<<目次へ 【意見書】自由法曹団


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第6、裁判官制度の改革について

1、はじめに

 中間報告は、裁判官制度の改革の必要性を指摘し、判事給源の多様化・多元化の方向性を打ち出し、とりわけ判事補制度、特例判事補制度の改革・見直しを指摘しています。また、裁判官任命手続の見直し、裁判官人事制度の見直しにも言及しています。さらに、裁判官の大幅増員や裁判所関係職員の適正な増員の必要性も提起しています。
 以上の提案は裁判官制度の現状に問題点があるとの認識を持ち、それを改革しようと目指す点で評価し得ると私たちは考えますが、しかし以下に述べるように多くの点で不徹底であり、最終報告ではさらに積極的に踏み込んで、抜本的な改革を提案するよう求めます。

2、裁判所と裁判の抱える問題点の分析の欠如

 中間報告の第1の問題点は、現在の裁判所と裁判が抱える問題点に十分メスを入れていないことです。問題点を正しく把握していなければ的確な改革案を提案することは不可能です。
 中間報告は、現在の司法が国民の広い支持と理解の上に立脚していない要因として、行政中心の日本社会のあり方、国民の統治客体意識、法曹人口とりわけ弁護士人口の少なさ、法曹三者の協調的連携の不十分、司法制度全体の利用しにくさの5点を挙げています。ここでは、裁判所が行政や大企業の側に偏し、国民が行政や大企業による人権侵害からの救済を求めても多くの場合裁判所がそれを拒否してきたこと、そしてその背景に最高裁事務総局を中心とした裁判官に対する中央集権的官僚統制があること、裁判官不足の結果、裁判官が300件ないし400件もの事件を抱えてその処理に汲々とし、当事者に十分な主張・立証を尽くさせ証拠と道理に基づいて具体的事案における適切な解決を図るという本来の役割を失いつつあることについては全く触れられていません。しかし、裁判官に対する中央集権的官僚統制と裁判官不足、この2点が現在の裁判所と裁判の抱える最大の問題点ではないでしょうか。

3、法曹一元導入を明確にしていない

 中間報告の第2の問題点は、法曹一元導入を明示していない点です。私たちは今般の司法改革にとって最も重要な課題は陪審制と法曹一元の導入であると考えます。それは、この2つが先ほど述べた裁判官に対する中央集権的官僚統制を抜本的に改革するものだからです。この点に踏み込まずに部分的な改良を施しても現在の司法を国民のための司法に転換することは不可能だと考えます。ところが中間報告は、裁判官制度の部分的な改革について触れていますが、残念ながら法曹一元の導入についてはいまだ明確に打ち出していません。むしろ、判事補制度の改革、特例判事補制度の見直しを検討課題としていることから、判事補制度の存続を前提とするかのようにも読めます。最終報告では判事補制度の廃止、法曹一元の導入を必ず盛り込むことを強く求めます。

4、中間報告の裁判官制度の改革について

(1) 中間報告の内容
 中間報告は、裁判官制度の改革に関していくつか具体的な提案を行っています。
 判事の給源に関しては、判事補が判事の主要な給源となっている現状を改革する必要性を認め、「判事の給源の多様化、多元化」(裁判所法の趣旨)の実質化を図ること、判事補制度の改革を含め、知識、経験等の多様化を制度的に担保する仕組みを構築すること、特例判事補制度についてはその問題点を踏まえ見直しを検討することなどを提案しています。
 裁判官の任命手続の見直しに関しては、透明性、客観性、説明責任を確保するための方策(例えば、選考のための基準の明確化や手続の整備等)、指名過程に国民の意思を反映させるなどの資格審査の充実を図るための方策(例えば、国民の代表者等を含む機関が指名過程に関与する制度の整備等)、最高裁判所裁判官の選任等の在り方などについて更に検討するとしています。
 裁判官の人事制度の見直しに関しては、透明性、客観性の確保のための具体的方策として、裁判官の人事評価や報酬、補職・配置等について、評価のための基準の明確化や手続の整備などを更に検討するとしています。

(2) 中間報告の提案する「判事給源の多様化、多元化」について
 中間報告が提案する「判事の給源の多様化、多元化」(裁判所法の趣旨)の実質化を図るとは、具体的に何を意味するのか曖昧です。私たちは、判事の主たる給源を弁護士とすべきであると考えますが、中間報告のいう「多様化、多元化」が、弁護士からの任官者を増やすという意味なのか、更には、一部経済団体が主張しているような、行政機関や民間企業の専門家を任官させることまでを意味しているのか不明です。
 もし後者であれば、それは裁判所を現状以上に行政や大企業の利益に偏したものにすることに繋がる重大な問題であり、私たちは強く反対します。前者であれば、弁護士からの任官者を拡充するための具体的方策を含めて提案するよう求めます。そしてさらには、判事補制度を廃止し、判事の主たる給源を弁護士とする法曹一元の採用に踏み切ることを重ねて求めます。
 また中間報告が、「給源としての判事補制度の改革を含め、知識、経験等の多様化を制度的に担保する仕組みを構築する」と述べている点についても、具体的にどのような方向性を考えているのか明らかではありません。これが判事補制度の存続を前提にするという趣旨であれば問題です。また、具体的にどのような方向での「知識、経験等の多様化」を考えているのかについても危惧を抱かざるを得ません。現在でも判事・判事補の知識・経験等を多様化するという名目で研修制度の一環として行政機関や大企業などに出向させていますが、そのことはかえって裁判所の行政・企業寄りの姿勢を強める役割を果たしているように思えます。従って、「知識、経験等の多様化」という場合、国民とりわけ社会的弱者の置かれた地位を直接体験するような機会を設けることや弁護士として裁判所、検察庁・警察などの捜査機関、行政機関などと接することが重要だと考えます。今後の審議ではこの方向で内容の具体化を進めるよう要求します。
 中間報告が特例判事補制度についてその問題点を踏まえ見直しを検討するとすることは、法曹としての経験が不十分な判事補が単独で裁判を担当することの不合理性・問題点を審議会としても認識したものとして私たちは評価します。今後はこの問題を審議する中で、特例判事補制度の廃止を打ち出し、さらには判事補制度自体の廃止を提案することを期待します。

(3) 中間報告の提案する「裁判官の任命手続や人事制度の見直し」について
 私たちは、現在の日本の中央集権的官僚裁判官制度の抜本的改革のためには法曹一元と陪審制の導入しかないと考えますが、それと同時併行で裁判官の任命手続や人事手続を見直すことは必要でありまた重要だと考えます。従って中間報告がその点を検討課題に挙げた点は非常に重要だと考えます。
 現在の裁判官制度の最大の問題は、司法修習生から判事補への採用、裁判官の人事評価、裁判官の任地・配属の決定、判事補から判事への任命、判事3号俸以上の昇給など裁判官の任命・人事がすべて最高裁事務総局により行使され、しかもそれが不透明な形で運用され、その結果裁判官に対する思想差別、裁判官統制に濫用されていることです。この点は、修習生から判事補への任官拒否事件や宮本判事補再任拒否事件としてこれまで何度も社会問題となっています。
 従って、中間報告が検討課題として挙げた上記の点は、裁判官制度改革にとって欠かすことの出来ないものです。この点を今後の審議において具体化し、最終報告に必ず盛り込むことを強く求めます。そして私たちは以下の点を今後の審議において強く望みます。
 まず第1に、現在行われている修習生等から判事補への任命、判事補から判事への任命、裁判官の人事評価、裁判官の任地・配属・昇給(特に、差別が問題となっている判事3号俸以上の昇給)の決定などの裁判官の任命・人事の実態を明らかにすることです。これらの過程において思想・信条による差別が行われているのではないか、判決内容などによる差別が行われているのではないかという疑問が指摘されてきました。また実際にそうとしか考えられない判事補への採用拒否や判事への再任拒否が行われてきました。こういった疑いを持たれているこれまで制度と運用の実態を明らかにし、そこにどのような問題があったのかを議論することが見直しに当たっての出発点であると考えます。
 第2に、これまでの実態を踏まえて上で、どのように手続を透明化、客観化するのか、説明責任を確保した制度に整備するのかを検討することです。そして私たちは、中間報告で触れられている手続の透明化・客観化、基準の明確化などに加えて重要だと考えるのは、それぞれの手続の対象となった裁判官に対する事前の意見を述べる機会の保障、決定理由の通知・説明、不服議申立手続の整備です。判事補への採用を拒否された元修習生が採用拒否の違法性を主張して裁判を提起し、既に判決も出ていますが、訴訟の過程では最高裁は採用を拒否した理由を一切明らかにしていません。このような態度は極めて問題だと言わざるを得ません。
 第3に、人事権を最高裁事務総局という一部の司法官僚が全面的に掌握している現状を改革し、各級裁判所の裁判官会議の権限とすることが必要です。司法行政権や任命・人事権が公開の場での民主的な討論を経て決定され行使されることが、その適正さ・公平さを確保する上で極めて重要です。
 第4に、中間報告は最高裁裁判官の選任等の在り方の見直しを検討課題として提起していますが、それにとどまらず最高裁判所の機構改革について広く検討すべきであると考えます。具体的には以下の点を検討すべきと考えます。
@ 最高裁判事の人選のあり方の見直し
 最高裁判事の人選手続の透明化、人選に国民の声が反映される制度の整備を求めます。
A 最高裁裁判官の国民審査のあり方の改革
 現在の最高裁裁判官に対する国民審査制度には、国民にとって審査対象の裁判官に関する情報がほとんどない、それにもかかわらず積極的に×印を付けない場合(つまり白紙投票)にはすべて信任と扱われるなどの問題点があります。
 最高裁裁判官に対する国民の民主的コントロールを充実するため国民に分かりやすい制度とする必要があります。具体的には、審査対象の裁判官に関する情報提供を充実させること、信任票と棄権投票とを区別できる制度にすることなどを検討すべきです。なお、棄権投票が多い結果生じる弊害を理由に現状を肯定する意見もありますが、国民審査の重要性に鑑みれば、防止策については別途講じることとすべきです。
B 最高裁調査官制度の見直し
 最高裁調査官は最高裁判事の判断に非常に大きな影響を与えていると言われていますが、調査官にエリート裁判官を当てるという現在の制度では、最高裁の判断がどうしても今の裁判所実務を前提にしたものとなりがちです。そこで調査官の人選を裁判官以外にも広げることが必要です。
 また現在は個々の最高裁判事にそれぞれ専任で付く調査官はいないため、最高裁判事が独自性・創造性を発揮しにくい状況にあるため、個々の最高裁判事のスタッフとして充実させることも検討すべきです。

(4) 中間報告で触れられていない重大な問題
 中間報告では触れられていませんが、現在の裁判官制度における重大な問題は、すべての人事権を握る最高裁事務総局が、その人事権を使い、さらには、裁判官会同や裁判官協議会、判事と検事との人事交流(判検交流)、裁判官に対する様々な統制などによって、裁判内容や訴訟指揮のやり方を一定の方向に誘導していることです。例えば労働事件で言えば、整理解雇、組合間差別、企業内組合活動などの重要問題について裁判官会同・協議会が行われ、しかもそのほとんどが労働者側に不利な方向で意見統一がなされています。一例を挙げると、残業拒否を理由に解雇したことの不当性が問題となった日立武蔵事件では、裁判が高裁に係属中に裁判官会同でこの問題が協議され、そのことがその後の高裁判決に影響したのではないかと疑われています。しかし解雇を正当とした最高裁判決はその後日本国内でもまた国際的にも大きく批判され、結局会社は解雇を撤回せざるを得なくなりました。この例からも裁判官会同がいかに裁判官の独立を侵害しているか、そしてその内容が国民の常識からかけ離れたものであるかが分かります。
 このような最高裁事務総局による裁判内容の統制は、労働事件に限らず、公害事件、刑事冤罪事件、行政事件、水害訴訟などでも行われており、その内容はいずれも私たちから見て極めて問題の多いものばかりです。
 以上の裁判官統制の結果裁判官の中に、極度に政府や企業側の立場に立った判断内容、事件の具体的な適切な解決よりも最高裁判決や先例を盲従する傾向を生んでいます。
 以上のような現状は、最高裁事務総局による中央集権的な官僚的裁判官統制と言わざるを得ないものであり、この問題についても審議会において取り上げ、以下のような改革を提案することを強く求めます。
@ 最高裁事務総局の廃止と裁判官会議の復権
 本来最高裁事務総局は裁判の裏方として庶務的仕事に従事するための部署だったはずです。それが人事権などの大きな権限を持ち、事務総局への異動が出世コースと見なされるようになっています。
 従って、人事権等の権限は最高裁及び各高裁・地裁・家裁・簡裁の裁判官会議に属することを改めて確認し、現在の最高裁事務総局は廃止すべきです。裁判の裏方としての庶務的仕事については、そのための権限に限定した部署を新設し、そこには裁判官以外の裁判所職員を当てるべきです。
A 裁判官会同、裁判官協議会のあり方の見直し
 これまでの内容を公開するとともに、今後は、最高裁事務総局が参加者を一方的に決めている状況からすべての裁判官に開かれたものとし、かつ、内容を裁判所外にも公開することが必要です。
B 判事と検事との人事交流の廃止
 裁判官が法務省に出向し、国を当事者とする訴訟で国側代理人を務めたり、検察庁や国税不服審判所で国側の立場の職務に就くいわゆる判検交流は一刻も早く廃止されなければなりません。

5、裁判官の大幅増員のための具体的提案の必要性

(1) 中間報告の問題点
 中間報告は、日本とアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス各国の法曹人口や年間の新規法曹資格取得者数を比較し、年間3000人程度の新規法曹の確保を目指す必要があると提案しています。また、弁護士だけでなく裁判官・検察官についても大幅な増員が必要であるとしています。ところが中間報告は、法曹3000人の内訳については明らかにしておらず、年間何人の新規裁判官の確保を目指すのかについては一切触れていません。また審議の中では年間3000人の根拠として、早期に法曹の総数をフランス並みの4万人ないし5万人にするということが議論されていますが、裁判官総数の目標を何人とするのかについては全く議論されていません。
 裁判官の数が不足していることは明白であり、その解決の緊急性は弁護士不足と勝るとも劣りません。日本の裁判官の数が簡裁裁判官も含めて約3000人に過ぎないのに対して、アメリカは約1万4000人、イギリスは約6700人、ドイツは約3万3800人、フランスは約9800人と言われており、日本は裁判官の数においても諸外国と比べて極めて少ない状況にあります。ところが中間報告は、法曹全体の人口については諸外国の人数を細かく挙げて比較しているにもかかわらず、裁判官の数については何ら実証的な検討を行っていません。この点を見ると、審議会は裁判官増員を軽視しているのではないかとの疑問を抱かざるを得ません。
 また、裁判官・検察官の増員については国による予算措置が必要であり、また、現行制度上は年度ごとの採用人数をどうするかは最終的には最高裁・法務省の判断に委ねられることになります。従って、いくら法曹人口を大幅に増加しても、国が予算を付けなかったり、最高裁・法務省が採用人数を大幅増員しなければ、結局裁判官・検察官は大幅増員されず、弁護士だけが大幅に増員されるという結果となります。第17回審議会におけるヒヤリングでは、但木敬一法務大臣官房長は検察官不足を認めその増員を要望したのに対して、中山隆夫最高裁事務総局総務局長は裁判官増員の必要性を認めませんでした。最高裁のこのような裁判官増員に対する消極的姿勢が改められない限り、いくら法曹全体を大幅に増員しても裁判官の増員には繋がらないことは明らかです。
 もしそうなった場合、法曹人口の大幅増員は国民にとって利益となるでしょうか。弁護士が大幅に増員された場合、裁判以外の分野への弁護士の進出が促進される面もありますが、裁判所に持ち込まれる事件数も大幅に増加すると考えられます。ところがそれに見合った人数の裁判官が増員されなければ、今でさえ1人300件ないし400件の事件を抱え、事件を「落とす」ことに汲々として内容は二の次となり、拙速審理・手抜き裁判に陥っている裁判官の負担過重の状態は一層悪化することになります。そうなれば被害を被るのは国民です。
 この点で中間報告は、裁判官や検察官の大幅増員の必要性を抽象的に指摘するにとどまっており不十分であると考えます。

(2) 裁判官不足がもたらしている重大な弊害
 私たちは、中間報告を読むと、審議会が、弁護士不足の問題と比較して、裁判官不足がどれだけ国民に対して重大な弊害を招いているかについての認識が弱いのではないか、果たしてどれほど裁判官増員の必要性を理解しているのかとの疑問を抱かざるを得ません。
 裁判官不足は、中間報告が指摘するような、裁判官の負担過多や大型事件等の長期化という問題だけでなく、拙速な審理やずさんな判決、和解の押し付けなど裁判の内実にも重大な弊害を与えています。また、裁判官が事件処理に追われるあまり、最高裁判決や先例・慣行に盲従し機械的に処理する傾向が生まれ、具体的事案に即した妥当な解決を探るという創造的な姿勢が欠如し、その結果司法的救済を受けられなかった国民が多数発生しています。現職の裁判官の中からも、忙しすぎるためゆっくり考えたりする余裕がない、審理や和解においてともすれば結論を急ぎ強権的になるきらいがある、判決は簡略化や肩すかしの傾向を帯びる、1件1件の事件を大切に扱うことが飛んでしまい、回ってくる事件をこなせるかどうかが裁判所内部での裁判官に対する評価の基準になっている、そのため当事者の人権に深い配慮をし、必要とあれば違憲の判断をし、あるいは判例を変更させるべく努力するということができにくくなっていると言う声が上がっています。
 こういった裁判官の現状が国民の間に、裁判では自分たちの権利は救済されないとの諦めを生み、国民の裁判離れ、裁判不信を招いているのです。現在の裁判所はこの悪循環の中にあるのではないでしょうか。
 この点で重大な問題なのは、そのような裁判官の置かれている状況をもっとも知り得る立場にあり、裁判官の新規採用や人事権を持っている最高裁(実際には事務総局)が裁判官不足を認めようとしないことです。先ほど述べたように、第17回審議会におけるヒヤリングで前述の最高裁事務総局の幹部は、裁判官の大幅増員は必要でないかのような発言を行っています。同幹部の発言は、事件数は増えたがこの間民訴法の改正により早期争点整理と集中的な証拠調べが行われるようになり無駄が大きく省けたので裁判官・書記官に余力が生じ、それを他の事件の審理に向けることが可能となった、その他民事執行法や民事保全法の制定等により執行手続、保全手続を簡易化合理化でき余力が生み出された、簡裁や地家裁の統廃合により他の庁に配置替えが可能となった、増員が適切な規模で行われてきたことは裁判の審理期間が短くなっていることで実証されている、裁判官の繁忙度も相当程度改善されてきた、という驚くべきものです。この発言は、裁判官不足によって審理や判決、和解の進め方などに重大な弊害をもたらしている現実に全く目を背けており、今の最高裁の認識の誤りが如実に現れています。

(3) 裁判官の大幅増員のための数値目標と具体的方策を提案すべき
 審議会が本当に裁判官の大幅増員が必要であると考えるのなら、今後審議会において、国民にとって必要な裁判官や検察官の総数を議論し、当面到達すべき数値目標を決めること、及び、その数値目標にいつまでに到達するのか、そのために毎年裁判官と検察官を新規に何人ずつ増加させるのかの増員計画を具体的に策定することを強く求めます。そしてそれを政府や最高裁にしっかりと果たさせるために、審議会の提案する数値目標や増員計画に対する政府や最高裁の考えを審議会の場で確認するなどの具体的な手立てを打つことが必要ではないでしょうか。とりわけ先に述べたように最高裁事務総局の幹部が裁判官の大幅増員が必要でないかのような発言をしている現状では、最高裁に対する具体的提案は必要不可欠です。
 中間報告は、年間の新規法曹を現在の1000人の3倍にし、法曹の総数も3倍前後にしようとするのですから、裁判官の数についても、年間、総数いずれとも少なくとも現在の2倍にすべきだと考えます。現職裁判官からも、すべての裁判官が今の手持ち事件数、処理件数が半分程度になればもっと納得の得られる審理、判決ができるのにという強い願望を持っている、裁判官の数を倍増すべきだとの声が上がっています。
 法曹人口の大幅増員については年間3000人という数値目標まで掲げ、しかも、「法曹人口の大幅増員にふさわしい法曹養成制度の整備が不可欠」であるとして、法科大学院構想などの具体的提案まで行っているのに、その先に実際に裁判官が大幅に増加するかどうかについては具体的提案をしないというのでは、無責任のそしりを免れないと思います。なおこの点については第4の「法曹人口の大幅増加について」でも触れています。

(4) 法曹一元との関係
 現在審議会では判事補を判事の主たる給源とする現在の官僚裁判官システムを維持するのか、それとも判事補制度を廃止し法曹一元制度を導入するかが議論されており、それとの関係で裁判官の大幅増員を行なう場合その給源をどうするのかという問題があります。
 私たちは判事補制度を廃止し、判事の主たる給源を弁護士とすべきであると考えますが、そのような立場に立たない場合であっても、判事の給源の多様化・多元化は中間報告において既に打ち出されているのですから、弁護士からの任官を増加させる方向で検討することは何ら問題ないはずです。そこで、弁護士からの任官を増やしていくという方針を早急に具体化し、そのための支障となっている点を至急改めていくことが必要だと考えます。その一つの方策として、非常勤裁判官制度の導入を早急に実現すべきです。この制度によって裁判官の職務を経験した弁護士がさらに常勤裁判官として任官するという効果も期待できます。
 ただ、弁護士任官によって裁判官の大幅増員が果たして可能かという不安があるのも事実です。そこで私たちは、法曹一元が定着するまでの過渡的な措置として、例えば現在裁判所法50条によって65歳となっている判事(但し最高裁判事と簡裁判事を除く)の定年を延長することも含め幅広く検討していく必要があると考えます。
 また、法曹一元導入を決めてもその完全実施には時間を要するのであり、一定期間官僚裁判官制度が併存することになりますが、その間裁判官不足を放置することは出来ません。従って、とりあえず現在の官僚裁判官制度を前提にしてであれ3000人という大幅な法曹人口増員に見合う裁判官の大幅増員の人数を算出し、数値目標として掲げるべきではないでしょうか。