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田中 隆 【夕張(九月札幌拡大常幹・プレ企画)特集】
札幌拡大常幹(九・一五)と夕張「プレ企画」へのご出席を
佐藤 哲之

「再び、夕張へ!」
―札幌拡大常幹プレ企画へのお誘い

煖エ 勲

北炭夕張大災害・その時団はどうかかわったか

小部 正治

炭鉱(ヤマ)がつぶれれば街がつぶれる

菊地 修

三陸ハーネス事件 完全勝利命令

増田 尚

シンポジウム「非正規労働者の実態とその権利保障ー理論と実践」にご参加を!



【夕張(九月札幌拡大常幹・プレ企画)特集】

札幌拡大常幹(九・一五)と夕張「プレ企画」へのご出席を

幹事長  田 中  隆

 九月一五日の常任幹事会は北海道・札幌市で開催し、多くの団員の皆さんにご出席いただくために拡大常任幹事会(拡大常幹)とします。また、前日の九月一四日午後から一五日午前にかけて、夕張市を訪問する「プレ企画」を行います。

 北海道支部にご協力をいただき、「プレ企画」では、夕張市役所や夕張新鉱跡地などを訪問し、「夕張の破綻と再生」をテーマにしたシンポジウムを行うことを予定しています。

 詳細は企画案内をご覧下さい。

 「財政破綻のまち」から構造改革と地方自治を問う

 三月六日、夕張市は「財政再建計画」を政府に認可されて「財政再建団体」となりました。三六〇億円の赤字を約二〇年間で解消するために、市職員の人員削減や事業や施設の廃止・売却を強行して住民サービスをそぎ落とし、市民税など税金や施設使用料を大幅に増額するもので、まさしく「市民にすべての犠牲を押しつけての再建計画」にほかなりません。「時間外勤務手当ては・・給与総額の二・五%の範囲内とする」という文言がまかりとおっているところにも、計画の異常性が現れています。

 その財政破綻の原因と責任はどこにあるか。

 「観光事業の放漫経営」や「財務運営の不正」が言われ続けていますが、「国策」の炭鉱閉山のために夕張市に押しつけられた三三〇億円を超える跡地対策費のことはほとんど語られません。また、「三位一体の改革」などで地方交付税交付金を半減させた構造改革(地方分権改革)の問題と政府の責任は取上げられず、「夕張の破綻」は財政難に苦しむ自治体を「リストラ」に駆りたてる恫喝材料にすら使われています。

 夕張はまた、自由法曹団と団員が貴重な経験と教訓を得たまちでもあります。八一年一〇月一六日に発生した夕張新鉱ガス突出災害は、炭鉱労働者九三名が亡くなる大惨事となりました。自由法曹団は直ちに調査団を組織して現地調査を行い、引き続いて北炭などの責任を追及する活動に取り組みました。このときの活動は、「自由法曹団物語・世紀をこえて(上)」の冒頭の章「ドカンとくれば死ぬばかり―夕張新鉱ガス突出災害」に活写されています(この団通信にも、かかわった団員の投稿をお願いしています)。

 この夕張のまちから構造改革と地方自治を問い直すこと・・これが拡大常幹と「プレ企画」の最大のコンセプトです。

 暴走国会と参議院選挙から二〇〇七年自由法曹団総会へ

 改憲手続法や教育三法をめぐってたたかいを続けた暴走国会=第一六六通常国会が七月五日に終了し、この通信が届くころには自由法曹団改憲阻止討論集会(合宿)当日の七月二九日が投票日の参議院選挙も終わっています。

 選挙結果によって政権担当者の交代を含めた「政治劇」が起こるかもしれませんが、だれが政権を担当しようと、九月に開かれる臨時国会には憲法審査会が設置されることになります。この審査会を舞台に、憲法調査と称する改憲準備や改憲手続法の具体化が進められることは明らかです。新たな段階に入った明文改憲策動と並走するように、懇談会(安保法制懇)での「集団的自衛権解禁」の検討が進み、九月には答申が出されようとしています。

 教育では教育三法の具体化といっせい学力調査の結果公表への対応、治安では共謀罪の修正提出への対応、労働では労働ビッグバンと非正規雇用問題への対応など、それぞれの分野での「壊憲策動」と対決する課題も山積しています。

 これらの課題を討議し、一〇月に予定している二〇〇七年自由法曹団総会(於・山口県)を準備することも、拡大常幹の大事な役目です。

 拡大常幹と「プレ企画」へのご参加を!

 「夕張の破綻」は地方自治と住民を切り捨てる構造改革を象徴する事態であり、夕張だけの問題ではありません。新たな段階に入った改憲策動と対決する運動を構築することは、自由法曹団ぐるみで取り組むべき課題です。こうした問題への研究・討議と運動を進めるために、札幌拡大常幹と夕張「プレ企画」への積極的な参加をお願いします。「プレ企画」の「予習」には、保母武彦他「夕張 破綻と再生―財政危機から地域を再生するために」(自治体研究社)が好適です。ご一読をお勧めします。

 拡大常幹の終了後、北海道支部で懇親会の準備をしていただいています。一五日の夜札幌に残れる方は、こちらにもふるってご参加ください。

 なお、一四日(プレ企画)夜の宿泊は確保していますが、往復の交通や一五日(拡大常幹)夜の宿泊は各自手配をお願いします。九月一五日〜一七日が「三連休」のため、新千歳空港関係の航空便や一五日夜のホテルはかなり混みあっていますので、早めにご手配ください。

 《九月拡大常任幹事会》

  日 時  九月一五日午後一時〜五時

  場 所  北海道高等学校教職員センター四階大会議室

        北海道札幌市中央区大通西一二丁目

        電話 〇一一―二三一―〇八一六

 《夕張プレ企画》

  日 時  九月一四日午後一時〜一五日午前

  集 合  九月一四日午後一時新千歳空港

       (具体的な集合場所は追って連絡します)



「再び、夕張へ!」

  ―札幌拡大常幹プレ企画へのお誘い

北海道支部長  佐 藤 哲 之

 来たる九月一五日、団本部の拡大常任幹事会が札幌で開催されることになりました。二〇〇四年夏の札幌拡大常幹では、元防衛政務次官・自民党国防部会副部会長を務めながら全国で初めてイラク派兵差止訴訟を起こした箕輪登さんをお招きし、この訴訟と、やはり当時係争中だった道警報償費不正支出関連訴訟の二件を地元事件≠ニしてご紹介しましたが、今回は、北海道では今日最も深刻な問題の一つである、夕張市の財政破綻問題をテーマに取り上げ、一泊二日の「プレ企画」をご用意しました。

 これは、一九八一年一〇月に発生した北炭夕張新鉱ガス突出事故の直後、まだ坑内に少なからず労働者が取り残されているにもかかわらず、炭鉱施設を守るためと称して非情極まりない「注水」が強行されたのを機に、われわれ自由法曹団が調査団を組織して現地入りし、被災者や家族らの生の声を拾って、引き続き北炭の加害責任を追及する裁判内外の活動に立ち上がったという歴史を踏まえ、今回も、現場≠ノ足を運び、現地の人々とともに財政破綻問題を考えたいという趣旨によるものです。

 今回のプレ企画は、別紙企画案の通りであり、昨年の定山渓五月集会でもお世話になった旅システムさんの協力を得て立案しました。

 九月一四日午後一時に新千歳空港内で集合、チャーターバスで夕張入りし、市役所に表敬訪問の後、宿泊先のホテルへ。メイン企画のパネルトーク『夕張市の財政破綻 その原因は何か、そして再生の方向は?』(仮題)では、パネリストに夕張問題の第一人者である河合博司教授(酪農学園大地方自治研究室)をはじめ、地元関係者複数名をお招きする予定です。夕食懇親会で地元の新鮮な食材に舌鼓を打っていただいた後、天然温泉でゆっくり日頃の疲れを癒やしてください。

 翌一五日は、炭鉱に寄り添うように集落ができ、それが南北に細長くつながる(約二三キロ)夕張のマチの特徴を、バスの車窓からご覧いただきます。例えば小学校七つ、中学校四つを各一つずつに統廃合するという「再建計画」が、いかに多大な負担を住民に押しつけるものか実感されることでしょう。前記のガス突出事故の現場(清水沢)や夕張随一の景勝地(滝の上公園)にも、時間が許す限り立ち寄る予定です。その後は高速道経由で一路札幌へ。

 参加費用は二万円と、この時期の北海道としてはかなりお得ですが、バス一台の定員四五名が上限ゆえ、お早めにお申し込みください。また、三連休ゆえ往復の航空券の確保に苦労されるかも知れませんが、JAL・ANAより割安なエアドゥやスカイマークの便もあるので(いずれもネット予約可)、参考までにご紹介します。

 最後に、私たち北海道支部一同、札幌拡大常幹と「プレ企画」への皆様のご参加を心からお待ち申し上げております。



北炭夕張大災害・その時団はどうかかわったか

千葉支部 焉@橋   勲

○ はじめに―「夕張」

 「夕張」、その響きは私にとって特別なものがある。それは今から二六年前の北炭夕張新鉱ガス突出事故と自由法曹団の取り組みが重なるからである。その夕張が財政再建団体になった。九三名もの尊い命を奪ったあの大災害と無縁ではないはずだ。団の九月常幹札幌開催と前日の夕張企画が決まった。団本部の求めに応じて、与えられたテーマにつき断片的だが記しておこうと思う。

○ 団六〇周年記念総会と決議

 団の創立六〇周年を記念する総会が東京・タカラホテルで開かれた。一九八一年一〇月二三日である。その一週間前の一〇月一六日、夕張市の北炭夕張新鉱でガス突出事故が発生した。

 総会が開かれているその時、坑内には事故後に救出に向かった労働者を含み、六一人もの人びとが「行方不明」だった。にもかかわらず、会社は坑内への注水活動を強行した。「団はこの事態に何をなすべきか」、梨木作次郎団員の発言をうけて、団は抗議とたたかう決意をこめた緊急決議を採択した。

 この記念すべき総会で私は本部事務局長に選任された。事実を知ることが何よりも大切だ。私は早速団北海道支部と連絡をとり、二八日には夕張へとんだ。事務局長としての初仕事であった。

○ 現地夕張で

 はじめて訪れた夕張。紅葉も目にはいらない。寒さも忘れて犠牲者の遺族や北炭で働く労働者から話を聞いた。安全無視の「合理化」と人命軽視の結果であると厳しく糾弾した同総会決議が事実によって裏づけられた。団は一一月二〇日から三日間の第一回現地調査を全国の団員によびかけて行うことを決めた。

 全国各地から四〇名をこえる団員がこれに応じて参加した。現地調査はその後も四次にわたって行われた。私もこのあと何回となく夕張に通うことになる。団が事故直後からこの問題を重視したひとつの理由に当時の労働運動のかかえる問題があった。九三名もの炭鉱労働者が殺されたのに、労働組合がいち早く立ち上がり、大きな抗議の声をあげない。労働戦線の右翼的再編の流れがある。こうした人間の命の問題に対して声をあげないことは、この国の民主主義にとっていかに危険であるか。総会での上田誠吉団長(当時)の開会挨拶での問題提起を、団は真正面からうけとめた。

 団がこの大災害の調査にあたって重視した観点の第一は何よりも事故の原因を明らかにし、法的責任を追及する手がかりをつかむこと。かつ、その背景にある国のエネルギー政策と北炭の労働者犠牲の「合理化」の実態を明らかにすることであった。

 被災者の遺族や北炭の労働者は、多くの困難をのりこえて、勇気をもって私たちの聴取り調査に協力してくれた。

 また、団は当然この問題にふさわしい運動の構築についても意を払った。

 団と北海道支部は、北炭の労働者のたたかいを支援しながら「夕張のくらしをきづく会」(現地)、「夕張の復興をすすめる会」(札幌)、そして東京には「夕張を支援する東京連絡会」などの組織化とその運動にも積極的にかかわっていった。小部正治団員は事務局次長として、八二年八月、二週間余り現地に常駐してたたかった。

 八二年八月二日には、「損害賠償請求訴訟」が提訴された。

○ 八二北海道総会

 こうして団は、六〇周年総会の決議を着実に実践した。そして、一年後の九月二六日、八二年全国総会を現地北海道(定山渓)で開催した。全体会議は地元の合唱団による「地底のうた」で開会。まさに一年間の夕張のたたかいの盛り上がりを反映するものだった。

 団が一年間全国的に力を集中して取り組んだ調査報告書が「きけ炭鉱(ヤマ)の怒りを」と題して総会に間にあわせて出版された。

 総会前日には全国から五〇名をこえる団員が夕張の現地にはいった。調査と激励交流集会。この日私は、鶴見幹事長(当時)や梨木さんらと夕張の炭住街で「街頭演説」を行った。夕張の町に沢山あった鉱員と家族のための「公衆浴場」の前で、熱く訴えたことを忘れない。紅葉が美しかった。

○ たたかいのあるところ団の旗あり

 今は亡き梨木さんが、団の夕張のたたかいにつき次のように語っている。「人権侵害のあるところ、いち早く現地におもむき実態を調査し責任を追及し、世論に訴える。それが団の輝かしい伝統であり作風であった」。

 改憲策動が一段と強まっている今日、この伝統と作風を大切にして、頑張りたい。わが団に対する国民の期待は大きい。



炭鉱(ヤマ)がつぶれれば街がつぶれる

東京支部  小 部 正 治

 私が団本部の事務局次長になった一九八一年東京総会(創立六〇周年)。直前に北炭・夕張新鉱におけるガス爆発で消火のために生死も確認できず遺体も見つからないまま坑道を水没させた。そこで炭鉱の継続が危惧され、金沢・梨木団員の「ヤマがつぶれれば街がつぶれる」旨の発言がなされた。団は現地調査を実施し、大事故の原因を究明し被害者の救済をおこなうとともに、炭鉱の存続を目指す闘いに参加することに。

 直ちに、大型バス一台分の団員が雪の降る夕張に。現地にて、採炭の状況やそれ以前におこなうべきガス抜きボーリングの実情等を手分けをして当事者から聞き取り調査。国のエネルギー政策の中心は石油産業に移って久しく、石炭産業は斜陽産業として国策会社化していた。新たに投資された期待の夕張新鉱に対して国内需要の減少に加え安い外国産との競争に耐えるために、無理な増産計画を政府が具体的に指示していた。そのため、本来は炭層の中に二五メートル角の四角ごとにそれぞれガス抜き穴をボーリングを無数に失敗することなく完全に打ち抜き、しかも完全にガスが抜けるまで相当期間経過後させた後に、初めて採炭作業のための発破をかける(ダイナマイトを爆発させる)というルールが無視された。すなわち、採炭量が計画よりも遅れていたことから、北炭はガス抜きボーリングが失敗しても点検せず放置していたこと、同時に増産のために定められた期間を短縮して採炭作業に入り、そのためにガスが残っていた炭層に向けてダイナマイトを爆発させたために、大規模なガス爆発が生じて大惨事が発生した疑いが濃いことが判明した。団は、直ちに現地でその旨の声明を発表し記者会見をおこなった(当時は携帯用パソコンもなく、私が団声明を手書きで清書した)。

 北海道の炭鉱のことは全て東京で決まると誰もが言う。東京とは、北炭本社がある中央区ではなく、エネルギー政策を決める通産省・内閣がある千代田区である。国策産業であるが故に、炭鉱の増産計画にとどまらず、閉山するかどうかも政府が決めるのである。 夕張から東京へ閉山反対の闘いをすすめるためにオルグが派遣されてきた。後に夕張市会議員になる森谷猛氏らであった。受け入れは担当次長の私の役割。オルグ先として決まっていたのは数カ所であり、それ以外はこちらで手配することとなった。千代田区労協の書記の方や東京争議団共闘会議の議長・事務局長などにお願いして初めて一同に会した。持参した名刺には、「日本共産党夕張新鉱支部支部長」の肩書きがあった。「この名刺ではオルグ先が限定されたり、かえって難しくなる」とのアドバイスが。大衆的な団体を結成して、その名称で支援を求めるような運動論の議論に。その後夕張では、炭鉱労働者・教職員労組・全日自労・新婦人・夕張統一労組懇などで組織する「夕張のヤマ(炭鉱)と明日をきずく会」(記憶です)が結成されて、自前の事務所をもって活動を開始した。

 東京でも閉山反対の闘いを組織した。当時は松井団長や菊地紘団員も今以上に元気であり闘いの方向を決める重要な役割を果たしてくれた。北海道合同の佐藤太勝団員、郷路征記団員などとも連携して、さまざまな取り組みを進めた。千代田区・主婦会館(現プラザエフ)の一階ホールで一五〇名を集めて集会をおこなう。北炭本社前や霞ヶ関にて座り込みに参加する。とうとう、北海道にバス一台分五〇名の労働者を激励のために夕張に派遣した。私は、いても立ってもいられず弁護士四年目(一九八二年)の夏に二週間夕張にはいる。「きずく会」の事務所や下請けの炭住(木造)や本工の住宅(鉄筋)、郷路宅に泊めてもらった(本当に迷惑をかけました)。

 そして、最後の夕張新鉱労働組合の閉山を決定する臨時大会へ。政府は運動の発展もあり、一定の閉山交付金を北炭を通じて労働者に支払う、下請け労働者に対しても異例ながら生活費の手当をする、閉山後も炭住に住めるようにする、雇用保険は従来同様三年間支給する(黒手帳と呼ぶ)などのアドバルーンも上がっていた。閉山反対を唱えて発言し続けていた森谷猛氏に組合員の支持が集まるも多数決では敗北した。

 最後は、千代田区において通産大臣と炭労議員団(社会党)が面談して政治決着に。

 その後、夕張には行っていない。心配しながらも映画祭などのうわさや夕張メロンの増産などのニュースを聞いて何とかやっていると信じていた。しかし、このザマだ。

 国は閉山時に安心して暮らせるように炭住での生活を保障したが、その後炭住は北炭から夕張市が買い取ったという。その費用はどこから出したのだろうか。

 その後、夕張に残っていた三菱・南大夕張炭鉱も採算が取れずに閉山させられている。夕張はかつて八〇近い炭鉱が栄え人口が数万人もいた時代を過ぎ、炭鉱が一つもない街になって久しい。「ヤマがつぶれれば街はつぶれる。」国が特別な手だてを取らない限り、その当たり前のことが夕張市の約二六年に渡る抵抗(努力)にもかかわらず生じたのである。梨木団員が喝破したとおりである。

 地方自治体の自立(自主財源)を基本的に保障していない現在の地方自治の仕組みの当然の結果ではないか。決して夕張の市長や市議会議員、職員の責任などに矮小化してはならない、本当の破綻原因や教訓を明らかにすべきである。

 自治体の生死も東京で決まる・・夕張に行って考えてみたい。是非とも、一緒に夕張に行ってください。



三陸ハーネス事件 完全勝利命令

宮城県支部  菊 地  修

 その命令は日本経団連の心胆を寒からしめるものである。なにしろ、企業が自由に国内工場をつぶして海外に生産拠点を移すことに重大な歯止めがかけられたのだから。

 二〇〇七年六月二五日、宮城県労働委員会は、団交拒否を理由とする不当労働行為救済申立事件で、親会社である住友電装、協立ハイパーツに対し申立人組合(宮城一般労働組合)との団交応諾を命じる完全勝利命令を出した。

 この事件は、親会社の住友電装(以下「住友」と略)が、生産拠点を中国に移転するために、子会社の協立ハイパーツ(以下「協立」と略)を使って、そのまた子会社の三陸ハーネス(以下「三陸」と略)を解散し従業員全員を解雇したという事件である。

 協立は住友の一〇〇%子会社、三陸は協立の一〇〇%子会社、つまり三陸は住友の一〇〇%孫会社である。また、協立の役員一〇名のうち六名は住友からの出向者または住友に在籍歴のある者、三陸の役員はすべて協立の社員であった。住友−協立−三陸という支配従属構造が確立され、三陸は協立の単なる一工場にすぎなかった。

 三陸は、宮城県志津川町(現・南三陸町)においてワイヤーハーネス(自動車用配線部品。例えて言うと、自動車の血管、神経)の製造を行っていた会社である(従業員五八名)。一九八八年一〇月宮城県の誘致企業として操業を開始し、地元優先採用など地域密着型で地元から期待と信頼が寄せられていた。

 二〇〇二年五月、住友は協立のワイヤーハーネス事業を買収し、これにより三陸は住友の傘下に入った。住友は、「国内構造改革」の名のもと、国内工場の縮小、海外への生産拠点の移転などの「合理化」計画を発表、その一環として三陸の閉鎖を決定、二〇〇五年一月「工場閉鎖・全員解雇」が通告され、同年九月閉鎖・解雇を強行した。

 三陸の労働者は、「工場閉鎖・全員解雇」の通告を受け、二〇〇五年四月、従業員五八名中五五名が加入する「宮城一般労働組合・三陸ハーネス支部」を結成、その後会社からの攻撃により三七名が脱退したが、残った組合員一八名は組合に結集してたたかいをすすめた。

 三陸の経営状況は良好であり、累積赤字もなく十分な内部留保があった。長期借入もゼロであった。高額納税者として地元新聞に載ったこともある。工場を閉鎖する根拠は全くなかった。そのため、組合員は二〇〇五年九月、仙台地裁に三陸相手に「地位保全の仮処分」を申立てたが、同年一二月同地裁は不当な却下決定を出した。組合員は、これに負けずに、同年一二月親会社であり実質的支配力を有する住友と協立に対し団体交渉を申し入れたが、両社は拒否、組合は直ちに宮城県労働委員会に不当労働行為(団交拒否)救済の申立を行った。これが本件事件である。

 本件においては、三陸従業員と直接雇用関係・労働契約関係にない住友、協立が、労組法七条二号の「使用者」にあたるかどうかが最大の争点であった。

 これについて本命令は、協立のみならず、住友にも使用者性も認めた。住友に関する注目すべき判示は以下のとおりである。

 (1)労組法七条の「使用者」は契約当事者としての使用者に限るべきでなく、労働関係について不当労働行為救済制度の適用を必要とする程度の現実的で具体的な支配力ないし影響力を有する者をも含む。また、使用者性については具体的事案に即して柔軟に解釈されるべきであって、七条一号(不利益取扱)や三号(支配介入)に関しては使用者性はないが、二号(団交拒否)に関しては使用者性が認められることがありうる。二号については、賃金、労働時間等の通常の労働条件では使用者性は認められないが、事業閉鎖や大規模な事業縮小等に伴う解雇、退職、雇用確保等に関しては使用者性が認められることがありうる。

 (2)住友は、その単独の意思を直裁的に協立・三陸に指示、貫徹させて協立・三陸を全面的に支配することが可能であり、協立・三陸は住友の意思決定に反することはできない構造になっていた。三社はワイヤーハーネス製造という共通の事業目的を持ち日常の業務遂行において密接な関係を築いていた。役員派遣の面でも三社の強い結びつき、支配関係が認められる。三陸の閉鎖は直接的には協立が決定したとしても、住友グループ内の経営戦略にかかわる重大な決定が協立単独で決められるとは考えられず、協立の唯一の株主である住友の主導のもとに決められたとみるべきである。

 (3)以上のことから、住友は、三陸の閉鎖、解散という問題に関しては、使用者として組合との団体交渉に応ずるべき地位にある。使用者性が三陸にのみ限定され、住友に使用者性が認められないとすれば、団体交渉権は形骸化し、実効性が乏しいものになってしまい、不当労働行為救済の趣旨に反することになる。

 本件事件は、生産拠点の海外移転に伴う国内子会社閉鎖のケースで親会社の「使用者」性が問われたわが国で初めての事件である。

 一九九〇年代半ば以後、経済のグローバル化がバブル崩壊後の低迷状態にあった日本経済を直撃した。株価偏重の短期的効率性と収益の獲得が声高に叫ばれ、国際競争力強化・構造改革の名の下に、生産拠点の海外移転、それに伴う国内子会社の閉鎖、子会社従業員の大リストラが横行するようになった。その際親会社が責任を回避する口実が「別法人格」であり、同一企業であれば許されないはずの解雇がまかりとおってきた。ここにいかに歯止めをかけるかが最大の課題であった。

 本件命令はこれに明確な歯止めをかけたものであり、高く評価されるべきものである。

 組合員は、本件労働委員会事件と並行して、二〇〇六年四月住友・協立を被告に共同不法行為にもとづく損害賠償請求訴訟も提起している。こちらの方も現在重要な局面を迎えている。

 組合、弁護団は、全面解決を目指し奮闘中である。全国の皆様の引き続きのご支援をお願いします。



シンポジウム「非正規労働者の実態とその権利保障ー理論と実践」にご参加を!

労働問題委員会担当本部事務局次長 増 田  尚

 自由法曹団労働問題委員会は、偽装請負、日雇い派遣などの非正規労働者の労働実態を踏まえ、その権利を保障する法理論の構築と実践的な活動について検討をすすめております。この度、来たる九月三日午後六時より、団本部にて、シンポジウム「非正規労働者の実態とその権利保障−理論と実践」を開催いたします。

 「ワーキング・プア」、「ネットカフェ難民」という言葉に象徴されるように、働いても生活保護水準にすら達しない非正規労働者の労働実態はきわめて深刻です。彼らは無権利状態に置かれ、使用者のいいように搾取され続けています。しかし、私たち団員の日ごろの活動範囲の中では、こうした非正規労働者との接点が少なく、彼らの権利を保障する運動を意識して取り組んできたとは必ずしもいえないのが実情ではないでしょうか。

 一方で、団員の中にも、労働者派遣法やパート労働法などを系統的に学習した経験がなく、非正規労働者を保護する労働法について必ずしも明るくない方が多いでしょう。また、日ごろ交流している労働組合も正規社員を中心とした運動であるため、非正規労働者への接触、組織化など、彼らの権利を守るとりくみに習熟していない面もあります。こうした「苦手意識」が非正規労働者の権利保障に足を踏み出せない一因となっていることも否めません。

 シンポジウムでは、ワーキング・プアと呼ばれる非正規労働者の権利保障に先進的にとりくんできた首都圏青年ユニオンや、パートや派遣などの非正規雇用の問題にとりくんでいる東京地評、派遣・請負労働者連絡会(仮称)準備会を立ち上げた全労連など労働組合から実態と運動についての報告をいただきます。また、JMIUとともに光洋シーリングテクノや日亜化学で偽装請負の是正にとりくんできた鷲見賢一郎団員(東京支部)より、非正規労働者の保護のための法制度の概要と運動の方向性について報告をいただきます。

 労働者の権利擁護にとりくむすべての団員のみなさんにご参加を呼びかけます。

シンポジウム「非正規労働者の実態とその権利保障ー理論と実践」

 ●と き 九月三日(月)午後六時〜

 ●ところ 自由法曹団本部

 ●内 容 シンポジウム

  ○岩田幸雄(全国労働組合総連合副議長)

    「非正規雇用問題についての全労連のとりくみ」

  ○伊藤潤一(東京地方労働組合評議会副議長)

    「非正規雇用問題についての東京地評のとりくみ」

  ○河添誠(東京公務公共一般労働組合青年一般支部書記長)

    「青年労働者の現状と首都圏青年ユニオンのとりくみ」

  ○鷲見賢一郎(自由法曹団東京支部・弁護士)

    「非正規労働者の権利と今後のとりくみの方向」

 お問い合わせは、自由法曹団本部