〇〇二年の五月集会は、旅行気分どころではなく、有事法制反対の熱気に包まれていたように感じました。
私は、実は今年の一月に東北ブロック総会で、内藤先生の講演を聴くまでは、有事法制のことなど全く関心がなかったのです。また内藤先生の講演を聴いたあとでも、しばらくは、さほどの関心は持ちませんでした。それが、三月ころから、有事法制の講演を依頼されて、遅まきながら、勉強をするようになりました。初めは、「有事」のときに備えるのは当然ではないかと漠然と思っていましたが、政府が作ろうとしている有事法制を知れば知るほど、有事法制の「やばさ」を痛感するようになり、自然、講演にも熱がこもるようになりました。
今回の五月集会で、全国各地から、有事法制反対運動の報告を聞き、自分の今までの活動が間違ってはいないことを確信し、これからもいっそう、有事法制の廃案へ向けた活動をすべきことを胸に刻んだのでした。また、各地の活動から、いろいろなアイデアを取り入れることもできました。最近の国会情勢を見ると、今国会での成立は難しそうですが、いまだ廃案になったわけではありません。また、国民やマスコミ、各地方自治体の中には、有事法制自体は必要であるとの考えが広く広がっている感があります。これまで以上に有事法制の危険性を訴えていきたいと思っています。
神奈川支部 佐 藤 正 知
私は、労働弁護士を目指して弁護士となり、昨年団加入を承認された。同じ神奈川支部の神原団員からも「お前には芸がない」と言われるが、五月集会でも一日目は司法分科会、二日目はリストラ合理化分科会に参加した。普段は日々の業務に追われ、恥ずかしい話ではあるが、労働裁判改革の動きについてほとんど何も知らなかった。このような私であっても運動の現状を知る機会を得られるのであるから、五月集会とは良いものである。
労働裁判について、改悪ではなく改善の方向にもって行くことに光が見えていることはよしとして、この分科会においても弁護士費用の敗訴者負担導入反対が共通の認識であった。我が事務所でも弁護士費用の敗訴者負担導入反対について署名を集めることになった。いくら労働裁判改革が実現されても、利用者が萎縮してしまっては元も子もない。私のようにほとんど現状認識もなく参加した者にとっては、時間を割いて現状の報告があったことはとても嬉しかったのであるが、研究討論集会の名のとおり議論を尽くすことを求めて参加された方にとっては、時間不足の感があったのではないかと思う。リストラ合理化分科会では、各事件報告もさることながら、坂本先生の講演が印象に残る。まだ弁護士になって一年にも満たないが、目指した道は間違っていなかったと勇気づけられた。
しかし、なんといっても印象に残ったのは、懇親会である。「これが噂に聞く団の伝統か!」と、四〇〇を超える弁護士がまさに一堂に会した様に圧倒された。と同時に、これが団の良いところだが、地元に戻って様々な課題に取り組んでゆくにあたってパワーを分けて貰えたように思うのである。
翌日、鳥羽観光を楽しんだことは言うまでもない。このときに三重観光連盟の職員から貰った中尾ミエのクリアファイルは一見の価値がある。
東京支部 長 尾 詩 子
五月集会の感想は、「楽しかった」「元気になった」の二言に尽きます。
私は、第一日目の分科会は、有事法制の分科会に参加しました。既に有事法制が憲法に抵触する危険な法案であることは周知の事実として、それ以上の細かい理屈をこねるのではなく(というと語弊があるでしょうか?)、どうやったら廃案にできるかを考え、実行するという一致点で、参加者全員が議論に参加していることが印象的でした。これが、闘う法律家集団の議論なのか!と思いました。また、各地の取り組みの紹介も興味深かったです。学習会講師は無料と宣伝しているとか、講演の前にはコントを公演しているとか、団員が創意工夫を凝らして運動しているのがわかりました。議論を通じて、改めて有事法制の狙いがわかり、もう一歩努力して有事法制廃案の運動に取り組んでみようと思い、二回、学習会の講師をしました。また、内山団員のお話がおもしろかったので、私も、つい、コントを公演してみました。とっても好評でした。
第二日目の分科会は、労働分科会に参加しました。資本から労働者に対してこれまでにないリストラ合理化の攻撃がかけられていることの報告がなされ、各地の先進的な取り組みが紹介されました。分科会を通じて、労働者側もこれまでとは異なる取り組みの必要性、ただ、それはこれまでの取り組みと質的に異なるものではなく、自由法曹団が取り組んできた早くから現場に飛び込んで現場第一主義で闘うということを一層強化する必要性を感じました。
抽象的に言うのは簡単ですが、実践するのは難しい。そんなことも頭をよぎりますが、五月の風をうけて、元気をもらい、日々奮闘していこうと思います。
大阪支部 笠 松 健 一
一、弁護士費用敗訴者負担の問題は、司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会で立法化作業が行われているが、今重要な局面にある。この問題は、司法制度改革審議会の中で、いきなり原則敗訴者負担導入の方向で問題提起された。しかし、敗訴者負担制度になると、訴える側では訴訟の提起が抑制され、特にパイロット訴訟や弱い立場の人の権利擁護が大きく萎縮することになる。逆に訴えられた側でも、敗訴を恐れて和解を事実上強制されることになる。そこで、私達は、全国的な反対運動を巻き起こして大きなうねりを作り、審議会の最終報告では、かなりトーンダウンさせることができた。しかしそれでも、表現としては、敗訴者負担が原則で、その例外を広く認めるという程度に止まった。この最終報告の文言に乗じて、現在、司法アクセス検討会では、敗訴者負担の原則を、非常に強く押し出そうとしているのである。
二、そもそも、司法制度改革審議会の議論は、市民が司法を利用しやすくするための制度改革の検討が目的であった。しかし、弁護士費用敗訴者負担制度は、訴訟を抑制するための制度として、従来から民訴法学者を中心に制度提案されてきたものである。審議会の会長代理を務めた民訴法学者竹下守夫氏は、敗訴者負担が訴訟を抑制することを十二分に承知しながら、司法アクセス拡充の議論の中で、相手方の弁護士費用を回収できる制度の方が訴訟の利用がしやすくなるという、全く事実に反する説明でもって市民側委員の反対を押さえ込み、敗訴者負担の原則導入をねじ込んだのである。
三、しかし、弁護士費用敗訴者負担制度によって恩恵を受けるのは、大企業等の費用負担が可能な者だけである。圧倒的多数の市民は、敗訴者負担の導入によって、訴訟の利用を断念させられる。公害訴訟や薬害訴訟、判例変更を求め、あるいは新しい判例を作ろうとする訴訟、行政の不正を正す訴訟等は、訴え提起を事実上断念させられることとなろう。金融業者や賃貸人、企業等、強い立場にあって証拠を持っている者が、証拠を持っていない弱い立場の者を訴えた場合には、弱い立場の方は、敗訴の場合に相手方の弁護士費用まで負担させられることを心配して、正当な応訴が困難となり事実上和解を強制されることになる。これでは、訴訟は正義が実現する場ではなく、力の強い者が勝つ場でしかなくなる。しかし、それは司法の本来の役割ではない。力の強い者の利益は、政治的・社会的過程を通じて擁護される。弱い者は、自らの利益擁護を司法に期待するほかないのである。これを断念させることは、司法の役割放棄にも等しい。しかも、パイロット訴訟が困難となれば、法の発展は阻害される。新しい法理論はパイロット訴訟が切り開いてきたのである。私達は、弁護士費用敗訴者負担制度を到底容認することはできない。
四、司法制度改革審議会の議論の場では、全国的に巻き起こった反対運動によって、審議会での議論をかなり押し返した。ところが、現在議論されている司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会の議論状況を見ると、敗訴者負担制度は、審議会の最終報告よりも更に悪い制度として立法提案される惧れがある。これを押し返して、本来の意味での司法アクセスの拡充を図るためには、敗訴者負担導入反対の広範な市民の声を検討会にぶつけていく必要がある。そのために、大阪では、改めて敗訴者負担反対連絡会を構成し直すこととし、七月一八日に弁護士費用敗訴者負担反対の市民集会を開催することとした。集会実行委員会を立ち上げ、準備段階から各種市民団体にも参加してもらい、七・一八集会を、改めて敗訴者負担反対の出発点にする。
五、また、大阪弁護士会では、一〇月に開催される人権擁護大会で、弁護士費用敗訴者負担反対の大会決議を上げてもらうよう、司法改革推進大阪本部と消費者委員会から決議案の提案を行っている。人権大会で決議の提案があり、その採択に向けて全国の単位会で議論することができれば、弁護士会として、改めてこの問題を全国的に議論し、全国的な反対運動を動かしていく大きな力となる。是非全国の単位会で活動する団員からも、人権大会での決議要求をお願いしたい。
六、司法改革に関してだけでも、その他に司法全般に関わる重要課題が山ほどある。有事法制、個人情報保護法案、人権擁護法案は、今国会での成立は難しくなったようであるが、まだまだ反対運動を継続し強化しなければならない。あまりにも課題が多すぎて本当にうんざりするが、弁護士費用敗訴者負担制度の原則導入は、何としても阻止しなければならない。改めて全国における反対運動の盛り上げを提起する。
東京支部 小 沢 年 樹
世界ではじめて自動車メーカーの排ガス公害責任を追及している東京大気汚染裁判は、昨年一二月に結審し、今年八月以降に一次提訴分(九九名)の判決が出される見込みです。裁判の被告は道路管理者・規制責任者としての国・首都高速公団・東京都及びディーゼル自動車メーカー七社ですが、原告団・弁護団は西淀川判決(九五年)以来の道路管理者責任、尼崎・名古屋南部と続いた画期的差止判決の流れを受け継ぎ、さらに@広大な面的汚染A大量の未認定原告B自動車メーカー責任のあらたな「三つの挑戦」を掲げ、勝訴判決を梃子として、一挙に公害患者救済の新制度実現を石原都政に迫っていく運動をすでに開始しています。
原告団・弁護団は、八八年の公健法指定地域解除により放置されてきた大量の未認定患者(東京では五〇万人以上といわれる)を救済する新制度の主な財源を、汚染原因者としての自動車メーカーの負担とする提案をしています。しかしながら、これまでメーカーの公害発生責任を問う裁判が他に存在せず、世論・マスコミも長年にわたって「日本の自動車は世界一クリーン」とのメーカー宣伝に「洗脳」されてきた歴史があるため、少なからず運動を広げるうえでの障害となっています。そこで弁護団では、六年間の審理を通じて次々と明らかになった新事実を踏まえて、「Q&A 排ガス公害と自動車メーカーの責任」(B五版一六頁)を一万部作成し、全国的に運動と支援の輪を広げることとなりました。私たちの運動の中で市民から提起されたさまざまな疑問・意見に答える形式で、「Q&A」「解説」「注釈」に分かれた全八問構成です。「自動車排ガスと健康被害」「ディーゼル車対策をサボったメーカー」「国内車・輸出車のダブルスタンダード」「国の規制責任問題と情報公開の重要性」など、まだほとんど一般には知られていない歴史的事実とメーカー責任の視点を提供するパンフで、普及開始と同時に「これで自信を持ってメーカー責任を語ることができる」と、支援者から大好評を得ています。
弁護団は、全国の弁護士・団員(とりわけ公害・環境問題に関心のある方)にも、大いにこのパンフを普及し、東京大気裁判へのご理解とご協力を得る力にしていきたいと考えています。自動車排ガス公害の根絶と新救済制度実現は全国的課題であり、判決をひかえた東京の裁判と運動は、その第一歩となるものです。全国の団員のみなさん、身近な自動車排ガス公害問題を考える素材の一つとして、ぜひパンフ普及にご協力ください。
パンフの注文先は、左記の原告団事務局です。原則として無料ですが、一部五〇円程度の原価ですので、まとまった注文の場合には送料負担と一定のカンパをしていただけると、とても助かります。
また、パンフ内容についてのお問い合わせは、小沢あて(城北法律事務所 TEL 03・3988・4866 FAX 03・3986・9018 メールアドレス mailto:jyo@muh.biglobe.ne.jp)、よろしくお願いします。
東京大気汚染裁判原告団事務局 |
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東京都文京区小石川5・33・7 マツモトビル2階 |
TEL 03・5802・2366 |
FAX 03・5802・2377 |
静岡県支部 萩 原 繁 之
五月二三日に、宮里新一さんという歌手の「あの頃僕は」というCDを、国宗直子団員から購入した。
購入した場所は、ハンセン訴訟控訴阻止一周年記念レセプションの会場で、そこに宮里さんご本人も見えていて(サインはもらわなかったが。ちょっとむさ苦しい感じのおじさんという印象だ)。ハンセン訴訟で証人に立たれた医学者の大谷藤郎先生も、挨拶で、宮里さんとCDを紹介しておられたので、僕も、ハンセン訴訟と無関係な方とは思わなかったが、組合活動家か何かで、熱心な支援者の方なのだろう、だから国宗団員も熱心に販売活動に協力しているのだろう、という程度の認識だった。ハンセン弁護団の末席を汚す者としては、少々、お恥ずかしい次第である。
三日後に五月集会で、国宗団員から、「何にもわかってなかったわけ?」とあきれられた。宮里さんは、単なる支援者ではなく、元患者で、ハンセン訴訟原告の一員だったのだ。
だから、というわけでは決してなく、このCDは、ちょっとお勧めである。
作詞、作曲、ボーカル、ギターとも宮里さん自身によるもので、歌詞の中にも登場する吉田拓郎(まさか「グレイ」のTakuroじゃないでしょ?)の若い頃の歌などに似た、六〇年代、七〇年代フォークの雰囲気。
声の質なんかも含めると長渕剛などにも似た印象がある。
ハンセンのことを真正面から取り上げて歌ったりしていない。それがいいとか悪いとか言うつもりはないが、決して重く暗くなってはいない、ということはいえるだろう。これに関連するだろうが、ご本人は「私はハンセン病から解放されたい。私はハンセン病の中の歌ではなく、ハンセン病から出ていく歌を作りたい。」と述べている。
ギター、ボーカルの実力も、ちゃんと、プロフェッショナルだ。沖縄では「少しは」知られている存在だそうだから、当然といえば当然だろう(しかも、実は、ハンセン病の後遺症で、指に障害があるのだそうだから、そのギターの演奏技術の陰には、涙ぐましい努力が潜んでいるのだろう)。
僕が、このアルバムと前後して買った、もう一枚のCD、小田和正「自己ベスト」と比較しても、(音楽の傾向は、比較の対象にするにはふさわしくなく、相当違うが、)決して遜色はないのでは、と思う(もっとも、宮里さんを不当に持ち上げているつもりではないことをご理解いただくために、敢えて付け加えると「小田和正は、若い頃に比べて、声の質には衰えはないものの、声の伸びはなくなったのでは」、というのが「自己ベスト」を聞いての僕の印象なのだが)。
そんな次第で、僕からも、このCDを全国の団員にお勧めしたいと思う。僕が小田和正「自己ベスト」を買う遠因を作った、東京支部の後藤寛団員などにも、売上に協力してあげていただけると、誠に喜ばしいと思う(唐突に名前を挙げて恐縮だが、僕は、二〇年くらい前、同団員の影響でオフコースをよく聴く様になったのです)。
CDの購入方法については、以下のサイト
http://www5d.biglobe.ne.jp/~naoko-k/infoCD.htm
を見ていただければ詳しく紹介されているし、問い合わせ先は、熊本中央法律事務所(FAX 096・322・2573)とのことだ。
事務局長 中 野 直 樹
一 五月二〇日、表題記載の協議会の代表団九名が自由法曹団を訪れ、篠原幹事長と私が応接しました。同協議会は法律事務所など法律・司法関連職場に働く労働者で組織された労働組合の協議・共闘組織だとの自己紹介がありました。
この日の午前中に、日弁連にも同趣旨の要請をし、研修制度の創立に関し二万四〇〇〇筆の要請署名を提出したとの説明がありました。
この協議会の自由法曹団への要請は毎年積み重ねられているとのことです。昨年、団通信で紹介があったことに謝意が述べられ、今年も団通信を通じて、要請内容を全団員に告知してほしいとの求めがありましたので、次項で全文を掲載して紹介いたします。
二 要請項目
1 私たちが日弁連に要請した下記事項について、司法改革の課題として位置付けていただき、日弁連への働きかけなどご検討ください。
@ 全国統一のカリキュラムにもとづく、法律事務員「全国統一研修制度」の創立
A 近代的な職場づくりのために、「職場としての法律事務所」確立についての指針を策定すること
B 事務員問題についての事務員の代表者も含めた専門委員会の設置
2 法律事務所員の安易な解雇を許さないために、ルール作りや団支部・団員への啓蒙・宣伝を取り組んで下さい。事務所の維持・継続のための対策の研究を検討して下さい。
3 法律・司法関連業種が社会保険(健康保険・厚生年金)の強制適用事業所となるよう賛同・協力をして下さい。また、関係機関への働きかけをして下さい。
4 当協議会との懇談について、引き続き貴団通信などに掲載してご紹介いただき、要請内容についての団支部・団員への啓蒙宣伝を取り組んで下さい。
5 引き続き当協議会との懇談を継続することを確認してください。