<<目次へ 団通信1070号(10月1日)
愛須 勝也 | 敗訴者負担制度導入阻止を! ―「弁護士報酬敗訴者負担制度」反対大阪市民集会開かれる― | |
井上 正信 | 日朝首脳会談と有事立法問題 | |
毛利 正道 | 「STOP・ザ・イラク攻撃 日米首脳と国連に対する緊急署名」を開始しました | |
豊田 誠 | 篠原義仁幹事長の出版を祝う | |
後藤富士子 | 何のための弁護士自治? ―「弁護活動の自由」か「組織統制」か― | |
山本 真一 | 韓国・二中学生轢殺事件 国際署名運動にご協力を! |
大阪支部 愛 須 勝 也
七月一八日午後六時三〇分から、大阪弁護士会館で「弁護士報酬敗訴者負担制度にNOを!七・一八大阪市民集会」が開催され(「敗訴者負担制度に反対する大阪連絡会」、大阪弁護士会、司法改革大阪各界連絡会の共催)弁護士、市民で会場はいっぱいになりました。
冒頭、敗訴者負担制度に反対する大阪連絡会の結成が正式に確認され、大阪大名誉教授の甲斐道太郎先生ら四人が代表委員に就任されました。
続いて、主催者である大阪弁護士会を代表して松葉副会長からの挨拶があり、「敗訴者負担制度の導入は訴訟の現場を知らない者の議論であり、この問題は理屈の問題ではなく、政策の問題である」という指摘がされました。続いて、特別報告にたった主婦連副会長の清水鳩子さんは、「将来、お金がなくて裁判をすることを諦めなくてはならなかった人たちにも司法への門戸を広げるための司法改革だったはず。こんな制度が導入されれば、『司法改悪』になってしまう。」と訴えられました。
裁判当事者によるリレートークでは、報告者は異口同音に、「今でさえ、裁判に踏みこむには二の足を踏んでいるのが現実。こんな制度が導入されれば、裁判を起こせなくなる」と自らの経験に基づいてこの制度導入に反対を表明。尼崎公害訴訟原告団からは、「敗訴者負担は金持ちの理論。弱い者が強い者を訴えたときに『そんなら裁判をしてくれ』と言われる。『負けたら弁護士費用も覚悟してくれ』と言われたら裁判なんてできない。ますます強い者の横暴がまかり通ることになる。この制度は貧乏人泣かせ。金持ち勝って当たり前の制度だ。」と痛烈に批判。大阪HIVの訴訟原告団からは、「国や巨大企業との対決で、最後の切り札に訴えざるを得ない市民の手段を奪い取ることになる。」と。医療過誤訴訟の原告からは、「医療過誤では勝訴率が低い。裁判で負けるだけでもショックで、さらにその後に経済的な負担を負わされる」と、被害者が二重、三重の苦しみを負わされると批判。大借連からは「日本の裁判は損得だけで、人権の観点がない。制度が導入されれば、裁判する権利が侵害される」と訴え。仲立証券争議団からは、「日本は諸外国に比べて労働裁判が少ない。導入するとますます訴訟ができなくなる」とそれぞれの立場から敗訴者負担制度導入阻止を訴えました。
最後に集会アピールを採択し、敗訴者負担反対の声を司法改革推進本部にメールや署名で集中するための行動提起がされました。
財界、支配層の本音を剥き出しにした「司法改革」そのものである敗訴者負担導入をなんとしても覆すために、すべての団員が最優先の緊急課題として取り組むことが求められています。
【自由法曹団大阪支部ニュース二〇〇二・七・三一日号より転載】
広島支部 井 上 正 信
一、九月一七日の日朝首脳会談の結果は少なからず有事立法問題に影響が及ぶはずである。私は廃案のチャンスと見る。拉致被害者の死亡という悲劇的な結末から、北朝鮮はやはり危険な国であり有事立法が必要だとの意図的な議論が今後出てくるであろう。日朝首脳会談の結果に関する多くのマスコミの焦点の当て方からこのような流れが作られることが予想される。しかし平壌宣言を注意深く読めば、廃案を求める運動にとってチャンスと考えるのである。
二、平壌宣言は以下の通りである(重要な点をゴチック体で強調している)。
1、国交正常化早期実現のためあらゆる努力を傾注
二〇〇二年一〇月中に国交正常化交渉を再開
国交正常化に至る過程でも日朝間の諸問題に誠意を持って取り組む強い決意
2、過去の植民地支配へのお詫びと反省
国交正常化後の無償援助、低金利の長期借款などの経済支援、財産及び請求権の放棄
3、双方が国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認
日本国民の生命と安全に関わる懸案問題の再発防止の約束
4、双方は、北東アジアの平和と安定の維持強化へ互いに協力を確認
この地域に関係各国の間に相互信頼に基づく協力関係構築の重要性の確認、地域の信頼醸成枠組み構築の重要性の認識で一致。
双方は朝鮮半島の核問題の包括的解決のため関連する国際合意の遵守
双方は核問題、ミサイル問題を含む安全保障上の問題に関し、関係諸国間の対話を促進し問題解決を図る必要性を確認。
北朝鮮はミサイル発射凍結を二〇〇三年以降も継続する
双方は安全保障問題の協議を行う。
今回の首脳会談の交渉は「包括交渉」と称されている。あれこれの問題を入り口問題、前提問題にしない交渉スタイルである。北朝鮮との交渉スタイルとしては、九四年米朝枠組み合意に至る米朝交渉で採用された、「同時的措置」と称される交渉スタイルと同様なものであり、今回の「包括交渉」は賢明な選択であった(中央公論社「北朝鮮ー米国務省担当官の交渉秘録」参照)。
三、平壌宣言をどう評価するのか。マスコミは拉致された日本人の内八名が死亡していることをとらえて、成果を批判する論調が強い。国交正常化交渉をするなという意見まである。しかし拉致問題は国交回復を左右すべき問題ではない。これは、まず北朝鮮が犯した犯罪行為の真相究明と謝罪、再発防止、被害者への補償問題であり、国際法上は北朝鮮による明白な主権侵害であるからそれに対する原状回復問題である。金正日委員長は謝罪し再発防止を約束した(平壌宣言3項)。
私は十分評価に値すると考えている。一〇年以上にわたる国交正常化交渉で乗り切れなかった問題をここで解決し又はその道筋をつけたからである。それだけではない。拉致問題、不審船問題の再発防止を約束し、日朝間の安全保障問題の協議を立ち上げ、北東アジアの信頼醸成枠組みを展望し、これまで北朝鮮が拒否してきた日本を含む北東アジア六カ国協議にも金総書記は「参加の用意がある」と発言している。また宣言4項で、「核・ミサイル問題を含む安全保障上の問題について関係諸国間の対話を促進し」と米朝高官協議にまでふれているのである。ここでの「安全保障上の問題」とは核・ミサイル問題以外に何を含むかは文面からは伺えない。首脳会談でここをどのようにはなされたか不明である。いずれ時間の経過とともに明らかになるであろう。米国は核・ミサイル問題以外に、大量破壊兵器査察、ミサイル技術輸出問題、通常兵力削減問題を米朝高官協議の課題にしようとしている。北朝鮮はとりわけ通常兵力削減問題で強く反発するであろう。米朝間で交渉議題の食い違いがあることから曖昧な表現をとったのかも知れない。北朝鮮非核化のための米朝枠組み合意についても、「関連するすべての国際的合意を遵守」と述べている。枠組み合意に基づき、「重要な原子炉部品の引き渡しが行われる前に」北朝鮮はIAEAのフルスコープ査察を受けなければならない、と規定し、枠組み合意の秘密覚え書きで「重要な原子炉部品」の定義がなされている。北朝鮮の核問題を巡り、原子炉の基礎工事が始まった現在、北朝鮮が何時IAEAのフルスコープ査察を受け入れるかが大きな政治問題になっている。平壌宣言は具体的には書いていないが当然このことを想定しているはずである。
平壌宣言は、日朝二国間だけではなく北東アジア、さらにはグローバルな安全保障問題に両国が互いに取り組むことを宣言しているのである。今後日朝間では国交正常化交渉と二国間安全保障協議が車の両輪となって関係改善に進む道筋がつけられた。我が国は、平壌宣言により二国間だけでなく、北東アジア、米朝関係の平和的進展に政治的責任を負うことを公約したことになる。
四、有事立法問題との関係
現在提起されている有事立法は、第二次朝鮮戦争を想定していることは明らかであろう。八〇年代の有事法制中間報告の内容が、六三年三矢作戦研究で研究された有事立法に起源を有するし、現在の有事法制の出発点となった新ガイドラインが、第二次朝鮮戦争を想定して策定されたのである。また北朝鮮のミサイル問題や不審船問題が有事立法推進の絶好の口実とされた。平壌宣言は、これらの問題を日朝二国間の安全保障対話や米朝交渉、多国間対話で解決することを我が国の国際的責任としている。不審船問題は再発防止を約束しているし、ミサイル問題は今後の我が国や米国の関わり方で解決するであろう。有事立法制定の理由はますます希薄になった。それどころか、有事立法制定は、北朝鮮を敵視する政策を進めることに等しいものであり、平壌宣言を自ら葬るようなものである。
私たちは、平壌宣言で作られた政治的なチャンスを我々の力で生かしていかなければならない。憲法の平和原則を我が国の安全保障政策の基本に据えることができる可能性が作られるかも知れないのである。拉致被害者の被害感情だけを煽るようなキャンペーンにいたずらに流されるのではなく、今後の我が国と朝鮮半島、それを取り巻く北東アジア地域の平和の構築に向けた冷静な議論が必要である。有事法制問題はまさにこのことに関わる重大な問題なのである。
後記 私は平壌宣言を手放しで評価しているのではない。歴史問題を単に経済支援として曖昧な解決をすることは日朝両国民にとって不幸である。日韓条約で同様の処理をしたため、現在に至るまで戦後補償問題が提起され、日韓両国の間で真の友好関係が築きにくい状況にあることを、再び繰り返すことになることを懸念している。
長野県支部 毛 利 正 道
呼びかけ文
「STOP・ザ・イラク攻撃 日米首脳と国連に対する緊急署名」
信州からPEACEネットのHPhttp://su.valley.ne.jp/~nihei/spn.htmlでご署名下さい。
小泉内閣総理大臣様
アメリカによるイラクへの全面戦争に明確に反対する意思表示を一刻も早く行い、日本国として一切協力しないこと
ブッシュ大統領様
多くの新たな人命を奪う、イラクへの全面戦争並びにその計画を直ちに中止すること
国際連合事務総長様
アメリカによるイラク全面戦争の禁止・中止を求める総会決議を行うこと
アメリカがイラクへの全面戦争に今にも踏み切ろうとしています。私たちは、新たにおびただしい人命が奪われることを座視していることは決して出来ません。これをSTOPさせる上で、アメリカの同盟国日本政府の態度が決定的に重要です。国連でも総会決議なら可能です。そこで、昨年九月一八日以来の「一切のテロ・軍事報復ノー緊急グローバル署名」とは別に、上記三項目署名を数万数十万筆、日米両国首脳と国連に届けるために、すべての皆さんが一刻も早く立ち上がっていただくことを心より呼びかけます。 二〇〇二年九月一三日
信州からPEACEネット (代表・増沢彩絵子)
呼びかけ人 古謝朋恵(大学生)・金井理江(団体職員)・南條孝太朗(大学生)・二瓶裕史(行政書士)・増沢彩絵子(専門学校生)・毛利正道(弁護士)
連絡先 〒394-0028 岡谷市本町2-6-47 林百郎法律事務所
TEL0266-23-2270 FAX23-6642 メールmouri-m@joy.ocn.ne.jp
2 以下に、イラク攻撃反対署名ー第一集約分より寄せられた「ひと言」を掲載します(氏名と住所は省略)。
・私腹を肥やす産軍複合体にあやつられたブッシュ政権による国家テロに反対します。南北問題の解決こそがテロを根絶します。北風より太陽!
・アメリカの「一国主義」、日本政府の目に余る対米追随ぶりをやめさせるため、少しでもお役に立てれば、と思い、署名をお送りします。
・どちらもこれ以上一人でも犠牲者を出して欲しくありません。平和を心から願っています
・湾岸戦争の時の劣化ウラン弾での、奇形・疾病の多発、栄養不足・医薬品不足による乳幼児の死亡。こんな国に大量爆撃するのは人道に反する。
・アフガニスタン一般人の視点で、米国が何をしたのかを考えてほしい。
・人は殺し殺されるために生まれて来たのではありませんから。
・これはとめられる戦争です。とめなくては。
・この世で起こっていることは、すべての「私」の心の反映だと思います。世界中のひとりひとりの心に平和が訪れますように!
・できるだけ多くの人にこの署名を知らせたいと思います
・ブッシュの描いてみせる現在のイラクの姿は、第二次大戦中の日本と変わらないではありませんか。もし、日本人が、「あのとき、アメリカに原爆をおとしてもらって、よかった。無差別な空襲を受けてよかった。おかげでファシスト政治から解放された」と言えるのでないかぎり、日本が対イラク戦争に加担することは、どこから見ても間違ってないか?
・ひとりひとりが声をあげていくことの大切さを痛感する毎日です。
・愚行のつけを払うのは子どもの世代である。国境の意味は経済にしかない。国をやめよう。
・力で人は抑えられません。これ以上、争いで失われる命が増えませんように。
・どんなに嫌な相手でも、犯罪を犯さないかぎり罰を与えるのは絶対におかしい。また民間人の犠牲者ばかりを増やし、世界を更に泥沼に引きずり込む行為はやめてください。
・いつも、自分にできることを模索していますが…。このような運動をたたえる限りです。
・たしかに無関心でいることに憚られる事態です。署名の主旨に全面賛同します。
・アメリカのイラク攻撃絶対反対!全世界の平和を願う声でアメリカの無謀な政策を包囲し、平和的解決の手段を選択させましょう
・どんな理由があっても多くの人々の命を奪う軍事活動は許せません。平和と言うものは暴力からは生まれません。イラクを攻撃する様な事が起こればまた新たな憎しみが生まれるでしょう。今すぐには無理かも知れないけれど、平和への道は他にあるはずです。
・もうこれ以上のアメリカの横暴は許せません。
・戦争が起こらないことを祈ります。
・殺人は犯罪ですよね。イラク攻撃反対署名運動がんばってください。
・アメリカは好きな国ではあるのですが、「自分が世界の中心だ」と思っている部分には以前から不快感を持っていました。反テロがどうしてイラク攻撃に変わってしまったのかも良くわかりません。すぐに武力行使をしてしまうアメリカを止めないと、核戦争にだっていたってしまうかもしれないと考えます。非力な私の一署名ですが、何かの力に参加できればと思います。頑張ってください。
・戦争が、人の意思で行われるものなら、人の意思で止めることもできるはず。
・そんなに戦争が好きなのか?とブッシュ大統領に聞きたいくらいです。なんとかして、全面戦争をやめさせなくては。
・テロは許されざる行為だが、戦争では解決できない。テロもそうだが戦争で犠牲になるのは罪のない市民。悲しみと憎しみを生むだけだ。
・本当のテロ国家はアメリカです。無秩序なアメリカイズムの押しつけは世界を混乱させる元です。
・ブッシュの政策は行き過ぎだ。誰かが止めなければ平和が保たれなくなる。今が平和な世の中かと言われれば疑問も生じるが、今の平和を維持する為にも、また今以上の平和を得るためにも、イラク攻撃は決してしてはならない。
・いかなるテロ行為も、いかなる戦争も、そしていかなるサービス残業もこの地球上からなくなることを切望いたします。
・戦争は、人々の気持ちを必ず悲しむ事にさせる。
・これ以上、罪のない人が殺されたり家族を奪われたり大事な人を奪われたりするのは、もうたくさんです。アメリカの大統領は家族や友人を失った人々の悲しみを、自分の利益の為に利用しようとしているようにみえます。それは、許し難い事です。
・イラクの人犠牲が出ないよう心より祈ります。
武器の売却の経済効果より生命大事。ブッシュ大統領の英断に期待します。
他、多数。
東京支部 豊 田 誠
八月五日、川崎で、篠原幹事長の著作「自動車排ガス汚染とのたたかい」の出版を祝う集いが催された。東京大気公害裁判の判決言渡期日が、一〇月二九日に指定されたこともあって、出版を祝うこの集いは、一八〇名の患者、運動体、弁護士、専門家の参加を得て、さながら東京大気判決前決起集会のように盛り上がった。
実行委員会を代表しての開会あいさつを、以下に転載し、著作の推薦にかえたい。
出版記念レセプションにご臨席のすべてのみなさんに、実行委員会を代表してお礼申し上げます。同時に、みなさんとともに篠原義仁弁護士の出版のよろこびを共有しあいたい。
篠原弁護士は、公害裁判の申し子、公害被害者たちからの申し子のような、公害と闘う弁護士です。私はこの機会に、この本を読んだ篠原弁護士の歩みの一端を紹介したい。
彼の生まれ育った群馬県桐生市は、足尾鉱毒事件の渡良瀬川沿岸の街です。幼少の頃から、語りつがれる足尾鉱毒の話を耳にしながら成長してきたようです。彼は司法修習生時代から、安中公害に飛び込んでいったのです。当時私は、イタイイタイ病に取り組んでいましたが、威勢のいい修習生がいるものだと感心したものです。
一九七二年一月、全国公害弁連を結成。私は初代の事務局長でしたが、彼は事務局次長として文字通り中心的な役割を担い、公害裁判の前進と発展に重要な寄与をしてこられたのです。
公害弁連が取り組んだのは、公害裁判だけではありません。七六年からの全国公害総行動、七九年からの日本環境会議等、被害者集団の共同・連帯、専門家集団の総結集にも篠原弁護士は深く関わってきました。八四年の水俣病全国連の結成に引き継いで、八七年には大気全国連が結成され、篠原弁護士はその事務局長に就任する。四日市公害裁判が大気汚染訴訟の第一弾であるなら、大気全国連結成後の大気汚染訴訟は、その第二弾であり、本番です。大気汚染訴訟の全国的連帯による、巨大企業、国(道路も)との対決、決戦の歴史が始まったのです。
本書の特徴はなんといっても、篠原弁護士が彼自身の実践を通じて、終始冷静に運動の展開(裁判の前進)を記述していることです。私たちの到達点はどこか、現状の情勢と見通しはどうか、何をどう実践するか、運動の論理が当然のごとくにひとつひとつの節目で整理されていることは驚きです。その意味では、学習の素材としても格好の著作です。
この著作では、弱音を吐いていないことが、唯一の弱音なのかも知れません。おそらく、様々な困難や矛盾があったに違いないのですが、「病気の身体を押して原告団が奮起したから勝利した」のだと、実にさりげない。運動の経過を見ると、例えば、「一〇〇万署名」という六文字の背後にどれだけの汗苦があったか想像がつく。この著作に記述された膨大な運動の量と質に思いをいたすとき、まさに「病気の体を押しての原告団の奮闘」こそが、困難や矛盾を克服する鍵であったことが、わかろうというもの。「あの手」「この手」の手ではないことを鮮明に描き出しているように思うのです。
篠原弁護士には、公害患者、弁護団、支援へのかけがえのない贈り物をいただいたと、あらためて、その労苦をねぎらいたい。
最後に、東京大気裁判の判決を目前にした現在、多くの患者や支援の方とが、この本をテキストにして学習会を開催し、東京勝利へのエネルギーを爆発させていただくことを切望する。あわせて、労働問題をはじめ、各種の人権課題に取り組む弁護士にとっても、裁判と運動の関連について認識を深める上で、素材を提供しているので、広く読まれることを期待するものです。
東京支部 後 藤 富 士 子
1 司法審意見書が求める「弁護士懲戒制度の改革」
司法審意見書は、Vの「司法制度を支える法曹の在り方」の第三「弁護士制度の改革」の六「弁護士会の在り方」の(2)「弁護士倫理等に関する弁護士会の態勢の整備」という項目の中で、「綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化」のための見直しを求めている。
これを受けて、日弁連では、本年二月の臨時総会で執行部の改革案が採決された。その中でも焦点となったのは、司法審意見書が「懲戒請求者が綱紀委員会の議決に対する異議申出を棄却・却下された場合に、国民が参加して構成される機関に更なる不服申立ができる制度の導入」を求めていることに関して、「綱紀審査会」を新設することである。これについて、議案書では、「市民が参加して構成される『綱紀審査会』を日弁連に設置する。綱紀審査会が、懲戒委員会の審査に付することを相当と決定した場合は、日弁連綱紀委員会が再検討し、懲戒委員会の審査に付するか否かを決定するものとする。」とされている。すなわち、日弁連の構想では、「綱紀審査会」は「市民参加の構成」で「議決に拘束力がない」というものであった。
なお、「綱紀審査会」の構想は、司法審において、「懲戒請求者が綱紀委員会の議決に対する異議申出を棄却・却下された場合に、司法審査(出訴)ができるようにすべき」という主張がなされたのに対し、弁護士自治の見地から「とにかく司法審査は回避したい」という思惑で久保井会長が審議会席上表明したものであった。
この経緯からも判るように、「綱紀審査会」は、市民社会から求められている「綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化」に正面から応えようとして提言されたものではなく、「弁護士自治」に藉口した「日弁連の保身」から苦し紛れに提言されたものにすぎない。日弁連の構想による「綱紀審査会」が新設されたからといって、「綱紀・懲戒手続の透明化・迅速化・実効化」には殆ど効果がないことは、まともな知性をもつ者であれば判ることであろう。
2 「透明化・迅速化・実効化」のためには構造改革が必要
私は常々、日本の弁護士が本当に日本国憲法を理解しているのか疑問を抱いてきたが、現行懲戒手続について、さしたる疑問ももたれず、外圧によって見せかけのアリバイ的「改革」に終始してきたところを見ると、絶望的になる。
現行弁護士法で弁護士に対する懲戒権を弁護士会が掌握することになったものの、懲戒手続そのものは、戦前の刑事手続=予審制度に準じて設計された戦前の懲戒手続を踏襲しているのではないかと思われる。予審制度では、非対審主義・書面主義・非公開主義という糾問主義的諸原理によって運用されており、予審に関係する全資料が公判裁判所に引き継がれ、実際には「公判は予審の繰り返し」と化していた。現行綱紀委員会手続が予審に相当し、懲戒委員会手続はまさに綱紀委員会手続の繰り返しである。このような手続の構造を改めないで、懲戒請求人が綱紀委員会の議決に対する異議申出を棄却・却下された場合に「綱紀審査会」を設けて更に屋上屋を重ねたところで、どれだけの意味があろうか。
ちなみに、臨時総会議案書資料(九八〜〇〇年)によれば、単位会綱紀委員会の議決のうち八五%前後が「懲戒審査不相当」とされており、これに対する日弁連への異議申出は四〇〜五〇%超、そして、九九年の例では、日弁連への異議申出二〇三件のうち取消一件、却下一件で、その余は棄却である。この実情からすると、「綱紀審査会」は、年間数百件(二〇〇〇年の異議申出件数は三八二件)の事件を審査しなければならないと予想される(日弁連へ異議申出した懲戒請求人は綱紀審査会へも不服申立をするであろう)。そして、「綱紀審査会」が「懲戒相当」の議決をすると、単位会懲戒委員会に付されることになる(検討会では、綱紀審査会の議決に拘束力が認められた)。しかし、現行制度のままでは、懲戒委員会手続は綱紀委員会手続の繰り返しなのだから、実情からすれば、懲戒委員会で「懲戒相当」の結論がなされることは極めて希であろうと思われる。そして、「綱紀審査会」の議決により単位会懲戒委員会に付されて「懲戒不相当」とされると、これに対し、日弁連懲戒委員会に異議申出をすることになり、日弁連懲戒委員会が「懲戒しない」との議決をするとようやく確定するのである。
しかしながら、これだけ何重にも不服申立の機会を与えたところで、懲戒請求人にしてみれば、自ら手続に関与することも傍聴することすらもできないのだから、満足するはずがなかろう。そうなれば、自らが当事者となって公開の手続で決着つけたいと望んでも不思議はない。すなわち、裁判所の司法審査である。そして、「法の支配」という理念からすれば、全くもって正当な要求というほかない。
かように、「綱紀審査会」の新設をもって改革だなどと主張するのは、欺瞞以外の何物でもない。市民社会から求められている「透明化・迅速化・実効化」という改革の指針に照らすと、「綱紀審査会」新設は、透明化にも実効化にも資さないだけでなく、迅速化に著しく逆行するのだから。
「透明化・迅速化・実効化」のための制度設計を考えると、懲戒委員会の手続を民事訴訟手続に準じて、懲戒請求人を当事者として関与させ、被審査人弁護士には刑事手続に準じた手続上の権利保障をし、当事者主義の対審構造にして、公開することである。そして、綱紀委員会は、訴状審査のような、懲戒委員会の審議を開始できるようにする下準備に限定し、より多くの労力を「綱紀保持」のための活動に充てるべきである。
このような制度になれば、不真面目・無責任な懲戒請求は激減するだろうし、誣告的懲戒請求に対して弁護士側が有効な防御活動ができるであろうし、何よりも、懲戒請求人にとっても被審査人弁護士にとっても、手続的納得が得られるであろう。なお、「公開」については、臨時総会において質問したところ、水野副会長の答弁は「弁護士が嫌がる」というものであったが、本年七月四日東弁懲戒委員会で「退会命令」の処分を受けた桑原時夫氏は、その処分の不当を訴えて、議決書を公にしていることを見ても、不見識な答弁であると思う。いうまでもなく、「公開」原則は、手続が適正に行われているかを監視するためのものなのである。
3 「組織統制」のための「弁護士自治」などいらない
前記桑原氏の議決書を見ると、懲戒請求人は東京弁護士会(本会認知事案という)であるが、それでも「懲戒請求事由」が明確とはいえない。刑事裁判であれば、冒頭、訴因に対する求釈明で紛糾するに違いない。そして、懲戒委員会が「退会命令」という重い処分を導いた事実認定も、まことにひどいもの(非弁提携という非行事実について証拠により証明されているのは五〇〇〇件ともいわれている受任事件の僅か四人のことである)だと私は思う。この議決書の問題点を一言で言えば、「不告不理の原則」が存在しないということである。仮に、桑原氏が何らかの懲戒処分を受けるべきであるとしても、少なくとも本議決書に限って論評したとき、認定された懲戒請求事由で「退会命令」という処分を正当化できないと思われる。
それにもかかわらず、このような処分がなされたのは、弁護士会の懲戒手続について市民社会から厳しい批判を受けていることが影響していると思われる。懲戒委員会委員たちは、市民社会の批判に応えて構造改革することを拒み、代わりに「厳罰に処する」ことによって批判をかわそうとしているとしか思えない。そうなると、桑原氏はスケープ・ゴートに見えてくる。また、議決書の「被審査人に多重債務者に向けられた高邁な理想があるとすれば、それは、非弁提携によることなく、弁護士主導で債務処理を実施する方策を、前記弁護士会の活動に参画し志を同じくする会員と手を携えて追求していくことによって実現されるものであり、この点で被審査人は方向性を誤ったといわねばならない。」というくだりを見ると、個々の弁護士の「弁護活動の自由」を尊重するのではなく、弁護士を弁護士会の統制の下に置こうとしているように見える。桑原氏について一三〇件余の苦情申立がなされたというが、本件ではそれらの苦情の実質が懲戒請求事由として顕れていないうえ、懲戒請求人が弁護士会であったことからしても、そのような感を強くする。
私の理解によれば、弁護士自治は、個々の弁護士の「弁護活動の自由」を保障するためのものである。しかるに、安田弁護士への刑事告発、本庄保険金殺人事件国選弁護人に対する検事からの懲戒請求、私が代理人をした懲戒事件(現在日弁連に審査請求中)等々を見ると、「弁護活動の自由」が危機に曝されている。それにもかかわらず、「弁護士自治」の形骸を墨守しようとする日本の弁護士を、私は信用しない。
東京支部 山 本 真 一
今年六月一三日、各国のソウル近郊の町で二人の女子中学生がアメリカ軍(第二師団第四四工兵隊所属)のキャタピラ付の架橋用装甲車(総重量五四トン)にひき殺されました。当初、アメリカ軍は公務中の単なる事故だとして処理しようとしました。具体的な原因も明らかにせず、責任者の処罰もせずにわずかな見舞金で幕引きしようとする、アメリカ軍の横暴な態度に韓国国内では国民の怒りが爆発したとのことです。
現場は地域の通学路にもなっている片側一車線の一般道路。道幅は約三・三メートルだとのことです。一方、装甲車は幅三・七五メートルで、車線から四五センチもはみ出す車でした。この装甲車が何の警告もなしに一般道路を疾走して、対抗車線の車(戦車?)とすれ違うために道路端に車を寄せ、そこにいた二人の女子中学生(それぞれ一四歳)をひき殺したというのです。死亡した場所の少し手前の草むらに一人のはいていた靴が残されていたので、装甲車に気付いた二人は必死に逃げたようです。しかし逃げ切れず、車は二人をペシャンコに押しつぶしてしまいました。運転手が二人に気がつかなかったことは想像できませんから、ほとんど意図的な殺人とも言えそうです。
米韓地位協定では公務中の事故に関してはアメリカ軍に裁判権があるとされているため韓国側は捜査すらできない状態でした。世論の激しい非難の中で、七月一〇日に韓国政府はアメリカに裁判権の放棄を申し入れましたが、アメリカ軍はこれを拒否し続けています。
さらに運転手の上司である部隊長や師団長も早々に帰国させてしまいました。
この韓国国民を人間とも思わないようなアメリカ政府とアメリカ軍の行動は、まさに有事法制が一般国民をどのような立場に置くことになるかを実によく示していると思います。我々にとっても人ごとではないと思います。
「真相究明、米軍責任者の拘束と処罰、ブッシュ大統領等の謝罪、米軍基地の閉鎖」を求める国際署名活動が提起され、一〇〇万人を目標に活動がはじまりました。韓国内ではすでに六〇万人の署名が集まっているそうです。在日韓国人の人々もこの活動に協力し始めました。是非関心をもっていただき、ご協力のほどお願いします。
署名用紙の取り寄せ先は山本まで(FAX03-3353-5487)。