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永尾 廣久

つれづれなるままに
―事務所ニュースあれこれ

金 竜介

自薦図書 在日コリアン弁護士協会編
『裁判の中の在日コリアンー中高生の戦後史理解のために』(現代人文社)

毛利 正道

自衛隊よ、「イラクのイギリス軍」となれ!
―浮かび上がる新テロ特措法・海外派兵恒久法の狙い―

川人 博

追悼文 斉藤健兒先生
優しいまなざしと誠実な弁護活動



つれづれなるままに

―事務所ニュースあれこれ

福岡支部  永 尾 廣 久

珍しく吹雪のお正月

 去年の暮れは結局コートなしで過ごしました。外出するときには背広の上にジャンバーをはおるだけですんだのです。大晦日の除夜の鐘を撞きに出かけるときには少し風が吹いて寒かったのですが、やがて風はおさまりました。ところが、どうでしょう。お正月は朝から雪が降っているのです。やがて吹雪になってしまいました。激動の時代を予感させる新春です。でも、そのうちに雪は止み、昼からは太陽も出て、例年どおりのポカポカ正月になったのでした。

 恒例の事務所ニュース読みは暖房のきいた事務所で昼までに完了し、午後からは燦々とふりそそぐ陽の下で楽しみの庭仕事に取りかかりました。いま、庭には黄色いロウバイの花が全開です。匂いロウバイといいますが、それほどの匂いはありません。スイセンは、まだ少ししか咲いていません。春にそなえて庭をすっきりさせるのが冬の楽しみでもあります。チューリップの球根を毎年五〇〇本ほど植えていますので、春が待ち遠しい気分です。

元気な新人紹介

 今年の事務所ニュースで特筆すべきは、なんといっても新人紹介です。大量の新人弁護士が誕生しているわけですが、団事務所に入っているのはそのごく一部でしかありません。

 「なんぶ」(名古屋南部)によると、新人の永井敦史さんを披露するパーティーを開催したとのことです。やはり、それくらいするべきなんでしょうね。申し訳ないことに、私の事務所に桑原義浩さんが入ってきたときには何もしませんでした。

 「プラテーア」(たかさき)によると、北海道のたかさき事務所は目を見張るほどの成長ぶりを示しています。長く夫婦二人の事務所だったのが、今や弁護士八人、事務局一六人の大事務所です。この『プラテーア』はレイアウトといい、色彩のつかい方といい申し分ありません。ひたすら感心します。ただし、残念なことに本文に漢字が多すぎます。これだけ体裁が素晴らしいのに、弁護士は、まだ「準備書面」を書いています。裁判所向けと市民向けでは文体も変えるべきです。漢字が多すぎると、全体に黒っぽくなります。これではとっつきにくいのです。読まれるためには漢字を少なくして、白っぽくする必要があります。ただ、漢字が少なすぎると、かえって読みにくくなります。その按配を考えながら、市民向けのニュース原稿は書くべきです。また、そこに編集する人の腕前と責任があります。編集者はニュースの読み手のことを考えて、弁護士の書いた文章が裁判官向けの準備書面と同じときには、大先生であろうと遠慮なく手を入れるべきです。それが編集者の責任であり、義務です。漢字を減らし、難しい言葉づかいをやさしい平易な言葉に置きかえ、小見出しを入れること、これが読まれるニュースにするために欠かせないところです。レイアウトの工夫だけでは足りません。あまりに素晴らしいニュースなので、注文をつけさせていただきました。

 九州では、福岡第一にも北九州第一にもそれぞれ二人ずつの新人弁護士が入りました。先日の福岡支部総会のときに見知らぬ顔が何人もいて、こちらの方がドギマギしてしまいました。

 異色の新人弁護士を紹介します。「おおいた市民総合」(所長は河野聡さん)に入った山本寛さんは大学生のころからストリートダンスを踊っています。もう一人は、「名城」(名古屋)に入った野本智之さんです。劇団四季で俳優をしていたというのです。いやあ、すごいですね。やはり、給源の幅が広がったことはいいことですよね。

 東京や大阪の事務所ニュースに旧態依然という雰囲気が多いのは(これは皮肉です)、新人弁護士の受け入れが少ないことの反映のような気がします。残念なことに新人紹介がないところが予想以上に多いと思います。

 いえ、東京の「池袋総合」は、毎年一人の新人弁護士を鍛錬・養成して、弁護士の足りない地方に送り出し、支援していく活動で実績をあげています。たいしたものです。

 「埼玉総合」のニュースによると、六人の所員が出て、新しい事務所をもうけたとのことです。ですから、事務所機能を大幅に充実強化する新生「埼玉総合」を目ざしているといいます。

 法テラスのスタッフ養成に取り組んでいる事務所もあります。「けやき総合」(熊谷市)は送り出しましたし、「臼井」(松山市)は養成中です。

 「わかくす」(佐賀市)は、若手弁護士三人の事務所ですが、法人化して、鹿島市に支店を開設しました。私の事務所でもゼロワン地域の柳川に支店を出すつもりでしたが、新人の獲得に失敗して出来ませんでした。そこで、福岡に支店を出し、都会と田舎を連結させながら活動をすすめていくというのはどうだろうかとも考えています。池永満さんの弁護士法人奔流が一挙に新人五人をとって、支店をあちこちに展開しているのに大いに刺激を受けてのアイデアです。まだどうなるか分かりませんが、検討したいと考えています。 2年目の弁護士(坂和宏展さん。私の同期の坂和章平の息子さんです)が次のように書いていますが、私も同感です。

 「近年の弁護士数の大幅な増加にともない、新人弁護士の就職戦線は年々厳しさを増す一方です。日弁連までノキ弁という言葉をつかうようになったし、初任給は全国的に徐々に低下しているようだ。これに対して、もともと弁護士は恵まれていたとか、一般の就職活動に比べれば、まだまだ甘い、弁護士を必要とする環境はまだまだたくさんあり、弁護士自身の自己アピールとチャレンジ精神の問題だといった批判も少なくない。

 個人的な考えですが、このような批判は実際のところ、かなり的を射ているのではないかと思います。ただし、それを新人弁護士に向けることが適切かどうかは別問題です。弁護士過疎の問題も、企業や行政における内部弁護士の意義も、すべてこれまでにさんざん指摘されてきたことです。それを充実できなかったのは、これまでの弁護士自身がチャレンジもアピールもしてこなかったからではないでしょうか」

 実際そのとおりです。弁護士の人数が少なかったために、これまでの弁護士にはそんな必要はなかったのです。

身近な法律相談

 弁護士生活三五年目の私は、このごろ法律知識の欠如を自覚することがしばしばです。覚えていたはずの基本的な知識は忘れてしまっているし、新しい法改正はなかなか頭に入ってきません。そんな私を救うものの一つが、事務所ニュースの法律相談コーナーです。今回は「なんぶ」(東京南部)の「生命保険金と相続」(塚原英治さん)によって、相続の対象とはならない、原則として特別受益にあたらない、契約者によっては贈与税の対象となったり一時所得となるということを再認識しました。

 やはり、事務所ニュースには、こんな役に立つ豆知識ものせてほしいのですが、今回は総じて少ない気がしました。

弁護士の近況報告

 最近、団員が裁判官に任官したというニュースを残念ながらあまり耳にしません。非常勤裁判官になっている団員弁護士は多いと思うのですが、弁護士任官のほうは順調でないのが残念です。

 今回のトピックスは、「東京合同」の藤原真由美さんが新司法試験考査委員(憲法)になったというものです。藤原さんは日弁連憲法委員会でご一緒していますが、毎回のように積極的に発言されています。先日の『自由と正義』に載った品川正治氏の感動的な講演録も、藤原さんの努力の賜です。

 「ひろしま」の津村健太郎さんは、この三月まで日弁連副会長の激務についています。藤原紀香はついていないマンスリーマンションを借りてがんばっているそうです。ところで、連載コラムに私の目が留まりました。「とめてくれるな おっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」。これは、私が大学二年生のときの駒場祭(一九六八年一一月に開かれました)のポスターにかかれていたセリフです。東大本郷で開かれる五月祭ではありません。全共闘だけが当時の学生運動だったかのような世間の誤解をとくため、いま私は5巻もの長編小説(『清冽の炎』)を書き続けています。大阪の石川元也元団長から推薦のお言葉も寄せていただきましたが、相変わらずさっぱり売れないままです。それでもめげずに第4巻を出したばかりなのです。

 「川崎合同」は私が弁護士生活をスタートした出発点の事務所です。事務所員の全員が新年の抱負を語っています。東京大気裁判で大勝利をかちとった西村隆雄さんは私の川崎セツルメントというサークルの後輩でもありますが、団東京支部のソフトボール大会で優勝しMVPと両手両足に花とのことです。すごいですね。ただ、惜しむらくは、このニュースの顔写真はボケボケです。費用を惜しまず、もっと鮮明な写真にぜひしてください。

 「きづがわ」は、表紙の絵が子どもの描いたものから渡辺和恵さんの描いた素敵な絵にかわりました。所員の一口紹介もイラストつきで読みやすいですね。写真を多くつかった秀逸なレイアウトで、大変読みやすいニュースだと私はいつも感心しています。

 所員紹介の顔写真の素晴らしさでは、「東京駿河台」です。弁護士5人からスタートして、今では弁護士八人となりました。いろんな公共的(ボランティア)事件も多いのでしょうが、もっともっと人数を増やしてほしい事務所です。いつもは顔写真がもっと大きいように思いますが、それでも、表情豊かな顔写真なので、きっとプロが撮っているだと思っています。

 「大阪」のニュースは顔写真は比較的よく撮れています(少しボケ気味のもありますが・・・)。ただ、新人弁護士が少ないせいか、法律知識の普及コーナーとか事件紹介などがないのが残念です。ちょっと手抜きしたのではありませんか?

 所員の近況報告では「北の峰」(北海道合同)のスタイルを私はいつも高く評価しています。弁護士と担当事務局がペアで写真にうつり、それぞれ一口コメントがあって、活動スタイルの雰囲気がよく分かります。

 「JUNPOH」(旬報)は、所員アラカルトになんとマンガカットがつかわれています。レイアウト・デザインも見事です。ただ、弁護士の文章にほとんど小見出しのないのが難点です。

還暦を迎えて

 私もこの一二月には、ついに還暦を迎えます。自分でも信じられません。

 「埼玉総合」の梶山敏雄弁護士と「名古屋南部」の竹内平弁護士が同世代のようです。梶山敏雄さんは、還暦を迎えて、「あわてず、あせらず、あきらめず」と書いています。まったく同感です。着実に前を向いて歩いていきましょう。竹内平さんの言葉は素晴らしいですね。「自分の愚かさや至らなさに気がつかず、厳しい注文にたじろぎ心も閉ざす『小さい人間』ですが、小さい力を信じて希望を持ち愚かさの中でもまだまだもがきながら生きていきたい」。じっくりかみしめ味わいたくなる言葉です。

『裁判の書』

 「太平洋」の三木俊博弁護士は学生時代からの友人ですが、『裁判の書』(三宅正太郎)のことを書いています。つばぜりあいというのが最近はなくなったというのです。昭和一八年に出版された本ですが、最近は裁判官と弁護士が以前のような厳しさが薄れ、なあなあの関係になったという苦言を三宅判事が呈しているというのです。今のことを指摘したのかと一瞬おもってしまいました。

 「神戸あじさい」には、六度目のベトナム訪問記がのっています。奥地の少数民族の村へ出かけたというのです。私も一度だけベトナムには行きましたが、六度目とはたいしたものです。ここには大牟田出身の宮地奈央弁護士が入りました。宮地さん、お元気ですか。ぜひ団の集会でお会いしましょう。

 「札幌協和」のニュースはカラフルでよく出来ていると思います。私は、いつも事務所旅行記を楽しく読んでいます。今回は食べて食べて食べ尽くす旅行だったようです。目下、厳しいダイエットに励んでいる私には、ちょっと目に毒な記事でした。

「若手弁護士の独り言」

 「三重合同」の森一恵弁護士の文章は笑わせました。ベテラン弁護士は「妖怪・魑魅魍魎(チミモウリョウ)」ぞろいだというものです。なるほど、なーるほど、と思ってしまいました。「ベテラン・中堅・若手が複数でチームになって法廷に出て、役割分担して尋問に異議を出してくる。親狸・子狸・孫狸が腹鼓をしながら囃したてる様子そっくりで、まるで狸囃子チームだ。そして、超ベテラン弁護士は、法廷で証人尋問の手持ち時間を過ぎても気にせず、平然として『ここは重要なところです』『あともう少しです』などと裁判長の制止をうまくはぐらかしながら尋問を続ける。人間というより神仏に近い」

 うむむ、私も、そうなりたいものです。ただ、準備書面ではありませんので、見出しに数字は不要です。同期の石坂俊雄さんも見出しに数字があり、違和感をかもし出します。引き続きトライアスロン、がんばってください。

「それでも、僕はやっていない」

 いい映画でした。あの法律事務所が五反田事務所の「実況中継」というのを知って、なるほどと思いました。あの書類を山積みした机が一掃されたというのです。ホントかな、と思いますが、三〇周年を記念して大改装したというのです。私も、一度行って確かめてみましょう。

読書好きの人へ

 「みどり」(佐々木猛也事務所)で佐々木弁護士が読書のすすめを書いています。私も昨年五五六冊の単行本を読み、そのうち三六五冊の書評を福岡県弁護士会のHP(「弁護士会の読書」)に紹介しています。ぜひ、みなさんアクセスしてみてください。

映画好きの人へ

 「坂和総合」の坂和章平さん(私の同期です)は相変わらず映画をよくみています。まったく映画中毒です。それにしても、北京にまで出かけて、日本映画について講義をしたというのですから、偉いものです。

B4サイズのニュース

 今回、B4サイズのニュースは六つだけでした。そのうち白黒だったのは三つです。東京合同は内側はカラーです。やはりカラーにはかないませんね。

 「千葉中央」はぜひ写真をもっとくっきり鮮明にしてください。「しらかば」は、レイアウトに工夫の余地があると思います。

 「名古屋第一」は、新人弁護士二人を入れて総勢二五人。事務局をふくめた全員の顔写真つき一言紹介は圧巻です。新人が入っているところはやはり勢いを感じます。

 A4サイズのニュースを折り曲げているところがほとんどなのですが、折ったら読みにくくなります。折り曲げずに読みやすさを優先したほうがいいのではないでしょうか。もちろん、費用とのかねあいがあるでしょうけど・・・。

封筒に憲法を

 私の事務所は関西合同にならって封筒に憲法9条を印刷しています。憲法9条を知らない市民は想像以上に多いからです。でも、今回、関西合同のほかには「たかさき」だけでした。本当にこれでいいのでしょうか。「北海道合同」は、封筒に事務所の地図を載せ、法律相談が月・水・金と書かれています。ほかの曜日は受けないのでしょうか?

お断わり

 以上は、私の事務所に送られてきたニュースを紹介したものです。なかには団事務所と標榜していない事務所もあると思います。そんなとき、勝手に紹介しやがってと怒らないで下さいね。したがって、この文章は、あくまで団内外の事務所ニュースを紹介したものとして軽く読み流してください。



自薦図書 在日コリアン弁護士協会編

 『裁判の中の在日コリアンー中高生の戦後史理解のために』(現代人文社)

東京支部  金  竜 介

一 在日朝鮮人の歴史

 阪神教育闘争、寸又峡事件、小松川事件、日立就職差別裁判、指紋押捺拒否闘争、ウトロ地区立退請求訴訟、東京都管理職裁判、無年金訴訟、司法修習生採用拒否、調停委員・司法委員就任拒否問題、・・・。

 在日朝鮮人(※1)は、大韓民国や朝鮮民主主義人民共和国の歴史とは違う、もちろん日本人の歴史とも違う「在日朝鮮人史」というべき歴史をこの国で作ってきた。この本は、在日コリアン弁護士協会の弁護士十六名が、在日朝鮮人を巡る裁判を中心にして、戦後補償、日常生活における差別、子どもたちの教育、司法への参画、政治参加などをテーマに執筆したものである。これまでも在日朝鮮人の歴史を解説した本はあるが、これだけ多くの在日朝鮮人の弁護士が共同で執筆したものは初めてであろう。

 この本の帯には「日本を映す鏡」という言葉が用いられている。在日朝鮮人が置かれてきた過酷な状況は、まさに日本社会を映し出す鏡であると私たちは考えるからである。

二 より積極的な権利獲得運動への展開

 私自身も今回の執筆をきっかけにして、在日朝鮮人の歴史を改めて学ぶこととなった。在日朝鮮人の人権に関わる裁判は、当初は、就職差別や入居差別などの生活に必要不可欠な人権問題であったが、八〇年代の指紋押捺拒否闘争のような精神的な自由を求めるものが現われ、次第に、公務就任権、参政権などのより積極的な権利獲得が主張されるようになっていく。裁判史を見直す中でその過程がはっきりとしてくるのである。また、例えば、入居差別訴訟の形態も当初は大家や仲介業者のみを相手にしていたものが、近時は行政も被告とする裁判が提起されることとなっていくのである(※2)。

 この本を通して多くの人にその闘いと権利拡大の過程を知ってもらいたいと考える。

三 「日本人と同じなのに・・・」

 本書の拙稿『入居差別−外国人お断り!?』の一部を紹介する。この本に興味をもっていただけたら幸いである。

 「在日コリアンに対する入居差別のことを話していると、日本人からは、「『在日』の人たちは日本人と同じなのにそんなのは許せませんよね」という言葉が返ってくることがあります。この人が、入居差別を理不尽なものであると考えていることは間違いありません。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。このようなことを述べる日本人には、「ぼくたちは日本生まれで日本育ちの韓国人ですから、変なことはしませんよ」と述べてしまったことを生涯忘れられないという李俊熙(イチュニ)さんの気持ちを理解することはできないのではないでしょうか(※3)。

 在日コリアンへの入居差別は、「日本人と変わらないのにひどいね」と語ってしまってはいけないことです。在日コリアンとしての誇りを持って生きようとしている人たちに対してこれほど侮辱的な言葉はないからです。

 また、「日本人と変わらないのに」ということでは、在日コリアン以外の外国人に対する入居差別を是認することにもなりかねません。」

 どうだろうか。「日本人と変わらないのに」とのことばを肯定的な意味で使った方は今一度その意味を考えてみてもらいたいと思う。

四 大韓民国人権賞の授与、在日コリアン弁護士協会のこれからの活動

 二〇〇七年一二月、在日コリアン弁護士協会は、在日社会の人権に寄与したとして、韓国の国家人権委員会(※3)から「大韓民国人権賞」が授与され、ソウル市で表彰を受けた。二〇〇二年に結成した同会がこの賞に値する活動をしてきたのか、いささか心もとないが、今後の活動への期待を込めてのものだと考えてありがたくいただくことにした。

 全国の会員数五十余名のまだ小規模な団体ではあるが、法律家の立場から見た「在日コリアン基本法法案」の作成や在日の人権活動の活性化を目指して今後も活動を行って行こうと決意している。

 この本の副題は『中高生の戦後史理解のために』というものであるが、大人でも読み応えのある内容となっていると思う。多くの方がこの本を読み、在日朝鮮人の歴史と現状に目を向けてもらえればと強く願っている。

 ※1 「在日コリアン」、「在日韓国・朝鮮人」と同義。民族の総称であることから「在日朝鮮人」との表記が最も適切であると考えてこの語を用いている。大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国のどちらが正当であるかという問題とは無関係である。

 ※2 康由美弁護士入居差別訴訟の判決(大阪地裁二〇〇七年一二月一八日)は大阪市に対する請求を棄却した。

 ※3 尼崎入居差別訴訟の原告李俊熙さんは、不動産業者から「韓国の人は難しい。」といわれた際に「ぼくたちは日本生まれで日本育ちの韓国人ですから変なことはしませんよ。」と卑屈な態度をとってしまったことを決して忘れないと述べている。

 ※4 人権に影響を及ぼす法令に関する諮問・勧告権、人権保障に必要な法令の制定に関する勧告権、人権に影響を及ぼす法令、制度、政策に対する調査・研究・勧告権などを有する、政府や国会から独立した委員会。二〇〇一年施行の国家人権委員会法により設立された。



自衛隊よ、「イラクのイギリス軍」となれ!

―浮かび上がる新テロ特措法・海外派兵恒久法の狙い―

長野県支部  毛 利 正 道

なぜ再議決までするのか

 この論説が読者に届く日が、まさに、新テロ特措法(以下、同法と言います)が再可決によって強行成立させられるその日になる可能性が高い、そのような緊迫感を持って書いています。同法案は、二〇〇一年から丸六年間続けてきて昨年一一月一日に期限切れになった、インド洋での「テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動」を、(国会の承認なしに)再開して向こう一年間(延長は一年毎)続けようとするものです。

 しかし、昨年七〜一〇月四ヶ月の実情を見ると、派遣されている自衛艦は補給艦・護衛艦各一隻のみでこれが組になって、海上阻止活動に参加している米・英・仏・パキスタンの四国艦船に、合計三二回一ヶ月当たり八回給油しているだけでした。海上阻止行動の規模・参加国が、その必要性が激減しているのです。そのためもあり、自衛艦が引き揚げてきて二ヶ月経ったのに、「どうしても困るからぜひ来てくれ」との声を聞いたことがありません。残った国で給油を間に合わせているのです。現にアメリカですら、「給油を受けた艦船をイラク作戦に使えないとの制約を受ける(同法から言えば当然のことのはず)なら、自国の艦船に給油してもらわなくてよい」旨述べている始末です。

 にもかかわらず、政府与党が衆議院三分の二での再可決という「伝家の宝刀」を持ち出してまで強行成立を図るのはなぜでしょうか。そもそも、この「伝家の宝刀」は、小泉内閣による郵政民営化の是非のみを争点にした衆院選で自民党が手に入れたものであるから、これを他の問題に安易に使うことは出来ないはずとする、信濃毎日新聞社説(二〇〇七年一二月一三日)のとおりです。ましてや「違憲違法な、国際法にも反する報復戦争に協力するな」と同法案再可決に反対している多くの国民から、たとえ嫌われても構わない、なぜそれほどまでに同法に固執するのでしょうか。

中村哲医師が危ない!

 加えて、今ここで同法を再制定してまでインド洋に自衛隊を派遣することは、アフガニスタン(以下、同国と言います)に生じている「混乱」に拍車をかけるという問題があります。同国には、国連安保決議に基づく多国籍軍(ISAF)、その指揮下の軍民共同復興チーム(PRT)、国連とは本来無関係のアメリカ中心の報復戦争「不朽の自由作戦」部隊(OEF)などが入り混じって五万人以上の兵士を送り込んでいます。最大の問題は、同国の復興を援助するとのうたい文句で派遣されているはずなのに、同国の民衆から十把ひとからげに「侵略者=敵である外国人」と見られその支持を急速に喪失していることにあります。

 その原因は、中村哲医師いわく、「地上軍を送ると、その兵士が相手の攻撃を受けて死ぬので、そうならないために空から攻撃するようになり、ジェット機を繰り出すようになった。その結果、空爆で民間人が巻き添えになることが日常的に起きています」。イラクで先行して起きているように、民間人が理不尽に殺害されれば、その肉親・愛する人・周囲の人びとが「外国人」に対して自爆攻撃を行うこと必定で、その自爆攻撃の巻き添えになってまた民間人が殺され、その殺された民間人から残された人びとは起点となった外国軍を恨む、という「負の連鎖」になるのです。

 実際、同国で二〇〇六年一年間に殺された民間人は、外国軍によって二三〇人、一二三回の自爆攻撃などによって六六九人、合計九〇〇人にもなっています。日本がここで「外国人」の筆頭アメリカの言いなりになって敢えて自衛艦を再派遣するということは、これまではまだ好意的だった同国の人びとの日本人に対する視線が一層険しくなり、あの中村哲医師のような人までが襲われる事態になる危険が十分あります。同氏は今、半分以上飢えに陥っている同国の人びとを救うため、長大な灌漑用水路を切り開く大工事を長年にわたって実践している、そのような人でもですよ。日本政府としても、二〇〇一年以降同国に一四〇〇億円以上の復興経済援助をしていますが、その「努力」も水泡に帰すことでしょう。にもかかわらず、なぜ同法を強行成立さようとするのでしょうか。

狙いは海外派兵恒久法の露払い

 その鍵は、自衛隊海外派兵恒久法(以下、恒久法と言います)にあると思います。この一月八日に、町村官房長官・高村外相・石破防衛相が首相官邸で会合を開き、自衛隊をいつでも海外に出せる海外派兵恒久法を、この通常国会か、今秋の通常国会に提出し成立を図ることで一致しました。なぜ今なのか、信濃毎日新聞は「新テロ特措法案が一年後に期限切れした後も、インド洋での給油活動を継続するのが当面の狙い」と報じています。そのように政府関係者が説明したのでしょう。しかし、インド洋での給油継続のためだけなら、同法案にあるとおり一年単位で延長すればよく、今ここで敢えて恒久法を制定しなければならない理由はないのです。

 それならなぜ今同法制定なのか。いまここで新テロ特措法を制定できなければ、生きた自衛隊海外派兵法としては国民に評判の悪いイラク特措法だけが存在する状況が当面続くことでしょう。しかし、そうなっては、いつでもどこにでも派兵できる恒久法を敢えて造らなければならないという必要性(=立法理由)が国民に一層見えにくくなります。それでなくとも、「立法改憲許せない」との反対運動がそれなりに高まるでしょうから、いくら事実上の大連立でごり押ししようとしてもそうスムーズには行きにくい、と見たのではないでしょうか。

恒久法に向けての自民・民主あげての執念

 このように思うのは、恒久法制定に対する政府自民党・民主党挙げての並々ならない狙いを感ずるからです。

(1) とりわけ九一一同時テロ以降のアメリカ対日要求のTOPが、今後五〇年にわたって世界中でおこる(おこす)対テロ戦争に日本が戦闘行動出来る軍隊を派遣することであったことは、はっきりしています。いますぐの明文改憲がおぼつかないなら恒久法を直ちにとの圧力がないとは思えません。

(2) 二〇〇六年八月に、現在の防衛大臣である石破茂が委員長を務める自民党防衛政策小委員会において、全六〇条の条文が完備した「海外派兵を恒久的に自衛隊の本来任務とする国際平和協力法案」が造られています。そこでは、国連に限らず米国一国からの要請で自衛隊をどこでも海外派兵でき、イラクで現在イギリス軍も担っている武力行使を伴う「安全確保活動」も行う(今のイラク特措法では、自衛隊はその手前の「安全確保支援活動」しかできない)。しかも武器使用要件も(いろいろ区分けしてはありますが)、要は「やむを得ない」「相当な理由」があれば、「合理的に必要と判断される限度で」使用できるというものです。大幅な拡張であって、これであればイラクで、イギリス軍のように掃討作戦に参加することもできるでしょう。報道では、この法案が今年1月以降の法案化作業においてたたき台にされるとのことです。

(3) 昨年一一月の福田・小沢内密党首会談は、自民党と民主党が協調して恒久法を制定するところに大きな狙いのひとつがあったことはすでに明らかになっています。その旨のメモを双方持ち帰ったと報道されてもいますし、小沢代表も福田首相も、その後も再三にわたり恒久法の必要性を訴えています。

(4) 民主党が昨年一二月に法案として提出した「アフガニスタン復興支援等特措法案」を良く読んで驚きました。「抗争停止合意の存在」または「住民に被害が生じない地域」という曖昧な要件が備わっていると認定しさえすれば、同国内に地上部隊も派遣でき、しかも「支援活動への抵抗を抑止するためやむを得ない必要」というこれまた曖昧な要件で武器を使用できるというのです。(2)の自民党案よりも広く武器を使えるようです。この法案が本当に通ったら自衛隊が同国内で武力行使するという極めて危険な事態が生じかねません。しかも、ご丁寧にその第二五条で今後「安全保障基本法(そこには当然恒久法を含むはず)」を制定することを明記しているのです。

(5) これら自民・民主両党による一連の動きは、武器使用基準を大幅にゆるめた恒久法制定に向かっているとしか言いようがありません。

イラクの安全確保活動で一七四名死亡したイギリス軍

 その行き着く先は、どこでしょうか。イラクでイギリス軍は、二〇〇三年五月以降最大で約一万人が「安全確保活動」などの武力行使任務に付き、今年一月八日までに一七四名死亡しています。私は、〇五年五月に、それまでにイギリス兵士が八七名イラクで死亡していることを根拠に、改憲されれば自衛隊も一万人派兵されて一〇〇人死ぬとする論説を出しましたが、その後二年半でイギリス兵士の死亡はほぼ二倍にまでなっているのです。アメリカにとっては、最も頼りになる世界最強の米英同盟でした。しかし、そのイギリスも、イラク派兵の責任を取らされて政権が交代し、加えて加盟するEUがかなり対米独自路線をとるなど「頼りがい」がありません。アーミテージが日本に対し「英米同盟のようにあれ」と求めたように、日本にイギリスのイラク派兵のような活躍を、との期待がかかります。自衛隊員が一七四人死亡するときには、そのなかには自殺者も相当数に上りますし、民間軍事会社や一般企業から「戦地」に派遣される日本人の中からも多数死亡者が出ることでしょう。そして、何よりも世界の罪なき人びとを、日本人である自衛隊員がその死亡数のまず間違いなく一〇〇倍以上殺害することになるのです。明文改憲されなくとも、造られる恒久法の内容によってはここまで行き着くのです。

「9条の会」の訴え  「立法改憲策動に対し、立ち上がろう」

 二〇〇七年一一月二四日に満員一〇二〇人が参加して開かれた「9条の会」第二回全国交流集会で画期的な「訴え」が提起されました。憲法9条を守るために、明文改憲を阻む闘いだけでなく、9条を生かす二つの闘いをおこしましょうというものです。会場にいて身震いを覚えました。今後の明文改憲の動きに不透明なところがあるものの大連立の策動もあり、国民投票法が成立している以上、「臨戦態勢」であることに変わりありません。これに加えて「9条を生かす二つの闘い」とは、加藤周一・澤地久枝両氏の発言によりますと、米軍再編法・自衛隊海外派兵恒久法・新テロ特措法を始めとする立法改憲と闘うこと、そして、福祉・教育・暮らしを削って戦争のためにお金を使おうとする生存権破壊攻撃と闘うこと、この二つです。

 「これまでに六〇〇億円もインド洋で使っている。インド洋でただで給油してやるくらいなら、灯油高騰で苦しむ国民に回せ」との声がここ日本で充満しているように、いまや、生存権を守る闘いと平和憲法を守る闘いとをしっかり繋げて全面展開すべき時です。その際、私は、日本の年間予算額と同じ「八二兆円にまで肥大した世界の軍事費を大幅に削って、世界・日本の環境・暮らし・社会保障に回せ」を、世界と日本での闘いのキャッチコピーにしたいと思います。二〇〇一年の時点で、当時の世界の軍事費七八兆円の三〇%を一〇年間にわたり使えば、地球環境・飢餓貧困・核兵器の全廃・エイズ対策など地球上で起こっている大問題がすべて解決できるとの試算が示されています。軍事力と地球市民たる私たちの生存権とが両立しないことが明らかになりつつある今、昔から言われてきた「軍事費を削って暮らしに回せ」とのスローガンを、新たな視点から見つめ直したいものです。アフガニスタンの復興も、中村医師が現に実行しているように、軍事力に頼ることなく、同国国民が主権者として成長していけるよう経済的にサポートするとの姿勢が不可欠です。

アメリカからの自立と地域国際ネットワークの時代

 今世界は、地域国際ネットワーク隆盛の時代です。東南アジア諸国連合(一〇国)・上海協力機構(六国)・南アジア地域協力連合(八国)・欧州連合(二七国)・合衆国構想まで打ち上げたアフリカ連合(五三国)・南米諸国連合(一二国)・カリブ共同体(一四国)・イスラム諸国連合(五七国)、そして非同盟諸国首脳会議(一一八国)。いずれもめざすは、国際紛争の平和解決と関係国家国民の生存権保障であり、とくにこれらを進めるうえで障碍になりうるアメリカ一国覇権主義への牽制です。今や、アメリカからの自立と地域連携が世界の流れです。

 ここ日本でも、北東アジアでのネットワーク確立とアメリカからの自立とをめざしつつ、新テロ特措法に続き、自衛隊海外派兵恒久法の制定を許さない闘いを、国民の生活実感に支えられたものとして展開発展させてゆきましょう。

(地域ミニコミ誌「ニュースレター平和の種」〇八年一月一二日号のために・二〇〇八年一月九日脱稿)



追悼文 斉藤健兒先生

優しいまなざしと誠実な弁護活動

東京支部  川 人  博

 昨年一二月一六日、斉藤健兒弁護士が病気にて逝去された。

 斉藤さんは、東京教育大学を卒業後二八期司法修習生として法曹界に入り、東京法律事務所に所属した後、斉藤・小笠原法律事務所を創立し、約三〇年余にわたり弁護士活動を精力的に続けられてきた。まだ六一歳の若さで、もっともっと活躍していただきたかったと、残念でならない。

 私は三〇期で斉藤さんとは所属事務所も異なっていたが、まだ弁護士駆け出しの頃である一九八〇年代前半に、梅田闘争という労働争議の弁護団員として一緒に活動した。

 梅田争議とは、杉並区のメーカーに労働組合がつくられた途端に、会社が敷地を不動産会社に売却し工場を閉鎖し,約一〇〇名の労働者を全員解雇する暴挙に出た事件であった。大規模な争議に発展したこともあり、四つの法律事務所から弁護士が一〇人ほど集まり弁護団を組んだ。寄り合い弁護団で互いの協力をはかることが大切であったが,斉藤さんは、その温厚な人柄で皆の意見をよく聞き、弁護団の活動を円滑にするうえで貴重な役割を果たしてくれたと思う。

 その後、私は二〇〇二年から斉藤さんなど有志と一緒に、北朝鮮金独裁権力による拉致被害者を救済し、かつ、強制収容所をはじめとする人権侵害をなくすための「法律家の会」(現名称北朝鮮による拉致・人権問題にとりくみ法律家の会)を結成し、ともに活動を続けてきた。

 法律家の集まりの第一回会合(勉強会)は、横田滋さんを招いて、二〇〇二年四月に弁護士会館五階で開催したが,その参加者は、なんと弁護士四名修習生二名という状況で、私は横田さんに申し訳なくて意気消沈した。しかし、そのとき参加した斉藤さんが、この問題に積極的にとりくんでいく意欲を表明し、翌二〇〇三年に結成した「法律家の会」では、会の事務局長に就任し文字通り会の中心となって活動を担っていった。

 北朝鮮による拉致や人権問題に対し法律家のとりくみが弱かったことから、「法律家の会」結成当時は、長くこの課題に取り組んできた被害者家族、支援団体や個人との信頼関係を形成することが大きな課題であった。斉藤さんの誰に対しても真摯に接して語る人柄によって、「法律家の会」はしだいに、被害者家族や支援者から信頼を得ることができるようになった。

 私は、斉藤さんたちと一緒に、政府は認定していないが拉致被害者の疑いが濃い人々の家族宅や友人宅を訪問し、調査活動を続けてきた。二人で千葉、山梨、長野などに赴いてヒアリングを続けたが、斉藤さんは、予断をもたずに事実を慎重に探究していく姿勢を堅持していた。彼が事務局長時代に実施した「法律家の会」の泊まり込みの現地調査は、新潟、佐渡、鳥取、釧路であるが、これらの調査活動もあって、二〇〇六年の松本京子さん(鳥取)政府拉致認定や政府未認定被害者問題の世論喚起などの成果を獲得してきた。

 斉藤さんが健康診断の結果腫瘍が発見され、入院したのが二〇〇六年一一月だったが、それまでの約四年間にわたり、彼が「法律家の会」事務局長として果たしてきた功績は限りなく大きい。

 この約四年間は、北朝鮮問題をめぐってこの団報でも様々な意見が出された時期であった。斉藤さんは、日本の法律家の多くが拉致問題や北朝鮮人権問題へのとりくみに消極的なことを残念がり、法律家がもっともっとこの問題にとりくむことを願っていた。

 最後に改めて彼のご冥福を祈念し、追悼の言葉とします。