<<目次へ 団通信1227号(2月11日)
一 石播全事業所での和解成立
二〇〇七年一月一九日、石川島播磨重工業との間で、思想差別・不当労働行為の再発防止協定と併せて、東京、武蔵、横浜、愛知、相生、呉の六事業所の労働者一六八名(以下申告者)との間で全面的和解が成立した。
二〇〇四年三月に武蔵事業所の原告らは、東京地裁で、武蔵原告団以外の差別を受けている労働者から差別の是正のための申立があれば、会社は誠実に協議に応ずるという和解を成立させていた。この和解条項に基づき、申告者に対する思想差別・女性差別の是正と損害賠償、および再発防止を求めて、この間約二年半、弁護団と原告団とは会社と自主交渉を重ね、二〇〇六年三月には、全事業所の一六八名の申告者らが石川島播磨に統一要求書を突き付け、そして、徹底した再発防止協定を締結させ、和解を成立させたものである。自主的な交渉を通して、抜本的な解決を見たもので、このような和解は前例がない。一九六〇年代後半から各事業所で差別と不屈にたたかいぬいてきた蓄積があったからこそ、全事業所から一六八人もの申告者が立ち上がることができたものである。
二 差別・迫害の実態ー思想調査とこれに基づく差別的労務管理の全面的な展開
石川島播磨は、労務管理及び職制機構並びに会社が育成した「インフォーマル組織」をフル稼動させて(時には警備公安警察とも情報を交換しあいながら)、従業員のプライバシーを蹂躙してその思想信条を探索(いわゆる「政治地図」の作成)し、社内における日本共産党員及びその支持者をあぶり出し、その政治的傾向に応じてランク分けした名簿を完備・更新しつつ、日本共産党員ないしその支持者として把握した申告者らを石川島播磨の恒常的な監視下におき、差別的労務管理の対象者とした。
差別のための極秘計画
1 ZC(ゼロ・コミュニスト 日本共産党員撲滅)計画
近年明るみになった「ZC計画管理名簿」及びこれに関連する社内資料(ZCとは、ゼロ・コミュニストすなわち共産党員撲滅を意味する隠語である)によれば、平成一二年六月当時、石川島播磨が前記のようにランク分けして差別的労務管理の対象とされた者は全社六地区(東京、武蔵、横浜、愛知、相生、呉)で合計二五九人(内、「A級」登載者は一四二名)にも上り、当時石川島播磨に在籍していた申告者らは一様に名簿登載者(しかもその殆どが「A級」登載者)として取り扱われていることが明らかとなった。
2 個別管理計画
これも近年明るみになった「個別管理計画」及びこれに関連する社内資料によれば、平成七年当時、石川島播磨がランクAないしBとして格付けた共産党員(全社で一九七名と把握されている)について、定年時までの職能等級を他の従業員と差別し、極めて低位に抑える方針を作り、その内、「年齢,職能等級からみて将来の昇進の可否を検討する必要がある者(全社で八五名)」を抽出して、平成七年から定年時に至るまでの人事考課・昇進管理に関する計画を各人毎に作成するよう本社人事部が各地区労務担当者に指示していたことが判明している。
この指令に関して本社人事部が作成したサンプルでは、ある労働者について、平成七年から定年退職となる平成二八年まで各年毎の人事考課の内容と定年時に到達する「最終職能等級」が示されており、一旦思想差別の対象にされてしまった労働者は、その後どれだけ努力しても常に劣位に処遇されることが宿命付けられていたことが明らかになったのである。
三 石川島播磨による思想差別の是正を求める職場活動家らのたたかい
1 一九七六年、申告者らを含む二三名が、東京地方労働委員会に対して賃金・昇格差別の是正を求める不当労働行為救済申立に及んだ。
一九八五年から八六年にかけて、申告者らの四名が東京地裁に不当労働行為等を理由にする配転命令無効確認訴訟を提起した。
一九八七年、申告者らを含む一一名が、東京地方労働委員会に対して出向命令と懲戒解雇の撤回を求める不当労働行為救済申立に及んだ。
一九九八年九月二五日、中央労働委員会において、石川島播磨と前記三事件の申告者及び原告らとの間で、前記三事件を一括解決する和解が成立した。
2 二〇〇〇年、武蔵地区(田無工場,瑞穂工場)在籍の職場活動家ら九名(後に一名が取下)が、東京地裁に思想差別の是正と賠償等を求めて損害賠償等請求訴訟を提起した。二〇〇四年三月二二日、東京地裁で画期的な和解が成立。石川島播磨において、(1)原告らに対し、遺憾の意を表明し、公正な人事管理を行うこと、(2)コンプライアンス・ガイド教育を実施し、職場で一部従業員が疎外されることがないように働きかけること、(3)原告らの職能等級を変更し、過去の差額賃金と和解金を支払うこと、などを約する和解である。
3 前記の数次にわたる和解の成立にもかかわらず、石川島播磨における「反共労務政策」はなお堅持され、職場では思想差別の根絶とはほど遠い状況が残存していた。他方、武蔵裁判和解では、石川島播磨は差別の訴えがあった場合には和解の精神を踏まえて誠実に対応する旨約していたことから、本件申告者らは、思想差別の根絶と謝罪・賠償と反共労務政策を止めることを求めて、石川島播磨との間で交渉を行ってきたものである。
四 和解の特徴
一番の特徴は、会社が差別的な人事管理が行われていたことを認め、思想差別について明瞭に「反省」の意思を明らかにしたことである。併せて思想差別・女性差別を再発させない労務政策を約束させたことは、これまでの労務政策を変更することを明言させたものであり、文字通り画期的な意味を持つ。
不当な人事考課、仕事の取り上げ、および職場行事からの排除など、職場における「やってはならない差別行為」を詳細に明らかにし、これを管理職、職制をはじめすべての労働者に周知、徹底することを約束した。さらに、職場行事については、すべての職場労働者に声かけを励行することを約束し、声かけをしない従業員と団体には、その行事の中止勧告と便宜供与の禁止措置をとることも明らかにした。
和解の二番目の特徴は、差別の是正の徹底である。在職者四四名の職能等級、基準賃金、退職金本給を抜本的に是正させ、退職者を含めて過去の賃金差別と人権侵害の損害賠償をさせることにより、基本的に石播にその責任を果たさせることができた。またこの和解で、差別した査定を口実に拒否された再雇用の復元、隔離を目的にした出向の解除、見せしめで取り上げられた技術職への一六年ぶりの復帰なども実現することができたことは、今後、職場における自由な人間関係を確立するうえで極めて重要な成果である。
そのうえ、和解の履行について疑義が生じた場合は、会社は協議の場を速やかに設け、誠実に対応することを約束した。和解の履行を監視し、正常な労使関係を確立する上で、大きな力を発揮するに違いない。
東京支部 笹 本 潤
一月二〇〜二五日にかけてケニアのナイロビで世界社会フォーラム(WSF)が開催された。財界や政治家が集まる世界経済フォーラム(ダボス会議)に対抗して世界の市民が「もう一つの世界が可能だ」を合言葉に二〇〇〇年から南米、アジア、アフリカで計七回開催されてきたものだ。国際法律家協会(JALISA)では、国際交流NGOピースボートと共同して、WSFでグローバル九条キャンペーンを展開した。九条国際署名と分科会の開催、グローバル九条キャンペーンの宣伝と多彩な活動を展開した。
九条国際署名は、戦争放棄と戦力の禁止を定めた九条を支持し、世界各地で戦争放棄と軍縮に向けた九条の原則を取り入れていこうというもので、フォーラム開催中に私たち八人だけで約九〇〇の署名を集めることができた。地元のケニアの人が最も多かったが世界各地の人が、自分の方から私たちのブースにやってきて、何をやっているのか興味深そうに見に来る。「Do you know Article-9 of Japanese constitution?」という質問をすると、たいていの人は九条のことを知らない。九条は「No war, no military constitution」だと説明していくと、真剣に話を聞いてくれ、会話になり、次々と署名してくれる。それが延々と途切れることなく続く。横断幕とノボリを持って宣伝に出ると「私たちは何をすればいいの?」と言われ、ブースを案内しては署名してもらう、ということの繰り返しで、赤道直下の強い陽の中ではものすごい肉体労働だった。
アフリカの人たちは何を求めているのだろう。世界社会フォーラム全体としては、途上国に対する債務の削減や貧困対策などが大きいテーマであったが、九条との関係で言えば、アフリカが武器の市場になっていること(特にヨーロッパからの)を訴える人が多く、また隣国のソマリアなどの武力衝突が多いことに対する不安、怒りが署名活動を通じて感じられた。あるケニア人は、「アフリカには武器が多いから九条の考え方を支持できる」というし、「アフリカは利益を全部他国に持って行かれている、日本は自動車産業が発達していていい」というケニア人に対して「日本には九条があるから軍需産業があまり発達しなかった」というとうなずいてくれたりする。また「本当に九条の会のようなネットワークをつくりたい」というウガンダの青年もいた。軍隊については、「ケニアの軍隊は海外にばかり行って、国のためにはならない、だからいらない」というケニア人もいた。
分科会はのべ八〇人くらいの参加があったが、ほとんどが外国人特にアフリカの人が多かった。署名で声をかけた人もかなり来ていた。パネラーは、国法協の梅田弁護士、韓国の参与連帯のイ・テフンさん、コスタリカのロベルト、司会がピースボートの川崎さんというメンバー。討議ではアフリカの参加者からはアフリカでこそ九条が必要という声があったり、九条の運動が核兵器や武器の廃棄まで要求していることなどの紹介、世界各地で九条の会を作っていくことで非武装の運動も広まることなどが強調された。
アフリカでは九条の持っている豊富な意味が感じられた。戦力の保持の禁止まで要求する徹底した戦争放棄の条項である九条が、非武装の世界のための指針になり、武力によらない平和を作っていくための指針としての普遍的な意味合いが確認された。私たち日本の市民は、もう一度九条の持っている意味を再確認し、憲法を守る運動に生かしていくべきではないかということが実感される。非核三原則や武器輸出三原則なども九条があるからこその政策であったし、海外で戦闘地域に出兵しない、武力行使出来ないことなども、自信を持って語ることができる。
来年の五月に日本で開催する九条世界会議の実行委員会が立ち上がった。九条世界会議では、現在海外にあるバンクーバーやジュネーブ九条の会からの参加もあるし、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア各地域からの九条に対する声を聞くことができる。
自由法曹団としても今年は、(1)三月の東南アジアキャンペーン、(2)五月集会でのグローバル九条キャンペーン関連の分科会、(3)一〇月NLG総会(ワシントンDC)での分科会開催などいくつかの取り組みを予定している。この機会に一度は海外に行ってみて、海外の声を聞いて九条に対する思いを実感するのもいいのではないか。
この度、(株)スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー!)を被告とするアンテナ設備建設差止訴訟を提起するに至ったので、簡単にご報告させて頂きます。
〔ことの発端〕
平成一八年六月、スカパー!は、(株)竹中工務店からその所有する江東区新砂一丁目の土地を賃借し、同土地上に新しい放送センターを建設して、同センター屋上にCS放送用の送信用大型アンテナ一二基及び受信用中型アンテナ六基を設置するという計画を明らかにしました(新放送センター建設の着工は平成一九年一月、竣工は翌二〇年三月の予定)。
上記計画の趣旨は、スカパー!側の説明によれば「重複するコストの削減及び大規模災害時の事業リスク対策の強化のため」、現在は都内三カ所に分散している放送センターを上記新放送センターに集中させるというものです。将来的には、新放送センターがスカパー!の業務の中心拠点としての役割を担っていくこととなるわけです。
そしてこの計画で度肝を抜くのは、屋上のアンテナ群です。直径約八Mもの巨大パラボラアンテナが一二基、そして直径三Mの中型アンテナが六基も設置されるというのですから、その光景たるや想像を絶する異様さです。ちなみに、こんなに数多くのアンテナが集中して設置されている放送設備は、日本国内にも他に例がありません。そして、右一二基の送信用アンテナからは、一四ギガヘルツという極めて周波数の高い電磁波(マイクロ波)が複数の放送衛星に向かって常時発せられるというのでした。
〔建設予定地選択の不適切さ〕
本件の最大の問題は、新放送センターの建設予定地が、地下鉄東陽町駅から徒歩五分程度の街中にあるということです。周囲にはマンションや社宅、オフィスビルなどが多数建ち並び、図書館や教育センター、運転免許センター等の公共的施設も存在しています。そしてなにより、建設予定地のすぐ隣りには、同じ竹中工務店の施工・分譲による大型マンション(ファミリータウン東陽・七七七戸)が建っているのです。
このマンションのうち最も建設予定地に近い棟の場合、建設予定地との間の距離はわずか三〇Mしか離れていません。このような至近距離に五階建ての新放送センターが建ち、その上に巨大なアンテナが立ち並ぶこととなるのですから、マンション住民の不安は相当なものでした。今後ずっとアンテナ群を自宅の窓外に目の当たりにしつつ生活せざるを得ないのか、日照の問題は生じないのか、そして昨今話題の電磁波の問題は生じないのか? そもそもどうしてこんな住宅地の真ん中に、巨大アンテナが林立する設備を建てなければならないのか!?
不安に思った住民の有志は、計画発表直後からスカパー!側に情報開示と説明を求めましたが、スカパー!は自らは正面に出てこようとせず、住民との折衝をすべて竹中工務店に任せるという姿勢をとりました。また、竹中工務店側も、「設備は安全」「法的基準は遵守した計画になっている」という抽象的な説明に終始し、住民側の疑問に正面から答えようとはしませんでした。
このようなスカパー!・竹中工務店の対応に、住民の不安がますます募ったことはいうまでもありません。また、そもそも自分たちの居住するマンションを施工・分譲した当の竹中工務店が、このような計画のために自社の土地をスカパー!に安易に提供するという行為それ自体にも、住民は深い憤りを感じました。「建築最大手の竹中工務店ともあろうところが、自社の収益のために周囲の住環境を全く無視した計画に加担するというのか!」と、竹中工務店の企業としての社会的責任を問う声も多く挙がりましたが、当の竹中工務店の姿勢は全く変わりませんでした。しかもこの間の同年九月には、竹中工務店が敷地整備計画(ボーリングによる地質調査等)を行い、実質的な工事着工に踏み出したのです。
当事者間での折衝に限界を感じた住民は、同年一一月に東京都に陳情書を提出すると共に、あっせん調停の手続を申し立てました。しかし、以後二回開かれた調停の場においても、スカパー!・竹中工務店側の説明は抽象的なものに留まり、計画の安全性を担保するような具体的資料は何ら提出されないまま、議論は平行線を辿りました。しかも同年一二月中旬には、スカパー!から新放送センターの建築申請がなされるに至り、建築計画の実現がいよいよ間近なものに迫ってきました。
ことここにいたって住民は、これまでの運動だけでは事態は変わらないと考え、当事務所にご相談にみえました。そこで所内で弁護団が組まれ、住民から一〇数名の原告団が選出されて、本年一月一九日、アンテナ設備建設差止訴訟を東京地裁に提起するに至ったのです。
〔ところで電磁波とは〕
本件では日照や景観の他に、電磁波による健康被害が問題となるということが特徴的ですが、差止め訴訟を担当することになった所内の弁護士五名のうち、電磁波問題についてきちんとした認識・知識を持っていた者はおりませんでした。
なにせ近年ようやくその影響が問題視され始めた分野であり、資料も充分かつ容易に手に入る訳ではありません。しかし、それこそ手探りで問題を研究していくうちに、各国で幾多の疫学的研究・論文(電磁波が小児白血病、脳腫瘍や各種ガンの発症リスクを高めるとするもの、DNAに損傷を与えるとするもの等)が発表されていること、日本の規制基準は諸外国のそれと比して相当緩い部類に入ること、日本では電磁波の危険性に関する情報が全く周知されておらず「野放し」に等しい状況であること等が少しづつわかってきました。また、北九州では既に携帯電話の中継塔設置に反対する多数の訴訟が行われていることを知り、当該弁護団の先生にご連絡して訴状や資料を参考にさせて頂きました。
〔そしてこれから〕
住民有志の方々からなる「スカパー巨大アンテナに反対する住民の会」では、これまでのようにスカパー!本社周辺でのビラまきや、マンション内部での地道な宣伝活動等を続けつつ、引き続きスカパー!・竹中工務店を住民運動で包囲すべく頑張っています。非常にわかりやすいホームページ(http://www.geocities.jp/kotofamily2006/)も作成されて、今後は地域のより広い範囲での署名活動も始めるとのことです。
この点、原告・住民の方々が自分たちの住環境のことだけを考えて行動しているのではなく、長期的視野に立って新放送センター建設の影響を懸念しこれに反対していることに、私はいつも感心させられています。「孫子の代までこの土地で安心して住めるように」「この問題はうちのマンションだけでなく、東陽町全体の問題」というような発言を多くお聞きするたびに、そういう思いこそが皆さんの運動を支える柱になっているのだと、深い感慨を覚えます。
「二一世紀の公害」ともいわれる電磁波問題と併せ、被告企業の知名度の高さも手伝って、社会的影響の大きな訴訟となると思われますが、我々弁護団も原告・住民の方々の励ましを頂きつつ、これからの訴訟を押し進めていく所存です。(ちなみに弁護団は榎本武光・鳴尾節夫・中村欧介・高木一昌及び私の五名です。)
千葉支部 中 丸 素 明
一月一六日、安倍首相は「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度の導入断念を表明した。しかし、なおも予断を許さない情勢にあり、激しい攻防戦が繰りひろげられている。これを機に、労働法制の反動的再編を阻止するための千葉県における取組みを紹介させていただく。
前段階での活動
八〇年代半ばから、労働者派遣法及び雇用機会均等法の制定などの動きが始まった。この情勢の下で、千葉県では、学者、労働組合、弁護士などが中心となって共闘会議を結成し、活動した経緯があった。八四年三月には、「労基法改悪反対、実効ある雇用機会均等法の制定を求める千葉県連絡会」を発足させた。また、八七年三月には、裁量労働制の導入や変形労働時間制の大幅な改悪が画策される中で、「人間らしく暮らし働くための千葉県会議」が結成され、さまざまな活動に取組んだ。しかしながら、いずれも当面の課題への対応にとどまり、法案成立とともに休止状態に陥っていた。
「労働法制改悪反対千葉県連絡会」の結成
一つの転機となったのが、九七年の女子保護規定の全面撤廃の動きであった。四月には、緊急学習決起集会を兼ねた「労働法制改悪反対千葉県連絡会」の結成総会が開催された。自由法曹団千葉支部、千葉労連、千葉労連婦人部(当時)、新婦人、全労働、争議団共闘会議の六団体が呼びかけたものであった。この「県連絡会」が中心になって、アピール運動、街頭宣伝、署名・国会要請行動などが取組まれた。アピール運動についていえば、学者、医師、労働組合役員、弁護士、それに女優の佐々木愛子さんら一〇名が呼びかけ人となったもので、弁護士五〇数名をはじめ、多くの賛同が寄せられた。イトーヨーカドー労組、大和生命営業職員労組、労金労組など、千葉労連加盟組織以外からの賛同も少なからず含まれていた。
残念ながら、女子保護規定を撤廃する労働基準法の改悪案は、女性を中心としたたたかいによって一定の成果を残したものの、成立を阻止することはできなかった。
その総括の中で、さらなる反動的攻撃は必ず来るとの共通認識を深めた。そして、それまでの活動についての、深刻な反省と教訓も語られた。すなわち、何か問題が起きれば対処療法的に取組みを始めてきた、そのため運動が決定的に立ち遅れた、ようやく、火がつき始めた頃には、法案の成立を許してしまってきた―との反省であった。その教訓に学び、「県連絡会」を継続的な組織として存続させていくことにした。
二〇〇三年の、解雇の全面解決制度導入等を内容とする労基法改悪の動きに対しては、この「県連絡会」を基軸にして、不十分な面は多々あったが、素早く取組みを開始することができた。
今次の労働契約法制・労働時間法制改悪問題に対する取組み
二〇〇五年四月一三日、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」が、「中間取りまとめ」を作定した。これが、運動を再開する契機となった。以降、街頭宣伝などに取組んでいくことになる。〇六年四月一九日には、学習決起集会を開いた。集会では、生熊茂実氏(全労連・労働契約法制闘争本部・本部長)から労働契約法制について、煖エ燻q弁護士(自由法曹団女性部)から雇用機会均等法改正をめぐる状況についての各報告があり、今後取組みを強化するとの集会宣言を採択した。また、一一月二三日には「第一六回千葉県権利討論集会」が開かれたが、集会のテーマに「労働契約・労働時間法制を考える」を選んだ。同集会は、その実行委員会と「県連絡会」が、はじめて共催したものであった。衝撃を受けたのは、同集会に向けて行った労働条件の不利益変更についての職場アンケート調査の結果であった。三二の組合・団体から回答が寄せられたが、昇給なしが一九(五九・四%)、賃下げが二〇(六二・五%)、一時金削減が二一(六五・六%)にも及んでいた。多くが、千葉労連加盟の組合、争議団、国労や航空連などのしっかりした組織をもっている組合であったにもかかわらず、不利益変更の現実は、すでにここまで進行していたことが分かった。このうえに、ホワイトカラー・エグゼンプション制度や就業規則による不利益変更の容易化装置、解雇の金銭解決制度などが法定されたら、この国の労働者と家族はどうなってしまうのか…。労働契約法等の危険な本質を、リアルに理解できた。と同時に、いま現に行われている違法行為の是正などの取組みと、しっかりと結びつけて運動を展開することの重要性を実感した。
その後も、「県連絡会」として、街頭宣伝などを行った。チラシにアメ玉をつけたり、「労働なんでも相談」のティッシュペーパーを張りつけたりといった一工夫もあった。本年一月一六日には、JR千葉駅前ではじめて昼休み宣伝を行ったが、昼どきにもかかわらず、一九名が参加し、約五〇〇枚のチラシを配布することができた。その日の夕刻に、冒頭の安倍首相の事実上の断念表明を耳にすることとなった。
今後の取組み
このように書けば大したことをやっているようにもみえようが、決してそんなことはない。地方でもやれることがあるという、一つの例として受け止めていただければと思う。
労働契約・労働時間法制をはじめとした、労働法制改悪の策動は、必ずや今後も続く。気を引きしめ直して、千葉の地でも、引続き微力を尽くしたい。
広島支部 井 上 正 信
一 すべては朝鮮半島有事から始まった
団通信一二二五号、一二二六号へ私の拙文「密かに進む戦争国家体制づくり」が掲載されている。本稿はその続編である。脱稿後OPLAN五〇二七・五〇五五が気になりながら暇なときに調べている。団通信掲載文をお読みでない方にいきなりOPLAN五〇二七・五〇五五と言ってもとまどわれるので、簡単に説明しておこう。
OPLAN五〇二七は、朝鮮半島での米韓連合軍による北朝鮮との戦争計画のコード番号である。OPLAN五〇五五は、朝鮮半島有事とそれが日本へ波及した場合の日米共同作戦計画のコード番号である。OPLAN五〇二七の存在とその内容を初めて報道した九四年九月二八日韓国ソウル新聞を当時入手し、在日韓国人に翻訳してもらい、OPLAN五〇二七と日米共同作戦計画との関係に強い関心を持ち始めた。
九三年以降の北朝鮮核開発問題から九四年にかけて朝鮮半島で戦争の危機が高まった。九四年六月のカーター訪朝で危機が回避されたが、当時の羽田連立内閣は北朝鮮への経済制裁を政権合意として、米軍への後方支援を進めようとし、有事立法制定の動きを強めていた。自由法曹団も有事立法資料集を作り、全国の運動の先頭に立った。私の持っている有事立法関係のファイルは、七八年と九四年のものがあり、戦後の有事立法制定策動では二番目の山であることが判る。有事立法制定の圧力となったのは、在日米軍からの具体的な軍事支援のリストであった。当初は二〇〇〇項目近くあったが一〇五九項目に整理された。その内容は、民間空港(新千歳、成田、関西、福岡、長崎、宮崎、鹿児島、那覇)での二四時間通関体制、民間港湾(苫小牧、八戸、松山、大阪、名古屋、神戸、福岡、水島、那覇、金武湾、天願)の使用、川上弾薬庫からの弾薬輸送に一〇トントラック一四八台、沖縄海兵隊のキャンプと岩国基地でトラックとトレーラー一三七〇台・クレーンとフォークリフト一一四台、沖縄八六五個・佐世保二四〇個・岩国二二八個のコンテナとその輸送、沖縄地区の港湾で一一トントラック九六台、簡易寝台・毛布など三万セット内二・五万セットは嘉手納用(非戦闘員待避作戦用に)、警察・海上保安庁・自衛隊による米軍施設の警護等々。極めて具体的で生々しい要求である。政府は、これらの民間施設を米軍に使用させるため、米軍に管理権を委ねることを含め日米地位協定二条四項bの適用を検討した。
この要求が、九六年四月日米安保共同宣言以降のガイドライン見直し作業に反映し、周辺事態法別表の後方支援項目となった。一〇五九項目の要求は、OPLAN五〇二七から出てきたものであると断定して良いであろう。しかし、当時の日本にはこの要求に応えるだけの国内体制(有事法制や共同作戦計画)が作られていなかった。そこから、新ガイドラインの策定やそれを実行するための周辺事態法制定へと進むのであるが、一〇五九項目の要求内容を見ると、周辺事態法は極めて不十分であることは直ちに理解できる。周辺事態法は自衛隊の後方支援活動はしっかり規定されているが、民間施設の使用については同法第九条で、政府は地方公共団体や民間へ要請することができるだけで、強制はできないものとなっているからである。二〇〇三年五月成立した有事三法、二〇〇四年六月成立した個別事態七法でやっと応えられる法制度が確立したのである。
二 新ガイドライン、周辺事態法はその後の有事法制と憲法改悪への出発点
1 新ガイドライン
新ガイドラインは、日本有事と周辺事態とをどのように関連づけているのであろうか。このことは、有事法制の本質を理解する上で重要な点である。「両国政府は、共同作戦計画についての検討と相互協力計画についての検討との間の整合を図るよう留意することにより、周辺事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性がある場合又は両者が同時に生起する場合に適切に対応するようにする」と述べる。別の箇所では、「両国政府は、周辺事態の推移によっては日本に対する武力攻撃が差し迫ったものとなるような場合もあり得ることを念頭に置きつつ、日本の防衛のための準備と周辺事態への対応又はその準備との間の密接な相互関係に留意する」と述べている。相互協力計画とは、周辺事態での日米共同作戦計画のことである。この文章を武力攻撃事態法から翻訳すると、朝鮮半島有事の場合、日本への武力攻撃事態又は予測事態を認定し、自衛隊法第七六条防衛出動、第七七条防衛出動待機命令を出して、部隊を展開させ、武力攻撃事態法、米軍支援法などの有事法制を発動して、OPLAN五〇二七で日本から作戦行動をとる米軍に対して後方支援する、ということになろう。
新ガイドラインは、周辺事態(朝鮮半島有事を想定)での日米共同作戦計画を策定するシステムを合意した。それが「包括メカニズム」である。「包括メカニズム」とは、平素から日米共同作戦計画を策定し検討修正を図る、(戦争)準備のための(日米両軍の)共通の基準・共通の実施要領(日米両軍の共通のデフコン、作戦規定、交戦規則などであろう)の確立を目的とする。そのための組織として、日米安保協議委員会(日米の外務・国務、防衛・国防の大臣・長官で構成)の下に、共同作戦計画、共通の基準、実施要領を策定する共同計画検討委員会(自衛隊、米太平洋軍、在日米軍で構成)、日本の関係省庁局長等会議(中央省庁の局長・審議官で構成)を包括したものである。なぜ関係省庁局長等会議を含めたのか。その意図は明確である。一〇五九項目に要請に応えようとすれば、中央省庁の権限を活用しなければならないし、そのための有事法制を検討するためには、制服組と中央省庁の役人との共同作業が必要になるからだ。私は「包括メカニズム」を合意した新ガイドラインのことを、日本改造プログラムと称していた。有事法制とそれを要求した日米共同作戦計画を推し進めた「包括メカニズム」はまさに、国家改造を押し進めたのである。「包括メカニズム」を構成する関係省庁局長等会議は九七年一〇月二〇日設置が決まり、九八年一月二〇日開かれた日米安保協議委員会で、「包括メカニズム」の作業開始が合意された(共同発表文)。いよいよ作業が本格的に進むことになった。しかし、既に軍事的には先行した動きが始まっていた。新ガイドライン策定を合意した安保共同宣言が出されて以降、全国の民間空港、港湾への米軍機や米軍艦船の入港が、それまでとは比べものにならないくらい飛躍的に回数が増えたのである。九六年から三年間で三八空港延べ二七〇七回、二三港湾延べ五七回である。米軍艦船が民間港湾へ入港すると、必ず港湾の能力(接岸バースの長さ、港の水深、荷役能力など)や周辺の娯楽施設(早い話が飲み屋の数)を調べている。朝鮮半島有事では、停泊する米軍艦船の水兵が上陸して、息抜きできるかという観点である。このように実際に軍を動かしながら有事の計画を作ってゆくのである。米軍支援法や特定公共施設利用法により、「行動関連措置」と称したり「利用指針」と称する米軍支援計画を作る上で必要な情報を収集しているのである。これらの動きは後の米軍支援法、特定公共施設利用法制定の基礎となったはずである。しかし日本政府は、憲法九条の制約があるため、米国から見れば極めて不十分な周辺事態法までしか当時は制定できなかった。
これに喝を入れたのがアーミテージ・レポートである。レポートは、新ガイドラインを「日本の役割を拡大するための終着点ではなく、出発点となるべきである」としている。これは、アーミテージ・レポートが新たに指摘したものではない。新ガイドラインそれ自身が出発点を合意している内容なのだ。(次号に続く)
東京支部 後 藤 富 士 子
一 新しい法曹養成制度─「法曹の数と質」
二〇〇〇年一一月一日の臨時総会で、日弁連は、司法制度改革審議会中間報告を踏まえ、「国民の必要とする数と質の法曹人口を確保する」との方針転換を図った。具体的には、毎年三〇〇〇人の新規法曹を生み出して一〇年余で五万人にすること、そして、大増員により質を低下させないために「プロセス教育」=法科大学院に積極的に取組むことであった。法科大学院について、改革審最終意見書では、「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクール」と位置づけている。
ところで、アメリカのロースクール制度は、大学に法学部がなく、大学修了者を対象とするプロフェッショナル教育機関であり、修了者が司法試験に合格すれば法曹(弁護士)資格を付与され、司法研修所のような国営修習制度はない。これと比較すると、法科大学院制度は、国営統一修習制度を残したことで、「日本型ロースクール」に変容させられている。
一方、新司法修習では期間が一年に短縮され、旧試験組一五〇〇人の修習期間は一年四ヶ月であるから、新旧併せて二五〇〇人規模の修習生が実務の現場に投入されている。そして、来年からは給費制が貸与制に変更される。
二 統一修習制度の「官僚法曹選別機能」
現行統一修習制度は、判事補・検事・弁護士になる者を養成する制度である。確かに将来何になるかを問わず同一の修習が施される。この制度の下で、しかも司法試験合格者が僅少に抑えられていた時代には、裁判官・検察官志望者が少なく、必要数が確保できないことが問題になった。思い起こせば、「合格者増員」と「丙案導入」は、まさに検察官志望者不足を解消するために提唱されたのである。
ところが、新旧併せて二五〇〇人規模、現行試験が廃止される二〇一一年には法科大学院修了者だけで三〇〇〇人規模の修習生が生まれる。そして、「法科大学院―統一修習」という法曹養成制度によって、判事補・検事を確保することになれば、どういう事態が惹起されるだろうか。
誰にでも解るのは、三〇〇〇人を対象にした判事補・検事の教育・養成はできないこと、他方で、殆どが弁護士になるのだから国が弁護士養成に関心をもたないことである。そして、三〇〇〇人という大きな母体から一握りの官僚法曹を選別するという国営統一修習の本質的機能が発揮される。官僚法曹は「清酒」であり、弁護士は「酒粕」である。「酒粕」が溢れかえろうとも、国はお構いなしである。弁護士だけが市場原理に晒されるのである。
三 弁護士の法曹養成能力
「新六〇期」修習生の話からすると、ある法科大学院では、裁判官教員がことのほか熱心で補講等を実施しており、その反映か、裁判官志望者が多いという。東京地検で実施された勉強会には弁護士志望者も含め修習生が殺到したというが、検察修習では、全員を対象にした修習は不可能なため、積極的に申し出る修習生は多忙で、そうでない者は暇だという。
それに比べ、弁護修習は、全く組織化されておらず、裁判官・検察官どころではなく、優れた弁護士を養成することも覚束ないように見える。五九期修習生の大量落第に、弁護士も責任があると思えてならない。
こうした状況に照らすと、国営修習を廃止しなければ、単に「弁護修習の切捨て」がもたらされるにすぎないことは火を見るよりも明らかである。
四 弁護士養成のイニシアティヴを取って「国営修習」を廃止しよう
現行司法試験は二〇一〇年までである。給費制は来年にはなくなる。
このような怒涛の流れの中で、「合格者増員阻止」「貸与制反対」「統一修習堅持」を叫ぶことは、ドンキホーテというほかない。
翻ってみると、弁護士がかようなスローガンを叫ぶのは、権力依存を脱却する実力がないからである。そして、新しい制度の中で、「弁護士こそ法曹の基本」という法曹一元を実現していくためには、弁護士が国家に依存せず自前で組織的・継続的に弁護士養成の実を挙げていくことを前提にして、国営修習を廃止することである。そうしなければ、現在よりも更に弁護士の質が低下し、「二級市民」ならぬ「二級法曹」になりかねない。
「法曹一元」を欺瞞的に口にしながら、他ならぬ弁護士によって「弁護士任官」や「官僚法曹の他職経験」が進められている。しかし、これは法曹一元との関係では「大海の一滴」にもならないのみならず、弁護士養成に向けるべき資源を無駄遣いするという点で、余りにもノー天気ではなかろうか。日本の現状に照らせば、法曹一元を実現するには、判事補を供給する国営統一修習を廃止することが最も簡単で現実的だと思われる。
改憲阻止対策本部担当次長 山 口 真 美
安倍首相は、年頭の記者会見において改憲を参議院選挙の争点にすると明言しており、安倍内閣はまさに改憲内閣です。今通常国会では、与党である自民党と公明党は、民主党と修正協議をした上で、国民投票法案=改憲手続法案の成立を狙っています。中川秀直自民党幹事長が国民投票法案=改憲手続法案を五月三日の憲法記念日までに必ず成立させるなどと発言しています。
しかし、法案は、国民主権を侵害し、日本を「戦争する国」にするための改憲を実現しようとする危険な「カラクリ」だらけの法案です。その中でも特に問題なのが、改憲派が有料意見広告を活用して「カネで改憲を買う」とうい問題です。改憲派は、財界の後押しを受け、圧倒的な資金力で有料意見広告を利用するでしょう。そこにつぎ込まれる金額は数百億円から一〇〇〇億円にものぼると言われています。国民世論を歪めることは必至です。集会では、有料意見広告問題に焦点をあて、渡辺治氏らのパネラーにその問題点を鋭く切ってもらいます。
改憲のための手続法案の成立を許さないために、ぜひ集会にご参加いただくとともに、多くの人に参加を呼びかけてください。
また、全国各地で改憲を許さないたたかいに位置づけて、宣伝や学習、集会など国民投票法案=改憲手続法案に反対する取り組みを進めてくださるよう訴えます。
日 時 | 二〇〇七年三月一〇日(土) 午後一時三〇分〜 |
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場 所 |
社会文化会館 三階 第一会議室 |
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資料代 | 一〇〇〇円 |
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構 成 | 第一部 | 報告「改憲手続法と情勢」 坂本修氏(弁護士) |
第二部 |
パネルディスカッション |
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第三部 |
イタリアの国民投票について |
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主 催 |
日本マスコミ文化情報労組会議(MIC) |