<<目次へ 団通信1566号(7月11日)
京都支部 諸 富 健
一 はじめに
今年の五月集会憲法分科会二日目は、各地の取組や今後の運動などについて議論するということで、冒頭、岐阜支部の山田秀樹団員より岐阜県・西濃地域における多彩な取組のご報告があり、今後に向けての率直な悩みについてもお話しになりました。それを受けて、私からは団員の果たすべき役割について発言させていただきましたので、こちらでもご報告させていただきながら私見を述べます。
二 「敷き布団と掛け布団」
これは中野晃一上智大学教授の言葉ですが、これまで平和運動に係わってきた人たちを「敷き布団」に例え、その下支えのもと「掛け布団」となるシールズやママの会といった新しく出てきた人たちの運動が融合して、戦争法反対の大きなうねりが生まれたことを表しています。私は、団員こそどちらにも関与しうる重要な役割を果たすことができると考えます。いろんな関わり方があると思いますが、ここでは弁護士会とあすわか(明日の自由を守る若手弁護士の会)の二つを取り上げます。
三 弁護士会
ご存じの通り、二〇一四年七月一日の閣議決定以来、弁護士会は一丸となって立憲主義を維持するための活動に取り組んできました。とりわけ、昨年の安保法案をめぐる闘いは、弁護士会の歴史上例を見ないと言われるほど大規模かつ多彩な取組みを行ってきました。京都弁護士会でも、四五〇〇人が参加した集会や一〇時間マラソンスピーチなど、史上初のイベントを次々と打ち出してきました。こうした弁護士会の活動は、「敷き布団」の人たちを中心として広範な市民の結節点となり、大きな評価を得ています。また、弁護士会が発する会長声明や意見書等も市民に勇気や希望を与えています。
強制加入団体である弁護士会において、会内合意を形成することはそれほど容易なことではありません。道理を尽くし大義を語る団員の存在が必要不可欠です。昨年の勢いを持続させるためにも、各団員がそれぞれの単位会で存在感を発揮し、弁護士会の活動をさらに前へと進めて下さい。特に、まだ国家緊急権(緊急事態条項)について反対声明を挙げていない単位会では、その実現に向けて働きかけを強めていただきますようお願いします(六月二三日時点で、声明を発している単位会・連合会は二六)。
四 明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)
今年に入って、あすわか関連の書籍が次々出版されています。あすわか著「憲法カフェへようこそ 意外と楽しく学べるイマドキの改憲」(かもがわ出版)、あすわか編・著「いまこそ知りたい!みんなでまなぶ 日本国憲法」全三巻(ポプラ社)、黒澤いつき共著「あきらめることをあきらめた」(かもがわ出版)、倉持麟太郎共著「二〇一五年安保 国会の内と外で 民主主義をやり直す」、楾大樹著「憲法がわかる四六のはなし 檻の中のライオン」。いずれも分かりやすく魅力的な本に仕上がっていますので、まだお手元にない方はぜひお買い求め下さい。
あすわかの京都支部では、今年からラジオのレギュラー枠をいただいて毎週一回出演しているほか、ハロウィン街宣、成人式シール投票、バレンタイン街宣など、季節感を大事にした取組みを行っています。こうした活動を通じて、ママの会やSEALDs KANSAI、ミナセンなど「掛け布団」の人たちとのつながりが生まれています。
五一期以降の団員でまだあすわかに加入されていない方、あすわかというプラットフォームは新たなつながりを広げていく上で極めて有効ですので、ぜひぜひご加入ください!会員費用はいただいていませんし、近くにいるあすわかメンバーに声を掛けていただければすぐMLに登録させていただきます。
五 さいごに
団員が積極的に動けば、「敷き布団」にも「掛け布団」にも関わることができ、これまでにない運動の発展の大きな可能性が広がると思います。とはいえ、私たち自身が疲れてしまっては息切れしてしまいます。自分自身楽しみながら、なおかつ決してあきらめることなく、息の長い闘いを続けていきましょう!
奈良支部 佐 藤 真 理
一 はじめに
籾井勝人氏はNHK会長就任時の記者会見(二〇一四年一月)で、「政府が右を向けという時にNHKは左を向くことができない」と発言したが、以来、NHKの「安倍チャンネル化」(政府広報化)がいっそう進んでいる。
放送法には、テレビを購入すると、NHKとの間に、放送受信契約を結ばなけれならないと規定されている。この規定を根拠に、市民が、NHKの放送を受信するか否かにかかわらず、NHKは放送受信料を徴収している。
M氏は、約三年前からNHK放送受信料の支払いを中断していたことから、NHKは、昨年一〇月、三四か月分の放送受信料四万三九八〇円の支払請求訴訟を提起してきた。
二 裁判の争点
裁判は、簡裁から移送後、奈良地裁で、本年三月四日から始まった。
私たち被告弁護団は、「放送受信契約は、受信の対価として受信料を支払うという継続的な『有償双務契約』である。市民は受信料を支払う義務があるが、他方、NHKは、放送法を遵守した放送を提供する義務を負っている。NHKが放送法第四条等が規定している『政治的に公平であること』、『意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること』などの義務を履行しない場合には、市民は、受信料の支払いを拒み、または一時留保することができる」と主張している。
さらに、第二回口頭弁論において、仮に、本件契約が継続的な有償双務契約ではないとしても、NHKが放送法四条一項及び同法八一条一項に明確に反する放送を行い、かつそれが継続的に行われ、もはや一般的な批判、言論活動においてその是正が不可能な事態に陥った場合は、契約者が支払を一時留保して、これを遵守させる方法として、受信料の支払いを拒絶することは放送法の趣旨に照らし、正当なものとして許容されると解すべきであり、現在の籾井会長のもとでのNHKの放送内容は、上記の放送法違反が常態化しており、被告が受信料支払を留保していることは債務不履行に該当しない旨を主張した。
これに対するNHKの主張は、「放送受信料の法的性質は『特殊な負担金』である」ため、受信料の支払拒否はできないというものである。
しかし、「特殊な負担金」という用語は、昭和三九年に出された臨時放送関係法制調査会の答申において使用された用語にすぎず、法律用語でも、法制化された用語でもない。
放送法六四条一項が、「放送受信設備設置者はNHKと放送受信契約を締結しなければならない」との旨を規定していることからしても、受信料支払義務が契約により発生することは紛れもない事実である。契約により受信料支払義務が発生している以上、契約の一方当事者である視聴者には、一定の「私法上の抗弁」が主張できるはずである。
NHKは、税金ではなく、広告収入によるのでもなく、視聴者の受信料によって、存立基盤を確保している。これは、戦前の放送が、「大本営発表」にみられる国家の宣伝機関の役割を担わされたという苦い教訓の反省に基づくものである。
放送法は、NHKの報道の自由を確保すること、とりわけ国家権力からの不当な介入を防止し規制することを目的として規定を整備している。他方で放送受信契約により視聴者は受信料支払義務を負担するが、放送法四条の趣旨等との関係で、視聴者は、一定の要件の下に受信料の支払拒否ないし支払の一時保留などの「私法上の抗弁」を有している。
その抗弁権の法的性質及び要件と効果等について、被告は、今後、詳細に主張立証していく予定であった。
三 突然の弁論終結と忌避申立て
ところが、五月一三日の第二回口頭弁論において、担当裁判官が、突然予告もなく、「弁論終結」と宣言した。
被告代理人の私が猛然と抗議し、「被告側はまだ主張立証を予定している。原告の主張への反論を準備している」と指摘して弁論の続行を求めたが、裁判官は一言も発言せず、立ち上がったため、私は裁判官の忌避を申し立てた。
被告のM氏を支援している「NHK問題を考える奈良の会」が提起した「裁判官の忌避・回避を求める請願署名」が急速に広がり、五月二四日までに合計一七九九筆が裁判所に提出された。
同日、奈良地裁が忌避申立を棄却し、即時抗告に対して、七月一日、大阪高裁が抗告棄却を決定した。
四 放送受信料支払留保の権利の確立を求めて
被告弁護団は、早期に弁論再開を勝ち取り、「安倍チャンネル化」しているNHKの報道の現状を告発し、その是正が図られない限り、放送受信料の支払いを一時留保できる権利の確立を求めて、「全国的なたたかい」に発展させていきたいと念願している。
運動面(全国各地で同種裁判の提起と交流)及び理論面でのご支援を是非ともお願いしたい。(二〇一六年七月二日)
東京支部 松 島 暁
イギリス国民はEU離脱を選択した。株安や円高など日本経済への影響しか報じない日本のマスコミは別としても、グローバリズムに何らの疑念も抱かず、「カネ」「ヒト」「モノ」を自在に動かすことで現に利益を享受している人々や組織・企業にとっては衝撃の出来事であったろう。また、東北アジアの未来にEU共同体を重ね合わせてきた日本のリベラルや左翼にとっても離脱の決断は、反動的排外主義の現れとしか映らなかったかもしれない。
しかし、イギリスのEU離脱、イギリス国民の半数が脱退を選択するであろうことは想定外の事象ではないし、驚くことでもない。また、その選択を反動的排外主義の現れと切り捨てるべきでもない。
もちろん残留が四八%で離脱が五二%であってその逆、残留が五二%、離脱が四八%とならなかったのは何故なのか、その分岐のギリギリの理由が何なのかは分からないし、私の関心もそこにはない。むしろ過半数ないし半数近くのイギリス国民が離脱を支持した事実こそが重要であり、その背景には、移民・難民問題が、即ち、異文化との共存、異民族受け容れをめぐるイギリス国民の葛藤がある。
そのイギリス国民の葛藤の歴史を分析・研究したのが、安達智史『リベラル・ナショナリズムと多文化主義 イギリスの社会統合とムスリム』(勁草書房)である。
「多文化主義」とは、西欧社会の中で不可視化(見えなく)されてきたマイノリティー集団やその文化に対して積極的な評価を与えるための「政治運動」であり、多元化した文化的慣習やそれに対する忠誠を社会が収容し(受け容れ)、社会統合を進めるための指導原理だと定義付けたうえで、問題の所在を、筆者は、次のように指摘する。
それまでリベラリズムは、公・私の領域(空間)を区別したうえで、公的領域では中立性が堅持されるべきで、多様な文化現象(習慣)は私的な領域にとどまるべきだとしてきた。これに対し多文化主義は、あらゆる文化(マイノリティー)は真正なものであり、それは公的にも承認されるべきだと批判(公立学校などの「公的領域」においてもスカーフやベールを着用し続けることを主張)、この多文化主義の主張と運動は、政治過程におけるマイノリティーの代表性を高めることに貢献するものであったが、一九九〇年代に入ると、その社会環境との間に緊張をもたらすことになった。共産圏崩壊とグローバル化が、移民や難民の流出入を促進し、その受け入れ国の文化的複雑性を加速、それが社会の一体性や安定性を担保してきた(それまでの)国民国家の枠組みの侵蝕をもたらした。その結果、多文化主義により文化的多様性を無条件に称揚することは、社会的結束を掘り崩し、結果としてコミュニティー間の離隔と不平等を助長させるとの批判を招くことになった。新自由主義をともなうグローバル化の中、「共有するものをもたず、運命を共にするつもりもない人々や集団が、連帯しそのために自己犠牲を払うことができるのか」との問いが発せられるようになった。
本書は、このような問題意識にもとづき、イギリスにおいて移民の受け入れとともに社会的統合がいかに図られてきたのかを論ずる。サッチャー政権下での政府の同化主義と地方での多文化主義の亀裂が北イングランド暴動に至る経過、その後の多文化主義に代わる「ブリティッシュネス(イギリスらしさ)」の強調、社会統合の強化の動向が分析される。また、英仏でのスカーフ・ベール論争の比較を通じた両国の社会統合の違いにも目配りがされている。
筆者は、多文化主義への批判や衰退が、ヨーロッパ全体の潮流であり、「多文化主義」を支持してきた国も市民的「統合」を強調するようになってきているとしながらも、実践や政策の前提として多文化主義の機能は今なお失われないとする。
昨年一月のシャルリ・エブド事件と一一月のジハーディスト達によるパリ襲撃事件、そしてシリア難民をめぐるヨーロッパの混乱等々、異民族・異文化の混合・接触による様々な矛盾が表出してきている。広くはこの国の「嫌中」「嫌韓」問題も、ここに位置付く。
イギリスの葛藤は、戦後の労働力不足を積極的移民政策で応じたことにはじまる。「カネ」「ヒト」「モノ」の安易な移動が将来の紛争の要因となりうることをイギリスの経験は教えている。グローバル化の時代だからこそ、一読に値すると思う。
岡山支部 山 崎 博 幸
「小説司法修習生」
同期(二六期)の永尾廣久さんから一冊の本が届いた。題名が「小説司法修習生 それぞれの人生」とあり、著者「霧山昴」、花伝社出版の四〇〇頁を超える堂々とした本である。「霧山昴」は永尾さんのペンネームである。代金が一、八〇〇円とあるが、買ってくれとも書いてないし、振込先も指定していない。かといって贈呈とも記していない。これまでも何冊か送ってもらっているが、一度も代金を支払った覚えがない。しかし今回の本は、きちんと代金を支払って読むべき大作である。
驚くべき記憶力と記録力
小説の形をとっているが、研修所の所長などは実名であり、「実録」として読めばよい。内容は実に詳細であり克明である。私はほとんど忘れていることが多い。例えば、ソフトボール大会のさいに、女性と四〇代以上の年配者を必ず入れる、といったルールが交わされたとある。また、初めての模擬裁判は教官が演じ、証人役は研修所の職員が担当した、と書いてあるが、私は全く記憶がない。こんなことをどうして覚えているのか不思議である。きっと日記か何かに記録しておいたものだろう。
教官の講義内容、教官宅訪問のさいのやりとり、青法協の準備活動、クラス連絡会の要望書運動など、わずか四か月間の前記修習の実態、修習生の活動状況などが実にリアルに展開されている。私は実務修習期の二六期青法協の議長の立場にあったが、前期のことはほとんど忘れていて、そうだったのか、そんなことがあったのか、と新鮮な気持ちで振り返っている。
永尾さんの作家的資質
本人からきいた話だが、永尾さんは修習生時代から自宅にテレビを置いてない、とのことであった。まさか買えないわけはないだろうから、見ないために置かない、ということだと思う。テレビを見ない、ということは作家としての最も大切な生活態度だと思う。私は勝手に推測しているが、松本清張も、大江健三郎も、三浦綾子も、加藤周一も、こうした著名な多作型の作家は、先ずテレビなどは見なかったはずである。まじめなドキュメンタリー番組を見たあと、続いて下らないお笑い番組があると、ついついずるずるみてしまう。ドキュメンタリーで涙を浮かべた三分後にはもうげらげら笑っている、というのがテレビである(私のことでもある)。人生の大切な持ち時間をこうして無駄に浪費してしまうのはいかにも馬鹿馬鹿しいことだ。永尾さんはテレビを見ないからいまだに小泉今日子の顔を知らないという。しかし、それで生きていくのに困るということもなかろう。永尾さんの、テレビを置かないという勇気には敬服する。しかしまた、テレビを見なければ作家になれるか、ということになるとそれは別問題である。
一日一冊の書評
永尾さんは、福岡県弁護士会のホームページに「弁護士会の読書」というタイトルで一日一冊の書評を書いている。つまり毎日何か一冊の本の書評を書いて掲載しているのである。年間五〇〇冊の本を読むそうである。私はかつて、一年間に一、〇〇〇冊読もうと計画し、一日三冊のノルマを課したが、三日間で挫折したことがある。これも永尾さんから聞いた話だが、一冊読むのにだいたい一時間あれば読める、ということである。いわゆる速読術をマスターしているのである。加藤周一の「読書術」(岩波現代文庫)という本があるが、このなかに速読術の方法が書いてある。私も一時間で一冊読めと言われれば読めないことはない。その方法は、先ず目次から読み、それからまえ書きとあと書きを読み、中間はここだと思うところにしぼって読む、ということであり、これも加藤周一氏から推奨されている。永尾さんの場合は、おそらくデジタルコピー機のように素早く読みとって頭の中にコピーしてしまうという方法であり、この方法が最も正確で効率が良いが、普通の人がこれをすると頭痛が起きるだけである。
「小説司法修習生」購読のお願い
話が読書術などにそれてしまって申し訳ありません。この駄文が掲載される予定の七月一一日は参議院選挙の結果が判明する歴史的な一日です。とりあえず書評の第一弾をこの程度にし、第二弾は、この本が、いまの司法を考えるうえでの必読書であることを訴えることとします(これが本題なのです)。投稿予定は、選挙結果などもう少し落ち着いてからになりますが、ぜひともそれまでに多くの皆さんに購読していただきますよう、永尾にかわってお願いする次第です。
(注文先、花伝社、TEL 〇三―三二六三―三八一三
FAX 〇三―三二三九―八二七二)
東京支部 鷲 見 賢一郎
一 業務委託と契約社員、パート従業員の雇止め等
社団法人日本外国特派員協会は、二〇一二年二月二七日、株式会社アラスカとの間で、協会のF&B部門(フード アンド ビバレッジ部門)(食堂・バ―部門)をアラスカに業務委託(外部委託)する覚書を締結し、翌二月二八日、全会員と全従業員に対してその旨を発表しました。協会は、新公益法人制度の下で公益法人に移行するためには、公益目的事業の比率を五〇%以上にする必要があり、そのためには収益目的事業であるF&B部門を外部委託する必要があると主張しました。これに対して、新聞労連合とUPC(ユニオン・オブ・プレスクラブ)は、F&B部門は公益目的事業の一部と評価することができ、同部門を有したままで公益法人へ移行することができると主張しました。
組合は、希望者全員の雇用引継ぎ等を要求してたたかい、五月七日、協会の不誠実団交等とアラスカの団交拒否について、都労委に不当労働行為救済申立をしました。
協会は、不誠実団交を繰り返しながら、七月三一日、F&B部門の契約社員、パート従業員合計三六名を雇い止めしました。これに対して、組合員のA〜Jさんら一〇名(契約社員三名、社会保険加入のパート従業員二名、社会保険未加入のパート従業員五名)は、八月八日、東京地裁に、地位保全及び賃金仮払仮処分を申し立てました。
アラスカは、組合が団交申入れや不当労働行為救済申立をする中で、F&B部門の業務を受託することをやめました。しかし、協会は、新たな委託先を探し、九月一日、F&B部門を株式会社インターナショナルレストランサービスに業務委託しました。
協会は、九月九日、F&B部門の正社員のセクション・コックのK〜Mさんら三名を平社員に降格の上、メンテナンス部門に異動し、月額一万五〇〇〇円の責任者手当を全額カットしました。次いで、九月一四日には、F&B部門の正社員のバー・マネージャのNさんを平社員に降格の上、レセプション部門に異動し、月額五万円の責任者手当を全額カットしました。九月二四日には、F&B部門の業務を担当していた正社員のアシスタント・ジェネラル・マネージャーのOさんを平社員に降格の上、ライブラリー部門に異動し、月額七万円の責任者手当を全額カットしました。さらに、協会は、一〇月三一日、メンテナンス部門の社会保険加入のパート従業員のPさんを雇い止めしました。
二 続くたたかい
組合は、二〇一三年一月二八日、前記の不当労働行為救済申立の「請求する救済の内容」の変更申立をし、組合員のA〜Jさんら一〇名及びPさんの雇止め撤回と賃金支払い、組合員のK〜Oさんら五名の降格処分撤回と責任者手当の支払いを求めました。
東京地裁は、六月二一日、前記の仮処分申立について、(1)パート従業員のD〜Jさんら七名には契約更新に関する期待に合理性があるとは認められないとして、(2)契約社員のA〜Cさんら三名の雇止めは、人選の合理性を認めることができず、無効であり、地位確認の権利及び賃金請求権があるが、保全の必要性がないとして、組合員一〇名の申立をいずれも却下しました。仮処分申立は却下されましたが、三名の契約社員について被保全権利が認められたことは、その後のたたかいの大きな力になりました。
組合員七名は、一二月二四日、東京地方裁判所に、地位確認等請求事件を提訴しました。この訴訟で、契約社員のA〜Cさんら三名、社会保険加入のパート従業員のEさん、Pさんは、雇止め撤回、賃金支払いを請求し、正社員のNさん、Oさんは、降格処分撤回、責任者手当の支払いを請求しました。なお、社会保険加入のパート従業員のDさんは、右記訴訟提訴前に、協会と直接和解解決しました。
社団法人日本外国特派員協会は、二〇一四年四月一日、公益社団法人日本外国特派員協会に名称変更し、移行しました。
三 協会及びアラスカと和解解決
1 協会と和解解決
組合及び組合員一五名と協会は、二〇一五年一二月一〇日、都労委で、和解協定書を締結し、和解解決しました。和解内容は、次のとおりです。
(1)契約社員のA〜Cさんら三名、パート従業員のE〜Jさん、Pさんら七名、合計一〇名は、労働契約が終了したことを確認する。正社員のK〜Oさんら五名は、人事異動したこと及びこの間の責任者手当を請求しないことを確認する。
(2)協会は、UPCに対し、解決金を支払う。
(3)協会は、Nさんを月額三万円の責任者手当の支給対象の職位であるシニア・スーパーバイザーに任命する。
(4)協会は、組合及び組合員一五名に対して、F&B部門の業務委託に関連して行われた従業員の雇止めや異動等の過去数年の出来事について、深く遺憾の意を表する。
(5)本和解協定書は、二〇一六年三月末日までに協会の会員総会において承認された場合に、その効力を生ずるものとする。
その後、二〇一六年三月八日に開催された協会の会員総会は、上記の二〇一五年一二月一〇日付和解協定書を承認しました。
2 アラスカと和解解決
組合とアラスカは、二〇一六年三月一四日、都労委で、和解協定書を締結し、和解解決しました。
四 和解折衝の経緯と今後の課題
1 解決金五〇〇万円の壁を打破
協会は、都労委の和解折衝の中で、「五〇〇万円を超える解決金を支払うのには会員総会の承認が必要であり、五〇〇万円が解決金の上限である。」と主張しました。この協会の主張を受けて、都労委は、「解決金四五〇万円」の和解案を勧告してきました。組合は、さらに争議を二〜三年継続することを決意して、「解決金四五〇万円」の和解案を断りました。
組合が上記和解案を断ると、協会は、「解決金は五〇〇万円を超えてもよい。」と言って、和解交渉を再開することを要請してきました。再開後の和解折衝で、協会は、会員総会の承認を得ることを条件に、五〇〇万円を超える解決金を支払うことに合意しました。
2 雇用確保の課題
協会の業務委託・雇止めとのたたかいで、金銭補償をさせることはできましたが、雇用を確保することはできませんでした。企業等の業務委託、事業譲渡等にあたって、雇用を保障させ、確保する理論と運動を強化することが重要です。